説明

電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置

【課題】長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化が抑制された電子写真感光体を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物の重合体を含有する電荷輸送性層を備えた電子写真感光体〔一般式(I)中、Fは電荷輸送性サブユニットを示し、Lはアルキレン基、−C=C−、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は価の4基からなる群より選択される2種以上を組み合わせてなる(n+1)価の連結基を示し、mは1以上6以下の整数を示し、nは2以上3以下の整数を示す。〕。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置は、一般的には、次の如き構成及びプロセスを有するものである。
即ち、電子写真感光体表面を帯電手段で所定の極性及び電位に帯電させ、帯電後の電子写真感光体表面を、像露光により選択的に除電することにより静電潜像を形成させた後、現像手段で該静電潜像にトナーを付着させることにより、潜像をトナー像として現像し、トナー像を転写手段で被転写媒体に転写させることにより、画像形成物として排出させるといったものである。
【0003】
電子写真感光体の保護層(最表面層)の材料系については、以下のものが提案されている。
特許文献1には、有機−無機ハイブリッド材料によるものが提案されている。
特許文献2には、連鎖重合性材料によるものが提案されている。
特許文献3には、アクリル系材料によるものが提案されている。
特許文献4、5には、放射線架橋剤と電荷輸送物質からなり、放射線架橋されたものが提案されている。
【0004】
また、電子写真感光体の最表面層の別の態様としては、例えば、特許文献6には、導電粉をフェノール樹脂に分散したものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−019749号公報
【特許文献2】特開2005−234546号公報
【特許文献3】特開2000−66424号公報
【特許文献4】特開2004−240079号公報
【特許文献5】特開2007−156081号公報
【特許文献6】特許第3287678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化が抑制された電子写真感光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、下記一般式(I)で表される化合物の重合体を含有する電荷輸送性層を備えた電子写真感光体である。
【0008】
【化1】



【0009】
上記一般式(I)中、Fは電荷輸送性サブユニットを示し、Lはアルキレン基、−C=C−(アルケニル基)、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は4価の基からなる群より選択される2種以上を組み合わせてなる(n+1)価の連結基を示し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。mは1以上6以下の整数を示し、nは2以上3以下の整数を示す。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記一般式(I)で表される化合物が下記一般式(II)で表される化合物である請求項1に記載の電子写真感光体である。
【0011】
【化2】




【0012】
上記一般式(II)中、Ar乃至Arはそれぞれ独立に置換若しくは未置換のアリール基を示し、Arは置換若しくは未置換のアリール基、又は置換若しくは未置換のアリーレン基を示し、Dは上記一般式(III)で表される基を示す。kは0又は1を示し、c1〜c5はそれぞれ0〜2の整数を示し、c1〜c5の全てが同時に0になることはない。
上記一般式(III)中、Lはアルキレン基、−C=C−(アルケニル基)、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は価の4基からなる群より選択される2種以上を組み合わせてなる(n+1)価の連結基を示し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。nは2以上3以下の整数を示す。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記一般式(I)で表される化合物中の下記部分構造、及び前記一般式(III)で表される基が、下記一般式(IV−1)で表される基又は一般式(IV−2)で表される基である請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体である。
【0014】
【化3】



【0015】
上記一般式(IV−1)及び(IV−2)中、Xは連結基を示し、pは0又は1を示す。なお、上記部分構造において波線はFで示される電荷輸送性サブユニットとの結合部位を示す。
【0016】
請求項4に係る発明は、前記一般式(I)で表される化合物中の下記部分構造、及び前記一般式(III)で表される基が、下記一般式(V−1)で表される基又は一般式(V−2)で表される基である請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体である。
【0017】
【化4】



【0018】
上記一般式(V−1)及び(V−2)中、X’は連結基を示し、p’は0又は1を示す。なお、上記部分構造において波線はFで示される電荷輸送性サブユニットとの結合部位を示す。
【0019】
請求項5に係る発明は、前記電荷輸送性層を最表面層として備えた請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電子写真感光体である。
【0020】
請求項6に係る発明は、前記電荷輸送性層が熱ラジカル発生剤又はその誘導体を更に含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電子写真感光体である。
【0021】
請求項7に係る発明は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の電子写真感光体を備え、画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジである。
【0022】
請求項8に係る発明は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電した前記電子写真感光体に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、前記電子写真感光体に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を被転写体に転写する転写手段と、を備える画像形成装置である。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に係る発明によれば、前記一般式(I)で表される化合物の重合体を含む電荷輸送性層を備えない場合に比べ、長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化が抑制された電子写真感光体が得られる。
請求項2に係る発明によれば、前記一般式(II)で表される化合物の重合体でない場合に比べ、電荷輸送性能に優れた電子写真感光体が得られる。
請求項3に係る発明によれば、前記一般式(IV−1)又は(IV−2)で表される基を有しない場合に比べ、さらに高い硬化度と優れた電荷輸送性能との両立を可能とする電子写真感光体が得られる。
請求項4に係る発明によれば、前記一般式(V−1)又は(V−2)で表される基を有しない場合に比べ、さらに高い硬化度と優れた電荷輸送性能との両立を可能とし、特に電荷輸送性能に優れた電子写真感光体が得られる。
【0024】
請求項5に係る発明によれば、前記一般式(I)で表される化合物の重合体を含む電荷輸送性層が最表面層ではない場合に比べ、長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化がより抑制された電子写真感光体が得られる。
請求項6に係る発明によれば、熱ラジカル発生剤又はその誘導体を含まない場合に比べ、長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化がより抑制された電子写真感光体が得られる。
【0025】
請求項7、8に係る発明によれば、前記一般式(I)で表される化合物の重合体を含む電荷輸送性層を備えた電子写真感光体を適用しない場合に比べ、長期に亘り繰り返し使用しても画質の劣化が抑制されたプロセスカートリッジ、及び画像形成装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る電子写真感光体を示す概略部分断面図である。
【図2】実施形態に係る電子写真感光体を示す概略部分断面図である。
【図3】実施形態に係る電子写真感光体を示す概略部分断面図である。
【図4】実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図5】他の実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
【図6】(A)乃至(C)はそれぞれゴースト評価の基準を示す説明図である。
【図7】例示化合物CTM−39のIRスペクトルデータである。
【図8】例示化合物CTM−40のIRスペクトルデータである。
【図9】例示化合物CTM−44のIRスペクトルデータである。
【図10】例示化合物CTM−45のIRスペクトルデータである。
【図11】例示化合物CTM−46のIRスペクトルデータである。
【図12】例示化合物CTM−71のIRスペクトルデータである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
〔電子写真感光体〕
本実施形態に係る電子写真感光体は、下記一般式(I)で表される化合物の重合体を含有する電荷輸送性層を備えた電子写真感光体である。
【0028】
<一般式(I)で表される化合物>
まず、下記一般式(I)で表される化合物について説明する。
【0029】
【化5】




【0030】
上記一般式(I)中、Fは電荷輸送性サブユニットを示し、Lはアルキレン基、−C=C−、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は4価の基からなる群より選択される2種以上を組み合わせてなる(n+1)価の連結基を示し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。mは1以上6以下の整数を示し、nは2以上3以下の整数を示す。
【0031】
一般式(I)中のFとして示される電荷輸送性サブユニットとしては、電荷輸送性能を有する化合物に由来するサブユニットであればよく、具体的には、具体的には、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、アゾベンゼン系化合物、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物、キノン系化合物、フルオレノン系化合物、などの電荷輸送性能を有する化合物に由来するサブユニットが挙げられる。
中でも、電荷移動度、酸化安定性などの面で優れる、トリアリールアミン化合物に由来するサブユニットであることがよい。
【0032】
一般式(I)中のLをして示される(n+1)価の連結基としては、具体的には、アルキレン基と、−C=C−、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は4価の基からなる群から選ばれる基と、を組み合わせてなる3価又は4価の基が挙げられる。アルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は4価の基とは、アルカン若しくはアルケンから水素原子を取り除いた基を意味する。以下、同様である。
より具体的には、3価の連結基の場合には、以下のような基が挙げられる。下記に示す3価の連結基中、「*」は、Fと連結する部位を示している。
*−(CH)a−CH[−C(=O)−O−(CH)b−]
*−(CH)a−CH[−CH−O−(CH)b−]
*−CH=C[−C(=O)−O−(CH)b−]
*−CH=C[−(CH)c−O−(CH)b−]
*−(CH)a−CH[−C(=O)−N(R)−(CH)b−]
*−(CH)a−CH[−C(=O)−S−(CH)b−]
*−(CH)a−CH[−(CH)c−N(R)−(CH)b−]
*−(CH)a−CH[−(CH)c−S−(CH)b−]
【0033】
【化6】



【0034】
*−O−(CH)d−CH[−(CH)c−O−(CH)b−]
*−(CH)f−O−(CH)d−CH[−(CH)c−O−(CH)b−]
ここで、上記の3価の連結基中、a、b、c、d、e、及びfは、メチレン基の繰り返し単位を示し、1以上10以下(望ましくは1以上4以下)の整数を示す。
【0035】
また、Lが4価の連結基の場合には、具体的には、以下のような基が挙げられる。下記に示す4価の連結基中、「*」は、Fと連結する部位を示している。
【0036】
【化7】



【0037】
ここで、上記の4価の連結基中、b、c、及びgは、メチレン基の繰り返し単位を示し、1以上10以下(望ましくは1以上4以下)の整数を示す。
【0038】
一般式(I)中のLを表す連結基において、「−N(R)−」のRが表すアルキル基としては、炭素数1以上10以下(望ましくは1以上5以下)の直鎖状、分枝状のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、nプロピル基、isoプロピル基、ブチル基、t−ブチル機、ペンチル基等が挙げられる。
「−N(R)−」のRが表すアリール基としては、炭素数6以上20以下(望ましくは6以上12以下)のアリール基が挙げられ、具体的には、例えば、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、炭素数7以上20以下(望ましくは7以上14以下)のアラルキル基が挙げられ、具体的には、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、ナルチルエチル基等が挙げられる。
【0039】
一般式(I)中の芳香環に結合されているLとビニル基との位置関係としては、メタ位、パラ位が挙げられる。一般式(I)中に芳香環は複数存在するが、この複数存在する芳香環においてLとビニル基との結合位置関係は、メタ位のみ、パラ位のみであってもよいし、メタ位とパラ位とが混在していてもよい。
中でも、溶解度の点からは混合体が好ましく、電荷輸送剤の製造性の点からは、再結晶による精製が可能になる場合が多いため、メタ位のみ、パラ位のみで構成されることが好ましく、特にパラ体が好ましい。
【0040】
一般式(I)中のmは1以上6以下の整数であり、電荷輸送性能を上げるためにはの点から、mは1以上3以下が好ましく、強度を上げるためには2以上6以下であることがよい。
【0041】
本実施形態に係る新規化合物は、特に望ましくは、一般式(I)中のFとしてトリアリールアミン系化合物に由来する電荷輸送性サブユニットを有するものが挙げられる。具体的には、下記一般式(II)で表される化合物であることが望ましい。
【0042】
【化8】




【0043】
上記一般式(II)中、Ar乃至Arはそれぞれ独立に置換若しくは未置換のアリール基を示し、Arは置換若しくは未置換のアリール基、又は置換若しくは未置換のアリーレン基を示し、Dは上記一般式(III)で表される基を示す。kは0又は1を示し、c1〜c5はそれぞれ0〜2の整数を示し、c1〜c5の全てが同時に0になることはない。
上記一般式(III)中、Lはアルキレン基、−C=C−、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は4価の基からなる群より選択される2種以上を組み合わせてなる(n+1)価の連結基を示し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。nは2以上3以下の整数を示す。
【0044】
一般式(II)中のAr乃至Arで示される置換若しくは未置換のアリール基は、それぞれ、同一でもあってもよいし、異なっていてもよい。
ここで、置換アリール基における置換基としては、「(D)」以外のものとして、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
また、Ar乃至Arとしては、下記構造式(1)乃至(7)のうちのいずれかであることが望ましい。なお、下記構造式(1)乃至(7)は、各Ar乃至Arに連結され得る「−(D)C1」乃至「−(D)C4」を総括的に示した「−(D)」と共に示す。
【0045】
【化9】



【0046】
上記構造式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルキル基若しくは炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、及び炭素数7以上10以下のアラルキル基からなる群より選ばれる1種を表す。
上記構造式(2)及び(3)中、R10乃至R12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、及び炭素数7以上10以下のアラルキル基、ハロゲン原子からなる群より選ばれる1種を表す。また、tは1以上3以下の整数を表す
上記構造式(7)中、Arは置換又は未置換のアリーレン基を表す。
ここで、式(7)中のArとしては、下記構造式(8)又は(9)で表されるものが望ましい。
【0047】
【化10】



【0048】
上記構造式(8)及び(9)中、R13及びR14は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種を表し、tは1以上3以下の整数を表す。
また、前記構造式(7)中、Z’は2価の有機連結基を示すが、下記構造下記式(10)乃至(17)のうちのいずれかで表されるものが望ましい。また、sはそれぞれ0又は1を表す。
【0049】
【化11】



【0050】
上記構造式(10)乃至(17)中、R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上4以下のアルコキシ基若しくは炭素数1以上4以下のアルコキシ基で置換されたフェニル基、未置換のフェニル基、炭素数7以上10以下のアラルキル基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる1種を表し、Wは2価の基を表し、q及びrはそれぞれ独立に1以上10以下の整数を表し、tはそれぞれ1以上3以下の整数を表す。
前記構造式(16)乃至(17)中のWとしては、下記(18)乃至(26)で表される2価の基のうちのいずれかであることが望ましい。但し、式(25)中、uは0以上3以下の整数を表す。
【0051】
【化12】



【0052】
また、一般式(II)中のArは、kが0のときは置換若しくは未置換のアリール基であり、このアリール基としては、Ar乃至Arの説明で例示されたアリール基が挙げられる。また、kが1のとき、Arは置換若しくは未置換のアリーレン基であり、このアリーレン基としては、Ar乃至Arの説明で例示されたアリール基から水素原子を1つ除いたアリーレン基が挙げられる。
また、置換アリーレン基における置換基としては、Ar乃至Arの説明で、置換アリール基における「D」以外の置換基として挙げられているものと同様である。
【0053】
一般式(II)中のDで示される前記一般式(III)で表される基におけるLは、一般式(I)の説明中のLと同義であり、具体的に例示した各基が望ましいものとして挙げられる。
【0054】
一般式(II)中のc1〜c5はそれぞれ0〜2の整数を示し、c1〜c5の全てが同時に0になることはない。つまり、一般式(II)中のDの総数は1以上であることを意味し、Dの総数は望ましくは1以上4以下である。
【0055】
次に、一般式(I)中の下記部分構造及び一般式(III)で表される基として望ましい構造について説明する。
下記部分構造及び一般式(III)で表される基としては、下記一般式(IV−1)で表される基、一般式(IV−2)で表される基、下記一般式(V−1)で表される基、又は一般式(V−2)で表される基が、電気特性と硬化度の両立の点から望ましい。
【0056】
【化13】



【0057】
一般式(IV−1)及び(IV−2)中、Xは単結合又は連結基を示し、pは0又は1を示す。
また、一般式(V−1)及び(V−2)中、X’は単結合又は連結基を示し、p’は0又は1を示す。
なお、上記部分構造において波線はFで示される電荷輸送性サブユニットとの結合部位を示す。
【0058】
上記X及びX’で示される連結基としては、−C=や、炭素数1以上のアルキレン基、−C=C−、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、及び−S−、又は、これらを2種以上組み合わせた基等が挙げられる。
【0059】
以下に、一般式(I)で表される化合物の具体例を示す。なお、一般式(I)で表される化合物は、これらにより何ら限定されるものではない。
まず、一般式(I)中のFで表される電荷輸送性サブユニット(前記部分構造を除く骨格)の具体例、及び前記部分構造(一般式(III)で表される基)の具体例を例示し、その後ろに、これらの組み合わせについて表1及び表2に記載し、これを一般式(I)で表される化合物の具体例(例示化合物)とした。
なお、以下に示す各種の具体例において「*」は連結部位を意味する。ここで、表1に記載の例示化合物において、化合物No.のCTM−1は、Fで表される電荷輸送性サブユニットの具体例(表1中「骨格」と記載):(1)−1と、前記部分構造(一般式(III)で表される基、表1中「官能基」と記載)の具体例:(III)−1と、を組み合わせてなるものであって、「*」で連結した化合物を示している。具体的には、CTM−1は、以下の構造を示すものである。
【0060】
【化14】



【0061】
【化15】



【0062】
【化16】



【0063】
【化17】



【0064】
【化18】




【0065】
【化19】

【0066】
【化20】



【0067】
【化21】



【0068】
【化22】



【0069】
【化23】




【0070】
【化24】



【0071】
【化25】



【0072】
【化26】



【0073】
【表1】



【0074】
【表2】

【0075】
次に、一般式(I)で表される化合物の合成法について説明する。
一般式(I)で表される化合物の合成は以下にあげるような一般の電荷輸送材料の合成、反応に用いるものを応用することができる。具体的には実施例に挙げた方法を用いることができる。
ホルミル化:電子供与性基を持つ芳香族化合物・複素環化合物・アルケンにホルミル基を導入するのに適した反応。DMFとオキシ三塩化リンを用いるのが一般的であり、反応温度は室温から100℃程度で行われることが多い。
エステル化:有機酸とアルコールまたはフェノールのようなヒドロキシル基を含む化合物との縮合反応。脱水剤を共存させたり、水を系外へ除去することで平衡をエステル側へ偏らせる手法を用いることが好ましい。
エーテル化:アルコキシドと有機ハロゲン化合物を縮合させるウィリアムソン合成法が一般的である。
水素添加:種々の触媒を用いて不飽和結合に水素を反応させる方法。
【0076】
本実施形態に係る一般式(I)で表される化合物は、Fで示される電荷輸送性サブユニットから、1つの連結基Lを介して2つ又は3つの連鎖重合性の反応性基(スチレン基)を有する化合物である。
本発明者らの詳細な検討により、電荷輸送性化合物の硬化度、即ち架橋部位数を上げると電荷輸送性能が悪くなることが明らかとなった。原因は必ずしも明らかではないが、現段階では、電荷輸送性化合物の硬化度、即ち架橋部位数を上げると、硬化(架橋)させた際に電荷輸送性部位(電荷輸送性サブユニット)に歪みが生じるためであると推測している。
しかしながら、一般式(I)で表される化合物は、1つの連結基Lを介して2つ又は3つの連鎖重合性の反応性基を有する構造であるため、高い硬化度、架橋部位数を保ちつつもこの連結基Lの存在により、硬化(架橋)させた際に電荷輸送性サブユニットに歪みを発生させ難く、高い硬化度と優れた電荷輸送性能との両立が可能となる。
また、従来用いられていた、(メタ)アクリル基を有する電荷輸送性化合物は、上記のようにひずみを生じやすい上に、反応性部位は親水性が高く、電荷輸送性部位は疎水性が高いため、ミクロ相分離しやすいのに対し、一般式(I)で表される化合物は、スチレン基を反応性基として有しており、更に、硬化(架橋)させた際に電荷輸送性部位(電荷輸送性サブユニット)に歪みを生じさせ難い連結基Lを有している構造であること、反応性部位、電荷輸送性部位ともに疎水性のため相分離が起きにくおため、効率的な電荷輸送性能と高強度化が図れると考えられる。その結果として、この一般式(I)で表される化合物の重合体を含む電荷輸送性層は、機械的強度に優れると共に、電荷輸送性能(電気特性)がより優れるものと考えられる。
【0077】
<電子写真感光体>
本実施形態に係る電子写真感光体は、前記した一般式(I)で表される化合物の重合体を少なくとも含む電荷輸送性層を備えることを特徴とする。
上述したように、一般式(I)で表される化合物は、機械的強度及び電荷輸送性能の両方に優れた電荷輸送性層を形成しうることから、この電荷輸送性層を適用した電子写真感光体は、長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化が抑制され、その結果として、安定した画像を継続的に得ることができるものと考えられる。
特に、この電荷輸送性層は機械的強度が高いこともあり、電子写真感光体の最表面層に適用することが望ましく、この構成とした場合であっても、長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化が抑制され、その結果として、安定した画像を継続的に得ることができるものと考えられる。
【0078】
電荷輸送性層に含まれる重合体は、一般式(I)で表される化合物を、熱、光、電子線などのエネルギーにより重合させることで得られる。
また、この重合体を含む電荷輸送性層は、一般式(I)で表される化合物と、必要に応じた他の成分と、を含有する組成物を調製し、この組成物を熱、光、電子線などのエネルギーにより重合(硬化)させることで得られる。
【0079】
本実施形態に係る電荷輸送性層中の一般式(I)で表される化合物の重合体の含有量としては、電荷輸送性層の用途に応じた電荷輸送性能をもとに設定されればよく、一般的には、電荷輸送性層中に5質量%以上100質量%以下(望ましくは40質量%以上100質量%以下)の範囲にて設定されればよい。
なお、本実施形態に係る電荷輸送性層中には、一般式(I)で表される化合物の重合体の他、一般式(I)で表される化合物自体(未反応の状態)が含有されていてもよい。
【0080】
本実施形態に係る電子写真感光体における電荷輸送性層は、一般式(I)で表される化合物中の連鎖重合性の官能基の官能数、即ち、前記部分構造(一般式(III)で表される基)の数が異なるものを併用することで、電荷輸送性能を低下させることなく、電荷輸送性層(硬化物)の強度を調整してもよい。
具体的には、前記した一般式(III)で表される化合物は、電荷輸送性能を低下させることなく、電荷輸送性層(硬化物)の強度を調整する目的で、官能基数が2以上の化合物と、官能基数がそれよりも小さい化合物と、を併用してもよい。
このような併用の場合、官能基数が2以上の化合物の含有量は、一般式(III)で表される化合物の総含有量の5質量%以上95質量%以下(望ましくは10質量%以上90質量%以下)の範囲にて設定されればよい。
【0081】
本実施形態に係る電子写真感光体では、本実施形態に係る電荷輸送性層を備えるもので、この電荷輸送性層としては、最表面層、及び最表面層以外の層のいずれであってもよいが、上述のように、機械的強度及び電荷輸送性能の両方に優れる点から、最表面層であることがよい。
【0082】
ここで、最表面層は、電子写真感光体自体の最上面を形成しているものであり、特に保護層として機能する層、又は、電荷輸送層として機能する層として設けられることが望ましい。
最表面層が保護層として機能する層の場合、導電性基体上に、感光層、及び最表面層として保護層を有し、該保護層が前述した電荷輸送性層で構成される形態が挙げられる。
一方、最表面層が電荷輸送層として機能する層の場合、導電性基体上に、電荷発生層、及び最表面層として電荷輸送層を有し、該電荷輸送層が前述した電荷輸送性層で構成される形態が挙げられる。
なお、前述した電荷輸送性層が最表面層以外の層を構成する場合、導電性基体上に、電荷発生層及び最表面層を含む感光層と共に、感光層上に最表面層として保護層を有し、該電荷輸送層が前述した電荷輸送性層で構成される形態が挙げられる。
【0083】
以下、前述した電荷輸送性層が最表面層である保護層として機能する層の場合の、本実施形態に係る電子写真感光体について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付することとし、重複する説明は省略する。
図1は、実施形態に係る電子写真用感光体の好適な一実施形態を示す模式断面図である。図2乃至図3はそれぞれ他の実施形態に係る電子写真感光体を示す模式断面図である。
【0084】
図1に示す電子写真感光体7Aは、いわゆる機能分離型感光体(又は積層型感光体)であり、導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に電荷発生層2、電荷輸送層3、及び保護層5が順次形成された構造を有するものである。電子写真感光体7Aにおいては、電荷発生層2及び電荷輸送層3により感光層が構成されている。
【0085】
図2に示す電子写真感光体7Bは、図1に示す電子写真感光体7Aと同様に電荷発生層2と電荷輸送層3とに機能が分離された機能分離型感光体である。また、図3に示す電子写真感光体7Cは、電荷発生材料と電荷輸送性材料とを同一の層(単層型感光層6(電荷発生/電荷輸送層))に含有するものである。
【0086】
図2に示す電子写真感光体7Bにおいては、導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に、電荷輸送層3、電荷発生層2、及び保護層5が順次形成された構造を有するものである。電子写真感光体7Bにおいては、電荷輸送層3及び電荷発生層2により感光層が構成されている。
また、図3に示す電子写真感光体7Cにおいては、導電性基体4上に下引層1が設けられ、その上に単層型感光層6、保護層5が順次形成された構造を有するものである。
【0087】
そして、上記図1乃至図3に示す電子写真感光体7A乃至7Cにおいて、保護層5が、導電性基体2から最も遠い側に配置される最表面層となっており、当該最表面層が、前述した電荷輸送性層で構成された構成となっている。
なお、図1乃至図3に示す電子写真感光体において、下引層1は設けてもよいし、設けなくてもよい。
【0088】
以下、代表例として図1に示す電子写真感光体7Aに基づいて、各要素について説明する。
【0089】
(導電性基体)
導電性基体としては、従来から使用されているものであれば、如何なるものを使用してもよい。例えば、薄膜(例えばアルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼等の金属類、及びアルミニウム、チタニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼、金、バナジウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)等の膜)を設けたプラスチックフィルム等、導電性付与剤を塗布又は含浸させた紙、導電性付与剤を塗布又は含浸させたプラスチックフィルム等が挙げられる。基体の形状は円筒状に限られず、シート状、プレート状としてもよい。
なお、導電性基体は、例えば体積抵抗率が10Ω・cm未満の導電性を有するものがよい。
【0090】
導電性基体として金属パイプを用いる場合、表面は素管のままであってもよいし、予め鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウエットホーニングなどの処理が行われていてもよい。
【0091】
(下引層)
下引層は、導電性基体表面における光反射の防止、導電性基体から感光層への不要なキャリアの流入の防止などの目的で、必要に応じて設けられる。
【0092】
下引層は、例えば、結着樹脂と、必要に応じてその他添加物とを含んで構成される。
下引層に含まれる結着樹脂としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などの公知の高分子樹脂化合物、また電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が望ましく用いられ、特にフェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが望ましく用いられる。
【0093】
下引層には、シリコン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物等の金属化合物等を含有してもよい。
【0094】
金属化合物と結着樹脂との比率は、特に制限されず、所望する電子写真感光体特性を得られる範囲で設定される。
【0095】
下引層には、表面粗さ調整のために下引層中に樹脂粒子を添加してもよい。樹脂粒子としては、シリコーン樹脂粒子、架橋型ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂粒子等が挙げられる。なお、表面粗さ調整のために下引層を形成後、その表面を研磨してもよい。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、ウエットホーニング、研削処理等が用いられる。
【0096】
ここで、下引層の構成として、結着樹脂と導電性粒子とを少なくとも含有する構成が挙げられる。なお、導電性粒子は、例えば体積抵抗率が10Ω・cm未満の導電性を有するものがよい。
【0097】
導電性粒子としては、例えば、金属粒子(アルミニウム、銅、ニッケル、銀などの粒子)、導電性金属酸化物粒子(酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの粒子)、導電性物質粒子(カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト粉末の粒子)等が挙げられる。これらの中でも、導電性金属酸化物粒子が好適である。導電性粒子は、2種以上混合して用いてもよい。
また、導電性粒子は、疎水化処理剤(例えばカップリング剤)等により表面処理を施して、抵抗調整して用いてもよい。
導電性粒子の含有量は、例えば、結着樹脂に対して、10質量%以上80質量%以下であることが望ましく、より望ましくは40質量%以上80質量%以下である。
【0098】
下引層の形成の際には、上記成分を溶媒に加えた下引層形成用塗布液が使用される。
また、下引層形成用塗布液中に粒子を分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。ここで、高圧ホモジナイザーとしては、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0099】
下引層形成用塗布液を導電性基体上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
【0100】
下引層の膜厚は、15μm以上が望ましく、20μm以上50μm以下がより望ましい。
【0101】
ここで、図示は省略するが、下引層と感光層との間に中間層を更に設けてもよい。中間層に用いられる結着樹脂としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂などの高分子樹脂化合物のほかに、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、ケイ素原子などを含有する有機金属化合物などが挙げられる。これらの化合物は、単独に或いは複数の化合物の混合物或いは重縮合物として用いてもよい。中でも、ジルコニウム若しくはケイ素を含有する有機金属化合物は残留電位が低く環境による電位変化が少なく、また繰り返し使用による電位の変化が少ないなど点から好適である。
【0102】
中間層の形成の際には、上記成分を溶媒に加えた中間層形成用塗布液が使用される。
中間層を形成する塗布方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
【0103】
なお、中間層は上層の塗布性改善の他に、電気的なブロッキング層の役割も果たすが、膜厚が大きすぎる場合には電気的な障壁が強くなりすぎて減感や繰り返しによる電位の上昇を引き起こすことがある。したがって、中間層を形成する場合には、0.1μm以上3μm以下の膜厚範囲に設定することがよい。また、この場合の中間層を下引層として使用してもよい。
【0104】
(電荷発生層)
電荷発生層は、例えば、電荷発生材料と結着樹脂中とを含んで構成される。かかる電荷発生材料としては、無金属フタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、ジクロロスズフタロシアニン、チタニルフタロシアニン等のフタロシアニン顔料が挙げられ、特に、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.4゜、16.6゜、25.5゜及び28.3゜に強い回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.7゜、9.3゜、16.9゜、17.5゜、22.4゜及び28.8゜に強い回折ピークを有する無金属フタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.5゜、9.9゜、12.5゜、16.3゜、18.6゜、25.1゜及び28.3゜に強い回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも9.6゜、24.1゜及び27.2゜に強い回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶が挙げられる。その他、電荷発生材料としては、キノン顔料、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスベンゾイミダゾール顔料、アントロン顔料、キナクリドン顔料等が挙げられる。また、これらの電荷発生材料は、単独又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0105】
電荷発生層を構成する結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールAタイプ或いはビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。これらの結着樹脂は、単独又は2種以上混合して用いてもよい。
なお、電荷発生材料と結着樹脂の配合比は、例えば10:1乃至1:10の範囲が望ましい。
【0106】
電荷発生層の形成の際には、上記成分を溶剤に加えた電荷発生層形成用塗布液が使用される。
【0107】
電荷発生層形成用塗布液中に粒子(例えば電荷発生材料)を分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。高圧ホモジナイザーとしては、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0108】
電荷発生層形成用塗布液を下引層上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
【0109】
電荷発生層の膜厚は、望ましくは0.01μm以上5μm以下、より望ましくは0.05μm以上2.0μm以下の範囲に設定される。
【0110】
(電荷輸送層)
電荷輸送層は、電荷輸送性材料と、必要に応じて結着樹脂と、を含んで構成される。
【0111】
電荷輸送性材料としては、例えば、2,5−ビス(p−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール誘導体、1,3,5−トリフェニル−ピラゾリン、1−[ピリジル−(2)]−3−(p−ジエチルアミノスチリル)−5−(p−ジエチルアミノスチリル)ピラゾリン等のピラゾリン誘導体、トリフェニルアミン、N,N′−ビス(3,4−ジメチルフェニル)ビフェニル−4−アミン、トリ(p−メチルフェニル)アミニル−4−アミン、ジベンジルアニリン等の芳香族第3級アミノ化合物、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−N,N′−ジフェニルベンジジン等の芳香族第3級ジアミノ化合物、3−(4′−ジメチルアミノフェニル)−5,6−ジ−(4′−メトキシフェニル)−1,2,4−トリアジン等の1,2,4−トリアジン誘導体、4−ジエチルアミノベンズアルデヒド−1,1−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン誘導体、2−フェニル−4−スチリル−キナゾリン等のキナゾリン誘導体、6−ヒドロキシ−2,3−ジ(p−メトキシフェニル)ベンゾフラン等のベンゾフラン誘導体、p−(2,2−ジフェニルビニル)−N,N−ジフェニルアニリン等のα−スチルベン誘導体、エナミン誘導体、N−エチルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、ポリ−N−ビニルカルバゾール及びその誘導体などの正孔輸送物質、クロラニル、ブロアントラキノン等のキノン系化合物、テトラアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、チオフェン化合物等の電子輸送物質、及び上記した化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体などが挙げられる。これらの電荷輸送性材料は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
電荷輸送層を構成する結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールAタイプ或いはビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、塩素ゴム等の絶縁性樹脂、及びポリビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン等の有機光導電性ポリマー等が挙げられる。これらの結着樹脂は、単独又は2種以上混合して用いてもよい。
なお、電荷輸送性材料と上記結着樹脂との配合比は、例えば10:1乃至1:5が望ましい。
【0113】
電荷輸送層は、上記成分を溶剤に加えた電荷輸送層形成用塗布液を用いて形成される。
【0114】
電荷輸送層形成用塗布液中に粒子(例えばフッ素樹脂粒子)を分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。高圧ホモジナイザーとしては、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0115】
電荷輸送層層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法を用いられる。
電荷輸送層の膜厚は、望ましくは5μm以上50μm以下、より望ましくは10μm以上40μm以下の範囲に設定される。
【0116】
(保護層)
保護層は、前述した電荷輸送性層を適用したものであり、前記一般式(I)で表される化合物の重合体を含有する。
この保護層を形成するにあたって、一般式(I)で表される化合物を含有する電荷輸送性組成物を用いるが、一般式(I)で表される化合物の総含有量は、電荷輸送性組成物(溶媒を除く全固形分質量)に対して、例えば、40質量%以上が望ましく、より望ましくは50質量%以上、更に望ましくは60質量%以上である。
この範囲とすることで、電気特性に優れ、硬化膜の厚膜化が実現される。
【0117】
また、本実施形態においては、一般式(I)で表される化合物と、反応性基を有さない公知の電荷輸送性材料と、を併用してもよい。反応性基を有さない公知の電荷輸送性材料は、電荷輸送を担わない反応性基を有さないため、電荷輸送性材料の成分濃度を高め、電気特性が更に改善されることから有効である。
この公知の電荷輸送性材料としては、前述の電荷輸送層を構成する電荷輸送性材料として挙げられたものが用いられる。
【0118】
以下、保護層を形成するための電荷輸送性組成物の他の成分について説明する。
保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、製膜性を確保する観点から、下記界面活性剤を含んでいてもよい。
【0119】
界面活性剤は、例えば、(A)フッ素原子を有するアクリルモノマーを重合してなる構造、(B)炭素−炭素二重結合及びフッ素原子を有する構造、(C)アルキレンオキサイド構造、(D)炭素−炭素三重結合及び水酸基を有する構造のうち1種以上の構造を分子内に含む界面活性剤である。
この界面活性剤は、分子内に、(A)乃至(D)の構造を1種以上含有していればよく、2種以上を含有していてもよい。
【0120】
以下、上記の(A)乃至(D)の構造と該構造を有する界面活性剤について説明する。
【0121】
・(A)フッ素原子を有するアクリルモノマーを重合してなる構造
(A)フッ素原子を有するアクリルモノマーを重合してなる構造としては、特に制限されないが、フルオロアルキル基を有するアクリルモノマーを重合してなる構造であることが望ましく、パーフルオロアルキル基を有するアクリルモノマーを重合してなる構造であることがより望ましい。
【0122】
上記(A)の構造を有する界面活性剤としては、具体的には、ポリフローKL−600(共栄社化学社製)、エフトップEF−351、EF−352、EF−801、EF−802、EF−601(以上、JEMCO社製)などが挙げられる。
【0123】
・(B)炭素−炭素二重結合及びフッ素原子を有する構造
(B)炭素−炭素二重結合及びフッ素原子を有する構造としては、特に制限されないが、下記構造式(B1)及び(B2)の少なくとも一方で示される基であることが望ましい。
【0124】
【化27】




【0125】
(B)の構造を有する界面活性剤としては、アクリル重合体の側鎖に上記構造式(B1)及び(B2)の少なくとも一方で示される基を有する化合物、若しくは、下記構造式(B3)乃至(B5)のいずれかで示される化合物であることが望ましい。
(B)の構造を有する界面活性剤がアクリル重合体の側鎖に構造式(B1)及び(B2)の少なくとも一方を有する化合物である場合には、アクリル構造が組成物中の他の成分となじみやすい性質を有しているため、均一な最表面層を形成しうる。
また、(B)の構造を有する界面活性剤が、構造式(B3)乃至(B5)のいずれかで示される化合物である場合には、塗布の際のはじきを防止する傾向にあり、塗膜欠陥を抑制しうる。
【0126】
【化28】




【0127】
上記構造式(B3)乃至(B5)中、v及びwはそれぞれ独立に1以上の整数を示し、R’は水素原子又は1価の有機基を示し、Rfはそれぞれ独立に構造式(B1)又は(B2)で示される基を表す。
構造式(B3)乃至(B5)中、R’が表す1価の有機基としては、例えば、炭素数1以上30以下のアルキル基、炭素数1以上30以下のヒドロキシアルキル基が挙げられる。
【0128】
(B)の構造を有する界面活性剤の市販品としては以下のものが挙げられる。
例えば、構造式(B3)乃至(B5)のいずれかで示される化合物として、フタージェント100、100C、110、140A、150、150CH、A−K、501、250、251、222F、FTX−218、300、310、400SW、212M、245M、290M、FTX−207S、FTX−211S、FTX−220S、FTX−230S、FTX−209F、FTX−213F、FTX−222F、FTX−233F、FTX−245F、FTX−208G、FTX−218G、FTX−230G、FTX−240G、FTX−204D、FTX−280D、FTX−212D、FTX−216D、FTX−218D、FTX−220D、FTX−222D(ネオス株式会社製)等が挙げられる。
また、アクリル重合体の側鎖に構造式(B1)及び(B2)の少なくとも一方を有する化合物としては、KB−L82、KB−L85、KB−L97、KB−L109、KB−L110、KB−F2L、KB−F2M、KB−F2S、KB−F3M、KB−FaM(ネオス株式会社製)等が挙げられる。
【0129】
・(C)アルキレンオキサイド構造
(C)アルキレンオキサイド構造としては、アルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイドを含む。具体的には、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどがあり、これらのアルキレンオキサイドの繰り返し数が2以上10000以下であるポリアルキレンオキサイドであってもよい。
(C)アルキレンオキサイド構造を有する界面活性剤としては、ポリエチレングリコール、ポリエーテル消泡剤、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
ポリエチレングリコールとしては、平均分子量が2000以下のものが好ましく、平均分子量が2000以下のポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコール2000(平均分子量2000)、ポリエチレングリコール600(平均分子量600)、ポリエチレングリコール400(平均分子量400)、ポリエチレングリコール200(平均分子量200)等が挙げられる。
また、PE−M、PE−L(以上、和光純薬工業社製)、消泡剤No.1、消泡剤No.5(以上、花王社製)等のポリエーテル消泡剤も好適な例として挙げられる。
【0130】
(C)アルキレンオキサイド構造の他に分子内にフッ素原子を含む界面活性剤としては、アルキレンオキサイド若しくはポリアルキレンオキサイドをフッ素原子を有する重合体の側鎖に有するものや、アルキレンオキサイド若しくはポリアルキレンオキサイドの末端がフッ素原子を含む置換基で置換されたものなどが挙げられる。
(C)アルキレンオキサイド構造の他に分子内にフッ素原子を含む界面活性剤として具体的には、例えば、メガファックF−443、F−444、F−445、F−446(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、フタージェント250、251、222F(以上、ネオス社製)、POLY FOX PF636、PF6320、PF6520、PF656(以上、北村化学社製)などが挙げられる。
【0131】
(C)アルキレンオキサイド構造の他に分子内にシリコーン構造を含む界面活性剤としては、具体的には、KF351(A)、KF352(A)、KF353(A)、KF354(A)、KF355(A)、KF615(A)、KF618、KF945(A)、KF6004(以上、信越化学工業社製)、TSF4440、TSF4445、TSF4450、TSF4446、TSF4452、TSF4453、TSF4460(以上、GE東芝シリコン社製)、BYK−300、302、306、307、310、315、320、322、323、325、330、331、333、337、341、344、345、346、347、348、370、375、377,378、UV3500、UV3510、UV3570等(以上、ビックケミー・ジャパン株式会社社製)が挙げられる。
【0132】
・(D)炭素−炭素三重結合及び水酸基を有する構造
(D)炭素−炭素三重結合及び水酸基を有する構造としては特に制限はなく、この構造を有する界面活性剤としては、以下に示す化合物が挙げられる。
(D)炭素−炭素三重結合及び水酸基を有する構造を有する界面活性剤としては、分子中に三重結合及び水酸基を有する化合物が挙げられ、具体的には、例えば、2−プロピン−1−オール、1−ブチン−3−オール、2−ブチン−1−オール、3−ブチン−1−オール、1−ペンチン−3−オール、2−ペンチン−1−オール、3−ペンチン−1−オール、4−ペンチン−1−オール、4−ペンチン−2−オール、1−ヘキシン−3−オール、2−ヘキシン−1−オール、3−ヘキシン−1−オール、5−ヘキシン−1−オール、5−ヘキシン−3−オール、1−ヘプチン−3−オール、2−ヘプチン−1−オール、3−ヘプチン−1−オール、4−ヘプチン−2−オール、5−ヘプチン−3−オール、1−オクチン−3−オール、1−オクチン−3−オール、3−オクチン−1−オール、3−ノニン−1−オール、2−デシン−1−オール、3−デシン−1−オール、10−ウンデシン−1−オール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンテン−4−イン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、5−メチル−1−ヘキシン−3−オール、3−エチル−1−ペンチン−3−オール、3−エチル−1−ヘプチン−3−オール、4−エチル−1−オクチン−3−オール、3,4−ジメチル−1−ペンチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3,6−ジメチル−1−ヘプチン−3−オール、2,2,8,8−テトラメチル−3,6−ノナジイン−5−オール、4,6−ノナデカジイン−1−オール、10,12−ペンタコサジイン−1−オール、2−ブチン−1,4−ジオール、3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,4−ヘキサジイン−1,6−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、(+)−1,6−ビス(2−クロロフェニル)−1,6−ジフェニル−2,4−ヘキサジイン−1,6−ジオール、(−)−1,6−ビス(2−クロロフェニル)−1,6−ジフェニル−2,4−ヘキサジイン−1,6−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール ビス(2−ヒロドキシエチル)、1,4−ジアセトキシ−2−ブチン、4−ジエチルアミノ−2−ブチン−1−オール、1,1−ジフェニル−2−プロピン−1−オール、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、9−エチニル−9−フルオレノール、2,4−ヘキサジインジイル−1,6−ビス(4−フェニルアゾベンゼンスルフォネート)、2−ヒドロキシ−3−ブチン酸、2−ヒドロキシ−3−ブチン酸 エチルエステル、2−メチル−4−フェニル−3−ブチン−2−オール、メチル プロパラギル エーテル、5−フェニル−4−ペンチン−1−オール、1−フェニル−1−プロピン−3−オール、1−フェニル−2−プロピン−1−オール、4−トリメチルシリル−3−ブチン−2−オール、3−トリメチルシリル−2−プロピン−1−ol等が挙げられる。
また、上記の化合物の水酸基の一部又は全部にエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが付加した化合物(例えば、サーフィノール400シリーズ(信越化学社製))等が挙げられる。
【0133】
(D)炭素−炭素三重結合及び水酸基を有する構造を有する界面活性剤としては、下記一般式(D1)及び(D2)のいずれかで示される化合物が望ましい。
【0134】
【化29】




【0135】
上記一般式(D1)及び(D2)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、1価の有機基を示し、x、y、及びzは、それぞれ独立に、1以上の整数を示す。
上記一般式(D1)又は(D2)で示される化合物の中でも、R、R、R、Rが、アルキル基であるものが望ましい。また、R及びRの少なくとも一方、R及びRの少なくとも一方が分岐アルキル基であるものがより望ましい。更に、zは1以上10以下であることが望ましい。x及びyは、それぞれ1以上500以下であることが望ましい。
【0136】
一般式(D1)又は(D2)で示される化合物の市販品としては、サーフィノール400シリーズ(信越化学社製)が挙げられる。
【0137】
上述した(A)乃至(D)の構造を有する界面活性剤は、1種を単独で用いてもよいが、複数種を混合して用いてもよい。また、複数種を混合して用いる場合、効果を損なわない範囲において、(A)乃至(D)の構造を有する界面活性剤とは異なる構造の界面活性剤を併用してもよい。
【0138】
併用しうる界面活性剤としては、以下に挙げるフッ素原子を有する界面活性剤やシリコーン構造を有する界面活性剤が挙げられる。
即ち、(A)乃至(D)の構造を有する界面活性剤と併用しうるフッ素原子を有する界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸類(例えば、パーフルオロブタンスルホン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸など)、パーフルオロアルキルカルボン酸類(例えば、パーフルオロブタンカルボン酸、パーフルオロオクタンカルボン酸など)、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステルが好適に挙げられる。パーフルオロアルキルスルホン酸類、及びパーフルオロアルキルカルボン酸類は、その塩及びそのアミド変性体であってもよい。
パーフルオロアルキルスルホン酸類の市販品としては、例えば、メガファックF−114(大日本インキ化学工業株式会社製)、エフトップEF−101、EF102、EF−103、EF−104、EF−105、EF−112、EF−121、EF−122A、EF−122B、EF−122C、EF−123A(以上、JEMCO社製)、フタージェント 100、100C、110、140A、150、150CH、A−K、501(以上、ネオス社製)などが挙げられる。
パーフルオロアルキルカルボン酸類の市販品としては、例えば、メガファックF−410(大日本インキ化学工業株式会社製)、エフトップ EF−201、EF−204(以上、JEMCO社製)などが挙げられる。
パーフルオロアルキル基含有リン酸エステルの市販品としては、メガファックF−493、F−494(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)エフトップ EF−123A、EF−123B、EF−125M、EF−132、(以上、JEMCO社製)などが挙げられる。
【0139】
なお、(A)乃至(D)の構造を有する界面活性剤と併用しうるフッ素原子を有する界面活性剤としては、上記に限られず、例えば、フッ素原子含有ベタイン構造化合物(例えば、フタージェント 400SW、ネオス社製)、両性イオン基を持つ界面活性剤(例えば、フタージェント SW(ネオス社製))も好適に用いられる。
【0140】
(A)乃至(D)の構造を有する界面活性剤と併用しうるシリコーン構造を有する界面活性剤としては、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、ジフェニルシリコーンや、それらの誘導体の如く一般的なシリコーンオイルが挙げられる。
【0141】
界面活性剤の含有量は、電荷輸送性組成物(溶媒を除く全固形分質量)に対して、望ましくは0.01質量%以上1質量%以下、より望ましくは0.02質量%以上0.5質量%以下である。界面活性剤の含有量が0.01質量%未満の場合は塗膜欠陥防止効果が不十分となる傾向にある。また、界面活性剤の含有量が1質量%を超えると、界面活性剤と硬化成分(一般式(I)で示される化合物やその他のモノマー、オリゴマーなど)の分離により、得られる硬化膜の強度が低下する傾向にある。
また、全界面活性剤中、(A)乃至(D)の構造を有する界面活性剤は、1質量%以上含まれることが望ましい、10質量%以上含まれることがより望ましい。
【0142】
また、保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、該組成物の粘度、膜の強度、かとう性、平滑性、クリーニング性などの制御を目的とし、電荷輸送能を持たないラジカル重合性のモノマー、オリゴマー等が添加されていてもよい。
1官能のラジカル重合性のモノマーとしては、例えば、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールメタクリレート、ヒドロキシエチルo−フェニルフェノールアクリレート、o−フェニルフェノールグリシジルエーテルアクリレート等が挙げられる。
【0143】
2官能のラジカル重合性のモノマーとしては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3‐プロパンジオールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート、トリシクロデカンメタノールジアクリレート、トリシクロデカンメタノールジメタクリレート等が挙げられる。
【0144】
3官能以上のラジカル重合性のモノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリアクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート、トリスアクロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化イソシアヌルトリアクリレートが挙げられる。
【0145】
また、ラジカル重合性のオリゴマーとしては、例えば、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系オリゴマーが挙げられる。
【0146】
電荷輸送能を持たないラジカル重合性のモノマー、オリゴマーは、電荷輸送性組成物(溶媒を除く全固形分質量)に対して0質量以上50質量%以下含有することが望ましく、0質量以上40質量%以下含有することがより望ましく、0質量以上30質量%以下含有することが更に望ましい。
【0147】
また、保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、熱ラジカル発生剤又はその誘導体を添加することが望ましい。つまり、保護層には、熱ラジカル発生剤又はその誘導体が含まれていることが望ましい。
ここで、「熱ラジカル発生剤の誘導体」とは、熱によってラジカルを発生させた後の反応残さ、もしくはラジカル活性種が重合末端に結合したものを意味する。
【0148】
ここで、保護層を構成する硬化膜(架橋膜)は、上記各成分を含む電荷輸送性組成物を、熱、光、電子線など様々な方法にて硬化することで得られるが、硬化膜の電気特性、機械的強度等の特性のバランスを取るためには熱硬化が望ましい。通常、一般的なアクリル塗料などを硬化する際には無触媒で硬化が可能な電子線、短時間で硬化が可能な光重合が好適に用いられる。しかしながら、電子写真感光体は最表面層の被形成面となる感光層が感光材料を含むため、この感光材料にダメージを与え難くするため、また、得られる硬化膜の表面性状を高めるため、穏やかに反応を進められる熱硬化が望ましい。
したがって、熱硬化は無触媒で行ってもよいが、上記熱ラジカル発生剤又はその誘導体を触媒として用いることが望ましい。これにより、繰り返し使用による、ゴーストの発生が抑制され易くなる。
熱ラジカル発生剤又はその誘導体は特に限定されないが、保護層の形成時における感光層中の感光材料のダメージを抑制するために、10時間半減期温度が40℃以上110℃以下のものが望ましい。
【0149】
熱ラジカル発生剤の市販品としては、V−30(10時間半減期温度:104℃)、V−40(同:88℃)、V−59(同:67℃)、V−601(同:66℃)、V−65(同:51℃)、V−70(同:30℃)、VF−096(同:96℃)、Vam−110(同:111℃)、Vam−111(同:111℃)、VE-073(同:73℃)(以上、和光純薬工業製)、OTAZO−15(同:61℃)、OTAZO−30(同:57℃)、AIBN(同:65℃)、AMBN(同:67℃)、ADVN(同:52℃)、ACVA(同:68℃)(以上、大塚化学社製)等のアゾ系開始剤;
パーテトラA、パーヘキサHC、パーヘキサC、パーヘキサV、パーヘキサ22、パーヘキサMC、パーブチルH,パークミルH、パークミルP、パーメンタH、パーオクタH、パーブチルC、パーブチルD、パーヘキシルD、パーロイルIB、パーロイル355、パーロイルL、パーロイルSA、ナイパーBW、ナイパーBMT−K40/M、パーロイルIPP、パーロイルNPP、パーロイルTCP、パーロイルOPP、パーロイルSBP、パークミルND、パーオクタND、パーヘキシルND、パーブチルND、パーブチルNHP、パーヘキシルPV、パーブチルPV、パーヘキサ250、パーオクタO、パーヘキシルO、パーブチルO、パーブチルL、パーブチル355、パーヘキシルI、パーブチルI、パーブチルE、パーヘキサ25Z、パーブチルA、パーへヘキシルZ、パーブチルZT、パーブチルZ(以上、日油化学社製)、カヤケタールAM−C55、トリゴノックス36−C75、ラウロックス、パーカドックスL−W75、パーカドックスCH−50L、トリゴノックスTMBH、カヤクメンH、カヤブチルH−70、ペルカドックスBC−FF、カヤヘキサAD、パーカドックス14、カヤブチルC、カヤブチルD、カヤヘキサYD−E85、パーカドックス12−XL25、パーカドックス12−EB20、トリゴノックス22−N70、トリゴノックス22−70E、トリゴノックスD−T50、トリゴノックス423−C70、カヤエステルCND−C70、カヤエステルCND−W50、トリゴノックス23−C70、トリゴノックス23−W50N、トリゴノックス257−C70、カヤエステルP−70、カヤエステルTMPO−70、トリゴノックス121、カヤエステルO、カヤエステルHTP−65W、カヤエステルAN、トリゴノックス42、トリゴノックスF−C50、カヤブチルB、カヤカルボンEH−C70、カヤカルボンEH−W60、カヤカルボンI−20、カヤカルボンBIC−75、トリゴノックス117、カヤレン6−70(以上、化薬アクゾ社製)、ルペロックス LP(同:64℃)、ルペロックス 610(同:37℃)、ルペロックス 188(同:38℃)、ルペロックス 844(同:44℃)、ルペロックス 259(同:46℃)、ルペロックス 10(同:48℃)、ルペロックス 701(同:53℃)、ルペロックス 11(同:58℃)、ルペロックス 26(同:77℃)、ルペロックス 80(同:82℃)、ルペロックス 7(同:102℃)、ルペロックス 270(同:102℃)、ルペロックス P(同:104℃)、ルペロックス 546(同:46℃)、ルペロックス 554(同:55℃)、ルペロックス 575(同:75℃)、ルペロックス TANPO(同:96℃)、ルペロックス 555(同:100℃)、ルペロックス 570(同:96℃)、ルペロックス TAP(同:100℃)、ルペロックス TBIC(同:99℃)、ルペロックス TBEC(同:100℃)、ルペロックス JW(同:100℃)、ルペロックス TAIC(同:96℃)、ルペロックス TAEC(同:99℃)、ルペロックス DC(同:117℃)、ルペロックス 101(同:120℃)、ルペロックス F(同:116℃)、ルペロックス DI(同:129℃)、ルペロックス 130(同:131℃)、ルペロックス 220(同:107℃)、ルペロックス 230(同:109℃)、ルペロックス 233(同:114℃)、ルペロックス 531(同:93℃)(以上、アルケマ吉富社製)などが挙げられる。
【0150】
熱ラジカル発生剤又はその誘導体は、電荷輸送性組成物中の反応性化合物(一般式(I)で表される化合物+その他の反応性化合物)に対して0.001質量%以上10質量%以下含有することが望ましく、0.01質量%以上5質量%以下含有することがより望ましく、0.1質量以上3質量%以下含有することが更に望ましい。
【0151】
また、保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、放電生成ガスを吸着しすぎないように、添加することで放電生成ガスによる酸化を効果的に抑制する目的から、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などの他の熱硬化性樹脂を添加してもよい。
【0152】
また、保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、更に、膜の成膜性、可とう性、潤滑性、接着性を調整するなどの目的から、カップリング剤、ハードコート剤、含フッ素化合物を添加してもよい。これらの添加剤として具体的には、各種シランカップリング剤、及び市販のシリコーン系ハードコート剤が用いられる。
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等が用いられる。
また、市販のハードコート剤としては、KP−85、X−40−9740、X−8239(以上、信越シリコーン社製)、AY42−440、AY42−441、AY49−208(以上、東レダウコーニング社製)等が用いられる。
更に、撥水性等の付与のために、(トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリエトキシシラン、(3,3,3−トリフルオロプロピル)トリメトキシシラン、3−(ヘプタフルオロイソプロポキシ)プロピルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロアルキルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリエトシキシラン等の含フッ素化合物を加えてもよい。
シランカップリング剤は任意の量で使用されるが、含フッ素化合物の量は、フッ素を含まない化合物に対して質量で0.25倍以下とすることが望ましい。この使用量を超えると、架橋膜の成膜性に問題が生じる場合がある。
【0153】
また、保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、保護層の放電ガス耐性、機械強度、耐傷性、トルク低減、磨耗量コントロール、ポットライフの延長などや、粒子分散性、粘度コントロールの目的で、熱可塑性樹脂を加えてもよい。
ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールやアセトアセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルアセタール樹脂などのポリビニルアセタール樹脂(たとえば積水化学社製エスレックB、K等)、ポリアミド樹脂、セルロ−ス樹脂、ポリビニルフェノール樹脂などがあげられる。特に、電気特性の点でポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂が望ましい。当該樹脂の重量平均分子量は2,000以上100,000以下が望ましく、5,000以上50,000以下がより望ましい。樹脂の分子量が2,000未満であると樹脂の添加による効果が不十分となる傾向にあり、また、100,000を超えると溶解度が低下して添加量が制限され、更には塗布時に製膜不良を招く傾向にある。また、当該樹脂の添加量は1質量%以上40質量%以下が望ましく、1質量%以上30質量%以下がより望ましく、5質量%以上20質量%以下が更に望ましい。当該樹脂の添加量が1質量%未満であると樹脂の添加による効果が不十分となる傾向にあり、また、40質量%を超えると高温高湿下(例えば28℃、85%RH)での画像ボケが発生しやすくなる。
【0154】
保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、保護層の帯電装置で発生するオゾン等の酸化性ガスによる劣化を防止する目的で、酸化防止剤を添加することが望ましい。感光体表面の機械的強度を高め、感光体が長寿命になると、感光体が酸化性ガスに長い時間接触することになるため、従来より強い酸化耐性が要求される。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系又はヒンダードアミン系が望ましく、有機イオウ系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系酸化防止剤、チオウレア系酸化防止剤、ベンズイミダゾール系酸化防止剤、などの公知の酸化防止剤を用いてもよい。酸化防止剤の添加量としては20質量%以下が望ましく、10質量%以下がより望ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナマイド、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2−t−ブチル−6−(3−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0155】
更に、保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、保護層の残留電位を下げる目的、又は強度を向上させる目的で、各種粒子を添加してもよい。
粒子の一例として、ケイ素含有粒子が挙げられる。ケイ素含有粒子とは、構成元素にケイ素を含む粒子であり、具体的には、コロイダルシリカ及びシリコーン粒子等が挙げられる。ケイ素含有粒子として用いられるコロイダルシリカは、平均粒径1nm以上100nm以下、望ましくは10nm以上30nm以下のシリカを、酸性若しくはアルカリ性の水分散液、アルコール、ケトン、又はエステル等の有機溶媒中に分散させたものから選ばれ、一般に市販されているものを使用してもよい。保護層中のコロイダルシリカの固形分含有量は、特に限定されるものではないが、製膜性、電気特性、強度の面から、電荷輸送性組成物(溶媒を除く全固形分質量)に対して、0.1質量%以上50質量%以下、望ましくは0.1質量%以上30質量%以下の範囲で用いられる。
ケイ素含有粒子として用いられるシリコーン粒子は、シリコーン樹脂粒子、シリコーンゴム粒子、シリコーン表面処理シリカ粒子から選ばれ、一般に市販されているものが使用される。これらのシリコーン粒子は球状で、その平均粒径は望ましくは1nm以上500nm以下、より望ましくは10nm以上100nm以下である。シリコーン粒子は、化学的に不活性で、樹脂への分散性に優れる小径粒子であり、更に十分な特性を得るために必要とされる含有量が低いため、架橋反応を阻害することなく、電子写真感光体の表面性状が改善される。すなわち、強固な架橋構造中にバラツキが生じることなくに取り込まれた状態で、電子写真感光体表面の潤滑性、撥水性を向上させ、長期にわたって良好な耐磨耗性、耐汚染物付着性が維持される。
保護層中のシリコーン粒子の含有量は、電荷輸送性組成物(溶媒を除く全固形分質量)に対して、望ましくは0.1質量%以上30質量%以下、より望ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。
【0156】
また、その他の粒子としては、四フッ化エチレン、三フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のフッ素系粒子や“第8回ポリマー材料フォーラム講演予稿集 p89”に示される如く、フッ素樹脂と水酸基を有するモノマーを共重合させた樹脂からなる粒子、ZnO−Al、SnO−Sb、In−SnO、ZnO−TiO、ZnO−TiO、MgO−Al、FeO−TiO、TiO、SnO、In、ZnO、MgO等の半導電性金属酸化物が挙げられる。また、同様な目的でシリコーンオイル等のオイルを添加してもよい。シリコーンオイルとしては、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、フェニルメチルシロキサン等のシリコーンオイル;アミノ変性ポリシロキサン、エポキシ変性ポリシロキサン、カルボキシル変性ポリシロキサン、カルビノール変性ポリシロキサン、メタクリル変性ポリシロキサン、メルカプト変性ポリシロキサン、フェノール変性ポリシロキサン等の反応性シリコーンオイル;ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等の環状ジメチルシクロシロキサン類;1,3,5−トリメチル−1.3.5−トリフェニルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチル−1,3,5,7,9−ペンタフェニルシクロペンタシロキサン等の環状メチルフェニルシクロシロキサン類;ヘキサフェニルシクロトリシロキサン等の環状フェニルシクロシロキサン類;(3,3,3−トリフルオロプロピル)メチルシクロトリシロキサン等のフッ素含有シクロシロキサン類;メチルヒドロシロキサン混合物、ペンタメチルシクロペンタシロキサン、フェニルヒドロシクロシロキサン等のヒドロシリル基含有シクロシロキサン類;ペンタビニルペンタメチルシクロペンタシロキサン等のビニル基含有シクロシロキサン類等が挙げられる。
【0157】
また、保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物には、金属、金属酸化物及びカーボンブラック等を添加してもよい。金属としては、アルミニウム、亜鉛、銅、クロム、ニッケル、銀及びステンレス等、又はこれらの金属をプラスチックの粒子の表面に蒸着したもの等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化ビスマス、スズをドープした酸化インジウム、アンチモンやタンタルをドープした酸化スズ及びアンチモンをドープした酸化ジルコニウム等が挙げられる。これらは単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせて用いる場合は、単に混合しても、固溶体や融着の形にしてもよい。導電性粒子の平均粒径は保護層の透明性の点で0.3μm以下、特に0.1μm以下が望ましい。
【0158】
保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物は、保護層形成用塗布液として調製されることが好ましく、この保護層形成用塗布液は、無溶媒であってもよいし、必要に応じて、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類等の溶剤を含有していてもよい。
かかる溶剤は1種を単独で又は2種以上を混合して使用可能であるが、望ましくは沸点が100度以下のものである。溶剤としては、特に、少なくとも1種以上の水酸基を持つ溶剤(例えば、アルコール類等)を用いることが望ましい。
【0159】
保護層を形成するために用いる電荷輸送性組成物からなる保護層形成用塗布液は、電荷輸送層の上に、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法により塗布され、必要に応じて、例えば、温度100度以上170度以下で加熱して重合(硬化)させることで、膜が得られる。その結果、この膜からなる保護層が得られる。
なお、保護層形成用塗布液の重合(硬化)中の酸素濃度は1%以下が望ましく、1000ppm以下がより望ましく、500ppm以下が更に望ましい。
【0160】
以上、電子写真感光体として機能分離型の例を説明したが、図2に示される単層型感光層6(電荷発生/電荷輸送層)中の電荷発生材料の含有量は、10質量%以上85質量%以下程度、望ましくは20質量%以上50質量%以下である。また、電荷輸送性材料の含有量は5質量%以上50質量%以下とすることが望ましい。単層型感光層6(電荷発生/電荷輸送層)の形成方法は、電荷発生層や電荷輸送層の形成方法と同様である。単層型感光層(電荷発生/電荷輸送層6の膜厚は5μm以上50μm以下程度が望ましく、10μm以上40μm以下とするのが更に望ましい。
【0161】
また、本実施形態では、前述した電荷輸送性層からなる最表面層が保護層である形態を説明したが、保護層がない層構成の場合には、その層構成において最表面に位置する電荷輸送層が該最表面層となり、当該層に電荷輸送性層を適用してもよい。
また、保護層があっても、その下層の電荷輸送層として前述した電荷輸送性層を適用してもよい。
【0162】
〔画像形成装置/プロセスカートリッジ〕
図4は、実施形態に係る画像形成装置100を示す概略構成図である。
図4に示される画像形成装置100は、電子写真感光体7を備えるプロセスカートリッジ300と、露光装置(静電潜像形成手段)9と、転写装置(転写手段)40と、中間転写体50と、を備える。なお、画像形成装置100において、露光装置9はプロセスカートリッジ300の開口部から電子写真感光体7に露光可能な位置に配置されており、転写装置40は中間転写体50を介して電子写真感光体7に対向する位置に配置されており、中間転写体50はその一部が電子写真感光体7に接触して配置されている。
ここで、電子写真感光体7として、前述した本実施形態に係る電子写真感光体が用いられる。本実施形態に係る電子写真感光体は、前述したように、長期に亘り繰り返し使用しても電気特性の劣化が抑制されるので、この電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジ、及び画像形成装置は、長期に亘り安定した画像を提供しうる。
【0163】
図4におけるプロセスカートリッジ300は、ハウジング内に、電子写真感光体7、帯電装置(帯電手段)8、現像装置(現像手段)11、及びクリーニング装置13を一体に支持している。クリーニング装置13は、クリーニングブレード(クリーニング部材)を有しており、クリーニングブレード131は、電子写真感光体7の表面に接触するように配置されている。
なお、プロセスカートリッジ300は、電子写真感光体7を備え、画像形成装置に着脱される構成であれば、特に制限はなく、必要に応じて電子写真感光体7以外の装置(例えば、帯電装置(帯電手段)8、現像装置(現像手段)11、及びクリーニング装置13から選択される一つ)を電子写真感光体7と共に一体に支持した構成であってもよい。
【0164】
また、図4では、クリーニング装置13として、潤滑材14を感光体7の表面に供給する繊維状部材132(ロール状)を備え、また、クリーニングをアシストする繊維状部材133(平ブラシ状)を用いた例を示してあるが、これらは必要に応じて使用される。
【0165】
帯電装置8としては、例えば、導電性又は半導電性の帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電フィルム、帯電ゴムブレード、帯電チューブ等を用いた接触型帯電器が使用される。また、非接触方式のローラ帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器等のそれ自体公知の帯電器等も使用される。
【0166】
なお、図示しないが、画像の安定性を高める目的で、電子写真感光体7の周囲には、電子写真感光体7の温度を上昇させ、相対温度を低減させるための感光体加熱部材を設けてもよい。
【0167】
露光装置9としては、例えば、感光体7表面に、半導体レーザ光、LED光、液晶シャッタ光等の光を、所望の像様に露光する光学系機器等が挙げられる。光源の波長は感光体の分光感度領域にあるものが使用される。半導体レーザーの波長としては、780nm付近に発振波長を有する近赤外が主流である。しかし、この波長に限定されず、600nm台の発振波長レーザーや青色レーザーとして400nm以上450nm以下近傍に発振波長を有するレーザーも利用してもよい。また、カラー画像形成のためにはマルチビーム出力が可能なタイプの面発光型のレーザー光源も有効である。
【0168】
現像装置11としては、例えば、磁性若しくは非磁性の一成分系現像剤又は二成分系現像剤等を接触又は非接触させて現像する一般的な現像装置を用いて行ってもよい。その現像装置としては、上述の機能を有している限り特に制限はなく、目的に応じて選択される。例えば、上記一成分系現像剤又は二成分系現像剤をブラシ、ローラ等を用いて感光体7に付着させる機能を有する公知の現像器等が挙げられる。中でも現像剤を表面に保持した現像ローラを用いるものが望ましい。
【0169】
転写装置40としては、例えば、ベルト、ローラ、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等のそれ自体公知の転写帯電器が挙げられる。
【0170】
中間転写体50としては、半導電性を付与したポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ゴム等のベルト状のもの(中間転写ベルト)が使用される。また、中間転写体50の形態としては、ベルト状以外にドラム状のものを用いられる。
【0171】
画像形成装置100は、上述した各装置の他に、例えば、感光体7に対して光除電を行う光除電装置を備えていてもよい。
【0172】
図5は、他の実施形態に係る画像形成装置120を示す概略断面図である。
図5に示される画像形成装置120は、プロセスカートリッジ300を4つ搭載したタンデム方式のカラー画像形成装置である。
画像形成装置120では、中間転写体50上に4つのプロセスカートリッジ300がそれぞれ並列に配置されており、1色に付き1つの電子写真感光体が使用される構成となっている。なお、画像形成装置120は、タンデム方式であること以外は、画像形成装置100と同様の構成を有している。
【0173】
本実施形態に係る画像形成装置は、上記構成に限られず、他の周知の方式の画像形成装置を適用してもよい。
【実施例】
【0174】
以下実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0175】
[合成例1:CTM−39の合成]
例示化合物であるCTM−39について、以下のスキームにて合成した。
【0176】
【化30】



【0177】
三つ口フラスコに、上記化合物(1)25g、トルエン250ml、EthylMaronate12.8gを採取、溶解させた。その後、ピペリジン3.4g、酢酸3.6gを加え130℃で2時間撹拌した。さらにピペリジン0.68g、酢酸0.72gを加え130℃で1時間撹拌した。その後室温まで冷却しトルエン250mlを加え、有機層を蒸留水250mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=10/1)にて精製し、オイル状の上記化合物(2)33.3gを得た。
続いて、ナス型フラスコに、オイル状の上記化合物(2)33.3gをとり、テトラヒドロフラン(THF)200mlに溶解させ、エタノール50ml、10%Pd/C2gを加え、水素ガス供給元につなぎ24時間撹拌し、減圧下溶剤を留去した。その後、カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状の上記化合物(3)32.3gを得た。
【0178】
そして、ナス型フラスコに、オイル状の上記化合物(3)25gをとり、THF200ml、エタノール50mlに溶解させ、水酸化ナトリウム8.7gを蒸留水25mlに溶解させたものを、0℃にて徐々に滴下し、室温にて2時間撹拌した。析出した固体をトルエン100mlで2回洗浄した。その後、その個体とDMF200ml、クロロメチルスチレン40gを室温で15分、70℃で7時間撹拌した。その後室温まで冷却し、トルエン500mlを加え、有機層を蒸留水500mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状の化合物CTM−39を27.1g得た。
得られたCTM−39は、IRスペクトルにより構造を同定した。
CTM−39 のIRスペクトルデータを、図7に示す。
【0179】
[合成例2:CTM−40の合成]
例示化合物であるCTM−40について、以下のスキームにて合成した。
【0180】
【化31】



【0181】
合成例1と同様な方法で合成した上記化合物(3)25gを、THF250mlに溶解し水素化アルミニウムリチウム8.9gを加え室温にて2時間撹拌した。その後水500ml、トルエン1Lを加え、セライトを敷いたろ紙で固形分をろ別した。さらに有機層を蒸留水500mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後ヘキサン20ml、酢酸エチル30mlから再結晶し淡桃色の固体状の上記化合物(4)18.5gを得た。
続いて、固体状の上記化合物(4)16.5gをTHF200mlに溶解し4−クロロメチルスチレン18g、カリウム tert−ブトキシド11.9gを徐々に加え、70℃で16時間撹拌した。その後室温まで冷却しトルエン250mlを加え、有機層を蒸留水250mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状のCTM−40を20.3g得た。
得られたCTM−40は、IRスペクトルにより構造を同定した。
CTM−40のIRスペクトルデータを、図8に示す。
【0182】
[合成例3:CTM−44の合成]
例示化合物であるCTM−44について、以下のスキームにて合成した。
【0183】
【化32】



【0184】
三つ口フラスコに、上記化合物(5)25g、トルエン250ml、EthylMaronate 12.8gを採取、溶解させた。その後、ピペリジン3.4g、酢酸3.6gを加え130℃で2時間撹拌した。さらにピペリジン0.68g、酢酸0.72gを加え130℃で1時間撹拌した。その後室温まで冷却しトルエン250mlを加え、有機層を蒸留水250mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状の上記化合物(6)31.2gを得た。
続いて、ナス型フラスコにオイル状の上記化合物(6)31.2gをとり、THF200mlに溶解させ、エタノール50ml、10%Pd/C2gを加え、水素ガス供給元につなぎ24時間撹拌し、減圧下溶剤を留去した。その後、カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状の上記化合物(7)29.8gを得た。
【0185】
そして、ナス型フラスコにオイル状の上記化合物(7)25gをとり、THF200ml、エタノール50mlに溶解させ、水酸化ナトリウム8.7gを蒸留水25mlに溶解させたものを、0℃にて徐々に滴下し、室温にて2時間撹拌した。析出した固体をトルエン100mlで2回洗浄した。その後、その個体とDMF200ml、クロロメチルスチレン40gを室温で15分、70℃で7時間撹拌した。その後室温まで冷却し、トルエン500mlを加え、有機層を蒸留水500mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状の化合物CTM−44を25.3g得た。
得られたCTM−44は、IRスペクトルにより構造を同定した。
CTM−44のIRスペクトルデータを、図9に示す。
【0186】
[合成例4:CTM−45の合成]
例示化合物であるCTM−45について、以下のスキームにて合成した。
【0187】
【化33】



【0188】
合成例3と同様な方法で合成した上記化合物(7)25gをTHF250mlに溶解し水素化アルミニウムリチウム9.2gを加え室温にて2時間撹拌した。その後水500ml、トルエン1Lを加え、セライトを敷いたろ紙で固形分をろ別した。さらに有機層を蒸留水500mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=2/1)にて精製し、オイル状の上記化合物(8)17.8gを得た。
続いて、オイル状の上記化合物(8)16.0gをTHF200mlに溶解し4−クロロメチルスチレン17.5g、カリウムtert−ブトキシド11.2gを徐々に加え、70℃で16時間撹拌した。その後室温まで冷却しトルエン250mlを加え、有機層を蒸留水250mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状のCTM−45を18.7g得た。
得られたCTM−45は、IRスペクトルにより構造を同定した。
CTM−45のIRスペクトルデータを、図10に示す。
【0189】
[合成例5:CTM−46の合成]
例示化合物であるCTM−46について、以下のスキームにて合成した。
【0190】
【化34】



【0191】
合成例3と同様に上記化合物(5)から上記化合物(6)を合成した。
ナス型フラスコにオイル状の上記化合物(6)27.5gをとり、THF200ml、エタノール50mlに溶解させ、水酸化ナトリウム8.7gを蒸留水25mlに溶解させたものを、0℃にて徐々に滴下し、室温にて2時間撹拌した。二層に分離した下層をトルエン100mlで2回洗浄した。その後、その下層とDMF200ml、クロロメチルスチレン40gを室温で15分、70℃で7時間撹拌した。その後室温まで冷却し、酢酸エチル500mlを加え、有機層を蒸留水500mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状の化合物CTM−46を18.4g得た。
得られたCTM−46は、IRスペクトルにより構造を同定した。
CTM−46のIRスペクトルデータを、図11に示す。
【0192】
[合成例6:CTM−71の合成]
例示化合物であるCTM−71について、以下のスキームにて合成した。
【0193】
【化35】

【0194】
三つ口フラスコに、上記化合物(9)25g、トルエン350ml、EthylMaronate22.1gを採取した。その後、ピペリジン1.56g、酢酸1.65gを加え130℃で2.5時間撹拌した。さらにピペリジン0.78g、酢酸0.83gを加え130℃で1時間撹拌した。その後室温まで冷却しトルエン500mlを加え、有機層を蒸留水500mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=10/1)にて精製し、オイル状の上記化合物(10)28.5gを得た。
続いて、ナス型フラスコに、オイル状の上記化合物(10)28.5gをとり、THF200mlに溶解させ、エタノール25ml、10%Pd/C2gを加え、水素ガス供給元につなぎ24時間撹拌し、減圧下溶剤を留去した。その後、カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状の上記化合物(11)27.1gを得た。
そして、化合物(11)27.1gを、THF250mlに溶解し水素化アルミニウムリチウム6.2gを加え室温にて2時間撹拌した。その後水500ml、酢酸エチル1Lを加え、セライトを敷いたろしで固形分をろ別した。さらに有機層を蒸留水500mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後ラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:酢酸エチル)にて精製し、オイル状の上記化合物(12)19.1gを得た。
続いて、上記化合物(12)19.1gをTHF200mlに溶解し4−クロロメチルスチレン23.7gカリウム tert−ブトキシド17.4gを徐々に加え、70℃で16時間撹拌した。その後室温まで冷却しトルエン250mlを加え、有機層を蒸留水250mlで3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧下溶剤を留去した。その後カラムクロマトグラフィー(吸着剤:シリカゲル、溶剤:トルエン/酢酸エチル=20/1)にて精製し、オイル状のCTM−71を20.3g得た。
【0195】
得られたCTM−71は、IRスペクトルにより構造を同定した。
CTM−71のIRスペクトルデータを、図12に示す。
【0196】
[実施例1]
(電子写真感光体の作製)
−下引層の作製−
酸化亜鉛:(平均粒子径70nm:テイカ社製:比表面積値15m/g)100質量部をトルエン500質量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(KBM503:信越化学社製)1.3質量部を添加し、2時間攪拌した。その後トルエンを減圧蒸留にて留去し、120℃で3時間焼き付けを行い、シランカップリング剤で表面処理を施した酸化亜鉛を得た。
表面処理を施した酸化亜鉛110質量部を500質量部のテトラヒドロフランと攪拌混合し、アリザリン0.6質量部を50質量部のテトラヒドロフランに溶解させた溶液を添加し、50℃にて5時間攪拌した。その後、減圧ろ過にてアリザリンを付与させた酸化亜鉛をろ別し、更に60℃で減圧乾燥を行い、アリザリンを付与させた酸化亜鉛を得た。
【0197】
このアリザリンを付与させた酸化亜鉛:60質量部と、硬化剤(ブロック化イソシアネート スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製):13.5質量部と、ブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学社製):15質量部と、をメチルエチルケトン85質量部に混合した液38質量部とメチルエチルケトン:25質量部とを混合し、直径1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて2時間の分散を行い、分散液を得た。
得られた分散液に触媒としてジオクチルスズジラウレート:0.005質量部、及びシリコーン樹脂粒子(トスパール145、GE東芝シリコーン社製):40質量部を添加し、下引層形成用塗布液を得た。この塗布液を浸漬塗布法にてアルミニウム基材上に塗布し、175℃、40分の乾燥硬化を行い、厚さ22μmの下引層を得た。
【0198】
−電荷発生層の作製−
電荷発生物質としてのCukα特性X線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.3゜,16.0゜,24.9゜,28.0゜の位置に回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン15質量部、結着樹脂としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂(VMCH、日本ユニカー社製)10質量部、及びn−酢酸ブチル200質量部からなる混合物を、直径1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間分散した。得られた分散液にn−酢酸ブチル175質量部、及びメチルエチルケトン180質量部を添加し、攪拌して電荷発生層形成用塗布液を得た。この電荷発生層形成用塗布液を下引層上に浸漬塗布し、常温(25℃)で乾燥して、膜厚が0.15μmの電荷発生層を形成した。
【0199】
−電荷輸送層の作製−
N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’]ビフェニル−4,4’−ジアミン(以下、「TPD」と表記)48質量部、及びビスフェノールZポリカーボネート樹脂(以下、「PCZ500」と表記、粘度平均分子量:5万)52質量部をクロルベンゼン800質量部に加えて溶解し、電荷輸送層形成用塗布液を得た。この塗布液を電荷発生層上に塗布し、130℃、45分の乾燥を行って膜厚が22μmの電荷輸送層を形成した。
【0200】
−保護層の作製−
一般式(I)で表される化合物(前記例示化合物CTM−9)20質量部を、安定剤不含テトラヒドロフラン(THF)15質量部、及びシクロペンチルメチルエーテル15質量部に溶解し、更に開始剤V−601(和光純薬社製)3.8質量部を溶解させ保護層形成用塗布液を得た。この塗布液を電荷輸送層上に塗布し、酸素濃度約80ppmの雰囲気下で155℃、40分加熱し、厚み7μmの保護層を形成した。
以上のような方法で、電子写真感光体を得た。この感光体を感光体1とする。
【0201】
(評価)
(1)帯電電位(表面電位)及び残留電位の測定
得られた電子写真感光体を、高温、高湿下(28℃、67%RH)で下記工程(A)〜(C)に供した。
(A):グリッド印加電圧−700Vのスコロトロン帯電器で電子写真感光体を帯電させる工程
(B):工程(A)の1秒後に波長780nmの半導体レーザーを用いて10.0erg/cmの光を照射する露光工程
(C):工程(A)の3秒後に50.0erg/cmの赤色LED光を照射する除電工程
このとき、レーザープリンター改造スキャナーを用いて、上記の工程を100kcycle繰り返した。
【0202】
初期および100Kcycle後のVH(工程(A)にて帯電された後の感光体の表面電位)、VL(工程(B)にて露光された後の感光体の表面電位)、及びVRP(工程(C)にて除電された後の感光体の表面電位(残留電位))を測定し、初期のVH、VL、及びVRP、初期からの変動量ΔVH、ΔVL、及びΔVRPを求めた。
なお、表面電位(残留電位)の測定には、表面電位計 MODEL344 (トレックジャパン社製)を用いた。
【0203】
評価指標は以下の通りである。
(VLの評価指標)
A:−240V以上
B:−280V以上−240V未満
C:−300V以上−280V未満
D:−300V未満
(VRPの評価指標)
A:−130V以上
B:−150V以上−130V未満
C:−170V以上−150V未満
D:−170V未満
(ΔVH、ΔVL、及びΔVRPの評価指標)
A:10V以下
B:10Vより大きく20V以下
C:20Vより大きく30V以下
D:30Vより大きい
これらの結果を表4に示す。
【0204】
(2)初期画質評価:ゴーストの評価
作製した電子写真感光体を富士ゼロックス社製「Docu Centre−III C7600(K色)」に装着し、28℃、67%RHの環境下において、以下のようにしてゴーストの評価(テスト1)を行った。
なお、この評価には、富士ゼロックス社製 P紙(A4サイズ、短手方向送り)を用いた。
【0205】
−ゴーストの評価−
ゴーストは、図6(A)に示したGと黒領域を有するパターンのチャートをプリントし、黒領域部分にGの文字の現れ具合を目視にて評価した。
A:図6(A)のように良好乃至軽微である。
B:図6(B)のように若干目立つ程度である
C:図6(C)のようにはっきり確認されることを示す。
【0206】
(3)プリントテスト後画質評価:ゴーストの評価
作製した電子写真感光体を富士ゼロックス社製「Docu Centre−III C7600(K色)」に装着し、28℃、67%RHの環境下において、15%ハーフトーンのプリントテストを1万枚行った。
その後、28℃、67%RHの環境下において、上記と同様にしてゴーストの評価(テスト2)を行った。
【0207】
(4)初期表面観察
前記(2)初期画質評価:ゴーストの評価時の電子写真感光体の表面を観察し、以下のようにして表面観察(テスト1)を行った。
【0208】
−表面観察−
電子写真感光体表面を観察し、以下のように評価した。
A:20倍に拡大しても傷、付着ともに見らせず良好。
B:20倍に拡大すると付着物が見られる
C:20倍に拡大するとわずかな傷が見られる
D:肉眼でもわずかに傷、若しくは付着物が見られる。
E:肉眼でもはっきりと傷、若しくは付着物が見られる。
【0209】
(5)プリントテスト後の表面観察
前記(3)プリントテスト後画質評価:ゴーストの評価時の電子写真感光体の表面を観察し、上記と同様にして表面観察(テスト2)を行った。
【0210】
[実施例2〜15、比較例1]
(電子写真感光体の作製)
電荷輸送層までは実施例1と同様に作製し、保護層の形成に用いられる材料の組成を表3のように変更して、保護層形成用塗布液を得た。それぞれの塗布液を電荷輸送層上に塗布し、酸素濃度約80ppmの雰囲気下で155℃、40分加熱し、厚さ7μmの保護層を形成した。
以上のような方法で、電子写真感光体を得た。この感光体を感光体2〜15、比較感光体R1とする。
ここで、比較例1において電荷輸送能を有する化合物として用いられたRef CT−1を、以下に示す。
【0211】
【化36】



【0212】
(評価)
得られた感光体について、実施例1と同様な評価を行った。結果を表4に示す。
【0213】
【表3】



【0214】
【表4】




【0215】
上記結果から、本実施例は、比較例に比べ、VL及びVRPに優れ、初期からの変動量ΔVH、ΔVL、及びΔVRPも優れることが分かる。
また、本実施例は、比較例に比べ、初期及びプリントテスト後におけるゴーストにも優れ、プリントテスト後における表面観察において良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0216】
1 下引層、2 電荷発生層、3 電荷輸送層、4 導電性基体、5 保護層、6 単層型感光層、7A、7B、7C、7 電子写真感光体、8 帯電装置、9 露光装置、11 現像装置、13 クリーニング装置、14 潤滑材、40 転写装置、50 中間転写体、100 画像形成装置、120 画像形成装置、300 プロセスカートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物の重合体を含有する電荷輸送性層を備えた電子写真感光体。
【化1】



〔一般式(I)中、Fは電荷輸送性サブユニットを示し、Lはアルキレン基、−C=C−(アルケニル基)、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は4価の基からなる群より選択される2種以上を組み合わせてなる(n+1)価の連結基を示し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。mは1以上6以下の整数を示し、nは2以上3以下の整数を示す。〕
【請求項2】
前記一般式(I)で表される化合物が下記一般式(II)で表される化合物である請求項1に記載の電子写真感光体。
【化2】



〔一般式(II)中、Ar乃至Arはそれぞれ独立に置換若しくは未置換のアリール基を示し、Arは置換若しくは未置換のアリール基、又は置換若しくは未置換のアリーレン基を示し、Dは上記一般式(III)で表される基を示す。kは0又は1を示し、c1〜c5はそれぞれ0〜2の整数を示し、c1〜c5の全てが同時に0になることはない。
上記一般式(III)中、Lはアルキレン基、−C=C−(アルケニル基)、−C(=O)−、−N(R)−、−O−、−S−、及びアルカン若しくはアルケンから誘導される3価又は4価の基からなる群より選択される2種以上を組み合わせてなる(n+1)価の連結基を示し、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。nは2以上3以下の整数を示す。〕
【請求項3】
前記一般式(I)で表される化合物中の下記部分構造、及び前記一般式(III)で表される基が、下記一般式(IV−1)で表される基又は一般式(IV−2)で表される基である請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体。
【化3】



〔一般式(IV−1)及び(IV−2)中、Xは連結基を示し、pは0又は1を示す。なお、上記部分構造において波線はFで示される電荷輸送性サブユニットとの結合部位を示す。〕
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物中の下記部分構造、及び前記一般式(III)で表される基が、下記一般式(V−1)で表される基又は一般式(V−2)で表される基である請求項1又は請求項2に記載の電子写真感光体。
【化4】



〔一般式(V−1)及び(V−2)中、X’は連結基を示し、p’は0又は1を示す。なお、上記部分構造において波線はFで示される電荷輸送性サブユニットとの結合部位を示す。〕
【請求項5】
前記電荷輸送性層を最表面層として備えた請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記電荷輸送性層が熱ラジカル発生剤又はその誘導体を更に含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の電子写真感光体を備え、
画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジ。
【請求項8】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、
帯電した前記電子写真感光体に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
前記電子写真感光体に形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を被転写体に転写する転写手段と、
を備える画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−61640(P2013−61640A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180681(P2012−180681)
【出願日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】