説明

電動車両の制御装置

【課題】電動車両の微速前進・後退を簡単に操作できる制御装置を提供する。
【解決手段】ハンドル46のスイッチケース53に前後方向に操作自在であって、かつ中間部から左方向に操作自在な操作部54を有するモードスイッチ49を設ける。操作部54は手を離した非操作状態でモータに速度ゼロ指令を出力する停止位置STにリターンスプリングで自動復帰する。操作部54を前方に押す操作をすれば微速前進モードが選択でき、後方に引く操作をすれば微速後退モードが選択できる。微速前進・微速後退モードと通常モードとの間で操作部54の位置を明瞭に区別するため、停止位置STと通常モードNMとの間にストッパ57を配置して操作部54の操作に一段大きな力を要するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両の制御装置に関し、特に、車両の前進および後退が可能な電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前進および後退が可能な車両が開示されている。この従来の車両においては、後退モードを設定するためのモード設定操作スイッチとしての機能と、車両の駆動源であるモータを逆方向に(つまり車両の後退方向に)回転させる機能とを、単一の後退スイッチに持たせている。後退スイッチの長押しによって後退モードを設定したときは、後退スイッチを操作して車両を後退させることができ、かつ、アクセルグリップを操作して車両を前進させることができる。また、特許文献1は、後退モードを設定するためのスイッチを後退スイッチとは別に専用で設ける構成も開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−120597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された車両は、後退モードになった後においても、後退モード中に該車両を前進させる場合はアクセルグリップで前進のための操作を行い、後退させる場合は後退スイッチの操作で後退のための操作を行うので、前進と後退とでそれぞれ異なる操作部材を操作することになる。したがって、特許文献1に記載された車両は、駐車時のように、車両の前進と後退とを繰り返し切り替える必要があるときの操作の煩雑さを解消する目的を有するものとしては、後退時に操作が必要なスイッチが依然として多く、操作の煩雑さをより一層改善する余地がある。
【0005】
本発明の目的は、後退時のスイッチ操作を少なくして操作の煩雑さを一層改善することができる電動車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、アクセル操作手段によるスロットル開度に応じた速度指令に従って車両を走行させるモータを備える鞍乗り型電動車両等、電動車両の制御装置において、前記アクセル操作手段とは別個に設けられ、車両の通常モードおよび後退モードのいずれかを選択するモードスイッチと、少なくともスロットル開度がゼロであり、かつ車速がゼロであることを前提に前記モードスイッチによって後退モードが選択されていることを判別するモード判別手段と、モード判別手段によって後退モードが選択されている場合は、通常モード時の最大車速より小さい車速を最大速度とする微速レンジ内で決定される微速後退指令を前記モータに供給する駆動部とを備えている点に第1の特徴がある。
【0007】
また、本発明は、前記モードスイッチが、単一の操作部による操作位置に対応して、車両の通常モードおよび後退モードに加え、停止を選択可能に構成されている点に第2の特徴がある。
【0008】
また、本発明は、前記モードスイッチは、通常モード、後退モードおよび停止の各切り替え位置間で変位自在に構成され、操作外力を与えていない自由状態では、通常モードおよび後退モードの切り替え位置の中間部に設定される停止位置に該モードスイッチ(49)を自動復帰させるリターンスプリングを有する点に第3の特徴がある。
【0009】
また、本発明は、前記操作部の操作によって前記モードスイッチが付勢されたときにストッパ解除位置に退避して、操作部が前記通常モードと停止位置との間で交互に変位できるように前記通常モードと停止位置との間に配置されるストッパ手段を備えている点に第4の特徴がある。
【0010】
また、本発明は、前記モードスイッチが、通常モードの有効および無効を切り替える第1のスイッチと前記第1のスイッチが無効に切り替わっているときに有効となって停止および後退モードのいずれかを選択可能な第2のスイッチとからなる点に第5の特徴がある。
【0011】
また、本発明は、前記第1のスイッチが、初期位置と押し込んだ位置とを有し、押し込んだ位置で再度押し込み操作をすると初期位置に復帰するように構成されたプッシュスイッチであり、前記第2のスイッチが、後退モードおよび停止位置の間で変位自在に構成され、操作外力を与えていない自由状態では停止位置に第2のスイッチを自動復帰させるリターンスプリングを有する点に第6の特徴がある。
【0012】
また、本発明は、前記微速後退指令が前記微速レンジ内に予め設定される固定車速に対応するものである点に第7の特徴がある。
【0013】
また、本発明は、前記微速後退指令が前記微速レンジ内で前記スロットル開度に応じて決定される車速に対応するものである点に第8の特徴がある。
【0014】
また、本発明は、前記スロットル開度がクリープ域を有し、該クリープ域では前記微速レンジより小さい値であるクリープ速度指令を前記駆動部に供給するクリープ制御部を備えている点に第9の特徴がある。
【0015】
また、本発明は、電動車両が垂直に立っている状態から側方への傾斜角度を検出する傾斜センサを備え、前記モード判別手段が、前記傾斜角度に基づいて電動車両が転倒していないことが検出されていないと判断されたときにモード判別するように構成されている点に第10の特徴がある。
【0016】
また、本発明は、運転者がシートに着座しているときに検出信号を出力するシートスイッチを備え、前記モード判別手段が、運転者がシートに着座しているときにモード判別するように構成されている点に第11の特徴がある。
【0017】
また、本発明は、前記後退モードにおいては、予め設定された電動車両の押し歩き可能な速度よりも車速が小さいときに、前記押し歩き速度より小さい微車速で電動車両を走行させる微速後退指令を前記駆動部に供給する微速走行制御部(85)を備えている点に第12の特徴がある。
【0018】
また、本発明は、前記後退モードにおいては、予め設定された押し歩き速度よりも車速が大きいときに、前記微速走行制御部が、電動車両を停止させるように前記駆動部に速度指令を供給するように構成されている点に第13の特徴がある。
また、本発明は、前記後退モードが、前記微速レンジ内で車速を前進させる微速前進モードをさらに含み、前記モードスイッチが、後退モードに含まれる車両の前進および後退を選択できるように構成されている点に第14の特徴がある。
さらに、本発明は、前記モードスイッチの、後退モードにおける前進の選択位置と後退の選択位置との間に停止位置が設定されている点に第15の特徴がある。
【発明の効果】
【0019】
第1〜第15の特徴を有する本発明によれば、モードスイッチによって後退モードが選択された後は、1つの操作部材により電動車両を通常速度より低い速度範囲内で容易に走行(前進および後退を含むことができる)させることができる。特に、通常のアクセル操作手段を用いて前進および後退をすることができるので、操作が極めて簡単な上に、モードの切り替えは車両停止時に限られ、必要な時にだけモードの切り替えを行うことができる。
【0020】
第2の特徴を有する本発明によれば、単一の操作部からなるモードスイッチによって通常モードから後退モードに容易に切り替えることができる。
【0021】
第3の特徴を有する本発明によれば、外力つまり操作力を与えていないときは、人が操作しない限りモータが駆動されないモードである停止位置に自動復帰するので、安心して操作を行うことができる。
【0022】
第4の特徴を有する本発明によれば、ストッパを退避させない限り通常モードと停止の間で切り替わらないので、停止および後退モードから意図しない通常モードへ切り替えが回避されるし、その逆の切り替えも防止することができる。
【0023】
第5、第6の特徴を有する本発明によれば、モードスイッチの操作部を複数(2個)に分けたので、通常モードと後退モードとの区別が明瞭である。
【0024】
第7の特徴を有する本発明によれば、予め設定した一定の微車速で電動車両を後退させることができる。
【0025】
第8の特徴を有する本発明によれば、スロットル開度に応じて微速レンジ内の速度で電動車両を後退させることができる。
【0026】
第9の特徴を有する本発明によれば、微速レンジよりもさらに低速で電動車両を走行させるクリープ域を設けることにより、モードスイッチを切り替えただけでその切り替え後のモードで唐突に作動することがない。
【0027】
第10の特徴を有する本発明によれば、電動車両が転倒しているときはこれを起こそうとするためグリップ近傍のモードスイッチに触れたとしても、不必要な微速制御を行わないようにすることができる。
【0028】
第11の特徴を有する本発明によれば、運転者がシートに着座しているときに電動車両を予定の微車速で後退させることができる。
【0029】
第12の特徴を有する本発明によれば、押し歩き速度よりも車速が小さいときに、通常行われる押し歩き速度より小さい微車速で電動車両を後退させられるので、速度に制限を設けることにより、運転者が操作を可能な速度領域で微速制御を行うことができる。
【0030】
第13の特徴を有する本発明によれば、押し歩き速度よりも車速が大きいときに、電動車両を停止させられので、人によって可能な押し歩き速度を超えて電動車両が動かされることがないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態に係る制御装置を適用するのに好適な電動車両を示す左側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電動車両におけるモードスイッチを含む左ハンドルグリップ部の外観図である。
【図3】モードスイッチの断面図である。
【図4】各モードに対応するモードスイッチの切り替え位置を示す図である。
【図5】電動車両の装置システム構成を示すブロック図である。
【図6】制御システムの動作を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施形態に係るモードスイッチを含む左ハンドルグリップの外観図である。
【図8】第2の実施形態に係るモードスイッチの断面図である。
【図9】第2の実施形態に係る各モードに対応するモードスイッチの切り替え位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る制御装置を備えた電動車両の左側面図である。電動車両1は低床フロアを有するスクータ型二輪車であり、車体フレーム3に各構成部分が直接または他の部材を介して間接的に取り付けられている。車体フレーム3は、ヘッドパイプ31と、ヘッドパイプ31に先端が接合されて後端が下方に延びている前フレーム部分32と、前フレーム部分32から車体幅方向左右にそれぞれ分岐して車体後方寄りに延びている一対のメインフレーム部分33と、メインフレーム部分33から車体上後方に延びているリヤフレーム部分36とからなる。
【0033】
ヘッドパイプ31には、前輪WFを支持するフロントフォーク2が操舵自在に支持される。フロントフォーク2から上部に延長されてヘッドパイプ31で支持されるステアリング軸41の上部には、アクセルグリップを有するステアリングハンドル46が連結される。ステアリングハンドル46には、アクセルグリップの回動角つまりスロットル開度THを検知するスロットルセンサ23が設けられる。
【0034】
ヘッドパイプ31の前部にはパイプからなるブラケット37が結合され、このブラケット37の前端部には、ヘッドライト25が取り付けられ、ヘッドライト25の上方にはブラケット37で支持されるフロントキャリア26が設けられる。
【0035】
車体フレーム3の、メインフレーム部分33とリヤフレーム部分36との中間領域に車体後方に向けて延在するブラケット34が接合されており、このブラケット34には、車体幅方向に延在しているピボット軸35が設けられ、このピボット軸35によってスイングアーム17が上下揺動自在に支持される。スイングアーム17には、車両駆動源としてのモータ18が設けられ、モータ18の出力は後輪車軸19に伝達され、後輪車軸19に支持された後輪WRを駆動する。後輪車軸19を含むハウジングとリヤフレーム部分36とは、リヤサスペンション20によって連結される。また、スイングアーム17には、モータ18の回転数を検出する車速センサ30としての回転数センサが設けられる。
【0036】
ブラケット34には、停車中に車体を支持するサイドスタンド24が設けられ、サイドスタンド24は、該サイドスタンド24が所定位置に格納されているときに検出信号を出力するサイドスタンドスイッチ28を有する。
【0037】
メインフレーム部分33には、複数のバッテリセルからなる高電圧(例えば72ボルト定格)のメインバッテリ4が搭載され、メインバッテリ4の上部はカバー40で覆われる。メインバッテリ4の前部には、空気導入パイプ38が連結され、メインバッテリ4の後部には吸気ファン39が設けられる。吸気ファン39によって空気導入パイプ38からメインバッテリ4に空気が導入され、この空気はメインバッテリ4を冷却した後、車体後方に排出される。なお、空気導入パイプ38には、図示しないエアクリーナを通して空気を導入するのがよい。
【0038】
リヤフレーム部分36の上にはメインバッテリ4を充電する充電器から延びる充電ケーブル42のプラグ43を結合することができるソケット44が設けられる。リヤフレーム部分36には、さらにリヤキャリヤ29やテールライト27が設けられる。
【0039】
左右一対のリヤフレーム部分36の間には荷室50が設けられ、この荷室50から下部に突出している荷室底部51には、メインバッテリ4で充電される低電圧(例えば、12ボルト定格)のサブバッテリ5が収容される。スイングアーム17には、モータ18を制御するパワー・ドライブ・ユニット(PDU)45が設けられる。
【0040】
荷室50の上には、荷室50の蓋を兼用する運転者シート21が設けられ、運転者シート21には、運転者が着座したときに作動して着座信号を出力するシートスイッチ22が設けられる。なお、例えば、荷室50の底部に、電動車両1の左右方向の傾斜角度を検出する傾斜センサを設けることができる。
【0041】
図2はモードスイッチの外観を示す図である。図2において、モードスイッチ49は電動車両1の走行モードを選択するために設けられる。走行モードは、通常モードおよび後退モードである。後退モードでは通常モードより低速の微速レンジで電動車両1を後退させる微速後退モードに加えて、微速レンジで電動車両1を前進させることができる微速前進モードを設けることができる。通常モードは、電動車両1をアクセル操作に応じて任意の速度で前方に通常に走行させる。微速前進モードでは、人の歩行速度に相当する毎時3〜5kmの速度(以下、「微速」という)で電動車両1を前進させる。微速後退モードでは、電動車両1を微速で後方に走行、つまり後退させる。
【0042】
モードスイッチ49は、電動車両1のステアリングハンドル46の左端部に設けられる左グリップ52の右側に隣接するスイッチケース53に設けられる。モードスイッチ49をステアリングハンドル46の左側に設けるのは、通常、ステアリングハンドル46の右側に設けられるアクセルグリップによるアクセル操作とは切り離した別個の操作としてモード切り替え操作を位置づけるためである。したがって、モードスイッチ49は左グリップ52に隣接させるのが好ましいが、右グリップに隣接して設けても良い。
【0043】
モードスイッチ49は、スイッチケース53の外部に突出させている操作部(ツマミ)54とツマミ54からスイッチケース53内に延在してスイッチケース53に支持されるロッド55とを備える。スイッチケース53には、ロッド55を各モードに応じた位置に案内するガイド溝56が設けられる。
【0044】
ガイド溝56は、電動車両1の前方側の微速前進モード位置FMと後方側の微速後退モード位置RMとの間でロッドを変位自在とするための前後溝561と、前後溝561の中央部から電動車両1の左側にロッド55を変位自在とするための横溝562とからなるT字形に形成される。横溝562の左端は通常モード位置NMである。縦溝561と横溝562との交叉部は停止位置STであり、この停止位置STにツマミ54が位置させられた状態ではアクセル操作によってもスロットル開度THが開かれてもモータ18は駆動されず、電動車両1は走行されない。
【0045】
通常モード位置NMにロッド55を保持するため、横溝542側に先端が張り出すストッパ57が設けられる。ストッパ57は先端がテーパ状に形成され、全体的には円柱形の部材であり、縦溝561に沿った方向に変位自在に設けられる。すなわち、ストッパ57はスイッチケース53の内部に突出されたリブ531に保持され、バネ58によって後端を押されて横溝562側に押し出されている。
【0046】
図3はモードスイッチ49の構造を示すスイッチケース53の断面図である。図3において、スイッチケース53の壁部532には、ロッド55の一端を支持する軸受59が設けられる。軸受59はロッド55の一端に結合されたリング部材551から前後溝561の長手方向に延びる第1支持軸562を回転自在に支持する第1軸受591と、リング部材551を貫通して横溝542の長手方向に延びる第2支持軸553を回転自在に支持する第2軸受592とからなる自在軸受である。
【0047】
ロッド55のうち、ツマミ54に近い側には前後溝561の長手方向に延在するリターンスプリング60、61の一端が結合される。リターンスプリング60、61の他端は、スイッチケース53の壁面内側に張り出したリブ533、534にそれぞれ結合される。リターンスプリング60、61は、自由状態でロッド55がガイド溝56の停止位置STでバランスして保持されるようにバネ定数が設定される。
【0048】
ロッド55の外周には可動電極62が設けられ、さらに、ロッド55の周りには微速前進モード電極63、微速後退モード電極64、および通常モード電極65(点線で示す)が配置され、壁部532に立設される絶縁壁66によって保持される。絶縁壁66は円筒形状であってその内周面に電極63、64、および65が配置される。電極62、63、64、65には、それぞれ導線67、68、69、70が接続され、これら導線67〜70は後述する制御ユニットに接続される。
【0049】
図4は、モードスイッチ49におけるツマミ54の位置とモードとの対応を示す図である。図4(a)に示す停止モードでは、ツマミ54とロッド55は、可動電極62は、微速前進モード電極63、微速後退モード電極64、および通常モード電極65のいずれとも接触しない停止位置STにある。図4(b)の微速前進モードでは、ツマミ54とロッド55は、可動電極62は前進モード電極63と接触する微速前進モード位置FMにある。図4(c)の後退モードでは、ツマミ54とロッド55は、可動電極62は微速後退モード電極64と接触する微速後退モード位置RMにある。そして、図4(d)の通常モードでは、ツマミ54とロッド55は、可動電極62は通常モード電極65と接触する通常モード位置NMにある。
【0050】
モードスイッチ49の動作において、外力を加えていない状態、つまりスイッチ操作していない状態では、リターンスプリング60、61によって、ツマミ54は停止位置STに保持される。この状態からツマミ54を電動車両1の左方向に操作すると、ロッド55がストッパ57の先端に当接するので操作者は負荷を感じる。そこからさらに力を加えてツマミ54を左方向に操作すると、ストッパ57の先端テーパ部に該ストッパ57を後退させる分力が作用して、ストッパ57はバネ58を圧縮して退避し、ロッド55はストッパ57の先端を乗り越えて横溝562の左端つまり通常モード位置NMに変位される。
【0051】
通常モード位置NMからツマミ54を右方向に操作すると、ロッド55はストッパ57の先端を左方向から右方向に乗り越えて停止位置STに戻すことができる。停止位置STからツマミ54を前方に押すとロッド55は微速前進モード位置FMに変位し、ツマミ54を前方に押している間、前進モードが選択される。ツマミ54から手を離すと、ロッド55はリターンスプリング60、61の作用で停止位置STに戻るので、そこからツマミ54を後方(電動車両1の後方側)へ引く操作をすると、ロッド55は微速後退モード位置RMに変位し、ツマミ54を後方に引いている間、後退モードが選択される。
【0052】
上記構成において、通常運転時には、モードスイッチ49を操作して通常モードを選択する。モードスイッチ49は操作を加えない限り、通常モード位置NMに保持されるので、運転者はアクセルグリップ(ステアリングハンドル46の右端に設けられる)を操作して電動車両1を前進走行させることができる。微速走行時には、モードスイッチ49を操作して微速前進モードまたは微速後退モードを選択する。微速前進モードおよび微速後退モードでは、通常モードと比べてアクセルグリップ操作に対応する速度レンジが低速側の微速レンジに切り替えられる。したがって、アクセルグリップを最大に操作した場合、車速を微車速の最大値(例えば、毎時5km)に制限するように、モータ18に出力指示が供給される。
【0053】
図5はモータ18の制御システムを示すブロック図である。制御システム100は、スロットルセンサ23、車速センサ30、シートスイッチ22、傾斜センサ47およびモードスイッチ49の検出信号が入力され、これらの検出信号に応じて、電動車両1を前進ならびに微速前進・後退させるようにモータ18を駆動する駆動部81を有する制御ユニット80とが含まれる。
【0054】
制御ユニット80は、マイクロコンピュータからなり、駆動部81と、処理開始判定部82と、モード判別部83と、通常走行制御部84と、微速走行制御部85と、クリープ制御部86とを有する。処理開始判定部82はスロットルセンサ23の出力がスロットル開度THゼロを示し、かつ車速センサ30が車速Vのゼロを示し、さらにシートスイッチ22および傾斜センサ47がオフ信号を出力しているときに走行制御を開始する起動指令を出力する。モード判別部83は起動指令に応答してモードスイッチ49の切り替え位置を判別する。
【0055】
通常走行制御部84、微速走行制御部85、およびクリープ制御部86は、モード判別部83で判別されたモードに従って付勢される。通常走行制御部84はモード判別部83で通常モードと判別されたときにスロットル開度THに応じた通常速度指令を駆動部81に入力する。微速走行制御部85は、モード判別部83で微速前進モードまたは微速後退モードと判別されたときに、モードに応じて、スロットル開度THに応じた微速前進速度指令および微速後退速度指令のいずれかを駆動部81に入力する。クリープ制御部86は、モード判別部83でモードが微速前進モードおよび微速後退モードのいずれかであると判別され、かつスロットル開度THが所定のクリープ域DZであったときに、モードに応じて、固定値であるクリープ車速を得ることができるクリープ前進速度指令およびクリープ後退速度指令のいずれかを駆動部81に入力する。
【0056】
微速走行制御部85の入力側に速度レンジ切替部87を設け、通常走行制御部84および微速走行制御部85が、それぞれスロットルセンサ23からの同一入力値に対して互いに異なる速度レンジにおける速度指令を出力するように設定する。
【0057】
なお、通常走行制御部84および微速走行制御部85が、スロットルセンサ23からの同一入力値に対して同一の速度指令を出力するように、速度レンジ切替部87は任意の機能としてもよい。
【0058】
図6は、制御システムの動作を示すフローチャートである。図6において、ステップS1ではスロットルセンサ23の出力をもとにスロットル開度THが全閉か否かを判断する。ステップS2では車速センサ30の出力をもとに車速Vがゼロでか否かを判断する。ステップS3ではシート21に運転者が着座しているか否かをスイッチ22の出力をもとに判断する。シートスイッチ22は運転者が着座している状態では出力がオンとなるように設定されるものである。ステップS4ではモードスイッチ49が停止位置STにあるか否かが判断される。ステップS5では電動車両1が転倒していないことを傾斜センサ47の出力をもとに判断する。傾斜センサ47は電動車両1が転倒判断基準角度以上傾斜しているときに出力がオンからオフに切り替わるように設定されるものである。
【0059】
ステップS1〜S5のいずれか一つでも否定の判断がなされれば、ステップS6に進んでモータ18の速度をゼロにする速度0指令を出力する。ステップS1〜S5がいずれも肯定の判断とされればステップS7に進んでモードスイッチ49が通常モード位置NMにあるか否かが判断される。
【0060】
ステップS1〜S4の処理により、すべてのスイッチおよびセンサがゼロまたはオフになっていて、改めスイッチおよびセンサがオンまたはゼロ以外の出力を示さない場合は、モータ18を始動させないようにしている。したがって、いずれかのスイッチがオンまたはゼロ以外の出力を生じている場合、例えば、スロットルが開いている場合には、運転者が意識的にアクセルグリップをしっかりと閉じる操作をして全閉にした後に、モータ18を始動させるための処理に移行する。電動車両1が運転者の確実な意思によって始動できるようにするためである。
【0061】
ステップS1〜S5がすべて肯定の判断であれば、ステップS7に進む。ステップS7でモードスイッチ49が通常モード位置NMにある肯定の判断がなされれば、ステップS8に進んでスロットル開度THに応じた通常速度指令をモータ18の駆動部81に出力する。
【0062】
ステップS7が否定の場合、ステップS9に進んでスロットルセンサ23の出力をもとにスロットル開度THが全閉か否かを判断する。ステップS9が肯定ならば、ステップS10に進んで車速センサ30の出力をもとに車速Vが予定の基準車速Vref以下であるか否かを判断する。このステップS10の処理はモード判別部83の機能として付加できる。基準車速Vrefは微車速の最大値であって電動車両1を人が押し歩きできる程度の値に設定する。例えば、毎時6kmとする。
【0063】
ステップS10が肯定ならば、ステップS11に進んでモードスイッチ49が微速前進モード位置FMにあるか否かを判断する。ステップS11が肯定ならば、ステップS12に進んでスロットル開度THが所定のクリープ域DZ以上であるか否かを判断する。クリープ域DZはスロットル開度THの微小域、例えばアクセルグリップの操作回転角度で1〜3度の範囲に設定する。スロットル開度THがクリープ域DZ以上であればステップS13に進んで速度レンジを微速レンジに切り替える。ステップS14ではスロットル開度THに応じた微速前進速度指令をモータ18の駆動部81に出力する。ステップS12が否定ならばステップS15に進んでクリープ前進速度指令をモータ18の駆動部81に出力する。このクリープ前進速度指令は所定のクリープ速度(例えば、毎時2km)で電動車両1を前進させることができるモータ18の出力に相当するものである。
【0064】
ステップS11が否定ならば、ステップS16に進んでモードスイッチ49が微速後退モード位置RMにあるか否かを判断する。ステップS16が肯定ならば、ステップS17に進んでスロットル開度THが所定のクリープ域DZ以上であるか否かを判断する。ステップS17が肯定ならば、ステップS18に進んで速度レンジを微速レンジに切り替える。ステップS19ではスロットル開度THに応じた微速後退速度指令をモータ18の駆動部81に出力する。ステップS17が否定ならばステップS20に進んでクリープ後退速度指令をモータ18の駆動部81に出力する。このクリープ後退速度指令は所定のクリープ速度(例えば、毎時1km)で電動車両1を後退させることができモータ18の出力に相当するものである。ステップS16が否定ならば、ステップS21に進んでモータ18の速度をゼロにする速度0指令を出力する。
【0065】
なお、ステップS1〜S3、およびステップS5は任意の処理であり、そのすべてまたは一部を省略してもよい。但し、少なくともステップS1およびS2によってスロットルTHがゼロであって、かつ車速Vがゼロであることは必須とするのがよい。
【0066】
図7は第2の実施形態に係るモードスイッチの外観図である。第2の実施形態では、モードスイッチ49を2種類のスイッチ部で構成する。スイッチケース53において、左グリップ52寄りにプッシュスイッチ71を配し、プッシュスイッチ71と隣接して左グリップ52から遠い側に電動車両1の前後方向に操作自在なスライドスイッチ72を配する。プッシュスイッチ71は、押し込む操作をすると押し込んだ位置で固定され、対となって接点部を構成する一方の電極と他方の電極とが接続され、その状態から再び押し込む操作を操作すると両電極の接触が解除されて中立位置となる形式のスイッチである。このようなプッシュスイッチは周知のものを使用することができる。
【0067】
スライドスイッチ72は、スイッチケース53の外部に突出させているツマミ73とツマミ73からスイッチケース53内に延在してスイッチケース53に支持されるロッド74とを備える。スイッチケース53には、ロッド74を各モードに応じた位置に案内するガイド溝75が設けられる。
【0068】
ガイド溝75は、電動車両1の前方側の微速前進モード位置FMと後方側の微速後退モード位置RMとの間でロッド74を変位自在とするための長孔である。ガイド溝75の中間部は停止位置STである。
【0069】
図8はスライドスイッチ72の構造を示すスイッチケースの断面図である。図8において、スイッチケース53の壁部532には、ロッド74の一端を支持する軸受76が設けられる。軸受76はロッド74の一端に結合されたリング部材741を貫通してガイド溝75の長手方向と直交する方向に延びる支持軸742を回転自在に支持する。
【0070】
ロッド74のうち、ツマミ73に近い側にはガイド溝75の長手方向に延在するバネ(リターンスプリング)77、78の一端が結合される。リターンスプリング77、78の他端は、スイッチケース53の壁面内部に結合される。リターンスプリング77、78は、自由状態でロッド74がガイド溝75の停止位置STでバランスを維持して保持されるようにバネ定数が設定される。
【0071】
ロッド74の外周には可動電極79が設けられ、さらに、ロッド74の周りには微速前進モード電極89および微速後退モード電極90が配置され、絶縁壁91によって保持される。電極79、89、90には、それぞれ導線92、93、94が接続され、これらの導線92〜94は制御ユニットの制御ユニット80に延長される。
【0072】
プッシュスイッチ71およびスライドスイッチ72からなるモードスイッチ49は、単一の操作部を有するモードスイッチと同様に、図5に関して説明した制御システム100に組み込むことができる。そして、プッシュスイッチ71およびスライドスイッチ72の検出信号は制御ユニット80のモード判別部83に通常モード、微速前進モードおよび微速後退モードを示す情報として入力される。
【0073】
図9は、プッシュスイッチ71およびスライドスイッチ72の位置とモードとの対応を示す図である。図9の停止モードでは、プッシュスイッチ71は押し下げられておらずスライドスイッチ72は停止位置STにあり、スライドスイッチ72の可動電極79は、微速前進モード電極89および微速後退モード電極90のいずれとも接触しない。図9の前進モードでは、プッシュスイッチ71は押し下げられておらずスライドスイッチ72は前進モード位置FMにあり、スライドスイッチ71の可動電極79は微速前進モード電極89と接触する。図9の微速後退モードでは、プッシュスイッチ71は押し下げられておらずスライドスイッチ72は微速後退モード位置RMにあり、可動電極79は微速後退モード電極90と接触する。そして、図9の通常モードでは、プッシュスイッチ71は押し下げられており、この状態ではスライドスイッチ72は機能せず、スライドスイッチ72がどの位置にあるかにかかわらず通常モードが選択される。モード判別部83は、プッシュスイッチ71が押し下げられていることを示すオン信号が入力された場合は、スライドスイッチ72の検出信号を無効とするように構成される。
【0074】
本発明は、上述の実施形態に限定されず、請求項に記載された範囲内でさらなる変形が可能である。例えば、電動車両1は2輪車に限らず、鞍乗り型の三輪車や四輪車にも適用可能である。また、後退モードは、微速前進モードおよび微速後退モードのうち、微速後退モードのみとすることもできる。
【符号の説明】
【0075】
23…スロットルセンサ、 30…車速センサ、 46…ステアリングハンドル、 49…モードスイッチ、 52…グリップ、 53…スイッチケース、 54…操作部、 55…ロッド、 56…ガイド溝、 57…ストッパ、 59…軸受、 60、61…リターンスプリング、 72…係止部、 80…制御ユニット、 81…駆動部、 82…処理開始判定部、 83…モード判定部、 84…通常走行制御部、 85…微速走行制御部、 86…クリープ制御部、 87…レンジ切替部、 100…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル操作手段によるスロットル開度(TH)に応じた速度指令に従って車両を走行させるモータ(18)を備える電動車両の制御装置において、
前記アクセル操作手段とは別個に設けられ、車両の通常モードおよび後退モードのいずれかを選択するモードスイッチ(49)と、
少なくともスロットル開度(TH)がゼロであり、かつ車速(V)がゼロであることを前提に前記モードスイッチ(49)によって後退モードが選択されていることを判別するモード判別手段(83)と、
モード判別手段(83)によって後退モードが選択されている場合は、通常モード時の最大車速より小さい車速を最大速度とする微速レンジ内で決定される微速後退指令を前記モータ(18)に供給する駆動部(81)とを備えていることを特徴とする電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記モードスイッチ(49)が、単一の操作部(54)による操作位置に対応して、車両の通常モードおよび後退モードに加え、停止を選択可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記モードスイッチ(49)は、通常モード、後退モードおよび停止の各切り替え位置間で変位自在に構成され、操作外力を与えていない自由状態では、通常モードおよび後退モードの切り替え位置の中間部に設定される停止位置に該モードスイッチ(49)を自動復帰させるリターンスプリング(60、61)を有することを特徴とする請求項2に記載の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記操作部(54)の操作によって前記モードスイッチ(49)が付勢されたときにストッパ解除位置に退避して、操作部(54)が前記通常モードと停止位置との間で交互に変位できるように前記通常モードと停止位置との間に配置されるストッパ手段(57)を備えていることを特徴とする請求項3に記載の電動車両の制御装置。
【請求項5】
前記モードスイッチ(49)が、通常モードの有効および無効を切り替える第1のスイッチ(71)と前記第1のスイッチ(71)が無効に切り替わっているときに有効となって停止および後退モードのいずれかを選択可能な第2のスイッチ(72)とからなることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項6】
前記第1のスイッチ(71)が、初期位置と押し込んだ位置とを有し、押し込んだ位置で再度押し込み操作をすると初期位置に復帰するように構成されたプッシュスイッチであり、前記第2のスイッチ(72)が、後退モードおよび停止位置の間で変位自在に構成され、操作外力を与えていない自由状態では停止位置に第2のスイッチ(72)を自動復帰させるリターンスプリング(60、61)を有することを特徴とする請求項5に記載の電動車両の制御装置。
【請求項7】
前記微速後退指令が前記微速レンジ内に予め設定される固定車速に対応するものであることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項8】
前記微速後退指令が前記微速レンジ内で前記スロットル開度(TH)に応じて決定される車速に対応するものであることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項9】
前記スロットル開度(TH)がクリープ域を有し、該クリープ域では前記微速レンジより小さい値であるクリープ速度指令を前記駆動部(81)に供給するクリープ制御部(86)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項10】
電動車両(1)が垂直に立っている状態から側方への傾斜角度を検出する傾斜センサ(47)を備え、
前記モード判別手段(83)が、前記傾斜角度に基づいて電動車両(1)が転倒していないことが検出されていないと判断されたときにモード判別するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項11】
運転者がシート(21)に着座しているときに検出信号を出力するシートスイッチ(22)を備え、
前記モード判別手段(83)が、運転者がシート(21)に着座しているときにモード判別するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項12】
前記後退モードにおいては、予め設定された電動車両の押し歩き可能な速度よりも車速が小さいときに、前記押し歩き速度より小さい微車速で電動車両を走行させる微速後退指令を前記駆動部に供給する微速走行制御部(85)を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項13】
前記後退モードにおいては、予め設定された押し歩き速度よりも車速が大きいときに、前記微速走行制御部(83)が、電動車両(1)を停止させるように前記駆動部に速度指令を供給するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項14】
前記後退モードが、前記微速レンジ内で車速を前進させる微速前進モードをさらに含み、前記モードスイッチ(49)が、後退モードに含まれる車両の前進および後退を選択できるように構成されていることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の電動車両の制御装置。
【請求項15】
前記モードスイッチ(49)の、後退モードにおける前進の選択位置と後退の選択位置との間に停止位置が設定されていることを特徴とする請求項14に記載の電動車両の制御装置。
【請求項16】
電動車両(1)が、鞍乗り型電動車両であることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の電動車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−162095(P2012−162095A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21467(P2011−21467)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】