説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジ、および画像形成装置

【課題】帯電と除電とを繰り返し施しても内部における残留電位の上昇が抑制された電子写真感光体を提供する。
【解決手段】基体と、該基体側から順に、酸素およびガリウムを含む下引層と、感光層と、を有する電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ、および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法は、複写機やプリンター等に幅広く利用されている。
近年、電子写真法を利用した画像形成装置に使用される電子写真感光体において、基体上に下引層と感光層とを形成する技術が検討されている。
【0003】
例えば、無機酸化物および熱硬化性樹脂を主成分とし有機溶剤に溶解または分散した塗工液を用いて電子写真感光体の下引層を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−275871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、下引層に酸素またはガリウムを含有しない場合に比較し、帯電と除電とを繰り返し施しても内部における残留電位の上昇が抑制された電子写真感光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
基体と、該基体側から順に、酸素およびガリウムを含む下引層と、感光層と、を有する電子写真感光体である。
【0007】
請求項2に係る発明は、
前記下引層が更に亜鉛を含む請求項1に記載の電子写真感光体である。
【0008】
請求項3に係る発明は、
請求項1または請求項2に記載の電子写真感光体と、帯電装置、現像装置およびクリーニング装置から選択された少なくとも1つと、を備えたプロセスカートリッジである。
【0009】
請求項4に係る発明は、
請求項1または請求項2に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体を帯電する帯電装置と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に潜像を形成する潜像形成装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成された潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
を備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、下引層に酸素またはガリウムを含有しない場合に比較し、帯電と除電とを繰り返し施しても内部における残留電位の上昇が抑制される。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、下引層に更に亜鉛を含有しない場合に比較し、帯電と除電とを繰り返し施しても内部における残留電位の上昇が抑制される。
【0012】
請求項3に係る発明によれば、酸素またはガリウムを含有しない下引層を備える場合に比較し、帯電と除電とを繰り返し施しても画像欠陥の発生が抑制される。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、酸素またはガリウムを含有しない下引層を備える場合に比較し、帯電と除電とを繰り返し施しても画像欠陥の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の電子写真感光体の層構成の一例を示す模式断面図である。
【図2】本実施形態の電子写真感光体の層構成の別の一例を示す模式断面図である。
【図3】本実施形態の電子写真感光体の保護層の形成に用いる成膜装置の一例を示す概略模式図である。
【図4】本実施形態の電子写真感光体の保護層の形成に用いるプラズマ発生装置の例を示す概略模式図である。
【図5】本実施形態のプロセスカートリッジの基本構成の一例を示す概略構成図である。
【図6】本実施形態の画像形成装置の基本構成の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0016】
<電子写真感光体>
本実施形態に係る電子写真感光体(以下単に「感光体」と称す場合がある)は、基体と、該基体側から順に、酸素およびガリウムを含む下引層と、感光層と、を有することを特徴とする。
【0017】
電子写真感光体に対して帯電工程と除電工程とのサイクルを繰り返して施す場合、除電工程にて電位が除電仕切れず感光体にわずかな残留電位が残った状態で次の帯電工程へ進むことがあった。そのため、上記の帯電工程と除電工程とのサイクルを繰り返す内、感光体の内部で残留電位が上昇していく現象があった。
【0018】
これに対し、酸素およびガリウムを含む下引層を有する本実施形態に係る電子写真感光体であれば、帯電と除電とを繰り返した場合であっても、感光体の内部における残留電位の上昇が抑制される。このメカニズムは必ずしも明確ではないが、基体と感光層との間に介在する下引層が酸素およびガリウムを含有することにより、感光層側からの電子が下引層を介して基体側に効率的に輸送され、基体における電位が良好に除電されるものと推察される。
【0019】
尚、感光体の内部における残留電位の上昇がより抑制されるとの観点から、本実施形態に係る電子写真感光体は、前記下引層に更に亜鉛を含むことが望ましい。
【0020】
(電子写真感光体の構成)
以下、本実施形態の感光体の構成について、図1および図2を参照して説明するが、本実施形態は図1および図2によって限定されることはない。
図1は、本実施形態の感光体の層構成の一例を示す模式断面図である。
図1中、1は基体、2は感光層、2Aは電荷発生層、2Bは電荷輸送層、4は下引層を表す。
図1に示す感光体は、基体1上に、下引層4、電荷発生層2A、電荷輸送層2Bがこの順に積層された層構成を有し、感光層2は電荷発生層2Aおよび電荷輸送層2Bの2層から構成される。
【0021】
図2は、本実施形態の感光体の層構成の他の例を示す模式断面図であり、図2中、6は感光層を表し、他は、図1中に示したものと同様である。
図2に示す感光体は、基体1上に、下引層4、感光層6がこの順に積層された層構成を有し、感光層6は、図1に示す電荷発生層2Aおよび電荷輸送層2Bの機能が一体となった層である。
【0022】
なお、感光層2および感光層6は、有機高分子から形成されたものでもよいし、無機材料から形成されたものでもよいし、それらが組み合わされたものでもよい。
また、図1および図2に示す感光体のいずれにおいても、更に最表面に保護層を有する態様や、基体1と下引層4との間あるいは下引層4と電荷発生層2Aまたは感光層6との間に中間層を有する態様等であってもよい。
【0023】
以下、本実施形態の電子写真感光体の構成層について説明する。
【0024】
〔下引層〕
本実施形態における下引層は、前述のとおり、酸素(O)およびガリウム(Ga)を含有する層であり、基体と感光層との間に設けられる層である。
【0025】
上記下引層における酸素とガリウムとの原子数比〔酸素/ガリウム〕は1.0以上1.6以下であることが望ましい。また、下引層におけるガリウムの含有率は、下引層に更に亜鉛(Zn)を含有する場合および亜鉛を含有しない場合の何れにおいても、30原子%以上40原子%以下であることが望ましい。
【0026】
また、下引層においては、更に亜鉛(Zn)を含有することが望ましい。
下引層において亜鉛を含有する場合の含有量は、0.001原子%以上0.18原子%以下であることが望ましく、0.001原子%以上0.15原子%以下であることがより望ましく、0.001原子%以上0.13原子%以下であることが特に望ましい。尚、下引層における亜鉛の含有量とは、下引層がガリウムと酸素と亜鉛とからなる場合には、これらの合計の原子数に対する亜鉛の原子数の割合(%)である。
【0027】
また、下引層における酸素とガリウムと亜鉛との原子数比〔酸素/(ガリウム+亜鉛)〕は、1.0以上1.4以下であることが望ましい。
更に、下引層における亜鉛とガリウムとの原子数比〔亜鉛/ガリウム〕は、0.6以下であることが望ましく、0.001以上0.55以下であることがより望ましく、0.001以上0.5以下であることが特に望ましい。
【0028】
尚、下引層全体中における各元素の含有量については、二次電子質量分析法やXPS(X線光電子分光法)にて測定される。
【0029】
本実施形態における下引層は、酸素(O)およびガリウム(Ga)を含有する、微結晶膜、多結晶膜、非晶質膜などの非単結晶膜であることが望ましい。
これらの中で非晶質は特に望ましく、また微結晶膜もより望ましい。
さらに、下引層の成長断面は柱状構造をとっていてもよいが、非晶質が望ましい。
【0030】
下引層中には、さらに導電型の制御のために、例えば、n型の場合、C、Si、Ge、Snから選ばれる1つ以上の元素を含んでいてもよい。また例えば、p型の場合、N、Be、Mg、Ca、Srから選ばれる1つ以上の元素を含んでいてもよい。
【0031】
また、前記下引層は、酸素(O)およびガリウム(Ga)以外に、水素およびハロゲン元素の少なくとも1種を含むことが望ましい。水素やハロゲン元素は、結晶内の結合欠陥や結晶粒界の欠陥などに取り込まれ、電気的な補償を行う。
下引層中における「水素およびハロゲン元素の少なくとも1種」の含有量は、5原子%以上25原子%以下であることが望ましく、10原子%以上25原子%以下であることがより望ましい。
【0032】
下引層中における水素の含有量は、例えば、ハイドロジェンフォワードスキャタリング(HFS)により絶対値を測定することによって求められる。また、赤外吸収スペクトルによって推定してもよい。
HFSは、加速器としてNEC社の3SDH Pelletronを用い、エンドステーションとしてCE&A社のRBS−400を用い、システムとしてCE&A社の3S−R10を用いる。
解析にはCE&A社のHYPRAプログラムを用いる。
【0033】
HFSの測定条件は、以下の通りである。
He++イオンビームエネルギー:2.275eV
検出角度160°入射ビームに対してGrazing Angle30°である。
【0034】
HFS測定は、He++イオンビームに対して検出器が30°に、試料が法線から75°になるようセットすることにより、試料の前方に散乱する水素のシグナルを拾う。この時検出器をアルミ箔で覆い、水素とともに散乱するHe原子を取り除くことがよい。定量は参照用試料と被測定試料との水素のカウントを阻止能で規格化した後に比較することによっておこなう。参照用試料としてSi中にHをイオン注入した試料と白雲母を使用する。
白雲母は水素濃度が6.5原子%であることが知られている。
最表面に吸着しているHは、例えば、清浄なSi表面に吸着しているH量を差し引くことによって補正を行う。
【0035】
・下引層の形成方法
次に、前述した下引層の形成方法について説明する。
下引層の形成には、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法、有機金属気相成長法、分子線エキタピシー法、蒸着、スパッタリング等の公知の気相成膜法が利用される。
【0036】
図3は、本実施形態の電子写真感光体の下引層の形成に用いる成膜装置の一例を示す概略模式図であり、図3(A)は、成膜装置を側面から見た場合の模式断面図を表し、図3(B)は、図3(A)に示す成膜装置のA1−A2間における模式断面図を表す。図3中、10は成膜室、11は排気口、12は基体回転部、13は基体支持部材、14は基体、15はガス導入管、16はガス導入管15から導入したガスを噴射する開口を有するシャワーノズル、17はプラズマ拡散部、18は高周波電力供給部、19は平板電極、20はガス導入管、21は高周波放電管部である。
【0037】
図3に示す成膜装置において、成膜室10の一端には、不図示の真空排気装置に接続された排気口11が設けられており、成膜室10の排気口11が設けられた側と反対側に、高周波電力供給部18、平板電極19および高周波放電管部21からなるプラズマ発生装置が設けられている。
このプラズマ発生装置は、高周波放電管部21と、高周波放電管部21内に配置され、放電面が排気口11側に設けられた平板電極19と、高周波放電管部21外に配置され、平板電極19の放電面と反対側の面に接続された高周波電力供給部18とから構成されたものである。なお、高周波放電管部21には、高周波放電管部21内にガスを供給するためのガス導入管20が接続されており、このガス導入管20のもう一方の端は、不図示の第1のガス供給源に接続されている。
【0038】
なお、図3に示す成膜装置に設けられたプラズマ発生装置の代わりに、図4に示すプラズマ発生装置を用いてもよい。図4は、図3に示す成膜装置において利用されるプラズマ発生装置の他の例を示す概略模式図であり、プラズマ発生装置の側面図である。図4中、22が高周波コイル、23が石英管を表し、20は、図3中に示すものと同様である。このプラズマ発生装置は、石英管23と、石英管23の外周面沿って設けられた高周波コイル22とからなり、石英管23の一方の端は成膜室10(図4中、不図示)と接続されている。また、石英管23のもう一方の端には、石英管23内にガスを導入するためのガス導入管20が接続されている。
【0039】
図3において、平板電極19の放電面側には、放電面と略平行な棒状のシャワーノズル16が接続されており、シャワーノズル16の一端は、ガス導入管15と接続されており、このガス導入管15は成膜室10外に設けられた不図示の第2のガス供給源と接続されている。
また、成膜室10内には、基体回転部12が設けられており、円筒状の基体14が、シャワーノズルの長手方向と基体14の軸方向とが略平行に対面するよう基体支持部材13を介して基体回転部12に取りつけられる構成となっている。成膜に際しては、基体回転部12が回転することによって、基体14が周方向に回転する。なお、本実施形態においては該基体14として、例えば、基体、中間層が設けられた基体等が用いられる。
【0040】
下引層の形成は、例えば、以下のごとく実施する。
まず、酸素ガス(または、ヘリウム(He)希釈酸素ガス)、ヘリウム(He)ガス、および必要に応じ水素(H)ガスを、ガス導入管20から高周波放電管部21内に導入すると共に、高周波電力供給部18から平板電極19に、13.56MHzのラジオ波を供給する。この際、平板電極19の放電面側から排気口11側へと放射状に広がるようプラズマ拡散部17が形成される。ここで、ガス導入管20から導入されたガスは成膜室10を平板電極19側から排気口11側へと流れる。平板電極19は電極の周りをアースシールドで囲んだものでもよい。
次に、トリメチルガリウムガスをガス導入管15、活性化手段である平板電極19の下流側に位置するシャワーノズル16を介して成膜室10に導入することによって、基体14表面にガリウムと酸素とを含む非単結晶膜を成膜する。
また、下引層として、亜鉛を含む形態の下引層を成膜する際には、ガス導入管15から導入するガスとして、例えば、トリメチルガリウムガスと有機亜鉛(例えば、ジメチル亜鉛またはジエチル亜鉛)ガスとを用いる。このとき、トリメチルガリウムと、有機亜鉛と、は別々の容器から気体としてガス導入管15に導入する。
【0041】
下引層の成膜時の基体14表面の温度は、例えば30℃以上350℃以下とされる。
基体14表面の温度は加熱および/または冷却手段(図中、不図示)によって制御してもよいし、放電時の自然な温度の上昇に任せてもよい。基体14を加熱する場合にはヒータを基体14の外側や内側に設置してもよい。基体14を冷却する場合には基体14の内側に冷却用の気体または液体を循環させてもよい。
放電による基体14表面の温度の上昇を避けたい場合には、基体14表面に当たる高エネルギーの気体流を調節することが効果的である。この場合、ガス流量や放電出力、圧力などの条件を調整する。
【0042】
また、トリメチルガリウムガスの代わりにアルミニウムを含む有機金属化合物やジボラン等の水素化物を用いてもよく、これらを2種類以上混合してもよい。
例えば、下引層の形成の初期において、トリメチルインジウムをガス導入管15、シャワーノズル16を介して成膜室10内に導入することにより、基体14上に窒素とインジウムとを含む膜が成膜される。
【0043】
また、下引層には、その導電型を制御するためにドーパントを添加してもよい。
成膜時におけるドーパントのドーピングの方法としては、n型用としてはSiH,SnHを、p型用としては、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、ジメチルカルシウム、ジメチルストロンチウム、などをガス状態で使用する。また、ドーパント元素を下引層中にドーピングするには、熱拡散法、イオン注入法等の公知の方法を採用してもよい。
具体的には、例えば、少なくとも一つ以上のドーパント元素を含むガスをガス導入管15、シャワーノズル16を介して成膜室10内に導入することによって、n型、p型等の導電型の下引層を得る。
【0044】
図3および図4を用いて説明した成膜装置では、放電エネルギーにより形成される活性窒素または活性水素を、活性装置を複数設けて独立に制御してもよいし、NHなど、窒素原子と水素原子を含むガスを用いてもよい。さらにHを加えてもよい。また、有機金属化合物から活性水素が遊離生成する条件を用いてもよい。
こうすることで、基体14表面上には、活性化された、炭素原子、ガリウム原子、窒素原子、水素原子、等が制御された状態で存在し、三次元的な結合を構成する硬質膜(下引層)が形成される。
【0045】
図3および図4に示す成膜装置のプラズマ発生手段は、高周波発振装置を用いたものであるが、これに限定されるものではなく、例えば、マイクロ波発振装置を用いたり、エレクトロサイクロトロン共鳴方式やヘリコンプラズマ方式の装置を用いてもよい。また、高周波発振装置の場合は、誘導型でも容量型でもよい。
さらに、これらの装置を2種類以上組み合わせて用いてもよく、あるいは、同種の装置を2つ以上用いてもよい。プラズマの照射によって基体14表面の温度上昇を抑制するためには高周波発振装置が望ましいが、熱の照射を防止する装置を設けてもよい。
【0046】
2種類以上の異なるプラズマ発生装置(プラズマ発生手段)を用いる場合には、同じ圧力で共に放電が生起されるよう制御することが望ましい。また、放電する領域と、成膜する領域(基体が設置された部分)とに圧力差を設けてもよい。これらの装置は、成膜装置内をガスが導入される部分から排出される部分へと形成されるガス流に対して直列に配置してもよいし、いずれの装置も基体の成膜面に対向するよう配置してもよい。
【0047】
例えば、2種類のプラズマ発生手段をガス流に対して直列に設置する場合、図3に示す成膜装置を例に上げれば、シャワーノズル16を電極として成膜室10内に放電を起こさせる第2のプラズマ発生装置として利用される。この場合、例えば、ガス導入管15を介して、シャワーノズル16に高周波電圧を印加して、シャワーノズル16を電極として成膜室10内に放電を起こさせる。あるいは、シャワーノズル16を電極として利用する代わりに、成膜室10内の基体14と平板電極19との間に円筒状の電極を設けて、この円筒状電極を利用して、成膜室10内に放電を起こさせる。
また、異なる2種類のプラズマ発生装置を同一の圧力下で利用する場合、例えば、マイクロ波発振装置と高周波発振装置とを用いる場合、励起種の励起エネルギーが大きく変えられ、膜質の制御に有効である。また、放電は大気圧近傍(70000Pa以上110000Pa以下)で行ってもよい。大気圧近傍で放電を行う場合にはキャリアガスとしてHeを使用することが望ましい。
【0048】
なお、下引層の形成に際しては、上述した方法以外にも、通常の有機金属気相成長法や分子線エピタキシー法が使用されるが、これらの方法による成膜に際しても、活性窒素および/または活性水素、活性酸素を使用することは低温化に有効である。この場合、窒素原料としてはN,NH,NF,N、メチルヒドラジンなどの気体、液体を気化したり、あるいは、キャリアガスでバブリングしたものが利用される。酸素原料としては酸素、HO,CO,CO,NO,NOなどが使用される。
【0049】
本実施形態における下引層の形成は、例えば、成膜室10に基体14として基体を設置し、各々組成の異なる混合ガスを導入して、下引層を形成する。
【0050】
また、成膜条件としては、例えば高周波放電により放電する場合、低温で良質な成膜を行うには、周波数として10kHz以上50MHz以下の範囲とすることが望ましい。また、出力は基体の大きさに依存するが、基体の表面積に対して0.01W/cm以上0.2W/cm以下の範囲とすることが望ましい。基体の回転速度は0.1rpm以上500rpm以下の範囲が望ましい。
【0051】
〔基体および感光層〕
感光層は、本実施形態の電子写真感光体において、下引層上に設けられる層である。
本実施形態の電子写真感光体は、その層構成が、基体上に下引層と感光層とがこの順に積層されたものであれば特に限定されず、基体と下引層との間あるいは下引層と感光層との間に必要に応じて中間層等を設けてもよい。また、感光層は、2層以上であってもよく、更に、機能分離型であってもよい。さらに、本実施形態の電子写真感光体は、感光層がシリコン原子を含むいわゆるアモルファスシリコン感光体であってもよい。
【0052】
まず、本実施形態の電子写真感光体が、有機感光体である場合の望ましい構成について、その概要を説明する。
感光層を形成する有機高分子化合物は熱可塑性であっても熱硬化性のものであっても、また2種類の分子を反応させて形成するものでもよい。
【0053】
有機感光体の場合には、感光層は、図1に示すごとく電荷発生層と電荷輸送層に分かれた機能分離型でもよいし、図2に示すごとく機能一体型であってもよい。機能分離型の場合には感光体の表面側に電荷発生層を設けたものでもよいし、表面側に電荷輸送層を設けたものでもよい。
【0054】
次に、本実施形態の電子写真感光体がアモルファスシリコン感光体である場合の望ましい構成について、その概要を説明する。
アモルファスシリコン感光体は、正帯電用でも負帯電用の感光体でもよい。
例えば、基体上に、下引層と、光導電層と、電荷注入阻止表面層と、をこの順に設けたものが使用される。
【0055】
また、感光層の最上層としては、例えば、p型アモルファスシリコン層、n型アモルファスシリコン層、Si1−X:H層、Si1−X:H層、Si1−X:H層、アモルファスカーボン層、などが用いられる。
【0056】
次に、本実施形態の電子写真感光体を構成する基体および感光層の詳細について、電子写真感光体が機能分離型の感光層を有する有機感光体である場合について説明する。
【0057】
・基体
基体としては、導電性基体が用いられる。
なお、本明細書中において「導電性」とは、体積抵抗率が1013Ω・cm未満である性質を指し、「絶縁性」とは、体積抵抗率が1013Ω・cm以上である性質を指す。
導電性基体としては、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、亜鉛、ニッケル等の金属ドラム;シート、紙、プラスチック、ガラス等の基体上にアルミニウム、銅、金、銀、白金、パラジウム、チタン、ニッケル−クロム、ステンレス鋼、銅−インジウム等の金属を蒸着したもの;酸化インジウム、酸化スズ等の導電性金属化合物を上記基体に蒸着したもの;金属箔を上記基体にラミネートしたもの;カーボンブラック、酸化インジウム、酸化スズ−酸化アンチモン粉、金属粉、ヨウ化銅等を結着樹脂に分散し、上記基体に塗布することによって導電処理したもの等が挙げられる。また、基体の形状は、円筒形であることが望ましい。
【0058】
また、導電性基体として金属製パイプ基体を用いる場合、当該金属製パイプ基体の表面は素管のままのものであってもよいが、予め表面処理により基体表面を粗面化しておいてもよい。表面処理の方法としては、鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウエットホーニング等が挙げられる。
【0059】
特に、アルミニウム基体の表面に陽極酸化処理を施したものを導電性基体として用いることが望ましい。
【0060】
以下、表面に陽極酸化処理を施した導電性基体の製造方法について説明する。
まず、基体として純アルミ系あるいはアルミニウム合金(例えば、JISH4080に規定されている合金番号1000番台、3000番台、6000番台のアルミニウムあるいはアルミニウム合金)を用意する。次に陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理は、クロム酸、硫酸、蓚酸、リン酸、硼酸、スルファミン酸などの酸性浴中において行うが、硫酸浴による処理がよく用いられる。陽極酸化処理は、例えば、硫酸濃度:10質量%以上20質量%以下、浴温:5℃以上25℃以下、電流密度:1A/dm以上4A/dm以下、電解電圧:5V以上30V以下、処理時間:5分以上60分以下の条件で行われるが、これに限定するものではない。
【0061】
こうしてアルミニウム基体上に成膜された陽極酸化皮膜は、多孔質であり、また絶縁性が高く、表面が非常に不安定であるため、皮膜形成後にその物性値が経時的に変化しやすくなっている。この物性値の変化を防止するため、陽極酸化皮膜を更に封孔処理することが行われる。封孔処理の方法には、フッ化ニッケルや酢酸ニッケルを含有する水溶液に陽極酸化皮膜を浸漬する方法、陽極酸化皮膜を沸騰水に浸漬する方法、加圧水蒸気により処理する方法などがある。これらの方法のうち、酢酸ニッケルを含有する水溶液に浸漬する方法が最もよく用いられる。
【0062】
こうして封孔処理が行われた陽極酸化皮膜の表面には、封孔処理により付着した金属塩等が過剰に残留している。そこで、封孔処理に引き続き、封孔処理により付着した金属塩等を除去するために陽極酸化皮膜の洗浄処理が行われる。洗浄処理は純水により基体の洗浄を1回行うことでも構わないが、多段階の洗浄工程により基体の洗浄を行うのが望ましい。この際、最終の洗浄工程における洗浄液としては、例えば、脱イオンされた洗浄液を用いる。また、多段階の洗浄工程のうち、いずれか1工程において、ブラシ等の接触部材を用いた物理的なこすり洗浄を施すことがさらに望ましい。
【0063】
以上のごとく形成される導電性基体表面の陽極酸化皮膜の膜厚は、3μm以上15μm以下の範囲内であることが望ましい。陽極酸化皮膜上には多孔質陽極酸化膜のポーラスな形状の極表面に沿ってバリア層といわれる層が存在する。バリア層の膜厚は本実施形態の電子写真感光体においては1nm以上100nm以下の範囲内であることが望ましい。以上ごとく、陽極酸化処理された導電性基体が得られる。
【0064】
−感光層:電荷輸送層−
次に、感光層について、電荷輸送層と電荷発生層とに分けてこの順に以下に説明する。
電荷輸送層に用いられる電荷輸送材料としては、下記に示すものが例示される。即ち2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾールなどのオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリンなどのピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、トリ(p−メチル)フェニルアミン、N,N−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、ジベンジルアニリン、9,9−ジメチル−N,N−ジ(p−トリル)フルオレノン−2−アミンなどの芳香族第3級アミノ化合物、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミンなどの芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4’−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4’−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジンなどの1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、4−ジフェニルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン、[p−(ジエチルアミノ)フェニル](1−ナフチル)フェニルヒドラゾン、1−ピレンジフェニルヒドラゾン、9−エチル−3−[(2メチル−1−インドリニルイミノ)メチル]カルバゾール、4−(2−メチル−1−インドリニルイミノメチル)トリフェニルアミン、9−メチル−3−カルバゾールジフェニルヒドラゾン、1,1−ジ−(4,4’−メトキシフェニル)アクリルアルデヒドジフェニルヒドラゾン、β,β−ビス(メトキシフェニル)ビニルジフェニルヒドラゾンなどのヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリンなどのキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)−ベンゾフランなどのベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリンなどのα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾールおよびその誘導体などの正孔輸送物質が用いられる。あるいは、上記化合物を含む基を主鎖または側鎖に有する重合体などが挙げられる。これらの電荷輸送材料は、単独または2種以上を組み合せて使用する。
【0065】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては特に限定はないが、結着樹脂は、特に電荷輸送材料と相溶性を有し適当な強度を有するものであることが望ましい。
【0066】
この結着樹脂の例として、ビスフェノールAやビスフェノールZ,ビスフェノールC,ビスフェノールTPなどを含む各種のポリカーボネート樹脂やその共重合体、ポリアリレート樹脂やその共重合体、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アクリル共重合体樹脂、アチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は単独あるいは2種以上の混合物として使用する。
【0067】
電荷輸送層に用いられる結着樹脂の分子量は、感光層の層厚や溶剤などの成膜条件によって選択されるが、通常は粘度平均分子量で3000以上30万以下の範囲内が望ましく、2万以上20万以下の範囲内がより望ましい。
【0068】
電荷輸送層および/または後述する電荷発生層は、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤などの添加剤を含んでもよい。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノンまたはそれらの誘導体、有機硫黄化合物、有機燐化合物などが挙げられる。
また電荷輸送層形成用塗布液には、レベリング剤としてシリコーンオイルを添加してもよい。
【0069】
電荷輸送層は、上記電荷輸送材料および結着樹脂を適当な溶媒に溶解させた溶液を塗布し乾燥することによって形成される。電荷輸送層形成用塗布液の形成に使用される溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素系、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル、あるいはこれらの混合溶剤などが用いられる。
電荷輸送材料と上記結着樹脂との配合比は、質量比で10:1乃至1:5の範囲内が望ましい。また電荷輸送層の層厚は一般に5μm以上50μm以下の範囲内であることが望ましく、10μm以上40μm以下の範囲であることがより望ましい。
【0070】
電荷輸送層形成用塗布液の塗布は、感光体の形状や用途に応じて、浸漬塗布法、リング塗布法、スプレー塗布法、ビード塗布法、ブレード塗布法、ローラー塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法などの塗布法を用いて行う。乾燥は、室温(例えば、20℃以上30℃以下)での指触乾燥の後に加熱乾燥することが望ましい。加熱乾燥は、30℃以上200℃以下の温度域で5分以上2時間の範囲の時間で行うことが望ましい。
【0071】
その他、電荷輸送層としては、例えば、特開2008−076520号公報中段落0137から段落0150までに記載された電荷輸送層等、公知の電荷輸送層を用いる。
【0072】
−感光層:電荷発生層−
電荷発生層は、電荷発生材料を真空蒸着法により蒸着させて形成するか、有機溶剤および結着樹脂を含む溶液を塗布することにより形成される。
【0073】
電荷発生材料としては、非晶質セレン、結晶性セレン、セレン−テルル合金、セレン−ヒ素合金、その他のセレン化合物;セレン合金、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系光導電体;またはこれらを色素増感したもの、無金属フタロシアニン,チタニルフタロシアニン,銅フタロシアニン,錫フタロシアニン,ガリウムフタロシアニンなどの各種フタロシアニン化合物;スクエアリウム系、アントアントロン系、ペリレン系、アゾ系、アントラキノン系、ピレン系、ピリリウム塩、チアピリリウム塩等の各種有機顔料;または染料が用いられる。
また、これらの有機顔料は一般に数種の結晶型を有しており、特にフタロシアニン化合物ではα型、β型などをはじめとしてさまざまな結晶型が知られているが、目的に応じこれらのいずれの結晶型で用いてもよい。
【0074】
なお、上述した電荷発生材料の中でも、フタロシアニン化合物が望ましい。
更にフタロシアニン化合物の中でも、下記(1)から(3)までに示すフタロシアニンがより望ましい。すなわち、
(1)電荷発生材料としてCukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも7.6°,10.0°,25.2°,28.0°の位置に回折ピークを有する結晶型のヒドロキシガリウムフタロシアニン。
(2)電荷発生材料としてCukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも7.3°,16.5°,25.4°,28.1°の位置に回折ピークを有する結晶型のクロルガリウムフタロシアニン。
(3)電荷発生材料としてCukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)において、少なくとも9.5°,24.2°,27.3°の位置に回折ピークを有する結晶型のチタニルフタロシアニン。
【0075】
なお、結晶の形状や測定方法によりこれらのピーク強度や位置が微妙にこれらの値から外れることも有るが、X線回折パターンが基本的に一致しているものであれば同じ結晶型であると判断される。
【0076】
電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、以下のものが例示される。
即ち、ビスフェノールAタイプあるいはビスフェノールZタイプなどのポリカーボネート樹脂およびその共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾールなどである。
【0077】
これらの結着樹脂は、単独であるいは2種以上混合して用いる。電荷発生材料と結着樹脂との配合比(電荷発生材料:結着樹脂)は、質量比で、10:1乃至1:10の範囲が望ましい。また電荷発生層の厚みは、一般には0.01μm以上5μm以下の範囲内であることが望ましく0.05μm以上2.0μm以下の範囲内であることがより望ましい。
【0078】
また電荷発生層は、少なくとも1種の電子受容性物質を含有してもよい。電荷発生層に用いられる電子受容性物質としては、例えば無水琥珀酸、無水マレイン酸、ジブロム無水マレイン酸、無水フタル酸、テトラブロム無水フタル酸、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、o−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、クロラニル、ジニトロアントラキノン、トリニトロフルオレノン、ピークリン酸、o−ニトロ安息香酸、p−ニトロ安息香酸、フタル酸などが挙げられる。これらのうち、フルオレノン系、キノン系や、Cl,CN,NO等の電子吸引性置換基を有するベンゼン誘導体が特によい。
【0079】
電荷発生材料を樹脂中に分散させる方法としては、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、ダイノーミル、サンドミル、コロイドミルなどの方法が用いられる。
電荷発生層を形成する為の塗布液の溶媒としては、公知の有機溶剤、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n―ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2−ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶剤等が挙げられる。
【0080】
また、これらの溶媒は単独あるいは2種以上混合して用いる。2種類以上の溶媒を混合して用いる場合には、例えば、混合溶媒として結着樹脂を溶かす溶媒を使用する。但し、感光層が、導電性基体側から、電荷輸送層と電荷発生層とをこの順に形成した層構成を有する場合に、浸漬塗布のごとく下層を溶解しやすい塗布方法を利用して電荷発生層を形成する際には、電荷輸送層等の下層を溶解しない溶媒を用いることが望ましい。また、比較的下層の侵食性の少ないスプレー塗布法やリング塗布法を利用して電荷発生層を形成する場合には溶媒の選択範囲が広がる。
【0081】
−中間層−
次に、基体と下引層との間あるいは下引層と感光層との間に形成してもよい、中間層について説明する。
中間層を構成する材料としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂などの高分子樹脂化合物のほかに、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、シリコン原子などを含有する有機金属化合物などが挙げられる。
これらの化合物は単独にあるいは複数の化合物の混合物あるいは重縮合物として用いる。これらの中でも、ジルコニウムもしくはシリコンを含有する有機金属化合物が望ましく使用される。また、有機金属化合物は、これを単独または2種以上を混合して用いてもよいし、さらに上述の結着樹脂と混合して用いてもよい。
【0082】
有機シラン化合物(シリコン原子を含有する有機金属化合物)としては、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(β−ヒドロキシエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロルプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でも、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシシラン)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤が望ましく使用される。
【0083】
その他、中間層としては、例えば、特開2008−076520号公報中段落0113から段落0136までに記載された中間層等、公知の中間層が用いられる。
【0084】
<プロセスカートリッジおよび画像形成装置>
次に、本実施形態の電子写真感光体を用いたプロセスカートリッジおよび画像形成装置について説明する。
本実施形態のプロセスカートリッジは、本実施形態の電子写真感光体を用いたものであれば特に限定されないが、具体的には、本実施形態の電子写真感光体と、帯電装置、現像装置およびクリーニング装置から選択された少なくとも1つとを一体として有するものであり、画像形成装置本体に脱着自在である構成を有するものであることが望ましい。
【0085】
また、本実施形態の画像形成装置は、本実施形態の電子写真感光体を用いたものであれば特に限定されないが、具体的には、本実施形態の電子写真感光体と、この電子写真感光体表面を帯電させる帯電装置と、帯電装置により帯電される電子写真感光体表面を露光して静電潜像を形成する露光装置(潜像形成装置)と、静電潜像をトナーを含む現像剤により現像してトナー像を形成する現像装置と、トナー像を記録媒体に転写する転写装置とを備えた構成を有するものであることが望ましい。なお、本実施形態の画像形成装置は、各色のトナーに対応した感光体を複数有するいわゆるタンデム機であってもよく、この場合、全ての感光体が本実施形態の電子写真感光体であることが望ましい。また、トナー像の転写は、中間転写体を利用した中間転写方式であってもよい。
【0086】
ここで、図5は本実施形態のプロセスカートリッジの基本構成の一例を示す概略構成図である。
図5に示すプロセスカートリッジ100は、電子写真感光体107とともに、帯電装置108、現像装置111、クリーニング装置113、露光のための開口部105、および除電器114を取り付け、ケース101、取り付けレール103を用いて組み合せて一体化したものである。そして、このプロセスカートリッジ100は、転写装置112と、定着装置115と、図示しない他の構成部分とを含む画像形成装置本体に対して着脱自在としたものであり、電子写真装置本体とともに画像形成装置を構成するものである。
【0087】
図6は、本実施形態の画像形成装置の基本構成の一例を示す概略構成図である。
図6に示す画像形成装置200は、電子写真感光体207と、電子写真感光体207を接触方式により帯電させる帯電装置208と、帯電装置208に接続された電源209と、帯電装置208により帯電される電子写真感光体207を露光する露光装置210と、露光装置210により露光された部分を現像する現像装置211と、現像装置211により電子写真感光体207に現像された像を転写する転写装置212と、クリーニング装置213と、除電器214と、定着装置215とを備える。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例において「部」は質量部を意味する。
【0089】
〔実施例1〕
アルミニウム基体に下引層と電荷発生層と電荷輸送層とが形成された有機感光体を作製した。
【0090】
・下引層の形成
まず、ホーニング加工したアルミニウム製の円筒基体を図3に示す基体支持部材13に載せ、排気口11を介して成膜室10内を真空排気した。He希釈20質量%酸素ガスを10sccmとHeガスを100sccm、Hガス500sccmをガス導入管20より直径50mmの平板電極19に導入し、高周波電力供給部18を介して13.56MHzのラジオ波を出力50Wにセットしチューナでマッチングを取り放電を行った。この時の反射波は0Wであった。
トリメチルガリウム3.0sccmをガス導入管15のシャワーノズル16からリモートプラズマ中に導入した。この時バラトロン真空計で測定した反応圧力は40Paであった。
尚、基体の加熱は行わず、この状態で30分間成膜してこの基体上に成膜することにより、酸素およびガリウムを含み水素を含む非晶質酸化ガリウム膜の下引層を形成した。下引層の膜厚は1.0μmであった。
【0091】
・下引層の組成の確認
感光体とは別に、上記下引層を同条件で厚さ300μmの結晶Si基板に成膜を行い、組成分析、結晶性分析を行った。
Si基板に成膜した膜のRBSとHFS元素分析から、下引層はGaとOとの比が1.0:1.5であり、また水素は膜中にGaとOとHの総元素数に対して14原子%含まれていた。RHEEDでの回折像にはまったく点や線がみられず非晶質であることがわかった。
【0092】
・電荷発生層の形成
次に電荷発生材料としてクロロガリウムフタロシアニン1部を、ポリビニルブチラール(商品名:積水化学社製エスレックBM−S)1部および酢酸n−ブチル100部と混合し、その混合物をガラスビーズとともにペイントシェーカーで1時間分散し、電荷発生層形成用分散液を得た。この分散液を浸漬法により下引層の上に塗布し100℃10分乾燥して、0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0093】
・電荷輸送層の形成
次に下記構造式(1)で表される化合物2部、および下記構造式(2)で表される高分子化合物(粘度平均分子量:39000)3部をクロロベンゼン20部に溶解させて電荷輸送層形成用塗布液を得た。この塗布液を浸漬法で上記電荷発生層上に塗布し、110℃で40分間加熱して膜厚20μmの電荷輸送層を得た。こうして実施例1に係る感光体を得た。
【0094】
【化1】



【0095】
〔実施例2〕
実施例1において、下引層の形成を以下の方法に変更した以外は、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0096】
・下引層の形成
実施例1において、ガス導入管15のシャワーノズル16からリモートプラズマ中に導入するトリメチルガリウムの量を2.0sccmに変更すると共に、更にジメチル亜鉛0.7sccmをガス導入管15のシャワーノズル16からリモートプラズマ中に導入したこと以外、実施例1に記載の方法により下引層を形成した。この時バラトロン真空計で測定した反応圧力は40Paであった。
尚、基体の加熱は行わず、この状態で30分間成膜してこの基体上に成膜することにより、酸素、ガリウムおよび亜鉛を含み水素を含む非晶質酸化ガリウム膜の下引層を形成した。下引層の膜厚は1.0μmであった。
【0097】
・下引層の組成の確認
感光体とは別に、上記下引層を同条件で厚さ300μmの結晶Si基板に成膜を行い、組成分析、結晶性分析を行った。
Si基板に成膜した膜のRBSとHFS元素分析から、下引層はZnとGaの比(Zn/Ga)は0.3であり、Zn/(Ga+Zn+O)は0.1、O/(Ga+Zn+O)は1.2であり、また水素は膜中にGaとOとHの総元素数に対して18原子%含まれていた。RHEEDでの回折像にはまったく点や線がみられず非晶質であることがわかった。
【0098】
〔比較例1〕
実施例1において、下引層の形成を以下の方法に変更した以外は、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0099】
・下引層の形成
下引層はジルコニウム化合物(商品名:マツモト製薬社製オルガノチックスZC540)20部、シラン化合物(商品名:日本ユニカー社製A1100)2.5部、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:積水化学社製、エスレックBM−S)10部およびブタノール45部を攪拌混合した塗布液を、アルミニウム基体上に塗布し、150℃10分間加熱乾燥することにより1.0μmの下引層とした。
【0100】
〔比較例2〕
実施例1において、下引層の形成を以下の方法に変更した以外は、実施例1に記載の方法により感光体を作製した。
【0101】
・下引層の形成
下引層として、円筒型プラズマCVD装置によって、a−SiN膜を作製した。シランを100sccm、アンモニアガスを50sccm、水素を500sccmで、圧力50Pa、高周波電力100Wとして、アルミニウム基体上に1時間成膜を行い0.5μmの下引層とした。
【0102】
≪評価≫
−帯電と除電とを繰り返した前後での残留電位の上昇−
上記実施例および比較例にて得られた感光体を、高温高湿環境(28℃、80%RH)下で、スコロトロンにより−700Vで帯電し、且つ露光による除電(残留電位)を40rpmで100万回繰り返して行い、一回目と100万回目の残留電位の電位差をΔVとした。尚、具体的には、富士ゼロックス社製DocuCentre Color 500に取り付けて、連続2万枚のプリントテストを行い、以下の評価を行った。
【0103】
まず、上記画質評価における2万枚のプリントテスト前の感光体について、波長780nmにおける残留電位(V0)を測定した。
次に、上記画質評価における2万枚のプリントテスト後の感光体について、波長780nmにおける残留電位(V1)を測定した。
これらの結果に基づき、繰り返し使用時の残留電位の増加(増加率(%)=(V1−V0/V0)×100)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0104】
【表1】



【符号の説明】
【0105】
1 基体、2 感光層、2A 電荷発生層、2B 電荷輸送層、4 下引層、10 成膜室、11 排気口、12 基体回転部、13 基体支持部材、14 基体、15、20 ガス導入管、16 シャワーノズル、17 プラズマ拡散部、18 高周波電力供給部、19 平板電極、21 高周波放電管部、22 高周波コイル、23 石英管、100 プロセスカートリッジ、107、207 電子写真感光体、108、208 帯電装置、111、211 現像装置、112、212 転写装置、113、213 クリーニング装置、114、214 除電器、115、215 定着装置、200 画像形成装置、210 露光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体側から順に、酸素およびガリウムを含む下引層と、感光層と、を有する電子写真感光体。
【請求項2】
前記下引層が更に亜鉛を含む請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電子写真感光体と、帯電装置、現像装置およびクリーニング装置から選択された少なくとも1つと、を備えたプロセスカートリッジ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体を帯電する帯電装置と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に潜像を形成する潜像形成装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成された潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置と、
前記電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写する転写装置と、
を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−69908(P2011−69908A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219449(P2009−219449)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】