説明

電子写真機器用トナー供給ロール

【課題】ウレタン発泡層の連通性の向上およびウレタン発泡層の低硬度化を図ることができる電子写真機器用トナー供給ロールの提供を目的とする。
【解決手段】軸体1と、この軸体1の外周に形成されるウレタン発泡層2とを備えた電子写真機器用トナー供給ロールである。上記ウレタン発泡層2が、下記の(A)〜(E)成分を含有するウレタン組成物の発泡硬化体により形成されている。
(A)エチレンオキサイド(EO)の量が、全体の0重量%ないし20重量%以下のポリプロピレングリコール。
(B)水溶性フッ素化合物。
(C)水(発泡剤)。
(D)アミン触媒。
(E)トルエンジイソシアネート(TDI)と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)の少なくとも一方の双方からなるイソシアネート系硬化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機,プリンタ,ファクシミリ等の電子写真機器に用いられる電子写真機器用トナー供給ロール(以下、単に「トナー供給ロール」と略す場合もある。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機等の電子写真機器に用いられるトナー供給ロールは、通常、軸体と、その外周面に形成されたウレタンフォームからなるウレタン発泡層とで構成されており、上記ウレタン発泡層には、トナーを安定して現像ロールに供給するトナー供給性能に加え、現像ロールの表面に余ったトナーを確実に掻き取るトナー掻き取り性能が求められている。
【0003】
従来は、ウレタン発泡で汎用的に使用されるシリコーン整泡剤、ポリマーポリオール、破泡ポリオール等を組み合わせることにより、ウレタン発泡層のセル径や、連通度の制御により、トナーや現像ロールに適した、トナー供給ロール用ウレタン発泡層の材料設計を行っていた(例えば、特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−307777号公報
【特許文献2】特許第3715881号公報
【特許文献3】特開2007−231189号公報
【特許文献4】WO2005/047395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載の方法では、セルに開いた連通穴の径が小さい等の理由により、セルの連通性が劣るため、セル内にトナーが詰まりやすく、そのため、セル内に詰まったトナーを、現像ロールに接触した圧縮状態から、回転が進んで非接触の圧縮開放状態において、ウレタンの反発力により掻き出しにくく、硬度が高くなり、画像が悪化(濃度むら等)するという難点がある。また、ポリマーポリオールのように、樹脂粒子を含有する連通化剤を使用すると、発泡体が高硬度となり、トナーに与えるストレスが増大し、トナーの劣化等の不具合により、画像が悪化する等の難点もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ウレタン発泡層の連通性の向上およびウレタン発泡層の低硬度化を図ることができる電子写真機器用トナー供給ロールの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の電子写真機器用トナー供給ロールは、軸体と、この軸体の外周に形成されるウレタン発泡層とを備えた電子写真機器用トナー供給ロールであって、上記ウレタン発泡層が、下記の(A)〜(E)成分を含有するウレタン組成物の発泡硬化体により形成されているという構成をとる。
(A)エチレンオキサイド(EO)の量が、全体の0重量%ないし20重量%以下のポリプロピレングリコール。
(B)水溶性フッ素化合物。
(C)水(発泡剤)。
(D)アミン触媒。
(E)トルエンジイソシアネート(TDI)と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)の少なくとも一方の双方からなるイソシアネート系硬化剤。
【0008】
すなわち、本発明者らは、ウレタン発泡層の連通性の向上およびウレタン発泡層の低硬度化を図るため、まず連通化剤に着目し、フッ素系材料について鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、非水溶性のフッ素系材料は、発泡剤(水)と非相溶となるため、分離し保管安定性が悪くなるとともに、発泡セルの硬度のばらつきが大きくなるのに対して、水溶性のフッ素系材料(水溶性フッ素化合物)を配合すると、非水元素(フッ素元素)によって系の粘度が下がり、相溶性が向上するため、保管安定性が良好になるとともに、発泡セルの硬度のばらつきも小さくなることを突き止めた。同時に、本発明者らは、イソシアネート硬化剤についても着目し、トルエンジイソシアネート(TDI)と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)について実験を重ねた。その研究の過程で、MDI単独では、架橋が先行して行われるため、水溶性フッ素化合物による破泡・連通化の効果が発現する前に硬化し、水溶性フッ素化合物の併用による効果が得られないこと、またTDI単独では、鎖延長による増粘反応であるため、水溶性フッ素化合物による破泡・連通化の効果が発現した後に架橋による硬化ができず、発泡セルが大きくなりすぎることを突き止めた。そこで、この問題を解決するため、さらに実験を重ねた結果、MDIおよびポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)の少なくとも一方と、TDIの双方を併用すると、上述の水溶性フッ素化合物による破泡・連通化の効果が発現した直後に硬化するため、セルの大きさは同等で、連通性に優れた発泡セルを得ることができ、これによって、所期の目的を達成できることを見いだし、本発明に到達した。
【0009】
なお、本発明における上記ウレタンの発泡は、水(発泡剤)を使用した化学発泡であるが、ウレタン中にウレア結合(尿素結合)があれば、化学発泡と判断できるため、ウレア結合(尿素結合)の有無によって、それ以外の発泡(機械発泡、溶媒発泡)と区別することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の電子写真機器用トナー供給ロールは、エチレンオキサイド(EO)の量が、全体の0重量%ないし20重量%以下のポリプロピレングリコールと、連通化剤としての水溶性フッ素化合物と、発泡剤としての水と、アミン触媒と、トルエンジイソシアネート(TDI)と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)の少なくとも一方(以下、「MDI系」と略す場合もある。)の双方からなるイソシアネート系硬化剤を含有する特殊なウレタン組成物の発泡硬化体により形成されている。上記水溶性フッ素化合物の配合によって系の粘度が下がり、相溶性が向上するため、保管安定性が良好になるとともに、発泡セルの硬度のばらつきも小さくなる。また、上記MDI系と、TDIの双方の併用によって、水溶性フッ素化合物による破泡・連通化の効果が発現した直後に硬化するため、セルの大きさは同等で、連通径が大きく、連通性に優れた発泡セルを得ることができ、ウレタン発泡層の連通性の向上およびウレタン発泡層の低硬度化を図ることができる。このように、連通しているセルであって奥側に位置するセルにまで、掻き取ったトナーを収容できるため、トナーの収容力が高まり、その排出も、径の大きな連通路を通って表面側のセルに移行させ、そこから、現像ロールとの非接触時に、ウレタンの反発力により排出させるため、トナーの詰まりが生じにくくなる。
【0011】
また、上記(B)成分が、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI),カリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド,トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のような、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)構造を有するものであると、連通性の点で好ましい。
【0012】
そして、上記(B)成分の配合量が、(A)成分100重量部に対して、0.01〜1.0重量部の範囲であると、より連通性が向上する。
【0013】
さらに、上記(E)成分中のTDIと、MDIおよびCr−MDIの少なくとも一方(MDI系)との重量混合比が、TDI/MDI系=20/80〜80/20の範囲であると、上記水溶性フッ素化合物による破泡・連通化の効果が発現する時期と、セルの発泡硬化の時期のバランスが良好となり、より連通性に優れた発泡セルを得ることができる。
【0014】
また、上記ウレタン組成物が、上記(A)〜(E)成分に加えて、さらにシリコーン系整泡剤(F)を含有すると、ウレタン発泡の連通性を維持しつつ、均一なセルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の電子写真機器用トナー供給ロールの一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の電子写真機器用トナー供給ロールの製法の一例を示す説明図である。
【図3】ロール硬度の測定方法を示す説明図である。
【図4】実施例4のウレタン発泡層の内部を切断した表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したSEM写真(倍率100倍)である。
【図5】実施例4のウレタン発泡層の内部を切断した表面を、SEMで観察したSEM写真(倍率40倍)である。
【図6】比較例2のウレタン発泡層の内部を切断した表面を、SEMで観察したSEM写真(倍率100倍)である。
【図7】比較例2のウレタン発泡層の内部を切断した表面を、SEMで観察したSEM写真(倍率40倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態について詳しく説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0017】
本発明の電子写真機器用トナー供給ロールは、図1に示すように、軸体1と、この軸体1の外周面に形成されるウレタン発泡層2とを備えている。そして、本発明においては、上記ウレタン発泡層2が、下記の(A)〜(E)成分を含有するウレタン組成物の発泡硬化体により形成されていることが最大の特徴である。
(A)エチレンオキサイド(EO)の量が、全体の0重量%ないし20重量%以下のポリプロピレングリコール。
(B)水溶性フッ素化合物。
(C)水(発泡剤)。
(D)アミン触媒。
(E)トルエンジイソシアネート(TDI)と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)の少なくとも一方の双方からなるイソシアネート系硬化剤。
【0018】
上記軸体1は、中実でも中空でもよく、その形成材料としては、例えば、鉄,ステンレス,アルミニウム、鉄にメッキを施したもの等の金属、またはポリアセタール(POM)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート、ナイロン等のプラスチックがあげられる。なお、上記軸体1の外周面には、必要に応じて、接着剤やプライマー等を塗布しても差し支えない。
【0019】
つぎに、上記軸体1の外周面に形成されるウレタン発泡層2は、上記(A)〜(E)成分を含有するウレタン組成物の発泡硬化体により形成されている。
【0020】
<特定のプロピレングリコール(PPG)(A成分)>
上記特定のプロピレングリコール(PPG)(A成分)としては、エチレンオキサイド(EO)を含有しないポリプロピレングリコール(EO未変性PPG)、およびEOの含有量が全体の20重量%以下のEO変性ポリプロピレングリコール(EO変性PPG)の少なくとも一方が用いられる。
【0021】
上記EO変性PPGとしては、PPGの末端等にエチレンオキサイド(EO)が付加されたものが用いられ、上記EOの含有量がA成分全体の20重量%以下であり、好ましくは0.1〜20重量%の範囲であり、特に好ましくは15〜20重量%の範囲である。すなわち、EOの含有量が高すぎると、水溶性フッ素化合物(B成分)との親和性が上がり、通気性の効果が得られなくなるからである。
【0022】
本発明においては、上記EO未変性PPGと、EO変性PPGとを併用することも可能であり、両者の重量混合比は、EO未変性PPG/EO変性PPG=1/9〜9/1の範囲が好ましく、特に好ましくは、EO未変性PPG/EO変性PPG=3/7〜7/3の範囲である。
【0023】
上記EO未変性PPGもしくはEO変性PPGの重量平均分子量(Mw)は、1,000〜10,000の範囲が好ましく、特に好ましくは2,000〜8,000の範囲である。
【0024】
なお、本発明においては、上記A成分とともに、上記A成分以外のポリエーテルポリオールを配合してもよく、さらにポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソブチレンポリオール、ポリテトラメチレングリコール等を、単独でもしくは二種以上併せて用いても差し支えない。
【0025】
<水溶性フッ素化合物(B成分)>
つぎに、上記特定のPPG(A成分)とともに用いられる水溶性フッ素化合物(B成分)は、いわゆる連通化剤(破泡剤)として用いられる。本発明において、連通化剤(破泡剤)とは、発泡セル(単にセルともいう)に穴(連通穴)を開け、セル同士を連通させるために用いるものをいう。上記図4〜図7のSEM写真において、球状の発泡セルに開いた黒っぽい部分は連通穴を示す。
【0026】
本発明において、水溶性フッ素化合物とは、それ自身液体または水溶液であるか、もしくは水に対する溶解度が高い〔通常、1(g/100g)以上、好ましくは10(g/100g)以上〕ものをいう。
【0027】
上記水溶性フッ素化合物(B成分)としては、例えば、フッ化アンモニウム,酸性フッ化アンモニウム,フッ化水素酸,フッ化ソーダ,酸性フッ化ソーダ,酸性フッ化カリウム,6フッ化リン酸カリウム,フッ化ナトリウム,フッ化錫,フッ化亜鉛4水塩等のフッ化水素酸;ホウフッ化アンモニウム,ホウフッ化ソーダ,ホウフッ化錫,ホウフッ化水素酸,ホウフッ化銅,ホウフッ化鉛,ホウフッ化亜鉛,ホウフッ化マグネシウム,ホウフッ化テトラエチルアンモニウム等のホウフッ化水素酸;チタンフッ化水素酸,チタンフッ化カリウム,チタンフッ化アンモニウム,チタンフッ化ソーダ,ジルコンフッ化水素酸,ジルコンフッ化カリウム,ジルコンフッ化アンモニウム等のチタンフッ化水素酸;ケイフッ化水素酸,ケイフッ化マグネシウム,ケイフッ化アンモニウム,ケイフッ化亜鉛等のケイフッ化水素酸;トリフルオロメタンスルホン酸リチウム,リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI),カリウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド,トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛,トリフルオロメタンスルホン酸ニッケル,トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム,トリフルオロメタンスルホン酸銅等のトリフルオロメタンスルホン酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、水溶性の点で、トリフルオロメタンスルホン酸が好ましく、特にセル連通性の点から、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)が好ましい。
【0028】
上記水溶性フッ素化合物(B成分)の配合量は、上記特定のPPG(A成分)100重量部(以下「部」と略す)に対して、0.01〜1.0部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.1〜0.8部の範囲である。すなわち、水溶性フッ素化合物(B成分)が少なすぎると、連通剤による連通効果が充分に得られず、逆に多すぎると、特定のPPG(A成分)と、水(C成分),アミン触媒(D成分)とが分離する傾向がみられるからである。
【0029】
<水(発泡剤)(C成分)>
つぎに、上記A成分およびB成分とともに、発泡剤として水(C成分)が用いられる。
【0030】
上記水(C成分)の配合量は、上記特定のPPG(A成分)100部に対して、0.3〜5部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.8〜2.0部の範囲である。
【0031】
<アミン触媒(D成分)>
本発明においては、上記A〜C成分とともに、アミン触媒(D成分)が用いられる。上記アミン触媒(D成分)としては、例えば、トリエチレンジアミン(TEDA)、ジメチルアミノエチルモルフォリン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン(DMEDA)、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、ジメチルアミノエタノール(DMEA)、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル(BDMEE)等の第三級アミン触媒等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、硬化性の点で、トリエチレンジアミン(TEDA)、ジメチルアミノエチルモルフォリンが好ましい。
【0032】
上記アミン触媒(D成分)の配合量は、上記特定のPPG(A成分)100部に対して、0.1〜3部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜3部の範囲である。
【0033】
<特定のイソシアネート系硬化剤(E成分)>
本発明においては、上記A成分〜D成分とともに特定のイソシアネート系硬化剤(E成分)として、トルエンジイソシアネート(TDI)と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)の少なくとも一方(MDI系)の双方からなるイソシアネート系硬化剤が用いられる。
【0034】
上記特定のイソシアネート系硬化剤(E成分)における、TDIとMDI系との重量混合比は、TDI/MDI系=20/80〜80/20の範囲が好ましく、特に好ましくはTDI/MDI系=30/70〜70/30の範囲である。すなわち、TDIの重量混合比が高すぎる(MDI系の重量混合比が小さすぎると)と、粘着性が大きくなりすぎ、逆にTDIの重量混合比が小さすぎると(MDI系の重量混合比が高すぎる)と、ロール硬度が高くなりすぎる傾向がみられるからである。
【0035】
なお、本発明においては、イソシアネート系硬化剤(イソシアネート成分)として、上記E成分以外に、オルトトルイジンジイソシアネート(TODI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、カルボジイミド変成MDI等を、単独でもしくは二種以上併用しても差し支えない。
【0036】
<シリコーン系整泡剤(F成分)>
本発明においては、上記ウレタン発泡層2を形成するウレタン組成物中に、上記A〜E成分に加えて、シリコーン系整泡剤(F成分)を配合することができる。
【0037】
上記シリコーン系整泡剤(F成分)としては、例えば、ポリオキシアルキレン−ジメチルポリシロキサン系コポリマー、ポリジメチルシロキサン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0038】
上記シリコーン系整泡剤(F成分)の配合量は、上記特定のPPG(A成分)100部に対して、0.1〜10部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.2〜5部の範囲である。
【0039】
なお、本発明においては、上記ウレタン組成物中に、上記各成分以外に、架橋剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、導電性付与剤、帯電防止剤、反応抑制剤等を適宜に配合することができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0040】
前記図1に示した本発明のトナー供給ロールは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、図2に示すように、トナー供給ロールのウレタン発泡層2の軸方向の長さに略等しい長さの円筒型3と、この円筒型3の両端を閉塞するキャップ4,5とから構成された成形型を準備する。この成形型は、円筒型3内の中心軸上に軸体1となる芯金をセットし、上記円筒型3の両端をキャップ4,5で閉塞するとともに、これらキャップ4,5により上記軸体1を支持することによって、円筒型3内に目的とするトナー供給ロールの最終ロール形状(外径)を与える成形キャビティ6が形成されるようになっている。そして、前記ウレタン発泡層用材料であるウレタン組成物〔イソシアネート系硬化剤(E成分)を除く〕を所定の割合で予備混合した予備混合物と、上記イソシアネート系硬化剤(E成分)とを所定の割合で混合したウレタン組成物を、上記円筒型3の成形キャビティ6の片側から注入する。これを所定温度(好ましくは、40〜70℃)のオーブン中で所定時間(好ましくは、1〜60分間)加熱して発泡硬化させた後、脱型して、軸体1の外周面にウレタン発泡層2が形成されてなる単層構造のトナー供給ロール(図1参照)を作製することができる。このような発泡によると、エアの巻き込みを防ぐことができ、得られたウレタン発泡層内における両端の電気抵抗差をより軽減することができる点で好ましい。
【0041】
なお、本発明においては、プレポリマーを用いることも可能である(プレポリマー法)。すなわち、前記ウレタン組成物(A成分とE成分とからなるプレポリマーを除く)を所定の割合で予備混合した予備混合物と、プレポリマー(A成分とE成分との反応物)とを所定の割合で混合したウレタン発泡層用材料を、上記図2に示した、円筒型3の成形キャビティ6の片側から注入する。これを上記と同様の条件で加熱して発泡硬化させた後、脱型して、軸体1の外周面にウレタン発泡層2が形成されてなる単層構造のトナー供給ロール(図1参照)を作製することができる。
【0042】
また、本発明においては、上記のような予備混合物と、プレポリマー(A成分とE成分との反応物)とを混合するプレポリマー法に限定されるものではなく、予備混合することなくA〜E成分を一度に混合するワンショット法であっても差し支えない。
【0043】
なお、本発明のトナー供給ロールは、前記図1に示したような、単層構造に限定するものではなく、例えば、ウレタン発泡層2の外周面に直接、表層を形成してもよく、またウレタン発泡層2の外周面に、少なくとも1つの中間層を介して表層を形成しても差し支えない。
【0044】
本発明のトナー供給ロールにおけるウレタン発泡層2の厚みは、2〜8mmの範囲が好ましく、特に好ましくは2.5〜6mmの範囲である。
【0045】
本発明のトナー供給ロールは、ロール硬度が50〜200gfの範囲が好ましく、特に好ましくは80〜180gfの範囲である。なお、上記ロール硬度は、下記の方法により測定することができる。
【0046】
〔ロール硬度〕
図3(a)に示すように、トナー供給ロールを、その両端の軸体1部分において支持し、ウレタン発泡層2を、板状押圧面を有する治具7により10mm/分の速度で押圧した時の、1mm変位時の荷重(gf)を測定する。なお、上記硬度の測定は、図3(b)に示すように、軸方向(幅方向)の2ヶ所×周方向の90°ごとの4ヶ所の計8ヶ所の測定ポイントについて行い、その平均値を示す。
【0047】
また、本発明のトナー供給ロールは、耐久後の硬度変化量(Δgf)が80未満が好ましく、特に好ましくは60未満である。なお、上記耐久後の硬度変化量は、下記の方法により測定することができる。
【0048】
〔耐久後の硬度変化量〕
トナー供給ロールを市販プリンターの現像装置に組み込み、5000枚画像出しを行った後、トナー供給ロールを取り出し、上述のロール硬度と同様にして硬度を測定し、硬度変化量(Δgf)を算出する。
【0049】
本発明のトナー供給ロールにおけるセル径(平均セル径)は、200〜400μmの範囲が好ましく、特に好ましくは250〜400μmの範囲である。なお、上記セル径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によりセル径を測定し、10個のセルの平均セル径(μm)を算出することにより求めることができる。
【0050】
本発明のトナー供給ロールにおける通気量は、1800(cc/min)以上が好ましく、特に好ましくは2200(cc/min)以上である。なお、上記通気量は、JIS K 6400(2007年)に記載の方法に準じて、測定することができる。
【実施例】
【0051】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
まず、実施例および比較例に先立ち、ウレタン発泡層の形成材料(ウレタン組成物)として、下記に示す材料を準備した。なお、下記のOHvは、JIS K 0070に記載の水酸基価を示す。
【0053】
<ポリエーテルポリオール>
〔ポリオールA(A成分)〕
PPG(第一工業製薬社製、ハイフレックスG3000)、EO含有率:0%、OHv:56mgKOH/g、Mw:3000
【0054】
〔ポリオールB(A成分)〕
EO変性PPG(三洋化成社製、サンニックスFA908)、EO含有率:15%、OHv:28mgKOH/g、Mw:6000
【0055】
〔ポリオールC(A成分)〕
EO変性PPG(第一工業製薬社製、ハイフレックスG6000)、EO含有率:20%、OHv:28mgKOH/g、Mw:6000
【0056】
〔ポリオールa(比較例用)〕
EO変性PPG(三洋化成社製、サンニックスFA103)、EO含有率:70%、OHv:50mgKOH/g、Mw:3500
【0057】
〔ポリオールb(比較例用)〕
上記ポリオールA〔PPG(第一工業製薬社製、ハイフレックスG3000)、EO含有率:0%〕64部と、上記ポリオールa〔EO変性PPG(三洋化成社製、サンニックスFA103)、EO含有率:70%〕36部とを混合して、EO変性PPG(EO含有率:25%)を作製した。
【0058】
<連通化剤>
〔水溶性フッ素化合物A(B成分)〕
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(関東化学社製)
【0059】
〔水溶性フッ素化合物B(B成分)〕
リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)(関東化学社製)
【0060】
〔ポリエチレングリコール(比較例用)〕
三洋化学社製、PEG400
【0061】
〔ポリマーポリオール(比較例用)〕
三洋化学社製、サンニックスFA−728
【0062】
<発泡剤>
〔水(C成分)〕
OHv:6233mgKOH/g
【0063】
<アミン触媒(D成分)>
トリエチレンジアミン
ジメチルアミノエチルモルフォリン
ペンタメチレントリアミン
【0064】
<イソシアネート系硬化剤(E成分)>
〔トルエンジイソシアネート(TDI)〕
三井化学ポリウレタン社製、コスモネートT80(NCO:48%)
【0065】
〔4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)〕
住友バイエルウレタン社製、スミジュール44V20(NCO:32%)
【0066】
〔ポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)〕
日本ポリウレタン社製、ミリオネートMR200
【0067】
<シリコーン系整泡剤(F成分)>
東芝シリコーン社製、L650
【0068】
<架橋剤>
ジエタノールアミン(OHv:534mgKOH/g)
【0069】
〔実施例1〕
まず、前記図2に示した成形型を準備し、円筒型3内の中心軸上に軸体1となる芯金(直径5mm、SUS304製)をセットし、上記円筒型3の両端をキャップ4,5で閉塞した。つぎに、後記の表1に示す材料(イソシアネート系硬化剤を除く)を同表に示す割合で混合した予備混合物と、イソシアネート系硬化剤を同表に示す割合で混合したウレタン組成物を、上記円筒型3の成形キャビティ6の片側から注入した。これを60℃のオーブン中で30分間加熱して発泡硬化させた後、脱型して、軸体の外周面にウレタン発泡層(厚み5.5mm)が形成されてなるトナー供給ロールを作製した。なお、上記ウレタン発泡は、発泡体比重が0.13(g/cc)となるように調整した。
【0070】
〔実施例2〜8、比較例1〜7〕
ウレタン発泡層を形成する材料(ウレタン組成物)の各成分の種類および配合割合を、下記の表1および表2に示すものに変更する以外は、実施例1と同様にしてトナー供給ロールを作製した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
〔比較例8〕
再公表特許公報(WO2005/047395)の実施例1に準じて、トナー供給ロールを作製した。すなわち、グリセリンにプロピレンオキサイドと,エチレンオキサイドとをランダムに付加したポリエーテルポリオール(EO:16%、官能基数:3、分子量5,000、OH価:34)60部と、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)(分子量:1,000、OH価:113)40部と、ジフェニルメタンジイソシアナートと,ウレタン変性ジフェニルメタンジイソシアナートと,カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアナートとの混合物であってイソシアナート含有率26.3%であるイソシアナート22部と、シリコーン整泡剤(ジメチルポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合物、OH価:32)4部と、エチル硫酸変性脂肪族ジメチルエチルアンモニウム0.333部と、3フッ化メチルスルホン酸リチウムイミド〔Li(CF3SO22N〕0.0045部と、ジブチル錫ジラウレート0.013部と、黒色顔料をポリオールに分散させてなる黒色着色料(OH価:45)2.5部とを、機械的攪拌により発泡させながら混合し、その混合物を、直径6mmの金属製の芯金を中心に配設したモールドに注型した後、90℃で6時間キュアして、直径16.5mmで長さ215mmのウレタンフォーム製のトナー供給ロールを作製した。
【0074】
このようにして得られた実施例および比較例のトナー供給ロールを用いて、下記の基準に従って、各特性の評価を行った。その結果を、上記表1および表2に併せて示した。
【0075】
〔ロール硬度〕
前述の図3に示す方法により、ロール硬度を測定した。すなわち、図3(a)に示すように、トナー供給ロールを、その両端の軸体1部分において支持し、ウレタン発泡層2を、板状押圧面(50mm×50mm、厚み7mm)を有する治具7により10mm/分の速度で押圧した時の、1mm変位時の荷重(g)を測定した。なお、上記硬度の測定は、図3(b)に示すように、軸方向(幅方向)の2ヶ所×周方向の90°ごとの4ヶ所の計8ヶ所の測定ポイントについて行い、その平均値を示した。
【0076】
〔セル径〕
走査型電子顕微鏡(SEM)(堀場社製、S3000)によりセル径を測定し、10個のセルの平均セル径(μm)を算出した。
【0077】
〔通気量〕
JIS K 6400(2007年)に記載の方法に準じて、通気量(cc/min)を測定した。
【0078】
〔耐久後の硬度変化量〕
各トナー供給ロールを市販プリンターの現像装置に組み込み、5000枚画像出しを行った後、トナー供給ロールを取り出し、上述のロール硬度と同様にして硬度を測定し、硬度変化量(Δgf)を算出した。
【0079】
〔ベタ画出し評価〕
(初期)
各トナー供給ロールを市販プリンターの現像装置に組み込み、画像出しを行った後、複写画像評価(濃度むら)を行った。評価は、濃度むらがなく画像が良好なものを○、濃度むらが実用に供しがたいものを×とした。
【0080】
(耐久後)
各トナー供給ロールを市販プリンターの現像装置に組み込み、5000枚画像出しを行った後、複写画像評価(濃度むら)を行った。評価は、濃度むらがなく画像が良好なものを○、濃度むらが実用に供しがたいものを×とした。
【0081】
上記表1および表2の結果から、実施例品は、通気量が大きく、通気性に優れるとともに、耐久後の硬度変化量も小さく、低硬度で、初期および耐久後のベタ画出し評価も良好であった。
【0082】
これに対して、比較例1品は、EO含有量が70重量%のEO変性PPGを使用しているため、通気性が劣り、耐久後の硬度変化量が大きく、ベタ画出し評価も劣っていた。
【0083】
比較例2品は、連通化剤として、水溶性フッ素化合物に代えて、ポリエチレングリコールを使用しているため、耐久後の硬度変化量も大きく、耐久後のベタ画出し評価が劣っていた。
【0084】
ここで、前記図4および図5に示す実施例4のウレタン発泡層のSEM写真と、図6および図7に示す比較例2のウレタン発泡層のSEM写真とを対比すると、実施例4における連通穴は、比較例2における連通穴に比べて大きく、全体として連通性が向上していることがわかる。なお、SEM写真において、大きな球は発泡セルを示し、発泡セルに空いている黒っぽい部分の穴は、連通穴を示す。
【0085】
比較例3品は、連通化剤として、水溶性フッ素化合物に代えて、ポリマーポリオールを使用しているため、初期および耐久後のベタ画出し評価が劣っていた。比較例4品は、イソシアネート系硬化剤としてTDIを単独で使用しており、硬度が小さすぎるため、粘着性が大きくなり、トナーの凝集塊による硬度上昇により、耐久後の硬度変化量が大きく、ベタ画出し評価も劣っていた。比較例5品は、イソシアネート系硬化剤としてMDIを単独で使用しているため、硬度が高く、セル径が小さく、通気性が劣り、耐久後のベタ画出し評価も劣っていた。比較例6品は、水とTDIの量が多く、架橋が増えすぎるため、硬度が高く、セル径が小さく、通気性が著しく劣り、ベタ画出し評価も劣っていた。比較例7品は、EO含有量が25重量%のEO変性PPGを使用しているため、通気性が劣り、耐久後の硬度変化量が大きく、ベタ画出し評価も劣っていた。比較例8品は、発泡剤(水)を使用しない機械発泡であるため、硬度が高く、セル径が小さく、通気性が著しく劣り、ベタ画出し評価も劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の電子写真機器用トナー供給ロールは、複写機,プリンタ,ファクシミリ等の電子写真機器に用いることができる。
【符号の説明】
【0087】
1 軸体
2 ウレタン発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、この軸体の外周に形成されるウレタン発泡層とを備えた電子写真機器用トナー供給ロールであって、上記ウレタン発泡層が、下記の(A)〜(E)成分を含有するウレタン組成物の発泡硬化体により形成されていることを特徴とする電子写真機器用トナー供給ロール。
(A)エチレンオキサイド(EO)の量が、全体の0重量%ないし20重量%以下のポリプロピレングリコール。
(B)水溶性フッ素化合物。
(C)水(発泡剤)。
(D)アミン触媒。
(E)トルエンジイソシアネート(TDI)と、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)およびポリメリックイソシアネート(Cr−MDI)の少なくとも一方の双方からなるイソシアネート系硬化剤。
【請求項2】
上記(B)成分が、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(TFSI)構造を有するものである請求項1記載の電子写真機器用トナー供給ロール。
【請求項3】
上記(B)成分の配合量が、(A)成分100重量部に対して、0.01〜1.0重量部の範囲である請求項1または2記載の電子写真機器用トナー供給ロール。
【請求項4】
上記(E)成分中のTDIと、MDIおよびCr−MDIの少なくとも一方(MDI系)との重量混合比が、TDI/MDI系=20/80〜80/20の範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子写真機器用トナー供給ロール。
【請求項5】
上記ウレタン組成物が、上記(A)〜(E)成分に加えて、さらに下記の(F)成分を含有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子写真機器用トナー供給ロール。
(F)シリコーン系整泡剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−112954(P2011−112954A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270542(P2009−270542)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】