説明

電子写真感光体の製造方法、電子写真感光体、及び画像形成装置

【課題】導電性支持体上に感光層と表面層とを有する電子写真感光体における表面層の膜表面の状態が良好で、且つ表面層内部にわたって十分に硬化し、硬化状態が均一であり、耐摩耗性および耐傷性が高く、安定であると共に電気的特性が良好であり、長期間にわたり高画質化を実現可能とする電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】ラジカル重合性化合物を含有する塗工液を用いて表面層としての塗膜を形成する工程の後に、LEDを光源とする光エネルギーの照射により該塗膜を硬化させる工程を含むことにより表面層を形成するものであり、塗膜の硬化工程は、表面層としての塗膜を形成工程後の電子写真感光体を、LED照射部を設置した密閉容器内へ移動させ、密閉容器を密閉後、光エネルギーの照射時には、密閉容器内のガスを排出しながら、一方で不活性ガスを注入することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性および耐傷性が高く、電気的特性が良好で、長期間にわたり高画質化を維持することができる電子写真感光体に関し、詳しくは、塗工液により形成された塗膜を熱制御下に光エネルギー(LED光)を照射して硬化した表面層を有する電子写真感光体とその製造方法および電子写真感光体を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機感光体(OPC:Organic Photoconductor)は、その良好な性能および様々な利点から、無機感光体に代わって複写機、ファクシミリ、レーザープリンタおよびこれらの複合機に多く用いられている。この理由としては、例えば、(1)光吸収波長域の広さおよび吸収量の大きさ等の光学特性、(2)高感度、安定な帯電特性等の電気的特性、(3)材料の選択範囲の広さ、(4)製造の容易さ、(5)低コスト、(6)無毒性、等が挙げられる。
【0003】
一方最近、画像形成装置の小型化に伴って感光体の小径化が進み、さらに機械の高速化やメンテナンスフリーの動きも加わって感光体の高耐久化が切望されるようになってきた。
このような観点からみると、有機感光体は、表面層が低分子電荷輸送物質と不活性高分子物質とを主成分としているために一般に柔らかく、電子写真プロセスにおいて繰り返し使用された場合、現像システムやクリーニングシステムによる機械的な負荷により、摩耗が発生しやすいという欠点を有している。加えて、高画質化の要求によるトナー粒子の小粒径化に伴い、クリーニング性を向上させる目的からクリーニングブレードのゴム硬度の増大(上昇)と当接圧力の増化(上昇)が余儀なくされ、このことも感光体の摩耗量を増加させる要因となっている。この様な感光体の摩耗は、電気的特性を劣化させ(感度の劣化、帯電性の低下など)、画像濃度低下、地肌汚れ等の異常画像の原因となる。また、摩耗が局所的に発生した傷は、クリーニング不良によるスジ状汚れ画像をもたらす。現状では感光体の寿命はこの摩耗や傷が律速となり、交換に至っている。したがって、有機感光体の高耐久化においては前述の摩耗量を低減することが不可欠であり、これが当分野で最も解決が迫られている課題である。
【0004】
感光体の耐摩耗性を改良する技術としては、(1)表面層に硬化性バインダーを用いたもの(例えば、特許文献1参照。)、(2)高分子型電荷輸送物質を用いたもの(例えば、特許文献2参照。)、(3)表面層に無機フィラーを分散させたもの(例えば、特許文献3参照。)等が挙げられる。これらの技術の内、(1)の硬化性バインダーを用いたものは、電荷輸送物質との相溶性が悪いためや、重合開始剤、未反応残基などの不純物により残留電位が上昇して画像濃度低下が発生し易い傾向がある。また、(2)の高分子型電荷輸送物質を用いたもの、および(3)の無機フィラーを分散させたものは、ある程度の耐摩耗性向上が可能であるものの、有機感光体に求められている耐久性を十二分に満足させるまでには至っていない。さらに(3)の無機フィラーを分散させたものは、無機フィラー表面に存在するトラップによって残留電位が上昇し、画像濃度低下が発生し易い傾向にある。これら(1)、(2)、(3)の技術では、有機感光体に求められる電気的な耐久性、機械的な耐久性をも含めた総合的な耐久性を十二分に満足するには至っていない。
【0005】
さらに、(1)の耐摩耗性と耐傷性を改良するために多官能のアクリレートモノマー硬化物を含有させた感光体も知られている(例えば、特許文献4参照。)。しかし、この感光体においては、感光層上に設けた保護層にこの多官能のアクリレートモノマー硬化物を含有させる旨の記載があるものの、この保護層においては電荷輸送物質を含有せしめてもよいことが記載されているのみで具体的な記載はなく、しかも、単に表面層に低分子の電荷輸送物質を含有させた場合には、上記硬化物との相溶性の問題があり、これにより、低分子電荷輸送物質の析出、白濁現象が起こり、機械強度も低下してしまうことがあった。さらに、この感光体は、具体的には高分子バインダーを含有した状態でモノマーを反応させるため、硬化が充分に進行しないことや、硬化物とバインダー樹脂との相溶性の問題があり、硬化時に相分離による表面凹凸が生じクリーニング不良を引き起こす傾向が見られた。
【0006】
これらに代わる感光層の耐摩耗技術として、炭素−炭素二重結合を有するモノマーと、炭素−炭素二重結合を有する電荷輸送物質およびバインダー樹脂からなる塗工液を用いて形成した電荷輸送層を設けることが知られており(例えば、特許文献5参照。)、このバインダー樹脂には、炭素−炭素二重結合を有し、上記電荷輸送物質に対して反応性を有するものと、上記二重結合を有せず反応性を有しないものが含まれる。この感光体は、耐摩耗性と良好な電気的特性を両立しており注目されるが、バインダー樹脂として反応性を有しないものを使用した場合においては、バインダー樹脂と、上記モノマーと電荷輸送物質との反応により生成した硬化物との相溶性が悪く、層分離から架橋時に表面凹凸が生じ、クリーニング不良を引き起こす傾向が見られた。
【0007】
また、上記のように、この場合バインダー樹脂がモノマーの硬化を妨げるほか、この感光体において使用される上記モノマーとして具体的に記載されているものは2官能性のものであり、この2官能性モノマーでは官能基数が少なく充分な架橋密度が得られず、これらの点で耐摩耗性の点では未だ満足するには至らなかった。また、反応性を有するバインダーを使用した場合においても、上記モノマーおよび上記バインダー樹脂に含有される官能基数の低さから、上記電荷輸送物質の結合量と架橋密度との両立は難しく、電気特性および耐摩耗性も十分とは言えないものであった。
【0008】
また、同一分子内に二つ以上の連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質を硬化した化合物を含有する感光層も知られている(例えば、特許文献6参照。)。
しかし、この感光層は嵩高い電荷輸送物質が二つ以上の連鎖重合性官能基を有するため硬化物中に歪みが発生し内部応力が高くなり、保護層の荒れや経時におけるクラックが発生しやすい場合があり、十分な耐久性を有していない。
【0009】
上記課題に対して、保護層を少なくとも電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマーと電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を光エネルギーの照射により硬化した架橋樹脂層とすることにより、電気特性および耐摩耗性を向上することが提案されている(例えば、特許文献7、特許文献8、特許文献9参照。)。
【0010】
しかし、上記光エネルギーの照射によるラジカル重合法の不具合点として、酸素阻害による硬化阻害がある。これを抑制する方法として不活性ガス雰囲気下で硬化させる方法(例えば、特許文献10参照。)が提案されている。しかしながら、不活性ガスに置換させる方法では十分に酸素を取り除くことができないため、さらなる改善が求められている。
【0011】
近年、従来の有電極もしくは無電極の紫外線ランプを光源とする紫外光に替わって、必要とする波長のみの光エネルギーを発光させることが可能な発光ダイオード(LED)光により、感光体の保護層(表面層:架橋樹脂層)を光硬化する方法が提案されている(例えば、特許文献11参照。)。LEDは熱の発生が非常に少なく、被照射体である基体の温度変化が非常に小さい。さらに発光装置は冷却機構が非常に簡単であるため、従来の紫外線ランプ装置と比較して非常に小さく、設置場所を選ばない利点がある。また、LED光源は空気中の酸素をオゾン化するような不要な光が少ないので活性ガス発生量が少ないとして(特許文献11の段落[0021])、不活性ガス導入の必要性については否定的である。しかしながら、これまでの紫外線ランプと同様、酸素阻害による硬化阻害が起こるため、さらなる改善が求められることが本発明において判明した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、導電性支持体上に少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体における該表面層の膜表面の状態が良好で、且つ表面層内部にわたって十分に硬化し、硬化状態が均一であり、耐摩耗性および耐傷性が高く、安定であると共に電気的特性が良好であり、長期間にわたり高画質化を実現可能とする電子写真感光体の製造方法と、これにより製造された電子写真感光体および、この電子写真感光体を備えた画像形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下の〔1〕〜〔10〕に記載する発明によって上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。以下、本発明について具体的に説明する。
〔1〕;導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体の製造方法において、ラジカル重合性化合物を含有する塗工液を用いて表面層としての塗膜を形成する工程の後に、LEDを光源とする光エネルギーの照射により該塗膜を硬化させる工程を含むことにより前記表面層を形成するものであり、前記塗膜の硬化工程は、前記表面層としての塗膜を形成工程後の電子写真感光体を、LED照射部を設置した密閉容器内へ移動させ、前記密閉容器を密閉後、前記光エネルギーの照射時には、前記密閉容器内のガスを排出しながら、一方で不活性ガスを注入することを含むものであることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
〔2〕;前記不活性ガスが窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、ラドンの単独もしくは混合であることを特徴とする前記〔1〕項に記載の電子写真感光体の製造方法。
〔3〕;前記不活性ガスの比重が酸素より小さいことを特徴とする前記〔1〕項又は〔2〕項に記載の電子写真感光体の製造方法。
〔4〕;前記ラジカル重合性化合物が、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)および/または電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)であることを特徴とする前記〔1〕項乃至〔3〕項のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
〔5〕;前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が、3官能以上であることを特徴とする前記〔4〕項に記載の電子写真感光体の製造方法。
〔6〕;前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の官能基が、アクリロイルオキシ基および/またはメタクリロイルオキシ基であることを特徴とする前記〔4〕項又は〔5〕項に記載の電子写真感光体の製造方法。
〔7〕;前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が、1官能であることを特徴とする前記〔4〕項乃至〔6〕項のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
〔8〕;前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の官能基が、アクリロイルオキシ基および/またはメタクリロイルオキシ基であることを特徴とする前記〔4〕項乃至〔7〕項のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
〔9〕;前記〔1〕項乃至〔8〕項のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする電子写真感光体。
〔10〕;前記〔9〕項に記載の電子写真感光体を少なくとも備え、かつ該電子写真感光体の表面に滑剤を塗布する機構を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電子写真感光体(導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する)の製造方法は、ラジカル重合性化合物を含有する塗工液を用いて表面層としての塗膜を形成後に、前記表面層としての塗膜を形成後の電子写真感光体を、LED照射部を設置した密閉容器内へ移動させ、前記密閉容器を密閉後、前記光エネルギーの照射時には、前記密閉容器内のガスを排出しながら、一方で不活性ガスを注入するので、従来の紫外線の照射により硬化する際に問題となる酸素阻害による硬化不良が格段に改善されるため、耐摩耗性が向上する。また過酸化物ラジカルが活性ラジカルと結合し、表面層に固定されることによって発生する異常画像、特に電子写真感光体表面に滑剤を塗布する画像形成装置において顕著に見られる画像ボケが改善され、膜表面の状態が良好で、且つ表面層内部にわたって十分に硬化し、硬化状態が均一であり、耐摩耗性および耐傷性が優れ、信頼性の高い安定した表面層が得られる。
【0015】
したがって、電子写真感光体は、耐摩耗性および耐傷性が高く、異常画像の発生が抑制されて安定であると共に電気的特性が良好であり、高耐久、高性能、加えて人体・環境への負荷が少なく、長期間にわたり高画質化を実現可能とすることができる。
本発明の電子写真感光体を備えた画像形成装置とすれば、耐摩耗性、耐傷性、電気的特性が良好で高耐久、高性能の電子写真感光体を用いるため、繰り返し使用(例えば、プロセス線速が高速)しても異常画像の発生がなく安定した高品質画像を継続的に出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明においてLED−UV照射装置及び、電子写真感光体を真空チャンバー内に設置した一例を示す構成図である。
【図2】本発明においてLED−UV照射装置及び、電子写真感光体を真空チャンバー内に設置した別例を示す構成図である。
【図3】本発明における電子写真感光体の層構成の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明における電子写真感光体の層構成の別例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の画像形成装置の一例を示す概略断面図である。
【図6】実施例において表面層の形成に用いたLED光源の発光ピーク(波長365nm)を示すスペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述のように本発明における電子写真感光体の製造方法は、導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体の製造方法において、ラジカル重合性化合物を含有する塗工液を用いて表面層としての塗膜を形成する工程の後に、LEDを光源とする光エネルギーの照射により該塗膜を硬化させる工程を含むことにより前記表面層を形成するものであり、前記塗膜の硬化工程は、前記表面層としての塗膜を形成工程後の電子写真感光体を、LED照射部を設置した密閉容器内へ移動させ、前記密閉容器を密閉後、前記光エネルギーの照射時には、前記密閉容器内のガスを排出しながら、一方で不活性ガスを注入することを含むものであることを特徴とするものである。
【0018】
すなわち、前記表面層を形成する際、ラジカル重合性化合物と溶媒を含有する表面層としての塗膜を形成後の電子写真感光体を、LED照射部を設置した密閉容器内へ移動させ、前記密閉容器を密閉後、酸素を除いた雰囲気下でLEDを光源とする光エネルギーを照射することにより、ラジカル重合性化合物の架橋反応が促進され、且つ、塗膜(表面層)の内部まで均一な速度で反応が進み、さらに過酸化ラジカルの表面層への固定が低減する。
その結果、良好な膜表面性が得られると共に、表面層内部にわたり硬化が十分に行き渡り、高い耐摩耗性と耐傷性が得られ、優れたクリーニング特性、および長期間にわたる高画質化を実現する電子写真感光体の製造方法が達成される。
【0019】
上記本発明により、良好な膜表面性、表面層内部にわたる均一で高い耐摩耗性と耐傷性が得られる理由としては、以下に示すような従来の紫外線照射、LED光照射により表面層(架橋表面層)を形成する場合の問題点が回避されることが要因として挙げられる。
すなわち従来、架橋表面層は、少なくともラジカル重合性化合物と溶媒を含有する表面層用塗工液(塗工液)を感光層上に塗工後、塗膜に光エネルギー、主として紫外線を照射することで形成するが、LEDを光源とする光エネルギーの照射時に酸素が存在することで酸素阻害による架橋反応速度が低下するという問題点がある。酸素阻害による硬化不良については窒素パージを行うことで改善されるが、わずかに残った酸素が表面層に固定されることで、異常画像の原因となる。
【0020】
一方、本発明において光エネルギーの照射に用いるLED光源は、一般の紫外線ランプとは異なり、所望(狙い)とする単一波長光を発光させることが可能であるためオゾンのような活性ガス発生が抑制されるといわれてきた。さらに非常にコンパクトであり、かつ冷却機構も簡単なため設置場所を選ばない利点がある。従って、感光体ドラムとともに真空チャンバーの中に設置して、LEDを点灯させることも可能となり、加えて本発明により、酸素濃度が非常に小さい中で架橋反応を起こすことが可能となる。
次に、本発明において光エネルギーの照射に用いられるLED光源について説明する。
一般に、光エネルギーを照射してラジカル重合性化合物にラジカルを発生させる光源としては、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等に代表される有電極ランプやマイクロ波エネルギーによって発光物質を励起させて発光させる無電極ランプがある。前述のように、これら紫外線ランプの発光波長は400nm以下が主であるが、400nm以上の波長光も多く含まれており、また400nm以下の波長光であっても開始剤がラジカルを発生する波長領域外の光も含まれる。すなわち、これら不必要な波長領域の光の吸収により、被照射体である基体の温度上昇を招き、硬化時に表面凹凸が生じたり、急激な架橋反応によって表面層の内部応力が大きくなることで表面層の膜剥がれを生じる原因となる。
また、ラジカル重合性化合物として本発明のような電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を含有する場合には、紫外線ランプの特定の波長光が電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を分解させる原因になる。
上記、紫外線ランプの不必要な波長光をカットする赤外線カットフィルターや紫外線カットフィルターなどが存在するが、必要とする波長光のみを単一のフィルターで効率的に透過させることは非常に困難である。また、400nmを越える光のカットは赤外線カットフィルターなど長波長光を吸収するフィルターを用いるが、その場合、熱によりフィルターが高温になり、フィルターに割れが生じて実用に耐えるものではない。
また一般的に、紫外線ランプを発光させるためには膨大な電気エネルギーが必要であり、さらに紫外線ランプ等の冷却のため、ブロアー等の冷却装置が必要であることから、電気エネルギーの莫大な消費とともに装置の大型化によって設置場所が限定される欠点がある。
【0021】
それに対して、本発明で使用するLED光源は、開始剤がラジカルを発生するのに必要な波長領域の光のみを発光させることが可能であることから、熱的な影響を及ぼす赤外線や電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を分解する紫外線を含まない光源とすることができる。さらにLED光源は非常に小さく、設置場所に制約されない。また、一般の紫外線ランプが交流電源で駆動し、周期的に発光するのに対して、LED光源は直流電源で駆動して連続で発光するため、表面層における膜の表面および内部の硬化状態が均一となり、いわゆる架橋均一性が向上するメリットがあるが、反面、オゾンのような活性ガスの抑制対策は講じられていなかった。
本発明で使用するLED光源は主に紫外線領域に発光波長を有するLED素子であり、発光素子に用いられる材料としては、インジウム窒化ガリウム、窒化ガリウム、アルミニウム窒化ガリウムなどがある。LED素子の形状としてはランプ状になったものの他に、基体内にチップとして埋め込まれたもの、さらに各素子から出た光を集光させて照度をアップさせたものもある。
【0022】
本発明では感光体ドラムとともにLED照射部を真空チャンバーの中に設置して、照射して硬化させる。装置の形状としては、例えば、〔1〕LED照射部と感光体ドラムを同時に真空チャンバー内に設置して一方で減圧しながら、他方において不活性ガスを注入する方法(図1)、さらに、〔2〕減圧しながら、酸素より比重の小さな不活性ガスを上部より注入することでガスの置換効率をアップさせた方法(図2)などが用いられる。
【0023】
図1、図2において、符号(1)は真空チャンバー、符号(2)は導電性支持体(感光体ドラム)、符号(3)はLED−UV照射部、符号(4)は減圧口、符号(5)は不活性ガス注入口を示す。
真空チャンバー内を減圧する方法として、真空ポンプが用いられる。1〜10−2mmHg程度の真空を得るのであれば、回転ポンプが最も普通に用いられ、10−3mmHg以下の高真空を得る場合は拡散ポンプを用いる。
また、LED光源による光エネルギー照射では熱の発生原因となる赤外線を発生させないことも可能であるため、光エネルギー照射時に感光体ドラムの冷却が不必要になる。
【0024】
次に、本発明において表面層を形成するために用いるラジカル重合性化合物を含有する表面層用塗工液(表面層塗布液)の構成材料について説明する。
本発明における前記ラジカル重合性化合物として、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)および/または電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)を用いることが好適である。
以下、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)と、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)について詳述する。
【0025】
[電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)]
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)としては、例えば、トリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造や、例えば、縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有さないモノマーを指す。
【0026】
上記ラジカル重合性官能基とは、炭素−炭素2重結合を有し、ラジカル重合可能な基であれば何れでもよい。これらラジカル重合性官能基としては、例えば、下記に示す1−置換エチレン官能基、1,1−置換エチレン官能基等が挙げられる。
(1)1−置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(1)で表される官能基が挙げられる。
【0027】
【化1】

[ただし、一般式(1)中、X2は、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基、−CO−基、−COO−基、−CONR36−基〔R36は、水素、アルキル基、アラルキル基、アリール基を表す。〕、または−S−基を表す。]
【0028】
上記置換基を有していてもよいアリーレン基の具体例としては、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられ、また、R36におけるアルキル基としてはメチル基、エチル基等が、アラルキル基としてはベンジル基、ナフチルメチル基、フェネチル基等が、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
これらの置換基の具体例を示すと、ビニル基、スチリル基、2−メチル−1,3−ブタジエニル基、ビニルカルボニル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミド基、ビニルチオエーテル基等が挙げられる。
【0029】
(2)1,1−置換エチレン官能基としては、例えば、下記一般式(2)で表される官能基が挙げられる。
【0030】
【化2】

[ただし、一般式(2)中、Y4は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基または、−COOR37基〔R37は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、または−CONR38R39(R38およびR39は、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、または置換基を有していてもよいアリール基を表し、互いに同一または異なっていてもよい。)を表す。〕を表し、また、X3は上記一般式(1)のX2と同一の基および単結合、アルキレン基を表す。ただし、Y4、X3の少なくとも何れか一方がオキシカルボニル基、シアノ基、アルケニレン基、および芳香族環よりなる群から選ばれた基である。]
【0031】
上記Y4における置換基を有していてもよいアルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基等が、置換基を有していてもよいアラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が、置換基を有していてもよいアリール基としてはフェニル基、ナフチル基等が、置換基を有していてもよいアルコキシ基としてはメトキシ基あるいはエトキシ基等が挙げられる。また、R37における置換基を有していてもよいアルキル基としてはメチル基、エチル基等が、置換基を有していてもよいアラルキル基としてはベンジル基、フェネチル基等が、置換基を有していてもよいアリール基としてはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
さらにR38およびR39における置換基を有していてもよいアルキル基としてはメチル基、エチル基等が、置換基を有していてもよいアラルキル基としてはベンジル基、ナフチルメチル基、あるいはフェネチル基等が、置換基を有していてもよいアリール基としてはフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0032】
これらの置換基の具体例を示すと、α−塩化アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、α−シアノエチレン基、α−シアノアクリロイルオキシ基、α−シアノフェニレン基、メタクリロイルアミノ基等が挙げられる。
【0033】
なお、前記X2、X3、Y4の基にさらに置換する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基等のアリールオキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
これらのラジカル重合性官能基の中では、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。
【0034】
電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の官能基数は特に制限ないが、1官能および2官能のラジカル重合性モノマーやラジカル重合性オリゴマーを多量に含有させると表面層の3次元架橋結合密度が実質的に低下し、耐摩耗性の低下を招くため、これらのモノマーやオリゴマーの含有量は、3官能以上のラジカル重合性モノマー100重量部に対し50重量部以下、好ましくは30重量部以下に制限される。
電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の具体例としては、以下のものが例示されるが、これらの化合物に限定されるものではない。
【0035】
すなわち、本発明において使用する上記ラジカル重合性モノマー(イ)としては、例えば、ステアリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−フェノキシアクリレート、トリデシルアクリレート、カプロラクトンアクリレート、EO変性ノニルフェニルアクリレート、イソボニルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、PO変性アリルメタクリレート、EO変性ヒドロキシエチルメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、PO変性ネオペンチルグリコールジアクリレート、EO変性ビスフェノールAジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4ブタンジオールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、シクロヘキサンジメタノールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリアクリレート、HPA変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、グリセロールトリアクリレート、ECH変性グリセロールトリアクリレート、EO変性グリセロールトリアクリレート、PO変性グリセロールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、EO変性リン酸トリアクリレート、2,2,5,5−テトラヒドロキシメチルシクロペンタノンテトラアクリレートなどが挙げられ、これらは、単独または2種類以上を併用しても差し支えない。
【0036】
[電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)]
本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)としては、例えば、トリアリールアミン、ヒドラゾン、ピラゾリン、カルバゾールなどの正孔輸送性構造や、例えば、縮合多環キノン、ジフェノキノン、シアノ基やニトロ基を有する電子吸引性芳香族環などの電子輸送構造を有しており、且つラジカル重合性官能基を有する化合物を指す。このラジカル重合性官能基としては、先のラジカル重合性モノマー(イ)について説明した基が挙げられ、特にアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が有用である。
【0037】
また、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)[略、「電荷輸送性化合物」]としては、官能基が2官能以上である多官能のものも使用することができるが、膜質および静電特性的に、1官能であるものが好ましい。1官能が好ましい理由は、2官能以上の電荷輸送性化合物を用いた場合には、電荷輸送性化合物が複数の結合で架橋構造中に固定され、その際に電荷輸送性構造が非常に嵩高いため、硬化樹脂中に歪みが発生して表面層の内部応力が高くなり、キャリア付着等によりクラックや傷の発生を引き起こしやすくなるためである。表面層が5μm以下の膜厚の場合、特に問題とはならないが、5μmを越える膜を形成した場合、前記表面層の内部応力が非常に高くなり、架橋直後にクラックが発生しやすくなる。
【0038】
また、静電的特性においても、2官能以上の電荷輸送性化合物を用いた場合には、複数の結合で架橋構造中に固定されるため、電荷輸送時の中間体構造(カチオンラジカル)が安定して保てず、電荷のトラップによる感度の低下、残留電位の上昇が起きやすくなる。
これらの電気的特性の劣化は、画像濃度低下、文字の細り等の画像として現れる。
このようなことから、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)としては、1官能の電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物を用い、架橋結合間にペンダント状に固定化することにより、クラックや傷の発生防止、および静電的特性の安定化を図ることができる。
【0039】
電荷輸送性構造としては、トリアリールアミン構造のものを用いたときの効果が高い。
また、官能基数が1つであるものが好ましく、さらには下記一般式(3)または下記一般式(4)の構造で示される化合物を用いた場合、感度、残留電位等の電気的特性が良好に持続される。
【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
[式(3)、(4)中、R1は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、−COOR7〔R7は水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよいアリール基よりなる群から選ばれた基を表す。〕、ハロゲン化カルボニル基若しくはCONR8R9〔R8およびR9は水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基または置換基を有してもよいアリール基よりなる群から選ばれた基を表し、両者は互いに同一であっても異なっていてもよい。〕よりなる群から選ばれた基を表し、Ar1、Ar2は置換基を有してもよいアリーレン基を表し、同一であっても異なってもよい。Ar3、Ar4は置換基を有してもよいアリール基を表し、両者は同一であっても異なってもよい。Xは単結合、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいシクロアルキレン基、置換基を有してもよいアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基よりなる群から選ばれた基であり、Zは置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基よりなる群から選ばれた基であり、m、nは0〜3の整数を表す。]
【0043】
以下に、一般式(3)、および一般式(4)の構造で示される化合物の具体例を示す。
前記一般式(3)、(4)において、R1の置換基中、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が、アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基等が、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等がそれぞれ挙げられ、これらは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基(メチル基、エチル基等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等)、アリール基(フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基等)等により置換されていてもよい。R1の置換基のうち、特に好ましいものは水素原子またはメチル基である。
【0044】
Ar3、Ar4は置換基を有してもよいアリール基を表す。本発明においては該アリール基として、縮合多環式炭化水素基、非縮合環式炭化水素基および複素環基が挙げられる。
前記縮合多環式炭化水素基としては、好ましくは環を形成する炭素数が18個以下のもの、例えば、ペンタニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、フルオレニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレル基、ピレニル基、クリセニル基、およびナフタセニル基等が挙げられる。
【0045】
前記非縮合環式炭化水素基としては、ベンゼン、ジフェニルエーテル、ポリエチレンジフェニルエーテル、ジフェニルチオエーテルおよびジフェニルスルホン等の単環式炭化水素化合物の1価基、あるいはビフェニル、ポリフェニル、ジフェニルアルカン、ジフェニルアルケン、ジフェニルアルキン、トリフェニルメタン、ジスチリルベンゼン、1,1−ジフェニルシクロアルカン、ポリフェニルアルカン、およびポリフェニルアルケン等の非縮合多環式炭化水素化合物の1価基、あるいは9,9−ジフェニルフルオレン等の環集合炭化水素化合物の1価基が挙げられる。
【0046】
前記複素環基としては、カルバゾール、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、オキサジアゾール、およびチアジアゾール等の1価基が挙げられる。
また、前記Ar3、Ar4で表されるアリール基は、例えば、以下に示すような置換基を有してもよい。
〔1〕ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等。
【0047】
〔2〕アルキル基。好ましくは、C1〜C12とりわけC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、これらのアルキル基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基またはハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。具体例を示すとメチル基、エチル基、n−ブチル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−プロピル基、トリフルオロメチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−シアノエチル基、2−メトキシエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、4−フェニルベンジル基等が挙げられる。
【0048】
〔3〕アルコキシ基(−OR2)[R2は前記〔2〕で定義したアルキル基を表す]。
その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、t−ブトキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、i−ブトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、ベンジルオキシ基、トリフルオロメトキシ基等が挙げられる。
【0049】
〔4〕アリールオキシ基。アリール基としてはフェニル基、ナフチル基が挙げられる。
これは、C1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。具体的には、フェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基等が挙げられる。
【0050】
〔5〕アルキルメルカプト基またはアリールメルカプト基。具体例としてはメチルチオ基、エチルチオ基、フェニルチオ基、p−メチルフェニルチオ基等が挙げられる。
〔6〕下記一般式(a)で表される基が挙げられる。
【0051】
【化5】

[式(a)中、R3およびR4は各々独立に水素原子、前記〔2〕で定義したアルキル基、またはアリール基を表す。アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基またはナフチル基が挙げられ、これらはC1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有してもよい。R3およびR4は共同で環を形成してもよい。]
【0052】
具体例としては、アミノ基、ジエチルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N,N−ジ(トリール)アミノ基、ジベンジルアミノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基、ピロリジノ基等が挙げられる。
〔7〕メチレンジオキシ基、またはメチレンジチオ基等のアルキレンジオキシ基またはアルキレンジチオ基等。
【0053】
〔8〕置換基を有してもよいスチリル基、置換基を有してもよいβ−フェニルスチリル基、ジフェニルアミノフェニル基、ジトリルアミノフェニル基等。
前記Ar1、Ar2で表わされるアリーレン基としては、前記Ar3、Ar4で表されるアリール基から誘導される2価基が挙げられる。
前記Xは単結合、置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいシクロアルキレン基、置換基を有してもよいアルキレンエーテル基、酸素原子、硫黄原子、ビニレン基を表す。
置換基を有してもよいアルキレン基としては、C1〜C12、好ましくはC1〜C8、さらに好ましくはC1〜C4の直鎖または分岐鎖のアルキレン基であり、これらのアルキレン基にはさらにフッ素原子、水酸基、シアノ基、C1〜C4のアルコキシ基、フェニル基またはハロゲン原子、C1〜C4のアルキル基もしくはC1〜C4のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有していてもよい。
具体的には、メチレン基、エチレン基、n−ブチレン基、i−プロピレン基、t−ブチレン基、s−ブチレン基、n−プロピレン基、トリフルオロメチレン基、2−ヒドロキシエチレン基、2−エトキシエチレン基、2−シアノエチレン基、2−メトキシエチレン基、ベンジリデン基、フェニルエチレン基、4−クロロフェニルエチレン基、4−メチルフェニルエチレン基、4−ビフェニルエチレン基等が挙げられる。
置換もしくは無置換のシクロアルキレン基としては、C5〜C7の環状アルキレン基であり、これらの環状アルキレン基にはフッ素原子、水酸基、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルコキシ基を有していてもよい。具体的にはシクロヘキシリデン基、シクロへキシレン基、3,3−ジメチルシクロヘキシリデン基等が挙げられる。
前記置換基を有してもよいアルキレンエーテル基としては、エチレンオキシ、プロピレンオキシ、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリプロピレングリコールを表し、アルキレンエーテル基、アルキレン基はヒドロキシル基、メチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。
前記ビニレン基は、下記一般式(b)、(c)で示される基等が挙げられる。
【0054】
【化6】

[式(b)、(c)中、R5は水素、アルキル基(前記〔2〕で定義されるアルキル基と同じ〕、アリール基(前記Ar3、Ar4で表わされるアリール基と同じ)、aは1または2、bは1〜3の整数を表す。)
【0055】
前記一般式(3)、(4)において、Zは置換基を有してもよいアルキレン基、置換基を有してもよいアルキレンエーテル基、アルキレンオキシカルボニル基を表すものであるが、ここにおける置換基を有してもよいアルキレン基としては、前記Xのアルキレン基と同様なものが挙げられ、置換基を有してもよいアルキレンエーテル基としては、前記Xのアルキレンエーテル基が挙げられ、またアルキレンオキシカルボニル基としては、カプロラクトン変性基が挙げられる。
【0056】
また、本発明の1官能の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)として更に好ましい化合物としては、下記一般式(5)で示される構造の化合物が挙げられる。
【0057】
【化7】

[式(5)中、o、p、qはそれぞれ0または1の整数、Raは水素原子、メチル基を表し、Rb、Rcは水素原子以外の置換基で炭素数1〜6のアルキル基を表し、RbとRcは同一であっても異なっていてもよく、s、tは0〜3の整数を表し、Zaは単結合、メチレン基、エチレン基、あるいは下記式(d)、(e)、(f)で表される二価基よりなる群から選ばれた基を表す。]
【0058】
【化8】

【0059】
上記一般式で表わされる化合物としては、Rb、Rcの置換基として、特にメチル基、エチル基である化合物が好ましい。
【0060】
本発明で用いる上記一般式(3)および(4)特に(5)記載の1官能性の電荷輸送構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、炭素−炭素間の二重結合が両側に開放されて重合するため、末端構造とはならず、連鎖重合体中に組み込まれ、ラジカル重合性モノマー(イ)との重合で架橋形成された重合体中では、高分子の主鎖中に存在し、かつ主鎖−主鎖間の架橋鎖中に存在(この架橋鎖には1つの高分子と他の高分子間の分子間架橋鎖と、1つの高分子内で折り畳まれた状態の主鎖のある部位と主鎖中でこれから離れた位置に重合したモノマー由来の他の部位とが架橋される分子内架橋鎖とがある)するが、主鎖中に存在する場合であっても、また架橋鎖中に存在する場合であっても、鎖部分から懸下するトリアリールアミン構造は、窒素原子から放射状方向に配置する少なくとも3つのアリール基を有し、バルキーであるが、鎖部分に直接結合しておらず鎖部分からカルボニル基等を介して懸下しているため立体的位置取りに融通性ある状態で固定されている。これにより、これらトリアリールアミン構造は、重合体中で相互に程よく隣接する空間配置が可能であるため、分子内の構造的歪みが少なく、また、電子写真感光体の表面層とされた場合に、電荷輸送経路の断絶を比較的免れた分子内構造を採りうるものと推測される。
【0061】
また、本発明に用いられる電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)は、表面層の膜厚調製(極く薄い膜とする)などにより、下層の電荷輸送性能が利用できる場合には必須成分として用いない構成とすることも可能であるが、通常は、表面層の電荷輸送性能を付与するために重要で、この成分は表面層全量に対し20〜80重量%、好ましくは30〜70重量%である。この成分が20重量%未満では表面層の電荷輸送性能が充分に保てず、繰り返しの使用で感度低下、残留電位上昇などの電気特性の劣化が現れる。また、80重量%を超えると電荷輸送構造を有しないラジカル重合性モノマーの含有量が低下し、架橋結合密度の低下を招き、高い耐摩耗性が発揮されない。使用されるプロセスによって要求される電気特性や耐摩耗性が異なるため一概には言えないが、両特性のバランスを考慮すると30〜70重量%の範囲が最も好ましい。
【0062】
また、本発明の表面層は少なくともラジカル重合性化合物を、導電性支持体の温度を制御しつつ、LEDを光源とする光エネルギー照射により硬化してなるものであるが、必要に応じてこの架橋反応を効率よく進行させるために、重合開始剤を使用してもよい。すなわち、表面層用塗工液中に重合開始剤を含有させて、塗膜を形成した後に、導電性支持体の温度を制御しつつ、LED光を照射して硬化させてもよい。
【0063】
重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−2−モルフォリノ(4−メチルチオフェニル)プロパン−1−オン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、などのアセトフェノン系またはケタール系光重合開始剤、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、などのベンゾインエーテル系光重合開始剤、ベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルフェニールエーテル、アクリル化ベンゾフェノン、1,4−ベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系光重合開始剤、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、などのチオキサントン系光重合開始剤が挙げられる。
また、その他の光重合開始剤としては、エチルアントラキノン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルエトキシホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、メチルフェニルグリオキシエステル、9,10−フェナントレン、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物、が挙げられる。
【0064】
また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4,4’−ジメチルアミノベンゾフェノン、などが挙げられる。
これら重合開始剤は、LED光源の波長光でラジカルを発生するものを使用することが重要である。
これら重合開始剤の添加量は、ラジカル重合性化合物100重量部に対し、0.5〜40重量部、好ましくは1〜20重量部である。
【0065】
さらに、本発明において用いる表面層用塗工液(略、「塗工液」)は、必要に応じて各種可塑剤(応力緩和や接着性向上の目的)、レベリング剤、ラジカル反応性を有しない低分子電荷輸送物質などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤は公知のものが使用可能である。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の一般の樹脂に使用されているものが利用可能で、その使用量は塗工液の総固形分に対して20重量%以下、好ましくは10重量%以下に抑えられる。また、レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマー、あるいはオリゴマーが利用でき、その使用量は塗工液の総固形分に対し3重量%以下が適当である。
【0066】
本発明の電子写真感光体における表面層は、少なくともラジカル重合性化合物を含有する塗工液を塗布し、形成された塗膜を硬化することにより形成される。かかる塗工液はラジカル重合性化合物が液体である場合、これに他の成分を溶解して塗布することも可能であるが、必要に応じて溶媒により希釈して塗布される。
【0067】
このとき用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、テトラヒドロフラン、ジオキサン、プロピルエーテルなどのエーテル系、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、セロソルブアセテートなどのセロソルブ系などが挙げられる。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して用いてもよい。溶媒による希釈率は組成物の溶解性、塗工法、目的とする膜厚により変わり、任意である。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
【0068】
本発明の表面層を形成する表面層用塗工液(塗工液)に用いられる材料例を挙げて、塗工方法について例示する。例えば、塗工液として、3つのアクリロイルオキシ基を有するアクリレートモノマーと、1つのアクリロイルオキシ基を有するトリアリールアミン化合物を使用する場合、これらの使用割合は7:3〜3:7であり、また、重合開始剤をこれらアクリレート化合物全量に対し3〜20重量%添加し、さらに溶媒を加えて塗工液を調製する。例えば、表面層の下層となる電荷輸送層において、電荷輸送物質としてトリアリールアミン系ドナー、およびバインダー樹脂として、ポリカーボネートを使用し、表面層をスプレー塗工により形成する場合、上記塗工液の溶媒としては、テトラヒドロフラン、2−ブタノン、酢酸エチル等が好ましく、その使用割合は、アクリレート化合物全量に対し3倍量〜10倍量である。
【0069】
次いで、例えば、アルミシリンダー等の支持体上に、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を順次積層した電子写真感光体上に、上記調製した塗工液をスプレー等により塗布する。
その後、比較的低温で短時間乾燥し(20〜80℃、1〜10分間)、光エネルギー照射して硬化させる。硬化終了後は、残留溶媒、残留開始剤の除去、および表面膜の安定化のため、100〜150℃で10分〜30分加熱して、電子写真感光体を得る。
以下、本発明における電子写真感光体について、その層構造に従い説明する。
【0070】
[電子写真感光体の層構造]
本発明の電子写真感光体を図面に基づいて説明する。
図3は、本発明における電子写真感光体の層構成の一例を示す概略断面図である。図3の電子写真感光体では、導電性支持体(31)上に、電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する単層構造の感光層(33)が設けられ、さらに感光層(33)上に架橋表面層(表面層)(39)が形成された構成からなる。
図4は、本発明における電子写真感光体の層構成の別例を示す概略断面図である。図4の電子写真感光体では、導電性支持体(31)上に、電荷発生機能を有する電荷発生層(35)と、電荷輸送物機能を有する電荷輸送層(37)とが積層された積層構造の感光層上に架橋表面層(表面層)(39)が形成された構成からなる。
【0071】
[導電性支持体]
導電性支持体(31)としては、体積抵抗1010Ω・cm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を蒸着またはスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいはアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレスなどの板およびそれらを押し出し、引き抜きなどの工法で素管化後、切削、超仕上げ、研摩などの表面処理を施した管などを使用することができる。また、特開昭52−36016号公報に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性支持体として用いることができる。
【0072】
この他、上記支持体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものについても、本発明の導電性支持体として用いることができる。
この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などの金属粉、あるいは導電性酸化スズ、ITOなどの金属酸化物粉体などが挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などの熱可塑性、熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂が挙げられる。
このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエンなどに分散して塗布することにより設けることができる。
【0073】
さらに、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性支持体として良好に用いることができる。
【0074】
[感光層]
次に感光層について説明する。感光層は積層構造でも単層構造でもよい。
積層構造の場合には、感光層は電荷発生機能を有する電荷発生層と電荷輸送機能を有する電荷輸送層とから構成される。また、単層構造の場合には、感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層である。
以下、積層構造の感光層、および単層構造の感光層のそれぞれについて述べる。
【0075】
[感光層が積層構成のもの]
(電荷発生層)
電荷発生層[例えば、図4に示す電荷発生層(35)]は、電荷発生機能を有する電荷発生化合物を主成分とする層で、必要に応じてバインダー樹脂を併用することもできる。電荷発生化合物としては、無機系材料と有機系材料を用いることができる。
無機系材料には、結晶セレン、アモルファス・セレン、セレン−テルル、セレン−テルル−ハロゲン、セレン−ヒ素化合物や、アモルファス・シリコン等が挙げられる。アモルファス・シリコンにおいては、ダングリングボンドを水素原子、ハロゲン原子でターミネートしたものや、ホウ素原子、リン原子等をドープしたものが良好に用いられる。
【0076】
一方、有機系材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩顔料、スクエアリック酸メチン顔料、カルバゾール骨格を有するアゾ顔料、トリフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジフェニルアミン骨格を有するアゾ顔料、ジベンゾチオフェン骨格を有するアゾ顔料、フルオレノン骨格を有するアゾ顔料、オキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ビススチルベン骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルオキサジアゾール骨格を有するアゾ顔料、ジスチリルカルバゾール骨格を有するアゾ顔料、ペリレン系顔料、アントラキノン系または多環キノン系顔料、キノンイミン系顔料、ジフェニルメタンおよびトリフェニルメタン系顔料、ベンゾキノンおよびナフトキノン系顔料、シアニンおよびアゾメチン系顔料、インジゴイド系顔料、ビスベンズイミダゾール系顔料などが挙げられる。そのなかで特にフタロシアニン類が有用に用いられ、中でもチタニルフタロシアニン、その中でも、少なくともCu−Kα線に対するX線回折スペクトルにおいてブラッグ角2θの主要ピークが、少なくとも9.6°±0.2°、24.0°±0.2°および27.2°±0.2°にある結晶型を有するY型チタニルフタロシアニンは高感度材料として特に有効である。これらの電荷発生化合物は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
電荷発生層に必要に応じて用いられるバインダー樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。また、電荷発生層のバインダー樹脂として上述のバインダー樹脂の他に、電荷輸送機能を有する高分子電荷輸送物質、例えば、アリールアミン骨格やベンジジン骨格やヒドラゾン骨格やカルバゾール骨格やスチルベン骨格やピラゾリン骨格等を有するポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリシロキサン、アクリル樹脂等の高分子材料やポリシラン骨格を有する高分子材料等を用いることができる。
【0077】
また、電荷発生層には低分子電荷輸送物質を含有させることができる。
電荷発生層に併用できる低分子電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。
電子輸送物質としては、例えば、クロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ〔1,2−b〕チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ジフェノキノン誘導体などの電子受容性物質が挙げられる。これらの電子輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0078】
正孔輸送物質としては、以下の電子供与性物質が挙げられ、良好に用いられる。
正孔輸送物質としては、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジェン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等、その他公知の材料が挙げられる。これらの正孔輸送物質は、単独または2種以上の混合物として用いることができる。
【0079】
電荷発生層を形成する方法としては、真空薄膜作製法と、溶液分散系からのキャスティング法とが大きく挙げられる。
前者の方法には、真空蒸着法、グロー放電分解法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、CVD法等が用いられ、上述した無機系材料、有機系材料が用いられ、電荷発生層を良好に形成できる。
また、後述のキャスティング法によって電荷発生層を設けるには、上述した無機系もしくは有機系電荷発生化合物を必要ならばバインダー樹脂と共にテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、アニソール、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の溶媒を用いてボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル等により分散し、分散液を適度に希釈して塗布することにより、電荷発生層を形成することができる。また、必要に応じて、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のレベリング剤を添加することができる。塗布は、浸漬塗工法やスプレーコート、ビードコート、リングコート法などを用いて行なうことができる。
以上のようにして設けられる電荷発生層の膜厚は、0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.05〜2μmである。
【0080】
[電荷輸送層]
電荷輸送層[例えば、図4に示す電荷輸送層(37)]は電荷輸送機能を有する層で、本発明では電荷輸送層の上に表面層[例えば、図4に示す架橋表面層(39)]が形成される。
電荷輸送層は、少なくとも電荷輸送機能を有する電荷輸送物質およびバインダー樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層上に塗布、乾燥することにより形成し、この上に前記本発明のラジカル重合性組成物と、必要に応じてフィラーを含有する塗工液を塗布し、形成された塗膜を導電性支持体の温度を制御しつつ、LEDを光源とする光エネルギーにより架橋、硬化させる。電荷輸送層の膜厚は、5〜40μm程度が適当であり、好ましくは10〜30μm程度が適当である。
【0081】
電荷輸送物質としては、前記電荷発生層で記載した電子輸送物質、正孔輸送物質および高分子電荷輸送物質を用いることができる。
【0082】
バインダー樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性または熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0083】
電荷輸送層の塗工に用いられる溶媒としては前記電荷発生層と同様なものが使用できるが、電荷輸送物質およびバインダー樹脂を良好に溶解するものが適している。これらの溶剤は単独で使用しても2種以上混合して使用してもよい。また、電荷輸送層の形成には電荷発生層と同様な塗工法が可能である。また、必要により可塑剤、レベリング剤を添加することもできる。
【0084】
電荷輸送層に併用できる可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等、一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して0〜30重量部程度が適当である。
【0085】
電荷輸送層に併用できるレベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は、バインダー樹脂100重量部に対して0〜1重量部程度が適当である。
【0086】
前述の表面層作製方法に記載したように、かかる電荷輸送層上に本発明のラジカル重合性組成物を含有する塗工液を塗布し、形成された塗膜を必要に応じて乾燥後、導電性支持体の温度を制御しつつ、LED光源による光エネルギーの照射で硬化反応を開始させ、表面層が形成される。このとき、表面層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μmより薄いと膜厚ムラによって耐久性がバラツキ、20μmより厚いと電荷輸送層全体の膜厚が厚くなり電荷の拡散から画像の再現性が低下する。
【0087】
[感光層が単層のもの]
単層構造の感光層は電荷発生機能と電荷輸送機能を同時に有する層で、本発明では感光層の上に表面層が形成される。
感光層[例えば、図3に示す感光層(33)]は電荷発生機能を有する電荷発生化合物と電荷輸送機能を有する電荷輸送物質とバインダー樹脂を適当な溶媒に溶解ないし分散し、この溶液を塗布、乾燥することによって形成できる。また、必要により可塑剤やレベリング剤等を添加することもできる。電荷発生化合物の分散方法および電荷発生化合物、電荷輸送物質、可塑剤、レベリング剤のそれぞれの説明は前記電荷発生層、電荷輸送層において既に述べたことが、そのまま適用できる。バインダー樹脂としては、先に電荷輸送層の項で挙げたバインダー樹脂のほかに、電荷発生層で挙げたバインダー樹脂を混合して用いてもよい。かかる感光層の膜厚は、5〜30μm程度が適当であり、好ましくは10〜25μm程度が適当である。
前述のようにかかる感光層上に本発明のラジカル重合性化合物と電荷発生化合物を含有する塗工液を塗布し、形成された塗膜を必要に応じて乾燥後、導電性支持体の温度を制御しつつ、LED光源による光エネルギーの照射で硬化反応を開始させ、表面層が形成される。このとき、表面層の膜厚は、1〜20μm、好ましくは2〜10μmである。1μmより薄いと膜厚ムラによって耐久性のバラツキが生じる。
【0088】
単層構造の感光層中に含有される電荷発生化合物は感光層全量に対し1〜30重量%が好ましく、感光層に含有されるバインダー樹脂は全量の20〜80重量%、電荷輸送物質は10〜70重量部が良好に用いられる。
【0089】
[下引き層]
本発明の電子写真感光体においては、導電性支持体と感光層との間に下引き層を設けることができる。下引き層は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂等が挙げられる。また、下引き層にはモアレ防止、残留電位の低減等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末顔料を加えてもよい。
【0090】
これらの下引き層は、前述の感光層の如く適当な溶媒および塗工法を用いて形成することができる。更に本発明の下引き層として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、本発明の下引き層には、Al2O3を陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物やSiO2、SnO2、TiO2、ITO、CeO2等の無機物を真空薄膜作成法にて設けたものも良好に使用できる。このほかにも公知のものを用いることができる。下引き層の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0091】
[各層への酸化防止剤の添加について]
また、本発明においては、耐環境性の改善のため、とりわけ、感度低下、残留電位の上昇を防止する目的で、表面層、電荷発生層、電荷輸送層、下引き層等の各層に酸化防止剤を添加することができる。
本発明に用いることができる酸化防止剤として、下記のものが挙げられる。
【0092】
(フェノール系化合物)
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアッシド]グリコ−ルエステル、トコフェロール類など。
【0093】
(パラフェニレンジアミン類)
N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジ−t−ブチル−p−フェニレンジアミンなど。
【0094】
(ハイドロキノン類)
2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなど。
【0095】
(有機燐化合物類)
トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィンなど。
これら化合物は、ゴム、プラスチック、油脂類などの酸化防止剤として知られており、市販品を容易に入手できる。
本発明における酸化防止剤の添加量は、添加する層の総重量に対して0.01〜10重量%である。
【0096】
<画像形成方法及び装置について>
次に図面に基づいて本発明の画像形成方法ならびに画像形成装置を詳しく説明する。
本発明の画像形成方法ならびに画像形成装置とは、本発明は平滑な電荷輸送性表面層を有する感光体を用い、例えば少なくとも感光体に帯電、画像露光、現像の過程を経た後、画像保持体(転写紙)へのトナー画像の転写、定着及び感光体表面のクリーニングというプロセスよりなる画像形成方法ならびに画像形成装置である。
場合により、静電潜像を直接転写体に転写し現像する画像形成方法等では、感光体に配した上記プロセスを必ずしも有するものではない。
【0097】
図5は、画像形成装置の一例を示す概略図である。感光体を平均的に帯電させる手段として、帯電チャージャ(3)が用いられる。この帯電手段としては、コロトロンデバイス、スコロトロンデバイス、固体放電素子、針電極デバイス、ローラー帯電デバイス、導電性ブラシデバイス等が用いられ、公知の方式が使用可能である。
次に、均一に帯電された感光体(1)上に静電潜像を形成するために画像露光部(5)が用いられる。この光源には、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)などの発光物全般を用いることができる。そして、所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロイックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルターなどの各種フィルターを用いることもできる。
【0098】
次に、感光体(1)上に形成された静電潜像を可視化するために現像ユニット(6)が用いられる。現像方式としては、乾式トナーを用いた一成分現像法、二成分現像法、湿式トナーを用いた湿式現像法がある。感光体に正(負)帯電を施し、画像露光を行なうと、感光体表面上には正(負)の静電潜像が形成される。これを負(正)極性のトナー(検電微粒子)で現像すれば、ポジ画像が得られるし、また正(負)極性のトナーで現像すれば、ネガ画像が得られる。
【0099】
次に、感光体上で可視化されたトナー像を転写体(9)上に転写するために転写チャージャ(10)が用いられる。また、転写をより良好に行なうために転写前チャージャ(7)を用いてもよい。これらの転写手段としては、転写チャージャ、バイアスローラーを用いる静電転写方式、粘着転写法、圧力転写法等の機械転写方式、磁気転写方式が利用可能である。静電転写方式としては、前記帯電手段が利用可能である。
【0100】
次に、転写体(9)を感光体(1)より分離する手段として分離チャージャ(11)、分離爪(12)が用いられる。その他分離手段としては、静電吸着誘導分離、側端ベルト分離、先端グリップ搬送、曲率分離等が用いられる。分離チャージャ(11)としては、前記帯電手段が利用可能である。
【0101】
次に、転写後感光体上に残されたトナーをクリーニングするためにファーブラシ(14)、クリーニングブレード(15)が用いられる。また、クリーニングをより効率的に行なうためにクリーニング前チャージャ(13)を用いてもよい。その他クリーニング手段としては、ウェブ方式、マグネットブラシ方式等があるが、それぞれ単独又は複数の方式を一緒に用いてもよい。
【0102】
次に、感光体表面のトナー離型性を向上させるために滑剤の感光体への塗布手段として、滑剤塗布ローラー(16)、滑剤(17)、滑剤塗布ブレード(18)がある。滑剤としては脂肪酸金属塩等が使用される。
【0103】
次に、必要に応じて感光体上の潜像を取り除く目的で除電手段が用いられる。除電手段としては除電ランプ(2)、除電チャージャが用いられ、それぞれ前記露光光源、帯電手段が利用できる。
その他、感光体に近接していない原稿読み取り、給紙、定着、排紙等のプロセスは公知のものが使用できる。
【実施例】
【0104】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
(発光波長測定)
LED光源の波長スペクトルは光スペクトラム・アナライザQ8381A(アドバンテスト社製)を用いて350nm〜400nmの範囲で測定した。
(電荷輸送性構造を有する化合物の合成)
本発明における電荷輸送性構造を有する化合物は、例えば特許第3164426号公報記載の公知方法にて合成される。
【実施例1】
【0105】
Al製支持体(外径100mmφ)に、乾燥後の膜厚が4.5μmになるように浸漬法で塗工し、下引き層を形成した。
<下引き層用塗工液>
アルキッド樹脂 6.5部
(ベッコゾール 1307−60−EL、大日本インキ化学工業製)
メラミン樹脂 3.5部
(スーパーベッカミン G−821−60、大日本インキ化学工業製)
酸化チタン 60部
(CR−EL:石原産業)
メチルエチルケトン 90部
この下引き層上にチタニルフタロシアニン顔料を含む電荷発生層塗工液を、浸漬塗工し、加熱乾燥させ、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0106】
<電荷発生層用塗工液>
Y型チタニルフタロシアニン顔料 2.5部
ポリビニルブチラール(BX−1、積水化学社製) 0.5部
メチルエチルケトン 100部
この電荷発生層上に下記構造の電荷輸送層用塗工液を用いて浸積塗工し、加熱乾燥させ、膜厚15μmの電荷輸送層とした。
【0107】
<電荷輸送層用塗工液>
ビスフェーノルZ型ポリカーボネート 9部
下記電荷輸送化合物 9部
【0108】
【化9】

【0109】
電荷輸送層上に下記構成の表面層形成用塗工液を用いて、スプレー塗工した。図2に示すような装置に電子写真感光体ドラムを取り付け、回転ポンプにて減圧しながらNガス(密度1.2506kg/m(0℃、1気圧))を真空チャンバー内に注入し、LED光源(アイグラフィックス社製)により光照射を行った。波長365nmにのみ発光ピークを持つLED光源である(図6参照)。感光体ドラム面における光照度は300mW/cm、照射時間を5分の条件で感光体ドラムを50rpmで回転させながら光照射を行い、更に130℃で30分乾燥を加え5μmの表面層を設けて本発明の電子写真感光体を作製した。
【0110】
<表面層形成用塗工液>
トリメチロールプロパントリアクリレート(3官能アクリルモノマー) 5部
(商品名:SR351S、サートマー(株)社製)
下記、電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物 5部
下記光重合開始剤 0.3部
テトラヒドロフラン(沸点64〜65℃) 70部
【0111】
【化10】

【0112】
【化11】

【実施例2】
【0113】
図2に示すような装置に電子写真感光体ドラムを取り付け、回転ポンプにて減圧しながらHeガス(密度0.1786kg/m(0℃、1気圧))を真空チャンバー内に注入した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0114】
[比較例1]
真空チャンバー内を常圧(101×10Pa)、空気環境下においてLED光源(アイグラフィックス社製)により光照射を行った以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0115】
[比較例2]
不活性ガスの代わりに酸素ガス(密度1.429kg/m(0℃、1気圧))を真空チャンバー内に注入した以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0116】
[比較例3]
比較例1におけるLED光源に代えて、交流式Fusion製UV照射装置(F600V−20QPN)、Dバルブ、を用いて照射時間を3分に変更した以外は比較例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
【0117】
以下に本発明で行った試験方法について示す。
<表面状態の評価>
加速摩耗前の表面層を光学顕微鏡で拡大観察して表面性を評価した。
<画像評価>
感光体をRICOH Pro 900に搭載し、30℃90%環境下にてハーフトーン画像を1000枚通紙し、さらに24時間放置後にハーフトーン画像を1枚出力して、画像濃度低下を評価した。
<耐久性試験>
感光体をRICOH Pro 900に搭載にて暗部電位を−900Vに設定し、明部電位測定を行った。その後A4サイズ5万枚通紙、さらに5万枚の通紙を行い、各通紙後に明部電位測定を行った。また初期、5万枚及び10万枚通紙後に膜厚測定を行い、通紙による摩耗量を測定した。なお感光体の膜厚は渦電流式膜厚測定装置(フィッシャーインスツルメント製)を用いて測定した。
測定結果を表1に示す。
【0118】
【表1】

【符号の説明】
【0119】
(図1、図2について)
1 真空チャンバー
2 導電性支持体(感光体ドラム)
3 LED−UV照射部
4 減圧口
5 不活性ガス注入口
(図3、図4について)
31 導電性支持体
33 単層構造の感光層
35 電荷発生層
37 電荷輸送層
39 架橋表面層(表面層)
(図5について)
1 感光体
2 除電ランプ
3 帯電手段(チャージャ)
5 画像露光部
6 現像ユニット
7 転写前チャージャ
8 転写体搬送ローラ
9 転写体
10 転写チャージャ
11 分離チャージャ
12 分離爪
13 クリーニング前チャージャ
14 クリーニングファーブラシ
15 クリーニングブレード
16 滑剤塗布ローラー
17 滑剤
18 滑剤塗布ブレード
【先行技術文献】
【特許文献】
【0120】
【特許文献1】特開昭56−48637号公報
【特許文献2】特開昭64−1728号公報
【特許文献3】特開平4−281461号公報
【特許文献4】特開平8−262779号公報(特許第3262488号公報)
【特許文献5】特開平5−216249号公報(特許第3194392号公報)
【特許文献6】特開2000−66425号公報(特許第4011791号公報)
【特許文献7】特開2004−302450号公報(特許第4145820号公報)
【特許文献8】特開2004−302451号公報(特許第4266859号公報)
【特許文献9】特開2004−302452号公報
【特許文献10】特開2009−139609号公報
【特許文献11】特開2008−134505号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、少なくとも感光層と表面層とを有する電子写真感光体の製造方法において、ラジカル重合性化合物を含有する塗工液を用いて表面層としての塗膜を形成する工程の後に、LEDを光源とする光エネルギーの照射により該塗膜を硬化させる工程を含むことにより前記表面層を形成するものであり、前記塗膜の硬化工程は、前記表面層としての塗膜を形成工程後の電子写真感光体を、LED照射部を設置した密閉容器内へ移動させ、前記密閉容器を密閉後、前記光エネルギーの照射時には、前記密閉容器内のガスを排出しながら、一方で不活性ガスを注入することを含むものであることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスが窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、ラドンの単独もしくは混合であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスの比重が酸素より小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記ラジカル重合性化合物が、電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)および/または電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)が、3官能以上であることを特徴とする請求項4に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項6】
前記電荷輸送性構造を有しないラジカル重合性モノマー(イ)の官能基が、アクリロイルオキシ基および/またはメタクリロイルオキシ基であることを特徴とする請求項4または5に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)が、1官能であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記電荷輸送性構造を有するラジカル重合性化合物(ロ)の官能基が、アクリロイルオキシ基および/またはメタクリロイルオキシ基であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項10】
請求項9に記載の電子写真感光体を少なくとも備え、かつ該電子写真感光体の表面に滑剤を塗布する機構を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−2997(P2012−2997A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137227(P2010−137227)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】