説明

電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法

【課題】この発明は、原料米を予め凍結処理をして米粒に亀裂を生じさせ、さらにこれを蒸煮処理して米粒の表面を糊化した後に吸水させ、さらにこれを凍結乾燥することで米粒を多孔質化させ、これによって水が速やかに米粒に吸収するようにして電子レンジで容易に食感の優れた米飯を炊飯できるようにした加工米を得ようとするものである。
である。
【解決手段】原料米を凍結処理しさらにその原料米を蒸煮し、その後これに水または温湯を加えて蒸煮米に吸水させ、次いでこの吸水させた蒸煮米を凍結乾燥することを特徴とする電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子レンジを使用して簡便に短時間で炊飯が出来るようにした加工米の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から炊飯の簡便性を求め、各種の即席炊飯米が市場に出回っている。これらは電子レンジや湯煎で再加熱して食するもので、無菌米飯やレトルト米飯がある。これらの加工米飯は簡便性の面では確かに優れているが、いずれも既に炊飯済みの米飯を包装したものであるので、従来の供食に際して電気釜などで炊飯した通常の飯米と比較すると食感の点で明らかに劣ることは避けられなかった。
【0003】
また、凍結乾燥処理や膨化処理をした即席米や乾燥粥は、熱湯注湯するだけで復元するので簡便であるが、このものも食感や風味、価格などの点から主に加工食品向けの素材として使用されるもので用途が限られていた。簡便性の点からすると、精米の糠を除去した無洗米は従来の精米と比較して洗米の手間が省けて優れ、また食感の点でも満足するものであった。
【0004】
しかし、この無洗米でも炊飯には水浸漬と炊飯に1時間以上も要するだけでなく、炊飯釜など特別な炊飯器を必要とし、しかもこの場合、炊飯器具は炊飯ごとに洗浄することが必要となるなど、簡便性の点では従来の炊飯と実質的に大差のないものであった。
【0005】
また、早炊き米と呼ばれる各種加工米の開発も行なわれている。これらは米の澱粉の一部がα化した状態のもので、炊飯釜を用いて炊飯時間を通常の半分程度となるようにしたものである。
【0006】
これらの先行技術としては、浸水した米の水分含有量を約13〜15%にした米を5〜20分蒸煮して、米粒の表面部のみをα化して中心部はβ−澱粉の状態に止めたものに、調味液を吸着させるか或いはそのまま50〜70℃で乾燥したものが公知である(例えば特許文献1。)。また、玄米および搗精米を水または温湯に浸漬した後凍結し、減圧乾燥する早炊き米の製造方法が公知である(例えば特許文献2。)。
【0007】
また、原料米を浸漬することなく10〜20分蒸煮した後、この蒸煮により20〜30%がアルファ化した米粒の表面を乾燥して単粒化させ、これを190〜300℃の熱風により表面に亀裂を生じさせることなく30〜60秒間焙煎して内部に多数の細孔を形成するとともに70〜80%アルファ化させ、さらに焙煎後の米粒を5分以内に常温に冷却する早炊き米の製造方法が公知である(例えば特許文献3。)。また、生米にマイクロ波を照射してこの生米の表面に微細な亀裂を生じさせ、この亀裂を生じたマイクロ波加工米を数時間浸漬した後、乾燥することからなる電子レンジ炊飯用早炊き米の製造方法が公知である(例えば特許文献4。)。
【特許文献1】特公昭42−27281号公報(特許請求の範囲1、発明の詳細な説明,1〜4行)
【特許文献2】特公昭60−10695号公報(特許請求の範囲1)
【特許文献3】特許第3033631号公報(特許請求の範囲,請求項1)
【特許文献4】特開2003−164263号公報(特許請求の範囲,請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のものは、水分含有量が13〜15%で炊飯に必要な水分が含まれておらず、このため炊飯に際して必要な水を添加して炊飯するが、この水が米の中に速やかに吸収されることがないために電子レンジでの炊飯ではこれが最初に沸騰して容器から溢れだし、満足するような炊飯がなされず食感の優れた米飯は到底得られなかった。
【0009】
また、特許文献2の早炊き米は、玄米や精米を水または温湯に浸漬して凍結し、これを減圧乾燥するので、米粒が砕けて食感を損ねるといった問題が生じていた。この米の砕けを避けるために浸漬工程の後に短時間蒸煮処理することが特許文献2には開示されているが、仮にその場合でも米粒の中に十分な水分が含有されていないので、これに水を加えてそのまま電子レンジで炊飯しようとしても水分が先に沸騰して満足するような米飯を得ることは出来なかった。そのために、この先行技術の実施例2にあるように、これを電子レンジで炊飯するには、その都度早炊き米を脱気用小孔を設けた耐熱性合成樹脂袋に入れて炊飯しなければならないといった煩雑さがあった。
【0010】
特許文献3は、原料米を浸漬することなく10〜20分蒸煮し、20〜30%がアルファ化した米粒の表面を乾燥して単粒化させ、これを190〜300℃の熱風により表面に亀裂を生じさせないようにして焙煎して内部に多数の細孔を形成(膨化)させたものである。しかし、この米粒は内部に十分な水分を含有していないために炊飯した米飯は膨化した感があってふっくらとしたものではなく、食感が必ずしも十分でなかった。
【0011】
また、特許文献4のものは、マイクロ波を照射して表面に微細な亀裂を生じさせたマイクロ波加工米を浸漬して乾燥するものである。しかし、このマイクロ波加工米は、微細な亀裂で米粒の一部が砕米となってこれを炊飯したものは食感のよくないといった問題が生じていた。
【0012】
この発明は、原料米を予め凍結処理をして米粒に亀裂を生じさせ、さらにこれを蒸煮処理して米粒の表面を糊化した後に吸水させ、さらにこれを凍結乾燥することで米粒を多孔質化させ、これによって水が速やかに米粒に吸収するようにして電子レンジで容易に食感の優れた米飯を炊飯できるようにした加工米を得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、原料米を凍結処理しさらにその原料米を蒸煮し、その後これに水または温湯を加えて蒸煮米に吸水させ、次いでこの吸水させた蒸煮米を凍結乾燥することを特徴とする電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法(請求項1)、前記原料米が、低アミロース米である請求項1記載の電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法(請求項2)前記原料米が、精米から糠を除去した無洗米である請求項1記載の電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法(請求項3)および前記水または温湯を加えた蒸煮米の品温が、米澱粉の糊化温度以下である請求項1記載の電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法(請求項4)である。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、米粒に予め処理する凍結処理と最終に行なう凍結乾燥処理によって米粒に亀裂を与えかつ細孔を設け多孔質とすることができる。これによって炊飯に際して米粒が必要な量の水を急速に吸収することができるようになる。そのためにこの発明によると米粒に水を加えて電子レンジで加熱するだけで、特別な炊飯器を使用しなくとも米粒は必要な水分を急速に吸収して炊飯することが可能である。その結果、炊飯された米飯はふっくらとして優れた食感をもったものとすることができる。また、この発明では予め凍結処理した米粒を蒸煮するので、米粒表面に糊化皮膜が形成されて砕米発生を抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明は、予め凍結処理した原料米を蒸煮してから吸水させ、ついでこれを凍結乾燥する電子レンジ炊飯可能な加工米の製法である。
【0016】
この発明では、蒸煮する前の原料米を予め凍結させて、原料米自身が含有している水分を凍結膨張させて、米粒に亀裂を生じさせるものである。ここでの処理は、原料米が凍結できればその手段を問わないが、例えば−20℃の冷凍庫に放置するだけで達成される。
【0017】
この発明で用いる原料米は玄米や精米を用いるが、この原料米は洗米や水浸漬をしないで使用するので、最終製品に糠臭や酸化が危惧される場合は、米粒表面の糠を除去した無洗米を用いることが好ましい。ここで使用する原料米の品種は目的とする製品の性状により適宜選択すればよい。通常の炊飯米の形状、食感を得ようとする場合は、砕米の発生が防げる低アミロース米の使用が好ましい。
【0018】
通常のうるち米には20%前後のアミロースが含まれているが、低アミロース米はアミロースが10%前後しか含まれていない。その結果、凍結によって亀裂の生じた原料米を蒸煮すると、低アミロース米では通常のうるち米に比べ粘弾性や水との親和力が強いために、特に米粒表面にある亀裂部が結着して、炊飯時の吸水状態でも通常の炊飯米の形状を保持して砕米の発生を防ぐことが可能である。
【0019】
反対に、かゆ状の性状を希望する場合は通常のうるち米を用いることで比較的に砕米を多くした状態となるように炊飯することもできる。この低アミロース米の品種としては、ミルキークィーン、彩、あやひめ、スノーパールなどがあげられる。
【0020】
上記の凍結処理した原料米は、次にこれをそのまま蒸煮処理する。ここでの蒸煮処理は通常の蒸し器で行なわれるが、工業的には連続スチーマーを用いて行なわれる。蒸煮時間は蒸煮時の原料米の層厚や、求める飯米の性状によって決められるが、蒸煮が不足すると砕米が発生しやすくなる。例えば、低アミロース米を使用して飯米を得ようとするときには、米の層厚1cm程度の状態で常圧蒸気20分程度行なうのが好ましい。
【0021】
この発明では、凍結処理した原料米をそのまま蒸煮するものであるが、原料米には限られた水分しか保持されていないので、蒸煮後のα度は20〜30%である。しかし、それでも米粒表面は内部よりも糊化が進んでいるので米粒の亀裂に対する強度を付与することが可能である。
【0022】
次に、ここで得られた蒸煮米をコンテナなどの容器に収容し、水または温湯を加えて蒸煮米に水分を吸収させる。蒸煮米に対する水または温湯の添加量は原料米重量に対して10重量%以上であればよく、また蒸煮米が1時間程度で吸収できる量が好ましい。原料米の吸水量が多くなると、得られる加工米の大きさも大きくなり、形状も原料米と異なってくる。さらに、米粒の割れも多く見られるなど、炊飯に供する米としては違和感をおぼえるものとなる。それに加え、加水量が多いと次の凍結乾燥コストも上昇するために、加水量は原料米重量の30〜60重量%が好ましい。
【0023】
蒸煮米に水または温湯を加えて吸水させる際は、その前段の蒸煮の余熱で米澱粉の糊化温度といわれる65〜70℃以上に品温が上昇するのを防ぐようにする。米澱粉の糊化度合いが進むと米粒同士が付着して塊状或いは団粒化する。しかしながら、品温が低いほど蒸煮米の吸水が遅くなるとともに、得られた加工米の食感も硬くなる傾向がある。こうしたことから、蒸煮米への吸水時の品温は40〜65℃の範囲が好ましい。なお、品質保持のためや炊き込みご飯などを目的とする場合は、吸収させる水または温湯に醤油や砂糖、ダシなどの調味料、野菜や魚介類、畜肉などの具材、ビタミンEなどの抗酸化剤、寒天、トレハロースなどの糖類を添加混合することが可能である。
【0024】
水または温湯の吸水が終わった蒸煮米は、続いて凍結乾燥を行う。この凍結乾燥に際しては事前に急速凍結で予備凍結することが好ましい。緩慢な凍結では蒸煮した米澱粉の老化をもたらし、その結果得られる加工米の食感が硬くなり品質を損ねる恐れがある。凍結乾燥は、常法に従って真空度30〜50Pa程度、棚加熱温度60℃程度で行い、水分を7%以下にして行う。この凍結乾燥によって蒸煮米に水を吸収させた米粒の多孔質化を図ることが出来る。
【0025】
従って、この発明によると原料米を予め凍結処理して米粒に亀裂を生じさせ、さらに蒸煮米に水を吸収させてから凍結乾燥することで多孔質化を図ることで、米粒に亀裂と多孔質化の二段処理を施すことになり、得られた加工米はこれらの亀裂や多孔質を通して速やかに炊飯に必要な水を吸水することができるようになるものである。
【0026】
このようにして得られた加工米は、これに通常の容器の茶碗にいれてこれに炊飯に必要な所定の水を加えると、そのままで急速に吸水してその水を保持した状態となる。これを電子レンジなどで加熱すると短時間で米澱粉が糊化して炊飯が完了する。また、炊飯時には炊飯特有の炊飯臭を有するなど、従来にない特徴をもった加工米を得ることができる。そして、炊飯された飯米は通常の釜炊きの飯米と遜色のない食感をもったものとすることができる。
【実施例】
【0027】
北海道産の低アミローゼ米(あやひめ)400gを−25℃の冷凍庫に一夜放置して凍結した。次いでこれを室温に放置して常温に戻し、直径25cmの金属製の円形ザルに約1cm程度の厚さになるように均一に入れて、家庭用蒸し器で20分間蒸煮した。その後、この蒸煮米をボールに移し、45℃の温水180gとビタミンE乳剤1.6gを加え混合した。ここでの混合した温水は30分程度で蒸煮米に全て吸収された。なお、温水混合直後の品温は約60℃であった。
【0028】
吸水を終えた蒸煮米は、次いで凍結乾燥用トレイに移し、−40℃の冷凍庫で急速凍結を行った。これを常法に従い凍結乾燥機のチャンバー内に入れ、真空度35〜60Pa、棚温度60℃で乾燥し加工米360gを得た。この加工米は表面の糊化が進んでおらず簡単に単粒化ができた。
【0029】
この加工米60gを家庭用の茶碗に入れ、これに水100gを加えたところ約20秒で水が米粒に吸収され、茶碗の表面には遊離水は認められなかった。この吸水米を出力500ワットの家庭用電子レンジを用いて3分間加熱を行ったところ、加熱時の泡立ちや茶碗からの吹きこぼれもなく、良好な炊飯を行うことが出来た。得られた飯米は150gであり、米粒の崩れもなく通常の炊飯と同等の炊き立ての風味、食感の飯米であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料米を凍結処理しさらにその原料米を蒸煮し、その後これに水または温湯を加えて蒸煮米に吸水させ、次いでこの吸水させた蒸煮米を凍結乾燥することを特徴とする電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法。
【請求項2】
前記原料米が、低アミロース米である請求項1記載の電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法。
【請求項3】
前記原料米が、精米から糠を除去した無洗米である請求項1記載の電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法。
【請求項4】
前記水または温湯を加えた蒸煮米の品温が、米澱粉の糊化温度以下である請求項1記載の電子レンジ炊飯可能な加工米の製造方法。

【公開番号】特開2008−131887(P2008−131887A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−320286(P2006−320286)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【出願人】(592061902)株式会社永谷園 (12)
【Fターム(参考)】