説明

電子レンジ加熱に適した凍結野菜および加工食品

【課題】レトルト食品等の加工食品の製造に用いられる、電子レンジによる加熱の際に崩壊しにくい凍結野菜を提供する。
【解決手段】酵素失活処理が施されていない生の野菜をカルシウムイオン水溶液により処理し、ブランチング処理し、次いで、該野菜の中心品温が0℃に達してから−5℃に至るまでの時間が2〜72時間となるように冷却を行うことにより、電子レンジ加熱した場合にも崩壊しにくい凍結野菜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレトルト食品等の加工食品の製造等に用いられる、電子レンジによる加熱の際に崩壊しにくい凍結野菜、及びそれを用いた電子レンジ加熱用の加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルト食品やチルド食品等の加工食品は、常温・チルド・冷凍などで一定期間の保存を可能とするため、通常、加熱処理することにより調理・殺菌(減菌)して製造される。このような加工食品の原料として、冷凍した野菜類を用いることも一般に行われている。上記の加工食品を電子レンジで加熱することも行われている。
【0003】
本出願人は、前記の形態において、冷凍原料のうち、特に冷凍馬鈴薯、冷凍根菜類等の冷凍野菜を含む原料で製造した加工食品であって、さらに調理・殺菌(減菌)等のために行う加熱処理(レトルト殺菌処理等)の温度が一定温度より高くなった場合に、冷凍されていない原料で製造した加工食品や、冷凍された原料を含み前記した一定の温度より低い温度で加熱処理して製造した加工食品に比べて、明らかに電子レンジで加熱する際に野菜が崩壊しやすいという問題点を見出した。
【0004】
そして本出願人は、特許文献1において、50mm角以下の大きさの冷凍馬鈴薯および/または冷凍豆類を、カルシウム濃度19〜162mM、80℃以下のカルシウム水溶液中に浸漬し、該冷凍馬鈴薯および/または冷凍豆類、あるいは冷凍馬鈴薯および/または冷凍豆類を含む原料を80℃を超える温度で加熱処理することを特徴とする、電子レンジ加熱用加工食品の製造方法を提供した。この方法の原料となる冷凍馬鈴薯および/または冷凍豆類の製造の前には、通常、ブランチング処理と呼ばれる酵素失活及び殺菌処理が行われている。即ち、特許文献1の方法では、酵素失活処理が施された凍結野菜の解凍時にカルシウム水溶液による処理が行われる。
【0005】
しかしながら、冷凍馬鈴薯等を一部形状の容器に収容する場合等に、特許文献1の方法により製造された電子レンジ加熱用加工食品における崩壊防止効果は必ずしも満足できるものではなかった。
【0006】
電子レンジ加熱されるレトルト食品を収容する容器として、自立可能なスタンディングパウチが用いられることがある。本出願人は、特許文献2において、スタンディングパウチ入り卵含有食品用素材を開示している。特許文献2では、含有食品用素材を収容したスタンディングパウチを開封し、生の卵を添加混合し、自立させた状態で電子レンジにより加熱することが開示されている。スタンディングパウチとは、例えば、対向する2枚の側面シートと、該2枚の側面シートの下端側に、上向き凸状に折り込まれるように配置される底面シートとにより袋状に形成された、自立可能な容器である。スタンディングパウチを自立させた状態では、底面シートと、電子レンジのテーブル等の載置面との間に空隙が形成されることとなる。この場合、スタンディングパウチ入り加工食品を電子レンジにより加熱すると、スタンディングパウチの底面の近傍に位置する野菜等の具材には、マイクロ波が、電子レンジのテーブルから反射したものも含めて多方向から照射されることになり、具材が過度に加熱されて崩壊しやすくなる。特に、冷凍馬鈴薯や冷凍人参等は極端に崩壊しやすく、これらの具材を含む加工食品をスタンディングパウチに収容した状態で電子レンジ加熱することは従来困難であった。同様の問題は、底面の下側に空隙が形成されるカップ型容器を用いた場合にも生じる。
【0007】
一方、レトルト食品を調理する際における野菜等の具材の型崩れを防止するための技術として種々のものが開発されている。特許文献3では、還元糖含量約1%以下の馬鈴薯をスライスし、ブランチングした後約12〜48時間をかけて凍結して製造される冷凍ポテトが開示されている。特許文献3によればこの冷凍ポテトは、解凍及びレトルト殺菌後も形がくずれないという特長を有する。
【0008】
特許文献4においても緩慢凍結することにより馬鈴薯のテクスチャーを維持する技術が開示されている。特許文献5では、解凍、調理した際に軟化や煮崩れがなく、食感が維持された冷凍野菜の製造法が開示されている。
【0009】
特許文献5では、野菜類を、90℃以上の高温で処理する第一工程と、カルシウムを含む水溶液中で加熱処理する第二工程とを必須とする繊維の強化工程の後、冷凍処理することにより冷凍野菜が製造される。
【0010】
本発明者らは、電子レンジによる加熱の際に冷凍馬鈴薯等が崩壊する問題を解決する目的で、前記の先行技術の効果を調べた。その結果、特許文献3及び4に開示された技術により、カルシウム処理を施さず、凍結条件を操作することでは、十分な崩壊防止効果を得ることはできなかった。
【0011】
また、特許文献5に開示された技術では、高温で処理する第一工程において、カルシウム処理の際、馬鈴薯等の細胞壁強化に作用する酵素が失活するため、第二工程でカルシウム処理を施しても、十分な崩壊防止効果を得ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−33994号公報
【特許文献2】特許第3729447号公報
【特許文献3】特開平2−261356号公報
【特許文献4】特許第2657145号公報
【特許文献5】特許第2839455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はレトルト食品等の加工食品の製造に用いられる、電子レンジによる加熱の際に崩壊しにくい凍結野菜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、驚くべきことに、酵素失活処理が施されていない生の野菜をカルシウムイオン水溶液により処理し、ブランチング処理し、次いで緩慢に凍結を行って得られる凍結野菜が、これらを用いて加工食品の形態に調理し、電子レンジ加熱した場合にも、崩壊しにくい特性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0015】
(1)酵素失活処理が施されていない生の野菜を、カルシウムイオンを含有する水溶液により処理する、カルシウム処理工程と、
カルシウム処理工程の後に野菜をブランチングする、ブランチング工程と、
ブランチング工程後の野菜を−5℃未満にまで冷却し凍結させる工程であって、該野菜の中心品温が0℃に達してから−5℃に至るまでの時間が2〜72時間となるように冷却を行う、緩慢凍結工程と
を含むことを特徴とする凍結野菜の製造方法。
(2)カルシウム処理工程において、前記水溶液のカルシウムイオン濃度が20〜180mMであり、温度が75℃以下であり、処理時間が5〜720分間であることを更なる特徴とする、(1)の方法。
(3)緩慢凍結工程において、ブランチング工程後の野菜の中心品温が10℃に達してから0℃に至るまでの時間が1分間〜48時間となるように冷却を行うことを更なる特徴とする、(1)または(2)の方法。
(4)野菜が芋類または根菜類である、(1)〜(3)のいずれかの方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかの方法により製造された凍結野菜。
(6)(1)〜(4)のいずれかの方法により製造された凍結野菜またはその解凍物を電子レンジ耐性容器に充填し、80℃を超える温度で加熱処理して得られる、電子レンジ加熱用容器入り加工食品。
(7)電子レンジ耐性容器が、シートの貼着部または折り部を有するパウチ、あるいは、側壁または底壁に角部を有するカップ状容器である、(6)の容器入り加工食品。
(8)電子レンジ耐性容器がスタンディングパウチである、(7)の容器入り加工食品。
(9)(8)の容器入り加工食品を、スタンディングパウチの上端側を開放し自立させた状態で、電子レンジにより加熱することを特徴とする、(8)の容器入り加工食品の加熱方法。
(11)(1)〜(4)のいずれかの方法により製造された凍結野菜またはその解凍物を80℃を超える温度で加熱処理して得られる、電子レンジ加熱用加工食品。
【発明の効果】
【0016】
本発明の凍結野菜は、加工食品の形態に調理し電子レンジ加熱した場合にも崩壊しにくいという特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(a)はスタンディングパウチの平面説明図であり、(b)は(a)のA−A’線縦断面説明図である。
【図2】図2(a)は凍結野菜具材を含む加工食品を充填したスタンディングパウチ1の、中ほどの高さ位置(胴部)での横断面模式図を示す。図2(b)は、前記加工食品を充填したスタンディングパウチ1の図1(b)の縦断面に相当する断面の底面4近傍を拡大した模式図である。
【図3】図3(a)は、横断面が四角形の立方体カップ状容器30の斜視図を示し、図3(b)は、凍結野菜具材を含む加工食品を充填した立方体カップ状容器30の、中ほどの高さ位置における横断面模式図を示す。
【図4】図4(a)は、横断面が円形のカップ状容器40の中心軸に沿った縦断面図を示し、図4(b)は、凍結野菜具材を含む加工食品を充填した状態での縦断面模式図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.原料
本発明の凍結野菜の製造における出発原料は、酵素失活処理が施されていない生の野菜である。野菜の種類は特に限定されないが、芋類または根菜類を用いることが好ましい。
【0019】
芋類としては、馬鈴薯、さつまいも等が挙げられる。馬鈴薯としては、通常食用とされているものであれば、どのような品種の馬鈴薯を冷凍したものであってもよい。例えば、一般的に加工食品に用いられる馬鈴薯の品種としては、豊白、さやか、男爵、農林一号などが挙げられる。
【0020】
根菜類としては人参等が挙げられる。人参としては、通常食用とされているものであれば、どのような品種の人参を冷凍したものであってもよい。
【0021】
カルシウム処理工程に供される野菜は、酵素失活処理が施されていない生の野菜である。カルシウム処理により野菜の細胞壁が強化されると考えられ、この細胞壁強化には野菜が有する酵素(ペクチンメチルエステラーゼ)が関与すると考えられるからである。酵素失活処理が施されていない生の野菜とは、生の野菜、及びこれらにペクチンメチルエステラーゼが失活する程度の処理が施されていないものを指す。典型的には、80℃以上の加熱処理が施されていない生の野菜や、後述するブランチング処理等が施されていない生の野菜を指す。
【0022】
カルシウム処理工程に供される野菜は、その大きさが50mm角以下のもので、さらに9mm角以上50mm角以下であるのが好ましく、丸のまま、あるいはカットされたものを使用することができる。ここで「50mm角以下」とは、一辺が50mmの仮想の立方体に、野菜の具材の1つが内包される大きさであることを指し、「9mm角以上」とは、一辺が9mmの仮想の立方体に、野菜の具材の1つが内包されない大きさであることを指す。
【0023】
2.凍結野菜の製造方法
本発明の凍結野菜は、酵素失活処理が施されていない生の野菜を、カルシウムイオンを含有する水溶液により処理する、カルシウム処理工程と、カルシウム処理工程の後に野菜をブランチングする、ブランチング工程と、ブランチング工程後の野菜を−5℃未満にまで冷却し凍結させる工程であって、該野菜の中心品温が0℃に達してから−5℃に至るまでの時間が2〜72時間となるように冷却を行う、緩慢凍結工程とを含む方法により製造される。
【0024】
この方法により得られる凍結野菜が電子レンジ加熱よる崩壊に対して耐性を有する機構は、次のように推定される(ただし、本発明の範囲がこの機構により限定されるわけではない)。
【0025】
カルシウム処理工程では、ペクチンメチルエステラーゼなどが関与して、野菜細胞の細胞壁が強化され、緩慢凍結工程では、緩慢凍結による野菜細胞内部の氷結晶の成長により、野菜細胞の内部組織が破壊される。この結果、強化された野菜細胞の細胞壁の骨格が保持されつつ、野菜細胞の内部組織が粗の凍結野菜が得られる。
【0026】
この凍結野菜では、細胞が比較的強固な細胞壁を有するため、レトルト殺菌処理等のように80℃を超える温度で加熱を行った場合でも細胞が収縮しにくく、細胞の内部組織は粗のまま維持される。したがって、電子レンジ加熱時に、野菜細胞の内部組織が粗であるため、上記細胞組織内で水分が移動し、細胞表面の肉薄の澱粉膜を通して、蒸散し易い。このため、野菜細胞組織内に留まった蒸気が膨張して、細胞組織を崩壊させる現象、つまり、これにより野菜が崩壊する現象が生じにくいと考えられる。
【0027】
一方、特許文献1のように、ブランチング処理により酵素を失活させた後に凍結した野菜にカルシウム処理を行うと、ペクチンメチルエステラーゼが失活して関与しないことから、カルシウムによる野菜細胞の細胞壁強化が不十分となる。次いでレトルト殺菌処理等のように80℃を超える温度で加熱を行った場合には、加熱時に野菜細胞が収縮して、細胞組織の内部が高密度化する。このため、電子レンジ加熱時において、細胞組織内の水分の蒸散が妨げられ、細胞組織内に留まった蒸気が膨張して、細胞組織を崩壊させ、これにより野菜を崩壊させることとなると推定される。
【0028】
本発明でカルシウム水溶液とするカルシウムは、食品に使用可能な水溶性塩の形態のものであれば、特に性状・種類を問わず使用することができる。そのような水溶性カルシウム塩を単独で使用してもよく、または複数組み合わせて使用してもよい。一般に流通している食品に使用可能な水溶性塩の例としては、乳酸カルシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0029】
カルシウム水溶液としては、カルシウム濃度20〜180mMとなるように水に水溶性カルシウム塩を溶解したものを用いることができ、好ましくはカルシウム濃度32〜97mMのものを用いることができる。また、カルシウム浸漬の効果を阻害しないものであれば、カルシウム水溶液中に該水溶性カルシウム塩以外の物質、例えばグルタミン酸ナトリウムなどの調味料などが存在してもいてもよい。カルシウム水溶液は調味液などの前処理液の形態であってもよい。
【0030】
野菜をカルシウム水溶液により処理する方法としては、カルシウム水溶液中に野菜を浸漬することが挙げられる。野菜を75℃以下、好ましくは20〜70℃、より好ましくは40〜65℃の温度のカルシウム水溶液中に、例えば5〜720分間、好ましくは5〜60分間浸漬することができる。
【0031】
カルシウム水溶液への浸漬は、通常用いられる装置や設備によって行うことができる。
【0032】
ブランチング工程における「ブランチング」とは、凍結野菜を製造する際に一般に行われる、水煮、蒸煮などの加熱処理を指し、野菜の酵素や微生物の働きを止め、加工や保存中の変化を防ぐことを目的とした処理である。
【0033】
そのようなブランチングは、具体的には、熱湯や水蒸気などにより、中心品温が70〜95℃、好ましくは75〜95℃で1分間以上、好ましくは2〜30分間保持される条件で野菜を加熱することによって行われる。
【0034】
緩慢凍結工程は、ブランチング工程後の野菜(通常は、ブランチング工程直後の野菜の中心品温は通常70〜95℃の範囲である)を−5℃未満にまで冷却し凍結させる工程であって、該野菜の中心品温が0℃に達してから−5℃に至るまでの時間が2〜72時間、好ましくは3〜12時間となるように冷却を行うことを特徴とする。
【0035】
このように緩慢に凍結することにより、野菜細胞内部の氷の結晶を成長させ、野菜細胞の内部組織を破壊し密度の低い粗の組織を形成することができる。前記緩慢凍結の条件を外れる急速冷凍を行った場合には、電子レンジ加熱時に野菜の組織が崩壊しやすくなる。なお、本発明において「中心品温」とは処理される野菜の内部の、外表面から最も離れた部分またはその近傍の温度を指し、通常は、冷却する場合には最も冷却され難く温度が高い部分の温度であり、加熱する場合には最も加熱されにくく温度が低い部分の温度である。
【0036】
緩慢凍結工程では、更に、ブランチング工程後の野菜の中心品温が10℃に達してから0℃に至るまでの時間が1分間〜48時間、好ましくは15分間〜2時間となるように冷却を行うことがより好ましい。また、野菜の中心品温が−5℃に到達した後に、更に冷却を継続することができ、例えば−25〜−80℃とすることができる。
【0037】
3.電子レンジ加熱用加工食品
本発明の凍結野菜またはその解凍物を含んで、一般的な手段によって、電子レンジ加熱用加工食品を調製することができる。本発明の凍結野菜またはその解凍物を含んで、80℃を超える温度で加熱処理して得られた加工食品は、電子レンジにより加熱をした場合にも野菜の崩壊が顕著に抑制される。
【0038】
本発明において「解凍物」とは、凍結野菜が全体的または部分的に未凍結の状態となったものを指す。解凍方法や加熱熱源については、特に限定されず、通常用いられる方法によって行うことができる。例えば、凍結野菜を1〜80℃、好ましくは20〜70℃の温度の水中で解凍することによって行うことができる。また、解凍装置の種類についても、特に限定されず、解凍槽を用いたバッチ式解凍、連続式解凍などを利用することができる。
【0039】
本発明の加工食品は、凍結野菜またはその解凍物を含む原料を、単独で、またはソース、スープ、調味料、香辛料などのその他原料と共に、必要に応じて調理し、必要に応じて容器(レトルトパウチ、成形容器などを含む)に詰めて、80℃を超える温度、好ましくは90℃〜130℃、さらに好ましくは100℃〜130℃の温度にて、5分間以上、好ましくは20〜100分間、加熱処理して製造することができる。このような加熱処理としてはレトルト殺菌処理を採用することができる。また、加工食品は、チルド食品、冷凍食品として調製することもできる。前記加熱処理による加熱のみによって、目的とする加工や調理が実質的になされる場合には、火が通り過ぎて具材やソース等の食感が悪くなるのを防ぐために、加熱処理に先立つ調理等の別の加熱処理を行わなくてもよい。
【0040】
上述の加熱処理に用いる製造装置などは、品質劣化につながらないものであれば、その如何を問わず、通常用いられているものを使用することができる。例えばレトルト食品の製造に通常用いられるレトルト殺菌機等により加熱処理を行うことができる。
【0041】
このようにして製造される本発明の電子レンジ加熱用加工食品は、調理済みの状態または半調理済みの状態であり、温め直しや仕上げ調理などのために電子レンジを用いて加熱することが可能であり、食品に含まれる野菜が電子レンジ加熱の際に崩壊しにくいという利点を有する。上記の利点は、本発明の凍結野菜またはその解凍物と、ソース、スープなどの流動状食品とを組み合わせた加工食品において、特に効果的に達成される。
【0042】
本発明の加工食品の特に好ましい実施形態は、本発明の凍結野菜またはその解凍物を電子レンジ耐性容器に充填し、80℃を超える温度で加熱処理して得られる電子レンジ加熱用容器入り加工食品(つまり、加工食品を当該電子レンジ耐性容器に密閉収容して、加熱殺菌などの処理を施し、喫食時に、当該容器を用いて電子レンジ加熱できる形態のもの)である。電子レンジ耐性容器としては、内容物と一緒に電子レンジ加熱しても内容物を保持できる物性を維持することができる、密封することが可能な、マイクロ波透過性の袋状または成形容器であればよい。容器の大きさや形状については特に限定されるものではないが、概ね一食分の大きさであることが望ましい。電子レンジ耐性容器は、上記加熱処理としてレトルト殺菌処理を採用する場合には、レトルトパウチなどのレトルト容器を用いることが好ましい。
【0043】
電子レンジ耐性容器の材質としては、例えば、酸化アルミ蒸着PET/Nylon/CPP(キャスティングポリプロピレン)、酸化珪素アルミ蒸着PET/Nylon/CPP、酸化アルミ蒸着PET/CPP、酸化珪素アルミ蒸着PET/CPPなどが例示される。ここで、酸化アルミと酸化珪素はバリヤー層である。その他、ポリエチレンやポリプロピレン等のプラスチックシートをラミネートした紙から成形した容器も使用することができるが、これらに制限されるものではなく、目的とする製品の種類に応じて適宜のものを使用することができる。
【0044】
電子レンジ耐性容器としては、1つまたは複数のマイクロ波透過性のシート状部材により形成される、シート状部材の貼着部または折り部を有するパウチ、あるいは、側壁または底壁に角部を有するマイクロ波透過性のカップ状容器を用いることができる。野菜を含む通常の加工食品をこのような容器に収容し、電子レンジで加熱すると、パウチにおけるシート状部材の貼着部または折り部や、カップ状容器における角部に存在する野菜にマイクロ波が多方向から照射され、過加熱された野菜が崩壊しやすいという問題があった。ところが、本発明の加工食品は、このような容器に野菜を収容し、電子レンジで加熱しても野菜の崩壊が生じにくいため有利である。このため、本発明によると、加工食品をスタンディングパウチやカップ状容器に収容し、喫食時に、上記パウチの上端側を開放し自立させた状態、または、カップ状容器の上方開口部を開放させた状態で、電子レンジにより加熱することができるような、電子レンジ加熱用容器入り加工食品の形態を実現することが可能となる。
【0045】
電子レンジ耐性容器として、複数のマイクロ波透過性のシート状部材により形成されるスタンディングパウチが挙げられる。スタンディングパウチは自立可能なパウチであって、例えば、対向する2枚の側面シートと、該2枚の側面シートの下端側に、上向き凸状に折り込まれるように配置される底面シートとにより袋状に形成されたものが挙げられる。
【0046】
図1にスタンディングパウチの一例を示す。図1(a)はスタンディングパウチの平面説明図であり、(b)は(a)のA−A’線縦断面説明図である。
【0047】
スタンディングパウチは、一般的な底ガセット式のスタンディングパウチ1であって、対向する2枚の側面シート2,3の下端側に上向き凸状に折り込まれた底面シート4は、側面シート2,3の内側下端部と、略船底型または略逆台形型の底貼着部5により貼り付けられ、更に、側面シート2,3は、その両側縁部において、側縁貼着部6,7により貼り付けられて袋状に形成される。底貼着部5、側縁貼着部6,7はいずれも、通常のヒートシールにより形成することができる。側面シートおよび底面シートは、一枚のシート部材を折り込んで形成しても良いし、2枚または3枚のシート部材により形成しても良い(図1は後者の例であるがこれには限定されない)。
【0048】
図2にはスタンディングパウチ1に、本発明の製造方法により得た凍結野菜具材21〜25(加工により解凍された状態のもの、以下野菜具材と称する)を含む加工食品を充填した状態を示す。図2(a)は野菜具材を含む加工食品27(野菜具材を除く部分は、ソースなどの流動状食品を示す)を充填したスタンディングパウチ1の、中ほどの高さ位置(胴部)での横断面模式図を示す。図2(b)は、前記加工食品27を充填したスタンディングパウチ1の図1(b)の縦断面に相当する断面の底面4近傍を拡大した模式図である。矢印により、電子レンジ加熱時のマイクロ波を模式的に示す。図2(a)(b)に示すように側縁貼着部6および底貼着部5の近傍に位置する野菜具材21,23は、パウチ中央付近に位置する野菜具材22,24と比較して、多方向からマイクロ波が照射されることとなる。また、底面シート4の折り部付近に位置する野菜具材25もまた、横方向からのマイクロ波に加えて、電子レンジ庫内のテーブル26により反射されたマイクロ波を受ける。このように、シートの貼着部または折り部を有するパウチにおいては、貼着部または折り部の近傍に位置する野菜具材に、多方向からマイクロ波が照射されることとなるが、本発明の凍結野菜を用いることにより、このような位置に具材が存在したとしても、具材の崩壊が抑制される。
【0049】
スタンディングパウチに収容された本発明の加工食品は、例えば、スタンディングパウチの上端側の一部または全部を開放し、電子レンジのターンテーブル上に自立させた状態で電子レンジ加熱を行い、喫食状態とすることができる。スタンディングパウチに収容された本発明の加工食品は、密封された状態で流通させることができ、消費者がパウチの上端側の一部または全部を開放してパウチごと電子レンジ加熱し、喫食することが可能である。
【0050】
図3には、側壁及び底壁に角部を有するカップ状容器の一実施形態を示す。図3(a)は、横断面が四角形の立方体カップ状容器30の斜視図を示し、図3(b)は、本発明の製造方法により得た凍結野菜具材32、33(加工により解凍された状態のもの、以下野菜具材と称する)を含む加工食品34(野菜具材を除く部分は、ソースなどの流動状食品を示す)を充填した立方体カップ状容器30の、中ほどの高さ位置における横断面模式図を示す。側壁31の角部に位置する野菜具材32は、容器中央部付近に位置する野菜具材33と比較して、多方向からマイクロ波を受けることとなる。本発明の凍結野菜を用いることにより、角部に具材が存在したとしても、具材の崩壊が抑制される。
【0051】
図4には、底壁に角部を有するカップ状容器の一実施形態を示す。図4(a)は、横断面が円形のカップ状容器40の中心軸に沿った縦断面図を示し、図4(b)は、本発明の製造方法により得た凍結野菜具材(加工により解凍された状態のもの、以下野菜具材と称する)を含む加工食品46(野菜具材を除く部分は、ソースなどの流動状食品を示す)を充填した状態での縦断面模式図を示す。底壁42の周縁部には、側壁41と底壁42とにより角部が形成される。この角部に位置する野菜具材43は、容器中央部付近に位置する野菜具材44と比較して、電子レンジ庫内のテーブル45により反射されたマイクロ波を受けるなど、多方向からマイクロ波を受けることとなる。本発明の凍結野菜を用いることにより、角部に具材が存在したとしても、具材の崩壊が抑制される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明の範囲は実施例の形態には限定されない。
【0053】
実施例1:スタンディングパウチ内での電子レンジ加熱
(1)冷凍馬鈴薯の調製
生馬鈴薯(品種:さやか、還元糖量:約3%)を19mm角にカットし、60℃の1%塩化カルシウム溶液(カルシウム濃度90.1mM)に30分浸漬してカルシウム処理した後、85℃、5分間のブランチング処理(水煮)を行った。
【0054】
その後、馬鈴薯を冷却水で品温10℃まで冷却し、段ボールに入れて庫内温度−26℃の冷凍庫で緩慢凍結した。このとき、馬鈴薯中心部の品温が10℃から0℃にまで低下するのに1.5時間かかり、0℃から−5℃にまで低下するのに7時間かかり、−5℃から−26℃にまで低下するのに23時間かかり、緩慢凍結開始から31.5時間後に−26℃に到達した。
【0055】
(2)スタンディングパウチ入りレトルト食品の調製
前記の冷凍馬鈴薯を40℃の温水に浸漬して解凍し、水を切った馬鈴薯30gと、クリームシチューソース150gとをスタンディングレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機で122℃、25分の加熱殺菌を行った。
【0056】
(3)電子レンジ加熱
スタンディングレトルトパウチの上部を開封し、自立させた状態で電子レンジ(シャープ社製RE−SX50)で600W,2分30秒加熱した。加熱後の馬鈴薯の形状を「馬鈴薯が割れず、亀裂も入っていない」「馬鈴薯は割れていないが、亀裂が入っている」「馬鈴薯が4分の1〜2分の1に割れている」に分け、各形状が確認されたレトルトパウチの数に基づき、加熱中の馬鈴薯の崩壊規模・頻度を確認した。
【0057】
結果は、レトルトパウチの数N=40個で確認したところ、40個全てが、馬鈴薯が割れず、亀裂も入っていないものであった。このことから、加熱中の崩壊が抑制されたことが確認された。
【0058】
比較例1:ブランチング処理後にカルシウム処理を実施
生馬鈴薯を、(品種:さやか、還元糖量:約3%)を19mm角にカットし、85℃、5分間のブランチング処理(水煮)を行った後、60℃の1%塩化カルシウム溶液(カルシウム濃度90.1mM)に30分浸漬してカルシウム処理した。その後の緩慢凍結以降は、実施例1と同様にしてスタンディングパウチ入りレトルト食品を調製し、電子レンジで加熱した。
【0059】
加熱中の馬鈴薯の崩壊規模・頻度を実施例1と同様に確認した。確認に用いたレトルトパウチの数N=40個のうち、馬鈴薯が割れず、亀裂も入っていないものが24個、馬鈴薯は割れていないが、亀裂が入っているものが7個、馬鈴薯が4分の1〜2分の1に割れているものが9個であった。
【0060】
比較例2:IQF急速凍結、スタンディングパウチ内で電子レンジで加熱
ブランチング処理の後冷却した馬鈴薯を、緩慢凍結する代わりに、IQF装置で−30℃で急速凍結する以外は、実施例1と同様にしてスタンディングパウチ入りレトルト食品を調製し、電子レンジで加熱した。
【0061】
馬鈴薯凍結時における、馬鈴薯中心部の品温が10℃から0℃にまで低下するのに6分間かかり、0℃から−5℃にまで低下するのに8分間かかり、−5℃から−15℃にまで低下するのに7分かかり、緩慢凍結開始から1.5時間後に−26℃に到達した。
【0062】
電子レンジで加熱中の馬鈴薯の崩壊規模・頻度をレトルトパウチの数N=40個で確認した。その結果、馬鈴薯が割れず、亀裂も入っていないものが12個、馬鈴薯は割れていないが、亀裂が入っているものが20個、馬鈴薯が4分の1〜2分の1に割れているものが8個であった。
【0063】
実施例2:冷凍人参
生馬鈴薯の代わりに乱切り7gにカットした生人参原料を用いて、実施例1と同様にして冷凍人参を調製した。(各々同様の条件でカルシウム処理、ブランチング処理及び緩慢凍結を実施した)。この場合、凍結時の人参中心部の品温が、各温度帯を通過する時間は、実施例1の馬鈴薯の場合と同様であった。
【0064】
冷凍馬鈴薯の代わりに前記の冷凍人参を用いる以外は、実施例1と同様にしてスタンディングパウチ入りレトルト食品を調製した。
【0065】
実施例1と同様にして電子レンジ加熱した場合の、加熱中の人参の崩壊規模・頻度をレトルトパウチの数N=40個で確認した。その結果、40個全てが、人参が割れず、亀裂も入っていないものであった。これらにより、加熱中の崩壊が抑制されていたことが確認された。
【符号の説明】
【0066】
1・・スタンディングパウチ
30・・・側壁に角部を有するカップ状容器
40・・・底壁に角部を有するカップ状容器
21〜25、32、33、43,44・・・野菜具材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素失活処理が施されていない生の野菜を、カルシウムイオンを含有する水溶液により処理する、カルシウム処理工程と、
カルシウム処理工程の後に野菜をブランチングする、ブランチング工程と、
ブランチング工程後の野菜を−5℃未満にまで冷却し凍結させる工程であって、該野菜の中心品温が0℃に達してから−5℃に至るまでの時間が2〜72時間となるように冷却を行う、緩慢凍結工程と
を含むことを特徴とする凍結野菜の製造方法。
【請求項2】
カルシウム処理工程において、前記水溶液のカルシウムイオン濃度が20〜180mMであり、温度が75℃以下であり、処理時間が5〜720分間であることを更なる特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
緩慢凍結工程において、ブランチング工程後の野菜の中心品温が10℃に達してから0℃に至るまでの時間が1分間〜48時間となるように冷却を行うことを更なる特徴とする、請求項1または2の方法。
【請求項4】
野菜が芋類または根菜類である、請求項1〜3のいずれかの方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの方法により製造された凍結野菜。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかの方法により製造された凍結野菜またはその解凍物を電子レンジ耐性容器に充填し、80℃を超える温度で加熱処理して得られる、電子レンジ加熱用容器入り加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−152070(P2011−152070A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15409(P2010−15409)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】