説明

電子デバイス、電子デバイス製造方法、電子デバイス製造装置、電界効果トランジスタデバイス、有機電界発光素子及び制御方法

【課題】低仕事関数金属の使用や不純物ドーピングなしで伝導特性を制御し得る電子デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明による電子デバイスは、電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスであって、前記吸着部において、前記電極層の原子表面と前記半導体層の原子表面との距離は、前記電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い。前記吸着部への加重によって、前記距離を前記安定吸着距離より短くする加重部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイス、電子デバイス製造方法、電子デバイス製造装置、第1吸着部と第2吸着部とを有する電界効果トランジスタデバイス、第3吸着部と第4吸着部とを有する有機電界発光素子及び電子デバイスの電気伝導特性を制御する制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)はシリコン系デバイスの集積限界を超えるナノ材料として、電子デバイス(例えば、電界効果トランジスタ(FET)や有機EL)への応用が期待される。CNTは高仕事関数を有する金属電極との接合でp型伝導特性の発現が確認されているものの、消費電力の小さい実用的な論理回路の形成にはn型特性の発現が不可欠である。そこで、CNTを用いたn型特性の発現のために、CNTへの不純物ドープ技術や低仕事関数を有する金属電極との接合技術(非特許文献1参照)が研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】アプライド フィジックス レターズ(Applied Physics Letters) 86,073105(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、低仕事関数の金属電極の使用技術やCNTへの不純物ドープ技術は、まだ基礎研究の段階であり実用化までの課題は多い。そこで、低仕事関数の金属電極の使用やCNTへのドープを行なわずに仕事関数の大きい電極とCNTとの接合技術のみで、p型とn型との両特性を発現するための技術の確立が必要である。
【0005】
本発明は、低仕事関数金属の使用や不純物ドーピングなしで伝導特性を制御し得る電子デバイス、電子デバイス製造方法、電子デバイス製造装置、電界効果トランジスタデバイス、有機電界発光素子及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る電子デバイスの特徴構成は、電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスであって、吸着部において、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離は、電極層の原子表面と半導体層の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い。
【0007】
背景技術の項目で説明したように、従来の電子デバイスでは、半導体層(CNT)を用いたn型特性の発現のために、CNTへの不純物ドープ技術や低仕事関数を有する金属電極との接合技術が用いられている。一方、本発明の電子デバイスによれば、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部では、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0008】
本発明の電子デバイスの好適な特徴構成は、吸着部への加重によって、距離を安定吸着距離より短くする加重部を有する。吸着部への加重により、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、低仕事関数の金属電極の使用や半導体層へのドープを行なうことなく、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0009】
本発明の電子デバイスの好適な特徴構成は、電極層の原子表面と半導体層の原子間距離を短くすることにより、電極層の原子表面から半導体層側にしみ出た電子雲を電極層の原子表面に押し戻す効果を促進する。この電子雲の押し戻し効果により、低仕事関数の金属電極の使用や半導体層へのドープを行なうことなく、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0010】
本発明の電子デバイスの好適な特徴構成によれば、半導体層は、カーボンナノチューブ、有機半導体又は酸化物半導体のうち少なくとも1つを含み、電極層は、金属的性質を有する複数の物質のうち少なくとも1つを含む。金属的性質を有する複数の物質には、少なくともAu、Ag、Cu、Pb及びCが含まれる。低仕事関数の金属電極の使用や半導体層へのドープを行なわずに仕事関数の大きい電極と半導体層との接合のみで、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0011】
本発明に係る電子デバイス製造方法の特徴構成は、電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスを製造する方法であって、吸着部において、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を電極層の原子表面と半導体層の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くする距離短縮工程を包含する。距離短縮工程は、吸着部への加重によって実行され得る。
【0012】
本発明に係る電子デバイス製造装置の特徴構成は、電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスを製造する装置であって、吸着部において、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を電極層の原子表面と半導体層の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くする距離短縮装置を備える。吸着部への加重によって、距離を安定吸着距離より短くする加重装置を備え得る。
【0013】
本発明に係る電界効果トランジスタデバイスの特徴構成は、第1吸着部と第2吸着部とを有する電界効果トランジスタデバイスであって、第1吸着部では、第1電極層と半導体層とが吸着し、第2吸着部では、第2電極層と半導体層とが吸着し、第1吸着部において、第1電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離は、第1電極層の原子表面と半導体層の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短く、第2吸着部において、第2電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離は、第2電極層の原子表面と半導体層の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い。
【0014】
本発明の電界効果トランジスタデバイスによれば、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部では、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0015】
本発明に係る電界効果トランジスタデバイスの好適な特徴構成によれば、第1吸着部と第2吸着部とは、n型伝導特性を有し得る。低仕事関数の金属電極の使用やCNTへのドープを行なわずに仕事関数の大きい電極とCNTとの接合のみでp型とn型との両特性を発現することができる。
【0016】
本発明に係る有機電界発光素子の特徴構成は、第3吸着部と第4吸着部とを有する有機電界発光素子であって、第3吸着部では、半導体層の第1表面と第3電極層とが吸着し、第4吸着部では、第1表面の反対側にある半導体層の第2表面と第4電極層とが吸着し、第3吸着部において、第3電極層の原子表面と半導体層の第1表面の原子表面との距離は、第3電極層の原子表面と半導体層の第1表面の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短く、第4吸着部において、第4電極層の原子表面と半導体層の第2表面の原子表面との距離は、第4電極層の原子表面と半導体層の第2表面の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離である。
【0017】
本発明の有機電界発光素子によれば、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部では、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0018】
本発明に係る有機電界発光素子の好適な特徴構成によれば、第3吸着部は、電子輸送特性を有し、第4吸着部は、正孔輸送特性を有し得る。本発明の有機電界発光素子によれば、低仕事関数の金属電極の使用や有機半導体へのドープを行なわずに仕事関数の大きい電極と有機半導体との接合のみで電子輸送型と精巧輸送型との両特性の型を発現することができる。
【0019】
本発明に係る電気伝導特性を制御する制御方法の特徴構成は、電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスの電気伝導特性を制御する制御方法であって、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との吸着距離を電極層の原子表面と半導体層の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離から変更する変更工程を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1に係る電子デバイスを示す模式図である。
【図2】第1電極層の原子表面と第2電極層の原子表面との距離Zに対する半導体層(CNT)中心部付近の状態密度を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態2に係る電界効果トランジスタを示す模式図である。
【図4】電界効果トランジスタの製造方法を示す模式図である。
【図5】本発明の実施形態3に係る有機電界発光素子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1〜図5を参照して、本発明の電子デバイス、電子デバイス製造方法、電子デバイス製造装置、電界効果トランジスタデバイス、有機電界発光素子及び制御方法を説明する。本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図せず、当該構成と均等な構成も含む。
【0022】
[実施形態1]
[電子デバイス]
図1は、本発明の実施形態1に係る電子デバイス100を示す模式図である。電子デバイス100は、第1電極層102、第2電極層104、半導体層106、第1電極層102と半導体層106とが吸着した第1吸着部108及び第2電極層104と半導体層106とが吸着した第2吸着部110を含む。本発明の実施形態1において、電子デバイス100は、半導体装置として機能する。半導体装置は、電界効果トランジスタ、有機電界発光素子などの半導体デバイスが備える素子として用いられる。第1電極層102と第2電極層104とはAu電極として機能し、半導体層106は、カイラリティ(10、0)のカーボンナノチューブ(CNT)として機能する。
【0023】
電子デバイス100は、第1加重部112と第2加重部114とを更に有する。第1加重部112による第1吸着部108への加重によって、第1電極層102の原子表面と半導体層106の原子表面との距離x1を第1安定吸着距離X1より短くすることができる。さらに、第2加重部114による第2吸着部110への加重によって、第2電極層104の原子表面と半導体層106の原子表面との距離x2を第2安定吸着距離X2より短くすることができる。ここで、第1安定吸着距離X1は第1電極層102の原子表面と半導体層106の原子表面とが第1吸着部108への無加重時に安定して吸着する距離であり、第2安定吸着距離X2は第2電極層104の原子表面と半導体層108の原子表面とが第2吸着部110への無加重時に安定して吸着する距離である。
【0024】
また、Z=x1+x2+Yが成立する。Zは第1電極層102の原子表面と第2電極層104の原子表面との距離を示し、Yはカイラリティ(10、0)のCNTの直径(0.79nm)を示す。更に、既に説明したように、x1は第1電極層102の原子表面と半導体層106の原子表面との距離を示し、x2は第2電極層104の原子表面と半導体層106の原子表面との距離を示す。
【0025】
第1電極層102の原子表面から半導体層106側にしみ出た電子雲を第1電極層102の原子表面に押し戻すことによって、第1距離x1を第1安定吸着距離X1より短くする。第2電極層104の原子表面から半導体層106側にしみ出た電子雲を第2電極層104の原子表面に押し戻すことによって、第2距離x2を第2安定吸着距離X2より短くする。
【0026】
第1電極層102に強く押し付けられた半導体層106は第1電極層102の表面に近づくと、第1電極層102の表面から半導体層106側にしみ出た電子雲を量子力学的な斥力で第1電極層102側に押し戻すプッシュバック効果によって、第1電極層102表面から半導体層106側に向いた電気双極子層を形成する。また、第2電極層104に強く押し付けられた半導体層106は第2電極層104の表面に近づくと、第2電極層104の表面から半導体層106側にしみ出た電子雲を量子力学的な斥力で第2電極層104側に押し戻すプッシュバック効果によって、第2電極層104表面から半導体層106側に向いた電気双極子層を形成する。
【0027】
プッシュバック効果により半導体層106の電子注入障壁が下がり、電子注入準位が第1電極層102表面のフェルミ準位近くまで下がって、第1電極層102から半導体層106に電荷が注入されやすくなる。同様に、電子注入準位が第2電極層104表面のフェルミ準位近くまで下がって、第2電極層104から半導体層106に電荷が注入されやすくなる。その結果、第1吸着部108では、第1安定吸着距離X1を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができ、第2吸着部110では、第2安定吸着距離X2を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0028】
図2は、第1電極層102の原子表面と第2電極層104の原子表面との距離Zに対する半導体層106(CNT)中心部付近の状態密度を示すグラフである。縦軸は半導体層106中心部付近の状態密度を示し、横軸は第1電極層102及び第2電極層104のフェルミ準位に対する相対準位を示す。
【0029】
図2(a)〜(e)は、距離Z=1.44nm、1.37nm、1.34nm、1.29nm、及び1.26nmの各々における半導体層106中心部付近の状態密度を示す。図2において、矢印は、各Z値での半導体層106の電子注入準位を示す。距離Zが狭まり半導体層106の原子表面が第1電極層102及び第2電極層104に近づくにつれて電子注入準位がフェルミ準位よりも下がり、第1電極層102から半導体層106に電荷が注入されやすくなり、第2電極層104から半導体層106に電荷が注入されやすくなる。また、距離Zが広がり半導体層106の原子表面が第1電極層102及び第2電極層104から離れるにつれて電子注入準位がフェルミ準位よりも上がり、第1電極層102から半導体層106に電荷が注入されにくくなり、第2電極層104から半導体層106に電荷が注入されにくくなる。例えば、第1加重部112による第1吸着部108への加重や第2加重部114による第2吸着部110への加重を調整することで、電子デバイス100の電気伝導特性を制御する。
【0030】
このように、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との吸着距離を安定吸着距離から変更することにより、安定吸着距離を有する吸着部における伝道特性とは異なる伝導特性を発現することができる。例えば、電子デバイス100が電界効果トランジスタデバイスとして機能する場合は、半導体層106の原子表面と電極層との距離を変更することにより、p型伝導特性とn型伝導特性とを切り換えることができる。
【0031】
以上、図1と図2とを参照して、本発明の実施形態1に係る電子デバイス100を説明した。電子デバイス100によれば、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部では、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0032】
また、電子デバイス100によれば、吸着部への加重により、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、低仕事関数の金属電極の使用や半導体層へのドープを行なうことなく、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0033】
さらに、電子デバイス100によれば、半導体層からの量子力学的な斥力によって距離を安定吸着距離より短くするため、低仕事関数の金属電極の使用や半導体層へのドープを行なうことなく、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0034】
さらに、電子デバイス100によれば、電気伝導特性の制御を実行し得る。即ち、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との吸着距離に伴って、半導体層の電子注入障壁の大きさが変更する。例えば、吸着距離が安定吸着距離より短くなれば、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなり、また、吸着距離が安定吸着距離より長くなれば、電極層から半導体層に電荷が注入され難くなる。その結果、安定吸着距離を有する吸着部における伝道特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【0035】
[実施形態2]
[電界効果トランジスタ]
図3は、本発明の実施形態2に係る電界効果トランジスタ200を示す模式図である。電界効果トランジスタ200は、第3吸着部202と第4吸着部204とを有する。第3吸着部202では、第3電極層206と半導体層208とが吸着し、第4吸着部204では、第4電極層210と半導体層208とが吸着している。第3吸着部202において、第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面との距離は、第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い。第4吸着部204において、第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面との距離は、第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い。第3吸着部202と第4吸着部204とは、n型伝導特性を有する。
【0036】
電界効果トランジスタ200は、第1触媒層212、第2触媒層214、SiO層216,Si層218及びバックゲート層220を更に備える。また、電界効果トランジスタ200は、第3加重部222と第4加重部224とを有する。第3加重部222による第3吸着部202への加重によって、第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面との距離は第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くなる。第4加重部224による第4吸着部204への加重によって、第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面との距離は第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くなる。
【0037】
半導体層208は、半導体的性質を示すカーボンナノチューブとして機能する。半導体的性質を示すカーボンナノチューブは、電界効果トランジスタ(CNT−FET)への適用が期待されている。また、第3電極層206と第4電極層210とは、Au電極として機能する。一般に、仕事関数の大きいAuを電極として用いた場合にはp型伝導特性が発現することが確認されている。消費電力の小さい論理回路を形成するにはSi−CMOSと同様、n型伝導特性が必要であり、n型FETを得るためには電極に仕事関数の小さいCaなどを用いる必要があった。しかし、本発明の実施形態2によれば、仕事関数の大きいAu電極を用いてp型とn型の伝導特性を得ることができることを第一原理計算によって示し得る。
【0038】
STM観察結果を参照して、Au(111)表面にカイラリティ(10、0)のCNTを吸着させた構造を作り、CNT−Au間の距離を変えながら第一原理計算を行った。計算にはファンデルワールス相互作用補正を取り入れた密度汎関数法を用いた。CNT−Au間の距離が7bohr程度ではp型を示したが、近づけていくにつれ伝導帯の底がフェルミ準位近くまで下がることが確認された。
【0039】
図4は、電界効果トランジスタ200の製造方法を示す模式図である。
電界効果トランジスタ200は、距離短縮装置を備える電子デバイス製造装置によって製造される。電子デバイス製造装置は、距離短縮装置を備える。距離短縮装置は、吸着部において電極層の原子表面と半導体層の原子表面との吸着距離を電極層の原子表面と半導体層の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くする。電子デバイス製造装置は、更に加重装置を備え得る。加重装置は、吸着部への 加重によって距離を安定吸着距離より短くする。
【0040】
以下、図4を参照して、電子デバイス製造装置を用いた電界効果トランジスタ200の製造方法を説明する。
【0041】
p型にドーピングされたSi層218及びSi層218の背面に設けられたバックゲート層220が準備される(図4(a))。バックゲート層220は、ゲート電極のためのAu層として機能する。
【0042】
Si層218の一部を熱酸化させることで、SiO層216を設ける(図4(b))。SiO層216は、100nmである。フォトリソグラフィー、電子ビーム蒸着及び解離プロセスによって、SiO層216の上に、第1触媒層212と第2触媒層214と半導体層208とを設ける((図4(c)、図4(d))。半導体層208は、単層カーボンナノチューブとして機能する。さらに、第1触媒層212と半導体層208との上に、第3電極層206を設け、第2触媒層214と半導体層208との上に、第4電極層210を設ける(図4(e))。第3電極層206と第4電極層210とは、Au電極として機能する。なお、第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面とは、第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離で吸着している。 また、第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面とは、第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する吸着する安定吸着距離で吸着している。
【0043】
第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面とが吸着した第1吸着部202に加重するために、第3電極層206の上に第1加重部222を設ける。その結果、第1吸着部202において、第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面との距離は、第3電極層206の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くなる(図4(f))。さらに第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面とが吸着した第2吸着部204に加重するために、第4電極層210の上に第2加重部224を設ける。その結果、第2吸着部204において、第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面との距離は、第4電極層210の原子表面と半導体層208の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くなる(図4(f))。
【0044】
以上、図3と図4とを参照して、本発明の実施形態2に係る電界効果トランジスタ200を説明した。電界効果トランジスタ200によれば、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部では、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。また、電界効果トランジスタ200によれば、低仕事関数の金属電極の使用やCNTへのドープを行なわずに仕事関数の大きい電極とCNTとの接合のみでp型とn型との両特性を発現することができる。
【0045】
[実施形態3]
[有機電界発光素子]
図5は、本発明の実施形態3に係る有機電界発光素子400を示す模式図である。有機電界発光素子400は、第5電極層402、第6電極層404、半導体層406、半導体層406の第1表面と第5電極層402とが吸着している第5吸着部408及び第1表面の反対側にある半導体層406の第2表面と第6電極層404とが吸着している第6吸着部410とを含む。有機電界発光素子400は、ガラス基板412と第5加重部414とを更に含む。
【0046】
第5吸着部408において、第5電極層402の原子表面と半導体層406の第1表面の原子表面との距離は、第5電極層402の原子表面と半導体層406の第1表面の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い。第5加重部414による第5吸着部408への加重によって、実現され得る。また、第6吸着部410において、第6電極層404の原子表面と半導体層406の第2表面の原子表面との距離は、第6電極層404の原子表面と半導体層406の第2表面の原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離である。第5加重部414によっては、第6吸着部410に加重されないため、第6電極層404の原子表面と半導体層406の第2表面の原子表面との距離は変更されない。
【0047】
有機電界発光素子400において、第5吸着部408は電子輸送特性を有し、第6吸着部410は、正孔輸送特性を有する。また、第5電極層402は陰極として、半導体層406は発光層として、さらに第6電極層404は陽極として機能する。
【0048】
以上、図5を参照して、本発明の実施形態3に係る有機電界発光素子400を説明した。有機電界発光素子400によれば、低仕事関数の金属電極の使用やCNTへのドープを行なわずに仕事関数の大きい電極とCNTとの接合のみで電子輸送型と正孔輸送型との両特性の型を発現することができる。
【0049】
以上、図1〜図5を参照して、本発明の実施形態1〜実施形態3を説明した。本発明の実施形態1〜実施形態3では、半導体層としてCNTを用い、電極層としてAuを用いたが、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部で、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる限りは、半導体層としてCNTを用い、電極層としてAuを用いることに限定されない。 半導体層は、カーボンナノチューブ、有機半導体(例えば、ペンタセン)又は酸化物半導体のうち少なくとも1つを含み、電極層は、金属的性質を有する複数の物質のうち少なくとも1つを含み得る。金属的性質を有する複数の物質には、少なくともAu、Ag、Cu、Pb及びCが含まれる。カーボンナノチューブは、カイラリティー(n、m)のカーボンナノチューブであり得る。ここで、nとmとは、n−m=3l(n、m、lは整数)を満たさない整数である。
【0050】
本発明の電子デバイスによれば、電極層の原子表面と半導体層の原子表面との距離を安定吸着距離よりも短くすることで、半導体層の電子注入障壁が下がり、電極層から半導体層に電荷が注入されやすくなる。その結果、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部では、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。従って、電界効果トランジスタや有機電界発光素子の半導体デバイスに限らず、様々な半導体デバイスに用いられ得る。
【0051】
本発明の実施形態1〜実施形態3では、吸着部への加重によって安定吸着距離より短い距離を有する吸着部を設けたが、安定吸着距離より短い距離を有する吸着部を設けることができる限りは、吸着部への加重に限定されない。
【0052】
本発明の電子デバイス100、電界効果トランジスタ200、及び有機電界発光素子400によれば、低仕事関数の金属電極の使用や半導体層へのドープを行なわずに仕事関数の大きい電極と半導体層との接合のみで、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、電界効果トランジスタデバイス、有機電界発光素子など、低仕事関数の金属電極の使用や半導体層へのドープを行なうことなく、安定吸着距離を有する吸着部における伝導特性とは異なる伝導特性を発現することができる電子デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0054】
100 電子デバイス
102 第1電極層
104 第2電極層
106 半導体層
108 第1吸着部
110 第2吸着部
112 第1加重部
114 第2加重部
200 電界効果トランジスタ
202 第3吸着部
204 第4吸着部
206 第3電極層
208 半導体層
210 第4電極層
212 第1触媒層
214 第2触媒層
216 SiO
218 Si層
220 バックゲート層
222 第3加重部
224 第4加重部
400 有機電界発光素子
402 第5電極層
404 第6電極層
406 半導体層
408 第5吸着部
410 第6吸着部
412 ガラス基板
414 第5加重部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスであって、
前記吸着部において、前記電極層の原子表面と前記半導体層の原子表面との距離は、前記電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い、電子デバイス。
【請求項2】
前記吸着部への加重によって、前記距離を前記安定吸着距離より短くする加重部を有する、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記電極層の前記原子表面から前記半導体層側にしみ出た電子雲を前記電極層の前記原子表面に押し戻すことによって、前記距離を前記安定吸着距離より短くする、請求項1又は請求項2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記半導体層は、カーボンナノチューブ、有機半導体又は酸化物半導体のうち少なくとも1つを含み、
前記電極層は、金属的性質を有する複数の物質のうち少なくとも1つを含み、前記複数の物質には、少なくともAu、Ag、Cu、Pb及びCが含まれる、請求項1から請求項3のうちの一項に記載の電子デバイス。
【請求項5】
電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスを製造する方法であって、
前記吸着部において、前記電極層の原子表面と前記半導体層の原子表面との距離を前記電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くする距離短縮工程を包含する、電子デバイス製造方法。
【請求項6】
電極層と半導体層とが吸着した吸着部を有する電子デバイスを製造する装置であって、
前記吸着部において、前記電極層の原子表面と前記半導体層の原子表面との吸着距離を前記電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短くする距離短縮装置を備える、電子デバイス製造装置。
【請求項7】
第1吸着部と第2吸着部とを有する電界効果トランジスタデバイスであって、
前記第1吸着部では、第1電極層と半導体層とが吸着し、
前記第2吸着部では、第2電極層と前記半導体層とが吸着し、
前記第1吸着部において、前記第1電極層の原子表面と前記半導体層の原子表面との距離は、前記第1電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短く、
前記第2吸着部において、前記第2電極層の原子表面と前記半導体層の前記原子表面との距離は、前記第2電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短い、電界効果トランジスタデバイス。
【請求項8】
前記第1吸着部と前記第2吸着部とは、n型伝導特性を有する、請求項7に記載の電界効果トランジスタデバイス。
【請求項9】
第3吸着部と第4吸着部とを有する有機電界発光素子であって、
前記第3吸着部では、半導体層の第1表面と第3電極層とが吸着し、
前記第4吸着部では、前記第1表面の反対側にある前記半導体層の第2表面と第4電極層とが吸着し、
前記第3吸着部において、前記第3電極層の原子表面と前記半導体層の前記第1表面の原子表面との距離は、前記第3電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記第1表面の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離より短く、
前記第4吸着部において、前記第4電極層の原子表面と前記半導体層の前記第2表面の原子表面との距離は、前記第4電極層の前記原子表面と前記半導体層の前記第2表面の前記原子表面とが安定して吸着する安定吸着距離である、有機電界発光素子。
【請求項10】
前記第3吸着部は、電子輸送特性を有し、
前記第4吸着部は、正孔輸送特性を有する、請求項9に記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−54490(P2012−54490A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197593(P2010−197593)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】