説明

電子写真機器用導電性組成物及びそれを用いた電子写真機器用部材

【課題】優れた耐ヘタリ性等の特性を有すると共に、導電性のバラツキが少ない硬化物を、有利に得ることが出来る電子写真機器用導電性組成物を提供すること。
【解決手段】ポリマー成分に、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であるカーボンブラックAと、窒素吸着比表面積が300m2 /g以下であり且つpHが4.5以下であるカーボンブラックBとを配合することにより、目的とする電子写真機器用導電性組成物を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用導電性組成物及びそれを用いた電子写真機器用部材に係り、特に、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ等に用いられる現像ロールや中間転写ベルト等を作製する際に好適に用いられ得る電子写真機器用導電性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置(以下、電子写真機器という)においては、それぞれの用途に応じた各種の構成を有する導電性ロールや無端ベルト等が広く用いられている。例えば、金属製の軸体の外周面上にゴム層たる弾性体層が設けられ、かかる弾性体層の表面に樹脂層が設けられてなる導電性ロール(図1を参照)にあっては、接触現像方式を採用している電子写真機器において、ロール表面にトナー規制部材によってトナー層が形成されている状態で、静電潜像が形成されている像担持体(感光ドラム)と接触し、像担持体と相互に回転することにより、静電潜像の現像を行なうという機能を果たす現像ロールとして採用されている。また、樹脂製或いはゴム製の単一の層からなる無端ベルト(図2を参照)は、感光体(感光ドラム)上に形成されたトナー像を、ベルト表面に一次転写し、その後、ベルト表面のトナー像を被印刷物(紙)に二次転写するという機能を果たす中間転写ベルトとして、電子写真機器において採用されている。
【0003】
ところで、上述の如き導電性ロールや無端ベルトにおけるゴム層や樹脂層を形成するに際しては、一般に、ゴム材料や樹脂材料に導電剤等の各種添加剤が配合されてなる組成物(導電性組成物)が用いられている。また、かかる導電性組成物を調製する際には、導電剤として、カーボンブラックや導電性金属酸化物、更に近年は、カーボンナノチューブ等の微細炭素繊維が用いられている。
【0004】
そのような導電剤のうち、導電性金属酸化物は、一般に導電性が低いものである為、例えばそれを用いて所望とする導電性を発現し得るゴム層や樹脂層を形成する際には、導電性組成物中に多量に配合する必要があるが、多量に配合することによって、得られるゴム層等における耐ヘタリ性等の物性が悪化することが知られている。一方、優れた導電性を発現させ得る微細炭素繊維や高導電性のカーボンブラックは、少量の使用によって所望とする導電性を発現させ得るが、使用量が僅かに変わるだけで導電性が大きく変わってしまったり、得られるゴム層や樹脂層の異なる部位によって導電性が異なる(導電性にバラツキが生じる)恐れがあることが知られている。
【0005】
また、近年、電子写真機器に対する高耐久化や高画質化等の要求が従来以上に高まっており、前述した現像ロールや中間転写ベルト等の電子写真機器用部材に対しても、従来以上の特性が求められている。
【0006】
このような状況の下、従来より、複数種の導電剤を配合してなる組成物や、それを用いて構成された電子写真機器用部材が各種、提案されている(特許文献1を参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1にて提案されている帯電部材を始めとする、従来の電子写真機器用部材を作製する際に用いられる導電性組成物にあっては、それらを用いて得られるゴム層や樹脂層が、優れた耐ヘタリ性等の物性を有しつつ導電性のバラツキが少ないものであるとは言い難く、この点において、未だ改良の余地が残されていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−133527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、優れた耐ヘタリ性等の特性を有すると共に、導電性のバラツキが少ない硬化物を有利に得ることが出来る電子写真機器用導電性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、そのような課題を有利に解決するために、ポリマー成分に、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であるカーボンブラックAと、窒素吸着比表面積が300m2 /g以下であり且つpHが4.5以下であるカーボンブラックBとが配合されてなる電子写真機器用導電性組成物を、その要旨とするものである。
【0011】
かかる本発明の電子写真機器用導電性組成物にあっては、好ましくは、前記カーボンブラックAのpHが9.0以上である。
【0012】
また、本発明は、上述の如き電子写真機器用導電性組成物を用いて形成された機能層を有する電子写真機器用導電性ロールにして、前記ポリマー成分の100重量部に対して、前記カーボンブラックAが1.0〜5.0重量部の割合で、前記カーボンブラックBが5〜30重量部の割合で配合せしめられていることを特徴とする電子写真機器用導電性ロールを、好ましい態様の一つとする。かかる態様において、有利には、前記ポリマー成分がウレタン系樹脂である。
【0013】
さらに、本発明は、上述の如き電子写真機器用導電性組成物を用いて形成された機能層を有する電子写真機器用無端ベルトにして、前記ポリマー成分の100重量部に対して、前記カーボンブラックAが5〜10重量部の割合で、前記カーボンブラックBが10〜30重量部の割合で配合せしめられていることを特徴とする電子写真機器用無端ベルトを、別の好ましい態様の一つとする。かかる態様において、有利には、前記ポリマー成分がポリアミドイミド系樹脂である。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に従う電子写真機器用導電性組成物にあっては、ポリマー成分に対して、窒素吸着比表面積が異なる2種類のカーボンブラックが配合されてなるものであるところから、低硬度であり、優れた耐ヘタリ性及び耐屈曲性(靭性)等の特性を有し、更には導電性のバラツキが少ない硬化物が、有利に得られることとなるのである。
【0015】
特に、本発明の電子写真機器用導電性組成物を用いて、軸体の外周面上の一又は二以上の機能層が設けられてなる電子写真機器用導電性ロールにおける一の機能層を形成せしめる際には、ポリマー成分の100重量部に対して、前記カーボンブラックAを1.0〜5.0重量部の割合で、前記カーボンブラックBを5〜30重量部の割合で、それぞれ配合せしめることにより、得られる機能層において、上述した優れた効果を享受することが可能である。
【0016】
また、本発明の電子写真機器用導電性組成物を用いて、一又は二以上の機能層からなる電子写真機器用無端ベルトにおける一の機能層を形成せしめる際には、ポリマー成分の100重量部に対して、前記カーボンブラックAを5〜10重量部の割合で、前記カーボンブラックBを10〜30重量部の割合で、それぞれ配合せしめることにより、得られる機能層において、上述した優れた効果を享受することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に従う電子写真機器用導電性組成物を用いて作製した電子写真機器用導電性ロールの一例を示す軸直角断面説明図である。
【図2】本発明に従う電子写真機器用導電性組成物を用いて作製した電子写真機器用無端ベルトの一例を示す断面説明図及び部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ところで、本発明に従う電子写真機器用導電性組成物(以下、導電性組成物ともいう)は、ポリマー成分に対して、所定の微細炭素繊維及びカーボンブラックが配合されてなるものである。先ず、本発明において用いられるポリマー成分としては、従来より導電性組成物において用いられているものの何れをも使用することが可能である。具体的には、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレア系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、熱可塑性エラストマー等の合成樹脂材料や、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素添加NBR(H−NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム、クロロプレンゴム(CR)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、エチレン−プロピレン−ジエンポリマー(EPDM)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、多硫化ゴム、フッ素ゴム等のゴム材料等を、例示することが出来る。本発明においては、目的とする電子写真機器用部材(以下、部材ともいう)の用途に応じて、一種又は二種以上のものが適宜に選択されて、使用される。
【0019】
本発明に係る導電性組成物においては、上述の如きポリマー成分に対して、2種類の異なるカーボンブラック、即ち、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であるカーボンブラックAと、窒素吸着比表面積が300m2 /g以下であり且つpHが4.5以下であるカーボンブラックBとが配合される。このように、窒素吸着比表面積が異なるカーボンブラックを併用することにより、本発明の導電性組成物は、低硬度であり、優れた耐ヘタリ性及び耐屈曲性(靭性)等の特性を有し、更には導電性のバラツキが少ない硬化物が、有利に得られることとなるのである。尚、カーボンブラックのpHは、ASTM D1512の規定に準じて測定されたものである。
【0020】
ここで、本発明におけるカーボンブラックAとしては、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上、好ましくは800〜1500m2 /gのカーボンブラックが用いられる。窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であるカーボンブラックを複数種、本発明のカーボンブラックAとして使用することも可能である。また、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であって且つpHが9.0以上、好ましくはpHが9.0〜10.0であるカーボンブラックが、特に有利に用いられる。
【0021】
また、本発明におけるカーボンブラックBとしては、窒素吸着比表面積が300m2 /g以下、好ましくは40〜200m2 /gであり、且つ、pHが4.5以下、好ましくはpHが2.0〜3.5であるカーボンブラックが用いられる。かかる物性を有するカーボンブラックの一種又は二種以上が、本発明のカーボンブラックBとして使用される。
【0022】
なお、本発明に従う電子写真機器用導電性組成物には、上述した2種類のカーボンブラック以外にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、架橋剤、架橋促進剤、触媒、老化防止剤、レベリング剤、イオン導電剤、増粘剤等の従来より公知の各種添加剤を配合することが可能である。更に、後述するように、所定の有機溶媒を用いて液状に調製することも可能である。
【0023】
本発明の導電性組成物を調製するに際しては、一般に、ポリマー成分に対して、上述の如き2種類のカーボンブラックを、目的とする電子写真機器用部材の特性等に応じた割合にて配合し、従来より公知の手法に従って、混練、分散等せしめることによって調製される。
【0024】
なお、本発明の導電性組成物を調製する際に用いられる分散機や分散手法等は、従来より公知のものであれば、何れも使用することが可能である。具体的には、三本ロール、ボールミル、ビーズミルや超音波分散機等を例示することが出来、これらは単独で用い得ることは勿論のこと、二種以上を併用することも可能である。また、分散の際の各種条件は、目的とする電子写真機器用部材の特性等に応じて、適宜に設定されることとなる。一方、公知の分散剤も使用可能である。
【0025】
上述した電子写真機器用導電性組成物を用いて形成された機能層を有する電子写真機器用部材について、以下に説明する。
【0026】
先ず、図1には、現像ロール等として好適に用いられる導電性ロール10が、軸に直角な断面において切断された断面図において示されている。そこにおいて、金属製の軸体12の外周面上には、ベース層たる弾性体層14が設けられている。そして、かかる弾性体層14の表面に、本発明に従う電子写真機器用導電性組成物を用いて、保護層としての表層16が設けられているのである。
【0027】
ここで、図1に示す導電性ロールを始めとする様々な構造の導電性ロールにおいて、これを構成する機能層を本発明の導電性組成物にて形成する場合、かかる導電性組成物としては、ポリマー成分の100重量部に対して、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であるカーボンブラックAが1.0〜5.0重量部の割合で、窒素吸着比表面積が300m2 /g以下であり且つpHが4.5以下であるカーボンブラックBが5〜30重量部の割合で、それぞれ配合せしめられてなるものであることが好ましい。このような配合割合を採用することによって、得られる機能層(16)、引いては導電性ロール(10)が、導電性のバラツキが少ない故にリーク電圧の発生が抑制されると共に耐久性に優れ、更に、硬度が低く抑えられることからトナーフィルミングの発生も有利に抑制し得るものとなり、特に現像ロールとして好適に用いられ得るものとなる。また、ポリマー成分としては、耐久性及び低硬度等の観点から、ウレタン系樹脂であることが好ましい。
【0028】
なお、導電性ロール10は、従来より公知の各種手法に従って製造することが可能である。例えば、本発明の電子写真機器用導電性組成物に適量の有機溶媒を加えて液状材料として準備する一方、金属製の軸体の外周面に、射出成形等によってゴム材料等からなる弾性体層を形成する。その後、弾性体層の表面に、従来より公知のコーティング手法に従って、別途準備した液状材料をコーティングし、必要に応じて乾燥、加熱せしめることにより、図1に示す如き2層構造の導電性ロール10が得られるのである。
【0029】
また、本発明に従う電子写真機器用導電性組成物は、図1に示す如き2層構造の導電性ロールを作製する際に、弾性体層14を形成するための材料としても用い得ることは勿論のこと、従来より公知の各種構造を呈する導電性ロールを作製する際に、機能層形成材料として用い得ることは言うまでもないところである。
【0030】
一方、図2には、中間転写ベルト等として有利に用いられる電子写真機器用無端ベルト18の断面が示されている。そこで示されている無端ベルト18は、単一の機能層20のみにて構成されており、かかる機能層20が、上述した電子写真機器用導電性組成物にて形成されている。
【0031】
ここで、図2に示す無端ベルト18を始めとする様々な構造の無端ベルトにおいて、これを構成する機能層を本発明の電子写真機器用導電性組成物にて形成する場合、かかる導電性組成物としては、好ましくは、ポリマー成分の100重量部に対して、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であるカーボンブラックAが5〜10重量部の割合で、窒素吸着比表面積が300m2 /g以下であり且つpHが4.5以下であるカーボンブラックBが10〜30重量部の割合で、それぞれ配合せしめられてなるものが好ましい。このような配合割合を採用することによって、得られる機能層(20)、引いては無端ベルト(18)が、導電性のバラツキが少ない故にリーク電圧の発生が抑制されると共に耐久性にも優れたものとなり、電子写真機器における中間転写ベルトとして好適に用いられ得るのである。また、ポリマー成分としては、耐久性等の観点より、ポリアミドイミド系樹脂であることが好ましい。
【0032】
なお、無端ベルト18は、従来より公知の各種手法に従って製造することが可能である。例えば、本発明の電子写真機器用導電性組成物に適量の有機溶媒を加えて液状材料とし、この液状材料を、特許第3855896号公報等に記載の手法に従って、金型たる円筒形基体の表面にらせん状にコーティングし、加熱処理を施した後、コーティングにより設けた塗膜層(機能層)と円筒形基体との間にエアーを吹き付けて円筒形基体を抜き取ることにより、本発明の導電性組成物を用いて形成された機能層のみからなる無端ベルト18が得られるのである。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上述した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0034】
先ず、導電性組成物を調製するための各成分として、以下のものを準備した。尚、以下において、「比表面積」とは窒素吸着比表面積を意味するものである。
・カーボンブラックI
ケッチェンEC-300J (商品名、比表面積:800m2 /g、pH:9.0)、
ケッチェン・ブラック・インターナショナル株式会社製
・カーボンブラックII
Black Pearls 2000 (商品名、比表面積:1475m2 /g、pH:9.7)、
エボニック デグサ ジャパン株式会社製
・カーボンブラックIII
Raven 5000 ULTRAII(商品名、比表面積:583m2 /g、pH:2.1)、
コロンビアンケミカルズ社製
・カーボンブラックIV
Color Black FW18(商品名、比表面積:260m2 /g、pH:4.5)、
エボニック デグサ ジャパン株式会社製
・カーボンブラックV
Special Black 250 (商品名、比表面積:40m2 /g、pH:3.1)、
エボニック デグサ ジャパン株式会社製
・カーボンブラックVI
#2350 (商品名、比表面積:320m2 /g、pH:2.5)、
三菱化学株式会社製
・カーボンブラックVII
トーカブラック#4300 (商品名、比表面積:33m2 /g、pH:5.0)、
東海カーボン株式会社製
・ウレタン樹脂:ニッポラン5193(商品名)、日本ポリウレタン工業株式会社製
・ポリオール:PTMG1000(商品名)、三菱化学株式会社製
・イソシアネート硬化剤:コロネートL (商品名)、日本ポリウレタン工業株式会社製
・ポリアミドイミド樹脂:バイロマックスHR16NN(商品名)、東洋紡績株式会社製
【0035】
A.導電性ロールの作製及び評価
先ず、カーボンブラック及びウレタン樹脂の所定量を、メチルエチルケトン(MEK)に添加し、ビーズミルと超音波分散機を用いて循環分散することにより、11種類の分散液を準備した。得られた分散液と、ポリオールと、イソシアネート硬化剤とを用いて、各成分の固形分比率が表1及び表2に示す割合となるような液状の導電性組成物を11種類、調製した。得られた液状の導電性組成物を、PETフィルム上にバーコーターでコートし、コートされたPETフィルムを加熱することにより、各々の導電性組成物からなる厚さ:40μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、表面抵抗率、マルテンス硬度及びクリープ率を測定した。その結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
【0036】
−表面抵抗率の測定−
三菱化学株式会社製のハイレスタUP(商品名、プローブ:リングプローブ(URS ))を用いて、試料上の任意の5点について表面抵抗率(Ω/□)を測定し、その平均値を表面抵抗率とした。
【0037】
−マルテンス硬度の測定−
ISO 14577に準じて、微小硬度計(株式会社フィッシャー・インストルメンツ製、商品名:H100)を用いて、1mN圧縮したときのマルテンス硬度(N/mm2 )を測定した。
【0038】
−クリープ率−
ISO 14577に準じて、上記微小硬度計を用いて、1mN圧縮時の押込み仕事の弾性部分:[ηIT]を測定し、下記式よりクリープ率を算出した。
クリープ率(%)=100−[ηIT]
【0039】
導電性ロールを作製するに当たり、先ず、SUS304製の軸体(芯金、直径:10mm)をセットした射出成形用金型内に、カーボンブラックを添加したシリコーンゴム(信越化学工業株式会社製、商品名:KE1350AB)を注型し、150℃×45分の条件で加熱した後、脱型して、軸体の外周面上に弾性体層が設けられてなるベースロールを作製した。次いで、この弾性体層の表面に、液状の導電性組成物をロールコーティング法に従って塗布し、乾燥させて表層を形成することにより、2層構造を呈する導電性ロール(図1を参照)を11種類、作製した(ロールNo.1〜11)。各導電性ロールにおいて、弾性体層の厚さは3mmで、表層の厚さは10μmであった。得られた導電性ロールについて、以下の試験及び評価を行なった。その結果を、下記表1及び表2に併せて示す。
【0040】
−リーク電圧の測定−
導電性ロールを、金属ロール(外径:30mm)に接触させ、導電性ロールの両端に0.5kgずつの荷重をかけた状態で、20rpmで回転させる。その状態で直流電流をステップ上に印加して、放電破壊が発生する電圧をリーク電圧とした。
【0041】
−濃淡ムラの評価−
導電性ロールを、カラーレーザープリンタ(キヤノン株式会社製、商品名:LBP-2510)に現像ロールとして組み込み、10℃×10%RHの環境下でハーフトーンのベタ画像を出力し、画像における濃度のムラと白斑点抜けの有無を評価した。画像ムラや白斑点抜けが認められないものを○と、画像ムラ等が認められるものの許容範囲内であるものを△と、著しい画像ムラ等が認められるものを×と、評価した。
【0042】
−耐トナーフィルミング性の評価−
導電性ロールを上記カラーレーザープリンタに現像ロールとして組み込み、32.5℃×85%RHの環境下で通紙20000枚(A4サイズ)の画像出しを行なった。その後、プリンタから現像ロールを取り出し、ロール表面の固着していないトナーをエアーブローにて取り除いた後、ロール表面に固着しているトナー層の厚さを測定した。尚、トナー層の厚さの測定は、ロールを厚さ方向に切断し、その切断面を電子顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名:VK-9510 )で観察することにより行なった。測定したトナー層の厚さが0.5μm以下のものは○と、0.5μmを超え1.0μm以下のものは△と、1.0μmを超えるものは×と、評価した。各導電性ロールについての評価結果を、「耐トナーフィルミング性」として下記表1及び表2に併せて示す。
【0043】
−セットすじの有無の評価−
導電性ロールを上記カラーレーザープリンタに現像ロールとして組み込み、10℃×10%RHの環境下で1ヶ月、放置し、その後、画像出しを行なった。得られた画像について、導電性ロール(現像ロール)の軸方向に対応するすじの有無を目視で観察した。すじが認められないものを○と、すじが認められるものを×と評価した。各導電性ロールについての評価結果を、「セットすじの有無」として下記表1及び表2に併せて示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
かかる表1及び表2の結果からも明らかなように、本発明に従う導電性組成物を用いて作製された導電性ロールのうち、特にカーボンブラックの配合割合を5〜30重量部としたもの(ロールNo.1〜4)にあっては、リーク電圧が高く、また現像ロールとして使用した際に得られた画像に濃淡ムラが無いこと等から、導電性のバラツキが少ないものであることが認められた。また、導電性ロール(ロールNo.1〜4)は、その表面が充分に低硬度なものであって耐トナーフィルミング性に優れ、更には、セットすじも認められないことから耐久性にも優れていることが確認された。
【0047】
B.無端ベルトの作製及び評価
カーボンブラック及びポリアミドイミド樹脂を、固形分比率が下記表3に示す割合となるような量的割合において、N−メチルピロリドン(NMP)に添加し、ビーズミルと超音波分散機を用いて循環分散することにより、液状の導電性組成物を7種類、準備した。得られた液状の導電性組成物を、PETフィルム上にバーコーターでコートし、コートされたPETフィルムを、オーブン内で常温〜300℃まで2時間かけて昇温した後、300℃で1時間、加熱処理を施すことにより、各々の導電性組成物からなる厚さ:90μmのフィルムを得た。得られたフィルムについて、先に述べた手法と同様の手法に従って、表面抵抗率を測定した。その結果を下記表3に併せて示す。
【0048】
7種類の液状の導電性組成物を、別途準備した円筒形基体の表面に、特許第3855896号公報に記載の手法に従ってコーティングした。その後、円筒形基体ごと常温〜300℃まで2時間かけて昇温した後、300℃で1時間、加熱処理を施した。そして、コーティングにより設けた塗膜層と円筒形基体との間にエアーを吹き付けて円筒形基体を抜き取ることにより、図2に示す如き構造を呈する7種類の無端ベルト(ベルトNo.1〜7)を得た。得られたベルトについて、以下の試験及び評価を行なった。その結果を、下記表3に併せて示す。
【0049】
−屈曲試験−
得られたベルトから所定の大きさにて切り出したものを試料として用いて、JIS−P8115に準じて、東洋精機製作所製のFolding Endurancetester MIT-D (商品名)を用いて、荷重:9.8Nの条件下、MIT回数(耐屈曲性)を測定した。
【0050】
−リーク電圧の測定−
無端ベルトを、金属ロール(外径:30mm)に接触させた状態で、100m/sの速さで回転させ、直流電流をステップ上に印加して、放電破壊が発生する電圧をリーク電圧とした。
【0051】
−画像評価(白斑点画像の有無)−
無端ベルトを、実機(株式会社リコー製、商品名:イマジオMPC2500 )に中間転写ベルトとして組み込み、ベタ画像(黒)を印刷し、ベタ画像部における白斑点画像の有無を目視で観察した。白斑点画像が認められなかったものを○と、認められたものを×と評価した。
【0052】
−耐久性の評価−
直径:13mmの金属製ロールを2本、準備し、それら2本の金属製ロールの間に無端ベルトを張架した状態で、一方の金属製ロールをテーブル上に固定した。次いで、テーブルに固定していない他方の金属製ロールをテーブルの端部に配置し、この金属製ロールの両端に各2kgのおもりを吊り下げ(総荷重:4kg)、ラボ環境(25℃×40%RH)下で、無端ベルトを回転駆動させた。そして、無端ベルトに亀裂が確認されるまでの累積回転数を測定した。累積回転数が300000回転以上のものは○と、300000回転未満のものは×と評価した。
【0053】
【表3】

【0054】
かかる表3の結果からも明らかなように、本発明に従う導電性組成物を用いて作製された無端ベルト(ベルトNo.1〜4)にあっては、リーク電圧が高く、また中間転写ベルトとして使用した際に良好なベタ画像が得られたことから、導電性のバラツキが少ないものであることが認められ、更には耐久性にも優れていることが認められたのである。
【符号の説明】
【0055】
10 電子写真機器用導電性ロール 12 軸体
14 弾性体層 16 表層
18 電子写真機器用無端ベルト 20 機能層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー成分に、窒素吸着比表面積が800m2 /g以上であるカーボンブラックAと、窒素吸着比表面積が300m2 /g以下であり且つpHが4.5以下であるカーボンブラックBとが配合されてなる電子写真機器用導電性組成物。
【請求項2】
前記カーボンブラックAのpHが9.0以上である請求項1に記載の電子写真機器用導電性組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電子写真機器用導電性組成物を用いて形成された機能層を有する電子写真機器用導電性ロールにして、前記ポリマー成分の100重量部に対して、前記カーボンブラックAが1.0〜5.0重量部の割合で、前記カーボンブラックBが5〜30重量部の割合で配合せしめられていることを特徴とする電子写真機器用導電性ロール。
【請求項4】
前記ポリマー成分がウレタン系樹脂である請求項3に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の電子写真機器用導電性組成物を用いて形成された機能層を有する電子写真機器用無端ベルトにして、前記ポリマー成分の100重量部に対して、前記カーボンブラックAが5〜10重量部の割合で、前記カーボンブラックBが10〜30重量部の割合で配合せしめられていることを特徴とする電子写真機器用無端ベルト。
【請求項6】
前記ポリマー成分がポリアミドイミド系樹脂である請求項5に記載の電子写真機器用無端ベルト。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−197595(P2011−197595A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67129(P2010−67129)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】