説明

電子体温計の製造方法

【課題】 電子体温計の製造工程におけるコストの削減を図る。
【解決手段】 本発明に係る電子体温計の製造方法は、温度計測を行うためのサーミスタが接続された回路を基板上に搭載する工程と、前記基板を本体ケース内に挿入するとともに、前記サーミスタを金属キャップ内に固定する工程と、少なくとも前記金属キャップの全体を恒温槽内に浸水させる工程と、温度計測に用いられる校正値が算出済みか否かを判定する工程と、前記校正値が算出済みでないと判定された場合に、前記金属キャップの全体が前記恒温槽内に浸水された状態で、前記温度計測の結果に基づいて前記校正値を算出し、記憶手段に記憶する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子体温計の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子体温計の分野では、従来より、温度変化に伴うサーミスタの抵抗変化を測定するための技術として、単一入力積分型A/D変換回路やCR発振回路が用いられてきた。
【0003】
単一入力積分型A/D変換回路とは、所定の電源電圧を印加した場合に、サーミスタの抵抗変化に比例する量の電荷を蓄積するとともに、当該蓄積した電荷を放電した場合に、抵抗変化に比例する時間のON信号を出力することが可能な回路である。
【0004】
当該単一入力積分型A/D変換回路を用いた電子体温計では、上記回路に、更に、基準抵抗体を介して電荷を蓄積する系を付加し、サーミスタを介して蓄積した電荷を放電した場合の放電時間と、基準抵抗体を介して蓄積した電荷を放電した場合の放電時間との比に所定の係数(校正値)を積算することで、温度の算出を行っている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0005】
一方、CR発振回路を用いた電子体温計では、所定の電圧で印加されることで発振するサーミスタとコンデンサとによる発振回路と、所定の電圧で印加されることで発振する基準抵抗体とコンデンサとによる発振回路とを設け、サーミスタとコンデンサとによる発振周波数と、基準抵抗体とコンデンサとによる発振周波数との比に所定の係数(校正値)を積算することで、温度の算出を行っている。
【0006】
ここで、温度の算出に用いられるこれらの係数は、特にサーミスタの温度特性のバラツキと、サーミスタが接続された回路の個体差とを考慮する必要があるため、回路ごとに校正を行うことにより算出を行っている。
【0007】
具体的には、電子体温計の製造工程のうち、当該回路が搭載された基板を、電子体温計の筐体に組み込む前の段階で、校正設備に電気的に接続したうえで、サーミスタの部分を恒温槽に入れることで、当該校正処理を行っている。
【0008】
図6は、当該校正処理を含む電子体温計の製造工程を模式的に示した図である。図6に示すように、ステップIでは、基板上に回路が搭載され、ステップIIでは、回路が搭載された基板が校正設備に電気的に接続される。そして、ステップIIIでは、絶縁性の高い液体(ガルデン;テクノ・アルファ社製の登録商標)が37℃に制御された恒温槽内に、サーミスタの部分が浸水され、校正設備にて校正処理が実行される。その後、ステップIVでは、校正設備から取り外され、ステップVにて基板に電源(電池)が搭載された後、ステップVにおいて、筐体内に基板が固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−014501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のような製造工程の場合、電子体温計の筐体に組み込む前の基板が恒温槽に入れられるため、電気的な短絡が発生しないよう、恒温槽には、絶縁性の高い液体を使用する必要がある。このため、製造コストがかかるという問題がある。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、電子体温計の製造工程におけるコストの削減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために本発明に係る電子体温計の製造方法は以下のような構成を備える。即ち、
温度計測を行うためのサーミスタを含む電子体温計の製造方法であって、
前記サーミスタが接続された回路を基板上に搭載する工程と、
前記基板を本体ケース内に挿入するとともに、前記サーミスタを金属キャップ内に固定する工程と、
少なくとも前記金属キャップの全体を恒温槽内に浸水させる工程と、
前記温度計測に用いられる校正値が算出済みか否かを判定する工程と、
前記校正値が算出済みでないと判定された場合に、前記金属キャップの全体が前記恒温槽内に浸水された状態で、前記温度計測の結果に基づいて前記校正値を算出し、記憶手段に記憶する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電子体温計の製造工程におけるコストの削減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる電子体温計100の外観構成を示す図である。
【図2】図2は、電子体温計100の機能構成を示す内部ブロック図である。
【図3】図3は、電子体温計100の校正処理及び温度計測処理プログラムの流れを示すフローチャートである。
【図4】図4は、電子体温計100の体温測定処理プログラムの流れを示すフローチャートである。
【図5】図5は、電子体温計100の製造工程の流れを模式的に示した図である。
【図6】図6は、従来の電子体温計の製造工程の流れを模式的に示した図である。
【図7】図7は、従来の電子体温計の校正処理及び温度計測処理プログラムの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、必要に応じて添付図面を参照しながら本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
<1.電子体温計の外観構成>
図1は、本発明の一実施形態にかかる電子体温計100の外観構成を示す図であり、図1の(A)は平面図を、図1の(B)は底面図をそれぞれ示している。101は本体ケース(筺体)、102は筐体キャップで、後述する制御部220等の電子回路、電池(電源部)230等が収納される。本体ケース(筐体)101と筐体キャップ102とは、ネジ106によりネジ止めされている。なお、ネジ106によるネジ止めに代えて、本体ケース(筐体)101と筐体キャップ102とをO−リングを介して係合させた後、本体ケース(筐体)101と筐体キャップ102との接合部を全周にわたって超音波により融着させるようにしてもよい。
【0017】
103は、ステンレス製の金属キャップで、内部には温度を計測するためのサーミスタ(詳細は後述)等が収納される。104は電源ON/OFFスイッチであり、1回押圧すると電源部がONとなり、再度押圧すると電源部がOFFとなる。
【0018】
なお、電源ON/OFFスイッチ104に対しては、更に、バックライトの点灯/消灯機能や、ブザーONのON/OFF機能をもたせるようにしてもよい。あるいは、電子体温計100の収納ケース(不図示)内に永久磁石を設け、かつ、電子体温計100の電源ON/OFFスイッチ104の代わりに、マグネットリードスイッチを配することで、電子体温計100を収納ケースから取り出すたびに、電源がONされるように構成してもよい。
【0019】
105は表示部であり、被検者の体温を表示する。105aは表示部105を覆う透明の窓部材であり、該窓部材105aと本体ケース(筐体)101とは、好ましくは二色整形により、液密に形成される。
【0020】
<2.電子体温計の機能構成>
図2は本実施形態にかかる電子体温計100の機能構成を示す内部ブロック図である。
【0021】
電子体温計100は、発振回路部210と、制御部220と、電源部230と、表示部240と、音声出力部250とを備える。
【0022】
発振回路部210は、互いに並列に接続された基準抵抗体211及びサーミスタ212が、それぞれコンデンサ213に直列に接続されている。そして、基準抵抗体211とコンデンサ213とを含む系の両端、及びサーミスタ212とコンデンサ213とを含む系の両端には、電圧切替部221を介してそれぞれ交互に電圧Vが印加され、放電されるように構成されている。
【0023】
ここで、基準抵抗体211は、周辺温度の変動に関わらず、抵抗値が一定の抵抗素子である。このため、電圧Vが一定の場合、基準抵抗体211を介してコンデンサ213に蓄電された電荷が放電された場合の放電時間は一定となる。
【0024】
一方、サーミスタ212は、周辺温度の変動に応じて、抵抗値が変動する抵抗素子である。このため、サーミスタ212を介してコンデンサ213に蓄電された電荷が放電された場合の放電時間は、周辺温度に応じて変動する。
【0025】
つまり、電圧Vが一定の場合、基準抵抗体211を介して蓄電された電荷が放電された際の放電時間は常に一定となり、サーミスタ212を介して蓄電された電荷が放電された際の放電時間は周辺温度に依存することとなる。
【0026】
制御部220は、電圧切替部221と、A/D変換部222と、演算部223と、記憶部224とを備える。
【0027】
電圧切替部221は、温度計測が開始された場合に、発振回路部210に配された基準抵抗体211とサーミスタ212とに交互に電圧Vを印加するための切り替えを行う。
【0028】
A/D変換部222は、コンパレータを備え、電圧切替部221を介して印加された電圧Vの所定割合の電圧(例えば、0.25V)以上の電圧をコンデンサ213が有している間、所定の信号を出力する。これにより、A/D変換部222からは、ディジタル信号として、放電時間に応じたON信号が出力される。このように、コンデンサ213とA/D変換部222とは、単一入力積分型A/D変換回路を形成する。
【0029】
演算部223は、CPUとメモリとを備え、記憶部224に記憶されたプログラム(校正処理及び温度計測処理プログラム225、体温測定処理プログラム226等)を実行することにより、各種機能を実現する。なお、以下では、演算部223において実現される各種機能のうち、主に、校正処理機能、温度計測処理機能ならびに体温測定処理機能について詳説する。
【0030】
校正処理を実行する場合も温度計測処理を実行する場合も、演算部223では、A/D変換部222より出力されるディジタル信号のON時間(放電時間)を計測する。具体的には、基準抵抗体211を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間と、サーミスタ212を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間とを計測する。
【0031】
そして、演算部223では、校正処理中にあっては、計測したそれぞれの放電時間に基づいて、温度の算出に用いられる係数(校正値)αを算出し、記憶部224に記憶する。一方、温度計測処理中にあっては、計測したそれぞれの放電時間と、記憶部224に記憶されている係数αとを用いて、下式に基づいて、温度を算出する。
【0032】
T=37℃×(Tth/Tref)×α・・・(1)
α=Tref37/Tth37 ・・・(2)
なお、上式において、37℃は基準温度であり、後述する校正処理における恒温槽の水温である。
【0033】
また、Tref37は、校正処理において、当該基準温度のもと、基準抵抗体211とコンデンサ213の系の両端に電圧Vを印加・放電した場合に計測された放電時間を示している。また、Tth37は、校正処理において、当該基準温度のもと、サーミスタ212とコンデンサ213の系の両端に電圧Vを印加・放電した場合に計測された放電時間を示している。
【0034】
さらに、Trefは、温度計測処理において、基準抵抗体211とコンデンサ213の系の両端に電圧Vを印加・放電した場合に計測した放電時間を示している。また、Tthは、温度計測処理において、サーミスタ212とコンデンサ213の系の両端に電圧Vを印加・放電した場合に計測した放電時間を示している。
【0035】
記憶部224は、各種プログラムのほか、校正処理により算出された係数αを記憶する。記憶された係数αは、温度計測処理時に、演算部223によって読み出され、温度Tの算出に用いられる。また、記憶部224は、校正処理が完了したことを示す校正済みコードを記憶する。これにより、演算部223では、電子体温計100が、校正処理済みであるか否かを認識することができる。更に、記憶部224は、温度計測処理時にあっては、算出された温度に基づいて演算された被検者の体温データを記憶する。
【0036】
電源部230は、電子体温計100の各部(210、220、240)に電力を供給する。電源ON/OFFスイッチ104が押圧されることにより、電源部230では各部に電力を供給し、演算部223では、校正処理及び温度計測処理プログラム、または体温測定処理プログラムを実行開始する。また、電源ON/OFFスイッチ104が更に押圧されることにより、電源部230から各部への電力の供給が切断される。
【0037】
表示部240(図1の表示部105に対応)は、体温測定処理において、算出された温度に基づいて演算された被検者の体温を表示する。また、記憶部224に記憶された、被検者の過去の体温データを表示する。音声出力部250は、被検者の体温が演算された場合に、被検者に音声を出力する。
<3.校正処理及び温度計測処理プログラムの流れ>
次に、電子体温計100における校正処理及び温度計測処理プログラムの流れについて説明する。
<3.1 一般的な電子体温計の校正処理及び温度計測処理プログラムの流れ>
はじめに、対比のために一般的な電子体温計の校正処理及び温度計測処理プログラムの流れについて説明する。図7は、一般的な電子体温計の校正処理及び温度計測処理プログラムの流れを示すフローチャートである。
【0038】
校正設備に対して、基板が電気的に接続されると、図7に示すフローチャート(校正処理及び温度計測処理プログラムの実行)が開始される。ステップS701では、基板側にて、初期化処理を実行することで、演算部内のメモリをクリアする。
【0039】
ステップS702では、校正処理時に短絡させるべき端子が、短絡されているか否かを基板側にて判定する。ステップS702において、端子が短絡されていると判定された場合には、ステップS711に進み、校正設備からの指示のもと、校正処理を開始する。
【0040】
ステップS711では、基板側にて、校正設備よりサーミスタ212を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間を計測する旨の指示が入力されたか否かを判定する。ステップS711において、校正設備より指示が入力されたと判定された場合には、ステップS712に進み、サーミスタ212を介してコンデンサ213に電荷を蓄積した後、放電することで、放電時間(Tth)を計測する。また、計測した放電時間(Tth)を、校正設備に送信する。
【0041】
ステップS713では、基板側にて、校正設備より基準抵抗体211を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間を計測する旨の指示が入力されたか否かを判定する。ステップS713において、校正設備より指示が入力されたと判定された場合には、ステップS714に進み、基準抵抗体211を介してコンデンサ213に電荷を蓄積した後、放電することで、放電時間(Tref)を計測する。また、計測した放電時間(Tref)は、校正設備に送信する。
【0042】
校正設備では、基板より送信された放電時間(Tth、Tref)に基づいて、上記(2)式を用いて係数αを算出した後、基板に対して、当該算出した係数αを送信する。
【0043】
ステップS715では、校正設備より、係数αが送信されたか否かを判定し、送信されたと判定された場合には、ステップS716に進み、校正設備より送信された係数αを記憶部に記憶した後、校正処理及び温度計測処理プログラムを終了する。
【0044】
一方、ステップS702において、端子が短絡されていないと判定された場合には、ステップS721に進み、基板側にて温度計測処理を開始する。
【0045】
ステップS721では、記憶部に記憶されている係数αを読み出し、ステップS722では、サーミスタを介してコンデンサに蓄積された電荷を放電した際の放電時間(Tth)を計測する。
【0046】
更に、ステップS723では、基準抵抗体を介してコンデンサに蓄積された電荷を放電した際の放電時間(Tref)を計測する。
【0047】
ステップS724では、ステップS721で読み出された係数αと、ステップS722において計測された放電時間(Tth)と、ステップS723において計測された放電時間(Tref)とに基づいて、上式(1)を用いて、温度を算出する。
【0048】
ステップS725では、ステップS724において算出した温度データを体温測定プログラムに送信する。
【0049】
ステップS726では、温度計測終了指示があったか否かを判定し、温度計測終了指示がないと判定された場合には、ステップS722に戻り、温度計測処理を継続する。一方、ステップS726において、温度計測終了指示があったと判定された場合には、校正処理及び温度計測処理プログラムを終了する。
<3.2 本実施形態に係る電子体温計の校正処理及び温度計測処理プログラムの流れ>
次に、電子体温計100における校正処理及び温度計測処理プログラム225について図3を用いて説明する。図3は、電子体温計100における校正処理及び温度計測処理プログラム225の流れを示すフローチャートである。
【0050】
ステップS301では、初期化処理を実行することで、演算部223内のメモリをクリアする。
【0051】
ステップS302では、係数(校正値)αを算出済みであるか否かを判定する。具体的には、記憶部224を参照し、所定のアドレスに校正済みコードが記憶されているか否かを判定する。ステップS302において校正済みコードが記憶されていないと判定された場合には、校正処理が実行されていないと判断し、ステップS311に進み、校正処理を開始する。
【0052】
ここで、本実施形態に係る電子体温計100の場合、基板を筐体に固定した後に、校正処理を実行することを前提としているため、一般的な電子体温計のように、基板上の端子を短絡させることで、校正処理を開始させるといった構成にすることができない。そこで、本実施形態に係る電子体温計100では、記憶部224の所定のアドレスに記憶された校正済みコードの有無により、判定する構成とした。
【0053】
ステップS311では、校正条件が成立したか否かを判定する。なお、校正条件とは、サーミスタ212が、基準温度(例えば、37℃)に制御された恒温槽内に浸水されることで、温度が上昇した後、平衡に達した(所定の範囲内に収束した)状態を指す。
【0054】
具体的には、サーミスタ212を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間を計測する処理を、所定周期毎に繰り返す。これにより、演算部223では、温度上昇の傾向を検知した後に、温度が平衡状態に達したことを認識することができる(係数αが算出されていないため、正確な温度を算出することはできないが、温度上昇中であること、ならびに、温度が平衡状態に達したこと、等を認識することはできる)。
【0055】
なお、このように、温度が平衡状態に達したことを校正条件としたのは、温度上昇中の結果に基づいて、係数αを算出してしまうと、誤差が生じてしまうからであり、一般的な電子体温計の場合には、校正設備に接続され、校正設備側からの指示に基づいて動作する構成としていたのに対して、本実施形態に係る電子体温計100の場合、電子体温計100自身で、計測開始タイミングを判断するからである。
【0056】
ステップS311において、校正条件が成立したと判定された場合には、ステップS312に進み、サーミスタ212を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間(Tth)を計測する。
【0057】
更に、ステップS313では、基準抵抗体211を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間(Tref)を計測する。
【0058】
ステップS314では、ステップS312において計測された放電時間(Tth)と、ステップS313において計測された放電時間(Tref)とに基づいて、上式(2)を用いて係数αを算出する。
【0059】
ステップS315では、初期化処理を実行し、演算部223のメモリに記憶されたデータをクリアする。更に、ステップS316では、ステップS314において算出された係数αを記憶部224に記憶する。更に、ステップS317で、校正済みコードを記憶部224の所定のアドレスに記憶した後、校正処理を終了する。これにより、以降、演算部223では、電子体温計100が校正処理済みであると認識することができる。
【0060】
一方、ステップS302において、校正済みコードが記憶部224に記憶されていると判定された場合には、校正処理が既に実行されていると判断し、ステップS321に進み、温度計測処理を開始する。
【0061】
ステップS321では、記憶部224に記憶されている係数αを読み出し、ステップS322では、サーミスタ212を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間(Tth)を計測する。
【0062】
更に、ステップS323では、基準抵抗体211を介してコンデンサ213に蓄積された電荷を放電した際の放電時間(Tref)を計測する。
【0063】
ステップS324では、ステップS321で読み出された係数αと、ステップS322において計測された放電時間(Tth)と、ステップS323において計測された放電時間(Tref)とに基づいて、上式(1)を用いて、温度を算出する。
【0064】
ステップS325では、ステップS324において算出した温度データを体温測定処理プログラム226に送信する。
【0065】
ステップS326では、温度計測終了指示があったか否かを判定し、温度計測終了指示がないと判定された場合には、ステップS322に戻り、温度計測処理を継続する。一方、ステップS326において、温度計測終了指示があったと判定された場合には、校正処理及び温度計測処理プログラム225を終了する。
【0066】
<4.体温測定処理プログラムの流れ>
次に、電子体温計100における体温測定処理プログラム226の流れについて説明する。なお、ここでは、平衡温予測式の体温測定処理の流れについて説明するが、本発明はこれに限定されず、実測式の電子体温計、予測/実測式の電子体温計にも適用可能である。
【0067】
電源がONされ、被検体の計測部位に装着されると、電子体温計100では、所定の周期で温度計測を開始し、取得された温度データの時間変化に基づいて、被検体の体温を予測演算する。
【0068】
図4は、電子体温計100における体温測定処理プログラム226の流れを示すフローチャートである。以下、図4を用いて電子体温計100における体温測定処理の流れを説明する。
【0069】
電子体温計100の電源部230がONされると、図4に示す体温測定処理プログラム226が実行開始される。なお、並行して、図3の温度計測処理が開始され(校正処理及び温度計測処理プログラム225が実行され、ステップS302において校正済みと判断されることにより、温度計測処理が開始され)、所定間隔、例えば、0.5秒おきに算出された温度データが出力されるため、ステップS401ではこれを取得する。
【0070】
ステップS402では、体温測定開始条件が成立したか否かを判断する。具体的には、前回の温度計測により算出された温度データの値(つまり、0.5秒前の温度データの値)からの上昇度が、所定の値(例えば、1℃)以上となったか否かを判断する。
【0071】
上昇度が所定の値以上となったと判断した場合には、体温測定開始条件が成立したと判断し、当該温度データを計測したタイミングを、予測体温演算の基準点(t=0)として設定する。つまり、電子体温計100では、急激な温度上昇が計測されると、被検者が、所定の計測部位(例えば、腋下)に電子体温計100を装着したものとみなす。
【0072】
ステップS402において、体温測定開始条件が成立したと判断した場合には、ステップS403に進み、温度データの取り込みを開始する。具体的には、出力された温度データと、当該温度データを計測したタイミングとを、時系列データとして演算部223内のRAMに記憶する。
【0073】
ステップS404では、ステップS403において記憶された温度データを用いて、所定の予測式により、予測体温を演算する。
【0074】
ステップS405では、基準点(t=0)から所定時間(例えば25秒)、経過した後に、ステップS404において算出された一定区間(例えば、t=25〜30秒)における予測値が、予め設定された予測成立条件を満たすか否かを判断する。具体的には、所定の範囲(例えば、0.1℃)以内に収まっているか否かを判断する。
【0075】
ステップS405において、予測成立条件を満たすと判断された場合には、ステップS406に進み、温度計測の終了を指示する(これにより、図3の温度計測処理は、ステップS326にて終了する)。ステップS407では、予測体温の演算が終了した旨の音声を出力し、表示部240に、演算された予測体温を表示する。
【0076】
一方、ステップS405において、予測成立条件を満たさないと判断された場合には、ステップS409に進む。ステップS409では、基準点(t=0)から所定時間(例えば45秒)経過したか否かを判断し、経過したと判断された場合には、温度計測を強制終了する。なお、強制終了した場合には、その際に演算されていた予測体温を、表示部240に表示する(ステップS407)。
【0077】
ステップS408では、体温測定終了指示を受け付けたか否かを判断する。ステップS408において、体温測定終了指示を受け付けていないと判断された場合には、ステップS402に戻る。
【0078】
一方、ステップS408において、体温測定終了指示を受け付けたと判断された場合には、体温測定処理プログラム226を終了し、電源部230をOFFにする。
【0079】
<5.電子体温計の製造工程の流れ>
次に、電子体温計100の製造工程について説明する。図5は、図3に示す校正処理及び温度計測処理プログラム225が格納された電子体温計の製造工程を模式的に示した図である。図5に示すように、ステップIでは、サーミスタ212が接続された回路が基板上に回路が搭載され、ステップIIでは、基板が本体ケース101内に挿入され、サーミスタ212が金属キャップ103内に接着剤で固定される。
【0080】
ステップIIIでは、電子体温計100が校正設備に接続され(複数の電子体温計100を接続することができる)、少なくとも金属キャップ103の全体が恒温槽内に浸水され、校正処理が実行される。なお、少なくともここまでの工程は自動で行われる。
【0081】
更に、ステップIVでは、電池が挿入され回路上に搭載されるとともに、O−リング及び筐体キャップ102の本体ケース(筐体)101への装着が行われる(この工程は、自動で行われても、手動で行われてもよい)。なお、この後、必要に応じて本体ケース101と筐体キャップ102との接合部を、全周にわたって超音波溶着するとともに、窓部材105aと本体ケース(筐体)101とを二色成形により液密に形成することで、電子体温計100の液密性が保たれる(この場合には、電池交換ができない)。
【0082】
一方、超音波溶着しない場合には、筐体キャップ102は本体ケース101に対して、ネジによりネジ止めされる(この工程は、自動で行われても、手作業で行われてもよい。なお、この場合には、電池交換が可能となる)。
【0083】
以上の説明から明らかなように、本実施形態に係る電子体温計100では、校正処理及び温度計測処理プログラム225を配する構成とした。そして、当該プログラムにおいて、校正済みコードに基づいて校正済みか否かを判断し、校正済みでないと判断した場合に、自動的に校正処理を実行し、係数αを求める構成とした。
【0084】
これにより、校正処理に際して基板上の端子を短絡させる必要がなくなり、製造工程において、サーミスタが接続された基板を筐体に固定した後に、校正処理を実行することが可能となった。
【0085】
この結果、恒温槽に、フロリナートやガルデン等の絶縁性の高い(つまり不活性な)液体を使用する必要がなくなり、水を利用することができるようになったため、製造コストを削減させることが可能となった。
【0086】
また、本実施形態に係る電子体温計100では、上記校正処理を開始させるにあたり、校正条件が成立するまで待機し、校正条件が成立したことを契機として、放電時間の計測を行う構成とした。
【0087】
これにより、温度の算出に用いられる係数を、誤差なく算出することが可能となった。
【0088】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、単一入力積分変換回路を用いた電子体温計について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、サーミスタ、基準抵抗体、コンデンサで構成されるCR発振回路を用いた電子体温計に対しても適用可能である。この場合、サーミスタとコンデンサによる発振周波数、基準抵抗体とコンデンサによる発振周波数の比に基づいて、温度計測処理を行うことで、係数(校正値)αを算出する。
【0089】
また、上記第1の実施形態では、記憶部224の所定のアドレスに校正済みコードが記憶されているか否かにより、電子体温計100が校正処理済みであるか否かを判断する構成としたが、本発明はこれに限定されず、記憶部224に係数(校正値)αが記憶されているか否かにより、電子体温計100が校正済みであるか否かを判断するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0090】
100:電子体温計、101:本体ケース(筺体)、102:筐体キャップ、103:金属キャップ、104:電源ON/OFFスイッチ、105:表示部、106:ネジ、211:基準抵抗体、212:サーミスタ、213:コンデンサ、221:電圧切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度計測を行うためのサーミスタを含む電子体温計の製造方法であって、
前記サーミスタが接続された回路を基板上に搭載する工程と、
前記基板を本体ケース内に挿入するとともに、前記サーミスタを金属キャップ内に固定する工程と、
少なくとも前記金属キャップの全体を恒温槽内に浸水させる工程と、
前記温度計測に用いられる校正値が算出済みか否かを判定する工程と、
前記校正値が算出済みでないと判定された場合に、前記金属キャップの全体が前記恒温槽内に浸水された状態で、前記温度計測の結果に基づいて前記校正値を算出し、記憶手段に記憶する工程と
を有することを特徴とする電子体温計の製造方法。
【請求項2】
前記回路上に電池を搭載し、O−リングを介して筐体キャップを前記本体ケースに装着する工程を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の電子体温計の製造方法。
【請求項3】
前記本体ケースと前記筐体キャップとをネジ止めする工程を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の電子体温計の製造方法。
【請求項4】
前記本体ケースと前記筐体キャップとの接合部の全周を超音波により融着させる工程を更に備えることを特徴とする請求項2に記載の電子体温計の製造方法。
【請求項5】
前記判定する工程は、前記記憶手段に既に前記校正値が記憶されている場合に、前記校正値が算出済みであると判定することを特徴とする請求項1に記載の電子体温計の製造方法。
【請求項6】
前記判定する工程は、前記記憶手段の所定のアドレスに、前記校正値を算出したことを示すコードが既に記憶されている場合に、前記校正値が算出済みであると判定することを特徴とする請求項1に記載の電子体温計の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−72733(P2013−72733A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211569(P2011−211569)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】