説明

電動車両

【課題】ホイール内に配置したモータユニットを冷却しながらブレーキキャリパの冷却も確保する。
【解決手段】左前輪3のホイール13内の空間19のホイール中心軸Pより車両前方側にモータユニット5を配置し、ホイール中心軸Pより車両後方側にはブレーキキャリパ21を配置する。モータユニット5は、モータ本体23の大部分が空間19内に位置し、インバータ25が空間19の外部に位置している。インバータ25のモータ本体23と反対側の端面33aは、車両後方側ほど車幅方向外側となるよう湾曲して傾斜しており、この端面33aに冷却フィン35を設けている。走行風Aはインバータ25を冷却してから、冷却フィン35にガイドされてより高温となるブレーキキャリパ21を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を回転駆動するモータユニット及びブレーキユニットが車輪のホイール近傍に設けられた電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを車輪のホイール近傍に配置して該モータの動力によって車輪を駆動するインホイールモータ駆動方式の電動車両としては、例えば下記特許文献1に記載されたものが知られている。このような電動車両では、ホイール近傍の狭い空間に配置してあるモータの冷却が課題となっており、下記特許文献1に記載の発明においてもその対策が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−168120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ホイール内にはブレーキユニットを収容してあり、このブレーキユニットも上記したモータ同様発熱するので、その特にブレーキキャリパに対しても冷却が必要となる。
【0005】
ところが、ホイール内の狭い空間にモータユニットを収容した場合には、モータの冷却を行いながらブレーキキャリパの冷却も確保するのが困難となる。
【0006】
そこで、本発明は、ホイール内に配置したモータユニットを冷却しながらブレーキキャリパの冷却も確保することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車輪のホイール内に設けたモータユニットをホイールの中心軸よりも車両の進行方向前方に配置する一方、ブレーキキャリパをホイールの中心軸よりも車両の進行方向後方に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両走行中に進行方向前方に配置してあるモータユニットが走行風によって冷却され、この冷却後の走行風が、進行方向後方に配置してあるブレーキキャリパに達してブレーキキャリパを冷却する。一般的にモータユニットによる発熱量はブレーキユニットの発熱量より少なく、この少ない発熱量のモータユニットを先に冷却してから発熱量の多いブレーキユニットのブレーキキャリパを冷却することで、ホイール内に配置したモータユニットを冷却しながらブレーキキャリパの冷却も確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態を示す電動車両の左前輪付近の模式的な平面図である。
【図2】図1の電動車両の右前輪の車両内側から見た模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0011】
図1に示すように、インホイールモータ駆動方式の電動車両1の矢印Fで示す車両前方側の車輪である左前輪3には、モータユニット5を設けてあり、このモータユニット5の駆動によって左前輪3がアクスル軸Pを中心として回転する。このアクスル軸Pは、後述するホイール13の中心軸に対応している。なお、図1では左前輪3を示しているが、右前輪も左前輪3と左右対称で同様の構造となっている。
【0012】
左前輪3は、車体7に形成してあるホイールハウス9内に収容してあり、タイヤ11とホイール13とを備えている。ホイール13は、外周に位置する円筒形状のホイールリム13aと、ホイールリム13aの車幅方向(図1中で上下方向)外側(図1中で下側)の端部に位置する円盤形状のホイールディスク13bとを備えている。このホイールディスク13bの車幅方向内側(図1中で上側)の内面に、ブレーキユニット15のディスクロータ17を結合している。すなわち、このディスクロータ17は、ホイール13内の狭い空間19内におけるホイールディスク13b近傍に位置している。
【0013】
また、左前輪3の回転に伴ない回転するホイールディスク13bに対して制動を行うブレーキキャリパ21は、ホイール13の中心軸Pよりも車両の進行方向後方に位置し、かつその大部分を、図2に示すようにホイール13の中心軸Pよりも上方に配置している。すなわち、ブレーキキャリパ21は、上下方向中心部がホイール13の中心軸Pよりも上方に位置していることになる。上記したディスクロータ17とブレーキキャリパ21とでブレーキユニット15を構成している。なお、ここでの車両の進行方向とは車両が前方に進行する場合を想定している。
【0014】
図2は、右前輪を車幅方向内側から見た側面図に相当するが、図1の左前輪に対応する各構成要素には図1と同様の符号を付し、便宜上左前輪3を示すものとして扱う。
【0015】
モータユニット5は、その全体がホイール13の中心軸Pよりも車両の進行方向前方に位置し、かつ図2に示すようにモータ中心軸Qがホイール13の中心軸Pよりもやや上方に位置している。この場合、モータユニット5は上下方向の長さ寸法で2/3程度がホイール13の中心軸Pよりも上方としている。
【0016】
このようなモータユニット5は、モータ本体23と、モータ本体23を駆動制御する制御回路を備える制御装置であるインバータ25とを備え、モータ本体23は図1に示すようにインバータ25に対して車幅方向外側に位置している。この際、モータ本体23は、その大部分がホイール13の空間19内に位置し、一部がインバータ25とともに空間19の車幅方向内側の外部に位置している。この場合、インバータ25はモータ本体23の軸方向端部に設けていることになる。
【0017】
モータ本体23は、図示しない回転子が内部に位置し、図示しない固定子が回転子の外部に位置する構成のインナロータ型であり、回転子の回転動力は、減速機27を介してアクスル軸Pに伝達され左車輪3が回転する。上記したモータ本体23の固定子はモータハウジング29の内周面に取り付けられ、モータハウジング29は、車体7側の図示しないメンバ、具体的にはサスペンションメンバに取り付けてある。減速機27のハウジング31はモータハウジング29と一体となっている。
【0018】
また、インバータ25のハウジング33もモータハウジング29と一体化しており、このモータ本体23及びインバータ25の一体化したハウジングは、図2に示すように車幅方向(図2中で紙面に直交する方向)を軸心とする円筒形状としている。
【0019】
ここで、インバータ25のハウジング33は、図1に示すように車幅方向内側の端面33aが、車両後方側ほど車幅方向外側となるよう湾曲形成して傾斜する湾曲面としてあり、この湾曲面(端面33a)に複数の冷却フィン35を設けている。上記した湾曲面(端面33a)は、図1に示すように、モータ中心軸Qよりも車両後方側の特に先端付近で曲率が大きくなっている。
【0020】
冷却フィン35は、図2に示すように車両前方から後方に向けて延び、後方に行くに従って矢印Uで示す車両上方に向けて湾曲し、その後端はブレーキキャリパ21に指向している。このように湾曲した複数の冷却フィン35は、互いにほぼ等間隔に配列してあり、相互間及び配列方向最外端の外側が走行風の通路となって該走行風をブレーキキャリパ21に向けてガイドするガイド部を構成している。
【0021】
また、複数の冷却フィン35は、ハウジング33の端面33aからの高さがその延長方向に沿ってほぼ均一となっている。このため、冷却フィン35の先端(図1中で上端)もハウジング33の端面33aに対応して車両後方側ほど車幅方向外側となるよう湾曲している。
【0022】
ハウジング33の端面33aは、上記したように車両後方側ほど車幅方向外側となるよう湾曲しているだけでなく、冷却フィン35の上方への湾曲形状に合わせて車両上方側ほど車幅方向外側となるよう湾曲している。つまり、端面33aは、車両後方側かつ上方側ほど車幅方向外側となるよう湾曲している。これにより、冷却フィン35にガイドされる走行風をブレーキキャリパ21へ精度良く指向させることができる。このような電動車両1では、インバータ25に制御されつつモータ本体23が駆動することにより、減速機27を介して左前輪3が回転し、右前輪も同様にして回転することで前進する。このとき、左右の後輪についても、左右の前輪とほぼ同様の構造でモータの駆動により回転するものとしてもよい。
【0023】
電動車両1が前進移動すると、図2に示すように走行風(気流)Aが後方に向けて流れ、その走行風Aはまずモータユニット5に達してモータユニット5を冷却する。このときモータユニット5は、インバータ25のほうがモータ本体23よりも発熱量が多く、このインバータ25をホイール13内の空間19から外部に突出させているので、インバータ25の冷却を効率よく行える。もちろん、このとき、走行風Aはモータ本体23も冷却する。
【0024】
モータユニット5を冷却した走行風は、冷却フィン35がガイド部となってこのガイド部に案内されてブレーキキャリパ21に達し、ブレーキキャリパ21を冷却する。このとき、冷却フィン35にガイドされる走行風Aは、図2のように車両後方かつ上方に向けて流れると同時に、図1のようにハウジング33の端面33aの湾曲面に沿って流れてホイール13内の空間19に入り込み、ブレーキキャリパ21に向けて流れる。
【0025】
すなわち、端面33aの湾曲形状は、冷却フィン35にガイドされて流れる走行風がブレーキキャリパ21に向けて流れるような曲率を有している。これにより、ブレーキキャリパ21を効率よく冷却することができる。特に、高速域からの減速時には、モータで回生できるエネルギが少なく、回生できないエネルギをブレーキユニット15で消費することになってブレーキユニット15の温度がより高くなるので有効である。
【0026】
ブレーキキャリパ21を冷却した走行風は、図1に示すようにホイール13のホイールディスク13bに形成してある貫通孔13b1から車幅方向外側の車輪外部に流出する。
【0027】
このように、本実施形態では、車両走行中に進行方向前方に配置してあるモータユニット5の特に発熱量の多いインバータ25が走行風によって冷却され、この冷却後の空気が、進行方向後方に配置してあるブレーキキャリパ21周辺に達してブレーキキャリパ21周辺を冷却する。
【0028】
ところで、一般的にモータユニット5(インバータ25)による発熱量はブレーキユニット15(ブレーキキャリパ21周辺)の発熱量より少ない。本実施形態では、この少ない発熱量のモータユニット5を先に冷却してから発熱量の多いブレーキユニット15(ブレーキキャリパ21周辺)を冷却している。これにより、ホイール13内の空間19に配置したモータユニット5の特にインバータ25を冷却しながらブレーキキャリパ21周辺の冷却も確保することが可能となる。
【0029】
モータユニット5とブレーキユニット15との双方を冷却するために、これらを互いに上下にずらして配置することも考えられるが、小石の跳ね上げの影響を避けるために、ホイール13の下部に配置することは極めて困難である。
【0030】
また、本実施形態では、モータユニット5のインバータ25を、モータユニット5のモータ本体23の軸方向端部に設けてホイール13の外部に配置している。これにより、走行風Aによってインバータ25の冷却をより効率よく行うことができる。
【0031】
また、本実施形態では、ブレーキキャリパ21の上下方向中心部を、ホイール13の中心軸Pよりも上方に配置している。一般的に、車両走行中の車両周辺を通過する走行風は、そのまま車両後方に流れるだけでなく、一部がホイールハウス9内の上方に向けて分岐して流れる。このため、ブレーキキャリパ21をホイール13の中心軸Pよりも上方に配置することで、ブレーキキャリパ21周辺の冷却を走行風Aによって効率よく行うことができる。
【0032】
また、本実施形態では、インバータ25に冷却フィン35を設け、この冷却フィン35はホイール13の外部に位置している。ホイール13の外部には、内部の空間19よりも温度が低く多量の走行風Aが流れているため、ホイール13の外部に冷却フィン35を配置することで、冷却媒体である空気と接触する面積が増加し、インバータ25の冷却効果をより高めることができる。
【0033】
また、本実施形態では、冷却フィン35は、ブレーキキャリパ21に向けて空気を案内するガイド部を構成している。これにより、走行風Aは冷却フィン35に案内されてブレーキキャリパ21の周辺をより効率よく冷却することができる。
【0034】
さらに、本実施形態では、ホイール13の外部に配置したインバータ25の車幅方向内側の端面33aが、車両後方側ほど車幅方向外側となるよう傾斜している。これにより、走行風Aは傾斜している端面33aに沿って流れてホイール13内の空間19に入り込み、空間19に配置してあるブレーキキャリパ21の周辺を効率よく冷却することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 電動車両
3 左前輪(車輪)
5 モータユニット
13 ホイール
15 ブレーキユニット
21 ブレーキユニットのブレーキキャリパ
23 モータユニットのモータ本体
25 モータユニットのインバータ
35 インバータのハウジングに設けた冷却フィン(ガイド部)
P アクスル軸(ホイールの中心軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転駆動するモータユニット及び前記車輪の回転を制動するブレーキユニットが前記車輪のホイール内に設けられ、前記モータユニットを前記ホイールの中心軸よりも車両の進行方向前方に配置する一方、前記ブレーキユニットのブレーキキャリパを前記ホイールの中心軸よりも車両の進行方向後方に配置したことを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記モータユニットのインバータを、前記モータユニットのモータ本体の軸方向端部に設けて前記ホイールの外部に配置したことを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記ブレーキキャリパの上下方向中心部を、前記ホイールの中心軸よりも上方に配置したことを特徴とする請求項1または2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記モータユニットのインバータに冷却フィンを設け、この冷却フィンは前記ホイールの外部に位置していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項5】
前記冷却フィンは、前記ブレーキキャリパに向けて走行風をガイドするガイド部を構成していることを特徴とする請求項4に記載の電動車両。
【請求項6】
前記ホイールの外部に配置したインバータの車幅方向内側の端面が、車両後方側ほど車幅方向外側となるよう傾斜していることを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の電動車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−75604(P2013−75604A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216325(P2011−216325)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】