説明

電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートおよびそれを用いた電子写真感光体

【課題】電子写真感光体用バインダー樹脂として耐摩耗性に優れ、高硬度を有するポリカーボネートを提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネートであって、末端封止剤として、下記式(II)で表されるフェノール類を使用した電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートおよびそれを用いた電子写真感光体。




(式(II)中、R11は、フェニル基を表し、eは1〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性に優れ、高硬度を特徴とした電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートおよびそれを用いた電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体分野において、感光層のバインダーポリマーとしてポリカーボネート樹脂が主に使用されている。
近年の画質の向上要求に伴い、バインダーポリマーに対して、塗工性や滑り性等といったより高性能の特性が求められている。
そこで、特許文献1では、電子写真感光体のバインダーポリマーに関して、電子写真感光体の作成時に塗工液の白化(ゲル化)抑制の方策として、従来汎用のp−tert−ブチルフェノールの替りにp−ノニルフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸−n−ドデシル、p−ドデシルオキシフェノール等のアルキル基や芳香族基などの特定の構造を有する末端基を導入することが提案されている。
【0003】
一方、特許文献2では、滑り性の向上の方策として、2−フェニルフェノール等のビフェニリル基やナフチル基、アントリル基等の芳香族基とシロキサン含有フェノールとを併用した特定の構造を有する末端基を導入することが提案されている。
しかしながら、最近、電子写真感光体のバインダーポリマーとして、特に耐摩耗性や高硬度といった特性が求められ、これら特許文献1や特許文献2に記載の方法でも満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−19667号公報
【特許文献2】国際公開第2008/038608号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の耐久性の問題を解決するために、電子写真感光体用バインダー樹脂として耐摩耗性に優れ、高硬度を特徴としたポリカーボネートを提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、バインダー樹脂について鋭意検討を行った結果、末端封止剤として、ポリシロキサン含有フェノールを併用せずに、特定のフェノール系もしくはナフトール系末端封止剤を用いたとき、得られるポリカーボネートが上記特性を兼ね備える上、実用性に富んでいることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下に示す電子写真感光体用ポリカーボネートに関する。
【0007】
1.下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネートであって、末端封止剤としてシロキサン含有フェノールを用いることなく、下記式(II)で表される末端封止剤を用いた電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【化1】

(式(I)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基またはハロゲン原子を表し、a及びbは0〜4の整数である。また、Xは単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−CO−,9,9−フルオレニリデン基、下記式(I−a)で表される群より示されるいずれかの結合基である。)
【化2】

(式(I−a)中、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12のアリール基を表し、cは1〜10の整数、dは4〜12の整数である。)
【化3】

(式(II)中、R11は、フェニル基を表し、eは1〜3の整数である。)
2.該末端封止剤として、2−フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、2,4−ジフェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、3,5−ジフェニルフェノール、2,4,6−トリフェニルフェノール、1−ナフトール、2-ナフトールからなる群より選ばれる、少なくとも一種である上記1記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
3.該末端封止剤が、2−フェニルフェノールである上記1記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
4.該末端封止剤を、得られるポリカーボネートの繰り返し単位のモル数を基準として、0.5〜3モル%の範囲で用いた上記1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
5.上記式(I)で表されるポリカーボネートの繰り返し単位が、下記式(III)で表される群より選ばれる少なくとも一種類の繰り返し単位である上記1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【化4】

(式(III)中、R12,R13は、それぞれ独立に、メチル基またはブロモ基を表し、fおよびgは0〜2の整数であり、R14〜R19は、水素原子またはメチル基を表す。)
6.上記式(III)で表されるポリカーボネートの繰り返し単位の30モル%以上が、下記式(IV)で表される群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位であり、且つポリカーボネートの繰り返し単位の0〜70モル%が、下記式(V)で表される群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位である上記5記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【化5】

【化6】

7.繰り返し単位(IV)の割合が50モル%以上で、且つ繰り返し単位(V)の割合が0〜50モル%である上記6記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
8.感光体の表面層とした時の表面鉛筆硬度がHもしくはそれよりも硬い上記1〜7のいずれかに記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
9.導電性基体と、その上に形成された電荷発生層および電荷輸送層とからなり、電荷輸送層が、上記1〜8のいずれかに記載のポリカーボネートに電荷輸送物質を含有させたものである電子写真感光体。
10.導電性基板と、その上に形成された電荷発生輸送層とからなり、電荷発生輸送層が上記1〜8のいずれかに記載のポリカーボネートに電荷発生物質および電荷輸送物質とを含有させたものである電子写真感光体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートは、末端封止剤としてシロキサン含有フェノールを用いることなく、特定のフェノール類を用いていることから、電子感光体の表面層としたとき、耐摩耗性に優れるとともに高い表面硬度を発現することができ、その奏する工業的効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例2のポリカーボネート共重合体のH−NMRのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートは、下記式(I)で表される繰り返し単位を含有する。
【0011】
【化7】

(式(I)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基またはハロゲン原子を表し、a及びbは0〜4の整数である。また、Xは単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−CO−,9,9−フルオレニリデン基、下記式(I−a)で表される群より示されるいずれかの結合基である。)
【0012】
【化8】

(式(I−a)中、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12のアリール基を表し、cは1〜10の整数、dは4〜12の整数である。)
【0013】
ポリカーボネートは、それ自体公知の製造方法で製造でき、例えば上記式(I)のカーボネートを誘導させる二価フェノール成分とホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させればよい。
【0014】
具体的な二価フェノール成分としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,3’−ビフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’−ジメチル−4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’−ジフェニル−4,4’−スルホニルジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルジフェニルスルフィド、4,4’−[1,3−フェニレン(1−メチルエチリデン)]ビスフェノール、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8−ビス(4−ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’−(1,3−アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン等が挙げられる。これらの二価フェノール成分の中でも、特に1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等が、所望の耐摩耗性や高硬度とをより高度に両立し易い点から好ましい。
【0015】
よって、本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートは、上記式(I)で表されるポリカーボネートの繰り返し単位が、下記式(III)で表される群より選ばれる少なくとも一種類の繰り返し単位であることが好ましい。
【0016】
【化9】

(式(III)中、R12,R13は、それぞれ独立に、メチル基またはブロモ基を表し、fおよびgは0〜2の整数であり、R14〜R19は、水素原子またはメチル基を表す。)
【0017】
さらには、上記式(III)で表されるポリカーボネートの繰り返し単位の30モル%以上が、下記式(IV)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一種類の繰り返し単位であり、且つ共重合成分として0〜70モル%が下記式(IV)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位であることがより好ましい。最も好ましいのは、50モル%以上が下記式(IV)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一種類の繰り返し単位であり、且つ共重合成分として0〜50モル%が下記式(V)で表される基からなる群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位を含有することである。
【0018】
【化10】

【0019】
【化11】

【0020】
なお、前記繰り返し単位(IV)の割合が上限以上で、かつ前記繰り返し単位(V)の割合が下限以下にあることで、電子写真感光体作製時に汎用に使用されるTHF(テトラヒドロフラン)等の溶媒への溶解性を損なうことなく、所望の耐摩耗性や高硬度とを更に高度に両立しやすくなる。
ところで、本発明の特徴の一つは、末端封止剤として、ポリシロキサンを含有するフェノールを併用しないことである。ポリシロキサンを含有するフェノールを併用すると、耐摩耗性が悪化し、十分な結果が得られない。
【0021】
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートのもう一つの特徴は、末端封止剤として、下記式(II)で表される特定の末端封止剤を用いたことである。
【0022】
【化12】

(式(II)中、R11は、フェニル基を表し、eは1〜3の整数である。)
【0023】
すなわち、ポリシロキサンを含有するフェノールを併用せずに、上記式(II)で表される末端封止剤を用いたとき、従来の末端基単独での改質では達成できなかった耐久性を飛躍的に向上できることを見出したのが本発明である。該末端封止剤の中でも、2−フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、2,4−ジフェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、3,5−ジフェニルフェノール、2,4,6−トリフェニルフェノール、1−ナフトール、2-ナフトールが好ましく、その中でも2−フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、2,4−ジフェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、1−ナフトールがより好ましく、2−フェニルフェノールが最も好ましい。もちろん、本発明の目的を損なわない範囲で、末端封止剤はp−t−ブチルフェノールなどの公知の末端封鎖剤を含んでいてもよい。好ましくは、本発明の効果の点から、末端封止剤の90モル%以上が上記式(II)で表される末端封止剤からなることが好ましく、さらに95モル%以上がより好ましい。
【0024】
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートは、前述の通り、通常のポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えば二価フェノール成分にホスゲンや炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0025】
まず、二価フェノール成分としては、前述したものが挙げられる。つぎに、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。そして、本発明の特徴である末端封止剤としては、前述の2−フェニルフェノールが使用される。なお、2−フェニルフェノールの使用量は、後述の好ましい比粘度範囲に分子量を調整しつつ、実質的に末端を封鎖するため、得られるポリカーボネートの繰り返し単位のモル数を基準として0.5〜3モル%が好ましく、さらに好ましくは0.6〜1.8モル%であり、特に好ましくは0.7〜1.3モル%である。
【0026】
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートを、例えば界面重合法によって製造する場合、水に不溶性の有機溶媒と酸結合剤の存在下で二価フェノールとホスゲンとを反応させ、得られたオリゴマー含有溶液に、上記の末端封止剤を添加し、重合すればよい。このときの有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。また、反応中の二価フェノールの酸化防止を目的として、例えばハイドロサルファイト等の酸化防止剤を添加したり、窒素を液相又は、気相に通したりすることは好ましい態様である。さらに、反応促進のために、例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0027】
かかる重合反応によって得られる反応液から有機層を分離し、該有機溶媒により希釈後水洗作業を行う。この際、残留モノマーの洗浄を強化する目的に、適宜水酸化ナトリウム水溶液で洗浄してもよい。さらに、酸洗浄及び水洗等によって残留触媒や無機塩等不純物を除去した後有機溶媒を除去することによって本発明の電子写真感光体用ポリカーボネートが得られる。
【0028】
なお、式(II)で表される(が末端封止剤が末端に導入されているかどうかの分析方法としては、通常組成分析において汎用のH−NMRを用いる方法がある。しかしながら、該フェノール類は重クロロホルムを用いた上記測定において観測ピークが6.8〜8.2ppmの範囲にあることから、本発明のポリカーボネートの主鎖成分のピークと重なり末端に導入されているかの確認が難しい場合もある。その場合は、ポリマー50mgをクロロホルム5mlに溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)装置(Waters社製;Waters2695)に20μlを導入して測定を行い、ポリマー中に未反応の式(II)で表される末端封止剤が存在しないことを確認し、さらにポリマー0.1mgに水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)20%メタノール溶液4μL添加し、熱分解炉(フロンティア・ラボ社製;PY−2020iD)を使用し、加熱温度400℃にて反応熱分解ガスクロマト・マススペクトログラフィー(GC−MS)を実施し、式(II)で表される末端封止剤由来のピークを定量して確認した。すなわち、GPC測定において遊離の式(II)で表される末端封止剤が観測されず、且つGC−MS測定において式(II)で表される末端封止剤が観測されるのならば、式(II)で表される末端封止剤がポリマー末端に反応していることを意味する。
【0029】
つぎに、本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートのさらに好ましい態様について、以下詳述する。
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートの比粘度は、該ポリカーボネート重合体0.7gを100ccの塩化メチレンに溶解し、20℃で測定した比粘度が好ましくは0.38〜1.54の範囲であり、さらに好ましくは0.58〜1.35であり、特に好ましくは0.77〜1.16である。該比粘度が上記範囲にあることで、耐摩耗性とキャストフィルムとするときの膜厚の均一性をより高度に両立しやすくなる。
【0030】
本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートは、感光体の表面層とした時の表面鉛筆硬度がHもしくはそれよりも硬いことが好ましく、さらに2Hもしくはそれよりも硬いことがより好ましい。表面鉛筆硬度が、Hより軟らかい場合、クリーニングブレード等感光体に当接している部材との圧接によりストレスクラックが入りやすくなる。
【0031】
また、本発明の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネートは、それを用いて作製したキャストフィルムの状態で、スガ磨耗試験機を使用し、荷重200gfで研磨シート(住友スリーエム社製、商品名:ラッピングフィルムシート(研磨材の平均粒度3μmAl))により1200回往復磨耗後の磨耗量が1mg以下であることが好ましく、0.8mg以下がより好ましく、0.5mg以下が最も好ましい。キャストフィルムの磨耗量が、上限以下であることにより、感光体としたときの耐久性をより向上させることができる。
【0032】
次に、本発明の電子写真感光体について説明する。電子写真感光体は、複写機やプリンターに用いられ、導電性基体とその上に形成された感光層よりなり、この感光層中に上記本発明のポリカーボネートを含有させたものであり、導電性基体と、その上に形成された電荷発生層および電荷輸送層とからなり、電荷輸送層が、本発明のポリカーボネートに電荷輸送物質を含有させたものである電子写真感光体や導電性基板と、その上に形成された電荷発生輸送層とからなり、電荷発生輸送層が本発明のポリカーボネートに電荷発生物質および電荷輸送物質とを含有させたものである電子写真感光体が挙げられる。
【0033】
さらに詳述すると、本発明の電子写真感光体は、導電性基体上に電荷発生層と電荷輸送層を順次積層した積層負帯電型、この積層負帯電型の電荷輸送層上に保護層を形成した負帯電型、導電性基体上に電荷輸送層と電化発生層を順次積層した正帯電型、バインダー樹脂中に電荷輸送物質と電荷発生物質を分散させた単層構造の感光層を導電性基体上に形成した単層正帯電型のいずれにも適用できる。具体的には、積層負帯電型の場合は電荷輸送層や保護層に上記ポリカーボネートを含有させ、積層正帯電型の場合には電荷発生層に上記ポリカーボネートを含有させ、単層構造の感光層の場合にはバインダー樹脂中に上記ポリカーボネート樹脂組成物を含有させる。
【0034】
更に具体的に説明すると、積層負帯電型の場合、電荷発生層は電荷発生物質をトルエン等の溶媒中で粉砕分散し、好ましくは電荷発生物質を平均粒径0.3μm以下にして、導電性基体上に膜厚0.05〜5μm程度に製膜する。また、分散液にバインダー樹脂を配合する代わりに、導電性基体と電荷発生層の間にバインダー樹脂層を設けてもよい。次いで電荷発生層の上に膜厚15〜50μm程度の電荷輸送物質と上記本発明のポリカーボネート樹脂組成物からなる電荷輸送層を、電荷発生層と同様にして製膜する。この際上記本発明のポリカーボネート10重量部に対して電荷輸送物質5〜50重量部になる割合が好ましい。また製膜方法としては例えば浸漬法、スプレー法、ロール法等任意の方法が採用される。保護層を形成するときは保護層の樹脂として膜厚0.5 〜10μm程度の上記本発明のポリカーボネートからなる層を設ける。
【0035】
積層正帯電型の場合、電荷発生層が表層にあるので、上記ポリカーボネートを電荷発生層に含有させる。電荷発生物質を溶媒中で粉砕分散した後上記ポリカーボネートを配合するかまたは電荷発生物質と上記ポリカーボネートを溶媒中粉砕分散し、膜厚15〜50μm程度の電荷輸送層の上に膜厚0.5 〜10μm程度の電荷発生層を形成する。この際上記ポリカーボネート樹脂10 重量部に対して電荷発生物質2〜30重量部になる割合が好ましい。なお、電荷輸送層には電荷輸送物質と共に該ポリカーボネートをバインダー樹脂として用いる。
【0036】
単層正帯電型の場合、上記ポリカーボネート10重量部に対して電荷輸送物質0.5〜5重量部になる割合で用いるのが好ましい。導電性基体上に形成される感光層は、単層構造であっても、電荷発生層と電荷輸送層とに機能分離された積層構造であってもよい。積層構造の場合、電荷発生層と電荷輸送層の積層順序は任意でよい。感光層は、電荷発生物質、電化輸送物質、又はそれ等両者がバインダー樹脂中に含有された塗膜により構成される。電荷発生物質としては、例えば非晶質セレン、結晶性セレン、セレンーテルル合金、セレンーヒ素合金等セレンを主成分とした各種合金材料、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系光導電体、フタロシアニン系、スクエアリウム系、アントアントロン系、ペリレン系、アゾ系、アントラセン系、ピレン系、ピリチウム塩、チアピリリウム塩等の有機顔料及び染料が使用される。
【0037】
また、電荷輸送物質としては、例えばカルバゾール、インドール、イミダゾール、チアゾール、ピラゾール、ピラゾリン等の複素環化合物、アニリン誘導体、スチルベン誘導体又はこれらの化合物からなる基本側鎖を有する重合体等の電子供与性物質が使用され、特にヒドラゾン誘導体、アニリン誘導体、スチルベン誘導体が好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。なお評価は下記の方法に従った。
【0039】
(1)耐磨耗性評価
塩化メチレンに該ポリカーボネート8gを溶解させ、固形分濃度10重量%の溶液を調製した。その溶液を150mmφのシャーレ内に流し込み、室温一晩、40℃で3時間、60℃で3時間、溶媒を除去した後、100℃で24時間乾燥し、約250μm厚の透明キャストフィルムを得た。該キャストフィルムを直径120mmの円盤状に切り出したものを使用し、スガ試験機(株)社製スガ摩耗試験機NUS−ISO−3型を用いて摩耗評価を行った。試験条件は23℃、50%RHの雰囲気下、住友スリーエム(株)社製ラッピングフィルムシート(研磨材平均粒度3μmAl)を用いて荷重1.96N(SI単位計で記載)で1200回往復磨耗後の摩耗量を試験前後の重量を比較することにより測定した。
【0040】
(2) 鉛筆硬度(樹脂)
(1)と同様にして得られたキャストフィルムを使用し、JIS K5700( 鉛筆: 三菱Uni 、鉛筆角度: 45度、荷重: 7.35N(SI単位計で記載) )に準じて鉛筆引っかき試験により測定した。
【0041】
(3) 鉛筆硬度(電子写真感光体)
次に下記式(VI)で示されるTPD10部及びバインダー樹脂としてポリカーボネート10部をTHF80部に溶解し、この溶液を電荷発生層の上に浸漬法によって塗布し、乾燥して20ミクロンの電荷輸送層を形成した電子写真感光体を得た。JIS K5700( 鉛筆: 三菱Uni 、鉛筆角度: 45度、荷重: 750gf )に準じて鉛筆引っかき試験により測定した。
【0042】
【化13】

【0043】
(4)ポリカーボネート共重合体の共重合組成分析
ポリマー30mgを重クロロホルム1.0mlに溶解し、日本電子社製JNM−AL400のH−NMRを用いて、積算回数128回で測定した。
具体的に示すと、実施例2においては、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルビフェニル(以後OC−BPと称することがある)の芳香族部位4H相当に起因するピーク(7.00〜7.17ppm)の積分値及び1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以後OC−Zと称することがある)の芳香族部位6H相当に起因するピーク(7.33〜7.51ppm)の積分値の比から求めた。
【0044】
実施例3においては、OC−BPのメチル基6H相当に起因するピーク(2.33〜2.45ppm)の積分値及び2,2−ビス(3−メチル−4ヒドロキシフェニル)プロパン(以後Bis−Cと称することがある)のメチル基6H相当に起因するピーク(2.21〜2.33ppm)の積分値の比から求めた。
【0045】
実施例5及び比較例5においては、Bis−Cのメチル基6H相当に起因するピーク(2.07〜2.46ppm)の積分値及び、Bis−C及び2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下Bis−Aと称することがある)の全芳香族部位6H及び8H相当に起因するピーク(6.92〜7.48ppm)の積分値から先のBis−Cのメチル基6H相当に起因するピークの積分値を参考にBis−C分の芳香族部位6H相当分の積分値を差し引いたピークの積分値の比から求めた。
【0046】
実施例7においては、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(以下BCFと称する)のメチル基6H相当に起因するピーク(1.96〜2.34ppm)の積分値及び、Bis−Aの中心のアルキリデン部位6H相当に起因するピーク(1.48〜1.86ppm)の積分値の比から求めた。
実施例8においては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(以下BPと称する)の芳香族部位4H相当に起因するピーク(7.45〜7.73ppm)の積分値及び、Bis−Cのメチル基6H相当に起因するピーク(2.07〜2.46ppm)の積分値の比から求めた。
【0047】
[実施例1]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてOC−Z104.7g(0.354モル)、ハイドロサルファイト0.27g、9.1%水酸化ナトリウム水溶液550ml(水酸化ナトリウム1.345モル)、塩化メチレン340mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン45.5g(0.460モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール0.54g(0.0032モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液50ml(水酸化ナトリウム0.248モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.12mL(0.00089モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去してポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、比粘度0.98、ガラス転移温度は149℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0048】
[実施例2]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてOC−Z52.4g(0.177モル)、OC−BP37.9g(0.177モル)、ハイドロサルファイト0.27g、9.1%水酸化ナトリウム水溶液550ml(水酸化ナトリウム1.345モル)、塩化メチレン340mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン50.8g(0.513モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール0.85g(0.0050モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液36ml(水酸化ナトリウム0.177モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.12mL(0.00089モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、OC−ZとOC−BPとの構成単位の比がモル比で52:48であり、比粘度は0.96、ガラス転移温度は147℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0049】
[実施例3]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてBis−C78.6g(0.307モル)、OC−BP65.6g(0.307モル)、ハイドロサルファイト0.43g、9.8%水酸化ナトリウム水溶液837ml(水酸化ナトリウム2.207モル)、塩化メチレン590mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン85.0g(0.858モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール1.67g(0.0098モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液49ml(水酸化ナトリウム0.306モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.11mL(0.00076モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、Bis−CとOC−BPとの構成単位の比がモル比で52:48であり、比粘度は0.99、ガラス転移温度は133℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0050】
[実施例4]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にて1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(以下Bis−Zと称する)94.9g(0.354モル)、ハイドロサルファイト0.28g、7.1%水酸化ナトリウム水溶液851ml(水酸化ナトリウム1.593モル)、塩化メチレン272mlを仕込んで溶解し、攪拌下24〜26℃に保持し、ホスゲン43.8g(0.442モル)を60分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール0.54g(0.0032モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.12mL(0.00089モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去してポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、比粘度1.00、ガラス転移温度は181℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0051】
[実施例5]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてBis−C39.0g(0.152モル)、Bis−A34.7g(0.152モル)、ハイドロサルファイト0.15g、9.1%水酸化ナトリウム水溶液470ml(水酸化ナトリウム0.913モル)、塩化メチレン254mlを仕込んで溶解し、攪拌下19〜21℃に保持し、ホスゲン39.2g(0.396モル)を60分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール0.57g(0.0033モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.08mL(0.00058モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、Bis−CとBis−Aとの構成単位の比が、モル比で50:50であり、比粘度0.99、ガラス転移温度は135℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0052】
[実施例6]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下TBAと称する)130g(0.239モル)、7.0%水酸化ナトリウム水溶液161ml(水酸化ナトリウム0.299モル)、塩化メチレン393ml及びトリエチルアミン0.2ml(0.002モル)を仕込んで溶解し、攪拌下20〜25℃に保持し、ホスゲン28.5g(0.289モル)を60分要して吹込み、ホスゲン吹き込み終盤には25%水酸化ナトリウム水溶液5ml(水酸化ナトリウム0.041モル)を加えながら反応混合液のpHを、10.5〜11.0に維持してホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール0.10g(0.0006モル)、およびトリエチルアミン0.8ml(0.008モル)を加え、25%水酸化ナトリウム水溶液44ml(水酸化ナトリウム0.363モル)を約60分かけて加え、35〜40℃の温度で90分間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去してポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、比粘度0.95、ガラス転移温度は264℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0053】
[実施例7]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてBCF55.0g(0.145モル)、Bis−A14.2g(0.062モル)、ハイドロサルファイト0.36g、7.7%水酸化ナトリウム水溶液387ml(水酸化ナトリウム0.790モル)、塩化メチレン173mlを仕込んで溶解し、攪拌下19〜21℃に保持し、ホスゲン26.7g(0.270モル)を80分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール0.24g(0.0014モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.12mL(0.00163モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、BCFとBis−Aとの構成単位の比が、モル比で70:30であり、比粘度0.99、ガラス転移温度は226℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0054】
[実施例8]
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてBis−C51.3g(0.200モル)、BP12.4g(0.067モル)、8.5%水酸化ナトリウム水溶液356ml(水酸化ナトリウム0.800モル)、塩化メチレン257mlを仕込んで溶解し、攪拌下18〜20℃に保持し、ホスゲン35.6g(0.360モル)を70分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後2−フェニルフェノール0.60g(0.0035モル)および25%水酸化ナトリウム水溶液17ml(水酸化ナトリウム0.133モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.09mL(0.00067モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去して共重合ポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、Bis−CとBPとの構成単位の比がモル比で75:25であり、比粘度は0.98、ガラス転移温度は135℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0055】
[実施例9]
仕込みの末端停止剤およびその使用量を、2,6−ジフェニルフェノール0.79g(0.0032モル)に変更した以外は、実施例4における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、比粘度0.98、ガラス転移温度は179℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した2,6−ジフェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0056】
[実施例10]
仕込みの末端停止剤およびその使用量を、4−フェニルフェノール0.54g(0.0032モル)に変更した以外は、実施例4における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、比粘度1.01、ガラス転移温度は183℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した4−フェニルフェノールが反応していることを確認した。
【0057】
[実施例11]
仕込みの末端停止剤およびその使用量を、1−ナフトール0.46g(0.0032モル)に変更した以外は、実施例4における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、比粘度0.99、ガラス転移温度は179℃であり、GPC及びGC−MS測定から、末端には添加した1−ナフトールが反応していることを確認した。
【0058】
[比較例1]
仕込みの末端停止剤およびその使用量を、p−tert−ブチルフェノール0.48g(0.0032モル)に変更した以外は、実施例4における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、比粘度0.98、ガラス転移温度は182℃であった。
【0059】
[比較例2]
国際公開第2008/038608号パンフレットの実施例2の追試を実施した。
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてBis−Z94.9g(0.354モル)、ハイドロサルファイト0.17g、6.7%水酸化ナトリウム水溶液705ml(水酸化ナトリウム1.239モル)、塩化メチレン272mlを仕込んで溶解し、攪拌下24〜26℃に保持し、ホスゲン43.8g(0.442モル)を60分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後、下記式(VII)で表されるシロキサン含有フェノール0.50g(0.00035モル)及び2−フェニルフェノール0.48g(0.0028モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.15mL(0.00106モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去してポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、比粘度0.97、ガラス転移温度は180℃であった。
【0060】
【化14】

【0061】
[比較例3]
国際公開第2008/038608号パンフレットの実施例3の追試を実施した。
仕込みの末端停止剤の一部である2−フェニルフェノールおよびその使用量を、2−ナフトール0.41g(0.0028モル)に変更した以外は、比較例2における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、比粘度0.99、ガラス転移温度は178℃であった。
【0062】
[比較例4]
特開平4−119667号公報の実施例2を参考に実施した。
ホスゲン吹込管、温度計及び攪拌機を備えたフラスコに窒素雰囲気下にてBis−C65.5g(0.256モル)、8.0%水酸化ナトリウム水溶液550ml(水酸化ナトリウム1.100モル)、塩化メチレン400mlを仕込んで溶解し、攪拌下15〜20℃に保持し、ホスゲン32.9g(0.333モル)を60分要して吹込みホスゲン化反応させた。ホスゲン化反応終了後p−安息香酸−n−ドデシル1.1g(0.00359モル)を加え撹拌し、途中トリエチルアミン0.3mL(0.00408モル)を添加し、30〜35℃の温度で2時間反応させた。分離した塩化メチレン相を無機塩類及びアミン類がなくなるまで酸洗浄及び水洗した後、塩化メチレンを除去してポリカーボネートを得た。このポリカーボネートは、比粘度0.92、ガラス転移温度は120℃であった。
【0063】
[比較例5]
仕込みの末端停止剤およびその使用量を、p−tert−ブチルフェノール0.50g(0.0033モル)に変更した以外は、実施例5における手順を繰り返した。このポリカーボネートは、比粘度0.98、ガラス転移温度は138℃であった。
以上、得られた各樹脂の物性を下記表1に示す。
【0064】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の特定の末端構造を含有するポリカーボネートは、耐摩耗性に優れるとともに、高い表面硬度も有していることから、電子写真感光体用バインダー樹脂として好適に用いられ、その奏する工業的効果は格別である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネートであって、末端封止剤としてシロキサン含有フェノールを用いることなく、下記式(II)で表される末端封止剤を用いたことを特徴とする電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【化1】

(式(I)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜12のアリール基またはハロゲン原子を表し、a及びbは0〜4の整数である。また、Xは単結合、−O−、−S−、−SO−、−SO−、−CO−、−CO−,9,9−フルオレニリデン基、下記式(I−a)で表される群より示されるいずれかの結合基である。)
【化2】

(式(I−a)中、R〜R10は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基または炭素数6〜12のアリール基を表し、cは1〜10の整数、dは4〜12の整数である。)
【化3】

(式(II)中、R11は、フェニル基を表し、eは1〜3の整数である。)
【請求項2】
該末端封止剤が、2−フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4−フェニルフェノール、2,4−ジフェニルフェノール、2,6−ジフェニルフェノール、3,5−ジフェニルフェノール、2,4,6−トリフェニルフェノール、1−ナフトール、2-ナフトールからなる群より選ばれる、少なくとも一種類である請求項1記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【請求項3】
該末端封止剤が、2−フェニルフェノールである請求項1記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【請求項4】
該末端封止剤を、得られるポリカーボネートの繰り返し単位のモル数を基準として、0.5〜3モル%の範囲で用いた請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【請求項5】
上記式(I)で表されるポリカーボネートの繰り返し単位が、下記式(III)で表される群より選ばれる少なくとも一種類の繰り返し単位である請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【化4】

(式(III)中、R12,R13は、それぞれ独立に、メチル基またはブロモ基を表し、fおよびgは0〜2の整数であり、R14〜R19は、水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項6】
上記式(III)で表されるポリカーボネートの繰り返し単位の30モル%以上が、下記式(IV)で表される群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位であり、且つポリカーボネートの繰り返し単位の0〜70モル%が、下記式(V)で表される群より選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位である請求項5記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【化5】

【化6】

【請求項7】
繰り返し単位(IV)の割合が50モル%以上で、且つ繰り返し単位(V)の割合が0〜50モル%である請求項6記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【請求項8】
感光体の表面層とした時の表面鉛筆硬度がHもしくはそれよりも硬い請求項1〜7のいずれかに記載の電子写真感光体バインダー用ポリカーボネート。
【請求項9】
導電性基体と、その上に形成された電荷発生層および電荷輸送層とからなり、電荷輸送層が、請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネートに電荷輸送物質を含有させたものである電子写真感光体。
【請求項10】
導電性基板と、その上に形成された電荷発生輸送層とからなり、電荷発生輸送層が請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネートに電荷発生物質および電荷輸送物質とを含有させたものである電子写真感光体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−103656(P2012−103656A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−279114(P2010−279114)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000215888)帝人化成株式会社 (504)
【Fターム(参考)】