説明

電子ビーム蒸着装置用膜厚センサ装置

【課題】長期間に亘って正常な動作を行える水晶振動式膜厚センサ装置を提供する。
【解決手段】加速した電子を照射し加熱して蒸発させた材料7を、形成した磁場により電子を遮蔽しつつ基板フィルム2の表面に付着させて薄膜を形成する際に薄膜の膜厚を求める水晶振動式膜厚センサ装置10である。膜厚センサ11と材料7間に、スリットを有する回転体12を配置する。スリットの長手方向に対して交差する方向に磁場を発生させる磁石を設ける。
【効果】水晶振動子の振動に悪影響を与える電子の膜厚センサへの入射を効果的に遮蔽することができるので、長期間に亘って正常な動作が行えるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを用いた蒸着装置に適した膜厚センサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを用いた蒸着装置は、所定の電圧で加速された電子を、真空容器内に配置した坩堝内の材料に照射し加熱することで蒸発させ、この蒸発した材料を真空容器内に配置した被蒸着部材である基板の表面に付着させて薄膜を形成するものである。
【0003】
このような電子ビームを用いた蒸着装置に限らず、基板の表面に付着させた薄膜の厚みを把握するためのセンサとして、水晶振動子への蒸着材料付着による振動数の変化を測定する水晶式膜厚センサが一般的に使用されている(例えば特許文献1)。
【0004】
しかしながら、電子ビームを用いた蒸着装置に水晶式膜厚センサを採用した場合は、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子が入射すると水晶振動子の振動に悪影響を与えて正常に動作しなくなる。
【0005】
加えて、前記反射電子や軌道をそれた電子により水晶振動子がダメージを受けたり、蒸着材料が大量に蓄積する等の理由でその寿命が著しく低下するという問題もある。
【0006】
そこで、従来は、膜厚センサに入射する電子量の低減を図るために、膜厚センサを坩堝内の材料から遠ざけたり、膜厚センサと坩堝の間にグリッドを設置する等していたが、十分な効果を得ることができなかった。
【0007】
また、膜厚センサの長寿命化対策としては、予め複数の水晶振動子を真空チャンバー内に設置しておき、寿命がくる前に新品の水晶振動子に切り替えることで対処する方法もあるが、この方法では、水晶振動子が複数必要で、しかもその切り替え機構が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−231991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、膜厚センサに入射する電子量の低減を図るために、膜厚センサを坩堝内の材料から遠ざけたり、膜厚センサと坩堝の間にグリッドを設置する等していたが、十分な効果を得ることができないという点である。
【0010】
また、複数の水晶振動子を真空チャンバー内に設置しておき、寿命がくる前に新品の水晶振動子に切り替える方法は、水晶振動子が複数必要で、しかもその切り替え機構が必要であるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電子ビーム蒸着装置用膜厚センサ装置は、
長期間に亘って正常な動作を行えるようにするために、
加速した電子を照射し加熱して蒸発させた材料を基板の表面に付着させて薄膜を形成する際に前記薄膜の膜厚を求める水晶振動式膜厚センサ装置であって、
前記膜厚センサと前記材料間に、スリットを有する回転体を配置し、前記スリットの長手方向に対して交差する方向に磁場を発生させる磁場発生手段を設けたことを最も主要な特徴としている。
【0012】
上記の本発明の電子ビーム蒸着装置用膜厚センサ装置は、膜厚センサと材料間にスリットを有する回転体を配置するので、膜厚センサに入射する電子を効果的に遮蔽することができ、長期間に亘って正常な動作を継続できるようになる。
【0013】
また、スリットの長手方向に対して交差する方向に磁場を発生させる磁場発生手段を設けてスリット内に磁場を形成するので、前記効果に加えて膜厚センサの出力が安定する。
【0014】
上記の本発明の電子ビーム蒸着装置用膜厚センサ装置において、スリットの幅を前記膜厚センサの幅よりも狭くした場合は、弱い磁場で入射しようとする電子を遮蔽することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、膜厚センサと材料間にスリットを有する回転体を配置することで、水晶振動子の振動に悪影響を与える電子の膜厚センサへの入射を効果的に遮蔽することができるので、水晶振動子を複数設置して取り替えなくても、長期間に亘って正常な動作が行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電子ビーム蒸着装置に本発明の膜厚センサ装置を設置した状態を示した図である。
【図2】(a)は回転体を正面から見た図、(b)は(a)図のスリット部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明では、長期間に亘って正常な動作を行えるようにするという目的を、膜厚センサと材料間にスリットを有する回転体を配置することで実現した。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、図1及び図2を用いて詳細に説明する。
先ず、電子ビーム蒸着装置の概略構成について述べた後、この電子ビーム蒸着装置に設置する本発明の膜厚センサ装置について説明する。
【0019】
図1中の1は真空容器であり、この真空容器1の内部上方に、表面に薄膜を形成される基板フィルム2が配置されている。この基板フィルム2は、例えば巻き出しロール3aに巻き取られ、アイドルロール3b、張力制御ロール3cを経て冷却ロール3dに巻き回された後、張力制御ロール3c、アイドルロール3bを経て巻き取りロール3eに巻き取られる。
【0020】
4は前記冷却ロール3dの成膜範囲を除く下半分を覆う防着板であり、この防着板4で覆われない成膜範囲に、真空容器1の内部下方に配置した電子銃5より放出された電子の衝突により加熱蒸発した坩堝6内の材料7が蒸着して薄膜を形成する。なお、図1中の8は電子銃5より放出された電子の進路を曲げて、接地電位である坩堝6内に導く磁石である。
【0021】
9は、坩堝6内の材料7に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子が成膜範囲に入射し、基板フィルム2への材料7の蒸着を阻害することを防止するために、冷却ロール3dの成膜範囲と、電子銃5・坩堝6・磁石8の間に配置された磁石であり、例えば基板フィルム2の進行方向に所定の間隔を存した格子状となるように4個設置している。
【0022】
本発明は、上記構成の電子ビーム蒸着装置を用いて基板フィルム2に形成される薄膜の膜厚を求める膜厚センサ装置10であり、以下のような構成を採用している。
【0023】
11は蒸発した坩堝6内の材料7が基板フィルム2に蒸着するまでの間に設けられる水晶振動式膜厚センサであり、前記蒸着材料が水晶振動子に付着することによる振動数の変化を測定することで基板フィルム2に形成される薄膜の厚みを求めるものである。
【0024】
12は前記膜厚センサ11と前記材料7の間に配置した反射電子等の電子を遮蔽し得る材料(例えばステンレス、銅等)で製作された回転体であり、例えば図2(a)に示すように、円周方向に180°回転した位置に同一のスリット12aを形成している。
【0025】
このスリット12aの長手方向は、図2に示すように、前記膜厚センサ11の直径以上の長さL1を有しており、前記膜厚センサ11における前記材料7の入射面と対向する位置に形成されている。
【0026】
このような回転体12を回動機構(図示せず)により前記スリット12aの幅方向の長さも考慮して膜厚の計測に支障がない(通常の水晶振動式膜厚センサ11と同等の精度が得られる)最小の回転数で回転することで、膜厚センサ11に入射しようとする坩堝6内の材料7に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子を効果的に遮蔽することができ、長期間に亘って正常な動作を継続できるようになる。
【0027】
13は前記スリット12aと平行に設けられた、スリット12aの長手方向に対して交差する磁場発生手段、例えば磁石であり、この磁石13によってスリット12a内の長手方向全域に亘って磁場を形成し、前記反射電子や軌道をそれた電子のスリット12a内への入射を遮蔽する。スリット12aと平行に設けられた磁石13の長さL2は、スリット12aの長手方向の長さL1以上に設定されている。
【0028】
磁場は、スリット12aの長手方向に対して交差する方向に発生させ、スリット12a内の磁束密度は電子の遮蔽効果と膜厚センサ11への磁場による影響を考慮し、6mT以上、10mT以下になるようにする。
【0029】
このような磁石13を設けた場合には、膜厚センサ11の近傍に回転体12と独立して磁石を設けた場合と比較してスリット12a間における電子の遮蔽に必要な弱磁場の磁石が使用できるため、その結果、膜厚センサ11への磁場の影響が低減され、前記効果に加えて膜厚センサ11の出力が安定する。
【0030】
ところで、前記スリット12aの幅方向の長さを、例えば図2(b)に示すように、膜厚の計測に支障のない範囲で膜厚センサ11の幅Bよりも小さくした場合は、さらに前記磁石13の磁場が弱くても、十分な前記遮蔽効果を得ることができる。
【0031】
ちなみに、図1の構成の電子ビーム蒸着装置を使用して、基板フィルム2上に下記の条件でAlを連続蒸着させた場合に、以下の膜厚センサ装置を使用して水晶振動子の振動数の変化を測定したところ、以下のような結果となった。なお、膜厚センサは、これまでの実績によれば、Alの抵抗加熱蒸着では4.3MHzまで使用可能なものを採用した。
【0032】
(蒸着条件)
・加速電圧:2kV
・エミッション電流:300mA
・膜厚センサの水晶振動子への蒸着レート:5nm/sec
・水晶振動子の所期周波数:5MHz
【0033】
(従来例)
回転体を設置しない場合、約10分で水晶振動子の周波数が4.95MHzまで減少し、且つ坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子の入射による水晶振動子の振動への悪影響により出力が不安定となって使用できなくなった。
【0034】
(実施例1)
回転体の回転中心からスリットの中心までの距離が50mmの位置に幅が10mmのスリットを、図2(a)に示す位置に2個形成した磁石なしの回転体を120rpmで回転させた。
【0035】
その結果、従来例と比べて膜厚センサに入射する蒸着材料の量は約1/16となり、出力が不安定となって使用できなくなる、水晶振動子の周波数が4.95MHzまで減少するのに約160分かかり、センサ寿命が約16倍となった。
【0036】
(実施例2)
実施例1の回転体のスリットと平行にフェライト系磁石(スリット内の最小磁束密度は6mT以上、10mT以下)を設け、実施例1と同じ120rpmで回転させた結果、約160分で水晶振動子の周波数が4.95MHzまで減少したが、出力は安定していた。その後、周波数が4.3MHzになるまで、トータルで2240分間、安定状態で使用できた。
【0037】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0038】
例えば、前記の例では、スリット12aを180°方向に2つ設けたものを示したが、十字上に4つ設けても良い。また、1つだけ設けても良い。
【0039】
また、スリット12aと平行に設置する磁石13は必要な磁場を形成できるものであれば、永久磁石でも電磁石でも良い。また、材質は、フェライト、サマリウムコバルト、ネオジウム等、何れでも良い。
【0040】
また、前記の例では、本発明の膜厚センサ装置11を適用する電子ビーム蒸着装置は、ロールを用いて基板フィルム2を連続的に供給するものを示したが、1枚ずつ基板を搬送するものでも良い。また、静止状態の基板に薄膜を形成するものであっても良い。さらに、冷却ロール3dの成膜範囲と、電子銃5・坩堝6・磁石8の間に配置する磁石9も必要に応じて設置すれば良い。
【符号の説明】
【0041】
2 基板フィルム
5 電子銃
6 坩堝
7 材料
10 膜厚センサ装置
11 膜厚センサ
12 回転体
12a スリット
13 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速した電子を照射し加熱して蒸発させた材料を基板の表面に付着させて薄膜を形成する際に前記薄膜の膜厚を求める水晶振動式膜厚センサ装置であって、
前記膜厚センサと前記材料間に、スリットを有する回転体を配置し、前記スリットの長手方向に対して交差する方向に磁場を発生させる磁場発生手段を設けたことを特徴とする電子ビーム蒸着装置用膜厚センサ装置。
【請求項2】
前記スリットの幅は、前記膜厚センサの幅よりも狭いことを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム蒸着装置用膜厚センサ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−104085(P2013−104085A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247905(P2011−247905)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】