説明

電圧駆動型素子の接続構造

【課題】無機EL素子と駆動回路とを配線を介して接続してなる接続構造において、無機EL素子の構成を変えることなく、無機EL素子のリーク電流を防止する。
【解決手段】無機EL素子10は、ガラス基板10の上に形成され、発光層14の両側を一対の絶縁層13、15で挟み、さらに、その外側を一対の電極12、16で挟んでなる。第1の電極12の配線30と駆動回路20との接続部は、これら配線30と駆動回路20との間に、無機EL素子10を構成する第2の絶縁層15と同じ材料よりなるコンデンサとしてのコンデンサ用絶縁層40を直列に挿入した状態で容量結合により電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス(EL)現象を利用した発光素子などの電圧駆動型素子と外部回路とを接続してなる接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧駆動型素子として、例えば無機EL素子が知られている。この無機EL素子は、一般的に、第1の電極、第1の絶縁層、発光層、第2の絶縁層、第2の電極が順次積層されてなり、第1および第2の電極間に電圧を印加することにより発光層を発光させるものである。
【0003】
また、このような無機EL素子は、その周辺に設けられ無機EL素子に電気的に接続された配線と、外部回路としての駆動回路とを、フレキシブルプリント配線板やボンディングワイヤなどを介して電気的に接続することで、外部回路と接続される。
【0004】
このように、無機EL素子は、発光層の両側を一対の絶縁層で挟み、さらに、その外側を一対の電極で挟んでなるものであるが、比較的駆動電圧が高いため、駆動回路のコストが高くなってしまう。そこで、従来では、無機EL素子の駆動電圧を低電圧化する方法として絶縁層の容量を高くする方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平1−107495号公報
【特許文献2】特開2004−234889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
無機EL素子の絶縁層を単純に薄膜化して容量を高くする場合、絶縁耐圧が低下してしまい無機EL素子を駆動するには不十分となるが、従来では、絶縁層としてAl23膜とTiO2膜とを交互に積層してなるAl23/TiO2積層構造膜(以下、これをATO膜という)を用い、このATO膜に占めるTiO2膜の比率を大きくすることでATO膜を薄膜化しても絶縁耐圧を確保できるようにしている。
【0006】
しかしながら、このATO膜を用いた無機EL素子はATO膜の膜厚が薄いためリーク電流が大きくなってしまう。また、リーク電流が増大すると、必要な素子特性を得るための消費電力が大きくなったり、素子の信頼性が低下するといった問題がある。
【0007】
このような無機EL素子の例に限らず、いずれにせよ、電圧駆動型素子側の構成を変えてリーク電流を抑制することは、電圧駆動型素子における種々の問題を引き起こすことになるため、好ましくない。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、電圧駆動型素子と外部回路とを配線を介して接続してなる接続構造において、電圧駆動型素子の構成を変えることなく、電圧駆動型素子のリーク電流を防止できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため、電圧駆動型素子のリーク電流を抑制する方法について検討を行った。
【0010】
電圧駆動型素子では、必要な時間、素子を機能させるために、電圧駆動型素子を機能させるときには、当該素子を機能させないときの電圧に比べて電界強度の強い電圧を印加して一定時間保持する。そして、電圧駆動型素子を機能させないときには電界強度を弱くする電圧に戻す。
【0011】
したがって、電界強度を保った状態でリーク電流を抑制することが必要となる。また、これらの機能の切り替えは交流的であるため、交流での機能を阻害しないことが必要となる。
【0012】
このような検討結果に基づいて、電圧駆動型素子を駆動する外部回路と電圧駆動型素子との間にコンデンサを挿入することを考えた。これにより一定電圧で保持した時のリーク電流を抑制することが期待できる。
【0013】
本発明はこのような考えに基づいてなされたものであり、電圧駆動型素子(10)と外部回路(20)とを配線(30)を介して接続してなる接続構造において、配線(30)と外部回路(20)との接続部のうちの少なくとも一箇所を、配線(30)と外部回路(20)との間にコンデンサ(40)を直列に挿入した状態で容量結合により電気的に接続したことを特徴とする。
【0014】
それによれば、配線(30)と外部回路(20)との間に設けたコンデンサ(40)により直流成分をカットできるから、電圧駆動型素子(10)の構成を変えることなく、電圧駆動型素子(10)のリーク電流を防止できる。
【0015】
ここで、コンデンサ(40)は、外部回路(20)と電圧駆動型素子(10)との間に配置すればよく、外部回路(20)側に配置したり、電圧駆動型素子(10)が設けられている支持基板(11)側に設けてもよい。
【0016】
また、電圧駆動型素子(10)が支持基板(11)上に形成されるとともに、誘電体(13、15)を含んで構成されている場合、支持基板(11)上に配置されるコンデンサ(40)が、電圧駆動型素子(10)を構成する誘電体(13、15)に比べて誘電率の高い材料よりなる薄膜誘電体で構成されていてもよい。
【0017】
配線(30)と外部回路(20)との間に挿入されるコンデンサ(40)は、電圧駆動型素子(10)の容量に比べて高いことが望ましく、電圧駆動型素子(10)を構成する誘電体(13、15)に比べて誘電率の高い材料で形成すればその容量を高くすることが容易となる。
【0018】
また、電圧駆動型素子(10)が支持基板(11)上に形成されるとともに、誘電体(13、15)を含んで構成されている場合、支持基板(11)上に配置されるコンデンサ(40)が、電圧駆動型素子(10)を構成する誘電体(13、15)と同じ材料よりなる薄膜誘電体により構成されていてもよい。
【0019】
それによれば、支持基板(11)上に配置されるコンデンサ(40)を形成するための新たな工程が不要であり、コストダウンが期待される。
【0020】
ここで、電圧駆動型素子としては、エレクトロルミネッセンス現象を利用した発光素子(10)を採用することができ、このような発光素子としては、発光層(14)の両側を一対の絶縁層(13、15)で挟み、さらに、その外側を一対の電極(12、16)で挟んでなる無機EL素子(10)を採用できる。
【0021】
また、このような無機EL素子(10)は、セグメント型の駆動方法により駆動するものであってもよい。
【0022】
無機EL素子(10)をセグメント型で使用する場合、発光させない領域すなわち非発光領域が大きいため、この非発光領域を配線(30)とすれば、配線(30)上に誘電体などのコンデンサ(40)を配置する場合、コンデンサ(40)の配置面積を大きくとることができ、コンデンサ(40)の容量を高くすることが容易となる。
【0023】
また、電圧駆動型素子を無機EL素子(10)とした場合においては、発光層(14)の一側における外部回路(20)までの電気経路の全体の容量と、発光層(14)の他側における外部回路(20)までの電気経路の全体の容量とが、等しいものであることが好ましい。
【0024】
無機EL素子は通常、正弦波や方形波の交流で駆動する。このとき、発光層(14)の両側に位置する外部回路までの電気経路において、絶縁層(13、15)やコンデンサ(40)の容量を同じにすると電荷の偏りが抑えられ、電圧−輝度特性の経時変化を少なくすることができ、好ましい。
【0025】
なお、特許請求の範囲およびこの欄で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、説明の簡略化を図るべく、図中、同一符号を付してある。
【0027】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係る電圧駆動型素子としての無機EL素子10の接続構造の概略断面構成を示す図である。
【0028】
本実施形態の接続構造は、大きくは、電圧駆動型素子である無機EL素子10と、無機EL素子10と電気的に接続された配線30と、無機EL素子10を駆動する外部回路としての駆動回路20とを備え、配線30と外部回路20とが電気的に接続されてなる。
【0029】
無機EL素子10は、電圧駆動型素子の支持基板であり絶縁性基板であるガラス基板11の一面上に、第1の電極12、第1の絶縁層13、発光層14、第2の絶縁層15、第2の電極16を順次積層して構成されている。
【0030】
つまり、無機EL素子10は、発光層14の両側を一対の絶縁層13、15で挟み、さらに、その外側を一対の電極12、16で挟んでなるものである。ここで、第1の電極12、第1の絶縁層13、第2の絶縁層15、第2の電極16のうち少なくとも光取出し側が透光性を有する材料によって構成されている。
【0031】
第1の電極12と第2の電極16は、透明なITO(Indium Tin Oxide)膜にて構成されている。この第1の電極12と第2の電極16とが交差した部分が、両電極12、16間に挟まれている第1の絶縁層13、第2の絶縁層15および発光層14とともに画素17を構成している。
【0032】
そして、第1の電極12と第2の電極16との間に交流電圧を印加することで、この画素において発光層14が発光する。本例では、発光層14の光が第1の絶縁層13、第1の電極12およびガラス基板11を透過して、ガラス基板11の他面から取り出されるようになっている。
【0033】
発光層14は例えば、ZnS、ZnSe等の半導体材料にて構成されており、発光中心としては、Mn、Tb、Sm等を用いることができる。なお、発光中心にMnを用いた場合では黄橙色、Tbを用いた場合では緑色、Smを用いた場合では、赤色の発光を生じる。本例では、発光層14はZnS:Mn膜としている。
【0034】
また、第1の絶縁層13および第2の絶縁層15は、Al23膜とTiO2膜とを交互に積層してなるATO膜、HfO2膜とTiO2膜とを交互に積層してなるHTO膜、ZrO2膜とTiO2膜とを交互に積層してなるZTO膜、TiO2、Al23、SiO2、Si34等の誘電体により構成された透明な電気絶縁性の膜である。これらは、ALE法(原子層エピタキシャル成長法)やスパッタ、CVDなどにより形成できる。
【0035】
本実施形態では、第1の絶縁層13および第2の絶縁層15はATO膜からなり、ALE法にて成膜されたものである。具体的に本例では、ATO膜は、Al23膜の1層当たりの厚さを5nm、TiO2膜の1層当たりの厚さを30nmとし、層の数はAl23膜が6層、TiO2膜が5層としている。
【0036】
また、このATO膜をALE法を用いて原子層オーダで形成する場合を考えると、Al23膜の1層当たりの膜厚は0.5nmから100nmとするのがよい。Al23膜の1層当たりの膜厚が0.5nmよりも薄い場合では、Al23膜が絶縁体として機能せず、100nmよりも厚い場合には、積層構造による耐圧の向上効果が低下するためである。
【0037】
ここで、第1の電極12と第2の電極16との間に交流電圧を印加することは、外部回路としての駆動回路20により行われる。この第1の電極12および第2の電極16と駆動回路20との接続部の構成は、従来の一般的な構成を基本にしたもので、それぞれ第1の電極12、第2の電極16をガラス基板11の周辺部に延長し、この延長した部分を配線とし、この配線と駆動回路20とを接続するものである。
【0038】
図1では、第1の電極12の配線30が示されており、第2の電極16の配線は省略してある。この配線30は、第1の電極12と一体のITO膜よりなり、このITO膜がガラス基板11の周辺部まで延長されたものである。
【0039】
この配線30における駆動回路20との接続部には、コンデンサとしてのコンデンサ用絶縁層40が積層され、さらに、このコンデンサ用絶縁層40の上には、駆動回路20との電気的接続を行うための接続用電極50が積層されている。
【0040】
つまり、この配線30と駆動回路20との接続部は、コンデンサであるコンデンサ用絶縁層40が直列に挿入された状態で容量結合により電気的に接続されている。また、このコンデンサ用絶縁層40は、無機EL素子10が形成されているガラス基板11上に設けられた形となっている。
【0041】
ここでは、コンデンサ用絶縁層40は、第1の絶縁層13や第2の絶縁層15と同じ絶縁膜材料よりなる。つまり、本例では、コンデンサ用絶縁層40は、無機EL素子10を構成する誘電体としての各絶縁層13、15と同じ材料よりなる薄膜誘電体により構成されたものである。
【0042】
本例では、コンデンサ用絶縁層40は、第2の絶縁層15と同じ成膜プロセスで形成されたものであり、つまりのところ、第2の絶縁層15と同じ材料よりなる。
【0043】
また、接続用電極50は、第2の電極16と同じ材料よりなるもので、第2の電極16と同じ成膜プロセスにより形成されたものである。そして、この接続用電極50と駆動回路20とは、FPC(フレキシブルプリント基板)やワイヤボンディングなどにより電気的に接続されている。
【0044】
なお、第2の電極16の配線は図では省略してあるが、第2の電極16の一部をガラス基板11の周辺部に延長したものからなる。ここでは、第2の電極16の配線は、一般のELと同様に、FPCやワイヤボンディングなどにより駆動回路20と電気的に接続されている。
【0045】
次に、上記具体例に基づき、本無機EL素子10の製造方法について述べる。まず、ガラス基板11上に、光学的に透明であるITO膜を、スパッタ法やフォトリソグラフ技術を用いて、成膜・パターニングすることにより、第1の電極12および配線30を形成する。
【0046】
その上に、第1の絶縁層13として、ATO膜をALE法によって形成する。このALE法によるATO膜の形成は、後述する第2の絶縁層15およびコンデンサ用絶縁層40の形成と同様であるので、その詳細については後述する。
【0047】
次に、第1の絶縁層13の上に、ZnS:Mnからなる発光層14を蒸着法により形成する。なお、この発光層14の膜厚は、100〜2000nmにするのがよい。これは、100nmより薄くなると、発光に寄与しない領域が多くなり発光効率が極端に低下し、2000nmより厚くすれば駆動電圧が高くなってしまうためである。
【0048】
次に、第2の絶縁層15およびコンデンサ用絶縁層40としてのATO膜を、第1の絶縁層13と同様にしてALE法で成膜する。この各絶縁層13、15、40としてのATO膜を形成するALE法としては、具体的に次のように行う。
【0049】
ここでは、Al23膜を形成する原料として三塩化アルミニウム(AlCl3)およびH2Oを用い、TiO2膜を形成する原料として四塩化チタン(TiCl4)およびH2Oを用いる。
【0050】
まず、第1のステップとして、Alの原料ガスとしてAlCl3、酸素(O)の原料ガスとしてH2Oを用いて、Al23膜を形成する。ALE法では1原子層ずつ膜を形成していくために、原料ガスを交互に供給する。
【0051】
したがって、この場合には、AlCl3を窒素(N2)のキャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のAlCl3ガスを排気するのに十分なパージを行う。
【0052】
次に、H2Oを同様に窒素キャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返して所定の膜厚のAl23膜を形成する。
【0053】
第2のステップとして、Tiの原料ガスとしてTiCl4、酸素の原料ガスとしてH2Oを用いて、TiO2膜を形成する。具体的には、第1のステップと同様にTiCl4を窒素キャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のTiCl4を排気するのに十分なパージを行う。
【0054】
次に、H2Oを同様に窒素キャリアガスで反応炉に1秒導入した後に、反応炉内のH2Oを排気するのに十分なパージを行う。このサイクルを繰り返して所定の膜厚のTiO2膜を形成する。
【0055】
このように、Al23膜を形成する第1のステップとTiO2膜を形成する第2のステップを繰り返すことにより、Al23膜とTiO2膜とを1層ずつ交互に積層していき、所定膜厚のATO膜を形成する。そして、このATO膜をエッチングなどによりパターニングして、第1の絶縁層13、または、第2の絶縁層15およびコンデンサ用絶縁層40としてのATO膜を形成する。
【0056】
次に、第2の絶縁層15の上、および、コンデンサ用絶縁層40の上に、それぞれ第2の電極16、接続用電極50としてのITO膜を、スパッタ法やフォトリソグラフ技術を用いて、成膜・パターニングする。このようにして、本実施形態の無機EL素子10を作製することができる。
【0057】
従来では、第1の電極12とつながる配線30の外部回路20との接続部に形成されている絶縁膜をエッチングなどにより除去して、配線30と外部回路20とを電気的に接続するが、本例では、配線30上の外部回路20との接続部に形成されている絶縁膜を除去せずにコンデンサ用絶縁層40として残し、さらに接続用電極50を形成することによってコンデンサ40を形成し、外部回路20と容量結合させることにより接続している。
【0058】
それにより、本実施形態では、配線30と外部回路20との間に設けたコンデンサ40により直流成分をカットできるから、電圧駆動型素子としての無機EL素子10の構成を変えることなく、無機EL素子10のリーク電流を防止できる。
【0059】
上記図1において接続部のコンデンサ用絶縁層40の容量を変えたものを作製し、コンデンサ用絶縁層40の容量によってリーク電流が、どの程度抑制できるか実験を行い、調査した。ここで、コンデンサ用絶縁層40の容量は、この層40の面積や厚さを異ならせることで変えた。その結果を図2に示す。
【0060】
図2は、コンデンサ用絶縁層40を挿入しない場合、素子容量(無機EL素子10の容量)の5.5倍のコンデンサ用絶縁層40を挿入した場合、および54倍のコンデンサ用絶縁層40を挿入した場合についての、無機EL素子10に印加した電圧とリーク電流との関係を示す図である。
【0061】
図2に示されるように、コンデンサ用絶縁層40を挿入することによってリーク電流をかなり抑制することができる。そして、この図2に示されるような結果から、駆動電圧の狙い値によって、駆動電圧の上昇を考慮しながら、コンデンサ用絶縁層40の容量を決めてやればよい。
【0062】
なお、無機EL素子10と駆動回路20との間にコンデンサ用絶縁層40を直列に挿入すると、それぞれの容量の逆比に比例した電圧が印加され同じ特性を得るための駆動電圧が上昇する。
【0063】
そのため、コンデンサ用絶縁層40の容量は、素子容量よりも高いことが好ましい。たとえば、コンデンサ用絶縁層40の容量を無機EL素子10の容量に対して10倍とすれば必要な駆動電圧は1.1倍程度であり、50倍とすれば1.02倍にまで抑えることができる。
【0064】
本例では、無機EL素子10を構成する誘電体である第2の絶縁層15と同じ材料でコンデンサとしてのコンデンサ用絶縁層40を形成したが、コンデンサ用絶縁層40は、第1の絶縁層13と同じ材料で形成してもよいし、第1の絶縁層13と第2の絶縁層15との積層膜でもよい。
【0065】
このように、コンデンサ用絶縁層40が、無機EL素子10を構成する誘電体としての絶縁層13、15により構成されていれば、これら絶縁層13、15の成膜プロセスにより同時にコンデンサ用絶縁層40を形成することができる。その結果、コンデンサ用絶縁層40を形成するための新たな工程が不要であり、コストダウンが期待される。
【0066】
また、この場合、コンデンサ用絶縁層40の容量を高くするには、コンデンサ用絶縁層40を薄くすることが考えられる。この場合、無機EL素子10の絶縁層13や15とは、コンデンサ用絶縁層40の成膜工程を変えるなどの必要がある。
【0067】
ここで、無機EL素子10の絶縁層13、15と同時にコンデンサ用絶縁層40を形成し、安価な製造プロセスを実現するためには、コンデンサ用絶縁層40の膜厚を、無機EL素子10の絶縁層13、15の膜厚と同じにすることが好ましい。その場合、コンデンサ用絶縁層40の上に形成する接続用電極50の面積を大きくすれば、コンデンサ用絶縁層40の容量を高くすることができる。
【0068】
なお、上記例では、コンデンサ用絶縁層40として無機EL素子10を構成する絶縁層13、15と同じ材料の誘電体を用いたが、これとは異なる材料でもよい。つまり、コンデンサ用絶縁層40は、無機EL素子10を構成する誘電体としての絶縁層13、15に比べて誘電率の高い材料よりなる薄膜誘電体により構成されたものであってもよい。
【0069】
上述したように、配線30と外部回路20との間に挿入されるコンデンサ用絶縁層40は、無機EL素子10の容量に比べて高いことが望ましく、上記のように、より誘電率の高い材料で形成すればその容量を高くすることが容易となる。
【0070】
そのような高誘電率の材料としては、例えば、酸化タンタル、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛などが上げられる。
【0071】
また、このコンデンサ用絶縁層40を表示部分に配置しなければ、この高誘電体材料は透光性を有していなくてもよい。このような各材料よりなるコンデンサ用絶縁層40は、上記したALE法以外にも、スパッタやCVDなどの各種の成膜方法により形成できる。
【0072】
また、本実施形態においては、発光層14の一側における駆動回路20までの電気経路の全体の容量と、発光層14の他側における駆動回路20までの電気経路の全体の容量とが、等しいものであることが好ましい。
【0073】
上記したようにコンデンサ用絶縁層40を直列に挿入することで、挿入した側のコンデンサ用絶縁層40と絶縁層との合成容量が、挿入しない状態に比べて変化してしまう。
【0074】
上記図1に示される例では、発光層14を挟んで、第1の絶縁層13、第1の電極12、配線30、コンデンサ用絶縁層40、接続用電極50、駆動回路20に至る電気経路と、第2の絶縁層15、第2の電極16、図示しない上記第2の電極16側の配線、駆動回路20に至る電気経路とで、それぞれの電気経路における容量が互いに異なることは、好ましくない。
【0075】
通常、無機EL素子では、正弦波や方形波の交流で駆動するが、発光層の両側に形成される上記電気経路の容量が大きく異なっていると、発光層内で電荷の偏りが生じ、輝度−電圧特性の経時変化が大きくなる。
【0076】
したがって、上記したようにコンデンサ用絶縁層40を挿入した場合であっても、上記両電気経路における容量を等しいものにすれば、電荷の偏りが抑えられ、電圧−輝度特性の経時変化を少なくすることができる。ここで、両電気経路における容量が等しいとは、完全に等しくすることだけでなく、±10%の範囲で等しければよいことを意味する。
【0077】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る電圧駆動型素子としての無機EL素子10の接続構造の概略断面構成を示す図である。
【0078】
上記第1実施形態では、コンデンサ40は、電圧駆動型素子としての無機EL素子10が設けられている支持基板11側に設けられていたが、コンデンサは、駆動回路20と無機EL素子10との間に配置されていればよく、駆動回路20側に配置されていてもかまわない。
【0079】
図3に示されるように、本実施形態では、コンデンサ40をチップコンデンサなどよりなるものとして、支持基板としてのガラス基板11ではなく、駆動回路20を有する外部回路部21に設けられている。例えば、外部回路部21は回路基板などにより構成されるが、この回路基板上にて駆動回路20の前段にコンデンサ40を設けてやればよい。
【0080】
なお、この場合も、発光層14の第2の電極16側における駆動回路20までの電気経路の全体の容量と、発光層14の第1の電極12側におけるコンデンサ40を含む駆動回路20までの電気経路の全体の容量とが、等しいものであることが好ましい。
【0081】
(第3実施形態)
図4(a)は、本発明の第3実施形態に係る電圧駆動型素子としての無機EL素子10の接続構造の概略平面構成を示す図であり、図4(b)は、比較例として一般的な無機EL素子10の接続構造の概略平面構成を示す図である。なお、図4では、識別化のために便宜上ハッチングを施してある。
【0082】
上記各実施形態における無機EL素子10は、ドットマトリクス型の駆動方法でも、セグメント型の駆動方法でもよいが、本実施形態は、特に、無機EL素子10がセグメント型の駆動方法により駆動する場合の例を示すものである。
【0083】
まず、図4(b)に示される比較例では、ガラス基板11上に片側斜線ハッチングで示される第1の電極12が形成されている。そして、この第1の電極12の上には、7個の長方形の画素17を有する無機EL素子10が形成されている。なお、各画素17には点ハッチングを施してある。
【0084】
ここで、これら無機EL素子10全体すなわち画素17全体として数字の「8」の形を構成している。もちろん、各画素17においては、上記実施形態に示したように、第1の電極12、第1の絶縁層13、発光層14、第2の絶縁層15、第2の電極16が積層された構成となっており、各画素17を発光させることで、例えば「0」〜「9」までの数字の表示が可能となっている。
【0085】
この図4(b)に示されるように、無機EL素子10をセグメント型で使用する場合、発光させない領域すなわち非発光領域が大きい。ここで、非発光領域は、画素17以外に第1の電極12が広く形成された領域であり、無機EL素子10における第1電極12の配線30である。
【0086】
そこで、図4(a)では、この非発光領域に位置する配線30の上に、上記実施形態と同様のコンデンサ用絶縁層および接続用電極50を、クロスハッチングにて示されるように形成している。
【0087】
なお、図4(a)では示さないが、コンデンサ用絶縁層は、接続用電極50の下部に存在すればよく、そのようにパターニングされていてもよいが、画素17も含めて第1電極12の全域の上に存在していてもよい。
【0088】
このように、非発光領域の第1の電極12すなわち配線30の上に、コンデンサ用絶縁層、接続用電極50を形成すれば、コンデンサ用絶縁層40の配置面積を大きくとることができ、コンデンサ容量を高くすることが容易となる。
【0089】
また、このようなセグメント型の場合、発光する一つのセグメントすなわち画素17の面積が大きいため、画素17内において絶縁層13、15などの膜欠陥が存在する確率が高くなる。
【0090】
このような膜欠陥が存在すると、その部分での電界が正常な部分に比べて高くなり、リーク電流が大きくなってしまう。したがって、本発明をこのようなセグメント型に適用することは有効である。
【0091】
(他の実施形態)
なお、上記第1および第2実施形態では、無機EL素子10の第1電極12側の配線30のみにコンデンサ40を設けたが、第2電極16側の配線においても、これと同様に、コンデンサ用絶縁層40を設けたり、外部回路20側にコンデンサ40を設けるようにしてもよい。さらには、第1電極12側と第2電極16側の両方の配線に対してコンデンサを設けてもよい。
【0092】
また、上記第1および第2実施形態では、第1電極12と第2電極16との交差部分が画素17であるが、ドットマトリクス型の画素構成においては、第1電極12と第2電極16とを、互いに交差するストライプ状にパターニングすることでマトリクス状の画素を形成する。
【0093】
そして、この場合、これら複数本の第1電極12、第2電極16の全部に対してコンデンサを設けてもよいし、第1電極12や第2電極16のうちの一部あるいは第1電極12や第2電極16の一本に対してのみ、コンデンサを設けてもよい。要するに、コンデンサは、配線と外部回路との接続部のうちの少なくとも一箇所に設けられればよい。
【0094】
また、無機EL素子10としては、上記の各電極12、16や発光層14の構成は上記実施形態にのべたものに限定されるものではなく、適宜設計変更してもよい。
【0095】
また、電圧駆動型素子としては、上記した無機EL素子以外のエレクトロルミネッセンス現象を利用した発光素子であってもよい。さらには、電圧で駆動するものであれば、それ以外にも種々のものが採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電圧駆動型素子としての無機EL素子の接続構造の概略断面図である。
【図2】素子容量を変えた場合について無機EL素子に印加した電圧とリーク電流との関係を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電圧駆動型素子としての無機EL素子の接続構造の概略断面図である。
【図4】(a)は、本発明の第3実施形態に係る電圧駆動型素子としての無機EL素子の接続構造の概略平面図、(b)は、比較例としての一般的な接続構造の概略平面図である。
【符号の説明】
【0097】
10…電圧駆動型素子としての無機EL素子、11…支持基板としてのガラス基板、
12…第1の電極、13…第1の絶縁層、14…発光層、15…第2の絶縁層、
16…第2の電極、20…外部回路としての駆動回路、30…配線、
40…コンデンサとしてのコンデンサ用絶縁層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧駆動型素子(10)と、前記電圧駆動型素子(10)と電気的に接続された配線(30)と、前記電圧駆動型素子(10)を駆動する外部回路(20)とを備え、前記配線(30)と前記外部回路(20)とが電気的に接続された接続構造において、
前記配線(30)と前記外部回路(20)との接続部のうちの少なくとも一箇所は、前記配線(30)と前記外部回路(20)との間にコンデンサ(40)を直列に挿入した状態で容量結合により電気的に接続されていることを特徴とする電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項2】
前記コンデンサ(40)は、前記外部回路(20)側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項3】
前記電圧駆動型素子(10)は、支持基板(11)上に形成されており、
前記コンデンサ(40)は、前記支持基板(11)上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項4】
前記電圧駆動型素子(10)は誘電体(13、15)を含んで構成されており、
前記コンデンサ(40)は、前記電圧駆動型素子(10)を構成する前記誘電体(13、15)に比べて誘電率の高い材料よりなる薄膜誘電体により構成されたものであることを特徴とする請求項3に記載の電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項5】
前記電圧駆動型素子(10)は誘電体(13、15)を含んで構成されており、
前記コンデンサ(40)は、前記電圧駆動型素子(10)を構成する前記誘電体(13、15)と同じ材料よりなる薄膜誘電体により構成されたものであることを特徴とする請求項3に記載の電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項6】
前記電圧駆動型素子は、エレクトロルミネッセンス現象を利用した発光素子(10)であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項7】
前記発光素子は、発光層(14)の両側を一対の絶縁層(13、15)で挟み、さらに、その外側を一対の電極(12、16)で挟んでなる無機EL素子(10)であることを特徴とする請求項6に記載の電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項8】
前記無機EL素子(10)は、セグメント型の駆動方法により駆動するものであることを特徴とする請求項7に記載の電圧駆動型素子の接続構造。
【請求項9】
前記発光層(14)の一側における前記外部回路(20)までの電気経路の全体の容量と、前記発光層(14)の他側における前記外部回路(20)までの電気経路の全体の容量とが、等しいものであることを特徴とする請求項7または8に記載の電圧駆動型素子の接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−220397(P2007−220397A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37650(P2006−37650)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】