説明

電動車両のモータルーム内部品搭載構造

【課題】車両前部のモータルーム内に、モータユニット72とトランスアクスル73とが車幅方向に並ぶように一体に結合されてなるパワーユニット71を配設する場合に、車両の前面衝突時の衝撃を出来る限り低減する。
【解決手段】パワーユニット71におけるモータユニット72とトランスアクスル73との結合部76の車両前側端を、該パワーユニット71において車幅方向の略中央でかつ最も車両前側の位置に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部のモータルーム内にパワーユニットが配設された電動車両のモータルーム内部品搭載構造に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気自動車等の電動車両において、車両前部にパワーユニットを配設して、このパワーユニットにより前輪を駆動するようにすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。パワーユニットは、通常、モータを含むモータユニットと、該モータユニットのモータの駆動力を前輪へ伝達するための動力伝達機構(減速機構及び差動機構)を含むトランスアクスルとを有していて、車両前部のモータルーム内に配設される。
【0003】
そして、特許文献1では、モータ及び減速機構を差動機構よりも後方に配置して、差動機構よりも前方の車体クラッシャブルゾーンを拡大するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−180172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1のように、モータを差動機構よりも後方に配置するようにすると、小型のモータしか配置することができず、前側のスペースを有効に活用することができないという問題がある。
【0006】
そこで、車両前部のモータルーム内に、モータユニットとトランスアクスルとを車幅方向に並ぶように一体に結合してなるパワーユニットを配置するようにすれば、車両前部のスペースを有効に活用して、比較的大型のモータを配置することが可能になる。そして、車両の前面衝突時には、衝突荷重を上記パワーユニットを介してその後方の部品に伝達するようにすれば、車体加速度を低減して、車両の前面衝突による衝撃を低減することが可能になる。
【0007】
しかしながら、パワーユニットの車両前側端は、通常、車幅方向全体に亘って前後方向の凹凸があり、モータユニットにおいて最も前側となる部分の、車幅方向における位置によっては、車両の前面衝突時に問題が生じる。例えば、モータユニットにおいて最も前側となる部分が車幅方向の端部にあると、車両の前面衝突時にその部分が最初に後方へ押されるため、パワーユニットが車幅方向に対して傾いた状態で後退し(車幅方向において最も前側となる部分の位置する側がその反対側よりも大きく後退し)、このため、衝突荷重がパワーユニットの後方の部品へ左右均等に伝達されず、最も前側となる部分の位置する側の車体加速度(負の加速度)の絶対値が大きくなり、車両の前面衝突による衝撃が局所的に大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両前部のモータルーム内に、モータユニットとトランスアクスルとが車幅方向に並ぶように一体に結合されてなるパワーユニットを配設する場合に、車両の前面衝突時の衝撃を出来る限り低減しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明では、車両前部のモータルーム内に、モータを含むモータユニットと該モータユニットのモータの駆動力を前輪へ伝達するための動力伝達機構を含むトランスアクスルとが車幅方向に並ぶように一体に結合されてなるパワーユニットが配設された電動車両のモータルーム内部品搭載構造を対象として、上記パワーユニットにおける上記モータユニットと上記トランスアクスルとの結合部の車両前側端が、該パワーユニットにおいて車幅方向の略中央でかつ最も車両前側の位置に位置している、構成とした。
【0010】
上記の構成により、車両の前面衝突時に、パワーユニットに対して衝突荷重が最初にモータユニットとトランスアクスルとの結合部に入力される。この結合部は、剛性が比較的高くて、しかも、パワーユニットの車幅方向の略中央に位置しているので、衝突荷重の入力によりパワーユニットは車幅方向に対して傾斜することなく後退して、パワーユニットからその後方の部品(例えば、クロスメンバ及びこれが取り付けられている左右一対のフロントサイドフレーム)に対して、衝突荷重が左右均等に伝達される。この結果、車両の前面衝突時の車体加速度(負の加速度)の絶対値を低減することができ、車両の前面衝突による衝撃を低減することができる。
【0011】
上記電動車両のモータルーム内部品搭載構造において、上記パワーユニットの車両後側に、前輪サスペンションアームを支持するサスペンションクロスメンバが配設されており、上記パワーユニット及びサスペンションクロスメンバは、上下方向において互いに重なりを持って配置されている、ことが好ましい。
【0012】
このことにより、衝突荷重が、パワーユニットからサスペンションクロスメンバ及びこれが取り付けられている左右一対のフロントサイドフレームに対して左右均等に伝達されて、車両の前面衝突時の衝撃を低減することができる。
【0013】
上記のようにパワーユニット及びサスペンションクロスメンバが配置されている場合、上記サスペンションクロスメンバの車両後側でかつ車室フロアの下側に、上記モータユニットのモータへ電力を供給するバッテリユニットが配設されており、上記パワーユニット、サスペンションクロスメンバ及びバッテリユニットは、上下方向において互いに重なりを持って配置されている、ことが好ましい。
【0014】
このことで、パワーユニットからサスペンションクロスメンバに伝達された衝突荷重が左右一対のフロントサイドフレームだけでなく、バッテリユニットにも分散して伝達される。この結果、車両の前面衝突時の衝撃をより一層低減することができる。
【0015】
上記バッテリユニットは、バッテリモジュールと該バッテリモジュールを支持する支持部材とを有し、上記支持部材は、上記バッテリユニットの車幅方向両側の端部それぞれにおいて車両前後方向に延びるフレーム部材を有し、上記両フレーム部材の車両前側端部が、上記サスペンションクロスメンバに結合されている、ことが好ましい。
【0016】
このことにより、バッテリユニットに伝達された衝突荷重は、両フレーム部材を介して車両後方へ円滑に伝達される。この結果、衝突荷重がバッテリモジュールに作用することがなく、バッテリモジュール(特にサスペンションクロスメンバに近い位置に配設されたバッテリモジュール)を保護することが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の電動車両のモータルーム内部品搭載構造によると、パワーユニットにおけるモータユニットとトランスアクスルとの結合部の車両前側端が、該パワーユニットにおいて車幅方向の略中央でかつ最も車両前側の位置に位置していることにより、車両の前面衝突による衝撃が局所的に大きくなるのを抑制して、その衝撃を可及的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るモータルーム内部品搭載構造が適用された電動車両の前部のモータルーム内の要部を示す、車両左前側かつ上側から見た斜視図である。
【図2】上記電動車両のモータルーム内の要部を示す、車両後側かつ上側から見た斜視図である。
【図3】上記車両の車室フロアパネルの下側の構造を示す底面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】サスペンションクロスメンバ及びバッテリユニット前部の側面図である。
【図6】実施例の車両及び比較例の車両に対する前面フルラップ衝突試験の結果である、衝突開始からの経過時間と左側サイドシル近傍の車体加速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1及び図2は、本発明の実施形態に係るモータルーム内部品搭載構造が適用された電動車両(本実施形態では、電気自動車であり、以下、単に車両という)の前部のモータルーム内の要部を示し、図1は、車両左前側かつ上側から見た図であり、図2は、車両後側かつ上側から見た図である。上記車両についての前、後、左、右、上及び下を、それぞれ単に前、後、左、右、上及び下という。また、図1及び図3〜図5において、車両前側を矢印Frで示す。
【0021】
上記モータルーム内の車幅方向両端部には、左右一対のフロントサイドフレーム8が前後方向に延びるように配設されている。これら左右のフロントサイドフレーム8間に、上記車両を駆動するパワーユニット71が配設されている。上記各フロントサイドフレーム8におけるパワーユニット71よりも後側部分には、サスペンションタワー5が取付固定されている。尚、図1及び図2では、後述のサスペンションクロスメンバ16(図3〜図5参照)及びこれに支持される左右の前輪サスペンションアーム17(図3参照)を省略している。
【0022】
上記各フロントサイドフレーム8の後部は、その高さ位置が後側に向かって徐々に低くなるキック部8a(図4参照)とされ、各フロントサイドフレーム8の後端部は、車室フロアを構成する車室フロアパネル1における後述のフロントフロア部1aに一体に設けられたフロントフロアフレーム7の前端部に連結されている(図3参照)。
【0023】
図3に示すように、上記車室フロアパネル1は、フロントフロア部1aと、該フロントフロア部1aよりも上側の高さ位置に位置するリヤフロア部1bとから構成されている。フロントフロア部1aとリヤフロア部1bとの間には、段差状のキックアップ部(図示せず)が設けられ、このキックアップ部により、リヤフロア部1bの高さ位置がフロントフロア部1aよりも高くなっている。
【0024】
リヤフロア部1bの上面には後席シート(図示せず)が配置されており、フロントフロア部1aの後部の上面が、該後席シートに着座した乗員の足置き場である。フロントフロア部1aの前部の上面には、運転席シート及び助手席シート(共に図示せず)が車幅方向に並んで配置される。
【0025】
フロントフロア部1aの前端部は、上記モータルームと車室とを仕切るダッシュパネル6(図1参照)の下端部に結合されている。フロントフロア部1aの車幅方向両端部は、前後方向に延びる左右一対のサイドシル12(図3参照)に結合されている。
【0026】
フロントフロア部1aの下面における車幅方向両端部よりも車幅方向内側の部分には、前後方向に延びる左右一対のフロントフロアフレーム7が車室フロアパネル1と一体に設けられている。各フロントフロアフレーム7は、後方に向かって車幅方向内側に僅かに傾斜している。すなわち、左右のフロントフロアフレーム7の間隔が後方に向かって小さくなっている。左右のフロントフロアフレーム7の前端部は、左右のフロントサイドフレーム8の後端部に、該後端部における中空断面内に挿入された状態でそれぞれ連結されている。
【0027】
左側のフロントサイドフレーム8の後端部と左側のサイドシル12の前端部との間、及び、右側のフロントサイドフレーム8の後端部と右側のサイドシル12の前端部との間には、フロントサイドフレーム8とサイドシル12とを結合するトルクボックス15がそれぞれ配設されている。これらトルクボックス15は、フロントサイドフレーム8の高さ位置が変化するキック部8aの曲げ剛性を高めて、車両の前面衝突時に該部分で折れ曲がらないようにするものである。
【0028】
リヤフロア部1bの後端部は、荷室フロアパネル3の前端部に繋がる。リヤフロア部1b及び荷室フロアパネル3の下面における車幅方向両端部には、前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム9がそれぞれ設けられている。左右のリヤサイドフレーム9の前端部は、上記左右のサイドシル12の後端部にそれぞれ結合されている。リヤフロア部1bの下面の後端部には、車幅方向に延びかつ上記左右のリヤサイドフレーム9同士を連結するリヤクロスメンバ10が設けられている。左右のリヤサイドフレーム9の間隔は、左右のフロントフロアフレーム7の間隔よりも大きい。
【0029】
フロントサイドフレーム8のキック部8aに対応する前後位置(後述のバッテリユニット21の前側)には、車幅方向に延びかつ左右の前輪サスペンションアーム17を支持するサスペンションクロスメンバ16が配設されている。サスペンションクロスメンバ16の前部における左右両側の端部には、上側に延びかつその先端が左右のフロントサイドフレーム8におけるキック部8aよりも前側の部分にそれぞれ結合される前側結合部16aが設けられている(図5参照)。また、サスペンションクロスメンバ16の後部における左右両側の端部には、左右のトルクボックス15の下面にそれぞれ結合される後側結合部16b(トルクボックス15の下面から下方に延びるボルト軸が挿通される貫通孔が形成されている部分)が設けられている。
【0030】
上記サスペンションクロスメンバ16は、上記パワーユニット71の直ぐ後側に配設されている。このパワーユニット71は、モータを含むモータユニット72と、該モータユニット72のモータの駆動力を前輪へ伝達するための動力伝達機構(減速機構及び差動機構)を含むトランスアクスル73とが車幅方向に並ぶように一体に結合されてなるものである。パワーユニット71の全体としての軸心は、車幅方向に延びている。本実施形態では、トランスアクスル73がモータユニット72の左側に位置する。
【0031】
上記モータユニット72は、軸心が車幅方向に延びる略円筒状のモータハウジング72aを有し、このモータハウジング72a内に上記モータが配設されている。このモータは、図示は省略するが、ロータとステータとを有している。このロータは、モータ軸(つまり駆動軸)の周囲に、永久磁石を保持するロータコアが固定されてなり、モータ軸はモータハウジング72aと同軸上に位置して、車幅方向に延びている。一方、上記ステータは、モータハウジング72aの内面に上記ロータコアの周囲を覆うように配設されていて、コイルが巻かれている。
【0032】
上記モータは3相交流モータであり、U相、V相及びW相の3つのコイルが中性点に共通接続されている。そして、各相のコイルは、複数の巻線が直列に接続されてなり、各相のコイルにおいて電流を流す巻線の数を変えることが可能に構成されている。すなわち、上記モータは、巻線切替を行うことが可能なものであり、車両の走行状態に応じて、電流を流す最適な巻線の数が決定される。この巻線切替は、後述のモータ巻線切替ユニット77によってなされる。
【0033】
モータユニット72の右側(トランスアクスル73とは反対側)の端部には、軸受ユニット74が一体に結合されている。この軸受ユニット74は、モータハウジング72aに結合された略円筒状の軸受ハウジング74aと、この軸受ハウジング74a内に配設され、上記モータ軸の右側端部を回転自在に支持する軸受とを有している。一方、上記モータ軸の左側端部は、モータハウジング72aの左側端部に設けられた軸受に回転自在に支持されている。このモータ軸は、トランスアクスル73(減速機構)の入力軸に連結される。この入力軸は、トランスアクスル73における後述のアクスルハウジング73aの減速機構収容部73b内において車幅方向に延びている。
【0034】
トランスアクスル73は、アクスルハウジング73aを有し、このアクスルハウジング73aの右側端部と上記モータハウジング72aの左側端部とが複数のボルト75により結合されて結合部76とされている。この結合部76は、その左右の部分よりも径が大きくなっている。
【0035】
アクスルハウジング73aは、減速機構を収容する減速機構収容部73bと、該減速機構からモータの駆動力が伝達される差動機構を収容する差動機構収容部73cとを有する。差動機構収容部73cは、減速機構収容部73bの後側に位置している。そして、差動機構収容部73cの左右両側側面から、トランスアクスル73(差動機構)の出力軸(パワーユニット71の出力軸でもある)として、2本のジョイントシャフト81が左右両側へそれぞれ延びている(図2参照)。すなわち、ジョイントシャフト81は、パワーユニット71の後側において車幅方向に延びている。左側のジョイントシャフト81は、その中間部に配設された等速ジョイント82によって内側部81aと外側部81bとに2分割され、外側部81bが等速ジョイント84を介して、左側前輪に連結された左側のドライブシャフト83に連結されている。また、同様に、右側のジョイントシャフト81も、その中間部に配設された等速ジョイント82によって内側部81aと外側部81bとに2分割され、外側部81bが等速ジョイント84を介して、右側前輪に連結された右側のドライブシャフト83に連結されている。右側のジョイントシャフト81の内側部81aにおける等速ジョイント82近傍部は、軸受ハウジング74aの後側下部に設けられたシャフト支持部74bに回転自在に支持されている。
【0036】
上記軸受ユニット74の右側(モータユニット72とは反対側)の端部には、モータ巻線切替ユニット77が一体に結合されている。本実施形態では、パワーユニット71は、モータユニット72及びトランスアクスル73に加えて、軸受ユニット74及びモータ巻線切替ユニット77が車幅方向に並ぶように一体に結合されてなる。尚、モータユニット72、軸受ユニット74及びモータ巻線切替ユニット77の全体を、広義のモータユニットと見做すことも可能である。
【0037】
上記モータ巻線切替ユニット77は、軸受ハウジング74aに結合された略円筒状の巻線切替ケース77aと、この巻線切替ケース77a内に配設され、上記モータの巻線切替を行うとともにバッテリユニット21からの電力を上記モータユニット72のモータへ供給する回路とを有している。巻線切替ケース77aの右側端面には、該巻線切替ケース77aの右側開口を覆う閉塞部材77bが固定されている。
【0038】
パワーユニット71の左右両端部は、左側及び右側マウント装置88,89を介して、左右のフロントサイドフレーム8にそれぞれマウント支持(弾性支持)されている。左側マウント装置88は、トランスアクスル73のアクスルハウジング73a上部に固定されたパワーユニット側ブラケット90と、左側のフロントサイドフレーム8に固定された車体側ブラケット91と、これら両ブラケット90,91間に配設された、ゴムブッシュを含むマウント本体(図示せず)とを有している。
【0039】
また、右側マウント装置89は、パワーユニット側ブラケット93と、車体側ブラケット94と、これら両ブラケット93,94間(詳しくは、後述の第1及び第3ブラケット95,98間)に配設された、ゴムブッシュを含むマウント本体(図示せず)とを有している。上記パワーユニット側ブラケット93は、上記マウント本体に連結された第1ブラケット95と、第1ブラケット95と締結部材97(ボルト及びナット)を介して結合されかつ上記閉塞部材77bの上部と軸受ハウジング74aの上部において上側に突出した突出部74cの右側側面とに固定された第2ブラケット96とからなる。また、上記車体側ブラケット94は、上記マウント本体に連結された第3ブラケット98と、第3ブラケット98と締結部材100(ボルト及びナット)を介して結合されかつ右側のフロントサイドフレーム8に固定された第4ブラケット99とからなる。
【0040】
図2〜図4に示すように、アクスルハウジング73aの差動機構収容部73cの右側下部は、トルクロッド101を介してサスペンションクロスメンバ16に連結されている。パワーユニット71の車幅方向両端部における上記弾性支持により、パワーユニット71全体が車幅方向に延びる軸回りに回動(揺動)することになるが、上記トルクロッド101は、パワーユニット71全体が上記軸回りに回動し過ぎるのを規制する。トルクロッド101の前端部は、ゴムブッシュ102を介して、車幅方向に延びる軸回りに回動可能にパワーユニット71の車幅方向中央部(アクスルハウジング73aの差動機構収容部73cの右側下部)に連結され、トルクロッド101の後端部は、ゴムブッシュ103を介して、車幅方向に延びる軸回りに回動可能にサスペンションクロスメンバ16の車幅方向中央部に連結されている。
【0041】
上記パワーユニット71、上記サスペンションクロスメンバ16及び後述のバッテリユニット21は、前側から後側に向かってこの順に並びかつ上下方向において互いに重なりを持って配置されている(図4参照)。すなわち、サスペンションクロスメンバ16とバッテリユニット21とが同じ高さ位置にあるとともに、これらがパワーユニット71の下部と同じ高さ位置(トルクロッド101と同じ高さ位置)にある。
【0042】
アクスルハウジング73aの左半部の下部には、該アクスルハウジング73a内で潤滑油として用いられるオイルが溜められるオイルパン105が設けられている(図3参照)。
【0043】
本実施形態では、パワーユニット71におけるモータユニット72(モータハウジング72a)とトランスアクスル73(アクスルハウジング73a)との結合部76の前側端が、該パワーユニット71において車幅方向の略中央でかつ最も前側の位置に位置している。すなわち、上記結合部76が、パワーユニット71の車幅方向略中央に位置しているとともに、パワーユニット71において最も前側に突出した部分となっている。
【0044】
図3に示すように、サスペンションクロスメンバ16の後側でかつ車室フロアパネル1の下側には、バッテリユニット21が搭載されている。このバッテリユニット21は、複数のバッテリモジュール(図示せず)と、該複数のバッテリモジュールを支持する支持部材としてのフレーム部材40、60と、上側カバー部材23(図5参照)及び下側カバー部材24とを有している。すなわち、車室フロアパネル1の下側に、複数のバッテリモジュールがユニット化された状態で搭載されている。バッテリユニット21は、フロントフロア部1aの下側に搭載された第1搭載部21aと、該第1搭載部21aの後側に連続して設けられかつ上記リヤフロア部1bの下側に搭載された第2搭載部21bとを有している。
【0045】
上記上側カバー部材23及び下側カバー部材24は、上記複数のバッテリモジュールの周囲を覆っている。すなわち、上側及び下側カバー部材23,24間に、バッテリモジュール及びフレーム部材40,60が収容される空間が形成されている。但し、フレーム部材40,60の一部は、上側カバー部材の周縁部と下側カバー部材24の周縁部との間から外側にはみ出しており、これにより、フレーム部材40,60の外側面の一部が外気に面している。
【0046】
下側カバー部材24は、第1部24a及び第2部24bに分割されており、第1部24aは第1搭載部21aに位置し、第2部24bは第2搭載部21bに位置する。下側カバー部材24の第1部24a及び第2部24bの下面は同じ高さ位置にある。
【0047】
バッテリユニット21の前端部には、パワーユニット71の上側に配設された不図示のインバータとバッテリユニット21とを電気的に接続するためのインバータ接続用端子31(図4及び図5参照)が配設されている。上記インバータを介してバッテリユニット21からパワーユニット71におけるモータユニット72のモータへ電力が供給される。
【0048】
バッテリユニット21における複数のバッテリモジュールは、同一形状であり、バッテリモジュールの長手方向から見た断面形状が長方形である。つまり、各バッテリモジュールは略直方体形状をなしている。各バッテリモジュールは、その内部に複数(百ないし数百個程度)の円筒状のセルを収容するものである。バッテリモジュールにおいて上記長方形の長辺が延びる方向を幅方向といい、上記長方形の短辺が延びる方向を厚み方向という。
【0049】
バッテリユニット21の第1搭載部21aにおいては、上記バッテリモジュールが、その長手方向が車幅方向と一致しかつ上記断面における長方形の短辺が縦辺となる(バッテリモジュールの厚み方向が上下方向と一致しかつバッテリモジュールの幅方向が前後方向と一致する)ように、前後方向に並んで複数配置されている。一方、第2搭載部21bにおいては、上記バッテリモジュールが、その長手方向が前後方向と一致しかつ上記断面における長方形の長辺が縦辺となる(バッテリモジュールの幅方向が上下方向と一致しかつバッテリモジュールの厚み方向が車幅方向と一致する)ように、車幅方向に並んで複数配置されている。
【0050】
第1搭載部21aは、該第1搭載部21aにおける複数のバッテリモジュールを支持するフレーム部材40を有し、第2搭載部21bは、該第2搭載部21bにおける複数のバッテリモジュールを支持するフレーム部材60を有している。
【0051】
第1搭載部21aのフレーム部材40は、前部41a、後部41b及び左右一対の側部41cを含む枠状フレーム部41を有する。枠状フレーム部41の前部41aは車幅方向に延びて、その両端部が前後方向に延びる左右の側部41cの前端部とそれぞれ連結されている。枠状フレーム部41の後部41bは、左右の側部41cよりも車幅方向外側まで延びており、両側部41cは、後部41bの車幅方向中間部に連結されている。すなわち、両側部41cは、第1搭載部21aの車幅方向両側の端部にそれぞれ設けられていて、第2搭載部21bの前端部から前側に延びている。枠状フレーム部41の後部41b及び両側部41cは、断面長方形で内部が中空とされている。
【0052】
上記枠状フレーム部41の左右の側部41cの前後方向中間位置には、該両側部41c同士を連結する複数の中間フレーム部(図示せず)が設けられている。これら中間フレーム部及び枠状フレーム部41の前部41aは、第1搭載部21aの複数のバッテリモジュール22の幅方向の端部の下部を支持する。
【0053】
上記枠状フレーム部41の各側部41cの車幅方向外側の面には、左右のフロントフロアフレーム7にそれぞれ締結固定される固定部48が4つずつ設けられている。最も前側の左右2つの固定部48は、フロントフロアフレーム7とフロントサイドフレーム8との連結部(フロントフロアフレーム7とフロントサイドフレーム8とが重なり合った部分であって、トルクボックス15の近傍に位置する)に固定される。
【0054】
上記枠状フレーム部41の両側部41cの前端部には、固定用部材50が前方に突出するように、ボルト51(図5参照)により固定されている。この固定用部材50が溶接により上記サスペンションクロスメンバ16に固定されている。これにより、両側部41cの前端部が、サスペンションクロスメンバ16に結合されることになる。両側部41cは、バッテリユニット21の車幅方向両側の端部それぞれにおいて車両前後方向に延びるフレーム部材に相当する。
【0055】
上記枠状フレーム部41の後部41bの左右両端部には、左側のリヤサイドフレーム9と左側のサイドシル12との連結部、及び、右側側のリヤサイドフレーム9と右側のサイドシル12との連結部にそれぞれ締結固定される固定部49が設けられている。枠状フレーム部41の後部41bは、上記キックアップ部の下側に位置していて、第1搭載部21aと第2搭載部21bとの接続部に設けられていることになる。そして、後部41bの両端部に設けられた固定部49は、左右のサイドシル12におけるキックアップ部の近傍にそれぞれ結合されていることになる。
【0056】
上記第2搭載部21bのフレーム部材60は、車幅方向に延びかつ第2搭載部21bの複数のバッテリモジュールの前端部の下部を支持する前部、車幅方向に延びかつ該複数のバッテリモジュールの後端部の下部を支持する後部、及び、上記前部及び後部の車幅方向両端部同士をそれぞれ連結し、かつ該複数のバッテリモジュールのうちの車幅方向両端に位置する2つのバッテリモジュールの車幅方向外側端部の下部を支持する左右一対の側部を含む下部枠状フレーム部61を有する。この下部枠状フレーム部61の前部は、枠状フレーム部41の後部41bと連結されて一体化されている。下部枠状フレーム部61の両側部の間隔は、上記第1搭載部21aのフレーム部材40における枠状フレーム部41の両側部41cの間隔よりも大きい。すなわち、第2搭載部21bの車幅方向の長さが、第1搭載部21aの車幅方向の長さよりも大きくされている。
【0057】
上記下部枠状フレーム部61の後部の上側には、車幅方向に延びかつ上記複数のバッテリモジュールの後端部の上部を支持する後側上部フレーム部(図示せず)が設けられ、この後側上部フレーム部と下部枠状フレーム部61の後部とが、車幅方向に間隔をあけて並ぶ複数の連結フレーム部によって連結されている。そして、上記後側上部フレーム部には、リヤクロスメンバ10に締結固定される3つの固定部69(図3参照)が設けられている。
【0058】
上記車両が前面衝突したとき、パワーユニット71においてモータユニット72とトランスアクスル73との結合部76が最も前側に突出しているので、パワーユニット71に対して衝突荷重が最初にその結合部76に入力される。この結合部76は、剛性が比較的高くて、しかも、パワーユニット71の車幅方向の略中央に位置しているので、衝突荷重の入力によりパワーユニット71は車幅方向に対して傾斜することなく後退して、パワーユニット71から、サスペンションクロスメンバ16に対して衝突荷重が伝達される。この衝突荷重により、サスペンションクロスメンバ16は、基本的にはトルクロッド101を介して、略真後ろ向きに押圧される。これにより、サスペンションクロスメンバ16が取り付けられている左右のフロントサイドフレーム8に対して衝突荷重が左右均等に伝達される。この結果、車両の前面衝突時の車体加速度(負の加速度)の絶対値を低減することができ、車両の前面衝突による衝撃を低減することができる。
【0059】
また、パワーユニット71、サスペンションクロスメンバ16及びバッテリユニット21が、上下方向において互いに重なりを持って配置されているとともに、枠状フレーム部41の両側部41cの前端部がサスペンションクロスメンバ16に結合されているので、パワーユニット71からサスペンションクロスメンバ16に伝達された衝突荷重が左右のフロントサイドフレーム8だけでなく、バッテリユニット21にも分散して伝達され、これにより、車両の前面衝突時の衝撃をより一層低減することができる。そして、バッテリユニット21に伝達された衝突荷重は、枠状フレーム部41の両側部41cを介して車両後方へ円滑に伝達され、基本的には、枠状フレーム部41の後部41bを介してリヤサイドフレーム9に伝達される。このように枠状フレーム部41の両側部41cがロードパスとなることで、第1搭載部21aのバッテリモジュールに、大きな衝突荷重が作用するのを防止して、第1搭載部21aのバッテリモジュールを保護することが可能になる。
【0060】
ここで、上記実施形態と同様の構成の車両(実施例の車両)と、この実施例の車両に対して、パワーユニット71の左側下部に配置されたオイルパンの形状のみが異なる車両(比較例の車両)とに対して前面フルラップ衝突試験を行ったときの、左側サイドシル12近傍の車体加速度がどのように変化するかを調べた。比較例の車両のオイルパン105は、モータユニット72とトランスアクスル73との結合部76よりも前側に突出しており、その結合部76がパワーユニット71において最も前側の位置に位置していない。
【0061】
上記衝突試験の結果を図6に示す。図6のグラフの横軸は、衝突開始からの経過時間であり、縦軸は、左側サイドシル12近傍の車体加速度(負の加速度)であって、グラフの上側ほどその絶対値が大きくなる。上記経過時間がt1に近い時間で、実施例の車両及び比較例の車両共に、パワーユニット71がサスペンションクロスメンバ16に当接して車両の車体加速度が瞬間的に大きくなっているが、その当接時における実施例の車両の車体加速度のピーク値が、比較例の車両よりも低くなっている。これは、比較例の車両では、パワーユニット71の左側が右側よりも先に後退してサスペンションクロスメンバ16の左側及び左側のフロントサイドフレーム8において局所的に大きな衝突加重が作用したのに対し、実施例の車両では、パワーユニット71が車幅方向に対して傾斜することなく後退して、サスペンションクロスメンバ16及び左右のフロントサイドフレーム8に対して衝突荷重が左右均等に伝達したからである。したがって、モータユニット72とトランスアクスル73との結合部76の前側端が、パワーユニット71において車幅方向の略中央でかつ最も前側の位置に位置するようにすることで、車両の前面衝突時にパワーユニット71が車幅方向に対して傾斜することなく後退して、これにより、車両の前面衝突による衝撃を低減することができる。
【0062】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0063】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、車両前部のモータルーム内に、モータを含むモータユニットと該モータユニットのモータの駆動力を前輪へ伝達するための動力伝達機構を含むトランスアクスルとが車幅方向に並ぶように一体に結合されてなるパワーユニットが配設された電動車両のモータルーム内部品搭載構造に有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 車室フロアパネル(車室フロア)
16 サスペンションクロスメンバ
17 前輪サスペンションアーム
21 バッテリユニット
40 第1搭載部のフレーム部材(支持部材)
41c 枠状フレーム部の両側部(車両前後方向に延びるフレーム部材)
60 第2搭載部のフレーム部材(支持部材)
71 パワーユニット
72 モータユニット
73 トランスアクスル
76 モータユニットとトランスアクスルとの結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部のモータルーム内に、モータを含むモータユニットと該モータユニットのモータの駆動力を前輪へ伝達するための動力伝達機構を含むトランスアクスルとが車幅方向に並ぶように一体に結合されてなるパワーユニットが配設された電動車両のモータルーム内部品搭載構造であって、
上記パワーユニットにおける上記モータユニットと上記トランスアクスルとの結合部の車両前側端が、該パワーユニットにおいて車幅方向の略中央でかつ最も車両前側の位置に位置していることを特徴とする電動車両のモータルーム内部品搭載構造。
【請求項2】
請求項1記載の電動車両のモータルーム内部品搭載構造において、
上記パワーユニットの車両後側に、前輪サスペンションアームを支持するサスペンションクロスメンバが配設されており、
上記パワーユニット及びサスペンションクロスメンバは、上下方向において互いに重なりを持って配置されていることを特徴とする電動車両のモータルーム内部品搭載構造。
【請求項3】
請求項2記載の電動車両のモータルーム内部品搭載構造において、
上記サスペンションクロスメンバの車両後側でかつ車室フロアの下側に、上記モータユニットのモータへ電力を供給するバッテリユニットが配設されており、
上記パワーユニット、サスペンションクロスメンバ及びバッテリユニットは、上下方向において互いに重なりを持って配置されていることを特徴とする電動車両のモータルーム内部品搭載構造。
【請求項4】
請求項3記載の電動車両のモータルーム内部品搭載構造において、
上記バッテリユニットは、バッテリモジュールと該バッテリモジュールを支持する支持部材とを有し、
上記支持部材は、上記バッテリユニットの車幅方向両側の端部それぞれにおいて車両前後方向に延びるフレーム部材を有し、
上記両フレーム部材の車両前側端部が、上記サスペンションクロスメンバに結合されていることを特徴とする電動車両のモータルーム内部品搭載構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−96557(P2012−96557A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243159(P2010−243159)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】