説明

電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置

【課題】405±20nmの波長で高い感度特性を有し、光によって疲労劣化しない高耐久性に優れた電子写真感光体と、該感光体を有する画像形成装置を提供する。
【解決手段】波長405±20nmの光源が、露光手段として使用される電子写真感光体において、該感光体は、導電性支持体と、該支持体上に順次積層した少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とから構成される感光層とからなり、該電荷輸送層が、電荷輸送物質として下記一般式(I)で示されるフェニレンジアミン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の画像形成に用いられる電子写真感光体とそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置(以下「電子写真装置」ともいう)は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などに多用されている。
【0003】
電子写真装置では、以下のような電子写真プロセスを経て画像が形成される。まず、装置に備わる電子写真感光体(以下「感光体」ともいう)の感光層を帯電器によって所定の電位に一様に帯電させた後、露光手段から画像情報に応じて照射されるレーザー光などの光によって露光して静電潜像を形成する。次いで、形成された静電潜像に対して現像手段から現像剤を供給し、感光体の表面に現像剤の成分であるトナーと呼ばれる着色された微粒子を付着させることによって静電潜像を現像し、トナー画像として顕像化する。次いで、形成されたトナー画像を転写手段によって感光体の表面から記録紙などの転写材上に転写し定着手段によって定着させて、転写材に所望の画像を形成する。
【0004】
転写手段による転写動作の際には、感光体表面上のすべてのトナーが記録紙に転写して移行されるのではなく、一部が感光体表面に残留する。また、転写時に感光体と接触する記録紙の紙粉が感光体表面に付着したまま残留することもある。
このような感光体表面の残留トナーおよび付着紙粉などの異物は、形成される画像の品質に悪影響を及ぼすので、クリーニング装置によって除去される。また、近年ではクリーナーレス化技術が進み、独立したクリーニング手段を有することなく現像手段に付加されるクリーニング機能(現像兼クリーニングシステム)によって残留トナーを回収(除去)している。このようにして感光体表面をクリーニングした後、除電器などによって感光層表面を除電し、静電潜像を消失させる。
【0005】
このような電子写真プロセスに用いられる感光体は、導電性材料からなる導電性支持体上に光導電性材料を含有する感光層が積層されて構成される。
【0006】
感光体としては、従来から、無機系光導電性材料を主成分とする感光層を備える電子写真感光体(以下、「無機系感光体」ともいう)が広く用いられている。無機系感光体の代表的なものとしては、アモルファスセレン(a−Se)またはアモルファスセレン砒素(a−AsSe)などからなる層を感光層に用いたセレン系感光体;酸化亜鉛(ZnO)または硫化カドミウム(CdS)を色素などの増感剤とともに樹脂中に分散したものを感光層に用いた酸化亜鉛系感光体または硫化カドミウム系感光体;およびアモルファスシリコン(a−Si)からなる層を感光層に用いたアモルファスシリコン系感光体(a−Si感光体)などがある。
【0007】
しかしながら、無機系感光体には次のような欠点がある。
セレン系感光体および硫化カドミウム系感光体は、耐熱性および保存安定性に問題があり、セレンおよびカドミウムが人体および環境に対する毒性を有するので、これらを用いた感光体は、使用後に回収し適切に廃棄する必要がある。
酸化亜鉛系感光体は、感度および耐久性が低いという欠点があり、現在ではほとんど使用されていない。
【0008】
a−Si感光体は、無公害性の無機系感光体として注目され、感度および耐久性が高いという長所を有する反面、プラズマ化学気相成長法を用いて製造されるので、感光層を均一に成膜することが難しく、画像欠陥が発生し易く、生産性が低く、製造原価が高いという短所を有する。
【0009】
このように無機系感光体には多くの欠点があることから、有機系光導電性材料、すなわち有機光導電体(Organic Photoconductor;略称:OPC)を用いた感光体(以下、「有機系感光体」ともいう)の研究開発が進み、感光体の主流を占めてきている。
【0010】
有機系感光体は、感度、耐久性および環境に対する安定性などに若干の問題を有するが、毒性、製造原価および材料設計の自由度などの点において、無機系感光体に比べて多くの利点を有している。例えば、有機系感光体は、感光層を浸漬塗布法に代表される容易かつ安価な方法で形成することができる。
【0011】
このような有機系感光体の構成としては、導電性材料からなる導電性支持体上に電荷発生物質および電荷輸送物質(「電荷移動物質」ともいう)の双方を結着樹脂(「バインダ樹脂」、「結着剤樹脂」ともいう)に分散させた積層構造、導電性支持体上に電荷発生物質を結着樹脂に分散させた電荷発生層と電荷輸送物質を結着樹脂に分散させた電荷輸送層とをこの順でまたは逆順で形成した積層構造または逆二層型積層構造などの様々な構成が提案されている。これらの中でも感光層として電荷発生層上に電荷輸送層を積層した機能分離型の感光体は、電子写真特性および耐久性に優れ、材料選択の自由度の高さから感光体特性を様々に設計できることから広く実用化されている。
【0012】
レーザー光を露光用光源とする電子写真装置としては、レーザープリンタが代表的な例であるが、近年では複写機においてもデジタル化が進みレーザーが露光用光源に用いられることが一般的となってきた。
主に露光用光源として用いられるレーザーは、低コストで消費エネルギーが少なく軽量小型である半導体レーザーが実用化されており、発振波長や出力の安定性、寿命の点において800nm付近の近赤外領域に発振波長を有するものが一般的なものであった。これは短波長で発振するレーザーが技術的な問題から実用化にはいたっていなかったためである。
【0013】
この事を受けて、レーザーを露光光源とした電子写真装置で用いられる電荷発生物質は、長波長領域に光を吸収して感度を有する有機化合物、特にフタロシアニン顔料を電荷発生層に、トリフェニルアミン化合物(特公昭58−32372号公報:特許文献1、特開平2−190862号公報:特許文献2)、スチルベン化合物(特開昭54−151955号公報:特許文献3、特開昭58−198043号公報:特許文献4)、ヒドラゾン化合物(特開昭54−150128号公報:特許文献5、特公昭55−42380号公報:特許文献6、特開昭55−52063号公報:特許文献7)、フェニレンジアミン化合物(特開平4−291266号公報:特許文献8)、エナミン化合物(特開平7−134430号公報:特許文献9)を電荷輸送層に含有した積層型感光体が開発されてきた。
【0014】
1990年に青色発光ダイオードの製造方法が発明され(特許第2628404号公報:特許文献10)それ以後、青色半導体レーザーの関連技術は、活発に開発が進められブルーレイディスクと呼ばれる次世代ディスクが急速に普及しつつある。
【0015】
一方で、近年、電子写真装置の出力画像の画質向上を図るために、画質の高解像度化が検討されている。記録密度の高い高解像度の画質を達成するひとつの手段として、光学的な方法としてはレーザービームのスポット径を絞り、書込み密度を上げることが挙げられる。そこで使用するレンズの焦点距離を短くすれば良いが光学系の設計上の難しさに加え、800nm付近の近赤外域に発振波長を持つレーザーでは、光学系の操作でビーム径を細くしてもスポット輪郭の鮮明さが得られにくい。その原因はレーザー光の回折限界にあり、これは避けることの出来ない現象である。
【0016】
一般に、感光体の表面に収束されるレーザーのスポット径は、スポット径をDとすると、スポット径Dとレーザービームの波長及びレンズ開口数NAとは次の式で示される関係にある。
D=1.22λ/NA
(式中、λはレーザービームの波長、NAはレンズ開口数を表す)
この式から、スポット径Dはレーザー光の発振波長に比例しており、スポット径Dを小さくするには発振波長の短いレーザーを用いればよいことが示唆される。
【0017】
つまり、現在主流の近赤外半導体レーザーに代えて、より波長が短い青色半導体レーザーを用いることにより、さらに高解像度を実現できることが判る。
しかし、このような青色系レーザーは光ディスクの記録密度を向上させるものという意味で大きな成果を挙げたが、電子写真装置の露光用光源としてはほとんど期待されていなかった。それは従来の電子写真感光体が、この波長域に感度を示さないからである。
【0018】
従来の積層型電子写真感光体は導電性支持体の上に電荷発生層、電荷輸送層を順に積層したものが一般的に実用化されているが、420nm以下の波長にも吸収を示す電荷発生物質を用いれば、一般的に420nm以下の短波長レーザーの露光にも感度を示すはずである。
【0019】
しかしながら、実際には電荷発生層の上に積層された電荷輸送層、特に電荷輸送物質が420nmの波長に吸収を示すことから、露光光源として用いた短波長のレーザー光が感光層の表面で吸収されて電荷発生層まで到達できないことから、積層型電子写真感光体ではこの波長域に感度を示さないのである。
【0020】
また、更に、波長成分の揃った高強度の光で露光されるために電荷輸送物質や電荷発生物質が変質し易く、長期の使用によって感光体の感度が低下し高画質が維持できないという問題もあった。これらの問題に対応した電子写真感光体が開発されている(特許第3937602号公報:特許文献11)が、膜の透過率と高感度化を両立できたものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
特許文献1:特公昭58−32372号公報
特許文献2:特開平2−190862号公報
特許文献3:特開昭54−151955号公報
特許文献4:特開昭58−198043号公報
特許文献5:特開昭54−150128号公報
特許文献6:特公昭55−42380号公報
特許文献7:特開昭55−52063号公報
特許文献8:特開平4−291266号公報
特許文献9:特開平7−134430号公報
特許文献10:特許第2628404号公報
特許文献11:特許第3937602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、405±20nmの波長で高い感度特性を有し、光によって疲労劣化しない高耐久性に優れた電子写真感光体を提供することにある。
更に別の目的は、この感光体と発振波長が405±20nmの範囲にある半導体レーザーを使用することによって、高感度で高解像力を有する電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
しかるに、本発明によれば波長405±20nmの光源が、露光手段として使用される電子写真感光体において、該感光体は、導電性支持体と、該支持体上に順次積層した少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とから構成される感光層とからなり、
該電荷輸送層が、電荷輸送物質として下記一般式(I):
【化1】

【0024】
(式中、Arは置換基を有してもよいアリ−ル基を意味し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を意味し、kは1〜5の整数を意味し、ならびにlおよびmは1〜4の整数を意味する)
で示されるフェニレンジアミン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0025】
また、本発明によれば、上記の電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体に対して波長が405±20nmの光源を露光手段とし、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0026】
405±20nmの波長の露光光源を使用される電子写真感光体において、該電子写真感光体中に一般式(I)で示される本フェニレンジアミン化合物を含有することによっ
て、高感度、高解像力を有する電子写真感光体及び電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一つの積層型感光体構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の他の積層型感光体構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明において、前記の一般式(I)中のArの定義におけるアリール基は、フェニル基、ナフチル基またはビフェニル基を意味し、該アリール基が有し得る置換基は、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基であり;R1、R2およびR3の定義におけるハロゲン原子は、フッ素、塩素、シュウ素またはヨウ素原子を意味し、R1、R2およびR3は、アルキル基またはアルコキシ基は、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基を意味する。
【0029】
上記のC1〜C4のアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基またはt−ブチル基を意味する。
また、C1〜C4のアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブトキシ基またはt−ブトキシ基を意味する。
【0030】
具体的には、本発明において、前記一般式(I)のArは、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3,4−ジエチルフェニル基、3,5−ジエチルフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、3,4−ジエトキシフェニル基、3,5−ジエトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2'−メチル−4−ビフェニリル基、4'−メチル−4−ビフェニリル基または2',4'−ジメチル−4−ビフェニリル基、2'−メチル−4−ビフェニリル基、4'−エチル−4−ビフェニリル基または2',4'−ジエチル−4−ビフェニリル基を意味し;
1は、水素原子、2'−、3'−、4'−、5'−もしくは6'−メチルまたはエチル基を意味し、R2は、水素原子、2−、3−、5−もしくは6−メチルまたはエチル基を意味し、R3は水素原子、2−、4−、5−もしくは6−メチルまたはエチル基を意味する。
【0031】
より具体的には、本発明において、前記一般式(I)のArは、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2'−メチル−4−ビフェニリル基、4'−メチル−4−ビフェニリル基または2',4'−ジメチル−4−ビフェニリル基を意味し;R1は、水素原子もしくは2'−または4'−メチル基を意味し、R2は、水素原子もしくは2−メチル基を意味し、R3は水素原子または5−メチル基を意味する。
【0032】
さらに具体的には、本発明において、前記一般式(I)の化合物は、以下の式:
【化2】

で表されるフェニレンジアミン化合物である。
【0033】
一般的な電荷輸送物質は、電子雲を可能な限り広げることで、電荷の高移動度を実現している。しかしながら、電子雲を広がれば広がるほど、電荷輸送物質の吸収波長は、長波長側にシフトする傾向がある。
【0034】
本発明のフェニレンジアミン化合物は、電子雲の広がりを比較的小さく抑えられているものの、実使用上十分な電荷移動度を有している。
すなわち、従来の電荷移動物質と比べ、本発明のフェニレンジアミン化合物は、405±20nmの範囲にある露光光源に対する吸光度と移動度のバランスが非常に優れている構造になっている。したがって、該フェニレンジアミン化合物を電荷輸送物質として電荷輸送層に含有させることで、電荷輸送層が、405±20nmの範囲にある露光光源に対して良好な透過性を示し、かつ良好な電気特性を示すことが出来る。
【0035】
したがって、本発明によれば、前記の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体に対して波長が405±20nmの光源を露光手段とし、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備える画像形成装置が提供される。
【0036】
また、本発明によれば、前記光源が、青紫色半導体レーザーであることを特徴とするが画像形成装置が提供される。
【0037】
次いで、一般的に用いられる電子写真感光体の材料について説明する。尚、本発明に係る感光体材料は以下に記載の内容に限定されるものではない。
【0038】
図1は、本発明による電子写真感光体の一例である電子写真感光体1の構成を簡略化して示す模式断面図である。
電子写真感光体1は、導電性材料からなるシート状の導電性支持体11上に、中間層18を設け、その上に電荷発生物質12を含有する電荷発生層15と、電荷輸送物質13および電荷輸送物質13を結着させるバインダ樹脂17を含有する電荷輸送層16とが、導電性支持体11上に、この順序で積層されてなる積層構造からなる感光層14を有する積層型感光体である。
【0039】
導電性支持体
導電性支持体11を構成する導電性材料としては、たとえばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼およびチタンなどの金属材料、ならびに、表面に金属箔ラミネート、金属蒸着処理、または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層の蒸着もしくは塗布を行ったポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙またはガラスなどを挙げることが出来る。特に好ましくは、JIS3003系、JIS5000系およびJIS6000系などのアルミニウム合金を用いるのが好ましい。導電性支持体11の形状は、シート状、ドラム状、無端ベルト状などが上げられる。
【0040】
導電性支持体11の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化皮膜処理、薬品もしくは熱水などによる表面処理、着色処理、または表面を粗面化するなどの乱反射処理を施してもよい。レーザーを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザー光の波長が揃っているため、入射するレーザー光と電子写真感光体内で反射された光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像上に現れて画像欠陥が発生することがある。導電性支持体11の表面に前述のような処理を施すことによって、この波長の揃ったレーザー光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0041】
中間層
本発明の積層型感光体は、導電性支持体11と感光層14との間に中間層18を有するのが好ましい。
中間層は、導電性支持体から積層型感光層への電荷の注入を防止する機能を有する。すなわち、感光層の帯電性の低下が抑制され、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少が抑えられ、かぶりなどの画像欠陥の発生が防止される。特に、反転現像プロセスによる画像形成の際に、白地部分にトナーからなる微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像かぶりが発生するのが防止される。
【0042】
また、中間層で導電性支持体の表面を被覆する中間層は、導電性支持体の表面の欠陥である凹凸の度合を軽減して表面を均一化し、積層型感光層の成膜性を高め、導電性支持体と感光層との密着性を向上させることができる。
中間層18は、例えば、樹脂材料を適当な溶剤に溶解させて中間層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。
【0043】
樹脂材料としては、積層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂に加えて、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどの天然高分子材料などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。これらの樹脂の中でも、ポリアミド樹脂が好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂が特に好ましい。アルコール可溶性ナイロン樹脂としては、例えば6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、2−ナイロンおよび12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、ならびにN−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させた樹脂などが挙げられる。
【0044】
樹脂材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのグライム類、ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどの塩素系溶剤、アセトン、ジオキソラン、これらの溶剤を2種以上混合した混合溶剤などが挙げられる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0045】
中間層18の塗布方法としては、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などを挙げることができる。これらの塗布方法のうちから、塗布の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を選択することができる。特に浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に導電性支持体11を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって導電性支持体11上に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、電子写真感光体を製造する場合に多く利用されている。
【0046】
また、中間層形成用塗布液は、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。
金属酸化物粒子は、中間層の体積抵抗値を容易に調節でき、積層型感光層への電荷の注入をさらに抑制できると共に、各種環境下において感光体の電気特性を維持できる。
【0047】
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化スズなどが挙げられる。
【0048】
中間層形成用塗布液におけるバインダ樹脂と金属酸化物粒子との合計重量Cと溶剤の重量Dとの比率(C/D)は、1/99〜40/60が好ましく、2/98〜30/70が特に好ましい。
【0049】
また、バインダ樹脂の重量Eと金属酸化物粒子の重量Fとの比率E/Fは、90/10〜1/99が好ましく、70/30〜5/95が特に好ましい。
【0050】
中間層の膜厚は特に限定されないが、0.01〜20μmが好ましくは、0.05〜10μmが特に好ましい。
【0051】
中間層の膜厚が20μmを超える場合には、均一な中間層を形成し難く、また中間層上に均一な単層型感光層を形成し難く、感光体の感度が低下するおそれがある。一方、中間層の膜厚が0.01μm未満の場合には、中間層として実質的に機能しなくなり、導電性支持体の欠陥を被覆して均一な表面が得られないおそれがある。すなわち、導電性支持体からの積層型感光層への電荷の注入を防止することができなくなり、帯電性の低下が生じる。
【0052】
なお、導電性支持体の構成材料がアルミニウムの場合には、アルマイトを含む層(アルマイト層)を形成し、中間層とすることができる。
【0053】
電荷発生層
電荷発生層15は、光を吸収することによって電荷を発生させる電荷発生物質12を主成分として含有する。
電荷発生物質12として有効な物質としては、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料、インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料、ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料、金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類およびチオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素、ならびにセレンおよび非晶質シリコンなどの無機材料などを挙げることができる。これらの電荷発生物質12は、1種が単独でまたは2種以上が組合わされて使用される。
【0054】
これらの電荷発生物質12の中でも、下記一般式(A):
【化3】

で示されるオキソチタニルフタロシアニンを用いることが好ましい。
前記一般式(A)において、X1,X2,X3およびX4は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を示し、r,s,yおよびzは、それぞれ0〜4の整数を示す。
【0055】
オキソチタニルフタロシアニンは、現在一般的に用いられているレーザー光およびLED光の発信波長域(近赤外光)で高い電荷発生効率と電荷注入効率とを有する電荷発生物質12であるので、光を吸収することによって多量の電荷を発生させるとともに、発生した電荷をその内部に蓄積することなく電荷輸送物質13に効率よく注入する。
【0056】
前記一般式(A)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物は、たとえばモーザ(Moser)およびトーマス(Thomas)による「フタロシアニン化合物(Phthalocyanine Compounds)」に記載されている方法などの従来公知の製造方法によって製造することができる。
【0057】
たとえば、前記一般式(A)で示されるオキソチタニウムフタロシアニン化合物のうち、X1,X2,X3およびX4が共に水素原子であるオキソチタニウムフタロシアニンは、フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するかまたはα−クロロナフタレンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによってジクロロチタニウムフタロシアニンを合成した後、塩基または水で加水分解することによって得られる。
【0058】
またイソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N−メチルピロリドンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによっても、オキソチタニウムフタロシアニンを製造することができる。
【0059】
電荷発生物質12は、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料、エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料、メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料、カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料、シアニン染料、スチリル染料、ピリリウム塩染料またはチオピリリウム塩染料などの増感染料と組合わされて使用されてもよい。
【0060】
電荷発生層15の形成方法としては、電荷発生物質12を導電性支持体11上に真空蒸着する方法、または溶剤中に電荷発生物質12を分散して得られる電荷発生層用塗布液を導電性支持体11上に塗布する方法などがある。これらの中でも、結着剤であるバインダ樹脂を溶剤中に混合して得られるバインダ樹脂溶液中に、電荷発生物質12を従来公知の方法によって分散し、得られた塗布液を導電性支持体11上に塗布する方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
【0061】
バインダ樹脂には、たとえばポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリビニルホルマール樹脂などの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などからなる群から選ばれる1種が単独でまたは2種以上が混合されて使用される。共重合体樹脂の具体例としては、たとえば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂などを挙げることができる。バインダ樹脂はこれらに限定されるものではなく、一般に用いられる樹脂をバインダ樹脂として使用することができる。
【0062】
溶剤には、たとえばジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン(THF)およびジオキサンなどのエーテル類、1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類、またはN,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが用いられる。また、これらの溶剤を2種以上混合した混合溶剤を用いることもできる。地球環境に対する配慮すると、非ハロゲン溶剤を用いることが好ましい。
【0063】
電荷発生物質12とバインダ樹脂との配合比率は、電荷発生物質12の割合が10重量%〜99重量%の範囲にあることが好ましい。電荷発生物質12の割合が10重量%未満であると、感度が低下する。電荷発生物質12の割合が99重量%を越えると、電荷発生層15の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質12の分散性が低下して粗大粒子が増大し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少して画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりが多くなる。したがって、10重量%〜99重量%が好ましい。
【0064】
バインダ樹脂溶液中に電荷発生物質12を分散させる前に、予め電荷発生物質12を粉砕機によって粉砕処理してもよい。粉砕処理に用いられる粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などを挙げることができる。
【0065】
電荷発生物質12をバインダ樹脂溶液中に分散させる際に用いられる分散機としては、ペイントシェーカー、ボールミルまたはサンドミルなどを挙げることができる。このときの分散条件としては、用いる容器および分散機を構成する部材の摩耗などによる不純物の混入が起こらないように適当な条件を選択する。
【0066】
電荷発生物質12をバインダ樹脂溶液中に分散して得られる電荷発生層用塗布液の塗布方法としては、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などを挙げることができる。これらの塗布方法のうちから、塗布の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を選択することができる。特に浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に導電性支持体11を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって導電性支持体11上に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、電子写真感光体を製造する場合に多く利用されている。なお、浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるため、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置を設けてもよい。
【0067】
電荷発生層15の膜厚は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上1μm以下である。電荷発生層15の膜厚が0.05μm未満であると、光吸収の効率が低下し、感度が低下する。電荷発生層15の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷移動が感光体表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感度が低下する。
【0068】
電荷輸送層
電荷輸送層16は、電荷発生物質12で発生した電荷を受入れ輸送する能力を有する電荷輸送物質13を、バインダ樹脂17中に含有させることによって得られる。電荷輸送物質13としては、本発明の一般式(I):
【化4】

【0069】
(式中、Arは置換基を有してもよいアリ−ル基を意味し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を意味し、kは1〜5の整数を意味し、ならびにlおよびmは1〜4の整数を意味する)
で示されるフェニレンジアミン化合物が用いられる。
【0070】
上記の一般式(I)で表されるフェニレンジアミン化合物は、例えば以下のようにして
製造することが出来る。
【0071】
すなわち、一般式(II)
【化5】

(式中、Ar、R3およびmは前記一般式(I)において定義したとおりである)
で表されるフェニレンジアミン化合物を、一般式(III):
【0072】
【化6】

(式中、R1、R2、kおよびlは、前記一般式(I)において定義したとおりであり、
Xはヨウ素または臭素を意味する)
で表されるハロゲン化ビフェニル化合物と;銅粉末、酸化銅、ハロゲン化銅等からなる銅化合物から選択される銅系触媒;および炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩または水酸化物から選択される塩基性化合物の存在下;無溶媒か、またはニトロベンゼン、ジクロロベンゼン、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミドおよびN−メチル−2−ピロリドン等からなる群から選択される有機溶媒中、150〜260℃で5〜50時間加熱攪拌する。
【0073】
反応混合物冷却して、生成物を塩化メチレンやトルエンなどの有機溶媒に溶解し、不要物を分離し、溶剤を留去した後、残留物をアルミナカラムまたはシリカゲルカラムクロマトグラフィー等で精製し、トルエン、エタノール、酢酸エチル等から再結晶することによりフェニレンジアミン化合物を製造することが出来る。
【0074】
また、フェニレンジアミン化合物、ハロゲン化ビフェニル化合物、銅系触媒及び塩基性化合物の使用量は、常法に従って、通常、化学量論量を使用すれば良いが、好ましくはフェニレンジアミン化合物1モルに対して、ハロゲン化ビフェニル化合物2〜10モル、銅系触媒0.1〜2モル、塩基性化合物1〜3モルの範囲で使用すればよい。
【0075】
本発明における一般式(I)で表されるフェニレンジアミン化合物としては、例えば、次のような化合物がある。
【化7】

【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【0076】
また、本発明のフェニレンジアミン化合物と、他の種々の公知電荷輸送物質とを、電荷輸送層中の電荷輸送物質の総量中、20重量%以下の量であれば混合し併用してもよい。
このような他の電荷輸送物質としては、例えば、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体およびベンジジン誘導体などを挙げることができる。
【0077】
また、これらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、たとえばポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレンおよびポリ−9−ビニルアントラセンなども挙げられる。
【0078】
電荷輸送層16に用いられるバインダ樹脂17には、電荷輸送物質13との相溶性に優れるものが選ばれる。
具体例としては、例えばポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル重合体樹脂およびそれらの共重合体樹脂、ならびにポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、フェノール樹脂などの樹脂などを挙げることができる。また、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂を使用してもよい。
【0079】
これらの樹脂は、単独で使用されてもよく、また2種以上混合されて使用されてもよい。前述した樹脂の中でも、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂またはポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れており、また皮膜性および電位特性などにも優れているので、これらをバインダ樹脂17に用いることが特に好ましい。
【0080】
電荷輸送物質13(A)とバインダ樹脂17(B)との比率A/Bは、10/12〜10/30で用いられる。
前記比率A/Bが10/30未満でありバインダ樹脂17の比率が高くなると、浸漬塗布法によって電荷輸送層16を形成する場合、塗布液の粘度が増大するので、塗布速度低下を招き生産性が著しく悪くなる。また塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層16に白濁が発生する。
また前記比率A/Bが10/12を超えバインダ樹脂17の比率が低くなると、バインダ樹脂17の比率が高いときに比べて耐刷性が低くなり、感光層の摩耗量が増加する。
【0081】
電荷輸送層16には、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤またはレベリング剤などの添加剤を添加してもよい。
可塑剤としては、たとえば二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などを挙げることができる。
レベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤などを挙げることができる。
【0082】
また電荷輸送層16には、機械的強度の増強や電気的特性の向上を図るために、無機化合物または有機化合物の微粒子を添加してもよい。
【0083】
電荷輸送層16は、例えば前記の電荷発生層15を形成する場合と同様に、適当な溶剤中に電荷輸送物質13およびバインダ樹脂17、ならびに必要な場合には前記の添加剤を溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液をスプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法または浸漬塗布法などによって、電荷発生層15上に塗布することによって形成される。
これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、前記したように種々の点で優れているので、電荷輸送層16を形成する場合にも多く利用されている。
【0084】
塗布液に用いられる溶剤には、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびモノクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、THF、ジオキサンおよびジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類、ならびにN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤などからなる群から選ばれる1種が単独でまたは2種以上が混合されて使用される。また前述した溶剤に、必要に応じてアルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンなどの溶剤をさらに加えて使用することもできる。また、地球環境への配慮から非ハロゲン系有機溶剤を用いることが好ましい。
【0085】
電荷輸送層16の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、より好ましくは10μm以上40μm以下である。電荷輸送層16の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下する。電荷輸送層16の膜厚が50μmを超えると、感光体の解像度が低下する。
【0086】
感光層14には、感度の向上を図り、繰返し使用時の残留電位の上昇および疲労などを抑えるために、さらに1種以上の電子受容物質や色素を添加してもよい。
【0087】
電子受容物質には、たとえば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸および4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレンおよびテレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノンおよび1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノンおよび2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物、ならびにジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料、またはこれらの電子吸引性材料を高分子化したものなどを用いることができる。
【0088】
色素には、たとえばキサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン色素、キノリン系顔料または銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物を用いることができる。これらの有機光導電性化合物は光学増感剤として機能する。
【0089】
図2は、本発明による電子写真感光体のさらに他の例である電子写真感光体2の構成を簡略化して示す模式断面図である。
電子写真感光体2は、図1に示す電子写真感光体1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0090】
注目すべきは、電子写真感光体2が、電子写真感光体1の最外層である電荷輸送層16上に表面保護層150が設けられていることである。
表面保護層150に使用されるバインダ樹脂としてはポリスチレン、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂が有効に使用される。摩耗特性、電気的特性を考慮した場合、ポリカーボネート、ポリアリレートが好ましい。これらのバインダは、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0091】
また、感光体の表面保護層150 にはその他、耐摩耗性を向上する目的でフィラー材料が添加されてもよい。
有機性フィラー材料としては、ポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素樹脂粉末、シリコーン樹脂粉末、a−カーボン粉末等が挙げられ、無機性フィラー材料としては、銅、スズ、アルミニウム、インジウムなどの金属粉末、シリカ、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、アンチモンをドープした酸化錫、錫をドープした酸化インジウム等の金属酸化物、チタン酸カリウムなどの無機材料が挙げられる。
【0092】
特に、フィラーの硬度の点からは、この中でも無機材料を用いることが有利である。また、フィラーの平均一次粒径は、0.01〜0.5μmであることが表面保護層の光透過率や耐摩耗性の点から好ましい。これらフィラーは分散性向上などの理由から無機物、有機物で表面処理されてもよい。一般に、撥水性処理としてシランカップリング剤で処理したもの、あるいはフッ素系シランカップリング剤で処理したもの、高級脂肪酸で処理したもの。無機物処理としてはフィラー表面をアルミナ、ジルコニア、酸化スズ、シリカで処理したもの知られている。
【0093】
表面保護層中のフィラー材料濃度は、高いほど耐摩耗性が高いので良好であるが、高すぎる場合には残留電位の上昇、保護層の書き込み光透過率が低下し、副作用を生じる場合がある。従って、概ね全固形分に対して、50重量%以下、好ましくは30重量%以下程度である。また、表面保護層中に前記電荷輸送物質13を含有してもよい。
【0094】
なお、表面保護層150 の厚さは0.1〜10μm程度が適当である。さらに1.0〜8.0μmの範囲であることが好ましい。長期的に繰り返し使用される感光体は、機械的に耐久性が高く、摩耗しにくいものとする。しかし実機内では、帯電部材などから、オゾン及びNOxガスなどが発生し、感光体の表面に付着する。これらの付着物が存在すると、画像流れが発生する。この画像流れを防止するためには、感光層をある一定速度以上に摩耗する必要がある。そのためには、長期的な繰り返し使用を考慮した場合、表面保護層 は少なくとも1.0μm以上の膜厚であることが好ましい。また表面保護層 膜厚が8.0μmよりも大きい場合は、残留電位上昇や微細ドット再現性の低下が考えられる。
【0095】
本発明の画像形成装置は、本発明の積層型感光体と、積層型感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された積層型感光体に対して青色レーザーダイオードによる露光を施す露光手段と、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする。
【0096】
図面を用いて本発明の画像形成装置およびその動作について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
図3の画像形成装置(レーザープリンタ)100は、本発明の積層型感光体1(図1参照)と、露光手段(半導体レーザー)31と、帯電手段(コロナ帯電器)32と、現像手段(現像器)33と、転写手段(転写帯電器)34と、搬送ベルト(図示せず)と、定着手段(定着器)35、クリーニング手段(クリーナ)36とを含んで構成される。符号51は転写紙を示す。
【0097】
積層型感光体1は、図示しない画像形成装置100本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線44回りに矢符41方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を積層型感光体1の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、積層型感光体1を所定の周速度で回転駆動させる。
【0098】
帯電器32、露光手段31、現像器33、転写帯電器34およびクリーナ36は、この順序で、積層型感光体1の外周面に沿って、矢符41で示される積層型感光体1の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
帯電器32は、積層型感光体1の外周面を均一に所定の電位に帯電させる帯電手段である。
【0099】
本発明の画像形成装置における帯電手段は、有害なオゾンガス発生低減の観点から、正帯電であるのが好ましい。
【0100】
露光手段31は、青色半導体レーザーを光源として備え、光源から出力されるレーザービームの光を、帯電器32と現像器33との間の積層型感光体1の表面に照射することによって、帯電された単層型感光体1の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光は、主走査方向である積層型感光体1の回転軸線44の延びる方向に繰返し走査され、これらが結像して積層型感光体1の表面に静電潜像が順次形成される。
すなわち、帯電器32により均一に帯電された積層型感光体1の帯電量がレーザービームの照射および非照射によって差異が生じて静電潜像が形成される。
【0101】
現像器33は、露光によって積層型感光体1の表面に形成される静電潜像を、現像剤(トナー)によって現像する現像手段であり、積層型感光体1を臨んで設けられ、積層型感光体1の外周面にトナーを供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを単層型感光体1の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0102】
転写帯電器34は、現像によって積層型感光体1の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符42方向から積層型感光体1と転写帯電器34との間に供給される記録媒体である転写紙51上に転写させる転写手段である。転写帯電器34は、例えば、帯電手段を備え、転写紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙51上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0103】
クリーナ36は、転写帯電器34による転写動作後に積層型感光体1の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、積層型感光体1の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング36bとを備える。また、このクリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0104】
また、画像形成装置100には、積層型感光体1と転写帯電器34との間を通過した転写紙51が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
【0105】
また、符号37は、転写紙と感光体を分離する分離手段、38は画像形成方法の各手段を収容するハウジング(ケーシング)を示す。
この画像形成装置100による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、積層型感光体1が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動されると、露光手段31による光の結像点よりも積層型感光体1の回転方向上流側に設けられる帯電器32によって、単層型感光体1の表面が正の所定電位に均一に帯電される。
【0106】
次いで、露光手段31から、積層型感光体1の表面に対して画像情報に応じた光が照射される。積層型感光体1は、この露光によって、光が照射された部分の表面電荷が除去され、光が照射された部分の表面電位と光が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
【0107】
露光手段31による光の結像点よりも積層型感光体1の回転方向下流側に設けられる現像器33から、静電潜像の形成された積層型感光体1の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0108】
積層型感光体1に対する露光と同期して、積層型感光体1と転写帯電器34との間に、転写紙51が供給される。転写帯電器34によって、供給された転写紙51にトナーと逆極性の電荷が与えられ、積層型感光体1の表面に形成されたトナー像が、転写紙51上に転写される。
【0109】
トナー像の転写された転写紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0110】
一方、転写帯電器34によるトナー像の転写後も積層型感光体1の表面上に残留するトナーは、クリーナ36によって積層型感光体1の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された積層型感光体1の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、積層型感光体1の表面上の静電潜像が消失する。その後、積層型感光体1はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
【実施例】
【0111】
以下に実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
なお、以下の製造例で調製したフェニレンジアミン化合物の確認は、以下のNMR測定装置を用い1H−NMRスペクトル(通常)を以下の測定条件で測定した。
核磁気共鳴装置:NMR(ブルカーバイオスピン社製、型式:DPX−200)
サンプル調整 約4mg試料/0.4m(CDCl3
測定モード 1H(通常)
【0112】
製造例1
例示化合物2の製造
o−ジクロロベンゼン100ml中で、以下の式:
【化8】

で表される下記化合物(B)5.0g(1.0当量)、以下の式:
【化9】

で表される化合物(C)11.7g(2.1当量)、銅粉末2.2g(2.0当量)、無水炭酸カリウム19.1g(8.0当量)を混合し、反応温度を180℃まで上げ、この温度を保つように加熱しながら18時間撹拌および還流して反応させた。反応終了後、熱時セライト瀘過を行い、瀘液を濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル=1/1)で精製し、白色粉末化合物を得た。
【0113】
得られた白色粉末状化合物の1H−NMR測定を行い、化学構造分析を行った。その結果、1H−NMRスペクトルは、δ 2.31(s、6H)、6.68(dd、J=8.1Hz,J=2.4,2H)、6.88(t、J=2.1Hz,1H)、7.00−7.13(m、13H),7.27−7.32(m,2H) 、7.34−7.44(m、8H)、7.47−7.54(m、4H)を示し、例示化合物2の構造が、以下の式:
【化10】

で表されるフェニレンジアミン化合物であることを確認できた。
1H−NMR(通常)において構造確認を行った。
【0114】
製造例2
例示化合物13の製造
製造例1における化合物(C)を、以下の式:
【化11】

で表される化合物(E)に変えた以外は、製造例1と同様の操作で目的物を得た。製造例1と同様にして化学構造分析も行った。
【0115】
1H−NMRスペクトルは、δ 2.23 (s, 6H), 2.30 (s, 6H), 6.68 (dd, J=8.1Hz、J=2.1Hz、2H)、6.92(t、J=2.4Hz、1H)、7.03−7.30(m、25H)を示し、例示化合物13が、以下の式:
【化12】

で表されるフェニレンジアミン化合物であることを確認できた。
1H−NMR(通常)において構造確認を行った。
【0116】
製造例3
例示化合物21の製造
製造例1における化合物(B)を、以下の式:
【化13】

で表される化合物(F)に変えた以外は、製造例2と同様の操作で生成物を得た。製造例1と同様の化学構造分析も行った。
【0117】
1H−NMRスペクトルは、δ 2.27(s、12H)、6.82(dd、J=7.8Hz,J=2.1Hz,2H)、7.07(t、J=2.1Hz,1H)、7.15−7.26(m、33H)を示し、例示化合物21が、以下の式:
【化14】

で表されるフェニレンジアミン化合物であることを確認できた。
1H−NMR(通常)において構造確認を行った。
【0118】
実施例1
酸化チタン(商品名:タイベークTTO−D−1、石原産業株式会社製)3重量部および市販のポリアミド樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ株式会社製)2重量部を、メチルアルコール25重量部に加え、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、中間層形成用塗工液3リットルを調製した。得られた中間層用塗布液を、導電性支持体としてアルミニウムを蒸着したPETフィルム上にアプリケータ塗布法により塗布し、膜厚1μmの中間層を形成した。
【0119】
次いで、ジイミノイソインドリン29.2gとスルホラン200mlを混合し、チタニウムテトライソプロポキシド17.0gを加え、窒素雰囲気下に140℃で2時間反応させた。放冷した後析出物を濾取し、クロロホルムで洗浄、2%の塩酸水溶液で洗浄、水洗、メタノール洗浄して、乾燥の後25.5g(88.5%)の下記構造式のチタニルフタロシアニンを得た。
【0120】
得られたチタニルフタロシアニン1重量部およびブチラール樹脂(商品名:BM−2、電気化学工業(株)製)1重量部をメチルエチルケトン98重量部に混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層形成用塗工液3リットルを調製した。この電荷発生層形成用塗工液を、中間層形成の場合と同様の方法で中間層表面に塗布し、自然乾燥して膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【化15】

【0121】
次いで、電荷輸送物質として表1の例示化合物2 100重量部、ポリカーボネート樹脂(TS2050:帝人化成社製)150重量部、シリコンオイルSH200(東レ・ダウコーニング社製)0.02重量部を混合し、テトラヒドロフランを溶剤として固形分25重量%の電荷輸送層形成用塗工液3リットルを調製した。この電荷輸送層形成用塗工液をアプリケータ塗布法により、先に設けた電荷発生層表面に塗布し、120℃で1時間乾燥して膜厚25μmの電荷輸送層を形成した。このようにして、図1に示す積層型感光体を作製した。
【0122】
実施例2
例示化合物2に代えて例示化合物13を用いた以外は実施例1と同様にして積層型感光体を作製した。
【0123】
実施例3
例示化合物2に代えて例示化合物21を用いた以外は実施例1と同様にして積層型感光体を作製した。
【0124】
比較例1
実施例1において、例示化合物2に代えて、以下の式:
【化16】

で表されるトリフェニルアミン系化合物(TPD)(商品名:D2448、東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、図1の積層型感光体を作製した。
【0125】
比較例2
実施例1において、例示化合物2に代えて、以下の式:
【化17】

で表されるエナミン系化合物(特許第3881651号公報記載の方法で合成した)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、図1の積層型感光体を作製した。
【0126】
比較例3
実施例1において、例示化合物2に代えて、以下の式:
【化18】

で表されるトリフェニルアミン系化合物(商品名:D2558、東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、図1の積層型感光体を作製した。
【0127】
[評価]
1.実施例1〜3および比較例1〜3で得られた各電子写真感光体について、静電紙試験装置(商品名:EPA−8200、株式会社川口電機製作所製)を用いて、以下のようにして電気特性を評価した。
【0128】
感光体を表面電位が600Vになるように負帯電させ、帯電された感光体表面に対して300Wのキセノンランプ光を干渉フィルターで分光し、波長400nm、NDフィルターで強度5μW/cm2に調整した光で露光し、感光体の表面電位を半減させるのに要した露光量を半減露光量E1/2[μJ/cm2]として測定した。
【0129】
2.実施例および比較例で用いられた電荷輸送層形成用塗工液を厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(略称PET)フィルム上にアプリケータによって塗布し、120℃の熱風で60分間乾燥させ、膜厚20μmの電荷輸送層を作製した。このフィルムをU−4000型分光光度計(日立製作所社製)により405nmの波長における光透過率を%単位で求めた。
【0130】
3.実施例1〜3および比較例1〜3の各感光体を、製品に搭載されている感光体ドラム上にアース部分を接地して貼り付けた。次に解像度1200dpi負帯電方式のデジタル複写機(商品名:AR−266FP、シャープ株式会社製)の露光ユニット(LSU)を青色半導体レーザー(405nm)用に改造した試験用複写機に装着し、解像度を評価した自己印字モードで 1ライン画像、縦横の2ライン画像、黒ベタの1ライン抜け画像、1by1ドット(1ドット置きに1ドットを印字)画像の評価を行った。
【0131】
評価結果を、表2に示す。
【表2】

【0132】
実施例1〜3、比較例1〜3より、電荷輸送物質に本発明のフェニレンジアミン化合物を用いた電子写真感光体は、電荷輸送膜の透過率も高く、高感度であることがわかる。また、本発明のフェニレンジアミン化合物を用いることで、高解像度化においても露光光源の短波長化による光学系のメリットを十分に生かした画像形成装置が実現できることがわかった。
【0133】
比較例1及び2のトリフェニルアミン(TPD)化合物およびエナミン化合物は、透過率が低く、電荷発生層に十分な光が届かないため、感度が悪いことがわかる。また、比較例1及び2のトリフェニルアミン(TPD)化合物およびエナミン化合物は、電荷輸送物質に光が吸収され、電荷輸送層内部で発光するため画像評価においても不鮮明な画像となった。比較例3のトリフェニルアミン化合物は、透過率は優れているものの、電荷輸送機能に問題あるため、非常に低感度であり、それに伴い画像濃度も評価出来ないレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0134】
405±20nmの波長の露光光源を使用される電子写真感光体において、該電子写真感光体中に一般式(I)で示される本フェニレンジアミン化合物を含有することによっ
て、高感度、高解像力を有する電子写真感光体及び電子写真装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0135】
1、2 電子写真感光体
11 導電性支持体
12 電荷発生物質
13 電荷輸送物質
14 感光層
15 電荷発生層
16 電荷輸送層
17 バインダ樹脂
18 中間層
150 表面保護層
31 露光手段(半導体レーザー)
32 帯電手段(コロナ帯電器)
33 現像手段(現像器)
33a 現像ローラ
33b ケーシング
34 転写手段(転写帯電器)34
35 定着手段(定着器)
35a 加熱ローラ
35b 加圧ローラ
36 クリーニング手段(クリーナ)
36a クリーニングブレード
36b 回収用ケーシング
37 分離手段
38 ハウジング(ケーシング)
41、42 矢符
44 回転軸線
51 転写紙
100 画像形成装置(レーザープリンター)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長405±20nmの光源が、露光手段として使用される電子写真感光体において、該感光体は、導電性支持体と、該支持体上に順次積層した少なくとも電荷発生層と電荷輸送層とから構成される感光層とからなり、
該電荷輸送層が、電荷輸送物質として下記一般式(I):
【化1】

(式中、Arは置換基を有してもよいアリ−ル基を意味し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基を意味し、kは1〜5の整数を意味し、ならびにlおよびmは1〜4の整数を意味する)
で示されるフェニレンジアミン化合物を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記一般式(I)において、Arが意味するアリール基が、フェニル基、ナフチル基またはビフェニル基であり、該アリール基が有し得る置換基が、C1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基であり;R1、R2およびR3が意味するハロゲン原子が、フッ素、塩素、シュウ素またはヨウ素原子であり;R1、R2およびR3が意味するアルキル基またはアルコキシ基がC1〜C4のアルキル基またはアルコキシ基である請求項1に記載の感光体。
【請求項3】
前記一般式(I)において、Arが、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3,4−ジエチルフェニル基、3,5−ジエチルフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、3,4−ジエトキシフェニル基、3,5−ジエトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2'−メチル−4−ビフェニリル基、4'−メチル−4−ビフェニリル基または2',4'−ジメチル−4−ビフェニリル基、2'−メチル−4−ビフェニリル基、4'−エチル−4−ビフェニリル基または2',4'−ジエチル−4−ビフェニリル基であり;
1が水素原子、2'−、3'−、4'−、5'−もしくは6'−メチルまたはエチル基であり、R2が水素原子、2−、3−、5−もしくは6−メチルまたはエチル基であり、R3が水素原子、2−、4−、5−もしくは6−メチルまたはエチル基である請求項1または2に記載の感光体。
【請求項4】
前記一般式(I)において、Arが、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2'−メチル−4−ビフェニリル基、4'−メチル−4−ビフェニリル基または2',4'−ジメチル−4−ビフェニリル基であり;
1が水素原子もしくは2'−または4'−メチル基であり、R2が水素原子もしくは2−メチル基であり、およびR3が5−メチル基である請求項1〜3のいずれか一つに記載の感光体。
【請求項5】
前記一般式(I)の化合物が、以下の:
【化2】

で表されるフェニレンジアミンである請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記導電性支持体と前記感光層との間に中間層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体に対して波長が405±20nmの光源を露光手段とし、露光によって形成される静電潜像を現像する現像手段とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
前記光源が、青紫色半導体レーザーである請求項7に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−210774(P2010−210774A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54964(P2009−54964)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】