説明

電子写真感光体の製造方法

【課題】堆積膜の均一性と特性の向上及び画像欠陥の抑制を同時に達成可能な電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】減圧可能な反応容器の内部への円筒状基体設置工程と、反応容器の内部への堆積膜形成用原料ガス導入工程と、反応容器の内部にあって円筒状基体とは離間して配置された電極、および円筒状基体の、一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、正弦波の交番電圧を電極と円筒状基体の間に印加して、原料ガスを分解し、円筒状基体の表面に堆積膜を形成する堆積膜形成工程と、を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、交番電圧の周波数が10kHz以上300kHz以下で、電極と円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が、正であるときの電位差の絶対値の最大値、および負であるときの電位差の絶対値の最大値は、一方が放電維持電圧未満の値であって、他方が放電開始電圧以上の値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD(plasma chemical vapor deposition)法によって電子写真感光体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アモルファスシリコン(以下「a−Si」とも表記する。)を用いた電子写真感光体は、円筒状基体の表面に光導電層などの堆積膜を形成することにより製造されている。堆積膜の形成方法としては、グロー放電により堆積膜形成用の原料ガスを分解し、その分解生成物を円筒状基体の表面に被着させる方法、いわゆるプラズマCVD法が広く採用されている。
【0003】
近年、電子写真装置の高画質化が強く要求されるようになってきており、これに対応して、電子写真感光体の堆積膜の均一性(堆積膜の膜厚および膜質の均一性)の改善や、堆積膜の特性の向上が強く要求されている。
プラズマCVD法で形成された膜特性について、従来、特許文献1のように、直流が重畳された5kHz〜30kHzによってプラズマを発生させることで処理表面の耐久性を向上させる技術が提案されている。
【0004】
このような交番電圧に直流バイアスを印加する技術により、膜特性の向上は達成されつつあるものの、上述の方法により作製された電子写真感光体には、膜特性のさらなる向上に課題があった。
すなわち特許文献1によって膜特性は向上されるが、正及び負となる電圧でプラズマが継続的に生成される両極放電のため、電圧の正負に応じてイオンが往復運動する。その往復運動の間に他の荷電粒子や中性活性種、原料ガスと二次反応を繰り返すことで生成される粉体状の化合物が堆積膜中に取り込まれる。そのため、膜特性をさらに向上していく上での課題となっていた。
【0005】
これに対して特許文献2では、プラズマ中での二次反応を抑制するために、全ての電圧が正、負いずれかの極性になるように調整する、すなわち一方の極性の電圧のみを印加して放電させること(以下、「片極放電」とも表記する。)が検討されている。
この技術では、イオンが片側への移動しかしないため二次反応が抑制され、堆積膜の特性の再現性向上が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−1551号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/134781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような正または負の極性のみの電圧を印加する技術により堆積膜の均一性の向上、特性の向上は達成されつつある。
しかしながら、このような方法で作製された電子写真感光体を電子写真装置に用いた場合、画像欠陥のレベルに改善の余地が残されていた。
すなわち特許文献2の技術における片極放電の場合、微小なスパークが発生することがある。
【0008】
そのスパークの際の電気的ダメージによって、堆積膜特性の局所的な低下や微小な膜剥れが起こり、電子写真装置に用いた際に画像欠陥となって現れる。
ここでいう画像欠陥とは、ベタ黒(黒色以外のトナーを用いた場合も、便宜上「ベタ黒」と表記する。)画像上に白い点となって現れるものや、ベタ白画像上に黒い点(黒色以外のトナーを用いた場合も、便宜上「黒い点」と表記する。)となって現れるものである。このような画像欠陥は、いわゆる「ポチ」と呼ばれるものである。
【0009】
また、微小な膜剥れが基体の近傍だったとしても、その膜片が基体上に付着し、それが起点となって基体上に膜欠陥を生じさせてしまい、やはり画像欠陥(ポチ)に繋がってしまう場合がある。
以上のように、プラズマCVD法を用いた電子写真感光体の製造方法において、堆積膜の均一性の向上、画像欠陥の抑制および堆積膜特性の向上という課題を同時に解決する方法は見出されていなかった。このため、プラズマCVD法を用いた電子写真感光体の製造方法において、堆積膜の均一性の向上と堆積膜特性の向上と画像欠陥の抑制を高いレベルで同時に達成することは困難であった。
本発明は、このような堆積膜の均一性の向上と堆積膜特性の向上と画像欠陥の抑制を高いレベルで同時に達成可能な電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、プラズマCVD法において、堆積膜の均一性の向上、堆積膜特性の向上、及び画像欠陥抑制を高次で達成可能な製造方法を実現する観点で鋭意検討を行った。
その結果、一方の電極の電位に対する他方の電極の電位が、交互に正と負になるように低周波数の正弦波電圧を印加し、正及び負の電位を各々特定の範囲とすることで堆積膜の均一性の向上、堆積膜特性の向上及び画像欠陥の抑制を同時に達成可能であることが解った。
【0011】
更に詳しく検討を行った結果、正または負のどちらか一方の電位差の絶対値(以下、「電位差絶対値」とも表記する。)の最大値を放電開始電圧以上の値として放電を生起させてプラズマを生成する。さらに他方の極性の電位差絶対値の最大値を放電維持電圧未満の値(0Vは含まない)とする。以上によって堆積膜の均一性の向上及び堆積膜特性の向上と画像欠陥の抑制を同時に達成可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
減圧可能な反応容器の内部に円筒状基体を設置する円筒状基体設置工程と、
前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する原料ガス導入工程と、
前記反応容器の内部にあって前記円筒状基体とは離間して配置された電極、および前記円筒状基体の、一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、正弦波の交番電圧を前記電極と前記円筒状基体の間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体の表面に堆積膜を形成する堆積膜形成工程と、を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記交番電圧の周波数が10kHz以上300kHz以下で、
前記電極と前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が、前記正であるときの電位差の絶対値の最大値、および前記負であるときの電位差の絶対値の最大値は
一方が放電維持電圧未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧以上の値(V2)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子写真感光体の製造方法を用いることで、堆積膜の均一性及び堆積膜特性が良好で、かつ、画像欠陥が抑制され、高画質な電子写真が出力可能な電子写真感光体が製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に用いることができる正弦波電圧を説明するための模式図である。
【図2】本発明の製造方法を実施するための装置例を説明するための模式的な説明図である。
【図3】放電開始電圧及び放電維持電圧の測定例を説明するための模式図である。
【図4】正弦波電圧の一例を説明するための模式図である。
【図5】本発明の製造方法を実施するための装置例を説明するための模式的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について図1及び図2を参照しつつ説明する。
図1では、電極は円筒状基体から離間して配置される。対向する電極に対して基体に、正極性側に電位差絶対値の最大値V1、逆極性側に電位差絶対値の最大値V2となるように正弦波電圧が、周期T(=1/f、fは周波数)で印加される。図1は正電位の電位差絶対値の最大値が放電維持電圧(V放電維持)未満の値(V1)、負電位の電位差絶対値の最大値が放電開始電圧(V放電開始)以上の値(V2)となるように対向する電極に対して基体に印加した正弦波を示す。正弦波は振幅(Va)と直流バイアス(Vo)が制御されて印加されている。
【0016】
上に述べたように、V1とV2は絶対値とした。
また、放電開始電圧(V放電開始)と放電維持電圧(V放電維持)も、絶対値とする。
たとえば対向する電極に対して基体が負電位である場合において放電が維持されるためには、対向する電極に対する基体の電位が、−V放電維持よりも小さい必要がある。これは対向する電極に対する基体の電位の絶対値が放電維持電圧(V放電維持)より大きい必要があることと同等である。
【0017】
また、正弦波の振幅(Va)は絶対値である。直流バイアス(Vo)の値は、直流バイアス(Vo)を印加した状態の電圧が正および負となる値とする。
たとえば、対向する電極に対して基体に印加される電位の時間波形が、負側にバイアスされた正弦波である場合、直流バイアス(Vo)は負の値となるが、正弦波の振幅(Va)は常に正の値をとる。
なお、放電開始電圧は放電が生じていない状態から放電を生起することが可能となる最低電圧の絶対値を意味し、放電維持電圧は放電が生じている状態から電圧を徐々に下げて行った際に放電を維持できる最低電圧の絶対値を意味する。
【0018】
図2は、電位が交互に正と負になるように、周波数10kHz以上300kHz以下の正弦波交番電位差を電極214と円筒状基体212の間に印加して、円筒状基体212の表面に堆積膜を形成する装置である。図2(a)は縦断面図、図2(b)は横断面図である。
電源230から出力され電極214に対して円筒状基体212に印加される正弦波交番電圧は制御部231によって周波数(f)、正弦波振幅(Va)および直流バイアス(Vo)が制御される。
【0019】
周波数はVLF帯からLF帯となる10kHz以上300kHz以下の範囲内にする。この範囲内であれば、画像欠陥および膜の均一性の良好な電子写真感光体が得られる。
周波数が低くなりすぎると、アークやスパークなどの異常放電が発生して放電が安定せず、堆積膜にも膜欠陥が多く発生しやすくなる。このような膜欠陥を有する電子写真感光体を電子写真装置に用いた場合、膜欠陥の大きさによっては画像欠陥として観測される。
また、周波数が高くなり過ぎると、定在波や装置のインピーダンスの影響で放電空間中の電界にムラが生じ、堆積膜の均一性を充分に確保することが難しくなる。
【0020】
本発明においては、10kHz〜300kHzの正弦波交番電圧の正または負のどちらか一方の電位を放電開始電圧以上の値(V2)として放電を生起させてプラズマを生成し、他方の電位を放電維持電圧未満の値(V1)とすることが重要である。
これについて電極214をアース電位とし、円筒状基体212の電位が図1となるように電圧を印加した場合を例として説明する。
【0021】
電極214に対して円筒状基体212の電位が負電位となる期間において、電位差絶対値が放電開始電圧(V放電開始)より大きい期間(t2の期間)は、電極214と円筒状基体212の間にプラズマが生成される。
このときプラズマ中の中性活性種及びプラスイオンが円筒状基体212に到達し堆積膜が形成される(プラズマCVD法)。
【0022】
一方、電極214に対する円筒状基体212の電位が正電位となる期間(t1の期間)では電位差絶対値は放電維持電圧(V放電維持)よりも小さいので放電は生成しない。
両極放電しないことで粉体状化合物の堆積膜中への取り込みが抑えられ、膜の特性が向上する。
さらに、この電位差が正電位となっている期間(t1の期間)を設けることによって、アークやスパークなどの異常放電が抑制される。
【0023】
本発明において、画像欠陥が抑制されるのは基体表面および基体近傍での微小なスパークなどの異常放電が抑制されるためと考えられる。
なお、「プラズマが生成される」とは、電極と円筒状基体との間に放電が生起し、原料ガスが電離して、荷電粒子(イオンや電子)が生成されることを意味している。
【0024】
次に、放電開始電圧および放電維持電圧について詳細に述べる。
電極と円筒状基体との間の放電は、電極と円筒状基体との間にわずかながら存在している電子が電界によって正電位側に運ばれ、その途中でガス分子に衝突してこれを電離させて、電子とイオンを生成するα作用が継続することによって始まる。この電離を生じさせるためには、衝突時の電子のエネルギーが、ガス分子の電離エネルギー以上であることが必要となる。電子がガス分子に衝突する際のエネルギーは、電界が大きくなるほど、すなわち、電極と円筒状基体との間に印加する電圧が大きくなるほど大きくなる。電極と円筒状基体との間に印加する電圧を徐々に上げていき、電子がガス分子に衝突する際のエネルギーがガス分子の電離エネルギーに達すると、ガス分子の電離によって電極と円筒状基体との間に存在する電子が増加する。この電子の増加によって、衝突によるガス分子の電離が継続して起こることで放電が始まる。この放電が始まる時点の電圧を放電開始電圧という。
【0025】
また、放電が開始した状態から、電極と円筒状基体との間に印加する電圧を下げていくと、ある電圧よりも小さくなった時点で放電が維持できなくなる。放電が維持できる最低電圧を放電維持電圧という。放電維持電圧は、通常、放電開始電圧よりも低い。放電が生起した状態では、放電が生起していない状態と比べて放電空間内の電子の数が多い。そのため電極と円筒状基体との間の印加電圧が放電開始電圧未満になっても、放電維持電圧以上であれば、ガス分子を電離可能なエネルギーを持った電子が放電維持に必要な数以上存在する。そのため上述のように放電維持電圧は、通常、放電開始電圧よりも低い。
【0026】
また、γ作用と呼ばれる現象も、放電維持電圧が放電開始電圧よりも低くなる理由の1つとなっている。γ作用とは、ガス分子が電離して生じたイオンが電極や円筒状基体に衝突する際、それらの表面から二次電子が放出される現象である。放電が生起した後は、このγ作用によって生じた電子もガス分子の電離に寄与するので、放電開始電圧よりも低い電圧で放電が維持可能となる。
【0027】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス分子の電離電圧および電子がガス分子に衝突するときのエネルギーが支配的な要素となる。ガス分子の電離電圧は、ガス種が決まれば決定される。また、ガス分子に衝突するときの電子のエネルギーは、電界強度および電子がガスに衝突するまでの移動距離の関数となる。言い換えれば、印加電圧、電極間距離および電子がガスに衝突するまでの移動距離の関数となる。また、電子がガスに衝突するまでの移動距離は、ガスの密度の関数、言い換えれば、圧力の関数となる。
【0028】
なお、複数のガス種からなる混合ガスを用いる場合、各々のガスの電離電圧とともに、ガスの混合比率も、放電開始電圧および放電維持電圧を決定付ける要素となる。
これら以外に放電開始電圧および放電維持電圧に影響を及ぼすものとしては、電極の表面材質、形状および温度などがあるが、これらは電離電圧、印加電圧、電極間距離および圧力に比べて影響度は小さい。
【0029】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス種、ガスの混合比率、電極間距離および圧力によって異なるため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって固有の値を持つこととなる。すなわち、使用するプラズマCVD装置と使用するガス条件が決まれば、放電開始電圧および放電維持電圧は一意に決まる。
【0030】
本発明においては、放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものよりも、正および負のいずれか一方の電界で放電を生起させ、続いて、それとは逆極性の電界で放電が維持しないレベルにすることが効果を得るために重要である。そのため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものは変わるものの、本発明の条件を満たせば、本発明の効果を得ることができる。例えば、シランガス(水素化ケイ素ガス)および水素ガスの混合ガスを用いた場合と、シランガスおよび水素ガスおよびメタンガスの混合ガスを用いた場合では、放電開始電圧および放電維持電圧は異なる。しかしながら、どちらの場合においても、本発明の条件を満たすことによって、本発明の効果を得ることができる。
【0031】
以上のように電極214に対する円筒状基体212の正電位または負電位のどちらか一方の電位差絶対値の最大値を放電開始電圧以上の値(V2)とする。
さらに他方の極性の電位差絶対値の最大値を放電維持電圧未満の値(V1)となる正弦波交番電位の印加によって本発明の効果を得る。
放電が開始したか否か、および、放電が維持されているか否かは、例えば、電圧−電流特性から判断する方法や、プラズマ発光を検知して判断する方法などがある。
【0032】
図3は、図2の装置を用いて、放電開始電圧、放電維持電圧を求めた時の電圧−電流特性である。この電圧―電流特性から放電が開始したか否か、放電が維持されているか否かを判断し、放電開始電圧、放電維持電圧を求めた。
負電位で放電を生起する場合には、負電位の放電開始電圧と正電位の放電維持電圧を求める。
【0033】
一例として、制御部231で、周波数25kHzの正弦波出力を制御し、バイアス電圧(Vo)を0Vに固定し、振幅(Va)を10V刻みで大きくした時の電流変化を測定した。
図3(a)に示すように振幅(Va)を0Vから徐々に大きくしていくと電流が急に増加する点が観測される。その時の振幅が放電開始電圧である。
【0034】
なお、放電開始電圧に至るまでも若干の電流が計測されているが、その電流は放電に伴うものではなく、電極間に存在した荷電粒子が動くことによる暗流と装置内での漏れ電流である。
なお図3(a)においてはVaが1000Vの際の電流を100%として示している。
次に、図3(b)に示すように、Vaを1000Vまで上げて放電が生起された状態からVaを0Vの方向に10V刻みで小さくしていくと電流が急に減少する点が観測される。電流が急に減少する直前のVaを放電維持電圧とした。図3(b)においてもVaが1000Vの際の電流を100%として示している。
【0035】
本発明において、対向する電極214に対して円筒状基体212に印加する負電位の電位差絶対値の最大値(V2)は、例えば上述のようにして求めた放電開始電圧(V放電開始)以上の値に設定する必要がある。
また、対向する電極214に対して円筒状基体212に印加する正電位の電位差絶対値の最大値(V1)は、例えば上述のようにして求めた放電維持電圧(V放電維持)未満の値にする必要がある。
【0036】
V1を放電維持電圧以上の値にすると両極放電となるため、気相中で二次反応が生じやすくなり生成された化合物が堆積膜特性に悪影響を与えることがある。
しかし、V1を0Vとしてしまうと、画像欠陥抑制効果が得られなくなってしまう。
以上のように、一方の極性の電位差を放電開始電圧以上の値(V2)とし、他方の極性の電位差を放電維持電圧未満の値(V1)とした正弦波を電極214と円筒状基体212の間に印加することが必要である。
【0037】
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態について、図2を参照して詳細に説明する。
本発明で作製する電子写真感光体は、例えば円筒状基体の外周面に、堆積膜を形成したものである。堆積膜は、例えば、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層および表面層を順次積層形成したものである。下部電荷注入阻止層は、円筒状基体からの電荷の注入を阻止するためのものであり、たとえばa−Si系材料により形成されている。
光導電層は、レーザ光などの光照射によって電荷を発生させるためのものであり、たとえばa−Si系材料により形成されている。また、光導電層の厚みは、使用する光導電性材料および所望の電子写真特性により適宜設定すればよく、a−Si系材料を用いて光導電層を形成する場合には、光導電層の厚みは、たとえば5μm以上100μm以下、好適には10μm以上60μm以下とされる。
【0038】
上部電荷注入阻止層は、電子写真プロセス中に帯電した際の表面電荷の注入を阻止するためのものであり、たとえばa−Si系材料により形成されている。この上部電荷注入阻止層は、たとえばa−Siに、硼素(B)、窒素(N)、あるいは酸素(O)を含有させたものとして形成される。さらに、照射されるレーザ光などの光が吸収されることのないように広い光学バンドギャップを有する必要があり、例えば炭素(C)を含有させて形成される。その厚みは0.01μm以上1μm以下とされている。
【0039】
表面層は、電子写真感光体の表面を保護するためのものであり、画像形成装置内での摺擦による摩耗に耐え得るように形成される。たとえば水素化アモルファス炭化ケイ素(以下、「a−SiC」とも表記する)や水素化アモルファス窒化ケイ素(以下、「a−SiN」とも表記する)などのa−Si系材料により形成されたアモルファスシリコン膜(a−Si膜)、あるいはアモルファスカーボン(以下、「a−C」とも表記する)により形成されたアモルファスカーボン膜(a−C膜)とされる。この表面層は、電子写真感光体に照射されるレーザ光などの光が吸収されることのないように、照射される光に対して充分広い光学バンドギャップを有している。また、画像形成における静電潜像を保持出来得る抵抗値(一般的には1011Ω・cm以上)を有している。
【0040】
電子写真感光体は、たとえば図2に示した真空処理装置を用いることにより形成される。図2の真空処理装置は、プラズマ処理によって円筒状基体212A、212Bに堆積膜を形成するための円筒状反応容器211と、円筒状基体212A、212Bを加熱するための加熱用ヒータ216を備えている。
また、円筒状基体212A、212Bを保持する基体ホルダ213A及び213B、円筒状反応容器211内に堆積膜形成用の原料ガスを導入するためのガスブロック235を備えている。
【0041】
ガスブロック235には、原料ガス混合装置225からガスを導入する導入孔、円筒状反応容器211の内部にガスを放出する複数の放出孔が設けられている。さらに導入孔から複数の放出孔へガスを分配する配管が内部に形成されている。
ガスブロック235は電極214から取り外しが可能(脱着可能)な構造となっている。電極214は、円筒状反応容器211の内壁の少なくとも一部を構成している。
【0042】
ガスブロック235とガス供給系との接続は不図示の継ぎ手部材を介して接続されている。このような構成とすることで、ガスブロックのみを入れ替えることで各品種の製造に対応した構成の反応容器に段取り換えができるため、品種毎に反応容器を入れ替える必要が無い。このため、段取り換えの作業時間が大幅に短縮できることとなる。また、反応容器自体を品種毎に製作する必要が無く、ガスブロックのみを品種に応じて製作すれば足りるため、装置の投資コストが大幅に削減できるメリットを生み出すこととなる。
【0043】
ガスブロック235の形状に関しては特に制限はないが、電極214の内面との段差は極力小さい方が好ましい。また、電極214の内面と同じ面をなすガスブロックの面(ガス放出孔側の面)は平面でも良いが、電極214の内面と同じ曲率をもつ曲面とすることが好ましい。
ガスブロックのガス放出孔の直径は0.5mm〜2.0mmの範囲であることが好ましい。更に、各放出孔の精度は直径の±20%以内の精度であることが好ましい。ガス放出孔の精度によっては、電子写真感光体の長手方向(軸方向)の特性ムラのみならず、円筒状基体を回転させながら堆積膜を形成する場合においても周方向ムラに影響を及ぼす場合もある。
【0044】
ガスブロックにおいては、ガス放出孔の近傍の材質に絶縁性セラミックからなる材料を用いることも有効である。成膜条件によってはガス放出孔の近傍がガスの流れ(突出圧力)の影響でプラズマが集中しやすい状態に成る場合があるため、これを抑制する上で効果的である。ガスブロック235を電極214から取り外しが可能(脱着可能)な構造としているので、ブロック単体で加工が行なえるので、管状のセラミック部品をガス放出孔の近傍に埋め込む加工も容易に行なえる。セラミックス材料として具体的には、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コージェライト、炭化珪素、チッ化ホウ素、チッ化アルミ等が挙げられる。これらの中でも、アルミナ、チッ化ホウ素、チッ化アルミは絶縁抵抗にすぐれるため好ましく、コスト、加工性等を鑑みるとアルミナを母体とする材料がより好ましい。
【0045】
円筒状反応容器211は電極214、ベースプレート219、上蓋220により減圧可能な空間を形成している。電極214は一定の所定電位にすることが好ましく、接地することがより好ましい。電極214を一定の所定電位とすることで電極214と円筒状反応容器211中の他の部分との電位差を一定に保つことができるため、作製する電子写真感光体の特性の再現性が向上する。更に、電極214を接地することで装置の取り扱いが容易になる。なお、ベースプレート219、上蓋220を接地し、電極214を接地しない場合には電極214とベースプレート219の間、電極214と上蓋220の間にそれぞれ絶縁性の部材を設ける。図2に示す装置においては電極214、ベースプレート219、上蓋220のいずれも接地した。
【0046】
また、図2の真空処理装置は、原料ガスの流量を調整するためのマスフローコントローラ(不図示)を内包する原料ガス混合装置225と原料ガス流入バルブ224を備えている。
円筒状基体212A、212Bを保持する基体ホルダ213A及び213Bは回転可能に支持されている。この回転支持機構は、支軸222と、支軸222と歯車で接続されたモータ221とを有している。
【0047】
基体ホルダ213A及び213Bの内側には接合電極217A及び217Bが接合している。接合電極217A及び217Bは、支軸222を介して電源230に接続される。電極214と円筒状基体212A、212B、基体ホルダ213A、213Bは中心軸が一致するように配置されている。
加熱用ヒータ216の外面は接地されていて、加熱用ヒータ216と円筒状基体212A、212Bの間に絶縁部材215Aを設けることで、加熱用ヒータ216と円筒状基体212A、212Bとは絶縁される。加熱用ヒータ216の内側には、支軸222との間に絶縁部材215Bが設置され、加熱用ヒータ216と支軸222が絶縁されている。
【0048】
図2の真空処理装置が備える排気系は、円筒状反応容器211の排気口に連通された排気配管226と、排気メインバルブ227と、例えばロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ等の真空ポンプ228とを有している。この排気系により円筒状反応容器211に設けられた真空計223を見ながら、円筒状反応容器211内を所定の圧力に維持する。
【0049】
電源230は、制御部231によってその動作が制御されている。制御部231は、電源230を制御することにより、円筒状基体212と基体ホルダ213に10kHz〜300kHzの正弦波交番電圧(図1参照)を供給可能に構成されている。
円筒状基体212に対して堆積膜を形成するための放電空間は、接地された電極214および接地されたベースプレート219に取り付けた絶縁板218Bと、接地された上蓋220に取り付けた絶縁板218Aによって規定されている。
【0050】
円筒状基体212A、212Bと電極214との間の距離、即ち電極間距離Dについて説明する。電極間距離Dが5mmよりも小さい場合は、円筒状基体212A、212B設置時の円筒状基体212A、212Bと電極214との同軸性のずれなどによって生じる電極間距離のロットごとのばらつきの影響が生じやすく、安定した再現性を得ることが難しくなる。逆に、距離Dが大きい場合は、円筒状反応容器211が大きくなってしまい単位設置面積当たりの生産性が悪くなる。このようなことから電極間距離Dは5mm以上300mm以下程度にすることが好ましい。
【0051】
以下、図2の装置を用いた電子写真感光体の形成方法の一例について説明する。
(円筒状基体設置工程)
例えば旋盤を用いて表面に鏡面加工を施した円筒状基体212A及び212Bは、基体ホルダ213A、213Bに装着されて、円筒状反応容器211内の基体加熱ヒータ216を包含するように設置される。
【0052】
(原料ガス導入工程)
次に、ガス供給装置内の排気を兼ねて、原料ガス流入バルブ224を開き、排気メインバルブ227を開いて円筒状反応容器211及びガスブロック235内を排気する。真空計223の読みが0.67Pa以下になった時点で原料ガス導入バルブ224から加熱用の不活性ガス、一例としてアルゴンをガスブロック235より円筒状反応容器211に導入する。そして、円筒状反応容器211内が所望の圧力になるように加熱用ガスの流量および、排気メインバルブ227の開口あるいは真空ポンプ228の排気速度を調整する。その後、不図示の温度コントローラーを作動させて円筒状基体212A及び212Bを加熱用ヒータ216により加熱し、円筒状基体212A及び212Bの温度を20℃〜500℃の所定の温度に制御する。円筒状基体212A及び212Bが所望の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止める。同時並行的に、成膜用の所定の原料ガス、例えばSiH、Si、CH、Cなどの材料ガスを、またB、PHなどのドーピングガスを原料ガス混合装置225により混合した後に円筒状反応容器211内に徐々に導入する。次に、原料ガス混合装置225内の不図示のマスフローコントローラーによって、各原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際、円筒状反応容器211内が所定の圧力に維持されるよう真空計223を見ながら排気メインバルブ227の開口あるいは真空ポンプ228の排気速度を調整する。
【0053】
(堆積膜形成工程)
以上の手順によって成膜準備を完了した後、円筒状基体212A及び212Bの上に下部電荷注入阻止層の形成を行なう。具体的には、内圧が安定したことを確認後、電源230を所望の電圧に設定して制御部231で所望の周波数及びDuty比に設定する。これにより支軸222を通じて円筒状基体212A及び212B、並びに基体ホルダ213A及び213Bに交番電圧を印加してグロー放電を生起させる。この放電のエネルギーによって円筒状反応容器211内に導入した各原料ガスが分解され、円筒状基体212A及び212Bの上に所定の堆積膜が形成される。なお、膜形成を行っている間は円筒状基体212A及び212Bをモータ221によって所定の速度で回転させても良い。
【0054】
所望の膜厚の形成が行われた後、交番電圧の供給を止め、円筒状反応容器211への各原料ガスの流入を止めて反応容器内を一旦、高真空に排気する。上記のような操作を繰り返し行うことによって、電子写真感光体は形成される。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
<実施例1及び比較例1>
実施例1及び比較例1では、光導電層成膜時の周波数を100kHz、振幅(Va)を600Vとし、光導電層成膜時のバイアス電圧(Vo)に対する電子写真特性の依存性を調べた。
【0056】
図2に示す堆積形成装置を用いて、円筒状基体(直径108mm、長さ358mm、厚さ5mmの鏡面加工を施した円筒状のアルミニウム基体)上に表1に示す条件で電子写真感光体を作製した。その際、下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層、表面層の順に成膜を行った。表1に示す放電開始電圧(負電位)、放電維持電圧(正電位)は、予めそれぞれの層の内圧、ガス条件で前述した方法により測定した値である。
【0057】
光導電層形成時において、円筒状基体212には、電極214に対する振幅(Va)とバイアス電圧(Vo)からなる正弦波電圧が、電源230と制御部231より印加される。
このバイアス電圧(Vo)は、表2に示す条件とした。
また、表中の電位差V1とV2は、それぞれ、円筒状基体212の、電極214に対する、負電位の電位差絶対値の最大値と正電位の電位差絶対値の最大値を表わす。
尚、実施例1−2におけるV1の値では放電維持しないことを確認している。
【0058】
実施例1ではV2の大きさが放電開始電圧以上である一方、V1の大きさは放電維持電圧未満であるがゼロではない。電極214に対し、円筒状基体212が負となる極性で放電し、正となる極性では放電しないものの、ゼロではない正極の電位差が印加される。
次に比較例1−1ではV1、V2の大きさはともに放電開始電圧以上である。そのため、対向する電極214に対し、円筒状基体212が正と負の両極で放電する。
【0059】
そして比較例1−2ではV2の大きさが放電開始電圧以上である一方、V1の大きさはゼロである。そのため対向する電極214に対し、円筒状基体212が負となる極性で放電する。一方、正となる極性では電位差が印加されない。従って、片極のみの電圧印加となる。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
実施例1及び比較例1で作製した各条件2本ずつ、合計12本の電子写真感光体を以下の方法で評価した。評価結果を表3に示す。
【0063】
(画像欠陥)
作製した電子写真感光体の画像欠陥を以下のように評価した。
作製した電子写真感光体をマイナス帯電、反転現像方式に改造したキヤノン株式会社製iR8500の改造機に設置した。この改造機の現像器を取り外して、現像器位置に表面電位計(Trek社製 表面電位計Model344、プローブModel555−P)を設置し、電子写真感光体の表面電位の測定を下記手順で行った。
【0064】
まず、ベタ白画像(潜像形成用レーザ非露光)を出力し、電子写真感光体の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して暗部電位が−450Vになるように調整した。
次いで表面電位計を取り外して現像器を戻し、画像欠陥を厳しく評価するために、ポチが出やすくなる条件で画像を出力した。より具体的には、現像条件のDCバイアス条件を調整して、ややかぶっている画像を出力した。「かぶり」とは、電子写真では現像操作によって本来白抜けとなるべき非画像部にトナーが付着して濃度が高くなる現象を意味する(画像学会 用語集より)。
【0065】
下記手順によりかぶり濃度の測定を行い、かぶり濃度が0.4〜0.8%の範囲になる現像条件で出力したものを評価用画像とした。評価用画像の反射率を測定し、さらに未使用の紙の反射率を測定した。評価用画像の反射率の値を未使用の紙の反射率の値から引いてかぶり濃度とした。反射率は白色光度計(TC−6DS 東京電色製)にアンバーのフィルターを装着して測定した。
【0066】
画像出力は、次の印刷環境で行った。
印刷環境 温度23℃/湿度60RH%(以下「N/N」とも表記する。)
出力紙、出力画像は以下のとおりとし、連続して10枚のベタ白画像(潜像形成用レーザ非露光)を出力して、最後の2枚を用いて評価を行った。
紙 A3用紙 CS−814(81.4g/m2)
キヤノンマーケティングジャパン株式会社
画像の電子写真感光体の1周分(=紙の搬送方向の先端から約339mm)×画像領域幅292mmの域内にある直径0.1mmの円以上の大きさ(0.1mmの円を重ねた時に円からはみ出る部分があるもの)のポチの個数を数えた。
【0067】
評価は、各実施例及び比較例の2本の電子写真感光体について、それぞれ2枚の画像について計数し、評価数4枚の平均値を計算し、小数点以下は切り上げて整数の値で示した。
さらに、評価は以下の基準でランク付けを行った。
A ・・・15個以下
B ・・・16個以上25個以下
C ・・・26個以上35個以下
D ・・・36個以上
C評価以上で本発明の効果が明確に現れ、画像欠陥の少ない良好な画像が得られる。D評価では本発明の効果が得られていないと判断した。
【0068】
(光メモリ)
本実施例および比較例で作製した電子写真感光体の光メモリを以下のように評価した。
作製した電子写真感光体をマイナス帯電、反転現像方式に改造したキヤノン株式会社製iR8500の改造機に設置した。そして改造機の現像器を取り外して、現像器位置に表面電位計(Trek社製 表面電位計Model344、プローブModel555−P)を設置し、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0069】
まず、ベタ白画像(潜像形成用レーザ非露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して暗部電位が−450Vになるように調整した。次に、ベタ黒画像(潜像形成用レーザ露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の明部電位を測定し、潜像形成用レーザの光量を調整して明部電位が-100Vになるように調整した。
【0070】
上記の帯電設定およびレーザ露光設定に固定し、表面電位計を取り外して現像器を戻し、A3サイズのベタ白画像10枚の出力動作を行う。さらにA3サイズの電子写真感光体1周分のベタ黒画像(A3の約339mm分がベタ黒、それ以外がベタ白の画像)1枚、A3サイズのベタ白画像1枚、計12枚の連続出力動作を行う。それらの間の表面電位の測定を行った。表面電位の測定は電子写真感光体の軸方向7点(電子写真感光体の軸方向中心を0mmとして±50mm、±100mm、±150mm)で測定した。なお、電子写真感光体の周方向は9°間隔40点のデータを取得した。
【0071】
表面電位測定の後、各軸方向位置毎にベタ黒部出力動作の1周前の暗部電位とベタ黒部出力動作の1周後の暗部電位の電子写真感光体の同一周方向位置の電位差を求めた。次いで各軸位置での電位差の平均値を算出し、最も電位差が大きい値を光メモリと定義した。なお、各実施例および比較例の値は1バッチで作製される2本の電子写真感光体のうち値の大きい方を採用した。
小さいほど、光メモリが小さく、電子写真特性が良好である。
さらに、評価は以下の基準でランク付けを行った。
【0072】
A ・・・0.0V以上1.0V未満
B ・・・1.0V以上2.0V未満
C ・・・2.0V以上3.0V未満
D ・・・3.0V以上
D評価では、画像上で濃度差が明確に確認できるレベルであり、本発明の特性向上効果が現れていないと判断した。
【0073】
(膜厚均一性)
以下の方法により膜厚均一性を評価した。
作製した電子写真感光体の膜厚を以下の測定点で測定した。軸方向には電子写真感光体の中央部位置を0cm位置とした。そして両側夫々2cm間隔で9点(±2cm,±4cm,±6cm,±8cm,±10cm,±12cm,±14cm,±16cm,±18cm)、0cm位置を含めて合計19点とした。各軸方向位置において周方向に30°間隔で12点、計228点を測定位置とした。得られた各測定点の膜厚の最大値と最小値の差分を平均膜厚で割った値を膜厚均一性とした。
【0074】
測定は、FISCHERSCOPE mms(MELMUT FISHER社製)にプローブETA3.3Hを装着して、渦電流法で行った。値が小さいほど、膜厚均一性が良好である。
なお、各実施例及び比較例の膜厚均一性の値は、2本のドラムの内、値が大きい方の値を評価値とした。
さらに、評価は以下の基準でランク付けを行った。
【0075】
A ・・・3.0%未満
B ・・・3.0%以上4.0%未満
C ・・・4.0以上5.0%未満
D ・・・5.0%以上
D評価では、膜厚ムラが大きく、その結果、膜厚ムラに応じた濃度差が画像で確認できる場合があるため、本発明の特性向上効果が現れていないと判断した。
【0076】
(総合評価)
画像欠陥、光メモリ、膜厚均一性のそれぞれのランクで最も低い評価ランクを総合評価として示す。
ランクAがもっとも良く、ランクDでは本発明の特性向上効果が現れていないと判断した。
【0077】
【表3】

ランク分けした結果を、表4に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
表3の評価結果より、比較例1−2で、画像欠陥の個数が増加したことから、片極のみの電圧印加では、欠陥抑制効果が充分に得られないことが分かった。
光メモリは比較例1−1で大きな値を示した。このことから両極放電は、電子写真感光体形成時に気相成長による化合物が増加して堆積膜の特性を低下させる原因となっていると推察される。
【0080】
一方、実施例1−1〜1−4では比較例1−2に対し画像欠陥の個数が減少したことから、画像欠陥の抑制効果が向上したと考えられる。また比較例1−1に対し光メモリが減少したことから、堆積膜特性が向上したと考えられる。
すなわち対向する電極214に対する円筒状基体212の電位において、正電位であるときの絶対値の最大値を放電維持電圧未満の値(V1)とし、負電位であるときの絶対値の最大値を放電開始電圧以上の値(V2)とした。このようにすることで、画像欠陥が少なく、良好な特性を有する電子写真感光体が得られることが分かった。
【0081】
<実施例2及び比較例2>
光導電層成膜時の振幅(Va)を表5に示す値とした以外は、実施例1−1と同様にして電子写真感光体を作製した。尚、実施例2−2におけるV1の値では放電維持しないことを確認している。実施例2では、光導電層成膜時の振幅(Va)に対する電子写真特性の依存性を調べた。
実施例2では対向する電極214に対し、円筒状基体212が負となる極性で放電し、正となる極性では放電しないものの、ゼロではない正極の電位差が印加される。
【0082】
比較例2−1では対向する電極214に対し、円筒状基体212が正と負の両極で放電する。
比較例2−2では対向する電極214に対し、円筒状基体212が負となる極性で放電し、片極のみの電圧印加である。
実施例2及び比較例2で作製した各条件2本ずつ、合計8本の電子写真感光体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表6に、ランク分けした結果を表7に示す。
【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
表6に示したように、比較例2−2で、画像欠陥の個数が増加したことから、比較例1−2と同様に、片極のみの電圧印加は、欠陥抑制効果が十分に得られないことの原因となっていると推察される。
光メモリは比較例2−1で大きな値を示した。このことから比較例1−1と同様に、両極放電は、電子写真感光体形成時に気相成長による化合物が増加して堆積膜の特性を低下させる原因となっていると推察される。
【0087】
一方、実施例2−1〜2−2では比較例2−2に対し画像欠陥の個数が減少し、比較例2−1に対し光メモリが減少した。
したがって、対向する電極214に対する円筒状基体212の電位において、正電位であるときの絶対値の最大値を放電維持電圧未満の値(V1)とし、負電位であるときの絶対値の最大値を放電開始電圧以上の値(V2)とした。このようにすることで、画像欠陥の少なく良好な特性の電子写真感光体が得られることが分かった。
【0088】
<実施例3>
光導電層成膜時の内圧を表8に示す値とした以外は、実施例1−1と同様にして電子写真感光体を作製した。実施例3では、光導電層成膜時の内圧に対する電子写真特性の依存性を調べた。
表8には各内圧における放電開始電圧と放電維持電圧も示している。
【0089】
実施例3ではV2の大きさが放電開始電圧以上である一方、V1の大きさは放電維持電圧未満であるがゼロではない。そのため、対向する電極214に対し、円筒状基体212が負となる極性で放電し、正となる極性では放電しないものの、ゼロではない正極の電位差が印加される。
実施例3で作製した各条件2本ずつ、合計4本の電子写真感光体を実施例1と同様の方法で評価した。評価結果を表9に、ランク分けした結果を表10に示す。
【0090】
【表8】

【0091】
【表9】

【0092】
【表10】

【0093】
表9に示したように、実施例1と2に比べて、内圧を上げた実施例3−1の光メモリの評価がやや低下したことが分かるが、充分な堆積膜特性であり、良好な堆積膜特性が得られたと考えられる。
【0094】
<実施例4及び比較例4>
実施例4では、対向する電極に対する円筒状基体の電位差を印加するとともに、表12に示す光導電層成膜時の周波数にて作製することで、光導電層成膜時の周波数に対する電子写真特性の依存性を調べた。
図5に示す堆積膜形成装置を用いて、円筒状基体(直径108mm、長さ358mm、厚さ5mmの鏡面加工を施した円筒状のアルミニウム基体)上に表11および表12に示す条件で電子写真感光体を作製した。
【0095】
図5の堆積膜形成装置では、円筒状基体512A、512Bに振幅(Va)の正弦波電圧を印加した。また、容器壁面側の電極514に電源534よりバイアス電圧を印加した。これらにより円筒状基体512と電極514は一方の電位に対する他方の電位が図4(b)に示すようになった。
図4(a)に円筒状基体512に印加した正弦波電圧と、容器壁面側の電極514に印加したバイアス電圧の模式図を示す。
表12には、各周波数における放電開始電圧と放電維持電圧を示す。
【0096】
実施例4−1〜4−3ではいずれも、V2の大きさが放電開始電圧以上である一方、V1の大きさは放電維持電圧未満であるがゼロではない。そのため、電極514に対して円筒状基体512が負となる極性で放電し、正となる極性では放電しないものの、ゼロではない正極の電位差が印加される。
実施例4で作製した各条件2本ずつ、合計4本の電子写真感光体を以下の方法で評価した。評価結果を表13に、ランク分けした結果を表14に示す。
【0097】
【表11】

【0098】
【表12】

【0099】
【表13】

【0100】
【表14】

【0101】
表13に示したように、膜厚均一性は、300kHzと周波数が高くなると、やや膜厚均一性が低下する傾向がみられるが(実施例4−3)、充分な膜厚均一性であり、良好な放電均一性が得られたと考えられる。
また10kHzと周波数が低くなると、やや画像欠陥の個数が増加する傾向がみられるが(実施例4−1)、充分少ない程度であり、良好な画質が得られたと考えられる。
また、実施例4−2と実施例1−1は殆ど同等の結果が得られている。
【0102】
以上より電極514に対する円筒状基体512の正電位が放電維持電圧未満の値(V1)、負電位が放電開始電圧以上の値(V2)であって周波数が10kHzから300kHzの正弦波交番電圧を印加することによって画像欠陥の少ない電子写真感光体が得られた。
また、この正弦波交番電圧を印加することによって得られた電子写真感光体は、特性および均一性が良好であった。
【0103】
実施例4は電圧の印加方法が実施例1と異なる。
しかし実施例1と同様に対向する電極に対して、正電位が放電維持電圧未満の値(V1)、負電位が放電開始電圧以上の値(V2)となる正弦波交番電位を基体に印加することで、均一性と特性が良好で欠陥の少ない電子写真感光体が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0104】
211 円筒状反応容器
212 円筒状基体
212A 上側円筒状基体
212B 下側円筒状基体
213 基体ホルダ
213A 上側基体ホルダ
213B 下側基体ホルダ
214 電極
215A 絶縁部材(外側)
215B 絶縁部材(内側)
216 加熱用ヒータ
217A、217B 接合電極
218A、218B 絶縁板
219 ベースプレート
220 上蓋
221 モータ
222 支軸
223 真空計
224 原料ガス流入バルブ
225 原料ガス混合装置
226 排気配管
227 排気メインバルブ
228 真空ポンプ
230、530 電源
231、531 制御部
533A、533B 真空気密兼絶縁セラミック
534 DC電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧可能な反応容器の内部に円筒状基体を設置する円筒状基体設置工程と、
前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する原料ガス導入工程と、
前記反応容器の内部にあって前記円筒状基体とは離間して配置された電極、および前記円筒状基体の、一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、正弦波の交番電圧を前記電極と前記円筒状基体の間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体の表面に堆積膜を形成する堆積膜形成工程と、を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記交番電圧の周波数が10kHz以上300kHz以下で、
前記電極と前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が、前記正であるときの電位差の絶対値の最大値、および前記負であるときの電位差の絶対値の最大値は
一方が放電維持電圧未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧以上の値(V2)であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記堆積膜形成工程において、前記電極の電位が一定である請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記原料ガスが水素化ケイ素ガスを含み、前記堆積膜がアモルファスシリコン膜である請求項1又は2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記電極が、前記反応容器の内壁の少なくとも一部を構成している請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104925(P2013−104925A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246906(P2011−246906)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】