説明

電圧駆動型半導体素子の故障検出方法

【課題】電力変換回路を各アームに3個以上の電圧駆動型半導体素子を直列接続して構成する場合、各アームのいずれかの電圧駆動型半導体素子の素子破壊を高速に検出する方法を提供する。
【解決手段】各アームが3個の電圧駆動型半導体素子の直列接続からなる場合、各直列接続された電圧駆動型半導体素子がターンオフ動作中に、印加される電圧が過電圧かどうかを過電圧判別回路OVで監視し、素子故障判別回路CVにより2個の電圧駆動型半導体素子が過電圧と判別されたときには、素子破壊が発生したとする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、電力変換装置を構成する電圧駆動型半導体素子に関し、特に電力変換回路を高電圧化するために各アームに電圧駆動型半導体素子を3個以上直列接続して構成された電力変換装置における、電圧駆動型半導体素子の故障検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】図3に、電力変換装置で高電圧化を図るために、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を各アームに直列接続した場合の従来例として、IGBTを3個直列接続したインバータの1相分の回路を示す。
【0003】図示のように、この回路はIGBTQ1,Q2,Q3(上アーム)とQ4,Q5,Q6(下アーム)、直流電源(電圧Ed)、スナバコンデンサCs1,Cs2、スナバダイドードDs1,Ds2、スナバ抵抗Rs1,Rs2、および各IGBT対応のスナバ回路(RCスナバ回路)などから構成される。
【0004】GDU1〜GDU6はQ1〜Q6のゲート駆動回路で、具体的には、例えば同一出願人による平成11年特許願第129893号(出願日;平成11年5月11日)の第2図に記載されているゲート駆動回路であり、このゲート駆動回路の構成を図4に示す。
【0005】すなわち図4に示すように、IGBTをオン,オフさせるためのTR1,TR2、インタフェース回路IF、検出抵抗Rdによって検出された電圧が過電圧かどうかを判別する過電圧判別回路OV、IGBTのターンオフ時にこれを活性領域で再オンさせる再オン回路ROなどから構成されている。
【0006】図3に示した回路構成に図4に示したゲート駆動回路を用いたときの動作を、図5に示した波形図を参照しつつ、以下に説明する。
【0007】Q1〜Q3間の素子特性のばらつきなどに起因するターンオフタイミングの差により、例えばQ1が先にターンオフ動作を開始し、この開始時点よりΔt(ターンオフタイミングの差)の期間ではQ2,Q3がまだオン状態にあることから、Q1のコレクタ・エミッタ間電圧VCEのみが上昇し始め、この上昇に伴い、検出抵抗Rdによって検出される電圧が過電圧レベルに達すると、過電圧判別回路OVにてQ1のコレクタ・エミッタ間電圧VCEが過電圧と判別される。この判別結果により再オン回路ROが動作し、ゲート・エミッタ間電圧VGEをQ1のしきい値付近の電圧に制御することで、Q1を活性領域内で再オンさせる。Q1が再オンすると、Q1のコレクタ・エミッタ間電圧VCEが下降し、Q1のコレクタ・エミッタ間に過電圧が印加されるのを防止し、過電圧印加に伴う素子破壊を回避することができる。
【0008】また従来は、Q1〜Q6のIGBTのいずれかに素子故障が発生したときには、各IGBTへのオン,オフ信号とコレクタ・エミッタ間電圧VCEとの関係を監視するなどの周知の技術により検知して、全てのIGBTに対してオフ動作を行わせる保護動作をさせていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】図4に示した構成のゲート駆動回路において、直列接続された各IGBTのうち、いずれか1個のIGBTが何らかの要因で素子破壊(短絡破壊)を起したときの動作を、図6に示した波形図を参照しつつ、以下に説明する。
【0010】図6は、図3に示した回路のQ1〜Q3のうち、Q3が素子破壊を起したときの動作波形例を示している。
【0011】すなわち、前述の図5に示した波形図と同様に、Q1が先にターンオフ動作を開始し、この開始時点よりターンオフタイミングの差だけ遅れてQ2,Q3がターンオフ動作を開始すると、先ず、過電圧判別回路OVにてQ1のコレクタ・エミッタ間電圧VCEが過電圧と判別され、再オン回路ROが動作し、Q1を活性領域内で再オンさせる。その後のQ2,Q3がターンオフ動作中に、Q3に短絡破壊が発生すると、直流電源の電圧EdをQ1とQ2とで分担することになるため、Q1,Q2のコレクタ・エミッタ間電圧VCE(Q1),VCE(Q2)はそれぞれEd/2(Q3が正常状態ではそれぞれほぼEd/3)のレベルまで増加しようとし、過電圧判別回路OVにてQ2のコレクタ・エミッタ間電圧VCEが過電圧と判別され、再オン回路ROが動作し、Q2も活性領域内で再オンさせる。
【0012】その結果、Q2が再オン状態になったときより、Q1,Q2ともに活性領域内でオン動作を継続し、下アームのIGBTQ4〜Q6がオンになった時点でアーム短絡状態に陥るなど、Q3の素子故障に伴う事故が拡大する恐れがあった。
【0013】上述の動作は、従来の素子故障の検出方法では、高速に検出することが困難であったために、生じた問題点である。
【0014】この発明の目的は上記問題点を解決し、この種の電圧駆動型半導体素子の素子破壊を高速に検出する該半導体素子の故障検出方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】この発明は、各アームに電圧駆動型半導体素子を3個以上直列接続してなる電力変換装置において、前記各直列接続された電圧駆動型半導体素子がターンオフ動作中に、各電圧駆動型半導体素子に印加される電圧が過電圧かどうかを判別し、前記各電圧駆動型半導体素子のうち、少なくとも2個の電圧駆動型半導体素子に印加された電圧が過電圧と判別されたときには、前記各直列接続されたいずれかの電圧駆動型半導体素子に素子破壊が発生したとする該電圧駆動型半導体素子の故障検出方法を行わせることを特徴とする。
【0016】この発明によれば、電圧駆動型半導体素子を直列接続してなる各アームのいずれか1個の前記電圧駆動型半導体素子が短絡故障をしたときには、残りの健全な電圧駆動型半導体素子がターンオフ時の電圧を分担することになるため、前記電圧駆動型半導体素子のターンオフ動作毎の各半導体素子に印加される電圧が過電圧かどうかを監視することにより、高速な素子故障の検出が可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】図1はこの発明の実施例を示す回路構成図であり、図4に示したゲート駆動回路に、この発明の電圧駆動型半導体素子の故障検出方法を付加した例である。
【0018】すなわち、図1に示したゲート駆動回路には、図4に示した構成のゲート駆動回路に、ゲート電圧監視回路CKと、例えば、図示のアンド素子とオア素子とからなる素子故障判別回路CVとが付加されている。
【0019】図3に示した回路構成に図1に示したゲート駆動回路を用いたときの動作を、図2に示した波形図を参照しつつ、以下に説明する。
【0020】すなわち、先述の図5に示した波形図と同様に、Q1が先にターンオフ動作を開始し、この開始時点よりターンオフタイミングの差だけ遅れてQ2,Q3がターンオフ動作を開始すると、先ず、Q1の過電圧判別回路OVにてQ1のコレクタ・エミッタ間電圧VCEが過電圧と判別され、Q1の再オン回路ROが動作し、Q1を活性領域内で再オンさせると共に、Q1のゲート電圧監視回路CKを介して外部と、Q1の素子故障判別回路CVとに論理「H」レベルを出力する。その後のQ2,Q3がターンオフ動作中に、Q3に短絡破壊が発生すると、直流電源の電圧EdをQ1とQ2とで分担することになるため、Q1,Q2のコレクタ・エミッタ間電圧VCE(Q1),VCE(Q2)はそれぞれEd/2のレベルまで増加しようとし、Q2の過電圧判別回路OVにてQ2のコレクタ・エミッタ間電圧VCEが過電圧と判別され、Q2の再オン回路ROが動作し、Q2も活性領域内で再オンさせると共に、Q2のゲート電圧監視回路CKを介して外部と、Q2の素子故障判別回路CVとに論理「H」レベルを出力する。
【0021】このQ2が再オン状態になったときより、Q1の素子故障判別回路CVの出力と、Q2の素子故障判別回路CVの出力とが論理「H」レベルとなり、この論理「H」レベルを外部へ「素子故障判別信号」として出力すると共に、Q1の再オン回路RO,Q2の再オン回路ROの動作を停止させて、Q1,Q2のゲート・エミッタ間電圧VGE(Q1),VGE(Q2)を通常のオフ動作時の逆バイアスレベルにし、その結果、Q1,Q2がオフ状態となり、このときのQ1,Q2のコレクタ・エミッタ間電圧VCE(Q1),VCE(Q2)は、ほぼEd/2となる。
【0022】なお、各アームのIGBTの直列数が4以上のときには、使用するIGBTの耐圧,素子特性のばらつきなどを考慮して、過電圧レベルと過電圧になったIGBTの判別数とを設定すればよく、また、素子故障判別回路CVの機能をゲート駆動回路から除き、外部に設置することも容易である。
【0023】
【発明の効果】この発明によれば、前記電圧駆動型半導体素子のターンオフ動作毎に高速に素子故障の検出が可能となり、この種の電力変換装置における事故の拡大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例を示す回路構成図
【図2】図1の動作を説明する波形図
【図3】電力変換装置の全体構成図
【図4】図3の部分詳細回路構成図
【図5】図4の動作を説明する波形図
【図6】図4の動作を説明する波形図
【符号の説明】
Q…絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)、GDU…ゲート駆動回路、Ed…直流電源の電圧、R…抵抗、C…コンデンサ、TR…トランジスタ、IF…インタフェース回路、OV…過電圧判別回路、RO…再オン回路、CK…ゲート電圧監視回路、CV…素子故障判別回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 各アームに電圧駆動型半導体素子を3個以上直列接続してなる電力変換装置において、前記各直列接続された電圧駆動型半導体素子がターンオフ動作中に、各電圧駆動型半導体素子に印加される電圧が過電圧かどうかを判別し、前記各電圧駆動型半導体素子のうち、少なくとも2個の電圧駆動型半導体素子に印加された電圧が過電圧と判別されたときには、前記各直列接続されたいずれかの電圧駆動型半導体素子に素子破壊が発生したとすることを特徴とする電圧駆動型半導体素子の故障検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2002−58234(P2002−58234A)
【公開日】平成14年2月22日(2002.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−241043(P2000−241043)
【出願日】平成12年8月9日(2000.8.9)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】