説明

電子写真感光体およびそれを用いた画像形成装置

【課題】高感度で、充分な光応答性を示し、耐ガス性に優れた感光体とそれを備えた画像形成装置を提供する。
【解決手段】感光層14として、電荷発生物質12を含む電荷発生層15と、電荷輸送物質13を含む電荷輸送層16とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体11上に形成されており、電荷輸送層または単層型感光層が、電荷輸送物質として、下記一般式(I)で示されるトリアリールアミンダイマー化合物を含む電子写真感光体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体およびそれを用いた画像形成装置に関する。
より具体的には、本発明は、有機光導電性材料、それを用いた電子写真感光体および画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機光導電性材料は幅広く研究開発され、感光体などの静電記録素子に利用されるだけでなく、センサ素子、有機エレクトロルミネセント(Electro Luminescent;略称EL)素子などに応用され始めている。
【0003】
有機光導電性材料を用いた有機感光体は、感光層の成膜性がよく、可撓性も優れている上に、軽量で、透明性もよく、適当な増感方法によって広範囲の波長域に対して良好な感度を示す感光体を容易に設計できるなどの利点を有しているので、次第に感光体の主力として開発されてきている。
【0004】
有機感光体は、初期には感度および耐久性に欠点を有していたが、これらの欠点は、電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の物質にそれぞれ分担させた機能分離型感光体の開発によって著しく改善されている。さらに、この機能分離型感光体は、有機感光体の有する前記の利点に加え、感光層を構成する材料の選択範囲が広く、任意の特性を有する感光体を比較的容易に作製できるという利点も有している。
【0005】
このような有機系感光体の構成としては、支持体上に電荷発生物質および電荷輸送物質(「電荷移動物質」ともいう)の双方をバインダ樹脂に分散させた単層構造、支持体上に電荷発生物質をバインダ樹脂に分散させた電荷発生層と電荷輸送物質をバインダ樹脂に分散させた電荷輸送層とをこの順でまたは逆順で形成した積層構造または逆二層型積層構造などの様々な構成が提案されている。これらの中でも感光層として電荷発生層上に電荷輸送層を積層した機能分離型の感光体は、電子写真特性および耐久性に優れ、材料選択の自由度の高さから感光体特性を様々に設計できることから広く実用化されている。
【0006】
これらの機能分離型感光体に用いられる電荷発生物質としては、フタロシアニン顔料、スクアリリウム色素、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、シアニン色素、スクアリン酸染料、ピリリウム塩系色素などの多種の物質が検討され、耐光性が強く電荷発生能力の高い種々の材料が提案されている。
【0007】
また、電荷輸送物質としては、ピラゾリン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルアミン化合物、スチルベン化合物、エナミン化合物などの種々の化合物が知られている。
【0008】
このように提案または検討されている構成を有する感光体においては、高速化や耐久性と感度安定性などのさまざまな性能が求められている。特に、最近のデジタル複写機およびレーザプリンタなどの反転現像方式の電子写真装置に対応して、感光体特性として高速化に対応する高感度化と、耐摩耗性および感度安定性の向上による耐久化=長寿命化との両立が要求されている。加えて、レーザプリンタなどに用いる感光体には、より高い画像信頼性や繰返し安定性が要求されている。
【0009】
この中の高感度化は、最近例えば、特開2000−112157号公報(特許文献1)や特開2004−334125公報(特許文献2)のような高移動度を有するエナミン系の電荷輸送物質が開発され、実現されている。
【0010】
しかしながら、これらの感光体は無機系感光体に比べて一般的に耐久性が低いことが1つの大きな欠点であるとされてきた。耐久性は、感度、残留電位、帯電能、画像ボケなどの電子写真物性面の耐久性と、摺擦による感光体表面の摩耗や傷などの機械的耐久性に大別される。電子写真物性面の耐久性における低下の主原因は、コロナ放電により発生するオゾン、NOX(窒素酸化物)などや光照射により感光体表面層に含有される電荷輸送物質の劣化であることが知られている。数多く提案されている様々な骨格からなる多くの電荷輸送物質も、耐久性の面ではかなり改善されつつあるが、いまだ十分とは言えないのが現状である。
【0011】
また、感光体はシステムの中で繰返し使用され、その中にあって常に一定の安定した電子写真特性を要求される。このような安定性、耐久性については、いずれの構成においても、いまだ十分なものが得られていないのが現状である。
【0012】
すなわち、繰返し使用にしたがって電位の低下、残留電位の上昇、感度の変化などが生じ、コピー品質の低下が起こり使用に耐えなくなる。これらの劣化原因の全ては解明されていないが、いくつかの要因が考えられる。
【0013】
例えば、コロナ放電帯電器より放出されるオゾン、窒素酸化物などの酸化性のガスが感光層に著しいダメージを与えることがわかっている。これら酸化性のガスは感光層中の材料を化学変化させて種々の特性変化をもたらす。例えば、帯電電位の低下、残留電位の上昇、表面抵抗の低下による解像力の低下などをもたらし、その結果出力画像上に白抜けおよび黒帯などの画像ボケが発生して著しく画質を低下させ、感光体の寿命を短くしている。このような現象に対して、コロナ帯電器の周りのガスを効率よく排気、置換し、感光体への直接的なガスの影響を避ける対策を盛り込む提案や、感光層に酸化防止剤、安定剤を添加し劣化を防ぐ提案もされている。
【0014】
例えば、特開昭62−105151号公報(特許文献3)には、分子内にトリアジン環およびヒンダードフェノール骨格を有する酸化防止剤を感光層に添加すること、特開昭63−18355号公報(特許文献4)には、特定のヒンダードアミンを感光層に添加することが開示されている。また、特開昭63−4238号公報(特許文献5)、特開昭63−216055号公報(特許文献6)および特開平3−172852号公報(特許文献7)には、トリアルキルアミン、芳香族アミンを感光層に添加すること、さらに特開平5−158258号公報(特許文献8)には、アミンダイマーを感光層に添加することが開示されているが、これらのような酸化防止剤等の添加剤の添加は、そのほとんどの場合感光体の電気特性が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−112157号公報
【特許文献2】特開2004−334125号公報
【特許文献3】特開昭62−105151号公報
【特許文献4】特開昭63−18355号公報
【特許文献5】特開昭63−4238号公報
【特許文献6】特開昭63−216055号公報
【特許文献7】特開平3−172852号公報
【特許文献8】特開平5−158258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
すなわち、このような従来の技術によっては未だに十分な耐ガス性の効果が達成されてはおらず、また、このような酸化防止剤などの添加によって感度や残留電位などの電子写真特性を悪化させるといった、実用上不十分な弊害も依然と残っているのが現状である。
よって、耐ガス性を向上させ、かつ電子写真特性面における弊害の全くない新規な材料提案がまたれている。
【0017】
したがって、本発明は、高感度で、充分な光応答性を示し、耐ガス性に優れた感光体とそれを備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、鋭意努力研究を重ねた結果、出力画像上の白抜けは、コロナ放電帯電器より放出される窒素酸化物などのガスが、感光層中の電荷輸送物質と相互作用しNOxが表層に固着するため表面抵抗が低下して起きる現象であり、その度合いは電荷輸送物質の構造に大きく作用することも見出した。
そこで、本発明者らは、NOxと相互作用が小さい構造を検討した結果、電荷輸送物質の構造中のN原子を遮蔽するためには、フェニルアミン構造のフェニル基のオルト位にアルキル基を導入することが有用であることを見出した。
【0019】
また、この部位にアルキル基を導入すると共役系が減少するため、移動度がかなり低下し応答性が悪化するが、スチルベンあるいはブタジエンユニットを2つ持つことにより、本発明の化合物は、耐ガス性に優れたまま、高感度で充分な光応答性を有することを見出した。
【0020】
さらに、アミノ基のオルト位にアルキル基を導入することにより耐摩耗性も向上することも新たに見出し、さらにこれらは感光体とそれを備えた画像形成装置に極めて有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
かくして、本発明によれば、感光層として、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、電荷輸送物質として、下記一般式(I):
【化1】

[式中、
Ar1はアリール又は複素環基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
Ar2は、水素原子あるいはアルキル、アラルキルもしくはアリール基または一価複素環基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
1はアルキル基であり、この基は置換基を有してもよく;
2及びR3は、互いに同一または異なって、水素原子またはアルキル基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
4及びR5は、互いに同一または異なって、水素原子またはアルキルもしくはアルコキシ基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
nは0または1である]
で示されるトリアリールアミンダイマー化合物を含む電子写真感光体が提供される。
【0022】
また、本発明によれば、前記電荷発生物質が、Cu−Kα特性X線回折(波長:1.54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンである電子写真感光体が提供される。
また、本発明によれば、前記感光層が、前記電荷発生物質を含有する電荷発生層と、前記電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層である前記の電子写真感光体が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、前記導電性支持体と前記感光層との間に中間層を更に備える前記の電子写真感光体が提供される。
【0024】
また、本発明によれば、前記の電子写真感光体を備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
さらに、本発明によれば、前記画像形成装置が、反転現像プロセスを用いて画像を形成する前記の画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のトリアリールアミンダイマー化合物は電荷輸送物質として感光層に含有させることで、耐ガス性の効果に優れ、しかも高感度で、充分な光応答性を有する感光体の提供が可能となる。
したがって、本発明による電荷輸送物質を、感光体の感光層に含有させることによって、耐オゾン性の効果があり、同時に耐久性および環境安定性にも優れる感光体の提供が可能となる。
また、本発明の感光体は、高速の電子写真プロセスに用いられた場合であっても、その優れた耐ガス性の効果により、高品質の画像を提供することができる。
【0026】
よって、本発明による感光体を用いることによって、長期間にわたって繰返し使用されても、耐ガス性に優れた高品質の画像を形成することができる。
また、本発明による感光体は、高速の電子写真プロセスにおいても高品質の画像を提供することができるので、本発明による画像形成装置では画像形成速度の高速化が可能である。
【0027】
また本発明による電子写真感光層は、Cu−Kα特性X線回折(波長:1.54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に明確な回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンを電荷発生物質として含有することにより、高い電荷発生効率と電荷注入効率とを有する。
【0028】
上記の電荷発生物質は、光を吸収することによって多量の電荷を発生させるとともに、発生した電荷をその内部に蓄積することなく電荷輸送物質に効率よく注入できる。
【0029】
また、前述のように、感光層には、有機光導電性材料として、前記一般式(I)で示される電荷移動度の高い電荷輸送物質が含有される。したがって、光吸収によって電荷発生物質で発生する電荷は、電荷輸送物質に効率的に注入されて円滑に輸送されるので、高感度かつ高解像度の電子写真感光体を得ることができる。
【0030】
本発明による一つの形態に従えば、感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層との積層構造からなる。このように、電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることによって、電荷発生機能および電荷輸送機能それぞれに最適な材料を選択することが可能となる。これにより、より高感度で、さらに繰り返し使用時の安定性も増した高耐久性を有する電子写真感光体を得ることができる。
【0031】
本発明によれば、導電性支持体と感光層との間には中間層が設けられることによって、導電性支持体から感光層への電荷の注入を防止することができ、感光層の帯電性の低下を防止できるので、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷の減少を抑制し、画像にかぶりなどの欠陥が発生することを防止できる。また導電性支持体表面の欠陥を被覆して均一な表面を得ることができるので、感光層の成膜性を高めることができる。
【0032】
さらに、上記の中間層を設けることにより、感光層の導電性支持体からの剥離を抑え、導電性支持体と感光層との接着性を向上させることができる。
また本発明は、前記電子写真感光体を備えることを特徴とする画像形成装置である。
本発明による電子感光体は、耐ガス性の効果に優れ、しかも高感度で、充分な光応答性を有するので、各種の環境下において高品質の画像を提供することのできる信頼性の高い画像形成装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による電子写真感光体の実施の第1の形態である積層型電子写真感光体1の構成を簡略化して示す部分断面図である。
【図2】本発明による電子写真感光体の実施の第2の形態である積層型電子写真感光体2の構成を簡略化して示す部分断面図である。
【図3】本発明による電子写真感光体の実施の第3の形態である単層型電子写真感光体3の構成を簡略化して示す部分断面図である。
【図4】本発明による画像形成装置の実施の一形態である画像形成装置100の構成を簡略化して示す配置側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[有機光導電性材料]
本発明による電子写真感光体が電荷輸送物質として含有するトリアリールアミンダイマー化合物は、以下の一般式(I):
【化2】

[式中、
Ar1はアリール又は複素環基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
Ar2は、水素原子あるいはアルキル、アラルキルもしくはアリール基または一価複素環基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
1はアルキル基であり、この基は置換基を有してもよく;
2及びR3は、互いに同一または異なって、水素原子またはアルキル基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
4及びR5は、互いに同一または異なって、水素原子またはアルキルもしくはアルコキシ基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
nは0または1である]
で示される化合物である。
【0035】
具体的には、一般式(I)の化合物は、前記Ar1における、前記アリール基はフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、ビフェニルもしくはフルオレニル基であるか、または前記複素環基はフリル、チエニル、チアゾリル、ベンゾフリル、フェニルベンゾフリルもしくはカルバゾリル基であり、これらの基は1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいか、またはフェノキシもしくはフェニルチオ基で置換されていてもよく;
【0036】
前記Ar2における、アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、シクロヘキシルもしくはシクロペンチル基であり、前記アラルキル基はベンジルもしくはフェネチル基であるか、前記アリール基はフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、ビフェニルもしくはフルオレニル基であるか、または前記一価の複素環式基はフリル、チエニル、チアゾイル、ベンゾフリル、ベンゾチオフェニルもしくはベンゾチアゾイル基であり、これらの基は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基で置換されていてもよいか、またはフェニル、フェノキシ、フェニルチオもしくはナフチル基で置換されていてもよく;
【0037】
前記R1における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、これらの基はハロゲン原子で置換されていてもよく;
前記R2およびR3における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、これらの基は水素原子またはハロゲン原子で置換されていてもよく;
【0038】
前記R4およびR5における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であるか、または前記アルコキシ基はメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシもしくはt−ブトキシ基であり、これらの基は水素原子またはハロゲン原子で置換されていてもよいトリアリールアミンダイマー化合物である。
【0039】
より具体的には、一般式(I)の化合物は、前記Ar1における前記アリール基はフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチルもしくはビフェニル基であるか、または前記複素環基はフリル、チエニル、チアゾリルもしくはベンゾフリル基であり、これらの基は1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキル、アルコキシもしくはアルキレン基で置換されていてもよく;
【0040】
前記Ar2における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはt−ブチル基であるか、または前記アリール基はフェニル、ナフチルもしくはビフェニル基であるか、または前記一価の複素環式基はフリル、チエニルもしくはチアゾリル基であり、これらの基は1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基、フェニル、フェノキシもしくはナフチル基で置換されていてもよく;
【0041】
前記R1における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、
前記R2およびR3における、前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、
【0042】
前記R4およびR5における、前記アルキル基はメチルまたはエチル基であるか、または前記アルコキシ基はメトキシもしくはエトキシ基であるトリアリールアミンダイマー化合物である。
【0043】
さらに具体的には、一般式(I)の化合物は、前記Ar1は、フェニル、p−トリル、m−トリル、1−ナフチル、2−ナフチルまたは5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチル基であり、
前記Ar2は、水素原子またはイソプロピル、フェニル、p−トリル、ベンジルまたはチエニル基であり、
【0044】
前記R1は、メチル、エチルまたはイソプロピル基であり、
前記R2およびR3は、水素原子またはメチルもしくはエチル基であり、
前記R4およびR5は、水素原子またはo−メチル、p−メチルもしくはp−メトキシ基であるトリアリールアミンダイマー化合物である。
【0045】
本発明において、感光層に含有される前記一般式(I)で表される電荷輸送物質は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、次の式(II):
【化3】

(式中、Ar1、R1およびR2は、前記一般式(I)において定義したとおりである)
で示されるトリアリールアミンダイマー化合物をフォルミル化反応に付して、次の一般式(III):
【0046】
【化4】

(式中、Ar1、R1およびR2は、前記一般式(I)において定義したとおりである)
で示されるアルデヒド化合物を製造する。
【0047】
この反応は、例えば、N,N−ジメチルホルムアルデヒド、1,2−ジクロロエタン等の溶剤中、オキシ塩化リン/N,N−ジメチルホルムアルデヒド、オキシ塩化リン/N−メチル−N−フェニルホルムアルデヒドまたはオキシ塩化リン/N,N−ジフェニルホルムアルデヒドにより調整したビルスマイヤー試薬2.1〜2.5当量と、上記の式(II)で示されるトリアリールアミンダイマー化合物1.0当量とを60〜110℃で2〜8時間加熱撹拌を行い、その後、1〜8規定の水酸化ナトリウム水溶液、あるいは水酸化カリウム等のアルカリ水溶液で加水分解を行うことにより合成される。
【0048】
最後に、上記一般式(III)で表されるアルデヒド体と、下記一般式(IV):
【化5】

(式中、Ar2、R3およびR5は、前記一般式(I)において定義したとおりであり、R6は置換基を有してもよいアルキル基又はアリール基を示す)
【0049】
または(V):
【化6】

(式中、Ar2、R3およびR5は、前記一般式(I)において定義したとおりであり、R7は置換基を有してもよいアルキル基又はアリール基を示す)
で示されるウィッティッヒ(Wittig)試薬とを塩基性条件下で反応させるウィッティッヒ−ホルナー(Wittig-Horner)反応を行うことによって、本発明の前記一般式(I)で示される化合物を製造することができる。
【0050】
このとき、上記一般式(IV)で示されるウィッティッヒ試薬を用いると、前記一般式(I)で示されるエナミン化合物のうち、nが0であるスチルベン構造を有するものを得ることができ、上記一般式(V)で示されるウィッティッヒ試薬を用いると、前記一般式(I)で示されるエナミン化合物のうち、nが1であるブタジエン構造を有するものを得ることができる。
【0051】
ウィッティッヒ−ホルナー反応は例えば以下のように行うことができる。
適切な溶剤中、前記一般式(III)で表されるアルデヒド体1.0当量、前記一般式(IV)又は(V)で表されるウィッティッヒ試薬2.0〜2.4当量、および金属アルコキサイド2.0〜3.0当量を、室温又は30〜60℃の加熱下で、2〜8時間撹拌することにより、前記一般式(I)で表される電荷輸送物質を高収率で製造することができる。
【0052】
ウィッティッヒ−ホルナー反応に用いることができる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、エチレングリコールジメチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶剤が挙げられる。
また、金属アルコキサイドとしては、例えば、カリウムt−ブトキサイド、ナトリウムエトキサイド又はナトリウムメトキサイドなどが挙げられる。
【0053】
前記一般式(I)で示される本発明の電荷輸送物質の具体例としては、たとえば以下の表に示す各基を有する化合物を挙げることができる。しかしながら、以下の化合物によって本発明の有機光導電性材料が限定されるものではない
【0054】
【表1−1】

【0055】
【表1−2】

【0056】
【表1−3】

【0057】
【表1−4】

【0058】
【表1−5】

表中、Meはメチル基を意味し、Etはエチル基を意味し、i−Prはイソプロピル基を意味し、OMeはメトキシ基を意味する。
【0059】
前記一般式(I)で示される化合物のうち、その電気特性、原価および生産性などの観点から有機光導電性材料として特に優れた化合物としては、表1における化合物5,9、15、16、17、18、25、26、35および36が好ましい。
【0060】
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、該電荷輸送物質として前記一般式(I)、とりわけ表1における化合物5,9、15、16、17、18、25、26、35および36を含む積層型電子写真感光体または単層型電子写真感光体である。
【0061】
実施の形態
以下、本発明の電子写真感光体および画像形成装置の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
【0062】
尚、本発明の電子写真感光体および画像形成装置は、下記で説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えた他の形態を含み得ることは勿論であり、そのような他の形態は本明細書および図面の記載に基づいて当業者に容易に理解される。
【0063】
[積層型電子写真感光体]
実施の形態1
図1は、本発明による電子写真感光体の実施の第1の形態である電子写真感光体1の構成を簡略化して示す部分断面図である。本実施の形態では、感光層は、電荷発生層と電荷輸送層との積層構造からなる。
【0064】
電子写真感光体1は、導電性材料から成るシート状の導電性支持体11と、導電性支持体11上に積層された層であって電荷発生物質12を含有する電荷発生層15と、電荷発生層15の上に積層された層であって電荷輸送物質13を含有する電荷輸送層16とを含む。電荷発生層15と電荷輸送層16とは、感光層である積層型の感光層14を構成する。すなわち、感光体1は積層型感光体である。
【0065】
<導電性支持体>
導電性支持体11は、感光体1の電極としての役割を果たすとともに他の各層15、16の支持部材としても機能する。導電性支持体11の形状は、シート状で図示されているが、これに限定されることなく、例えば、円柱状、円筒状または無端ベルト状などであってもよい。
【0066】
本発明において導電性支持体は、感光体に使用できる任意の導電性支持体であり得る。導電性支持体11を構成する導電性材料としては、例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、チタンなどの金属単体、アルミニウム合金、ステンレス鋼などの合金を用いることができる。
【0067】
更に、これらの金属材料に限定されることなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンもしくはポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙またはガラスなどの基体の表面に、金属箔をラミネートしたもの、金属材料を蒸着したもの、または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布したものなどを用いることもできる。これらの導電性材料は、感光体の導電性支持体として適切な形状に加工されて使用される。
【0068】
導電性支持体11の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、陽極酸化被膜処理、薬品もしくは熱水などによる表面処理、着色処理、または表面を粗面化するなどの乱反射処理を施してもよい。レーザを露光光源として用いる電子写真プロセスでは、レーザ光の波長が揃っているので、感光体表面で反射されるレーザ光と感光体内部で反射されるレーザ光とが干渉を起こし、この干渉による干渉縞が画像上に現れて画像欠陥となることがある。導電性支持体11の表面に前述のような処理を施すことによって、この波長の揃ったレーザ光の干渉による画像欠陥を防止することができる。
【0069】
<電荷発生層>
導電性支持体11上に設けられる電荷発生層15は、光を吸収することによって電荷を発生する電荷発生物質12を含有する。
【0070】
(電荷発生物質)
電荷発生物質としては、例えば、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料、インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料、ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料、アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料、オキソチタニウムフタロシアニン化合物などの金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物、スクアリリウム色素、ピリリウム塩類およびチオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機光導電性材料、ならびにセレンおよび非晶質シリコンなどの無機光導電性材料などが挙げられる。
【0071】
これらの電荷発生物質は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が組合わされて使用されてもよい。
これらの電荷発生物質の中でも、フタロシアニン化合物、特にオキソチタニウムフタロシアニン化合物を用いることが好ましい。
【0072】
本発明で用いられるオキソチタニウムフタロシアニン化合物とは、オキソチタニウムフタロシアニンおよびその誘導体のことである。オキソチタニウムフタロシアニン誘導体としては、例えば、オキソチタニウムフタロシアニンのフタロシアニン基に含まれる芳香環の水素原子が塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基などの置換基で置換されたもの、オキソチタニウムフタロシアニンの中心金属であるチタン原子に塩素原子などの配位子が配位したものなどが挙げられる。
【0073】
オキソチタニウムフタロシアニン化合物は、特定の結晶構造を有することが好ましい。オキソチタニウムフタロシアニン化合物のうち好ましいものとしては、Cu−Kα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて、少なくともブラッグ角2θ(誤差:±0.2°)27.2°に回折ピークを示す結晶構造を有するものが挙げられる。ここで、ブラッグ角2θとは、入射X線と回折X線との成す角度のことであり、いわゆる回折角を表す。
【0074】
このようなオキソチタニウムフタロシアニン化合物を電荷発生物質として、前記一般式(I)で表される電荷輸送物質と併用すると、対ガス性に優れ、また感度および解像度に更に優れる感光体を実現させることができるので特に好ましい。
すなわち、上記オキソチタニウムフタロシアニン化合物は、電荷発生能力および電荷注入能力に優れるので、光を吸収することによって多量の電荷を発生するとともに、発生した電荷をその内部に蓄積することなく、電荷輸送層16に効率よく注入できる。
【0075】
一方、電荷輸送物質13には、前記一般式(I)で表される電荷移動度の高い化合物が使用されるので、光吸収によって電荷発生物質12で発生する電荷は、電荷輸送物質13に効率的に注入されて円滑に輸送されることとなり、更に高感度かつ高解像度の電子写真感光体を得ることができる。
前記のオキソチタニウムフタロシアニン化合物は、例えば、MoserおよびThomasによるPhthalocyanine Compounds、Reinhold Publishing Corp.、New York、1963に記載されている方法などの従来公知の製造方法に従って製造することができる。
【0076】
例えば、オキソチタニウムフタロシアニンは、フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するか、またはα−クロロナフタレンなどの適当な溶媒中で加熱反応させることによってジクロロチタニウムフタロシアニンを合成し、次いで、塩基または水で加水分解することによって製造することができる。また、イソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N−メチルピロリドンなどの適当な溶媒中で加熱反応させることによっても、オキソチタニウムフタロシアニンを製造することができる。
【0077】
(増感剤)
電荷発生物質は他の増感染料(増感剤)と併用してもよい。増感剤を添加することによって、感光体の感度が向上し、更に繰返し使用による残留電位の上昇および帯電電位の低下などを抑えることができ、電気的耐久性を向上させることができる。
【0078】
そのような増感染料としては、例えば、メチルバイオレット、クリスタルバイオレット、ナイトブルーおよびビクトリアブルーなどに代表されるトリフェニルメタン系染料、エリスロシン、ローダミンB、ローダミン3R、アクリジンオレンジおよびフラペオシンなどに代表されるアクリジン染料、メチレンブルーおよびメチレングリーンなどに代表されるチアジン染料、カプリブルーおよびメルドラブルーなどに代表されるオキサジン染料、シアニン染料、スチリル染料、ピリリウム塩染料またはチオピリリウム塩染料などの増感染料が挙げられる。
【0079】
(電荷発生層用バインダ樹脂)
電荷発生層15には、結着性を向上させるために、バインダ樹脂が含有されてもよい。バインダ樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリビニルホルマール樹脂などの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などが挙げられる。
【0080】
共重合体樹脂の具体例としては、例えば、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂などを挙げることができる。
バインダ樹脂は上記のものに限定されず、この分野において一般に用いられる樹脂をバインダ樹脂として使用することもできる。バインダ樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が併用されてもよい。
【0081】
電荷発生層15における電荷発生物質の割合は、10〜99重量%であることが好ましい。
電荷発生物質の割合が10重量%未満であると、感光体の感度が低下するおそれがある。
また、電荷発生物質の割合が99重量%を超えると、バインダ樹脂の含有量が低すぎて、電荷発生層15の膜強度が低下する可能性がある。
【0082】
さらに、電荷発生層15における電荷発生物質の分散性が低下して電荷発生物質の粗大粒子が増大し、消去されるべき部分以外の表面電荷が露光によって減少し、画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される、いわゆる黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが多くなるおそれもある。
電荷発生層用塗布液は、例えば、適当な溶剤中に前述の電荷発生物質および必要に応じて前述のバインダ樹脂を加え、従来公知の方法で分散させることによって調製することができる。
【0083】
(電荷発生層塗布液用溶剤)
電荷発生層用塗布液に使用される溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;1,2−ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。
これらの溶剤は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が混合されて混合溶剤として使用されてもよい。
【0084】
(電荷発生層用塗布液)
電荷発生物質は、上記の溶剤中に分散される前に、予め粉砕機によって粉砕処理されてもよい。粉砕処理に用いられる粉砕機としては、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などが挙げられる。
【0085】
電荷発生物質を溶剤中に分散させる際に用いられる分散機としては、例えば、ペイントシェーカ、ボールミルおよびサンドミルなどを挙げることができる。このときの分散条件としては、用いる容器および分散機を構成する部材の摩耗などによる不純物の混入が起こらないように適当な条件を選択する。
【0086】
(電荷発生層の形成方法)
電荷発生層15の形成方法としては、前述の電荷発生物質を導電性支持体11の表面に真空蒸着する真空蒸着法、前記の電荷発生物質を含む電荷発生層用塗布液を導電性支持体11の表面に塗布する塗布法などが挙げられる。これらの中でも簡便な塗布法が好適に用いられる。
【0087】
電荷発生層用塗布液の塗布方法としては、例えば、スプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などが挙げられる。これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、好適に用いられる。
【0088】
浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置を設けてもよい。なお、塗布方法はこれらに限定されるものではなく、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択することができる。
【0089】
電荷発生層15の膜厚は、0.05〜5μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜1μmである。
電荷発生層15の膜厚が0.05μm未満であると、光吸収の効率が低下し、感光体1の感度が低下するおそれがある。また、電荷発生層15の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層15内部での電荷移動が感光層14表面の電荷を消去する過程の律速段階となり、感光体1の感度が低下するおそれがある。
【0090】
<電荷輸送層>
電荷輸送層16は、バインダ樹脂中に電荷輸送物質13を含み、電荷発生層15で発生した電荷を輸送する機能を有する。この電荷輸送物質13として、前記一般式(I)で表される本発明の電荷輸送物質が単独でまたは2種以上が混合されて使用され得る。これにより、耐ガス性の効果に優れ、しかも高感度で、充分な光応答性を有する感光体を得ることができる。
前記一般式(I)で表される化合物は、他の電荷輸送物質と混合されて使用されてもよい。
【0091】
そのような他の電荷輸送物質としては、例えば、カルバゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体およびベンジジン誘導体などが挙げられる。
【0092】
また、これらの化合物から生じる基を主鎖または側鎖に有するポリマー、例えば、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリ−1−ビニルピレンおよびポリ−9−ビニルアントラセンなども挙げられる。
【0093】
(電荷輸送層塗布液用バインダ樹脂)
電荷輸送層16を形成するバインダ樹脂17には、電荷輸送物質13との相溶性に優れるものが選ばれる。
【0094】
そのようなバインダ樹脂の具体例としては、例えば、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル重合体樹脂およびこれらを構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂、ならびにポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂およびフェノール樹脂などが挙げられる。また、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂も挙げられる。
これらの樹脂は、1種が単独で使用されてもよく、または2種以上が混合されて使用されてもよい。
【0095】
上記の樹脂の中でも、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂またはポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗率が1013Ω・cm以上であり、電気絶縁性に優れており、また皮膜性および電位特性などにも優れているので、好適に用いられる。
電荷輸送層16において、電荷輸送物質の重量(A)に対するバインダ樹脂の重量(B)の重量比(B/A)は、1.2〜3.0であることが好ましい。
【0096】
前記比率B/Aを1.2以上とし、バインダ樹脂を高い比率で電荷輸送層16に含有させることによって、電荷輸送層16の耐刷性を向上させることができる。
従来公知の電荷輸送物質を用いた場合、このようにバインダ樹脂の比率を高くすると、結果として電荷輸送物質の含有率が低下することにより、感光体の光応答性が不足することがあった。
【0097】
これに対し、本発明の一般式(I)で表される化合物は、優れた電荷輸送能力を有するので、前記比率B/Aを1.2以上として、電荷輸送層16中におけるバインダ樹脂の比率を高くしても、感光体1は、充分に高い光応答性を示し、高品質の画像を提供することができる。
【0098】
すなわち、本発明に係る一般式(I)で表される化合物を電荷輸送物質として使用することにより、感光体1は、光応答性が低下することなく、電荷輸送層16の耐刷性が向上し、機械的耐久性が向上する。
他方、比率B/Aが3.0を超えると、バインダ樹脂の比率が高くなり過ぎ、感光体1の感度が低下するおそれがある。
【0099】
また、電荷輸送層16を浸漬塗布法によって形成する場合には、塗布液の粘度が増大して塗布速度が低下し、生産性が著しく悪くなるおそれがある。塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層16に白濁が発生する可能性がある。
比率B/Aが1.2未満であると、バインダ樹脂の比率が低くなり過ぎ、電荷輸送層16の耐刷性が低下して感光層14の膜減り量が増加し、感光体1の帯電性が低下するおそれがある。
【0100】
(電荷輸送層用添加剤)
電荷輸送層16には、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤および/またはレベリング剤などの添加剤を添加してもよい。
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステルのような二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィンおよびエポキシ型可塑剤などを挙げることができる。
レベリング剤としては、例えば、ジメチルシリコーン、ジフェニルシリコーンおよびフェニルメチルシリコーンなどのシリコーン系レベリング剤などを挙げることができる。
【0101】
また、電荷輸送層16には、機械的強度の増加や電気的特性の向上を図るために、無機化合物および/または有機化合物の微粒子を添加してもよい。そのような無機化合物の具体的な例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタンなどの金属酸化物微粒子が挙げられる。また、有機化合物の微粒子の具体的な例としては、四フッ化エチレン重合体微粒子などのフッ素原子含有ポリマーの微粒子が挙げられる。
【0102】
電荷輸送層16には、必要に応じて、酸化防止剤および/または増感剤などの各種添加剤を含んでもよい。これによって、電位特性が向上するとともに、塗布液としての安定性が高まり、また、感光体を繰返し使用した際の疲労劣化を軽減し、耐久性を向上させることができる。
【0103】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール誘導体、ヒンダードアミン誘導体またはベンジルアミン誘導体が好適に用いられる。ヒンダードフェノール誘導体、ヒンダードアミン誘導体およびベンジルアミン誘導体は、任意の割合で混合して使用されてもよい。
【0104】
ヒンダードフェノール誘導体、ヒンダードアミン誘導体またはベンジルアミン誘導体の使用量、またはヒンダードフェノール誘導体、ヒンダードアミン誘導体およびベンジルアミン誘導体の合計使用量電荷輸送物質13に対して0.1〜50重量%の範囲にあることが好ましい。
使用量を0.1重量%以上とすることで、塗布液の安定性の向上および感光体の耐久性の向上に更なる効果を得ることができる。使用量が50重量%を超えると、感光体特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0105】
(電荷輸送層塗布液用溶剤)
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびモノクロルベンゼンなどの芳香族炭化水素、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、THF、ジオキサンおよびジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類、ならびにN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。
【0106】
溶剤は、1種を単独で使用してもよく、または2種以上が混合して使用してもよい。
また、上記の溶剤に、必要に応じてアルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンなどの溶剤をさらに加えて使用することもできる。
【0107】
(電荷輸送層の形成方法)
電荷輸送層16は、例えば前述の電荷発生層15を形成する場合と同様に、適当な溶剤中に電荷輸送物質13およびバインダ樹脂17ならびに必要な場合には前述の添加剤を溶解または分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液をスプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法または浸漬塗布法などによって、電荷発生層15上に塗布することによって形成される。これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、前述したように種々の点で優れているので、電荷輸送層16を形成する場合にも多く利用されている。
【0108】
電荷輸送層16の膜厚は、5〜50μmであることが好ましく、より好ましくは10〜40μmである。
電荷輸送層16の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがある。電荷輸送層16の膜厚が50μmを超えると、感光体1の解像度が低下する可能性がある。
【0109】
(電荷輸送層用増感剤)
感光層14の各層、すなわち電荷発生層15および/または電荷輸送層16には、本発明の好ましい特性を損なわない範囲内で、電子受容物質および色素などの増感剤を1種または2種以上添加してもよい。
増感剤を添加することによって、感光体の感度が向上し、また、繰返し使用による残留電位の上昇および疲労などが抑えられ、電気的耐久性が向上する。
【0110】
電子受容物質としては、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、4−クロルナフタル酸無水物などの酸無水物、テトラシアノエチレン、テレフタルマロンジニトリルなどのシアノ化合物、4−ニトロベンズアルデヒドなどのアルデヒド類、アントラキノン、1−ニトロアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノンなどの多環もしくは複素環ニトロ化合物、またはジフェノキノン化合物などの電子吸引性材料などを用いることができる。また、これらの電子吸引性材料を高分子化したものなどを用いることもできる。
【0111】
色素などの増感剤としては、例えば、キサンテン系色素、チアジン色素、トリフェニルメタン色素、キノリン系顔料または銅フタロシアニンなどの有機光導電性化合物を用いることができる。これらの有機光導電性化合物は光学増感剤として機能する。
【0112】
本実施の形態では、感光層14は、前記のようにして形成される電荷発生層15と電荷輸送層16とが積層されて成る積層構造を有する。このように電荷発生機能と電荷輸送機能とを別々の層に担わせることによって、各層を構成する材料を独立して選択することができるので、電荷発生機能および電荷輸送機能それぞれに最適な材料を選択することができる。したがって、感光体1は、帯電性、感度および光応答性などの電気特性、ならびに電気的および機械的耐久性に特に優れる。
【0113】
実施の形態2
図2は、本発明による電子写真感光体の実施の第2の形態である電子写真感光体2の構成を簡略化して示す部分断面図である。本実施形態の電子写真感光体2は、図1に示す実施の第1形態の電子写真感光体1に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0114】
<中間層>
電子写真感光体2において注目すべきは、導電性支持体11と感光層14との間に、中間層18が設けられていることである。
導電性支持体11と感光層14との間に中間層18がない場合、導電性支持体11から感光層14に電荷が注入され、感光層14の帯電性が低下し、露光される部分以外の表面電荷が減少し、画像にかぶりなどの欠陥の発生することがある。特に、反転現像プロセスを用いて画像を形成する場合には、露光によって表面電荷の減少した部分にトナーが付着してトナー画像が形成されるので、露光以外の要因で表面電荷が減少すると、白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ぽちと呼ばれる画像のかぶりが発生し、画質の著しい劣化が生じるおそれがある。
【0115】
本感光体2では、前述のように導電性支持体11と感光層14との間に中間層18が設けられ、導電性支持体11からの感光層14への電荷の注入が防止されている。したがって、感光層14の帯電性の低下を防ぐことができ、露光される部分以外での表面電荷の減少を抑え、画像にかぶりなどの欠陥が発生することを防止することができる。
【0116】
また、中間層18を設けることによって、導電性支持体11表面の欠陥を被覆して均一な表面を得ることができるので、感光層14の成膜性を高めることができる。
さらに、中間層18が導電性支持体11と感光層14とを接着する接着剤として機能するので、感光層14の導電性支持体11からの剥離を抑えることができる。
【0117】
従来は、このように導電性支持体11と感光層14との間に中間層18を設けると、感光体の感度が低下するおそれがあった。しかしながら、本感光体2においては、感光層14が優れた電荷輸送能力を有する本発明に係る電荷輸送物質を含有しているので、中間層15を設けたことによる感度の低下は生じない。すなわち、本発明によれば、感光体に、感度を低下させることなく、中間層を設けることができる。
【0118】
(中間層用樹脂材料)
中間層18としては、各種樹脂材料から成る樹脂層、アルマイト層などが用いられる。
樹脂層を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリアミド樹脂などの合成樹脂、ならびにこれらの合成樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などを挙げることができる。また、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよびエチルセルロースなども挙げられる。
【0119】
これらの樹脂の中でも、ポリアミド樹脂を用いることが好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂が好適に用いられる。好ましいアルコール可溶性ナイロン樹脂としては、例えば、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロンなどを共重合させた、いわゆる共重合ナイロン、ならびにN−アルコキシメチル変性ナイロンおよびN−アルコキシエチル変性ナイロンのようにナイロンを化学的に変性させた樹脂などを挙げることができる。
【0120】
(中間層用添加剤)
また、中間層18には、金属酸化物粒子などの粒子を含有させてもよい。中間層18にこれらの粒子を含有させることによって、該中間層の体積抵抗値を調節し、導電性支持体11からの感光層14への電荷の注入を防止する効果を高めることができる。また、種々の環境下において感光体2の電気特性を維持し、環境安定性を向上させることができる。含有させ得る金属酸化物粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酸化スズなどの粒子が挙げられる。
【0121】
中間層18は、例えば、前記の樹脂を適当な溶剤中に溶解または分散させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体11の表面に塗布することによって形成することができる。中間層18に上記の金属酸化物粒子などの粒子を含有させる場合には、例えば、前記の樹脂を適当な溶剤に溶解させて得られる樹脂溶液中に、これらの粒子を分散させて中間層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体11の表面に塗布することによって中間層18を形成することができる。
【0122】
(中間層塗布液用溶剤)
中間層用塗布液の溶剤としては、水もしくは各種有機溶剤、またはこれらの混合溶剤が用いられる。その中でも、水、メタノール、エタノールもしくはブタノールなどの単独溶剤、または水とアルコール類、2種類以上のアルコール類、アセトンもしくはジオキソランなどとアルコール類、ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどの塩素系溶剤とアルコール類、THF、ジオキサンなどのエーテル類とアルコール類などの混合溶剤が好適に用いられる。
【0123】
(中間層の形成方法)
上記の金属酸化物粒子を樹脂溶液中に分散させる方法としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機またはペイントシェーカなどを用いる公知の分散方法を使用することができる。
【0124】
中間層用塗布液中において、中間層用塗布液に使用されている溶剤の重量(D)に対する樹脂および金属酸化物の合計重量(C)の重量比(C/D)は、1/99〜40/60であることが好ましく、より好ましくは2/98〜30/70である。
【0125】
また、樹脂の重量(E)と金属酸化物の重量(F)との重量比(E/F)は、90/10〜1/99であることが好ましく、より好ましくは70/30〜5/95である。
【0126】
中間層用塗布液の塗布方法としては、スプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などを挙げることができる。これらの中でも、特に浸漬塗布法は、前述のように、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、中間層を形成する場合にも好適に用いられる。
【0127】
中間層18の膜厚は、0.01〜20μmであることが好ましく、より好ましくは0.05〜10μmである。
中間層15の膜厚が0.01μmよりも薄いと、実質的に中間層18として機能しなくなり、導電性支持体11の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることができず、導電性支持体11からの感光層14への電荷の注入を十分に防止することができなくなる可能性があり、感光層14の帯電性の低下を抑制できないおそれがある。
【0128】
中間層18の膜厚を20μmよりも厚くすることは、浸漬塗布法によって形成する場合には中間層の形成が困難になるとともに、該中間層上に感光層14を均一に形成することができず、感光体2の感度が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0129】
本実施の形態においても、電荷輸送層16に、前記の実施の形態1と同様に、可塑剤、レベリング剤、および/または無機化合物および/もしくは有機化合物の微粒子などの各種添加剤を添加してもよい。また、感光層14の電荷発生層15および/または電荷輸送層16に、電子受容物質および/もしくは色素などの増感剤、酸化防止剤、および/または紫外線吸収剤などの添加剤を添加してもよい。
【0130】
実施の形態3
[単層型電子写真感光体]
図3は、本発明による電子写真感光体の実施の第3の形態である電子写真感光体3の構成を簡略化して示す部分断面図である。本実施の形態の電子写真感光体3は、図2に示す実施の第2形態の電子写真感光体2に類似し、対応する部分については同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0131】
電子写真感光体3において注目すべきは、感光層14が、電荷発生物質と電荷輸送物質との両方を含有する単一の層から成る単層構造を有することである。すなわち、感光体3は単層型感光体である。
【0132】
本実施の形態の単層型感光体3は、オゾン発生の少ない正帯電型画像形成装置用の感光体として好適であり、また、塗布されるべき感光層14が一層のみであるので、製造原価および歩留が実施の形態1および形態2の積層型感光体1、2に比べて優れている。
【0133】
感光層14は、電荷輸送物質として前記一般式(I)、とりわけ前記化合物(5)、(15)、(17)または(26)と、前述の電荷発生物質とを、バインダ樹脂で結着して形成することができる。バインダ樹脂としては、例えば、前記の実施の形態1において電荷輸送層13のバインダ樹脂として例示したものを用いることができる。
【0134】
また、本感光層14には、実施の形態1における感光層14と同様に、可塑剤、レベリング剤、無機化合物および/もしくは有機化合物の微粒子、電子受容物質および/もしくは色素などの増感剤、酸化防止剤、および/または紫外線吸収剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0135】
本感光層14は、実施の形態1の感光体1に設けられる電荷輸送層16と同様の方法で形成することができる。例えば、前記の電荷発生物質、一般式(I)で表される本発明に係る電荷輸送物質およびバインダ樹脂の適量、ならびに必要に応じて上記の本発明の電荷輸送物質以外の電荷輸送物質および種々の添加剤の適量を、前記実施の形態1の電荷輸送層用塗布液と同様の適当な溶剤に溶解または分散させて感光層用塗布液を調製し、この感光層用塗布液を浸漬塗布法などによって中間層18上に塗布することによって、感光層14を形成することができる。
【0136】
本感光層14における電荷輸送物質の重量(A')に対するバインダ樹脂の重量(B')の重量比(B'/A')は、実施の形態1の電荷輸送層16における電荷輸送物質の重量(A)に対するバインダ樹脂の重量(B)の重量比B/Aと同様に、1.2〜3.0であることが好ましい。感光層14における電荷発生物質の割合は、1.5〜10重量%であることが好ましい。
【0137】
感光層14の膜厚は、5〜100μmであることが好ましく、より好ましくは10〜50μmである。
感光層14の膜厚が5μm未満であると、感光体表面の帯電保持能が低下するおそれがある。感光層14の膜厚が100μmを超えると、生産性が低下する可能性がある。
【0138】
本実施の形態3の感光体3は、本発明に係る一般式(I)で表される電荷輸送能力が高い化合物を電荷輸送物質として使用することによって、バインダ樹脂を高い比率で感光層14に含有させることが可能になるので、光応答性が低下することなく、電荷輸送層16の耐刷性が向上し、機械的耐久性が向上する。
【0139】
本発明による電子写真感光体は、以上に述べた実施の形態1〜3の電子写真感光体1、2、3の構成に限定されるものではなく、本発明に係る一般式(I)で表される化合物を電荷輸送物質として感光層に含有するものであれば、他の異なる構成であってもよい。
【0140】
(表面保護層)
例えば、実施の形態1〜3のそれぞれの感光層14の表面に、表面保護層が設けられる構成であってもよい。これらの感光層の表面に表面保護層を設けることによって、感光体の機械的耐久性を更に向上させることができる。
表面保護層には、例えば樹脂、無機フィラー含有樹脂または無機酸化物などから成る層が用いられる。
【0141】
実施の形態4
[画像形成装置]
本発明の画像形成装置は、本発明に係る電子写真感光体を備えてなる。
前述のように、帯電電位が高く、高感度で、充分な光応答性を示し、また耐久性に優れ、低温環境下または高速プロセスで用いた場合にもそれらの特性が低下しない電子写真感光体を備えるので、各種の環境下において高品質の画像を提供することのできる信頼性の高い画像形成装置が提供される。
【0142】
本発明の画像形成装置は、モノクロ、カラーを問わず、電子写真プロセスを利用する種々のプリンタ、複写機、ファクシミリ、複合機などであり得る。
【0143】
以下に、本発明による電子写真感光体を備える画像形成装置の実施の形態について説明する。なお、本発明による画像形成装置は、以下の記載内容に限定されるものではない。
図4は、本発明による画像形成装置の実施の一形態である画像形成装置100の構成を簡略化して示す配置側面図である。図4に示す画像形成装置100は、本発明による電子写真感光体の実施の第1形態である感光体1を搭載する。以下、図4を参照して画像形成装置100の構成および画像形成動作について説明する。
【0144】
画像形成装置100は、図示しない装置本体に回転自在に支持される感光体1と、感光体1を回転軸線44まわりに矢符41方向に回転駆動させる図示しない駆動手段とを備える。駆動手段は、動力源として例えばモータを備え、モータからの動力を図示しない歯車を介して感光体1の芯体を構成する支持体に伝えることによって、感光体1を所定の周速度Vpで回転駆動させる(以下、この周速度Vpを回転周速Vpとも称する。)。
【0145】
感光体1の周囲には、帯電器32と、露光手段30と、現像器33と、転写器34と、クリーナ36とが、矢符41で示される感光体1の回転方向の上流側から下流側に向かってこの順序で設けられる。
【0146】
帯電器32は、感光体1の表面43を所定の電位に帯電させる帯電手段である。
図4において、帯電器32は帯電ローラなどの接触式帯電手段として示されているが、これに限定されることなく、例えばコロナ放電器などの非接触式帯電手段(例えばスコロトロン帯電器)であってもよい。
【0147】
露光手段30は、例えば半導体レーザなどを光源として備え、光源から画像情報に応じて出力されるレーザビームなどの光31で、帯電された感光体1の表面43を露光し、これによって感光体1の表面43に画像情報に対応する静電潜像を形成させる。
【0148】
現像器33は、感光体1の表面43に形成された静電潜像を現像剤(例えばトナー)によって現像し、可視像であるトナー画像を形成する現像手段であり、感光体1に対向して設けられる。現像器33は、例えば、感光体1の表面43に現像剤を供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体1の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持するとともにその内部空間に現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0149】
転写器34は、感光体1の表面43に形成されたトナー画像を、感光体1の表面43から転写材である記録紙51上に転写させる転写手段である。図4において、転写器34は、コロナ放電器などの帯電手段を備え、記録紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー画像を記録紙51上に転写させる非接触式の転写手段である。しかし、転写器34は、押圧力を利用して転写を行う接触式の転写手段であってもよい。接触式の転写手段としては、例えば、転写ローラを備え、感光体1の表面43に当接される記録紙51の当接面の反対面側から転写ローラを感光体1に対して押圧し、感光体1と記録紙51とを圧接させた状態で、転写ローラに電圧を印加することによって、トナー画像を記録紙51上に転写させるものなどを用いることができる。
【0150】
クリーナ36は、画像転写後の感光体1の表面を清掃する清掃手段である。クリーナ36は、例えば、感光体表面43に押圧され、転写器34による転写動作後に感光体1の表面43に残留するトナーを前記表面43から剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離された現像剤を収容する回収用ケーシング36bとを備える。
【0151】
クリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。除電器は、感光体1の表面上に滞留した電荷を除去する手段である。除電器は例えば除電ランプである。
【0152】
感光体1と転写器34との間を通過した後に記録紙51が搬送される方向には、転写されたトナー画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、例えば、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
【0153】
以下に画像形成装置100による画像形成動作について説明する。
まず、図示しない制御部からの指示に応じて、感光体1が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動され、露光手段30からの光31の結像点よりも感光体1の回転方向の上流側に設けられる帯電器32によって、その表面43が正または負の所定電位に均一に帯電される。
【0154】
次いで、制御部からの指示に応じて、露光手段30から、帯電された感光体1の表面43に対して光31が照射される。光源からの光31は、画像情報に基づいて、主走査方向である感光体1の長手方向に繰返し走査される。感光体1を回転駆動させつつ、光源からの光31を画像情報に基づいて繰返し走査することによって、感光体1の表面43に対して画像情報に対応する露光を施すことができる。この露光によって、光31が照射された部分の表面電荷が減少し、光31が照射された部分の表面電位と光31が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、感光体1の表面43に静電潜像が形成される。
感光体1への露光と同期して、記録紙51が、搬送手段によって矢符42方向から転写器34と感光体1との間の転写位置に供給される。
【0155】
次いで、光源からの光31の結像点よりも感光体1の回転方向の下流側に設けられる現像器33の現像ローラ33aから、静電潜像の形成された感光体1の表面43にトナーが供給される。これによって、静電潜像が現像され、感光体1の表面43に可視像であるトナー画像が形成される。感光体1と転写器34との間に記録紙51が供給されると、転写器34によってトナーと逆極性の電荷が記録紙51に与えられ、これによって感光体1の表面43に形成されたトナー画像が記録紙51上に転写される。
【0156】
トナー画像が転写された記録紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧される。これによって、記録紙51上のトナー画像が記録紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された記録紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0157】
一方、トナー画像が記録紙51に転写された後に、さらに矢符41方向に回転する感光体1は、その表面43がクリーナ36に備わるクリーニングブレード36aによって擦過され、清掃される。このようにしてトナーが除去された感光体1の表面43は、除電ランプからの光によって電荷が除去され、これによって感光体1の表面43の静電潜像が消失する。その後、感光体1はさらに回転駆動され、再度感光体1の帯電から始まる一連の動作が繰返される。以上のようにして、連続的に画像が形成される。
【0158】
画像形成装置100に備わる感光体1は、前述のように、一般式(I)で表される本発明に係る化合物を電荷輸送物質として感光層14に含有するものであり、帯電性、感度および光応答性などの電気特性、電気的および機械的耐久性、ならびに環境安定性に優れる。したがって、各種の環境下において長期間にわたって安定して高品質の画像を形成することのできる信頼性の高い画像形成装置100が実現される。
【0159】
また、感光体1は高速の電子写真プロセスに用いられた場合であっても画質の低下を引起すことがないので、画像形成装置100は画像形成速度の高速化が可能である。例えば、感光体1として直径30mm、長手方向の長さ340mmのものを用い、感光体1の回転周速Vpを毎秒100〜140mm程度に設定して高速で電子写真プロセスを行ない、画像形成装置100の画像形成速度をJIS P0138に規定されるA4判用紙25枚/分程度の高速として画像を形成しても、高品質の画像を提供することができる。
本発明の画像形成装置は、図4を参照して説明した上記の構成に限定されるものではなく、本発明の感光体を使用するものであれば、他の異なる構成であってもよい。
【実施例】
【0160】
以下、製造例、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらにより何ら限定されるものではない。
製造例1
化合物5の製造
無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)300mL中に、氷冷下、オキシ塩化リン16.9g(2.2モル当量)を徐々に加え、約30分間撹拌し、ビルスマイヤー試薬を調製した。この溶液中に、氷冷下、下記構造式(VI):
【化7】

のトリアリールアミンダイマー化合物25.8g(1.0モル当量;高砂香料工業株式会社製)を徐々に加えた。その後、徐々に加熱して反応溶液の温度を80℃まで昇温させ、80〜90℃を保つように加熱しながら6時間攪拌して反応させた。反応終了後、この反応溶液を放冷し、冷却した4規定(4N)の水酸化ナトリウム水溶液1L中に徐々に加え、沈殿を生じさせた。生じた沈殿をろ取し、充分に水洗した後、エタノールと酢酸エチルとの混合溶剤で再結晶を行うことによって、黄色粉末状化合物35.5g(収率=62%)を得た。
【0161】
得られた化合物をLC−MSで分析した結果、次の構造式(VII):
【化8】

で示されるアルデヒド中間体(分子量の計算値:572.25)の分子イオン[M]+に相当するピークが572.2に観測されたことから、得られた化合物は上記構造式(VII)で示されるアルデヒド中間体であることが判った。また、LC−MSの分析結果から、得られたエナミン−アルデヒ中間体の純度は99.5%であることが判った。
【0162】
次いで、無水DMF150mL中に、上記で得られたアルデヒド体11.5g(1.0モル当量)と、下記式(VIII):
【化9】

で表されるウィッティヒ試薬11.4g(2.2モル当量)とを加えて溶解させた後、0℃に冷却しながら、その溶液にカリウムt−ブトキシド5.16g(2.3モル当量)を徐々に加えた。
【0163】
その後、反応溶液を室温で1時間撹拌した後、40℃まで加熱し、40℃を保つように加熱しながら7時間撹拌して反応させた。反応溶液を放冷した後、この反応液を過剰のメタノール中に注いだ。析出物をろ取し、トルエンに溶解させてトルエン溶液とした。このトルエン溶液を分液ロートに移して水洗した後、有機層を取出し、取出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥後、固形物を取除いた有機層を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行うことによって、黄色結晶12.5g(収率=80%)を得た。
【0164】
得られた化合物をLC−MSで分析した結果、分子イオン[M]+に相当するピークが780.3に観測されたことから、得られた化合物は化合物5(分子量の計算値:780.37)であることが確認された。また、LC−MSの分析結果から、得られた化合物の純度は99.5%であることが判った。
【0165】
製造例2
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物9を得た。化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0166】
製造例3
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物15を得た。化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0167】
製造例4
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物16を得た。化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0168】
製造例5
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物17を得た。化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0169】
製造例6
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物18を得た。化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0170】
製造例7
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物25を得た。各化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0171】
製造例8
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物26を得た。各化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0172】
製造例9
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物35を得た。各化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0173】
製造例10
製造例1と同様に合成することにより、対応する原料からエナミン化合物、エナミン−アルデヒド中間体をへて、化合物36を得た。各化合物の収率、LC−MSで測定された最終合成物の純度および分子イオン[M]+を、以下の表2に示す。
【0174】
上記の製造例1〜10で得られた化合物5、9、15、16、17、18、25、26、35および36のLC−MS測定における分子イオン[M]+の実測値および理論値をこれらの化合物の構造および収率と共に以下の表に示す。
【0175】
【表2−1】

【0176】
【表2−2】

【0177】
【表2−3】

【0178】
実施例1
酸化アルミニウム(Al23)と二酸化ジルコニウム(ZrO2)とで表面処理した樹枝状の酸化チタン(石原産業株式会社製:TTO−D−1)9重量部と、共重合ナイロン樹脂(東レ株式会社製:CM8000)9重量部とを、1,3−ジオキソラン41重量部とメタノール41重量部との混合溶剤に加えた後、ペイントシェーカにて8時間分散処理し、中間層用塗布液(100g)を調製した。この中間層塗布液を塗工槽に満たし、この塗工層に直径30mm、長手方向の長さ357mmのアルミニウム製円筒状導電性支持体を浸漬した後引上げ、乾燥して厚1.0μmの中間層を導電性支持体上に形成した。
【0179】
次いで、電荷発生物質として、Cu−Kα特性X線(波長:1.54Å)に対するX線回折スペクトルにおいて少なくともブラッグ角2θ(誤差:2θ±0.2°)27.2°に回折ピークを示す結晶構造を有するオキソチタニウムフタロシアニン2重量部と、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製:エスレックBM−S)1重量部と、メチルエチルケトン97重量部とを混合し、ペイントシェーカにて分散処理して電荷発生層用塗布液(100g)を調製した。この電荷発生層用塗布液を、先に形成した中間層と同様の浸漬塗布法にて中間層上に塗布し、乾燥して膜厚0.4μmの電荷発生層を形成した。
【0180】
次いで、電荷輸送物質として表1に示す化合物5の化合物10重量部と、バインダ樹脂としてポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製:ユーピロンZ400)20重量部と、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール1重量部と、ジメチルポリシロキサン(信越化学工業株式会社製:KF−96)0.004重量部とを、テトラヒドロフラン(THF)110重量部に溶解させ、電荷輸送層用塗布液(100g)を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、先に形成した中間層と同様の浸漬塗布法にて、先に形成した電荷発生層上に塗布した後、温度110℃で1時間乾燥して膜厚25μmの電荷輸送層を形成した。
以上のようにして、実施例1の電子写真感光体を作製した。
【0181】
実施例2
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物9を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例2の電子写真感光体を作製した。
【0182】
実施例3
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物15を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例3の電子写真感光体を作製した。
【0183】
実施例4
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物16を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例4の電子写真感光体を作製した。
【0184】
実施例5
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物17を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例5の電子写真感光体を作製した。
【0185】
実施例6
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物18を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例6の電子写真感光体を作製した。
【0186】
実施例7
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物25を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例7の電子写真感光体を作製した。
【0187】
実施例8
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物26を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例8の電子写真感光体を作製した。
【0188】
実施例9
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物35を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例9の電子写真感光体を作製した。
【0189】
実施例10
電荷輸送物質として、化合物1に代えて、前記表2に示す化合物36を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、実施例10の電子写真感光体を作製した。
【0190】
比較例1
電荷輸送物質として、実施例1の化合物5に代えて、下記の構造式(A):
【化10】

で表される化合物A(化合物5において、前記一般式(I)におけるR1に相当するo−メチル基がない構造)を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、比較例1の電子写真感光体を作製した。
【0191】
比較例2
電荷輸送物質として、実施例7の化合物25に代えて、下記の構造式(B):
【化11】

で表される化合物B(化合物25において、前記一般式(I)におけるR1に相当するo−メチル基がない構造)を用いる以外は、実施例7と全く同様にして、比較例2の電子写真感光体を作製した。
【0192】
比較例3
電荷輸送物質として、実施例5の化合物17に代えて、下記の構造式(C):
【化12】

で表される化合物C(化合物17において、前記一般式(I)におけるR1に相当するo−メチル基がない構造)を用いる以外は、実施例5と全く同様にして、比較例3の電子写真感光体を作製した。
【0193】
比較例4
電荷輸送物質として、実施例8の化合物26に代えて、下記の構造式(D):
【化13】

で表される化合物D(化合物26において、前記一般式(I)におけるR1に相当するo−メチル基がない構造)を用いる以外は、実施例8と全く同様にして、比較例4の電子写真感光体を作製した。
【0194】
比較例5
電荷輸送物質として、実施例1の化合物5に代えて、下記の構造式(E):
【化14】

で表される化合物E(化合物5において、p−メトキシスチレン基がない構造)を用いる以外は、実施例1と全く同様にして、比較例5の電子写真感光体を作製した。
【0195】
比較例6
電荷輸送物質として、実施例3の化合物15に代えて、下記の構造式(F):
【化15】

で表される化合物F(化合物15における4−(o,p−ジメチルフェニル)−1,3−ブタジエニル基をメチル基で置き換えた構造)を用いる以外は、実施例3と全く同様にして、比較例6の電子写真感光体を作製した。
【0196】
比較例7
電荷輸送物質として、実施例6の化合物18に代えて、下記の構造式(G):
【化16】

で表される化合物Gを用いる以外は、実施例6と全く同様にして、比較例7の電子写真感光体を作製した。
【0197】
比較例8
電荷輸送物質として、実施例1の化合物5に代えて、下記の構造式(H):
【化17】

で表される化合物Hを用いる以外は、実施例1と全く同様にして、比較例8の電子写真感光体を作製した。
以上のようにして作製した実施例1〜10および比較例1〜8の各感光体について、以下のようにして(a)耐ガス性、(b)耐摩耗性および(c)電気特性の安定性を評価し、さらに(d)感光体性能の総合判定を行なった。
【0198】
(a)耐ガス性
実施例1〜10および比較例1〜8の各実機評価用感光体を、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機MX-3100FG(商品名、シャープ株式会社製)にそれぞれ搭載し、温度25℃、相対湿度10%の常温/常湿(N/L)環境下において、所定のパターンのテスト画像を記録用紙5万枚に実写させた。5万枚の実写が終了した時点から1時間複写機の動作を停止させた後、記録用紙にハーフトーン画像を複写させ、これを第1評価用画像とした。次いで、再び温度25℃、相対湿度10%のN/L環境下において所定のパターンのテスト画像を記録用紙5万枚に実写させ、5万枚の実写が終了した時点から12時間複写機の動作を停止させた後、記録用紙にハーフトーン画像を複写させ、これを第2評価用画像とした。
【0199】
形成された第1評価用画像および第2評価用画像をそれぞれ目視によって観察し、複写機の動作停止時にコロナ放電帯電器に近接して配置されていた感光体の部位からトナー像が転写された部分に相当する記録用紙の部位の画質を、白抜けおよび黒帯などの画像欠陥の発生度合によって判定し、耐オゾンガス性の評価指標とした。
【0200】
画質の判定基準は以下のようである。
VG:優(very good):第1評価用画像および第2評価用画像のいずれにも画像欠陥が全く発生していない
G :良(good):第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に若干の画像欠陥が発生しているけれども、無視できる程度である
NB:可(not bad):第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に若干の画像欠陥が発生しているけれども、実使用上問題がない程度である
B:不可(bad):第1評価用画像および第2評価用画像のいずれか一方または両方に多数の画像欠陥が発生し、実使用不可。
【0201】
(b)耐刷性(耐摩耗性)
実施例1〜10および比較例1〜8の各実機評価用感光体を、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機MX-3100FG(商品名、シャープ株式会社製)にそれぞれ搭載し、温度25℃、相対湿度50%の常温/常湿(N/N)環境下において、所定のパターンのテスト画像を記録用紙10万枚に実写させた後、搭載していた感光体を取出して感光層の膜厚d1[μm]を測定し、この値d1を作製時の感光層の膜厚d0から差引いた値(d0−d1)を膜減り量Δdとして求めた。
【0202】
耐刷性の判定基準は以下のようである。
VG:優(very good):Δdが5μm未満
G :良(good):Δdが5μm以上8μm未満
NB:可(not bad):Δdが8μm以上12μm未満
B :不可(bad):Δdが12μm以上
【0203】
(c)電気特性
実施例1〜10および比較例1〜8の各実機評価用感光体を試験用複写機にそれぞれ搭載し、温度5℃、相対湿度20%の低温/低湿(L/L:Low Temperature/Low Humidity)環境下および温度35℃、相対湿度85%の高温/高湿(H/H:High Temperature/High Humidity)環境下のそれぞれの環境下において、以下のようにして電気特性を評価した。試験用複写機には、感光体の帯電手段としてコロナ放電帯電器を備える市販の複写機MX-3100FG(商品名、シャープ株式会社製)の内部に、画像形成過程における感光体の表面電位を測定できるように表面電位計(商品名:CATE751、ジェンテック社製)を設けたものを用いた。なお、複写機MX-3100FGは、感光体表面を負に帯電して電子写真プロセスを行なう負帯電型の画像形成装置である。
【0204】
実施例1〜10および比較例1〜8の各感光体が搭載された試験用複写機を用い、帯電器による帯電動作直後の感光体の表面電位を帯電電位V0(V)として測定し、これを初期の帯電電位V01とした。またレーザ光によって露光を施した直後の感光体の表面電位を残留電位Vr(V)として測定し、これを初期の残留電位Vr1とした。
【0205】
次いで、所定のパターンのテスト画像を記録用紙30万枚に連続して複写させた後、初期と同様にして帯電電位V0および残留電位Vrを測定し、これらを繰返し使用後の帯電電位V02および繰返し使用後の残留電位Vr2とした。初期の帯電電位V01と繰返し使用後の帯電電位V02との差の絶対値を、帯電電位変化量ΔV0(=|V01−V02|)として求めた。また初期の残留電位Vr1と繰返し使用後の残留電位Vr2との差の絶対値を、残留電位変化量ΔVr(=|Vr1−Vr2|)として求めた。帯電電位変化量ΔV0および残留電位変化量ΔVrを評価指標として、電気特性を評価した。
【0206】
L/L環境下における電気特性
L/L環境下における電気特性の評価基準は以下のようである)
VG:優良(very good):ΔV0が35V以下かつΔVrが55V以下かつVr1が100V以下
G :良好(good):ΔV0が35V以下かつΔVrが55Vを超え80V以下かつVr1が150V以下、またはΔV0が35Vを超え75V以下かつΔVrが55V以下かつVr1が150V以下)
NB:実使用上問題なし(not bad):ΔV0が35Vを超え75V以下かつΔVrが55Vを超え80V以下かつVr1が200V以下
B :不良(bad):ΔV0が75Vを超える、またはΔVrが80Vを超える、またはVr1が200Vを超える。
【0207】
H/H環境下における電気特性
H/H環境下における電気特性の評価基準は以下のようである。
VG:優良(very good):ΔV0が15V以下かつΔVrが105V以下
G :良好(good):ΔV0が15V以下かつΔVrが105Vを超え125V以下、またはΔV0が15Vを超え30V以下かつΔVrが105V以下
NB:実使用上問題なし(not bad):ΔV0が15Vを超え30V以下かつΔVrが105Vを超え125V以下
B :不良(bad):ΔV0が30Vを超える、またはΔVrが125Vを超える
【0208】
電気特性の総合評価
また、L/L環境下における評価結果とH/H環境下における評価結果とを合わせて、電気特性の総合評価を行なった。電気特性の安定性の総合評価の評価基準は以下のようである。
VG:優良(very good):L/L環境下およびH/H環境下がいずれも優良
G :良好(good):L/L環境下およびH/H環境下のいずれかが良好かつ他方が優良または良好
NB:実使用上問題なし(not bad):L/L環境下およびH/H環境下のいずれかが実使用上問題なしかつ他方が不良でない
B :不良:L/L環境下およびH/H環境下のいずれか一方または両方が不良。
【0209】
(d)感光体性能の総合判定
耐ガス性の評価結果と耐刷性と電気特性の安定性の総合評価結果とを合わせて、感光体性能の総合判定を行なった。総合判定の判定基準は以下のようである)
VG:優良(very good):耐ガス性、耐刷性および電気特性の安定性がいずれも優良
G :良好(good):耐ガス性、耐刷性および電気特性の安定性のいずれかが良好かつ他方が優良または良好
NB:実使用上問題なし(not bad):耐ガス性、耐刷性および電気特性の安定性のいずれかが実使用上問題なしかつ他方が不良でない
B :不良(bad):耐ガス性、耐刷性および電気特性の安定性のいずれか一方または両方が不良 。
【0210】
以上の評価結果を表3に示す。
【表3】

【0211】
実施例1〜10と比較例1〜8との比較から、本発明によるトリアリールアミンダイマー化合物を含有する実施例1〜10の感光体は、含有しない比較例1〜8の感光体に比べて、耐ガス性、耐摩耗性および電気特性に優れ、さらに繰返し使用されても良好な電気特性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明によるトリアリールアミンダイマー化合物を電荷輸送物質として感光層に含有させることで、耐ガス性の効果に優れ、しかも高感度で、充分な光応答性を有する感光体の提供が可能となる。
また、本発明の感光体は、高速の電子写真プロセスに用いられた場合であっても、その優れた耐ガス性の効果により、高品質の画像を提供することができる。
【符号の説明】
【0213】
1、2、3 電子写真感光体
11 導電性支持体
12 電荷発生物質
13 電荷輸送物質
14 感光層
15 電荷発生層
16 電荷輸送層
17 バインダ樹脂
18 中間層
【0214】
30 露光手段
31 露光手段からの光
32 帯電器
33 現像器
33a 現像ローラ
33b ケーシング
34 転写器
35 定着器
35a 加熱ローラ
35b 加圧ローラ
【0215】
36 クリーナ
36a クリーニングブレード
36b 回収用ケーシング
41 矢符
42 矢符
43 感光体の表面
44 回転軸線
51 記録紙
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光層として、電荷発生物質を含む電荷発生層と、電荷輸送物質を含む電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層、または電荷発生物質および電荷輸送物質を含む単層型感光層が導電性支持体上に形成されており、前記電荷輸送層または前記単層型感光層が、電荷輸送物質として、下記一般式(I):
【化1】

[式中、
Ar1はアリール又は複素環基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
Ar2は、水素原子あるいはアルキル、アラルキルもしくはアリール基または一価複素環基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
1はアルキル基であり、この基は置換基を有してもよく;
2及びR3は、互いに同一または異なって、水素原子またはアルキル基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
4及びR5は、互いに同一または異なって、水素原子またはアルキルもしくはアルコキシ基であり、これらの基は置換基を有してもよく;
nは0または1である]
で示されるトリアリールアミンダイマー化合物を含む電子写真感光体。
【請求項2】
前記Ar1における、前記アリール基はフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、ビフェニルもしくはフルオレニル基であるか、または前記複素環基はフリル、チエニル、チアゾリル、ベンゾフリル、フェニルベンゾフリルもしくはカルバゾリル基であり、これらの基は1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルもしくはアルコキシ基で置換されていてもよいか、またはフェノキシもしくはフェニルチオ基で置換されていてもよく;
前記Ar2における、アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、シクロヘキシルもしくはシクロペンチル基であり、前記アラルキル基はベンジルもしくはフェネチル基であり、または前記アリール基はフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、ビフェニルもしくはフルオレニル基であるか、または前記一価の複素環式基はフリル、チエニル、チアゾイル、ベンゾフリル、ベンゾチオフェニルもしくはベンゾチアゾイル基であり、これらの基は、1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルもしくはアルコキシ基で置換されていてもよいか、またはフェニル、フェノキシ、フェニルチオもしくはナフチル基で置換されていてもよく;
前記R1における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、これらの基はハロゲン原子で置換されていてもよく;
前記R2およびR3における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、これらの基は水素原子またはハロゲン原子で置換されていてもよく;
前記R4およびR5における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、または前記アルコキシ基はメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシもしくはt−ブトキシ基であり、これらの基は水素原子またはハロゲン原子で置換されていてもよい請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記Ar1における、前記アリール基はフェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチルもしくはビフェニル基であり、または前記複素環基はフリル、チエニル、チアゾリルもしくはベンゾフリル基であり、これらの基は1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキル、アルコキシまたはアルキレン基で置換されていてもよく;
前記Ar2における、前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはt−ブチル基であるか、または前記アリール基はフェニル、ナフチルもしくはビフェニル基であるか、または前記一価の複素環式基はフリル、チエニルまたはチアゾリル基であり、これらの基は1以上のハロゲン原子または直鎖状もしくは分枝鎖状のC1〜C4アルキルまたはアルコキシ基、フェニル、フェノキシもしくはナフチル基で置換されていてもよく;
前記R1における前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルもしくはt−ブチル基であり、
前記R2およびR3における、前記アルキル基はメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルまたはt−ブチル基であり、
前記R4およびR5における、前記アルキル基はメチルまたはエチル基であるか、あるいは前記アルコキシ基はメトキシまたはエトキシ基である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記Ar1は、フェニル、p−トリル、m−トリル、1−ナフチル、2−ナフチルまたは5,6,7,8−テトラヒドロ−1−ナフチル基であり、
前記Ar2は、水素原子またはイソプロピル、フェニル、p−トリル、ベンジルまたはチエニル基であり、
前記R1は、メチル、エチルまたはイソプロピル基であり、
前記R2およびR3は、水素原子またはメチルもしくはエチル基であり、
前記R4およびR5は、水素原子またはo−メチル、p−メチルもしくはp−メトキシ基である請求項1〜3のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記電荷発生物質が、Cu−Kα特性X線回折(波長:1.54Å)におけるブラッグ角(2θ±0.2°)が少なくとも27.2°に回折ピークを有するオキソチタニウムフタロシアニンである請求項1〜4のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記感光層が、前記電荷発生物質を含有する電荷発生層と、前記電荷輸送物質を含有する電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層である請求項1〜5のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記導電性支持体と前記感光層との間に中間層を更に備える請求項1〜6のいずれか1つに記載の電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の電子写真感光体を備える画像形成装置。
【請求項9】
前記画像形成装置が、反転現像プロセスを用いて画像を形成する請求項8に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−3340(P2013−3340A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134185(P2011−134185)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】