説明

電子ビーム蒸発装置

本発明は、真空作業チャンバ(2)と、電子ビーム(7)を生成するためであって、蒸着すべき材料(5)を加熱可能であるアキシャル放射器(6)と、前記材料(5)と成膜されるべき基板(3)との間に配置されていて、材料蒸気を前記基板(3)に通す少なくとも1つの蒸気アパーチャ(10)を有している絞り(9)とを含んでいる、電子ビーム蒸発装置であって、その際前記絞り(9)は磁石系(14)を有しており、該磁石系を用いて電子ビーム(7)は前記蒸気アパーチャ(10)を通って前記蒸発されるべき材料(5)に偏向可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば腐食保護に対する、装飾としての、EMVシールドまたは熱遮熱のための機能層を基板に真空下で被膜させる(層形成=蒸着)目的の物理的蒸着(physikalische Dampfabscheidung=PVD)の適用分野および殊に、アキシャル放射器からの電子ビームを用いた蒸発物質の加熱により蒸気が生成される(以下にEB−PVDとも表す)蒸気源の実施形態に関する。
【0002】
従来の技術
EB−PVDの広く普及している蒸気源は、ビーム生成部、磁気的な270°のビーム偏向部および蒸発物質を有するるつぼが大抵はコンパクトな機能ブロックに収容されている所謂「トランスバース・ガン」を使用している。
【0003】
このようなソース(蒸気源)は比較的安価であるが、約20kWの最大ビーム出力および約20kVの加速電圧、ひいては生成可能な蒸発レートもしくは速度は制限されている。更に、本来のビーム源(カソードおよび加熱部)は層形成チャンバの圧力レベルにありかつその中に存在している蒸気およびガス(殊に反応性プロセス実施の際に)に直接さらされている。そのために、層形成チャンバの圧力は、電子源の作動における不安定性を回避するために、真空ポンプの相応の大規模な設計により低い値に抑えられなければならない。
【0004】
必要な投資コストに関しては比較的高くつくが、技術的にはより性能の優れている、EB−PVDの変形形態はアキシャル放射器によって実現されている(DE4428508A1)。アキシャル放射器は300kWまでのビーム出力および60kVまでの加速電圧を有する蒸発法に対して設計できるようになっている。この形式のビーム源は、流れの抵抗として機能する、電子ビームを通過させる小さな、大抵は円形状の開口を備えた絞りによってプロセスチャンバとは隔離されかつ付加的な高真空ポンプによって別個に真空化される。これにより、蒸発プロセスは層形成チャンバの圧力を比較的高くしておいても実行させることができ、かつ一層高い層形成速度が実現される。しかし大面積の基板(例えば帯状体およびプレートのような)の高速層形成の作業分野においては殊に、蒸発るつぼへの電子ビームの直接照射は層形成チャンバにおける幾何学的な状態に基づいて不可能であることが多い。その場合アキシャル放射器はしばしば、水平方向の組み込み位置において配置され、かつ電子ビームはアキシャル放射器と一緒に真空チャンバ壁に収容されている付加的な磁気的な偏向系によって蒸発物質を有するるつぼに向かってガイドされる。
【0005】
この形式の偏向系−大抵は磁場を形成する磁極片を備えた流れを貫通させるようになっているコイルに基づいて−コストのかかる大きな要因となり、偏向磁場の線形性並びに電子ビームのフォーカスを著しく損ないしかもその作用は層形成チャンバ壁の具体的な材料選択および幾何学形状に著しく左右されるので、これらは蒸発装置が変形される都度大抵は新たに最適化されなければならない。
【0006】
すべての熱的な蒸発器、電子ビーム加熱される蒸発器も、蒸発物質の上表面から蒸発された粒子のスタート方向の比較的広い分布を有し、それは近似的に接線方向成分にまでなる。すなわち、蒸発源と基板との間の距離が増大するに従って増加する、蒸気流の相当量は基板には衝突せず、基板の周辺に衝突しかつそこで所謂「ワイルドな層」の形で堆積される。これに結びついている、層形成物質の損失の他に、この「ワイルドな層」のために、バッチ装置における層形成チャンバにおいて真空化持続時間の延長が生じかつインライン装置ではプロセスの長時間安定化が危険にさらされる。それ故に「ワイルドな層」は両方の装置において時としてしばしば膨大な手間をかけて層形成チャンバから除去されるようにしなければならない。
【0007】
熱的な蒸発器の蒸気流密度Φは、蒸発物質上表面の垂線と蒸発物質のスタート方向との間の角度αに対する特徴的な依存性を有しており、それは小面積蒸発器(蒸発源の拡がりが基板寸法および蒸発器−基板−距離に対して相対的に小さい)の最も簡単な場合において次の一般化されたコサイン法則に従って記述することができる:
Φ(α)=Φ・cos(α) 式1
上式中Φは蒸発物質の上表面に対して垂直である蒸気流密度を表している。指数nは熱的な蒸発の種々異なっている方法に対してそれぞれ特徴的な値を有している。高速電子ビーム蒸発器に対して、それは約2.5である。式1から直接、小面積蒸発器を有する拡がった扁平基板の層形成の場合層厚は、蒸発物質上表面の垂線の、基板平面との衝突点の領域において最大でありかつそれからそこからラテラル方向の距離が増えるに従って減少する。
【0008】
それ故に小さな基板に非常に均質な層を実現するために通例は、個々の基板が近似的に一定の蒸気流密度の平面において蒸発器上方に配置されておりかつ定常的に層形成することができる凹面形状に湾曲された大面積の基板保持体によって作業される。この形式の手法、いわば蒸気流密度一定保持の仕方(Herangehensweise)は大面積の扁平基板に対しては実践的ではない。
【0009】
扁平基板では堆積される層厚の均質性は蒸発器に対する距離を大きくすることによって簡単な仕方で改善される。しかしその場合に蒸着率(基板に堆積される材料量の、全体として蒸発された材料量に対する比)は低下し、一方層形成チャンバの真空システムに対する要求(比較的低い残留ガス圧が必要である)およびこのために必要な構造空間に基づいたその大きさに対する要求が高くなる。
【0010】
蒸発器に対する距離が短くなっている場合の大面積の基板における層厚の均質さを改善するための多様な実践に供されている手法は、複数の小面積の蒸発器を基板の寸法にわたって空間的に分配して配置しかつその個々の蒸気流密度分布を基板平面において適当に重ね合わせることである。この方法には著しい装置コストが必要になる。
【0011】
殊に出力の大きなアキシャル放射器を用いた電子ビーム蒸発の場合、大抵は別のストラテジーの解決策が追求される。このストラテジーには、蒸発物質が充填されたるつぼの拡がりを基板寸法に整合することがある。スタチックな偏向磁場と組み合わされることが多い、電子ビームの大面積で、2次元でかつ時間に依存した、ダイナミックな偏向により、電子ビームによって蒸発物質の上表面領域に局所的に照射されるエネルギー、ひいては局所的な蒸発速度の時間平均値を制御することができる。この手法では、殊に蒸発物質が昇華されて蒸発するのではなく、伝導および転流による熱平衡に基づいて拡がる溶解浴が形成される場合、熱放射による基板の熱的な負荷が高められることになる。
【0012】
前送り法において層形成される基板に対して時々使用される、層厚の一層均質な分配のための別の手法は、層形成チャンバにおいて蒸発器と基板との間の特有の絞りを配置することである。この絞りは基板の搬送方向において異なっている開口幅を有している(基板の中心では開口幅は小さくかつ縁に向かって開口幅は増大していく)。しかしこの所謂「犬骨絞り」では、蒸着率が一層低減されることになる。というのは、加熱されない絞りによって押し留められた材料は蒸発器に二度と戻り供給されることがないからである。
【0013】
電子ビーム蒸着に対して特徴的なのは、−主として、電子ビームの、蒸発物質に対する衝突角度および蒸発物質の原子番号に依存して−電子の所定の部分は蒸発物質によって吸収されず、逆散乱されることである。この逆散乱電子は著しい量のエネルギーを搬送し、このエネルギーは蒸着プロセスには使用されずかつ更には基板に対して大抵には不都合にも熱負荷をかけることになる。それ故に温度または電荷に敏感な基板からこの逆散乱電子を遠ざけるために、遮蔽磁場を生成するための付加的な装置を層形成チャンバに組み込むことが必要である。この装置は「マグネットトラップ」とも称される。
【0014】
生成される粒子の熱的な蒸発による特徴的な運動エネルギーEkinは次式に従って蒸発温度Tに比例している:
kin=k・T 式2
つまりボルツマン定数kにより、例えば、T=3000Kの蒸発温度に対して、Ekin=0.25eVの特徴的な運動エネルギーが生じる。
【0015】
この運動エネルギーはマグネトロンスパッタリングの択一的なPVD法の場合に発生する粒子エネルギーより1オーダ以上小さい。その結果として熱による蒸着は、層形成速度が高い場合には殊に、粘着強度がありかつ厚い層を実現するために、しばしば粒子エネルギーを高めるための付加的な装置と組み合わせられなければならない。
【0016】
定着している方法は所謂「プラズマ励起蒸着」(DE4336681A1)である。この場合付加的なプラズマ源(大抵はアーク放電またはHF源)を用いて蒸発器と基板との間に密なプラズマが生成される。このプラズマを横切って通ることによって、蒸発粒子の一部はイオン化されかつプラズマの縁層におけるバルクプラズマと基板との間の電位差に基づいて(最も簡単な場合は自己バイアス効果により、任意選択的に外部のバイアス電圧の印加により増強されて)基板に向かって加速され、これにより凝縮粒子の平均エネルギーが高められかつ凝縮速度が高い場合にも層品質は著しく改善される。
【0017】
この装置で不都合なのは、これが熱的な蒸発の重要な技術的な利点、すなわち−同じダイナミックな層形成速度に関連して−スパッタリング法に対して著しく(係数2乃至3だけ)低いという熱的な基板負荷を、部分的に無効にするということである。その結果として、この励起メカニズムにおいて基板近傍において必然的に高くなるプラズマ密度およびそこから生じる付加的な熱的な基板負荷が生じることになる。
【0018】
課題設定
それ故に本発明の課題は、これら技術的な問題点に鑑みて、電子ビーム蒸発における従来技術の欠点を克服することができる装置を提供することである。殊に装置は従来技術に比べて、コンパクトで、安価な機械的な構造、長い層形成持続時間および待機持続時間、層形成チャンバとの最小の磁気干渉、基板での高い蒸気利用度もしくは蒸着率、僅かな「ワイルドな層」、熱放射または逆散乱電子による最小の熱的な基板負荷、蒸発器と基板との距離を僅かにしておいた場合の層厚の均質性、材料が連続的に供給されるるつぼにおける低減された飛沫形成並びにユニバーサルな組み込み解決法を可能にしたい。
【0019】
技術的な問題点の解決法は請求項1の特徴を有する対象によって生じる。本発明の別の有利な実施形態は独立請求項から明らかである。
【0020】
本発明の電子ビーム蒸発装置は、真空作業チャンバと、電子ビームを生成するためであって、蒸発されるべき材料を加熱可能であるアキシャル放射器と、材料と成膜されるべきである基板との間に配置されていて、材料蒸気を基板に通す少なくとも1つの蒸気アパーチャを有している絞りとを含んでおり、その際絞りは磁石系を有しており、該磁石系を用いて電子ビームは蒸気アパーチャを通って蒸発されるべき材料に偏向可能である。
【0021】
材料の蒸発は、るつぼレスに(例えば回転するシリンダから昇華される材料に対して)または例えば連続補給ラインを備えた水冷式の銅るつぼとしてまたは熱アイソレーションされたブロック(材料供給なしのまたは例えばワイヤフィードを介する材料供給の行われる所謂「ホットるつぼ」)として実現可能である容器から行うことができる。
【0022】
有利な実施形態において、絞りは蒸発物質を備えた容器と基板との間で絞りは容器の上縁部上方僅か数センチメートルの所に配置されておりかつ容器の水平方向の連結体式カバープレートとして実現されている。その際絞りは容器側において低い熱伝導率を有する耐熱材料(例えばグラファイトフェルト、粒状ばら荷、砂利詰めパッケージ)の第1の層と直接その上の、高い熱伝導率を有する水冷される材料(例えば胴、純グラファイト、アルミニウム、特殊鋼)の第2の層から成っており、第2の層内に電子ビームに対する磁気的な偏向系(電流が流れる長手方向に延びたコイルまたはロッド形状の永久磁石から成っている)が配置されている。択一的に、カバープレートは容器に直接、容器カバーの形式として配置されているものであってもよい。
【0023】
連結体式カバープレートの熱アイソレーション形の第1の層は、本来の蒸発場所もしくは蒸発物質の上表面からの熱入力に基づいて(熱放射、逆散乱電子、凝縮熱)または付加的な加熱により(例えば放射加熱器によるまたは1次電子ビームの、連結体式カバープレートに結合された吸収体への適当な偏向により)層の下面に、一方において蒸発物質の層の成長を妨げるために(融解する蒸発物質の場合、例えば蒸気の凝縮および形成された液体相の容器への戻り滴下/流落により)十分に高いが、他方において熱損傷がまだ発生しない適度に低い温度が生じるように選定される。その際連結体式カバープレートの熱アイソレーション形第1の層の上面の規定の冷却に対するヒートシンクとして、その上に位置している、高い熱伝導率を有する水冷される材料の第2の層が用いられる。これらの層は場合によっては放射熱が変換される中間部が介挿されている。放射熱変換部は例えば2つの層の間のスペースホルダを用いて実現されていることができる。
【0024】
絞りには更に、1つまたは複数の開口が存在している。これら開口を通って容器に存在している蒸気が基板に達することができる。これら開口−蒸気アパーチャとも称する−は、蒸気を出す、蒸発物質の上表面に広範囲の方向分配でさらされた蒸気粒子のうち専ら、基板に配向された蒸気粒子だけが蒸気アパーチャに行き着くことができ、一方その他の蒸気粒子は絞りによって押し留めれるように成形され(最も簡単な場合は矩形)かつ寸法選定されている。
【0025】
しかしプレート形状に実現された絞りの他に、本発明の装置の絞りはフード形状に実現されておりかつ蒸発すべき材料の上方に配置されているものであってよい。絞りが蒸発されるべき材料を部分的にまたは完全に被覆している実施形態も可能である。
【0026】
しかし前送り法で成膜されるようになっている基板に対しては、絞りの蒸気アパーチャを、蒸気流の所定の量が、殊に蒸気密度分布の中心領域から、直接蒸気を出す上表面を介して蒸発器に戻されかつチャンバにまたは基板に達しないように、例えば舌状被覆体を用いて成形することも可能である。このことは例えば、所謂舌状被覆体によって実現することができ、その際舌状被覆体は、適当にプログラミングされた偏向において1次電子ビームがこれらに衝突しかつこれによりこれらが加熱され得るように配置されていてよい。その際舌状被覆体に堆積された材料は昇華または融解および滴下により熱くなった舌状被覆体から取り除かれ、従ってこれらは洗浄されかつ最初に押し留められた材料は再び蒸発プロセスに供給される。
【0027】
同時に本発明の装置における蒸気アパーチャは電子ビームに対する照射チャネルを形成している。蒸気アパーチャの照射側の縁でも、相対向する側の縁でも直接、およびひいては膜形成チャンバの壁から十分に離れて、磁石(永久磁石または磁気コイル)が配置されており、これらは著しく局地化された磁場(水平方向の平面であってかつビーム照射方向に対して垂直方向に主成分を有している)を生成する。これにより、有利には90°までの偏向角度において局所的に非常に小さな、1次電子ビームの軌道曲率半径を実現することができる。電子ビームの偏向のための磁石系がアキシャル放射器に直接および/またはチャンバ壁に配置されている公知の装置では、蒸気アパーチャを通る電子ビームのこのように狭い曲げ半径は実現可能ではない。
【0028】
実施形態において、電子ビームの偏向のための磁石系は2つの部分成分から成っており、そのうちの1つの部分成分は電子ビームの方向に観察して蒸気アパーチャの前に配置されておりかつ1部の部分成分は蒸気アパーチャの後方に配置されている。アキシャル放射器からずっと離れたところに配置されている磁石系構成要素は、これらが専ら、光学的な反射法則に類似して蒸発物質の上表面から放出される逆散乱および2次電子に影響を及ぼすが、1次電子ビームにはあまり強く影響しないように選定することができる。更に2次電子のエネルギースペクトラムの主要領域はエネルギーにおいて1次電子ビームのエネルギースペクトラムの主要領域より著しく下方にあるので、これらの電子に対して主として、1次電子ビームより著しく小さな軌道曲率半径しか設定することができない。それ故に逆散乱電子の高い百分率成分は蒸発物質の上表面と絞りとの間の領域において押し留められる。
【0029】
材料が再供給されるようになっているるつぼから蒸発を行うべきであれば、蒸気アパーチャの直接下方に配置していない、蒸発物質の上表面領域は有利には新しい蒸発物質の供給のために利用することができる。その際この再供給エリアの上表面は耐熱性でしかも化学的にアクティブでないバリヤによって主蒸発エリアの上表面から分離されて、溶融相において場合により上方に泳いでくる、供給材料の軽い不純物が電子ビームの直接的な作用領域から隔離されるようにしたい。
【0030】
蒸発器は更に、蒸発物質の電気的なコンタクト形成が、場合により容器並びに絞りのコンタクト形成により可能でありかつ例えばアーク放電の形のガス放電を蒸気のイオン化のために点弧することができるように構成することができる。この放電の形成および安定性は適当な電子ディスペンダーの収容により(例えば付加的な中空カソード、熱電子放出体としての、蒸気アパーチャへの電流加熱されるタングステンワイヤまたは電子ビームによって加熱可能な舌状被覆部の利用)促進することができる。その際形成されたイオンの加速は、蒸気アパーチャの近傍の不均質な磁場において生じる電界によって既に行われる。
【0031】
この手法において、偏向磁場が蒸発器構成群に直接収容されており並びに適当にシールドされておりかつこれにより層形成チャンバの壁および組み込み物に殆ど或いは全く干渉しない電子ビーム蒸発器が実現される。これにより、蒸発すべき材料(容器のあるまたは容器のない)および蒸気アパーチャを備えた絞りおよび収容された磁石系を含んでいる蒸発器は、真空チャンバにおけるその都度の具体的な組み込み状況に殆ど無関係であり、簡単な手法で種々異なっている層形成チャンバに整合させることができかつしばしば望まれる、電子ビーム銃の水平方向の組み込みを可能にするユニバーサルな構成群になる。
【0032】
蒸発されるべき材料の直接近傍における絞りにまたは絞り内に電子ビームの偏向磁場を本発明により実現することで、更に、方向の分配もしくは逆散乱電子の軌道の制御が可能になる。このことは最も簡単な場合、遮蔽のチャンバ壁または絞りに向かった逆散乱電子の偏向により基板の、逆散乱電子に対する遮蔽のために用いることができ、これにより熱的な基板負荷は低減される。
【0033】
しかし、磁石装置およびそれにより生じる、逆散乱電子が蒸発物質とるつぼカバーとの間の領域に完全にとどまりかつそこでそのエネルギーを利用可能に放出する軌道も考えられ、この場合には蒸発器の熱的な作用効率の改善が図られる。
【0034】
更に、蒸発領域における比較的低いエネルギーの逆散乱電子および2次電子の高められる密度に基づいて蒸発材料の近傍において直接蒸気粒子のイオン化の確率が高められる。その場合磁場の不均質性に基づいて、蒸発器上方に電位の垂直方向の勾配を形成することができ、そのために基板に向かうイオンの加速が行われる。このメカニズムは、プラズマと基板との間の境界層内部の蒸気におけるイオン成分の加速化による上述した励起とは異なって、基板に高いプラズマ密度を要求せず、これにより熱負荷の上昇を著しく抑えておいて層品質の完全が実現される。
【0035】
絞りにおける適当に成形された蒸気アパーチャにより同時に、蒸気の退出と同様に、蒸発物質の上表面に向かう電子ビームの入射が許容される。絞りにまたは絞り内に収容された、電子ビームに対する偏向磁場の特有の配置および特有のパラメータ選定のために、これらの開口は非常に小さく抑えることができる。これにより、基板に達するが、その周辺には達しない材料蒸気は専ら蒸気アパーチャを通って行く蒸気流を実現することが可能である。これにより一方において、規定の材料貯蔵において比較的長い作動持続時間が実現されかつ他方において「ワイルドな層」の形成が抑圧されるが、このことは比較的長い待機持続時間を意味することにもなる。
【0036】
適当に成形されかつ電子ビームによって加熱可能な、蒸気アパーチャを成形するための絞りの構成部分としての舌状被覆体により、蒸気源によって生成される蒸気流の所定の成分の締め出しが可能になる。これにより、この付加的な措置なしに一般化された、式1に従ったコサイン分布を充足する、蒸発器の外部の蒸気流密度分を、前送り法において層形成すべき長く延びた基板の下方に配置された規定の数の蒸発源およびその都度の使用例によって要求される、層厚のラテラル方向の均質性に対して著しく小さな蒸発器−基板−距離で作業することができるように変形する(いわば「均等化(egarisieren)」する)ことができ、これにより層形成チャンバの寸法を最小化することができる。
【0037】
その際絞りによって押し留められた、蒸気流成分は真空チャンバ内の「ワイルドな層」として消失するのではなく、蒸発器に押し留められるので、蒸気利用効率の改善にもつながる。
【0038】
ビームシールドとして作用する、蒸発器るつぼを基板に対してカバーする、絞りの閉じられた部分領域に基づいて、基板の熱的な負荷も低減される。
【0039】
供給材料における高い蒸気圧による汚染に基づいて飛沫形成を増加する傾向にある材料連続供給が行われる容器では殊に、カバーされかつバリヤにより電子ビームの直接作用領域とは分離されている、るつぼの領域を供給材料に対するフィードゾーンとして使用することができかつフィードされた材料を本来の蒸発の前にまず、真空の洗浄作用(例えばガス抜き、分別蒸留、沈降または浮上分離法)にさらすようにすることができる。その際場合によって生じる、材料の飛沫は有害ではない。というのは、飛沫は絞りによって押し留められかつ基板には達しないからであり、これにより層形成されるべき基板に関しては、飛沫のない、より安定した蒸発が材料連続供給されるるつぼの場合でも実現され、その際層形成持続時間はるつぼにおける材料貯蔵によって制限されていない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の装置の略図。
【図2】蒸気アパーチャを備えた絞りの略図。
【0041】
実施例
次に本発明を有利な実施例に基づいて詳細に説明する。
【0042】
図1には、真空作業チャンバ2内部で基板3、ポリカードナイトプレートに銅層を蒸着するものである装置1が略示されており、その際基板3上方の矢印は基板の移動方向を示している。グラファイトるつぼ4には蒸発されるべき銅材料5が存在している。銅材料はアキシャル放射器6によって生成される電子ビーム7を用いて加熱される。るつぼ4は熱的なアイソレーションのために石英礫から成る層8に埋め込まれている。
【0043】
るつぼ4の上方に、るつぼ4に対するカバープレートの形の絞り9が配置されている。絞りは、銅蒸気粒子11をるつぼ4から基板に向けて上昇させることができる蒸気アパーチャ10を有している。絞り9は層12および13を有している。銅材料5の方の側の層12は40mmの厚さのグラファイトフェルトから成っている。層13は30mmの厚さの水冷された銅プレートである。銅プレートは磁石系14を有している。磁石系は、銅プレートに埋め込まれている、20mmの直径を有するロッド形の永久磁石15から成っている。永久磁石は電子ビーム7を蒸気アパーチャ10を通って銅材料5の上表面に偏向させて、銅材料が蒸発するようにさせるものである。蒸気アパーチャ10のごく近傍におけるロッド形の永久磁石15のポジションに基づいて、蒸気アパーチャ10を通る電子ビーム7の非常に狭い曲がり半径が実現可能である。
【0044】
絞り9がるつぼ4に対するカバーとして実現されていることによって、銅蒸気粒子11はるつぼ4を蒸気アパーチャ10だけを通って基板3の方向に離れ、これにより一方において「ワイルドな層」の形成が妨げられ、他方においてプロセス熱の大部分はカバープレート9とるつぼ4との間の領域にとどまるので、プロセス効率は一層高いものとなる。
【0045】
磁石系14はロッド形の永久磁石15の2つの部分量から成っている。そのうち第1の部分量は電子ビームの方向において観察して蒸気アパーチャ10の前に配置されており、第2の部分量は蒸気アパーチャ10の後に配置されている。その際第2の部分量は多数のロッド形の永久磁石15を介して、同時に逆散乱電子および2次電子を絞り9と銅材料5との間の領域において偏向するために、第1の部分量より強い全体の磁場を有している。
【0046】
石英礫層8の内部に別のロッド形の永久磁石16が蒸気アパーチャ10の下方に埋め込まれている。これらは電子ビーム7がより急峻な角度で銅材料5の上表面に衝突するように作用する。すべてのロッド形の永久磁石15および16は同じ極性で配向されている。
【0047】
図2には、蒸気アパーチャ21を備えた絞り20が平面にて略示されているが、これは図1の装置にも使用可能である。矢印はここでも蒸着されるべき基板の移動方向を示している。絞り20は舌状部分22を有している。舌状部分22はアパーチャ21の開口幅を基板の移動方向において観察して中央に向かって狭めている。これにより、基板に立ち上る蒸気流の中央の領域は閉め出され、従って基板の幅に関して均一な層厚分布が実現される。舌状部分22が加熱され、その結果舌状部分22に堆積している材料蒸気が舌状部分22で凝縮しかつ再び蒸発されるべき材料の容器にもどるように、材料の蒸発のための電子ビームを時々舌状部分22に偏向可能にすると有利である。
【0048】
容器に滴り戻る材料は本発明の装置では従来技術の装置の場合よりクリチカルではない。その理由は、本発明の装置では電子ビームの比較的僅かな曲率半径に基づいて、比較的小さな蒸気アパーチャしか必要とされないので、滴り戻る材料が原因で生じる、基板への跳ねかけは低減されるからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空作業チャンバ(2)と、
電子ビーム(7)を生成するためであって、蒸発されるべき材料(5)を加熱可能であるアキシャル放射器(6)と、
前記材料(5)と成膜されるべき基板(3)との間に配置されていて、材料蒸気を前記基板(3)に通す少なくとも1つの蒸気アパーチャ(10)を有している絞り(9)と
を含んでいる、電子ビーム蒸発装置において、
前記絞り(9)は磁石系(14)を有しており、該磁石系を用いて電子ビーム(7)は前記蒸気アパーチャ(10)を通って前記蒸発されるべき材料(5)に偏向可能である
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記絞り(9)は材料近傍に配置されている
請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記材料(5)は容器(4)に存在している
請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記容器は水冷式の銅るつぼである
請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記容器(4)は熱アイソレーションされたブロック、所謂「ホットるつぼ」として実現されている
請求項3記載の装置。
【請求項6】
前記容器は蒸発されるべき材料を再ガイドするための装置を有している
請求項3から5までのいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
前記磁石系(14)は少なくとも1つの永久磁石(15)を有している
請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記磁石系は少なくとも1つの磁気コイルを有している
請求項1から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記絞り(9)はプレート形状に実現されている
請求項1から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項10】
前記絞りはフード形状に実現されている
請求項1から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
前記絞りは前記材料を部分的にまたは完全に取り囲んでいる
請求項1から8までのいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
前記絞り(9)は前記蒸発されるべき材料を向いている方の側において、低い熱伝導率を有する耐熱性の材料から成っている第1の層(12)を有しておりかつ蒸発されるべき材料とは反対の方の側において高い熱伝導率を有する材料から成る第2の層(13)を有している
請求項1から11までのいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
前記第1の層(12)はグラファイトフェルト、粒状混合物または砂利をパッケージしたものから成っている
請求項12記載の装置。
【請求項14】
前記第2の層(13)は銅、純グラファイト、アルミニウムまたは特殊鋼から成っている
請求項12または13記載の装置。
【請求項15】
前記第2の層(13)は水冷式されている
請求項12または13記載の装置。
【請求項16】
前記蒸気アパーチャ(10)は矩形に実現されている
請求項1から15までのいずれか1項記載の装置。
【請求項17】
前記蒸気アパーチャ(10)は、前記基板の移動方向において観察して、真ん中において、縁領域におけるよりも僅かな開口幅を有している
請求項1から15までのいずれか1項記載の装置。
【請求項18】
前記電子ビームは少なくとも前記絞りの部分領域に偏向可能である
請求項1から17までのいずれか1項記載の装置。
【請求項19】
前記蒸発されるべき材料および/または前記容器はガス放電の電極として接続されている
請求項1から18までのいずれか1項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−542900(P2009−542900A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−516988(P2009−516988)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2007/005715
【国際公開番号】WO2008/003425
【国際公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(594102418)フラウンホーファー−ゲゼルシャフト ツル フェルデルング デル アンゲヴァンテン フォルシュング エー ファウ (63)
【氏名又は名称原語表記】Fraunhofer−Gesellschaft zur Foerderung der angewandten Forschung e.V.
【住所又は居所原語表記】Hansastrasse 27c, D−80686 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】