説明

電圧計測システム

【課題】 従来の電圧計測システムにおいては、ノイズを除去する場合に、FIRフィルタやIIRフィルタ等のローパスフィルタで高調波ノイズを除去しているが、これらは積和回路であるので回路規模が大きくなって、システム全体の小型化には向かない問題がある。
【解決手段】 比較器24は、絶対値変換器23によって絶対値変換された各サンプリングクロック周期SにおけるAC電圧の変化率と、予め定められる基準変化率とを比較する変化率比較手段の一例であり、Dフリップフロップ回路25は、変化率比較手段の一例である比較器24によって最新AC電圧の変化率が基準変化率よりも小さいと判断された場合に、最新AC電圧を保持する電圧保持手段の一例である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置等の電源として用いられるRF電源装置の入力電圧等をサンプリングによって電圧を計測する電圧計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に半導体製造装置等の電源として用いられるRF電源装置には高精度の電圧制御が要求されるため、RF電源装置の入出力電圧をサンプリングによって計測する電圧計測システムが用いられる。
この電圧計測システムの計測対象として特に重要なものの1つが、電圧の振幅の最大値である。
例えば、図1に示すような電圧波形を考える。
この図1に示す電圧波形は、交流電圧を全波整流した一例であって、実際の交流電圧波形の半波長分の周期Tを1周期として示しており、各周期において最大電圧が異なる場合を示している。
この場合に、例えば、周期Tの1つである時刻R1から時刻R2までの期間の電圧の最大値は、波形を見る限りでは周期Tの中間点R1aとなる最大電圧F1であることが分かる。
しかしながら、この中間点R1a近傍においては図2に示すようなノイズが発生している場合がある。尚、この図2は理解を容易にするためノイズを拡大誇張して図示している。
この図2に示すように、例えば中間点R1aの前に最大電圧F1よりも大きなノイズF1nが突発的に出現した場合に、該ノイズF1nが最大電圧と誤検知されてしまう問題があった。
つまり、インパルス状のノイズF1nを1周期における最大電圧と誤検知してしまう問題があった。
このようなノイズF1nは、主として電力変換装置のスイッチング等によって発生するものであるので、高調波成分を多く含むものである。
そこで、従来はローパスフィルタ(或いは、ハイカットフィルタと称されるもの)を電圧計測システムに設けることによって、このようなノイズF1nを除去していた。
【特許文献1】特開2002−218760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、例えば、FIRフィルタやIIRフィルタ等のローパスフィルタで高調波ノイズを除去することも可能であるが、これらは積和回路であるので回路規模が大きくなって、システム全体の小型化には向かない問題がある。
また、計測した電圧の平均化処理を施すことで、インパルス状のノイズF1n等の影響を抑制することも可能であるが、電圧波形全体に平均化処理の影響が及ぶため、平均化処理で算出される最大電圧が実際の最大電圧よりも低くなってしまう問題がある。
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ノイズの影響を抑制して、従来よりも精度良く最大電圧を計測し得る電圧計測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0005】
請求項1においては、サンプリングによって電圧を計測する電圧計測システムであって、サンプリングした電圧の変化率である電圧変化率と予め定められる基準変化率とを比較する変化率比較手段と、前記変化率比較手段によって該電圧変化率が該基準変化率よりも小さいと判断された場合に、前記サンプリングした電圧の値を保持する電圧保持手段と、を具備するものである。
【0006】
請求項2においては、前記電圧保持手段によって保持された保持電圧と現状の最大電圧とを比較する最大電圧比較手段と、最大電圧比較手段によって該保持電圧が該現状の最大電圧よりも大きいと判断された場合に、現状の最大電圧を該保持電圧に更新する最大電圧更新手段と、を具備するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0008】
請求項1の構成により、従来のローパスフィルタ等のフィルタ回路のように高調波成分を常時除去するものとは異なって、サンプリングクロック周期毎にノイズの有無を判断することが可能となるので、ピンポイント的にノイズを適切に除去することが可能となり、しかもその回路を簡単な構成とすることができる。
【0009】
請求項2の構成により、適切にノイズが除去された電圧に基づいて、交流電圧波形の1周期毎の最大電圧を算出することが可能となるので、従来とは異なって電圧波形におけるインパルス状のノイズを最大電圧として検知するような誤検知を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の本発明を実施するための最良の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
図1は交流電圧を全波整流した一例を示した電圧波形図、図2はノイズの発生状況の一例を示した電圧波形図、、図3は本発明の電圧計測システム1の概略構成を示したブロック図、、図4はフィルタ回路20と比較回路30の一例を示した回路図、、図5はサンプリングクロック周期S毎の傾斜算出の一例に示したノイズを含んだ電圧波形図、である。
【0011】
<概略構成>
先ず、本発明の電圧計測システムの概略構成の一例について図3に示すブロック図を用いて説明する。
電圧計測システム1は、例えば、ADコンバータ10、フィルタ回路20、及び比較回路30等を具備するものである。
ADコンバータ10は、例えばRF電源装置において入出力されるAC電圧が電圧計等でアナログ計測された結果を、デジタル処理できるようにデジタル変換するものである。
このADコンバータ10は、例えば、アナログ計測されたAC電圧を、周期が約100[μs]のサンプリングクロックに同期させて取得し、12ビットのデジタルデータへ変換するものである。
フィルタ回路20は、例えば、ADコンバータ11から出力されるデジタル変換されたAC電圧からノイズを除去する回路である。
比較回路30は、例えば、ノイズ除去後の最新のAC電圧と、該最新のAC電圧を取得するまでの最大電圧との比較を行って、大きな値の方を最大電圧として出力するものである。
以下、フィルタ回路20と比較回路30について図4を用いて詳しく説明する。
【0012】
<フィルタ回路20>
フィルタ回路20とは、2つのDフリップフロップ回路21・25、傾斜算出器22、絶対値変換器23、及び比較器24を具備するものである。
Dフリップフロップ回路21は、ADコンバータ10によってデジタル変換されたAC電圧をサンプリングクロックに同期して入力端Dから取得し、その取得したAC電圧をサンプリングクロックで1パルス分の間保持して出力端Qから出力するものである。
つまり、Dフリップフロップ回路21の出力端Qからは、取得した最新のAC電圧(以下「最新AC電圧」と表記)よりも1パルス分前に既に取得して保持しているAC電圧(以下「保持AC電圧」と表記)が出力される。
傾斜算出器22は、上記最新AC電圧から上記保持AC電圧を減算して、サンプリングクロック周期毎のAC電圧の傾斜を算出する。
この場合に、例えば、傾斜算出器22の入力端Aに最新AC電圧、入力端Bに保持AC電圧が入力される。
ここで、サンプリングクロック周期毎のAC電圧の傾斜の一例について、図5を用いて説明する。
この図5は、例えば、時刻U1から時刻U6までの間におけるAC電圧の波形を示した一例であって、電圧波形を実線で示し、時刻U4の前後でノイズGが発生している状態を示している。
また、時刻U1から時刻U6までの間隔は、サンプリングクロック周期Sとなっている。
例えば、時刻U4に傾斜算出器22に最新AC電圧として電圧P4が入力された場合に保持AC電圧は電圧P3となる。
このとき、傾斜算出器22は、(P4−P3)の演算を行うことで、時刻U3から時刻U4までのサンプリングクロック周期SにおけるAC電圧の傾斜を算出している。この傾斜は、例えば図5に示すように直線J1(1点鎖線)のように示せる。
このAC電圧の傾斜は、換言すれば、サンプリングクロック周期SにおけるAC電圧の変化率ともいえる。
また、傾斜算出器22は、時刻U4から時刻U5までのサンプリングクロック周期SにおけるAC電圧の傾斜を、上述と同様の演算処理(P5−P4)によって算出でき、この傾斜は例えば直線J2(1点鎖線)のように示せる。
【0013】
絶対値変換器23は、傾斜算出器22の減算結果の絶対値を算出するものである。
即ち、上記傾斜算出器22で算出された傾きは、全て正の数に置き換えられる。
したがって、例えば、時刻U4から時刻U5における直線J2は負の傾きであるが、正の傾きに置き換えられる。
比較器24は、絶対値変換器23によって絶対値変換された各サンプリングクロック周期SにおけるAC電圧の変化率と、予め定められる基準変化率とを比較する変化率比較手段の一例である。
この場合に、例えば、比較器24の入力端Aに基準変化率、入力端BにAC電圧の変化率が入力される。
このとき、比較器24は、(基準変化率)>(AC電圧の変化率)ならば出力端OからHi信号を出力し、他方、(基準変化率)<(AC電圧の変化率)ならば出力端OからLo信号を出力する。
したがって、この基準変化率として、例えば、ノイズを含まない正常状態における最大変化率を定めておくことで、直線J1や直線J2のような変化率の大きな直線が算出された場合に、比較器24は、AC電圧中にノイズGのようなノイズが発生していると判断することが可能となる。
つまり、上述の例によれば、最新AC電圧にノイズが含まれている場合には、比較器24の出力端OからLo信号が出力されるのである。
【0014】
Dフリップフロップ回路25は、入力端Dに最新AC電圧、ENA端に比較器24から出力されるHi信号又はLo信号のいずれかが入力される。
この場合に、例えば、Dフリップフロップ回路25は、ENA端にHi信号が入力された場合に、入力端Dから最新AC電圧が入力されることを許可して保持する。
つまり、Dフリップフロップ回路25は、変化率比較手段の一例である比較器24によって最新AC電圧の変化率が基準変化率よりも小さいと判断された場合に、最新AC電圧を保持する電圧保持手段の一例である。
逆に、Dフリップフロップ回路25のENA端にLo信号が入力された場合には、最新AC電圧にノイズが含まれているので、入力端Dから最新AC電圧が入力されるのを拒否することが可能となる。
したがって、Dフリップフロップ回路25は、最新AC電圧にノイズが含まれない場合にその最新AC電圧を保持し、ノイズが含まれる場合にはその最新AC電圧の入力を拒否するので、ノイズキャンセラとして機能している。
また、上述ようにフィルタ回路20が構成されているので、従来のローパスフィルタ等のフィルタ回路のように高調波成分を常時除去するものとは異なって、サンプリングクロック周期S毎にノイズの有無を判断することが可能となるので、ピンポイント的にノイズを適切に除去することが可能となり、しかもその回路を簡単な構成とすることができる。
【0015】
<比較回路30>
次に比較回路30について説明する。
比較回路30は、2つのDフリップフロップ回路32・34、比較器31、カウンタ33を具備するものである。
Dフリップフロップ回路25の出力端Qから出力されるノイズが除去されたAC電圧(以下、「ノイズレスAC電圧」と表記)は、比較器31の入力端Aに入力される。
このとき、Dフリップフロップ回路32の出力端Qからは現状保持されているAC電圧(以下、「ノイズレス保持AC電圧」)が出力され、比較器31の入力端Bに入力される。
即ち、比較器31は、ノイズレスAC電圧とノイズレス保持AC電圧との大きさを比較している。
ところで、ノイズレス保持AC電圧はノイズレスAC電圧よりも前に計測された古いものであるので、比較器31は、言わば、古い電圧値(ノイズレス保持AC電圧)と、新しい電圧値(ノイズレスAC電圧)との大小関係を比較しているものと言える。
また、比較器31は、(ノイズレスAC電圧)>(ノイズレス保持AC電圧)ならば出力端OからHi信号を出力し、他方、(ノイズレスAC電圧)<(ノイズレス保持AC電圧)ならば出力端OからLo信号を出力する。
【0016】
この比較器31から出力されたHi信号又はLo信号は、Dフリップフロップ回路32のENA端に入力される。
Dフリップフロップ回路32のENA端にHi信号が入力された場合には、入力端DにノイズレスAC電圧(新しい電圧)が入力されて保持される。
この場合に、Dフリップフロップ回路32に保持される値は、ノイズレス保持AC電圧(古い電圧)よりも大きな値であるノイズレスAC電圧(新しい電圧)に更新される。
他方、Dフリップフロップ回路32のENA端にLo信号が入力された場合には、入力端DへのノイズレスAC電圧(新しい電圧)の入力が拒否され、Dフリップフロップ回路32はノイズレス保持AC電圧(古い電圧)の保持及び出力端Qからの出力を継続する。
このような処理が行われるので、フィルタ回路20から出力されたばかりの新しい電圧(ノイズレスAC電圧)が、既にDフリップフロップ回路32に保持されている古い電圧(ノイズレス保持AC電圧)よりも大きい場合には、Dフリップフロップ回路32に保持される値を新しい電圧(ノイズレスAC電圧)に更新できるのである。
逆に、新しい電圧(ノイズレスAC電圧)が、既にDフリップフロップ回路32に保持されている古い電圧(ノイズレス保持AC電圧)よりも小さい場合には、Dフリップフロップ回路32に保持される値は古い電圧(ノイズレス保持AC電圧)のままとすることができる。
したがって、Dフリップフロップ回路32に保持される値は、最大電圧となる。
つまり、比較器31及びDフリップフロップ回路32の組み合わせは、言わば、電圧保持手段の一例であるDフリップフロップ回路25によって保持された保持電圧の一例である新しい電圧(ノイズレスAC電圧)と、Dフリップフロップ回路32に保持される現状の最大電圧の一例である古い電圧(ノイズレス保持AC電圧)とを比較する最大電圧比較手段の一例であるとともに、新しい電圧(ノイズレスAC電圧)が大きい場合に、Dフリップフロップ回路32に保持する最大電圧を更新する最大電圧更新手段の一例であると言える。
【0017】
そして、Dフリップフロップ回路32は、自身が保持する電圧値(即ち、最大電圧)を出力端Qから出力する。
また、Dフリップフロップ回路32の出力端QはDフリップフロップ回路34の入力端Dに接続されており、カウンタ33の出力パルスに同期して、Dフリップフロップ回路32から出力される最大電圧がDフリップフロップ回路34の入力端Dに入力される。
このカウンタ33は、例えば、本電圧計測システム1の計測対象が図1のような交流電圧波形である場合に、その交流電圧波形の半波長分の周期Tを1周期として計数して出力パルスを発するものである。
このような処理が行われるので、Dフリップフロップ回路34の入力端Dには、周期T毎にDフリップフロップ回路32の出力端Qから出力される最大電圧が入力されることとなるので、Dフリップフロップ回路34の出力端Qからは各周期T毎の最大電圧が出力されることとなる。
したがって、比較回路30は、フィルタ回路20によって適切にノイズが除去された電圧に基づいて、交流電圧波形の1周期毎の最大電圧を算出することが可能となるので、従来とは異なって電圧波形におけるインパルス状のノイズを最大電圧として検知するような誤検知を防止することが可能となる。
尚、上述においては、図3に示すようなブロック図の構成を、図4に示すようなデジタル回路によって電圧波形中のノイズを除去して最大電圧を出力する構成について説明したが、このようなデジタル回路と同様の効果を発揮するものであれば、アナログ回路又はプログラムに従って動作するコンピュータ等で構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】交流電圧を全波整流した一例を示した電圧波形図。
【図2】ノイズの発生状況の一例を示した電圧波形図。
【図3】本発明の電圧計測システム1の概略構成を示したブロック図。
【図4】フィルタ回路20と比較回路30の一例を示した回路図。
【図5】サンプリングクロック周期S毎の傾斜算出の一例に示したノイズを含んだ電圧波形図。
【符号の説明】
【0019】
1 電圧計測システム
10 ADコンバータ
20 フィルタ回路
21 Dフリップフロップ回路
22 傾斜算出器
23 絶対値変換器
24 比較器
25 Dフリップフロップ回路
30 比較回路
31 比較器
32 Dフリップフロップ回路
33 カウンタ
34 Dフリップフロップ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリングによって電圧を計測する電圧計測システムであって、
サンプリングした電圧の変化率である電圧変化率と予め定められる基準変化率とを比較する変化率比較手段と、
前記変化率比較手段によって該電圧変化率が該基準変化率よりも小さいと判断された場合に、前記サンプリングした電圧の値を保持する電圧保持手段と、
を具備することを特徴とする電圧計測システム。
【請求項2】
前記電圧保持手段によって保持された保持電圧と現状の最大電圧とを比較する最大電圧比較手段と、
最大電圧比較手段によって該保持電圧が該現状の最大電圧よりも大きいと判断された場合に、現状の最大電圧を該保持電圧に更新する最大電圧更新手段と、
を具備してなる請求項1記載の電圧計測システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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