説明

電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法およびその方法により得られる電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物

【課題】保存中に起こる加水分解を抑制することにより保存安定性が向上した電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】10,000を超える数平均分子量を有するポリ乳酸樹脂を、水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液中で加熱加圧条件下に置いて加水分解して、3,000〜10,000の数平均分子量を有する改質ポリ乳酸樹脂を調製する工程、および前記改質ポリ乳酸樹脂と、前記改質ポリ乳酸樹脂に対して1〜10質量%の加水分解抑制剤とを混練して、ポリ乳酸樹脂組成物を調製する工程を含むことを特徴とする電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法およびその方法により得られる電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トナーの結着樹脂として、従来、スチレン・アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂などの石油由来の樹脂が使用されている。近年、環境への配慮から、廃棄時に環境への負荷の少ない生分解性樹脂、さらには、再生可能資源からつくられるバイオマスプラスチックを、トナー用樹脂として用いる方法が提案されている。なお、有限な資源への配慮と、環境負荷の低減に貢献する、バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックのことをバイオプラスチックと呼ぶ。
【0003】
本発明者らは、バイオプラスチックの分子量を調整し、バイオプラスチックをトナー用のメイン樹脂として使用することを可能にした。具体的には、市販のポリ乳酸をそのまま使用するのではなく、加水分解等により分子量を低減させることで、軟化温度を下げるとともに、粉砕性を改良した樹脂を得ることができ、これによりポリ乳酸をトナー用のメイン樹脂として使用することを可能にした。このようにトナーに適した分子量サイズに低分子量化されたポリ乳酸を改質ポリ乳酸樹脂と呼ぶ。
【0004】
ポリ乳酸は、トナーの結着樹脂として使用される際、粉砕性の観点から、一般に3,000〜10,000の分子量サイズに低分子量化される(たとえば特許文献1を参照)。このように調製された改質ポリ乳酸樹脂は、トナーの結着樹脂として使用されるまで室温で保存される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−66491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、改質ポリ乳酸樹脂は、室温での保存中に更なる加水分解が進行し、トナーの結着樹脂として適さないものになるという問題を新たに見出した。とりわけ温度や湿度が高い保存条件下では、改質ポリ乳酸樹脂の加水分解速度が増大し、この問題は顕著である。
【0007】
そこで、本発明は、保存中に起こる加水分解を抑制することにより保存安定性が向上した電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この製造方法により、保存安定性が向上した電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、3,000〜10,000の数平均分子量を有する改質ポリ乳酸樹脂と、前記改質ポリ乳酸樹脂に対して1〜10質量%の加水分解抑制剤とを混練して、改質ポリ乳酸樹脂組成物を調製する工程を含むことを特徴とする電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0009】
本発明の別の態様は、前述の製造方法により得られることを特徴とする電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保存中に起こる加水分解が抑制され、保存安定性が向上した電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法、および保存安定性が向上した電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の方法に使用される圧力容器の一例を示す図。
【図2】本発明の方法に使用される圧力容器の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明者らは、上記問題を解決すべく研究を行った結果、トナーに適した分子量サイズに低分子量化されたポリ乳酸樹脂(すなわち、改質ポリ乳酸樹脂)とカルボジイミドを混練することにより、改質ポリ乳酸樹脂の保存中に起こる加水分解を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、一実施形態において、本発明の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法は、
3,000〜10,000の数平均分子量を有する改質ポリ乳酸樹脂と、前記改質ポリ乳酸樹脂に対して1〜10質量%の加水分解抑制剤とを混練して、改質ポリ乳酸樹脂組成物を調製する工程
を含むことを特徴とする。
【0015】
本実施形態において、前記改質ポリ乳酸樹脂は、10,000を超える数平均分子量を有するポリ乳酸樹脂を、水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液中で加熱加圧条件下に置いて加水分解して、前記数平均分子量に調製された樹脂であり得る。なお、10,000を超える数平均分子量を有するポリ乳酸樹脂(以下、原料のポリ乳酸樹脂ともいう)は、従来公知の方法により製造されてもよいし、商業的に販売されているポリ乳酸を使用してもよい。本実施形態において、原料のポリ乳酸樹脂は、10,000を超える数平均分子量を有し、一般には70,000〜200,000の数平均分子量を有する。
【0016】
従来公知の方法としては、原料となるとうもろこし等の澱粉を発酵し、乳酸を得た後、乳酸モノマーから直接脱水縮合する方法や乳酸から環状二量体を経て、触媒の存在下で開環重合によって合成する方法がある。乳酸には、光学異性体が存在し、L−乳酸とD−乳酸があるが、これら単独または混合物のいずれの乳酸を使用しても良い。ポリ乳酸の数平均分子量は、重合時の反応条件を可変することで任意に調整することが可能である。
【0017】
商業的に販売されているポリ乳酸は、耐熱性向上等のため、より高分子のポリ乳酸が得られる開環重合法で合成されたものであり、その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。商業的に販売されているポリ乳酸としては、たとえば、海生生物材料社のREVODE110やREVODE101B、またはネイチャーワークス社のNature Worksなどを使用することができる。
【0018】
本実施形態において、原料のポリ乳酸樹脂の加水分解は、原料を水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液中で加熱加圧条件下に置くことにより行うことができる。
【0019】
水は、水道水やイオン交換樹脂などで精製された水など任意の水を使用することができる。pH8〜12のアルカリ性水溶液は、pH8〜12にするために必要な濃度、たとえば、1価のOH基を持つアルカリ物質の場合、1.0x10-2〜1.0x10-6(mol/L)のアルカリ性成分を含有する。アルカリ性成分としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。アルカリ性水溶液を用いた場合、ポリ乳酸樹脂の加水分解により発生する臭気を抑制することができる。
【0020】
水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液は、たとえば、原料のポリ乳酸樹脂に対して50〜100質量%の量で使用することができる。
【0021】
加熱加圧条件は、たとえば、120〜127℃、0.11〜0.16MPaとすることができる。120℃より低いと、加水分解時間がかかり加圧するメリットが小さくなる。また、127℃より高いと、ポリ乳酸樹脂が溶解し得るため好ましくない。加圧条件は、加熱温度における飽和蒸気圧に従って決まる。加水分解は、混合撹拌しながら行われてもよいし、混合撹拌することなく行われてもよい。混合撹拌することにより、反応容器内のポリ乳酸樹脂が全体にわたって循環して、より均一に反応条件を与えることができる。
【0022】
原料のポリ乳酸樹脂の加水分解は、圧力容器を用いて行うことができる。圧力容器は、撹拌機を備えていても備えていなくてもよい。
【0023】
図1は、撹拌機を備えた圧力容器の一例を示す概略図である。図1に示される圧力容器10は、容器本体11と、容器本体11と密閉空間を形成する蓋12と、容器本体11の側面を囲うように配置され、容器内を加熱するための高温高圧蒸気が送り込まれるジャケット部13と、ポリ乳酸樹脂を含む原料を撹拌するための撹拌羽根を有する撹拌機14を備えている。容器本体11には、原料のポリ乳酸樹脂と、水またはアルカリ性水溶液とが収容される。容器内を加熱するため、ボイラー(図示せず)で発生させた高温高圧蒸気が、図示される矢印に従ってジャケット部13に送り込まれる。容器内は、ジャケット部13内の高温高圧蒸気により加熱され、100℃より高い温度に加熱されると飽和蒸気圧曲線に則って内部圧力が上昇し、加熱加圧条件がつくりだされる。かかる加熱加圧条件下で原料のポリ乳酸樹脂は、加水分解される。原料のポリ乳酸樹脂は、撹拌機4により混合撹拌されながら加水分解を受ける。加水分解反応の終了後に容器内の圧力を開放するため、容器本体11は、排気口15を備えている。
【0024】
図2は、撹拌機を備えていない圧力容器の一例を示す概略図である。図2に示される圧力容器20は、オートクレーブの構成を有し、容器内部に水が収容されているため、加熱することにより高温高圧の状態がつくられる。すなわち、図2に示される圧力容器20は、容器本体21と、容器本体21と密閉空間を形成する蓋22と、加熱加圧条件をつくりだすための加熱装置23と、加熱装置23により加熱され高圧水蒸気となるための水24と、サンプルを保持するためのメッシュ容器25と、メッシュ容器25を支持するための支持台26とを備えている。
【0025】
本実施形態では、上記加水分解を適切な時間行うことにより、3,000〜10,000の数平均分子量を有する改質ポリ乳酸樹脂を調製する。数平均分子量が3,000未満の場合や10,000を超える場合のいずれの場合も、粉砕性が劣り、トナー化が困難となる。
【0026】
ポリ乳酸の分子量は、酸価と相関関係があり、ポリ乳酸の分子量が小さくなるにつれ酸価は増大する。したがって、3,000〜10,000の数平均分子量を有する改質ポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸樹脂の酸価を指標として、ポリ乳酸樹脂の酸価が18〜30になるまで加水分解を行うことにより得ることができる。酸価が18より小さいと、トナー化した場合に微粉砕が難しく、酸価が30より大きいと、過粉砕となり粒径制御が難しい。
【0027】
具体的には、加水分解の反応時間は、以下に記載のとおりポリ乳酸樹脂の酸価を指標として決定することができる。
【0028】
原料のポリ乳酸樹脂について(市販のポリ乳酸の場合ロットごとに)、加水分解の反応時間と酸価との関係を示す検量線を事前に作成する。すなわち、原料のポリ乳酸樹脂を、小型オートクレーブ(たとえばアレフ社TR-24S)内で、所定の加熱加圧条件下で、種々の反応時間で加水分解させて、得られたサンプルのそれぞれについて酸価を測定し、反応時間と酸価との関係を示す検量線を作成する。作成された検量線に基づいて、所望の酸価が得られるような反応時間を決定する。決定された反応時間と所定の加熱加圧条件を使用してポリ乳酸を加水分解し、所望の酸価を有する改質ポリ乳酸樹脂を調製することができる。たとえば、後述の実施例に記載のとおり、分子量(Mn)100,000を有する原料のポリ乳酸樹脂を、水酸化ナトリウム水溶液中、127℃、0.16MPaの加熱加圧条件下で、120分の加水分解を行うことにより、酸価24.3、すなわち分子量Mn 6,300を有する改質ポリ乳酸樹脂を調製することができる。
【0029】
ポリ乳酸の酸価の測定の仕方およびポリ乳酸の分子量の測定の仕方については、後述の実施例を参照することができる。
【0030】
本実施形態において、原料のポリ乳酸樹脂は、水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液中でペレット状態にあり、加水分解中も可溶化されることなくその形状は維持され、ペレット状態のまま改質ポリ乳酸樹脂が得られる。
【0031】
上述のとおり所望の分子量サイズに調整された改質ポリ乳酸樹脂は、水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液とふるいなどで分離して、必要に応じて改質ポリ乳酸樹脂を乾燥させた後に、加水分解抑制剤と混練する。
【0032】
加水分解抑制剤としては、ポリ乳酸と反応してポリ乳酸の加水分解を抑制することができる任意のカルボジイミドを使用することができ、脂肪族カルボジイミドまたは芳香族カルボジイミドのいずれも使用することができ、たとえばカルボジライトLA−1(ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、日清紡ケミカル株式会社)、スタバクゾールI(ワン)(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ラインケミー社製)、スタバクゾールI−LF(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ラインケミー社製)、スタバクゾールP(ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ラインケミー社製)、スタバクゾールP−400(ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ラインケミー社製)などを使用することができる。
【0033】
加水分解抑制剤は、改質ポリ乳酸樹脂に対し、1〜10質量%の量で使用することができる。加水分解抑制剤が1質量%未満の場合、改質ポリ乳酸樹脂は保存後に加水分解されやすく、保存安定性の効果を十分に発揮することができない。また、加水分解抑制剤が10質量%を超えると、改質ポリ乳酸樹脂との混練がうまくいかない。
【0034】
改質ポリ乳酸樹脂は、加水分解抑制剤と混練され、本発明のポリ乳酸樹脂組成物となる。混練は、混練機を用いて行うことができる。本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、5以下の酸価を有し、これにより、保存中に起こる加水分解が抑制され、高い保存安定性を有する。その結果、本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、トナーに適した分子量サイズを維持したまま、トナー原料として使用されるまで長期間の保存が可能である。
【実施例】
【0035】
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
【0036】
[1]改質ポリ乳酸樹脂の製造
改質ポリ乳酸樹脂No.1〜No.3
ポリ乳酸樹脂「REVODE110」(海生生物材料社)(分子量Mn 100,000、ペレット状態)およびpH12に調整したアルカリ性水溶液(0.01 mol/l 水酸化ナトリウム水溶液)を、下記表1に記載の量で、撹拌機付きの加圧反応容器60L((株)品川工業所社製、60NQVP改)に投入した。密閉状態で15rpm以下の条件でゆっくり撹拌しながら、127℃まで昇温した。120分の間、127℃、0.16MPaで保持した。その後、大気圧まで圧力を開放して、改質ポリ乳酸樹脂(ペレット状態)を得た。
【0037】
改質ポリ乳酸樹脂No.4〜No.5
ポリ乳酸樹脂として「REVODE110」の代わりに「REVODE101B」(海生生物材料社)(分子量Mn 120,000、ペレット状態)を使用した。「REVODE101B」および水(水道水)を、下記表1に記載の量で、撹拌機付きの加圧反応容器60L((株)品川工業所社製、60NQVP改)に投入した。密閉状態で15rpm以下の条件でゆっくり撹拌しながら、120℃まで昇温した。120分の間、120℃、0.11MPaで保持した。その後、大気圧まで圧力を開放して、改質ポリ乳酸樹脂(ペレット状態)を得た。
【表1】

【0038】
得られた改質ポリ乳酸樹脂No.1〜No.5は、樹脂ペレットとアルカリ性水溶液または水とを分離し、樹脂ペレットから水分を蒸発させることにより最終的に調製した。
【0039】
[2]酸価の測定
本実施例では、以下のとおり酸価測定を行った。
【0040】
酸価(JIS:K−0070に準ずる)の測定方法
試料をビーカーに量り採りテトラヒドロフラン(THF)を加えて試料が完全に溶けるまで振り混ぜた。この溶液に対し、電位差滴定装置(AT−500N:京都電子工業株式会社)を用いて水酸化カリウムエタノール標準液(0.1mol/L)で電位差滴定を行い、下記式(1)により酸価を求めた。
【0041】
酸価=5.611×A×f/B・・・・式(1)
A:滴定に用いた0.1mol/L水酸化カリウムエタノール標準液使用量(ml)
f:0.1mol/L水酸化カリウムエタノール標準液のファクター
B:試料採取量(g)。
【0042】
[1]で調製された改質ポリ乳酸樹脂No.1〜No.5の酸価を表1に示す。改質ポリ乳酸樹脂No.1〜No.5の酸価は、トナー原料として適切な値である18〜30の間にあることが確認された。なお、改質ポリ乳酸樹脂No.1〜No.5の酸価は、原料のポリ乳酸樹脂のロットの違いによりばらつきがみられた。
【0043】
[3]分子量の測定
本実施例では、GPC(島津製作所(株)製)、検出器RIを用いて分子量測定を行った。分子量Mnは、分子量既知のポリスチレン試料によって作成した検量線を標準としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定される数平均分子量である。
【0044】
改質ポリ乳酸樹脂No.1〜No.5の分子量を表1に示す。改質ポリ乳酸樹脂No.1〜No.5の分子量Mnは、トナー原料として適切な値である3,000〜10,000の間にあることが確認された。
【0045】
[4]改質ポリ乳酸樹脂と加水分解抑制剤の混合
[1]で調製された改質ポリ乳酸樹脂を加水分解抑制剤と混合し、二軸押出機PCM−45(池貝(株)製)で混練した。混練機は、温度130℃〜、吐出口160℃に設定した。改質ポリ乳酸樹脂と加水分解抑制剤は、表2および3に記載される質量部で混合、混練した。
【0046】
加水分解抑制剤は、以下のものを使用した。
脂肪族カルボジイミド
カルボジライトLA−1(日清紡ケミカル株式会社)
芳香族カルボジイミド
スタバクゾールI(ワン)(ラインケミー社製)
スタバクゾールP−400(ラインケミー社製)。
【0047】
加水分解抑制剤との混練により、実施例1〜9および比較例1〜5のポリ乳酸樹脂組成物を得た。
【0048】
[5]加速環境下での保存
[4]で得たポリ乳酸樹脂組成物を、加速環境(28℃80%)下で、14日間、PP(ポリプロピレン)袋に密閉して放置した。
【0049】
[6]結果
[4]で得たポリ乳酸樹脂組成物の酸価(KOH mg/g)と[5]で保存後のポリ乳酸樹脂組成物の酸価(KOH mg/g)を、上記手法に従って測定し、以下の表2および3に示す。
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
実施例1〜9は、改質ポリ乳酸樹脂に対して1〜10質量%の量で加水分解抑制剤が混練された例を示す。かかる本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、製造直後に5(KOH mg/g)より小さい酸価を示し、加速環境で保存した後も5(KOH mg/g)より小さい酸価を示した。本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、加速環境で保存した後も低い酸価を維持しており、これは、本発明のポリ乳酸樹脂組成物が、加水分解されにくく、高い保存安定性を有することを示す。
【0052】
これに対し、比較例1は、加水分解抑制剤が添加されなかった例を示す。比較例1のポリ乳酸樹脂は、製造直後に25(KOH mg/g)の酸価を示し、加速環境で2週間保存した後に30(KOH mg/g)を超える酸価を示した。比較例1のポリ乳酸樹脂は、加速環境で1週間の保存後に、既に酸価が30(KOH mg/g)を超えていた。比較例1のポリ乳酸樹脂は、加速環境での保存後にトナー原料として適切な酸価30を超えたため、加水分解されやすく、保存安定性が低いことを示す。
【0053】
比較例2は、加水分解抑制剤として「カルボジライトLA−1」を、改質ポリ乳酸樹脂に対して0.5質量%の量で添加した例を示す。比較例2のポリ乳酸樹脂組成物は、製造直後に5(KOH mg/g)より小さい酸価を示したが、加速環境で保存した後に酸価は20に上昇した。これは、加水分解抑制剤の添加量が少なく、保存安定性の効果を十分に発揮できなかったことを示す。
【0054】
比較例3は、加水分解抑制剤として「スタバクゾールI」を、改質ポリ乳酸樹脂に対して0.5質量%の量で添加した例を示す。比較例3は、改質ポリ乳酸樹脂との混練がうまくいかなかった。
【0055】
比較例4および5は、加水分解抑制剤を、改質ポリ乳酸樹脂に対して15質量%および12.5質量%の量で混練した例を示す。比較例4および5は、加水分解抑制剤の添加量が多く、改質ポリ乳酸樹脂との混練がうまくいかなかった。
【0056】
[7]本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いたトナーの作製
本発明のポリ乳酸樹脂組成物を用いて、以下のとおり、従来と同様の手法に従ってトナーを作製した。
【0057】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物をロートプレックス粗砕機(2〜3mmφメッシュ)で粗砕した。下記配合をヘンシェルミキサーで混合した。
【0058】
結着樹脂:本発明のポリ乳酸樹脂組成物 100 質量部
着色剤:カーボンブラック(CABOT(株)製MOGUL L) 4 質量部
離型剤:カルナウバワックス1号粉末(日本ワックス(株)製) 3 質量部
帯電制御剤:「LR−147」(日本カーリット(株)製) 1 質量部。
【0059】
得られた混合粉体を2軸押出機(スクリュウ径43mm、L/D=34)で溶融混練した後、この溶融混練物を圧延ロールの循環水を10℃に設定して延伸し冷却し、この冷却後の混練物をロートプレックス(ホソカワミクロン(株)製、2mmスクリーン)で粗砕した。その後、衝突式粉砕機(日本ニューマチック工業IDS−2)・風力分級機(日本ニューマチック工業DSX−2)にて、トナー平均粒径が9.0μmになるように粉砕及び分級を行い、微粒子を得た。
【0060】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、問題なくトナー化することができた。
【0061】
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] 3,000〜10,000の数平均分子量を有する改質ポリ乳酸樹脂と、前記改質ポリ乳酸樹脂に対して1〜10質量%の加水分解抑制剤とを混練して、ポリ乳酸樹脂組成物を調製する工程
を含むことを特徴とする電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
[2] 前記加水分解抑制剤が、カルボジイミドであることを特徴とする[1]に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
[3] 前記改質ポリ乳酸樹脂は、10,000を超える数平均分子量を有するポリ乳酸樹脂を、水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液中で加熱加圧条件下に置いて加水分解して、前記数平均分子量に調製された樹脂であることを特徴とする[1]または[2]に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
[4] 前記加水分解を混合撹拌しながら行うことを特徴とする[3]に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
[5] 前記加水分解を、ポリ乳酸樹脂の酸価を指標として、ポリ乳酸樹脂の酸価が18〜30になるまで行うことを特徴とする[3]または[4]に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
[6] [1]〜[5]の何れか1に記載の方法により得られることを特徴とする電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物。
【符号の説明】
【0062】
10、20・・・圧力容器
11、21・・・容器本体
12、22・・・蓋
13・・・ジャケット部
14・・・撹拌機
15・・・排気口
23・・・加熱装置
24・・・水
25・・・メッシュ容器
26・・・支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,000〜10,000の数平均分子量を有する改質ポリ乳酸樹脂と、前記改質ポリ乳酸樹脂に対して1〜10質量%の加水分解抑制剤とを混練して、ポリ乳酸樹脂組成物を調製する工程
を含むことを特徴とする電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記加水分解抑制剤が、カルボジイミドであることを特徴とする請求項1に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記改質ポリ乳酸樹脂は、10,000を超える数平均分子量を有するポリ乳酸樹脂を、水またはpH8〜12のアルカリ性水溶液中で加熱加圧条件下に置いて加水分解して、前記数平均分子量に調製された樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記加水分解を混合撹拌しながら行うことを特徴とする請求項3に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記加水分解を、ポリ乳酸樹脂の酸価を指標として、ポリ乳酸樹脂の酸価が18〜30になるまで行うことを特徴とする請求項3または4に記載の電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の方法により得られることを特徴とする電子写真トナー用ポリ乳酸樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−60490(P2013−60490A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198401(P2011−198401)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000104124)カシオ電子工業株式会社 (601)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】