説明

電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジ及び電子写真装置

【課題】 高温高湿環境下において長期間繰り返し使用しても電位変動が抑制され、かつ、長期間繰り返し使用しても黒点の発生が抑制された電子写真感光体およびその製造方法、ならびに、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。
【解決手段】 支持体、該支持体上に設けられた下引き層、及び該下引き層上に設けられた感光層を有する電子写真感光体において、該下引き層が、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、アミノシランカップリング剤で特定量表面処理された金属酸化物粒子と、結着樹脂とを含有する電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に用いられる電子写真感光体として、支持体と、金属酸化物粒子を含有する下引き層と、下引き層上に形成された電荷発生物質および電荷輸送物質を含有する感光層とを有する電子写真感光体が用いられている。
【0003】
下引き層に用いられる金属酸化物粒子は、支持体から感光層側への電荷注入による黒点状の画像欠陥を抑制するため、シランカップリング剤を用いて表面処理することが行われている。
【0004】
しかしながら、表面処理された金属酸化物粒子を用いた下引き層においては、下引き層の抵抗が上昇し、繰り返し使用時の電位変動(明部電位の変動など)が顕著になりやすい。
【0005】
そこで、明部電位の変動を抑制する技術としては、特許文献1には、置換もしくは無置換のアミノ基を有するシランカップリング剤(アミノシランカップリング剤)で表面処理した金属酸化物粒子を下引き層に含有される技術が開示されている。特許文献2には、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子にアクセプター性化合物(有機化合物)を付与したものを下引き層に含有させる技術が開示されている。また、特許文献3には、複数の下引き層のそれぞれにシランカップリング剤を含有させ、支持体側の下引き層でシランカップリング剤の濃度をより高くする技術が開示されている。
【0006】
また、近年、電子写真装置は、デジタル複写機やレーザービームプリンター等のレーザーダイオードを光源として用いて露光を行うようになっている。そのため、支持体の表面形状や、電子写真感光体の各層の膜厚ムラなどの要因によって、干渉縞が発生しやすい。この干渉縞を抑制する技術として、特許文献4には、下引き層にシリコーン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子などの有機樹脂粒子を含有させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−191868号公報
【特許文献2】特開2006−30700号公報
【特許文献3】特開2008−65171号公報
【特許文献4】特開昭63−163468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、下引き層に金属酸化物粒子を含有させると、金属酸化物粒子の表面に親水性の水酸基などが存在するため、水分の付着が起こりやすく、抵抗変動が生じやすい。そして、高湿環境下においては、金属酸化物粒子に水分が付着して、金属酸化物粒子の抵抗が上昇し、繰り返し使用時の電位変動が生じやすい。特に、高温高湿環境下(例えば、30℃/85%RH以上の高温高湿環境)では、電子写真装置内に多くの水分が存在することにより、長期間の繰り返し使用時の電位変動が顕著に発生しやすい。引用文献1から3に記載の技術は、金属酸化物粒子をアミノシランカップリング剤で表面処理して疎水化することで、電位変動はある程度抑制することはできるが、高温高湿環境下においては、長期間の繰り返し使用時の電位変動を十分に抑制できているものではなかった。
【0009】
また、本発明者らが検討を進めた結果、さらに、干渉縞を抑えることを目的として、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子とシリコーン樹脂粒子とを下引き層に含有させると、凝集がおこり、黒点などの画像欠陥が発生しやすくなることが分かった。
【0010】
本発明の目的は、高温高湿環境下において長期間繰り返し使用しても電位変動が抑制され、かつ、長期間繰り返し使用しても黒点の発生が抑制された電子写真感光体、ならびに、該電子写真感光体の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。
支持体、該支持体上に設けられた下引き層、及び該下引き層上に設けられた感光層を有する電子写真感光体において、
該下引き層が、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子と、結着樹脂とを含有し、
該金属酸化物粒子の質量に対する該アミノシランカップリング剤の質量の割合(質量%)をAとし、該金属酸化物粒子の比表面積(m/g)をBとしたとき、A/Bで定義される表面処理量が下記式(1)を満足することを特徴とする電子写真感光体に関する。
0.010≦A/B≦0.060・・・(1)
【0012】
また、本発明は、前記電子写真感光体の製造方法であって、前記架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、前記アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子、および結着樹脂を含有する下引き層用塗布液の塗膜を乾燥させることにより前記下引き層を形成する工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、前記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であるプロセスカートリッジに関する。
【0014】
また、本発明は、前記電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有する電子写真装置に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高温高湿環境下において長期間繰り返し使用時の電位変動と黒点の発生の抑制に優れた電子写真感光体を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、前記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ、および電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電子写真感光体の層構成の例を示す図である。
【図2】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の電子写真感光体は、例えば図1に示すように、支持体、該支持体上に設けられた下引き層、および該下引き層上に設けられた感光層を有する。図1中、101は支持体であり、102は下引き層であり、103は感光層である。
【0018】
そして、本発明の電子写真感光体は、
該下引き層が、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子と、結着樹脂とを含有し、
該金属酸化物粒子の質量に対する該アミノシランカップリング剤の質量の割合(質量%)をAとし、該金属酸化物粒子の比表面積(m/g)をBとしたとき、A/Bで定義される表面処理量が下記式(1)を満足することを特徴とする。
0.010≦A/B≦0.060・・・(1)
【0019】
下引き層に上記式(1)を満足するようにアミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子を含有させることにより、高温高湿環境下において長期間繰り返し使用時の電位変動と黒点の発生の抑制に優れる理由について、本発明者らは以下のように推測している。
【0020】
上記式(1)に関して、A/Bの値が小さい場合は、ある特定の比表面積の金属酸化物粒子に対してアミノシランカップリング剤による表面処理量が少ないことを意味し、アミノシランカップリング剤による表面処理量が多いと、A/Bの値が大きくなる。
【0021】
そして、アミノシランカップリング剤による表面処理量が式(1)の範囲を満足すると、金属酸化物粒子表面への水分の付着が抑制され、長期間繰り返し使用時の電位変動が抑制されていると考えられる
A/Bの値が0.010未満になるような、アミノシランカップリング剤による表面処理量が少ない場合には、金属酸化物粒子表面にもともと存在する親水性の水酸基などがまだ多く存在して親水性が高くなるため、水分の付着により金属酸化物粒子の抵抗が上昇し、繰り返し使用時の電位変動が大きくなりやすい。
【0022】
一方、A/Bの値が0.060を超えるような、アミノシランカップリング剤による表面処理量が多い場合、アミノシランカップリング剤が金属酸化物粒子表面に多くなり、アミノシランカップリング剤の−NH−や、シランアルコキシドが加水分解されて生成するシラノール基や、未反応のアミノシランカップリング剤に水分が付着することにより親水性が増加する。その結果、金属酸化物粒子の抵抗が上昇し、繰り返し使用時の電位変動が大きくなりやすい。
【0023】
したがって、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子が上記式(1)を満足することにより、水分の付着が抑制され、親水性の状態が抑制される。
【0024】
なお、特開2005−258079号公報や上述の特許文献2や3では、比表面積15m/gの金属酸化物粒子に対して、アミノシランカップリング剤の量が1質量%以上と記載されている。これは、A/Bの値が0.067以上の表面処理量であり、本発明のアミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子と比較して、親水性の状態となっている。よって、金属酸化物粒子に水分が付着しやすく、高温高湿環境下において、繰り返し使用時の電位変動が大きくなっていると考えられる。
【0025】
本発明においては、下引き層に、上述のアミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子と、さらに架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を含有させる。これにより、繰り返し使用時の黒点の発生が抑制される。
【0026】
一般的に、親水性の物質同士、疎水性の物質同士は凝集しやすい。本発明のアミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子は、親水性の状態が抑制されている。つまり、本発明のアミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子は比較的疎水性であるため、有機樹脂粒子として親水性の有機樹脂粒子である架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を用いることで、2つの粒子同士(金属酸化物粒子、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子)の凝集が発生しにくくなり、繰り返し使用時の黒点の発生を抑制することができると考えられる。
【0027】
なお、有機樹脂粒子の中でもシリコーン樹脂粒子は、シロキサン結合が3次元に連なった架橋構造をもつため、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子より疎水性の高い粒子である。したがって、本発明のアミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子とシリコーン樹脂粒子とを併用すると、2つの粒子同士が凝集しやすく、それにより繰り返し使用時の黒点の発生が十分に抑制できないと考えられる。
【0028】
これらの理由により、本発明のアミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子と架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を下引き層に含有させることで、繰り返し使用時の電位変動の抑制と黒点の発生の抑制に優れるものと考えられる。
【0029】
本発明において、金属酸化物粒子のアミノシランカップリング剤による表面処理量は、金属酸化物粒子の質量に対するアミノシランカップリング剤の質量の割合(質量%)をAとし、金属酸化物粒子の比表面積(m/g)をBとしたとき、A/Bで定義され、A/Bは上記式(1)を満足する。より好ましくは、A/Bが下記式(2)を満足することであり、繰り返し使用時の明部電位変動の抑制効果がより優れる。
0.025≦A/B≦0.050・・・(2)。
【0030】
アミノシランカップリング剤は、−NH−基を有するシランカップリング剤のことであり、下記式(3)で示される化合物を用いることが好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を示す。Rは、炭素数が1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のアルコキシ基を示す。Rは、下記式(R4−1)、(R4−2)及び(R4−3)のいずれかで示される基を示す。Rは、水素原子、フェニル基、または炭素数1〜3のアルキル基を示す。
【0033】
【化2】

【0034】
式(R4−1)、(R4−2)及び(R4−3)中、mは、1から3の整数である。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキレン基を示す。
【0035】
以下に、本発明に用いられるアミノシランカップリング剤の具体例として、上記式(2)で示される化合物の例を表1に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
【表1】

【0037】
これらの中でも特に、例示化合物(X−1)、(X−7)が、繰り返し使用時の電位変動の抑制、黒点の抑制の観点から好ましい。
【0038】
本発明において、金属酸化物粒子の好ましい比表面積の範囲は、16m/g以上24m/g以下である。この範囲であると、金属酸化物粒子の粒径が適度な大きさになり、金属酸化物粒子同士の凝集による黒点などの画像欠陥が発生をより抑制できる。
【0039】
金属酸化物粒子の種類としては、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化チタンを含有する粒子が好ましい。より好ましくは、酸化亜鉛を含有する粒子である。
【0040】
本発明において、金属酸化物粒子の比表面積は、例えば、島津製作所製の TriStar3000(商品名)を用いて行うことができる。測定用ガラスセル中に金属酸化物粒子200mgを入れ、このセルを150℃で30分間真空乾燥して前処理を行った後、セルを上記の装置に装着して比表面積の測定を行うことが可能である。
【0041】
下引き層に含有させる架橋ポリメタクリル酸メチル粒子は、シリコーン樹脂粒子と比較して親水性である。
【0042】
本発明において、有機樹脂粒子の親水性、疎水性という特徴は、吸水量の測定や、濡れ性として粉体濡れ性試験機(Wet100P(商品名)、レスカ社製)を用いて下記のような方法で測定可能である。
【0043】
まず、ビーカーに入っている純水に有機樹脂粒子を浮遊させて攪拌する。このとき、疎水性の高い有機樹脂粒子の場合、空気を含んだ状態で凝集する。その中に有機溶媒を連続的に一定流量で添加していくと、凝集していた有機樹脂粒子の凝集がほぐれた懸濁液となる。この後、有機樹脂粒子が沈降する状態を、レーザー光を用いて透過光強度の変化として定量し、コンピュータにて処理して流量濃度曲線として算出する。この有機樹脂粒子が沈降し始めたときの有機溶媒の量をもって、有機溶媒との親和性(疎水性)の度合の目安として評価することができる。
【0044】
本発明では、有機溶媒としてメタノールを用い、透過率30%になるメタノール比率から親水性の比較を行った。透過率30%以下になるときのメタノール比率が低いと親水性の傾向を示し、透過率30%以下になるときのメタノール比率が高いと疎水性の傾向を示す。架橋ポリメタクリル酸メチル粒子は、純水中で浮遊させた後、撹拌すると懸濁状態になり、透過率30%以下となるメタノール比率は1.5%と親水性の度合が高かった。一方、シリコーン樹脂粒子の場合は、透過率30%以下となるメタノール比率が42.2%と疎水性の度合が高い粒子である。
【0045】
架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の粒径は、下引き層の膜の均一性の観点から、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは、2.5μm以上3.5μm以下である。2.5μm以上3.5μm以下であれば、適度な粒径を有することにより、黒点の発生を十分に抑制することができる。
【0046】
架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の粒径(数平均粒径)は、光学顕微鏡、レーザー顕微鏡、または走査型電子顕微鏡(SEM)などを用い、100個の架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の直径を測定して、その平均を算出することで求めることができる。
【0047】
本発明において、好ましい、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の含有量は、下引き層(下引き層用塗布液の固形分)の全質量(例えば、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子、および結着樹脂の質量の合計)に対して、1質量%以上15質量%以下である。
【0048】
本発明の下引き層は、さらに結着樹脂を含有する。結着樹脂としてはいずれの樹脂でも良いが、本発明においては硬化性樹脂が好ましい。
【0049】
硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂あるいはポリエステル樹脂などが好ましいが、特に、ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリウレタン樹脂は、ブロックイソシアネートとポリオール樹脂との硬化物である。
【0050】
ブロックイソシアネートとしては、2,4トリレンジイソシアネート、2,6トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレン−トリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレン−イソシアヌレート体、ヘキサメチレン−ビウレット体などをオキシムでブロックしたものが挙げられる。オキシムの例としては、ホルムアルデヒドオキシム、アセトアルドオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムが挙げられる。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
ポリオール樹脂としては、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、アクリルポリオール樹脂、エポキシポリオール樹脂、フッ素系ポリオール樹脂が挙げられる。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
表面処理された金属酸化物粒子と結着樹脂の含有量の比率は、表面処理された金属酸化物粒子:結着樹脂が2:1〜4:1(質量比)であることが好ましい。質量比が2:1〜4:1であると、繰り返し使用時の明部電位変動が十分に抑制される。
【0053】
また、本発明における金属酸化物粒子は、金属酸化物の種類の異なるもの、異なるシランカップリング剤で表面処理しもの、または比表面積の異なる金属酸化物粒子などを2種類以上混合して用いることもできる。
【0054】
下引き層の体積抵抗値は1×10Ωcm以上1×1012Ωcm以下であることが好ましい。
【0055】
この体積抵抗値は、測定対象の下引き層と同じ材料を用いて、アルミニウム板上に被膜を形成し、この皮膜上に金の薄膜を形成して、アルミニウム板と金の薄膜の両方に印加電圧10Vでアルミニウム板と金の薄膜の両電極間を流れる電流値をpAメーターで測定して求めた値である。
【0056】
下引き層の膜厚は、上記電位変動と黒点をより抑える観点から、10μm以上40μm以下であることが好ましく、15μm以上25μm以下であることが好ましい。後述の導電層を設ける場合には、0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上8μm以下であることがより好ましい。
【0057】
次に、本発明の電子写真感光体の構成について述べる。本発明の電子写真感光体は、支持体、該支持体上に形成された下引き層、及び該下引き層上に形成された感光層を有する。
【0058】
感光層は、電荷発生層物質と電荷輸送物質とを単一の層に含有する単層型感光層と、電荷発生物質を含有する電荷発生層と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とに分離した積層型(機能分離型)感光層とが挙げられる。本発明においては、機能分離型(積層型)が好ましい。また、積層型感光層の中でも、電荷発生層および電荷輸送層をこの順に積層するものが好ましい。また、感光層上に更に保護層を形成してもよい。
【0059】
〔支持体〕
支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)である。例えば、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル、亜鉛などの金属または合金が挙げられる。アルミニウムやアルミニウム合金性の支持体の場合は、ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨(電解作用を有する電極と電解質溶液による電解および研磨作用を有する砥石による研磨)、湿式または乾式ホーニング処理したものを用いることもできる。また、金属支持体、樹脂支持体上にアルミニウム、アルミニウム合金、または酸化インジウム−酸化スズ合金等の導電性材料の薄膜を形成したものも挙げられる。
【0060】
支持体の表面には、レーザー光の散乱による干渉縞の抑制などを目的として、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などの施してもよい。
【0061】
また、支持体と下引き層との間には、レーザー光の散乱による干渉縞の抑制や、支持体の傷の被覆などを目的として、導電層を設けてもよい。
【0062】
導電層は、カーボンブラック、金属粒子、金属酸化物粒子などの導電性粒子を結着樹脂および溶剤とともに分散して得られる導電層用塗布液を塗布し、これを加熱乾燥(熱硬化)させることによって形成することができる。
【0063】
導電層に用いられる結着樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
【0064】
導電層用塗布液の溶剤としては、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。導電層の膜厚は、5μm以上40μm以下であることが好ましく、10μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0065】
〔下引き層〕
支持体または導電層と、感光層(電荷発生層)との間には、下引き層が設けられる。
【0066】
下引き層は、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、結着樹脂、および溶剤を含有する下引き層用塗布液を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることにより形成することができる。表面処理された金属酸化物粒子は、上記式(1)を満足する。
【0067】
金属酸化物粒子を表面処理する方法は、どのような方法でもよい。たとえば、乾式法や湿式法が挙げられる。乾式法は、金属酸化物粒子をヘンシェルミキサーのような高速攪拌可能なミキサーの中で攪拌しながら、アミノシランカップリング剤を含有するアルコール水溶液、有機溶媒溶液、または水溶液を添加し、均一に分散させた後に乾燥を行うものである。また、湿式法は、金属酸化物粒子とアミノシランカップリング剤を溶剤中で攪拌、またはガラスビーズ等を用いてサンドミル等を用いて分散するものであり、分散後、ろ過、または減圧留去により溶剤除去が行われる。溶剤の除去後は、さらに100℃以上で焼き付けを行うことが好ましい。
【0068】
下引き層には、さらに添加剤を含有させてもよく、例えば、アルミニウムなど金属粉体、カーボンブラックなどの導電性物質、電子輸送性物質、金属キレート化合物、有機金属化合物などの公知の材料を含有させることができる。
【0069】
下引き層用塗布液に用いられる溶剤としては、アルコール、スルホキシド、ケトン、エーテル、エステル、脂肪族ハロゲン化炭化水素、芳香族化合物などの有機溶剤が挙げられる。本発明においては、アルコール系、ケトン系溶剤を用いることが好ましい。
【0070】
分散方法としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、サンドミル、ロールミル、振動ミル、アトライター、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0071】
〔感光層〕
下引き層上には、感光層(電荷発生層、電荷輸送層)が形成される。
本発明に用いられる電荷発生物質としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、スクワリリウム色素、チアピリリウム塩、トリフェニルメタン色素、キナクリドン顔料、アズレニウム塩顔料、シアニン染料、アントアントロン顔料、ピラントロン顔料、キサンテン色素、キノンイミン色素、スチリル色素などが挙げられる。これら電荷発生物質は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、感度の観点から、オキシチタニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが好ましい。さらに、ヒドロキシガリウムフタロシアニンの中でも、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θの7.4°±0.3°および28.2°±0.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶が好ましい。
【0072】
積層型感光層である場合、電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ブチラール樹脂が好ましい。これらは、単独、混合または共重合体として、1種または2種以上用いることができる。
【0073】
電荷発生層は、電荷発生物質を結着樹脂および溶剤とともに分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
【0074】
分散方法としては、例えば、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル、サンドミル、ロールミル、アトライターを用いた方法が挙げられる。
【0075】
電荷発生層における電荷発生物質と結着樹脂との割合は、結着樹脂1質量部に対して電荷発生物質が0.3質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0076】
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。電荷発生層の膜厚は、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。
【0077】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0078】
積層型感光層を有する電子写真感光体において、電荷発生層上には、電荷輸送層が形成される。
【0079】
本発明で用いられる電荷輸送物質としては、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、スチルベン化合物、ブタジエン化合物などが挙げられる。これら電荷輸送物質は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これら電荷輸送物質の中でも、電荷の移動度の観点から、トリアリールアミン化合物が好ましい。
【0080】
積層型感光層である場合、電荷輸送層に用いられる結着樹脂としては、アクリル樹脂、アクリロニトリル樹脂、アリル樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリルエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリプロピレン樹脂、メタクリル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂が好ましい。これらは、単独、混合または共重合体として、1種または2種以上用いることができる。
【0081】
電荷輸送層における電荷輸送物質と結着樹脂との割合は、結着樹脂1質量部に対して電荷輸送物質が0.3質量部以上10質量部以下であることが好ましい。また、電荷輸送層のクラックを抑制する観点から、乾燥温度は60℃以上150℃以下が好ましく、80℃以上120℃以下がより好ましい。また、乾燥時間は10分以上60分以下が好ましい。
【0082】
電荷輸送層は、電荷輸送物質と結着樹脂を溶剤に溶解させて得られる電荷輸送層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0083】
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
【0084】
電荷輸送層が1層である場合、その電荷輸送層の膜厚は、5μm以上40μm以下であることが好ましく、8μm以上30μm以下であることがより好ましい。電荷輸送層を積層構成とした場合、支持体側の電荷輸送層の膜厚は、5μm以上30μm以下であることが好ましく、表面側の電荷輸送層の膜厚は、1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0085】
また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0086】
また、本発明においては、感光層(電荷輸送層)上に、耐久性、クリーニング性の向上などを目的として、保護層を設けてもよい。
【0087】
保護層は、樹脂を有機溶剤によって溶解させて得られる保護層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
【0088】
保護層に用いられる樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−アクリル酸コポリマー、スチレン−アクリロニトリルコポリマーなどが挙げられる。
【0089】
また、保護層に電荷輸送能を持たせるために、電荷輸送能を有するモノマー材料や高分子型の電荷輸送物質を種々の架橋反応を用いて硬化させることによって保護層を形成してもよい。好ましくは、連鎖重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を重合または架橋させることによって硬化させた層を形成することである。連鎖重合性官能基としては、アクリル基、メタクリル基、アルコキシシリル基、エポキシ基などが挙げられる。硬化させる反応としては、例えば、ラジカル重合、イオン重合、熱重合、光重合、放射線重合(電子線重合)、プラズマCVD法、光CVD法などが挙げられる。
【0090】
さらに、保護層には、導電性粒子、紫外線吸収剤、耐摩耗性改良剤などを必要に応じて添加することもできる。導電性粒子としては、酸化スズ粒子などの金属酸化物が好ましい。耐摩耗性改良剤としては、ポリテトラフルオロエチレン粒子などのフッ素原子含有樹脂粒子、アルミナ、シリカなどが挙げられる。
【0091】
保護層の膜厚は、0.5μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0092】
上記各層の塗布液を塗布する際には、例えば、浸漬塗布法(浸漬コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ローラーコーティング法、マイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0093】
〔電子写真装置〕
図2に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0094】
図2において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度をもって回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面は、回転過程において、帯電手段(一次帯電手段:帯電ローラーなど)3により、負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される目的の画像情報の時系列電気デジタル画像信号に対応して強度変調された露光光(画像露光光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0095】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーで反転現像により現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に給送される。また、転写手段6には、バイアス電源(不図示)からトナーの保有電荷とは逆極性のバイアス電圧が印加される。
【0096】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ搬入されてトナー像の定着処理を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ搬送される。
【0097】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(転写残トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図2に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0098】
本発明において、上記の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6、およびクリーニング手段7などの構成要素の中から複数のものを選択し、これらを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に支持して構成してもよい。そして、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図2では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5、およびクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【0099】
露光光4は、例えば、電子写真装置が複写機やプリンターである場合には、原稿からの反射光や透過光である。あるいは、露光光4は、センサーで原稿を読み取り、信号化し、この信号にしたがって行われるレーザービームの走査、LEDアレイの駆動または液晶シャッターアレイの駆動などにより照射される光である。
【実施例】
【0100】
以下に、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0101】
(実施例1)
支持体として、直径30mm、長さ357.5mmのアルミニウムシリンダーを用いた。
【0102】
次に、金属酸化物粒子として酸化亜鉛粒子(比表面積:19m/g)100部をトルエン500部と撹拌混合し、これにアミノシランカップリング剤として上記表1の(X−7)で示される例示化合物(化合物名:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、商品名:KBM602、信越化学工業(株)製)1.14部を添加し、6時間攪拌した。その後、トルエンを減圧留去して、140℃で6時間加熱乾燥し、表面処理された酸化亜鉛粒子を得た。この(X−7)で示される例示化合物で表面処理された酸化亜鉛粒子において、(X−7)で示される例示化合物の質量は、酸化亜鉛粒子の質量に対して1.14質量%であった。従って、酸化亜鉛粒子の表面処理量(A/B)は、A/B=1.14/19=0.060となる。
【0103】
次に、前記表面処理された酸化亜鉛粒子81部、ポリオール樹脂としてブチラール樹脂(商品名:BM−1、積水化学工業(株)製)15部、およびブロック化イソシアネート(商品名:スミジュール3175、住友バイエルウレタン社製)15部をメチルエチルケトン45部と1−ブタノール45部の混合溶液に混合し、直径0.8mmのガラスビーズを用いてサンドミル装置で23±3℃雰囲気下3時間分散した。分散後、シリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レダウコーニングシリコーン社製)0.01部、架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(商品名:TECHPOLYMER SSX−102、積水化成品工業(株)製、数平均粒径2.7μm)を5.6部添加して、撹拌し、下引き層用塗布液を調製した。この架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の含有量は、下引き層用塗布液の固形分に対して(表面処理された酸化亜鉛粒子、ブチラール樹脂、イソシアネートの合計質量)5質量%である。
【0104】
この下引き層用塗布液を上記支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を160℃で35分間乾燥させて、膜厚が18μmの下引き層を形成した。得られた下引き層を上記体積抵抗率の測定方法で測定したところ、体積抵抗率は2.9×1010Ωcmであった。
【0105】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.5°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部、下記構造式(A)で示される化合物(A)0.1部、およびポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部をシクロヘキサノン250部に添加した。これを、直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃の雰囲気下で3時間分散した。分散後、シクロヘキサノン100部と酢酸エチル450部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生用塗布液を上記下引き層上に浸漬塗布し、これを100℃で10分間乾燥することにより、膜厚が0.18μmの電荷発生層を形成した。
【0106】
【化3】

【0107】
次に、下記構造式(B)示される化合物50部(電荷輸送物質)、下記構造式(C)で示される化合物50部(電荷輸送物質)、およびポリカーボネート樹脂(商品名:ユーピロンZ400、三菱ガス化学(株)製)100部を、モノクロロベンゼン650部とジメトキシメタン150部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を上記電荷発生層上に浸漬塗布し、これを30分間110℃で乾燥させることによって、膜厚が20μmの電荷輸送層を形成した。
【0108】
【化4】

【0109】
次に、下記構造式(D)で示される化合物36部、及びポリテトラフルオロエチレン樹脂微粉末(商品名:ルブロンL−2、ダイキン工業(株)製)4部をn−プロピルアルコール60部に混合した後に超高圧分散機にて分散処理し、保護層用塗布液(第二電荷輸送層用塗布液)を調整した。
【0110】
【化5】

【0111】
この保護層用塗布液を上記電荷輸送層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を5分間50℃で乾燥させた。乾燥後、窒素雰囲気下にて、加速電圧70kV、吸収線量10000Gyの条件で1.6秒間電子線を塗膜に照射した。その後、窒素雰囲気下にて、塗膜が130℃になる条件で1分間加熱処理を行った。なお、電子線の照射から1分間の加熱処理までの酸素濃度は20ppmであった。次に、大気中において、塗膜が110℃になる条件で1時間加熱処理を行い、膜厚5μmの保護層を形成し、電子写真感光体を製造した。
【0112】
(実施例2〜10)
実施例1において、金属酸化物粒子の種類、金属酸化物粒子の比表面積、アミノシランカップリング剤の種類および表面処理量、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の数平均粒径を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。さらに、金属酸化物の表面処理量(A/Bの値)、および下引き層の体積抵抗も表2に示す。
【0113】
(実施例11)
実施例9において、アミノシランカップリング剤を表1に示した(X−13)で示される例示化合物(化合物名:N−3−[アミノ(ポリプロピレンオキシ)]アミノプロピルトリメトキシシラン、商品名:SIA0599.4、Gelest社製)に変更したこと以外は、実施例9と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は2.5×1010Ωcmであった。
【0114】
(実施例12)
実施例5において、下引き層用塗布液に、アミノシランカップリング剤を表1に示した(X−1)で示される例示化合物(化合物名:N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、商品名:KBM603、信越化学工業(株)製)0.8部、1,2−ヒドロキシアントラキノン0.8部を添加し、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の数平均粒径を表2に示すように変更した以外は、実施例5と同様に下引き層用塗布液を調製し、電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は2.6×1010Ωcmであった。
【0115】
(実施例13〜16)
実施例12において、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の数平均粒径を表2に示すように変更したこと以外は、実施例12と同様にして電子写真感光体を製造した。さらに、下引き層の体積抵抗も表2に示す。
【0116】
(実施例17)
実施例1において、ポリオール樹脂とブロックイソシアネートのかわりにレゾール型フェノール樹脂(商品名:プライオーフェンJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、固形分70%)22部を添加し、アミノシランカップリング剤による表面処理量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は2.7×1010Ωcmであった。
【0117】
(実施例18〜21)
実施例17において、金属酸化物粒子の種類、金属酸化物粒子の比表面積、アミノシランカップリング剤による表面処理量を表2に示すように変更した以外は、実施例17と同様にして電子写真感光体を製造した。さらに、金属酸化物の表面処理量(A/Bの値)、および下引き層の体積抵抗も表2に示す。
【0118】
(実施例22)
実施例1において、アミノシランカップリング剤の種類および表面処理量を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は2.8×1010Ωcmであった。
【0119】
(実施例23)
実施例22において、ブロック化イソシアネートを10部、ブチラール樹脂を10部に変更した以外は、実施例22と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は9.0×10Ωcmであった。
【0120】
(実施例24)
実施例22において、ブロック化イソシアネートを11部、ブチラール樹脂を11部に変更した以外は、実施例22と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は1.0×10Ωcmであった。
【0121】
(実施例25)
実施例22において、ブロック化イソシアネートを17部、ブチラール樹脂を17部に変更した以外は、実施例22と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は5.0×1011Ωcmであった。
【0122】
(実施例26)
実施例22において、ブロック化イソシアネートを19部、ブチラール樹脂を19部に変更した以外は、実施例22と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は1.0×1012Ωcmであった。
【0123】
(実施例27)
実施例22において、ブロック化イソシアネートを21部、ブチラール樹脂を21部に変更した以外は、実施例22と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は1.5×1012Ωcmであった。
【0124】
(実施例28)
実施例3において、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノンを0.8部添加した以外は、実施例3と同様にして電子写真感光体を製造した。得られた下引き層の体積抵抗は3.5×1010Ωcmであった。
【0125】
(比較例1)
実施例1において、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子をシリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール145、モメンティブパフォーマンスマテリアルズジャパン社製、平均一次粒径:4.5μm)3.4部、ブロック化イソシアネートを18.2部、ブチラール樹脂を20.3部に変更し、さらに、金属酸化物粒子の種類および比表面積、アミノシランカップリング剤の種類および表面処理量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0126】
(比較例2、3)
実施例1において、アミノシランカップリング剤の種類および表面処理量を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0127】
(比較例4)
実施例1において、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子をシリコーン樹脂粒子(平均一次粒径:4.5μm)5.4部に変更し、さらに、金属酸化物粒子の種類および比表面積、アミノシランカップリング剤の種類および表面処理量を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0128】
(比較例5)
実施例1において、アミノシランカップリング剤を3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM403、信越化学工業(株)製)0.80部、ブチラール樹脂およびブロックイソシアネートの替わりにレゾール型フェノール樹脂22部、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子をシリコーン樹脂粒子(平均一次粒径:4.5μm)5.6部に変更し、さらに金属酸化物粒子の種類および比表面積を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0129】
(比較例6)
実施例1において、ブチラール樹脂およびブロックイソシアネートの替わりにレゾール型フェノール樹脂72部、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子(数平均粒径:4.5μm)を12.1部に変更し、さらに、金属酸化物粒子の種類および比表面積を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。
【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
実施例1〜28、比較例1〜6で製造した電子写真感光体は、以下のような評価方法により評価する。
【0133】
<繰り返し使用時の電位変動の評価>
評価装置としては、キヤノン(株)製の電子写真複写機(商品名:GP405、プロセススピードは300mm/secになるように改造、帯電手段は直流電圧に交流電圧を重畳した電圧をローラー型の接触帯電部材(帯電ローラー)に印加する方式、露光手段はレーザー像露光方式(波長780nm))を用いた。この評価装置のドラムカートリッジに上述の実施例1〜28および比較例1〜6の電子写真感光体をそれぞれ装着して以下のように評価した。
【0134】
温度30℃、湿度85%RHの高温高湿環境下に上記評価装置を設置した。帯電条件としては、帯電ローラーに印加する交流成分をピーク間電圧1500V、周波数1500Hzとし、直流成分(初期暗部電位(Vda))を−950Vとした。また、露光条件としては、レーザー露光光を照射した場合の繰り返し使用前の初期明部電位(Vla)が、−200Vになるように露光条件を調整した。
【0135】
電子写真感光体の表面電位は、評価装置から現像用カートリッジを抜き取り、そこに電位測定装置(model370(商品名)、トレック・ジャパン社製)を固定して測定した。電位測定装置は、現像用カートリッジの現像位置に電位測定プローブ(model370(商品名)、トレック・ジャパン社製)を配置することで構成されており、電子写真感光体に対する電位測定プローブの位置は、電子写真感光体の軸方向の中央、電子写真感光体の表面からのギャップを3mmとした。
【0136】
次に、評価について説明する。なお、各電子写真感光体において初期に設定した帯電条件および露光条件はそのままで下記手順の評価を行った。また、電子写真感光体は、温度30℃、湿度85%RHの高温高湿環境下に72時間放置した後、評価を行った。
【0137】
電子写真感光体を装着した現像用カートリッジを上記評価装置に取り付け、50000枚の通紙による感光体の繰り返し使用を行った。50000枚の通紙終了後、5分間放置し、現像用カートリッジを電位測定装置に付け替え、繰り返し使用後における明部電位(Vlb)及び暗部電位(Vdb)を測定した。繰り返し使用後における明部電位と初期明部電位との差を明部電位変動量(ΔVl=|Vlb|−|Vla|)、繰り返し使用後における暗部電位と初期暗部電位との差を暗部電位変動量(ΔVd=|Vdb|−|Vda|)として求め、以下の評価ランクに従って評価した。本発明において、ランクA、B、C、Dが本発明の効果が得られているレベルであり、その中でもランクAは優れているレベルであると判断した。一方、ランクEは本発明の効果が得られていないレベルと判断した。
【0138】
A:明部電位及び暗部電位の変化が5V以内の場合
B:明部電位及び暗部電位の変化が5Vより大きく10V以内の場合
C:明部電位及び暗部電位の変化が10Vより大きく20V以内の場合
D:明部電位及び暗部電位の変化が20Vより大きく30V以内の場合
E:明部電位及び暗部電位の変化が30Vより大きい場合。
【0139】
また黒点の画像評価は、50000枚の通紙前と、50000枚の通紙終了後のそれぞれにおいて、光沢紙にベタ白画像を出力し、何も印刷していない光沢紙とベタ白画像を印刷した光沢紙とを比較した。感光体一回転分に相当するベタ白画像上の黒点個数、大きさで以下のような基準で評価した。
【0140】
A:黒点が全くない
B:直径1.5mm未満の黒点が1個以上3個以下、かつ直径1.5mm以上の黒点がないこと
C:直径1.5mm未満の黒点が1個以上3個以下、かつ直径1.5mm以上の黒点が1個以上2個以下
D:直径1.5mm未満の黒点が4個以上5個以下、かつ直径1.5mm以上の黒点が2個以下
E:直径1.5mm未満の黒点が6個以上、または直径1.5mm以上の黒点が3個以上の場合。
【0141】
評価結果を表4に示す。
【0142】
【表4】

【0143】
これらの結果から、式(1)を満足するようにアミノシランカップリング剤で表面処理をした金属酸化物粒子と、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子を含有した下引き層を用いることで、高温高湿環境下においても、繰り返し使用時の電位変動を抑制し、かつ、繰り返し使用時の黒点の発生が抑制された電子写真感光体を提供することができる。
【符号の説明】
【0144】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 クリーニング手段
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
P 転写材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に設けられた下引き層、及び該下引き層上に設けられた感光層を有する電子写真感光体において、
該下引き層が、架橋ポリメタクリル酸メチル粒子と、アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子と、結着樹脂とを含有し、
該金属酸化物粒子の質量に対する該アミノシランカップリング剤の質量の割合(質量%)をAとし、該金属酸化物粒子の比表面積(m/g)をBとしたとき、A/Bで定義される表面処理量が下記式(1)を満足することを特徴とする電子写真感光体。
0.010≦A/B≦0.060・・・(1)
【請求項2】
前記表面処理量が下記式(2)を満足する請求項1に記載の電子写真感光体。
0.025≦A/B≦0.050・・・(2)
【請求項3】
前記架橋ポリメタクリル酸メチル粒子の数平均粒径が2.5μm以上3.5μm以下である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子の比表面積が16m/g以上24m/g以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記アミノシランカップリング剤が下記式(3)で示される化合物である請求項1から4のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化1】


(式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を示す。Rは、炭素数が1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のアルコキシ基を示す。Rは、下記式(R4−1)、(R4−2)及び(R4−3)のいずれかで示される基を示す。Rは、水素原子、フェニル基、または炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
【化2】


(式(R4−1)、(R4−2)及び(R4−3)中、mは、1から3の整数である。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキレン基を示す。)
【請求項6】
前記下引き層の抵抗が1×10Ωcm以上1×1012Ωcm以下である請求項1から5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記金属酸化物粒子が、酸化亜鉛、酸化スズ、および酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種を含有する粒子である請求項1から6のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電子写真感光体を製造する電子写真感光体の製造方法であって、
前記架橋ポリメタクリル酸メチル粒子、前記アミノシランカップリング剤で表面処理された金属酸化物粒子、および結着樹脂を含有する下引き層用塗布液の塗膜を乾燥させることにより前記下引き層を形成する工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか1項に記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有する電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−114177(P2013−114177A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262129(P2011−262129)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】