電圧変換回路の制御装置
【課題】フィードバック制御部46と制御対象(コンバータCNV)との一巡伝達関数の特性方程式の根は、一般に共役複素な根を有し、これに起因した共振周波数において、上記一巡伝達関数のゲインがピークとなる。そしてこれが、フィードバック制御においてオーバーシュートやアンダーシュートの要因となること。
【解決手段】フィードバック制御部46では、比例要素、積分要素および微分要素の出力同士の和としてフィードバック操作量mfbを算出し、開ループ制御部44では、開ループ操作量mffを算出する。これらフィードバック操作量mfbと開ループ操作量mffとの和が最終的な操作量(第1時比率m)とされる。積分ゲインKiは、開ループ操作量mffに応じて可変設定される。
【解決手段】フィードバック制御部46では、比例要素、積分要素および微分要素の出力同士の和としてフィードバック操作量mfbを算出し、開ループ制御部44では、開ループ操作量mffを算出する。これらフィードバック操作量mfbと開ループ操作量mffとの和が最終的な操作量(第1時比率m)とされる。積分ゲインKiは、開ループ操作量mffに応じて可変設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える電圧変換回路の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、たとえば下記特許文献1に見られるように、昇降圧チョッパ回路の出力電圧を操作するための時比率を、フィードフォワード操作量とフィードバック操作量との和として算出するものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−252591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記フィードバック制御器とプラント(昇降圧チョッパ回路のモデル)との一巡伝達関数の特性方程式の根は、一般に共役複素数を有し、これに起因した共振周波数において、上記一巡伝達関数のゲインがピークとなる。そしてこれが、フィードバック制御においてオーバーシュートやアンダーシュートの要因となる。これらオーバーシュートやアンダーシュートを抑制する上では、フィードバック制御器の応答性を低下させる必要がある一方、この場合には、昇降圧チョッパ回路の一度のオン・オフ操作期間において力行と回生とが入れ替わる際にサージの増大を招くことが発明者らによって見出されている。これは、力行と回生とが入れ替わる際のデッドタイム誤差に起因したノイズをフィードバック制御によって迅速に解消することができないためである。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで、前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える新たな電圧変換回路の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える電圧変換回路の制御装置において、前記制御手段のゲインおよび前記制御手段に入力される前記目標電圧の変化の少なくとも一方を前記時比率に応じて可変設定する可変手段を備えることを特徴とする。
【0008】
制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルの特性方程式は、時比率に依存する傾向にある。このため、時比率に応じてゲインを変更するなら、制御手段および制御対象からなる系を、都度の時比率において複素共役な根を有しない系とすることができる。一方、制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルが複素共役な特性根を有する場合であっても、目標電圧の変化の周波数成分から上記複素共役な根によって定まる共振周波数の成分を除去するなら、共振現象を好適に抑制することができる。このため、共振現象を回避しつつも制御手段の応答性を高めることなどが可能となる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記可変手段は、前記ゲインを前記時比率に応じて可変とするゲイン可変手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧にフィードバック制御するフィードバック制御手段を備え、前記ゲイン可変手段は、前記フィードバック制御のゲインを前記時比率に応じて可変とするフィードバックゲイン可変手段を備えることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、フィードバック制御の応答性を高く設計しつつも、共振現象を回避することができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであり、前記フィードバック制御手段は、比例要素、積分要素および微分要素の出力同士の和を前記フィードバック制御の操作量とするものであることを特徴とする。
【0013】
上記発明では、比例要素、積分要素および微分要素を備えることで、制御手段および制御対象(電圧変換回路)からなる系のモデルの特性根から共役複素数の根を容易に排除することができる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記ゲイン可変手段は、前記比例要素、前記積分要素および前記微分要素のうちの前記積分要素のゲインのみを前記時比率に応じて可変設定することを特徴とする。
【0015】
上記発明では、積分ゲインのみを時比率に応じて可変設定するという簡易な設定によって、制御手段および制御対象(電圧変換回路)からなる系のモデルの特性根から共役複素数の根を容易に排除することができる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項2または3のいずれか1項に記載の発明において、前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧に開ループ制御する開ループ制御手段を備え、前記ゲイン可変手段は、前記開ループ制御手段のゲインを前記時比率に応じて可変設定する開ループゲイン可変手段を備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、時比率を用いて開ループ制御のゲインを可変とすることで、電圧変換回路による出力電圧が変化する過渡時における操作量として適切な操作量を算出することができ、ひいては過渡時の制御性を向上させることができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記開ループゲイン可変手段は、前記時比率の更新周期の整数倍の周期で前記目標電圧および該目標電圧の変化速度のサンプリング値を取得し、該サンプリング値に基づき、時系列的に前後するタイミングにおける複数個の操作量を算出し、前記時比率の更新タイミングのうち時系列的に前後する前記複数個のタイミングのそれぞれにおいて前記複数個の操作量のそれぞれに基づき前記時比率を更新することを特徴とする。
【0019】
上記発明では、マルチレートサンプリング制御を採用することで、過渡時における操作量を好適に設定することができる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項2〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記ゲイン可変手段は、前記インダクタを流れる電流に応じて、前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする。
【0021】
インダクタのインダクタンスは、インダクタの磁気飽和現象に起因してインダクタを流れる電流量に応じて変動する。このため、制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルの特性根は、インダクタを流れる電流に応じて変動する。上記発明では、この点に鑑み、インダクタを流れる電流に応じてゲインを可変設定することで、制御手段および制御対象からなる系のモデルの特性根が共役複素な根となることをより的確に回避することができる。
【0022】
請求項9記載の発明において、請求項2〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記ゲイン可変手段は、前記電圧変換回路の出力電圧と出力電流との比によって定義される等価抵抗に応じて前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする。
【0023】
電圧変換回路は、外部との間で電力の授受を行なうものであるが故、制御対象(電圧方程式)のモデル化に際しては、電力の授受をも考慮することが望まれる。そして、これは、等価抵抗によってモデル化することが便宜である。ただしこの場合、制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルの特性根は、等価抵抗の値に応じて変動する。上記発明では、この点に鑑み、等価抵抗の値に応じてゲインを可変設定することで、制御手段および制御対象からなる系のモデルの特性根が共役複素な根となることをより的確に回避することができる。
【0024】
請求項10記載の発明は、請求項1〜3,6〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記可変手段は、前記時比率に応じて前記目標電圧の変化を可変とする目標変化可変手段を備え、前記目標変化可変手段は、前記目標電圧を入力してこれをフィルタ処理した後、前記制御手段に入力するノッチフィルタを備えて且つ、前記時比率に応じて前記ノッチフィルタの阻止帯域を可変とすることを特徴とする。
【0025】
上記発明では、ノッチフィルタを用いることで、制御手段に入力される目標電圧の変化から、制御手段および制御対象(電圧変換回路)からなる系のモデルの特性根が複素共役な根を有する場合におけるそれらに起因した共振周波数の成分を除去することができる。
【0026】
請求項11記載の発明は、請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする。
【0027】
上記電圧変換回路を制御対象とするなら、微分ゲインのみを時比率に応じて可変設定するという簡易な設定によって、制御手段および制御対象からなる系のモデルの特性根から共役複素数の根を容易に排除することも可能となる。
【0028】
請求項12記載の発明は、請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか一方が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか他方が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする。
【0029】
請求項13記載の発明は、請求項11または12記載の発明において、前記電圧変換回路は、非絶縁型コンバータであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるプラントモデルを示す図。
【図3】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図5】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図6】従来例を示すタイムチャート。
【図7】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図8】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図9】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図10】同実施形態にかかる操作量の更新手法を示すタイムチャート。
【図11】第5の実施形態にかかるシステム構成図。
【図12】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【図13】第7の実施形態にかかるシステム構成図。
【図14】第8の実施形態にかかるシステム構成図。
【図15】上記各実施形態の変形例にかかるコンバータの回路図。
【図16】上記各実施形態の変形例にかかるコンバータの回路図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる電圧変換回路の制御装置を車載主機として回転機を備えるシステムの電源に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0033】
図示されるモータジェネレータ10は、車載主機としての電動機兼発電機であり、その回転子が駆動輪に機械的に連結されている。モータジェネレータ10は、直流交流変換回路(インバータINV)および電圧変換回路(コンバータCNV)を介してバッテリ12に接続されている。
【0034】
コンバータCNVは、コンデンサ22、コンデンサ22に並列接続されたスイッチング素子Sp,Snの直列接続体、スイッチング素子Sp,Snの接続点と入力端子とを接続するインダクタ20、およびスイッチング素子Sp,Snに逆並列接続されるダイオードDp,Dnを備える周知の昇降圧チョッパ回路である。すなわち、昇圧処理は、スイッチング素子Snのオン操作によるインダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理と、スイッチング素子Snのオフ操作によるインダクタの磁気エネルギの漸減処理とを有し、これらにより、バッテリ12の端子電圧を昇圧してコンデンサ22に印加する。これに対し、降圧処理は、スイッチング素子Spのオン操作によるインダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理と、スイッチング素子Spのオフ操作によるインダクタの磁気エネルギの漸減処理とを有し、これらにより、コンデンサ22の充電電圧を降圧してバッテリ12に印加する。
【0035】
制御装置40は、コンバータCNVを制御対象とし、スイッチング素子Sp,Snを操作すべく、操作信号gp、gnを出力することで昇圧処理や降圧処理を行なう。特に、本実施形態では、スイッチング素子Sp,Snを交互にオン状態とすべく、操作信号gp,gnを相補信号とする。すなわち、デッドタイム期間を除き、いずれか一方がオン操作指令であって且つ他方がオフ操作指令となる信号とする。以下、スイッチング素子Sp,Snの操作信号gp、gnの生成処理について詳述する。
【0036】
開ループ制御部44には、コンバータCNVの出力電圧VHの指令値(目標電圧VH*)と、電圧センサ32によって検出されるバッテリ12の端子電圧(入力電圧VL)とが入力される。開ループ制御部44では、上記入力に基づき、開ループ操作量mffを算出する。本実施形態では、開ループ操作量mffを、スイッチング素子Spのオン・オフ操作の一周期に対するオン操作時間の時比率(第1時比率m)に関する操作量とする。開ループ操作量mffは、「VL/VH*」として算出されるものである。これは、コンバータCNVの定常状態において、第1時比率mおよび入力電圧VLと出力電圧VHとの関係を定める式に基づいている。
【0037】
すなわち、スイッチング素子Snのオン・オフ操作の1周期に対するスイッチング素子Snのオン時間の時比率(第2時比率d)を用いると、1周期におけるインダクタ20の磁気エネルギの変動量がゼロであることから、以下の式(c1)が成立する。
【0038】
VL・d=(VH−VL)・(1−d) …(c1)
この式を解くと、「d=1−(VL/VH)」が得られる。ここで、「m+d=1」より、第1時比率mに関する開ループ操作量mffは、「VL/VH*」となる。
【0039】
一方、フィードバック制御部46では、電圧センサ30によって検出されるコンデンサ22の充電電圧(出力電圧VH)に対する目標電圧VH*の差ΔVHを入力とし、フィードバック操作量mfbを算出する。ここで、フィードバック操作量mfbは、出力電圧VHを目標電圧VH*に制御するための操作量であって且つ、第1時比率に対応するものである。本実施形態では、上記差ΔVHを入力とする比例要素、積分要素、および微分要素の各出力同士の和をフィードバック操作量mfbとする。
【0040】
加算部48は、開ループ操作量mffとフィードバック操作量mfbとを加算することで、最終的な操作量である第1時比率mを算出する。
【0041】
PWM処理部50は、第1時比率mとキャリア信号Scとの大小比較に基づき、PWM信号pwmを生成する。ここで、キャリア信号Scは、PWM処理の周期Tuの間で漸減する期間と漸増する期間とを1つずつ有する三角波である。また、PWM信号pwmは、第1時比率mの方がキャリア信号Scよりも小さい場合に論理「H」となる信号である。
【0042】
操作信号生成部52では、PWM信号pwmに基づき、操作信号gp,gnを生成する。ここでは、基本的には、操作信号gnとPWM信号pwmとの論理を一致させて且つ、操作信号gpとPWM信号pwmとの論理を逆とする。この際、PWM信号pwmの立ち上がりエッジに対して、操作信号gp,gnのオン操作指令(論理「H」)への切替タイミングをデッドタイムDTだけ遅延させることでデッドタイム生成処理を併せて行なう。ちなみに、こうして生成された実際の操作信号gpのオン操作指令期間(論理「H」となる期間)は、第1時比率mによって指定される期間「m・Tu」よりもデッドタイムDTだけ短いものとなる。
【0043】
なお、本実施形態では、開ループ操作量mffとフィードバック操作量mfbとのそれぞれの更新周期と、入力電圧VL、出力電圧VHのサンプリング周期と、目標電圧VH*の更新周期とを、いずれもPWM処理の周期Tuとする。
【0044】
上記フィードバック制御部46は、比例ゲインKpおよび微分ゲインKdがともに、入力電圧VLに応じて可変設定されて且つ、積分ゲインKiが開ループ操作量mffおよび入力電圧VLに応じて可変設定される。以下、本実施形態にかかるフィードバック制御部46の設計について説明する。
【0045】
上記設計に際して、本実施形態では、制御対象(コンバータCNV)を、図2(a)に示す態様にてモデル化する。すなわち、インダクタ20のインダクタンスLに抵抗値rの抵抗体が直列接続されているとして、配線抵抗等をモデル化する。また、コンデンサ22に並列に抵抗値Rの負荷抵抗が接続されているとして、負荷(インバータINVおよびモータジェネレータ10)をモデル化する。
【0046】
この場合、デッドタイムDTを無視すると、図2(b)に示すように、スイッチング素子Snがオン状態となる期間「d・Tu」の間、バッテリ12、インダクタ20およびスイッチング素子Snを備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理がなされる。
【0047】
漸増処理がなされる期間においてインダクタ20に流れる電流iは、以下の式(c2)を満たす。
【0048】
L・(di/dt)+ri=VL …(c2)
この際、インダクタ20側からコンデンサ22側に電流が流れないことから、コンデンサ22の放電電流「−C・(dVH/dt)」による抵抗値Rの負荷抵抗における電圧降下量が出力電圧VHに等しくなるとして、以下の式(c3)が成立する。
【0049】
CR・(dVH/dt)+VH=0 …(c3)
したがって、漸増処理がなされる期間における状態変数x1=(i,VH)の状態方程式は、以下の式(c4)となる。
【0050】
【数1】
これに対し、図2(c)に示すように、スイッチング素子Snがオフ状態となる期間「(1−d)・Tu」の間、バッテリ12、インダクタ20、ダイオードDpおよびコンデンサ22を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸減処理がなされる。
【0051】
漸減処理がなされる期間においてインダクタ20に流れる電流iは、以下の式(c5)を満たす。
【0052】
L・(di/dt)+ri=VL−VH …(c5)
この際、インダクタ20を流れる電流iは、コンデンサ22の充電電流「C・(dVH/dt)」と抵抗値Rの負荷抵抗に流れる電流との和であることから、以下の式(c6)が成立する。
【0053】
C・(dVH/dt)+VH/R=i …(c6)
したがって、漸減処理がなされる期間における状態変数x2=(i,VH)の状態方程式は、以下の式(c7)となる。
【0054】
【数2】
上記の式(c4)および式(c7)から、周期Tuにおける平均的な状態変数x(=d・x1+(1−d)・x2)の状態方程式は、以下の式(c8)にて表現される。
【0055】
【数3】
上記の式(c8)において、状態変数x(i,VH)の電流iを消去して且つ第1時比率m(=1−d)を用いると、制御対象のモデルとして以下の式(c9)が導出できる。
【0056】
【数4】
上記の式(c9)にて示されるモデルを用いてフィードバック制御部46を設計する場合、安定性を確保する上では、フィードバック制御部46を備える閉ループ系(一巡伝達関数)の特性根の実数成分が全て負となることが必要である。ただし、この条件を満たす場合であっても、一般に、特性根は、複素共役な値となりうる。そして複素共役な根は、制御系の共振周波数を定めるものであり、制御器の応答がこの周波数と一致する場合には、オーバーシュートやアンダーシュートが生じる。本実施形態では、こうした事態を回避すべく、フィードバック制御部46を備える閉ループ系(一巡伝達関数)の特性根が複素共役となることを回避するように、フィードバック制御部46を設計する。特に、本実施形態では、閉ループ系を1次遅れ系「1/(τs+1):τは時定数」に設計する。
【0057】
すなわち、以下の式(c10)が成立するようにフィードバック制御部46を設計する。
【0058】
【数5】
したがって、以下の式(c11)〜(c13)が成立する。
【0059】
Kd=LC/(τVL) …(c11)
Kp=(L/R+rC)/(τVL) …(c12)
Ki=(r/R+m・m)/(τVL) …(c13)
ちなみに、本実施形態においてフィードバック制御部46をPID制御器としたのは、上記(c10)が成立するうえでPID制御器とする必要があったからである。すなわち、たとえばPI制御器としたのでは、上記の式(c10)が成立しない。
【0060】
上記の式(c11)〜(c13)によれば、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれも入力電圧VLに応じて変動する。これは、上記閉ループ系を1次遅れ系に設計する上では、バッテリ12の端子電圧の変動が無視できる場合を除き、フィードバック制御部46を入力電圧VLに応じて可変設定することが望ましいことを意味する。ここで、車載主機としてのモータジェネレータ10の電源となるバッテリ12の端子電圧は大きく変動するものである。このため、本実施形態では、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのそれぞれを入力電圧VLに応じて可変設定する。詳しくは、入力電圧VLが大きいほど、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの絶対値を減少させる。
【0061】
また、上記の式(c13)によれば、積分ゲインKiが第1時比率mに応じて変動する。これは、上記閉ループ系を1次遅れ系に設計する上では、第1時比率mの変動が無視できる場合を除き、フィードバック制御部46を入力電圧VLに応じて可変設定することが望ましいことを意味する。ここで、車載主機としてのモータジェネレータ10に接続されるインバータINVの直流電圧源の電圧(出力電圧VH)は、大きく変化させることが望まれるものであることから、第1時比率mも数十%の変動が要求される。このため、本実施形態では、積分ゲインKiを第1時比率mに応じて可変設定する。詳しくは、第1時比率mが大きいほど、積分ゲインKiの絶対値を増加させる。
【0062】
これにより、閉ループ系を1次遅れ系とすることができることから、共振に起因したオーバーシュートやアンダーシュートを抑制するためにフィードバック制御部46のゲイン(比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKd)を小さい値とすることを回避することができ、高応答の制御器とすることができる。
【0063】
図3に、本実施形態の効果を、フィードバック制御器をPI制御とする従来との対比によって示す。図示されるように、本実施形態では、フィードバックゲインを大きくすることで目標電圧VH*への追従性が向上しているにもかかわらず、オーバーシュートやアンダーシュートが好適に抑制される。
【0064】
図4に、昇圧処理(力行制御)と降圧処理(回生制御)とが混在する状況下における本実施形態の効果を、フィードバック制御器をPI制御とする従来との対比によって示す。ここで、昇圧処理と降圧処理とが混在する状況下においては、インダクタ20を流れる電流の符号が途中で変化するために、デッドタイムDTにおいて電流がダイオードDpを流れるのかダイオードDnを流れるのかがPWM処理の周期Tuの間で切り替わる。このため、この場合には、デッドタイムDTに起因した誤差の影響が特に顕著となりやすい。しかし、図示されるように、本実施形態によれば、デッドタイムに起因した制御誤差は、インダクタ20を流れる電流iがゼロとなる付近にかぎって生じるのみである。これは、フィードバック制御のゲインを大きくしたために、目標電圧VH*への追従性が向上したことによる。
【0065】
図5に、1巡伝達関数のゲイン線図を示す。図5(a)に示される本実施形態では、周波数の上昇に伴って上記比が徐々に低下し、共振周波数を有しない。これは、図5(b)に示される従来例とは対照的である。
【0066】
ここで、従来の制御器の問題点について、図6を用いて総括する。
【0067】
図6(a)は、従来の制御器を用いた場合について、その1巡伝達関数のゲイン線図を示す。図示されるように、従来では、共振周波数(上記比のピーク)が過度に大きくならないようにすべく、低周波数帯域におけるゲインの大きさを低減している。これは、図6(b)に示すオーバーシュート等を抑制するための設定である。ただし、この場合、応答性が低下するが故に、図6(c)に示すように、昇圧処理(力行制御)と降圧処理(回生制御)とが混在する状況下における制御性の低下が著しい。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0068】
図7に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図7において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0069】
図示されるように、本実施形態では、積分ゲインKiを、第1時比率m(開ループ操作量mffとフィードバック操作量mfbとの和)に基づき算出する。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0070】
図8に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図8において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0071】
本実施形態では、比例ゲインKpを、入力電圧VL、出力電圧VHおよび出力電流Ioutを入力として可変設定する。また、積分ゲインKiを、開ループ操作量mff、入力電圧VLおよび出力電流Ioutを入力として可変設定する。さらに、微分ゲインKdを、入力電圧VLおよび出力電流Ioutを入力として可変設定する。
【0072】
これは、第1に、インダクタ20のインダクタンスLが電流に応じて変動するためであり、第2に、先の図2に示したモデルにおける負荷抵抗の抵抗値Rが変動するためである。
【0073】
すなわち、磁気飽和に起因してインダクタンスLが変動すると、上記の式(c11),(c12)にて表現される比例ゲインKpおよび微分ゲインKdが変動する。このため、出力電流Ioutを入力として、インダクタンスLの変化に応じて比例ゲインKpおよび微分ゲインKdを可変設定する。詳しくは、出力電流Ioutが大きいほど、インダクタンスLが小さくなることに鑑み、微分ゲインKdおよび比例ゲインKpの絶対値を減少させる。
【0074】
一方、負荷抵抗の抵抗値Rが変動すると、上記の式(c12)、(c13)にて表現される比例ゲインKpおよび積分ゲインKiが変動する。負荷抵抗の抵抗値Rは、コンバータCNVの出力電圧VHと出力電流Ioutとの比に等価な抵抗(等価抵抗)の抵抗値であることから、この抵抗値Rは、出力電圧VHおよび出力電流Ioutを入力として把握することができる。そして、抵抗値Rが大きいほど、比例ゲインKp,および積分ゲインKiのそれぞれの絶対値を減少させる。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0075】
図9に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図9において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0076】
本実施形態では、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdを固定値とする。これに代えて、本実施形態では、開ループ制御部44のゲインを第1時比率mに応じて可変設定する。以下、開ループ制御部44の設計について説明する。
【0077】
上記の式(c9)において、演算子「s」を「d/dt」とし、変形することで、以下の式(c14)を得る。なお、下記の式(c14)において、連続系の状態変数であることを、状態変数xc(c:continuance)によって明記した。
【0078】
【数6】
上記の状態方程式は、可制御正準系であるため、逆写像が存在し、出力電圧VHに基づき第1時比率mを表現することができる。そして、これは、上記の式(c1)に示したものとは相違すると考えられる。なぜなら、先の図2に示したモデルを用いた考察では、PWM処理の1周期Tuにおけるインダクタ20の磁束の変動量がゼロとなることは仮定されていないためである。そしてこの仮定がないために、上記の式(c14)を用いて算出される第1時比率mは、上記仮定が成立しない過渡時における操作量として適切な値となると考えられる。
【0079】
本実施形態では、上記の式(c14)にて表現される状態方程式を離散化するに際し、開ループ制御部44においてマルチレートサンプリング制御を行なうべく、以下の変形をする。なお、下記の式においては、離散系の状態変数xsであることを特に明記した。
【0080】
【数7】
ここで、本実施形態では、目標電圧VH*の更新周期(周期Tu)の間に、開ループ操作量mffを2度変更するマルチレートサンプリング制御を行なうべく、上記の式(c14)において、「m(k),m(k+1)」を「mff(k0),mff(k1)」とする。これにより、以下の式(c15)が得られる。
【0081】
【数8】
上記の式(c15)の積分区間等が上記の式(c14)から変更されていることに留意されたい。
【0082】
上記の式(c15)を用いることで、図10に示すように、目標電圧VH*(k)が更新されると、まずこれに応じて開ループ操作量mff(k0)によって開ループ操作量が更新されるとともに、フィードバック操作量mfbも更新される。また、「Tu/2」の経過時に、開ループ操作量mff(k1)によって開ループ操作量が更新される。ただし、この際、フィードバック操作量mfbは更新されない。そして、1周期Tuの経過時に、目標電圧VH*(k+1)が更新されることで、開ループ操作量とフィードバック操作量の双方が更新されることとなる。
【0083】
このマルチレートサンプリング制御を用いることで、開ループ制御による過渡時の制御性を向上させることができる。このため、高応答で目標電圧VH*に追従する制御が可能となり、ひいては目標電圧VH*が急変する状況下における制御性を向上させたりすることができる。
【0084】
なお、上記の式(c15)における行列Aは、第1時比率mの関数である。このため、本実施形態にかかる開ループ制御部44のゲインは、第1時比率mに応じて可変設定されることとなる。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0085】
図11に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図11において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0086】
本実施形態では、フィードバック制御部46を、PI制御器とし、比例ゲインKpおよび積分ゲインKiを固定値とする。これに代えて、本実施形態では、開ループ制御部44およびフィードバック制御部46に目標電圧VH*が入力されるに際し、これをノッチフィルタ43によってフィルタ処理する。
【0087】
ここで、ノッチフィルタ43は、以下の式(c16)にて表現される。
【0088】
【数9】
本実施形態では、上記の式(c16)にて表現されるノッチフィルタ43のパラメータξ,ωを第1時比率mに応じて可変設定する。これは、次の理由による。
【0089】
フィードバック制御部46および制御対象(コンバータCNV)を備える閉ループ系の伝達関数(1巡伝達関数)は、以下の式(c17)にて表現される。
【0090】
【数10】
上記の式(c18)の特性根は、実数部分を全て負とする場合、共役複素数の根を有し得る。これは、「s」の3次、2次、1次および0次の全ての項の係数が正だからである。ここで、共役複素な解によって定まる共振周波数帯域を、上記ノッチフィルタ43の阻止帯域(信号を透過させない(減衰させる)周波数帯域)とする。ここで、共振周波数帯域は、第1時比率mに応じて変化する。このため、阻止帯域を第1時比率mに応じて可変設定する。
【0091】
これにより、フィードバック制御部46の制御が共振周波数に起因してオーバーシュートやアンダーシュートを生じることを好適に抑制することができる。すなわち、たとえば目標電圧VH*をステップ状に変化させる場合、ステップ関数のフーリエ展開から明らかなように、この目標電圧VH*の変化はあらゆる周波数成分を含む。このため、上記の式(c17)の特性根から定まる共振周波数成分をも含む。このため、ノッチフィルタ43を備えない場合、フィードバック制御部46は、共振周波数に起因したオーバーシュートやアンダーシュートを生じさせやすい。これに対し、ノッチフィルタ43を備えて、目標電圧VH*の変化から共振周波数成分を除去することで、共振周波数に起因した問題の抑制を図る。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0092】
図12に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図12において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0093】
本実施形態では、コンバータCNVとして、フルブリッジ型のものを用いる。すなわち、バッテリ12(正極側および負極側の入力端子)には、スイッチング素子Sp1,Sn1の直列接続体が接続されており、コンデンサ22(正極側および負極側の出力端子)には、スイッチング素子Sp2,Sn2の直列接続体が接続されている。そして、スイッチング素子Sp1,Sn1の接続点とスイッチング素子Sp2,Sn2の接続点との間には、インダクタ20が接続されている。なお、スイッチング素子Sn1,Sn2の出力端子は互いに短絡されている。
【0094】
こうした構成によれば、スイッチング素子Sp1,Sn2をオン状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオフ状態とする処理と、スイッチング素子Sp1,Sn2をオフ状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオン状態とする処理との一対の処理について、それらを交互に行なうことで、昇圧処理や降圧処理を行なうことができる。すなわち、スイッチング素子Sp1,Sn2をオン状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオフ状態とする処理によって、バッテリ12、スイッチング素子Sp1、インダクタ20およびスイッチング素子Sn2を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理がなされる。一方、スイッチング素子Sp1,Sn2をオフ状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオン状態とする処理の処理によって、インダクタ20、スイッチング素子Sp2(ダイオードDp2),コンデンサ22およびスイッチング素子Sn1(ダイオードDn1)を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸減処理がなされる。
【0095】
ここで、開ループ制御部44は、開ループ操作量mffを「VL/(VL+VH*)」に設定する。これは、PWM処理の周期Tuにおいてインダクタ20の磁束の変動量がゼロとなる条件から求められるものである。
【0096】
また、フィードバック制御部46は、PID制御器であり、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが入力電圧VLおよび第1時比率mに応じて可変設定される。これは、制御対象(コンバータCNV)とフィードバック制御部46とからなる閉ループ系を1次遅れ系に設計するための設定である。
【0097】
すなわち、この場合、磁気エネルギの漸減処理期間において、上記の式(c5)における入力電圧VLを削除したものによってモデルを表現できる(式(c2),(c3),(c6)はそのまま成立する)。このため、上記の式(c8)の右辺第2項の「1/L」が「d/L」に変更される。これにより、以下の式(c18)が成立する。
【0098】
【数11】
この式(c18)は、上記の式(c9)において「VL→VLd」の変更を施したものとなっている。このため、上記の式(c11)〜(c13)においてもこの変更を施すことで、1次遅れ系が設計できる。そして、これにより、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが第2時比率dに依存することがわかる。ここで、「d=1−m」であるから、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの全てを、第1時比率mを入力として可変設定することで、第1時比率mの変動に関わらず1次遅れ系とすることが可能となる。
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0099】
図13に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図13において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0100】
図示されるように、本実施形態にかかるコンバータCNVは、スイッチング素子Spおよびスイッチング素子Snの接続点とバッテリ12の正極との間に接続されたインダクタ20aと、インダクタ20aおよびスイッチング素子Snの接続点とスイッチング素子Spとの間に接続されたインダクタ20bとを備える。これにより、磁気エネルギの漸増処理時において磁束を漸増させるためのインダクタ(力行時にはインダクタ20a単独)のインダクタンスは、磁気エネルギの漸減処理において磁束を漸減させるためのインダクタ(力行時にはインダクタ20a,20b)のインダクタンスと相違する。
【0101】
ここで、開ループ制御部44では、開ループ操作量mffを「(1+n)VL/(VH*−VL)」と算出する。ただし、巻数比nは、インダクタ20aの巻数N1とインダクタ20bの巻数N2との比「N1/N2」である。開ループ操作量mffは、磁気エネルギの変動量が周期Tuでゼロとなるとの条件によって定まる値である。
【0102】
また、フィードバック制御部46は、PID制御器であり、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが入力電圧VLおよび第1時比率mに応じて可変設定される。これは、制御対象(コンバータCNV)とフィードバック制御部46とからなる閉ループ系を1次遅れ系に設計するための設定である。
【0103】
この系は、磁気エネルギの漸増処理と、漸減処理とでインダクタンスが相違することが、先の図1に示したモデルからの変更点である。このため、インダクタ20a,20bのそれぞれのインダクタンスL1,L2を用いると、以下の式(c19)が成立する。
【0104】
【数12】
上記の式(c19)は、上記の式(c9)において「L→L0,m・m→L0m・m/L3」とする変更を施したものである。このため、上記の式(c11)〜(c13)においてもこの変更を施すことで、1次遅れ系が設計できる。そして、これにより、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが第2時比率dに依存することがわかる。ここで、「d=1−m」であるから、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの全てを、第1時比率mを入力として可変設定することで、第1時比率mの変動に関わらず1次遅れ系とすることが可能となる。
<第8の実施形態>
以下、第8の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0105】
図14に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図14において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0106】
図示にされるように、本実施形態では、コンバータCNVとして絶縁型のものを用いる。特に本実施形態では、フライバックコンバータを用いる。このコンバータCNVでは、スイッチング素子S1がオンとされる期間において、バッテリ12、トランスTの1次側コイルW1およびスイッチング素子S1を備えるループ経路に電流が流れ、トランスTの磁気エネルギが漸増する。ただし、この期間においては、トランスTの2次側コイルW2からコンデンサ22に電流を出力しない。これに対し、スイッチング素子S1がオフとされる期間においては、2次側コイル、ダイオードDおよびコンデンサ22を備えるループ経路に電流が流れ、トランスTの磁気エネルギが漸減する。
【0107】
ここで、1次側コイルW1と2次側コイルW2とで巻数が同じ場合には、等価回路を先の第6の実施形態(図12)とみなすことができる。このため、第6の実施形態の要領で、フィードバックゲインを設計することができる。また、1次側コイルW1と2次側コイルW2とで巻数が相違する場合、磁気エネルギを漸増させる期間と漸減させる期間とで、インダクタンスが相違するとみなせば、上記第1の実施形態に対する上記第7の実施形態(図13)の変更を、上記第6の実施形態(図12)に対して行なうことでフィードバックゲインを設計することができる。
【0108】
なお、開ループ操作量mffは、「VL/(nVH*+VL)」とする。ただし、巻数比nは、トランスTの1次側コイルW1の巻数N1と2次側コイルW2の巻数N2との比「N1/N2」である。ちなみに、第1時比率mは、スイッチング素子S1のオン・オフの1周期に対する「オフ」時間の時比率である。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0109】
「フィードバックゲイン可変手段について」
上記第1〜第3の実施形態においては、比例ゲインKp,積分ゲインKi,微分ゲインKdをモデルから求めたがこれに限らない。たとえば、試作品等を用いて試験運転をする際に適合によって算出してもよい。この場合であっても、積分ゲインKiのみを第1時比率mによって可変設定することで共振周波数に起因したオーバーシュート等の回避が可能であるという上述した知見を用いるなら、その適合を容易とすることができる。
【0110】
上記第1〜第3の実施形態において、比例ゲインKp、積分ゲインKi,および微分ゲインKdの全てを第1時比率mに応じて可変設定してもよい。これは、上記の式(c10)におけるプラントP(s)の入力(操作量)を第2時比率dとした場合、上記の式(c10)の右辺に「m/d」を乗算したものがプラントP(s)の伝達関数となることに鑑みたものである。すなわち、この場合、1巡伝達関数を1次遅れ系にするうえでは、比例ゲインKp、積分ゲインKi、および微分ゲインKdの「VL」を「VL・m/d」に変更する必要があり、比例ゲインKp、積分ゲインKi,および微分ゲインKdの全てが第1時比率mに依存する。
【0111】
「フィードバックゲインによる閉ループ特性の設計について」
1次遅れ系に限らない。たとえば特性根が重根を有する2次遅れ系に設計してもよい。この場合であっても、共振周波数が存在しないため、共振現象を回避することができる。
【0112】
「開ループゲイン可変手段について」
入力パラメータ(目標電圧VH*およびその変化速度dVH*/dt)の更新周期を、開ループ操作量mffの更新周期の2倍とするものに限らない。上記の式(c14)の導出過程に鑑みるなら、入力(第1時比率m)を時系列的に前後する3つ以上の入力とすることも可能であることから、変化速度dVH/dtの更新周期を、開ループ操作量mffの更新周期の3倍以上とすることも勿論可能である。同様に、入力(第1時比率m)を1つとすることも可能であることから、変化速度dVH/dtの更新周期を、開ループ操作量mffの更新周期と一致させることも勿論可能である。
【0113】
上記第6〜第9の実施形態(図12〜図15)にかかるコンバータにおいて、上記第4の実施形態の要領で、開ループゲイン可変手段を搭載してもよい。
【0114】
「フィードバック操作量mfbと開ループ操作量mffとの更新タイミングについて」
上記第1〜第3の実施形態では、これらを同一としたがこれに限らない。また、互いの更新周期も相違してよい。
【0115】
上記第4の実施形態では、フィードバック操作量mfbの更新周期を開ループ操作量mffの更新周期の2倍としたがこれに限らず、たとえばそれらを一致させてもよい。
【0116】
「目標変化可変手段について」
上記第6〜第8の実施形態(図12〜図14)にかかるコンバータにおいて、上記第5の実施形態(図11)の要領で、目標電圧VH*をノッチフィルタ43にてフィルタ処理してもよい。上記第5の実施形態(図11)において、開ループ制御部44については、フィルタ処理のなされていない目標電圧VH*を入力してもよい。
【0117】
「等価抵抗情報の取得について」
上記第3の実施形態では、出力電流Ioutと出力電圧VHとを入力として等価抵抗を把握したが、これに限らない。たとえば、出力(パワー)と出力電圧とを入力としてもよい。また、たとえばモータジェネレータ10の要求トルクと回転速度と、出力電圧とを入力としてもよい。もっとも、モータジェネレータ10の要求トルクと回転速度とに応じて目標電圧VH*が一義的に定まるなら、モータジェネレータ10の要求トルクと回転速度とのみから等価抵抗を高精度に把握することができる。
【0118】
「インダクタンス情報の取得について」
上記第3の実施形態では、出力電流Ioutを入力として、インダクタ20のインダクタンスを把握したがこれに限らない。たとえば、出力(パワー)と出力電圧とを入力としてもよい。
【0119】
「ゲイン可変手段について」
上記第4の実施形態にかかるフィードバック制御部46として、上記第1の実施形態にかかるフィードバック制御部46を採用してもよい。また、上記第4の実施形態において、等価抵抗の変動やインダクタンスの変動を考慮して開ループ操作量mffを設定してもよい。
【0120】
「可変手段について」
上記第4の実施形態にかかるフィードバック制御部46として、上記第1の実施形態にかかるフィードバック制御部46を採用し、この際、上記第5の実施形態にかかるノッチフィルタ43を備えてもよい。
【0121】
上記第5の実施形態にかかるフィードバック制御部46として、上記第1の実施形態にかかるフィードバック制御部46を採用してもよい。また、上記第5の実施形態にかかる開ループ制御部44として、上記第4の実施形態にかかる開ループ制御部44を採用してもよい。
【0122】
「制御手段について」
上記第1〜第3の実施形態において、開ループ制御手段(開ループ制御部44)を削除してもよい。また、上記第4の実施形態においてフィードバック制御手段(フィードバック制御部46)を削除してもよい。
【0123】
「非絶縁型コンバータについて」
上記実施形態で例示したものに限らず、たとえば図15に示す昇降圧コンバータであってもよい。なお、図15において、先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。このコンバータは、正極側入力端子(バッテリ12の正極)と負極側出力端子(コンデンサ22の負極)との間に、スイッチング素子S1,S2を備えており、これらのそれぞれにはダイオードD1,D2が接続されている。また、スイッチング素子S1,S2の接続点と負極側入力端子(バッテリ12の負極)との間には、インダクタ20が設けられている。このコンバータの場合、スイッチング素子S1がオンとなることで、インダクタ20に入力電圧VLが印加され、スイッチング素子S2がオンとなることで、インダクタ20に出力電圧VHが印加されることから、先の第6の実施形態(図12)と同様のプラントモデルを採用することができる。このため、第6の実施形態の要領で、フィードバックゲインを設計することができる。
【0124】
「絶縁型コンバータについて」
上記実施形態で例示したものに限らず、たとえば図16に示すフォワードコンバータであってもよい。この場合、スイッチング素子S1がオン操作されることで、バッテリ12、トランスTの1次側コイルW1、およびスイッチング素子S1の閉ループ経路に電流が流れる。この際、トランスTの2次側コイルW2には、1次側コイルW1の巻数N1と2次側コイルW2の巻数N2との比(巻数比n)に応じた電圧「nVL」が印加され、これにより、2次側コイルW2、ダイオードD1、インダクタ20およびコンデンサ22を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギの漸増処理がなされる。これに対し、スイッチング素子S1がオフとされる場合、インダクタ20、コンデンサ22およびダイオードD2を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸減処理がなされる。
【0125】
この場合であっても、フィードバック制御部46を、PID制御器とし、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdを入力電圧VLおよび第1時比率mに応じて可変設定してもよい。これは、以下の理由による。
【0126】
フィードバック制御部46の設計に際して、2次側のみをモデル化することを考えると、インダクタ20の磁気エネルギの漸増処理に際して2次側コイルW2に「nVL」の電圧が誘起されることから、端子電圧「nVL」のバッテリが接続されているとみなすことができる。
【0127】
この構成をモデル化すると、以下の式(c20)が成立する。
【0128】
【数13】
この式(c20)からわかるように、操作量を第2時比率dとすると、制御対象は時比率に依存しない。ただし、操作量を第1時比率mとすると、制御対象は、上記の式(c20)に「1/m」を乗算したものとなる。そして、この場合、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのそれぞれを第1時比率mまたは第2時比率dを入力として可変設定することが、制御対象と制御器とを備える閉ループ系を1次遅れ系とするうえで望ましいものとなる。
【0129】
もっとも、図16に示すコンバータのモデルの考察からわかるように、インダクタの磁気エネルギの漸増処理および漸減処理のいずれか一方においてインダクタに出力電圧(負荷が接続される側の直流電圧)が印加されないコンバータを制御対象とする場合に、モデルが時比率に依存しやすいと考えられる。このため、こうしたコンバータを採用する場合には、時比率に応じてフィードバックゲインや開ループ制御のゲインを可変としたり、ノッチフィルタを用いたりすることが特に有効である。こうした絶縁型のコンバータとしては、たとえば1次側コイルおよび2次側コイルのそれぞれが一対のコイルの直列接続体からなって且つ、一対の1次側コイルが交互にエネルギ蓄積コイルの役割を果たすフライバックトランスとして機能するものがある。
【符号の説明】
【0130】
CNV…コンバータ(電圧変換回路の一実施形態)、40…制御装置、44…開ループ制御部、46…フィードバック制御部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える電圧変換回路の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、たとえば下記特許文献1に見られるように、昇降圧チョッパ回路の出力電圧を操作するための時比率を、フィードフォワード操作量とフィードバック操作量との和として算出するものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−252591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記フィードバック制御器とプラント(昇降圧チョッパ回路のモデル)との一巡伝達関数の特性方程式の根は、一般に共役複素数を有し、これに起因した共振周波数において、上記一巡伝達関数のゲインがピークとなる。そしてこれが、フィードバック制御においてオーバーシュートやアンダーシュートの要因となる。これらオーバーシュートやアンダーシュートを抑制する上では、フィードバック制御器の応答性を低下させる必要がある一方、この場合には、昇降圧チョッパ回路の一度のオン・オフ操作期間において力行と回生とが入れ替わる際にサージの増大を招くことが発明者らによって見出されている。これは、力行と回生とが入れ替わる際のデッドタイム誤差に起因したノイズをフィードバック制御によって迅速に解消することができないためである。
【0005】
本発明は、上記課題を解決する過程でなされたものであり、その目的は、スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで、前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える新たな電圧変換回路の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、およびその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える電圧変換回路の制御装置において、前記制御手段のゲインおよび前記制御手段に入力される前記目標電圧の変化の少なくとも一方を前記時比率に応じて可変設定する可変手段を備えることを特徴とする。
【0008】
制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルの特性方程式は、時比率に依存する傾向にある。このため、時比率に応じてゲインを変更するなら、制御手段および制御対象からなる系を、都度の時比率において複素共役な根を有しない系とすることができる。一方、制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルが複素共役な特性根を有する場合であっても、目標電圧の変化の周波数成分から上記複素共役な根によって定まる共振周波数の成分を除去するなら、共振現象を好適に抑制することができる。このため、共振現象を回避しつつも制御手段の応答性を高めることなどが可能となる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記可変手段は、前記ゲインを前記時比率に応じて可変とするゲイン可変手段を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧にフィードバック制御するフィードバック制御手段を備え、前記ゲイン可変手段は、前記フィードバック制御のゲインを前記時比率に応じて可変とするフィードバックゲイン可変手段を備えることを特徴とする。
【0011】
上記発明では、フィードバック制御の応答性を高く設計しつつも、共振現象を回避することができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであり、前記フィードバック制御手段は、比例要素、積分要素および微分要素の出力同士の和を前記フィードバック制御の操作量とするものであることを特徴とする。
【0013】
上記発明では、比例要素、積分要素および微分要素を備えることで、制御手段および制御対象(電圧変換回路)からなる系のモデルの特性根から共役複素数の根を容易に排除することができる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記ゲイン可変手段は、前記比例要素、前記積分要素および前記微分要素のうちの前記積分要素のゲインのみを前記時比率に応じて可変設定することを特徴とする。
【0015】
上記発明では、積分ゲインのみを時比率に応じて可変設定するという簡易な設定によって、制御手段および制御対象(電圧変換回路)からなる系のモデルの特性根から共役複素数の根を容易に排除することができる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項2または3のいずれか1項に記載の発明において、前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧に開ループ制御する開ループ制御手段を備え、前記ゲイン可変手段は、前記開ループ制御手段のゲインを前記時比率に応じて可変設定する開ループゲイン可変手段を備えることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、時比率を用いて開ループ制御のゲインを可変とすることで、電圧変換回路による出力電圧が変化する過渡時における操作量として適切な操作量を算出することができ、ひいては過渡時の制御性を向上させることができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の発明において、前記開ループゲイン可変手段は、前記時比率の更新周期の整数倍の周期で前記目標電圧および該目標電圧の変化速度のサンプリング値を取得し、該サンプリング値に基づき、時系列的に前後するタイミングにおける複数個の操作量を算出し、前記時比率の更新タイミングのうち時系列的に前後する前記複数個のタイミングのそれぞれにおいて前記複数個の操作量のそれぞれに基づき前記時比率を更新することを特徴とする。
【0019】
上記発明では、マルチレートサンプリング制御を採用することで、過渡時における操作量を好適に設定することができる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項2〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記ゲイン可変手段は、前記インダクタを流れる電流に応じて、前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする。
【0021】
インダクタのインダクタンスは、インダクタの磁気飽和現象に起因してインダクタを流れる電流量に応じて変動する。このため、制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルの特性根は、インダクタを流れる電流に応じて変動する。上記発明では、この点に鑑み、インダクタを流れる電流に応じてゲインを可変設定することで、制御手段および制御対象からなる系のモデルの特性根が共役複素な根となることをより的確に回避することができる。
【0022】
請求項9記載の発明において、請求項2〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記ゲイン可変手段は、前記電圧変換回路の出力電圧と出力電流との比によって定義される等価抵抗に応じて前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする。
【0023】
電圧変換回路は、外部との間で電力の授受を行なうものであるが故、制御対象(電圧方程式)のモデル化に際しては、電力の授受をも考慮することが望まれる。そして、これは、等価抵抗によってモデル化することが便宜である。ただしこの場合、制御対象(電圧変換回路)および制御手段のモデルの特性根は、等価抵抗の値に応じて変動する。上記発明では、この点に鑑み、等価抵抗の値に応じてゲインを可変設定することで、制御手段および制御対象からなる系のモデルの特性根が共役複素な根となることをより的確に回避することができる。
【0024】
請求項10記載の発明は、請求項1〜3,6〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記可変手段は、前記時比率に応じて前記目標電圧の変化を可変とする目標変化可変手段を備え、前記目標変化可変手段は、前記目標電圧を入力してこれをフィルタ処理した後、前記制御手段に入力するノッチフィルタを備えて且つ、前記時比率に応じて前記ノッチフィルタの阻止帯域を可変とすることを特徴とする。
【0025】
上記発明では、ノッチフィルタを用いることで、制御手段に入力される目標電圧の変化から、制御手段および制御対象(電圧変換回路)からなる系のモデルの特性根が複素共役な根を有する場合におけるそれらに起因した共振周波数の成分を除去することができる。
【0026】
請求項11記載の発明は、請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする。
【0027】
上記電圧変換回路を制御対象とするなら、微分ゲインのみを時比率に応じて可変設定するという簡易な設定によって、制御手段および制御対象からなる系のモデルの特性根から共役複素数の根を容易に排除することも可能となる。
【0028】
請求項12記載の発明は、請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の発明において、前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか一方が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか他方が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする。
【0029】
請求項13記載の発明は、請求項11または12記載の発明において、前記電圧変換回路は、非絶縁型コンバータであることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるプラントモデルを示す図。
【図3】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図4】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図5】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図6】従来例を示すタイムチャート。
【図7】第2の実施形態にかかるシステム構成図。
【図8】第3の実施形態にかかるシステム構成図。
【図9】第4の実施形態にかかるシステム構成図。
【図10】同実施形態にかかる操作量の更新手法を示すタイムチャート。
【図11】第5の実施形態にかかるシステム構成図。
【図12】第6の実施形態にかかるシステム構成図。
【図13】第7の実施形態にかかるシステム構成図。
【図14】第8の実施形態にかかるシステム構成図。
【図15】上記各実施形態の変形例にかかるコンバータの回路図。
【図16】上記各実施形態の変形例にかかるコンバータの回路図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1の実施形態>
以下、本発明にかかる電圧変換回路の制御装置を車載主機として回転機を備えるシステムの電源に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0033】
図示されるモータジェネレータ10は、車載主機としての電動機兼発電機であり、その回転子が駆動輪に機械的に連結されている。モータジェネレータ10は、直流交流変換回路(インバータINV)および電圧変換回路(コンバータCNV)を介してバッテリ12に接続されている。
【0034】
コンバータCNVは、コンデンサ22、コンデンサ22に並列接続されたスイッチング素子Sp,Snの直列接続体、スイッチング素子Sp,Snの接続点と入力端子とを接続するインダクタ20、およびスイッチング素子Sp,Snに逆並列接続されるダイオードDp,Dnを備える周知の昇降圧チョッパ回路である。すなわち、昇圧処理は、スイッチング素子Snのオン操作によるインダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理と、スイッチング素子Snのオフ操作によるインダクタの磁気エネルギの漸減処理とを有し、これらにより、バッテリ12の端子電圧を昇圧してコンデンサ22に印加する。これに対し、降圧処理は、スイッチング素子Spのオン操作によるインダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理と、スイッチング素子Spのオフ操作によるインダクタの磁気エネルギの漸減処理とを有し、これらにより、コンデンサ22の充電電圧を降圧してバッテリ12に印加する。
【0035】
制御装置40は、コンバータCNVを制御対象とし、スイッチング素子Sp,Snを操作すべく、操作信号gp、gnを出力することで昇圧処理や降圧処理を行なう。特に、本実施形態では、スイッチング素子Sp,Snを交互にオン状態とすべく、操作信号gp,gnを相補信号とする。すなわち、デッドタイム期間を除き、いずれか一方がオン操作指令であって且つ他方がオフ操作指令となる信号とする。以下、スイッチング素子Sp,Snの操作信号gp、gnの生成処理について詳述する。
【0036】
開ループ制御部44には、コンバータCNVの出力電圧VHの指令値(目標電圧VH*)と、電圧センサ32によって検出されるバッテリ12の端子電圧(入力電圧VL)とが入力される。開ループ制御部44では、上記入力に基づき、開ループ操作量mffを算出する。本実施形態では、開ループ操作量mffを、スイッチング素子Spのオン・オフ操作の一周期に対するオン操作時間の時比率(第1時比率m)に関する操作量とする。開ループ操作量mffは、「VL/VH*」として算出されるものである。これは、コンバータCNVの定常状態において、第1時比率mおよび入力電圧VLと出力電圧VHとの関係を定める式に基づいている。
【0037】
すなわち、スイッチング素子Snのオン・オフ操作の1周期に対するスイッチング素子Snのオン時間の時比率(第2時比率d)を用いると、1周期におけるインダクタ20の磁気エネルギの変動量がゼロであることから、以下の式(c1)が成立する。
【0038】
VL・d=(VH−VL)・(1−d) …(c1)
この式を解くと、「d=1−(VL/VH)」が得られる。ここで、「m+d=1」より、第1時比率mに関する開ループ操作量mffは、「VL/VH*」となる。
【0039】
一方、フィードバック制御部46では、電圧センサ30によって検出されるコンデンサ22の充電電圧(出力電圧VH)に対する目標電圧VH*の差ΔVHを入力とし、フィードバック操作量mfbを算出する。ここで、フィードバック操作量mfbは、出力電圧VHを目標電圧VH*に制御するための操作量であって且つ、第1時比率に対応するものである。本実施形態では、上記差ΔVHを入力とする比例要素、積分要素、および微分要素の各出力同士の和をフィードバック操作量mfbとする。
【0040】
加算部48は、開ループ操作量mffとフィードバック操作量mfbとを加算することで、最終的な操作量である第1時比率mを算出する。
【0041】
PWM処理部50は、第1時比率mとキャリア信号Scとの大小比較に基づき、PWM信号pwmを生成する。ここで、キャリア信号Scは、PWM処理の周期Tuの間で漸減する期間と漸増する期間とを1つずつ有する三角波である。また、PWM信号pwmは、第1時比率mの方がキャリア信号Scよりも小さい場合に論理「H」となる信号である。
【0042】
操作信号生成部52では、PWM信号pwmに基づき、操作信号gp,gnを生成する。ここでは、基本的には、操作信号gnとPWM信号pwmとの論理を一致させて且つ、操作信号gpとPWM信号pwmとの論理を逆とする。この際、PWM信号pwmの立ち上がりエッジに対して、操作信号gp,gnのオン操作指令(論理「H」)への切替タイミングをデッドタイムDTだけ遅延させることでデッドタイム生成処理を併せて行なう。ちなみに、こうして生成された実際の操作信号gpのオン操作指令期間(論理「H」となる期間)は、第1時比率mによって指定される期間「m・Tu」よりもデッドタイムDTだけ短いものとなる。
【0043】
なお、本実施形態では、開ループ操作量mffとフィードバック操作量mfbとのそれぞれの更新周期と、入力電圧VL、出力電圧VHのサンプリング周期と、目標電圧VH*の更新周期とを、いずれもPWM処理の周期Tuとする。
【0044】
上記フィードバック制御部46は、比例ゲインKpおよび微分ゲインKdがともに、入力電圧VLに応じて可変設定されて且つ、積分ゲインKiが開ループ操作量mffおよび入力電圧VLに応じて可変設定される。以下、本実施形態にかかるフィードバック制御部46の設計について説明する。
【0045】
上記設計に際して、本実施形態では、制御対象(コンバータCNV)を、図2(a)に示す態様にてモデル化する。すなわち、インダクタ20のインダクタンスLに抵抗値rの抵抗体が直列接続されているとして、配線抵抗等をモデル化する。また、コンデンサ22に並列に抵抗値Rの負荷抵抗が接続されているとして、負荷(インバータINVおよびモータジェネレータ10)をモデル化する。
【0046】
この場合、デッドタイムDTを無視すると、図2(b)に示すように、スイッチング素子Snがオン状態となる期間「d・Tu」の間、バッテリ12、インダクタ20およびスイッチング素子Snを備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理がなされる。
【0047】
漸増処理がなされる期間においてインダクタ20に流れる電流iは、以下の式(c2)を満たす。
【0048】
L・(di/dt)+ri=VL …(c2)
この際、インダクタ20側からコンデンサ22側に電流が流れないことから、コンデンサ22の放電電流「−C・(dVH/dt)」による抵抗値Rの負荷抵抗における電圧降下量が出力電圧VHに等しくなるとして、以下の式(c3)が成立する。
【0049】
CR・(dVH/dt)+VH=0 …(c3)
したがって、漸増処理がなされる期間における状態変数x1=(i,VH)の状態方程式は、以下の式(c4)となる。
【0050】
【数1】
これに対し、図2(c)に示すように、スイッチング素子Snがオフ状態となる期間「(1−d)・Tu」の間、バッテリ12、インダクタ20、ダイオードDpおよびコンデンサ22を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸減処理がなされる。
【0051】
漸減処理がなされる期間においてインダクタ20に流れる電流iは、以下の式(c5)を満たす。
【0052】
L・(di/dt)+ri=VL−VH …(c5)
この際、インダクタ20を流れる電流iは、コンデンサ22の充電電流「C・(dVH/dt)」と抵抗値Rの負荷抵抗に流れる電流との和であることから、以下の式(c6)が成立する。
【0053】
C・(dVH/dt)+VH/R=i …(c6)
したがって、漸減処理がなされる期間における状態変数x2=(i,VH)の状態方程式は、以下の式(c7)となる。
【0054】
【数2】
上記の式(c4)および式(c7)から、周期Tuにおける平均的な状態変数x(=d・x1+(1−d)・x2)の状態方程式は、以下の式(c8)にて表現される。
【0055】
【数3】
上記の式(c8)において、状態変数x(i,VH)の電流iを消去して且つ第1時比率m(=1−d)を用いると、制御対象のモデルとして以下の式(c9)が導出できる。
【0056】
【数4】
上記の式(c9)にて示されるモデルを用いてフィードバック制御部46を設計する場合、安定性を確保する上では、フィードバック制御部46を備える閉ループ系(一巡伝達関数)の特性根の実数成分が全て負となることが必要である。ただし、この条件を満たす場合であっても、一般に、特性根は、複素共役な値となりうる。そして複素共役な根は、制御系の共振周波数を定めるものであり、制御器の応答がこの周波数と一致する場合には、オーバーシュートやアンダーシュートが生じる。本実施形態では、こうした事態を回避すべく、フィードバック制御部46を備える閉ループ系(一巡伝達関数)の特性根が複素共役となることを回避するように、フィードバック制御部46を設計する。特に、本実施形態では、閉ループ系を1次遅れ系「1/(τs+1):τは時定数」に設計する。
【0057】
すなわち、以下の式(c10)が成立するようにフィードバック制御部46を設計する。
【0058】
【数5】
したがって、以下の式(c11)〜(c13)が成立する。
【0059】
Kd=LC/(τVL) …(c11)
Kp=(L/R+rC)/(τVL) …(c12)
Ki=(r/R+m・m)/(τVL) …(c13)
ちなみに、本実施形態においてフィードバック制御部46をPID制御器としたのは、上記(c10)が成立するうえでPID制御器とする必要があったからである。すなわち、たとえばPI制御器としたのでは、上記の式(c10)が成立しない。
【0060】
上記の式(c11)〜(c13)によれば、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれも入力電圧VLに応じて変動する。これは、上記閉ループ系を1次遅れ系に設計する上では、バッテリ12の端子電圧の変動が無視できる場合を除き、フィードバック制御部46を入力電圧VLに応じて可変設定することが望ましいことを意味する。ここで、車載主機としてのモータジェネレータ10の電源となるバッテリ12の端子電圧は大きく変動するものである。このため、本実施形態では、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのそれぞれを入力電圧VLに応じて可変設定する。詳しくは、入力電圧VLが大きいほど、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの絶対値を減少させる。
【0061】
また、上記の式(c13)によれば、積分ゲインKiが第1時比率mに応じて変動する。これは、上記閉ループ系を1次遅れ系に設計する上では、第1時比率mの変動が無視できる場合を除き、フィードバック制御部46を入力電圧VLに応じて可変設定することが望ましいことを意味する。ここで、車載主機としてのモータジェネレータ10に接続されるインバータINVの直流電圧源の電圧(出力電圧VH)は、大きく変化させることが望まれるものであることから、第1時比率mも数十%の変動が要求される。このため、本実施形態では、積分ゲインKiを第1時比率mに応じて可変設定する。詳しくは、第1時比率mが大きいほど、積分ゲインKiの絶対値を増加させる。
【0062】
これにより、閉ループ系を1次遅れ系とすることができることから、共振に起因したオーバーシュートやアンダーシュートを抑制するためにフィードバック制御部46のゲイン(比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKd)を小さい値とすることを回避することができ、高応答の制御器とすることができる。
【0063】
図3に、本実施形態の効果を、フィードバック制御器をPI制御とする従来との対比によって示す。図示されるように、本実施形態では、フィードバックゲインを大きくすることで目標電圧VH*への追従性が向上しているにもかかわらず、オーバーシュートやアンダーシュートが好適に抑制される。
【0064】
図4に、昇圧処理(力行制御)と降圧処理(回生制御)とが混在する状況下における本実施形態の効果を、フィードバック制御器をPI制御とする従来との対比によって示す。ここで、昇圧処理と降圧処理とが混在する状況下においては、インダクタ20を流れる電流の符号が途中で変化するために、デッドタイムDTにおいて電流がダイオードDpを流れるのかダイオードDnを流れるのかがPWM処理の周期Tuの間で切り替わる。このため、この場合には、デッドタイムDTに起因した誤差の影響が特に顕著となりやすい。しかし、図示されるように、本実施形態によれば、デッドタイムに起因した制御誤差は、インダクタ20を流れる電流iがゼロとなる付近にかぎって生じるのみである。これは、フィードバック制御のゲインを大きくしたために、目標電圧VH*への追従性が向上したことによる。
【0065】
図5に、1巡伝達関数のゲイン線図を示す。図5(a)に示される本実施形態では、周波数の上昇に伴って上記比が徐々に低下し、共振周波数を有しない。これは、図5(b)に示される従来例とは対照的である。
【0066】
ここで、従来の制御器の問題点について、図6を用いて総括する。
【0067】
図6(a)は、従来の制御器を用いた場合について、その1巡伝達関数のゲイン線図を示す。図示されるように、従来では、共振周波数(上記比のピーク)が過度に大きくならないようにすべく、低周波数帯域におけるゲインの大きさを低減している。これは、図6(b)に示すオーバーシュート等を抑制するための設定である。ただし、この場合、応答性が低下するが故に、図6(c)に示すように、昇圧処理(力行制御)と降圧処理(回生制御)とが混在する状況下における制御性の低下が著しい。
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0068】
図7に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図7において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0069】
図示されるように、本実施形態では、積分ゲインKiを、第1時比率m(開ループ操作量mffとフィードバック操作量mfbとの和)に基づき算出する。
<第3の実施形態>
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0070】
図8に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図8において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0071】
本実施形態では、比例ゲインKpを、入力電圧VL、出力電圧VHおよび出力電流Ioutを入力として可変設定する。また、積分ゲインKiを、開ループ操作量mff、入力電圧VLおよび出力電流Ioutを入力として可変設定する。さらに、微分ゲインKdを、入力電圧VLおよび出力電流Ioutを入力として可変設定する。
【0072】
これは、第1に、インダクタ20のインダクタンスLが電流に応じて変動するためであり、第2に、先の図2に示したモデルにおける負荷抵抗の抵抗値Rが変動するためである。
【0073】
すなわち、磁気飽和に起因してインダクタンスLが変動すると、上記の式(c11),(c12)にて表現される比例ゲインKpおよび微分ゲインKdが変動する。このため、出力電流Ioutを入力として、インダクタンスLの変化に応じて比例ゲインKpおよび微分ゲインKdを可変設定する。詳しくは、出力電流Ioutが大きいほど、インダクタンスLが小さくなることに鑑み、微分ゲインKdおよび比例ゲインKpの絶対値を減少させる。
【0074】
一方、負荷抵抗の抵抗値Rが変動すると、上記の式(c12)、(c13)にて表現される比例ゲインKpおよび積分ゲインKiが変動する。負荷抵抗の抵抗値Rは、コンバータCNVの出力電圧VHと出力電流Ioutとの比に等価な抵抗(等価抵抗)の抵抗値であることから、この抵抗値Rは、出力電圧VHおよび出力電流Ioutを入力として把握することができる。そして、抵抗値Rが大きいほど、比例ゲインKp,および積分ゲインKiのそれぞれの絶対値を減少させる。
<第4の実施形態>
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0075】
図9に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図9において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0076】
本実施形態では、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdを固定値とする。これに代えて、本実施形態では、開ループ制御部44のゲインを第1時比率mに応じて可変設定する。以下、開ループ制御部44の設計について説明する。
【0077】
上記の式(c9)において、演算子「s」を「d/dt」とし、変形することで、以下の式(c14)を得る。なお、下記の式(c14)において、連続系の状態変数であることを、状態変数xc(c:continuance)によって明記した。
【0078】
【数6】
上記の状態方程式は、可制御正準系であるため、逆写像が存在し、出力電圧VHに基づき第1時比率mを表現することができる。そして、これは、上記の式(c1)に示したものとは相違すると考えられる。なぜなら、先の図2に示したモデルを用いた考察では、PWM処理の1周期Tuにおけるインダクタ20の磁束の変動量がゼロとなることは仮定されていないためである。そしてこの仮定がないために、上記の式(c14)を用いて算出される第1時比率mは、上記仮定が成立しない過渡時における操作量として適切な値となると考えられる。
【0079】
本実施形態では、上記の式(c14)にて表現される状態方程式を離散化するに際し、開ループ制御部44においてマルチレートサンプリング制御を行なうべく、以下の変形をする。なお、下記の式においては、離散系の状態変数xsであることを特に明記した。
【0080】
【数7】
ここで、本実施形態では、目標電圧VH*の更新周期(周期Tu)の間に、開ループ操作量mffを2度変更するマルチレートサンプリング制御を行なうべく、上記の式(c14)において、「m(k),m(k+1)」を「mff(k0),mff(k1)」とする。これにより、以下の式(c15)が得られる。
【0081】
【数8】
上記の式(c15)の積分区間等が上記の式(c14)から変更されていることに留意されたい。
【0082】
上記の式(c15)を用いることで、図10に示すように、目標電圧VH*(k)が更新されると、まずこれに応じて開ループ操作量mff(k0)によって開ループ操作量が更新されるとともに、フィードバック操作量mfbも更新される。また、「Tu/2」の経過時に、開ループ操作量mff(k1)によって開ループ操作量が更新される。ただし、この際、フィードバック操作量mfbは更新されない。そして、1周期Tuの経過時に、目標電圧VH*(k+1)が更新されることで、開ループ操作量とフィードバック操作量の双方が更新されることとなる。
【0083】
このマルチレートサンプリング制御を用いることで、開ループ制御による過渡時の制御性を向上させることができる。このため、高応答で目標電圧VH*に追従する制御が可能となり、ひいては目標電圧VH*が急変する状況下における制御性を向上させたりすることができる。
【0084】
なお、上記の式(c15)における行列Aは、第1時比率mの関数である。このため、本実施形態にかかる開ループ制御部44のゲインは、第1時比率mに応じて可変設定されることとなる。
<第5の実施形態>
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0085】
図11に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図11において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0086】
本実施形態では、フィードバック制御部46を、PI制御器とし、比例ゲインKpおよび積分ゲインKiを固定値とする。これに代えて、本実施形態では、開ループ制御部44およびフィードバック制御部46に目標電圧VH*が入力されるに際し、これをノッチフィルタ43によってフィルタ処理する。
【0087】
ここで、ノッチフィルタ43は、以下の式(c16)にて表現される。
【0088】
【数9】
本実施形態では、上記の式(c16)にて表現されるノッチフィルタ43のパラメータξ,ωを第1時比率mに応じて可変設定する。これは、次の理由による。
【0089】
フィードバック制御部46および制御対象(コンバータCNV)を備える閉ループ系の伝達関数(1巡伝達関数)は、以下の式(c17)にて表現される。
【0090】
【数10】
上記の式(c18)の特性根は、実数部分を全て負とする場合、共役複素数の根を有し得る。これは、「s」の3次、2次、1次および0次の全ての項の係数が正だからである。ここで、共役複素な解によって定まる共振周波数帯域を、上記ノッチフィルタ43の阻止帯域(信号を透過させない(減衰させる)周波数帯域)とする。ここで、共振周波数帯域は、第1時比率mに応じて変化する。このため、阻止帯域を第1時比率mに応じて可変設定する。
【0091】
これにより、フィードバック制御部46の制御が共振周波数に起因してオーバーシュートやアンダーシュートを生じることを好適に抑制することができる。すなわち、たとえば目標電圧VH*をステップ状に変化させる場合、ステップ関数のフーリエ展開から明らかなように、この目標電圧VH*の変化はあらゆる周波数成分を含む。このため、上記の式(c17)の特性根から定まる共振周波数成分をも含む。このため、ノッチフィルタ43を備えない場合、フィードバック制御部46は、共振周波数に起因したオーバーシュートやアンダーシュートを生じさせやすい。これに対し、ノッチフィルタ43を備えて、目標電圧VH*の変化から共振周波数成分を除去することで、共振周波数に起因した問題の抑制を図る。
<第6の実施形態>
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0092】
図12に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図12において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0093】
本実施形態では、コンバータCNVとして、フルブリッジ型のものを用いる。すなわち、バッテリ12(正極側および負極側の入力端子)には、スイッチング素子Sp1,Sn1の直列接続体が接続されており、コンデンサ22(正極側および負極側の出力端子)には、スイッチング素子Sp2,Sn2の直列接続体が接続されている。そして、スイッチング素子Sp1,Sn1の接続点とスイッチング素子Sp2,Sn2の接続点との間には、インダクタ20が接続されている。なお、スイッチング素子Sn1,Sn2の出力端子は互いに短絡されている。
【0094】
こうした構成によれば、スイッチング素子Sp1,Sn2をオン状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオフ状態とする処理と、スイッチング素子Sp1,Sn2をオフ状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオン状態とする処理との一対の処理について、それらを交互に行なうことで、昇圧処理や降圧処理を行なうことができる。すなわち、スイッチング素子Sp1,Sn2をオン状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオフ状態とする処理によって、バッテリ12、スイッチング素子Sp1、インダクタ20およびスイッチング素子Sn2を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸増処理がなされる。一方、スイッチング素子Sp1,Sn2をオフ状態として且つスイッチング素子Sp2,Sn1をオン状態とする処理の処理によって、インダクタ20、スイッチング素子Sp2(ダイオードDp2),コンデンサ22およびスイッチング素子Sn1(ダイオードDn1)を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸減処理がなされる。
【0095】
ここで、開ループ制御部44は、開ループ操作量mffを「VL/(VL+VH*)」に設定する。これは、PWM処理の周期Tuにおいてインダクタ20の磁束の変動量がゼロとなる条件から求められるものである。
【0096】
また、フィードバック制御部46は、PID制御器であり、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが入力電圧VLおよび第1時比率mに応じて可変設定される。これは、制御対象(コンバータCNV)とフィードバック制御部46とからなる閉ループ系を1次遅れ系に設計するための設定である。
【0097】
すなわち、この場合、磁気エネルギの漸減処理期間において、上記の式(c5)における入力電圧VLを削除したものによってモデルを表現できる(式(c2),(c3),(c6)はそのまま成立する)。このため、上記の式(c8)の右辺第2項の「1/L」が「d/L」に変更される。これにより、以下の式(c18)が成立する。
【0098】
【数11】
この式(c18)は、上記の式(c9)において「VL→VLd」の変更を施したものとなっている。このため、上記の式(c11)〜(c13)においてもこの変更を施すことで、1次遅れ系が設計できる。そして、これにより、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが第2時比率dに依存することがわかる。ここで、「d=1−m」であるから、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの全てを、第1時比率mを入力として可変設定することで、第1時比率mの変動に関わらず1次遅れ系とすることが可能となる。
<第7の実施形態>
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0099】
図13に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図13において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0100】
図示されるように、本実施形態にかかるコンバータCNVは、スイッチング素子Spおよびスイッチング素子Snの接続点とバッテリ12の正極との間に接続されたインダクタ20aと、インダクタ20aおよびスイッチング素子Snの接続点とスイッチング素子Spとの間に接続されたインダクタ20bとを備える。これにより、磁気エネルギの漸増処理時において磁束を漸増させるためのインダクタ(力行時にはインダクタ20a単独)のインダクタンスは、磁気エネルギの漸減処理において磁束を漸減させるためのインダクタ(力行時にはインダクタ20a,20b)のインダクタンスと相違する。
【0101】
ここで、開ループ制御部44では、開ループ操作量mffを「(1+n)VL/(VH*−VL)」と算出する。ただし、巻数比nは、インダクタ20aの巻数N1とインダクタ20bの巻数N2との比「N1/N2」である。開ループ操作量mffは、磁気エネルギの変動量が周期Tuでゼロとなるとの条件によって定まる値である。
【0102】
また、フィードバック制御部46は、PID制御器であり、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが入力電圧VLおよび第1時比率mに応じて可変設定される。これは、制御対象(コンバータCNV)とフィードバック制御部46とからなる閉ループ系を1次遅れ系に設計するための設定である。
【0103】
この系は、磁気エネルギの漸増処理と、漸減処理とでインダクタンスが相違することが、先の図1に示したモデルからの変更点である。このため、インダクタ20a,20bのそれぞれのインダクタンスL1,L2を用いると、以下の式(c19)が成立する。
【0104】
【数12】
上記の式(c19)は、上記の式(c9)において「L→L0,m・m→L0m・m/L3」とする変更を施したものである。このため、上記の式(c11)〜(c13)においてもこの変更を施すことで、1次遅れ系が設計できる。そして、これにより、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのいずれもが第2時比率dに依存することがわかる。ここで、「d=1−m」であるから、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdの全てを、第1時比率mを入力として可変設定することで、第1時比率mの変動に関わらず1次遅れ系とすることが可能となる。
<第8の実施形態>
以下、第8の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0105】
図14に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。なお、図14において、先の図1に示した部材や処理に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。
【0106】
図示にされるように、本実施形態では、コンバータCNVとして絶縁型のものを用いる。特に本実施形態では、フライバックコンバータを用いる。このコンバータCNVでは、スイッチング素子S1がオンとされる期間において、バッテリ12、トランスTの1次側コイルW1およびスイッチング素子S1を備えるループ経路に電流が流れ、トランスTの磁気エネルギが漸増する。ただし、この期間においては、トランスTの2次側コイルW2からコンデンサ22に電流を出力しない。これに対し、スイッチング素子S1がオフとされる期間においては、2次側コイル、ダイオードDおよびコンデンサ22を備えるループ経路に電流が流れ、トランスTの磁気エネルギが漸減する。
【0107】
ここで、1次側コイルW1と2次側コイルW2とで巻数が同じ場合には、等価回路を先の第6の実施形態(図12)とみなすことができる。このため、第6の実施形態の要領で、フィードバックゲインを設計することができる。また、1次側コイルW1と2次側コイルW2とで巻数が相違する場合、磁気エネルギを漸増させる期間と漸減させる期間とで、インダクタンスが相違するとみなせば、上記第1の実施形態に対する上記第7の実施形態(図13)の変更を、上記第6の実施形態(図12)に対して行なうことでフィードバックゲインを設計することができる。
【0108】
なお、開ループ操作量mffは、「VL/(nVH*+VL)」とする。ただし、巻数比nは、トランスTの1次側コイルW1の巻数N1と2次側コイルW2の巻数N2との比「N1/N2」である。ちなみに、第1時比率mは、スイッチング素子S1のオン・オフの1周期に対する「オフ」時間の時比率である。
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0109】
「フィードバックゲイン可変手段について」
上記第1〜第3の実施形態においては、比例ゲインKp,積分ゲインKi,微分ゲインKdをモデルから求めたがこれに限らない。たとえば、試作品等を用いて試験運転をする際に適合によって算出してもよい。この場合であっても、積分ゲインKiのみを第1時比率mによって可変設定することで共振周波数に起因したオーバーシュート等の回避が可能であるという上述した知見を用いるなら、その適合を容易とすることができる。
【0110】
上記第1〜第3の実施形態において、比例ゲインKp、積分ゲインKi,および微分ゲインKdの全てを第1時比率mに応じて可変設定してもよい。これは、上記の式(c10)におけるプラントP(s)の入力(操作量)を第2時比率dとした場合、上記の式(c10)の右辺に「m/d」を乗算したものがプラントP(s)の伝達関数となることに鑑みたものである。すなわち、この場合、1巡伝達関数を1次遅れ系にするうえでは、比例ゲインKp、積分ゲインKi、および微分ゲインKdの「VL」を「VL・m/d」に変更する必要があり、比例ゲインKp、積分ゲインKi,および微分ゲインKdの全てが第1時比率mに依存する。
【0111】
「フィードバックゲインによる閉ループ特性の設計について」
1次遅れ系に限らない。たとえば特性根が重根を有する2次遅れ系に設計してもよい。この場合であっても、共振周波数が存在しないため、共振現象を回避することができる。
【0112】
「開ループゲイン可変手段について」
入力パラメータ(目標電圧VH*およびその変化速度dVH*/dt)の更新周期を、開ループ操作量mffの更新周期の2倍とするものに限らない。上記の式(c14)の導出過程に鑑みるなら、入力(第1時比率m)を時系列的に前後する3つ以上の入力とすることも可能であることから、変化速度dVH/dtの更新周期を、開ループ操作量mffの更新周期の3倍以上とすることも勿論可能である。同様に、入力(第1時比率m)を1つとすることも可能であることから、変化速度dVH/dtの更新周期を、開ループ操作量mffの更新周期と一致させることも勿論可能である。
【0113】
上記第6〜第9の実施形態(図12〜図15)にかかるコンバータにおいて、上記第4の実施形態の要領で、開ループゲイン可変手段を搭載してもよい。
【0114】
「フィードバック操作量mfbと開ループ操作量mffとの更新タイミングについて」
上記第1〜第3の実施形態では、これらを同一としたがこれに限らない。また、互いの更新周期も相違してよい。
【0115】
上記第4の実施形態では、フィードバック操作量mfbの更新周期を開ループ操作量mffの更新周期の2倍としたがこれに限らず、たとえばそれらを一致させてもよい。
【0116】
「目標変化可変手段について」
上記第6〜第8の実施形態(図12〜図14)にかかるコンバータにおいて、上記第5の実施形態(図11)の要領で、目標電圧VH*をノッチフィルタ43にてフィルタ処理してもよい。上記第5の実施形態(図11)において、開ループ制御部44については、フィルタ処理のなされていない目標電圧VH*を入力してもよい。
【0117】
「等価抵抗情報の取得について」
上記第3の実施形態では、出力電流Ioutと出力電圧VHとを入力として等価抵抗を把握したが、これに限らない。たとえば、出力(パワー)と出力電圧とを入力としてもよい。また、たとえばモータジェネレータ10の要求トルクと回転速度と、出力電圧とを入力としてもよい。もっとも、モータジェネレータ10の要求トルクと回転速度とに応じて目標電圧VH*が一義的に定まるなら、モータジェネレータ10の要求トルクと回転速度とのみから等価抵抗を高精度に把握することができる。
【0118】
「インダクタンス情報の取得について」
上記第3の実施形態では、出力電流Ioutを入力として、インダクタ20のインダクタンスを把握したがこれに限らない。たとえば、出力(パワー)と出力電圧とを入力としてもよい。
【0119】
「ゲイン可変手段について」
上記第4の実施形態にかかるフィードバック制御部46として、上記第1の実施形態にかかるフィードバック制御部46を採用してもよい。また、上記第4の実施形態において、等価抵抗の変動やインダクタンスの変動を考慮して開ループ操作量mffを設定してもよい。
【0120】
「可変手段について」
上記第4の実施形態にかかるフィードバック制御部46として、上記第1の実施形態にかかるフィードバック制御部46を採用し、この際、上記第5の実施形態にかかるノッチフィルタ43を備えてもよい。
【0121】
上記第5の実施形態にかかるフィードバック制御部46として、上記第1の実施形態にかかるフィードバック制御部46を採用してもよい。また、上記第5の実施形態にかかる開ループ制御部44として、上記第4の実施形態にかかる開ループ制御部44を採用してもよい。
【0122】
「制御手段について」
上記第1〜第3の実施形態において、開ループ制御手段(開ループ制御部44)を削除してもよい。また、上記第4の実施形態においてフィードバック制御手段(フィードバック制御部46)を削除してもよい。
【0123】
「非絶縁型コンバータについて」
上記実施形態で例示したものに限らず、たとえば図15に示す昇降圧コンバータであってもよい。なお、図15において、先の図1に示した部材に対応するものについては、便宜上同一の符号を付している。このコンバータは、正極側入力端子(バッテリ12の正極)と負極側出力端子(コンデンサ22の負極)との間に、スイッチング素子S1,S2を備えており、これらのそれぞれにはダイオードD1,D2が接続されている。また、スイッチング素子S1,S2の接続点と負極側入力端子(バッテリ12の負極)との間には、インダクタ20が設けられている。このコンバータの場合、スイッチング素子S1がオンとなることで、インダクタ20に入力電圧VLが印加され、スイッチング素子S2がオンとなることで、インダクタ20に出力電圧VHが印加されることから、先の第6の実施形態(図12)と同様のプラントモデルを採用することができる。このため、第6の実施形態の要領で、フィードバックゲインを設計することができる。
【0124】
「絶縁型コンバータについて」
上記実施形態で例示したものに限らず、たとえば図16に示すフォワードコンバータであってもよい。この場合、スイッチング素子S1がオン操作されることで、バッテリ12、トランスTの1次側コイルW1、およびスイッチング素子S1の閉ループ経路に電流が流れる。この際、トランスTの2次側コイルW2には、1次側コイルW1の巻数N1と2次側コイルW2の巻数N2との比(巻数比n)に応じた電圧「nVL」が印加され、これにより、2次側コイルW2、ダイオードD1、インダクタ20およびコンデンサ22を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギの漸増処理がなされる。これに対し、スイッチング素子S1がオフとされる場合、インダクタ20、コンデンサ22およびダイオードD2を備えるループ経路に電流が流れ、インダクタ20の磁気エネルギ(インダクタ20を流れる電流)の漸減処理がなされる。
【0125】
この場合であっても、フィードバック制御部46を、PID制御器とし、比例ゲインKp,積分ゲインKiおよび微分ゲインKdを入力電圧VLおよび第1時比率mに応じて可変設定してもよい。これは、以下の理由による。
【0126】
フィードバック制御部46の設計に際して、2次側のみをモデル化することを考えると、インダクタ20の磁気エネルギの漸増処理に際して2次側コイルW2に「nVL」の電圧が誘起されることから、端子電圧「nVL」のバッテリが接続されているとみなすことができる。
【0127】
この構成をモデル化すると、以下の式(c20)が成立する。
【0128】
【数13】
この式(c20)からわかるように、操作量を第2時比率dとすると、制御対象は時比率に依存しない。ただし、操作量を第1時比率mとすると、制御対象は、上記の式(c20)に「1/m」を乗算したものとなる。そして、この場合、比例ゲインKp、積分ゲインKiおよび微分ゲインKdのそれぞれを第1時比率mまたは第2時比率dを入力として可変設定することが、制御対象と制御器とを備える閉ループ系を1次遅れ系とするうえで望ましいものとなる。
【0129】
もっとも、図16に示すコンバータのモデルの考察からわかるように、インダクタの磁気エネルギの漸増処理および漸減処理のいずれか一方においてインダクタに出力電圧(負荷が接続される側の直流電圧)が印加されないコンバータを制御対象とする場合に、モデルが時比率に依存しやすいと考えられる。このため、こうしたコンバータを採用する場合には、時比率に応じてフィードバックゲインや開ループ制御のゲインを可変としたり、ノッチフィルタを用いたりすることが特に有効である。こうした絶縁型のコンバータとしては、たとえば1次側コイルおよび2次側コイルのそれぞれが一対のコイルの直列接続体からなって且つ、一対の1次側コイルが交互にエネルギ蓄積コイルの役割を果たすフライバックトランスとして機能するものがある。
【符号の説明】
【0130】
CNV…コンバータ(電圧変換回路の一実施形態)、40…制御装置、44…開ループ制御部、46…フィードバック制御部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える電圧変換回路の制御装置において、
前記制御手段のゲインおよび前記制御手段に入力される前記目標電圧の変化の少なくとも一方を前記時比率に応じて可変設定する可変手段を備えることを特徴とする電圧変換回路の制御装置。
【請求項2】
前記可変手段は、前記ゲインを前記時比率に応じて可変とするゲイン可変手段を備えることを特徴とする請求項1記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧にフィードバック制御するフィードバック制御手段を備え、
前記ゲイン可変手段は、前記フィードバック制御のゲインを前記時比率に応じて可変とするフィードバックゲイン可変手段を備えることを特徴とする請求項2記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項4】
前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであり、
前記フィードバック制御手段は、比例要素、積分要素および微分要素の出力同士の和を前記フィードバック制御の操作量とするものであることを特徴とする請求項3記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項5】
前記ゲイン可変手段は、前記比例要素、前記積分要素および前記微分要素のうちの前記積分要素のゲインのみを前記時比率に応じて可変設定することを特徴とする請求項4記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧に開ループ制御する開ループ制御手段を備え、
前記ゲイン可変手段は、前記開ループ制御手段のゲインを前記時比率に応じて可変設定する開ループゲイン可変手段を備えることを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項7】
前記開ループゲイン可変手段は、前記時比率の更新周期の整数倍の周期で前記目標電圧および該目標電圧の変化速度のサンプリング値を取得し、該サンプリング値に基づき、時系列的に前後するタイミングにおける複数個の操作量を算出し、前記時比率の更新タイミングのうち時系列的に前後する前記複数個のタイミングのそれぞれにおいて前記複数個の操作量のそれぞれに基づき前記時比率を更新することを特徴とする請求項6記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項8】
前記ゲイン可変手段は、前記インダクタを流れる電流に応じて、前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項9】
前記ゲイン可変手段は、前記電圧変換回路の出力電圧と出力電流との比によって定義される等価抵抗に応じて前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項10】
前記可変手段は、前記時比率に応じて前記目標電圧の変化を可変とする目標変化可変手段を備え、
前記目標変化可変手段は、前記目標電圧を入力してこれをフィルタ処理した後、前記制御手段に入力するノッチフィルタを備えて且つ、前記時比率に応じて前記ノッチフィルタの阻止帯域を可変とすることを特徴とする請求項1〜3,6〜9のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項11】
前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項12】
前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか一方が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか他方が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項13】
前記電圧変換回路は、非絶縁型コンバータであることを特徴とする請求項11または12記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項1】
スイッチング素子のオン・オフ操作によってインダクタに蓄えられる磁気エネルギの漸増処理および漸減処理が繰り返されることで入力電圧が出力電圧に変換される電圧変換回路について、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン時間の時比率を操作することで前記出力電圧を目標電圧に制御する制御手段を備える電圧変換回路の制御装置において、
前記制御手段のゲインおよび前記制御手段に入力される前記目標電圧の変化の少なくとも一方を前記時比率に応じて可変設定する可変手段を備えることを特徴とする電圧変換回路の制御装置。
【請求項2】
前記可変手段は、前記ゲインを前記時比率に応じて可変とするゲイン可変手段を備えることを特徴とする請求項1記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧にフィードバック制御するフィードバック制御手段を備え、
前記ゲイン可変手段は、前記フィードバック制御のゲインを前記時比率に応じて可変とするフィードバックゲイン可変手段を備えることを特徴とする請求項2記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項4】
前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであり、
前記フィードバック制御手段は、比例要素、積分要素および微分要素の出力同士の和を前記フィードバック制御の操作量とするものであることを特徴とする請求項3記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項5】
前記ゲイン可変手段は、前記比例要素、前記積分要素および前記微分要素のうちの前記積分要素のゲインのみを前記時比率に応じて可変設定することを特徴とする請求項4記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記出力電圧を前記目標電圧に開ループ制御する開ループ制御手段を備え、
前記ゲイン可変手段は、前記開ループ制御手段のゲインを前記時比率に応じて可変設定する開ループゲイン可変手段を備えることを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項7】
前記開ループゲイン可変手段は、前記時比率の更新周期の整数倍の周期で前記目標電圧および該目標電圧の変化速度のサンプリング値を取得し、該サンプリング値に基づき、時系列的に前後するタイミングにおける複数個の操作量を算出し、前記時比率の更新タイミングのうち時系列的に前後する前記複数個のタイミングのそれぞれにおいて前記複数個の操作量のそれぞれに基づき前記時比率を更新することを特徴とする請求項6記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項8】
前記ゲイン可変手段は、前記インダクタを流れる電流に応じて、前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項9】
前記ゲイン可変手段は、前記電圧変換回路の出力電圧と出力電流との比によって定義される等価抵抗に応じて前記ゲインを可変設定する機能をさらに有することを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項10】
前記可変手段は、前記時比率に応じて前記目標電圧の変化を可変とする目標変化可変手段を備え、
前記目標変化可変手段は、前記目標電圧を入力してこれをフィルタ処理した後、前記制御手段に入力するノッチフィルタを備えて且つ、前記時比率に応じて前記ノッチフィルタの阻止帯域を可変とすることを特徴とする請求項1〜3,6〜9のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項11】
前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧の差圧が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項12】
前記電圧変換回路は、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか一方が印加される第1モードと、前記インダクタに前記入力電圧および前記出力電圧のいずれか他方が印加される第2モードとが前記スイッチング素子のオン・オフ操作によって切り替えられるものであることを特徴とする請求項1〜3,6〜10のいずれか1項に記載の電圧変換回路の制御装置。
【請求項13】
前記電圧変換回路は、非絶縁型コンバータであることを特徴とする請求項11または12記載の電圧変換回路の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−115894(P2013−115894A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258978(P2011−258978)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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