説明

電動車両用動力伝達装置及び電動車両用動力伝達装置の生産方法

【課題】摺接ブラシの組み付け作業時、作業性を向上させながら、ブラシ接点を保護するブラシ保護治具の取り外し忘れを防止し、ラジオノイズの低減性能を確保する。
【解決手段】電気自動車用動力伝達装置は、ギヤ減速機講と、摺接ブラシアッシー25と、ブラシケースカバーと、保護カバー20と、を備える。ギヤ減速機講は、インバータにより駆動されるモータから駆動輪までの間に介装される。摺接ブラシアッシー25は、カウンターシャフトのシャフト端部3c’位置に設けられる。ブラシケースカバーは、カバー取り付け部19に組み付けられる。保護カバー20は、シャフト端部3c’へ摺接ブラシアッシー25を組み付けるときにブラシ接点を覆って装着され、ブラシケースカバーをカバー取り付け部に組み付けるとき、装着状態のままであるとブラシケースカバーに干渉する軸方向長さに設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車等の電動車両に適用され、インバータからの高周波ノイズ対策を施した電動車両用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを少なくとも走行用駆動源の一部として備えた電動車両は、モータを制御するインバータを発生源とする高周波ノイズ(「ラジオノイズ」ともいう。)が、モータ駆動系をアンテナとして外部へ放射されることで、ラジオ受信等に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
これに対し、従来、インバータにより駆動されるモータのモータシャフトのうち、ロータを挟んで動力伝達機構側とは反対側に延びるシャフトの部位に、車体に対し電気的に接続した摺接ブラシを設けた装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−320129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来装置において、摺接ブラシを取り付ける際、接点に手が触れると脂や異物の付着により摺接ブラシの抵抗値が変わる。アース用の摺接ブラシは、低抵抗であり、抵抗値が変わることは回避しなくてはならない。このため、ブラシ接点を保護するブラシ保護治具を取り付けたままの状態で組み付けることが考えられる。しかし、ブラシ保護治具を取り外すのを忘れてケースカバーを取り付けてしまった場合には、ブラシ接点が保護されたままでアース接続されない。しかも、カバーに覆われてしまった後は、アース接続されていないことに気付くことなくそのまま放置され、ラジオノイズの低減を図ることができなくなる、という問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、摺接ブラシの組み付け作業時、作業性を向上させながら、ブラシ接点を保護するブラシ保護治具の取り外し忘れを防止し、ラジオノイズの低減性能を確保することができる電動車両用動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の電動車両用動力伝達装置は、動力伝達機構と、摺接ブラシと、ブラシケースカバーと、ブラシ保護治具と、を備えた手段とした。
前記動力伝達機構は、インバータにより駆動されるモータのモータシャフトから駆動輪までの間に介装され、ケース要素と軸要素と動力伝達要素を有する。
前記摺接ブラシは、前記軸要素の軸端部位置に設けられ、一端を前記軸端部への接触を維持して配置し、他端を車体に対し電気的にアース接続した。
前記ブラシケースカバーは、前記ケース要素のうち前記軸要素の軸端部を囲んで開口したカバー取り付け部に組み付けられ、前記摺接ブラシを収容するブラシ室を形成する。
前記ブラシ保護治具は、前記軸端部へ前記摺接ブラシを組み付けるときにブラシ接点を覆って装着され、前記ブラシケースカバーを前記カバー取り付け部に組み付けるとき、装着状態のままであると前記ブラシケースカバーに干渉する軸方向長さに設定した。
【発明の効果】
【0008】
よって、軸要素の軸端部へ摺接ブラシを組み付けるとき、摺接ブラシのブラシ接点を覆ってブラシ保護治具が装着される。そして、ブラシケースカバーをカバー取り付け部に組み付けるとき、ブラシ保護治具を装着した状態のままであると、ブラシ保護治具がブラシケースカバーに干渉する。したがって、ブラシ保護治具を取り外さない限り、ブラシケースカバーのカバー取り付け部への組み付けができず、ブラシ保護治具の取り外し忘れが防止される。
また、ブラシ保護治具は、ブラシケースカバーをカバー取り付け部に組み付けるとき、ブラシケースカバーに干渉する軸方向長さに設定される。言い換えると、ブラシ保護治具の軸方向長さは、摺接ブラシの軸方向長さより長くなる。したがって、摺接ブラシへの装着作業時、ブラシ保護治具を掴みやすく、ブラシ保護治具の取り付けや取り外しが容易となり、作業性が向上する。
その結果、摺接ブラシの組み付け作業時、作業性を向上させながら、ブラシ接点を保護するブラシ保護治具の取り外し忘れを防止し、ラジオノイズの低減性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の電気自動車用動力伝達装置(電動車両用動力伝達装置の一例)を示す全体概略図である。
【図2】実施例1の電気自動車用動力伝達装置における摺接ブラシアッシーの設定部分を示す要部断面図である。
【図3】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において保護カバーを装着したままでの摺接ブラシアッシーの組み付け状態を示す要部斜視図である。
【図4】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシアッシーの設定部分をブラシケースカバーにより覆った最終組み付け状態を示す要部斜視図である。
【図5】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシアッシーに保護カバーを装着した状態を示す斜視図である。
【図6】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシアッシーに保護カバーを装着した状態を示す正面図である。
【図7】実施例1の電気自動車用動力伝達装置における保護カバーを示す斜視図である。
【図8】実施例1の電気自動車用動力伝達装置における保護カバーを示す平面図である。
【図9】実施例1の電気自動車用動力伝達装置における保護カバーを示す図8のD−D断面図である。
【図10】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシアッシーの設定部分をブラシケースカバーにより覆った最終組み付け状態での軸方向長さ関係を示す説明図である。
【図11】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において保護カバーの介在により摺接ブラシアッシーの設定部分をブラシケースカバーにより覆えない状態での軸方向長さ関係を示す説明図である。
【図12】ノイズ対策無しの電気自動車用動力伝達装置においてモータを制御するインバータを発生源とする高周波ノイズの伝達経路を示す模式図である。
【図13】実施例1の電気自動車用動力伝達装置における高周波ノイズの伝達回路を示すノイズ伝達回路図である。
【図14】電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシの設定位置によるノイズレベルを比較した5km/h走行時についての比較結果(a)と40km/h走行時について比較結果(b)を示す比較特性図である。
【図15】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において保護カバーを装着した状態での摺接ブラシアッシーの組み付け作用を示す作用説明図である。
【図16】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシアッシーの組み付け完了後に保護カバーの取り外し作用を示す作用説明図である。
【図17】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において組み付けられた摺接ブラシアッシーをブラシケースカバーで覆うブラシケースカバーの組み付け作用を示す作用説明図である。
【図18】実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシアッシーに保護カバーを装着したままであるとブラシケースカバーの組み付けができないことを示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電動車両用動力伝達装置を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の電気自動車用動力伝達装置(電動車両用動力伝達装置の一例)を示す全体概略図である。以下、図1に基づき全体構成を説明する。
【0012】
実施例1の電気自動車用動力伝達装置は、図1に示すように、モータ1と、インバータ2と、ギヤ減速機構3(動力伝達機構)と、動力伝達結合部4と、摺接ブラシアース構造5と、を備えている。
【0013】
前記モータ1は、モータハウジング1aと、モータハウジング1aに回転可能に支持されたモータシャフト1bと、モータシャフト1bに固定したロータ1cと、モータハウジング1aに固定され、モータコイル1dを巻線したステータ1eと、を有する。このモータ1としては、埋込磁石同期モータを用いられ、ロータ1cに図外の永久磁石が埋め込み配設される。
【0014】
前記インバータ2は、モータ1のモータコイル1dに三相交流パワーケーブル6を介して接続されると共に、二次バッテリ7に直流パワーケーブル8を介して接続される。このインバータ2は、スイッチング素子により電流の向きを変える高周波制御器としての機能を持つ。そして、力行時には、二次バッテリ7からの直流をモータ1への三相交流に変換し、回生時には、モータ1からの三相交流を二次バッテリ7への直流に変換する。
【0015】
前記ギヤ減速機構3は、モータシャフト1bから駆動輪9,9までの間に介装され、ケース要素と軸要素と動力伝達要素を有する動力伝達機構である。前記ケース要素としては、軸要素と動力伝達要素を収納するギヤケース3aを有する。前記軸要素としては、インプットシャフト3bと、カウンターシャフト3cと、アウトプットシャフト3d,3dと、を有する。ギヤ列を構成する前記動力伝達要素としては、インプットギヤ3eと、第1カウンターギヤ3fと、第2カウンターギヤ3gと、ドライブギヤ3hと、デファレンシャルギヤ3iと、を有する。
【0016】
前記動力伝達結合部4は、モータシャフト1bから駆動輪9,9に至る動力伝達経路上に設けられ、モータシャフト1bより下流位置にて電気抵抗を与える抵抗体である。この動力伝達結合部4としては、ギヤ減速機構3の動力伝達経路上に予め有し、電気抵抗を与えるスプライン嵌合部4a、カップリング部4b,4c、ギヤ噛み合い部4d,4e、等が用いられる。前記スプライン嵌合部4aは、モータシャフト1bとインプットシャフト3bをスプライン嵌合する部分である。前記カップリング部4b,4cは、ギヤ減速機構3からのアウトプットシャフト3d,3dと、駆動輪9,9へのドライブシャフト3d’,3d’の結合部である。前記ギヤ噛み合い部4dは、インプットギヤ3eと第1カウンターギヤ3fの噛み合い部であり、前記ギヤ噛み合い部4eは、第2カウンターギヤ3gとドライブギヤ3hの噛み合い部である。
【0017】
前記摺接ブラシアース構造5は、抵抗体としての動力伝達結合部4(スプライン嵌合部4a、ギヤ噛み合い部4d)より動力伝達経路上の下流位置と、車体10と、の間を電気的に接続する構造である。この摺接ブラシアース構造5は、ブラシ接点5a,5aと、スプリング5d,5dと、リード線5e,5eと、ギヤケース3aと、接続ライン5bと、を有する。前記ブラシ接点5a,5aは、ギヤ減速機構3のカウンターシャフト3cのシャフト端部3c’に対しスプリング5d,5dによる付勢力にて摺接する。前記リード線5e,5eは、ブラシ接点5a,5aとギヤ減速機構3のギヤケース3aを電気的に接続する。前記接続ライン5bは、ギヤケース3aと車体10を電気的に接続する。なお、図1において、11,11は左右のサスペンション、12はブリーザー穴である。
【0018】
図2〜図4は、実施例1の電気自動車用動力伝達装置における摺接ブラシアッシー25の設定部分を示す。以下、図2〜図4に基づいて、摺接ブラシアッシー25の設定部分の構成を説明する。
【0019】
前記カウンターシャフト3cは、図2に示すように、ギヤケース3aにボールベアリング13を介して回転可能に支持されていて、ボールベアリング13の内側位置に第1カウンターギヤ3f(図1参照)がスプライン嵌合により設けられる。ボールベアリング13の外側位置には、ギヤケース3aとの間にオイルシール14が設けられる。そして、オイルシール14によりシール分離され、かつ、ギヤケース3aから突出したカウンターシャフト3c(軸要素)のシャフト端部3c’(軸端部)の位置に、ストッパ15と、電力伝達経路上における摺接ブラシアッシー25の電気的接続位置CPとなる一対のブラシ接点5a,5aと、が設けられる。
【0020】
前記ストッパ15は、図2および図3に示すように、シャフト端部3c’のうち、一対のブラシ接点5a,5aの接触位置よりも奥側位置のシャフト段差部分に設けられる。このストッパ15は、ブラシケースカバー16をカバー取り付け部19に組み付けるとき、図3に示す装着状態のままの保護カバー20(ブラシ保護治具)の押し込みを阻止するカラー部材である。
【0021】
前記カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’は、図4に示すように、ブラシケースカバー16により覆われている。ブラシケースカバー16は、図3に示すように、ギヤケース3aのシャフト端部3c’を囲んで開口したカバー取り付け部19に対し、ボルト18により固定される。このブラシケースカバー16の組み付け固定により、図2に示すように、ギヤケース3aの内部室3jに連通するブラシ室17が形成される。そして、ブラシケースカバー16には、図4に示すように、ブラシ室17に臨んでブリーザー穴12を開穴している。
【0022】
前記一対のブラシ接点5a,5aは、カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’の円筒表面をスリップリング面とする。このブラシ接点5a,5aは、図2に示すように、絶縁部材によるブラシホルダー5cの2つの収納孔にスプリング5d,5dと共に一対設けられ、スプリング5d,5dからの付勢力により接触圧を維持した状態とされる。
【0023】
前記ブラシホルダー5cは、図3に示すように、ケース固定用プレート21を有し、ギヤケース3aから延びるケース延長部3a’に対しボルト22により固定する。このブラシホルダー5cのボルト22によるケース固定により、一対のブラシ接点5a,5aは、カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’への接触を維持して配置される。
【0024】
前記一対のブラシ接点5a,5aのギヤケース3aに対する電気的な接続構成を説明する。一対のブラシ接点5a,5aは、図2に示すように、スプリング5d,5dを介しスプリング受け5f,5fを配置し、このスプリング受け5f,5fにリード線5e,5eの一端部を接続している。そして、リード線5e,5eの他端部は、図3に示すように、前記ブラシホルダー5cに有するアースプレート23に対しハンダ付け等により接続している。さらに、アースプレート23は、アースビスネジ24によりギヤケース3aに対し固定している。この構成によって、一対のブラシ接点5a,5aは、ギヤケース3aに対して電気的に接続される。
【0025】
図5および図6は、実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシアッシー25に保護カバー20を装着した状態を示す。以下、摺接ブラシアッシー25と保護カバー20のスライド構造について説明する。
【0026】
前記摺接ブラシアッシー25は、図5および図6に示すように、ブラシホルダー5cと、リード線5e,5eと、ケース固定用プレート21と、アースプレート23と、を有し、予め組み立てたユニット構成とされる。ブラシホルダー5cの内部には、上記のように、ブラシ接点5a,5aと、スプリング5d,5dと、スプリング受け5f,5fと、が内蔵されている。
【0027】
前記ブラシホルダー5cは、図5および図6に示すように、ブラシ接点5a,5aが突出する端面を挟んだ両側面の下部位置に軸方向に延びる一対の平行なスライド溝26,26を有する。
【0028】
前記保護カバー20は、ブラシホルダー5cに有する一対の平行なスライド溝26,26に対し、ブラシホルダー5cへ装着するとき係合する一対の平行なスライド爪27,27を有する。
【0029】
図7〜図9は、実施例1の電気自動車用動力伝達装置における保護カバー20を示す。以下、保護カバー20の構成を説明する。
【0030】
前記保護カバー20は、ブラシ接点5a,5aを覆う主カバー部28と、該主カバー部の両側から立ち上がる一対の副カバー部29,29と、該一対の副カバー部29,29の端部に形成した一対の平行なスライド爪27,27と、を有する。この保護カバー20の特長は、図8に示すように、軸方向対称軸L1に対し左右対称構造であると共に、軸直交方向対称軸L2に対し左右対称構造である。
【0031】
図10および図11は、実施例1の電気自動車用動力伝達装置において摺接ブラシの設定部分の軸方向長さ関係を示す。以下、保護カバー20の軸方向長さ設定を説明する。
【0032】
前記保護カバー20は、シャフト端部3c’へ摺接ブラシアッシー25を組み付けるときにブラシ接点5a,5aを覆って装着されているブラシ保護治具である。この保護カバー20の軸方向長さLは、ブラシケースカバー16をカバー取り付け部19に組み付けるとき、装着状態のままであるとブラシケースカバー16に干渉する長さに設定している。
【0033】
すなわち、図10に示すように、内部隙間Fは、
内部隙間F=カバー深さG+ストッパ深さH
の式によりあらわされる。
よって、図11に示すように、保護カバー20の軸方向長さL(=保護カバー長さ)と内部隙間Fとの間に、
保護カバー長さL>内部隙間F
という関係が成立すれば、組み付け時、保護カバー20が装着状態のままであるとブラシケースカバー16に干渉する長さとなる。
また、ブラシ室17には、摺接ブラシアッシー25が干渉することなく収容されるため、摺接ブラシアッシー25の軸方向長さI(=ブラシ長さ)を含めると、
保護カバー長さL>内部隙間F>ブラシ長さI
という関係が成立する。
【0034】
次に、作用を説明する。
まず、「高周波ノイズの発生原理と比較例の課題」の説明を行う。続いて、実施例1の電気自動車用動力伝達装置における作用を、「高周波ノイズの低減作用」、「ギヤ減速機構への摺接ブラシ設定作用」、「アース位置による高周波ノイズの低減比較作用」、「保護カバーの取り外し忘れ防止作用」に分けて説明する。
【0035】
[高周波ノイズの発生原理と比較例の課題]
ハイブリッド車両や電気自動車のように、モータを少なくとも走行用駆動源の一部として備えた電動車両において、モータを制御するインバータを発生源とした高周波ノイズが、モータ駆動系をアンテナとして外部へ放射されることで、ラジオ受信等に悪影響を及ぼすことが知られている。
【0036】
高周波ノイズの発生原理を図12に基づいて説明する。
インバータは、スイッチング素子により電流の向きを変える位相制御において、ターンオンする際に電流(電圧)の急峻な立ち上がり波形が生じるため、高周波のクリックノイズ(=高周波ノイズ)が発生する。このインバータで発生する高周波ノイズは、図12の太線矢印により示すように、パワーケーブルとモータコイルを経てモータシャフトに伝わる。そして、更にモータシャフトから減速機のインプットギヤと、カウンターシャフトと、デファレンシャルギヤと、ドライブシャフトを経て駆動輪により絶縁されたサスペンションに伝播する。この図12の太線矢印により示される高周波ノイズの伝導経路が、アンテナとして機能し、高周波ノイズを外部へ放射することで、電波障害等を引き起こす原因になっている。
【0037】
これに対し、上記先行技術文献に記載されているように、摺接ブラシの電気的接続位置をモータシャフトとし、モータシャフトの電気的接続位置にて車体にアース接地するようにした例を、比較例とする。
【0038】
まず、インバータからの高周波ノイズを低減するためには、モータからドライブシャフト側へ出て行く出力電圧V2を小さくしなければならない(図13参照)。
ここで、出力電圧V2は、
V2={ZB/(ZB+ZR)}×V1 …(1)
但し、V1:モータ側電圧、ZB:アース抵抗、ZR:上流側抵抗
の式にて表される。
【0039】
上記(1)式から明らかなように、出力電圧V2を小さくするには、摺接ブラシ等によるアース抵抗ZBを小さくすると共に、アースのための電気的接続位置より上流側、つまり、ノイズ発生源側の上流側抵抗ZRを大きくしなければならない。
【0040】
これに対し、上記比較例では、狙い通りにモータシャフトを車体に接地することはできるものの、接地する位置がモータシャフトである。このため、ノイズ発生源であるインバータに近くなり、ノイズ発生源(インバータ)とアースのための電気的接続位置(モータシャフト)との間が短く、上流側抵抗ZRが小さくなる。したがって、出力電圧V2の低減代が小さく、ドライブシャフト方向である下流へのノイズ伝播が発生する。
【0041】
[高周波ノイズの低減作用]
上記のように、ノイズ発生源であるインバータ2を備えた電気自動車用動力伝達装置において、大きな上流側抵抗ZRを確保することが、外部へ放射される高周波ノイズを低減する上で重要である。以下、これを反映する実施例1における高周波ノイズの低減作用を説明する。
【0042】
実施例1の電気自動車用動力伝達装置は、モータシャフト1bから駆動輪9,9に至る動力伝達経路上に、抵抗体としての動力伝達結合部4が設けられると共に、摺接ブラシアース構造5が車体10に対して電気的に接続される。そして、動力伝達結合部4と摺接ブラシアース構造5の位置関係は、モータシャフト1bより下流位置に動力伝達結合部4(抵抗体)が設けられ、図13に示すように、動力伝達結合部4よりさらに下流位置が摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPとされる。
【0043】
したがって、摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPが、モータシャフト1bおよび動力伝達結合部4より下流位置となるため、比較例のようにモータシャフトを電気的接続位置とする場合に比べ、ノイズ発生源であるインバータ2とは遠く離れた位置関係になる。しかも、動力伝達結合部4により摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPより上流位置にて電気抵抗(上流側抵抗ZR)が与えられる。
【0044】
このため、摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPより上流側の抵抗である上流側抵抗ZRが大きくなり、上記(1)式から明らかなように、出力電圧V2を小さくすることができる。したがって、摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPより下流側へ出て行く出力電圧V2が減衰され、動力伝達経路の上流から下流に向かうノイズ伝播が減少する。
【0045】
このように、インバータ2からモータ1を経過して動力伝達経路へと向かうノイズ伝播を減少することにより、モータ1から駆動輪9に至る動力伝達経路に有するアウトプットシャフト3d,3d等がアンテナとなって高周波ノイズを外部に放射するというノイズ放射機能が抑制されることになる。
【0046】
以上説明したように、実施例1の電気自動車用動力伝達装置は、モータシャフト1bより下流位置に抵抗体としての動力伝達結合部4を設け、動力伝達結合部4よりさらに下流位置に摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPを設定する構成を採用した。その結果、ノイズ発生源であるインバータ2を備えた電気自動車において、外部へ放射される高周波ノイズの低減を図ることができる。
【0047】
[ギヤ減速機構への摺接ブラシ設定作用]
実施例1では、摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPを、カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’に摺接するブラシ接点5a,5aにより設定している。このため、ブラシ接点5a,5aを摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPとしても安定してアース作動することを確認する必要がある。以下、これを反映する実施例1のギヤ減速機構3への摺接ブラシ設定作用を説明する。
【0048】
実施例1の摺接ブラシアース構造5は、カウンターシャフト3cのうち、第1カウンターギヤ3eとはオイルシール14によりシール分離されたシャフト端部3c’の部位に摺接させてブラシ接点5a,5aを設定した。
すなわち、ブラシ接点5a,5aの設定位置が、ギヤ減速機構3のギヤ室3jにて攪拌される潤滑油から隔離された位置となる。
このため、ギヤ減速機構3の潤滑油からの隔離により、ブラシ接点5a,5aによる安定した接触抵抗を維持することができると共に、ブラシ接点5a,5aの接触で生じる摩耗粉が、ギヤ減速機構3のギヤ室3jに混入することを防止することができる。
【0049】
実施例1では、ブラシ接点5a,5aの設定位置を、ギヤ減速機構3のギヤケース3aから突出させたシャフト端部3c’の位置とする。そして、シャフト端部3c’を覆うと共に、ギヤ減速機構3のギヤ室3jに連通するブラシ室17を形成するブラシケースカバー16をギヤケース3aに固定し、ブラシケースカバー16に、ブラシ室17に臨んでブリーザー穴12を設けた。
すなわち、ギヤ減速機構3のギヤ室3jと、ブラシ接点5a,5aを設定したブラシ室17とが、ブリーザー穴12を介して外気と連通し、ギヤ室3jとブラシ室17との間での差圧の発生が抑えられる。
このため、ギヤ減速機構3のギヤ室3jの内部圧力が上昇したとき、ギヤ室3jの内部の潤滑油がオイルシール14を経過してブラシ室17に漏れ出ることを防止することができる。
【0050】
実施例1の動力伝達機構は、インプットシャフト3bとカウンターシャフト3cとアウトプットシャフト3d,3dとギヤ列3e,3fとギヤ列3g,3hとを有するギヤ減速機構3であり、摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPを、カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’の位置に設定した。
すなわち、摺接ブラシアース構造5の電気的接続位置CPより上流側に、スプライン嵌合部4aとギヤ噛み合い部4dを有し、これら2つの動力伝達結合部4により、上流側抵抗ZRが確保される。
このため、大きな上流側抵抗ZRを確保することにより、動力伝達経路の上流から下流に向かうノイズ伝播のうち、カウンターシャフト3cから下流のアウトプットシャフト3d,3dに向かうノイズ伝播を有効に減少することができる。
【0051】
[アース位置による高周波ノイズの低減比較作用]
実施例1と比較例とを対比すると、アースのための電気的接続位置CP(=アース位置)を異ならせたものであるという見方ができるため、アース位置を異ならせることによる有用性を確認することが必要である。以下、これを反映する実施例1のアース位置による高周波ノイズの低減比較作用を説明する。
【0052】
まず、図1A部(モータシャフトのギヤ減速機構3とは反対側)をアース位置とする比較例の場合、図14(a),(b)に示すように、5km/h走行時・40km/h走行時のいずれの場合もノイズレベルが高い。特に、走行時、高周波ノイズが問題となる可能性が高い。
【0053】
これに対し、図1B部(インプットシャフトのシャフト端部)をアース位置とする実施例1の変形例の場合、図14(a),(b)に示すように、5km/h走行時・40km/h走行時のいずれの場合についても、比較例(図1A部)に対しノイズレベルが低くなった。
【0054】
また、図1C部(カウンターシャフトのシャフト端部)をアース位置とする実施例1の場合、図14(a),(b)に示すように、5km/h走行時・40km/h走行時のいずれの場合についても、比較例(図1A部)に対しノイズレベルが低くなった。
【0055】
すなわち、図14(a),(b)の比較結果をみると、モータシャフト端部設定例(図1A部)のノイズレベルに比べ、インプットシャフト端部設定例(図1B部)のノイズレベルが低くなった。そして、実施例1のカウンターシャフト端部設定例(図1C部)のノイズレベルは、インプットシャフト端部設定例(図1B部)のノイズレベルよりさらに低くなった。
この比較結果により、カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’をアース位置とすることで、外部へ放射される高周波ノイズの低減を図ることができることが確認された。
【0056】
比較結果を詳しくみると、図14(a)に示すように、モータシャフト端部設定例(図1A部)のノイズレベルに比べ、インプットシャフト端部設定例(図1B部)の5km/h走行時のノイズレベルは、ΔαdBだけ低くなった。実施例1のカウンターシャフト端部設定例(図1C部)の5km/h走行時のノイズレベルは、Δα’dB(<ΔαdB)だけ低くなった。
【0057】
また、図14(b)に示すように、モータシャフト端部設定例(図1A部)のノイズレベルに比べ、インプットシャフト端部設定例(図1B部)の40km/h走行時のノイズレベルは、ΔβdBだけ低くなった。実施例1のカウンターシャフト端部設定例(図1C部)の40km/h走行時のノイズレベルは、Δβ’dB(<ΔβdB)だけ低くなった。
この比較結果により、特に、実施例1の場合、走行時において、外部へ放射される高周波ノイズの低減効果が高いことが確認された。
【0058】
[保護カバーの取り外し忘れ防止作用]
まず、図15〜図17に基づいて、摺接ブラシアッシー25とブラシケースカバー16の組み付け作用を説明する。
【0059】
ブラシホルダー5cに有する一対のスライド溝26,26に対し、保護カバー20に有する一対のスライド爪27,27を係合して差し込みことにより、摺接ブラシアッシー25に保護カバー20を装着する。そして、保護カバー20を装着した摺接ブラシアッシー25を、図15に示すように、カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’の位置に配置し、ボルト22,22を締め付け螺合することで、摺接ブラシアッシー25をギヤケース3aに固定する。さらに、アースビスネジ24を締め付け螺合することで、摺接ブラシアッシー25をギヤケース3aに対し電気的にアースする。
【0060】
上記のように、摺接ブラシアッシー25のケース固定と、摺接ブラシアッシー25のアース接続が完了すると、摺接ブラシアッシー25に装着しておいた保護カバー20を、図16の矢印方向にスライド操作することで取り外す。これらの作業によって、摺接ブラシアッシー25の組み付けが完了する。
そして、保護カバー20を取り外したギヤケース3aのカバー取り付け部19に対し、図17に示すように、ブラシケースカバー16の取り付け位置合わせを行い、ボルト18を締め付け螺合することで、ブラシケースカバー16の組み付け作業を完了する。
【0061】
よって、カウンターシャフト3cのシャフト端部3c’へ摺接ブラシアッシー25を組み付けるとき、摺接ブラシアッシー25のブラシ接点5a,5aを覆って保護カバー20が装着される。そして、ブラシケースカバー16をカバー取り付け部19に組み付けるとき、保護カバー20を装着した状態のままであると、図18に示すように、保護カバー20がブラシケースカバー16に干渉する。したがって、保護カバー20を取り外さない限り、ブラシケースカバー16のカバー取り付け部19への組み付けができず、保護カバー20の取り外し忘れが防止される。
【0062】
また、保護カバー20は、ブラシケースカバー16をカバー取り付け部19に組み付けるとき、ブラシケースカバー16に干渉する軸方向長さLに設定される。言い換えると、保護カバー20の軸方向長さLは、摺接ブラシアッシー25の軸方向長さIよりも長くなる。したがって、ブラシホルダー5cへの装着作業時、保護カバー20を手で掴みやすく、保護カバー20の取り付けや取り外しが容易となり、作業性が向上する。
【0063】
この結果、摺接ブラシアッシー25の組み付け作業時、作業性を向上させながら、ブラシ接点5a,5aを保護する保護カバー20の取り外し忘れを防止し、ラジオノイズの低減性能を確保することができる。
【0064】
実施例1では、ブラシケースカバー16によって保護カバー20が押し込まれないようにストッパ15を設ける構成を採用した。
この構成により、保護カバー20が装着されたままでブラシケースカバー16を組み付けようとした場合、ストッパ15に当ることで、保護カバー20がストッパ15への当接位置から奥に押し込まれることが無く、ブラシケースカバー16の組み付けを阻止する。
したがって、ブラシケースカバー16の組み付け時、保護カバー20が装着状態のままであるとブラシケースカバー16の押し込みが阻止されることで、確実に保護カバー20の取り外し忘れが防止される。
【0065】
実施例1では、ブラシホルダー5cに一対のスライド溝26,26を設け、保護カバー20に一対のスライド爪27,27を設ける構成を採用した。
この構成により、保護カバー20が、溝方向にスライドするため、保護カバー20の取り付け取り外しの作業が容易になる。また、保護カバー20を装着したままでブラシケースカバー16を組みつけようとした場合にも、保護カバー20をスライド案内することで、保護カバー20が斜めになることなく、確実にストッパ15に当たる。
したがって、保護カバー20の取り付け取り外しがスライド案内により容易となり作業性が向上するばかりでなく、確実に保護カバー20の取り外し忘れが防止される。
【0066】
実施例1では、保護カバー20を、左右対称構造とする構成を採用した。
この構成により、ブラシホルダー5cへの保護カバー20の装着時、保護カバー20の向きに関係なく、何れの向きからも装着することができる。
したがって、ブラシホルダー5cへの保護カバー20の装着時、保護カバー20の向きを考えることのない装着により作業性が向上するばかりでなく、作業性の向上に伴い、保護カバー20の先端部の破損や異物の付着などのリスクも低減される。
【0067】
次に、効果を説明する。
実施例1の電気自動車用動力伝達装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0068】
(1) インバータ2により駆動されるモータ1のモータシャフト1bから駆動輪9,9までの間に介装され、ケース要素(ギヤケース3a)と軸要素(カウンターシャフト3c等)と動力伝達要素(第1カウンターギヤ3f等)を有する動力伝達機構(ギヤ減速機講3)と、
前記軸要素(カウンターシャフト3c)の軸端部(シャフト端部3c’)位置に設けられ、一端を前記軸端部(シャフト端部3c’)への接触を維持して配置し、他端を車体10に対し電気的にアース接続した摺接ブラシ(摺接ブラシアッシー25)と、
前記ケース要素(ギヤケース3a)のうち前記軸要素(カウンターシャフト3c)の軸端部(シャフト端部3c’)を囲んで開口したカバー取り付け部19に組み付けられ、前記摺接ブラシ(摺接ブラシアッシー25)を収容するブラシ室17を形成するブラシケースカバー16と、
前記軸端部(シャフト端部3c’)へ前記摺接ブラシ(摺接ブラシアッシー25)を組み付けるときにブラシ接点5a,5aを覆って装着され、前記ブラシケースカバー16を前記カバー取り付け部19に組み付けるとき、装着状態のままであると前記ブラシケースカバー16に干渉する軸方向長さLに設定したブラシ保護治具(保護カバー20)と、
を備える(図3)。
このため、摺接ブラシ(摺接ブラシアッシー25)の組み付け作業時、作業性を向上させながら、ブラシ接点5a,5aを保護するブラシ保護治具(保護カバー20)の取り外し忘れを防止し、ラジオノイズの低減性能を確保することができる。
【0069】
(2) 前記軸要素(カウンターシャフト3c)の軸端部(シャフト端部3c’)は、前記ブラシ接点5a,5aの接触位置よりも奥側位置に、前記ブラシケースカバー16を前記カバー取り付け部19に組み付けるとき、装着状態のままの前記ブラシ保護治具(保護カバー20)の押し込みを阻止するストッパ15を有する(図3)。
このため、上記(1)の効果に加え、ブラシケースカバー16の組み付け時、ブラシ保護治具(保護カバー20)が装着状態のままであるとブラシケースカバー16の押し込みが阻止されることで、確実に保護カバー20の取り外し忘れを防止することができる。
【0070】
(3) 前記ブラシ接点5a,5aは、前記ケース要素(ギヤケース3a)への固定により、前記軸要素(カウンターシャフト3c)の軸端部(シャフト端部3c’)への接触を維持して配置するブラシホルダー5cに設けられ、
前記ブラシホルダー5cは、前記ブラシ接点5a,5aが突出する端面を挟んだ両側面に軸方向に延びる一対の平行なスライド溝26,26を有し、
前記ブラシ保護治具(保護カバー20)は、前記ブラシホルダー5cへ装着するとき、前記ブラシホルダー5cに有する一対の平行なスライド溝26,26に係合する一対の平行なスライド爪27,27を有する(図6)。
このため、上記(1)または(2)の効果に加え、ブラシ保護治具(保護カバー20)の取り付け取り外しがスライド案内により容易となり作業性の向上を図ることができるばかりでなく、確実にブラシ保護治具(保護カバー20)の取り外し忘れを防止することができる。
【0071】
(4) 前記ブラシ保護治具は、前記ブラシ接点5a,5aを覆う主カバー部28と、該主カバー部28の両側から立ち上がる一対の副カバー部29,29と、該一対の副カバー部29,29の端部に形成した前記一対の平行なスライド爪27,27と、を有する保護カバー20であり、前記保護カバー20を、軸方向対称軸L1と軸直交方向対称軸L2を持つ左右対称構造とした(図8)。
このため、上記(3)の効果に加え、ブラシホルダー5cへの保護カバー20の装着時、保護カバー20の向きを考えることのない装着により作業性の向上を図ることができるばかりでなく、作業性の向上に伴い、保護カバー20の先端部の破損や異物の付着などのリスクを低減することができる。
【0072】
以上、本発明の電動車両用動力伝達装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0073】
実施例1では、動力伝達機構として、2段減速によるギヤ減速機構3の例を示した。しかし、例えば、1段減速や3段減速等のように、2段減速以外のギヤ減速機構の例としても良い。また、プラネタリギヤを用いたギヤ変速機構の例としても良い。さらに、ベルト式無段変速機やトロイダル式無段変速機の例としても良い。要するに、ケース要素と軸要素と動力伝達要素を有する動力伝達機構であれば、本発明に含まれる。
【0074】
実施例1では、ブラシ保護治具として、主カバー部28と副カバー部29,29とスライド爪27,27とを有する保護カバー20の例を示した。しかし、ブラシ保護治具としては、ブラシ接点を覆う機能を有する治具であれば、具体的な構成は実施例1の構成に限られることなく、様々な設計変更があっても良い。
なお、ブラシ保護治具としての保護カバー20は、摺接ブラシアッシー25をシャフト端部3c’に組み付けるときに装着されるものであっても良いし、あるいは、予め摺接ブラシアッシー25に装着されているものであっても良い。
【0075】
実施例1では、電気自動車への適用例を示したが、ハイブリッド車両や燃料電池車等の電動車両に対しても適用することができる。要するに、ノイズ発生源としてのインバータとモータを備えた電動車両であれば適用できる。
【符号の説明】
【0076】
1 モータ
2 インバータ
3 ギヤ減速機構(動力伝達機構)
3a ギヤケース(ケース要素)
3b インプットシャフト(軸要素)
3c カウンターシャフト(軸要素)
3c’ シャフト端部(軸端部)
3d,3d アウトプットシャフト(軸要素)
3e インプットギヤ(動力伝達要素)
3f 第1カウンターギヤ(動力伝達要素)
3g 第2カウンターギヤ(動力伝達要素)
3h ドライブギヤ(動力伝達要素)
3i デファレンシャルギヤ(動力伝達要素)
3j ギヤ室
4 動力伝達結合部
4a スプライン嵌合部
4b,4c カップリング部
4d,4e,4f ギヤ噛み合い部
5 摺接ブラシアース構造
5a ブラシ接点
5b 接地ライン
5c ブラシホルダー
5e リード線
9,9 駆動輪
10 車体
12 ブリーザー穴
14 オイルシール
15 ストッパ
16 ブラシケースカバー
17 ブラシ室
18 ボルト
19 カバー取り付け部
20 保護カバー(ブラシ保護治具)
25 摺接ブラシアッシー(摺接ブラシ)
26 スライド溝
27 スライド爪
28 主カバー部
29 副カバー部
L1 軸方向対称軸
L2 軸直交方向対称軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータにより駆動されるモータのモータシャフトから駆動輪までの間に介装され、ケース要素と軸要素と動力伝達要素を有する動力伝達機構と、
前記軸要素の軸端部位置に設けられ、一端を前記軸端部への接触を維持して配置し、他端を車体に対し電気的にアース接続した摺接ブラシと、
前記ケース要素のうち前記軸要素の軸端部を囲んで開口したカバー取り付け部に組み付けられ、前記摺接ブラシを収容するブラシ室を形成するブラシケースカバーと、
前記軸端部へ前記摺接ブラシを組み付けるときにブラシ接点を覆って装着され、前記ブラシケースカバーを前記カバー取り付け部に組み付けるとき、装着状態のままであると前記ブラシケースカバーに干渉する軸方向長さに設定したブラシ保護治具と、
を備えることを特徴とする電動車両用動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電動車両用動力伝達装置において、
前記軸要素の軸端部は、前記ブラシ接点の接触位置よりも奥側位置に、前記ブラシケースカバーを前記カバー取り付け部に組み付けるとき、装着状態のままの前記ブラシ保護治具の押し込みを阻止するストッパを有することを特徴とする電動車両用動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動車両用動力伝達装置において、
前記ブラシ接点は、前記ケース要素への固定により、前記軸要素の軸端部への接触を維持して配置するブラシホルダーに設けられ、
前記ブラシホルダーは、前記ブラシ接点が突出する端面を挟んだ両側面に軸方向に延びる一対の平行なスライド溝を有し、
前記ブラシ保護治具は、前記ブラシホルダーへ装着するとき、前記ブラシホルダーに有する一対の平行なスライド溝に係合する一対の平行なスライド爪を有することを特徴とする電動車両用動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3に記載された電動車両用動力伝達装置において、
前記ブラシ保護治具は、前記ブラシ接点を覆う主カバー部と、該主カバー部の両側から立ち上がる一対の副カバー部と、該一対の副カバー部の端部に形成した前記一対の平行なスライド爪と、を有する保護カバーであり、前記保護カバーを、軸方向対称軸と軸直交方向対称軸を持つ左右対称構造としたことを特徴とする電動車両用動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−110149(P2012−110149A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257838(P2010−257838)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】