説明

電子ビーム描画装置及び電子銃のカソード寿命の判定方法

【目的】電子銃及び高圧電源回路の異常を検知することが可能な装置を提供することを目的とする。
【構成】本発明の一態様の描画装置100は、電子ビーム200を放出する電子銃201と、電子銃201に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路110と、高圧電源回路110内に配置され、電子銃201のエミッタ抵抗の変動を検知するエミッタ抵抗変動検知回路54と、高圧電源回路110内に配置され、検知されたエミッタ抵抗の変動を記録する記録回路80と、電子銃201から放出される電子ビーム200を試料の所望する位置に照射する電子光学系と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム描画装置及び電子銃のカソード寿命の判定方法に関し、特に、電子銃の異常を監視する機能を備えた電子ビーム描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。これらの半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの生産に用いられる。
【0003】
図10は、従来の可変成形型電子線描画装置の動作を説明するための概念図である。可変成形型電子線(EB:Electron beam)描画装置は、以下のように動作する。第1のアパーチャ410には、電子線330を成形するための矩形例えば長方形の開口411が形成されている。また、第2のアパーチャ420には、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330を所望の矩形形状に成形するための可変成形開口421が形成されている。荷電粒子ソース430から照射され、第1のアパーチャ410の開口411を通過した電子線330は、偏向器により偏向され、第2のアパーチャ420の可変成形開口421の一部を通過して、所定の一方向(例えば、X方向とする)に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340に照射される。すなわち、第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過できる矩形形状が、X方向に連続的に移動するステージ上に搭載された試料340の描画領域に描画される。第1のアパーチャ410の開口411と第2のアパーチャ420の可変成形開口421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式という。
【0004】
電子ビーム描画装置では、電子銃から電子ビームが放出され、かかる電子銃には加速電圧を印加する高圧電源回路が接続されている。従来、かかる電子銃及び高圧電源回路の異常を検知することが困難となっていた。特に、消耗品となるカソードの寿命は判断することは困難であった。そのため、従来、描画装置を運用中に急遽、カソード交換を迫られることが多く、ユーザは想定外の装置停止を強いられていた。そのため、カソードの寿命を予測する手法が求められていた。また、電子銃に印加する高圧電源の異常についても描画中に高精度にその異常を検知することが困難となっていた。昨今のパターンの微細化に伴い、パターン寸法に影響を与える例えば加速電圧については高精度に制御することが求められる。しかし、従来、例えば、10〜100倍程度の非常に大きな変動について確認することができるに留まっていたため、加速電圧の高精度な変動を検知することが困難であった。
【0005】
ここで、電子銃に関連する技術として、電流密度が略一定になるように、描画中に定期的に電流密度を測定し、測定された電流密度に応じて制御値を変化させるPID制御を行なう技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−010078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、電子銃及び高圧電源回路の異常を描画中に検知することが困難となっていた。また、消耗品となるカソードの寿命は判断することは困難であった。
【0008】
本発明は、かかる問題点を克服し、電子銃及び高圧電源回路の異常を検知することが可能な装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の電子ビーム描画装置は、
電子ビームを放出する電子銃と、
電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
高圧電源回路内に配置され、電子銃のエミッタ抵抗の変動を検知するエミッタ抵抗変動検知部と、
高圧電源回路内に配置され、検知されたエミッタ抵抗の変動を記録する記録部と、
電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の他の態様の電子ビーム描画装置は、
電子ビームを放出する電子銃と、
電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
高圧電源回路内に配置され、電子銃に印加される加速電圧の直流成分の変動を検知する加速電圧直流変動検知部と、
高圧電源回路内に配置され、閾値を超えた検知された加速電圧の直流成分の変動を記録する記録部と、
電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様の電子ビーム描画装置は、
電子ビームを放出する電子銃と、
電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
高圧電源回路内に配置され、電子銃に流れるエミッション電流の変動を検知するエミッション電流変動検知部と、
高圧電源回路内に配置され、電子銃に印加されるバイアス電圧の変動を検知するエミッション電流変動検知部と、
高圧電源回路内に配置され、閾値を超えた検知されたエミッション電流の変動とバイアス電圧の変動とを記録する記録部と、
電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の他の態様の電子ビーム描画装置は、
電子ビームを放出する電子銃と、
電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
高圧電源回路内に配置され、電子銃のフィラメントに供給される電力変動を検知する加速電圧直流変動検知部と、
高圧電源回路内に配置され、閾値を超えた検知されたフィラメントの電力変動を記録する記録部と、
電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様の電子銃のカソード寿命の判定方法は、
描画中に電子ビームを放出する電子銃のエミッタ抵抗の変動を検知する工程と、
検知されたエミッタ抵抗の変動を記録する工程と、
エミッタ抵抗の変動が、所定の頻度と所定の大きさの少なくとも一方を越えた場合に、電子銃のカソードの寿命と判定する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、エミッタ抵抗の異常を検出することができる。また、本発明の一態様によれば、エミッション電流の異常を検出することができる。また、本発明の一態様によれば、バイアス電圧の異常を検出することができる。また、本発明の一態様によれば、フィラメントの電力異常を検出することができる。また、本発明の一態様によれば、カソードの寿命を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
【図2】実施の形態1における高圧電源回路と電子銃の内部構成を示す概念図である。
【図3】実施の形態1における直流成分の変動要因の一例を示す図である。
【図4】実施の形態1における直流成分の変動要因の他の一例を示す図である。
【図5】実施の形態1における直流成分の変動の一例を示す図である。
【図6】実施の形態1における交流成分の変動の一例を示す図である。
【図7】実施の形態1における交流成分の変動の一例を示す図である。
【図8】実施の形態1におけるエミッタ抵抗の変動の一例を示す図である。
【図9】実施の形態1におけるJドロップの様子の一例を示す図である。
【図10】可変成形型電子線露光装置の動作を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、高圧電源回路110と制御計算機120と制御回路140と描画部150を備えている。描画装置100は、電子ビーム200を用いて試料101に所望するパターンを描画する。描画部150は、電子鏡筒102、及び描画室103を有している。
【0017】
電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、及び偏向器208を有している。照明レンズ202、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206、対物レンズ207、及び偏向器208は、電子光学系の一例である。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画対象となる試料101が載置される。
【0018】
高圧電源回路110と制御計算機120と制御回路140は、図示しないバスにより互いに接続されている。また、高圧電源回路110と制御回路140は、制御計算機120によって制御される。高圧電源回路110は、高圧ケーブル130で電子銃201に接続される。描画部150は、制御回路140によって制御される。
【0019】
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成部分について記載している。描画装置100にその他の構成が含まれても構わない。試料101にパターンを描画する際の描画部150の動作について以下に説明する。
【0020】
電子銃201から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形例えば長方形の穴を持つ第1のアパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形例えば長方形に成形する。そして、第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。かかる第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像の位置は、偏向器205によって制御され、ビーム形状と寸法を変化させることができる。そして、第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、偏向器208により偏向されて、移動可能に配置されたXYステージ105上の試料101の所望する位置に照射される。
【0021】
図2は、実施の形態1における高圧電源回路と電子銃の内部構成を示す概念図である。図2において、電子銃201は、カソード21及びアノード23を有している。カソード21は、ウェネルト電極26、エミッタ27、フィラメント28、及び碍子29を有している。また、アノード23は、図示していないが接地(地絡)されている。2極のフィラメントの結合した先端部分にエミッタ27が配置される。フィラメント28の両極には、高圧電源回路110から高圧ケーブル130を介して、フィラメント28の両極の中間電圧に直流の加速電圧の負極(−)側が印加された状態で加熱電流が流される。また、フィラメント28の両極の中間電圧とウェネルト電極26間には、高圧電源回路110から高圧ケーブル130を介して直流のバイアス電圧(ウェネルト電圧)が印加される。そして、直流の加速電圧の正極(+)側は地絡されている。そして、フィラメント28で加熱されたエミッタ27から電子が放出されることでエミッション電流が流れる。そして、放出された電子はアノード23に引っ張られることで加速して、電子銃201から放出される。
【0022】
高圧電源回路110内には、昇圧回路10、フィルター回路20、バイアス回路30、エミッション電流検出回路40、フィラメント回路50、加速電圧検出回路60、判定回路70、及び記録回路80(記録部の一例)が配置されている。また、フィルター回路20内にはバイアス電圧直流・交流変動検知回路22(バイアス電圧変動検知部の一例)が配置される。バイアス回路30内には、加速電圧交流変動検知回路32(加速電圧変動検知部の一例)が配置される。エミッション電流検出回路40内には、エミッション電流直流・交流変動検知回路42(エミッション電流変動検知部の一例)が配置される。フィラメント回路50内には、フィラメント直流・交流変動検知回路52(フィラメント電力変動検知部の一例)及びエミッタ抵抗変動検知回路54(エミッタ抵抗変動検知部の一例)が配置される。加速電圧検出回路60内には加速電圧直流変動検知回路62(加速電圧変動検知部の一例)が配置される。
【0023】
ユーザ側の電源から供給された電力の電圧が昇圧回路10で昇圧された後、フィルター回路20で整流され、バイアス電圧(ウェネルト電圧)がウェネルト電極26に印加される。また、昇圧された電圧はバイアス回路30に出力され、バイアス回路30は、フィラメント28の両極の中間電圧に直流の加速電圧の負極側を印加すると共に、エミッション電流検出回路40からエミッション電流検出回路40が検出したエミッション電流に基づく制御信号を例えば所定の一定時間経過する毎に定期的にフィードバックするように入力し、目標となるエミッション電流になるようにバイアス電圧を可変制御する。そして、フィラメント回路50は、加熱電流をフィラメント28の両極に流す。また、加速電圧検出回路60は、定期的に加速電圧を検出し、検出した加速電圧に基づく制御信号を例えば所定の一定時間経過する毎に定期的にフィードバックするように昇圧回路10に出力し、昇圧回路10を制御する。
【0024】
ここで、バイアス電圧直流・交流変動検知回路22は、バイアス電圧の直流成分とノイズとなる交流成分との各変動を常時検知して、検知された結果を判定回路70に出力する。加速電圧交流変動検知回路32は、加速電圧のノイズとなる交流成分の変動を常時検知して、検知された結果を判定回路70に出力する。エミッション電流直流・交流変動検知回路42は、エミッション電流の直流成分とノイズとなる交流成分との各変動を常時検知して、検知された結果を判定回路70に出力する。フィラメント直流・交流変動検知回路52は、フィラメント電力の直流成分とノイズとなる交流成分との各変動を常時検知して、検知された結果を判定回路70に出力する。エミッタ抵抗変動検知回路54は、フィラメント電力の計算の元になった電圧値と電流値からエミッタ抵抗を算出し、かかるエミッタ抵抗の変動を常時検知して、検知された結果を判定回路70に出力する。
【0025】
図3は、実施の形態1における直流成分の変動要因の一例を示す図である。図3に示すように、各検出対象の直流成分は、例えば、径時変化に伴うドリフトによって長期的で緩やかな変動が生じる場合がある。
【0026】
図4は、実施の形態1における直流成分の変動要因の他の一例を示す図である。図4に示すように、各検出対象の直流成分は、例えば、急峻な変動の後、出力値がずれたままになるシフトという現象による変動が生じる場合がある。
【0027】
図5は、実施の形態1における直流成分の変動の一例を示す図である。図5では、一例として、加速電圧の直流成分の変動を示している。判定回路70は、制御計算機120から直流変動検知用平均値算出要求を入力する。かかる要求に基づいて、判定回路70は、所定の期間に検出された、例えば、加速電圧の直流成分の値の平均値を算出する。かかる平均値が基準となる。また、判定回路70は、制御計算機120から、例えば、加速電圧の直流成分変動用の閾値を入力する。閾値は基準となる平均値からの上限下限の変動許容範囲となる。また、判定回路70は、制御計算機120から監視(モニター)開始要求を入力する。監視開始要求が入力されると、判定回路70は、常時検出される、例えば、加速電圧の直流成分が閾値を超えたかどうかを判定する。直流成分については、例えば1点だけ急峻に変動した結果については閾値を超えたとは判定しない。急激な変化は後述する交流成分で判定する。以上の動作をバイアス電圧、エミッション電流、及びフィラメント電力についても同様の動作を行なう。
【0028】
記録回路80は、例えば、加速電圧の直流成分について、判定回路70が閾値を超えたと判定した箇所について、発生時刻、収束時刻、及び最大変動量を記録する。そして、制御計算機120から記録出力要求を入力すると、記録された結果を制御計算機120に出力する。以上の動作をバイアス電圧、エミッション電流、及びフィラメント電力についても同様の動作を行なう。
【0029】
図6は、実施の形態1における交流成分の変動の一例を示す図である。図6に示すように、各検出対象の交流成分については、瞬間的な変動を捉える。
【0030】
図7は、実施の形態1における交流成分の変動の一例を示す図である。図7では、一例として、加速電圧のノイズとなる交流成分の変動を示している。交流変動を検知する際には、各検知回路は、直流成分の値を取り除き、加速電圧及びバイアス電圧の基準電圧、エミッション電流の基準電流、及びフィラメント電力の基準電力を0にする。これによりノイズ成分だけのレンジで検知することができる。その結果、検出する際の解像度を向上させることができる。そして、直流成分が除去された各検出結果を判定回路70が入力する。判定回路70は、制御計算機120から、例えば、加速電圧の交流成分変動用の閾値を入力する。閾値は基準となる値0からの上限下限の変動許容範囲となる。また、判定回路70は、制御計算機120から監視(モニター)開始要求を入力する。監視開始要求が入力されると、判定回路70は、常時検出される、例えば、加速電圧の交流成分が閾値を超えたかどうかを判定する。交流成分については、瞬間的に変動した結果についても閾値を超えたと判定する。以上の動作をバイアス電圧、エミッション電流、及びフィラメント電力についても同様の動作を行なう。
【0031】
記録回路80は、例えば、加速電圧の直流成分について、判定回路70が閾値を超えたと判定した箇所について、発生時刻及び最大変動量を記録する。そして、制御計算機120から記録出力要求を入力すると、記録された結果を制御計算機120に出力する。以上の動作をバイアス電圧、エミッション電流、及びフィラメント電力についても同様の動作を行なう。
【0032】
以上のようにして記録された結果は、制御計算機120からの記録出力要求に応じて記録回路80が制御計算機120に出力する。そして、描画完了後、或いは描画中に定期的に検知記録を確認することで各検出対象に異常があったかどうかを監視することができる。或いは、制御計算機120が、異常があった時点で描画動作を中止するように制御してもよい。
【0033】
次に、エミッタ抵抗の変動について説明する。
図8は、実施の形態1におけるエミッタ抵抗の変動の一例を示す図である。エミッタ抵抗の変動の挙動と電流密度の変動の挙動は、図8に示すようにほぼ一致していることを発明者は見出した。
【0034】
図9は、実施の形態1におけるJドロップの様子の一例を示す図である。描画装置では、図9に示すように、電流密度が、瞬時に最大変動値に到達し、数分〜十数分かけて序々に変動前の値に収束する現象(かかる現象を「Jドロップ」と定義する)が発生することがある。かかる現象が発生すると電子ビームの照射量に大きな誤差が生じてしまうためパターン寸法に異常をきたすことになる。そのため、かかる現象が起こるカソード21は既に寿命が尽きたものと言える。そのため、かかる現象が発生する前にカソード21を交換することが求められる。しかし、従来、かかる現象がいつ発生するのか予測することが困難であり、カソード寿命の判定が困難であった。
【0035】
そこで、実施の形態1では、図8で示したように、電流密度の変動の挙動と実質的に同じ挙動を示すエミッタ抵抗の変動を常時監視することで、カソード寿命の判定を行なう。判定回路70は、制御計算機120から、エミッタ抵抗用の閾値を入力する。閾値は基準となる安定期の値からの上限下限の変動許容範囲となる。或いは、閾値はエミッタ抵抗の変動頻度の許容範囲となる。そして、判定回路70は、制御計算機120から監視(モニター)開始要求を入力する。監視開始要求が入力されると、判定回路70は、常時検出されるエミッタ抵抗の変動が、閾値で示される頻度或いは大きさを超えたかどうかを判定する。
【0036】
記録回路80は、エミッタ抵抗の変動を記録すると共に、判定回路70が閾値を超えたと判定した箇所について、発生時刻及び最大変動量を記録する。そして、制御計算機120から記録出力要求を入力すると、記録された結果を制御計算機120に出力する。そして、制御計算機120は、エミッタ抵抗の変動が、かかる頻度と大きさの少なくとも一方を越えた場合に、電子銃201のカソードの寿命と判定し、結果を出力する。或いは、エミッタ抵抗の変動の様子を出力し、ユーザがかかる変動の様子から電子銃201のカソードの寿命を判定してもよい。いずれにしても、かかる寿命を超える前にカソード21を交換すればよい。制御計算機120には、モニタ、プリンタ、或いはネットワークに情報を出力するための外部インターフェース等の図示しない出力機能が接続される。
【0037】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0038】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0039】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての高圧電源回路および描画装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0040】
10 昇圧回路
20 フィルター回路
21 カソード
22 バイアス電圧直流・交流変動検知回路
23 アノード
26 ウェネルト電極
27 エミッタ
28 フィラメント
29 碍子
30 バイアス回路
32 加速電圧交流変動検知回路
40 エミッション電流検出回路
42 エミッション電流直流・交流変動検知回路
50 フィラメント回路
52 フィラメント直流・交流変動検知回路
54 エミッタ抵抗変動検知回路
60 加速電圧検出回路
62 加速電圧直流変動検知回路
70 判定回路
80 記録回路
100 描画装置
101,340 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 高圧電源回路
120 制御計算機
130 高圧ケーブル
140 制御回路
150 描画部
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203,206,410,420 アパーチャ
204 投影レンズ
205,208 偏向器
207 対物レンズ
330 電子線
411 開口
421 可変成形開口
430 荷電粒子ソース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
前記高圧電源回路内に配置され、前記電子銃のエミッタ抵抗の変動を検知するエミッタ抵抗変動検知部と、
前記高圧電源回路内に配置され、検知されたエミッタ抵抗の変動を記録する記録部と、
前記電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項2】
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
前記高圧電源回路内に配置され、前記電子銃に印加される加速電圧の直流成分の変動を検知する加速電圧直流変動検知部と、
前記高圧電源回路内に配置され、閾値を超えた検知された加速電圧の直流成分の変動を記録する記録部と、
前記電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項3】
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
前記高圧電源回路内に配置され、前記電子銃に流れるエミッション電流の変動を検知するエミッション電流変動検知部と、
前記高圧電源回路内に配置され、前記電子銃に印加されるバイアス電圧の変動を検知するエミッション電流変動検知部と、
前記高圧電源回路内に配置され、閾値を超えた検知されたエミッション電流の変動とバイアス電圧の変動とを記録する記録部と、
前記電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項4】
電子ビームを放出する電子銃と、
前記電子銃に電子の加速電圧を印加する高圧電源回路と、
前記高圧電源回路内に配置され、前記電子銃のフィラメントに供給される電力変動を検知する加速電圧直流変動検知部と、
前記高圧電源回路内に配置され、閾値を超えた検知されたフィラメントの電力変動を記録する記録部と、
前記電子銃から放出される電子ビームを試料の所望する位置に照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項5】
描画中に電子ビームを放出する電子銃のエミッタ抵抗の変動を検知する工程と、
検知されたエミッタ抵抗の変動を記録する工程と、
前記エミッタ抵抗の変動が、所定の頻度と所定の大きさの少なくとも一方を越えた場合に、前記電子銃のカソードの寿命と判定する工程と、
を備えたことを特徴とする電子銃のカソード寿命の判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−219372(P2010−219372A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65598(P2009−65598)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】