説明

電動車両

【課題】車両の電源状態がREADY−ON状態(走行可能状態)であるにも拘わらず降車しようとする運転者に対する警告機構を低コストで実現する電動車両を提供する。
【解決手段】ECU70は、リップル電流を二次電池10に発生させることによって二次電池10を昇温するように昇圧コンバータ22を制御するリップル昇温制御を実行する。降車動作検知部72は、運転者の降車の意思を示す所定の動作を検知する。そして、ECU70は、車両の電源状態が「READY−ON」状態であるにも拘わらず降車動作検知部72により所定の動作が検知されると、リップル昇温制御を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動車両に関し、特に、走行用の電力を蓄える二次電池を備える電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車両等の電動車両が注目されている。電気自動車は、走行用の電力を蓄える蓄電装置(二次電池)と、前記二次電池に蓄えられた電力を用いて走行トルクを発生する駆動装置(モータ)とを搭載する。ハイブリッド車両は、動力源としてエンジンをさらに搭載した車両である。
【0003】
特開2008−25590号公報(特許文献1)は、アイドル運転時に所定の条件が成立するとエンジンを停止させて燃料消費量を節減するエンジン停止制御装置を搭載するハイブリッド車両を開示する。このハイブリッド車両においては、シフトポジションが非走行ポジション(ニュートラルポジションまたはパーキングポジション)にあるとき、あるいはシフトポジションが前進走行ポジションにあってもブレーキペダルが踏まれている制動中であるとき、エンジンをアイドル運転させずに停止させる。これにより、エンジンの不要なアイドル運転を最小限に抑えて燃料消費量を最大限に節減することができる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−25590号公報
【特許文献2】特開2007−267578号公報
【特許文献3】特開2007−252016号公報
【特許文献4】特開2008−279938号公報
【特許文献5】特開平9−142255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2008−25590号公報に開示される上記のハイブリッド車両では、車両の電源状態が走行可能状態(READY−ON状態)であってもエンジンが停止し得る。停車中にエンジンが停止していると、電源状態がREADY−ON状態であるのか否かをユーザは判別し難い。エンジンを搭載しない電気自動車においても同様である。そのため、電源状態がREADY−ON状態であるにも拘わらず、電源状態がOFFされているものと誤解して運転者が降車してしまう可能性がある。
【0006】
この発明の目的は、車両の電源状態が走行可能状態(READY−ON状態)であるにも拘わらず降車しようとする運転者に対する警告機構を低コストで実現する電動車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によれば、電動車両は、二次電池と、リップル生成装置と、制御装置と、検知手段とを備える。二次電池は、走行用の電力を蓄える。リップル生成装置は、二次電池に接続され、二次電池にリップル電流を発生させるように構成される。制御装置は、リップル生成装置を制御することによって、二次電池にリップル電流を発生させて二次電池を昇温するリップル昇温制御を実行することができる。検知手段は、運転者の降車の意思を示す所定の動作を検知する。そして、制御装置は、車両の電源状態が走行可能状態であるにも拘わらず検知手段により上記所定の動作が検知されると、リップル昇温制御を実行する。
【0008】
好ましくは、電動車両は、電源状態を運転者が切替えるための操作部をさらに備える。制御装置は、電源状態が走行可能状態であることを示すREADY−ON状態が操作部により選択されているときに検知手段により上記所定の動作が検知されると、リップル昇温制御を実行する。
【0009】
また、好ましくは、電動車両は、駆動装置と、システムメインリレーとをさらに備える。駆動装置は、二次電池から電力を受けて走行トルクを生成する。システムメインリレーは、二次電池と駆動装置との電気的な接続および切離しを行なう。制御装置は、システムメインリレーにより二次電池が駆動装置に電気的に接続されているときに検知手段により上記所定の動作が検知されると、リップル昇温制御を実行する。
【0010】
好ましくは、制御装置は、二次電池の温度に基づいてリップル電流の周波数を変更する。
【0011】
さらに好ましくは、制御装置は、二次電池の温度が高いとき、二次電池の温度が低いときよりもリップル電流の周波数を低くする。
【0012】
好ましくは、電源状態が走行可能状態であるにも拘わらず検知手段により上記所定の動作が検知された場合にリップル昇温制御が実行されるとき、制御装置は、リップル電流の周波数を、可聴域であって二次電池の発熱量が相対的に抑制される所定周波数に設定する。
【0013】
好ましくは、リップル生成装置は、二次電池から受ける電圧を二次電池の電圧以上に昇圧するように構成されたチョッパ型の昇圧コンバータである。
【0014】
好ましくは、二次電池は、リチウムイオン電池である。
好ましくは、検知手段は、キースロットに挿入することなく無線通信によりキー認証可能なスマートキーが車外に持出されることを上記所定の動作として検知する。
【0015】
また、好ましくは、検知手段は、運転席が非着座状態になることを上記所定の動作として検知する。
【0016】
また、好ましくは、検知手段は、停車時に運転者のシートベルトが外されることを上記所定の動作として検知する。
【0017】
また、好ましくは、検知手段は、運転席のドアが開けられることを上記所定の動作として検知する。
【発明の効果】
【0018】
この発明においては、リップル生成装置によりリップル電流を二次電池に発生させることによって二次電池を内部から昇温するので、二次電池を昇温させるためのヒータ等を別途設ける必要がない。そして、このリップル生成装置によりリップル電流を二次電池に発生させて二次電池を昇温するリップル昇温時は、二次電池にリップル電流が流れることにより振動音が発生するところ、この発明においては、車両の電源状態が走行可能状態(READY−ON状態)であるにも拘わらず検知手段により運転者の降車の意思を示す所定の動作が検知されると、リップル昇温制御が実行される。これにより、リップル昇温に伴なう振動音が、降車しようとする運転者への警告音として用いられるので、警報としてエンジンをかけたり、警報ブザーを別途設けたりする必要がない。したがって、この発明によれば、車両の電源状態が走行可能状態(READY−ON状態)であるにも拘わらず降車しようとする運転者に対する警告機構を低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態による電動車両の全体ブロック図である。
【図2】パワースイッチの操作による、車両の電源状態と機器の状態との関係を説明するための図である。
【図3】二次電池の構造を説明するための第1の図である。
【図4】二次電池の構造を説明するための第2の図である。
【図5】二次電池の構造を説明するための第3の図である。
【図6】二次電池に流れる電流と、正極板および負極板間に生じる引力との関係を示した図である。
【図7】図1に示すECUの、昇圧コンバータの制御に関する部分の機能ブロック図である。
【図8】リップル電流の挙動を示した図である。
【図9】二次電池のインピーダンス特性を示すボード線図である。
【図10】二次電池に発生する平均発熱量の周波数特性を示した図である。
【図11】第2実行条件に基づくリップル昇温の実行手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0021】
図1は、この発明の実施の形態による電動車両の全体ブロック図である。図1を参照して、電動車両100は、二次電池10と、システムメインリレー(以下「SMR(System Main Relay)」と称する。)15と、昇圧コンバータ22と、コンデンサCHと、インバータ50と、モータジェネレータ60と、駆動輪65とを備える。また、電動車両100は、電子制御装置(以下「ECU(Electronic Control Unit)」と称する。)70と、降車動作検知部72と、パワースイッチ74と、温度センサ82と、電流センサ84と、電圧センサ86,88とをさらに備える。
【0022】
二次電池10は、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の再充電可能な電池であり、代表的にはリチウムイオン電池である。二次電池10は、走行用の電力を蓄えており、SMR15がオン(閉成)されることにより昇圧コンバータ22と電気的に接続される。二次電池10は、内部抵抗を有し、二次電池10の内部抵抗は、温度依存性を有するとともに、電池に流れる電流の周波数によっても大きく変化する。
【0023】
SMR15は、二次電池10と昇圧コンバータ22との間に設けられる。SMR15は、ECU70からの制御信号SEに基づいてオン/オフ制御され、オン(閉成)状態では二次電池10を昇圧コンバータ22に電気的に接続し、オフ(開放)状態では二次電池10を昇圧コンバータ22から電気的に切離す。なお、後述のように、電動車両100の電源状態がREADY−ON状態のときにSMR15はオンされ、電源状態がREADY−ON状態以外のときは、SMR15はオフされる。
【0024】
昇圧コンバータ22は、電流可逆型の昇圧チョッパ回路によって構成され、具体的には、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」とも称する。)Q1,Q2と、ダイオードD1,D2と、リアクトルL1とを含む。スイッチング素子Q1,Q2は、正極線PL2と二次電池10の負極に接続される負極線NLとの間に直列に接続される。そして、スイッチング素子Q1のコレクタが正極線PL2に接続され、スイッチング素子Q2のエミッタが負極線NLに接続される。ダイオードD1,D2は、それぞれスイッチング素子Q1,Q2に逆並列に接続される。リアクトルL1の一方端は正極線PL1に接続され、他方端はスイッチング素子Q1,Q2の接続ノードNDに接続される。
【0025】
なお、上記のスイッチング素子Q1,Q2として、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)や電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタ等を用いることができる。
【0026】
昇圧コンバータ22は、ECU70からの制御信号PWMCに基づいて、正極線PL2および負極線NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する。)を二次電池10の出力電圧以上に昇圧することができる。なお、システム電圧が目標電圧よりも低い場合、スイッチング素子Q2のオンデューティーを大きくすることによって正極線PL1から正極線PL2へ電流を流すことができ、システム電圧を上昇させることができる。一方、システム電圧が目標電圧よりも高い場合、スイッチング素子Q1のオンデューティーを大きくすることによって正極線PL2から正極線PL1へ電流を流すことができ、システム電圧を低下させることができる。
【0027】
また、昇圧コンバータ22は、所定のリップル昇温実行条件が成立すると、ECU70からの制御信号PWMCに基づいてスイッチング素子Q1,Q2を相補的にオン/オフさせることにより、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数に応じたリップル電流IBを二次電池10に発生させる。具体的には、二次電池10が充電される方向のリップル電流IBを正とすると、スイッチング素子Q1,Q2がそれぞれオフ,オン状態のとき、リップル電流IBは、負方向に増加する。リップル電流IBが負になり、その後、スイッチング素子Q1,Q2がそれぞれオン,オフ状態に切替わると、リップル電流IBは、正方向に増加し始める。そして、リップル電流IBが正になり、その後、スイッチング素子Q1,Q2がそれぞれオフ,オン状態に再び切替わると、リップル電流IBは、負方向に増加し始める。このように、昇圧コンバータ22によって、スイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数に応じたリップル電流IBを二次電池10に発生させることができる。
【0028】
コンデンサCHは、正極線PL2および負極線NL間の電圧を平滑化する。また、コンデンサCHは、二次電池10のリップル昇温の実行時、二次電池10から放電される電力を一時的に蓄える電力バッファとして用いられる。
【0029】
インバータ50は、ECU70からの制御信号PWMIに基づいて、正極線PL2および負極線NLから供給される直流電力を三相交流に変換してモータジェネレータ60へ出力し、モータジェネレータ60を駆動する。また、インバータ50は、車両の制動時、モータジェネレータ60により発電された三相交流電力を制御信号PWMIに基づいて直流に変換し、正極線PL2および負極線NLへ出力する。
【0030】
モータジェネレータ60は、交流電動機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える三相交流電動機である。モータジェネレータ60は、駆動輪65に機械的に連結され、車両を駆動するためのトルクを発生する。また、モータジェネレータ60は、車両の制動時、車両の運動エネルギーを駆動輪65から受けて発電する。
【0031】
温度センサ82は、二次電池10の温度TBを検出し、その検出値をECU70へ出力する。電流センサ84は、二次電池10に対して入出力される電流IBを検出し、その検出値をECU70へ出力する。電圧センサ86は、二次電池10の電圧VBを検出し、その検出値をECU70へ出力する。電圧センサ88は、正極線PL2および負極線NL間の電圧VHを検出し、その検出値をECU70へ出力する。
【0032】
降車動作検知部72は、運転者の降車の意思を示す所定の動作を検知する。この所定の動作には、種々の動作が含まれ得る。一例として、降車動作検知部72は、キースロットに挿入することなく無線通信によりキー認証が可能な所謂スマートキーが車外に持出されることを上記の所定の動作として検知する。あるいは、降車動作検知部72は、図示しない着座センサによって運転席の非着座が検知されたことを上記の所定の動作として検知してもよい。あるいは、降車動作検知部72は、停車時に運転席のシートベルトが外されることを上記の所定の動作として検知してもよい。あるいは、降車動作検知部72は、運転席のドアが開けられることを上記の所定の動作として検知してもよい。そして、降車動作検知部72は、上記のような所定の動作が検知されると、ECU70へ出力される信号DETを活性化する。
【0033】
パワースイッチ74は、車両の電源状態を運転者が切替えるための操作スイッチであり、パワースイッチ74が操作されるとECU70へ信号OPEが出力される。そして、ECU70は、パワースイッチ74の操作に応じて車両の電源状態を変化させる。
【0034】
図2は、パワースイッチ74の操作による、車両の電源状態と機器の状態との関係を説明するための図である。図2を参照して、パワースイッチ74を操作することにより、車両の電源状態を、「OFF」、「ACC−ON」、「IG−ON」、および「READY−ON」の各状態に切替えることができる。電源状態が「OFF」のときは、補機は使用不可であり、ECU70は電源オフ(停止)状態であり、SMR15はオフ(開放)状態である。この「OFF」状態においては、二次電池10からインバータ50へ電力を供給できないので、電動車両100を駆動することはできない。
【0035】
「ACC−ON」は、アクセサリ電源のみがオンされた状態であり、この状態においては、基本的には、ECU70は電源オフ(停止)状態であり、SMR15もオフ(開放)状態である。なお、補機バッテリ(図示せず)の電力を用いて補機は使用可能である。なお、上記の「OFF」状態において、たとえば、フットブレーキを操作しない状態でパワースイッチ74を押下することによって、電源状態を「OFF」から「ACC−ON」に遷移させることができる。
【0036】
「IG−ON」状態においては、補機を駆動可能であり、ECU70は電源オン(起動)状態となる。なお、SMR15は基本的にオフ(開放)であるが、補機を使用する場合には接続されることもある。なお、上記の「ACC−ON」状態において、たとえば、フットブレーキを操作しない状態でパワースイッチ74を押下することによって、電源状態を「ACC−ON」から「IG−ON」に遷移させることができる。
【0037】
「READY−ON」は、走行準備が完了した状態であり、たとえば、ブレーキペダルを踏込んだ状態でパワースイッチ74を押下することによって、電源状態を「ACC−ON」から「READY−ON」に遷移させることができる。「READY−ON」状態では、ECU70は電源オン(起動)状態となり、SMR15はオン(閉成)状態となる。この「READY−ON」状態では、二次電池10からインバータ50へ電力を供給し、電動車両100を走行させることができる。
【0038】
なお、プッシュ型のスイッチに代えて、鍵穴にキーを差込み、キーの回動位置により上記の各状態が選択される回動型のスイッチをパワースイッチ74として用いてもよい。
【0039】
再び図1を参照して、温度センサ82は、二次電池10の温度TBを検出し、その検出値をECU70へ出力する。電流センサ84は、二次電池10に対して入出力される電流IBを検出し、その検出値をECU70へ出力する。電圧センサ86は、二次電池10の電圧VBを検出し、その検出値をECU70へ出力する。電圧センサ88は、システム電圧の電圧VHを検出し、その検出値をECU70へ出力する。
【0040】
ECU70は、電圧センサ86,88からの電圧VB,VHの各検出値に基づいて、昇圧コンバータ22を駆動するための制御信号PWMCを生成し、その生成した制御信号PWMCを昇圧コンバータ22へ出力する。また、ECU70は、モータジェネレータ60を駆動するための制御信号PWMIを生成し、その生成した制御信号PWMIをインバータ50へ出力する。
【0041】
また、ECU70は、所定のリップル昇温実行条件が成立すると、二次電池10にリップル電流を発生させて二次電池10を昇温するように昇圧コンバータ22を駆動するための制御信号PWMCを生成し、その生成した制御信号PWMCを昇圧コンバータ22へ出力する。
【0042】
また、上記の実行条件とは別に、車両の電源状態が上記の「READY−ON」状態であるにも拘わらず、降車動作検知部72により運転者の降車の意思を示す所定の動作が検知されたとき、ECU70は、二次電池10にリップル電流を発生させるように昇圧コンバータ22を駆動するための制御信号PWMCを生成し、その生成した制御信号PWMCを昇圧コンバータ22へ出力する。
【0043】
この電動車両100においては、昇圧コンバータ22を用いてリップル電流を二次電池10に発生させることにより、二次電池10を内部から昇温することができる(リップル昇温)。ここで、リップル昇温の実行中は、二次電池10にリップル電流が流れることにより振動音が発生する。そこで、この電動車両100では、電源状態が上記の「READY−ON」状態であるにも拘わらず、降車動作検知部72により運転者の降車の意思を示す所定の動作が検知された場合に、リップル昇温制御を実行し、リップル昇温に伴ない発生する音を運転者への警報として用いることとしたものである。
【0044】
次に、リップル昇温時に発生する振動音の発生メカニズムについて説明する。図3から図5は、二次電池10の構造を説明した図である。図3を参照して、二次電池10は、正極板132と負極板134とが重ね合わされた構造となっており、正極板132および負極板134の端部にそれぞれ正極端子136および負極端子138が設けられている。そして、図4,図5を参照して、重ね合わされた正極板132および負極板134は巻回され、その巻回された正極板132および負極板134が電解液とともにケース140に格納される。
【0045】
二次電池10の充放電に伴ない正極板132および負極板134に電流が流れると、各電極板の周囲に磁場が発生する(右ねじの法則)。磁場中の導体に電流が流れると、電磁力が発生する(フレミングの左手の法則)。したがって、二次電池10の充放電に伴ない正極板132および負極板134に電流が流れると、正極板132と負極板134との間に引力または斥力が生じる。図3から図5に示した二次電池10の構造では、放電時および充電時のいずれにおいても、正極板132および負極板134に同方向の電流が流れるので、二次電池10の充放電中は、正極板132と負極板134との間に引力が生じる。
【0046】
図6は、二次電池10に流れる電流IBと、正極板132および負極板134間に生じる引力との関係を示した図である。図6を参照して、二次電池10の受電時においても放電時においても、正極板132と負極板134との間には、電流の大きさに応じた引力が生じる。なお、電流が0(充電と放電とが切替わるとき)になると、極板間の引力も0になる。
【0047】
したがって、二次電池10にリップル電流が流されると、そのリップル電流の周波数に応じて正極板132および負極板134が振動し、振動音が発生する。この実施の形態では、リップル昇温制御の実行に伴ない二次電池10に発生するこの振動音を、電源状態が「READY−ON」状態であるにも拘わらず降車しようとした運転者に対する警報として用いることとしたものである。
【0048】
図7は、図1に示したECU70の、昇圧コンバータ22の制御に関する部分の機能ブロック図である。図7を参照して、ECU70は、電圧指令生成部110と、電圧制御部112と、デューティー指令生成部114と、PWM信号生成部116と、リップル昇温実行判定部118と、リップル周波数設定部120と、キャリア生成部122とを含む。
【0049】
電圧指令生成部110は、昇圧コンバータ22により調整される電圧VHの目標値を示す電圧指令値VRを生成する。たとえば、電圧指令生成部110は、モータジェネレータ60のトルク指令値およびモータ回転数から算出されるモータジェネレータ60のパワーに基づいて電圧指令値VRを生成する。
【0050】
電圧制御部112は、電圧指令生成部110から電圧指令値VRを受け、電圧センサ88,86からそれぞれ電圧VH,VBの検出値を受ける。そして、電圧制御部112は、電圧VHを電圧指令値VRに一致させるための制御演算(たとえば比例積分制御)を実行する。
【0051】
デューティー指令生成部114は、電圧制御部112からの制御出力に基づいて、昇圧コンバータ22のスイッチング素子Q1,Q2のスイッチングデューティーを示すデューティー指令値dを生成する。ここで、デューティー指令生成部114は、リップル昇温制御を実行する旨の通知をリップル昇温実行判定部118から受けると、電圧制御部112からの制御出力に拘わらず、デューティー指令値dをリップル昇温制御用の所定値(たとえば0.5(昇圧比2))とする。
【0052】
PWM信号生成部116は、デューティー指令生成部114から受けるデューティー指令値dを、キャリア生成部122から受けるキャリア信号CRと大小比較し、その比較結果に応じて論理状態が変化する制御信号PWMCを生成する。そして、PWM信号生成部116は、その生成された制御信号PWMCを昇圧コンバータ22のスイッチング素子Q1,Q2へ出力する。
【0053】
リップル昇温実行判定部118は、温度センサ82によって検出される温度TB、二次電池10のSOC、車両速度を示す車速信号SV、およびシフト位置を示すシフト位置信号SPを受ける。なお、二次電池10のSOCは、種々の公知の手法を用いて、電流IBおよび電圧VBの各検出値等に基づいて算出される。そして、リップル昇温実行判定部118は、それらの各信号に基づいて、二次電池10を昇温するリップル昇温の実行条件(以下、この実行条件を「第1実行条件」と称する。)の成否を判定し、その判定結果をデューティー指令生成部114およびリップル周波数設定部120へ通知する。一例として、リップル昇温実行判定部118は、温度TBが極低温を示し、SOCが所定値よりも高く、車速信号VSが車両の停止を示し、かつ、シフト位置信号SPがパーキングポジションを示しているとき、第1実行条件が成立したものと判定される。
【0054】
また、リップル昇温実行判定部118は、車両の電源状態を示す信号OPEをパワースイッチ74(図1)から受け、運転者の降車の意思を示す所定動作の検知を示す信号DETを降車動作検知部72(図1)から受ける。そして、リップル昇温実行判定部118は、上記の第1実行条件とは別に、信号OPE,DETに基づいて、リップル昇温制御の実行条件の成否を判定する(以下、信号OPE,DETに基づく実行条件を「第2実行条件」と称する。)。詳しくは、信号OPEが「READY−ON」状態を示し、かつ、信号DETが上記所定動作の検知を示しているとき、リップル昇温実行判定部118は、リップル昇温制御の実行を指示する指令をデューティー指令生成部114およびリップル周波数設定部120へ通知する。
【0055】
リップル周波数設定部120は、リップル昇温制御を実行する旨の通知をリップル昇温実行判定部118から受けると、昇圧コンバータ22のスイッチング素子Q1,Q2のスイッチング周波数、すなわち二次電池10に発生させるリップル電流の周波数(以下「リップル周波数」とも称する。)fを設定してキャリア生成部122へ出力する。なお、上記の第1実行条件に基づきリップル昇温制御が実行されるときは、リップル周波数設定部120は、二次電池10のインピーダンスの絶対値が低温下で小さくなる周波数領域の周波数(たとえば1kHz近傍)をリップル周波数f1として設定する。一方、上記の第2実行条件に基づきリップル昇温が実行されるときは、リップル周波数設定部120は、可聴域であって二次電池10の発熱量が相対的に抑制される周波数領域の周波数をリップル周波数f2(周波数f1よりも低い。)として設定する。
【0056】
キャリア生成部122は、PWM信号生成部116においてPWM信号を生成するためのキャリア信号CR(三角波)を生成し、その生成したキャリア信号CRをPWM信号生成部116へ出力する。ここで、キャリア生成部122は、リップル周波数設定部120からリップル周波数fを受けると、その受けたリップル周波数fを有するキャリア信号CRを生成してPWM信号生成部116へ出力する。
【0057】
図8は、リップル電流IBの挙動を示した図である。図8を参照して、たとえば時刻t1において、キャリア信号CRがデューティー指令値d(=0.5)よりも大きくなると、昇圧コンバータ22の上アームのスイッチング素子Q1がオフされ、下アームのスイッチング素子Q2がオンされる。そうすると、リップル電流IBは、負方向への増加に転じ、リアクトルL1に蓄えられていたエネルギーが放出されたタイミングでリップル電流IBの符号が正から負へ切替わる。
【0058】
時刻t2においてキャリア信号CRがデューティー指令値dよりも小さくなると、上アームのスイッチング素子Q1がオンされ、下アームのスイッチング素子Q2がオフされる。そうすると、リップル電流IBは、正方向への増加に転じ、リアクトルL1に蓄えられていたエネルギーが放出されたタイミングでリップル電流IBの符号が負から正へ切替わる。
【0059】
そして、時刻t3において再びキャリア信号CRがデューティー指令値dよりも大きくなると、スイッチング素子Q1,Q2がそれぞれオフ,オンされ、リップル電流IBは、再び負方向への増加に転じる。
【0060】
このようにして、キャリア信号CRの周波数すなわちリップル周波数fを有するリップル電流IBを二次電池10に発生させることができる。
【0061】
図9,10は、リップル周波数fの設定の考え方を説明するための図である。図9は、二次電池10のインピーダンス特性を示すボード線図であり、図10は、二次電池10に発生する平均発熱量の周波数特性を示した図である。
【0062】
図9を参照して、横軸は、二次電池10に発生させる交流電流(リップル電流)の周波数を対数表示で示し、縦軸は、インピーダンスZの絶対値|Z|を対数表示で示す。二次電池10の昇温が要求される低温下では、低周波時にインピーダンスが大きくなり、高周波ではインピーダンスは小さくなる。二次電池10に流れる電流が同じであれば、インピーダンスが大きい方が二次電池10の発熱量は大きくなるけれども、実際には、二次電池10に発生する電圧が制約されることにより二次電池10に十分なリップル電流を流すことができず、二次電池10の電圧が制約された条件下では、インピーダンスが小さい方が昇温効果が大きい。そこで、上記の第1実行条件に基づくリップル昇温時は、リップル電流を二次電池10に十分に流すことができるように、リップル周波数fを高周波に設定するのが好ましい。
【0063】
一方、運転者への警告音を発生させることを目的とした、上記の第2実行条件に基づくリップル昇温時は、図10に示すように、可聴域であって二次電池10の発熱量が相対的に抑制される周波数領域の値(たとえば図中の矢印で示される周波数領域)にリップル周波数fを設定するとよい。
【0064】
なお、二次電池10が既に高温のときは、図9に示されるようにインピーダンスの絶対量は小さいので、リップル電流を二次電池10に流しても、二次電池10の発熱量はそれ程上昇しない。そこで、二次電池10の温度TBが低いときは、リップル周波数fを高周波に設定し、二次電池10の温度TBが高いときは、温度TBが低いときよりもリップル周波数fを低くするようにしてもよい。
【0065】
図11は、第2実行条件に基づくリップル昇温の実行手順を説明するためのフローチャートである。なお、このフローチャートに示される処理は、一定時間毎または所定の条件が成立する毎にメインルーチンから呼び出されて実行される。
【0066】
図11を参照して、ECU70は、車両の電源状態が「READY−ON」状態であるか否かを判定する(ステップS10)。「READY−ON」状態でないときは(ステップS10においてNO)、ステップS40へ処理が移行される。
【0067】
ステップS10において電源状態が「READY−ON」状態であると判定されると(ステップS10においてYES)、ECU70は、降車動作検知部72により運転者の降車動作の意思が検知されたか否かを判定する(ステップS20)。たとえば、上述のように、スマートキーが車外に持出されたときや、着座センサにより運転者の非着座が検知されたとき、運転者のシートベルトが外されたとき、運転席のドアが開けられたとき等に、降車動作検知部72により運転者の降車動作の意思が検知される。
【0068】
そして、運転者の降車動作の意思が検知されたと判定されると(ステップS20においてYES)、ECU70は、昇圧コンバータ22を制御することにより、二次電池10にリップル電流を発生させるリップル昇温制御を実行する(ステップS30)。なお、このときのリップル周波数fは、可聴域であって二次電池10の発熱量が相対的に抑制される周波数領域に含まれる予め定められた周波数に設定される。
【0069】
以上のように、この実施の形態においては、昇圧コンバータ22によりリップル電流を二次電池10に発生させることによって二次電池10を内部から昇温するので、二次電池10を昇温させるためのヒータ等を別途設ける必要がない。
【0070】
そして、リップル電流を二次電池10に発生させるリップル昇温制御時は、二次電池10にリップル電流が流れることにより振動音が発生するところ、この実施の形態においては、車両の電源状態が「READY−ON」状態(走行可能状態)であるにも拘わらず降車動作検知部72により運転者の降車の意思を示す所定動作が検知されると、リップル昇温制御が実行される。これにより、リップル昇温に伴なう振動音が、降車しようとする運転者への警告音として用いられるので、警報としてエンジンをかけたり、警報ブザーを別途設けたりする必要がない。
【0071】
したがって、この実施の形態によれば、車両の電源状態が「READY−ON」状態(走行可能状態)であるにも拘わらず降車しようとする運転者に対する警告機構を低コストで実現することができる。
【0072】
なお、上記の実施の形態では、二次電池10にリップル電流を発生させるリップル生成装置として昇圧コンバータ22を流用するものとしたが、昇圧コンバータ22とは別にリップル生成装置を別途設けてもよい。但し、上記の実施の形態によれば、リップル生成装置として昇圧コンバータ22を流用するので、低コストでリップル生成装置を実現することができる。
【0073】
なお、上記において、電動車両100は、モータジェネレータ60を唯一の走行用動力源とする電気自動車であってもよいし、走行用動力源としてエンジンをさらに搭載したハイブリッド車両であってもよく、さらには、直流電源として二次電池10に加えて燃料電池をさらに搭載した燃料電池車であってもよい。
【0074】
なお、上記において、昇圧コンバータ22は、この発明における「リップル生成装置」の一実施例に対応し、ECU70は、この発明における「制御装置」の一実施例に対応する。また、降車動作検知部72は、この発明における「検知手段」の一実施例に対応し、パワースイッチ74は、この発明における「操作部」の一実施例に対応する。さらに、インバータ50およびモータジェネレータ60は、この発明における「駆動装置」の一実施例を形成を形成する。
【0075】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
10 二次電池、15 SMR、22 昇圧コンバータ、50 インバータ、60 モータジェネレータ、65 駆動輪、70 ECU、72 降車動作検知部、74 パワースイッチ、82 温度センサ、84 電流センサ、86,88 電圧センサ、100 電動車両、110 電圧指令生成部、112 電圧制御部、114 デューティー指令生成部、116 PWM信号生成部、118 リップル昇温実行判定部、リップル周波数設定部、122 キャリア生成部、132 正極板、134 負極板、136 正極端子、138 負極端子、140 ケース、PL1,PL2 正極線、NL 負極線、L1 リアクトル、Q1,Q2 スイッチング素子、D1,D2 ダイオード、CH コンデンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の電力を蓄える二次電池と、
前記二次電池に接続され、前記二次電池にリップル電流を発生させるように構成されたリップル生成装置と、
前記リップル生成装置を制御することによって、前記二次電池にリップル電流を発生させて前記二次電池を昇温するリップル昇温制御を実行するための制御装置と、
運転者の降車の意思を示す所定の動作を検知するための検知手段とを備え、
前記制御装置は、車両の電源状態が走行可能状態であるにも拘わらず前記検知手段により前記所定の動作が検知されると、前記リップル昇温制御を実行する、電動車両。
【請求項2】
前記電源状態を運転者が切替えるための操作部をさらに備え、
前記制御装置は、前記電源状態が前記走行可能状態であることを示すREADY−ON状態が前記操作部により選択されているときに前記検知手段により前記所定の動作が検知されると、前記リップル昇温制御を実行する、請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記二次電池から電力を受けて走行トルクを生成する駆動装置と、
前記二次電池と前記駆動装置との電気的な接続および切離しを行なうシステムメインリレーとをさらに備え、
前記制御装置は、前記システムメインリレーにより前記二次電池が前記駆動装置に電気的に接続されているときに前記検知手段により前記所定の動作が検知されると、前記リップル昇温制御を実行する、請求項1に記載の電動車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記二次電池の温度に基づいて前記リップル電流の周波数を変更する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項5】
前記制御装置は、前記二次電池の温度が高いとき、前記二次電池の温度が低いときよりも前記リップル電流の周波数を低くする、請求項4に記載の電動車両。
【請求項6】
前記電源状態が前記走行可能状態であるにも拘わらず前記検知手段により前記所定の動作が検知された場合に前記リップル昇温制御が実行されるとき、前記制御装置は、前記リップル電流の周波数を、可聴域であって前記二次電池の発熱量が相対的に抑制される所定周波数に設定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項7】
前記リップル生成装置は、前記二次電池から受ける電圧を前記二次電池の電圧以上に昇圧するように構成されたチョッパ型の昇圧コンバータである、請求項1から6のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項8】
前記二次電池は、リチウムイオン電池である、請求項1から7のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項9】
前記検知手段は、キースロットに挿入することなく無線通信によりキー認証可能なスマートキーが車外に持出されることを前記所定の動作として検知する、請求項1から8のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項10】
前記検知手段は、運転席が非着座状態になることを前記所定の動作として検知する、請求項1から8のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項11】
前記検知手段は、停車時に前記運転者のシートベルトが外されることを前記所定の動作として検知する、請求項1から8のいずれか1項に記載の電動車両。
【請求項12】
前記検知手段は、運転席のドアが開けられることを前記所定の動作として検知する、請求項1から8のいずれか1項に記載の電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−99029(P2013−99029A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237343(P2011−237343)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】