説明

電子写真感光体等の電子写真装置用部品の表面形状評価方法

【課題】電子写真感光体等の電子写真装置用部品の表面形状を従来法よりも詳細に評価する方法を提供すること。
【解決手段】電子写真感光体等の電子写真装置用部品の表面の凹凸形状を表面粗さ計により測定して得た一次元データー配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た多重解像度解析結果に対して、十点平均粗さ、最大高さを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体等の電子写真装置用部品の表面形状評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置は、高画質化を目的としてトナーの小粒径化が進められている。
トナーを小粒径化する方法としては、従来から有る粉砕法によって小粒径化する方法の他に、近年では、重合法によって小粒径トナーを作る方法が開発されており、この方法で製造したトナーが上市されている。
小径トナーを製造するに当たり、粉砕法よりも、重合法の方が製造に必要なエネルギーが少なく、製造に必要なエネルギーを低減することを目的としての重合トナー化が行なわれている。
【0003】
小粒径のトナーを用いることにより、解像力の向上、微細な階調表現力の向上等により、高画質化が実現される。しかしながら、小粒径トナーを用いた画像形成工程においては以下の様な小粒径トナー特有の問題が生ずる。
クリーニングにおける問題はその一つであり、トナーの小粒径化によりトナーの感光体への付着力が見かけ上大きくなって、クリーニングが困難になるという問題がある。
特に、重合法により作られたトナーは、小粒径であることに加えて粒子が球形に近いものとなるために、クリーニングブレードで感光体をクリーニングするクリーニング工程において、トナーが感光体とクリーニングブレードのエッジの間を通り抜けるいわゆる「スリヌケ」が生じてクリーニング不良となる傾向が強い。
【0004】
この様な小粒径トナーあるいは、重合トナーを用いた電子写真装置において、クリーニング性能を向上させる方法として、感光体表面を粗面化する方法が検討されている。
例えば、電子感光体表面を粗面化に関連する方法としては、特許文献1には、電子写真感光体の表面からの転写材の分離を容易にするために、電子写真感光体の表面粗さを規定の範囲内に収める技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、表面層を形成する際の乾燥条件を制御することにより、電子写真感光体の表面をユズ肌状に粗面化する方法が開示されている。
特許文献3には、表面層に粒子を含有させることで、電子写真感光体の表面を粗面化する技術が開示されている。
特許文献4には、金属製のワイヤーブラシを用いて表面層の表面を研磨することによって、電子写真感光体の表面を粗面化する技術が開示されている。
特許文献5には、特定のクリーニング手段およびトナーを用い、特定のプロセススピード以上の電子写真装置で使用した場合に問題となるクリーニングブレードの反転(メクレ)やエッジ部の欠けを解決するために有機電子写真感光体の表面を粗面化する技術が開示されている。
【0006】
特許文献6には、フィルム状研磨材を用いて表面層の表面を研磨することによって、電子写真感光体の表面を粗面化する技術が開示されている。
特許文献7には、クリーニングブレードの反転(メクレ)やエッジ部の欠損(欠け)を防止するために、ブラスト処理により電子写真感光体の周面を粗面化するという技術が開示されている。
特許文献8には、表面にディンプル形状の凹部を複数有する電子写真感光体が示されている。
また、特許文献9及び特許文献10にも表面にディンプル形状の凹部を複数有する電子写真感光体が示されている。
【0007】
このように、電子写真感光体のクリーニング性能を向上させる方法として、電子写真感光体表面を粗面化する方法が有効である。
ここで、電子写真感光体の表面粗さは、重要な特性項目であるが、従来はJIS B0601等に定める表面粗さで測定し、判断することが多かった。
【0008】
広く使われている測定方法としては、算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rmax)、十点平均粗さ(Rz)等がある。しかし、これらの評価方法では、測定範囲内に飛び離れた凹部や凸部が有った場合に、値が振られる問題があった。
しかし、従来は粗面化の程度を評価する良い方法が無く、粗面化の程度を示すパタメーターの検討が行なわれている。それを以下に示す。
【0009】
特許文献11では、表面形状を表面粗さ測定装置で測定して得られる断面曲線1上で、平均線2を中心とした仕切り幅Xを規定し、この仕切り幅を超える相隣る山と谷の一対からなるピーク4の単位長Lあたりの数により表面形状を評価する。このような方法で仕切り幅Xを20μmとし単位長Lを1cmとしたときのピーク4の数を100以下とした基体を用いて有機感光体を作製している。
【0010】
特許文献12では、高画質化を目的として小粒径トナーを用いるとクリーニング不良が起きやすくなるという問題を解決して、高画質の画像を形成することを可能にする為に、帯電トナーを感光体から引き離すバイアス電圧を印加したクリーニングローラをクリーニングブレードの上流側に設けるとともに、感光体として表面粗さRzが十点平均で0.1μm〜2.5μmのものを用いている。
【0011】
特許文献13では、電子写真感光体の1キロサイクル(kcycle)当たりの膜厚減耗量及び表面粗さを各々ΔT及びRzとした場合に、ΔT>Rz及び0nm<ΔT+Rz<5nmを満たす方法を示している。
特許文献14では感光層表面が粗面化処理されており、該粗面化処理後の該感光体表面の光沢度を測定して、その測定値の標準偏差が4以下である電子写真感光体を示している。
【0012】
特許文献15では、請求項1として、ブレード、トナー組成物及び未使用画像形成部材を含むシステムであって、該画像形成部材が該トナー組成物をそれへ適用して潜像を形成させる表面を含み、かつ該表面が
R/ann>K(1−σ)/32πEt
及び
R/ann<√3/8π・(1+μ)/μ・K/Γ・t/a・θ
(上記式中、Rは該表面の凸部の平均高さであり、annは該表面上の該凸部間の最も近い隣接距離の1/2であり、Kはブレードの体積弾性係数であり、σはトナー組成物のポアッソン比であり、Eはトナー組成物のヤング率であり、tは該トナー組成物中の平坦な粒子の平均厚さであり、aは平坦な粒子の平均半径であり、μはトナー・ブレード摩擦係数とトナー・表面摩擦係数との平均であり、Γは表面と平坦な粒子との間の付着のDupre’仕事であり、かつθはブレードチップ角である。)
で定義される表面あらさを有するシステムを示している。
【0013】
先に示した特許文献9では、請求項1として、円筒状支持体および該円筒状支持体上に設けられた有機感光層を有する円筒状の電子写真感光体において、該電子写真感光体の周面がディンプル形状の凹部を複数有し、該電子写真感光体の周面の周方向に掃引して測定した十点平均粗さRzjis(A)が0.3〜2.5μmであり、該電子写真感光体の周面の母線方向に掃引して測定した十点平均粗さRzjis(B)が0.3〜2.5μmであり、該電子写真感光体の周面の周方向に掃引して測定した凹凸の平均間隔RSm(C)が5〜120μmであり、該電子写真感光体の周面の母線方向に掃引して測定した凹凸の平均間隔RSm(D)が5〜120μmであり、該凹凸の平均間隔RSm(D)の該凹凸の平均間隔RSm(C)に対する比の値(D/C)が0.5〜1.5であり、該ディンプル形状の凹部の中で最長径が1〜50μmの範囲にあってかつ深さが0.1〜2.5μmの範囲にあるディンプル形状の凹部の個数が、該電子写真感光体の周面の10000μm あたり5〜50個であることを特徴とする電子写真感光体を示している。
【0014】
また、請求項2として、前記十点平均粗さRzjis(A)が0.4〜2.0μmであり、前記十点平均粗さRzjis(B)が0.4〜2.0μmであり、前記凹凸の平均間隔RSm(C)が10〜100μmであり、前記凹凸の平均間隔RSm(D)が10〜100μmであり、前記凹凸の平均間隔RSm(D)の前記凹凸の平均間隔RSm(C)に対する比の値(D/C)が0.8〜1.2である請求項1に記載の電子写真感光体を示している。
また、請求項3として、前記電子写真感光体の周面の最大山高さRp(F)が0.6μm以下であり、前記電子写真感光体の周面の最大谷深さRv(E)の該最大山高さRp(F)に対する比の値(E/F)が1.2以上である請求項1または2に記載の電子写真感光体を示している。
【0015】
同様に、先に示した特許文献10では、支持体および該支持体上に設けられた有機感光層を有する電子写真感光体において、 該電子写真感光体の表面層の表面にディンプル形状の凹部が複数形成されており、 該ディンプル形状の凹部の中で最長径が1〜50μmの範囲にあってかつ深さが0.1μm以上であってかつ体積が1μm以上であるディンプル形状の凹部の個数が、該電子写真感光体の表面層の表面100μm四方当たり5〜50個であり、 該表面層と該表面層の直下の層との間の界面に該表面層の表面に形成されているディンプル形状の凹部に対応する凹部が複数形成されていることを特徴とする電子写真感光体を示している。
【0016】
特許文献16では、導電性支持体に感光層を設け、表面が露光されて静電潜像が形成される複数の像担持体と、該各複数の像担持体に対応して設けられた、前記静電潜像を現像剤にて現像する複数の現像装置と、前記複数の像担持体に対応して設けられた像担持体表面を摺擦して現像剤を除去するクリーニング手段と、を有し、該複数の現像装置のうち少なくとも一対の現像装置が同一色相且つ明度が異なる現像剤を収容する画像形成装置において、該各像担持体に対応する前記現像装置に収容される現像剤の明度に応じて、初期状態における表面の10点平均粗さRzが調整されることを特徴とする画像形成装置を示している。
【0017】
特許文献17では、10点平均粗さRzが0.1μm以上1.5μm以下、もしくは最大高さRzが2.5μm以下の表面粗度を有し、且つJIS−A硬度70度以上80度以下、幅5mm、長さ325mm、厚さ2mm、自重4.58gのポリウレタン平型ベルトに100gの荷重を掛け、円周方向の接触長さを3mm及び接触面積を15mmとしたときに測定される引っ張り荷重である摩擦抵抗Rfが、45gf<Rf<200gfとなる表面性を有する電子写真感光体を使用して画像形成を行う事を特徴とする画像形成装置を示している。
【0018】
特許文献18では、電子写真感光体上に形成された潜像を現像剤により現像し、該現像により顕像化されたトナー像を中間転写体に転写する一次転写工程と、該中間転写体に転写されたトナー像を記録材に転写する二次転写工程とを備え、記録材にトナー像を転写後、電子写真感光体上の残留トナーをクリーニング工程で除去する画像形成方法において、該電子写真感光体の表面粗さRaが0.02〜0.1μmであり、前記中間転写体の表面粗さRzが0.4μm〜2.0μmであり、該電子写真感光体の表面に、表面エネルギー低下剤を供給し、画像形成を行うことを特徴とする画像形成方法を示している。
特許文献19では、有機感光体は、表面凹凸の周期の平均値がトナーの体積平均粒径の10倍以上であることを特徴とする画像形成装置を示している。
【0019】
特許文献20では、周速200mm/sec以上で回転する電子写真感光体及びクリーニング手段を備える電子写真装置において、前記電子写真感光体が導電性支持体上に感光層及び表面保護層を有し、該表面保護層が保護層全質量に対し35.0〜45.0質量%のフッ素原子含有樹脂粒子を含有し、表面粗さが10点平均面粗さで0.1〜5.0μmであり、表面硬度がテーバー摩耗試験法で0.1〜10.0であり、且つ、表面摩擦係数が0.1〜0.7である電子写真感光体であり、該クリーニング手段がゴム弾性体ブレードであり、該ブレードの該電子写真感光体に対する線圧が0.294N〜0.441N/cmであり、使用するトナーのガラス転移点(Tg)が40℃〜55℃であり、該ブレード物性値である引張弾性率(ヤング率)が784N〜980N/cmであり、且つ、反発弾性値が35%〜55%であり、この基材表面にフッ素原子樹脂微粒子を含有することを特徴とする電子写真装置を示している。
【0020】
特許文献21では、トナーの扁平度(d/t)(d:体積平均粒径、t:トナー粒子の厚さ)と、像形成体の表面粗さを中心線平均粗さRa(μm)で表したとき、d/t×0.01≦Ra≦0.5の関係を有する像形成体を用いることを特徴とする画像形成方法を示している。
特許文献22〜24では、該像担持体の表面上に、該球形化したトナーの体積平均粒径よりも小さい凹凸を設けたことを特徴とする画像形成装置を示している。
【0021】
特許文献25では、周速200mm/sec以上で回転する電子写真感光体及びクリーニング手段を備える電子写真装置において、該電子写真感光体が導電性支持体上に感光層及び表面保護層を有し、該表面保護層が保護層全質量に対し15.0〜40.0質量%のフッ素原子含有樹脂粒子を含有し、表面粗さが10点平均面粗さで0.1〜5.0μmであり、表面硬度がテーバー摩耗試験法で0.1〜20.0であり、かつ表面摩擦係数が0.001〜1.2である電子写真感光体を示している。
【0022】
本発明者は、表面形状を評価する方法として、フーリエ変換を利用した表面形状評価方法を、特許文献26〜35で示している。
また、本発明者は、特許文献36において、基体表面の任意位置からJIS B0601に定める断面曲線を軸方向に100μmの長さで求め、横軸方向上の等間隔の位置における断面曲線の縦軸方向の位置を測定し、その位置のJIS Z8101に定める分散を求め、JIS B0601に定める表面粗さRa、Rz、Ryから選択される測定値を求め、これらの分散と測定値と用いて基体の表面粗さを評価する方法を示している。
【0023】
また、特許文献37では、画像形成装置用部品の表面の状態についてJIS B0601に定める断面曲線を求め、その断面曲線上の等間隔位置における表面粗さ方向の位置データー列の多重解像度解析を行い、少なくともその結果に基づいて表面粗さの状態を評価する方法を示している。
【0024】
また、特許文献38では、画像形成装置用部品の表面の状態についてJISB0601に定める断面曲線を求め、その断面曲線上の等間隔位置における表面粗さ方向の位置データー列の多重解像度解析を行い、少なくともその結果に基づいて表面粗さの状態を評価する画像形成装置用部品の表面粗さ評価方法によって評価したことを特徴とする電子写真感光体用基体を示している。
ところが、上記のいずれの表面粗さ測定法でも、小粒径トナーあるいは重合トナーを使用した電子写真装置におけるクリーニング性能を評価しきれない問題があった。
すなわち、従来表面粗さ表現法として使用している表面粗さRa、Rmax、Rz等の方法では、表面粗さを正確に把握できない問題がある。
このような問題があるため、従来は、表面粗さ測定時に、表面粗さ計の記録チャートを保存しておき、記録チャートに記録された切削波形から判定していたが、記録チャートの傾向を読み取らねばならず、熟練を要する問題があった。
【0025】
以上述べてきたように、従来の表面粗さ(中心線表面粗さRa、Rmax、Rz)評価法では、小粒径トナーあるいは重合トナーを使用した電子写真装置におけるクリーニング性能を評価しきれない問題があった。
また、先に述べたようにフーリエ変換では信号中に頻度多く出現する変化をその周波数分布として捉えることはできるが、頻度が少ない変化を調べるには有効ではない問題があった。また、フーリエ変換した結果からは、どこでその変化が生じたのかが判らない問題があった。
これらの課題に対し、発明者は前記の特許文献38の電子写真感光体用基体を考案していたが、更に良い方法が望まれていた。
【0026】
【特許文献1】特開昭53−092133号公報
【特許文献2】特開昭53−092133号公報
【特許文献3】特開昭52−026226号公報
【特許文献4】特開昭57−094772号公報
【特許文献5】特開平01−099060号公報
【特許文献6】特開平02−139566号公報
【特許文献7】特開平02−150850号公報
【特許文献8】特開2007−86523号公報
【特許文献9】特許3938209号公報
【特許文献10】特許3938210号公報
【特許文献11】特開平07−104497号公報
【特許文献12】特開2002−196645号公報
【特許文献13】特開2006−163302号公報
【特許文献14】特開平2007−86319号公報
【特許文献15】特許3040540号公報
【特許文献16】特開2005−345788号公報
【特許文献17】特開2004−258588号公報
【特許文献18】特開2004−54001号公報
【特許文献19】特開2003−270840号公報
【特許文献20】特開2003−241408号公報
【特許文献21】特開2003−131537号公報
【特許文献22】特開2002−296994号公報
【特許文献23】特開2002−258705号公報
【特許文献24】特開2002−299406号公報
【特許文献25】特開2002−82468号公報
【特許文献26】特開2001−265014号公報
【特許文献27】特開2001−289630号公報
【特許文献28】特開2002−251029号公報
【特許文献29】特開2002−296822号公報
【特許文献30】特開2002−296823号公報
【特許文献31】特開2002−296824号公報
【特許文献32】特開2002−341572号公報
【特許文献33】特開2006−53576号公報
【特許文献34】特開2006−53577号公報
【特許文献35】特開2006−79102号公報
【特許文献36】特開2004−117454に号公報
【特許文献37】特開2004−61359号公報
【特許文献38】特開2007−292772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、表面形状の測定において、測定対象物の表面状態をより詳細に測定する評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明によれば、上記課題は下記の技術的手段により解決される。
(1)電子写真装置用部品表面の凹凸形状を表面粗さ計により測定して得た一次元データー配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分に対して、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めることを特徴とする、電子写真装置用部品の表面形状評価方法。
(ここで、中心線平均粗さRaとは、表面粗さ計で測定して得た粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を、基準長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わすものである。ここで基準長さLは測定長である。
また、最大高さRmaxとは表面粗さ計で測定して得た粗さ曲線を、基準長さLを抜き取った部分の最大高さを求めてマイクロメートル(μm)で表わすものである。
十点平均粗さRzとは、断面曲線から基準長さLだけを抜き取った部分において、最高から5番目までの山頂の標高の平均値と、最深から5番目までの谷底の標高の平均値との差の値をマイクロメートル(μm)で表わすものである。)
(2)前記電子写真装置用部品が電子写真感光体であることを特徴とする(1)記載の表面形状評価方法。
(3)前記電子写真装置用部品が転写ローラー、転写ベルト、定着ローラー、定着ベルト、搬送ローラー及び搬送ベルトから選ばれる一種であることを特徴とする(1)記載の表面形状評価方法。
(4)最初の多重解像度解析及び2回目に行なう多重解像度解析が、4つ以上の周波数成分に多重解像度解析を行なうことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の表面形状評価方法。
(5)最初の多重解像度解析を行なって得た最低周波成分の一次元データー列に対し、データーの間引き処理を行なう際、データー配列数が、1/10〜1/100に減少するように間引きすることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の電子写真感光体の表面形状評価方法。
【0029】
尚、本発明において、電子写真装置用部品とは、転写ローラー、転写ベルト、定着ローラー、定着ベルト、搬送ローラー、搬送ベルト等の電子写真装置内に用いられる各種ローラーあるいは各種ベルトを意味し、これらの電子写真装置用部品は、その表面形状が電子写真装置の印字品質に大きく影響することが知られており、本発明に示す方法が有効に使用できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の第一の効果について説明する。
本発明によれば、第1回目のウェーブレット変換による多重解像度解析を行い、その結果得た最低周波成分に対して、データー配列数が1/10から1/100に減少するように間引きしている。
例により、これを説明する。例えば、第1回目のウェーブレット変換による多重解像度解析を行い、その結果得た最低周波成分の、データー配列数が20000であったとする。
この2000のデーター配列に対し、1/20の間引きを行なう場合は、最低周数成分の2000のデーター配列から、1番目、21番目、41番目、61番目と20おきにデーターを拾い出し、新しい配列を作ることである。
また、この2000のデーター配列に対し、1/50の間引きを行なう場合は、最低周数成分の2000のデーター配列から、1番目、51番目、101番目、151番目と50おきにデーターを拾い出し、新しい配列を作ることである。
【0031】
以上の場合は、単にデーターの間引き、すなわち、ある一定数の整数おきにデーターを取り出すだけで良いが、データーを取り出すのが少数になる場合は、その区間の比例を求めて計算すれば良い。例えば、10000のデーター配列から、50.1個おきにデーターを取り出す場合は、以下のように計算する。
50個目のデーターをD50、51個目のデーターをD51とした場合、50.1個目のデーターは以下のようにして計算する。
50 + (D51−D50)×0.1
【0032】
本発明において、間引きするデーター配列は、すでにウェーブレット変換を行い、多重解像度解析を行なった最低周波成分であり、このデーター配列には高周波成分は含んでいないので、間引きを行なっても、失われる高周波成分は無く、信号に含まれる情報を失うことはない。
ウェーブレット変換を行なう前の元データーに対して間引きを行なうと、元データーから間引きによりデーターを取り出す位置により、その値が変動する問題が生じる。
ウェーブレット変換を行なわずにデーターの間引きを行なう際のこの問題を回避する策として、元データーを移動平均法等で平滑化してから行なう方法も考えられるが、この方法では、何個の値を移動平均するかによってデーターが変ってくることがあり、良好なデーターが得られない。
しかし、本発明によれば、第1回目のウェーブレット変換を行なって得た最低周波成分に対して、データー配列数が1/10から1/100に減少するように間引きしているので、間引きを行なっても失われる情報は少なく、精度の良いデーター解析が可能になる。
【0033】
次に本発明の第二の効果について説明する。
本発明では、第1回目のウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行なっている。
まとめると、第1回目の多重解像度解析結果で得た最低周波成分に対して間引きを行なって、信号の見掛け上の周波数を上げ、そのデーターに対して更に第2回目の多重解像度解析を行なっている。
このようにすることにより、第1回目の多重解像度解析結果で得た最低周波成分に対し、より詳細に周波数解析を行なうことが可能になる。
【0034】
次に本発明の第三の効果について説明する。
本発明では、第1回目のウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行なっている。
多重解像度解析を行い、元の信号をその周波数帯域によって複数の帯域に分離する場合、その信号の周波数によっては、1との帯域に分離されず、複数の帯域に分かれてしまうことがある。
しかしここで、着目したい周波数が判っている場合、第1回目のウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きする際に、間引きの割合を調整することにより、着目した周波数が第2回目の多重解像度解析を行なっても、2つの帯域に分離せず、観測することが可能になる。
【0035】
次に本発明の第四の効果について説明する。
本発明では、電子写真感光体表面の凹凸形状を表面粗さ計により測定して得た一次元データー配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、
更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分に対して、中心線平均粗さRa、最大高さ Rmax、十点平均粗さRzを求めている。
このように、多重解像度解析結果に対し、中心線平均粗さRa、最大高さ Rmax、十点平均粗さRzを求めるので、各周波数成分の状態を容易に数値化することが可能になる。
【0036】
ここで、中心線平均粗さRaとは、表面粗さ計で測定して得た粗さ曲線を中心線から折り返し、その粗さ曲線と中心線によって得られた面積を、基準長さLで割った値をマイクロメートル(μm)で表わすものである。ここで基準長さLは測定長である。
また、最大高さRmaxとは表面粗さ計で測定して得た粗さ曲線を、基準長さLを抜き取った部分の最大高さを求めてマイクロメートル(μm)で表わすものである。
十点平均粗さRzとは、粗さ曲線から基準長さLだけを抜き取った部分において、最高から5番目までの山頂の標高の平均値と、最深から5番目までの谷底の標高の平均値との差の値をマイクロメートル(μm)で表わすものである。
【0037】
多重解像度解析で得た各周波数成分に対し、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めるが、これは第2回目の多重解像度解析で得た各周波数成分に対してだけでなく、第1回目の多重解像度解析で得た各周波数成分に対して行なっても良い。ここで粗さ曲線は断面曲線と呼ぶ場合もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下本発明について詳細に説明する。
本願第1の発明の表面粗さ評価技術においては、始めに、電子写真装置用部品の表面の状態についてJIS B0601に定める断面曲線を求め、その断面曲線である一次元データー配列を得る。
この断面曲線である一次元のデーター配列は、表面粗さ計からデジタル信号として得てもよく、あるいは表面粗さ計のアナログ出力をA/D変換して得ても良い。
本発明において、測定長さはJIS規格に定める測定長さであることが好ましく、8mm以上、25mm以下が好ましい。
また、サンプリング間隔は、1μm以下が良く、好ましくは0.2μm以上、0.5μm以下が良い。
例えば、測定長12mmをサンプリング点数30720点で測定する場合、サンプリング間隔は0.390625μmとなり、本発明を実施するのに好適である。
【0039】
この一次元データー配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分に対して、十点平均粗さ、最大高さを求める。
【0040】
本発明では2回のウェーブレット変換を行なうが、最初のウェーブレット変換を第1回目のウェーブレット変換、後のウェーブレット変換を第2回目のウェーブレット変換と呼ぶことにする。
ここで、第1回目、及び第2回目のウェーブレット変換に使用するマザーウェーブレット関数としては各種のウェーブレット関数が使用可能であり、例えば、ドビッシー(Daubecies)関数、ハール(Harr)関数、メーヤー(Meyer)関数、シムレット(Symlet)関数、そしてコイフレット(Coiflet)関数等が使用可能である。ここでDaubeciesはドベシィと表記することがある。
また、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行なう場合、その成分数は4以上、8以下が良く、好ましくは6が良い。
【0041】
本発明において、第1回目のウェーブレット変換を行なって、複数の周波数成分に分離し、ここで得た最低周波成分を間引きして一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して第2回目のウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行なう。
【0042】
ここで、第1回目のウェーブレット変換結果で得た最低周波成分に対して行なう間引きは、データー配列数を、1/10から1/100にするのが特徴である。
ここで、データー間引きは、データーの周波数を上げる効果があり、例えば、第1回目のウェーブレット変換結果で得た一次元配列の配列数が30000であった場合、1/10の間引きを行うと、配列数が3000になる。
この場合、間引きが1/10より小さいと、例えば、1/5であると、データーの周波数を上げる効果が少なく、第2回のウェーブレット変換を行い多重解像度解析を行なっても、データーは良く分離されない。
また、間引きが1/100より大きいと、例えば、1/200であると、データーの周波数が高くなりすぎ、第2回のウェーブレット変換を行い多重解像度解析を行なっても、データーは高周波成分に集中して良く分離されない。
【0043】
図1は本願第1の発明を適用した、電子写真装置用部品の表面粗さ評価装置の一構成例を模式的に示す構成図である。図中、1は電子写真感光体用基体あるいはその表面に下引き層を形成した物等の測定対象であり、2は表面粗さを測定するプローブを取り付けた治具、3は上記治具2を測定対象に沿って移動させる機構、4は表面粗さ計、5は信号解析を行うパーソナルコンピューターである。この図において、パーソナルコンピューター5によって上記の多重解像度解析の計算が行われる。
【0044】
この図は一例として示したものであり、構成は他の構成によってもかまわない。例えば、多重解像度解析はパーソナルコンピューターではなく、専用の数値計算プロセッサーで行っても良い。また、この処理を表面粗さ計自体で行っても良い。結果の表示は各種の方法が使用可能であり、CRTや液晶画面に表示しても良く、あるいは印字出力を行ったりしても良い。また、他の装置に電気信号として送信しても良く、USBメモリやMOディスクに保存しても良い。
【0045】
本発明者の測定では、表面粗さ計は東京精密社製サーフコム570Aを使用し、パーソナルコンピューターはIBM社製パーソナルコンピューターを使用し、サーフコム570AとIBM製パーソナルコンピューターの間はRS−232−Cケーブルで接続した。サーフコムからパーソナルコンピューターに送られた表面粗さデーターの処理とその多重解像度解析計算は、発明者の作成がC言語で作成したソフトウェアで行った。
【0046】
以下、本発明による表面粗さ評価方法で評価を行った電子写真感光体用基体を用いた電子写真感光体及び該電子写真感光体を搭載した電子写真装置の構成例について説明する。なお、電子写真装置は、狭義の意味での、後述する電子写真プロセスカートリッジを包含する。
【0047】
図2は、電子写真感光体の層構成を模式的に表わす断面図であり、導電性の電子写真感光体用基体(以下単に基体とも称する)21上に、下引き層22を介して、電荷発生材料を主成分とする電荷発生層23と、電荷輸送材料を主成分とする電荷輸送層24とが積層された構成をとっている。更に、図3は電荷輸送層24の上に保護層25を設けた構成になっている。
【0048】
導電性基体(支持体)21としては、体積抵抗1010Ωcm以下の導電性を示すもの、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ニクロム、銅、金、銀、白金などの金属、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物を、蒸着又はスパッタリングにより、フィルム状もしくは円筒状のプラスチック、紙に被覆したもの、あるいは、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ステンレス等の板及びそれらを押し出し、引き抜き等の工法で素管化後、切削、超仕上げ、研磨等で表面処理した管等を使用することができる。また、特公昭52−36016号公報に開示されたエンドレスニッケルベルト、エンドレスステンレスベルトも導電性基体21として用いることができる。
【0049】
この他、上記基体上に導電性粉体を適当な結着樹脂に分散して塗工したものも、本発明の導電性基体21として用いることができる。この導電性粉体としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、また、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀等の金属粉或いは導電性酸化スズ、ITO等の金属酸化物粉体等が挙げられる。また、同時に用いられる結着樹脂には、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。
【0050】
このような導電性層は、これらの導電性粉体と結着樹脂を適当な溶剤、例えば例えばTHF(テトラヒドロフラン)、MDC(ジクロロメタン)、MEK(メチルエチルケトン)、トルエン等に分散して塗布することにより設けることができる。更に、適当な円筒基体上にポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、塩化ゴム、テフロン(登録商標)などの素材に前記導電性粉体を含有させた熱収縮チューブによって導電性層を設けてなるものも、本発明の導電性基体21として良好に用いることができる。
導電性基体21の加工方法としては、各種の切削加工、研削加工、研磨加工が可能であり、それらの加工法の組み合わせも有効である。
【0051】
次に感光層について説明する。感光層は単層でも積層でもよいが、説明の都合上、まず電荷発生層23と電荷輸送層24から構成される場合から述べる。
電荷発生層23は、電荷発生材料を主成分とする層である。電荷発生材料には、顔料、染料などの有機材料が用いられ、その代表例として、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、キナクリドン系顔料、キノン系縮合多環化合物、スクアリック酸系染料、フタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、アズレニウム塩系染料等が挙げられ用いられる。電荷発生材料は、単独であるいは2種以上混合して用いられる。
【0052】
電荷発生層23に用いられる結着樹脂としては、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリケトン、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルケトン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリアクリルアミド、ポリビニルベンザール、ポリエステル、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリビニルピリジン、セルロース系樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。結着樹脂の量は、電荷発生物質100重量部に対し20〜200重量部、好ましくは50〜150重量部が適当である。
【0053】
ここで用いられる溶剤としては、例えばイソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルセルソルブ、酢酸エチル、酢酸メチル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、モノクロロベンゼン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、リグロイン等が挙げられる。塗布液の塗工法としては、浸漬塗工法、スプレーコート、ビートコート、ノズルコート、スピナーコート、リングコート等の方法を用いることができる。電荷発生層23の膜厚は0.01〜5μm程度が適当であり、好ましくは0.1〜2μmである。
【0054】
電荷輸送層24は、電荷輸送物質及び結着樹脂を適当な溶剤に溶解ないし分散し、これを電荷発生層23上に塗布、乾燥することにより形成できる。また、必要により可塑剤、レベリング剤、酸化防止剤等を添加することもできる。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどのシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は結着樹脂に対して0〜1重量%程度が適当である。
【0055】
電荷輸送物質には、正孔輸送物質と電子輸送物質とがある。電子輸送物質としては、例えば、クロルアニル、ブロムアニル、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロキサントン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、2,6,8−トリニトロ−4H−インデノ[1,2−b]チオフェン−4−オン、1,3,7−トリニトロジベンゾチオフェン−5,5−ジオキサイド、ベンゾキノン誘導体等の電子受容性物質が挙げられる。
【0056】
正孔輸送物質としては、ポリ−N−カルバゾール及びその誘導体、ポリ−γ−カルバゾリルエチルグルタメート及びその誘導体、ピレン−ホルムアルデヒド縮合物及びその誘導体、ポリビニルピレン、ポリビニルフェナントレン、ポリシラン、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、モノアリールアミン誘導体、ジアリールアミン誘導体、トリアリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、α−フェニルスチルベン誘導体、ベンジジン誘導体、ジアリールメタン誘導体、トリアリールメタン誘導体、9−スチリルアントラセン誘導体、ピラゾリン誘導体、ジビニルベンゼン誘導体、ヒドラゾン誘導体、インデン誘導体、ブタジエン誘導体、ピレン誘導体等、ビススチルベン誘導体、エナミン誘導体等その他公知の材料が挙げられる。これらの電荷輸送物質は、単独で又は2種以上混合して用いられる。
【0057】
結着樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアリレート、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート、酢酸セルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂等の熱可塑性又は熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0058】
電荷輸送物質の量は、結着樹脂100重量部に対し、20〜300重量部、好ましくは40〜150重量部が適当である。また、電荷輸送層の膜厚は、5〜50μm程度とすることが好ましい。
ここで用いられる溶剤としては、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、ジクロロメタン、モノクロロベンゼン、ジクロロエタン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトンなどが挙げられる。
【0059】
また、電荷輸送層には電荷輸送物質としての機能と、バインダー樹脂の機能をもった高分子電荷輸送物質も良好に使用される。これら高分子電荷輸送物質から構成される電荷輸送層は、耐摩耗性に優れたものである。高分子電荷輸送物質としては、公知の材料が使用できるが、トリアリールアミン構造を主鎖及び/又は側鎖に含むポリカーボネートが良好に用いられる。例えば、特開2000−103984号公報において(1)〜(10)式で表わされている高分子電荷輸送物質が良好に用いられる。
【0060】
また、電荷輸送層24に可塑剤やレベリング剤を添加してもよい。可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど一般の樹脂の可塑剤として使用されているものがそのまま使用でき、その使用量としては結着樹脂に対して0〜30重量%程度が適当である。レベリング剤としては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどのシリコーンオイル類や、側鎖にパーフルオロアルキル基を有するポリマーあるいはオリゴマーが使用され、その使用量は結着樹脂に対して0〜1重量%程度が適当である。
【0061】
図3に示すように、電子写真感光体には、感光層保護の目的で、保護層25を感光層の上に設けることもある。保護層25に使用する材料としては、ABS樹脂、ACS樹脂、オレフィン−ビニルモノマー共重合体、塩素化ポリエーテル、アリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリアリルスルホン、ポリブチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリメチルペンテン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリスチレン、AS樹脂、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。保護層25にはその他、耐摩耗性を向上する目的で、ポリテトラフルオロエチレンのような弗素樹脂、シリコーン樹脂及びこれら樹脂に酸化チタン、酸化スズ、チタン酸カリウム等の無機材料を分散したもの等を添加することができる。
【0062】
保護層25の形成方法としては、通常の塗布法が採用される。なお、保護層25の厚さは、0.1〜7μm程度が適当である。また、以上の他に真空薄膜作製法にて形成したa−C、a−SiCなど公知の材料も保護層25として用いることができる。
【0063】
電子写真感光体には、図2、図3に示すように、導電性基体21と感光層(23、24)との間に下引き層22を設けることができる。下引き層22は一般には樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤で塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶剤性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド−メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂などが挙げられる。
【0064】
また、下引き層22にはモアレ防止、残留電位の低減等のために、酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物の微粉末を加えてもよい。これらの下引き層22は、前述の感光層の場合と同様、適当な溶媒、塗工法を用いて形成することができる。
さらに、下引き層22として、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。この他、下引き層22にはAlを陽極酸化にて設けたものや、ポリパラキシリレン(パリレン)等の有機物や、SiO、SnO、TiO、ITO、CeO等の無機物を真空薄膜作製法にて設けたものも良好に使用できる。この他にも公知のものを用いることができる。下引き層22の膜厚は0〜5μmが適当である。
【0065】
感光層(23、24)と保護層25との間に中間層を設ける場合がある。中間層には、一般にバインダー樹脂を主成分として用いる。これら樹脂としては、ポリアミド、アルコール可溶性ナイロン、水酸化ポリビニルブチラール、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。中間層の形成法としては、前述のごとく通常の塗布法が採用される。なお、中間層の厚さは0.05〜2μm程度が適当である。
【0066】
次に、上記電子写真感光体を搭載した電子写真装置について説明する。図4は、該電子写真装置の一例を模式的に説明する概略図であり、後述するような変形例も本発明の範疇に属するものである。図4に示す電子写真装置は、ドラム状の電子写真感光体31のまわりに、帯電機構32、露光光源33、現像機構34、転写機構35、クリーニング機構37が配置されている。転写機構35において、転写材38にはトナーが転写され、これは定着機構36で定着される。
【0067】
上記の電子写真装置を使用した電子写真方法においては、電子写真感光体31は、反時計方向に回転して、帯電機構32で正又は負に帯電され、露光光源33からの露光によって、静電潜像を電子写真感光体31上に形成する。
帯電機構32には、コロトロン、スコロトロン、固体帯電器(ソリッドステートチャージャ)、帯電ローラなどをはじめとする公知の帯電手段を用いることができる。転写機構35には、一般の帯電器が使用できるが、転写チャージャと分離チャージャを併用したものが効果的である。
【0068】
また露光光源33、及び図示されていないが、除電光源等で使用する光源としては、蛍光灯、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)等の発光物を使用することができる。そして、所望の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロイックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルターなどの各種フィルターを用いることもできる。かかる光源等は、図4に図示した構成の他に、光照射を併用した転写工程、除電工程、クリーニング工程、或いは前露光等の工程を設けることにより、感光体に光が照射される際にも用いることができる。
【0069】
感光体に正又は負の帯電を施して画像露光を行った場合、感光体上には正又は負の静電潜像が形成される。これを負又は正に帯電した極性のトナー(検電微粒子)で現像すればポジ画像が得られるし、逆に正又は負に帯電した極性のトナーで現像すればネガ画像が得られる。かかる現像には、公知の方法を適用することができ、また除電手段にも公知の方法が用いられる。
【0070】
この例においては、導電性基体はドラム状のものとして示されているが、シート状、エンドレスベルト状のものを使用することができる。クリーニング前チャージャとしては、コロトロン、スコロトロン、固体帯電器(ソリッドステートチャージャ)、帯電ローラなどをはじめとする公知の帯電手段を用いることができる。また転写チャージャ及び分離チャージャには、通常上記の帯電手段を使用することができる。クリーニング機構には、ファーブラシ、マグファーブラシなどをはじめとする公知のブラシやポリウレタン製ブレードを使用することができる。
【0071】
以上に示すような電子写真装置に代表される画像形成手段は、複写装置、ファクシミリ、プリンタなどの装置内に固定して組み込まれていてもよいが、プロセスカートリッジの形でそれら装置内に組み込まれてもよい。プロセスカートリッジとは、感光体を内蔵し、他に帯電手段、露光手段、現像手段、転写手段、クリーニング手段、除電手段などを含んだ一つの装置(部品)である。プロセスカートリッジの形状等は多く挙げられるが、一般的な例として図5に示すものが挙げられる。
【0072】
図5に電子写真用プロセスカートリッジを示す。図5において、31は電子写真感光体、32は帯電手段、33は画像露光光源、34は現像手段、35は転写手段、38は紙等の転写材、36は定着機構、37はクリーニング機構、39はプロセスカートリッジの容器を示す。
この図は一構造例を示したものであり、各手段は図に示した以外の形態でも良い。例えば、帯電手段32はコロトロン、スコロトロン、帯電ロール等の公知の帯電手段が使用可能である。画像露光、及び図示されていない前露光光の光源には、蛍光燈、タングステンランプ、ハロゲンランプ、水銀灯、ナトリウム灯、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)、エレクトロルミネッセンス(EL)などの発光手段を使用することができる。また、所定の波長域の光のみを照射するために、シャープカットフィルター、バンドパスフィルター、近赤外カットフィルター、ダイクロックフィルター、干渉フィルター、色温度変換フィルターなどの各種フィルターが使用可能である。クリーニング機構37は、クリーニングブレードだけで行われることもあり、クリーニングブラシ、もしくはブレードと併用されることもある。図5に示すプロセスカートリッジにおいて、クリーニング手段等がプロセスカートリッジに含まれなくても良い。また、図では内蔵していない発光手段や転写手段をプロセスカートリッジに内蔵していても良い。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明するが、本発明は実施例により制約を受けるものではない。なお、部はすべて重量部である。
(実施例1)
初めに、電子写真感光体の各塗工層を塗工する為の下引き層塗工液、電荷発生層塗工液、電荷輸送層塗工液、そして、保護層塗工液をそれぞれ下記のようにして作製した。
[下引き層塗工液の組成]
下記材料をボールミルで分散し、下引き層塗工液を作製した。
・アルキッド樹脂(ベッコゾール 1307-60-EL、大日本インキ化学工業製) 6部
・メラミン樹脂(スーパーベッカミン G-821-60、大日本インキ化学工業製) 4部
・酸化チタン 40部
・メチルエチルケトン 50部
【0074】
[電荷発生層塗工液の作製]
下記材料をボールミルで分散し、電荷発生層塗工液を作製した。
・下記構造式(I)のビスアゾ顔料 2.5部
・ポリビニルブチラール(XYHL、UCC製) 0.5部
・シクロヘキサノン 200部
・メチルエチルケトン 80部
【0075】
【化1】

【0076】
[電荷輸送層塗工液の作製]
下記材料を溶解後、平均孔径1μmのコットンフィルターで濾過して電荷輸送層塗工液を作製した。
・ビスフェノールZポリカーボネート(パンライトTS-2050、帝人化成製) 10部
・下記構造式(II)の電荷輸送物質 7部
・テトラヒドロフラン 100部
・1%シリコーンオイル(KF50−100CS、信越化学工業製)のテトラヒドロ
フラン溶液 1部
【0077】
【化2】

【0078】
[保護層塗工液の作製]
・酸化アルミナ粉末(平均粒径 約0.2μm) 15部
・ビスフェノールZポリカーボネート(パンライトTS-2050、帝人化成製) 40部
・構造式(II)の電荷輸送物30部
・テトラヒドロフラン 2000部
・シクロヘキサノン 600部
【0079】
[電子写真感光体の作製]
外径30mm、肉厚0.9mm、長さ340mmのアルミニウム管を洗浄し乾燥後、浸漬塗工によって先に作成した下引き層塗工液を塗工し、120℃で30分間乾燥して厚さ3μmの下引き層を形成した。
次に、先に作成した電荷発生層塗工液を浸漬塗工装置の塗工槽に入れ、浸漬塗工を行い、105℃で10分間乾燥して、厚さ約0.8μmの電荷発生層を形成した。
次に、先に作成した電荷輸送層塗工液を浸漬塗工装置の塗工槽に入れ、浸漬塗工を行い、120℃で20分間乾燥して、厚さ約28μmの電荷輸送層を形成した。
【0080】
このようにして作成した電子写真感光体を図6に示す装置に取り付けた。
図6において、40はこれからスプレー塗工を行なおうとする電子写真感光体、41はその電子写真感光体の両端を保持する治具で、一定速度で回転することが可能になっている。そして、42はスプレー塗工を行なうスプレーノズル、43はスプレーノズルによって霧化された塗工液、44はスプレーノズルを取り付けた台であり、これは電子写真感光体40と平行に設置されたレール45の上に載っていて、電子写真感光体の軸方向に移動可能になっている。
そして、46はスプレー塗工液を供給する配管、47はスプレー塗工に使用する圧縮空気を供給する配管、48はスプレー塗工の実施を制御する弁を駆動する圧縮空気を供給する配管、49はスプレーノズルのニードル突出量を調整するツマミである。
そして、スプレー圧縮空気圧が120000Pa、スプレーノズルのニードル突出量を調整するツマミの位置を90°として保護層塗工液をスプレー塗工した。
実施例1では、保護層が最表面層である。
【0081】
[表面粗さの測定]
このようにして得た電子写真感光体の表面形状を東京精密製サーフコム570で測定した。
ここで、測定長は12mmであり、総サンプリング点数は30720であった。測定した結果はパーソナルコンピューターに取り込み、これを発明者の作成したプログラムにより第1回目のウェーブレット変換と、そこで得た最低周波成分に対する1/40の間引き処理、そして、第2回目のウェーブレット変換を行なった。
このようにして得た第1回目、及び第2回目の多重解像度解析結果に対し、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めた。
このようにして演算した結果を図7に示す。
【0082】
図7において、図7(a)のグラフはサーフコムで測定して得た元のデーターであり、粗さ曲線、あるいは断面曲線と呼ぶ場合もある。
図7には14個のグラフが有るが、縦軸は表面形状の変位であり単位はμmである。また横軸は長さであり、目盛は付けていないが測定長は12mmである。
従来の表面粗さ測定ではこのデーターのみから中心線平均粗さRa、最大高さRmax、Rz等を求めていた。
また、図7(b)の6個のグラフは第1回目の多重解像度解析結果であり、最も上にあるのが最高周波成分のグラフ、最も下に有るのが、最低周波成分のグラフである。
【0083】
ここで、図7(b)において最も上にあるグラフ101は1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分であり、本発明ではこれをMRA1−HHと呼ぶ。
グラフ102は、1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをMRA1−HLと呼ぶ。
グラフ103は、1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをMRA1−MHと呼ぶ。
グラフ104は、1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをMRA1−MLと呼ぶ。
グラフ105は、1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分であり、本発明ではこれをMRA1−LHと呼ぶ。
グラフ106は、1回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分であり、本発明ではこれをMR1−LLと呼ぶ。
【0084】
本発明において、図7(a)のグラフはその周波数によって、図7(b)の6個のグラフに分離するが、その周波数分離の状態を図8に示す。
図8において、横軸は凹凸の形状が正弦波とした場合の、長さ1mm当たりに出現する凹凸数である。また、縦軸は、各帯域に分離された場合の割合を示すものである。
図8において、121は1回目の多重解像度解析における最高周波成分の帯域、
122は1回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分の帯域、
123は1回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分の帯域、
124は1回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分の帯域、
125は1回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分の帯域、
126は1回目の多重解像度解析における最低周波成分の帯域である。
【0085】
図8をより詳細に説明すると、1mm当たりの凹凸数が20個以下の場合は、すべてグラフ126に出現することを示す。
例えば、凹凸数が1mm当たり110個の場合、グラフ124に最も強く出現し、これは図7(b)においてはMRA1−MLに出現する。
また、凹凸数が1mm当たり220個の場合、グラフ123に最も強く出現し、これは図7(b)においては、MRA1−MHに出現することを示している。
また、凹凸数が1mm当たり310個の場合、グラフ122と123に出現し、これは図7(b)においては、MRA1−HLとMRA−MHの両方に出現することを示している。
従って、表面粗さの周波数によって、図7(b)の6本のグラフでどこに現われるか決まってくる。
言い換えると、表面粗さにおいて、細かなザラツキは図7(b)において上の方のグラフに出現し、大きな表面うねりは図7(b)において下の方のグラフに出現する。
【0086】
本発明ではこのように、表面粗さをその周波数によって分解する。これをグラフとしたものが図7(b)であるが、この周波数帯域ごとグラフからそれぞれの周波数帯域での表面粗さを求める。ここで、表面粗さとしては、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを計算することが可能である。
このようにして、図7(b)では、それぞれのグラフに、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを数値で示している。
【0087】
本発明ではこのように表面粗さ計で測定したデーターその周波数によって複数のデーターに分離するので、各周波数帯域における凹凸変化量を測定できる。
本発明では、このように周波数によって図7(b)のように分離したデーターから、最も低い周波数、すなわちMRA1−LLのデーターを間引きする。
本発明は間引きをどのようにするか、すなわち何個のデーターから取り出すか実験によって決めれば良く、間引き数を最適にすることによって図8に示す多重解像度解析における周波数帯域分離を最適化することが可能となり、目的とする周波数をその帯域の中心にとることが可能になる。
実施例1では40個から1個のデーターを取る間引きを行なった。
間引きした結果を図9に示す。図9では縦軸は表面凹凸であり、単位はμmである。また横軸に目盛は付けていないが、長さ12mmである。
【0088】
本発明では図9のデーターを更に多重解像度解析する。すなわち2回目の多重解像度解析を行なう。
図7(c)の6個のグラフは第2回目の多重解像度解析結果であり、最も上にあるグラフ107は、2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分であり、これをMRA2−HHと呼ぶ。
グラフ108は、2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分であり、これをMRA2−HLと呼ぶ。
グラフ109は、2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分であり、これをMRA2−MHと呼ぶ。
グラフ110は、2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分であり、これをMRA2−MLと呼ぶ。
グラフ111は、2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分であり、これをMRA2−LHと呼ぶ。
グラフ112は、2回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分であり、これをMR2−LLと呼ぶ。
【0089】
本発明において、図7(c)では、その周波数によって、6個のグラフに分離しているが、その周波数分離の状態を図10に示す。
図10において、横軸は凹凸の形状が正弦波とした場合の、長さ1mm当たりに出現する凹凸数である。また、縦軸は、各帯域に分離された場合の割合を示すものである。
図10において、127は2回目の多重解像度解析における最高周波成分の帯域、
128は2回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分の帯域、
129は2回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分の帯域、
130は2回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分の帯域、
131は2回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分の帯域、
132は2回目の多重解像度解析における最低周波成分の帯域である。
【0090】
図10をより詳細に説明すると、1mm当たりの凹凸数が0.2個以下の場合は、すべてグラフ132に出現することを示す。
例えば、凹凸数が1mm当たり11個の場合、グラフ128が最も高くなっているが、これは、2回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分の帯域に最も強く出現することを示しており、図7(c)においては、MRA2−MLに出現することを示している。
従って、表面粗さの周波数によって、図7(c)の6本のグラフでどこに現われるか決まってくる。
言い換えると、表面粗さにおいて、細かなザラツキは図7(c)において上の方のグラフに出現し、大きな表面うねりは図7(c)において下の方のグラフに出現する。
本発明ではこのように、表面粗さをその周波数によって分解する。これをグラフとしたものが図7(c)であるが、この周波数帯域ごとグラフからそれぞれの周波数帯域での表面粗さを求める。ここで、表面粗さとしては、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを計算することが可能である。
【0091】
このようにして電子写真感光体表面の凹凸形状を表面粗さ計により測定して得た一次元データー配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分に対して、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めた結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
図7(d)のグラフは第2回目の多重解像度解析結果の6つの周波数成分の上から4番目と5番目から推定した表面形状であり、グラフに、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを数値で示している。
その数値を以下に示す。
中心線平均粗さRa : 0.0848
最大高さRmax : 0.4125
十点平均粗さRz : 0.3557
このようにして得た表面形状は、任意の周波数を除いた場合の表面形状であり、この値で表面形状を評価しても良い。
【0094】
(実施例2)
最表面層のスプレー塗工条件として、スプレー圧縮空気圧を150000Pa、スプレーノズルのニードル突出量を調整するツマミの位置を120°として保護層塗工液をスプレー塗工した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製した。
これを実施例2の電子写真感光体とする。
この実施例2の電子写真感光体の表面粗さを実施例1と同様にして測定した。
測定した結果を図11に示す。
図7と同様に、図11において、図11(a)のグラフはサーフコムで測定して得た元のデーターであり、粗さ曲線、あるいは断面曲線と呼ぶ場合もある。
また、図11(b)の6個のグラフは第1回目の多重解像度解析結果であり、最も上にあるのが最高周波成分のグラフ、最も下に有るのが、最低周波成分のグラフである。
それぞれのグラフに、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを数値で示している。その数値を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
図11(c)の6個のグラフは第2回目の多重解像度解析結果であり、最も上にあるのが最高周波成分のグラフ、最も下に有るのが、最低周波成分のグラフである。
図11(d)のグラフは第2回目の多重解像度解析結果の6つの周波数成分の上から4番目と5番目から推定した表面形状であり、グラフに、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを数値で示している。
その数値を以下に示す。
中心線平均粗さRa : 0.1373
最大高さRmax : 0.8466
十点平均粗さRz : 0.6214
【0097】
(比較例1)
実施例1の電子写真感光体の表面粗さを東京精密製サーフコム570で測定し、中心線平均粗さRa、最大高さ Rmax、十点平均粗さRzを求めた。このとき、測定基準長さは12mmであった。
比較例1の測定結果を以下に示す。
中心線平均粗さRa : 0.2051
最大高さRmax : 1.0204
十点平均粗さRz : 0.9763
【0098】
(比較例2)
実施例2の電子写真感光体の表面粗さを東京精密製サーフコム570で測定し、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めた。このとき、測定基準長さは12mmであった。
比較例2の測定結果を以下に示す。
中心線平均粗さRa : 0.5213
最大高さRmax : 2.1771
十点平均粗さRz : 1.5218
【0099】
[実施例と比較例の対比]
本発明によれば、電子写真感光体表面の凹凸形状を表面粗さ計により測定して得た一次元データー配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得たそれぞれの各周波数成分に対して、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めているので、各周波数成分の状態を知ることが出来、単に中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めるのと異なって、より詳細な結果を得ることができる。
これを以下に説明する。
【0100】
実施例1と比較例1の測定結果をまとめて表3として示した。
比較例1で求めた、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzはすべての凹凸周波数の値であるが、実施例1では凹凸帯域、すなわち細かな凹凸が大きな凹凸かを識別した中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めることが可能になっていて、例えば、MRA1−LLが最も中心線平均粗さRaが大きく、更にこれを多重解像度解析した結果を見ると、最も低い周波数成分の中心線平均粗さRaが大きいことが判る。
しかし比較例ではこのようなことは判らず、従って本発明の効果が確認できた。
同様に実施例2と比較例2の測定結果をまとめて表4として示したが、この結果からも本発明により、表面粗さをその周波数で分離して解析できることが判る。
【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
更に、実施例2と比較例2の別の比較を、図12を使用して行なう。
図12は図11に示した実施例2の結果の一部を取り出し、拡大して示した図である。図12において、(a)は表面粗さ計で測定したデーター、(c)は本発明に基づき2回の多重解像度解析を行なった結果の一部を示したもので、グラフ110は周波数成分MRA2−ML、その下のグラフ111は周波数成分MRA2−LH、そして、一番下のグラフ112は周波数成分MR2−LLである。
【0104】
図12のグラフ(a)には大きな凹133が認められ、従来の方法で表面粗さRa,最大高さRmax、Rz等を算出した場合は、この大きな凹によって値が影響される。
しかし、本発明によって解析した結果である図12の(c)を見ると、大きな凹133は、図12のグラフ112において大きな凹134として分離されており、図12のグラフ112以外、例えば、グラフ110、グラフ111には出現していない。
そこで、グラフ110、あるいはグラフ111を元に表面粗さを求めると、元のデーターに有った大きな凹133の影響を受けずに表面粗さを計測することが可能になることが判る。また、グラフ112から表面粗さを求めると、大きな凹134の大きさを知ることが可能になる。
これは従来の表面粗さ測定方法では出来なかったものであり、従って本発明の効果を確認することができた。
【0105】
更に本発明の効果を図13によって示す。
図13は実施例1で得た中心線平均粗さRa測定結果と、実施例2で得た中心線平均粗さRa測定結果を横軸が1mm当たりの正弦波凹凸数、縦軸を2回目の多重解像度解析結果から求めた表面粗さ中心線平均粗さRaとして、片対数グラフに示したものである。
図13を見ると、試料1及び試料2が各周波数帯域においてどのような中心線平均粗さRaを示しているかが判る。しかし、従来の表面粗さ測定方法で得た値では、1つの数値でしかなく、このような表面凹凸がどのような周波数を持っているかが判らなかった。
これは従来の表面粗さ測定方法では出来なかったものであり、従って本発明の効果を確認することができた。
図13では表面粗さ中心線平均粗さRaを示したが、最大高さRmax、あるいはRz等でグラフ化することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の表面形状評価方法によれば、測定対象物の表面状態をより詳細に評価することができるので、その表面を粗面化する必要がある電子写真感光体を初めとする転写ローラー、転写ベルト、定着ローラー、定着ベルト、搬送ローラー及び搬送ベルト等の電子写真装置用部品の表面形状を評価するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明を実施するのに好適な表面粗さ評価システムの構成図
【図2】電子写真感光体の層構成の図
【図3】電子写真感光体の別の層構成の図
【図4】電子写真装置の構成図
【図5】電子写真用装置用プロセスカートリッジの構成図
【図6】スプレー塗工装置
【図7】実施例1の測定結果
【図8】1回目の多重解像度解析における周波数帯域の分離の図
【図9】1回目の多重解像度解析での最低周波数データーのグラフ
【図10】2回目の多重解像度解析における周波数帯域の分離の図
【図11】実施例2の測定結果を示す図
【図12】実施例2の測定結果の部分拡大図
【図13】実施例1と実施例2の測定結果を片対数グラフで示した図
【符号の説明】
【0108】
1 測定対象である電子写真感光体
2 表面粗さを測定するプローブを取り付けた治具
3 上記治具を測定対象に沿って移動させる機構
4 表面粗さ計
5 信号解析を行うパーソナルコンピューター
21 電子写真感光体用基体
22 下引き層
23 電荷発生層
24 電荷輸送層
25 保護層
31 電子写真感光体
32 帯電機構
33 露光光源
34 現像機構
35 転写機構
36 定着機構
37 クリーニング機構
38 転写材
39 プロセスカートリッジのケース
40 スプレー塗工を行う電子写真感光体
41 電子写真感光体の両端を保持する治具
42 スプレー塗工を行なうスプレーノズル
43 スプレーノズルによって霧化された塗工液
44 スプレーノズルを取り付けた台
45 スプレーノズルを取り付けた台を移動するレール
46 スプレー塗工液を供給する配管
47 スプレー塗工に使用する圧縮空気を供給する配管
48 スプレー塗工の実施を制御する弁を駆動する圧縮空気を供給する配管
49 スプレーノズルのニードル突出量を調整するツマミ
101 1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分
102 1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分
103 1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分
104 1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分
105 1回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分
106 1回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分
107 2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分
108 2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より1つ低い周波数成分
109 2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より2つ低い周波数成分
110 2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より3つ低い周波数成分
111 2回目の多重解像度解析結果の最高周波数成分より4つ低い周波数成分
112 2回目の多重解像度解析結果の最低周波数成分
121 1回目の多重解像度解析における最高周波成分の帯域
122 1回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分の帯域
123 1回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分の帯域
124 1回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分の帯域
125 1回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分の帯域
126 1回目の多重解像度解析における最低周波成分の帯域
127 2回目の多重解像度解析における最高周波成分の帯域
128 2回目の多重解像度解析における最高周波成分より1つ低い周波数成分の帯域
129 2回目の多重解像度解析における最高周波成分より2つ低い周波数成分の帯域
130 2回目の多重解像度解析における最高周波成分より3つ低い周波数成分の帯域
131 2回目の多重解像度解析における最高周波成分より4つ低い周波数成分の帯域
132 2回目の多重解像度解析における最低周波成分の帯域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真装置用部品表面の凹凸形状を表面粗さ計により測定して得た一次元データー配列を、ウェーブレット変換して高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、更に、ここで得た最低周波成分を間引きした一次元データー配列を作り、この一次元データー配列に対して更にウェーブレット変換を行なって、高周波数成分から低周波数成分に至る複数の周波数成分に分離する多重解像度解析を行い、得た各周波数成分に対して、中心線平均粗さRa、最大高さRmax、十点平均粗さRzを求めることを特徴とする、電子写真装置用部品の表面形状評価方法。
【請求項2】
前記電子写真装置用部品が電子写真感光体であることを特徴とする請求項1記載の表面形状評価方法。
【請求項3】
前記電子写真装置用部品が転写ローラー、転写ベルト、定着ローラー、定着ベルト、搬送ローラー及び搬送ベルトから選ばれる一種であることを特徴とする請求項1記載の表面形状評価方法。
【請求項4】
最初の多重解像度解析及び2回目に行なう多重解像度解析が、4つ以上の周波数成分に多重解像度解析を行なうことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の表面形状評価方法。
【請求項5】
最初の多重解像度解析を行なって得た最低周波成分の一次元データー列に対し、データーの間引き処理を行なう際、データー配列数が、1/10〜1/100に減少するように間引きすることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の表面形状評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−204462(P2009−204462A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47169(P2008−47169)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】