電子写真感光体の製造方法
【課題】 チャージアップの抑制および二次反応の抑制を高いレベルで両立する電子写真感光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 電極および円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体の間に印加して、原料ガスを分解し、円筒状基体上に堆積膜を形成して、電子写真感光体を製造するにあたり、前記正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値であるようにする。
【解決手段】 電極および円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体の間に印加して、原料ガスを分解し、円筒状基体上に堆積膜を形成して、電子写真感光体を製造するにあたり、前記正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値であるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD(plasma chemical vapor deposition)法によって電子写真感光体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アモルファスシリコン(以下「a−Si」とも表記する。)を用いた電子写真感光体は、円筒状基体上に光導電層などの堆積膜を形成することにより製造されている。堆積膜の形成方法としては、RF帯の高周波を用いたグロー放電により堆積膜形成用の原料ガスを分解し、その分解生成物を円筒状基体に被着させる方法、いわゆるRFプラズマCVD法が広く採用されている。
【0003】
近年、電子写真装置の高画質化が強く要求されるようになってきており、これに対応して、電子写真感光体の堆積膜の均一性(堆積膜の膜厚および膜質の均一性)の改善や、堆積膜の特性の向上が強く要求されている。
【0004】
従来のRFプラズマCVD法では、周波数が高いため、波長に応じた定在波が生じてプラズマ中に電界の小さい部分ができたり、用いるプラズマCVD装置のインピーダンスの影響による伝搬ムラのためにプラズマが不均一になったりする場合があり、堆積膜の均一性を向上させるうえでの課題となっていた。また、用いる電界が交播電界であるため、プラズマ中の荷電粒子(イオンや電子)が電界によって往復運動し、その往復運動の間に他の荷電粒子や中性活性種や原料ガスと二次反応を起こし、粉体状の物質となることがあった。この粉体状の物質が堆積膜中に取り込まれてしまうことが、堆積膜の特性を向上させるうえでの課題となっていた。
【0005】
これらの課題のうち、堆積膜の均一性の向上に関しては、定在波やプラズマCVD装置のインピーダンスの影響が小さくなる低周波数でのグロー放電が検討されている。また、堆積膜の特性の向上に関しては、プラズマ中での二次反応を抑制するため、すべての電圧が正および負のいずれか一方の極性になるように調整する、すなわち、一方の極性の電圧のみを印加して放電させることが検討されている。以下、正および負のいずれか一方の極性の電圧のみを印加して放電させることを「片側極性放電」と表記し、正および負の両方の極性の電圧を交互に印加して放電させることを「両側極性放電」と表記する。
【0006】
特許文献1には、300kHz以下の周波数で正および負のいずれか一方のみの極性の矩形波の電圧を用いる技術が開示されている。特許文献1によれば、300kHz以下の低周波数とすることで、堆積膜の均一性が向上するとされている。また、周波数が300kHz以下であっても、特許文献2に開示されているような両側極性放電の場合、上記二次反応が起きうるが、片側極性放電であれば、荷電粒子(イオンや電子)が一方向への移動しかしないため、上記二次反応が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/134781
【特許文献2】特開2001−067657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1に開示されている技術によって製造された電子写真感光体を電子写真装置に用いた場合、画像欠陥のレベルに改善の余地が残されていることがわかった。これは、特許文献1に開示されている技術では、片側極性放電を用いているため、円筒状基体には主に正および負のいずれか一方の極性の荷電粒子のみが到達し、円筒状基体がチャージアップしてしまうことに起因していると考えられる。円筒状基体のチャージアップとは、より具体的には、堆積膜が形成された円筒状基体の表面(≒堆積膜の表面)のチャージアップである。このような円筒状基体のチャージアップは、円筒状基体の全体にわたって生じるものであるが、堆積膜の特性や堆積膜の表面形状の微小な差に起因して、チャージアップの程度は場所によって異なる。このため、円筒状基体では、チャージアップの程度の違いに起因した電界の違いが生じ、微小なスパークが発生しやすくなる。そのスパークの際の電気的なダメージによって、堆積膜の特性が局所的に低下したり、微小な堆積膜の剥がれ(以下「膜剥がれ」とも表記する。)が生じたりする。微小な膜剥がれが生じた場合、その部分は、電子写真感光体を電子写真装置に用いた際に画像欠陥となって現れる。ここでいう画像欠陥とは、ベタ黒(黒色以外のトナーを用いた場合も、便宜上「ベタ黒」と表記する。)画像上に白い点となって現れるものや、ベタ白画像上に黒い点(黒色以外のトナーを用いた場合も、便宜上「黒い点」と表記する。)となって現れるものであり、いわゆる「ポチ」と呼ばれるものである。また、微小な膜剥がれが円筒状基体の近傍で生じた場合であっても、剥がれた膜片が円筒状基体に付着し、それが起点となって円筒状基体上に形成される堆積膜において膜欠陥を生じさせてしまい、やはり画像欠陥(ポチ)に繋がってしまう場合がある。ここでいう膜欠陥とは、微小なスパークによる電気的なダメージによって堆積膜の特性が局所的に低下した部分や、微小なスパークによって円筒状基体上に形成された堆積膜の微小な膜剥がれ部分や、剥がれた膜片が円筒状基体に付着することで生じる突起のことである。
【0009】
このようなチャージアップに起因する弊害は、特許文献1に開示されている技術における矩形波の低電圧部分を0Vとし、荷電粒子の円筒状基体への入射を断続的に停止することによっても、十分には改善されない。このチャージアップに起因する弊害は、特許文献2に開示されているような両側極性放電を採用することで改善されるが、上記二次反応が生じやすくなるため、堆積膜の特性が低下してしまう。
【0010】
以上のように、低周波数の矩形波の電圧を用いたプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、チャージアップの抑制と二次反応の抑制を高いレベルで両立する方法は、従来、見出されていなかった。
【0011】
本発明の目的は、チャージアップの抑制および二次反応の抑制を高いレベルで両立する電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
(i)内部に電極を有する減圧可能な反応容器の内部に、前記電極と離間させて円筒状基体を設置する工程と、
(ii)前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する工程と、
(iii)前記電極および前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を前記電極と前記円筒状基体との間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体上に堆積膜を形成する工程と、
を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記正になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子写真感光体の製造方法を用いることで、堆積膜の均一性および堆積膜の特性が良好で、かつ、画像欠陥が抑制され、高画質な電子写真が出力可能な電子写真感光体が製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】矩形波の交播電圧を説明するための図である。
【図1B】矩形波の交播電圧を説明するための図である。
【図2A】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図2B】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図3A】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図3B】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図3C】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図3D】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図4A】放電開始電圧および放電維持電圧の測定方法を説明するための図である。
【図4B】放電開始電圧および放電維持電圧の測定方法を説明するための図である。
【図5A】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図5B】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図6A】矩形波の交播電圧の例を示す図である。
【図6B】矩形波の交播電圧の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、
(i)内部に電極を有する減圧可能な反応容器の内部に、前記電極と離間させて円筒状基体を設置する工程と、
(ii)前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する工程と、
(iii)前記電極および前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を前記電極と前記円筒状基体との間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体上に堆積膜を形成する工程と、
を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記正になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)であることを特徴としている。
【0016】
図1AおよびBは、矩形波の交播電圧を説明するための図である。
【0017】
図1Aは、電極の電位をアース電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体との間に印加した場合の円筒状基体の電位の変化を示す図である。図1Aの例では、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)となっており、負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となっている。図1Aの例では、電極の電位を一定としているため、円筒状基体の電位が図1Aに示すように矩形状に変化する。
【0018】
図1A中のTは、矩形波の周期を表しており、矩形波の周波数(パルス周波数)によって決まる。本発明では、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波が用いられ、好ましくは、周波数10kHz以上100kHz以下の矩形波が用いられる。また、図1A中のt1は、上記電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1となっている時間(期間)を表しており、t2は、上記電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV2となっている時間(期間)を表している。また、本発明では、t2をTで除した値(t2/T)をDuty比(%)と定義する。図1Aの例では、Duty比を30%としている。
【0019】
このような矩形波の交播電圧は、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1となる電圧、および、電極の電位に対する円筒状基体の電位が負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV2となる電圧を、DC電源から発生させて、スイッチ素子をON/OFF制御し、DC電源からの電圧を時分割パルス状にすることによって得ることができる。スイッチ素子としては、例えば、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)、MOSFETなどの半導体スイッチ素子を用いたものがある。これらのスイッチ素子によれば、Duty比や周波数を変化させることもできる。
【0020】
図2AおよびB(以下まとめて「図2」とも表記する。)は、本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。図2Aは縦断面図であり、図2Bは横断面図である。図2に示すプラズマCVD装置では、電極214の電位に対する円筒状基体212(212A、212B)の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を電極214と円筒状基体212(212A、212B)との間に印加して、原料ガスを分解し、円筒状基体212(212A、212B)上(円筒状基体212の外周面)に堆積膜を形成することができる。
【0021】
電源231から出力され、電極214と電極214と離間させて設置された円筒状基体212(212A、212B)との間に印加される矩形波の交播電圧は、制御部230によって周波数、Duty比などが制御される。本発明において、矩形波の交播電圧の周波数は、VLF帯からLF帯となる3kHz以上300kHz以下の範囲内にする。周波数が低くなりすぎると、アークやスパークなどの異常放電が発生しやすくなり、堆積膜に膜欠陥が発生しやすくなる。一方、周波数が高くなりすぎると、波長に応じた定在波が生じてプラズマ中に電界の小さい部分ができたり、プラズマCVD装置のインピーダンスの影響による伝搬ムラのためにプラズマが不均一になったりして、堆積膜の均一性が低下しやすくなる。
【0022】
図1A中のt2の期間では、電極214と円筒状基体212(212A、212B)の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となっているため、電極214と円筒状基体212(212A、212B)との間に放電が生起し、プラズマが生成される。プラズマ中の中性活性種および陽イオンが円筒状基体212(212A、212B)に到達し、円筒状基体212(212A、212B)上に堆積膜が形成される。この過程において、陽イオンが持つ正の電荷により、円筒状基体212(212A、212B)は正電位にチャージアップする。なお、「プラズマが生成される」とは、電極と円筒状基体との間に放電が生起し、原料ガスが電離して、荷電粒子(イオンや電子)が生成されることを意味している。
【0023】
次に、t1の期間になると、電極214と円筒状基体212(212A、212B)の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満になるため、放電が消滅し、プラズマは維持できなくなる。しかしながら、t2の期間で生成された荷電粒子(イオンや電子)は、瞬時には消滅せずにt1の期間において徐々に減衰しながらしばらくの間は残存する。この状態は、一般にアフターグローと呼ばれ、新たに荷電粒子(イオンや電子)は生成されない。このアフターグローの寿命は、数十μ秒から数m秒程度である。アフターグローの寿命は、圧力によって変化する。圧力が高くなるほど、ガス分子などに衝突しやすくなるため、アフターグローの寿命は短くなる傾向である。
【0024】
本例においては、アフターグローの状態で電極214の電位に対する円筒状基体212(212A、212B)の電位が正になるため、アフターグロー中の負の荷電粒子、すなわち電子および陰イオンが円筒状基体212(212A、212B)に到達する。この過程において、電子および陰イオンが持つ負の電荷により、円筒状基体212(212A、212B)の正電位のチャージアップは緩和されることとなる。
【0025】
本発明において、画像欠陥が抑制されるのは、このように円筒状基体のチャージアップが抑制され、微小なスパークが抑制されるためと考えられる。
【0026】
なお、アフターグロー中においては新たな荷電粒子(イオンや電子)は生成されず、アフターグロー中の荷電粒子の量は限られている。そのため、t2の期間で生成された荷電粒子(イオンや電子)の運動の向きはt1の期間になると反転するが、その反転による二次反応は、堆積膜の特性に悪影響を与えるほどの物質は生じさせない。また、t1の期間において荷電粒子(イオンや電子)が円筒状基体に到達しても、t2の期間において生じた円筒状基体のチャージアップが緩和されるだけであり、逆の極性にまで円筒状基体がチャージアップすることはない。
【0027】
また、図2に示すプラズマCVD装置においては、円筒状基体212(212A、212B)を保持するためのホルダー(以下「基体ホルダー」と表記する。)213にも円筒状基体212(212A、212B)と同様の電圧が印加されるので、基体ホルダー213においても、円筒状基体212(212A、212B)と同様の上記現象が生じている。
【0028】
図1Aにおいては、V2からV1への切り替わりおよびV1からV2への切り替わりは瞬時に行われるように示しているが、一般的な市販電源では、電源回路特性の限界から、V2からV1への切り替わりおよびV1からV2への切り替わりには、ある程度の時間を要する。その切り替わりに要する時間は、一般的な市販電源においては1μ秒以下の程度である。前述したようにアフターグローの寿命は数十μ秒から数m秒程度であり、1μ秒に比べて長いので、この程度の切り替わりに要する時間が本発明の効果に影響を及ぼすことはない。また、電源によっては、図1Bに示すように、V2からV1への切り替わり時およびV1からV2への切り替わり時に0Vでの時間が必要になるものがあるが、この0Vでの時間は0.5μ秒以下の程度であり、アフターグローの寿命に比べて十分に短いので、本発明の効果に影響を及ぼすことはない。
【0029】
また、図1Aにおいては、完全な矩形波を示しているが、一般的な市販電源では、矩形波のエッジ部になまりが生じたり、オーバーシュートによって若干鋭角状となったり、V1やV2になるときにリンギングが生じたりすることもある。このような場合でも、本発明の効果は得られる。
【0030】
次に、放電開始電圧および放電維持電圧について詳細に述べる。
電極と円筒状基体との間の放電は、電極と円筒状基体との間にわずかながら存在している電子が電界によって正電位側に運ばれ、その途中でガス分子に衝突してこれを電離させて、電子とイオンを生成するα作用が継続することによって始まる。この電離を生じさせるためには、衝突時の電子のエネルギーが、ガス分子の電離エネルギー以上であることが必要となる。電子がガス分子に衝突する際のエネルギーは、電界が大きくなるほど、すなわち、電極と円筒状基体との間に印加する電圧が大きくなるほど大きくなる。電極と円筒状基体との間に印加する電圧を徐々に上げていき、電子がガス分子に衝突する際のエネルギーがガス分子の電離エネルギーに達すると、ガス分子の電離によって電極と円筒状基体との間に存在する電子が増加して、衝突によるガス分子の電離が継続して起こることで放電が始まる。この放電が始まる時点の電圧を放電開始電圧という。
【0031】
また、放電が開始した状態から、電極と円筒状基体との間に印加する電圧を下げていくと、ある電圧よりも小さくなった時点で放電が維持できなくなる。放電が維持できる最低電圧を放電維持電圧という。放電維持電圧は、通常、放電開始電圧よりも低い。これは、放電が生起した状態では、放電が生起していない状態と比べて放電空間内の電子の数が多く、電極と円筒状基体との間の印加電圧の絶対値が放電開始電圧の絶対値未満になっても、放電維持電圧の絶対値以上であれば、ガス分子を電離可能なエネルギーを持った電子が放電維持に必要な数以上存在するためである。
【0032】
また、γ作用と呼ばれる現象も、放電維持電圧が放電開始電圧よりも低くなる理由の1つとなっている。γ作用とは、ガス分子が電離して生じたイオンが電極や円筒状基体に衝突する際、それらから二次電子が放出される現象である。放電が生起した後は、このγ作用によって生じた電子もガス分子の電離に寄与するので、放電開始電圧よりも低い電圧で放電が維持可能となる。
【0033】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス分子の電離電圧および電子がガス分子に衝突するときのエネルギーが支配的な要素となる。ガス分子の電離電圧は、ガス種が決まれば決定される。また、ガス分子に衝突するときの電子のエネルギーは、電界強度および電子がガス分子に衝突するまでの移動距離の関数となる。言い換えれば、印加電圧、電極と円筒状基体との間の距離および電子がガス分子に衝突するまでの移動距離の関数となる。また、電子がガス分子に衝突するまでの移動距離は、ガスの密度の関数、言い換えれば、圧力の関数となる。
【0034】
なお、複数のガス種からなる混合ガスを用いる場合、各々のガスの電離電圧とともに、ガスの混合比率も、放電開始電圧および放電維持電圧を決定付ける要素となる。
【0035】
これら以外に放電開始電圧および放電維持電圧に影響を及ぼすものとしては、電極の表面材質、形状および温度などがあるが、これらは電離電圧、印加電圧、電極と円筒状基体との間の距離および圧力に比べて影響度は小さい。
【0036】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス種、ガスの混合比率、電極と円筒状基体との間の距離および圧力によって異なるため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって固有の値を持つこととなる。すなわち、使用するプラズマCVD装置と使用するガス条件が決まれば、放電開始電圧および放電維持電圧は一意に決まる。
【0037】
本発明においては、放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものよりも、正および負のいずれか一方の電界で放電を生起させ、続いて、それとは逆極性の電界で放電が維持しないレベルにすることが効果を得るために重要である。そのため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものは変わるものの、本発明の条件を満たせば、本発明の効果を得ることができる。例えば、シランガスおよび水素ガスの混合ガスを用いた場合と、シランガスおよび水素ガスおよびメタンガスの混合ガスを用いた場合では、放電開始電圧および放電維持電圧は異なる。しかしながら、どちらの場合においても、本発明の条件を満たすことによって、本発明の効果を得ることができる。
【0038】
また、放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)が大きいほど、円筒状基体のチャージアップの量は多くなるが、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)の密度も高くなるため、放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)の大きさによらず、同様の効果を得ることができる。
【0039】
一方、放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)は、チャージアップの抑制の観点から、放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)に対して20%以上の値であることが好ましい。これは、放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)を大きくしていくと、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)を円筒状基体に到達させる力が大きくなり、チャージアップを抑制するための単位時間当たりの電荷の入射密度が高まるためと考えられる。ただし、20%以上の条件では、チャージアップを抑制する効果はわずかにしか向上しない。これは、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)の量が限られるため、荷電粒子を円筒状基体に到達させる力を高めても、t1の期間に円筒状基体に到達する荷電粒子の総量に大きな差が生じないためと考えられる。
【0040】
また、放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)は、本発明の効果を安定して得る観点から、放電維持電圧の絶対値に対して95%以下であることが好ましい。95%以下とすることで、電源出力の変動や、プラズマCVD装置の反応容器の内壁面からの付着物の剥落による放電空間内の一時的な電界変動が生じても、放電維持電圧の絶対値未満の状態を維持することができるので、本発明の効果を安定して得やすくなる。
【0041】
放電が開始したか否か、および、放電が維持されているか否かは、例えば、電圧−電流特性から判断する方法や、プラズマ発光を検知して判断する方法などがある。
【0042】
図4AおよびBは、放電開始電圧および放電維持電圧の測定方法を説明するための図である。図4Aは、図2に示すプラズマCVD装置を用いて、電極と円筒状基体との間に電圧を印加し、放電開始電圧を求めたときの電圧−電流特性を示す図である。図4Bは、図4Aと同様、図2に示すプラズマCVD装置を用いて、放電維持電圧を求めたときの電圧−電流特性を示す図である。このような電圧−電流特性から、放電が開始したか否か、および、放電が維持されているか否かを判断し、放電開始電圧および放電維持電圧を求めることができる。
【0043】
電極の電位に対する円筒状基体の電位が負になったときに放電を生起させて電子写真感光体を製造しようとする場合には、図4Aの例のように負電位の放電開始電圧と、図4Bの例のように正電位の放電維持電圧を求めることになる。
【0044】
まず、図2に示すプラズマCVD装置の制御部230で、電圧を0Vと設定電圧を繰り返す矩形波の電圧(パルス電圧)として、周波数25kHzおよびDuty比30%の条件で出力波形を制御した。そして、設定電圧を0Vから負の方向に10V刻みで大きくしていき(0V→−10V→−20V…)、そのときの電流変化を測定した。図4Aに示すように、設定電圧を0Vから徐々に負の方向に大きくしていくと、電流が急に増加する点が観測される。そのときの電圧が放電開始電圧である。なお、放電開始電圧に至るまでも、若干の電流が計測されているが、その電流は放電に伴うものではなく、電極と円筒状基体との間に存在した荷電粒子が動くことによる暗流と、プラズマCVD装置内での漏れ電流である。なお、図4Aにおいては、設定電圧が−650Vの際の電流を100%として示している。
【0045】
次に、図4Bに示すように、設定電圧を+650Vまで上げて電極と円筒状基体との間に放電を生起させる。この状態から設定電圧を0Vの方向に10V刻みで小さくしていくと(+650V→+640V→+630V…)、電流が急に減少する点が観測される。電流が急に減少する直前の電圧が放電維持電圧である。なお、図4Bにおいては、設定電圧が+650Vの際の電流を100%として示している。
【0046】
また、矩形波のDuty比は、生産性とチャージアップの抑制とを両立させる観点から、20%以上80%以下であることが好ましい。Duty比が大きくなるほど、原料ガスを電離させるt2の期間の比率が大きくなり、生産性が向上する傾向にある。一方、Duty比が小さくなるほど、円筒状基体のチャージアップを緩和するt1の期間の比率が大きくなり、チャージアップを抑制するレベルが大きくなる傾向にある。ただし、アフターグローには寿命があり、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)の量にも限りがあるため、Duty比を小さくしてt1の期間を長くしていっても、ある程度の長さでチャージアップを抑制するレベルは変わらなくなる。
【0047】
なお、周波数3kHzのときは、周期Tが333μ秒強となる。このような周波数の低い条件において、Duty比が小さくなり、t1の期間が長くなると、t1の期間の途中でアフターグローが消滅する場合があるが、t1の期間が長い分、t2の期間は短くなり、t2の期間における円筒状基体のチャージアップの量が小さくなるため、アフターグローの寿命の間で十分にチャージアップを緩和することができる。また、周波数300kHzのときは、周期Tが3.3μ秒強となる。このような周波数が高い条件において、Duty比が大きくなると、t1の期間は短くなるが、周波数が低い場合に比べればt2の期間が短く、t2の期間における円筒状基体のチャージアップの量が小さいため、十分にチャージアップを緩和することができる。
【0048】
以上、主として、電極の電位をアース電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体との間に印加し、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)となり、負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となる場合を例にとって、本発明を説明したが、その他の場合も、本発明の条件を満たせば、本発明の効果を得ることができる。その他の場合として、例えば、電極の電位をアース電位以外の電位で一定としてもよいし、円筒状基体の電位をアース電位またはそれ以外の電位で一定としてもよいし、電極の電位および円筒状基体の電位のどちらも一定でないようにしてもよい。また、上記正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となり、上記負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)となるようにしてもよい。
【0049】
本発明では、円筒状基体上(円筒状基体の外周面)に、プラズマCVD法によって堆積膜を形成して電子写真感光体を製造する。堆積膜としては、例えば、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面層などが挙げられ、これらの層を円筒状基体側から順次積層して電子写真感光体を製造することが一般的である。
【0050】
下部電荷注入阻止層は、円筒状基体から光導電層への電荷の注入を抑制(阻止)するための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。
【0051】
光導電層は、電子写真感光体にレーザー光などの像露光光を照射することによって電荷を発生させるための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。光導電層の膜厚は、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上60μm以下であることがより好ましい。
【0052】
上部電荷注入阻止層は、電子写真感光体の表面を帯電した際の電子写真感光体の表面の電荷が光導電層に注入することを抑制(阻止)するための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。また、上部電荷注入阻止層の材料は、a−Siに炭素(C)、ホウ素(B)、窒素(N)または酸素(O)を含有させたものが好ましい。上部電荷注入阻止層の膜厚は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0053】
表面層は、電子写真感光体の表面を摩耗などから保護するための層であり、例えば(水素化)アモルファスシリコンカーバイドや、(水素化)アモルファスシリコンナイトライドや、(水素化)アモルファスカーボンなどにより形成される。表面層は、電子写真感光体に照射される像露光光が吸収されることのないように、像露光光に対して十分に広い光学バンドギャップを有していることが好ましい。また、静電潜像を十分に保持しうる抵抗値(好適には1011Ω・cm以上)を有していることが好ましい。
【0054】
電子写真感光体は、例えば、図2に示すプラズマCVD装置を用いることによって製造することができる。
【0055】
図2に示すプラズマCVD装置は、プラズマ処理によって円筒状基体212(上側円筒状基体212A、下側円筒状基体212B)上(円筒状基体212の外周面)に堆積膜を形成するための円筒状の反応容器211と、円筒状基体212(212A、212B)を加熱するためのヒーター216を備えている。また、円筒状基体212(212A、212B)を保持する基体ホルダー213Aおよび213B、反応容器211内に原料ガスを導入するためのガスブロック235を備えている。ガスブロック235は、電極214から取り外しが可能(脱着可能)な構造となっている。
【0056】
ガスブロック235とガス供給系との接続は、継ぎ手部材236を介して接続されている。このような構成とすることで、ガスブロックのみを入れ替えて品種ごとの製造に対応した構成の反応容器に段取り換えができる。
【0057】
図3A〜Dは、本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。図3Aは、ガスブロックの外観図であり、図3B〜Dは、ガスブロックの断面図である。ガスブロック300は、管状空洞部303、原料ガス放出孔304、原料ガス導入継ぎ手部材317で構成されており、原料ガス放出孔304が、反応容器211の内面に配置されるように取り付けられている。原料ガスライン318と原料ガス導入継ぎ手部材317が接続されることにより、反応容器211内に原料ガスが導入可能な構成となる。
【0058】
ガスブロック235(300)は、反応容器211に取り付けられた状態で電極214の一部となる。ガスブロック235(300)は、電極214の他の部分と同電位になるように反応容器211に取り付けられることが好ましい。このことにより、ガスブロック235を含めた反応容器211内の側壁面全体が電極となり、より均一なプラズマを生成することができる。ガスブロック235の材質は、導電性の金属であることが好ましく、加工の容易性やコストの観点から、アルミニウム、ステンレス鋼がより好ましい。
【0059】
また、ガスブロック235の取り付け方法としては、例えば、導電性のネジで固定する方法が挙げられる。
【0060】
ガスブロック235の形状に関しては、電極214の他の部分の内面との段差が少なくなる形状が好ましい。また、電極214の他の部分の内面と同じ面をなすガスブロックの面(ガス放出孔側の面)は平面でもよいが、電極214のその他の内面が曲面である場合、それと同じ曲率を持つ曲面であることが好ましい。また、図3Cに示すように、背板302が設けられ、ガスブロックの本体301と分離可能な構成になっていてもよい。
【0061】
図3Dは、本体301および背板302を有するガスブロックの背板302を外した状態の模式図である。本体301と背板302は、Oリング305により気密が保持される構造になっている。図3Dに示すように、背板302を外すことで、内部管状空洞部303が開放状態となるため、ガスブロック内部のガス経路が清掃しやすくなる。堆積膜形成中の残渣やエッチング時に取りきれない残渣などがガス経路に残ると、電子写真感光体の画像欠陥の要因となる。
【0062】
ガスブロックのガス放出孔の直径は、0.5〜2.0mmの範囲であることが好ましい。さらに、各ガス放出孔の精度は、直径の±20%以内の精度であることが好ましい。ガス放出孔の精度によっては、電子写真感光体の長手方向(軸方向)の特性ムラのみならず、円筒状基体を回転させながら堆積膜を形成する場合、電子写真感光体の周方向の特性ムラを引き起こす場合もある。
【0063】
ガスブロックのガス放出孔の近傍の材質には、絶縁性セラミックを使用することが好ましい。堆積膜形成条件によっては、ガスの流れ(突出圧力)の影響で、ガス放出孔の近傍にプラズマが集中しやすい状態になる場合があるため、これを抑制するうえで絶縁性セラミックの使用は効果的である。ガスブロック235を電極214から取り外しが可能(脱着可能)な構造とすることにより、ガスブロック単体で加工が行えるので、管状のセラミック部品をガス放出孔の近傍に埋め込む加工も容易に行える。セラミックス材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コージェライト、炭化ケイ素、チッ化ホウ素、チッ化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でも、絶縁抵抗の観点から、アルミナ、チッ化ホウ素、チッ化アルミニウムが好ましく、コストおよび加工性の観点から、アルミナがより好ましい。
【0064】
反応容器211内には、電極214、ベースプレート219および上蓋220により減圧可能な空間(放電空間)が形成されている。電極214は、一定の電位にすることが好ましく、アース電位にする(接地する)ことがより好ましい。電極214を一定の電位とすることで、電極214と反応容器211中の他の部分との電位差を一定に保つことができるため、製造する電子写真感光体の特性の再現性が向上する。さらに、電極214を接地することで、プラズマCVD装置の取り扱いが容易になる。なお、ベースプレート219、上蓋220を接地し、電極214を接地しない場合には、電極214とベースプレート219、上蓋220との間に絶縁性の部材を設けることが好ましい。図2に示すプラズマCVD装置においては、電極214、ベースプレート219および上蓋220のいずれも接地した。
【0065】
また、図2に示すプラズマCVD装置は、原料ガスの流量を調整するためのマスフローコントローラー(不図示)を内包する原料ガス混合装置225と原料ガス流入バルブ224を備えている。
【0066】
円筒状基体212(212A、212B)を保持する基体ホルダー213Aおよび213Bは回転可能に支持されている。この回転支持機構は、支軸222と、支軸222と歯車で接続されたモーター221とを有している。
【0067】
基体ホルダー213Aおよび213Bの内側には、接合電極217Aおよび217Bが接合している。接合電極217Aおよび217Bは、支軸222を介して電源231に接続されている。電極214と円筒状基体212(212A、212B)、基体ホルダー213A、213Bは、中心軸が一致するように配置されている。
【0068】
ヒーター216の外面は接地されていて、ヒーター216と円筒状基体212(212A、212B)との間に絶縁部材215Aが設けられていることで、ヒーター216と円筒状基体212(212A、212B)とは絶縁されている。ヒーター216の内側には、支軸222との間に絶縁部材215Bが設置され、ヒーター216と支軸222が絶縁されている。
【0069】
図2に示すプラズマCVD装置は、排気系として、反応容器211の排気口に連通された排気配管226と、排気メインバルブ227と、真空ポンプ228とを有している。真空ポンプとしては、例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプなどが挙げられる。この排気系により、反応容器211に設けられた真空計223を見ながら、反応容器211内を所定の圧力に維持することができる。
【0070】
電源231からの出力は、制御部230によって制御される。制御部230は、電源231の出力を制御することにより、電極214と円筒状基体212(212A、212B)との間に周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を印加可能になっている。
【0071】
堆積膜を形成するための放電空間(減圧可能な空間)は、接地された電極214と、接地されたベースプレート219に取り付けられた絶縁板218Bと、接地された上蓋220に取り付けられた絶縁板218Aによって規定されている。
【0072】
円筒状基体212(212A、212B)と電極214との間の距離Dについて説明する。距離Dが5mm以上であれば、円筒状基体212(212A、212B)設置時の円筒状基体212(212A、212B)と電極214との同軸性のずれなどによって生じる距離Dのロットごとのばらつきの影響が生じにくいため、安定した再現性を得やすくなる。ただし、距離Dが大きいほど、反応容器211が大きくなるため、単位設置面積当たりの生産性は低下する。このため、距離Dは、5mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0073】
以下、図2に示すプラズマ装置を用いた電子写真感光体の製造方法の一例について説明する。
旋盤などを用いて表面に鏡面加工を施した円筒状基体212(212A、212B)を、基体ホルダー213A、213Bに装着し、反応容器211内の円筒状基体加熱用のヒーター216を包含するように反応容器211内に設置する。
【0074】
次に、ガス供給装置内の排気を兼ねて、原料ガス流入バルブ224を開き、排気メインバルブ227を開いて、反応容器211内およびガスブロック235内を排気する。真空計223の読みが所定の圧力(例えば0.67Pa以下)になった時点で、加熱用の不活性ガス(例えばアルゴンガス)をガスブロック235から反応容器211に導入する。そして、反応容器211内が所定の圧力になるように加熱用の不活性ガスの流量、排気メインバルブ227の開口、真空ポンプ228の排気速度などを調整する。その後、温度コントローラー(不図示)を作動させて、円筒状基体212(212A、212B)をヒーター216により加熱し、円筒状基体212(212A、212B)の温度を所定の温度(例えば20〜500℃)に制御する。円筒状基体212(212A、212B)が所定の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止める。これと並行して、堆積膜(アモルファス膜)形成用の原料ガス(例えば、SiH4、Si2H6などの水素化ケイ素ガスや、CH4、C2H6などの炭化水素ガスなど。少なくとも1種は水素化ケイ素ガスであることが好ましい。)を、また、ドーピングガス(例えば、B2H6、PH3など。)を、原料ガス混合装置225により混合した後に、反応容器211内に徐々に導入する。次に、原料ガス混合装置225内のマスフローコントローラー(不図示)によって、各原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際、反応容器211内が所定の圧力(例えば1〜100Pa)に維持されるように真空計223を見ながら、排気メインバルブ227の開口、真空ポンプ228の排気速度などを調整する。
【0075】
以上の手順によって堆積膜形成の準備を完了した後、円筒状基体212(212A、212B)上に堆積膜の形成を行う。具体的には、反応容器211内の圧力(反応容器内の圧力を、以下単に「内圧」とも表記する。)が安定したのを確認した後、電源231を所定の電圧に設定して、制御部230で所定の周波数およびDuty比に設定する。これにより、支軸222および基体ホルダー213A、213Bを通じて円筒状基体212(212A、212B)と電極214との間に矩形波の交播電圧を印加して、グロー放電を生起させる。この放電のエネルギーによって反応容器211内に導入した各原料ガスが分解され、円筒状基体212(212A、212B)上に所定の堆積膜が形成される。なお、堆積膜の形成を行っている間は、円筒状基体212(212A、212B)をモーター221によって所定の速度で回転させてもよい。
【0076】
所定の膜厚の堆積膜の形成を行った後、交播電圧の印加を止め、反応容器211への各原料ガスの流入を止めて、反応容器内を一旦高真空になるように排気する。上記のような操作を繰り返し行うことによって、電子写真感光体を製造することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0078】
〈実施例1および比較例1〉
実施例1および比較例1では、電極の電位をアース電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるようにし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)、負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となるようにし、電極と円筒状基体との間に印加する矩形波の交播電圧の周波数を60kHzとし、Duty比を50%として、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。なお、電極の電位がアース電位(0V)であるため、V1、V2は、それぞれ、電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1、V2となったときの円筒状基体の電位の絶対値と同じ値である。
【0079】
図2に示すプラズマCVD装置を用いて、円筒状基体(直径84mm、長さ381mm、厚さ3mmの鏡面加工を施したアルミニウム製の円筒状基体)上に表1に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。その際、下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層、表面層の順に堆積膜の形成を行った。放電開始電圧および放電維持電圧は、表1に示すとおりであった。
【0080】
光導電層の堆積膜形成時のV1については、表2に示す条件とした。1例当たり1バッチ、1バッチ当たり2本の電子写真感光体を、5バッチ(5例)で計10本製造した。放電開始電圧(負電位)および放電維持電圧(正電位)は、あらかじめ、それぞれの層の堆積膜を形成する際の反応容器内の圧力およびガス条件で、前述した方法により測定した値である。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表2中の比較例1−1のV1(440V)は放電維持電圧の絶対値(440V)と等しいため、正確にはV1ではないが、実施例のV1と比較する値であるため、便宜上「V1」と表記している。以下同様である。
【0084】
実施例1および比較例1で製造したそれぞれ10本の電子写真感光体を以下の方法で評価した。評価結果を表3に示す。
【0085】
(画像欠陥)
画像欠陥については、以下のように評価した。
【0086】
製造した電子写真感光体をマイナス帯電、反転現像方式に改造したキヤノン株式会社製の複写機(商品名:iRC6800)の改造機に設置した。また、この複写機の黒色用現像器を外し、表面電位計(Trek社製の表面電位計(商品名:Model344)およびプローブ(商品名:Model555−P))を設置して、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0087】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)を出力し、電子写真感光体の表面の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して、電子写真感光体の表面の暗部電位が−450Vになるように調整した。
【0088】
画像欠陥を厳しく評価するために、ポチが出やすくなる条件で画像を出力した。具体的には、シアン色の現像条件のDCバイアス条件を調整して、かぶり(現像操作によって本来非画像部となるべき部分にトナーが付着する現象)が生じている画像を出力した。画像出力の際の現像は、シアントナーを用いた現像器のみでの現像とした。
【0089】
以下の手順により、かぶり濃度の測定を行い、かぶり濃度が0.4〜0.8%の範囲になる現像条件で出力したものを評価用画像とした。評価用画像の反射率を測定し、さらに未使用の紙の反射率を測定した。評価用画像の反射率の値を未使用の紙の反射率の値から引いてかぶり濃度とした。反射率は、東京電色製の白色光度計(商品名:TC−6DS)にアンバーのフィルターを装着して測定した。
【0090】
画像出力は、温度23℃/湿度60%RHの常温常湿環境下で行った。以下も同様である。
出力紙としてキヤノンマーケティングジャパン株式会社の紙A3用紙(商品名:CS−814(81.4g/m2))を用い、連続して10枚のベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)を出力して、最後の2枚を用いて評価を行った。
【0091】
画像の電子写真感光体の1周分(=紙の搬送方向の先端から約264mm)×画像領域幅292mmの域内にある直径0.05mmの円以上の大きさ(0.05mmの円を重ねたときに円からはみ出る部分があるもの)のポチ(シアン色のポチ)の個数を数えた。
【0092】
評価は、実施例および比較例のそれぞれ2本の電子写真感光体について、それぞれ2枚の出力画像についてポチの個数を数え、評価数4枚の平均値を計算し、小数点以下は切り上げて整数の値で示した。
【0093】
さらに、以下の基準でランク付けを行った。
A・・・8個以下
B・・・9個以上16個以下
C・・・17個以上29個以下
D・・・30個以上
ランクDでは、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0094】
(光メモリー)
光メモリーについては、以下のように評価した。
製造した電子写真感光体を上記改造機に設置し、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0095】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の表面の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して、電子写真感光体の表面の暗部電位が−450Vになるように調整した。
【0096】
次に、ベタ黒画像(静電潜像形成用レーザー露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の表面の明部電位を測定し、静電潜像形成用レーザーの光量を調整して、電子写真感光体の表面の明部電位が−100Vになるように調整した。
【0097】
上記の帯電設定およびレーザー露光設定に固定し、A3サイズのベタ白画像10枚、A3サイズの電子写真感光体1周分のベタ黒画像(A3の263mm分がベタ黒、それ以外がベタ白の画像)1枚、A3サイズのベタ白画像1枚、計12枚の連続出力動作を行い、その間の表面電位の測定を行った。電子写真感光体の表面電位の測定は、電子写真感光体の軸方向7点(電子写真感光体の軸方向中心を0mmとして±50mm、±100mm、±150mm)で測定した。なお、電子写真感光体の周方向は、9°間隔40点のデータを取得した。
【0098】
表面電位の測定の後、各軸方向位置でベタ黒画像出力動作の1周前の暗部電位とベタ黒画像出力動作の1周後の暗部電位の電子写真感光体の同一周方向位置の電位差を求めた。
【0099】
次いで、各軸方向位置での電位差の平均値を算出し、最も電位差が大きい値を光メモリーと定義した。なお、各実施例および比較例の値は、1バッチで製造される2本の電子写真感光体のうち、値の大きい方を採用した。
電位差が小さいほど、光メモリーが小さく、電子写真特性が良好である。
【0100】
さらに、以下の基準でランク付けを行った。
A・・・0.0V以上1.0V未満
B・・・1.0V以上2.0V未満
C・・・2.0V以上3.0V未満
D・・・3.0V以上
ランクDでは、出力画像上で濃度差が明確に確認できるレベルであり、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0101】
(膜厚均一性)
電子写真感光体の膜厚を以下の測定点で測定した。
電子写真感光体の軸方向の中央部位置を0cm位置とし、両側それぞれ2cm間隔で各9点(±2cm,±4cm,±6cm,±8cm,±10cm,±12cm,±14cm,±16cm,±18cm)、0cm位置を含めて計19点とし、各軸方向位置において周方向に30°間隔で12点、計228点を測定位置とした。各測定点の膜厚の最大値と最小値の差分を平均膜厚で除した値を膜厚均一性とした。
【0102】
測定は、HELMUTFISCHER社製のFISCHERSCOPEmms(商品名)にプローブETA3.3Hを装着して、渦電流法で行った。値が小さいほど、膜厚均一性が良好である。
【0103】
なお、各実施例および比較例の膜厚均一性の値は、それぞれ2本の電子写真感光体のうち、値が大きい方の値を採用した。
【0104】
さらに、以下の基準でランク付けを行った。
A・・・3.0%未満
B・・・3.0%以上4.0%未満
C・・・4.0%以上5.0%未満
D・・・5.0%以上
ランクDでは、膜厚ムラに応じた濃度差が出力画像で確認できる場合があるため、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0105】
(総合評価)
総合評価として、画像欠陥、光メモリーおよび膜厚均一性のそれぞれのランクで最も低い評価ランクを総合評価として示す。
ランクDでは、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0106】
【表3】
【0107】
表3の画像欠陥の評価結果より、比較例1−2で画像欠陥の個数が増加していることから、片側極性のみの電圧印加では、チャージアップの抑制効果が十分に得られないことがわかる。
【0108】
さらに、V1をV2の20%以上とした実施例1−2と1−3では、V1をV2の20%未満とした実施例1−1と比べて画像欠陥の個数が減少していることから、チャージアップの抑制効果が向上したと考えられる。
【0109】
光メモリーの評価結果より、比較例1−1で大きな値を示していることから、電子写真感光体の製造時に気相成長による物質が増加して、堆積膜の特性が低下したことが推察される。これは、以下のように考えられる。V1が放電維持電圧の絶対値以上になると、原料ガスの電離が停止する状態が無く、プラズマ状態が継続する。このため、プラズマ中での荷電粒子(イオンや電子)の往復運動が繰り返され、プラズマ中での二次反応が増えて気相成長による物質が増加したと考えられる。この物質が堆積膜中に取り込まれて堆積膜の特性が低下したことが推察される。
ランク分けした結果を表9に示す。
【0110】
〈実施例2および比較例2〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を10kHzに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表5に示す条件とした。
【0111】
実施例2および比較例2では、周波数10kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表4に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表8に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
〈実施例3および比較例3〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を100kHzに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表7に示す条件とした。
【0115】
実施例3および比較例3では、周波数100kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表6に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表8に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
【表7】
【0118】
【表8】
【0119】
表8の評価結果より、実施例1および比較例1と同様の傾向を示していることがわかる。
ランク分けした結果を表9に示す。
【0120】
【表9】
【0121】
表9の画像欠陥の評価結果より、V1=0Vである比較例1−2、2−2および3−2では画像欠陥評価がランクDであることから、片側極性のみの電圧印加では、チャージアップの抑制効果が得られないことがわかる。
【0122】
さらに、V1が100Vの実施例1−1、2−1および3−1は、V1がV2の20%以上の実施例と比べると画像欠陥の評価ランクが低くなっている。これより、チャージアップの抑制による画像欠陥レベル改善効果について、V1をV2の20%以上にすることが好ましいことがわかる。
【0123】
光メモリーの評価結果より、比較例1−1、2−1および3−1でランクDであることから、気相成長による物質が増加して、堆積膜の特性が低下したことが推察される。これは、以下のように考えられる。V1が放電維持電圧の絶対値以上になると原料ガスの電離が停止する状態が無く、プラズマ状態が継続する。このため、プラズマ中での荷電粒子(イオンや電子)の往復運動が繰り返され、プラズマ中での二次反応が増えて気相成長による物質が増加したと考えられる。この物質が堆積膜中に取り込まれて堆積膜の特性が低下したことが推察される。
【0124】
膜厚均一性は、100kHzと周波数が高くなると、やや低下する傾向がみられるが、十分な膜厚均一性であり、良好な放電均一性が得られていると考えられる。
【0125】
〈実施例4および比較例4〉
実施例1および比較例1から内圧を400Paに変更し、周波数を10kHzに変更し、Duty比を80%に変更して、表10に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。光導電層の堆積膜形成時のV1については、表11に示す条件とした。
【0126】
実施例4および比較例4では、内圧400Pa、周波数10kHz、Duty比80%で、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表10に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表14に示す。
【0127】
【表10】
【0128】
【表11】
【0129】
〈実施例5および比較例5〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を60kHzに変更した以外は、実施例4と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表13に示す条件とした。
【0130】
実施例5および比較例5では、内圧400Pa、周波数60kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表12に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表14に示す。
【0131】
【表12】
【0132】
【表13】
【0133】
【表14】
【0134】
ランク分けした結果を表15に示す。
【0135】
【表15】
【0136】
表15の評価結果より、実施例1および2に比べて実施例4および5の光メモリーの評価結果がやや低下していることがわかる。それ以外は、実施例1および2と同様の結果を示していることがわかる。
【0137】
〈実施例6および比較例6〉
実施例1および比較例1から内圧を40Paに変更し、周波数を10kHzに変更し、Duty比を20%に変更して、表16に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。光導電層の堆積膜形成時のV1については、表17に示す条件とした。
【0138】
実施例6および比較例6では、内圧40Pa、周波数10kHz、Duty比20%で、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表16に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表20に示す。
【0139】
【表16】
【0140】
【表17】
【0141】
〈実施例7および比較例7〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を60kHzに変更した以外は、実施例6と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表19に示す条件とした。
【0142】
実施例7および比較例7では、内圧40Pa、周波数60kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表18に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表20に示す。
【0143】
【表18】
【0144】
【表19】
【0145】
【表20】
【0146】
ランク分けした結果を表21に示す。
【0147】
【表21】
【0148】
表21の評価結果より、実施例1および2と同様の結果を示していることがわかる。
【0149】
また、実施例4〜7では、Duty比と内圧を変更した場合をみている。チャージアップの量について考えると、1周期中のチャージアップの量は、Duty比が大きく、V2が大きいほど多くなる。それは、t2の期間が長く、V2が大きいほど、プラズマ中の電荷密度も高くチャージアップの量が多くなるからである。また、アフターグローの寿命が短くなる高圧条件(400Pa)である実施例4および5であっても、十分なチャージアップの抑制効果が得られている。一方、内圧が低くなると、アフターグローの寿命も長くなるので、内圧が高い場合よりも多くの電荷成分を引き寄せることができ、チャージアップの抑制効果も得やすい。また、Duty比が小さくなるほど、チャージアップの量は少なくなるので、チャージアップの抑制効果も得やすい。また、V2が小さくなるほど、チャージアップの量は少なくなるので、チャージアップの抑制効果が得やすい。
【0150】
〈実施例8および比較例8〉
実施例1および比較例1と同じプラズマCVD装置を用いて、実施例1とは直径が異なる円筒状基体(直径108mm、長さ358mm、厚さ5mmの鏡面加工を施したアルミニウム製の円筒状基体)上に表22に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。
【0151】
実施例8および比較例8では、電極と円筒状基体との間の距離を小さくしたときの、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
【0152】
光導電層の堆積膜形成時のV1については、表22に示す条件とした。1例当たり1バッチ、1バッチ当たり2本の電子写真感光体を、5バッチ(5例)で計10本製造した。
【0153】
製造した電子写真感光体の評価には、マイナス帯電、反転現像方式に改造したキヤノン株式会社製の複写機(商品名:iR−7086N)の改造機を用いた。また、この改造機は、帯電、現像、転写の各電圧条件および画像露光のレーザー光量を調整できるようにしたものである。また、この複写機の黒色用現像器を外し、表面電位計(Trek社製の表面電位計(商品名:Model344)およびプローブ(商品名:Model555−P))を設置して、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0154】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の表面の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して、電子写真感光体の表面の暗部電位が−450Vになるように調整した。
その後、表面電位計を外して、元の黒色用現像器を取り付けた。
【0155】
画像欠陥を厳しく評価するために、ポチが出やすくなる条件で画像を出力した。具体的には、黒色の現像条件のDCバイアス条件を調整して、かぶりが生じている画像を出力した。
【0156】
画像欠陥の評価としては、画像の電子写真感光体の1周分(=紙の搬送方向の先端から約339mm)×画像領域幅292mmの域内にある直径0.05mmの円以上の大きさ(0.05mmの円を重ねたときに円からはみ出る部分があるもの)のポチ(黒色のポチ)の個数を数えた。
その他は、実施例1と同様にして評価した。
【0157】
光メモリーの評価については、実施例1と同様にして評価した。ただし、評価装置としては上記複写機(商品名:iR−7086N)の改造機に変更し、ベタ黒の部分の範囲を263mmから電子写真感光体の直径108mmの1周分の長さである339mmに変更した。
【0158】
膜厚均一性の評価は、電子写真感光体の長さが358mmなので、測定位置は以下のとおりとして、その他は実施例1と同様にして評価した。
【0159】
電子写真感光体の軸方向の中央部位置を0cm位置とし、両側それぞれ2cm間隔で各8点(±2cm,±4cm,±6cm,±8cm,±10cm,±12cm,±14cm,±16cm)、0cm位置を含めて計17点とし、各軸方向位置において周方向に30°間隔で12点、計204点を測定位置とした。
評価結果を表24に示す。
【0160】
【表22】
【0161】
【表23】
【0162】
【表24】
【0163】
円筒状基体の直径を84mmから108mmに変更したので、電極と円筒状基体との間の距離が60mmから48mmに小さくなっている。表24の評価結果より、実施例1と同様の結果を示していることがわかる。
【0164】
〈実施例9〉
図5AおよびB(以下まとめて「図5」とも表記する。)に示すプラズマCVD装置を用いて、円筒状基体(直径84mm、長さ370mm、厚さ3mmの鏡面加工を施したアルミニウム製の円筒状基体)上に表25に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。なお、下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の円筒状基体の温度、膜厚および周波数に関しては、実施例1と同様にした。また、図5中、515Aはヒーター516と円筒状基体512(512A、512B)とを絶縁するための絶縁部材であり、515Bはヒーター516と支軸522とを絶縁するための絶縁部材である。また、517Aおよび517Bは基体ホルダー513Aおよび513Bの内側に接合している接合電極であり、518Aは上蓋520に取り付けられた絶縁板であり、518Bはベースプレート519に取り付けられた絶縁板である。また、519は接地されたベースプレートであり、520は接地された上蓋である。521は円筒状基体512(512A、512B)を所定の速度で回転させるためのモーターである。また、523は真空計であり、524は原料ガス流入バルブであり、525は原料ガス混合装置であり、526は反応容器511の排気口に連通された排気配管であり、527は排気メインバルブであり、528は真空ポンプである。制御部530は電源531の出力を制御するための制御部である。533Aおよび533Bは真空気密兼絶縁部材(真空気密兼絶縁セラミック)であり、535はガスブロックである。特記した点以外は、図2に示すプラズマCVD装置の各要素とそれぞれ同様の働きをする。
【0165】
実施例9および比較例9では、周波数を3kHz、60kHz、300kHzに変更したときの依存性を調べた。
【0166】
図5に示すプラズマCVD装置では、円筒状基体512(512A、512B)に直流電圧をOn/Offして所定電圧と0Vを矩形波で繰り返すDCパルスを印加する。また、容器壁面側の電極514に電源534よりDC電圧を印加する。これらにより、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるようにしている。
【0167】
図6AおよびBは、矩形波の交播電圧の例を示す図である。
図6Aは、電極の電位をアース電位以外の電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体との間に印加した場合の円筒状基体の電位の変化を示す図である。図6A中の実線が円筒状基体の電位であり、図6A中の破線が電極の電位である。図6Bは、電極と円筒状基体の電位差の変化を示す図である。図6B中の破線が電極と円筒状基体の電位差である。放電開始電圧(負電位)および放電維持電圧(正電位)は、あらかじめ、それぞれの層の堆積膜を形成する際の反応容器内の圧力およびガス条件で、前述した方法により測定した値である。測定結果を表25に示す。
【0168】
光導電層の堆積膜形成時の周波数および放電維持電圧については、表25に示す条件とした。1例当たり1バッチ、1バッチ当たり2本の電子写真感光体を、3バッチ(3例)で計6本製造した。
製造した電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表26に示す。
【0169】
【表25】
【0170】
【表26】
【0171】
表26の評価結果より、実施例9−2は、実施例1−2と同様の結果を示していることがわかる。これより、電圧の印加方法が異なっても、本発明の条件を満たすことによって、本発明の効果を得られることがわかる。
【0172】
実施例9−1では、周波数が3kHzと低いために、1周期でのt2の期間が長い。そのためにチャージアップの量が増加して、実施例2−3や実施例9−2などに比べて画像欠陥が若干増加したものと考えられる。
【0173】
また、周波数が300kHzである実施例9−3では、膜厚均一性がやや低下しているものの、本発明の効果は得られている。
【0174】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0175】
V1 放電維持電圧の絶対値未満の値
V2 放電開始電圧の絶対値以上の値
t1 電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1となっている時間(期間)
t2 電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV2となっている時間(期間)
T 矩形波の周期
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD(plasma chemical vapor deposition)法によって電子写真感光体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アモルファスシリコン(以下「a−Si」とも表記する。)を用いた電子写真感光体は、円筒状基体上に光導電層などの堆積膜を形成することにより製造されている。堆積膜の形成方法としては、RF帯の高周波を用いたグロー放電により堆積膜形成用の原料ガスを分解し、その分解生成物を円筒状基体に被着させる方法、いわゆるRFプラズマCVD法が広く採用されている。
【0003】
近年、電子写真装置の高画質化が強く要求されるようになってきており、これに対応して、電子写真感光体の堆積膜の均一性(堆積膜の膜厚および膜質の均一性)の改善や、堆積膜の特性の向上が強く要求されている。
【0004】
従来のRFプラズマCVD法では、周波数が高いため、波長に応じた定在波が生じてプラズマ中に電界の小さい部分ができたり、用いるプラズマCVD装置のインピーダンスの影響による伝搬ムラのためにプラズマが不均一になったりする場合があり、堆積膜の均一性を向上させるうえでの課題となっていた。また、用いる電界が交播電界であるため、プラズマ中の荷電粒子(イオンや電子)が電界によって往復運動し、その往復運動の間に他の荷電粒子や中性活性種や原料ガスと二次反応を起こし、粉体状の物質となることがあった。この粉体状の物質が堆積膜中に取り込まれてしまうことが、堆積膜の特性を向上させるうえでの課題となっていた。
【0005】
これらの課題のうち、堆積膜の均一性の向上に関しては、定在波やプラズマCVD装置のインピーダンスの影響が小さくなる低周波数でのグロー放電が検討されている。また、堆積膜の特性の向上に関しては、プラズマ中での二次反応を抑制するため、すべての電圧が正および負のいずれか一方の極性になるように調整する、すなわち、一方の極性の電圧のみを印加して放電させることが検討されている。以下、正および負のいずれか一方の極性の電圧のみを印加して放電させることを「片側極性放電」と表記し、正および負の両方の極性の電圧を交互に印加して放電させることを「両側極性放電」と表記する。
【0006】
特許文献1には、300kHz以下の周波数で正および負のいずれか一方のみの極性の矩形波の電圧を用いる技術が開示されている。特許文献1によれば、300kHz以下の低周波数とすることで、堆積膜の均一性が向上するとされている。また、周波数が300kHz以下であっても、特許文献2に開示されているような両側極性放電の場合、上記二次反応が起きうるが、片側極性放電であれば、荷電粒子(イオンや電子)が一方向への移動しかしないため、上記二次反応が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/134781
【特許文献2】特開2001−067657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1に開示されている技術によって製造された電子写真感光体を電子写真装置に用いた場合、画像欠陥のレベルに改善の余地が残されていることがわかった。これは、特許文献1に開示されている技術では、片側極性放電を用いているため、円筒状基体には主に正および負のいずれか一方の極性の荷電粒子のみが到達し、円筒状基体がチャージアップしてしまうことに起因していると考えられる。円筒状基体のチャージアップとは、より具体的には、堆積膜が形成された円筒状基体の表面(≒堆積膜の表面)のチャージアップである。このような円筒状基体のチャージアップは、円筒状基体の全体にわたって生じるものであるが、堆積膜の特性や堆積膜の表面形状の微小な差に起因して、チャージアップの程度は場所によって異なる。このため、円筒状基体では、チャージアップの程度の違いに起因した電界の違いが生じ、微小なスパークが発生しやすくなる。そのスパークの際の電気的なダメージによって、堆積膜の特性が局所的に低下したり、微小な堆積膜の剥がれ(以下「膜剥がれ」とも表記する。)が生じたりする。微小な膜剥がれが生じた場合、その部分は、電子写真感光体を電子写真装置に用いた際に画像欠陥となって現れる。ここでいう画像欠陥とは、ベタ黒(黒色以外のトナーを用いた場合も、便宜上「ベタ黒」と表記する。)画像上に白い点となって現れるものや、ベタ白画像上に黒い点(黒色以外のトナーを用いた場合も、便宜上「黒い点」と表記する。)となって現れるものであり、いわゆる「ポチ」と呼ばれるものである。また、微小な膜剥がれが円筒状基体の近傍で生じた場合であっても、剥がれた膜片が円筒状基体に付着し、それが起点となって円筒状基体上に形成される堆積膜において膜欠陥を生じさせてしまい、やはり画像欠陥(ポチ)に繋がってしまう場合がある。ここでいう膜欠陥とは、微小なスパークによる電気的なダメージによって堆積膜の特性が局所的に低下した部分や、微小なスパークによって円筒状基体上に形成された堆積膜の微小な膜剥がれ部分や、剥がれた膜片が円筒状基体に付着することで生じる突起のことである。
【0009】
このようなチャージアップに起因する弊害は、特許文献1に開示されている技術における矩形波の低電圧部分を0Vとし、荷電粒子の円筒状基体への入射を断続的に停止することによっても、十分には改善されない。このチャージアップに起因する弊害は、特許文献2に開示されているような両側極性放電を採用することで改善されるが、上記二次反応が生じやすくなるため、堆積膜の特性が低下してしまう。
【0010】
以上のように、低周波数の矩形波の電圧を用いたプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、チャージアップの抑制と二次反応の抑制を高いレベルで両立する方法は、従来、見出されていなかった。
【0011】
本発明の目的は、チャージアップの抑制および二次反応の抑制を高いレベルで両立する電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
(i)内部に電極を有する減圧可能な反応容器の内部に、前記電極と離間させて円筒状基体を設置する工程と、
(ii)前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する工程と、
(iii)前記電極および前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を前記電極と前記円筒状基体との間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体上に堆積膜を形成する工程と、
を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記正になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子写真感光体の製造方法を用いることで、堆積膜の均一性および堆積膜の特性が良好で、かつ、画像欠陥が抑制され、高画質な電子写真が出力可能な電子写真感光体が製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】矩形波の交播電圧を説明するための図である。
【図1B】矩形波の交播電圧を説明するための図である。
【図2A】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図2B】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図3A】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図3B】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図3C】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図3D】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。
【図4A】放電開始電圧および放電維持電圧の測定方法を説明するための図である。
【図4B】放電開始電圧および放電維持電圧の測定方法を説明するための図である。
【図5A】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図5B】本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。
【図6A】矩形波の交播電圧の例を示す図である。
【図6B】矩形波の交播電圧の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、
(i)内部に電極を有する減圧可能な反応容器の内部に、前記電極と離間させて円筒状基体を設置する工程と、
(ii)前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する工程と、
(iii)前記電極および前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を前記電極と前記円筒状基体との間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体上に堆積膜を形成する工程と、
を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記正になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)であることを特徴としている。
【0016】
図1AおよびBは、矩形波の交播電圧を説明するための図である。
【0017】
図1Aは、電極の電位をアース電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体との間に印加した場合の円筒状基体の電位の変化を示す図である。図1Aの例では、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)となっており、負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となっている。図1Aの例では、電極の電位を一定としているため、円筒状基体の電位が図1Aに示すように矩形状に変化する。
【0018】
図1A中のTは、矩形波の周期を表しており、矩形波の周波数(パルス周波数)によって決まる。本発明では、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波が用いられ、好ましくは、周波数10kHz以上100kHz以下の矩形波が用いられる。また、図1A中のt1は、上記電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1となっている時間(期間)を表しており、t2は、上記電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV2となっている時間(期間)を表している。また、本発明では、t2をTで除した値(t2/T)をDuty比(%)と定義する。図1Aの例では、Duty比を30%としている。
【0019】
このような矩形波の交播電圧は、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1となる電圧、および、電極の電位に対する円筒状基体の電位が負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV2となる電圧を、DC電源から発生させて、スイッチ素子をON/OFF制御し、DC電源からの電圧を時分割パルス状にすることによって得ることができる。スイッチ素子としては、例えば、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)、MOSFETなどの半導体スイッチ素子を用いたものがある。これらのスイッチ素子によれば、Duty比や周波数を変化させることもできる。
【0020】
図2AおよびB(以下まとめて「図2」とも表記する。)は、本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)の例を示す模式図である。図2Aは縦断面図であり、図2Bは横断面図である。図2に示すプラズマCVD装置では、電極214の電位に対する円筒状基体212(212A、212B)の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を電極214と円筒状基体212(212A、212B)との間に印加して、原料ガスを分解し、円筒状基体212(212A、212B)上(円筒状基体212の外周面)に堆積膜を形成することができる。
【0021】
電源231から出力され、電極214と電極214と離間させて設置された円筒状基体212(212A、212B)との間に印加される矩形波の交播電圧は、制御部230によって周波数、Duty比などが制御される。本発明において、矩形波の交播電圧の周波数は、VLF帯からLF帯となる3kHz以上300kHz以下の範囲内にする。周波数が低くなりすぎると、アークやスパークなどの異常放電が発生しやすくなり、堆積膜に膜欠陥が発生しやすくなる。一方、周波数が高くなりすぎると、波長に応じた定在波が生じてプラズマ中に電界の小さい部分ができたり、プラズマCVD装置のインピーダンスの影響による伝搬ムラのためにプラズマが不均一になったりして、堆積膜の均一性が低下しやすくなる。
【0022】
図1A中のt2の期間では、電極214と円筒状基体212(212A、212B)の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となっているため、電極214と円筒状基体212(212A、212B)との間に放電が生起し、プラズマが生成される。プラズマ中の中性活性種および陽イオンが円筒状基体212(212A、212B)に到達し、円筒状基体212(212A、212B)上に堆積膜が形成される。この過程において、陽イオンが持つ正の電荷により、円筒状基体212(212A、212B)は正電位にチャージアップする。なお、「プラズマが生成される」とは、電極と円筒状基体との間に放電が生起し、原料ガスが電離して、荷電粒子(イオンや電子)が生成されることを意味している。
【0023】
次に、t1の期間になると、電極214と円筒状基体212(212A、212B)の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満になるため、放電が消滅し、プラズマは維持できなくなる。しかしながら、t2の期間で生成された荷電粒子(イオンや電子)は、瞬時には消滅せずにt1の期間において徐々に減衰しながらしばらくの間は残存する。この状態は、一般にアフターグローと呼ばれ、新たに荷電粒子(イオンや電子)は生成されない。このアフターグローの寿命は、数十μ秒から数m秒程度である。アフターグローの寿命は、圧力によって変化する。圧力が高くなるほど、ガス分子などに衝突しやすくなるため、アフターグローの寿命は短くなる傾向である。
【0024】
本例においては、アフターグローの状態で電極214の電位に対する円筒状基体212(212A、212B)の電位が正になるため、アフターグロー中の負の荷電粒子、すなわち電子および陰イオンが円筒状基体212(212A、212B)に到達する。この過程において、電子および陰イオンが持つ負の電荷により、円筒状基体212(212A、212B)の正電位のチャージアップは緩和されることとなる。
【0025】
本発明において、画像欠陥が抑制されるのは、このように円筒状基体のチャージアップが抑制され、微小なスパークが抑制されるためと考えられる。
【0026】
なお、アフターグロー中においては新たな荷電粒子(イオンや電子)は生成されず、アフターグロー中の荷電粒子の量は限られている。そのため、t2の期間で生成された荷電粒子(イオンや電子)の運動の向きはt1の期間になると反転するが、その反転による二次反応は、堆積膜の特性に悪影響を与えるほどの物質は生じさせない。また、t1の期間において荷電粒子(イオンや電子)が円筒状基体に到達しても、t2の期間において生じた円筒状基体のチャージアップが緩和されるだけであり、逆の極性にまで円筒状基体がチャージアップすることはない。
【0027】
また、図2に示すプラズマCVD装置においては、円筒状基体212(212A、212B)を保持するためのホルダー(以下「基体ホルダー」と表記する。)213にも円筒状基体212(212A、212B)と同様の電圧が印加されるので、基体ホルダー213においても、円筒状基体212(212A、212B)と同様の上記現象が生じている。
【0028】
図1Aにおいては、V2からV1への切り替わりおよびV1からV2への切り替わりは瞬時に行われるように示しているが、一般的な市販電源では、電源回路特性の限界から、V2からV1への切り替わりおよびV1からV2への切り替わりには、ある程度の時間を要する。その切り替わりに要する時間は、一般的な市販電源においては1μ秒以下の程度である。前述したようにアフターグローの寿命は数十μ秒から数m秒程度であり、1μ秒に比べて長いので、この程度の切り替わりに要する時間が本発明の効果に影響を及ぼすことはない。また、電源によっては、図1Bに示すように、V2からV1への切り替わり時およびV1からV2への切り替わり時に0Vでの時間が必要になるものがあるが、この0Vでの時間は0.5μ秒以下の程度であり、アフターグローの寿命に比べて十分に短いので、本発明の効果に影響を及ぼすことはない。
【0029】
また、図1Aにおいては、完全な矩形波を示しているが、一般的な市販電源では、矩形波のエッジ部になまりが生じたり、オーバーシュートによって若干鋭角状となったり、V1やV2になるときにリンギングが生じたりすることもある。このような場合でも、本発明の効果は得られる。
【0030】
次に、放電開始電圧および放電維持電圧について詳細に述べる。
電極と円筒状基体との間の放電は、電極と円筒状基体との間にわずかながら存在している電子が電界によって正電位側に運ばれ、その途中でガス分子に衝突してこれを電離させて、電子とイオンを生成するα作用が継続することによって始まる。この電離を生じさせるためには、衝突時の電子のエネルギーが、ガス分子の電離エネルギー以上であることが必要となる。電子がガス分子に衝突する際のエネルギーは、電界が大きくなるほど、すなわち、電極と円筒状基体との間に印加する電圧が大きくなるほど大きくなる。電極と円筒状基体との間に印加する電圧を徐々に上げていき、電子がガス分子に衝突する際のエネルギーがガス分子の電離エネルギーに達すると、ガス分子の電離によって電極と円筒状基体との間に存在する電子が増加して、衝突によるガス分子の電離が継続して起こることで放電が始まる。この放電が始まる時点の電圧を放電開始電圧という。
【0031】
また、放電が開始した状態から、電極と円筒状基体との間に印加する電圧を下げていくと、ある電圧よりも小さくなった時点で放電が維持できなくなる。放電が維持できる最低電圧を放電維持電圧という。放電維持電圧は、通常、放電開始電圧よりも低い。これは、放電が生起した状態では、放電が生起していない状態と比べて放電空間内の電子の数が多く、電極と円筒状基体との間の印加電圧の絶対値が放電開始電圧の絶対値未満になっても、放電維持電圧の絶対値以上であれば、ガス分子を電離可能なエネルギーを持った電子が放電維持に必要な数以上存在するためである。
【0032】
また、γ作用と呼ばれる現象も、放電維持電圧が放電開始電圧よりも低くなる理由の1つとなっている。γ作用とは、ガス分子が電離して生じたイオンが電極や円筒状基体に衝突する際、それらから二次電子が放出される現象である。放電が生起した後は、このγ作用によって生じた電子もガス分子の電離に寄与するので、放電開始電圧よりも低い電圧で放電が維持可能となる。
【0033】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス分子の電離電圧および電子がガス分子に衝突するときのエネルギーが支配的な要素となる。ガス分子の電離電圧は、ガス種が決まれば決定される。また、ガス分子に衝突するときの電子のエネルギーは、電界強度および電子がガス分子に衝突するまでの移動距離の関数となる。言い換えれば、印加電圧、電極と円筒状基体との間の距離および電子がガス分子に衝突するまでの移動距離の関数となる。また、電子がガス分子に衝突するまでの移動距離は、ガスの密度の関数、言い換えれば、圧力の関数となる。
【0034】
なお、複数のガス種からなる混合ガスを用いる場合、各々のガスの電離電圧とともに、ガスの混合比率も、放電開始電圧および放電維持電圧を決定付ける要素となる。
【0035】
これら以外に放電開始電圧および放電維持電圧に影響を及ぼすものとしては、電極の表面材質、形状および温度などがあるが、これらは電離電圧、印加電圧、電極と円筒状基体との間の距離および圧力に比べて影響度は小さい。
【0036】
このように、放電開始電圧および放電維持電圧は、ガス種、ガスの混合比率、電極と円筒状基体との間の距離および圧力によって異なるため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって固有の値を持つこととなる。すなわち、使用するプラズマCVD装置と使用するガス条件が決まれば、放電開始電圧および放電維持電圧は一意に決まる。
【0037】
本発明においては、放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものよりも、正および負のいずれか一方の電界で放電を生起させ、続いて、それとは逆極性の電界で放電が維持しないレベルにすることが効果を得るために重要である。そのため、使用するガス条件およびプラズマCVD装置の構成によって放電開始電圧および放電維持電圧の値そのものは変わるものの、本発明の条件を満たせば、本発明の効果を得ることができる。例えば、シランガスおよび水素ガスの混合ガスを用いた場合と、シランガスおよび水素ガスおよびメタンガスの混合ガスを用いた場合では、放電開始電圧および放電維持電圧は異なる。しかしながら、どちらの場合においても、本発明の条件を満たすことによって、本発明の効果を得ることができる。
【0038】
また、放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)が大きいほど、円筒状基体のチャージアップの量は多くなるが、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)の密度も高くなるため、放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)の大きさによらず、同様の効果を得ることができる。
【0039】
一方、放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)は、チャージアップの抑制の観点から、放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)に対して20%以上の値であることが好ましい。これは、放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)を大きくしていくと、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)を円筒状基体に到達させる力が大きくなり、チャージアップを抑制するための単位時間当たりの電荷の入射密度が高まるためと考えられる。ただし、20%以上の条件では、チャージアップを抑制する効果はわずかにしか向上しない。これは、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)の量が限られるため、荷電粒子を円筒状基体に到達させる力を高めても、t1の期間に円筒状基体に到達する荷電粒子の総量に大きな差が生じないためと考えられる。
【0040】
また、放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)は、本発明の効果を安定して得る観点から、放電維持電圧の絶対値に対して95%以下であることが好ましい。95%以下とすることで、電源出力の変動や、プラズマCVD装置の反応容器の内壁面からの付着物の剥落による放電空間内の一時的な電界変動が生じても、放電維持電圧の絶対値未満の状態を維持することができるので、本発明の効果を安定して得やすくなる。
【0041】
放電が開始したか否か、および、放電が維持されているか否かは、例えば、電圧−電流特性から判断する方法や、プラズマ発光を検知して判断する方法などがある。
【0042】
図4AおよびBは、放電開始電圧および放電維持電圧の測定方法を説明するための図である。図4Aは、図2に示すプラズマCVD装置を用いて、電極と円筒状基体との間に電圧を印加し、放電開始電圧を求めたときの電圧−電流特性を示す図である。図4Bは、図4Aと同様、図2に示すプラズマCVD装置を用いて、放電維持電圧を求めたときの電圧−電流特性を示す図である。このような電圧−電流特性から、放電が開始したか否か、および、放電が維持されているか否かを判断し、放電開始電圧および放電維持電圧を求めることができる。
【0043】
電極の電位に対する円筒状基体の電位が負になったときに放電を生起させて電子写真感光体を製造しようとする場合には、図4Aの例のように負電位の放電開始電圧と、図4Bの例のように正電位の放電維持電圧を求めることになる。
【0044】
まず、図2に示すプラズマCVD装置の制御部230で、電圧を0Vと設定電圧を繰り返す矩形波の電圧(パルス電圧)として、周波数25kHzおよびDuty比30%の条件で出力波形を制御した。そして、設定電圧を0Vから負の方向に10V刻みで大きくしていき(0V→−10V→−20V…)、そのときの電流変化を測定した。図4Aに示すように、設定電圧を0Vから徐々に負の方向に大きくしていくと、電流が急に増加する点が観測される。そのときの電圧が放電開始電圧である。なお、放電開始電圧に至るまでも、若干の電流が計測されているが、その電流は放電に伴うものではなく、電極と円筒状基体との間に存在した荷電粒子が動くことによる暗流と、プラズマCVD装置内での漏れ電流である。なお、図4Aにおいては、設定電圧が−650Vの際の電流を100%として示している。
【0045】
次に、図4Bに示すように、設定電圧を+650Vまで上げて電極と円筒状基体との間に放電を生起させる。この状態から設定電圧を0Vの方向に10V刻みで小さくしていくと(+650V→+640V→+630V…)、電流が急に減少する点が観測される。電流が急に減少する直前の電圧が放電維持電圧である。なお、図4Bにおいては、設定電圧が+650Vの際の電流を100%として示している。
【0046】
また、矩形波のDuty比は、生産性とチャージアップの抑制とを両立させる観点から、20%以上80%以下であることが好ましい。Duty比が大きくなるほど、原料ガスを電離させるt2の期間の比率が大きくなり、生産性が向上する傾向にある。一方、Duty比が小さくなるほど、円筒状基体のチャージアップを緩和するt1の期間の比率が大きくなり、チャージアップを抑制するレベルが大きくなる傾向にある。ただし、アフターグローには寿命があり、アフターグロー中の荷電粒子(イオンや電子)の量にも限りがあるため、Duty比を小さくしてt1の期間を長くしていっても、ある程度の長さでチャージアップを抑制するレベルは変わらなくなる。
【0047】
なお、周波数3kHzのときは、周期Tが333μ秒強となる。このような周波数の低い条件において、Duty比が小さくなり、t1の期間が長くなると、t1の期間の途中でアフターグローが消滅する場合があるが、t1の期間が長い分、t2の期間は短くなり、t2の期間における円筒状基体のチャージアップの量が小さくなるため、アフターグローの寿命の間で十分にチャージアップを緩和することができる。また、周波数300kHzのときは、周期Tが3.3μ秒強となる。このような周波数が高い条件において、Duty比が大きくなると、t1の期間は短くなるが、周波数が低い場合に比べればt2の期間が短く、t2の期間における円筒状基体のチャージアップの量が小さいため、十分にチャージアップを緩和することができる。
【0048】
以上、主として、電極の電位をアース電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体との間に印加し、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)となり、負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となる場合を例にとって、本発明を説明したが、その他の場合も、本発明の条件を満たせば、本発明の効果を得ることができる。その他の場合として、例えば、電極の電位をアース電位以外の電位で一定としてもよいし、円筒状基体の電位をアース電位またはそれ以外の電位で一定としてもよいし、電極の電位および円筒状基体の電位のどちらも一定でないようにしてもよい。また、上記正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となり、上記負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)となるようにしてもよい。
【0049】
本発明では、円筒状基体上(円筒状基体の外周面)に、プラズマCVD法によって堆積膜を形成して電子写真感光体を製造する。堆積膜としては、例えば、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面層などが挙げられ、これらの層を円筒状基体側から順次積層して電子写真感光体を製造することが一般的である。
【0050】
下部電荷注入阻止層は、円筒状基体から光導電層への電荷の注入を抑制(阻止)するための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。
【0051】
光導電層は、電子写真感光体にレーザー光などの像露光光を照射することによって電荷を発生させるための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。光導電層の膜厚は、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上60μm以下であることがより好ましい。
【0052】
上部電荷注入阻止層は、電子写真感光体の表面を帯電した際の電子写真感光体の表面の電荷が光導電層に注入することを抑制(阻止)するための層であり、例えばa−Si系材料により形成される。また、上部電荷注入阻止層の材料は、a−Siに炭素(C)、ホウ素(B)、窒素(N)または酸素(O)を含有させたものが好ましい。上部電荷注入阻止層の膜厚は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。
【0053】
表面層は、電子写真感光体の表面を摩耗などから保護するための層であり、例えば(水素化)アモルファスシリコンカーバイドや、(水素化)アモルファスシリコンナイトライドや、(水素化)アモルファスカーボンなどにより形成される。表面層は、電子写真感光体に照射される像露光光が吸収されることのないように、像露光光に対して十分に広い光学バンドギャップを有していることが好ましい。また、静電潜像を十分に保持しうる抵抗値(好適には1011Ω・cm以上)を有していることが好ましい。
【0054】
電子写真感光体は、例えば、図2に示すプラズマCVD装置を用いることによって製造することができる。
【0055】
図2に示すプラズマCVD装置は、プラズマ処理によって円筒状基体212(上側円筒状基体212A、下側円筒状基体212B)上(円筒状基体212の外周面)に堆積膜を形成するための円筒状の反応容器211と、円筒状基体212(212A、212B)を加熱するためのヒーター216を備えている。また、円筒状基体212(212A、212B)を保持する基体ホルダー213Aおよび213B、反応容器211内に原料ガスを導入するためのガスブロック235を備えている。ガスブロック235は、電極214から取り外しが可能(脱着可能)な構造となっている。
【0056】
ガスブロック235とガス供給系との接続は、継ぎ手部材236を介して接続されている。このような構成とすることで、ガスブロックのみを入れ替えて品種ごとの製造に対応した構成の反応容器に段取り換えができる。
【0057】
図3A〜Dは、本発明の電子写真感光体の製造方法を実施するための製造装置(プラズマCVD装置)に用いることができるガスブロックの例を示す模式図である。図3Aは、ガスブロックの外観図であり、図3B〜Dは、ガスブロックの断面図である。ガスブロック300は、管状空洞部303、原料ガス放出孔304、原料ガス導入継ぎ手部材317で構成されており、原料ガス放出孔304が、反応容器211の内面に配置されるように取り付けられている。原料ガスライン318と原料ガス導入継ぎ手部材317が接続されることにより、反応容器211内に原料ガスが導入可能な構成となる。
【0058】
ガスブロック235(300)は、反応容器211に取り付けられた状態で電極214の一部となる。ガスブロック235(300)は、電極214の他の部分と同電位になるように反応容器211に取り付けられることが好ましい。このことにより、ガスブロック235を含めた反応容器211内の側壁面全体が電極となり、より均一なプラズマを生成することができる。ガスブロック235の材質は、導電性の金属であることが好ましく、加工の容易性やコストの観点から、アルミニウム、ステンレス鋼がより好ましい。
【0059】
また、ガスブロック235の取り付け方法としては、例えば、導電性のネジで固定する方法が挙げられる。
【0060】
ガスブロック235の形状に関しては、電極214の他の部分の内面との段差が少なくなる形状が好ましい。また、電極214の他の部分の内面と同じ面をなすガスブロックの面(ガス放出孔側の面)は平面でもよいが、電極214のその他の内面が曲面である場合、それと同じ曲率を持つ曲面であることが好ましい。また、図3Cに示すように、背板302が設けられ、ガスブロックの本体301と分離可能な構成になっていてもよい。
【0061】
図3Dは、本体301および背板302を有するガスブロックの背板302を外した状態の模式図である。本体301と背板302は、Oリング305により気密が保持される構造になっている。図3Dに示すように、背板302を外すことで、内部管状空洞部303が開放状態となるため、ガスブロック内部のガス経路が清掃しやすくなる。堆積膜形成中の残渣やエッチング時に取りきれない残渣などがガス経路に残ると、電子写真感光体の画像欠陥の要因となる。
【0062】
ガスブロックのガス放出孔の直径は、0.5〜2.0mmの範囲であることが好ましい。さらに、各ガス放出孔の精度は、直径の±20%以内の精度であることが好ましい。ガス放出孔の精度によっては、電子写真感光体の長手方向(軸方向)の特性ムラのみならず、円筒状基体を回転させながら堆積膜を形成する場合、電子写真感光体の周方向の特性ムラを引き起こす場合もある。
【0063】
ガスブロックのガス放出孔の近傍の材質には、絶縁性セラミックを使用することが好ましい。堆積膜形成条件によっては、ガスの流れ(突出圧力)の影響で、ガス放出孔の近傍にプラズマが集中しやすい状態になる場合があるため、これを抑制するうえで絶縁性セラミックの使用は効果的である。ガスブロック235を電極214から取り外しが可能(脱着可能)な構造とすることにより、ガスブロック単体で加工が行えるので、管状のセラミック部品をガス放出孔の近傍に埋め込む加工も容易に行える。セラミックス材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ムライト、コージェライト、炭化ケイ素、チッ化ホウ素、チッ化アルミニウムなどが挙げられる。これらの中でも、絶縁抵抗の観点から、アルミナ、チッ化ホウ素、チッ化アルミニウムが好ましく、コストおよび加工性の観点から、アルミナがより好ましい。
【0064】
反応容器211内には、電極214、ベースプレート219および上蓋220により減圧可能な空間(放電空間)が形成されている。電極214は、一定の電位にすることが好ましく、アース電位にする(接地する)ことがより好ましい。電極214を一定の電位とすることで、電極214と反応容器211中の他の部分との電位差を一定に保つことができるため、製造する電子写真感光体の特性の再現性が向上する。さらに、電極214を接地することで、プラズマCVD装置の取り扱いが容易になる。なお、ベースプレート219、上蓋220を接地し、電極214を接地しない場合には、電極214とベースプレート219、上蓋220との間に絶縁性の部材を設けることが好ましい。図2に示すプラズマCVD装置においては、電極214、ベースプレート219および上蓋220のいずれも接地した。
【0065】
また、図2に示すプラズマCVD装置は、原料ガスの流量を調整するためのマスフローコントローラー(不図示)を内包する原料ガス混合装置225と原料ガス流入バルブ224を備えている。
【0066】
円筒状基体212(212A、212B)を保持する基体ホルダー213Aおよび213Bは回転可能に支持されている。この回転支持機構は、支軸222と、支軸222と歯車で接続されたモーター221とを有している。
【0067】
基体ホルダー213Aおよび213Bの内側には、接合電極217Aおよび217Bが接合している。接合電極217Aおよび217Bは、支軸222を介して電源231に接続されている。電極214と円筒状基体212(212A、212B)、基体ホルダー213A、213Bは、中心軸が一致するように配置されている。
【0068】
ヒーター216の外面は接地されていて、ヒーター216と円筒状基体212(212A、212B)との間に絶縁部材215Aが設けられていることで、ヒーター216と円筒状基体212(212A、212B)とは絶縁されている。ヒーター216の内側には、支軸222との間に絶縁部材215Bが設置され、ヒーター216と支軸222が絶縁されている。
【0069】
図2に示すプラズマCVD装置は、排気系として、反応容器211の排気口に連通された排気配管226と、排気メインバルブ227と、真空ポンプ228とを有している。真空ポンプとしては、例えば、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプなどが挙げられる。この排気系により、反応容器211に設けられた真空計223を見ながら、反応容器211内を所定の圧力に維持することができる。
【0070】
電源231からの出力は、制御部230によって制御される。制御部230は、電源231の出力を制御することにより、電極214と円筒状基体212(212A、212B)との間に周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を印加可能になっている。
【0071】
堆積膜を形成するための放電空間(減圧可能な空間)は、接地された電極214と、接地されたベースプレート219に取り付けられた絶縁板218Bと、接地された上蓋220に取り付けられた絶縁板218Aによって規定されている。
【0072】
円筒状基体212(212A、212B)と電極214との間の距離Dについて説明する。距離Dが5mm以上であれば、円筒状基体212(212A、212B)設置時の円筒状基体212(212A、212B)と電極214との同軸性のずれなどによって生じる距離Dのロットごとのばらつきの影響が生じにくいため、安定した再現性を得やすくなる。ただし、距離Dが大きいほど、反応容器211が大きくなるため、単位設置面積当たりの生産性は低下する。このため、距離Dは、5mm以上300mm以下であることが好ましい。
【0073】
以下、図2に示すプラズマ装置を用いた電子写真感光体の製造方法の一例について説明する。
旋盤などを用いて表面に鏡面加工を施した円筒状基体212(212A、212B)を、基体ホルダー213A、213Bに装着し、反応容器211内の円筒状基体加熱用のヒーター216を包含するように反応容器211内に設置する。
【0074】
次に、ガス供給装置内の排気を兼ねて、原料ガス流入バルブ224を開き、排気メインバルブ227を開いて、反応容器211内およびガスブロック235内を排気する。真空計223の読みが所定の圧力(例えば0.67Pa以下)になった時点で、加熱用の不活性ガス(例えばアルゴンガス)をガスブロック235から反応容器211に導入する。そして、反応容器211内が所定の圧力になるように加熱用の不活性ガスの流量、排気メインバルブ227の開口、真空ポンプ228の排気速度などを調整する。その後、温度コントローラー(不図示)を作動させて、円筒状基体212(212A、212B)をヒーター216により加熱し、円筒状基体212(212A、212B)の温度を所定の温度(例えば20〜500℃)に制御する。円筒状基体212(212A、212B)が所定の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止める。これと並行して、堆積膜(アモルファス膜)形成用の原料ガス(例えば、SiH4、Si2H6などの水素化ケイ素ガスや、CH4、C2H6などの炭化水素ガスなど。少なくとも1種は水素化ケイ素ガスであることが好ましい。)を、また、ドーピングガス(例えば、B2H6、PH3など。)を、原料ガス混合装置225により混合した後に、反応容器211内に徐々に導入する。次に、原料ガス混合装置225内のマスフローコントローラー(不図示)によって、各原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際、反応容器211内が所定の圧力(例えば1〜100Pa)に維持されるように真空計223を見ながら、排気メインバルブ227の開口、真空ポンプ228の排気速度などを調整する。
【0075】
以上の手順によって堆積膜形成の準備を完了した後、円筒状基体212(212A、212B)上に堆積膜の形成を行う。具体的には、反応容器211内の圧力(反応容器内の圧力を、以下単に「内圧」とも表記する。)が安定したのを確認した後、電源231を所定の電圧に設定して、制御部230で所定の周波数およびDuty比に設定する。これにより、支軸222および基体ホルダー213A、213Bを通じて円筒状基体212(212A、212B)と電極214との間に矩形波の交播電圧を印加して、グロー放電を生起させる。この放電のエネルギーによって反応容器211内に導入した各原料ガスが分解され、円筒状基体212(212A、212B)上に所定の堆積膜が形成される。なお、堆積膜の形成を行っている間は、円筒状基体212(212A、212B)をモーター221によって所定の速度で回転させてもよい。
【0076】
所定の膜厚の堆積膜の形成を行った後、交播電圧の印加を止め、反応容器211への各原料ガスの流入を止めて、反応容器内を一旦高真空になるように排気する。上記のような操作を繰り返し行うことによって、電子写真感光体を製造することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0078】
〈実施例1および比較例1〉
実施例1および比較例1では、電極の電位をアース電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるようにし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が正になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)、負になるときの電極と円筒状基体の電位差の絶対値が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)となるようにし、電極と円筒状基体との間に印加する矩形波の交播電圧の周波数を60kHzとし、Duty比を50%として、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。なお、電極の電位がアース電位(0V)であるため、V1、V2は、それぞれ、電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1、V2となったときの円筒状基体の電位の絶対値と同じ値である。
【0079】
図2に示すプラズマCVD装置を用いて、円筒状基体(直径84mm、長さ381mm、厚さ3mmの鏡面加工を施したアルミニウム製の円筒状基体)上に表1に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。その際、下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層、表面層の順に堆積膜の形成を行った。放電開始電圧および放電維持電圧は、表1に示すとおりであった。
【0080】
光導電層の堆積膜形成時のV1については、表2に示す条件とした。1例当たり1バッチ、1バッチ当たり2本の電子写真感光体を、5バッチ(5例)で計10本製造した。放電開始電圧(負電位)および放電維持電圧(正電位)は、あらかじめ、それぞれの層の堆積膜を形成する際の反応容器内の圧力およびガス条件で、前述した方法により測定した値である。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表2中の比較例1−1のV1(440V)は放電維持電圧の絶対値(440V)と等しいため、正確にはV1ではないが、実施例のV1と比較する値であるため、便宜上「V1」と表記している。以下同様である。
【0084】
実施例1および比較例1で製造したそれぞれ10本の電子写真感光体を以下の方法で評価した。評価結果を表3に示す。
【0085】
(画像欠陥)
画像欠陥については、以下のように評価した。
【0086】
製造した電子写真感光体をマイナス帯電、反転現像方式に改造したキヤノン株式会社製の複写機(商品名:iRC6800)の改造機に設置した。また、この複写機の黒色用現像器を外し、表面電位計(Trek社製の表面電位計(商品名:Model344)およびプローブ(商品名:Model555−P))を設置して、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0087】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)を出力し、電子写真感光体の表面の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して、電子写真感光体の表面の暗部電位が−450Vになるように調整した。
【0088】
画像欠陥を厳しく評価するために、ポチが出やすくなる条件で画像を出力した。具体的には、シアン色の現像条件のDCバイアス条件を調整して、かぶり(現像操作によって本来非画像部となるべき部分にトナーが付着する現象)が生じている画像を出力した。画像出力の際の現像は、シアントナーを用いた現像器のみでの現像とした。
【0089】
以下の手順により、かぶり濃度の測定を行い、かぶり濃度が0.4〜0.8%の範囲になる現像条件で出力したものを評価用画像とした。評価用画像の反射率を測定し、さらに未使用の紙の反射率を測定した。評価用画像の反射率の値を未使用の紙の反射率の値から引いてかぶり濃度とした。反射率は、東京電色製の白色光度計(商品名:TC−6DS)にアンバーのフィルターを装着して測定した。
【0090】
画像出力は、温度23℃/湿度60%RHの常温常湿環境下で行った。以下も同様である。
出力紙としてキヤノンマーケティングジャパン株式会社の紙A3用紙(商品名:CS−814(81.4g/m2))を用い、連続して10枚のベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)を出力して、最後の2枚を用いて評価を行った。
【0091】
画像の電子写真感光体の1周分(=紙の搬送方向の先端から約264mm)×画像領域幅292mmの域内にある直径0.05mmの円以上の大きさ(0.05mmの円を重ねたときに円からはみ出る部分があるもの)のポチ(シアン色のポチ)の個数を数えた。
【0092】
評価は、実施例および比較例のそれぞれ2本の電子写真感光体について、それぞれ2枚の出力画像についてポチの個数を数え、評価数4枚の平均値を計算し、小数点以下は切り上げて整数の値で示した。
【0093】
さらに、以下の基準でランク付けを行った。
A・・・8個以下
B・・・9個以上16個以下
C・・・17個以上29個以下
D・・・30個以上
ランクDでは、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0094】
(光メモリー)
光メモリーについては、以下のように評価した。
製造した電子写真感光体を上記改造機に設置し、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0095】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の表面の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して、電子写真感光体の表面の暗部電位が−450Vになるように調整した。
【0096】
次に、ベタ黒画像(静電潜像形成用レーザー露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の表面の明部電位を測定し、静電潜像形成用レーザーの光量を調整して、電子写真感光体の表面の明部電位が−100Vになるように調整した。
【0097】
上記の帯電設定およびレーザー露光設定に固定し、A3サイズのベタ白画像10枚、A3サイズの電子写真感光体1周分のベタ黒画像(A3の263mm分がベタ黒、それ以外がベタ白の画像)1枚、A3サイズのベタ白画像1枚、計12枚の連続出力動作を行い、その間の表面電位の測定を行った。電子写真感光体の表面電位の測定は、電子写真感光体の軸方向7点(電子写真感光体の軸方向中心を0mmとして±50mm、±100mm、±150mm)で測定した。なお、電子写真感光体の周方向は、9°間隔40点のデータを取得した。
【0098】
表面電位の測定の後、各軸方向位置でベタ黒画像出力動作の1周前の暗部電位とベタ黒画像出力動作の1周後の暗部電位の電子写真感光体の同一周方向位置の電位差を求めた。
【0099】
次いで、各軸方向位置での電位差の平均値を算出し、最も電位差が大きい値を光メモリーと定義した。なお、各実施例および比較例の値は、1バッチで製造される2本の電子写真感光体のうち、値の大きい方を採用した。
電位差が小さいほど、光メモリーが小さく、電子写真特性が良好である。
【0100】
さらに、以下の基準でランク付けを行った。
A・・・0.0V以上1.0V未満
B・・・1.0V以上2.0V未満
C・・・2.0V以上3.0V未満
D・・・3.0V以上
ランクDでは、出力画像上で濃度差が明確に確認できるレベルであり、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0101】
(膜厚均一性)
電子写真感光体の膜厚を以下の測定点で測定した。
電子写真感光体の軸方向の中央部位置を0cm位置とし、両側それぞれ2cm間隔で各9点(±2cm,±4cm,±6cm,±8cm,±10cm,±12cm,±14cm,±16cm,±18cm)、0cm位置を含めて計19点とし、各軸方向位置において周方向に30°間隔で12点、計228点を測定位置とした。各測定点の膜厚の最大値と最小値の差分を平均膜厚で除した値を膜厚均一性とした。
【0102】
測定は、HELMUTFISCHER社製のFISCHERSCOPEmms(商品名)にプローブETA3.3Hを装着して、渦電流法で行った。値が小さいほど、膜厚均一性が良好である。
【0103】
なお、各実施例および比較例の膜厚均一性の値は、それぞれ2本の電子写真感光体のうち、値が大きい方の値を採用した。
【0104】
さらに、以下の基準でランク付けを行った。
A・・・3.0%未満
B・・・3.0%以上4.0%未満
C・・・4.0%以上5.0%未満
D・・・5.0%以上
ランクDでは、膜厚ムラに応じた濃度差が出力画像で確認できる場合があるため、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0105】
(総合評価)
総合評価として、画像欠陥、光メモリーおよび膜厚均一性のそれぞれのランクで最も低い評価ランクを総合評価として示す。
ランクDでは、本発明の効果が得られていないと判断した。
【0106】
【表3】
【0107】
表3の画像欠陥の評価結果より、比較例1−2で画像欠陥の個数が増加していることから、片側極性のみの電圧印加では、チャージアップの抑制効果が十分に得られないことがわかる。
【0108】
さらに、V1をV2の20%以上とした実施例1−2と1−3では、V1をV2の20%未満とした実施例1−1と比べて画像欠陥の個数が減少していることから、チャージアップの抑制効果が向上したと考えられる。
【0109】
光メモリーの評価結果より、比較例1−1で大きな値を示していることから、電子写真感光体の製造時に気相成長による物質が増加して、堆積膜の特性が低下したことが推察される。これは、以下のように考えられる。V1が放電維持電圧の絶対値以上になると、原料ガスの電離が停止する状態が無く、プラズマ状態が継続する。このため、プラズマ中での荷電粒子(イオンや電子)の往復運動が繰り返され、プラズマ中での二次反応が増えて気相成長による物質が増加したと考えられる。この物質が堆積膜中に取り込まれて堆積膜の特性が低下したことが推察される。
ランク分けした結果を表9に示す。
【0110】
〈実施例2および比較例2〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を10kHzに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表5に示す条件とした。
【0111】
実施例2および比較例2では、周波数10kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表4に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表8に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
〈実施例3および比較例3〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を100kHzに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表7に示す条件とした。
【0115】
実施例3および比較例3では、周波数100kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表6に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表8に示す。
【0116】
【表6】
【0117】
【表7】
【0118】
【表8】
【0119】
表8の評価結果より、実施例1および比較例1と同様の傾向を示していることがわかる。
ランク分けした結果を表9に示す。
【0120】
【表9】
【0121】
表9の画像欠陥の評価結果より、V1=0Vである比較例1−2、2−2および3−2では画像欠陥評価がランクDであることから、片側極性のみの電圧印加では、チャージアップの抑制効果が得られないことがわかる。
【0122】
さらに、V1が100Vの実施例1−1、2−1および3−1は、V1がV2の20%以上の実施例と比べると画像欠陥の評価ランクが低くなっている。これより、チャージアップの抑制による画像欠陥レベル改善効果について、V1をV2の20%以上にすることが好ましいことがわかる。
【0123】
光メモリーの評価結果より、比較例1−1、2−1および3−1でランクDであることから、気相成長による物質が増加して、堆積膜の特性が低下したことが推察される。これは、以下のように考えられる。V1が放電維持電圧の絶対値以上になると原料ガスの電離が停止する状態が無く、プラズマ状態が継続する。このため、プラズマ中での荷電粒子(イオンや電子)の往復運動が繰り返され、プラズマ中での二次反応が増えて気相成長による物質が増加したと考えられる。この物質が堆積膜中に取り込まれて堆積膜の特性が低下したことが推察される。
【0124】
膜厚均一性は、100kHzと周波数が高くなると、やや低下する傾向がみられるが、十分な膜厚均一性であり、良好な放電均一性が得られていると考えられる。
【0125】
〈実施例4および比較例4〉
実施例1および比較例1から内圧を400Paに変更し、周波数を10kHzに変更し、Duty比を80%に変更して、表10に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。光導電層の堆積膜形成時のV1については、表11に示す条件とした。
【0126】
実施例4および比較例4では、内圧400Pa、周波数10kHz、Duty比80%で、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表10に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表14に示す。
【0127】
【表10】
【0128】
【表11】
【0129】
〈実施例5および比較例5〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を60kHzに変更した以外は、実施例4と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表13に示す条件とした。
【0130】
実施例5および比較例5では、内圧400Pa、周波数60kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表12に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表14に示す。
【0131】
【表12】
【0132】
【表13】
【0133】
【表14】
【0134】
ランク分けした結果を表15に示す。
【0135】
【表15】
【0136】
表15の評価結果より、実施例1および2に比べて実施例4および5の光メモリーの評価結果がやや低下していることがわかる。それ以外は、実施例1および2と同様の結果を示していることがわかる。
【0137】
〈実施例6および比較例6〉
実施例1および比較例1から内圧を40Paに変更し、周波数を10kHzに変更し、Duty比を20%に変更して、表16に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。光導電層の堆積膜形成時のV1については、表17に示す条件とした。
【0138】
実施例6および比較例6では、内圧40Pa、周波数10kHz、Duty比20%で、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表16に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表20に示す。
【0139】
【表16】
【0140】
【表17】
【0141】
〈実施例7および比較例7〉
下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の周波数を60kHzに変更した以外は、実施例6と同様にして電子写真感光体を製造した。ただし、光導電層の堆積膜形成時のV1については、表19に示す条件とした。
【0142】
実施例7および比較例7では、内圧40Pa、周波数60kHzで、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
また、放電開始電圧および放電維持電圧は、表18に示すとおりだった。
製造した各条件2本、合計10本の電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表20に示す。
【0143】
【表18】
【0144】
【表19】
【0145】
【表20】
【0146】
ランク分けした結果を表21に示す。
【0147】
【表21】
【0148】
表21の評価結果より、実施例1および2と同様の結果を示していることがわかる。
【0149】
また、実施例4〜7では、Duty比と内圧を変更した場合をみている。チャージアップの量について考えると、1周期中のチャージアップの量は、Duty比が大きく、V2が大きいほど多くなる。それは、t2の期間が長く、V2が大きいほど、プラズマ中の電荷密度も高くチャージアップの量が多くなるからである。また、アフターグローの寿命が短くなる高圧条件(400Pa)である実施例4および5であっても、十分なチャージアップの抑制効果が得られている。一方、内圧が低くなると、アフターグローの寿命も長くなるので、内圧が高い場合よりも多くの電荷成分を引き寄せることができ、チャージアップの抑制効果も得やすい。また、Duty比が小さくなるほど、チャージアップの量は少なくなるので、チャージアップの抑制効果も得やすい。また、V2が小さくなるほど、チャージアップの量は少なくなるので、チャージアップの抑制効果が得やすい。
【0150】
〈実施例8および比較例8〉
実施例1および比較例1と同じプラズマCVD装置を用いて、実施例1とは直径が異なる円筒状基体(直径108mm、長さ358mm、厚さ5mmの鏡面加工を施したアルミニウム製の円筒状基体)上に表22に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。
【0151】
実施例8および比較例8では、電極と円筒状基体との間の距離を小さくしたときの、光導電層の堆積膜形成時のV1に対する電子写真特性の依存性を調べた。
【0152】
光導電層の堆積膜形成時のV1については、表22に示す条件とした。1例当たり1バッチ、1バッチ当たり2本の電子写真感光体を、5バッチ(5例)で計10本製造した。
【0153】
製造した電子写真感光体の評価には、マイナス帯電、反転現像方式に改造したキヤノン株式会社製の複写機(商品名:iR−7086N)の改造機を用いた。また、この改造機は、帯電、現像、転写の各電圧条件および画像露光のレーザー光量を調整できるようにしたものである。また、この複写機の黒色用現像器を外し、表面電位計(Trek社製の表面電位計(商品名:Model344)およびプローブ(商品名:Model555−P))を設置して、電子写真感光体の表面電位の測定を行った。
【0154】
まず、ベタ白画像(静電潜像形成用レーザー非露光)出力動作を行いながら電子写真感光体の表面の暗部電位を測定し、一次帯電器の一次電流とグリッド電圧を調整して、電子写真感光体の表面の暗部電位が−450Vになるように調整した。
その後、表面電位計を外して、元の黒色用現像器を取り付けた。
【0155】
画像欠陥を厳しく評価するために、ポチが出やすくなる条件で画像を出力した。具体的には、黒色の現像条件のDCバイアス条件を調整して、かぶりが生じている画像を出力した。
【0156】
画像欠陥の評価としては、画像の電子写真感光体の1周分(=紙の搬送方向の先端から約339mm)×画像領域幅292mmの域内にある直径0.05mmの円以上の大きさ(0.05mmの円を重ねたときに円からはみ出る部分があるもの)のポチ(黒色のポチ)の個数を数えた。
その他は、実施例1と同様にして評価した。
【0157】
光メモリーの評価については、実施例1と同様にして評価した。ただし、評価装置としては上記複写機(商品名:iR−7086N)の改造機に変更し、ベタ黒の部分の範囲を263mmから電子写真感光体の直径108mmの1周分の長さである339mmに変更した。
【0158】
膜厚均一性の評価は、電子写真感光体の長さが358mmなので、測定位置は以下のとおりとして、その他は実施例1と同様にして評価した。
【0159】
電子写真感光体の軸方向の中央部位置を0cm位置とし、両側それぞれ2cm間隔で各8点(±2cm,±4cm,±6cm,±8cm,±10cm,±12cm,±14cm,±16cm)、0cm位置を含めて計17点とし、各軸方向位置において周方向に30°間隔で12点、計204点を測定位置とした。
評価結果を表24に示す。
【0160】
【表22】
【0161】
【表23】
【0162】
【表24】
【0163】
円筒状基体の直径を84mmから108mmに変更したので、電極と円筒状基体との間の距離が60mmから48mmに小さくなっている。表24の評価結果より、実施例1と同様の結果を示していることがわかる。
【0164】
〈実施例9〉
図5AおよびB(以下まとめて「図5」とも表記する。)に示すプラズマCVD装置を用いて、円筒状基体(直径84mm、長さ370mm、厚さ3mmの鏡面加工を施したアルミニウム製の円筒状基体)上に表25に示す条件で堆積膜を形成し、電子写真感光体を製造した。なお、下部注入阻止層、光導電層、上部注入阻止層および表面層の堆積膜形成時の円筒状基体の温度、膜厚および周波数に関しては、実施例1と同様にした。また、図5中、515Aはヒーター516と円筒状基体512(512A、512B)とを絶縁するための絶縁部材であり、515Bはヒーター516と支軸522とを絶縁するための絶縁部材である。また、517Aおよび517Bは基体ホルダー513Aおよび513Bの内側に接合している接合電極であり、518Aは上蓋520に取り付けられた絶縁板であり、518Bはベースプレート519に取り付けられた絶縁板である。また、519は接地されたベースプレートであり、520は接地された上蓋である。521は円筒状基体512(512A、512B)を所定の速度で回転させるためのモーターである。また、523は真空計であり、524は原料ガス流入バルブであり、525は原料ガス混合装置であり、526は反応容器511の排気口に連通された排気配管であり、527は排気メインバルブであり、528は真空ポンプである。制御部530は電源531の出力を制御するための制御部である。533Aおよび533Bは真空気密兼絶縁部材(真空気密兼絶縁セラミック)であり、535はガスブロックである。特記した点以外は、図2に示すプラズマCVD装置の各要素とそれぞれ同様の働きをする。
【0165】
実施例9および比較例9では、周波数を3kHz、60kHz、300kHzに変更したときの依存性を調べた。
【0166】
図5に示すプラズマCVD装置では、円筒状基体512(512A、512B)に直流電圧をOn/Offして所定電圧と0Vを矩形波で繰り返すDCパルスを印加する。また、容器壁面側の電極514に電源534よりDC電圧を印加する。これらにより、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるようにしている。
【0167】
図6AおよびBは、矩形波の交播電圧の例を示す図である。
図6Aは、電極の電位をアース電位以外の電位で一定とし、電極の電位に対する円筒状基体の電位が交互に正と負になるように矩形波の交播電圧を電極と円筒状基体との間に印加した場合の円筒状基体の電位の変化を示す図である。図6A中の実線が円筒状基体の電位であり、図6A中の破線が電極の電位である。図6Bは、電極と円筒状基体の電位差の変化を示す図である。図6B中の破線が電極と円筒状基体の電位差である。放電開始電圧(負電位)および放電維持電圧(正電位)は、あらかじめ、それぞれの層の堆積膜を形成する際の反応容器内の圧力およびガス条件で、前述した方法により測定した値である。測定結果を表25に示す。
【0168】
光導電層の堆積膜形成時の周波数および放電維持電圧については、表25に示す条件とした。1例当たり1バッチ、1バッチ当たり2本の電子写真感光体を、3バッチ(3例)で計6本製造した。
製造した電子写真感光体は、実施例1および比較例1と同様に評価した。
評価結果を表26に示す。
【0169】
【表25】
【0170】
【表26】
【0171】
表26の評価結果より、実施例9−2は、実施例1−2と同様の結果を示していることがわかる。これより、電圧の印加方法が異なっても、本発明の条件を満たすことによって、本発明の効果を得られることがわかる。
【0172】
実施例9−1では、周波数が3kHzと低いために、1周期でのt2の期間が長い。そのためにチャージアップの量が増加して、実施例2−3や実施例9−2などに比べて画像欠陥が若干増加したものと考えられる。
【0173】
また、周波数が300kHzである実施例9−3では、膜厚均一性がやや低下しているものの、本発明の効果は得られている。
【0174】
本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0175】
V1 放電維持電圧の絶対値未満の値
V2 放電開始電圧の絶対値以上の値
t1 電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV1となっている時間(期間)
t2 電極と円筒状基体の電位差の絶対値がV2となっている時間(期間)
T 矩形波の周期
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)内部に電極を有する減圧可能な反応容器の内部に、前記電極と離間させて円筒状基体を設置する工程と、
(ii)前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する工程と、
(iii)前記電極および前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を前記電極と前記円筒状基体との間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体上に堆積膜を形成する工程と、
を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記正になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記V1が、前記V2に対して20%以上の値である請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記V1が、前記放電維持電圧の絶対値に対して95%以下の値である請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(iii)において、前記電極の電位が一定である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(iii)において、前記電極の電位がアース電位である請求項4に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項6】
前記矩形波が、周波数10kHz以上100kHz以下の矩形波である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記原料ガスの少なくとも1種が水素化ケイ素ガスであり、前記堆積膜がアモルファス膜である請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記電極が、前記反応容器の内壁の少なくとも一部を構成している請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項1】
(i)内部に電極を有する減圧可能な反応容器の内部に、前記電極と離間させて円筒状基体を設置する工程と、
(ii)前記反応容器の内部に堆積膜形成用の原料ガスを導入する工程と、
(iii)前記電極および前記円筒状基体の一方の電位に対する他方の電位が交互に正と負になるように、周波数3kHz以上300kHz以下の矩形波の交播電圧を前記電極と前記円筒状基体との間に印加して、前記原料ガスを分解し、前記円筒状基体上に堆積膜を形成する工程と、
を有するプラズマCVD法によって電子写真感光体を製造する方法において、
前記正になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値および前記負になるときの前記電極と前記円筒状基体の電位差の絶対値の一方が放電維持電圧の絶対値未満の値(V1)であって、他方が放電開始電圧の絶対値以上の値(V2)であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記V1が、前記V2に対して20%以上の値である請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記V1が、前記放電維持電圧の絶対値に対して95%以下の値である請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(iii)において、前記電極の電位が一定である請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記工程(iii)において、前記電極の電位がアース電位である請求項4に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項6】
前記矩形波が、周波数10kHz以上100kHz以下の矩形波である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記原料ガスの少なくとも1種が水素化ケイ素ガスであり、前記堆積膜がアモルファス膜である請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記電極が、前記反応容器の内壁の少なくとも一部を構成している請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【公開番号】特開2013−61621(P2013−61621A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56054(P2012−56054)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【分割の表示】特願2011−553207(P2011−553207)の分割
【原出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【分割の表示】特願2011−553207(P2011−553207)の分割
【原出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]