説明

電動駐車ブレーキ装置

【課題】パーキングレバーと軸動部材との組付け性が良好な電動駐車ブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】パーキングレバー13の他端には、平面状の第1回転規制部131が設けられ、軸動部材27の一側部には、第1回転規制部131と接合可能な平面状の第1接合面27bが形成されている。さらに、第1接合面27bには、第1回転規制部131の作動面131bと当接する凸部271が設けられている。パーキングレバー13および軸動部材27を裏板15に組付ける場合、裏板15の内面に対しドラム16の回転軸線方向上側からパーキングレバー13を軸動部材27の方向に近付け、パーキングレバー13の第1回転規制部131を、軸動部材27の第1接合面27bに接合させるのみで、パーキングレバー13の他端を軸動部材27の一側部に係合させることができる。よって、パーキングレバー13と軸動部材27との組付け性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動駐車ブレーキ装置に関し、特に、ブレーキシューのブレーキライニングをドラムに摩擦係合させるパーキングレバーをモータにより回動する電動駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、以下の電動駐車ブレーキ装置が記載されている。この電動駐車ブレーキ装置は、ドラムブレーキ内に固定されたモータ、ギヤ機構、ボールねじ機構および軸動部材(スライド軸)でなる電動アクチュエータを備え、この電動アクチュエータにより駐車ブレーキ操作可能に構成されている。すなわち、モータと、一端が一方のブレーキシューに回動可能に支承されたパーキングレバーとが、ギヤ機構、ボールねじ機構および軸動部材を介して連結されている。そして、軸動部材は、一端がボールねじ機構のナットに固定され、他端がパーキングレバーの自由端に固定されている。
【0003】
この電動駐車ブレーキ装置では、モータの回転運動がボールねじ機構で直線運動に変換され、この直線運動により軸動部材がスライドしてパーキングレバーが引っ張られる。これにより、パーキングレバーは、一端の回動支承部を中心に回動し、一対のブレーキシューをドラム側に拡開させて一対のブレーキライニングをドラムに摩擦係合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−105680号公報(段落番号0015,0017,0018、図1,2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の電動駐車ブレーキ装置では、パーキングレバーをブレーキシューに回動可能に支承し、電動アクチュエータをドラムブレーキ内に固定し、パーキングレバーの自由端を軸動部材の他端に固定する組付け作業が行われる。ところが、パーキングレバーと軸動部材との組付けは非常に手間が掛かる作業となるおそれがある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パーキングレバーと軸動部材との組付け性が良好な電動駐車ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明は、ドラムに摩擦係合可能なブレーキライニングを夫々有し、裏板に回動可能に支承された一対のブレーキシューと、一方の前記ブレーキシューに一端が回動可能に支承され、他方の前記ブレーキシューとの間に連結部材が介挿され、回動することにより前記一対のブレーキシューを前記ドラム側に拡開させて前記一対のブレーキライニングを前記ドラムに摩擦係合させるパーキングレバーと、前記裏板に固定されたモータと、互いに嵌合部で嵌合する回転部材および軸動部材を有し、前記軸動部材が回転を規制され前記回転部材が前記モータによって回転駆動されることにより回転運動を直線運動に変換して前記パーキングレバーを回動する回転−直動変換機構と、を備えた電動駐車ブレーキ装置であって、前記パーキングレバーの他端に設けられた平面状の第1回転規制部と、前記軸動部材の一側部に形成され、前記平面状の第1回転規制部と接合して当該軸動部材の回転を規制する平面状の第1接合面と、前記第1接合面および前記第1回転規制部の一方に設けられた凸部と、前記第1接合面および前記第1回転規制部の他方に設けられ、前記軸動部材の作動方向直線運動により前記凸部と当接部で当接して、前記パーキングレバーを回動させることにより前記一対のブレーキシューを前記ドラム側に拡開させ前記一対のブレーキライニングを前記ドラムに摩擦係合させる作動面と、を備えることである。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1において、前記軸動部材の前記一側部と反対側の他側部に形成された平面状の第2接合面と、前記パーキングレバーの前記他端に設けられ、前記第1回転規制部と共に前記軸動部材を両側部から挟み込むように前記第2接合面と接合して該軸動部材の回転を規制する第2回転規制部と、を備えることである。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1または2において、前記凸部と前記作動面とが当接する前記当接部の一方の当接面が凸曲面に形成され、前記凸部と前記作動面とが当接する当接部の他方の当接面が前記凸曲面の曲率半径より大きい曲率半径を有する凹曲面に形成されていることである。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一項において、前記軸動部材が前記作動方向直線運動と逆方向に直線運動するとき、前記軸動部材が前記ブレーキシューと当接することを防止するために、前記軸動部材と前記パーキングレバーとの相対移動を所定範囲に規制する規制部を備えることである。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項において、前記凸部と前記作動面とが当接する前記当接部における運動伝達力の力線が、前記回転部材と前記軸動部材との嵌合部の外周面よりも内側に位置するように、前記当接部が形成されていることである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、パーキングレバーの他端には、平面状の第1回転規制部が設けられ、軸動部材の一側部、例えば裏板の内面に対向する側とは反対側の側部には、第1回転規制部と接合可能な平面状の第1接合面が形成されている。さらに、第1接合面には、第1回転規制部の作動面と当接する凸部が設けられている。このような構成のパーキングレバーおよび軸動部材を組付ける場合、パーキングレバーをブレーキシューに回動可能に支承し、電動アクチュエータを裏板の内面に固定する。そして、裏板の内面に対しドラムの回転軸線方向上側からパーキングレバーを軸動部材の方向に近付け、パーキングレバーの第1回転規制部を、軸動部材の第1接合面に接合させると共に、パーキングレバーの第1回転規制部の作動面を、軸動部材の凸部に当接させる。これにより、パーキングレバーの他端を軸動部材の一側部に係合させることができる。このように、裏板の内面に対しドラムの回転軸線方向上側からの非常に簡易な作業となり、パーキングレバーと軸動部材との組付け性を大幅に向上させることができる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、パーキングレバーの他端には、第1回転規制部と共に第2回転規制部が設けられ、軸動部材の他側部、例えば裏板の内面に対向する側部には、第2回転規制部と接合可能な平面状の第2接合面が形成されている。このような構成のパーキングレバーおよび軸動部材を裏板の内面に組付ける場合、パーキングレバーをブレーキシューに回動可能に支承し、電動アクチュエータを裏板の内面に固定する。そして、裏板の内面に対しドラムの回転軸線方向上側からパーキングレバーを軸動部材の方向に近付け、パーキングレバーの一端側をドラムの径方向外側に一旦逃がし、パーキングレバーの第2回転規制部を、軸動部材の第2接合面側に潜り込ませて第2接合面に接合させる。そして、パーキングレバーの一端側をドラムの径方向内側に戻し、パーキングレバーの第1回転規制部を、軸動部材の凸部よりもモータ寄りの第1接合面側に被せて第1接合面に接合させる。
【0014】
これにより、パーキングレバーの他端を軸動部材の一側部および他側部に係合させることができる。そして、軸動部材の第1接合面および第2接合面は、パーキングレバーの第1回転規制部と第2回転規制部とにより挟み込まれることになる。よって、軸動部材は、パーキングレバーの他端で保持され、軸線回りの回転が規制され軸線方向の移動が許容される。このように、パーキングレバーおよび軸動部材の組付けは、裏板の内面に対しドラムの回転軸線方向上側からの簡易な作業となり、パーキングレバーと軸動部材との組付け性を向上させることができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、凸部と作動面とが当接する当接部の一方の当接面が凸曲面に形成され、他方の当接面が凸曲面の曲率半径より大きい曲率半径を有する凹曲面に形成されている。これにより、軸動部材の直線運動によりパーキングレバーが一端の回動支承部を中心に回動したときの動きのずれを抑えることができ、また、接触部の応力を下げることができる。よって、凸部による運動伝達力が偏荷重となることを防止することができ、パーキングレバーをスムーズに回動させることができる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、軸動部材の第1接合面には、軸動部材とパーキングレバーとの相対移動を所定範囲に規制する規制部が設けられている。この規制部は、軸動部材が作動方向直線運動と逆方向に直線運動するとき、軸動部材がブレーキシューと当接することを防止するためのものである。よって、軸動部材とブレーキシューとが当接し、ブレーキシューを拡張することで発生する引き摺りを未然に防止することができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、凸部と作動面とが当接する当接部における運動伝達力の力線が、回転部材と軸動部材との嵌合部の外周面よりも内側に位置するように、上記当接部が形成されている。運動伝達力の力線が、回転部材と軸動部材との嵌合部の外周面よりも外側に位置している場合には、回転部材と軸動部材との嵌合部が浮いて片当たりとなる場合がある。しかし、本発明の運動伝達力の力線は、回転部材と軸動部材との嵌合部の外周面よりも内側に位置している。このため、回転部材と軸動部材との嵌合部に浮きは発生せず、嵌合部の片当たりを防止することができる。よって、パーキングレバーの回動をスムーズに行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る電動駐車ブレーキ装置の実施の形態をドラムの回転軸線方向から見た図である。
【図2】図1の電動駐車ブレーキ装置のブレーキシューの裏板に対する保持部分をドラムの回転軸線に直交する方向から見たA−A線断面図である。
【図3】図1の電動駐車ブレーキ装置のパーキングレバーとネジ軸部材との第1の係合構造を示す斜視図である。
【図4】(A),(B)は、パーキングレバーの主要部および電動アクチュエータの詳細をドラムの回転軸線に直交する方向から見た図、およびドラムの回転軸線方向から見た図である。
【図5】電動アクチュエータのネジ軸部材の作用を説明するための図である。
【図6】パーキングレバーとネジ軸部材との第2の係合構造を示す斜視図である。
【図7】パーキングレバーとネジ軸部材との第3の係合構造を示す斜視図である。
【図8】パーキングレバーとネジ軸部材との第4の係合構造を示す斜視図である。
【図9】パーキングレバーとネジ軸部材との第5の係合構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、電動駐車ブレーキ装置1は、駐車ブレーキ機構を備えたドラムブレーキ10と、後述するパーキングレバー13を回動する電動アクチュエータ20とで構成されている。
ドラムブレーキ10は、一対のブレーキシュー11a,11bと、一対のブレーキライニング12a,12bと、パーキングレバー13と、連結部材14と、裏板15とにより概略構成されている。
【0020】
一対のブレーキシュー11a,11bは、円弧状に形成され、外周側に一対のブレーキライニング12a,12bが夫々貼着されている。一対のブレーキシュー11a,11bは、ドラム16の回転軸線Rに対し両側に、かつ一対のブレーキライニング12a,12bがドラム16の内周に対し接触離間可能なように、裏板15の内面に回動可能に支承されている。
【0021】
一対のブレーキシュー11a,11bは、裏板15に対して保持部材17a,17bにより保持されている。すなわち、図2に示すように、裏板15には、ブレーキシュー11aのライニング貼着部111aの一部112aをドラム16の回転軸線R方向に受けてブレーキシュー11aを支持する受け部15aが、裏板15の内面側に突設されている。ブレーキシュー11aの略中央部には、ドラム16の回転軸線R方向に貫通する孔113aが穿設され、ブレーキシュー11aが受け部15aに支持された状態で孔113aに対応する裏板15の位置には、ドラム16の回転軸線R方向に貫通する孔15bが穿設されている。
【0022】
保持部材17aは、頭部18aが一端に設けられたピン部材18bと、ピン部材18bの他端に係止可能なバネ18cを有する抜け止め部材18dとを備えている。ピン部材18bは、他端が裏板15の外面側(図2において下方側)から孔15bを通ってブレーキシュー11aの孔113aを貫通するように差し込まれ、他端にバネ18cを介して抜け止め部材18dが係止される。これにより、ライニング貼着部111aの一部112aがバネ18cの付勢力により受け部15aに押付けられるので、ブレーキシュー11aは裏板15に対してドラム16の回転軸線R方向にガタのない状態で保持されることになる。なお、ブレーキシュー11bも同様に裏板15に対して保持されている。
【0023】
パーキングレバー13は、一方(本例の場合、左側)のブレーキシュー11aに一端側が回動可能に支承され、ブレーキシュー11aに沿って配置されている。上述のように、ブレーキシュー11aは裏板15に対してドラム16の回転軸線R方向にガタのない状態で保持されているので、このブレーキシュー11aに支承されるパーキングレバー13も同様に保持されることになる。そして、パーキングレバー13は、他方のブレーキシュー11bとの間に連結部材14が介挿されている。パーキングレバー13の回動支承部13aには、該パーキングレバー13の傾動を許容する貫通穴13aaが形成されている。
【0024】
パーキングレバー13の他端には、鉤状に形成された平面状の第1回転規制部131がドラム16の径方向に突設されている。図3に示すように、第1回転規制部131は、後述するネジ軸部材27の軸線方向の断面が矩形状となるように形成されている。この第1回転規制部131の裏板15側の面は、ネジ軸部材27の一側部、すなわち裏板15側とは反対側の側部に設けられた第1接合面27bと接合してネジ軸部材27の軸線回りの回転を規制し軸線方向の移動を許容する平面状の第1回転規制面131aとして形成されている。
【0025】
また、第1回転規制部131の第1回転規制面131aと直角なブレーキライニング12a側の面は、ネジ軸部材27の軸線方向の作動方向直線運動によりネジ軸部材27に設けられた凸部271と当接部P(図4参照)で当接して、パーキングレバー13の回動によるブレーキを作動させる作動面131bとして形成されている。この作動面131bにおける当接部Pの当接面131cは、凹曲面(図4参照)に形成されている。この当接面131cは、凹曲面の曲率中心軸線がパーキングレバー13の回動支承部13aの回動軸線と平行になるように形成されている。
【0026】
さらに、パーキングレバー13の他端には、舌片状に形成された第2回転規制部132が第1回転規制部131からブレーキライニング12a側に所定距離隔ててドラム16の径方向に突設されている。図3に示すように、第2回転規制部132は、ネジ軸部材27の軸線方向の断面が矩形状となるように形成されている。この第2回転規制部132の裏板15側とは反対側の面は、ネジ軸部材27の他側部、すなわち裏板15側の側部に設けられた第2接合面27cと接合してネジ軸部材27の軸線回りの回転を規制し軸線方向の移動を許容する平面状の第2回転規制面132aとして形成されている。すなわち、第1回転規制部131および第2回転規制部132は、ネジ軸部材27を両側部から挟み込むように接合してネジ軸部材27の軸線回りの回転を規制し軸線方向の移動を許容するように形成されている。
【0027】
図4に示すように、電動アクチュエータ20は、モータ21と、回転−直動変換機構22とにより概略構成されている。モータ21および回転−直動変換機構22は、裏板15に固定されているハウジング28内に設けられている。
回転−直動変換機構22は、ピニオン25と、ナット部材26(本発明の「回転部材」に相当する)と、ネジ軸部材27(本発明の「軸動部材」に相当する)とで構成されている。この回転−直動変換機構22は、ナット部材26の軸線回りの回転運動をネジ軸部材27の軸線方向の直線運動に変換する機構である。
【0028】
ピニオン25は、モータ21の回転軸21aに固定されている。ナット部材26は、ハウジング28内に回転可能に支承されている。このナット部材26は、外周にピニオン25と噛合可能なギヤ歯26aが設けられ、内周にネジ軸部材27のネジ山27aと螺合可能なネジ穴26bが設けられている。
【0029】
ネジ軸部材27は、ハウジング28内に回転可能に支承されている。このネジ軸部材27は、一端側(図4(A),(B)において右端側)が他端側(図4(A),(B)において左端側)よりも大径となるように形成されている。そして、ネジ軸部材27の大径部分には、上述のようにナット部材26のネジ穴26bと螺合可能なネジ山27aが設けられている。
【0030】
また、ネジ軸部材27の小径部分の一側部(裏板15の内面に対向する側とは反対側の側部)には、上述のように、パーキングレバー13の第1回転規制部131の回転規制面131aと接合可能な平面状の第1接合面27bが形成されている。また、ネジ軸部材27の小径部分の一側部と反対側の他側部(裏板15の内面に対向する側部)には、上述のように、第2回転規制部132の第2回転規制面132aと接合可能な平面状の第2接合面27cが形成されている。ネジ軸部材27の第1接合面27bおよび第2接合面27cは、パーキングレバー13の第1回転規制部131の第1回転規制面131aと第2回転規制部132の第2回転規制面132aとにより挟み込まれ接合されている。これにより、ネジ軸部材27は、軸線回りの回転が規制され軸線方向の移動が許容される。
【0031】
また、ネジ軸部材27の第1接合面27bには、第1回転規制部131の作動面131bと当接部Pで当接してネジ軸部材27の軸線方向の作動方向直線運動を伝達する略直方体状の凸部271が、ドラム16の回転軸線R方向に突設されている。この凸部271における当接部Pの当接面271aは、凸曲面に形成されている。この当接面271aは、凸曲面の曲率中心軸線がパーキングレバー13の回動支承部13aの回動軸線と平行になるように形成されている。そして、図5に示すように、凸部271の当接面271aは、第1回転規制部131の当接面131cの曲率半径Rbより小さい曲率半径Raとなるように形成されている。これにより、凸部271の当接面271aは、第1回転規制部131の当接面131cと当接部Pにおいてのみ当接されることになる。
【0032】
次に、この電動駐車ブレーキ装置1の動作について説明する。電動駐車ブレーキ装置1は、車両の後車輪に装着される。そして、車両の運転席には、両方の電動駐車ブレーキ装置1,1を夫々操作するため駐車ブレーキ用スイッチが設けられる。駐車ブレーキをかける場合、乗員は駐車ブレーキ用スイッチをオン方向に押す。すると、モータ21が回転し、この回転運動がピニオン25を介してナット部材26に伝達される。そして、伝達された回転運動はネジ軸部材27で図1において右方向の直動運動に変換される。そして、ネジ軸部材27の凸部271は、第1回転規制部131の作動面131bと当接部Pで当接して、パーキングレバー13を図1において反時計回りに回動させる。
【0033】
そして、パーキングレバー13は、ブレーキシュー11aをドラム16側に押動するとともに連結部材14を介してブレーキシュー11bをドラム16側に押動してブレーキライニング12a,12bをドラム16の内周に摩擦係合させる。以上により、駐車ブレーキがかけられる。このとき、モータ21に一定以上の電流が流れたらモータ21を停止させるようにする。これにより、常に一定の駐車ブレーキ力を得ることができる。一方、駐車ブレーキを解除する場合、乗員は駐車ブレーキ用スイッチをオフ方向に押す。すると、モータ21が先ほどとは逆方向に回転し、駐車ブレーキが解除される。このとき、無負荷電流になった時点でモータ21の電源を切るようにする。これにより、常に一定のクリアランスを得ることができる。
【0034】
以上のような構成の電動駐車ブレーキ装置1によれば、以下のような作用効果を得ることができる。すなわち、パーキングレバー13の他端には、鉤状の第1回転規制部131および舌片状の第2回転規制部132が並んで突設されている。そして、ネジ軸部材27の小径部分の両側には、第1回転規制部131の平面状の第1回転規制面131aと接合可能な平面状の第1接合面27b、および第2回転規制部132の平面状の第2回転規制面132aと接合可能な平面状の第2接合面27cが夫々形成されている。さらに、ネジ軸部材27の第1接合面27bには、第1回転規制部131の作動面131bと当接する凸部271が突設されている。
【0035】
このような構成のパーキングレバー13およびネジ軸部材27を組付ける場合、パーキングレバー13の回動支承部13aをブレーキシュー11aに回動可能に支承し、電動アクチュエータ20を裏板15の内面に固定する。そして、裏板15の内面に対しドラム16の回転軸線R方向上側からパーキングレバー13を軸動部材27の方向に近付け、パーキングレバー13の回動支承部13a側をドラム16の径方向外側に一旦逃がし、パーキングレバー13の第2回転規制部132を、ネジ軸部材27の第2接合面27c側に潜り込ませて第2接合面27cに接合させる。そして、パーキングレバー13の回動支承部13a側をドラム16の径方向内側に戻し、パーキングレバー13の第1回転規制部131を、ネジ軸部材27の凸部271よりも大径部分寄りの第1接合面27b側に被せて第1接合面27bに接合させる。
【0036】
これにより、図3に示すように、パーキングレバー13の他端を軸動部材27の小径部分に係合させることができる。そして、ネジ軸部材27の第1接合面27bおよび第2接合面27cは、パーキングレバー13の第1回転規制部131の第1回転規制面131aと第2回転規制部132の第2回転規制面132aとにより挟み込まれることになる。よって、ネジ軸部材27は、パーキングレバー13の他端で保持され、軸線回りの回転が規制され軸線方向の移動が許容される。このように、パーキングレバー13およびネジ軸部材27の組付けは、裏板15の内面に対しドラム16の回転軸線R方向上側からの簡易な作業となり、パーキングレバー13とネジ軸部材27との組付け性を向上させることができる。
【0037】
また、凸部271の当接面271aは凸曲面に形成され、第1回転規制部131の当接面131cは凸曲面の曲率半径Rbより大きい曲率半径Raを有する凹曲面に形成されている。これにより、ネジ軸部材27の直線運動によりパーキングレバー13が回動支承部13aを中心に回動したときの動きのずれを抑えることができ、また、接触部の応力を小さくすることができる。
【0038】
また、図5に示すように、ネジ軸部材27が右方向に直線運動してパーキングレバー13を反時計回りに回動したとき、凸部271と第1回転規制部131の作動面131bとが当接する当接部Pにおける運動伝達力の力線Fは、ネジ軸部材27のネジ山27aとナット部材26のネジ穴26bとの嵌合部の外周面Sよりも内側に位置するように、当接部Pが形成されている。
【0039】
ここで、凸部271と第1回転規制部131の作動面131bとが当接する当接部Pにおける運動伝達力の力線Fが、ネジ軸部材27のネジ山27aとナット部材26のネジ穴26bとの嵌合部の外周面よりも外側に位置している場合を考える。この場合、ネジ軸部材27のネジ山27aとナット部材26のネジ穴26bとの嵌合部が浮いて片当りとなる場合がある。
【0040】
しかし、凸部271と第1回転規制部131の作動面131bとが当接する当接部Pにおける運動伝達力の力線Fは、ネジ軸部材27のネジ山27aとナット部材26のネジ穴26bとの嵌合部の外周面Sよりも内側に位置している。このため、ネジ軸部材27のネジ山27aとナット部材26のネジ穴26bとの嵌合部に浮きは発生せず、嵌合部の片当りを防止することができる。よって、パーキングレバー13をスムーズに回動させることができる。
【0041】
なお、凸部271と第1回転規制部131の作動面131bとが当接する当接部Pにおける運動伝達力の力線Fは、図5に示す嵌合部の外周面Sの左端に位置しているときが限界点であり、図5に示す嵌合部の外周面Sの右端に位置していることが好ましい。
【0042】
次に、パーキングレバー13とネジ軸部材27との第2の係合構造を図3に対応させて示す図6を参照して説明する。なお、第1の係合構造と同一構成部材は、同一番号を付して詳細な説明は省略する。第2の係合構造は、第1の係合構造と略同一構成であるが、ネジ軸部材27の第1接合面27bに、凸部271に加えてさらに略直方体状の規制部272がドラム16の回転軸線R方向に突設されている点で異なる構成となっている。
【0043】
この規制部272は、凸部271からモータ21側に所定距離隔てて設けられている。規制部272は、第1回転規制部131の作動面131bとは反対側に形成された規制面131dと当接し、ネジ軸部材27とパーキングレバー13との相対移動を所定範囲に規制する。これにより、ネジ軸部材27が作動方向直線運動と逆方向に直線運動するとき、ネジ軸部材27がブレーキシュー11aと当接することを防止することができる。その他の効果としては、第1の係合構造の電動駐車ブレーキ装置1と同様の効果を奏する。
【0044】
次に、パーキングレバー13とネジ軸部材27との第3の係合構造を図3に対応させて示す図7を参照して説明する。なお、第1の係合構造と同一構成部材は、同一番号を付して詳細な説明は省略する。第3の係合構造は、第1の係合構造と略同一構成であるが、パーキングレバー13の他端には、第1回転規制部131のみが設けられ第2回転規制部132が設けられていない点で異なる構成となっている。
【0045】
このような構成によれば、裏板15の内面に対しドラム16の回転軸線R方向上側からパーキングレバー13をネジ軸部材27の方向に近付け、パーキングレバー13の第1回転規制部131の第1回転規制面131aを、ネジ軸部材27の第1接合面27bに接合させるのみで、パーキングレバー13の他端をネジ軸部材27の小径部分に係合させることができる。よって、パーキングレバー13とネジ軸部材27との組付け性をさらに向上させることができる。
【0046】
なお、ネジ軸部材27は、第1接合面27bのみがパーキングレバー13の第1回転規制部131の第1回転規制面131aと接合されている。しかし、パーキングレバー13は、裏板15に対してドラム16の回転軸線R方向に保持されているブレーキシュー11aに支承されている。よって、パーキングレバー13の第1回転規制部131の第1回転規制面131aのみが、ネジ軸部材27の第1接合面27bに接合されていても、ネジ軸部材27の軸線回りの回転を規制し軸線方向の移動を許容することができる。その他の効果としては、第1の係合構造の電動駐車ブレーキ装置1と同様の効果を奏する。
【0047】
次に、パーキングレバー13とネジ軸部材27との第4の係合構造を図3に対応させて示す図8を参照して説明する。なお、第1の係合構造と同一構成部材は、同一番号を付して詳細な説明は省略する。第4の係合構造は、第1の係合構造と略同一構成であるが、パーキングレバー13の他端には、第1回転規制部131に代えて中央に穴133aが穿設された平面状の第3回転規制部133がドラム16の径方向に突設されている点で異なる構成となっている。
【0048】
この第3回転規制部133は、ネジ軸部材27の軸線方向の断面が穴133aの横幅分隔てた一対の矩形状となるように形成されている。そして、パーキングレバー13は、第3回転規制部133の穴133a内にネジ軸部材27の凸部271が位置するように組み付けられる。第3回転規制部133のモータ21側の部分134は、第1回転規制部131と同様の機能を有し、第3回転規制部133のブレーキライニング12a側の部分135は、規制部272と同様の機能を有している。
【0049】
すなわち、この第3回転規制部133のモータ側部分134およびブレーキライニング側部分135の裏板15側の面は、ネジ軸部材27に設けられた第1接合面27bと接合してネジ軸部材27の軸線回りの回転を規制する平面状の第3回転規制面134a,135aとして形成されている。また、モータ側部分134の第3回転規制面134aと直角なブレーキライニング12a側の面は、ネジ軸部材27の作動方向直線運動によりネジ軸部材27に設けられた凸部271と当接して、パーキングレバー13を回動させる作動面134bとして形成されている。この作動面134bにおける凸部271と当接する当接面134cは、凹曲面に形成されている。また、ブレーキライニング側部分135の第3回転規制面135aと直角なモータ21側の面は、ネジ軸部材27が作動方向直線運動と逆方向に直線運動するとき、ネジ軸部材27がブレーキシュー11aと当接することを防止するための規制面135bとして形成されている。
【0050】
この第3回転規制部133をパーキングレバー13の他端に設けることにより、ネジ軸部材27には規制部272を設ける必要がなくなる。一般的に、ネジ軸部材27に規制部272を設ける場合は、切削加工もしくは規制部272を別部材で加工してネジ軸部材27に溶接等行う必要があるが、パーキングレバー13の他端に第3回転規制部133を設ける場合は、打抜き加工で可能である。このため、該加工コストを低減することが可能である。その他の効果としては、第1の係合構造の電動駐車ブレーキ装置1と同様の効果を奏する。
【0051】
次に、パーキングレバー13とネジ軸部材27との第5の係合構造を図8に対応させて示す図9を参照して説明する。なお、第4の係合構造と同一構成部材は、同一番号を付して詳細な説明は省略する。第5の係合構造は、第4の係合構造と略同一構成であるが、パーキングレバー13の他端には、第3回転規制部133のみが設けられ第2回転規制部132が設けられていない点で異なる構成となっている。
【0052】
ネジ軸部材27は、第1接合面27bのみがパーキングレバー13の第3回転規制部133の第3回転規制面134a,135aと接合されている。しかし、パーキングレバー13は、裏板15に対してドラム16の回転軸線R方向に保持されているブレーキシュー11aに支承されている。よって、パーキングレバー13の第3回転規制部133の第3回転規制面134a,135aのみが、ネジ軸部材27の第1接合面27bに接合されていても、ネジ軸部材27の軸線回りの回転を規制し軸線方向の移動を許容することができる。その他の効果としては、第4の係合構造の電動駐車ブレーキ装置と同様の効果を奏する。
【0053】
なお、上述の実施形態においては、作動面131bをパーキングレバー13の第1回転規制部131に設け、凸部271をネジ軸部材27に設ける構成としたが、パーキングレバー13の第1回転規制部131に凸部を設け、ネジ軸部材27に作動面を設ける構成としても同様の効果を奏する。また、第1回転規制部131と第1接合面27bとが接合し、第2回転規制部131と第2接合面27cとが接合する構成としたが、第1回転規制部131と第2接合面27cとが接合し、第2回転規制部131と第1接合面27bとが接合する構成としても同様の効果を奏する。
【0054】
また、凸部271の当接面271aを凸曲面に形成し、第1回転規制部131の作動面131bの当接面131c(第3回転規制部133の作動面134bの当接面134c)を凹曲面に形成する構成としたが、凸部271の当接面271aを凹曲面に形成し、第1回転規制部131の作動面131bの当接面131c(第3回転規制部133の作動面134bの当接面134c)を凸曲面に形成する構成としても同様の効果を奏する。また、凸部271の当接面271aおよび第1回転規制部131の作動面131bの当接面131c(第3回転規制部133の作動面134bの当接面134c)の一方を凸曲面に形成し、他方の面を平面に形成する構成としても同様の効果を奏する。また、凸曲面および凹曲面としては、円周面、球面等の曲面であればよい。
【0055】
また、回転−直動変換機構22は、ナット部材26の軸線回りの回転運動をネジ軸部材27の軸線方向の直線運動に変換する機構としたが、ネジ軸部材27の軸線回りの回転運動をナット部材26の軸線方向の直線運動に変換する機構としてもよい。この機構の場合、凸部271および規制部272は、例えば、ナット部材26から軸線方向に突出形成した部材の先端に設けるようにする。また、回転−直動変換機構22として、ラックとピニオンの機構を用いてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1・・・電動駐車ブレーキ装置、10・・・ドラムブレーキ、11a,11b・・・ブレーキシュー、12a,12b・・・ブレーキライニング、13・・・パーキングレバー、131・・・第1回転規制部、131b・・・作動面、131c・・・当接面、132・・・第2回転規制部、133・・・第3回転規制部、134b・・・作動面、134c・・・当接面、14・・・連結部材、15・・・裏板、16・・・ドラム、20・・・電動アクチュエータ、21・・・モータ、22・・・回転−直動変換機構、25・・・ピニオン、26・・・ナット部材、27・・・ネジ軸部材、27b・・・第1接合面、27c・・・第2接合面、271・・・凸部、271a・・・当接面、272・・・規制部、P・・・当接部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム(16)に摩擦係合可能なブレーキライニング(12a,12b)を夫々有し、裏板(15)に回動可能に支承された一対のブレーキシュー(11a,11b)と、
一方の前記ブレーキシュー(11a)に一端が回動可能に支承され、他方の前記ブレーキシュー(11b)との間に連結部材(14)が介挿され、回動することにより前記一対のブレーキシュー(11a,11b)を前記ドラム(16)側に拡開させて前記一対のブレーキライニング(12a,12b)を前記ドラム(16)に摩擦係合させるパーキングレバー(13)と、
前記裏板(15)に固定されたモータ(21)と、
互いに嵌合部で嵌合する回転部材(26)および軸動部材(27)を有し、前記軸動部材(27)が回転を規制され前記回転部材(26)が前記モータ(21)によって回転駆動されることにより回転運動を直線運動に変換して前記パーキングレバー(13)を回動する回転−直動変換機構(22)と、を備えた電動駐車ブレーキ装置であって、
前記パーキングレバー(13)の他端に設けられた平面状の第1回転規制部(131)と、
前記軸動部材(27)の一側部に形成され、前記平面状の第1回転規制部(131)と接合して当該軸動部材(27)の回転を規制する平面状の第1接合面(27b)と、
前記第1接合面(27b)および前記第1回転規制部(131)の一方に設けられた凸部(271)と、
前記第1接合面(27b)および前記第1回転規制部(131)の他方に設けられ、前記軸動部材(27)の作動方向直線運動により前記凸部(271)と当接部(P)で当接して、前記パーキングレバー(13)を回動させることにより前記一対のブレーキシュー(11a,11b)を前記ドラム(16)側に拡開させ前記一対のブレーキライニング(12a,12b)を前記ドラム(16)に摩擦係合させる作動面(131b)と、を備える電動駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記軸動部材(27)の前記一側部と反対側の他側部に形成された平面状の第2接合面(27c)と、
前記パーキングレバー(13)の前記他端に設けられ、前記第1回転規制部(131)と共に前記軸動部材(27)を両側部から挟み込むように前記第2接合面(27c)と接合して該軸動部材(27)の回転を規制する第2回転規制部(132)と、を備える電動駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記凸部(271)と前記作動面(131b)とが当接する前記当接部(P)の一方の当接面(271a)が凸曲面に形成され、
前記凸部(271)と前記作動面(131b)とが当接する当接部の他方の当接面(131c)が前記凸曲面の曲率半径より大きい曲率半径を有する凹曲面に形成されている電動駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記軸動部材(27)が前記作動方向直線運動と逆方向に直線運動するとき、前記軸動部材(27)が前記ブレーキシュー(11a)と当接することを防止するために、前記軸動部材(27)と前記パーキングレバー(13)との相対移動を所定範囲に規制する規制部(272)を備える電動駐車ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記凸部(271)と前記作動面(131b)とが当接する前記当接部(P)における運動伝達力の力線(F)が、前記回転部材(26)と前記軸動部材(27)との嵌合部の外周面(S)よりも内側に位置するように、前記当接部(P)が形成されている電動駐車ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−246960(P2012−246960A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117431(P2011−117431)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】