説明

電子ビーム蒸着装置

【課題】高速蒸着と、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子による成膜部へのダメージを抑制する。
【解決手段】加速した電子を照射し加熱して蒸発させた材料5を、形成した磁場により電子を遮蔽しつつ基板フィルム2の表面に付着させて薄膜を形成する電子ビーム蒸着装置である。前記磁場を、複数の磁石10によって基板フィルム面に沿って形成させると共に、基板フィルム2を複数に配置した磁石10の一方側から他方側に向けた移動が可能なように構成する。
【効果】成膜範囲を広くした場合にも各々の磁石の磁場強度を低減でき、磁石と電子ビーム源間の距離を短くできるので、高速蒸着と、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や、軌道をそれた電子による成膜部へのダメージ抑制を共に達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを用いた蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームを用いた蒸着装置は、所定の電圧で加速された電子を、真空容器内に配置した坩堝内の材料に照射し加熱することで蒸発させ、この蒸発した材料を真空容器内に配置した被蒸着部材である基板の表面に付着させて薄膜を形成するものである。
【0003】
この蒸着装置は、多種類の材料に対して高速度の成膜が行えるので、多用途で使用されているが、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子により成膜部にダメージを受けやすい。
【0004】
そこで、成膜範囲外に設置した磁石により基板近傍に磁場を形成し、この磁場から受けるローレンツ力により前記電子を遮蔽している(例えば特許文献1)。この遮蔽に必要な最小磁束密度は、加速電圧が2〜10kVの一般的な電子ビーム源の場合は、10mT程度である。
【0005】
しかしながら、前記蒸着装置を用いて薄膜を連続的に形成する場合は、短時間で所定の膜厚とする必要があるため、高速での蒸着が必要になって、電子ビーム源の加速電圧を上げる必要がある。
【0006】
電子ビーム源の加速電圧を上げると、前記反射電子や軌道をそれた電子による成膜部へのダメージが大きくなるため、電子を遮蔽する磁場を強くする必要があるが、磁場を強くすると電子ビーム源におけるビーム偏向に悪影響を与える。
【0007】
従って、磁場を強くする場合は、磁場が電子ビームに影響を及ぼさないよう、基板と電子ビーム源との距離を大きく取る必要があり、その結果、高速蒸着に支障をきたすという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−211641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする問題点は、連続的に成膜するために電子ビーム源の加速電圧を上げて磁場を強くする場合は、基板と電子ビーム源との距離を大きく取る必要があり、高速蒸着に支障をきたすという点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電子ビーム蒸着装置は、
高速蒸着と、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子による成膜部へのダメージを抑制するために、
加速した電子を照射し加熱して蒸発させた材料を、形成した磁場により電子を遮蔽しつつ基板の表面に付着させて薄膜を形成する電子ビーム蒸着装置であって、
前記磁場を、複数の磁石によって基板面に沿って形成させると共に、前記基板を前記複数に配置した磁石の一方側から他方側に向けた移動が可能なように構成したことを最も主要な特徴としている。
【0011】
上記の本発明の電子ビーム蒸着装置は、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や、軌道をそれた電子を遮蔽する磁場を、複数の磁石によって基板面に沿って形成するので、成膜範囲を広くした場合にも各々の磁石の磁場強度を低減でき、磁石と電子ビーム源間の距離を短くできる。
【0012】
上記の本発明の電子ビーム蒸着装置において、基板の移動を、巻き出しロールに巻き取られた基板をロールを介して巻き取りロールに巻き取ることにより行い、複数の磁石を前記ロールの外周面に沿って配置すれば、更なる高速度での成膜が可能になる。
【0013】
上記の本発明の電子ビーム蒸着装置では、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子を遮蔽するには、複数の磁石間の最小磁束密度は10mTが必要である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、成膜範囲を広くした場合にも各々の磁石の磁場強度を低減でき、磁石と電子ビーム源間の距離を短くできるので、高速蒸着と、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子による成膜部へのダメージ抑制を共に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の電子ビーム蒸着装置の概略構成を示した図である。
【図2】格子状に配置した磁石部分を平面方向から見た図である。
【図3】本発明の電子ビーム蒸着装置の他の例の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、高速蒸着と、坩堝内の材料に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子による成膜部へのダメージを抑制するという目的を、前記反射電子や軌道をそれた電子を遮蔽すべく形成する磁場を、複数の磁石によって基板面に沿って形成することで実現した。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。
本発明の電子ビーム蒸着装置は、図1に示したような構成を有している。
【0018】
1は真空容器であり、この真空容器1の内部上方に、表面に薄膜を形成される基板フィルム2が配置されている。図1の例では、この基板フィルム2は巻き出しロール3aに巻き取られており、アイドルロール3b、張力制御ロール3cを経て冷却ロール3dに巻き回された後、張力制御ロール3c、アイドルロール3bを経て巻き取りロール3eに巻き取られるものを示している。
【0019】
4は前記冷却ロール3dの成膜範囲を除く下半分を覆う防着板であり、この防着板4で覆われない成膜範囲における真空容器1の内部下方に材料5の蒸発部6が配置されている。
【0020】
材料5の蒸発部6は、電子ビーム源である電子銃7と、電子銃7より放出された電子の衝突により加熱蒸発する材料5を装入する坩堝8と、電子銃7より放出された電子の進路を曲げて、接地電位である坩堝8内に導く磁石9aと、坩堝8内の材料5に照射された後の反射電子の放出方向を後述する磁石10側に誘導する磁石9bとから構成され、坩堝8内の材料5が蒸着して薄膜を形成する。
【0021】
10は、坩堝8内の材料5に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子が成膜範囲に入射し、基板フィルム2への材料5の蒸着を阻害することを防止するために、冷却ロール3dの成膜範囲と、電子銃7・坩堝8・磁石9a,9bの間に配置される磁石である。
【0022】
本発明では、この磁石10を、基板フィルム2の進行方向に所定の間隔を存した格子状となるように複数(図1では4個)設置することを特徴としている。
【0023】
これら格子状に複数設置する磁石10は、できるだけ基板フィルム2に近づけ、かつ、図1に示すように、基板フィルム2と略平行に(図1の例では冷却ロール3dの曲面に沿うように)配置すれば、シャドウが少なくなり、蒸着速度が向上するので望ましい。
【0024】
また、坩堝8内の材料5に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子が成膜範囲に入射することを抑制できる磁場を形成するためには、格子状に設置した複数の磁石10間の磁束密度としては6mT以上、10mT以下になるようにする。但し、かかる磁場を形成できるものであれば、永久磁石でも電磁石でも良い。また、材質は、フェライト、サマリウムコバルト、ネオジウム等、何れでも良い。
【0025】
上記構成の本発明の電子ビーム蒸着装置では、格子状に設置した複数の磁石10によって坩堝8内の材料5に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子を遮蔽する磁場を形成するので、図2に示すように成膜範囲を広く(例えば350mm)した場合にも、格子状に設置した各々の磁石10の磁場強度を低減することができる。
【0026】
従って、磁石10と電子銃7の間の距離を、例えば加速電圧が1.5〜2kVの範囲において、特許文献1で提案された技術では400mm程度までしか近づけることができなかったものが、図1の例の場合、200mmまで近づけることができる。
【0027】
よって、本発明の電子ビーム蒸着装置を使用した場合、高速蒸着と、坩堝8内の材料5に照射された後の反射電子や軌道をそれた電子による成膜部へのダメージ抑制を共に達成することができる。
【0028】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0029】
例えば、図1の例では、蒸発部6を基板フィルム2の進行方向と略平行となるように、成膜範囲内の基板フィルム2の進行方向中心位置における鉛直下方に設置しているが、図3に示すように、蒸発部6を基板フィルム2の進行方向に対して傾けて設置しても良い。
【0030】
この場合、電子ビーム側の磁石9aから磁石10を遠ざけることができるため、磁場の干渉を抑制でき、蒸発部6を基板側に近づけることができる。このため、高速蒸着が可能になる。
【0031】
また、蒸発部6を基板フィルム2の進行方向に対して傾けて設置することで、電子ビーム源が傾斜し(例えば255°〜285°の偏向、図3では270°の偏向)、電子ビームの坩堝8内の材料5の表面に入射する角度が図1の例ではほぼ垂直になるのに対して、本実施例では浅く(30°〜60°程度、図3では40°程度)なるため、冷却ロール3d(基板フィルム2)の表面に沿うような分布で蒸発するので、均一な膜厚での成膜が可能になる。
【0032】
なお、図3では、蒸発部6を2つ相対する位置に設置しているが、どちらか片方のみでも良い。
【符号の説明】
【0033】
1 真空容器
2 基板フィルム
3a 巻き出しロール
3d 冷却ロール
3e 巻き取りロール
5 材料
7 電子銃
8 坩堝
10 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速した電子を照射し加熱して蒸発させた材料を、形成した磁場により電子を遮蔽しつつ基板の表面に付着させて薄膜を形成する電子ビーム蒸着装置であって、
前記磁場を、複数の磁石によって基板面に沿って形成させると共に、前記基板を前記複数に配置した磁石の一方側から他方側に向けた移動が可能なように構成したことを特徴とする電子ビーム蒸着装置。
【請求項2】
前記基板の移動は、巻き出しロールに巻き取られた基板をロールを介して巻き取りロールに巻き取ることにより行い、前記複数の磁石は前記ロールの外周面に沿って配置することを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム蒸着装置。
【請求項3】
前記複数の磁石間の最小磁束密度は10mTであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子ビーム蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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