説明

電子写真感光体およびこれを用いた複写機、その感光層形成用ドープ

【課題】植物起源の化合物を用いたバインダー樹脂を感光体層に利用することにより高い環境適合性を有し、光電変換性能や耐久性(耐摩耗性)において現行の合成樹脂と遜色のない性能を発揮し、本格的な製品ないしその部材の代替を促す電子写真感光体及びこれを用いた複写機、これに用いられるドープを提供する。また、前記感光層のバインダー樹脂の溶媒溶解性が良く、製造品質ないし製造適性の観点でも天然素材への切り替えを促す電子写真感光体およびこれを用いた複写機、これに用いるドープを提供する。
【解決手段】導電性基体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光層を構成するバインダー樹脂が、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖に含む特定重合体を含有してなる電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真感光体およびこれを用いた複写機、その感光層形成用ドープに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンターはオフィス機器を中心に、家庭用、業務用を問わず広く普及し、最近ではプリンターと複写機との複合化、あるいは高品位の印刷物への対応など益々その機器形態や利用範囲を拡大している。かかる複写機等を構成する部品の中でも感光体は重要な位置づけにあり、電子情報をその表面上で電荷潜像から実画像へと変換する働きをなす。現在の主流をなす有機感光体(Organic Photo Conductor:OPC)はその構造部材が有機物主体で構成されている。一方、その主要な機能である光電変換と同時に、機械的な強度をも満足しなければならない。有機化合物からなる構造部材にとってその両立は容易ではなく、さらなる技術開発が求められる。
【0003】
なかでも、有機感光体に配設された感光層は、露光により電荷発生剤を介して電荷を発生させ、これを輸送する上記光電変換を担う重要な部分である。他方、トナーを供給するドラムやクリーナーと回転接触するなどして衝撃を受け、機械的な破損や疲労を受ける部分でもある。ここに適用する材料により、感光体の性能が大きく変化することはもとより、その耐久性に基づく製品寿命に大いに寄与する部分である。
【0004】
感光層に適用するバインダー樹脂として、特定のポリカーボネートを採用することを提案したものがある(特許文献1、2等参照)。これにより、電子写真感光体にみられる帯電特性の良化や、耐磨耗性などを向上させることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−234457号公報
【特許文献2】特開2006−292929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本出願人は先に天然資源であるデヒドロアビエチン酸由来の化合物に注目し、これを重合体とすることに成功した。そしてその重合体の物性を確認し、高耐熱性および耐湿耐水性を発現させることができることを見出した(特開2011−26569号公報、特開2011−74249号公報)。さらに、その後の研究開発を通じ、上記重合体を用い透明度の高いフィルム成形体にすることができることを見出した。
【0007】
低炭素社会を目指した石油系樹脂から植物系樹脂への置き換えが様々なところで進められている。しかし、上述した電子写真感光体の材料として、植物由来の原料を用いたものはこれまであまり積極的に提案されてきていない。この原因として、一般的な植物由来の原料は耐熱性が足らずその用途に不向きであるとの先入観があることが挙げられる。また、その他の物性として、感光体の構成層をなす樹脂素材には、その添加剤(例えばホール輸送剤、電荷発生剤)との相溶性や、高い膜強度なども求められ、その採用のための積極的な研究が行われてこなかったことが要因の一つと考えられる。
本発明者は、上記新たに開発された天然素材の重合体を上記感光体の材料として適用することを試み、現行の合成樹脂に変わる本格的な代替材料としての可能性を模索した。
【0008】
すなわち本発明は、植物起源の化合物を用いたバインダー樹脂を感光体層に利用することにより高い環境適合性を有し、光電変換性能や耐久性(耐摩耗性)において現行の合成樹脂と遜色のない性能を発揮し、本格的な製品ないしその部材の代替を促す電子写真感光体及びこれを用いた複写機、これに用いられるドープの提供を目的とする。また、前記感光層のバインダー樹脂の溶媒溶解性が良く、製造品質ないし製造適性の観点でも天然素材への切り替えを促す電子写真感光体およびこれを用いた複写機、これに用いるドープの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は下記の手段により解決された。
(1)導電性基体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光層を構成するバインダー樹脂が、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖に含む特定重合体を含有してなる電子写真感光体。
(2)前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記一般式(U)で表される構造を含む(1)に記載の電子写真感光体。
【0010】
【化1】

(R及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜3の整数を表す。RCは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。)
(3)前記特定重合体が下記一般式A1又はA2で表される繰り返し単位を含む重合体から選ばれる(1)又は(2)に記載の電子写真感光体。
【0011】
【化2】

(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
(4)前記一般式A1中、連結基L11が式中2位で示される炭素原子と結合した(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(5)前記一般式A2中、連結基L23が式中2位及び2’位で示される炭素原子と結合した(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(6)式A1中のL11が、*−L13−CO−**又は*−CO−L13−**(*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表す。**はその逆の結合手を表す。)で表され、L13が、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、酸素原子、カルボニル基、単結合、またはこれらの組合せであり、L12がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(7)式A2中のL21及びL22がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であり、L23が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、又は単結合である(1)〜(3)及び(5)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(8)さらに、前記特定重合体が、環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位を含む(1)〜(7)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(9)前記環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位が、下記一般式(B1)で表される(8)に記載の電子写真感光体。
【0012】
【化3】

(Lは、酸素原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、又は単結合である。Lが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。n1及びn2はそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。n3は0〜2の整数を表す。*は結合手を表す。)
(10)前記感光層を構成するバインダー樹脂の植物由来度が25質量%以上である(1)〜(9)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(11)前記透明支持体が筒状の支持体であり、その外周に、前記感光層として電化発生層と電荷輸送層とを具備する(1)〜(10)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(12)前記感光層が前記バインダー樹脂と電荷発生剤もしくは電荷輸送剤とを含有する(1)〜(11)のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
(13)(1)〜(12)のいずれか1項に記載の電子写真感光体を具備する複写機。
(14)電子写真感光体において導電性基体上に配設される感光層を形成するドープであって、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を繰り返し単位に含む特定重合体をバインダー樹脂として、電荷発生剤を含有させた電子写真感光体の感光層形成用ドープ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子写真感光体及びこれを用いた複写機は、植物起源の化合物を用いたバインダー樹脂をその感光体層に利用することにより高い環境適合性を有し、光電変換性能や耐久性(耐摩耗性)において現行の合成樹脂と遜色のない性能を発揮し、本格的な製品ないしその部材の代替を促す。
また、前記感光層のバインダー樹脂の溶媒溶解性が良く、製造品質ないし製造適性の観点でも天然素材への切り替えを促進する。
また、本発明のドープは、前記植物起源の化合物を用いたバインダー樹脂を含み、環境配慮の点から好ましく、かつ上記優れた性能を発揮する電子写真感光体の感光層を形成する原料として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態としての電子写真感光体を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の一実施形態としての複写機の複写機構を模式的に示した側面図である。
【図3】実施例で調製した樹脂PE−1のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の電子写真感光体は、植物起源の化合物を利用した特定重合体を含むバインダー樹脂構成部材とする感光体を有する。これにより、良好な光電変換特性と、十分な耐熱性及び耐摩耗性が実現された。この理由は未解明の点を含むが、以下のように推定される。すなわち、上記特定重合体は、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を有する化学構造的に安定した3環状部分が母格として二次元的に連結していることによる特有のマトリックスが樹脂中に作出されるためと考えられる。このような材料が感光体の素材として採用された例はこれまでなく、特に従来のバイオマスポリマーは、通常、耐熱性に劣る。
本発明に利用される上記特定重合体は、植物起源の化合物を原料として用いることができるにも拘らず、電子写真感光体への利用において十分な耐熱性を示す。さらに特筆すべきは、十分透明性を有し良質な感光層を形成し、しかも感光体の性能において現状で高い性能を発揮するとされるポリカーボネート系やポリフェノール系の合成樹脂と同等かそれ以上の性能を発揮することである。以下、本発明の好ましい実施態様を中心に詳細に説明する。
【0016】
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は導電性支持体上に感光層を有していればよく、特にその具体的な構造は限定されない。好ましい実施形態としては、図1に示した感光体10が挙げられる。これは、前記透明支持体1が筒状の支持体であり、その外周に、前記感光層5として電化発生層3と電荷輸送層4とを具備するものである。この実施形態では、前記筒状支持体1と電荷発生層3との間に下引き層2を配設している。さらに、前記感光層の電荷発生層3及び電荷輸送層4は、電荷発生剤(図示せず)もしくは電荷輸送剤(図示せず)とをそれぞれ含有する。
【0017】
本発明の感光体においては、上記感光体層の特に電荷輸送層を構成するバインダー樹脂が後述する特定重合体を含有することが好ましい。これにより、上述した本願発明の顕著な作用効果を得ることができ好ましい。
【0018】
本発明の電子写真感光体に適用される構造としては、単一層の光導電層を有するものでも、機能分離した積層型のものでもよい。最近は、露光により電荷を発生する電荷発生層と、電荷を輸送する電荷輸送層との二層からなる積層型の電子写真感光体が主流となっている。また、必要に応じて下引き層2以外にも、保護層(図示せず)、接着層(図示せず)等を設けてもよい。
なお、感光体における上下の方向は特に限定されないが、必要により、支持体1から感光層5に向かう方向を「上」もしくは「天」あるいは筒として言えば「外方」といい、その逆を「下」、「底」、「内方」ということとする。
【0019】
[特定重合体]
(デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位)
本発明の特定重合体は、下記式(AA)で表されるデヒドロアビエチン酸又はその誘導体を原料モノマーとして使用する。これを重合させて得られる単独重合体であっても、当該原料モノマーと他のモノマーとを重合させて得られる共重合体であってもよい。すなわち、上記特定重合体は、その分子構造中にデヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位を有してなる。
【0020】
【化4】

【0021】
ここで、本発明において「デヒドロアビエチン酸に由来する骨格」とは、上記のデヒドロアビエチン酸に由来する構造を有していればよく、言い変えれば、所望の効果を奏する範囲で、デヒドロアビエチン酸から誘導化できる構造骨格であればよい。ただし、デヒドロアビエチン酸の三環状の母核構造が維持されており(環を構成する原子の数が維持されていなくてもよい)、その1つにベンゼン環が含まれていることを必須とする。好ましい例としては下記が挙げられる。
【0022】
【化5】

【0023】
「デヒドロアビエチン酸に由来する骨格」はさらに置換基を有してもよい。有してもよい置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基などが挙げられる
【0024】
好ましくは(AA−1)、(AA−3)、(AA−10)であり、最も好ましくは(AA−1)である。
【0025】
本発明の特定重合体においては、一般式化していうと、前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格として下記一般式(U)で表される構造を含むことが好ましい。
【0026】
【化6】

及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜3を表す。Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。Rはメチル基であることが好ましい。Rは炭素原子数1〜4のアルキル基であることが好ましく、i−プロピル基であることがより好ましい。Cyはシクロヘキサン環もしくはシクロヘキセン環であることが好ましく、シクロヘキサン環であることがより好ましい。n,mは1であることが好ましい。
【0027】
上記一般式(U)は下記一般式(U1)であることが好ましい。
【0028】
【化7】

式中、*,**は結合手を表す。Rは一般式(U)と同義である。
【0029】
デヒドロアビエチン酸は、植物起源の松脂に含まれるロジンを構成する成分の1つである。すなわち、天然起源の材料をその基質として利用することができるため、二酸化炭素の排出量において相殺され、化石燃料起源のプラスチック材料に比し、大幅にその換算排出量を削減することができる。次世代材料として望まれる環境適合型の、バイオマス資源由来の素材である。なお、上記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格、式UないしはU1で表される骨格を総称してデヒドロアビエタン主骨格と呼ぶことがあり、これを「DA主骨格」と省略して呼ぶことがある。
【0030】
さらに、本発明の好ましい実施形態において重要な骨格構造として、下記式U2及びU3で表されるものが挙げられる。下記式U2のものをデヒドロアビエタン骨格(DA骨格)と呼び、式U3のものをデヒドロアビエチン酸骨格(DAA骨格)という。
【0031】
【化8】

【0032】
前記特定重合体は、下記一般式A1又はA2で表される繰り返し単位を含む重合体から選ばれることが好ましい。
【0033】
【化9】

(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
【0034】
前記一般式A1中、連結基L11が式中2位で示される炭素原子と結合したことが好ましい。前記一般式A2中、連結基L23が式中2位及び2’位で示される炭素原子と結合したことが好ましい。
【0035】
(分子量等)
本発明における特定重合体は、DA主骨格を主鎖の一部を構成するように含んでいれば、その結合態様は特に限定されるものではない。前記特定重合体の重量平均分子量は限定的でないが、好ましくは5,000〜700,000、より好ましくは10,000〜500,000である。重量平均分子量がこの範囲であることにより、電子写真感光体材料として成形性、強度等が良好となる。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフェィー(GPC)による分子量測定(ポリスチレン換算)で得られた値である。なお、本明細書では特に断らない限り、キャリアとしてはN−メチル−2−ピロリドンを用い、カラムとしてはトーソー(TOSOH)株式会社製 TSK−gel Super AWM−H(商品名)用いた値で分子量を示す。
【0036】
ガラス転移温度(Tg)は限定的でないが、好ましくは60℃以上、より好ましくは80〜400℃、更に好ましくは100〜350℃である。ガラス転移温度がこの範囲であることにより、ポリエステル系重合体は、特に耐熱性に優れ、電子写真感光体材料等に好適に用いることができる。なお、前記ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用い、所定の温度範囲について、窒素気流下に昇温速度10℃/min.の条件で測定される。本明細書では特に断らない限り、その測定には、SII社製、商品名:DSC6300を用いて測定した値をいう。より詳細は後記実施例の項で示している。
【0037】
前記特定重合体の密度は限定的でないが、好ましくは1.25g/cm以下、より好ましくは0.90g/cm〜1.25g/cm、更に好ましくは1.00g/cm〜1.20g/cmである。密度がこの範囲であることにより、特定重合体は、耐熱性、成形性等に優れ、さらに耐湿耐水性及び透明性が実現され、電子写真感光体材料等への利用に良好となる。なお、ポリエステル系重合体の密度は、精密比重計(SHIMAZU社製、商品名:精密比重計AUW120D)を用いて測定される値をいう。
【0038】
なお、前記特定重合体には、DA主骨格を含む繰返し単位を有するものに対して、更に化学処理等を施した誘導体も含む。
【0039】
前記特定重合体を構成するDA主骨格を有する繰り返し単位の総含有率は特に制限されないが、繰り返し単位を構成する構造部の総量(例えば下記エステル系重合体のジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の総量を50モル%とした場合)に対し、植物由来度と密度の観点から、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。
DA主骨格を有する繰り返し単位を天然由来成分とするとき、その含有率は特に制限されないが、環境配慮の観点から、質量基準で言うと、感光層に適用される樹脂成分の総量に対して、天然由来成分が25質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。上限は特にないが、不可避不純物なども考慮すると98質量%以下程度が実際的である。
<天然由来成分の比率(植物由来度):Rn>
Rn(%)=Wn/Wt×100
Wt:感光層における樹脂成分の総質量
Wn:DA主骨格成分の総質量(DA主骨格の仕込量からの計算値)
【0040】
前記特定重合体は、必要に応じて、DA主骨格を含まないその他の繰り返し単位の少なくとも1種を含んだ共重合体であってもよい。
【0041】
(連結形態)
一般式A1及びA2には、L11、L12、L21、L22、L23の5つの連結基が存在するが、L23以外の4つの連結基については、(1)ポリエステル系重合体[I]、(2)ポリエステル系重合体[II]の2種においてそれぞれ好ましいものが異なる。中でも、本発明においては、(1)ポリエステル系重合体[I]が高い性能が得られる点で好ましく、その順で以下に好ましい連結基の内容について説明する。なお、本明細書においてポリエステルとは、連結基にオキシカルボニル基があればよく、カーボネート構造をとっていてもよい。
【0042】
(1)ポリエステル系重合体[I]
<ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位>
〜一般式A1で表される繰り返し単位〜
・L11
式A1中のL11は、*−L13−CO−**又は*−CO−L13−**であることが好ましい。*は5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロフェナントレン環(母核)側の結合手を表す。**はその逆の結合手を表す。L13が、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、酸素原子、カルボニル基、単結合、またはこれらの組合せであることが好ましい。さらに好ましくはL11は*−CO−**又は*−COO−**である。
なお、本明細書においては、「連結基」という用語を、2つの構造部を連結するものであれば、原子や単結合を含む意味で用いる。
【0043】
前記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖又は分岐鎖の鎖状であっても、環状であってもよい。L13は、合成の簡便さの観点から、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルケニレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、酸素原子、又は単結合であることが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜4の鎖状のアルキレン基、炭素数5〜6の環状のアルキレン基、炭素数2〜4の鎖状のアルケニレン基、炭素数5〜6の環状のアルケニレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、酸素原子、又は単結合である。
【0044】
本明細書において「化合物」という語を末尾に付して特定の分子を呼ぶときには、当該化合物そのものに加え、その塩、錯体、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の置換基を伴ったあるいは所定の形態で修飾された誘導体を含む意味である。また、本明細書において置換基ないし連結基に関して「基」という語を末尾に付して特定の原子群を呼ぶときには、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。上記、連結基にさらに有してもよい置換基としては、下記置換基Tが挙げられる。
【0045】
これらアルキル基に代表される炭化水素基は、さらに置換基を有するものであってもよく、導入可能な好ましい置換基として以下の置換基Tが挙げられる。
置換基Tとしては、下記のものが挙げられる。
アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘプチル、1−エチルペンチル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数2〜20のヘテロ環基、例えば、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、3−メチルフェノキシ、4−メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20のアミノ基、例えば、アミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチルアミノ、アニリノ等)、スルホンアミド基(好ましくは炭素原子数0〜20のスルホンアミド基、例えば、N,N−ジメチルスルホンアミド、N−フェニルスルホンアミド等)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、シアノ基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はシアノ基が挙げられる。
【0046】
化合物ないし置換基等がアルキル基、アルケニル基等を含むとき、これらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。またアリール基、ヘテロ環基等を含むとき、それらは単環でも縮環でもよく、置換されていても無置換でもよい。
【0047】
11で表される連結基の具体例として以下のものを挙げることができるが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。なお、以下の例示化学構造式では、結合手*はヒドロフェナントレン環に結合する側であり、結合手**がその反対側を意味する。
【0048】
【化10】

【0049】
一般式(A1)におけるL11としては、耐熱性の観点から、単結合、(L1−ex−4)、(L1−ex−10)又は(Ll−ex−12)であることが好ましく、単結合であることがより好ましい。
【0050】
前記一般式A1中、連結基L11は式中1位、2位、4位のいずれの炭素原子に結合するものであってもよいが、2位もしくは4位で示される炭素原子と結合したものであることが好ましく、2位で示される炭素原子と結合したものであることがより好ましい。なお、この結合位置は、後述する(2)ポリエステル重合体[II]及び(3)ポリアミド系重合体についても同様である。なお、上記式中の炭素原子の位置番号は、アビエタンの位置番号に対して、1位が11位、2位が12位、3位が13位、4位が14位に相当する。
【0051】
・L12
12は、カルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であることが好ましい。換言すると、このポリエステル系重合体[I]に係る実施形態においては、DA主骨格がDAA骨格を構成している。
【0052】
前記ポリエステル系重合体[I]の好適な態様のもう一つは、2つのデヒドロアビエタン主骨格が直接又は連結基を介して結合してなる二量体構造を、主鎖の一部として繰り返し単位中に含むものである。この二量体構造を含む繰り返し単位は、例えば、上記一般式(A2)で表される。
【0053】
〜一般式A2で表される繰り返し単位〜
・L21、L22
式A2中のL21及びL22及は、カルボニル基もしくはカルボニルオキシ基を含む基であることが好ましく、カルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であることがより好ましい。このことは、上記L12と同様に、本実施形態の特定重合体が、DAA骨格を含む繰り返し単位を有して構成されていることを意味する。
【0054】
・L23
23は、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、又は単結合であることが好ましい。前記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖又は分岐鎖の鎖状であっても、環状であってもよい。L23で表される連結基は、耐熱性の観点から、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルケニレン基、及び炭素数6〜18のアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることが好ましく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、炭素数2〜4の鎖状のアルキレン基、炭素数5〜6の環状のアルキレン基、炭素数2〜4の鎖状のアルケニレン基、炭素数5〜6の環状のアルケニレン基、及び炭素数6〜8のアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種から構成される2価の連結基、又は単結合であることがより好ましい。
【0055】
23で表される連結基を構成するアルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基は可能な場合には置換基を有していてもよい。アルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基における置換基としては、前記置換基Tを挙げることができる。L23で表される連結基の具体例として、以下の連結基を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0056】
【化11】

【0057】
23としては、合成の簡便さの観点から、(L2−ex−2)、(L2−ex−5)、(L2−ex−9)又は(L2−ex−11)であることが好ましく、(L2−ex−2)であることがより好ましい。
【0058】
前記一般式A2中、連結基L11は式中1位、2位、4位、1’位、2’位、4’位のいずれの炭素原子に結合するものであってもよいが、2位、4位、2’位、及び4’位で示される炭素原子と結合したものであることが好ましく(ただし、2つのヒドロフェナントレン環を連結する組合せである。)、2位及び2’位で示される炭素原子と結合したものであることがより好ましい。なお、この結合位置は、後述する(2)ポリエステル系重合体[II]についても同様である。
【0059】
前記ポリエステル系重合体[I]を構成するジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位中における一般式(A1)で表される繰り返し単位及び一般式(A2)で表される繰り返し単位総含有率は特に制限されないが、ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の総量を50モル%とした場合、植物由来度と密度の観点から、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。
【0060】
本実施形態のポリエステル系重合体[I]は、その他のジカルボン酸化合物との共重合体であってもよい。その他のジカルボン酸化合物しては、ポリエステル系重合体[I]を構成するのに通常用いられるジカルボン酸化合物を特に制限なく用いることができ、例えば、合成高分子V(朝倉書店)P.63−91等に記載のジカルボン酸化合物を用いることができる。
【0061】
その他のジカルボン酸化合物としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類や、シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類が挙げられる。前記ポリエステル系重合体[I]におけるその他のジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の含有率は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。例えば,その他のジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の含有率は、前記ポリエステル系重合体[I]を構成するジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位中に、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましい。
【0062】
<ジオール化合物由来の繰り返し単位>
・環構造を含むジオール化合物
本実施形態のポリエステル系重合体[I]は、環構造を有するジオール化合物由来の繰り返し単位を少なくとも1種を含むことが好ましい。前記ジオール化合物に含まれる環構造は、ポリエステル系重合体[I]の側鎖部分に含まれていても、主鎖の一部を構成するように含まれていてもよいが、耐熱性の観点から、ジオール化合物に含まれる環構造が主鎖の一部を構成していることが好ましい。これによりさらに耐熱性が向上する。
【0063】
前記ジオール化合物に含まれる環構造は、脂肪族環であっても、芳香族環であってもよく、また炭化水素環であってもヘテロ環であってもよい。さらに脂肪族環は不飽和結合を含むものであってもよい。またジオール化合物に含まれる環の数は特に制限されないが、例えば1〜5とすることができ、原料の入手性の観点から,1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。ジオール化合物が2以上の環構造を含む場合、2以上の単環が共有結合又は連結基で連結した構造であっても、縮環構造であってもよい。
【0064】
前記環構造を有するジオール化合物由来の繰り返し単位の具体例としては、例えば,シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゼン、及び4−ヒドロキシエチルフェノール等に由来する繰り返し単位や、下記一般式(B1)で表されるジオール化合物由来の繰り返し単位を挙げることができる。前記環構造を有するジオール化合物由来の繰り返し単位は、耐熱性の観点から、下記一般式(B1)で表されるジオール化合物由来の繰り返し単位であることが好ましい。
【0065】
【化12】

【0066】
一般式(B1)中、Lは、酸素原子、カルボニル基、スルホニル基、及びアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される2価の連結基、又は、単結合を表す。Lが複数存在する場合、それぞれのLは同じでも異なっていてもよい。R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群から選ばれる置換基を表し、互いに結合して環を形成してもよい。またR及びRが複数存在する場合、それぞれのR及びRは同じでも異なっていてもよい。n1及びn2はそれぞれ独立して0〜4までの整数を表し、n3は0〜2までの整数を表す。
【0067】
における2価の連結基を構成するアルキレン基は、直鎖や分岐鎖の鎖状アルキレン基であっても、環状アルキレン基であってもよい。またアルキレン基の炭素数は、耐熱性の観点から、1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。なお、ここでいうアルキレン基の炭素数には、後述する置換基の炭素数を含まないものとする。さらにアルキレン基は、炭素数1〜6の鎖状又は環状アルキル基、炭素数6〜18のアリール基等の置換基を有していてもよい。アルキレン基における置換基の数は2以上であってもよく、アルキレン基が2以上の置換基を有する場合、2以上の置換基は同一でも異なっていてもよく、また互いに連結して環を形成してもよい。
【0068】
及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群から選ばれる置換基を表すが、原料の入手性の観点から、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜8のアルキル基、及び炭素数1〜8のアルコキシ基からなる群から選ばれる置換基であることが好ましい。
【0069】
n1及びn2は0〜4の整数を表すが、0〜2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。n3は0〜2の整数を表すが、0又は1であることが好ましい。
【0070】
以下に一般式(B1)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0071】
【化13】

【0072】
一般式(B1)で表される繰り返し単位としては、耐熱性の観点から.上記(B1−ex−1)、(B1−ex−2)、(B1−ex−3)、(B1−ex−4)、(B1−ex−5),(B1−ex−6)又は(B1−ex−11)であることが好ましく、上記(B1−ex−1)、(B1−ex−2)又は(B1−ex−3)であることがより好ましい。
【0073】
前記ポリエステル系重合体[I]を構成するジオール化合物由来の繰り返し単位中における、一般式(B1)で表される繰り返し単位の含有率は特に制限されないが、ジオール化合物由来の繰り返し単位の総量を50モル%とした場合、耐熱性と密度の観点から、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。
【0074】
・環構造を含まないジオール化合物
前記ポリエステル系重合体[I]は、環構造を含まないその他のジオール化合物由来の繰り返し単位の少なくとも1種を含むものであってもよい。環構造を含まないジオール化合物としては、ポリエステル系重合体[I]を構成するのに通常用いられるジオール化合物を特に制限なく用いることができ、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1.3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等といったジオール化合物が挙げられる。
前記ポリエステル系重合体[I]における環構造を含まないジオール化合物由来の繰り返し単位の含有率は、その好ましい範囲において、前記環構造を含むものと同様である。
【0075】
本実施形態のポリエステル系重合体[I]は、耐熱性の観点から、ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位として、下記の構造の少なくとも1つずつを有する組合せに係るものであることが好ましい。
【0076】
・ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位
一般式(A1)・・・L11がカルボニル基、化学式(L1−ex−4)、(L1−ex−10)又は(L1−ex−12)、L12がカルボニル基
一般式(A2)・・・L23が化学式(L2−ex−2)、(L2−ex−5)、(L2−ex−9)又は(L2−ex−11)、L21及びL22がカルボニル基
・ジオール化合物由来の繰り返し単位
化学式(B1−ex−1)、(B1−ex−2)、(B1−ex−3)、(B1−ex−4)、(B1−ex−5)、(B1−ex−6)又は(B1−ex−11)
【0077】
より好ましくは下記である。
・ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位
一般式(A1)・・・L11及びL12がカルボニル基
一般式(A2)・・・L23が(L2−ex−2)、L21及びL22がカルボニル基
・ジオール化合物由来の繰り返し単位
化学式(B1−ex−1)、(B1−ex−2)、(B1−ex−3)又は(B1−ex−4)
【0078】
本実施形態のポリエステル系重合体[I]を構成するジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位とジオール化合物由来の繰り返し単位の含有比率(ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位:ジアミン化合物由来の繰り返し単位)は、特に制限されないが、通常1:1である。
【0079】
(ポリエステル系重合体[I]の製造方法)
本実施形態のポリエステル系重合体[I]の製造に用いるデヒドロアビエチン酸は、例えば、ロジンから得ることができる。ロジンに含まれる構成成分は、これら採取の方法や松の産地により異なるが、一般的には、アビエチン酸(1)、ネオアビエチン酸(2)、パラストリン酸(3)、レボピマール酸(4)、デヒドロアピエチン酸(5)、ピマール酸(6)、イソピマール酸(7)等のジテルペン系樹脂酸の混合物である。これらのジテルペン系樹脂酸のうち、(1)から(4)で表される各化合物は、ある種の金属触媒の存在下、加熱処理することにより不均化を起こし、デヒドロアビエチン酸(5)と、下説構造のジヒドロアビエチン酸(8)に変性する。即ち、本発明のポリエステル系重合体[I]を製造する上で必要なデヒドロアビエチン酸(5)は、種々の樹脂酸の混合物であるロジンに適切な化学処理を施すことにより比較的容易に得ることができ、工業的にも安価に製造することができる。なお、ジヒドロアビエチン酸(8)とデヒドロアビエチン酸(5)とは、公知の方法により容易に分離できる。
【0080】
【化14】

【0081】
例えば、上記の一般式(A1)又は(A2)で表される繰り返し単位及び一般式(B1)で表される繰り返し単位を有するポリエステル系重合体[I]を合成する工程は、一般式(B1)で表される繰り返し単位をなすジオール化合物と、上記の一般式(A1)又は(A2)で表される繰り返し単位をなすジカルボン酸化合物又はその誘導体であるジカルボン酸ハライド誘導体もしくはジエステル誘導体とを公知の方法で重縮合させることにより合成することができる。この一連の工程をスキームにすると下記スキーム1及び2の2通りに分けて説明することができる。なお、下記の反応スキームは本発明における1例であり、この説明により本発明が限定して解釈されるものではない。
【0082】
【化15】

【0083】
【化16】

【0084】
重合体の具体的な合成方法としては、例えば、新高分子実験学3、高分子の合成・反応(2)、78〜95頁、共立出版(1996年)に記載の方法(例えば、エステル交換法、直接エステル化法、酸ハライド法等の溶融重合法、低音溶液重合法、高温溶液重縮合法、界面重縮合法など)などが挙げられ、本発明では特に酸クロリド法及び界面重縮合法が好ましく用いられる。
【0085】
エステル交換法は、ジオール化合物とジカルボン酸エステル誘導体とを溶融状態又は溶液状態で、必要により触媒の存在下に加熱することにより脱アルコール重縮合させポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0086】
直接エステル化法は、ジオール化合物とジカルボン酸化合物とを溶融状態又は溶液状態で触媒の存在下に,加熱下において脱水重縮合させることによりポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0087】
酸ハライド法は、ジオール化合物とジカルボン酸ハライド誘導体とを溶融状態又は溶液状態で、必要により触媒の存在下に加熱し脱ハロゲン化水素重縮合させることによりポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0088】
界面重合法は、ジオール化合物を水、前記ジカルボン酸化合物又はその誘導体を有機溶媒に溶解させ、相問移動触媒を使用して水/有機溶媒界面で重縮合させることによりポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0089】
なお、スキーム2のデヒドロアビエチン酸(DAA)の二量化体は、特開2011−26569記載の方法で合成できる。
【0090】
(2)ポリエステル系重合体[II]
本実施形態においては連結基がそれぞれ以下のものであることが好ましい。
・L11
11は、単結合、*−L1A−O−**、又は*−L1A−CO−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。L1Aで示される二価の連結基としては特に限定的ではないが、例えば、−(C2n)−、−CO(C2n)−、(ここで、nは1〜12、好ましくは1〜8の整数であり、直鎖でも分岐でも環状でもよくまた、更に置換基を有していてもよい。また、分子鎖を構成する炭素原子の1つ以上が、酸素原子に置き換わった構造であってもよい。)等が挙げられる。L1Aに結合する原子が酸素原子のときには、好ましくは−(CH−、−(CH5−、又は−(CH−等である。L1Aに結合する原子がカルボニル基のときには、好ましくは−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CO(CH−、−CO(CH−、又は−CO(CH−等である。
【0091】
・L12
12は、*−CH−O−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。
【0092】
・L21
21は、*−CH−O−**、又は、*−CH−O−CO−(L2A−CO)−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。L2Aはアルキレン基又はアリーレン基を表す。アルキレン基の好ましい炭素数は1〜20であり、特に好ましくは2〜12である。アルキレン基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、また、更に置換基を有していてもよい。アルキレン基は、分子鎖を構成する炭素原子の1つ以上が、酸素原子に置き換わった構造であってもよい。アルキレン基として、具体的には、例えば、−CH−、−(CH)−、−(CH)−、−(CH)−、−(CH−、−(CH−、−CHOCH−、−CHOCHCHOCH−、及び−C10−、等が挙げられる。nは0又は1を示す。
【0093】
2Aで示されるアリーレン基の好ましい炭素数は6〜20であり、特に好ましくは6〜15である。アリーレン基は、単環であっても縮環であってもよく、また、更に置換基を有してもよい。アリーレン基として、具体的には、例えば、−C−、−C10−、−C−、−COC−及び−CCOC−、等が挙げられる。 L2Aとして好ましくは、−(CH−、−C10−、−C−又は−C10−である。
【0094】
・L22
22は、*−CH−O−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。
【0095】
・L23
23は、(1)ポリエステル系重合体[I]と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0096】
(ポリエステル系重合体[II]の製造方法)
本実施形態の重合体は、例えば、以下のスキーム3で合成することができる。以下は、反応経路の例示であり、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。なお、下記は上記一般式(A1)で示される態様を例示しているが、アビエタン主骨格を2つもつ2量体とする以外同様であるので一般式(A2)のものについては省略する。2量体化については、前記ポリエステル系重合体[I]と同様である。
【0097】
【化17】

【0098】
(i)のジカルボン酸体の合成は前記ポリエステルの(I)と同様にして行うことができる。アビエチン酸にカルボキシ基を導入したジカルボキシ化合物(i)からジアルコキシ化合物(ii)への反応は、通常の還元反応によればよい。例えば、水素化アルミで還元することにより、上記還元反応を速やかに進行させることができる。ジアルコキシ化合物(ii)からポリカルボン酸クロリド化合物との反応によりポリエステル(iii)を得る反応は、例えば、後述する合成例を参照することができる。
【0099】
ジアルコキシ化合物にテレフタル酸ジクロリドを反応させるプロセスについては、上記ポリエステル系重合体[I]で述べたのと同様である。その他、ジカルボン酸を反応させてエステル化反応を進行させたり、エステル交換反応を行ったりしてもよく、そうした反応についても、同様に上記ポリエステル系重合体[I]で述べたのと同様である。
【0100】
上記(1)ポリエステル系重合体[I]の製造方法や化合物の詳細については、特開2011−026569号公報を参照することができる。(2)ポリエステル系重合体[II]の製造方法や化合物の詳細については、特開2011−074249号公報を参照することができる。
【0101】
[感光体の構成部材]
(支持体)
本発明の電子写真感光体に用いることができる導電性支持体1(図1参照)として、は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル等の金属材料や、又、表面にアルミニウム、パラジウム、酸化スズ、酸化インジウム等の導電性層を設けたポリエステルフィルム、フェノール樹脂、紙等が挙げられる。
【0102】
(電荷発生層)
本発明の電子写真感光体における電荷発生層2は、たとえば浸漬法、スプレー法、塗布などそれ自体公知の方法により、導電性支持体上に形成することができる。電荷発生剤としては、例えば、アゾキシベンゼン系、ジスアゾ系、トリスアゾ系、ベンズイミダゾール系、多環式キノリン系、インジゴイド系、キナクリドン系、フタロシアニン系、ペリレン系、メチン系等の有機顔料が使用できる。これらの電荷発生剤は、その微粒子をポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、各種セルロース等のバインダー樹脂に分散させた形で使用される。
【0103】
(電荷輸送層)
本発明の電子写真感光体における電荷輸送層4は、電荷発生層上に、たとえば浸漬法、スプレー法、塗布など公知の方法により、前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を有する重合体を含む樹脂をバインダー樹脂として、電荷輸送剤を分散させることにより形成されることが好ましい。電荷輸送剤としては、例えば、ポリテトラシアノエチレン;2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン系化合物;ジニトロアントラセン等のニトロ化合物;無水コハク酸;無水マレイン酸;ジブロモ無水マレイン酸;トリフェニルメタン系化合物;2,5−ジ(4−ジメチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物;9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等のスチリル系化合物;ポリ−N−ビニルカルバゾール等のカルバゾール系化合物;1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等のピラゾリン系化合物;4,4’,4”−トリス(N,N−ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のアミン誘導体;1、1ービス(4−ジエチルアミノフェニル)−4,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン等の共役不飽和化合物;4−(N,N−ジエチルアミノ)ベンズアルデヒド−N,N−ジフェニルヒドラゾン等のヒドラゾン系化合物;インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物、ピラゾリン系化合物、トリアゾール系化合物等の含窒素環式化合物;縮合多環式化合物等が挙げられる。上記電荷輸送剤は単独で使用しても、複数種併用してもよい。
【0104】
(成形方法等)
前記バインダー樹脂は、湿式成形で容易に成形可能である。湿式成形で成形された電子写真感光体が十分な膜強度を得るためには極限粘度が0.30〜2.0dl/gであることが好ましく、さらに成膜性を重視した場合、0.3〜1.5dl/gであることが好ましい。
【0105】
電荷発生層及び電荷輸送層は、上記の電荷発生剤、又は、電荷輸送剤を、それぞれバインダー樹脂と、適当な溶媒に溶解させ、その溶液を浸漬塗布法やスプレー法等により塗布し、乾燥させることにより形成できる。
【0106】
このような溶媒は、ハロゲン系有機溶媒と非ハロゲン系溶媒の2種類に大別できるが、一般的に可燃性が少ないハロゲン系溶媒が多用される。しかしながら、近年、安全性や環境保全の観点から、非ハロゲン系溶媒の使用の比率が増してきており非ハロゲン系溶媒への溶解性および溶液安定性が必要とされており、前記バインダー樹脂は、ハロゲン系溶媒は、多くの非ハロゲン系溶媒に良好に溶解することが好ましい。
【0107】
使用される非ハロゲン系溶媒はベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、エチルセロソルブ等のエステル系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、その他ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチルホルムアミド等が挙げられる。またハロゲン系溶媒としては塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチレン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン等が挙げられ、これらの溶媒は非ハロゲン、ハロゲンを問わず単独で使用してもよく、又は、2種以上を併用し混合用溶媒として使用してもよい。
【0108】
電荷発生剤とバインダー樹脂の混合比(質量基準)は、10:1〜1:20の範囲内が好ましい。この電荷発生層の厚さは、一般には0.01〜20μm、好ましくは0.1〜2μmが好適である。また電荷輸送剤とバインダー樹脂との混合比(質量基準)は、10:1〜1:10の範囲内が好ましい。この電荷輸送層の厚さは、一般には2〜100μm、好ましくは5〜30μmが好適である。
【0109】
[複写機]
本発明の複写機の構成は特に限定されないが、図2に示した機構をもつものであることが好ましい。本実施形態の複写機は、上記実施形態に係る電子写真感光体10を具備する。なお、同図に示した構成は模式的なものであり、各部材の寸法や位置関係が同図のものに限定して解釈されるものではない。この電子写真法は典型的には下記のような装置構成及びプロセスで行われる(図1参照)。まず、光導電性物質を利用した感光体(潜像保持体)10の表面を帯電手段58により帯電し、そこに露光Lを施して電気的に潜像を形成する。ここで形成された潜像に、トナー供給室52に格納されたドラム53からトナーを付与し、トナー像を形成する。このとき、トナー55は上記感光体とは逆の電荷に帯電されている。その後、このトナー像を、必要により中間転写体(図示せず)を介して、紙54等の被転写体表面に転写する。この転写画像56を、加熱、加圧、溶剤蒸気等により定着することで所望の画像を得ることができる。上記の感光体表面に残ったトナーは、必要に応じてクリーナー57によりクリーニングし、再びトナー像の現像に利用される。さらに、感光体は次の複写に備えるため除電器59により除電される。
上記複写機の動作において、本発明の電子写真感光体は、帯電手段58、露光L、除電手段59による処理に対し、優れた光電変換特性と潜像保持性とを示す。しかも、ドラム53、クリーナー57等により摩擦衝撃に対しては、高い耐磨耗性を示すという優れた効果を発揮する。
【実施例】
【0110】
(合成例)
(ポリエステル重合体(PE−1)の合成)
以下のスキームに従ってポリエステル重合体(PE−1)を合成した。
【0111】
【化18】

【0112】
窒素雰囲気下、ハイドロキノン385.4g、N,N’−ジメチルアミノピリジン898gをN―メチルピロリドン10Lに溶解させた。系内の温度を10℃まで冷却し、そこにジカルボン酸化合物(E)の酸クロリド誘導体(F)1335gを5分割にして加えた。反応液は徐々に粘稠となった。室温で8時間撹拌した後、アセチルクロライド25mlを添加してさらに2時間攪拌した。反応液にN―メチルピロリドン12.5L及び酢酸エチル18Lを加えて希釈し、大量のメタノールにて再沈殿させた。生成したPE−1を濾別、メタノールで洗浄した。得られたものを乾燥後、テトラヒドロフランに加熱溶解し、メタノールにて再沈殿を行う作業を2回くりかえし、乾燥後、PE−1の白色固体1430gを得た。得られたポリエステル重合体(デヒドロアビエチン酸重合体、PE−1)のGPC測定(溶媒:NMP)による重量平均分子量は85,000であった。
【0113】
(ポリエステル重合体(PE−2)〜(PE−6)の合成)
PE−1の合成において、ジカルボン酸化合物及びジオール化合物を下記表Aに記載した化合物にそれぞれ変更したこと以外は、PE−1の合成方法と同様にして、ポリエステル重合体(PE−2)〜(PE−6)を得た。
【0114】
【表A】

【0115】
表1中、ジカルボン酸化合物及びジオール化合物における括弧内の数字は、ポリエステル重合体製造時の仕込み量(モル%)を示す。尚、ジカルボン酸化合物及びジオール化合物の総量を100モル%とした。また以下にジカルボン酸化合物及びジオール化合物の構造を示す。
【0116】
【化19】

【0117】
(実施例1)
(樹脂溶解性の評価)
密閉式サンプル瓶にテトラヒドロフラン80部及び例示化合物(PE−1)20部を加え、溶解性を確認した。次にテトラヒドロフランをトルエンに変更して、溶解性を確認した(試験101)。結果を表1に示す。評価の区別は下記のとおりとした。
A:目視でとけ残りなし。
B:目視でとけ残りがある。
【0118】
ガラス転移点は、示差走査熱量計(SIIテクノロジー社製、DSC6200)を用いて下記の条件で測定した。測定は同一の試料で二回実施し、二回目の測定結果を採用した。
・測定室内の雰囲気:窒素(50mL/min)
・昇温速度:10℃/min
・測定開始温度:0℃
・測定終了温度:200℃
・試料パン:アルミニウム製パン
・測定試料の質量:5mg
・Tgの算定:DSCチャートの下降開始点と下降終了点の中間温度をTgとした
【0119】
試験101における例示化合物(PE−1)の代わりに例示化合物(PE−2)〜例示化合物(PE−6)を用いた以外は上記と同様に溶解性の確認を行った(試験102〜106)。結果を表1に示す。例示化合物(PE−1)については、そのDSCチャートを図3に載せている。
【0120】
試験101における例示化合物(PE−1)の代わりに、R−1(ポリ乳酸;レイシアH−140;三井化学社製)、R−2(ポリカーボネート;パンライトTS−2040;帝人化成社製)を用いた以外は上記と同様に溶解性の確認を行った(試験c11、c12)。なお、樹脂R−1のTgは57℃、樹脂R−2のTgは172℃であった。
【0121】
【表1】

【0122】
上記の表から、本願の樹脂はテトラヒドロフラン及びトルエンに対する溶解性が高いことがわかる。c11のポリ乳酸(R−1)は植物由来度が高いが、溶媒溶解性が悪いため、電子写真感光体には好ましくない。
【0123】
(実施例2)
(電子写真感光体特性の評価)
【0124】
アルミニウムを厚さ約50nm蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム上に、τ型銅フタロシアニン10部とフェノキシ樹脂5部、ポリビニルブチラール樹脂5部、ジメトキシエタン100部とを混合し、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行った塗布液を用いて塗布し、乾燥し、厚さ約0.5μmの電荷発生層を設けた。次に、4−(N,N−ジエチルアミノ)ベンズアルデヒド−N,N−ジフェニルヒドラゾンを50部、例示化合物(PE−1)を50部、テトラヒドロフランを350部、使用した塗布液を作製し、上記電荷発生層上に塗布し、風乾後100℃、8時間乾燥し、厚さ約20μmの電荷輸送層を設けて、積層型電子写真感光体を作製した。この電子写真感光体の評価を、(株) 川口電気製作所製EPA−8100静電気帯電試験装置により、帯電特性を調べた。また耐摩耗性については、スガ試験機株式会社製テーバ摩耗試験機を用いて削れ量を測定した(試験201)。
【0125】
例示化合物(PE−1)の代わりに例示化合物(PE−2)〜例示化合物(PE−6)を用いた以外は試験201と同様に行った(試験202〜206)。
【0126】
例示化合物(PE−1)の代わりにR−2(ポリカーボネート;パンライトTS−2040;帝人化成社製)、R−3(ポリフェニレン樹脂;Parmax−1201 Krum;ミシシッピーポリマーテクロノジー社製)を用いた以外は試験201と同様に行った(C21、C22)。これらの結果を表2に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
表2から分かるように、本発明の電子写真感光体は、残留電位、耐摩耗性共に、現在使用されている合成樹脂と同等以上のレベルを確保し良好であることから、十分な電子写真画像の安定化や感光体寿命が期待できる。また本発明の電子写真感光体は、植物由来のバインダー樹脂を用いており、環境配慮の観点からも好ましく、かつ上記のように性能も良好であり、現行の合成樹脂を置き換える代替技術として極めて有用である。
【符号の説明】
【0129】
1 金属基体
2 下引き層
3 電荷発生層
4 電荷輸送層
5 感光層
10 電子写真感光体
51 感光体(潜像保持体)
52 トナー供給室
53 ドラム
54 紙
55 トナー
56 転写画像
57 クリーナー
58 帯電手段
59 除電器
L 露光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体上に感光層を有する電子写真感光体において、該感光層を構成するバインダー樹脂が、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を主鎖に含む特定重合体を含有してなる電子写真感光体。
【請求項2】
前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記一般式(U)で表される構造を含む請求項1に記載の電子写真感光体。
【化1】

(R及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜3の整数を表す。RCは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。)
【請求項3】
前記特定重合体が下記一般式A1又はA2で表される繰り返し単位を含む重合体から選ばれる請求項1又は2に記載の電子写真感光体。

【化2】

(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
【請求項4】
前記一般式A1中、連結基L11が式中2位で示される炭素原子と結合した請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記一般式A2中、連結基L23が式中2位及び2’位で示される炭素原子と結合した請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
式A1中のL11が、*−L13−CO−**又は*−CO−L13−**(*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表す。**はその逆の結合手を表す。)で表され、L13が、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、酸素原子、カルボニル基、単結合、またはこれらの組合せであり、L12がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
式A2中のL21及びL22がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であり、L23が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、又は単結合である請求項1〜3及び5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
さらに、前記特定重合体が、環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項9】
前記環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位が、下記一般式(B1)で表される請求項8に記載の電子写真感光体。
【化3】

(Lは、酸素原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、又は単結合である。Lが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。n1及びn2はそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。n3は0〜2の整数を表す。*は結合手を表す。)
【請求項10】
前記感光層を構成するバインダー樹脂の植物由来度が25質量%以上である請求項1〜9のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項11】
前記透明支持体が筒状の支持体であり、その外周に、前記感光層として電化発生層と電荷輸送層とを具備する請求項1〜10のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項12】
前記感光層が前記バインダー樹脂と電荷発生剤もしくは電荷輸送剤とを含有する請求項1〜11のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の電子写真感光体を具備する複写機。
【請求項14】
電子写真感光体において導電性基体上に配設される感光層を形成するドープであって、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を繰り返し単位に含む特定重合体をバインダー樹脂として、電荷発生剤を含有させた電子写真感光体の感光層形成用ドープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83744(P2013−83744A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222578(P2011−222578)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】