説明

電子写真感光体およびそれを用いた画像形成装置

【課題】高感度で、充分な光応答性を示し、耐ガス性に優れた感光体とそれを備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷移動物質を含む電荷移動層とがこの順で導電性支持体上に積層された感光体、または電荷発生層物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、電荷移動物質として、下記一般式(I):


で示されるビスアミン化合物を含むことを特徴とする電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性支持体上に形成せしめた感光層の中に特定のビスブタジエン構造有するビスアミン化合物を含有せしめた電子写真感光体、並びに、画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機光導電性材料は幅広く研究開発され、電子写真感光体(以下、単に「感光体」とも称す)に利用されるだけでなく、静電記録素子、センサ材料または有機エレクトロルミネセント(Electro Luminescent;略称:EL)素子などに応用され始めている。また、有機光導電性材料を用いた電子写真感光体は、複写機の分野に限らず、従来では写真技術が使われていた印刷版材、スライドフィルムおよびマイクロフィルムなどの分野においても利用されており、レーザ、発光ダイオード(Light Emitting Diode;略称:LED)または陰極線管(Cathode Ray Tube;略称:CRT)などを光源とする高速プリンタにも応用されている。したがって、有機光導電性材料およびそれを用いた電子写真感光体に対する要求は、高度で幅広いものになりつつある。
【0003】
従来から、電子写真感光体としては、セレン、酸化亜鉛またはカドミウムなどの無機光導電性材料を主成分とする感光層を備える無機感光体が広く用いられている。無機感光体は、感光体としての基礎特性をある程度は備えているけれども、感光層の成膜が困難で、可塑性が悪く、製造原価が高いなどの問題がある。また無機光導電性材料は一般に毒性が強く、製造上および取り扱い上、大きな制約がある。
【0004】
これに対し、有機光導電性材料を用いた有機感光体は、感光層の成膜性がよく、可撓性も優れている上に、軽量で、透明性もよく、適当な増感方法によって広範囲の波長域に対して良好な感度を示す感光体を容易に設計できるなどの利点を有しているので、次第に電子写真感光体の主力として開発されてきている。初期の有機感光体は感度および耐久性に欠点を有していたけれども、これらの欠点は電荷発生機能と電荷輸送機能とをそれぞれ別々の物質に分担させた機能分離型電子写真感光体の開発によって著しく改善されている。機能分離型感光体は、電荷発生機能を担う電荷発生物質および電荷輸送機能を担う電荷輸送物質それぞれの材料選択範囲が広く、任意の特性を有する電子写真感光体を比較的容易に作製できるという利点も有している。
【0005】
このような機能分離型感光体に使用される電荷発生物質としては、フタロシアニン顔料、スクアリリウム色素、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、シアニン色素、スクアリン酸染料およびピリリウム塩系色素などの多種の物質が検討され、耐光性が強く電荷発生能力の高い種々の材料が提案されている。
【0006】
一方、電荷輸送物質としては、たとえばピラゾリン化合物(たとえば、特許文献1参照)、ヒドラゾン化合物(たとえば、特許文献2、特許文献3および特許文献4参照)、トリフェニルアミン化合物(たとえば、特許文献5および特許文献6参照)およびスチルベン化合物(たとえば、特許文献7および特許文献8参照)などの種々の化合物が知られている。最近では、縮合多環式炭化水素系をその中心母核に持つ、ピレン誘導体、ナフタレン誘導体およびターフェニル誘導体(たとえば、特許文献9参照)なども開発されている。
【0007】
電荷輸送物質には、
(1)光および熱に対して安定であること、
(2)感光体の表面を帯電させる際のコロナ放電によって発生するオゾン、窒素酸化物(NOx)および硝酸などに対して安定であること、
(3)高い電荷輸送能力を有すること、
(4)有機溶剤や結着剤との相溶性が高いこと、
(5)製造が容易で安価であること
などが要求される。しかしながら、前述の電荷輸送物質は、これらの要求の一部を満足するけれども、すべてを高いレベルで満足するには至っていない。
【0008】
また、前述の要求の中でも、特に、高い電荷輸送能力を有することが求められる。たとえば、電荷輸送物質がバインダー樹脂とともに分散されて形成された電荷輸送層が感光体の表面層となる場合、充分な光応答性を確保するために、電荷輸送物質には高い電荷輸送能力が求められる。感光体が複写機またはレーザビームプリンタなどに搭載されて使用される際、感光体の表面層は、クリーニングブレードや帯電ローラなどの接触部材によってその一部が削り取られることを余儀なくされる。複写機やレーザビームプリンタの高耐久化のためには、それらの接触部材に対して強い表面層、すなわちそれらの接触部材によって削り取られることの少ない耐刷性の高い表面層が求められる。そこで、表面層を強くして耐久性を向上させるために、表面層である電荷輸送層中のバインダー樹脂の含有率を高くすると、光応答性が低下する。これは、電荷輸送物質の電荷輸送能力が低いため、バインダー樹脂の含有率の増加に伴って電荷輸送層中の電荷輸送物質が希釈され、電荷輸送層の電荷輸送能力が一層低下して光応答性が悪くなるものである。光応答性が悪いと、残留電位が上昇し、感光体の表面電位が充分に減衰していない状態で繰返し使用されることになるので、露光によって消去されるべき部分の表面電荷が充分に消去されず、早期に画像品質が低下するなどの弊害が生じる。したがって、充分な光応答性を確保するためには、電荷輸送物質に高い電荷輸送能力が求められる。また、高い電荷輸送能力を有しつつ、バインダー樹脂と強固な結合をすることで、バインダー樹脂の比率を上げなくても十分耐刷性を確保できるような材料が求められている。
【0009】
また最近ではデジタル複写機およびプリンタなどの電子写真装置の小型化および高速化が進み、感光体特性として高速化に対応した高感度化が要求されており、電荷輸送物質としてはますます高い電荷輸送能力が求められている。また高速プロセスでは、露光から現像までの時間が短いので、光応答性のよい感光体が求められる。前述のように、光応答性は電荷輸送物質の電荷輸送能力に依存するので、このような点からもより高い電荷輸送能力を有する電荷輸送物質が求められる。
【0010】
このような要求を満たす電荷輸送物質として、前述の電荷輸送物質よりも高い電荷移動度を有する化合物として、分子内にビスブタジエン構造を有し、分子内の共役系を広げることで電荷輸送物質の電荷移動度を上げる試みがなされている。(たとえば、特許文献10および特許文献11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭52−4188号公報
【特許文献2】特開昭54−150128号公報
【特許文献3】特公昭55−42380号公報
【特許文献4】特開昭55−52063号公報
【特許文献5】特公昭58−32372号公報
【特許文献6】特開平2−190862号公報
【特許文献7】特開昭54−151955号公報
【特許文献8】特開昭58−198043号公報
【特許文献9】特開平7−48324号公報
【特許文献10】特開2002−275135号公報
【特許文献11】特開平9−244278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、この様に電荷輸送材料として数多くの有機化合物が開発されているにもかかわらず、
1)結着剤に対する相溶性が低い;
2)結晶が析出しやすい;
3)繰り返し使用した場合に感度変化が生じる;
4)帯電能、繰り返し特性が悪い;
5)残留電位特性が悪い;
等の問題点を全て満足する有機化合物はなく、先に挙げた感光体として要求される基本的な性質、更には機械的強度、高耐久性等を満足するものは未だ充分に得られていないのが現状である。
【0013】
本発明の目的は、高感度で高耐久性を有する電子写真感光体、および画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的の高感度、高耐久性、高摩耗性を有する光導電性物質の研究を行った結果、下記一般式(I)で示されるビスブタジエン構造を有するビスアミン化合物が有効であることを見いだし本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明によれば、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷移動物質を含む電荷移動層とがこの順で導電性支持体上に下引き層を介して積層された感光体、または電荷発生層物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に下引き層を介して形成された感光体において、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、電荷移動物質として、下記一般式(I):
【化1】

【0016】
[式中、Ar1は、置換基を有してもよい、アリ−ル、ヘテロアリール、アラルキルまたはヘテロアラルキル基を表し、Ar2は、置換基を有してもよいアリレン基またはヘテロアリレン基を表し、Ar3およびAr4は、互いに同一または異なって、水素原子または置換基を有してもよい、アルキルもしくはアリール基を表し、R1およびR2は、互いに同一または異なって、ハロゲン原子または置換基を有してもよいC1〜C4のアルキル、アルコキシまたはジアルキルアミノ基を表し、mは0〜4の整数であり、nは1〜4の整数を表す]
で示されるビスアミン化合物を含むことを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0017】
また、本発明によれば、前記電荷発生物質が、Cu−Kα特性X線回折(波長:1.54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に明確な回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンを含む電子写真感光体が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、前記電荷輸送層が、さらにバインダー樹脂を含有し、前記電荷輸送層において、前記電荷輸送物質(A)と前記バインダー樹脂(B)との比率A/Bは、質量比で10/12〜10/30である電子写真感光体が提供される。
【0019】
さらに、本発明によれば、上記の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段、定着手段および除電手段を備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明による一般式(I)で示されるビスアミン化合物を使用することによって、機械的耐久性が優れることより、通常の電荷輸送物質を用いたときのように電気特性を犠牲にしてバインダー樹脂の含有量を増やすことなく、感光体の耐久性を向上できる。
したがって、電子写真感光体の長寿命化が可能となる。また、以下の化合物1〜5で示されるビスアミン化合物は容易に製造することができるので、電子写真感光体の生産性を向上させることができる。
また、本発明によれば、帯電特性が高く、繰り返し使用でも感度の低下がほとんど起こらない感光体を提供することができる。また感光体表面の耐摩耗性に優れ長期に安定した画像を提供することが可能となる。
本発明によれば、ビスアミン化合物を電荷輸送物質として含有することにより、高感度、高応答でかつ長期に渡り安定した画像を提供できる高耐刷性を有する電子写真感光体を提供でき、かつ透明性がよく、軽量で成膜性も優れており、正負の両帯電性を有し、感光体の製造も容易という有機系感光体の利点を備え、繰り返し使用でも光感度の低下がほとんど起こらないという優れた特性を備える電子写真感光体および該感光体を備える画像形成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態の1例である電子写真感光体の構成を簡略化して示す該略断面図である。
【図2】本発明の実施形態の他の例である電子写真感光体の構成を簡略化して示す該略断面図である。
【図3】本発明の実施形態のさらに他の例である電子写真感光体の構成を簡略化して示す該略断面図である。
【図4】本発明による電子写真感光体を備える画像形成装置の構成を簡略化して示す配置側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において用いられる用語「C1〜C4アルキル基」とは、炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状アルキル基を意味する。
具体的な「C1〜C4アルキル基」としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびt−ブチル基が挙げられる。
【0023】
本発明において用いられる用語「C1〜C4アルコキシ基」とは、炭素数1〜4の直鎖状または分枝鎖状アルコキシ基を意味する。
具体的な「C1〜C4アルコキシ基」としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシおよびt−ブトキシ基が挙げられる。
【0024】
また、本発明において用いられる用語「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素原子を意味する。
【0025】
本発明による、電子写真感光体は、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷移動物質を含む電荷移動層とがこの順で導電性支持体上に下引き層を介して積層された感光体、または電荷発生層物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に下引き層を介して形成された感光体において、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、電荷移動物質として、下記一般式(I):
【化2】

【0026】
[式中、Ar1は、置換基を有してもよい、アリ−ル、ヘテロアリール、アラルキルまたはヘテロアラルキル基を表し、Ar2は、置換基を有してもよいアリレン基またはヘテロアリレン基を表し、Ar3およびAr4は、互いに同一または異なって、水素原子または置換基を有してもよい、アルキルもしくはアリール基を表し、R1およびR2は、互いに同一または異なって、ハロゲン原子または置換基を有してもよいC1〜C4のアルキル、アルコキシまたはジアルキルアミノ基を表し、mは0〜4の整数であり、nは1〜4の整数を表す]
で示されるビスアミン化合物を含むことを特徴とする。
【0027】
前記一般式(I)においてAr1は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよい、アリール、ヘテロアリール、アラルキルまたはヘテロアラルキル基を表し、
Ar2は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルもしくはアルコキシ、またはフェノキシまたはフェニルチオ基で置換されていてもよいアリレン基あるいはヘテロアリレン基であり、
Ar3およびAr4は、互いに同一または異なって、水素原子、あるいは1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいアルキルまたはアリール基であり、
1およびR2は、互いに同一または異なって、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいC1〜C3のアルキル、アルコキシまたはジアルキルアミノ基を表し、
mは0〜4の整数であり、nは1〜4の整数である。
【0028】
具体的には、前記一般式(I)においてAr1は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよい、フェニルまたはナフチル基を表し、
Ar2は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキル、アルコキシ基で置換されていてもよい;フェニレン、ナフチレンおよびビフェニレンからなる群から選択されるアリレン基、あるいはフリレン、チエニレン、チアゾリレン基からなる群から選択されるヘテロアリレン基であり、
Ar3およびAr4は、は、互いに同一または異なって、水素原子、あるいは1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよい;直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキル基またはフェニル、ナフチル、ビフェニル基からなる群から選択されるアリール基であり、
1およびR2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびt−ブチル基からなる群から選択されるアルキル基であり、
mは0または1の整数であり、nは1〜4の整数である。
【0029】
より具体的には、前記一般式(I)においてAr1は、フェニルまたはナフチル基を表し、
Ar2は、メチル、エチル、メトキシもしくはエトキシ基で置換されていてもよいフェニレンまたはナフチレン基であり、
Ar3およびAr4は、は、互いに同一または異なって、水素原子、あるいは1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいフェニルまたはナフチル基であり、
1およびR2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびt−ブチル基からなる群から選択されるアルキル基であり、
mは0または1の整数であり、nは1〜4の整数である。
【0030】
さらに具体的には、前記一般式(I)においてAr1はフェニル基を表し、
Ar2は、1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、3−メチル−1,4−フェニレンまたは1,4−ナフチレン基であり、
Ar3およびAr4は、互いに異なって、水素原子またはフェニル基であり、
mは0であり、nは1または2である。
【0031】
前記一般式(I)で示される本発明のビスアミン化合物おける各置換基の具体例として、以下の表にまとめて示すが、これによって本発明のビスアミン化合物が限定されるものではない。
【0032】
【表1】

【0033】
より具体的な、一般式(I)のビスアミン化合物は、以下の構造式を有する化合物である。
【0034】
【表2】

【0035】
なお、上記表に記載のビスアミン化合物のうち化合物3および4は、電子写真感光体において電子写真特性が良好で、かつ電子写真感光体の耐磨耗性がきわめて良好である。
【0036】
この一般式(I)で示されるビスアミン化合物は、種々の方法で合成することができるが、通常以下の合成工程で容易に合成できる。
【0037】
一般式(II):
【化3】

[式中、R1、R2およびmは上記一般式(I)において定義したとおりである]
で表されるビスアミン化合物は特開平9−179319の合成方法に従い合成した。
以下化合物1を例に取り上げ、合成方法について示す。
【0038】
製造例1−1
アミノ化合物Aの製造
特開平9−179319に記載の合成方法に従って、以下の式(A):
【化4】

で表されるアミノ化合物Aを合成した。
【0039】
2−(p−アミノフェニル)−5−アミノベンゾフランの合成
より具体的には、5−ニトロサリチルアルデヒド10.0g(1.0当量)と、p−ニトロベンジルブロマイド13.3g(1.03当量)とを、1,4−ジオキサン45mlに溶かし、N,N−ジイソプロピルエチルアミン12.5ml(1.2当量)を加え、約100℃で2時間、加熱、攪拌した。室温まで放冷後、生じた固体を濾別し、エタノールで充分洗浄し、2−(p−ニトロベンジルオキシ)−5−ニトロベンズアルデヒド16.74gを収率92.7%で得た。
【0040】
このようにして得られた2−(p−ニトロベンジルオキシ)−5−ニトロベンズアルデヒド16.09g(1.0当量)を、1,4−ジオキサン50ml中に溶かし、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン9.7g(1.3当量)を加え、100℃で3時間加熱撹拌した。室温まで放冷後、生じた固体をろ別し、エタノールで十分洗浄することにより2−(p−ニトロフェニル)−5−ニトロベンゾフラン12.42gを収率82%で得た。
【0041】
得られた2−(p−ニトロフェニル)−5−ニトロベンゾフラン12.42g(1.0当量)を1,4−ジオキサン/水=1:1混合溶媒150ml中、予め0.5mlの濃塩酸により活性化させておいた100メッシュの鉄粉48.85g(20.0当量)中に加え、約110℃で2時間、加熱還流させ、激しく撹拌した。TLC(薄膜クロマトグラフィー)により反応の完結を確認し、直ちに熱時、上澄みをセライト濾過した。残留物を熱1,4−ジオキサンにより充分洗浄し、濾過した。この操作を3〜4回繰り返した後、濾液を合わせ、エバポレーターにより濃縮した。濃縮後、エタノールより再結晶を行い7.1gのオレンジ色の2−(p−アミノフェニル)−5−アミノベンゾフラン(アミノ化合物A)を収率90%で得た。
【0042】
得られた白色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、マススペクトルのメインピークとしてアミン化合物A(分子量の理論値:224.1)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが765.3に観測された。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物1の純度が99.4%であることが判った。
得られた化合物1の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、および酸素(O)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0043】
化合物1の元素分析値:
理論値…C:74.98%、H:5.39%、N:12.49%、O:7.13%
実測値…C:74.92%、H:5.36%、N:13.46%、O:7.11%
以上のことから、得られた結晶がアミン化合物Aの化合物であることが確認された
【0044】
製造例1−2
アミン化合物Bの製造
上記製造例1−1で得られたアミノ化合物A(7.1g)(1.0当量)と、ヨードベンゼン(13.5g)(2.1当量)、銅(8.1g)(4.0当量)、炭酸カリウム(34.8g)(8.0当量)、18−クラウン−6(1.7g)(0.2当量)およびo−ジクロロベンゼン300mL中で、12〜24時間、加熱環流下反応させることにより、以下の式(B):
【化5】

で表されるアミン化合物B(11.1g)を収率92%で得た。
【0045】
製造例1−3
ブタジエン化合物Dの製造
4−ブロモベンズアルデヒド(9.5g)(1.0当量)と、以下の式(C):
【化6】

で表されるWittig試薬C(17.9g)(1.1当量)とを、無水DMF80mlに溶解させ、その溶液中にカリウムt−ブトキシド(15.2g)(2〜2.5当量)を0℃で徐々に加えた、その後室温で1時間放置し、さらに50℃まで加熱し、同温で加熱しながら5時間撹拌した。反応混合物を放冷した後、過剰のメタノール中に注いだ。析出物を回収し、トルエンに溶解させてトルエン溶液とした。このトルエン溶液を分液ロートに移し、水洗した後、有機層を取出し、取出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、固形物を取除いた有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うことによって、以下の式(D):
【0046】
【化7】

で表されるブタジエン化合物D(17.8g)を得た
【0047】
製造例1−4
ビスアミン−ビスブタジエン化合物1の製造
上記製造例1−2で得られたアミノ化合物B(11.1g)(1.0当量)と、上記製造例1−3で得られたブタジエン化合物D(17.4g)(2.1当量)、銅(7.5g)(4.0当量)、炭酸カリウム(32.2g)(8.0当量)、18−クラウン−6(1.5g)(0.2当量)およびo−ジクロロベンゼン300mL中で、12〜24時間、加熱環流下反応させることにより、以下の式(1):
【0048】
【化8】

で表される化合物1(20.6g)を収率95%で得た。
【0049】
得られた白色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、マススペクトルのメインピークとして化合物1(分子量の理論値:760.0)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが761.2に観測された。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物1の純度が99.1%であることが判った。
得られた化合物1の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、および酸素(O)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0050】
化合物1の元素分析値:
理論値…C:88.39%、H:5.83%、N:3.68%、O:2.1%
実測値…C:88.30%、H:5.82%、N:3.66%、O:2.0%
以上のことから、得られた結晶が化合物1の化合物であることが確認された。
【0051】
製造例2
化合物2の製造
上記製造例1−3における4−ブロモベンズアルデヒドの代わりに4−ブロモ−2−メチルベンズアルデヒド(13.2g)を反応させる以外は同様にして化合物2を合成した。
得られた白色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、マススペクトルのメインピークとして化合物2(分子量の理論値:789.0)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが761.2に観測された。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物2の純度が99.5%であることが判った。
得られた化合物2の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、および酸素(O)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0052】
化合物2の元素分析値:
理論値…C:88.29%、H:6.13%、N:3.55%、O:2.03%
実測値…C:88.22%、H:6.09%、N:3.49%、O:2.00%
以上のことから、得られた結晶が化合物2の化合物であることが確認された。
【0053】
製造例3
化合物3の製造
上記製造例1−3における4−ブロモベンズアルデヒドの代わりに4−ブロモ−3−メチル−ベンズアルデヒド(13.2g)を反応させる以外は同様にして化合物3を合成した。
得られた白色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、マススペクトルのメインピークとして化合物3(分子量の理論値:789.0)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが790.2に観測された。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物3の純度が99.6%であることが判った。
得られた化合物3の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、および酸素(O)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0054】
化合物3の元素分析値:
理論値…C:88.29%、H:6.13%、N:3.55%、O:2.03%
実測値…C:88.26%、H:6.09%、N:3.51%、O:2.00%
以上のことから、得られた結晶が化合物3の化合物であることが確認された。
【0055】
製造例4
化合物4の製造
上記製造例1−3のブタジエン化合物合成において下記製造方法で合成すること以外は同様にして化合物4を合成した。
【0056】
ブタジエン化合物Fの製造
1−ブロモ−4−メチルナフタレン(13.2g)(1.0当量)と臭素(5.0g)(0.5当量)を紫外線照射下で反応することにより1−ブロモ−4−メチルナフタレンの臭素化を行い、以下の式(F):
【化9】

で表される臭化化合物F(17g)(1.0当量)収率95%で得た。
【0057】
ブタジエン化合物Gの製造
上記臭化合物F(17g)(1.0当量)と、以下の式(C):
【化10】

で表されるWittig試薬C(15g)(1.1当量)とを、無水DMF80mlに溶解させ、その溶液中にカリウムt−ブトキシド(12.7g)(2〜2.5当量)を0℃で徐々に加えた、その後室温で1時間放置し、さらに50℃まで加熱し、同温で加熱しながら5時間撹拌した。反応混合物を放冷した後、過剰のメタノール中に注いだ。析出物を回収し、トルエンに溶解させてトルエン溶液とした。このトルエン溶液を分液ロートに移し、水洗した後、有機層を取出し、取出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、固形物を取除いた有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うことによって、以下の式(G):
【0058】
【化11】

で表されるブタジエン化合物G(21.3g)を96%の収率で得た。
【0059】
化合物1の製造例1−4におけるブタジエン化合物Dの代わりにブタジエン化合物G(20.5g)(2.1当量)を反応させる以外は同様にして化合物4を合成した。
得られた白色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、マススペクトルのメインピークとして化合物4(分子量の理論値:816.1)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが817.2に観測された。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物4の純度が99.8%であることが判った。
得られた化合物4の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、および酸素(O)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0060】
化合物4の元素分析値:
理論値…C:88.31%、H:6.30%、N:3.43%、O:1.96%
実測値…C:88.28%、H:6.19%、N:3.39%、O:1.93%
以上のことから、得られた結晶が化合物4の化合物であることが確認された。
【0061】
製造例5
化合物5の製造
上記製造例4におけるWittig試薬Cの代わりに以下の式(H):
【化12】

で表されるWittig試薬H(16.6g)を用いたこと以外は同様にして化合物5を合成した。
得られた白色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、マススペクトルのメインピークとして化合物5(分子量の理論値:866.4)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが867.6に観測された。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物5の純度が99.7%であることが判った。
得られた化合物5の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、および酸素(O)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0062】
化合物5の元素分析値:
理論値…C:88.65%、H:6.8%、N:3.23%、O:1.85%
実測値…C:88.60%、H:6.27%、N:3.21%、O:1.81%
以上のことから、得られた結晶が化合物5の化合物であることが確認された。
【0063】
[積層型感光層5]
積層型感光層5は、電荷発生層3と電荷輸送層4とからなる。このように電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることにより、各層を構成する最適な材料を独立して選択することができる。
以下の説明では、電荷発生層と電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層(図1)について説明するが、逆二層型の積層型感光層(図2)の場合には積層順が異なるだけで基本的に同様である。
【0064】
[電荷発生層3]
電荷発生層は、照射された光を吸収することにより電荷を発生する電荷発生能を有する電荷発生物質を主成分とし、任意に公知の添加剤およびバインダー樹脂(結合剤)を含有する。
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用できる。
【0065】
具体的には、アゾ系顔料(カルバゾール骨格、スチリルスチルベン骨格、トリフェニルアミン骨格、ジベンゾチオフェン骨格、オキサジアゾール骨格、フルオレノン骨格、ビススチルベン骨格、ジスチリルオキサジアゾール骨格またはジスチリルカルバゾール骨格を有する、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料、トリスアゾ系顔料など);ペリレン系顔料(ペリレンイミド、ペリレン酸無水物など);多環キノン系顔料(キナクリドン、アントラキノン、ピレンキノンなど);フタロシアニン系顔料(金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン、ハロゲン化無金属フタロシアニンなど);インジゴ系顔料(インジゴ、チオインジゴなど);スクアリリウム色素、アズレニウム色素、チオピリリウム色素、ピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機顔料または染料、さらにセレン、非晶質シリコンなどの無機材料などが挙げられる。
【0066】
これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組合せて使用することができる。
これらの電荷発生物質の中でも、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、ぺリレン系顔料は高感度を有することから特に好ましい。
電荷発生層は、本発明の好ましい特性が損なわれない範囲内で、化学増感剤、光学増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散安定剤、増感剤、レベリング剤、可塑剤、無機化合物もしくは有機化合物の微粒子などから選ばれる1種または2種以上の公知の添加剤を適量含有していてもよい。これらの添加剤は、後述する電荷輸送層に含有されてもよく、電荷発生層および電荷輸送層の両方に含有されてもよい
【0067】
化学増感剤および光学増感剤は、感光体の感度を向上させ、繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などを抑え、電気的耐久性を向上させる。
化学増感剤としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物;ジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料およびこれらの電子吸引性材料を高分子化したものなどが挙げられる。
【0068】
光学増感剤としては、例えばキサンテン系色素、キノリン系顔料、銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料;エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料;メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料;カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料;シアニン染料;スチリル染料;ピリリウム塩染料およびチオピリリウム塩染料などが挙げられる。
【0069】
酸化防止剤は、長期にわたって感度安定性を維持させることができる。
酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール:BHT)のようなヒンダードフェノールなどのフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミンなどのアミン系酸化防止剤、ビタミンE、ハイドロキノン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカンおよびそれらの誘導体、有機硫黄系化合物、有機燐系化合物などが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
酸化防止剤の添加量は、電荷発生物質100重量部に対して0.1〜40重量部が好ましく、0.5〜15重量部が特に好ましい。
酸化防止剤の添加量が0.1重量部未満であると、塗布液の安定性の向上および感光体の耐久性の向上に充分な効果が得られないことがある。また、酸化防止剤の添加量が40重量部を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0071】
レベリング剤および可塑剤は、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させることができる。
レベリング剤としては、例えばシリコーン系レベリング剤などが挙げられる。
可塑剤としては、例えばフタル酸エステルなどの二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などが挙げられる。
無機化合物または有機化合物の微粒子は、機械的強度を増強し、電気特性を向上させることができる。このような微粒子としては、例えば、後述する中間層において例示する微粒子が挙げられる。
【0072】
電荷発生層は、公知の乾式法および湿式法により形成することができる。
乾式法としては、例えば、電荷発生物質を導電性支持体の表面に真空蒸着する方法が挙げられる。
湿式法としては、例えば、電荷発生物質、必要に応じて添加剤およびバインダー樹脂を適当な有機溶剤に溶解または分散して電荷発生層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体上に形成された中間層表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去する方法が挙げられる。
【0073】
バインダー樹脂は、電荷発生層の機械的強度や耐久性、層間の結着性などを向上させることができ、当該分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用できる。
【0074】
具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリアミド、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル、ポリアクリルアミド、ポリフェニレンオキサイドなどの熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールなどの熱硬化性樹脂、これらの樹脂の部分架橋物、これらの樹脂に含まれる構成単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂(塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂)などが挙げられる。これらのバインダー樹脂は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0075】
電荷発生物質とバインダー樹脂との配合比は特に限定されないが、通常、電荷発生物質が10〜99重量%程度である。
電荷発生物質が10重量%未満であると、感光体の感度が低下することがある。
一方、電荷発生物質が99重量%を超えると、電荷発生層の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大することがある。そのため、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少し、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが多くなることがある。
【0076】
有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン、ジメトキシベンゼン、ジクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロプロパンなどのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジベンジルエーテル、ジメトキシメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソホロンなどのケトン類;安息香酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、ジフェニルスルフィドなどの含イオウ溶剤;ヘキサフロオロイソプロパノールなどのフッ素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられ、これらは単独または混合溶剤として使用できる。
【0077】
また、このような溶剤に、アルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンを加えた混合溶剤を使用することもできる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
構成物質を樹脂溶液に溶解または分散させるに先立ち、電荷発生物質を予備粉砕してもよい。
【0078】
予備粉砕は、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機などの一般的な粉砕機を用いて行うことができる。
構成物質の樹脂溶液への溶解または分散は、例えば、ペイントシェーカ、ボールミル、サンドミルなどの一般的な分散機を用いて行うことができる。このとき、容器および分散機を構成する部材から摩耗などによって不純物が発生し、塗布液中に混入しないように、分散条件を適宜設定するのが好ましい。
【0079】
電荷発生層形成用塗布液の塗布方法は、シートの場合にはベーカーアプリケーター法、バーコーター法、キャスティング法、スピンコート法、ロール法、ブレード法など、ドラムの場合にはスプレー法、垂直リング法、浸漬塗布法などが挙げられる。
塗膜の乾燥工程における温度は、使用した有機溶剤を除去し得る温度であれば特に限定されないが、50〜140℃が適当であり、80〜130℃が特に好ましい。
乾燥温度が50℃未満では、乾燥時間が長くなることがある。また、乾燥温度が140℃を超えると、感光体の繰返し使用時の電気的特性が悪化して、得られる画像が劣化することがある。
【0080】
電荷発生層の膜厚は特に限定されないが、0.05〜5μmが好ましく、0.1〜1μmが特に好ましい。電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感度が低下することがある。一方、電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷輸送が感光体表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感度が低下することがある。
【0081】
[電荷輸送層]
本発明における電荷輸送層は、主としてバインダー樹脂と、前記一般式(I)で示されるトリフェニルアミン化合物、より具体的には、前記化合物(1)〜(5)で示されるトリフェニルアミン化合物を電荷輸送物質として含有する。
通常、電荷輸送物質の重量Eとバインダー樹脂の重量Bとの比率E/Bは、10/12〜10/25、好ましくは10/16〜10/20である。比率E/Bが10/25未満であると、電荷輸送物質に対するバインダー樹脂の相対量比が高くなり、十分な感度が得られないことがある。一方、比率E/Bが10/12を超えると、電荷輸送層の耐刷性や感光体の耐久性が低下することがある。
【0082】
バインダー樹脂は、電荷発生層に含まれるものと同様のバインダー樹脂の1種または2種以上を使用できる。これらの樹脂の中でも、ポリカーボネートを主成分とする樹脂、ポリアリレート樹脂およびポリスチレン樹脂は、光化学的に安定で、電荷輸送物質との相溶性に優れ、さらに体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性などにも優れるので好ましい。
【0083】
電荷輸送層は、本発明の効果を阻害しない範囲内で必要に応じて、電荷発生層に含まれるものと同様の添加剤を適量含有していてもよい。
電荷輸送層は、電荷輸送物質、バインダー樹脂および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解または分散して電荷輸送層形成用塗布液を調製し、この塗布液を電荷発生層の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。
より具体的には、例えば、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解してなる樹脂溶液に電荷輸送物質および必要に応じて他の添加剤を溶解または分散させることにより、電荷輸送層形成用塗布液を調製する。
【0084】
その他の工程およびその条件は、電荷発生層の形成に準ずる。
電荷輸送層の膜厚は特に限定されないが、10〜60μmが好ましく、10〜40μmが特に好ましい。電荷輸送層の膜厚が10μm未満であると、帯電保持能が低下することがあり、逆に電荷輸送層の膜厚が60μmを超えると、鮮鋭性の低下や残留電位の上昇が発生し、著しく画像劣化が生じることがある。
【0085】
[単層型感光層5]
図3に示す単層型感光層5は、電荷発生物質と、前記一般式(I)で示される電荷輸送物質と、バインダー樹脂(結合剤)とを主成分として含有する。
単層型感光層は、本発明の効果を阻害しない範囲内で必要に応じて、電荷発生層に含まれるものと同様の添加剤を適量含有していてもよい。
【0086】
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質および必要に応じて他の添加剤を適当な有機溶剤に溶解および/または分散して単層型感光層形成用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体上に形成された中間層の表面に塗布し、次いで乾燥して有機溶剤を除去することによって形成できる。
その他の工程およびその条件は、電荷発生層および電荷輸送層の形成に準ずる。
単層型感光層の膜厚特に限定されないが、10〜100μmが好ましく、15〜50μmが特に好ましい。単層型感光層の膜厚が10μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがあり、単層型感光層の膜厚が100μmを超えると、生産性が低下するおそれがある。
【0087】
[保護層(図示せず)]
本発明の感光体は、図1〜3に示す積層型感光層5および単層型感光層5の表面に保護層(図示せず)を有していてもよい。
保護層は、感光層の摩耗性の改善やオゾン、窒素酸化物などによる化学的悪影響の防止の機能を有する。
保護層は、例えば、適当な有機溶剤にバインダー樹脂、必要に応じて酸化防止剤や紫外線吸収剤などの添加剤を溶解または分散させて保護層形成用塗布液を調製し、この保護層形成用塗布液を単層型感光層または積層型感光層の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成できる。
【0088】
その他の工程およびその条件は、電荷発生層の形成に準ずる。
保護層の膜厚は特に制限されないが、0.5〜10μmが好ましく、1〜5μmが特に好ましい。表面保護層の膜厚が0.5μm未満では、感光体表面の耐擦過性が劣り、耐久性が不十分になるおそれがあり、逆に10μmを超えると、感光体の解像度が低下するおそれがある。
【0089】
本発明の画像形成装置は、本発明の感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された感光体に対して露光を施す露光手段と、露光によって形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、現像されたトナー像を記録材上に転写する転写手段と、転写されたトナー像を記録材上に定着して画像を形成する定着手段と、感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段と、感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段とを少なくとも備えている。
【0090】
図面を用いて本発明の画像形成装置について説明するが、以下の記載内容に限定されるものではない。
図4は、本発明の画像形成装置の構成を示す模式側面図である。
図4の画像形成装置20は、本発明の感光体21(例えば、図1〜3の感光体のいずれか1つ)と、帯電手段(帯電器)24と、露光手段28と、現像手段(現像器)25と、転写手段(転写器)26と、クリーニング手段(クリーナ)27と、定着手段(定着器)31と、除電手段(図示せず、クリーニング手段27に併設される)とを含んで構成される。符号30は転写紙を示す。
【0091】
感光体21は、図示しない画像形成装置20本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線22回りに矢符23方向に回転駆動される。
駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体21の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、感光体21を所定の周速度で回転駆動させる。
【0092】
帯電器24、露光手段28、現像器25、転写器26およびクリーナ27は、この順序で、感光体21の外周面に沿って、矢符23で示される感光体21の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
帯電器24は、感光体21の外周面を所定の電位に帯電させる帯電手段である。具体的には、例えば帯電器24は、接触式の帯電ローラ24aや帯電ブラシあるいはコロトロンやスコロトロンなどのチャージャーワイヤによって実現される。符号24bはバイアス電源を示す。
【0093】
露光手段28は、例えば半導体レーザなどを光源として備え、光源から出力されるレーザビームなどの露光光28aを、感光体21の帯電器24と現像器25との間に照射することによって、帯電された感光体21の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。露光光28aは、主走査方向である感光体21の回転軸線22の延びる方向に繰返し走査され、これに伴って感光体21の表面に静電潜像が順次形成される。
【0094】
現像器25は、露光によって感光体21の表面に形成される静電潜像を、現像剤によって現像する現像手段であり、感光体21を臨んで設けられ、感光体21の外周面にトナーを供給する現像ローラ25aと、現像ローラ25aを感光体21の回転軸線22と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング25bとを備える。
【0095】
転写器26は、現像によって感光体21の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符29方向から感光体21と転写器26との間に供給される記録媒体である転写紙30上に転写させる転写手段である。転写器26は、例えば、帯電手段を備え、転写紙30にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙30上に転写させる非接触式の転写手段である。
【0096】
クリーナ27は、転写器26による転写動作後に感光体21の外周表面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体21の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード27aと、クリーニングブレード27aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング27bとを備える。また、このクリーナ27は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0097】
また、画像形成装置20には、感光体21と転写器26との間を通過した転写紙30が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器31が設けられる。定着器31は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ31aと、加熱ローラ31aに対向して設けられ、加熱ローラ31aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ31bとを備える。
【0098】
この画像形成装置20による画像形成動作は、次のようにして行われる。まず、感光体21が駆動手段によって矢符23方向に回転駆動されると、露光手段28による露光光28aの結像点よりも感光体21の回転方向上流側に設けられる帯電器24によって、感光体21の表面が正または負の所定電位に均一に帯電される。
次いで、露光手段28から、感光体21の表面に対して画像情報に応じた露光光28aが照射される。感光体21は、この露光によって、露光光28aが照射された部分の表面電荷が除去され、露光光28aが照射された部分の表面電位と露光光28aが照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
【0099】
露光手段28による露光光28aの結像点よりも感光体21の回転方向下流側に設けられる現像器25から、静電潜像の形成された感光体21の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
感光体21に対する露光と同期して、感光体21と転写器26との間に、転写紙30が供給される。転写器26によって、供給された転写紙30にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体21の表面に形成されたトナー像が、転写紙30上に転写される。
【0100】
トナー像の転写された転写紙30は、搬送手段によって定着器31に搬送され、定着器31の加熱ローラ31aと加圧ローラ31bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙30に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙30は、搬送手段によって画像形成装置20の外部へ排紙される。
【0101】
一方、転写器26によるトナー像の転写後も感光体21の表面上に残留するトナーは、クリーナ27によって感光体21の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体21の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体21の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体21はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰り返されて連続的に画像が形成される。
次に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0102】
実施例1
以下のようにして、製造例1−1〜1−4で製造した本発明によるビスアミン化合物である化合物1を電荷輸送層の電荷輸送物質として用いた電子写真感光体を作製した。
導電性支持体には、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(略称PET)フィルムの表面にアルミニウムを蒸着したもの(以後、「アルミニウム蒸着PETフィルム」と称す)を用いた。 酸化チタン(商品名:タイベークTTO55A、石原産業株式会社製)7重量部および共重合ナイロン樹脂(商品名:アミランCM8000、東レ株式会社製)13重量部を、メチルアルコール159重量部と1,3−ジオキソラン106重量部との混合溶剤に加え、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、中間層形成用塗布液100gを調製した。この中間層形成用塗布液を、導電性支持体であるアルミニウム蒸着PETフィルムのアルミニウム表面にアプリケータによって塗布し、自然乾燥して膜厚1μmの中間層を形成した。
【0103】
次いで、Y型オキソチタニウムフタロシアニン(日本資材株式会社製)2重量部およびブチラール樹脂(商品名:#6000−C、電気化学工業株式会社製)1重量部を、メチルエチルケトン98重量部に混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層形成用塗布液50gを調製した。この電荷発生層形成用塗布液を、前記の中間層と同様の方法で、先に設けた中間層表面に塗布し、自然乾燥して膜厚0.4μmの電荷発生層を形成した。
【0104】
次に、製造例1で製造した化合物1の化合物10重量部と、バインダー樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、製品名:ユーピロンZ400)18重量部;酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール0.5重量部;およびレベリング剤としてジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製、製品名:KF−96)0.004重量部;とを、有機溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)110重量部に溶解させて、電荷輸送層形成用塗布液(全量1kg)を調製したポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製:C−1400)10質量部とをTHF80質量部に溶解させ、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、先に形成した電荷発生層上にベーカアプリケータにて塗布した後、温度130℃で1時間乾燥して膜厚23μmの電荷輸送層を形成した。以上のようにして、図1に示す構成の積層型の電子写真感光体を作製した。
【0105】
実施例2
実施例1における電荷輸送物質として用いた化合物1に代えて、製造例2で得られた化合物2を用いたこと以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0106】
実施例3
実施例1における電荷輸送物質として用いた化合物1に代えて、製造例3で得られた化合物3を用いたこと以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0107】
実施例4
実施例1における電荷輸送物質として用いた化合物1に代えて、製造例4で得られた化合物4を用いたこと以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0108】
実施例5
実施例1における電荷輸送物質として用いた化合物1に代えて、製造例5で得られた化合物5を用いたこと以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0109】
実施例6
電荷発生物質としてオキソチタニルフタロシアニンにかえて、X型無金属フタロシアニン(Fastogen Blue 8120、大日本インキ社製)を用いること以外は、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作成した。
【0110】
比較例1
電荷輸送物質として化合物1に代えて、式(6):
【化13】

で表される化合物6を用いること以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
尚化合物(6)は下記製造方法により合成した。
【0111】
上記製造例1−2で得られたアミノ化合物B(11.1g)(1.0当量)と、1−ブロモナフタレン(13.3g)(2.1当量)、銅(7.5g)(4.0当量)、炭酸カリウム(2.2g)(8.0当量)、18−クラウン−6(1.5g)(0.2当量)およびo−ジクロロベンゼン300mL中で、12〜24時間、加熱環流下反応させることにより、化合物6(14.4g)を収率97%で得た。
得られた白色粉末状化合物をLC−MSで分析した結果、マススペクトルのメインピークとして化合物6(分子量の理論値:508.7)にプロトンが付加した分子イオン[M+H]+に相当するピークが709.9に観測された。
また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物6の純度が99.5%であることが判った。
得られた化合物6の元素分析は、差動熱伝導度法による炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、及び酸素(O)同時定量法を用いて行なった。以下の製造例においても同様である。
【0112】
化合物6の元素分析値:
理論値…C:85.01%、H:6.34%、N:5.51%、O:3.15%
実測値…C:84.98%、H:6.31%、N:5.47%、O:3.12%
以上のことから、得られた結晶が化合物6の化合物であることが確認された。
【0113】
比較例2
電荷輸送物質として化合物1に代えて、式(7):
【化14】

で表される化合物7を用いること以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
しかしながら、本サンプルは製膜/乾燥後シート表面上に化合物7の相溶性の悪さに起因する微小結晶が無数に現れ、満足に電気特性を評価することはできなかった。
【0114】
なお、上記の化合物7は下記方法で製造することができる。原料としてトリアリールアミン構造を有する化合物α-Np-TPD(東京化成株式会社製)を使用し、公知のカルボニル導入反応を行い、そしてWittig反応を行う方法を採用することができる。
すなわち、先ずα-Np-TPD(10g)(1.0当量)を、オキシ塩化リン(5.1g)(2.1当量)の存在下にホルミル化剤(N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアニリド等)とo−ジクロロベンゼン(4.9g)(2.1当量)反応させ、以下の式(8):
【化15】

で表されるアリールアミン−アルデヒド化合物8を得る。この化合物8を前記Wittig試薬Cと反応させることで化合物7が得られる。
【0115】
比較例3
電荷輸送物質の重量Aとバインダ樹脂の重量Bの比率A/Bを10/11とすること以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0116】
比較例4
電荷輸送物質の重量Aとバインダ樹脂の重量Bの比率A/Bを10/35とすること以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0117】
実施例1〜6および比較例1〜4の評価
(1)感光体の電気特性
実施例1〜6および比較例1〜4において得られた感光体を、画像形成工程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(ジェンテック株式会社製、型式:CATE751)を設けた、市販のデジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:MX−3100FG)にそれぞれ搭載し、各感光体の電気特性および環境安定性を評価した。
【0118】
まず、温度22℃、相対湿度65%のN/N環境下において、帯電器による帯電動作直後の感光体の表面電位を帯電電位V0(V)として測定した。また、レーザ光(波長:780nm)によって露光を施した直後の感光体の表面電位をN/N環境下における残留電位VL(V)として測定した。
次いで、温度22℃、相対湿度65%のN/N環境下において、所定のパターンのテスト画像(ISO 19752に規定された文字テストチャート)を記録用紙10万枚に連続して複写させた後、初期と同様にして帯電動作直後の感光体の表面電位を帯電電位V0(V)として、露光後の感光体の表面電位を残留電位VL(V)として測定し、初期の残留電位の差を、疲労特性の指標となる電位変動ΔVLS(V)として求めた。
また、N/N環境下に加えて、温度5℃、相対湿度10%のL/L環境下における残留電位VL(V)も測定した。
【0119】
(2)耐刷性評価
プロセススピードを225mm/secとしたデジタル複写機(シャープ株式会社製:AR-451S)の画像露光光源を405nmの半導体レーザー(ポリゴン・ミラーによる画像書込み)に置き換え、作製した各電子写真感光体を搭載した。画像形成を50,000枚行った後、感光層の膜厚d1を測定し、この値と作製時の感光層の膜厚d0との差を膜減り量Δd(=d0−d1)として求め、耐刷性の評価指標とした。
【0120】
(3)総合評価
上記(1)および(2)の評価項目について、総合的な評価を行ない、各実施例について「G」:good(良好)、「B」:bad(悪い)および「VB」:very bad(非常に悪い)の評価指標で示した。
これらの評価結果を以下の表に示す。
【0121】
【表3】

【0122】
表1に示すとおり、本発明の感光体(実施例1〜6)のなかでも、実施例3、4のようにビスアミン化合物を電荷輸送物質に用いた場合、電気特性を維持したままで、耐刷性がきわめて良好なことがわかった。
また、比較例1のような、本発明に用いられている化合物(1)〜(5)に比べ共役系の広がりが狭く電荷移動度の遅いビスアミン化合物を電荷輸送材料に用いた感光体よりもL/L環境下における残留電位や感度が良好なことが判る。
【0123】
また、同様な系での比較例3の電荷輸送物質Aとバインダー樹脂Bの比率について、A/Bを本発明の感光体と比較してAの割合を多くした系については、実施例1と比較して感度等は良好であるが、耐刷性が劣っていることがわかった。一方比較例4のようにA/Bを本発明の感光体と比較してAの割合を少なくした系については耐刷性が極めて良好であるが、感度が悪く、繰り返し安定性に劣ることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上のように本発明によれば、ビスアミン化合物を電荷輸送物質として含有することにより、高感度、高応答でかつ長期に渡り安定した画像を提供できる高耐刷性を有する電子写真感光体を提供でき、かつ透明性がよく、軽量で成膜性も優れており、正負の両帯電性を有し、感光体の製造も容易という有機系感光体の利点を備え、繰り返し使用でも光感度の低下がほとんど起こらないという優れた特性を備える電子写真感光体および該感光体を備える画像形成装置を提供できる。
【符号の説明】
【0125】
1 導電性支持体
2 下引き層
3 電荷発生層
4 電荷輸送層
5 感光層
20 画像形成装置
21 感光体
22 回転軸線
23 回転駆動方向
24 帯電器
24a 帯電ローラ
24b バイアス電源
25 現像器
25a 現像ローラ
25b ケーシング
26 転写器
27 クリーナ
27a クリーニングブレード
27b 回収用ケーシング
28 露光手段
28a レーザー光(光)
29 矢符
30 転写紙
31 定着器
31a 加熱ローラー
31b 加圧ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷移動物質を含む電荷移動層とがこの順で導電性支持体上に下引き層を介して積層された感光体、または電荷発生層物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に下引き層を介して形成された感光体において、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、電荷移動物質として、下記一般式(I):
【化1】

[式中、Ar1は、置換基を有してもよい、アリ−ル、ヘテロアリール、アラルキルまたはヘテロアラルキル基を表し、Ar2は、置換基を有してもよいアリレン基またはヘテロアリレン基を表し、Ar3およびAr4は、互いに同一または異なって、水素原子または置換基を有してもよい、アルキルもしくはアリール基を表し、R1およびR2は、互いに同一または異なって、ハロゲン原子または置換基を有してもよいC1〜C4のアルキル、アルコキシまたはジアルキルアミノ基を表し、mは0〜4の整数であり、nは1〜4の整数を表す]
で示されるビスアミン化合物を含むことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記一般式(I)においてAr1は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよい、アリール、ヘテロアリール、アラルキルまたはヘテロアラルキル基を表し、
Ar2は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルもしくはアルコキシ、またはフェノキシまたはフェニルチオ基で置換されていてもよいアリレン基あるいはヘテロアリレン基であり、
Ar3およびAr4は、互いに同一または異なって、水素原子、あるいは1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいアルキルまたはアリール基であり、
1およびR2は、互いに同一または異なって、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいC1〜C3のアルキル、アルコキシまたはジアルキルアミノ基を表し、
mは0〜4の整数であり、nは1〜4の整数である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記一般式(I)においてAr1は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよい、フェニルまたはナフチル基を表し、
Ar2は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキル、アルコキシ基で置換されていてもよい;フェニレン、ナフチレンおよびビフェニレンからなる群から選択されるアリレン基、あるいはフリレン、チエニレン、チアゾリレン基からなる群から選択されるヘテロアリレン基であり、
Ar3およびAr4は、は、互いに同一または異なって、水素原子、あるいは1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよい;直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキル基またはフェニル、ナフチル、ビフェニル基からなる群から選択されるアリール基であり、
1およびR2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびt−ブチル基からなる群から選択されるアルキル基であり、
mは0または1の整数であり、nは1〜4の整数である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記一般式(I)においてAr1は、フェニルまたはナフチル基を表し、
Ar2は、メチル、エチル、メトキシもしくはエトキシ基で置換されていてもよいフェニレンまたはナフチレン基であり、
Ar3およびAr4は、は、互いに同一または異なって、水素原子、あるいは1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいフェニルまたはナフチル基であり、
1およびR2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルおよびt−ブチル基からなる群から選択されるアルキル基であり、
mは0または1の整数であり、nは1〜4の整数である請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記一般式(I)においてAr1はフェニル基を表し、
Ar2は、1,4−フェニレン、2−メチル−1,4−フェニレン、3−メチル−1,4−フェニレンまたは1,4−ナフチレン基であり、
Ar3およびAr4は、互いに異なって、水素原子またはフェニル基であり、
mは0であり、nは1または2である請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記電荷発生物質が、Cu−Kα特性X線回折(波長:1.54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に明確な回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンを含む請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記電荷輸送層が、さらにバインダー樹脂を含有し、前記電荷輸送層において、前記電荷輸送物質(A)と前記バインダー樹脂(B)との比率A/Bは、質量比で10/12〜10/30である請求項1〜6のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段、定着手段および除電手段を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−133096(P2012−133096A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284622(P2010−284622)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】