電子供与体供給装置及び脱窒バイオリアクター
【課題】大気中では電子供与体物質を漏れ出させることなく保存することができ、水環境中ではある一定期間が経過した後に電子供与体物質を水環境中に供給させ始めることのできる電子供与体供給装置を提供する。
【解決手段】微生物のエネルギー源となる電子供与体物質が容器の第一の非多孔性膜部分から分子透過性能に支配される速度で徐放されて容器周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置1において、容器4の外側表面の第一の非多孔性膜部分2aが第二の非多孔性膜2bで被覆され、第二の非多孔性膜の容器側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜2cで被覆され、第二の非多孔性膜は水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜は生分解性と水蒸気不透過性を持つ非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜を微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に電子供与体物質が徐放され始めるものとした。
【解決手段】微生物のエネルギー源となる電子供与体物質が容器の第一の非多孔性膜部分から分子透過性能に支配される速度で徐放されて容器周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置1において、容器4の外側表面の第一の非多孔性膜部分2aが第二の非多孔性膜2bで被覆され、第二の非多孔性膜の容器側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜2cで被覆され、第二の非多孔性膜は水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜は生分解性と水蒸気不透過性を持つ非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜を微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に電子供与体物質が徐放され始めるものとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子供与体供給装置及びこれを利用した脱窒バイオリアクターに関する。さらに詳述すると、本発明は、電子供与体供給装置及びこれを利用した脱窒バイオリアクター、さらにはこの脱窒バイオリアクターを利用した硝化・脱窒処理槽、この硝化脱窒処理槽を利用した水棲生物飼育設備に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を使用した生物学的処理を行う際には、微生物のエネルギー源としての電子供与体物質を供給しなければならない場合がある。
【0003】
従来、電子供与体物質としてアルコール(例えばメタノール、エタノール及びプロパノール等の低級アルコール)等の液体を微生物に供給する際には、例えば高分子ゲル等の担体に微生物を担持したバイオリアクターの内部に空間を設けておき、この空間とアルコール貯留槽とを配管で連結して循環路を形成し、循環ポンプや様々なバルブ、計器類等を操作してアルコールの供給タイミング及び供給量を制御するようにしていた(特許文献1及び2参照)。
【0004】
しかしながら、上記のような微生物への電子供与体供給方法は、電子供与体物質の微生物への供給量を一定量に維持するためのポンプや制御装置等の一連の設備が必要であることから、設備の大型化や設備操作の複雑化といった問題を抱えるものであった。
【0005】
そこで、本件出願人は、特許文献3において、ポリエチレン膜やポリプロピレン膜等の疎水性の非多孔性膜、またはポリエチレンとポリビニルアルコールの共重合体等の両親媒性の非多孔性膜(疎水性と親水性の双方の性質を共有する非多孔性膜)により形成した容器に、アルコール等の各種電子供与体物質を封入し、電子供与体物質を非多孔性膜から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で透過させて微生物に供給する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3340356号
【特許文献2】特許第2887737号
【特許文献3】国際公開WO2006/135028
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、疎水性の非多孔性膜または両親媒性の非多孔性膜により形成した容器にアルコール等の電子供与体物質を封入すると、電子供与体物質が水環境中及び大気中のいずれの環境においても直ちに透過し始めてしまう。したがって、疎水性の非多孔性膜または両親媒性の非多孔性膜により形成した容器にアルコール等の電子供与体物質を封入した電子供与体供給装置は、作製してから直ちに使用しないと、電子供与体物質が容器から徐々に漏れ出して無駄に消費されてしまう問題があった。
【0008】
また、水環境において微生物を利用した生物学的処理を行う場合、ある一定期間が経過してから電子供与体物質を微生物に供給し始めて生物学的処理を実行することが望ましいケースもある。例えば、初期段階では被処理物質の濃度が生物学的処理を行う必要がないほど低濃度であり、一定期間が経過した段階で生物学的処理を行う必要のある濃度に上昇するような場合がある。このような場合においては、水環境において、ある一定期間が経過するまでは電子供与体物質を供給しないようにして電子供与体物質の無駄な消費を抑えておき、ある一定期間が経過した段階で、電子供与体物質を微生物に供給し始めることが、電子供与体物質の水環境への不必要な拡散や、電子供与体物質の無駄な消費を抑える上で望ましいと言える。
【0009】
上記のような場合についてより具体的に説明すると、例えば、魚類等の水棲生物の飼育設備においては、飼育水槽内の水棲生物の個体数が少ない場合、飼育初期段階では飼育水に硝酸イオンがそれほど多くは蓄積しないので、電子供与体物質を脱窒菌に与えて脱窒機能を発揮させる必要はない。しかし、飼育開始から一定期間が経過し、産卵等によって飼育水槽内の個体数が増加した場合、飼育水の硝酸イオン濃度が上昇し易くなるので、飼育水の硝酸イオン濃度を低下させるために、電子供与体物質を脱窒菌に与えて脱窒機能を発揮させる必要が生じる。つまり、このような場合においては、飼育水の硝酸イオン濃度が上昇し易くなるタイミングで電子供与体物質を脱窒菌に与えることで、電子供与体物質の飼育水への不必要な拡散や、電子供与体物質の無駄な消費を抑える上で望ましいと言える。
【0010】
上記要望は、特許文献3に記載の電子供与体供給装置を、水環境の生物学的処理が望まれる段階で作製して直ちに水環境に投入することで解決することは可能ではある。しかしながら、水環境の生物学的処理が望まれる段階で電子供与体供給装置を作製したり、電子供与体供給装置を水環境に投入することは煩雑である。また、以下に説明するように実行することが難しい場合もあり得る。
【0011】
例えば、魚類等の水棲生物を収容した飼育水槽が商業施設等でインテリア等として設置されるような場合においては、飼育設備のメンテナンスや調整等を行う時間が限られていることから、飼育水槽の初期設定段階で、後に想定される飼育水槽の状態変化を考慮して、出来る限りの対策を講じておくことが望ましいと言える。したがって、飼育水を生物学的に浄化するための硝化菌や脱窒菌は水環境に棲息させておいて乾燥による死滅を防ぐと共に、脱窒菌に電子供与体物質を供給するための電子供与体供給装置を予め脱窒菌の近傍に配置しておき、所望のタイミングで電子供与体供給装置を脱窒菌に供給させ始めるようにできることが望ましいと言える。
【0012】
以上のことから、大気中では電子供与体物質を漏れ出させることなく保存することができ、水環境中ではある一定期間が経過した後に電子供与体物質を水環境中に供給させ始めることのできる装置や方法を確立することが望ましいと考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、大気中では電子供与体物質を漏れ出させることなく保存することができ、水環境中ではある一定期間が経過した後に電子供与体物質を水環境中に供給させ始めることのできる電子供与体供給装置及び電子供与体供給方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、水環境中に配置してある一定期間が経過した後に脱窒機能を発揮させ始めることのできる脱窒バイオリアクターを提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、水環境中において、ある一定期間が経過した段階で脱窒機能を発揮させ始めて、硝化処理と脱窒処理を行うことのできる硝化・脱窒処理槽を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、飼育開始から一定期間が経過した段階で脱窒機能を発揮させ始めて、飼育水の硝化処理と脱窒処理を行うことのできる水棲生物飼育設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するため、本願発明者が鋭意検討を行った結果、ポリエチレン膜により形成した容器に電子供与体物質としてエタノールを封入した電子供与体供給装置について、容器の外側表面をポリビニルアルコール膜で被覆し、さらにポリビニルアルコール膜表面をポリグルコール酸膜で被覆して、脱窒菌が棲息する水中に浸漬したところ、一定期間経過後にエタノールが水中に供給され始め、その供給速度が、ポリエチレン膜の分子透過性能に支配される速度となることを知見した。また、この電子供与体供給装置は、大気中においては、エタノールの放出は見られなかった。
【0018】
本願発明者は、上記知見に基づき、ポリエチレン膜等の疎水性または両親媒性の非多孔性膜により容器を形成してこの容器内にエタノール等の電子供与体物質を封入し、容器の外側表面をポリビニルアルコール膜等の親水性の非多孔性膜で被覆し、親水性の非多孔性膜の表面をさらにポリグルコール酸膜等の生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜で被覆することで、大気中では電子供与体物質を漏れ出させることなく保存することができ、水環境中ではある一定期間が経過した後に電子供与体物質を水環境中に供給させ始めることができ、しかもその速度をポリエチレン膜等の疎水性または両親媒性の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度とできることを知見するに至り、この知見に基づいてさらに種々検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明の電子供与体供給装置は、疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器内に、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質が収容され、電子供与体物質が容器の第一の非多孔性膜部分から第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺に徐放されて容器周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置において、容器の外側表面の第一の非多孔性膜部分が第二の非多孔性膜で被覆され、第二の非多孔性膜の容器側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜で被覆され、第二の非多孔性膜は水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜を生分解する微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に電子供与体物質が水環境中に徐放され始めるものである。
【0020】
また、本発明の電子供与体供給方法は、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質と微生物が棲息する水環境とを疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を介して接触させ、電子供与体物質を第一の非多孔性膜から第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で水環境に徐放させて水環境中の微生物に供給する電子供与体供給方法において、第一の非多孔性膜の水環境側の面を第二の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜の水環境側の面を第三の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜を水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜を生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜と水環境とを接触させることで一定期間経過後に電子供与体物質を水環境中に徐放させ始めるようにしている。
【0021】
したがって、本発明の電子供与体供給装置及び電子供与体供給方法によると、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である第三の非多孔性膜が水環境と接触すると、水環境中の微生物により生分解され、水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜である第二の非多孔性膜が一定期間経過後に水環境と接触するようになる。そうすると、第二の非多孔性膜のバリア性が低下し、電子供与体物質が疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜と第二の非多孔性膜とを介して、第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で透過し、水環境中に徐放されるようになる。
【0022】
尚、電子供与体物質が水環境中に徐放され始めるタイミングは、第三の非多孔性膜の材質や厚み、水環境中の微生物数等により適宜制御できる。
【0023】
次に、本発明の脱窒バイオリアクターは、本発明の電子供与体供給装置の第三の非多孔性膜の周りに、脱窒菌が担持された担体が配置されているものとしている。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターによると、水環境に配置することによって、担体に担持されている脱窒菌さらには水環境中に棲息する微生物によって第三の非多孔性膜が生分解され、一定期間経過後に第二の非多孔性膜と水環境とが接触する。これにより、電子供与体物質が、第一の非多孔性膜と第二の非多孔性膜とを介して、第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で水環境中に徐放されて担体に担持された脱窒菌に供給され、脱窒菌の脱窒機能が発揮されるようになる。つまり、本発明の脱窒バイオリアクターを水環境に配置すると、電子供与体物質が一定期間経過後に担体に担持された脱窒菌に供給されるようになって、脱窒菌の脱窒機能が発揮され始める。尚、脱窒菌が担持された担体には、予め脱窒菌が担持された担体は勿論のこと、水環境に配置することで脱窒菌が担持された(付着した)担体も含まれる。
【0024】
次に、本発明の硝化・脱窒処理槽は、本発明の脱窒バイオリアクターを、アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽の内部に収容したものとしている。したがって、アンモニアを生物学的に硝化処理する機能に加えて、一定期間経過後に脱窒菌が機能し始め、排水や地下水等の被処理水中のアンモニアを窒素ガスに変換するための生物学的処理が行われるようになる。
【0025】
次に、本発明の水棲生物飼育設備は、本発明の硝化・脱窒処理槽を生物濾過槽としたものとしている。したがって、飼育水に含まれるアンモニアを生物学的に硝化処理する機能に加えて、一定期間経過後に脱窒菌が機能し始め、飼育水のアンモニアを窒素ガスに変換するための一連の生物学的処理が行われるようになる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電子供与体供給装置及び電子供与体供給方法によれば、大気中では電子供与体物質を放出させることなく保存することが可能となり、且つ水環境中においては一定期間経過後に電子供与体物質を徐放することが可能となる。したがって、水環境中において、微生物に電子供与体物質を供給することが必要となるタイミングで電子供与体物質を供給させ始めるようにすることが可能となり、電子供与体物質の水環境への不必要な拡散や電子供与体物質の無駄な消費を抑えて、電子供与体物質を必要とする微生物を利用した生物学的処理にかかる手間やコストを抑えることが可能となる。しかも、水環境中への電子供与体物質の供給開始時期は、第三の非多孔性膜(生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜)の材質、厚さ、水環境中の微生物数等に応じて容易に設定することができるので、水環境中における電子供与体物質の供給開始時期を、ポンプや計器等の装置を用いることなく、簡単に設定することができる。
【0027】
また、本発明の脱窒バイオリアクターによれば、本発明の電子供与体供給装置の第三の非多孔性膜(生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜)の周りに脱窒菌を担持した担体が配置されているので、水環境に配置してから一定期間が経過した後に、担体に担持された脱窒菌に電子供与体物質を供給させ始めて、脱窒機能の発揮開始時期を制御することが可能となる。したがって、脱窒処理を行う必要が生じる段階で脱窒菌に電子供与体物質を供給させ始めて、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させ始めることができるので、脱窒菌を利用した脱窒処理にかかる手間やコストを抑えることができる。
【0028】
さらに、本発明の硝化・脱窒処理槽によれば、アンモニアを生物学的に硝化処理する機能に加えて、一定期間経過後に脱窒菌を機能させ始めることができる。したがって、脱窒処理を行う必要が生じる段階で脱窒菌に電子供与体物質を供給させ始めて、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させ始めることができるので、硝化・脱窒処理にかかる手間やコストを抑えることができる。
【0029】
また、本発明の水棲生物飼育設備によれば、生物濾過槽に収容された本発明の脱窒バイオリアクターが、生物濾過槽の水と接触してから一定期間が経過した後に機能し始める。したがって、飼育水を生物学的に浄化するための硝化菌や脱窒菌を水環境に棲息させておいて乾燥による死滅を防ぐと共に、所望のタイミングで電子供与体物質を脱窒菌に供給させ始めるように予め飼育設備を準備・設定することができるので、例えば、インテリア等として魚類等の水棲生物を収容した飼育水槽を展示するために魚類等の水棲生物の飼育設備が商業施設に設置される場合のように、飼育設備のメンテナンスや調整の機会が限られているような状況においても十分に対応可能な飼育設備となる。また、水棲生物の飼育開始から一定期間が経過し、飼育水槽内の水棲生物個体数が産卵等により増加して硝酸イオンが蓄積し易くなった段階で脱窒反応を進行させ始めて、飼育水の硝酸イオン濃度を低下させることが可能となるので、電子供与体物質の飼育水への不必要な拡散や電子供与体物質の無駄な消費を抑えて、水棲生物の飼育の手間やコストを抑えることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の電子供与体供給装置の実施形態の一例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図2A】本発明の脱窒バイオリアクターの実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2B】本発明の脱窒バイオリアクターの実施形態の一例を示す縦断面図である。
【図3】本発明の硝化・脱窒処理槽の実施形態の一例を示す図である。
【図4】本発明の水棲生物飼育設備の実施形態の一例を示す図である。
【図5】参考例1−1の実験結果を示す図である。
【図6】参考例1−2の実験結果を示す図である。
【図7】実施例1−1の実験結果を示す図である。
【図8】実施例1−2の実験結果を示す図である。
【図9】本発明の電子供与体供給装置の他の実施形態である補充タイプの例を示す縦断面図である。
【図10】図9の実施形態の電子供与体供給装置の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
<電子供与体供給方法と電子供与体供給装置>
本発明の電子供与体供給方法は、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質と微生物が棲息する水環境とを疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を介して接触させ、電子供与体物質を第一の非多孔性膜から第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で水環境に徐放させて水環境中の微生物に供給する電子供与体供給方法において、第一の非多孔性膜の水環境側の面を第二の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜の水環境側の面を第三の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜を水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜を生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜と水環境とを接触させることで一定期間経過後に電子供与体物質を水環境中に徐放させ始めるようにしている。
【0033】
本発明の電子供与体供給方法を実施するための電子供与体供給装置の一例として、本発明の電子供与体供給装置の実施形態の一例を図1に示す。図1に示す電子供与体供給装置1は、疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜2aを少なくとも一部に備える密封構造の容器4内に、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質3が収容され、電子供与体物質3が容器4の第一の非多孔性膜2a部分から第一の非多孔性膜2aの分子透過性能に支配される速度で容器4の周辺に徐放されて容器4の周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置において、容器4の外側表面の第一の非多孔性膜2a部分が第二の非多孔性膜2bで被覆され、第二の非多孔性膜2bの容器4側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜2cで被覆され、第二の非多孔性膜2bは水と接触したときに電子供与体物質3を透過する親水性の非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜2cは生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜2cを生分解する微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に電子供与体物質3が水環境中に徐放され始めるものである。
【0034】
本実施形態において、容器4は、疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜2aで全体が構成される袋状を成し、周縁をヒートシールで溶着したり、接着剤により接着したりするようにして、電子供与体物質3を密封するようにしているが、形体や構造は特に限定されるものではない。例えば、容器4はチューブ状やシート状としてもよい。また、容器4は、第一の非多孔性膜2aで全体を構成するものに限られず、片面だけを第一の非多孔性膜2aで構成したり、1つの面のさらに一部分を第一の非多孔性膜2aで構成したりしてもよい。第一の非多孔性膜2aを部分的に用いて容器4を構成する場合には、第一の非多孔性膜2a以外の他の部分は、電子供与体物質3を透過しない金属製やプラスチック製の剛体フレーム等の部材や、電子供与体物質3を透過しない膜等を用いるようにすればよい。
【0035】
第一の非多孔性膜2aとしては、疎水性または両親媒性の非多孔性膜が用いられる。
【0036】
疎水性の非多孔性膜としては、例えば、オレフィン系の膜全般を用いることができ、その中でも特にポリエチレン膜やポリプロピレン膜の使用が好適である。ポリエチレンやポリプロピレンは、適度な物質の透過性、熱可逆性を有しており、柔軟で成形が容易であるという利点を有している。また、様々な物質に対して安定である。しかも、水を透過し難いので、水で希釈したアルコールや有機酸を電子供与体物質3として使用できる利点もある。水で希釈したアルコールや有機酸を電子供与体物質3として使用することで、電子供与体物質3と水環境との間の濃度勾配によって、電子供与体物質3の水環境への透過速度を制御できる。即ち、アルコールや有機酸の濃度を高めることで、電子供与体物質3と水環境との間の濃度勾配を大きくして水環境への透過速度を向上させることができ、逆に、アルコールや有機酸の濃度を低下させることで、電子供与体物質3と水環境との間の濃度勾配を小さくして水環境への透過速度を低下させることができる。但し、疎水性の非多孔性膜は、これらに限定されるものではない。例えば、後述する生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であるポリ乳酸やポリグリコール酸も疎水性の高い非多孔性膜として知られており、これを第一の非多孔性膜2aとして用いることもできる。
【0037】
両親媒性の非多孔性膜としては、例えば、エチレン・ビニルアルコール共重合体やエチレン・酢酸ビニル共重合体等の、疎水性分子と親水性分子の共重合体が挙げられるが、両親媒性の非多孔性膜は、これらに限定されるものではない。尚、両親媒性の非多孔性膜は、膜を構成する親水性分子と疎水性分子の比率によって、電子供与体物質3の供給速度を制御することができる。即ち、親水性分子の比率を大きくするほど、水と接触したときにバリア性が低下し易くなって電子供与体物質3の透過速度が大きくなる。逆に疎水性分子の比率を大きくするほど、水と接触したときにバリア性が低下し難くなって電子供与体物質3の透過速度が小さくなる。したがって、親水性分子と疎水性分子の比率のバランスによって、電子供与体物質3の透過速度を制御することができる。
【0038】
尚、第一の非多孔性膜2aの電子供与体物質の透過速度は、上記のパラメータ以外にも、膜材料、膜厚、該膜の表面積、電子供与体物質3の分子量や性質、温度及び外圧等により制御することが可能である。本願発明者のポリエチレン膜に対する実験によると、同じ膜材料の場合には膜厚によって分子透過速度が変化することが確認されている。そこで、微生物に対して必要な電子供与体物質3の供給量に応じて、適宜膜厚などを選定することによって、必要な速度で必要な量の電子供与体物質3を供給することができる。また、延伸処理により分子配列を制御することができるので、延伸処理によって電子供与体物質供給速度を制御することも可能である。
【0039】
ここで、第一の非多孔性膜2aは、膜の密度によっても分子透過速度が変化する。ポリエチレンを例に挙げて説明すると、JIS K6922−2により分類される低密度ポリエチレン(密度910kg/m3以上、930kg/m3未満)を用いた場合、電子供与体物質3が十分な透過速度で透過するが、高密度ポリエチレン(密度942kg/m3以上)を用いた場合には、電子供与体物質3の透過速度が低下する。したがって、所望の電子供与体物質供給速度に応じて、第一の非多孔性膜2aの膜厚と膜密度のバランスを制御すればよい。
【0040】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体物質3としては、微生物に対して毒性を呈することなく、第一の非多孔性膜2aを腐食することなく、第一の非多孔性膜2aを透過することができる分子量、性質等を有するものが適宜選択される。例えば、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等)及び有機酸(例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等)等の液状物質、水素、硫化水素、メタン及びエタン等のガス状物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、微生物によっては、フェノール類、ベンゼン及びトルエン等を電子供与体物質3として用いることができる。
【0041】
ここで、電子供与体物質3としてアルコールを用いる場合、原液のままで用いることができる。ポンプ等によりメタノールやエタノール等のアルコールを微生物のエネルギー源として供給する場合には、微生物が死なない程度の濃度に水で希釈する必要があったが、本発明によれば、アルコールは微生物へ緩やかに供給することができるため、アルコールの原液を用いても、微生物が死に至ることはないアルコール供給速度に制御することができる。
【0042】
ここで、第一の非多孔性膜2aを疎水性の非多孔性膜とする場合、アルコールの原液に不純物が混在しているようなときであっても、実質的にはアルコール分子のみが第一の非多孔性膜2aを透過し、第二の非多孔性膜2bが水と接触したときにこのアルコール分子が第二の非多孔性膜2bを透過して微生物に緩やかに供給される。したがって、アルコールに不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンや極性の大きなシアン化合物は第一の非多孔性膜2aを透過し難く、微生物にとって害のない濃度に希釈された状態のアルコールを主成分として透過させて微生物に供給することが可能となり、不純物は容器4内にほとんど残留する。したがって、本発明において、第一の非多孔性膜2aを疎水性の非多孔性膜した場合には、廃アルコールのように不純物を含んでいるアルコールを用いることができる。
【0043】
電子供与体物質3の第一の非多孔性膜2aの透過について、疎水性の非多孔性膜を例に挙げて説明する。電子供与体物質3の第一の非多孔性膜2aの透過は、電子供与体物質分子が膜に溶け込み、その溶け込んだ分子が膜内部を拡散して反対側に達することにより起こる。したがって、膜への溶け込みが起こらない程大きなサイズの分子であるカテキンや極性の高い水やシアン化合物などは第一の非多孔性膜2aを透過し難い。また、ポリエチレンやポリプロピレン等は水となじむ官能基が存在しない疎水性を有する強い低極性の膜であるため、極性分子である水が膜に溶け込みにくい。また、水分子同士の水素結合が強いため、常温では水が当該膜を透過することはほとんど無い。したがって、疎水性の非多孔性膜は、水や分子量の大きなカテキン、極性の高いシアン化合物等の不純物はほとんど透過させずに、所望の電子供与体物質3を主成分として透過させる「分子ふるい」として機能する。また、電子供与体物質3は、分子状態、つまり、液体のように分子間の引力により凝集することのないガス(気体)の状態で第一の非多孔性膜2aを透過する。したがって、疎水性を有する非多孔性膜2aはガス透過性膜とも表現できる。両親媒性の非多孔性膜についても、疎水性の非多孔性膜と同様、電子供与体物質3が膜に溶け込むことにより透過する。
【0044】
このように、第一の非多孔性膜2aは、電子供与体物質3が膜に溶け込むことにより透過させており、多孔質膜のように孔の大きさや数で電子供与体物質3の種類や量を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる利点も有している。
【0045】
次に、第二の非多孔性膜2bについて説明する。第二の非多孔性膜2bは、水と接触しない状態では電子供与体物質3のバリア膜として機能し、第一の非多孔性膜2aを透過した電子供与体物質3の分子の透過を抑える性質を有し、且つ水と接触した状態では電子供与体物質3のバリア膜としての機能が低下して、第一の非多孔性膜2aを透過した電子供与体物質3の分子を透過させる性質を有する非多孔性膜である。
【0046】
第二の非多孔性膜2bの材料としては、親水性の非多孔性膜、即ち、分子構造中に親水基を有する非多孔性膜、例えば、ポリエステル、ナイロン(ポリアミド)、ポリビニルアルコール、ビニロン、セロハン、ポリグルタミン酸、これらの共重合体膜などが挙げられ、特にポリビニルアルコールが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
ここで、水と接触した状態における第二の非多孔性膜(親水性の非多孔性膜)2bの分子透過性能は、第一の非多孔性膜(疎水性または両親媒性の非多孔性膜)2aの分子透過性能に比べて高い。したがって、第二の非多孔性膜2bが水と接触した状態では、電子供与体物質3の透過速度は、第一の非多孔性膜2aの分子透過性能に支配される。したがって、第一の非多孔性膜2aの分子透過性能を適宜制御することにより、微生物への電子供与体物質3の供給速度を所望の速度に制御することができる。
【0048】
第二の非多孔性膜2bは、水と接触していない状態においては、膜の内部で水素結合が形成されている。したがって、分子鎖の熱振動によるゆらぎが起こりにくい構造になっており、分子鎖の隙間が少ないため、分子が透過しにくい。他方、水と接触した状態では、分子鎖の間に水分子が侵入して水素結合が切れ、分子鎖の熱振動によるゆらぎが起こりやすい構造となり、水分子がさらに膜の内部に侵入する。その結果、膜内部の水素結合のほとんどが切断され、水分子の通路が形成される。したがって、第二の非多孔性膜2bが水と接触したときには、第一の非多孔性膜2aを透過した電子供与体物質3の分子はこの水分子の通路に沿って第二の非多孔性膜2bを透過する。
【0049】
尚、第二の非多孔性膜2bについても、電子供与体物質3を膜に溶け込ませることにより透過させており、多孔質の膜のように、孔の大きさや数で電子供与体物質3の種類や量を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる。
【0050】
次に、第三の非多孔性膜2cについて説明する。第三の非多孔性膜2cは、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である。
【0051】
第三の非多孔性膜2cの材料としては、例えば、ポリグルコール酸膜、ポリ乳酸膜、ポリヒドロキシブチレート膜、ポリカプロラクトン膜、これらの共重合体膜等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
第三の非多孔性膜3cは、その材質、膜厚、水環境の微生物数によって、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を制御することができる。例えば、ポリグルコール酸膜は、ポリ乳酸膜と比較すると生分解性が高いので、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を長くしたい場合にはポリ乳酸膜を使用し、逆に第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を短くしたい場合にはポリグルコール酸膜やポリグルコール酸とポリ乳酸の共重合体膜を使用すればよい。また、膜厚を厚くする程、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を長くすることができ、逆に膜厚を薄くする程、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を短くすることができる。さらに、水環境の微生物数が多ければ、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間が短くなるし、逆に水環境の微生物数が少なければ、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間が長くなる。水環境の微生物数は、水環境への微生物の人為的な添加によって制御することもできるし、後述する脱窒バイオリアクターの担体に担持する脱窒菌の菌数によっても制御することができる。
【0053】
また、第三の非多孔性膜2cによる第二の非多孔性膜2bの被覆状態によって、電子供与体物質3の透過速度に経時変化を持たせることも可能である。例えば、第二の非多孔性膜2bを一部をポリグルコール酸膜で被覆し、他部をポリ乳酸膜で被覆することで、ポリグルコール酸膜が先に消失して第二の非多孔性膜2bの一部が水環境と接触し、次いでポリ乳酸膜が消失して第二の非多孔性膜2bの全面が水環境と接触することによって、電子供与体物質3の水環境への供給速度を段階的に高めることが可能である。また、第二の非多孔性膜2bを覆う第三の非多孔性膜2bの膜厚に勾配を持たせることで、徐々に第二の非多孔性膜2bを露出させて水環境と接触させることができ、電子供与体物質3の水環境への供給速度を徐々に高めるようなことも可能である。
【0054】
次に、第一の非多孔性膜2aを第二の非多孔性膜2bで被覆する形態、並びに第二の非多孔性膜2bを第三の非多孔性膜2cで被覆する形態について説明する。
【0055】
図1に示す電子供与体供給装置1は、第一の非多孔性膜2aで形成した容器4に電子供与体物質3を封入し、第二の非多孔性膜2bで形成した容器6に容器4を封入し、第三の非多孔性膜2cで形成した容器7に容器6を封入するようにしているが、この形態には限定されない。
【0056】
例えば、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bの二層構造膜で形成した容器に電子供与体物質3を封入し、この容器を第三の非多孔性膜2cで形成した容器7に封入するようにしてもよい。また、第一の非多孔性膜2aで形成した容器4に電子供与体物質3を封入し、第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの二層構造膜で形成した容器に容器4を封入するようにしてもよい。あるいは、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの三層構造膜で形成した容器に電子供与体物質を封入するようにしてもよい。
【0057】
積層構造膜は、例えば、加熱して流動性を持たせたホットメルト接着剤を一方の非多孔性膜の全面、一部の面または周縁部に塗布し、ホットメルト接着剤が硬化するまでの時間内に他方の非多孔性膜と貼り合わせて作製することができる。但し、貼り合わせ方法は、ホットメルト接着剤を用いた方法には限定されず、他の接着剤を使用した方法を採用したり、あるいは両面テープ等により貼り合わせる方法を採用してもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、1つの容器4を封入した容器6を容器7に封入するようにしているが、複数の容器4を封入した容器6を容器7に封入するようにしてもよい。また、1つの容器4を封入した複数の容器6を容器7に封入するようにしてもよい。さらに、複数の容器4を封入した複数の容器6を容器7に封入するようにしてもよい。
【0059】
あるいは、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bの二層構造膜で形成した複数の容器を袋7に封入するようにしてもよい。また、複数の容器4を第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの二層構造膜で形成した容器に封入するようにしてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態において、第二の非多孔性膜2bは、容器4の外側表面全体を被覆して第一の非多孔性膜2aの全面を被覆するようにしているが、第二の非多孔性膜2bの被覆形態は必ずしもこのような形態には限定されない。例えば、第一の非多孔性膜2aの一部を第二の非多孔性膜2bで被覆し、第二の非多孔性膜2bで覆われていない残りの部分は大気中においても水中においても電子供与体物質3を透過することのない金属製やプラスチック製の剛体フレーム等の部材や膜等で覆うようにしてもよい。
【0061】
また、上述の実施形態において、第三の非多孔性膜2cは、容器4の外側表面全体を被覆する第二の非多孔性膜2bの全面を被覆しているが、第三の非多孔性膜2cの被覆形態は必ずしもこのような形態には限定されない。例えば、第二の非多孔性膜2bの一部を第三の非多孔性膜2cで被覆し、第三の非多孔性膜2cで覆われていない残りの部分は水蒸気不透過性の部材(金属やプラスチックなど)や膜で覆うようにしてもよい。
【0062】
したがって、第二の非多孔性膜2bで形成される容器6、第三の非多孔性膜2cで形成される容器7、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bの二層構造膜で形成される容器、第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの二層構造膜で形成される容器、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの三層構造膜で形成される容器についても、本発明の効果が奏され得る範囲で、第一の非多孔性膜2aで形成される容器4と同様に、チューブ状やシート状としてもよいし、片面だけを非多孔性膜で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜で構成したりしてもよい。そして、非多孔性膜以外の他の部分は、電子供与体物質3を透過しない金属製やプラスチック製の剛体フレーム等の部材や、電子供与体物質3を透過しない膜等を用いるようにすればよい。
【0063】
以上の構成により、本発明の電子供与体供給装置1は、第三の非多孔性膜2cを生分解する微生物が棲息する水環境に配置(浸漬)することで一定期間経過後に電子供与体物質3が水環境中に徐放され始める。
【0064】
水環境としては、電子供与体物質を必要とする微生物が棲息する水を含む環境全般、例えば、排水(廃水)等の被処理水や地下水の生物学的処理する処理槽、水を多く含む土壌等が挙げられる。尚、本発明の電子供与体装置を水に配置(浸漬)したときに浮いてしまう場合には、錘等を備えて沈めるようにすればよい。ここで、ポリ乳酸やポリグリコール酸といった生分解性プラスチックは、多種多様な微生物によって生分解され得ることから、一般的には微生物が棲息する水環境に配置すれば生分解が起こり得るが、微生物数が少ない環境等においては、微生物を適宜添加してもよい。また、脱窒処理を目的とする場合には、以下に説明する脱窒バイオリアクターとすることが好適である。
【0065】
<脱窒バイオリアクター>
本発明の脱窒バイオリアクターの実施形態の一例を図2(図2A及び図2B)に示す。図2に示す脱窒バイオリアクター10は、本発明の電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2cの周りに、脱窒菌が担持された担体11を配置したものとしている。本実施形態では、脱窒菌が担持された担体11と、担体11の構造的補強を図る不織布からなる袋12と、該不織布の袋10によって補強されている袋状の担体11の内側に形成されるポケット13とからなる脱窒菌担持担体の袋10aのポケット13に本発明の電子供与体供給装置1が収容されるものとしているが、本発明の脱窒バイオリアクターは、このような構造や形体には限定されない。例えば、構造的補強を図るための素材として不織布以外の素材、例えばナイロンネット等を用いてもよいし、不織布を用いずに担体11のみによって袋を形成してもよい。また、担体11は第三の非多孔性膜2c表面に例えば接着等により備えるようにしてもよい。また、担体11は第三の非多孔性膜2cの表面全体に備えるようにしても良いし、一部に備えるようにしてもよい。
【0066】
担体11としては、例えば、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体、さらには吸水性ポリマーを用いることも可能である。吸水性ポリマーとしては、公知のものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を高分子の一部に架橋させた物である。吸水性ポリマーを用いた場合には、上記の高分子ゲルを使用した場合と比べ担体5の保水力、吸水力が高まるため、水分を効率良く吸収し、保水することによって微生物が生存し続けるための好ましい環境を維持し続けることが可能となる。尚、ここに挙げた担体11はあくまでも例示であり、これらに限定されるものではない。例えば、担体11として不織布ないしは不織布を起毛処理したものを用いることもできる。
【0067】
ここで、担体11は、保護材としても機能する。即ち、担体11を備えることにより、第三の非多孔性膜2cを外部衝撃などによる損傷から防ぐことが可能となる。また、担体11を光硬化性樹脂のようにそれ自体強度の高い高分子として筒状、鞘状に形成することで、電子供与体供給装置1の膨らみを防止できるので、コンパクト化を図る上で好ましい。この場合には、脱窒バイオリアクターの厚さを薄くすることができ、処理槽などの閉鎖空間に収めるときの充填密度を高められると共に、外部衝撃からも保護することが可能となる。勿論、担体11とは別に保護材を電子供与体供給装置1に設けるようにしてもよい。
【0068】
担体11に担持される脱窒菌としては、例えば、Paracoccus pantotrophus、Alcaligenes eutrophus、 Alcaligenes. faecalis、Alcaligenes sp.Ab-A-1、Ab-A-2(FERM P-13862、P-13860)、Pseudomonas denitrificans等が挙げられ、これらのうちの少なくとも一種以上を用いればよいが、これらに限定されるものではなく、公知または新規の菌株を適宜使用することができる。尚、上記菌株は淡水において使用できる菌株であるが、海水の脱窒処理を行う場合には、例えばAlcaligenes sp.G-A-2-1(FERM P-13861)等を用いればよい。
【0069】
尚、脱窒菌は自然界に広く常在する菌であるため、あらかじめ担体11に担持させず、自然に増殖し担体11に付着する脱窒菌を利用しても構わない。
【0070】
ここで、脱窒菌は、硝酸イオンを窒素ガスに変換(還元)する通性嫌気性微生物である。したがって、水環境が好気環境下であっても、担体11中の一部の脱窒菌や水環境中の好気性微生物によって酸素が消費されて担体11内部には嫌気環境が形成される。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターは、嫌気性環境下においては勿論のこと、好気性環境下においても機能し得る。
【0071】
本発明の脱窒バイオリアクターを水環境に接触(浸漬)することによって、電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2c(生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜)が担体11に担持された脱窒菌、さらには水環境に棲息している微生物によって生分解される。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターを水環境に接触(浸漬)させてから一定期間が経過すると、電子供与体供給装置1の第二の非多孔性膜2b(親水性の非多孔性膜)が水と接触し、電子供与体物質3が第一の非多孔性膜2a(疎水性または両親媒性の非多孔性膜)と第二の非多孔性膜2b(親水性の非多孔性膜2c)とを介して、第一の非多孔性膜2aの分子透過性能に支配される速度で透過し、担体11中の脱窒菌に供給される。これにより、脱窒菌が活性化されて、脱窒菌の脱窒処理能が発揮され、水環境中の硝酸イオンを窒素ガスに変換することが可能となる。そして、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させるタイミングは、電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2cの材質や厚み、さらには担体11に担持させる脱窒菌の菌体密度、水環境中の微生物数により、制御することができる。
【0072】
本発明の脱窒バイオリアクターは、硝酸イオンを窒素ガスに変換して硝酸イオン濃度を低減するためのあらゆる水処理(排水処理等)に利用することができる。また、例えば、以下に説明するように、アンモニアを生物学的に硝化処理するための硝化槽の内部に収容することで、一定期間経過後に硝化と脱窒の両方の処理能を発揮する硝化・脱窒処理槽とすることができる。
【0073】
<硝化・脱窒処理槽>
本発明の硝化・脱窒処理槽の実施形態の一例を図3に示す。図3に示す硝化・脱窒処理槽20は、本発明の脱窒バイオリアクター10を、アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽21の内部に収容したものである。
【0074】
アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽21は、例えば、図3に示すように、筒状の容器22の下端に被処理水の流入部22aを備え、上端に被処理水の流出部22bを備え、容器の内部にはセラミックやガラス、プラスチック等の比表面積が大きい担体23が複数収容されている。この担体には予めアンモニアを硝化処理するための硝化菌が担持されている。但し、硝化槽21の形態は、あくまでも一例であって、この形態には限定されない。例えば、容器22の上端に被処理水の流入部22aを備え、下端に被処理水の流出部22bを備えるようにして、被処理水を、被処理水を容器22の上端から流入させて容器22の下端から排出するようにしてもよい。また、担体23に予め硝化菌を担持させることなく、被処理水を硝化槽に流通させる過程で、被処理水に棲息している硝化菌を徐々に担持するようにしてもよい。
【0075】
硝化菌としては、Nitrosomonas europaea NBRC-14298、Nitrosomonas europaea、Nitrosococcus mobilis、Nitrosospira briensis、Nitrosolobus multiformis、Nitrosovibrio tenuis等のアンモニアを亜硝酸イオンに酸化するアンモニア酸化菌を一種以上、Nitrobacter winogradskyi 、N. hamburgensis等の亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する亜硝酸酸化菌を一種以上用いることができ、これらを併用することが好適であるが、これらに限定されるものではなく、公知または新規の菌株を適宜使用することができる。尚、上記菌株は淡水において使用できる菌株であるが、海水の硝化処理を行う場合には、例えばアンモニア酸化菌としてNitrosomonas marina、Nitrosococcus oceanus等を用いるようにしてもよいし、亜硝酸酸化菌としてNitrospina gracilis、Nitrococcus mobilis、Nitrospira marina等を用いるようにしてもよい。
【0076】
本発明の脱窒バイオリアクター10は、複数の多孔性焼結体23に埋設されるように硝化槽21の内部に収容されているが、硝化槽21の内部に収容されていれば、脱窒バイオリアクターの配置位置は特に限定されない。また、図3では、脱窒バイオリアクター10を一つだけ収容するようにしているが、脱窒バイオリアクター10は複数個収容してもよい。上記の通り、脱窒バイオリアクター10の担体11は、光硬化性樹脂のようにそれ自体強度の高い高分子として筒状、鞘状に形成することで、電子供与体供給装置1の膨らみを防止できるので、硝化槽21に収容する際に脱窒バイオリアクター10の充填密度を高めて、脱窒器能を高めることができる。
【0077】
硝化槽21内に酸素を含む被処理水が流通すると、好気性微生物である硝化菌が機能して被処理水中のアンモニアが硝化処理される。そして、硝化槽21内に収容されている脱窒バイオリアクター10の電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2cと水が接触すると、第三の非多孔性膜2cが担体11に担持されている脱窒菌、さらには硝化槽21内の他の微生物によって徐々に生分解され、一定期間経過後に第二の非多孔性膜2bと水とが接触して、電子供与体物質3が担体11に担持された脱窒菌に供給され始め、脱窒菌の脱窒処理能が発揮され始める。これにより、硝化槽21が、硝化と脱窒を同時に行う硝化・脱窒処理槽として機能する。尚、硝化槽21内に流通する被処理水に酸素が含まれていても、上記の通り、担体11中の一部の脱窒菌や水環境中の好気性微生物によって酸素が消費されて担体11内部には嫌気環境が形成される。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターは、硝化槽21内にて良好に機能し、硝化・脱窒処理槽として機能する。
【0078】
本発明の硝化・脱窒処理槽20は、例えば以下に説明する水棲生物飼育設備の飼育水を生物濾過するための生物濾過槽として使用するのに好適である。
【0079】
<水棲生物飼育設備>
本発明の水棲生物飼育設備の実施形態の一例を図4に示す。図4に示す水棲生物飼育設備30は、閉鎖循環型の水棲生物飼育設備であり、水棲生物を飼育するための飼育水槽31と、飼育水槽31の飼育水を循環させる循環路32が備えられ、循環路32には生物濾過槽33が組み込まれている。飼育水は、例えば循環ポンプ(不図示)により飼育水槽31から生物濾過槽33に送液され、生物濾過槽33を通過した飼育水が再び飼育水槽31に流入する。本実施形態では、この生物濾過槽33として、本発明の硝化・脱窒処理槽20を用いるようにしている。但し、生物濾過槽33の設置形態はこれに限定されるものではなく、閉鎖循環型の水棲生物飼育設備に一般的に用いられる上部フィルター等の形態としてもよい。また、図示省略しているが、飼育水の温度を制御するための温度コントローラー、飼育水をエアレーションするための曝気装置、照明設備等を備えるようにしてもよい。
【0080】
したがって、この水棲生物飼育設備30によると、水棲生物の飼育開始から一定期間が経過し、産卵等によって飼育水槽内の個体数が増加して、飼育水の硝酸イオン濃度が上昇し易くなるタイミングで、電子供与体物質を脱窒菌に与えて脱窒機能を発揮させることができ、電子供与体物質の飼育水への不必要な拡散や、電子供与体物質の無駄な消費を抑えることができる。
【0081】
また、飼育水槽31の飼育水の循環を止め、微生物の乾燥を防ぐために生物濾過槽33に飼育水を満たしておいて、待機状態としている期間は、電子供与体物質3の生物濾過槽33内の飼育水への透過を防ぐことができる。したがって、飼育水の循環を開始するタイミングで、あるいは飼育水の循環を開始してから一定期間が経過した後に、電子供与体物質3の飼育水への供給を開始することができる。したがって、飼育水の循環を止めて待機状態としている期間中に、生物濾過槽33内の飼育水に電子供与体物質3が供給されて蓄積し、飼育水の循環を始めたときに飼育水槽内に電子供与体物質3が高濃度に流入して試験対象である水棲生物の健康を害したり、死滅させたりしてしまうことを確実に防ぐことが可能になる。
【0082】
尚、本発明の水棲生物飼育設備は、飼育水を淡水とする場合は勿論のこと、飼育水を海水や汽水とした場合においても、脱窒菌や硝化菌の選択によって、水棲生物を良好に飼育できることはいうまでもない。
【0083】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0084】
例えば、本発明の電子供与体供給装置1は、電子供与体物質3を導入する手段を備えて、電子供与体物質3を外部から補充可能とするようにしてもよい。これにより、一定期間経過後に電子供与体物質3の水環境への供給が始まった後は、電子供与体物質3を外部から補充し続けて、水環境に電子供与体物質3を供給し続けることができる。例えば、図9に示すように、電子供与体物質3を導入する手段は、容器4の縁の一部に電子供与体物質3を注入する供給部9を設けて、さらに図10に示すようにノズルないしパイプ8を装着する構造でも良いし、容器4と一体となったノズルないしパイプ8のようなものでも良い。尚、図10は、第三の非多孔性膜2cが生分解されて電子供与体物質3が第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bを介して透過する状態を示している。図10に示す微生物への電子供与体供給装置1は、容器4の縁に設けられた供給部9に装着された供給ノズル8あるいは容器4と一体となった供給ノズル8と、電子供与体物質3’を貯留するタンク18とをチューブ17などで連結し、必要に応じて電子供与体物質3’を補充可能としている。この場合、タンク18と容器4とはチューブ17を介して連通されているので、タンク18内に電子供与体物質3を貯蔵しておけば、容器4内の電子供与体物質3が減少してきたときに、電子供与体物質3’をタンク18と容器4の圧力差により補充できる。尚、容器4は供給部9あるいはノズル8を設けているので厳密な意味での密封構造ではないが、供給ノズル8内がタンク18から供給される電子供与体物質3’で満たされている状態では、電子供与体物質3’の液面がシールとなって容器4内は事実上密封状態にある。このため、容器4内の電子供与体物質3が供給部9やノズル8を通って漏れ出ることはない。尚、図9及び図10では、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの三層構造膜によって容器4を構成するようにしているが、上記の通り、非多孔性膜の被覆形態や容器の構造はこの形態には限定されない。
【0085】
また、本発明の電子供与体供給装置の第三の非多孔性膜2cの周りに、電子供与体物質を必要とする脱窒菌以外の微生物が担持された担体が配置されているバイオリアクターとしてもよい。この場合、当該微生物が担持された担体には、予め当該微生物が担持された担体は勿論のこと、水環境に配置することで当該微生物が担持された(付着した)担体も含まれる。
【実施例】
【0086】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0087】
[参考例]
(参考例1−1)大気中におけるエタノールの透過性の検討
各種非多孔性膜を用いて袋を形成し、その中にエタノールを密封した場合の大気中におけるエタノールの透過量を測定した。
【0088】
以下に示す(1)〜(7)の非多孔性膜により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にエタノール(和光純薬工業製、99.5%)を5mL密封した。
(1)0.03mm厚のPVA膜(商品名:ビニロンフィルム VF−L、クラレ社製)
(2)0.03mm厚のPE膜(ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)
(3)0.05mm厚のPE膜(ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)
(4)0.075mm厚のEVA膜(商品名:農POフィルム、昭和パックス社製)
(5)0.03mm厚のEVOH膜(商品名:エバールフィルム EF−HS、クラレ社製)
(6)0.015mm厚のPLA膜(商品名:テラマック、ユニチカ製 TF−15、二軸延伸処理品)
(7)0.035mm厚のPLA膜(商品名:テラマック、ユニチカ製 TF−35、二軸延伸処理品)
【0089】
上記(1)により作製した袋をサンプルAと呼ぶ。
【0090】
上記(2)により作製した袋をサンプルBと呼ぶ。
【0091】
上記(3)により作製した袋をサンプルDと呼ぶ。
【0092】
サンプルDを上記(1)により形成した袋に密封したものを、サンプルCと呼ぶ。
【0093】
上記(4)により作製した袋をサンプルEと呼ぶ。
【0094】
サンプルEを上記(1)により形成した袋に密封したものを、サンプルFと呼ぶ。
【0095】
上記(5)により作製した袋をサンプルGと呼ぶ。
【0096】
上記(6)により作製した袋をサンプルHと呼ぶ。
【0097】
上記(7)により作製した袋をサンプルIと呼ぶ。
【0098】
ここで、PVA(ポリビニルアルコール)は親水性の非多孔性膜である。PE(ポリエチレン)は疎水性の非多孔性膜である。EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)とEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)は両親媒性の非多孔性膜である。PLA(ポリ乳酸)は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である。
【0099】
尚、使用したEVA膜は酢酸ビニルを12モル%(エチレンが88モル%)とした。また、EVOH膜はビニルアルコールを53モル%(エチレンが47モル%)とした。疎水性の強さはEVOHよりもEVAの方が上である。
【0100】
上記サンプルA〜Iのそれぞれを、シリカゲルを置いて湿度を低下させた30℃の大気中に静置し、経過日数に対して袋の重さを測定することにより袋からのエタノールの透過量を評価した。尚、実験は無菌条件下にて行った。
【0101】
実験結果を図5に示す。図5において、●はサンプルAの実験結果を示し、■はサンプルBの実験結果を示し、□はサンプルCの実験結果を示し、▲はサンプルDの実験結果を示し、◆はサンプルEの実験結果を示し、◇はサンプルFの実験結果を示し、▼はサンプルGの実験結果を示し、○はサンプルHの実験結果を示し、◎はサンプルIの実験結果を示している。
【0102】
非多孔性膜をPVA膜とした場合(●:サンプルA)には、実験開始から7日間経過後に至るまで袋の重量の変動は見られなかった。また、エタノールを密封した袋をPVA膜の袋で密封した場合(□:サンプルC、◇:サンプルF)にも、実験開始から7日間経過後に至るまで袋の重量の変動は見られなかった。さらに、PLA膜によりエタノールを密封した場合(○:サンプルH、◎:サンプルI)も、実験開始から2日間重量の変動が全く見られなかった。
【0103】
一方、非多孔性膜をPE膜(■:サンプルB、▲:サンプルD)、EVA膜(◆:サンプルE)及びEVOH膜(▼:サンプルG)とした場合には袋の重量が徐々に低下していくことが確認された。また、袋の重量の低下速度はPE膜を用いた袋が最も遅く、次に、EVA膜を用いた袋が遅く、EVOH膜を用いた袋が最も速いことがわかった。
【0104】
また、0.03mm厚のPE膜を用いた袋(■:サンプルB)と比較して0.05mm厚のPE膜を用いた袋(▲:サンプルD)の方が袋の重量の低下速度が若干小さくなった。したがって、非多孔性膜の膜厚を薄くすることで、エタノール等の電子供与体物質の透過速度を高めることができることがわかった。
【0105】
以上の結果から、親水性の非多孔性膜であるPVA膜が、大気中におけるエタノールの透過を防ぐことが明らかとなった。
【0106】
また、疎水性の非多孔性膜であるPE膜、両親媒性の非多孔性膜であるEVA膜及びEVOH膜が、大気中においてエタノールの透過を許容し、大気中において徐々にエタノールを透過させることが明らかとなった。
【0107】
さらに、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であるPLA膜が、大気中におけるエタノールの透過を防ぐことも明らかとなった。
【0108】
(参考例1−2)水中におけるエタノールの透過性の検討
参考例1−1において作製したサンプルA、B、C、D、G、H、Iを用いて、水中におけるエタノールの透過量を測定した。
【0109】
具体的には、これらサンプルをそれぞれビーカーに入れた300mLの蒸留水(雑菌によるエタノールの分解を防ぐため、0.02%NaN3を添加)に浸漬し、経過時間に対する蒸留水のTOC濃度を測定して袋からのエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。また、蒸留水の温度は30℃とし、実験中は水を撹拌し続けた。尚、実験は無菌条件下にて行った。
【0110】
結果を図6に示す。図6において、●はサンプルAの実験結果を示し、■はサンプルBの実験結果を示し、□はサンプルCの実験結果を示し、▲はサンプルDの実験結果を示し、▼はサンプルGの実験結果を示し、○はサンプルHの実験結果を示し、◎はサンプルIの実験結果を示している。
【0111】
何れのサンプルを用いた場合においても、エタノールの透過が確認され、それぞれエタノールの透過速度に違いが見られた。
【0112】
即ち、非多孔性膜をPVA膜とした場合(●:サンプルA)とした場合、EVOH膜(▼:サンプルG)とした場合には、サンプルを水に浸漬するとエタノールが一気に放出される傾向が見られた。
【0113】
また、非多孔性膜をPE膜とした場合(■:サンプルB、▲:サンプルD)には、実験開始から7日目までにかけてTOC濃度が徐々に増加している傾向が見られた。しかも、膜厚を厚くすることによって、TOC濃度の増加速度が遅くなる傾向が見られたことから、膜厚を制御することによって、分子透過性能を制御できることが明らかとなった。
【0114】
さらに、非多孔性膜をPLA膜とした場合(○:サンプルH、◎:サンプルI)にも、実験開始から7日目までにかけてTOC濃度が徐々に増加している傾向が見られた。しかも、膜厚を厚くすることによって、TOC濃度の増加速度が遅くなる傾向が見られたことから、膜厚を制御することによって、分子透過性能を制御できることが明らかとなった。
【0115】
また、非多孔性膜をPE膜とした袋をPVA膜で覆った場合(□:サンプルC)と覆わなかった場合(▲:サンプルD)とを比較すると、実験結果がほぼ一致していることが確認された。このことから、PVA膜を水と接触させた場合には、PE膜のエタノール透過性に依存してエタノールが徐々に放出され、PVA膜はエタノールの透過速度に影響をほとんど与えないことが明らかとなった。
【0116】
以上、参考例1−1の大気中におけるエタノール透過試験と参考例1−2の水中におけるエタノール透過試験の結果について考察すると、以下のことがわかった。即ち、PVA膜等の親水性の非多孔性膜については、大気中ではエタノールの透過を防ぐが、水中ではバリア性が低下してエタノールの透過することがわかった。また、EVOH等の両親媒性の非多孔性膜については、大気中においても水中においてもエタノールの透過を許容するが、水中においては、非多孔性膜の親水性部分のバリア性の低下によって大気中よりもエタノールが透過し易くなることがわかった。また、PLA等の生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜については、水中ではエタノールを透過することがわかった。
【0117】
また、以上の結果は、エタノールと分子の性質が類似しているアルコール、特にメタノール及びプロパノール等の低級アルコール全般、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、水素、硫化水素、メタン及びエタン等のガス状物質、さらにはフェノール類、ベンゼン及びトルエン等のように、各種微生物の電子供与体として機能し得る物質についても、同様に当て嵌まるものと考えられた。
【0118】
[実施例]
(実施例1−1)水中におけるエタノールのバリア性の検討
非多孔性膜の積層構造を各種変化させて、水中におけるエタノールのバリア性について検討した。
【0119】
実験には、以下に示す(8)〜(11)の非多孔性膜を用いた。
(8)0.03mm厚のPVA膜(商品名:ビニロンフィルム VF−L、クラレ社製)
(9)0.03mm厚のPE膜(ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)
(10)0.015mm厚のPLA膜(商品名:テラマック、ユニチカ製 TF−15、二軸延伸処理品)
(11)0.015mm厚のPGA膜(商品名:kuredux、クレハ製)
【0120】
上記(9)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にエタノール(和光純薬工業製、99.5%)を5mL密封した。これをサンプルJ(積層構造:PE単層)と呼ぶ。
【0121】
上記(8)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルJを密封した。これをサンプルK(積層構造:PE/PVA積層)と呼ぶ。
【0122】
上記(11)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルJを密封した。これをサンプルL(積層構造:PE/PGA積層)と呼ぶ。
【0123】
上記(11)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルKを密封した。これをサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)と呼ぶ。
【0124】
上記(10)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルKを密封した。これをサンプルN(積層構造:PE/PVA/PLA積層)と呼ぶ。
【0125】
ここで、PVA(ポリビニルアルコール)は親水性の非多孔性膜である。PE(ポリエチレン)は疎水性の非多孔性膜である。PGA(ポリグルコール酸)及びPLA(ポリ乳酸)は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である。
【0126】
サンプルJ〜Nをそれぞれビーカーに入れた300mLの蒸留水(雑菌によるエタノールの分解を防ぐため、0.02%NaN3を添加)に浸漬し、経過時間に対する蒸留水のTOC濃度を測定して袋からのエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。また、蒸留水の温度は30℃とし、実験中は水を撹拌し続けた。尚、実験は無菌条件下にて行った。
【0127】
結果を図7に示す。図7において、◆はサンプルJの実験結果を示し、■はサンプルKの実験結果を示し、▲はサンプルLの実験結果を示し、□はサンプルMの実験結果を示し、*はサンプルNの実験結果を示している。
【0128】
サンプルJ、K及びLについては、エタノールの透過が確認されたが、サンプルM及びNについては、エタノールの透過が見られなかった。
【0129】
以上の結果から、PGA膜やPLA膜のように、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜によって、水とPVA膜との接触を防いで、エタノールの透過をブロックできることが明らかとなった。
【0130】
(実施例1−2)微生物が存在する水中におけるエタノールのバリア性の検討
実施例1−1で作製したサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)を用いて、微生物が存在する水中におけるエタノールのバリア性の検討を行った。
【0131】
具体的には、以下の方法により実験を行った。
【0132】
微生物として脱窒菌であるParacoccus pantotrophus(JCM−6892、以下、単に脱窒菌と呼ぶ)を使用した。菌体の培養には、JCM Medium List No.22(Nutrient agar No.2)を基本とした液体培地(ペプトン:10g/L、肉汁:10g/L、NaCl:5g/L、pH7.0〜7.2、JCM Medium List No.22から寒天を除いたもの)を用いた。それぞれ30℃で振とう(110rpm)培養後、遠心分離により集菌し、リン酸緩衝液(Na2HPO4・12H2O:9g/L、KH2PO4:1.5g/L、pH7.5)により3回洗浄した。洗浄菌体は、33mg dry wt./mLになるようリン酸緩衝液に懸濁した。
【0133】
次に、光硬化性樹脂PVA−SbQ(SPP−H−13、東洋合成工業製)9mLに対し、前述の菌懸濁液を2mL混合し、菌体を固定化した。菌体と樹脂の混合液は直接不織布に塗布し、メタルハロゲンランプ下で1時間照射することにより不織布の片面にシート状に固定化担体(縦50mm、横50mm、厚さ20mm)を成形した。
【0134】
そして、この固定化担体2つを不織布を外側にして3辺を貼り合わせ、微生物担体の袋を作製した。
【0135】
微生物担体の袋にサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)を収容したものとサンプルXと呼ぶ。
【0136】
また、比較試験として、微生物担体の袋にサンプルJ(積層構造:PE単層)を収容したものをサンプルYと呼ぶ。
【0137】
サンプルXとYをそれぞれビーカーに入れた300mLの硝酸カリウム水溶液(100mg−N/L KNO3)に浸漬し、経過時間に対する硝酸カリウム水溶液の窒素濃度を測定した。脱窒菌にエタノールが供給されることで、脱窒菌が機能し、硝酸イオンが窒素ガスに変換されて硝酸カリウム水溶液の窒素濃度が低下する。したがって、硝酸カリウム水溶液の窒素濃度を測定することで、脱窒菌へのエタノール供給量を間接的に評価することができる。尚、エタノールは脱窒菌に消費されるため、TOC濃度の測定ではエタノールの水環境への供給状況が評価できない。
【0138】
尚、窒素濃度の測定は、イオンクロマトアナライザ(ISC−1500(CS16Aカラム使用)Dionex社製)により行った。また、硝酸カリウム水溶液の温度は30℃とし、実験中は水を攪拌し続けた。
【0139】
結果を図8に示す。図8において、■はサンプルXの実験結果を示し、◆はサンプルYの実験結果を示している。
【0140】
微生物担体の袋にサンプルJ(積層構造:PE単層)を収容したサンプルYを用いた実験においては、実験開始直後から、硝酸カリウム水溶液の窒素濃度の低下が見られた。このことから、サンプルYを使用した場合には、実験開始直後から脱窒菌にエタノールが供給されていることが明らかとなった。
【0141】
これに対し、微生物担体の袋にサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)を収容したサンプルXを用いた実験においては、実験開始後4日目までは硝酸カリウム水溶液の窒素濃度の低下が見られなかった。ところが、7日目〜14日目にかけて、窒素濃度が徐々に低下することが明らかとなった。このことから、サンプルXを使用した場合には、実験開始から一定期間が経過してから脱窒菌へのエタノールの供給が始まることが明らかとなった。即ち、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であるPGA膜でPVA膜を覆うことによって、脱窒菌によりPGA膜が生分解されて一定期間経過後にPVA膜と水との接触が起こり、これによりエタノールがPE膜とPVA膜とを介して透過し始めるものと考えられた。
【0142】
以上の結果から、PE膜等の疎水性の非多孔性膜をPVA膜等の親水性の非多孔性膜で覆い、さらに親水性の非多孔性膜をPGA膜等の生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜で覆うことによって、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜により一定期間はエタノールの透過を防ぎ、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜が生分解されて親水性の非多孔性膜と水との接触が起こることによって、エタノールを水中に供給(透過)できることがわかった。
【0143】
また、親水性の非多孔性膜と水とが接触するまでの時間は、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜の材質や厚みによって制御し得るものと考えられた。
【0144】
さらに、上記結果は、エタノールと分子の性質が類似しているアルコール、特にメタノール及びプロパノール等の低級アルコール全般、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、水素、硫化水素、メタン及びエタン等のガス状物質、さらにはフェノール類、ベンゼン及びトルエン等のように、各種微生物の電子供与体として機能し得る物質についても、同様に当て嵌まるものと考えられた。
【0145】
また、エタノール等の電子供与体物質と接触する最も内側の非多孔性膜は、疎水性の非多孔性膜だけでなく、エタノール等の電子供与体物質を透過し得る両親媒性の非多孔性膜を用いることもできるものと考えられた。即ち、両親媒性の非多孔性膜の疎水性を高めることによって、水中での分子透過性能を親水性の非多孔性膜よりも低下させて、この膜の分子透過性能に支配される緩やかな速度で電子供与体物質を徐放し得るものと考えられた。
【符号の説明】
【0146】
1 電子供与体供給装置
2a 第一の非多孔性膜
2b 第二の非多孔性膜
2c 第三の非多孔性膜
3 電子供与体物質
4 容器
10 脱窒バイオリアクター
11 担体
20 硝化・脱窒処理槽
21 硝化槽
30 水棲生物飼育設備
33 生物濾過槽
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子供与体供給装置及びこれを利用した脱窒バイオリアクターに関する。さらに詳述すると、本発明は、電子供与体供給装置及びこれを利用した脱窒バイオリアクター、さらにはこの脱窒バイオリアクターを利用した硝化・脱窒処理槽、この硝化脱窒処理槽を利用した水棲生物飼育設備に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を使用した生物学的処理を行う際には、微生物のエネルギー源としての電子供与体物質を供給しなければならない場合がある。
【0003】
従来、電子供与体物質としてアルコール(例えばメタノール、エタノール及びプロパノール等の低級アルコール)等の液体を微生物に供給する際には、例えば高分子ゲル等の担体に微生物を担持したバイオリアクターの内部に空間を設けておき、この空間とアルコール貯留槽とを配管で連結して循環路を形成し、循環ポンプや様々なバルブ、計器類等を操作してアルコールの供給タイミング及び供給量を制御するようにしていた(特許文献1及び2参照)。
【0004】
しかしながら、上記のような微生物への電子供与体供給方法は、電子供与体物質の微生物への供給量を一定量に維持するためのポンプや制御装置等の一連の設備が必要であることから、設備の大型化や設備操作の複雑化といった問題を抱えるものであった。
【0005】
そこで、本件出願人は、特許文献3において、ポリエチレン膜やポリプロピレン膜等の疎水性の非多孔性膜、またはポリエチレンとポリビニルアルコールの共重合体等の両親媒性の非多孔性膜(疎水性と親水性の双方の性質を共有する非多孔性膜)により形成した容器に、アルコール等の各種電子供与体物質を封入し、電子供与体物質を非多孔性膜から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で透過させて微生物に供給する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3340356号
【特許文献2】特許第2887737号
【特許文献3】国際公開WO2006/135028
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、疎水性の非多孔性膜または両親媒性の非多孔性膜により形成した容器にアルコール等の電子供与体物質を封入すると、電子供与体物質が水環境中及び大気中のいずれの環境においても直ちに透過し始めてしまう。したがって、疎水性の非多孔性膜または両親媒性の非多孔性膜により形成した容器にアルコール等の電子供与体物質を封入した電子供与体供給装置は、作製してから直ちに使用しないと、電子供与体物質が容器から徐々に漏れ出して無駄に消費されてしまう問題があった。
【0008】
また、水環境において微生物を利用した生物学的処理を行う場合、ある一定期間が経過してから電子供与体物質を微生物に供給し始めて生物学的処理を実行することが望ましいケースもある。例えば、初期段階では被処理物質の濃度が生物学的処理を行う必要がないほど低濃度であり、一定期間が経過した段階で生物学的処理を行う必要のある濃度に上昇するような場合がある。このような場合においては、水環境において、ある一定期間が経過するまでは電子供与体物質を供給しないようにして電子供与体物質の無駄な消費を抑えておき、ある一定期間が経過した段階で、電子供与体物質を微生物に供給し始めることが、電子供与体物質の水環境への不必要な拡散や、電子供与体物質の無駄な消費を抑える上で望ましいと言える。
【0009】
上記のような場合についてより具体的に説明すると、例えば、魚類等の水棲生物の飼育設備においては、飼育水槽内の水棲生物の個体数が少ない場合、飼育初期段階では飼育水に硝酸イオンがそれほど多くは蓄積しないので、電子供与体物質を脱窒菌に与えて脱窒機能を発揮させる必要はない。しかし、飼育開始から一定期間が経過し、産卵等によって飼育水槽内の個体数が増加した場合、飼育水の硝酸イオン濃度が上昇し易くなるので、飼育水の硝酸イオン濃度を低下させるために、電子供与体物質を脱窒菌に与えて脱窒機能を発揮させる必要が生じる。つまり、このような場合においては、飼育水の硝酸イオン濃度が上昇し易くなるタイミングで電子供与体物質を脱窒菌に与えることで、電子供与体物質の飼育水への不必要な拡散や、電子供与体物質の無駄な消費を抑える上で望ましいと言える。
【0010】
上記要望は、特許文献3に記載の電子供与体供給装置を、水環境の生物学的処理が望まれる段階で作製して直ちに水環境に投入することで解決することは可能ではある。しかしながら、水環境の生物学的処理が望まれる段階で電子供与体供給装置を作製したり、電子供与体供給装置を水環境に投入することは煩雑である。また、以下に説明するように実行することが難しい場合もあり得る。
【0011】
例えば、魚類等の水棲生物を収容した飼育水槽が商業施設等でインテリア等として設置されるような場合においては、飼育設備のメンテナンスや調整等を行う時間が限られていることから、飼育水槽の初期設定段階で、後に想定される飼育水槽の状態変化を考慮して、出来る限りの対策を講じておくことが望ましいと言える。したがって、飼育水を生物学的に浄化するための硝化菌や脱窒菌は水環境に棲息させておいて乾燥による死滅を防ぐと共に、脱窒菌に電子供与体物質を供給するための電子供与体供給装置を予め脱窒菌の近傍に配置しておき、所望のタイミングで電子供与体供給装置を脱窒菌に供給させ始めるようにできることが望ましいと言える。
【0012】
以上のことから、大気中では電子供与体物質を漏れ出させることなく保存することができ、水環境中ではある一定期間が経過した後に電子供与体物質を水環境中に供給させ始めることのできる装置や方法を確立することが望ましいと考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、大気中では電子供与体物質を漏れ出させることなく保存することができ、水環境中ではある一定期間が経過した後に電子供与体物質を水環境中に供給させ始めることのできる電子供与体供給装置及び電子供与体供給方法を提供することを目的とする。
【0014】
また、本発明は、水環境中に配置してある一定期間が経過した後に脱窒機能を発揮させ始めることのできる脱窒バイオリアクターを提供することを目的とする。
【0015】
さらに、本発明は、水環境中において、ある一定期間が経過した段階で脱窒機能を発揮させ始めて、硝化処理と脱窒処理を行うことのできる硝化・脱窒処理槽を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、飼育開始から一定期間が経過した段階で脱窒機能を発揮させ始めて、飼育水の硝化処理と脱窒処理を行うことのできる水棲生物飼育設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するため、本願発明者が鋭意検討を行った結果、ポリエチレン膜により形成した容器に電子供与体物質としてエタノールを封入した電子供与体供給装置について、容器の外側表面をポリビニルアルコール膜で被覆し、さらにポリビニルアルコール膜表面をポリグルコール酸膜で被覆して、脱窒菌が棲息する水中に浸漬したところ、一定期間経過後にエタノールが水中に供給され始め、その供給速度が、ポリエチレン膜の分子透過性能に支配される速度となることを知見した。また、この電子供与体供給装置は、大気中においては、エタノールの放出は見られなかった。
【0018】
本願発明者は、上記知見に基づき、ポリエチレン膜等の疎水性または両親媒性の非多孔性膜により容器を形成してこの容器内にエタノール等の電子供与体物質を封入し、容器の外側表面をポリビニルアルコール膜等の親水性の非多孔性膜で被覆し、親水性の非多孔性膜の表面をさらにポリグルコール酸膜等の生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜で被覆することで、大気中では電子供与体物質を漏れ出させることなく保存することができ、水環境中ではある一定期間が経過した後に電子供与体物質を水環境中に供給させ始めることができ、しかもその速度をポリエチレン膜等の疎水性または両親媒性の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度とできることを知見するに至り、この知見に基づいてさらに種々検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明の電子供与体供給装置は、疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器内に、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質が収容され、電子供与体物質が容器の第一の非多孔性膜部分から第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺に徐放されて容器周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置において、容器の外側表面の第一の非多孔性膜部分が第二の非多孔性膜で被覆され、第二の非多孔性膜の容器側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜で被覆され、第二の非多孔性膜は水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜を生分解する微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に電子供与体物質が水環境中に徐放され始めるものである。
【0020】
また、本発明の電子供与体供給方法は、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質と微生物が棲息する水環境とを疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を介して接触させ、電子供与体物質を第一の非多孔性膜から第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で水環境に徐放させて水環境中の微生物に供給する電子供与体供給方法において、第一の非多孔性膜の水環境側の面を第二の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜の水環境側の面を第三の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜を水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜を生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜と水環境とを接触させることで一定期間経過後に電子供与体物質を水環境中に徐放させ始めるようにしている。
【0021】
したがって、本発明の電子供与体供給装置及び電子供与体供給方法によると、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である第三の非多孔性膜が水環境と接触すると、水環境中の微生物により生分解され、水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜である第二の非多孔性膜が一定期間経過後に水環境と接触するようになる。そうすると、第二の非多孔性膜のバリア性が低下し、電子供与体物質が疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜と第二の非多孔性膜とを介して、第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で透過し、水環境中に徐放されるようになる。
【0022】
尚、電子供与体物質が水環境中に徐放され始めるタイミングは、第三の非多孔性膜の材質や厚み、水環境中の微生物数等により適宜制御できる。
【0023】
次に、本発明の脱窒バイオリアクターは、本発明の電子供与体供給装置の第三の非多孔性膜の周りに、脱窒菌が担持された担体が配置されているものとしている。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターによると、水環境に配置することによって、担体に担持されている脱窒菌さらには水環境中に棲息する微生物によって第三の非多孔性膜が生分解され、一定期間経過後に第二の非多孔性膜と水環境とが接触する。これにより、電子供与体物質が、第一の非多孔性膜と第二の非多孔性膜とを介して、第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で水環境中に徐放されて担体に担持された脱窒菌に供給され、脱窒菌の脱窒機能が発揮されるようになる。つまり、本発明の脱窒バイオリアクターを水環境に配置すると、電子供与体物質が一定期間経過後に担体に担持された脱窒菌に供給されるようになって、脱窒菌の脱窒機能が発揮され始める。尚、脱窒菌が担持された担体には、予め脱窒菌が担持された担体は勿論のこと、水環境に配置することで脱窒菌が担持された(付着した)担体も含まれる。
【0024】
次に、本発明の硝化・脱窒処理槽は、本発明の脱窒バイオリアクターを、アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽の内部に収容したものとしている。したがって、アンモニアを生物学的に硝化処理する機能に加えて、一定期間経過後に脱窒菌が機能し始め、排水や地下水等の被処理水中のアンモニアを窒素ガスに変換するための生物学的処理が行われるようになる。
【0025】
次に、本発明の水棲生物飼育設備は、本発明の硝化・脱窒処理槽を生物濾過槽としたものとしている。したがって、飼育水に含まれるアンモニアを生物学的に硝化処理する機能に加えて、一定期間経過後に脱窒菌が機能し始め、飼育水のアンモニアを窒素ガスに変換するための一連の生物学的処理が行われるようになる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電子供与体供給装置及び電子供与体供給方法によれば、大気中では電子供与体物質を放出させることなく保存することが可能となり、且つ水環境中においては一定期間経過後に電子供与体物質を徐放することが可能となる。したがって、水環境中において、微生物に電子供与体物質を供給することが必要となるタイミングで電子供与体物質を供給させ始めるようにすることが可能となり、電子供与体物質の水環境への不必要な拡散や電子供与体物質の無駄な消費を抑えて、電子供与体物質を必要とする微生物を利用した生物学的処理にかかる手間やコストを抑えることが可能となる。しかも、水環境中への電子供与体物質の供給開始時期は、第三の非多孔性膜(生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜)の材質、厚さ、水環境中の微生物数等に応じて容易に設定することができるので、水環境中における電子供与体物質の供給開始時期を、ポンプや計器等の装置を用いることなく、簡単に設定することができる。
【0027】
また、本発明の脱窒バイオリアクターによれば、本発明の電子供与体供給装置の第三の非多孔性膜(生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜)の周りに脱窒菌を担持した担体が配置されているので、水環境に配置してから一定期間が経過した後に、担体に担持された脱窒菌に電子供与体物質を供給させ始めて、脱窒機能の発揮開始時期を制御することが可能となる。したがって、脱窒処理を行う必要が生じる段階で脱窒菌に電子供与体物質を供給させ始めて、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させ始めることができるので、脱窒菌を利用した脱窒処理にかかる手間やコストを抑えることができる。
【0028】
さらに、本発明の硝化・脱窒処理槽によれば、アンモニアを生物学的に硝化処理する機能に加えて、一定期間経過後に脱窒菌を機能させ始めることができる。したがって、脱窒処理を行う必要が生じる段階で脱窒菌に電子供与体物質を供給させ始めて、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させ始めることができるので、硝化・脱窒処理にかかる手間やコストを抑えることができる。
【0029】
また、本発明の水棲生物飼育設備によれば、生物濾過槽に収容された本発明の脱窒バイオリアクターが、生物濾過槽の水と接触してから一定期間が経過した後に機能し始める。したがって、飼育水を生物学的に浄化するための硝化菌や脱窒菌を水環境に棲息させておいて乾燥による死滅を防ぐと共に、所望のタイミングで電子供与体物質を脱窒菌に供給させ始めるように予め飼育設備を準備・設定することができるので、例えば、インテリア等として魚類等の水棲生物を収容した飼育水槽を展示するために魚類等の水棲生物の飼育設備が商業施設に設置される場合のように、飼育設備のメンテナンスや調整の機会が限られているような状況においても十分に対応可能な飼育設備となる。また、水棲生物の飼育開始から一定期間が経過し、飼育水槽内の水棲生物個体数が産卵等により増加して硝酸イオンが蓄積し易くなった段階で脱窒反応を進行させ始めて、飼育水の硝酸イオン濃度を低下させることが可能となるので、電子供与体物質の飼育水への不必要な拡散や電子供与体物質の無駄な消費を抑えて、水棲生物の飼育の手間やコストを抑えることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の電子供与体供給装置の実施形態の一例を示す図であり、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図2A】本発明の脱窒バイオリアクターの実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2B】本発明の脱窒バイオリアクターの実施形態の一例を示す縦断面図である。
【図3】本発明の硝化・脱窒処理槽の実施形態の一例を示す図である。
【図4】本発明の水棲生物飼育設備の実施形態の一例を示す図である。
【図5】参考例1−1の実験結果を示す図である。
【図6】参考例1−2の実験結果を示す図である。
【図7】実施例1−1の実験結果を示す図である。
【図8】実施例1−2の実験結果を示す図である。
【図9】本発明の電子供与体供給装置の他の実施形態である補充タイプの例を示す縦断面図である。
【図10】図9の実施形態の電子供与体供給装置の全体構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
<電子供与体供給方法と電子供与体供給装置>
本発明の電子供与体供給方法は、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質と微生物が棲息する水環境とを疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を介して接触させ、電子供与体物質を第一の非多孔性膜から第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で水環境に徐放させて水環境中の微生物に供給する電子供与体供給方法において、第一の非多孔性膜の水環境側の面を第二の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜の水環境側の面を第三の非多孔性膜で被覆し、第二の非多孔性膜を水と接触したときに電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜を生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜とし、第三の非多孔性膜と水環境とを接触させることで一定期間経過後に電子供与体物質を水環境中に徐放させ始めるようにしている。
【0033】
本発明の電子供与体供給方法を実施するための電子供与体供給装置の一例として、本発明の電子供与体供給装置の実施形態の一例を図1に示す。図1に示す電子供与体供給装置1は、疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜2aを少なくとも一部に備える密封構造の容器4内に、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質3が収容され、電子供与体物質3が容器4の第一の非多孔性膜2a部分から第一の非多孔性膜2aの分子透過性能に支配される速度で容器4の周辺に徐放されて容器4の周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置において、容器4の外側表面の第一の非多孔性膜2a部分が第二の非多孔性膜2bで被覆され、第二の非多孔性膜2bの容器4側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜2cで被覆され、第二の非多孔性膜2bは水と接触したときに電子供与体物質3を透過する親水性の非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜2cは生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であり、第三の非多孔性膜2cを生分解する微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に電子供与体物質3が水環境中に徐放され始めるものである。
【0034】
本実施形態において、容器4は、疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜2aで全体が構成される袋状を成し、周縁をヒートシールで溶着したり、接着剤により接着したりするようにして、電子供与体物質3を密封するようにしているが、形体や構造は特に限定されるものではない。例えば、容器4はチューブ状やシート状としてもよい。また、容器4は、第一の非多孔性膜2aで全体を構成するものに限られず、片面だけを第一の非多孔性膜2aで構成したり、1つの面のさらに一部分を第一の非多孔性膜2aで構成したりしてもよい。第一の非多孔性膜2aを部分的に用いて容器4を構成する場合には、第一の非多孔性膜2a以外の他の部分は、電子供与体物質3を透過しない金属製やプラスチック製の剛体フレーム等の部材や、電子供与体物質3を透過しない膜等を用いるようにすればよい。
【0035】
第一の非多孔性膜2aとしては、疎水性または両親媒性の非多孔性膜が用いられる。
【0036】
疎水性の非多孔性膜としては、例えば、オレフィン系の膜全般を用いることができ、その中でも特にポリエチレン膜やポリプロピレン膜の使用が好適である。ポリエチレンやポリプロピレンは、適度な物質の透過性、熱可逆性を有しており、柔軟で成形が容易であるという利点を有している。また、様々な物質に対して安定である。しかも、水を透過し難いので、水で希釈したアルコールや有機酸を電子供与体物質3として使用できる利点もある。水で希釈したアルコールや有機酸を電子供与体物質3として使用することで、電子供与体物質3と水環境との間の濃度勾配によって、電子供与体物質3の水環境への透過速度を制御できる。即ち、アルコールや有機酸の濃度を高めることで、電子供与体物質3と水環境との間の濃度勾配を大きくして水環境への透過速度を向上させることができ、逆に、アルコールや有機酸の濃度を低下させることで、電子供与体物質3と水環境との間の濃度勾配を小さくして水環境への透過速度を低下させることができる。但し、疎水性の非多孔性膜は、これらに限定されるものではない。例えば、後述する生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であるポリ乳酸やポリグリコール酸も疎水性の高い非多孔性膜として知られており、これを第一の非多孔性膜2aとして用いることもできる。
【0037】
両親媒性の非多孔性膜としては、例えば、エチレン・ビニルアルコール共重合体やエチレン・酢酸ビニル共重合体等の、疎水性分子と親水性分子の共重合体が挙げられるが、両親媒性の非多孔性膜は、これらに限定されるものではない。尚、両親媒性の非多孔性膜は、膜を構成する親水性分子と疎水性分子の比率によって、電子供与体物質3の供給速度を制御することができる。即ち、親水性分子の比率を大きくするほど、水と接触したときにバリア性が低下し易くなって電子供与体物質3の透過速度が大きくなる。逆に疎水性分子の比率を大きくするほど、水と接触したときにバリア性が低下し難くなって電子供与体物質3の透過速度が小さくなる。したがって、親水性分子と疎水性分子の比率のバランスによって、電子供与体物質3の透過速度を制御することができる。
【0038】
尚、第一の非多孔性膜2aの電子供与体物質の透過速度は、上記のパラメータ以外にも、膜材料、膜厚、該膜の表面積、電子供与体物質3の分子量や性質、温度及び外圧等により制御することが可能である。本願発明者のポリエチレン膜に対する実験によると、同じ膜材料の場合には膜厚によって分子透過速度が変化することが確認されている。そこで、微生物に対して必要な電子供与体物質3の供給量に応じて、適宜膜厚などを選定することによって、必要な速度で必要な量の電子供与体物質3を供給することができる。また、延伸処理により分子配列を制御することができるので、延伸処理によって電子供与体物質供給速度を制御することも可能である。
【0039】
ここで、第一の非多孔性膜2aは、膜の密度によっても分子透過速度が変化する。ポリエチレンを例に挙げて説明すると、JIS K6922−2により分類される低密度ポリエチレン(密度910kg/m3以上、930kg/m3未満)を用いた場合、電子供与体物質3が十分な透過速度で透過するが、高密度ポリエチレン(密度942kg/m3以上)を用いた場合には、電子供与体物質3の透過速度が低下する。したがって、所望の電子供与体物質供給速度に応じて、第一の非多孔性膜2aの膜厚と膜密度のバランスを制御すればよい。
【0040】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体物質3としては、微生物に対して毒性を呈することなく、第一の非多孔性膜2aを腐食することなく、第一の非多孔性膜2aを透過することができる分子量、性質等を有するものが適宜選択される。例えば、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等)及び有機酸(例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等)等の液状物質、水素、硫化水素、メタン及びエタン等のガス状物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、微生物によっては、フェノール類、ベンゼン及びトルエン等を電子供与体物質3として用いることができる。
【0041】
ここで、電子供与体物質3としてアルコールを用いる場合、原液のままで用いることができる。ポンプ等によりメタノールやエタノール等のアルコールを微生物のエネルギー源として供給する場合には、微生物が死なない程度の濃度に水で希釈する必要があったが、本発明によれば、アルコールは微生物へ緩やかに供給することができるため、アルコールの原液を用いても、微生物が死に至ることはないアルコール供給速度に制御することができる。
【0042】
ここで、第一の非多孔性膜2aを疎水性の非多孔性膜とする場合、アルコールの原液に不純物が混在しているようなときであっても、実質的にはアルコール分子のみが第一の非多孔性膜2aを透過し、第二の非多孔性膜2bが水と接触したときにこのアルコール分子が第二の非多孔性膜2bを透過して微生物に緩やかに供給される。したがって、アルコールに不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンや極性の大きなシアン化合物は第一の非多孔性膜2aを透過し難く、微生物にとって害のない濃度に希釈された状態のアルコールを主成分として透過させて微生物に供給することが可能となり、不純物は容器4内にほとんど残留する。したがって、本発明において、第一の非多孔性膜2aを疎水性の非多孔性膜した場合には、廃アルコールのように不純物を含んでいるアルコールを用いることができる。
【0043】
電子供与体物質3の第一の非多孔性膜2aの透過について、疎水性の非多孔性膜を例に挙げて説明する。電子供与体物質3の第一の非多孔性膜2aの透過は、電子供与体物質分子が膜に溶け込み、その溶け込んだ分子が膜内部を拡散して反対側に達することにより起こる。したがって、膜への溶け込みが起こらない程大きなサイズの分子であるカテキンや極性の高い水やシアン化合物などは第一の非多孔性膜2aを透過し難い。また、ポリエチレンやポリプロピレン等は水となじむ官能基が存在しない疎水性を有する強い低極性の膜であるため、極性分子である水が膜に溶け込みにくい。また、水分子同士の水素結合が強いため、常温では水が当該膜を透過することはほとんど無い。したがって、疎水性の非多孔性膜は、水や分子量の大きなカテキン、極性の高いシアン化合物等の不純物はほとんど透過させずに、所望の電子供与体物質3を主成分として透過させる「分子ふるい」として機能する。また、電子供与体物質3は、分子状態、つまり、液体のように分子間の引力により凝集することのないガス(気体)の状態で第一の非多孔性膜2aを透過する。したがって、疎水性を有する非多孔性膜2aはガス透過性膜とも表現できる。両親媒性の非多孔性膜についても、疎水性の非多孔性膜と同様、電子供与体物質3が膜に溶け込むことにより透過する。
【0044】
このように、第一の非多孔性膜2aは、電子供与体物質3が膜に溶け込むことにより透過させており、多孔質膜のように孔の大きさや数で電子供与体物質3の種類や量を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる利点も有している。
【0045】
次に、第二の非多孔性膜2bについて説明する。第二の非多孔性膜2bは、水と接触しない状態では電子供与体物質3のバリア膜として機能し、第一の非多孔性膜2aを透過した電子供与体物質3の分子の透過を抑える性質を有し、且つ水と接触した状態では電子供与体物質3のバリア膜としての機能が低下して、第一の非多孔性膜2aを透過した電子供与体物質3の分子を透過させる性質を有する非多孔性膜である。
【0046】
第二の非多孔性膜2bの材料としては、親水性の非多孔性膜、即ち、分子構造中に親水基を有する非多孔性膜、例えば、ポリエステル、ナイロン(ポリアミド)、ポリビニルアルコール、ビニロン、セロハン、ポリグルタミン酸、これらの共重合体膜などが挙げられ、特にポリビニルアルコールが好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
ここで、水と接触した状態における第二の非多孔性膜(親水性の非多孔性膜)2bの分子透過性能は、第一の非多孔性膜(疎水性または両親媒性の非多孔性膜)2aの分子透過性能に比べて高い。したがって、第二の非多孔性膜2bが水と接触した状態では、電子供与体物質3の透過速度は、第一の非多孔性膜2aの分子透過性能に支配される。したがって、第一の非多孔性膜2aの分子透過性能を適宜制御することにより、微生物への電子供与体物質3の供給速度を所望の速度に制御することができる。
【0048】
第二の非多孔性膜2bは、水と接触していない状態においては、膜の内部で水素結合が形成されている。したがって、分子鎖の熱振動によるゆらぎが起こりにくい構造になっており、分子鎖の隙間が少ないため、分子が透過しにくい。他方、水と接触した状態では、分子鎖の間に水分子が侵入して水素結合が切れ、分子鎖の熱振動によるゆらぎが起こりやすい構造となり、水分子がさらに膜の内部に侵入する。その結果、膜内部の水素結合のほとんどが切断され、水分子の通路が形成される。したがって、第二の非多孔性膜2bが水と接触したときには、第一の非多孔性膜2aを透過した電子供与体物質3の分子はこの水分子の通路に沿って第二の非多孔性膜2bを透過する。
【0049】
尚、第二の非多孔性膜2bについても、電子供与体物質3を膜に溶け込ませることにより透過させており、多孔質の膜のように、孔の大きさや数で電子供与体物質3の種類や量を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる。
【0050】
次に、第三の非多孔性膜2cについて説明する。第三の非多孔性膜2cは、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である。
【0051】
第三の非多孔性膜2cの材料としては、例えば、ポリグルコール酸膜、ポリ乳酸膜、ポリヒドロキシブチレート膜、ポリカプロラクトン膜、これらの共重合体膜等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
第三の非多孔性膜3cは、その材質、膜厚、水環境の微生物数によって、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を制御することができる。例えば、ポリグルコール酸膜は、ポリ乳酸膜と比較すると生分解性が高いので、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を長くしたい場合にはポリ乳酸膜を使用し、逆に第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を短くしたい場合にはポリグルコール酸膜やポリグルコール酸とポリ乳酸の共重合体膜を使用すればよい。また、膜厚を厚くする程、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を長くすることができ、逆に膜厚を薄くする程、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間を短くすることができる。さらに、水環境の微生物数が多ければ、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間が短くなるし、逆に水環境の微生物数が少なければ、第二の非多孔性膜2bが水環境と接触するまでの時間が長くなる。水環境の微生物数は、水環境への微生物の人為的な添加によって制御することもできるし、後述する脱窒バイオリアクターの担体に担持する脱窒菌の菌数によっても制御することができる。
【0053】
また、第三の非多孔性膜2cによる第二の非多孔性膜2bの被覆状態によって、電子供与体物質3の透過速度に経時変化を持たせることも可能である。例えば、第二の非多孔性膜2bを一部をポリグルコール酸膜で被覆し、他部をポリ乳酸膜で被覆することで、ポリグルコール酸膜が先に消失して第二の非多孔性膜2bの一部が水環境と接触し、次いでポリ乳酸膜が消失して第二の非多孔性膜2bの全面が水環境と接触することによって、電子供与体物質3の水環境への供給速度を段階的に高めることが可能である。また、第二の非多孔性膜2bを覆う第三の非多孔性膜2bの膜厚に勾配を持たせることで、徐々に第二の非多孔性膜2bを露出させて水環境と接触させることができ、電子供与体物質3の水環境への供給速度を徐々に高めるようなことも可能である。
【0054】
次に、第一の非多孔性膜2aを第二の非多孔性膜2bで被覆する形態、並びに第二の非多孔性膜2bを第三の非多孔性膜2cで被覆する形態について説明する。
【0055】
図1に示す電子供与体供給装置1は、第一の非多孔性膜2aで形成した容器4に電子供与体物質3を封入し、第二の非多孔性膜2bで形成した容器6に容器4を封入し、第三の非多孔性膜2cで形成した容器7に容器6を封入するようにしているが、この形態には限定されない。
【0056】
例えば、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bの二層構造膜で形成した容器に電子供与体物質3を封入し、この容器を第三の非多孔性膜2cで形成した容器7に封入するようにしてもよい。また、第一の非多孔性膜2aで形成した容器4に電子供与体物質3を封入し、第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの二層構造膜で形成した容器に容器4を封入するようにしてもよい。あるいは、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの三層構造膜で形成した容器に電子供与体物質を封入するようにしてもよい。
【0057】
積層構造膜は、例えば、加熱して流動性を持たせたホットメルト接着剤を一方の非多孔性膜の全面、一部の面または周縁部に塗布し、ホットメルト接着剤が硬化するまでの時間内に他方の非多孔性膜と貼り合わせて作製することができる。但し、貼り合わせ方法は、ホットメルト接着剤を用いた方法には限定されず、他の接着剤を使用した方法を採用したり、あるいは両面テープ等により貼り合わせる方法を採用してもよい。
【0058】
また、上述の実施形態では、1つの容器4を封入した容器6を容器7に封入するようにしているが、複数の容器4を封入した容器6を容器7に封入するようにしてもよい。また、1つの容器4を封入した複数の容器6を容器7に封入するようにしてもよい。さらに、複数の容器4を封入した複数の容器6を容器7に封入するようにしてもよい。
【0059】
あるいは、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bの二層構造膜で形成した複数の容器を袋7に封入するようにしてもよい。また、複数の容器4を第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの二層構造膜で形成した容器に封入するようにしてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態において、第二の非多孔性膜2bは、容器4の外側表面全体を被覆して第一の非多孔性膜2aの全面を被覆するようにしているが、第二の非多孔性膜2bの被覆形態は必ずしもこのような形態には限定されない。例えば、第一の非多孔性膜2aの一部を第二の非多孔性膜2bで被覆し、第二の非多孔性膜2bで覆われていない残りの部分は大気中においても水中においても電子供与体物質3を透過することのない金属製やプラスチック製の剛体フレーム等の部材や膜等で覆うようにしてもよい。
【0061】
また、上述の実施形態において、第三の非多孔性膜2cは、容器4の外側表面全体を被覆する第二の非多孔性膜2bの全面を被覆しているが、第三の非多孔性膜2cの被覆形態は必ずしもこのような形態には限定されない。例えば、第二の非多孔性膜2bの一部を第三の非多孔性膜2cで被覆し、第三の非多孔性膜2cで覆われていない残りの部分は水蒸気不透過性の部材(金属やプラスチックなど)や膜で覆うようにしてもよい。
【0062】
したがって、第二の非多孔性膜2bで形成される容器6、第三の非多孔性膜2cで形成される容器7、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bの二層構造膜で形成される容器、第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの二層構造膜で形成される容器、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの三層構造膜で形成される容器についても、本発明の効果が奏され得る範囲で、第一の非多孔性膜2aで形成される容器4と同様に、チューブ状やシート状としてもよいし、片面だけを非多孔性膜で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜で構成したりしてもよい。そして、非多孔性膜以外の他の部分は、電子供与体物質3を透過しない金属製やプラスチック製の剛体フレーム等の部材や、電子供与体物質3を透過しない膜等を用いるようにすればよい。
【0063】
以上の構成により、本発明の電子供与体供給装置1は、第三の非多孔性膜2cを生分解する微生物が棲息する水環境に配置(浸漬)することで一定期間経過後に電子供与体物質3が水環境中に徐放され始める。
【0064】
水環境としては、電子供与体物質を必要とする微生物が棲息する水を含む環境全般、例えば、排水(廃水)等の被処理水や地下水の生物学的処理する処理槽、水を多く含む土壌等が挙げられる。尚、本発明の電子供与体装置を水に配置(浸漬)したときに浮いてしまう場合には、錘等を備えて沈めるようにすればよい。ここで、ポリ乳酸やポリグリコール酸といった生分解性プラスチックは、多種多様な微生物によって生分解され得ることから、一般的には微生物が棲息する水環境に配置すれば生分解が起こり得るが、微生物数が少ない環境等においては、微生物を適宜添加してもよい。また、脱窒処理を目的とする場合には、以下に説明する脱窒バイオリアクターとすることが好適である。
【0065】
<脱窒バイオリアクター>
本発明の脱窒バイオリアクターの実施形態の一例を図2(図2A及び図2B)に示す。図2に示す脱窒バイオリアクター10は、本発明の電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2cの周りに、脱窒菌が担持された担体11を配置したものとしている。本実施形態では、脱窒菌が担持された担体11と、担体11の構造的補強を図る不織布からなる袋12と、該不織布の袋10によって補強されている袋状の担体11の内側に形成されるポケット13とからなる脱窒菌担持担体の袋10aのポケット13に本発明の電子供与体供給装置1が収容されるものとしているが、本発明の脱窒バイオリアクターは、このような構造や形体には限定されない。例えば、構造的補強を図るための素材として不織布以外の素材、例えばナイロンネット等を用いてもよいし、不織布を用いずに担体11のみによって袋を形成してもよい。また、担体11は第三の非多孔性膜2c表面に例えば接着等により備えるようにしてもよい。また、担体11は第三の非多孔性膜2cの表面全体に備えるようにしても良いし、一部に備えるようにしてもよい。
【0066】
担体11としては、例えば、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体、さらには吸水性ポリマーを用いることも可能である。吸水性ポリマーとしては、公知のものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を高分子の一部に架橋させた物である。吸水性ポリマーを用いた場合には、上記の高分子ゲルを使用した場合と比べ担体5の保水力、吸水力が高まるため、水分を効率良く吸収し、保水することによって微生物が生存し続けるための好ましい環境を維持し続けることが可能となる。尚、ここに挙げた担体11はあくまでも例示であり、これらに限定されるものではない。例えば、担体11として不織布ないしは不織布を起毛処理したものを用いることもできる。
【0067】
ここで、担体11は、保護材としても機能する。即ち、担体11を備えることにより、第三の非多孔性膜2cを外部衝撃などによる損傷から防ぐことが可能となる。また、担体11を光硬化性樹脂のようにそれ自体強度の高い高分子として筒状、鞘状に形成することで、電子供与体供給装置1の膨らみを防止できるので、コンパクト化を図る上で好ましい。この場合には、脱窒バイオリアクターの厚さを薄くすることができ、処理槽などの閉鎖空間に収めるときの充填密度を高められると共に、外部衝撃からも保護することが可能となる。勿論、担体11とは別に保護材を電子供与体供給装置1に設けるようにしてもよい。
【0068】
担体11に担持される脱窒菌としては、例えば、Paracoccus pantotrophus、Alcaligenes eutrophus、 Alcaligenes. faecalis、Alcaligenes sp.Ab-A-1、Ab-A-2(FERM P-13862、P-13860)、Pseudomonas denitrificans等が挙げられ、これらのうちの少なくとも一種以上を用いればよいが、これらに限定されるものではなく、公知または新規の菌株を適宜使用することができる。尚、上記菌株は淡水において使用できる菌株であるが、海水の脱窒処理を行う場合には、例えばAlcaligenes sp.G-A-2-1(FERM P-13861)等を用いればよい。
【0069】
尚、脱窒菌は自然界に広く常在する菌であるため、あらかじめ担体11に担持させず、自然に増殖し担体11に付着する脱窒菌を利用しても構わない。
【0070】
ここで、脱窒菌は、硝酸イオンを窒素ガスに変換(還元)する通性嫌気性微生物である。したがって、水環境が好気環境下であっても、担体11中の一部の脱窒菌や水環境中の好気性微生物によって酸素が消費されて担体11内部には嫌気環境が形成される。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターは、嫌気性環境下においては勿論のこと、好気性環境下においても機能し得る。
【0071】
本発明の脱窒バイオリアクターを水環境に接触(浸漬)することによって、電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2c(生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜)が担体11に担持された脱窒菌、さらには水環境に棲息している微生物によって生分解される。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターを水環境に接触(浸漬)させてから一定期間が経過すると、電子供与体供給装置1の第二の非多孔性膜2b(親水性の非多孔性膜)が水と接触し、電子供与体物質3が第一の非多孔性膜2a(疎水性または両親媒性の非多孔性膜)と第二の非多孔性膜2b(親水性の非多孔性膜2c)とを介して、第一の非多孔性膜2aの分子透過性能に支配される速度で透過し、担体11中の脱窒菌に供給される。これにより、脱窒菌が活性化されて、脱窒菌の脱窒処理能が発揮され、水環境中の硝酸イオンを窒素ガスに変換することが可能となる。そして、脱窒菌の脱窒処理能を発揮させるタイミングは、電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2cの材質や厚み、さらには担体11に担持させる脱窒菌の菌体密度、水環境中の微生物数により、制御することができる。
【0072】
本発明の脱窒バイオリアクターは、硝酸イオンを窒素ガスに変換して硝酸イオン濃度を低減するためのあらゆる水処理(排水処理等)に利用することができる。また、例えば、以下に説明するように、アンモニアを生物学的に硝化処理するための硝化槽の内部に収容することで、一定期間経過後に硝化と脱窒の両方の処理能を発揮する硝化・脱窒処理槽とすることができる。
【0073】
<硝化・脱窒処理槽>
本発明の硝化・脱窒処理槽の実施形態の一例を図3に示す。図3に示す硝化・脱窒処理槽20は、本発明の脱窒バイオリアクター10を、アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽21の内部に収容したものである。
【0074】
アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽21は、例えば、図3に示すように、筒状の容器22の下端に被処理水の流入部22aを備え、上端に被処理水の流出部22bを備え、容器の内部にはセラミックやガラス、プラスチック等の比表面積が大きい担体23が複数収容されている。この担体には予めアンモニアを硝化処理するための硝化菌が担持されている。但し、硝化槽21の形態は、あくまでも一例であって、この形態には限定されない。例えば、容器22の上端に被処理水の流入部22aを備え、下端に被処理水の流出部22bを備えるようにして、被処理水を、被処理水を容器22の上端から流入させて容器22の下端から排出するようにしてもよい。また、担体23に予め硝化菌を担持させることなく、被処理水を硝化槽に流通させる過程で、被処理水に棲息している硝化菌を徐々に担持するようにしてもよい。
【0075】
硝化菌としては、Nitrosomonas europaea NBRC-14298、Nitrosomonas europaea、Nitrosococcus mobilis、Nitrosospira briensis、Nitrosolobus multiformis、Nitrosovibrio tenuis等のアンモニアを亜硝酸イオンに酸化するアンモニア酸化菌を一種以上、Nitrobacter winogradskyi 、N. hamburgensis等の亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する亜硝酸酸化菌を一種以上用いることができ、これらを併用することが好適であるが、これらに限定されるものではなく、公知または新規の菌株を適宜使用することができる。尚、上記菌株は淡水において使用できる菌株であるが、海水の硝化処理を行う場合には、例えばアンモニア酸化菌としてNitrosomonas marina、Nitrosococcus oceanus等を用いるようにしてもよいし、亜硝酸酸化菌としてNitrospina gracilis、Nitrococcus mobilis、Nitrospira marina等を用いるようにしてもよい。
【0076】
本発明の脱窒バイオリアクター10は、複数の多孔性焼結体23に埋設されるように硝化槽21の内部に収容されているが、硝化槽21の内部に収容されていれば、脱窒バイオリアクターの配置位置は特に限定されない。また、図3では、脱窒バイオリアクター10を一つだけ収容するようにしているが、脱窒バイオリアクター10は複数個収容してもよい。上記の通り、脱窒バイオリアクター10の担体11は、光硬化性樹脂のようにそれ自体強度の高い高分子として筒状、鞘状に形成することで、電子供与体供給装置1の膨らみを防止できるので、硝化槽21に収容する際に脱窒バイオリアクター10の充填密度を高めて、脱窒器能を高めることができる。
【0077】
硝化槽21内に酸素を含む被処理水が流通すると、好気性微生物である硝化菌が機能して被処理水中のアンモニアが硝化処理される。そして、硝化槽21内に収容されている脱窒バイオリアクター10の電子供与体供給装置1の第三の非多孔性膜2cと水が接触すると、第三の非多孔性膜2cが担体11に担持されている脱窒菌、さらには硝化槽21内の他の微生物によって徐々に生分解され、一定期間経過後に第二の非多孔性膜2bと水とが接触して、電子供与体物質3が担体11に担持された脱窒菌に供給され始め、脱窒菌の脱窒処理能が発揮され始める。これにより、硝化槽21が、硝化と脱窒を同時に行う硝化・脱窒処理槽として機能する。尚、硝化槽21内に流通する被処理水に酸素が含まれていても、上記の通り、担体11中の一部の脱窒菌や水環境中の好気性微生物によって酸素が消費されて担体11内部には嫌気環境が形成される。したがって、本発明の脱窒バイオリアクターは、硝化槽21内にて良好に機能し、硝化・脱窒処理槽として機能する。
【0078】
本発明の硝化・脱窒処理槽20は、例えば以下に説明する水棲生物飼育設備の飼育水を生物濾過するための生物濾過槽として使用するのに好適である。
【0079】
<水棲生物飼育設備>
本発明の水棲生物飼育設備の実施形態の一例を図4に示す。図4に示す水棲生物飼育設備30は、閉鎖循環型の水棲生物飼育設備であり、水棲生物を飼育するための飼育水槽31と、飼育水槽31の飼育水を循環させる循環路32が備えられ、循環路32には生物濾過槽33が組み込まれている。飼育水は、例えば循環ポンプ(不図示)により飼育水槽31から生物濾過槽33に送液され、生物濾過槽33を通過した飼育水が再び飼育水槽31に流入する。本実施形態では、この生物濾過槽33として、本発明の硝化・脱窒処理槽20を用いるようにしている。但し、生物濾過槽33の設置形態はこれに限定されるものではなく、閉鎖循環型の水棲生物飼育設備に一般的に用いられる上部フィルター等の形態としてもよい。また、図示省略しているが、飼育水の温度を制御するための温度コントローラー、飼育水をエアレーションするための曝気装置、照明設備等を備えるようにしてもよい。
【0080】
したがって、この水棲生物飼育設備30によると、水棲生物の飼育開始から一定期間が経過し、産卵等によって飼育水槽内の個体数が増加して、飼育水の硝酸イオン濃度が上昇し易くなるタイミングで、電子供与体物質を脱窒菌に与えて脱窒機能を発揮させることができ、電子供与体物質の飼育水への不必要な拡散や、電子供与体物質の無駄な消費を抑えることができる。
【0081】
また、飼育水槽31の飼育水の循環を止め、微生物の乾燥を防ぐために生物濾過槽33に飼育水を満たしておいて、待機状態としている期間は、電子供与体物質3の生物濾過槽33内の飼育水への透過を防ぐことができる。したがって、飼育水の循環を開始するタイミングで、あるいは飼育水の循環を開始してから一定期間が経過した後に、電子供与体物質3の飼育水への供給を開始することができる。したがって、飼育水の循環を止めて待機状態としている期間中に、生物濾過槽33内の飼育水に電子供与体物質3が供給されて蓄積し、飼育水の循環を始めたときに飼育水槽内に電子供与体物質3が高濃度に流入して試験対象である水棲生物の健康を害したり、死滅させたりしてしまうことを確実に防ぐことが可能になる。
【0082】
尚、本発明の水棲生物飼育設備は、飼育水を淡水とする場合は勿論のこと、飼育水を海水や汽水とした場合においても、脱窒菌や硝化菌の選択によって、水棲生物を良好に飼育できることはいうまでもない。
【0083】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0084】
例えば、本発明の電子供与体供給装置1は、電子供与体物質3を導入する手段を備えて、電子供与体物質3を外部から補充可能とするようにしてもよい。これにより、一定期間経過後に電子供与体物質3の水環境への供給が始まった後は、電子供与体物質3を外部から補充し続けて、水環境に電子供与体物質3を供給し続けることができる。例えば、図9に示すように、電子供与体物質3を導入する手段は、容器4の縁の一部に電子供与体物質3を注入する供給部9を設けて、さらに図10に示すようにノズルないしパイプ8を装着する構造でも良いし、容器4と一体となったノズルないしパイプ8のようなものでも良い。尚、図10は、第三の非多孔性膜2cが生分解されて電子供与体物質3が第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bを介して透過する状態を示している。図10に示す微生物への電子供与体供給装置1は、容器4の縁に設けられた供給部9に装着された供給ノズル8あるいは容器4と一体となった供給ノズル8と、電子供与体物質3’を貯留するタンク18とをチューブ17などで連結し、必要に応じて電子供与体物質3’を補充可能としている。この場合、タンク18と容器4とはチューブ17を介して連通されているので、タンク18内に電子供与体物質3を貯蔵しておけば、容器4内の電子供与体物質3が減少してきたときに、電子供与体物質3’をタンク18と容器4の圧力差により補充できる。尚、容器4は供給部9あるいはノズル8を設けているので厳密な意味での密封構造ではないが、供給ノズル8内がタンク18から供給される電子供与体物質3’で満たされている状態では、電子供与体物質3’の液面がシールとなって容器4内は事実上密封状態にある。このため、容器4内の電子供与体物質3が供給部9やノズル8を通って漏れ出ることはない。尚、図9及び図10では、第一の非多孔性膜2aと第二の非多孔性膜2bと第三の非多孔性膜2cの三層構造膜によって容器4を構成するようにしているが、上記の通り、非多孔性膜の被覆形態や容器の構造はこの形態には限定されない。
【0085】
また、本発明の電子供与体供給装置の第三の非多孔性膜2cの周りに、電子供与体物質を必要とする脱窒菌以外の微生物が担持された担体が配置されているバイオリアクターとしてもよい。この場合、当該微生物が担持された担体には、予め当該微生物が担持された担体は勿論のこと、水環境に配置することで当該微生物が担持された(付着した)担体も含まれる。
【実施例】
【0086】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0087】
[参考例]
(参考例1−1)大気中におけるエタノールの透過性の検討
各種非多孔性膜を用いて袋を形成し、その中にエタノールを密封した場合の大気中におけるエタノールの透過量を測定した。
【0088】
以下に示す(1)〜(7)の非多孔性膜により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にエタノール(和光純薬工業製、99.5%)を5mL密封した。
(1)0.03mm厚のPVA膜(商品名:ビニロンフィルム VF−L、クラレ社製)
(2)0.03mm厚のPE膜(ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)
(3)0.05mm厚のPE膜(ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)
(4)0.075mm厚のEVA膜(商品名:農POフィルム、昭和パックス社製)
(5)0.03mm厚のEVOH膜(商品名:エバールフィルム EF−HS、クラレ社製)
(6)0.015mm厚のPLA膜(商品名:テラマック、ユニチカ製 TF−15、二軸延伸処理品)
(7)0.035mm厚のPLA膜(商品名:テラマック、ユニチカ製 TF−35、二軸延伸処理品)
【0089】
上記(1)により作製した袋をサンプルAと呼ぶ。
【0090】
上記(2)により作製した袋をサンプルBと呼ぶ。
【0091】
上記(3)により作製した袋をサンプルDと呼ぶ。
【0092】
サンプルDを上記(1)により形成した袋に密封したものを、サンプルCと呼ぶ。
【0093】
上記(4)により作製した袋をサンプルEと呼ぶ。
【0094】
サンプルEを上記(1)により形成した袋に密封したものを、サンプルFと呼ぶ。
【0095】
上記(5)により作製した袋をサンプルGと呼ぶ。
【0096】
上記(6)により作製した袋をサンプルHと呼ぶ。
【0097】
上記(7)により作製した袋をサンプルIと呼ぶ。
【0098】
ここで、PVA(ポリビニルアルコール)は親水性の非多孔性膜である。PE(ポリエチレン)は疎水性の非多孔性膜である。EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)とEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)は両親媒性の非多孔性膜である。PLA(ポリ乳酸)は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である。
【0099】
尚、使用したEVA膜は酢酸ビニルを12モル%(エチレンが88モル%)とした。また、EVOH膜はビニルアルコールを53モル%(エチレンが47モル%)とした。疎水性の強さはEVOHよりもEVAの方が上である。
【0100】
上記サンプルA〜Iのそれぞれを、シリカゲルを置いて湿度を低下させた30℃の大気中に静置し、経過日数に対して袋の重さを測定することにより袋からのエタノールの透過量を評価した。尚、実験は無菌条件下にて行った。
【0101】
実験結果を図5に示す。図5において、●はサンプルAの実験結果を示し、■はサンプルBの実験結果を示し、□はサンプルCの実験結果を示し、▲はサンプルDの実験結果を示し、◆はサンプルEの実験結果を示し、◇はサンプルFの実験結果を示し、▼はサンプルGの実験結果を示し、○はサンプルHの実験結果を示し、◎はサンプルIの実験結果を示している。
【0102】
非多孔性膜をPVA膜とした場合(●:サンプルA)には、実験開始から7日間経過後に至るまで袋の重量の変動は見られなかった。また、エタノールを密封した袋をPVA膜の袋で密封した場合(□:サンプルC、◇:サンプルF)にも、実験開始から7日間経過後に至るまで袋の重量の変動は見られなかった。さらに、PLA膜によりエタノールを密封した場合(○:サンプルH、◎:サンプルI)も、実験開始から2日間重量の変動が全く見られなかった。
【0103】
一方、非多孔性膜をPE膜(■:サンプルB、▲:サンプルD)、EVA膜(◆:サンプルE)及びEVOH膜(▼:サンプルG)とした場合には袋の重量が徐々に低下していくことが確認された。また、袋の重量の低下速度はPE膜を用いた袋が最も遅く、次に、EVA膜を用いた袋が遅く、EVOH膜を用いた袋が最も速いことがわかった。
【0104】
また、0.03mm厚のPE膜を用いた袋(■:サンプルB)と比較して0.05mm厚のPE膜を用いた袋(▲:サンプルD)の方が袋の重量の低下速度が若干小さくなった。したがって、非多孔性膜の膜厚を薄くすることで、エタノール等の電子供与体物質の透過速度を高めることができることがわかった。
【0105】
以上の結果から、親水性の非多孔性膜であるPVA膜が、大気中におけるエタノールの透過を防ぐことが明らかとなった。
【0106】
また、疎水性の非多孔性膜であるPE膜、両親媒性の非多孔性膜であるEVA膜及びEVOH膜が、大気中においてエタノールの透過を許容し、大気中において徐々にエタノールを透過させることが明らかとなった。
【0107】
さらに、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であるPLA膜が、大気中におけるエタノールの透過を防ぐことも明らかとなった。
【0108】
(参考例1−2)水中におけるエタノールの透過性の検討
参考例1−1において作製したサンプルA、B、C、D、G、H、Iを用いて、水中におけるエタノールの透過量を測定した。
【0109】
具体的には、これらサンプルをそれぞれビーカーに入れた300mLの蒸留水(雑菌によるエタノールの分解を防ぐため、0.02%NaN3を添加)に浸漬し、経過時間に対する蒸留水のTOC濃度を測定して袋からのエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。また、蒸留水の温度は30℃とし、実験中は水を撹拌し続けた。尚、実験は無菌条件下にて行った。
【0110】
結果を図6に示す。図6において、●はサンプルAの実験結果を示し、■はサンプルBの実験結果を示し、□はサンプルCの実験結果を示し、▲はサンプルDの実験結果を示し、▼はサンプルGの実験結果を示し、○はサンプルHの実験結果を示し、◎はサンプルIの実験結果を示している。
【0111】
何れのサンプルを用いた場合においても、エタノールの透過が確認され、それぞれエタノールの透過速度に違いが見られた。
【0112】
即ち、非多孔性膜をPVA膜とした場合(●:サンプルA)とした場合、EVOH膜(▼:サンプルG)とした場合には、サンプルを水に浸漬するとエタノールが一気に放出される傾向が見られた。
【0113】
また、非多孔性膜をPE膜とした場合(■:サンプルB、▲:サンプルD)には、実験開始から7日目までにかけてTOC濃度が徐々に増加している傾向が見られた。しかも、膜厚を厚くすることによって、TOC濃度の増加速度が遅くなる傾向が見られたことから、膜厚を制御することによって、分子透過性能を制御できることが明らかとなった。
【0114】
さらに、非多孔性膜をPLA膜とした場合(○:サンプルH、◎:サンプルI)にも、実験開始から7日目までにかけてTOC濃度が徐々に増加している傾向が見られた。しかも、膜厚を厚くすることによって、TOC濃度の増加速度が遅くなる傾向が見られたことから、膜厚を制御することによって、分子透過性能を制御できることが明らかとなった。
【0115】
また、非多孔性膜をPE膜とした袋をPVA膜で覆った場合(□:サンプルC)と覆わなかった場合(▲:サンプルD)とを比較すると、実験結果がほぼ一致していることが確認された。このことから、PVA膜を水と接触させた場合には、PE膜のエタノール透過性に依存してエタノールが徐々に放出され、PVA膜はエタノールの透過速度に影響をほとんど与えないことが明らかとなった。
【0116】
以上、参考例1−1の大気中におけるエタノール透過試験と参考例1−2の水中におけるエタノール透過試験の結果について考察すると、以下のことがわかった。即ち、PVA膜等の親水性の非多孔性膜については、大気中ではエタノールの透過を防ぐが、水中ではバリア性が低下してエタノールの透過することがわかった。また、EVOH等の両親媒性の非多孔性膜については、大気中においても水中においてもエタノールの透過を許容するが、水中においては、非多孔性膜の親水性部分のバリア性の低下によって大気中よりもエタノールが透過し易くなることがわかった。また、PLA等の生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜については、水中ではエタノールを透過することがわかった。
【0117】
また、以上の結果は、エタノールと分子の性質が類似しているアルコール、特にメタノール及びプロパノール等の低級アルコール全般、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、水素、硫化水素、メタン及びエタン等のガス状物質、さらにはフェノール類、ベンゼン及びトルエン等のように、各種微生物の電子供与体として機能し得る物質についても、同様に当て嵌まるものと考えられた。
【0118】
[実施例]
(実施例1−1)水中におけるエタノールのバリア性の検討
非多孔性膜の積層構造を各種変化させて、水中におけるエタノールのバリア性について検討した。
【0119】
実験には、以下に示す(8)〜(11)の非多孔性膜を用いた。
(8)0.03mm厚のPVA膜(商品名:ビニロンフィルム VF−L、クラレ社製)
(9)0.03mm厚のPE膜(ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)
(10)0.015mm厚のPLA膜(商品名:テラマック、ユニチカ製 TF−15、二軸延伸処理品)
(11)0.015mm厚のPGA膜(商品名:kuredux、クレハ製)
【0120】
上記(9)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にエタノール(和光純薬工業製、99.5%)を5mL密封した。これをサンプルJ(積層構造:PE単層)と呼ぶ。
【0121】
上記(8)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルJを密封した。これをサンプルK(積層構造:PE/PVA積層)と呼ぶ。
【0122】
上記(11)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルJを密封した。これをサンプルL(積層構造:PE/PGA積層)と呼ぶ。
【0123】
上記(11)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルKを密封した。これをサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)と呼ぶ。
【0124】
上記(10)により50mm×50mmの大きさの袋を作製し、袋の中にサンプルKを密封した。これをサンプルN(積層構造:PE/PVA/PLA積層)と呼ぶ。
【0125】
ここで、PVA(ポリビニルアルコール)は親水性の非多孔性膜である。PE(ポリエチレン)は疎水性の非多孔性膜である。PGA(ポリグルコール酸)及びPLA(ポリ乳酸)は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜である。
【0126】
サンプルJ〜Nをそれぞれビーカーに入れた300mLの蒸留水(雑菌によるエタノールの分解を防ぐため、0.02%NaN3を添加)に浸漬し、経過時間に対する蒸留水のTOC濃度を測定して袋からのエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。また、蒸留水の温度は30℃とし、実験中は水を撹拌し続けた。尚、実験は無菌条件下にて行った。
【0127】
結果を図7に示す。図7において、◆はサンプルJの実験結果を示し、■はサンプルKの実験結果を示し、▲はサンプルLの実験結果を示し、□はサンプルMの実験結果を示し、*はサンプルNの実験結果を示している。
【0128】
サンプルJ、K及びLについては、エタノールの透過が確認されたが、サンプルM及びNについては、エタノールの透過が見られなかった。
【0129】
以上の結果から、PGA膜やPLA膜のように、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜によって、水とPVA膜との接触を防いで、エタノールの透過をブロックできることが明らかとなった。
【0130】
(実施例1−2)微生物が存在する水中におけるエタノールのバリア性の検討
実施例1−1で作製したサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)を用いて、微生物が存在する水中におけるエタノールのバリア性の検討を行った。
【0131】
具体的には、以下の方法により実験を行った。
【0132】
微生物として脱窒菌であるParacoccus pantotrophus(JCM−6892、以下、単に脱窒菌と呼ぶ)を使用した。菌体の培養には、JCM Medium List No.22(Nutrient agar No.2)を基本とした液体培地(ペプトン:10g/L、肉汁:10g/L、NaCl:5g/L、pH7.0〜7.2、JCM Medium List No.22から寒天を除いたもの)を用いた。それぞれ30℃で振とう(110rpm)培養後、遠心分離により集菌し、リン酸緩衝液(Na2HPO4・12H2O:9g/L、KH2PO4:1.5g/L、pH7.5)により3回洗浄した。洗浄菌体は、33mg dry wt./mLになるようリン酸緩衝液に懸濁した。
【0133】
次に、光硬化性樹脂PVA−SbQ(SPP−H−13、東洋合成工業製)9mLに対し、前述の菌懸濁液を2mL混合し、菌体を固定化した。菌体と樹脂の混合液は直接不織布に塗布し、メタルハロゲンランプ下で1時間照射することにより不織布の片面にシート状に固定化担体(縦50mm、横50mm、厚さ20mm)を成形した。
【0134】
そして、この固定化担体2つを不織布を外側にして3辺を貼り合わせ、微生物担体の袋を作製した。
【0135】
微生物担体の袋にサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)を収容したものとサンプルXと呼ぶ。
【0136】
また、比較試験として、微生物担体の袋にサンプルJ(積層構造:PE単層)を収容したものをサンプルYと呼ぶ。
【0137】
サンプルXとYをそれぞれビーカーに入れた300mLの硝酸カリウム水溶液(100mg−N/L KNO3)に浸漬し、経過時間に対する硝酸カリウム水溶液の窒素濃度を測定した。脱窒菌にエタノールが供給されることで、脱窒菌が機能し、硝酸イオンが窒素ガスに変換されて硝酸カリウム水溶液の窒素濃度が低下する。したがって、硝酸カリウム水溶液の窒素濃度を測定することで、脱窒菌へのエタノール供給量を間接的に評価することができる。尚、エタノールは脱窒菌に消費されるため、TOC濃度の測定ではエタノールの水環境への供給状況が評価できない。
【0138】
尚、窒素濃度の測定は、イオンクロマトアナライザ(ISC−1500(CS16Aカラム使用)Dionex社製)により行った。また、硝酸カリウム水溶液の温度は30℃とし、実験中は水を攪拌し続けた。
【0139】
結果を図8に示す。図8において、■はサンプルXの実験結果を示し、◆はサンプルYの実験結果を示している。
【0140】
微生物担体の袋にサンプルJ(積層構造:PE単層)を収容したサンプルYを用いた実験においては、実験開始直後から、硝酸カリウム水溶液の窒素濃度の低下が見られた。このことから、サンプルYを使用した場合には、実験開始直後から脱窒菌にエタノールが供給されていることが明らかとなった。
【0141】
これに対し、微生物担体の袋にサンプルM(積層構造:PE/PVA/PGA積層)を収容したサンプルXを用いた実験においては、実験開始後4日目までは硝酸カリウム水溶液の窒素濃度の低下が見られなかった。ところが、7日目〜14日目にかけて、窒素濃度が徐々に低下することが明らかとなった。このことから、サンプルXを使用した場合には、実験開始から一定期間が経過してから脱窒菌へのエタノールの供給が始まることが明らかとなった。即ち、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であるPGA膜でPVA膜を覆うことによって、脱窒菌によりPGA膜が生分解されて一定期間経過後にPVA膜と水との接触が起こり、これによりエタノールがPE膜とPVA膜とを介して透過し始めるものと考えられた。
【0142】
以上の結果から、PE膜等の疎水性の非多孔性膜をPVA膜等の親水性の非多孔性膜で覆い、さらに親水性の非多孔性膜をPGA膜等の生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜で覆うことによって、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜により一定期間はエタノールの透過を防ぎ、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜が生分解されて親水性の非多孔性膜と水との接触が起こることによって、エタノールを水中に供給(透過)できることがわかった。
【0143】
また、親水性の非多孔性膜と水とが接触するまでの時間は、生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜の材質や厚みによって制御し得るものと考えられた。
【0144】
さらに、上記結果は、エタノールと分子の性質が類似しているアルコール、特にメタノール及びプロパノール等の低級アルコール全般、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、水素、硫化水素、メタン及びエタン等のガス状物質、さらにはフェノール類、ベンゼン及びトルエン等のように、各種微生物の電子供与体として機能し得る物質についても、同様に当て嵌まるものと考えられた。
【0145】
また、エタノール等の電子供与体物質と接触する最も内側の非多孔性膜は、疎水性の非多孔性膜だけでなく、エタノール等の電子供与体物質を透過し得る両親媒性の非多孔性膜を用いることもできるものと考えられた。即ち、両親媒性の非多孔性膜の疎水性を高めることによって、水中での分子透過性能を親水性の非多孔性膜よりも低下させて、この膜の分子透過性能に支配される緩やかな速度で電子供与体物質を徐放し得るものと考えられた。
【符号の説明】
【0146】
1 電子供与体供給装置
2a 第一の非多孔性膜
2b 第二の非多孔性膜
2c 第三の非多孔性膜
3 電子供与体物質
4 容器
10 脱窒バイオリアクター
11 担体
20 硝化・脱窒処理槽
21 硝化槽
30 水棲生物飼育設備
33 生物濾過槽
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器内に、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質が収容され、前記電子供与体物質が前記容器の前記第一の非多孔性膜部分から前記第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺に徐放されて前記容器周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置において、前記容器の外側表面の前記第一の非多孔性膜部分が第二の非多孔性膜で被覆され、前記第二の非多孔性膜の前記容器側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜で被覆され、前記第二の非多孔性膜は水と接触したときに前記電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜であり、前記第三の非多孔性膜は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であり、前記第三の非多孔性膜を生分解する微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に前記電子供与体物質が前記水環境中に徐放され始めることを特徴とする電子供与体供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子供与体供給装置の前記第三の非多孔性膜の周りに、脱窒菌が担持された担体が配置されていることを特徴とする脱窒バイオリアクター。
【請求項3】
請求項2に記載の脱窒バイオリアクターを、アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽の内部に収容したことを特徴とする硝化・脱窒処理槽。
【請求項4】
請求項3に記載の硝化・脱窒処理槽を生物濾過槽としたことを特徴とする水棲生物飼育設備。
【請求項5】
微生物のエネルギー源となる電子供与体物質と前記微生物が棲息する水環境とを疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を介して接触させ、前記電子供与体物質を前記第一の非多孔性膜から前記第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記水環境に徐放させて前記水環境中の前記微生物に供給する電子供与体供給方法において、前記第一の非多孔性膜の前記水環境側の面を第二の非多孔性膜で被覆し、前記第二の非多孔性膜の前記水環境側の面を第三の非多孔性膜で被覆し、前記第二の非多孔性膜を水と接触したときに前記電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜とし、前記第三の非多孔性膜を生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜とし、前記第三の非多孔性膜と前記水環境とを接触させることで一定期間経過後に前記電子供与体物質を前記水環境中に徐放させ始めるようにしたことを特徴とする電子供与体供給方法。
【請求項1】
疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器内に、微生物のエネルギー源となる電子供与体物質が収容され、前記電子供与体物質が前記容器の前記第一の非多孔性膜部分から前記第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺に徐放されて前記容器周辺の微生物に供給される電子供与体供給装置において、前記容器の外側表面の前記第一の非多孔性膜部分が第二の非多孔性膜で被覆され、前記第二の非多孔性膜の前記容器側の面とは反対側の面が第三の非多孔性膜で被覆され、前記第二の非多孔性膜は水と接触したときに前記電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜であり、前記第三の非多孔性膜は生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜であり、前記第三の非多孔性膜を生分解する微生物が棲息する水環境に配置することで一定期間経過後に前記電子供与体物質が前記水環境中に徐放され始めることを特徴とする電子供与体供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子供与体供給装置の前記第三の非多孔性膜の周りに、脱窒菌が担持された担体が配置されていることを特徴とする脱窒バイオリアクター。
【請求項3】
請求項2に記載の脱窒バイオリアクターを、アンモニアを生物学的に硝化処理する硝化槽の内部に収容したことを特徴とする硝化・脱窒処理槽。
【請求項4】
請求項3に記載の硝化・脱窒処理槽を生物濾過槽としたことを特徴とする水棲生物飼育設備。
【請求項5】
微生物のエネルギー源となる電子供与体物質と前記微生物が棲息する水環境とを疎水性または両親媒性の第一の非多孔性膜を介して接触させ、前記電子供与体物質を前記第一の非多孔性膜から前記第一の非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記水環境に徐放させて前記水環境中の前記微生物に供給する電子供与体供給方法において、前記第一の非多孔性膜の前記水環境側の面を第二の非多孔性膜で被覆し、前記第二の非多孔性膜の前記水環境側の面を第三の非多孔性膜で被覆し、前記第二の非多孔性膜を水と接触したときに前記電子供与体物質を透過する親水性の非多孔性膜とし、前記第三の非多孔性膜を生分解性と水蒸気不透過性とを併せ持つ非多孔性膜とし、前記第三の非多孔性膜と前記水環境とを接触させることで一定期間経過後に前記電子供与体物質を前記水環境中に徐放させ始めるようにしたことを特徴とする電子供与体供給方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図6】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−143706(P2012−143706A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3959(P2011−3959)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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