説明

電子写真トナー用ポリエステル

【課題】優れた低温定着性と共に、耐ホットオフセット性及び中抜け性に優れた電子写真用トナーを得ることができるポリエステル、該ポリエステルを用いて得られる電子写真トナー用樹脂粒子分散液及び電子写真用トナー、ならびに該樹脂粒子分散液の製造方法を提供すること。
【解決手段】少なくともポリエステルを含む結着樹脂を含有した原料成分を水系媒体中又は溶液中で粒子化する工程を有するトナーの製造に用いられ、アルコール成分と、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸から選ばれる少なくとも一種を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる電子写真トナー用ポリエステルであって、アルキルコハク酸とアルケニルコハク酸との合計量中におけるアルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下である、電子写真トナー用ポリエステル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法などに用いられる電子写真トナー用のポリエステル及び該ポリエステルを含有する電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高画質化の追求から、定着性に優れた小粒径トナーの開発が望まれている。トナー用結着樹脂としては、スチレンアクリル樹脂やポリエステル等が知られているが、耐久性及び定着性に優れることからポリエステルが使用されている。このようなポリエステルとして、特にトナーの定着性の観点から、炭素数10以上のアルキルコハク酸および/又はアルケニルコハク酸をカルボン酸成分として含有するポリエステル等、及びこれを結着樹脂として用いる溶融混練粉砕法によるトナーが開示されている(特許文献1〜3)。しかし、ポリエステルを主体とした結着樹脂を用いた小粒径トナーを溶融混練粉砕法で製造する場合は、粉砕時の粒径制御が困難である。
一方、特許文献4には、低温定着性及び保存性の改善を目的としてアルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸から選ばれるカルボン酸成分を用いて得られた、湿式法で形成されるトナー用のポリエステルに関する発明が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−109825号公報
【特許文献2】特開2000-35695号公報
【特許文献3】特開昭61−126133号公報
【特許文献4】特開2007-248582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献4に開示されるような湿式法で得られたポリエステルを結着樹脂として含有するトナーは、低温定着性及び保存性は改善されるものの、耐ホットオフセット性などには未だ改善の余地が大きかった。
本発明の課題は、優れた低温定着性と共に、耐ホットオフセット性と中抜け性に優れた電子写真用トナーを得ることができるポリエステル、該ポリエステルを用いて得られる電子写真トナー用樹脂粒子分散液及び電子写真用トナー、ならびに該樹脂粒子分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)少なくともポリエステルを含む結着樹脂を含有した原料成分を水系媒体中で粒子化する工程を有するトナーの製造に用いられ、アルコール成分と、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸から選ばれる少なくとも一種を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる電子写真トナー用ポリエステルであって、アルキルコハク酸とアルケニルコハク酸との合計量中におけるアルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下である、電子写真トナー用ポリエステル、
【0006】
(2)下記工程を有する、電子写真トナー用樹脂粒子分散液の製造方法、
工程a−1:アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸から、アルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸を除去して、アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下のアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得る工程
工程b:工程a−1で得られたアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を含有するカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
工程c:工程bで得られたポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分を水系媒体中で分散して樹脂粒子分散液を得る工程
【0007】
(3)下記工程を有する、電子写真トナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
工程a−2:アルキレン化合物と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種とを、(アルキレン化合物)/(マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種)のモル比2.3〜10で反応させて、アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下のアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得る工程
工程b:工程a−2で得られたアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を含有するカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
工程c:工程bで得られたポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分を水系媒体中で分散して樹脂粒子分散液を得る工程
(4)前記(1)の電子写真トナー用ポリエステルを含有する電子写真トナー用樹脂粒子分散液、及び
(5)前記(1)の電子写真トナー用ポリエステルを含有する電子写真用トナー
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子写真トナー用ポリエステル及び該ポリエステルを用いた樹脂粒子分散液により、優れた低温定着性とともに、耐ホットオフセット性と中抜け性に優れた電子写真用トナーを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[電子写真トナー用ポリエステル]
本発明の電子写真トナー用ポリエステルは、少なくともポリエステルを含む結着樹脂を含有した原料成分を水系媒体中で粒子化する工程を有するトナーの製造に用いられ、アルコール成分と、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸から選ばれる少なくとも一種を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られるものであって、アルキルコハク酸とアルケニルコハク酸との合計量中におけるアルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下であるものである。
【0010】
本発明のポリエステルは、原料を水系媒体中で粒子化する工程を有する方法により得られるトナーの該原料として使用することで、得られるトナーの耐熱保存性及び定着性が改善される。このように、トナーの耐熱保存性及び定着性が改善されるのは、カルボン酸成分のモノマーとして、多種類の構造異性体から構成されるアルキルコハク酸及び/またはアルケニルコハク酸を含有することで、エステル結合付近の加水分解に対する立体障害が大きくなり、水系媒体中で粒子化する際に、ポリエステルのエステル結合の加水分解を抑制することができるためポリエステル樹脂の劣化を引き起こすことなく、広い分子量分布をもったポリエステルをトナー中に含有させることができるためと考えられる。水系媒体とは、水を含有している媒体であり、後述する意味と同じであり、好ましい範囲も同じである。
【0011】
立体障害及び定着性を高める観点から、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸から選ばれる少なくとも一種としては、分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルキル基を有するアルキルコハク酸の好ましくは少なくとも2種からなるもの、分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸の好ましくは少なくとも2種からなるもの、又は前記アルキルコハク酸及び前記アルケニルコハク酸の好ましくは各々1種以上からなるものが好ましい。
上記観点から、本発明のトナー用ポリエステルの製造に用いられるカルボン酸成分は、分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルキル基を有するアルキルコハク酸及び分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸からなる群から選ばれる少なくとも2種を含有することが好ましい。
ここで、「種類」は、アルキル基又はアルケニル基に由来するもので、アルキル基又はアルケニル基の炭素数の鎖長が異なるものや構造異性体を含む。尚、本発明においては、上記アルキル基又はアルケニル基に由来するアルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸の各々の構造異性体同士は、別個のアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸として扱うものとする。
【0012】
分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルキル基あるいはアルケニル基としては、具体的には、イソドデセニル基、イソドデシル基等が挙げられる。このような分岐鎖を有する炭素数の異なるアルキル基及び/又はアルケニル基を有するアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を含有するカルボン酸成分を使用することで、得られるポリエステルの耐加水分解性が更に向上し、該ポリエステルを含有するトナーは、例えば、示差走査熱量分析(DSC)におけるガラス転移点付近の吸熱ピークがブロードとなるため、非常に広範囲な定着領域を持つという効果を奏する。
【0013】
立体障害性を高め、トナーの耐熱保存性を向上させる観点から、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸から選ばれる少なくとも一種は、炭素数9〜14の分岐鎖を有するアルキル基に由来するアルキルコハク酸及び/又は炭素数9〜14の分岐鎖を有するアルケニル基に由来するアルケニルコハク酸を好ましくは20種以上、より好ましくは25種以上、さらに好ましくは30種以上含有する。
すなわち、カルボン酸成分も、上記分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルキル基を有するアルキルコハク酸及び分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸からなる群から選ばれる少なくとも好ましくは20種以上、より好ましくは25種以上、さらに好ましくは30種以上含有する。ここでの種類は、前述と同じ意味である。
【0014】
更に、立体障害性を高め、トナーの保存性及び定着性を向上させる観点から、アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸は、アルキレン基を有する化合物(アルキレン化合物)と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種とから得られるものであることが好ましく、アルキレン化合物とマレイン酸とから得られるものであることがより好ましく、該アルキレン化合物としては、炭素数9〜14のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ノルマルブチレン等から得られるもの、例えばこれらのトリマー、テトラマーなどが好ましく用いられる。また、前記アルキレン化合物は、ガスクロマトグラフィー質量分析において、後述の測定条件で、炭素数9〜14のアルキレン化合物に相当するピークを20以上有することが好ましく、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上有する。
【0015】
ガスクロマトグラフィー質量分析において観測されるこれらのピークはアルキレン化合物の構造異性体に由来するものと考えられ、この構造異性体を一定数以上有するアルキレン化合物を原料として製造したアルキルコハク酸やアルケニルコハク酸もまた同様の構造異性体を有していると認められる。この構造異性体を一定数以上有するアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸から得られたポリエステルは、立体障害性が極めて高いために耐加水分解性に優れ、このポリエステルを含有したトナーは、保存性及び定着性がさらに向上する。尚、本発明の目的の観点から、上記構造異性体及びピークの数は多い方が好ましいが、アルキル基又はアルケニル基を構成する炭素数が決まれば、おのずから上限は限定され、100程度であれば充分と考えられる。
【0016】
アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸は、前記公知のアルキレン化合物と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種とを混合し、加熱することで、エン反応を利用することにより得られるが、製造の容易性の観点から、前記公知のアルキレン化合物と、マレイン酸とを混合し、加熱することで、エン反応を利用することにより得られる方法が好ましい。分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルキル基を有するアルキルコハク酸、又は分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸を得るためには、公知の方法がいずれも使用できる。例えば、アルキレン化合物の合成に用いられるアルキレン化合物の原料あるいは触媒の種類の選択や、反応速度、反応時間、反応圧力、溶媒などを調整する方法や、アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸製造時における蒸留条件を調整する方法等がいずれも用いられる(特開昭48−23405号公報、特開昭48−23404号公報、米国特許3374285号明細書等参照)。
【0017】
アルキレン化合物の合成に使用される好適な原料としては、分岐鎖を有するアルキレン化合物であるプロピレン、イソブチレンが挙げられ、構造異性体数を増やす観点から、分子量の小さいプロピレンがより好ましい。
アルキレン化合物の合成に使用される好適な触媒としては、液体リン酸、固体リン酸、タングステン、三フッ化ホウ素錯体等が挙げられる。尚、構造異性体の数の制御容易性の観点から、ランダム重合した後に、蒸留により調整する方法が好ましい。
本発明のポリエステルの原料モノマーであるカルボン酸成分中における、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸の総含有量は、耐加水分解性とトナーの定着性、保存性の観点から、3〜50モル%が好ましく、4〜45モル%がより好ましい。5〜40モル%が更に好ましい。
【0018】
一般に、上記のように、アルキレン化合物と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種とを反応させてアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得る場合、副生成物としてアルキルビスコハク酸やアルケニルビスコハク酸が生成する。
本発明においては、上記アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸の合計量中、アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下であることが必要である。アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量を5%以下とすることで、低温定着性とともに、耐ホットオフセット性等に優れたトナー用のポリエステルを得ることができる。尚、「5%以下」とは、後述する測定方法によるものであり、アルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸は、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸に含有されるものとして数値を求める。
上記観点から、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸の合計量中のアルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量は、3%以下であることが好ましい。該含有量の下限値には特に制限はないが、製造のし易さから0.5重量%程度であり、アルキレン化合物と、マレイン酸及び/またはフマル酸との仕込み比率を調整したエン反応を利用する場合は、反応性の点から、3%程度である。
【0019】
上記アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸の合計量中のアルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量を5%以下に調整する方法としては特に制限はないが、例えば、(1)原料であるアルキレン化合物とマレイン酸、フマル酸等の仕込み比率を調整する方法、(2)アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸から、アルキルビスコハク酸及び/又はアルケニルビスコハク酸を除去する方法等が好ましく挙げられるが、これらの方法は組み合わせて用いることがより好ましい。
【0020】
上記(1)の方法によれば、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸中のアルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸の量は、原料であるアルキレン化合物とマレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種との仕込み比率を調整することで調節することができる。アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸中のアルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸の合計量を5%以下とするには、アルキレン化合物の仕込みモル数/マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種の仕込みモル数の比率を、2.3〜10とすることが好ましく、より好ましくは2.5〜8、更に好ましくは3〜5とする。
【0021】
また、上記(2)の方法によれば、例えば蒸留等によりアルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸を除去することにより、アルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸の含有量の少ないアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得ることができる。蒸留の際、アルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸の含有量を低減し、アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸の分解を防ぐ観点から、蒸留温度は160℃〜220℃が好ましく、180℃〜200℃がさらに好ましい。蒸留温度が160℃以上であれば目的物であるアルケニルコハク酸の蒸留がスムースに行われ、十分な回収率が得られる。また220℃以下であれば、不純物であるビスアルケニルコハク酸の脱炭酸による真空度の減少を引き起こすこともなく、高い収率が得られる。蒸留時の圧力は、回収率の観点から、0.4kPa以下が好ましく、0.133〜0.4kPaがより好ましい。
アルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸の合計量が5%以下であるアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を製造するためには、アルキレン化合物と無水マレイン酸等との仕込み比率を上述のように変更するとともに、更にアルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸を例えば高真空下で蒸留することが好ましい。
【0022】
本発明においては、カルボン酸成分として、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸とともに、これ以外の2価あるいは3価以上のカルボン酸成分を使用することができ、2価のカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、炭素数が1〜7もしくは15以上のアルキル基又は炭素数2〜7もしくは15以上のアルケニル基で置換されたコハク酸等の脂肪族ジカルボン酸;それらの酸の無水物及びそれらの酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。これらの中では、トナーの耐久性、定着性及び着色剤の分散性の観点から、芳香族ジカルボン酸化合物が好ましい。
【0023】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸、及びこれらの酸無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等の誘導体が挙げられる。
上記ジカルボン酸化合物のなかでは、帯電性及び定着性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸が好ましく、また、3価以上の多価カルボン酸化合物のなかでは、安価で、反応制御が容易である観点から、トリメリット酸及びその酸無水物が好ましい。
【0024】
本発明のポリエステルの原料モノマーであるアルコール成分としては、ポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA等のジオール;ソルビトール、ペンタエリスリトール、グリセロール、トリメチロールプロパン等の3価以上の多価アルコール等が挙げられる。これらの中では、帯電性の観点から芳香族系のアルコールであるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物が好ましい。
【0025】
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合は、エステル化触媒の存在下で行うことが好ましい。上記縮重合に好適に用いられるエステル化触媒としては、チタン化合物又はSn−C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は両者を併用して用いることができる。
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
【0026】
チタン化合物の具体例としては、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C37O)2〕、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート〔Ti(C4102N)2(C37O)2〕、チタンジペンチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C511O)2〕、チタンジエチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C25O)2〕、チタンジヒドロキシオクチレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(OHC816O)2〕、チタンジステアレートビストリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)2(C1837O)2〕、チタントリイソプロピレートトリエタノールアミネート〔Ti(C6143N)1(C37O)3〕、チタンモノプロピレートトリス(トリエタノールアミネート)〔Ti(C6143N)3(C37O)1〕等が挙げられ、これらの中ではチタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート、チタンジイソプロピレートビスジエタノールアミネート及びチタンジペンチレートビストリエタノールアミネートが好ましく、これらは、例えばマツモト交商(株)の市販品としても入手可能である。
【0027】
他の好ましいチタン化合物の具体例としては、テトラ−n−ブチルチタネート〔Ti(C49O)4〕、テトラプロピルチタネート〔Ti(C37O)4〕、テトラテアリルチタネート〔Ti(C1837O)4〕、テトラミリスチルチタネート〔Ti(C1429O)4〕、テトラオクチルチタネート〔Ti(C817O)4〕、ジオクチルジヒドロキシオクチルチタネート〔Ti(C817O)2(OHC816O)2〕、ジミリスチルジオクチルチタネート〔Ti(C1429O)2(C817O)2〕等が挙げられ、これらの中ではテトラステアリルチタネート、テトラミリスチルチタネート、テトラオクチルチタネート及びジオクチルジヒドロキシオクチルチタネートが好ましく、これらは、例えばハロゲン化チタンを対応するアルコールと反応させることにより得ることもできるが、ニッソー社等の市販品としても入手可能である。
【0028】
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−O結合を有する錫(II)化合物、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく挙げられ、Sn−O結合を有する錫(II)化合物がより好ましい。
Sn−O結合を有する錫(II)化合物としては、シュウ酸錫(II)、ジ酢酸錫(II)、ジオクタン酸錫(II)、ジラウリル酸錫(II)、ジステアリン酸錫(II)、ジオレイン酸錫(II)等の炭素数2〜28のカルボン酸基を有するカルボン酸錫(II);ジオクチロキシ錫(II)、ジラウロキシ錫(II)、ジステアロキシ錫(II)、ジオレイロキシ錫(II)等の炭素数2〜28のアルコキシ基を有するジアルコキシ錫(II);酸化錫(II);硫酸錫(II)等が、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する化合物としては、塩化錫(II)、臭化錫(II)等のハロゲン化錫(II)等が挙げられ、これらの中では、帯電立ち上がり効果及び触媒能の点から、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでR2は炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるジアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、ジオクタン酸錫(II)、ジステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましく用いられる。
上記チタン化合物及び錫(II)化合物は、その各々について2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
上記エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部が好ましく、0.1〜0.6重量部がより好ましい。
アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合は、例えば、前記エステル化触媒の存在下、不活性ガス雰囲気中にて、180〜250℃の温度で行うことができる。
【0030】
トナーの耐ホットオフセット性、低温定着性の観点から、ポリエステルの軟化点は80℃〜160℃が好ましく、90℃〜150℃がより好ましく、100℃〜140℃がさらに好ましく、110〜135℃がより更に好ましい。
軟化点が80℃以上であれば、耐ホットオフセット性が良好であり、160℃以下では良好な低温定着性が維持される。
ポリエステルのガラス転移点は、定着性及び耐久性の観点から、45〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。軟化点及びガラス転移点は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0031】
ポリエステルの酸価は、トナーの帯電性および耐加水分解性が良好である観点より、1〜40mgKOH/gが好ましく、2〜35mgKOH/gがより好ましく、3〜30mgKOH/gがさらに好ましい。
トナーの耐久性、耐ホットオフセットの観点から、ポリエステルの重量平均分子量は4,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜300,000がより好ましく、30,000〜100,000が更に好ましい。ポリエステルの重量平均分子量は、後述する方法により求められる。
【0032】
本発明のポリエステルは、溶剤への溶解性にも優れたものであり、例えば、ポリエステルの15重量%酢酸エチル溶液の20℃での溶液粘度で、20mPa・s未満のものであることが好ましく、より好ましくは15mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下のものである。上記溶液粘度は、後述の方法により測定できる。
【0033】
また、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されていてもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルを包含する。
【0034】
[電子写真用トナー]
本発明の電子写真用トナーは、上記本発明のポリエステルを含有するものである。すなわち、本発明のポリエステルを結着樹脂として用い、これと必要に応じて着色剤等の添加剤とを含有する原料成分を水系媒体中又は溶液中で粒子化する工程を有する方法により本発明の電子写真トナーが得られる。結着樹脂には本発明のポリエステル以外の他の樹脂が含有されていてもよいが、本発明のポリエステルの含有量は、トナー中40〜100重量%が好ましく、50〜100重量%がより好ましく、60〜100重量%がさらに好ましく、70〜100重量%がさらに好ましい。
本発明のトナーには、更に着色剤、荷電制御剤、離型剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤等の添加剤を、適宜含有することができる。
【0035】
着色剤としては、特に制限はなく公知の着色剤がいずれも挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、デュポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、マラカイトグリーンオクサレート等の種々の顔料やアクリジン系、キサンテン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、チアジン系、チアゾール系等の各種染料を1種又は2種以上を併せて使用することができる。トナー中における着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部が好ましく、1〜10重量部がより好ましい。
【0036】
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、サリチル酸金属錯体等が挙げられる。荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜8重量部が好ましく、0.5〜7重量部がより好ましい。また各種荷電制御剤は1種又は2種以上を併せて使用してもよい。
【0037】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが適宜併用されていてもよい。離型剤の融点は、定着性と耐オフセット性の観点より、60〜140℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0038】
本発明の電子写真用トナーは、本発明のポリエステルを含有するものであれば、その製造方法は特に限定されない。本発明のトナーの製造方法の具体例としては、結着樹脂を含有した原料を有機溶媒中に溶解又は分散させて調製された混合溶液を、水性媒体中に導入して懸濁造粒により微粒子を形成し、この微粒子を凝集する方法;結着樹脂を溶解したラジカル重合性単量体溶液を乳化重合して樹脂微粒子を得、この樹脂微粒子を水系媒体中で融着させる方法(特開2001−42568号公報参照);結着樹脂を含有した原料からなる樹脂加熱溶融体を、結着樹脂の溶融状態を維持しながら、有機溶剤を含まない水性媒体中に分散し、次いで乾燥する方法(特開2001−235904号公報参照)等が挙げられる。すなわち、本発明における粒子化の方法としては、1)樹脂微粒子を形成し、凝集・合一させる方法、2)樹脂微粒子を形成し、融着させる方法、3)結着樹脂を含有する原料を分散させる方法等が挙げられる。
【0039】
本発明の電子写真用トナーは、(1)前記結着樹脂を含有した樹脂粒子を、水系媒体中で生成させる工程、及び(2)該樹脂粒子を凝集、合一させる工程を有する方法により得ることが好ましい。
(樹脂粒子分散液の製造)
本発明は、ポリエステルを含有する電子写真トナー用樹脂粒子分散液に関し、該樹脂粒子分散液は下記の方法(A)又は(B)により得られる。また、上記工程(1)は、下記の方法(A)又は(B)を含むことが好ましい。
【0040】
(A)下記工程を有する、電子写真トナー用樹脂粒子分散液の製造方法、
工程a−1:アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸から、アルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸を除去して、アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下のアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得る工程
工程b:工程a−1で得られたアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を含有するカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
工程c:工程bで得られたポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分を水系媒体中で分散して樹脂粒子分散液を得る工程
【0041】
(B)下記工程を有する、電子写真トナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
工程a−2:アルキレン化合物と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種とを、(アルキレン化合物)/(マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種)のモル比2.3〜10
でエン反応させて、アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下のアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得る工程
工程b:工程a−2で得られたアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を含有するカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
工程c:工程bで得られたポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分を水系媒体中で分散して樹脂粒子分散液を得る工程
【0042】
工程a−1、工程a−2及び工程bの各々については、前述した通りである。
工程cは、工程bで得られたポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分を水系媒体中で分散して樹脂粒子分散化液を得る工程であるが、ポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分には、前述の着色剤、荷電制御剤、離型剤等の添加剤を必要に応じ添加することができる。
【0043】
前記工程(1)において、本発明のポリエステルを含む結着樹脂は、好ましくは、非イオン性界面活性剤と混合することにより、得られる混合物の粘度が低下し、結着樹脂を微粒化させることができる。これは、混合物の粘度の低下が、非イオン性界面活性剤が結着樹脂に相溶し、樹脂の軟化点が見掛け上、低下することによるものである。この現象を利用して、非イオン性界面活性剤が相溶した結着樹脂の見かけ上の軟化点を水の沸点以下に下げることができ、樹脂単独では100℃以上の融点又は軟化点を有する結着樹脂でも、常圧で水を滴下することにより、結着樹脂が水中に分散した分散液を得ることができる。この方法は、少なくとも水と非イオン性界面活性剤があればよいため、有機溶剤に不溶な樹脂にも適用できる他、有機溶剤の回収や作業環境維持のための設備負担が不要であり、また機械的手段を利用する場合に必要とされる特別な装置も不要であるため、経済的に樹脂粒子分散液を製造できるという利点も有する。
【0044】
従って、水系媒体は、水を含有している媒体で、有機溶剤等の溶剤を含有していてもよいが、水を好ましくは50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上含有するものであり、この方法によれば、実質的に有機溶剤を用いることなく水のみを用いても結着樹脂を微粒化させることができる。尚、溶剤を使用する場合には樹脂の溶解性を考慮し、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、酢酸エチルなどが好ましい。
【0045】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルあるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタンエステル類、ポリエチレングルコールモノラウレート、ポリエチレングルコールモノステアレート、ポリエチレングルコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。また、非イオン性界面活性剤にアニオン性界面活性剤やカチオン性界面活性剤を併用してもよい。
【0046】
非イオン性界面活性剤としては、樹脂との相溶性のよいものを選択することが好ましい。安定な結着樹脂の分散液を得るためには、非イオン性界面活性剤のHLBは12〜18であることが好ましく、結着樹脂の種類によっては2種以上の異なるHLBの非イオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。たとえば、親水性が高い樹脂の場合は、HLBが12〜18の非イオン性界面活性剤を少なくとも1種用いればよいが、疎水性の高い樹脂の場合は、HLBの低いもの、例えばHLBが7〜10程度のものと、HLBの高いもの、例えばHLBが14〜20ものを併用して、両者のHLBの加重平均を12〜18に調整することが好ましい。この場合、主としてHLBが7〜10程度のものは樹脂を相溶化させることができ、HLBの高いものは水中での樹脂の分散を安定化させることができると推定される。
【0047】
また、着色剤を使用する場合、非イオン性界面活性剤は、着色剤に吸着し結着樹脂中に分散することが好ましい。非イオン性界面活性剤のHLBを前記範囲に調整することにより、着色剤表面に非イオン性界面活性剤が吸着し易くなると同時に、着色剤は水系媒体中でコロイド分散体として存在するよりも、結着樹脂中で安定に存在するようになり好ましい。
【0048】
非イオン性界面活性剤の曇点は、常圧、水中で結着樹脂を微粒化させる場合には、70〜105℃が好ましく、80〜105℃がより好ましい。
非イオン性界面活性剤の使用量は、結着樹脂の融点を下げる観点から、結着樹脂100重量部に対して、5重量部以上が好ましく、トナーに残存する非イオン性界面活性剤を制御する観点からは、80重量部以下が好ましい。従って、これらを両立させる観点から、非イオン性界面活性剤の使用量は、結着樹脂100重量部に対して、5〜80重量部が好ましく、10〜70重量部がより好ましく、20〜60重量部がさらに好ましい。
【0049】
工程(1)において、結着樹脂を含有した樹脂粒子を、非イオン性界面活性剤の存在下、水系媒体中で生成させる際、系内の温度は、非イオン性界面活性剤の分散能及び分散効率の低下を防止する観点から、非イオン性界面活性剤の曇点から上下にそれぞれ10℃以内、好ましくは8℃以内、より好ましくは5℃以内の温度範囲内に保つことが望ましい。
【0050】
工程(1)では、例えば、結着樹脂及び非イオン性界面活性剤の混合物を攪拌し、系内に均一に混合した状態で、水系媒体(好ましくは、脱イオン水または、蒸留水)を滴下することが好ましい。なお、着色剤を使用する場合には、非イオン性界面活性剤と相溶した着色剤を含む結着樹脂が水と分離しないようにすることが好ましい。
水系媒体の使用量は、続く工程で均一な凝集粒子を得る観点から、結着樹脂100重量部に対して100〜3000重量部が好ましく、400〜3000重量部がより好ましく、800〜3000重量部がさらに好ましい。
【0051】
本発明のポリエステルを含む結着樹脂を含有する樹脂粒子の粒径は、非イオン性界面活性剤の量、攪拌の程度、水の添加速度等により制御することができる。工程(1)において、少なくとも結着樹脂及び非イオン性界面活性剤を含有した混合物に水系媒体を添加する速度は、均一な樹脂粒子を得る観点から、混合物100gあたり0.1〜50g/minが好ましく、0.5〜40g/minがより好ましく、1〜30g/minがさらに好ましい。
なお、結着樹脂がカルボキシル基、スルホン基等の酸性基を有する場合は、結着樹脂の全部もしくは一部を中和した後、又は中和しながら水を添加してもよい。結着樹脂に酸性基を有するものを用いる場合は、非イオン性界面活性剤の因子に加え、樹脂の自己乳化性が樹脂粒子の粒径の制御因子となる。
【0052】
結着樹脂の溶融粘度及び融点の低下、並びに生成する樹脂粒子の分散性の向上を目的として、分散剤を用いることができる。分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム等のアニオン界面活性剤;ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン界面活性剤;ラウリルジメチルアミンオキサイド等の両性界面活性剤;リン酸三カルシウム、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の無機塩が挙げられる。分散剤の使用量は、乳化安定性及び洗浄性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましく、10重量部以下が更に好ましい。
【0053】
樹脂粒子の分散液を調製する系内の固形分濃度は、分散液の安定性と凝集工程での分散液の取扱い性の観点から、7〜50重量%が好ましく、より好ましくは7〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。なお、固形分には、樹脂、非イオン性界面活性剤等の不揮発性成分が含まれる。
樹脂粒子の平均粒径は、続く工程で均一に凝集させる観点から、体積中位粒径(D50)で0.05〜3μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましく、0.05〜0.8μmがさらに好ましい。また、粒度分布の変動係数(CV値)(粒度分布の標準偏差/体積中位粒径(D50)×100)は、中抜け抑制の観点から、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下である。本発明において樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は、レーザー回折型粒径測定機等により測定できる。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0054】
(電子写真トナー)
本発明の電子写真用トナーは、工程(1)で得られた樹脂粒子を凝集及び合一させて得られる(工程(2))。特に、上記電子写真用樹脂粒子分散液の製造方法(A)及び(B)により得られる樹脂粒子分散液を凝集及び合一させて得られるものであることが好ましい。
工程(2)において、樹脂粒子を凝集させる凝集工程における系内の固形分濃度は、結着樹脂の分散液に水を添加して調整することができ、均一な凝集を起こさせるために、5〜50重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましく、5〜20重量%がさらに好ましい。
【0055】
凝集工程における系内のpHは、混合液の分散安定性と、樹脂粒子の凝集性とを両立させる観点から、2〜10が好ましく、2〜9がより好ましく、3〜8が更に好ましい。
同様の観点から、凝集工程における系内の温度は、結着樹脂の軟化点−60℃(軟化点より60℃低い温度、以下同様)以上、軟化点以下が好ましい。
なお、樹脂粒子を凝集させる際には、工程(1)により得られた樹脂粒子のみを凝集させるだけでなく(ホモ凝集)、別途工程(1)と同様にして得られた樹脂微粒子の分散液等を樹脂粒子の分散液と混合し、凝集させてもよい(ヘテロ凝集)。
【0056】
また、着色剤、荷電制御剤等の添加剤は、樹脂粒子を調製する際に結着樹脂に予め混合してもよく、別途各添加剤を水等の分散媒中に分散させた分散液を調製して、樹脂粒子と混合し、凝集工程に供してもよい。樹脂粒子を調製する際に結着樹脂に添加剤を予め混合する場合には、予め結着樹脂と添加剤とを溶融混錬することが好ましい。溶融混練には、オープンロール型二軸混練機を使用することが好ましい。オープンロール型二軸混練機は、2本のロールが並行に近接して配設された混練機であり、各ロールに熱媒体を通すことにより、加熱機能又は冷却機能を付与することができる。従って、オープンロール型二軸混練機は、溶融混練する部分がオープン型であり、また加熱ロールと冷却ロールを備えていることから、従来用いられている二軸押出機と異なり、溶融混練の際に発生する混練熱を容易に放熱することができる。
【0057】
凝集工程においては、凝集を効果的に行うために凝集剤を添加することができる。凝集剤としては、有機系では、4級塩のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等、無機系では、無機金属塩、2価以上の金属錯体等が用いられる。無機金属塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等の金属塩、及びポリ塩化アルミニウム、ポリ水酸化アルミニウム、多硫化カルシウム等の無機金属塩重合体が挙げられる。
【0058】
凝集剤の使用量は、トナーの耐環境特性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。
凝集剤は、水性媒体に溶解させて添加することが好ましく、凝集剤の添加時及び添加終了後は十分攪拌することが好ましい。
【0059】
続いて、前記凝集工程で得られた少なくとも結着樹脂を含有した凝集粒子を加熱して、合一させる(合一工程)。
合一工程における系内の温度は、目的とするトナーの粒径、粒度分布、形状制御、及び粒子の融着性の観点から、結着樹脂の軟化点−30℃以上、軟化点+10℃以下が好ましく、軟化点−25℃以上、軟化点+10℃以下がより好ましく、軟化点−20℃以上、軟化点+10℃以下がさらに好ましい。また、攪拌速度は凝集粒子が沈降しない速度が好ましい。
【0060】
工程(2)により得られた合一粒子を、適宜、ろ過などの固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程に供することにより、トナーを得ることができる。
洗浄工程では、トナーとして十分な帯電特性及び信頼性を確保する目的から、トナー表面の金属イオンを除去するため酸を用いることが好ましい。また、添加した非イオン性界面活性剤も洗浄により完全に除去することが好ましく、非イオン性界面活性剤の曇点以下での水系溶液での洗浄が好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
また、乾燥工程では、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等、任意の方法を採用することができる。トナーの乾燥後の水分含量は、帯電性の観点から、好ましくは1.5重量%以下、さらには1.0重量%以下に調整することが好ましい。
【0061】
高画質化と生産性の観点から、トナーの体積中位粒径(D50)は1〜10μmが好ましく、2〜8μmがより好ましく、3〜7μmがさらに好ましい。
また、トナーの軟化点は、低温定着性の観点から、80〜160℃が好ましく、80〜150℃がより好ましく、90〜140℃がさらに好ましい。また、ガラス転移点は、同様の観点から、45〜80℃が好ましく、50〜70℃がより好ましい。
【0062】
本発明により得られたトナーには、外添剤として流動化剤等の助剤をトナー粒子表面に添加してもよい。外添剤としては、表面を疎水化処理したシリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、カーボンブラック等の無機微粒子やポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シリコーン樹脂等のポリマー微粒子等、公知の微粒子が使用できる。
外添剤の個数平均粒子径は好ましくは4〜200nm、より好ましくは8〜30nmである。外添剤の個数平均粒子径は、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて求められる。
【0063】
外添剤の配合量は、外添剤による処理前のトナー100重量部に対して、0.8〜5.0重量部が好ましく、1.0〜5.0重量部がより好ましく、1.5〜3.5重量部がさらに好ましい。ただし、外添剤として疎水性シリカを用いる場合は、外添剤による処理前のトナー100重量部に対して、疎水性シリカを0.8〜3.5重量部、好ましくは1.0〜3.0重量部用いることで、前記所望の効果が得られる。
本発明の電子写真用トナーは、一成分系現像剤として、又はキャリアと混合して二成分系現像剤として使用することができる。
【実施例】
【0064】
[ポリエステルの酸価]
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更する。
【0065】
[ポリエステルの軟化点及びガラス転移点]
(1)軟化点
フローテスター(島津製作所、CFT−500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出す。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
(2)ガラス転移点
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/minで昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0066】
[ポリエステルの重量平均分子量]
(1)試料溶液の調製
濃度が0.04g/10mlになるように、ポリエステルをTHFに溶解させる。ついで、この溶液をメッシュ0.45μmのフッ素樹脂フィルター[アドバンテック(株)社製、「DISMIC−25JP」]を用いて濾過して不溶成分を除き、試料溶液とする。
(2)分子量測定
下記装置を用いて、THFを毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作製した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレンを標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:HLC−8220 GPC(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0067】
[アルキル無水コハク酸及びアルケニル無水コハク酸中のビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸含有量]
以下の方法により、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりアルキル無水コハク酸及びアルケニル無水コハク酸中のビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸の含有量を測定する。
(1)試料溶液の調製
濃度が0.2g/100mlになるように、アルキル無水コハク酸及びアルケニル無水コハク酸をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させる。ついで、この溶液をメッシュ0.45μmのフッ素樹脂フィルター[アドバンテック(株)社製、「DISMIC−25JP」]を用いて濾過して不溶成分を除き、試料溶液とする。
【0068】
(2)ビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸の測定
下記装置を用いて、THFを毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。
測定装置:HLC−8220 GPC(東ソー社製)
分析カラム:G2000HXL+G1000HXL(東ソー社製)
(3)ビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸量の解析
測定の結果、アルキル無水コハク酸及びアルケニル無水コハク酸は約14.5分にピークトップをもつ山1と、約13.5分にピークトップをもつ山2(ビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸に相当するピーク)が得られた。測定データを10分〜22分の間でベースラインをあわせる。
ベースラインと山1の交点〜山1と山2の間の谷底までの範囲の面積をとる。この範囲を面積Aとする。
山1と山2の間の谷底〜山2の谷底までの範囲の面積をとる。この範囲を面積B(ビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸の合計面積範囲)とする。
下記式に測定結果の値を入れ、アルキル無水コハク酸及びアルケニル無水コハク酸中のビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸の合計含有量を下記式の面積比から算出する。
ビスアルキル無水コハク酸及びビスアルケニル無水コハク酸合計含有量(%)=[面積B/(面積A+面積B)]×100
【0069】
[樹脂溶液粘度]
樹脂1.5gを酢酸エチル8.5gに溶解させ、試料溶液を準備した。東機産業(株)製 低温循環恒温層ビスコメイトVM150IIIを測定部に連結した、東機産業(株)製 粘度計RE−80を用いて溶液粘度測定を行い、下記の基準で評価した。恒温層は20℃に設定し、コーンローターは1°34′×R24を用いた。マイクロピペットにより試料溶液を1.1ml量りとり、測定部に投入した。初期回転数は100rpmに設定し、エラーが出た場合50、20、10、5rpmと順に回転数を落としていき、エラーが出ない回転数で測定を行った。
評価基準
A:溶液粘度が10mPa・s未満
B:溶液粘度が10mPa・s以上15mPa・s未満
C:溶液粘度が15mPa・s以上20mPa・s未満
D:溶液粘度が20mPa・s以上
【0070】
[樹脂粒子分散液中の樹脂粒子の粒径及び粒度分布]
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機(堀場製作所製、LA−920)
(2)測定条件:測定用セルに蒸留水を加え、吸光度を適正範囲になる濃度で体積中位粒径(D50)を測定する。粒度分布は、CV値[(粒度分布の標準偏差/体積中位粒径(D50))×100]で示し、下記の基準で評価した。
「粒度分布評価基準」
A:CV値が30未満
B:CV値が30以上40未満
C:CV値が40以上50未満
D:CV値が50以上
【0071】
[トナーの粒径]
(1)分散液の調製:分散液(エマルゲン109P(花王製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5重量%水溶液)5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液(アイソトンII(ベックマンコールター社製))25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させ分散液を得る。
(2)測定装置:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm 解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
(3)測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子について、体積中位粒径(D50)を求める。
【0072】
[ワックスの融点]
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で測定し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0073】
[質量分析ガスクロマトグラフィーによる分析]
質量分析ガスクロマトグラフ(GC/MS)にCIイオンソースと下記分析カラムを取り付け、立上げを行なう。なお、CI反応ガス(メタン)を流し、MS部の真空排気作業から24時間経過後にチューニングを行なう。
【0074】
(1)GC
ガスクロマトグラフ : Agilent社 HP6890N
分析カラム : HP社製 Ultra1(カラム長50m、内径0.2mm、膜厚0.33μm)
GCオーブン昇温条件: 初期温度 100℃(0min)
第1段階昇温速度 1℃/min(150℃まで)
第2段階昇温速度 10℃/min(300℃まで)
最終温度 300℃(10min)
サンプル注入量 : 1μL
注入口条件 : 注入モード スプリット法
スプリット比 50:1
注入口温度 300℃
キャリアガス : ガス ヘリウム
流量 1ml/min(定流量モード)
【0075】
(2)検出器
質量分析器 : Agilent社製5973N MSD
イオン化法 : 化学イオン化法
反応ガス : イソブタン
温度設定 : 四重極 150℃
イオン源 250℃
検出条件 : スキャン
スキャン範囲 : m/z 75〜300
検出器ON時間 : 5min
キャリブレーション(質量校正および感度調整)
: 反応ガス メタン
キャリブラント PFDTD(ペルフルオロ−5,8―ジメチル-3,6,9−トリオキシドデカン)
チューニング法 オートチューニング
【0076】
(3)試料調製
プロピレンテトラマーをイソプロピルアルコールに溶解し5%とした。
(データ処理法)
C9〜C14の範囲にある各炭素数のアルケン成分について、それぞれ分子イオンに該当する質量数によるマスクロマトグラムを抽出し、S/N(シグナル/ノイズ比)>3の条件下で、成分毎の積分条件に従い積分を実行する。表1〜5の各々に示す検出結果から、特定アルキル鎖長成分の割合を以下の式により計算する。
特定アルキル鎖長成分の割合=[(特定アルキル鎖長の積分値の総和)/(C9〜C14全ての積分値の総和)]×100(%)
【0077】
【表1】

(4)積分条件
【0078】
C9H18
【表2】

【0079】
C10H20
【表3】

【0080】
C11H22、C12H24及びC13H26
【表4】

【0081】
C14H28
【表5】

本発明において、炭素数9〜14に相当するアルキレン化合物とは、ガスクロマトグラフィー質量分析において、分子イオンに対応するピークのことを言う。
【0082】
アルキレン化合物Aの製造
新日本石油株式会社製のプロピレンテトラマー(商品名:ライトテトラマー)を用いて、183〜208℃の加熱条件で分留してアルキレン化合物Aを得た。得られたアルキレン化合物Aは,ガスクロマトグラフィー質量分析において、40個のピークを有していた。またGC/MSより各特定アルキル鎖長の分子量とその分子量のGC/MSで求めた割合を乗じた値を、全てのアルキル鎖長において合計することで平均モル質量を計算した。アルキレン化合物Aの平均モル質量は162.0g/molであった。
【0083】
アルキレン化合物Bの製造
アルキレン化合物Aの製造例の分留条件を171〜175℃に変更した以外は同様にしてアルキレン化合物Bを得た。得られたアルキレン化合物Bはガスクロマトグラフィー質量分析において、25個のピークを有していた。また上記と同様にアルキレン化合物Aの平均モル質量を計算した結果、160.4g/molであった。
【0084】
未精製アルケニル無水コハク酸Aの製造
1Lの日東高圧(株)製オートクレーブにアルキレン化合物A 324.0g、無水マレイン酸98.0g、チェレックス−O 0.25g(堺化学工業(株)製)、ブチルハイドロキノン(以下、BHQと略)0.06gを仕込み、加圧窒素置換(0.2MPa)を3回繰り返した。60℃で撹拌開始後、230℃まで1時間かけて昇温して6時間反応を行った。反応温度到達時の圧力は、0.3MPaGであった。反応終了後、80℃まで冷却し、常圧(101.3kPa)に戻して1Lの4つ口フラスコに移しかえた。180℃まで撹拌しながら昇温し、1.3kPaにて残存アルキレン化合物を1時間で留去した。ひきつづき、室温(25℃)まで冷却後、常圧(101.3kPa)に戻して目的物の未精製のアルケニルコハク酸A(331.5g)を得た。未精製アルケニル無水コハク酸A中のビスアルケニル無水コハク酸含有量を測定したところ、6.29%であった。
【0085】
未精製アルケニル無水コハク酸Bの製造
アルキレン化合物Aを486.0g、無水マレイン酸を98.0g用いた以外は未精製アルケニル無水コハク酸Aと同様にして未精製アルケニルコハク酸Bを得た。未精製アルケニル無水コハク酸B中のビスアルケニル無水コハク酸含有量を測定したところ、4.65%であった。
【0086】
未精製アルケニル無水コハク酸Cの製造
原料として、アルキレン化合物Aに代えてアルキレン化合物Bを用いた。アルキレン化合物Bを561.4g、無水マレイン酸を98.0g用いた以外は、未精製アルケニル無水コハク酸Bの製造と同様にして未精製アルケニル無水コハク酸Cを得た。未精製アルケニル無水コハク酸C中のビスアルケニル無水コハク酸含有量を測定したところ、3.84%であった。
【0087】
未精製無水ドデセニルコハク酸の製造
アルキレン化合物Aに代えて市販のガスクロマトグラフィー質量分析において1個のピークを有する1−ドデセンを用いた。1−ドデセンを504.9g、無水マレイン酸を98.0g用いた以外は、未精製アルケニル無水コハク酸Aの製造と同様にして未精製無水ドデセニルコハク酸を得た。未精製ドデセニル無水コハク酸中のビスドデセニル無水コハク酸含有量を測定したところ、4.53%であった。
【0088】
製造例1(アルケニル無水コハク酸Aの製造)
未精製アルケニル無水コハク酸A 406.1gを、K字菅を装備した1Lのハート型フラスコに入れ、200℃まで撹拌しながら昇温し、0.4kPaまで減圧することで蒸留を行いアルケニル無水コハク酸A 353.3g(収率87%)を得た。アルケニルコハク酸A中のビスアルケニル無水コハク酸含有量を測定したところ、1.24%であった。
【0089】
製造例2(アルケニル無水コハク酸Bの製造)
未精製アルケニル無水コハク酸Bをそのまま用いてアルケニル無水コハク酸Bとした。アルケニル無水コハク酸B中のビスアルケニル無水コハク酸含有量を測定したところ、4.65%であった。
【0090】
製造例3(アルケニル無水コハク酸Cの製造)
未精製アルケニル無水コハク酸Cをそのまま用いてアルケニル無水コハク酸Cとした。アルケニル無水コハク酸C中のビスアルケニル無水コハク酸含有量を測定したところ、3.84%であった。
【0091】
製造例4(アルケニル無水コハク酸Dの製造)
未精製アルケニル無水コハク酸Aをそのまま用いてアルケニル無水コハク酸Dとした。アルケニル無水コハク酸D中のビスアルケニル無水コハク酸含有量を測定したところ、6.29%であった。
【0092】
製造例5(ドデセニル無水コハク酸の製造)
未精製ドデセニル無水コハク酸をそのまま用いてドデセニル無水コハク酸とした。ドデセニル無水コハク酸中のビスドデセニル無水コハク酸含有量を測定したところ、4.53%であった。

以上の製造例1〜5で得られた各アルケニル無水コハク酸又はドデセニル無水コハク酸について、その無水マレイン酸との量比(アルケニル化合物の仕込みモル/無水マレイン酸の仕込みモル)、GC−MSピーク数及びビス無水コハク酸量を表6に示す。
【0093】
【表6】

【0094】
実施例1(ポリエステルAの製造)
表7に示すアルケニル無水コハク酸A、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて6時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸Aを添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度は、JIS規格「環球式軟化点試験法」(環球式自動軟化点試験器25D5−ASP−MG型(株)メイテック製、測定熱媒:グリセリン、昇温速度:5℃/min、温度計:JIS B7410 SP34(高軟化点用)、SP33(低軟化点用)に従い軟化点により追跡を行い、軟化点が所定の温度に達したときに反応を終了し、ポリエステルAを得た。
【0095】
実施例2(ポリエステルBの製造)
表7に示すアルケニル無水コハク酸A、アルケニル無水コハク酸B、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて8時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸A、アルケニル無水コハク酸Bを添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルBを得た。
【0096】
実施例3(ポリエステルCの製造)
表7に示すアルケニル無水コハク酸A、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて10時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸Aを添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルCを得た。
【0097】
実施例4(ポリエステルDの製造)
表7に示すポリオキシプロピレン(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、テレフタル酸、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて8時間反応させ、さらに8kPaにて8時間反応させた。190℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸A、フマル酸、4−t−ブチルカテコールを添加し190℃で1時間、200℃で1時間、210℃で2時間常圧で反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルDを得た。
【0098】
実施例5(ポリエステルEの製造)
表7に示すアルケニル無水コハク酸A、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて8時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸Aを添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルEを得た。
【0099】
実施例6(ポリエステルFの製造)
表7に示すアルケニル無水コハク酸B、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて9時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸Bを添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルFを得た。
【0100】
実施例7(ポリエステルGの製造)
表7に示すアルケニル無水コハク酸C、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて7時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸Cを添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルGを得た。
【0101】
実施例8(ポリエステルHの製造)
表7に示すドデセニル無水コハク酸、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて6時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すドデセニル無水コハク酸を添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルHを得た。
【0102】
比較例1(ポリエステルIの製造)
表7に示すアルケニル無水コハク酸D、無水トリメリット酸を除くポリエステルの原料モノマー、及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した5リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、230℃、常圧(101.3kPa)にて10時間反応させ、さらに8kPaにて1時間反応させた。210℃まで冷却して表7に示すアルケニル無水コハク酸Dを添加し210℃、常圧で3時間反応させたのち8kPaにて1時間反応させた。その後、表7に示す無水トリメリット酸を添加し、反応させた。重合度の追跡は実施例1と同様に反応を行い、ポリエステルIを得た。
【0103】
比較例2(ポリエステルJの製造)
表7に示す原料モノマー、及びエステル化触媒を用いた以外は比較例2と同様に反応を行い、ポリエステルJを得た。

以上のポリエステルA〜Jについて、軟化点、ガラス転移点、酸価、重量平均分子量の値を表7に示す。
【0104】
【表7】

実施例9(樹脂粒子分散液Aの製造)
ポリエステルA 200g及び非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル(EO=9モル付加)、曇点:98℃、HLB:15.3)100gを、5リットル容のステンレス容器中でカイ型の攪拌機で200r/minの攪拌下、170℃で溶融させた。内容物を非イオン性界面活性剤の曇点より3℃低い95℃で安定させ、カイ型の攪拌機で200r/minの攪拌下、中和剤として水酸化カリウム水溶液(濃度:5重量%)86.4gを滴下した。続いて、カイ型の攪拌機で300r/minの攪拌下、脱イオン水を6g/minで滴下し、計1434.3gを添加した。この間、系の温度は95℃に保持し、200メッシュ(目開き:105μm)の金網を通して、微粒化した樹脂を含む樹脂粒子分散液Aを得た。得られた樹脂粒子分散液A中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.37μm、CV値は28.6、固形濃度は12.0重量%、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0105】
実施例10(樹脂粒子分散液Bの製造)
攪拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた5L容の容器にメチルエチルケトン340gを投入し、ポリエステルC 100gとポリエステルD 100gを室温にて添加し、溶解させた。得られた溶液に、トリエチルアミン4.5gを添加して中和し、続いてイオン交換水1153.4gを添加した後、250r/minの攪拌速度で、減圧下、50℃以下の温度でメチルエチルケトンを留去し、自己分散型の水系樹脂粒子分散液B(樹脂含有量:13.6重量%(固形分換算))を得た。得られた樹脂粒子分散液B中の樹脂粒子の重量平均粒径は0.36μm、CV値は29.3であった。
【0106】
実施例11(樹脂粒子分散液Cの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルBを200g、水酸化カリウム水溶液を94.4g用い、脱イオン水を1429.6g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Cを得た。得られた樹脂粒子分散液C中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.24μm、CV値は31.5、固形分濃度は11.6重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0107】
実施例12(樹脂粒子分散液Dの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルC 200g、水酸化カリウム水溶液を94.4g用い、脱イオン水を1429.6g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Dを得た。得られた樹脂粒子分散液D中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.34μm、CV値は32.3、固形分濃度は11.7重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0108】
実施例13(樹脂粒子分散液Eの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルDを200g、水酸化カリウム水溶液を49.2g用い、脱イオン水を1456.0g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Eを得た。得られた樹脂粒子分散液E中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.49μm、CV値は28.9、固形分濃度は12.1重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0109】
実施例14(樹脂粒子分散液Fの製造)
実施例9において、ポリエステル樹脂Aに代えてポリエステル樹脂Eを200g、水酸化カリウム水溶液を44.8g用い、脱イオン水を1458.5g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Fを得た。得られた樹脂粒子分散液F中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.25μm、CV値は27.5、固形分濃度は11.3重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0110】
実施例15(樹脂粒子分散液Gの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルFを200g、水酸化カリウム水溶液を78.0g用い、脱イオン水を1439.2g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Gを得た。得られた樹脂粒子分散液G中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.41μm、CV値は42.3、固形分濃度は12.2重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0111】
実施例16(樹脂粒子分散液Hの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルGを200g、水酸化カリウム水溶液を66.8g用い、脱イオン水を1445.7g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Hを得た。得られた樹脂粒子分散液H中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.31μm、CV値は43.8、固形分濃度は11.4重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0112】
実施例17(樹脂粒子分散液Iの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルHを200g、水酸化カリウム水溶液を98.4g用い、脱イオン水を1427.3g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Iを得た。得られた樹脂粒子分散液I中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.58μm、CV値は45.3、固形分濃度は11.2重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0113】
比較例3(樹脂粒子分散液Jの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルIを200g、水酸化カリウム水溶液を78.0g用い、脱イオン水を1439.2g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Jを得た。得られた樹脂粒子分散液J中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.58μm、CV値は56.3、固形分濃度は11.2重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。
【0114】
比較例4(樹脂粒子分散液Kの製造)
実施例9において、ポリエステルAに代えてポリエステルJを200g、水酸化カリウム水溶液を118.8g用い、脱イオン水を1415.3g添加した以外は同様にして樹脂粒子分散液Kを得た。得られた樹脂粒子分散液K中の樹脂粒子の体積中位粒径(D50)は0.34μm、CV値は60.2、固形分濃度は12.5重量%であり、金網上には樹脂成分は何も残らなかった。

以上の樹脂粒子分散液A〜Kの各々について、溶液粘度及び粒度分布等を表8にまとめて示す。
【0115】
【表8】

【0116】
アルキルビスコハク酸、アルケニルビスコハク酸量が多いポリエステルを用いた場合、得られる樹脂粒子分散液の溶液粘度が高く、粒度分布が広くなる。
【0117】
着色剤分散液Aの製造
2L容のビーカーに銅フタロシアニン ECB−301(大日精化工業社製 固形分46.2重量%)50g、ノニオン性界面活性剤「エマルゲン150(花王製)」5g、脱イオン水507gを投入し、ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、5000rpmで5分間混合した。この混合液をマイクロフルイダイザー M−140K(マイクロフルイディックス社製)を用いて、150MPaで10回分散し着色剤分散液Aを得た。着色剤分散液Aの着色剤分散粒子の体積中位粒径は120nm,CV値は24.3、固形分濃度は5.0重量%であり、粒径が510nm以上の着色剤粒子は認められなかった。
【0118】
着色剤分散液Bの製造
2L容のビーカーにカーボンブラック(キャボット製Mogul L)263g、アニオン性界面活性剤「ネオペレックスG−15(花王製)」ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(固形分:15重量%)233g、脱イオン水589gを投入し、ホモミキサー(特殊機化工業製)を用いて、5000rpmで5分間混合した。この混合液をマイクロフルイダイザー M−140K(マイクロフルイディックス社製)を用いて、150MPaで10回分散し着色剤分散液Bを得た。着色剤分散液Bの着色剤分散粒子の体積中位粒径は130nm,CV値は25、固形分濃度は27.5重量%であり、粒径が510nm以上の着色剤粒子は認められなかった。
【0119】
実施例18(トナーAの製造)
樹脂粒子分散液A 400g(濃度:12.3重量%)、着色剤分散液A 40g及びパラフィンワックス(HNP−9、日本精蝋(株)製、融点:78℃)の水分散液7g(濃度:35重量%、非イオン性界面活性剤:エマルゲン108(花王(株)社製)5重量%、ワックスの分散粒径(体積中位粒径):0.30μm)を1リットル容の容器で室温下混合した。
次に、この混合物に凝集剤として塩化カルシウム1g分の水溶液を加え、炭酸ナトリウム水溶液(濃度:10重量%)でpH=7に調整した後、ホモミキサーを用いて、5000r/minの回転数で室温下1時間攪拌した。その結果、得られた混合分散液を1リットル容のオートクレーブに移し、90℃に加熱して500r/minで6時間攪拌し、凝集粒子を形成させた。
その後、100℃に昇温し、さらに1時間攪拌して、凝集粒子を合一させた後、吸引ろ過工程、洗浄工程及び乾燥工程を経て着色樹脂微粒子粉末を得た。着色樹脂微粒子粉末の体積中位粒径(D50)は6.8μmであった。
得られた着色樹脂微粒子粉末100重量部に対して1.0重量部の疎水性シリカ(TS530、ワッカーケミー社製、個数平均粒子径:8nm)を添加し、ヘンシェルミキサーを用いて混合して外添し、シアントナーAとした。得られたシアントナーAの体積中位粒径(D50)は6.8μmであった。
【0120】
実施例19(トナーBの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液B 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーBを得た。得られたシアントナーBの体積中位粒径(D50)は6.8μmであった。
【0121】
実施例20(トナーCの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液C 100重量部、着色剤分散液Aの代わりに着色剤分散液B 7.3gを使用した以外は、実施例18と同様にしてブラックトナーCを得た。得られたブラックトナーCの体積中位粒径(D50)は6.7μmであった。
【0122】
実施例21(トナーDの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液D 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーDを得た。得られたシアントナーDの体積中位粒径(D50)は6.8μmであった。
【0123】
実施例22(トナーEの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液E 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーEを得た。得られたシアントナーEの体積中位粒径(D50)は6.9μmであった。
【0124】
実施例23(トナーFの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液F 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーFを得た。得られたシアントナーFの体積中位粒径(D50)は6.8μmであった。
【0125】
実施例24(トナーGの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液G 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーGを得た。得られたシアントナーGの体積中位粒径(D50)は6.7μmであった。
【0126】
実施例25(トナーHの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液H 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーHを得た。得られたシアントナーHの体積中位粒径(D50)は6.9μmであった。
【0127】
実施例26(トナーIの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液I 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーIを得た。得られたシアントナーIの体積中位粒径(D50)は6.8μmであった。
【0128】
比較例5(トナーJの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液J 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーJを得た。得られたシアントナーJの体積中位粒径(D50)は6.9μmであった。
比較例6(トナーKの製造)
樹脂粒子分散液Aの代わりに樹脂粒子分散液K 100重量部を使用した以外は、実施例18と同様にしてシアントナーKを得た。得られたシアントナーKの体積中位粒径(D50)は6.8μmであった。

以上得られたトナーA〜Kの各々について、以下の評価を行った。結果を表9に示す。
【0129】
[トナーの耐熱保存性]
20ml容のポリビンにトナー10gを入れ、温度50℃、相対湿度40RH%の環境下に開放状態で48時間保管した。放置後、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)で、凝集度を測定し、保存性を評価した。なお、パウダーテスターを使用した凝集度は次のように求めた。
パウダーテスターの振動台に、3つの異なる目開きのフルイを上段250μm、中段149μm、下段74μmの順でセットし、その上にトナー2gを乗せ振動を行い、各フルイ上に残ったトナー重量を測定する。
測定したトナー重量を次式に当てはめて計算し、凝集度[%]を求める。凝集度が低いものほど良好である。
【0130】
凝集度[%]=a+b+c
a=(上段フルイ残トナー重量)/2 [g]×100
b=(中段フルイ残トナー重量)/2 [g]×100×(3/5)
c=(下段フルイ残トナー重量)/2 [g]×100×(1/5)
評価基準
A:凝集度が10%未満
B:凝集度が10%以上15%未満
C:凝集度が15%以上20%未満
D:凝集度が20%以上
【0131】
〔トナーの最低定着温度と耐ホットオフセット性の評価〕
上質紙(富士ゼロックス社製、J紙A4サイズ)に市販のプリンタ(沖データ製、「ML5400」)を用いて画像を出力し、トナーの紙上の付着量が0.45±0.03mg/cm2となるベタ画像をA4紙の上端から5mmの余白部分を残し、50mmの長さで未定着画像のまま出力した。同プリンタに搭載されている定着器を温度可変に改造し、温度定着速度34枚/分(A4縦方向)で定着した。得られた定着画像の定着性は以下のテープ剥離法によって評価した。
【0132】
メンディングテープ(3M製Scotchメンディングテープ810 幅18mm)を長さ50mmに切り、定着した画像上の上端の余白部分に軽く貼り付けた後、500gのおもりをのせ、速さ10mm/secで1往復押し当てた。その後、貼付したテープを下端側から剥離角度180度、速さ10mm/secで剥がし、テープ貼付前後の反射画像濃度を前記測定方法に従い測定し、これから下記の式で定着率を算出した。
定着率=(テープ剥離後の画像濃度/テープ貼付前の画像濃度)×100
テープ剥離後の画像濃度がテープ貼付前の画像濃度と同じ値になった時を定着率100とし、値が小さくなるにつれ定着性が低いことを示す。定着率が90以上を定着性良好とする。
【0133】
5℃刻みの定着温度の各々で上記試験を行い、コールドオフセットが発生する温度または、定着率90未満となる温度から、ホットオフセットが発生する温度まで実施する。なお、コールドオフセットとは定着温度が低い場合に、未定着画像上のトナーが充分に溶融せずに、定着ローラーにトナーが付着する現象を指し、一方、ホットオフセットとは定着温度を高温にした場合に、未定着画像上のトナーの粘弾性が低下することで、定着ローラーにトナーが付着する現象を指す。コールドオフセットまたはホットオフセットの発生は定着ローラーが一周した際に、再度、紙上にトナーが付着するか否かで判断することができ、本試験ではべた画像上端から87mmの部分にトナー付着があるか否かで判断した。ここで、ホットオフセット発生温度とは、ホットオフセットが発生し始める温度をいい、また、最低定着温度とは、コールドオフセットが発生しないか、あるいは定着率90以上となる温度のうち、その最低温度をいう。
【0134】
[最低定着温度評価基準]
A:最低定着温度が160℃未満
B:最低定着温度が160℃以上、170℃未満
C:最低定着温度が170℃以上、180℃未満
D:最低定着温度が180℃以上
【0135】
[ホットオフセット評価基準]
A:240℃でもホットオフセットは発生しない。
B:220℃以上、240℃以下でホットオフセットが発生する。
C:190℃以上、220℃未満でホットオフセットが発生する。
D:190℃未満でホットオフセットが発生する。
【0136】
[中抜け性]
トナーをMicroLine 5400(沖データ社製)に120g実装し、Xerox J紙に小文字の「i」をTimes New Romanフォントで10pointのサイズで20文字を印字し、iの点の部分をルーペで観察し、中抜け発生の有無を目視で判定した。
A:中抜け発生 0〜4文字
B:中抜け発生 5〜9文字
C:中抜け発生 10〜15文字
D:中抜け発生 16文字以上
【0137】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明のポリエステルは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法などにおいて形成される潜像の現像に用いられる電子写真トナー用の結着樹脂として好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポリエステルを含む結着樹脂を含有した原料成分を水系媒体中で粒子化する工程を有するトナーの製造に用いられ、アルコール成分と、アルキルコハク酸及びアルケニルコハク酸から選ばれる少なくとも一種を含有するカルボン酸成分とを縮重合させて得られる電子写真トナー用ポリエステルであって、アルキルコハク酸とアルケニルコハク酸との合計量中におけるアルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸との合計含有量が5%以下である、電子写真トナー用ポリエステル。
【請求項2】
カルボン酸成分が、分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルキル基を有するアルキルコハク酸及び分岐鎖を有する炭素数9〜14のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸からなる群から選ばれる少なくとも2種を含有する、請求項1記載の電子写真トナー用ポリエステル。
【請求項3】
アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸が、アルキレン化合物と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種とから得られるものであって、前記アルキレン化合物が、ガスクロマトグラフィー質量分析において、炭素数9〜14の範囲内のアルキレン化合物に相当するピークを少なくとも20有する、請求項1又は2に記載の電子写真トナー用ポリエステル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルを含有する電子写真トナー用樹脂粒子分散液。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルを含有する電子写真用トナー。
【請求項6】
下記工程を有する、電子写真トナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
工程a−1:アルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸から、アルキルビスコハク酸及びアルケニルビスコハク酸を除去して、アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下のアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得る工程
工程b:工程a−1で得られたアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を含有するカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
工程c:工程bで得られたポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分を水系媒体中で分散して樹脂粒子分散液を得る工程
【請求項7】
下記工程を有する、電子写真トナー用樹脂粒子分散液の製造方法。
工程a−2:アルキレン化合物と、マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種とを、(アルキレン化合物)/(マレイン酸、フマル酸及びそれらの酸無水物から選ばれる少なくとも一種)のモル比2.3〜10で反応させて、アルキルビスコハク酸とアルケニルビスコハク酸の合計含有量が5%以下のアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を得る工程
工程b:工程a−2で得られたアルキルコハク酸及び/又はアルケニルコハク酸を含有するカルボン酸成分とアルコール成分とを縮重合させてポリエステルを得る工程
工程c:工程bで得られたポリエステルを含む結着樹脂を含有する原料成分を水系媒体中で分散して樹脂粒子分散液を得る工程

【公開番号】特開2009−286871(P2009−286871A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139718(P2008−139718)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】