説明

電子写真機器用無端ベルトの製法

【課題】破断伸びが大きく、耐久性に優れた電子写真機器用無端ベルトの製法を提供する。
【解決手段】基層1のみからなる単層,もしくは基層1を含む2層以上の層からなる複層の電子写真機器用無端ベルトの製法であって、下記の(C)と(D)とを予め反応させてカルボン酸末端ポリマーを作製した後、これを下記の(A)および(B)と反応させて変性ポリアミドイミド樹脂を作製し、これを用いて電子写真機器用無端ベルトの基層1を形成する。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)水酸基を2個以上有するポリエステル、水酸基を2個以上有するポリカーボネートおよび水酸基を2個以上有するポリエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)二塩基酸の無水物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用無端ベルトの製法に関するものであり、詳しくはフルカラーLBP(レーザービームプリンター)やフルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、中間転写ベルトや紙転写搬送ベルト等に用いられる電子写真機器用無端ベルトの製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、トナー像の転写用,紙転写搬送用,感光体基体用等の用途に、無端ベルト(シームレスベルト)が多用されている。このような無端ベルトとしては、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系樹脂に、導電性カーボンブラックを配合したものを、ディッピング法等の成形方法により、筒状フィルムに形成したものが用いられている。
【0003】
しかし、上記フッ素系樹脂製ベルトは、電気特性には優れるものの、弾性率等のベルト物性が低くなるとともに、コストが高くなるという難点がある。
【0004】
一方、ポリアミドイミド樹脂に導電性カーボンブラックを含有させてなる半導電性ポリアミドイミドフィルムを、中間転写用基体として用いることが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特許第3218199号公報
【特許文献2】特開2001−354854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1,2に記載のポリアミドイミド樹脂は、剛直な分子構造で構成されているため、剛性が高く、破断伸びが小さい。したがって、このようなポリアミドイミド樹脂を用いてなる画像形成装置用転写ベルトは、耐屈曲性が悪いため、耐久性に劣るという難点がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、破断伸びが大きく、耐久性に優れた電子写真機器用無端ベルトの製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の電子写真機器用無端ベルトの製法は、基層のみからなる単層,もしくは基層を含む2層以上の層からなる複層の電子写真機器用無端ベルトの製法であって、下記の(C)と(D)とを予め反応させてカルボン酸末端ポリマーを作製した後、これを下記の(A)および(B)と反応させて変性ポリアミドイミド樹脂を作製し、これを用いて電子写真機器用無端ベルトの基層を形成するという構成をとる。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)水酸基を2個以上有するポリエステル、水酸基を2個以上有するポリカーボネートおよび水酸基を2個以上有するポリエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)二塩基酸の無水物。
【0008】
すなわち、本発明者らは、破断伸びが大きく、耐久性に優れた電子写真機器用無端ベルトを得るため、鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、水酸基を2個以上有する特定の化合物と、二塩基酸の無水物とを予め反応させてカルボン酸末端ポリマーを作製した後、このカルボン酸末端ポリマーを、上記芳香族イソシアネート化合物および芳香族系多価カルボン酸の無水物と反応させて変性ポリアミドイミド樹脂を作製すると、上記カルボン酸末端ポリマーがソフトセグメント的な役割を果たして、ポリアミドイミド樹脂に柔軟性を付与できることを突き止めた。その結果、この変性ポリアミドイミド樹脂を用いて基層(ベース層)を形成し、基層(ベース層)のみからなる単層,もしくは基層を含む2層以上の層からなる複層の電子写真機器用無端ベルトを作製すると、破断伸びが大きく、耐久性に優れることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明の製法によると、水酸基を2個以上有する特定の化合物と、二塩基酸の無水物とを予め反応させてカルボン酸末端ポリマーを作製した後、このカルボン酸末端ポリマーを、上記芳香族イソシアネート化合物および芳香族系多価カルボン酸の無水物と反応させて変性ポリアミドイミド樹脂を作製している。そのため、上記カルボン酸末端ポリマーがソフトセグメント的な役割を果たして、ポリアミドイミド樹脂に柔軟性を付与することができる。その結果、この変性ポリアミドイミド樹脂を用いて基層を形成し、基層(ベース層)のみからなる単層,もしくは基層を含む2層以上の層からなる複層の電子写真機器用無端ベルトを作製すると、破断伸びが大きく、耐久性に優れるという効果が得られる。
【0010】
そして、上記(C)と(D)との合計配合量が、(A)〜(D)の合計量全体の5〜30重量%の範囲内であると、クリープ率の悪化が見られず、ベルトの耐久性が良好となる。
【0011】
また、上記(A)〜(D)とともに、ポリジメチルシロキサン系化合物(E)を用いて変性ポリアミドイミド樹脂を作製すると、ベルトの耐久性が向上する。
【0012】
また、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)が、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)と、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)とを併用したものであると、変性ポリアミドイミド樹脂中のイミド基の比率が高くなるため、吸水性が低下し、無端ベルトの曲がり癖を改善することができるという効果が得られる。
【0013】
そして、上記芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)と、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)とのモル混合比が、(B1)/(B2)=90/10〜50/50の範囲内であると、無端ベルトの耐屈曲性を悪化させずに、曲がり癖を改善することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
本発明の電子写真機器用無端ベルトの製法は、基層(ベース層)のみからなる単層,もしくは基層を含む2層以上の層からなる複層の電子写真機器用無端ベルトの製法であって、下記の(C)と(D)とを予め反応させてカルボン酸末端ポリマーを作製した後、これを下記の(A)および(B)と反応させて変性ポリアミドイミド樹脂を作製し、これを用いて電子写真機器用無端ベルトの基層を形成するものである。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)水酸基を2個以上有するポリエステル、水酸基を2個以上有するポリカーボネートおよび水酸基を2個以上有するポリエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)二塩基酸の無水物。
【0016】
本発明の製法により得られる電子写真機器用無端ベルトとしては、少なくとも基層を備えた構成であれば、特に限定はなく、例えば、図1に示すように、基層1の外周面に表層2が直接形成されて構成されたものがあげられる。
【0017】
上記変性ポリアミドイミド(PAI)樹脂の形成に用いる、上記芳香族系イソシアネート化合物(A)としては、分子構造中に芳香族環を有する化合物であれば特に限定はなく、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、トリジンジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性の点で、MDI、TODIが好適に用いられる。
【0018】
また、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)としては、分子構造中に芳香族環を有し、上記芳香族系イソシアネート化合物(A)と縮合反応するものであれば特に限定はなく、例えば、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、本発明においては、上記芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)とともに、芳香族系多価カルボン酸を併用しても差し支えない。
【0019】
上記芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)としては、例えば、トリメリット酸無水物(無水トリメリット酸)、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸無水物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性等の点から、トリメリット酸無水物(無水トリメリット酸)が好適に用いられる。
【0020】
また、上記芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)としては、例えば、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物)、ベンゾフェノン−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,2′,3,3′−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン−1,3,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、コスト、溶解性等の点から、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)が好適に用いられる。
【0021】
また、本発明においては、上記芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)と、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)とを併用して差し支えない。このように、B1とB2とを併用すると、変性PAI樹脂中のイミド基の比率が高くなるため、吸水性が低下し、無端ベルトの曲がり癖を改善することができるようになる。
【0022】
上記B1と、B2とのモル混合比は、B1/B2=90/10〜50/50の範囲内が好ましく、特に好ましくはB1/B2=80/20〜60/40の範囲内である。このような割合でB1とB2とを併用すると、無端ベルトの耐屈曲性の悪化が少なく、曲がり癖を改善することができるため好ましい。
【0023】
つぎに、上記芳香族イソシアネート化合物(A)および芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)とともに用いられる、特定の化合物(C)としては、水酸基を2個以上有するポリエステル、水酸基を2個以上有するポリカーボネートおよび水酸基を2個以上有するポリエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物が用いられる。
【0024】
上記特定の化合物(C)は、水酸基を2個以上有するものであれば、その水酸基の結合位置は特に限定はなく、例えば、主鎖の末端に水酸基をそれぞれ1個有するもの(水酸基両末端化合物)や、主鎖の片末端に水酸基が1個で、側鎖に少なくとも1個の水酸基を有するもの(水酸基片末端化合物)、もしくは上記水酸基両末端化合物であって、側鎖にも水酸基を有するもの等があげられる。
【0025】
上記水酸基を2個以上有するポリエステルとしては、例えば、水酸基を2個以上有するエステル系ポリオール等があげられる。
【0026】
また、上記水酸基を2個以上有するポリカーボネートとしては、例えば、水酸基を2個以上有するカーボネート系ポリオール等があげられる。
【0027】
上記水酸基を2個以上有するポリエーテルとしては、例えば、水酸基を2個以上有するエーテル系ポリオール等があげられる。
【0028】
また、上記特定の化合物(C)は、OH価が15〜150mgKOH/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは45〜110mgKOH/gの範囲内である。
【0029】
また、上記特定の化合物(C)は、数平均分子量(Mn)が750〜7500の範囲内が好ましく、特に好ましくは1000〜2500の範囲内である。
【0030】
なお、本発明において、数平均分子量(Mn)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定した値を基本とする。
【0031】
つぎに、上記特定の化合物(C)とともに用いられる、二塩基酸の無水物(D)としては、特に限定はなく、例えば、テレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸,クロルフタル酸,ニトロフタル酸等の芳香族二塩基酸の無水物や、アジピン酸,セバシン酸,スベリン酸,シュウ酸,コハク酸,コルク酸,アゼライン酸,ドデカンジカルボン酸,ウンデカンジカルボン酸,マレイン酸,フマル酸,イタコン酸等の脂肪二塩基酸の無水物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0032】
また、上記二塩基酸の無水物(D)は、数平均分子量(Mn)が72〜240の範囲内が好ましく、特に好ましくは100〜148の範囲内である。
【0033】
ここで、上記(C)と(D)との合計配合量は、(A)〜(D)の合計量全体の5〜30重量%の範囲内であることが好ましく、特に好ましくは7〜25重量%である。すなわち、上記(C)と(D)との合計配合量が全体の5重量%未満であると、耐久性が悪くなる傾向がみられ、逆に30重量%を超えると、クリープ率が悪化する傾向がみられるからである。
【0034】
また、上記(C)と(D)とのモル混合比は、(C)/(D)=100/90〜100/130の範囲内が好ましく、特に好ましくは(C)/(D)=100/100〜100/120の範囲内である。
【0035】
本発明においては、上記芳香族イソシアネート化合物(A)および芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)と反応させて変性ポリアミドイミド樹脂を作製する前に、上記水酸基を2個以上有する特定の化合物(C)と、二塩基酸の無水物(D)とを予め反応させてカルボン酸末端ポリマーを作製するのであって、これが最大の特徴である。
【0036】
上記カルボン酸末端ポリマーは、例えば、つぎのようにして作製することができる。すなわち、撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、水酸基を2個以上有する特定の化合物(C)と、無水フタル酸等の二塩基酸の無水物(D)と、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶剤とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら所定温度(好ましくは、130℃前後)まで所定時間(好ましくは、1時間程度)かけて昇温し、そのまま所定条件(好ましくは、130℃で3時間程度)で反応させた後、所定温度(例えば、室温)まで冷却することにより、カルボン酸末端ポリマー溶液を得ることができる。
【0037】
上記(C)と(D)との反応により得られるカルボン酸末端ポリマーとしては、カルボン酸末端ポリエステル、カルボン酸末端ポリカーボネート、カルボン酸末端ポリエーテルがあげられる。
【0038】
上記カルボン酸末端ポリマーの酸価は、15〜150mgKOH/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは45〜110mgKOH/gの範囲内である。
【0039】
また、上記カルボン酸末端ポリマーの数平均分子量(Mn)は、750〜7500の範囲内が好ましく、特に好ましくは数平均分子量(Mn)が1000〜2500の範囲内である。
【0040】
なお、本発明においては、上記(A)〜(D)とともに、ポリジメチルシロキサン系化合物(E)を用い、混合もしくは共重合させて、変性ポリアミドイミド樹脂を作製しても差し支えない。このように、上記ポリジメチルシロキサン系化合物(E)を用いると、ベルトの耐久性が向上する。
【0041】
上記ポリジメチルシロキサン系化合物(E)としては、分子中にポリジメチルシロキサン構造を有し、片末端もしくは両末端に、上記(A)のイソシアネート基に対する反応基を有するものが好ましく、例えば、両末端に反応基を1個ずつ有するもの、もしくは片末端に反応基を2個有するもの等があげられる。
【0042】
上記反応基としては、芳香族系イソシアネート化合物(A)のイソシアネート基と反応する官能基であれば特に限定はなく、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基等があげられる。
【0043】
上記両末端に反応基を1個ずつ有するポリジメチルシロキサン系化合物(E)としては、具体的には、両末端にカルボキシル基を1個ずつ有するカルボン酸両末端シリコーンポリマー(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、BY16−750)等があげられる。
【0044】
また、上記片末端に反応基を2個有するポリジメチルシロキサン系化合物(E)としては、具体的には、片末端にヒドロキシル基を2個有する片末端2官能シリコーンポリマー(信越化学工業社製、X−22−176DX)等があげられる。
【0045】
上記ポリジメチルシロキサン系化合物(E)の酸価またはOH価は、1〜1000mgKOH/gの範囲内が好ましく、特に好ましくは4〜150mgKOH/gの範囲内である。
【0046】
また、上記ポリジメチルシロキサン系化合物(E)の数平均分子量(Mn)は、200〜40,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは1,000〜20,000の範囲内である。
【0047】
上記ポリジメチルシロキサン系化合物(E)の配合割合は、上記(A)〜(E)の合計量全体の1〜20重量%の範囲内が好ましく、特に好ましくは2〜15重量%の範囲内である。すなわち、上記ポリジメチルシロキサン系化合物(E)の配合割合が1重量%未満であると、ベルトの耐久性が劣る傾向がみられ、逆に20重量%を超えると、ベルトの耐伸び性が悪くなるおそれがあるからである。
【0048】
また、本発明においては、上記(A)〜(D)もしくは(A)〜(E)とともに、フッ素含有低分子量有機化合物(F)を用い、混合もしくは共重合させて、変性ポリアミドイミド樹脂を作製しても差し支えない。このように、上記フッ素含有低分子量有機化合物(F)を用いると、ベルトを湿熱環境に放置した際のしわの発生を抑制することができるという効果が得られる。
【0049】
ここで、フッ素含有低分子量有機化合物(F)とは、通常、数平均分子量(Mn)が5000以下の化合物をいい、好ましくは数平均分子量(Mn)が100〜4800の範囲内の化合物、特に好ましくは数平均分子量(Mn)が400〜1500の範囲内の化合物をいう。すなわち、上記フッ素含有低分子量有機化合物(F)の数平均分子量(Mn)が5000を超えると、ポリアミドイミド樹脂本来の耐屈曲性が低下する傾向がみられるからである。したがって、ポリビニリデンクロライド(PVDF),四フッ化エチレン(PTFE),ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE),ポリビニルクロライド(PVF)等の数平均分子量(Mn)が数万レベルであるフッ素系樹脂は、本発明で言うフッ素含有低分子量有機化合物(F)には含まれない。
【0050】
上記フッ素含有低分子量有機化合物(F)としては、上記芳香族系イソシアネート化合物(A)のイソシアネート基に対する反応基を有するものが好ましく、例えば、下記の一般式(1)〜(4)で表されるフッ素含有低分子量有機化合物等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、上記反応基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、トリアルコキシシリル基等があげられる。
【0051】
【化1】

【0052】
上記一般式(1)〜(4)において、Rfで表されるフッ素化アルキル基は、炭素数1〜16のものが好ましく、特に好ましくは炭素数1〜8のものである。また、上記一般式(3)において、Rで表されるアルキル基は、炭素数1〜8のものが好ましく、特に好ましくは炭素数1〜3のものである。
【0053】
上記一般式(1)で表されるフッ素含有低分子量有機化合物としては、例えば、下記の構造式(1a)で表されるトリフルオロエタノール、下記の構造式(1b)で表されるペンタデカフルオロオクタノール、下記の構造式(1c)で表される1H,1H,5H−オクタフルオロペンタノール、下記の構造式(1d)で表される2,2−ビス(トリフルオロメチル)プロパノール、下記の構造式(1e)で表される2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、下記の構造式(1f)で表される1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノナノール、下記の構造式(1g)で表される3−パーフルオロオクチル−1,2−エポキシプロパン等があげられる。
【0054】
【化2】

【0055】
上記一般式(2)で表されるフッ素含有低分子量有機化合物としては、例えば、下記の構造式(2a)で表される3−(2−パーフルオロオクチルエトキシ)−1,2−ジヒドロキシプロパン、下記の構造式(2b)で表される3−(2−パーフルオロヘキシルエトキシ)−1,2−ジヒドロキシプロパン、下記の構造式(2c)で表される3−(2−パーフルオロヘキシルエトキシ)−1,2−エポキシプロパン等があげられる。
【0056】
【化3】

【0057】
上記一般式(3)で表されるフッ素含有低分子量有機化合物としては、例えば、下記の構造式(3a)で表されるN−プロピル−N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、下記の構造式(3b)で表されるN−プロピル−N−(2,3−エポキシプロピル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、下記の構造式(3c)で表されるN−〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕−N−プロピルパーフルオロオクタンスルホンアミド、下記の構造式(3d)で表されるN−〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕−N−エチルパーフルオロオクタンスルホンアミド等があげられる。
【0058】
【化4】

【0059】
上記一般式(4)で表されるフッ素含有低分子量有機化合物の具体例としては、下記の構造式(4a)で表されるフッ素系界面活性剤(OMNOVA社製、PF636)、下記の構造式(4b)で表されるフッ素系界面活性剤(OMNOVA社製、PF6320)、下記の構造式(4c)で表されるフッ素系界面活性剤(OMNOVA社製、PF656)、下記の構造式(4d)で表されるフッ素系界面活性剤(OMNOVA社製、PF6520)等があげられる。
【0060】
【化5】

【0061】
なお、上記一般式(4)で表されるフッ素含有低分子量有機化合物以外のフッ素系界面活性剤を使用することも可能であり、例えば、OMNOVA社製のPF651,PF652,PF151N,PFAT−1001,PFAT−1045,PFAT−1084,PFAT−1085,PFAT−1089等があげられる。
【0062】
上記フッ素含有低分子量有機化合物(F)の含有量は、上記(A)〜(F)の合計量全体の1〜20重量%の範囲内が好ましく、特に好ましくは2〜15重量%の範囲内である。すなわち、フッ素含有低分子量有機化合物(F)の含有量が1重量%未満であると、ベルトを湿熱環境に放置した際のしわの発生を抑制する効果が小さくなる傾向がみられ、逆に20重量%を超えると、ベルトの耐屈曲性が低下する傾向がみられるからである。
【0063】
つぎに、上記変性PAI樹脂は、例えば、つぎのようにして調製することができる。すなわち、撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器を準備し、この容器中に、前述のようして作製したカルボン酸末端ポリマー〔前記(C)と(D)との反応物〕と、上記芳香族イソシアネート化合物(A)と、無水トリメリット酸等の芳香族系多価カルボン酸の無水物(B)とを所定量配合するとともに、必要に応じて、ポリジメチルシロキサン系化合物(E),フッ素含有低分子量有機化合物(F)等を所定量配合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP),N,N−ジメチルホルムアミド(DMF),N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC),γ−ブチロラクトン等の極性溶剤を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら所定時間(好ましくは、1〜3時間)かけて所定温度(好ましくは、130〜150℃)まで昇温する。つぎに、所定条件(好ましくは、130〜150℃で3〜5時間程度)で反応させた後、反応を停止することにより、変性PAI樹脂溶液を調製することができる。
【0064】
このようにして得られる変性PAI樹脂は、数平均分子量(Mn)が5,000〜100,000の範囲内が好ましく、特に好ましくはMnが10,000〜50,000の範囲内である。すなわち、変性PAI樹脂のMnが5,000未満であると、引き裂き強度が低くなり、耐久性が悪化し、逆に変性PAI樹脂のMnが100,000を超えると、溶液粘度が高くなり加工性が悪化する傾向がみられるからである。
【0065】
なお、上記基層1の形成に用いる材料(基層用材料)としては、上記変性PAI樹脂とともに、導電性充填剤、リン含有ポリエスル系樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を用いても差し支えない。また、上記基層用材料には、上記各成分とともに、DMF,DMAC,トルエン,アセトン,NMP等の有機溶剤や、炭酸カルシウム等の通常の充填剤を、必要に応じて含有させることも可能である。
【0066】
上記導電性充填剤としては、特に限定はなく、例えば、カーボンブラック,グラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末,ステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO),導電性酸化チタン(c−TiO2 ),導電性酸化鉄(c−Fe3 4 ),導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物や、第四級アンモニウム塩,リン酸エステル,スルホン酸塩,脂肪族多価アルコール,脂肪族アルコールサルフェート塩のようなイオン性導電剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0067】
また、上記導電性充填剤の配合量は、変性PAI樹脂100重量部(以下「部」と略す)に対して、3〜30部の範囲内が好ましく、特に好ましくは4〜25部の範囲内である。
【0068】
上記リン含有ポリエスル系樹脂としては、リン含有量がリン含有ポリエスル系樹脂全体の3〜15重量%の範囲内にあるものが好ましく、特に好ましくはリン含有量が5〜10重量%の範囲内にあるものである。上記リン含有量がこのような範囲内にあると、難燃性が向上するため好ましい。
【0069】
また、上記リン含有ポリエスル系樹脂の配合量は、変性PAI樹脂100部に対して、1〜30部の範囲内が好ましく、特に好ましくは2〜15部の範囲内である。
【0070】
つぎに、上記ポリエーテルスルホン(PES)樹脂としては、芳香族環が、スルホニル基(−SO2 −)またはエーテル基(−O−)を介して結合された構造単位を繰り返し単位とするものであれば特に限定はない。上記PES樹脂は、このような構造単位を繰り返し単位として高分子化した固形ポリマーであって、有機溶媒に可溶であり、また熱によって可塑化し、押出成形等の各種の成形法によってフィルム状に成形可能な高分子量体である。この熱による可塑化温度(軟化温度)は、重合度(n)により若干の差はあるものの、通常、200〜270℃程度の範囲内にある。
【0071】
上記PES樹脂の構造単位としては、特に限定はないが、下記の化学式(5)〜(7)で表される構造単位が好適に用いられる。上記PES樹脂としては、上記化学式(5)〜(7)で表される構造単位の1種を単独で繰り返し単位とするものに限定されず、上記化学式(5)〜(7)で表される構造単位の2種以上を繰り返し単位とするものであっても差し支えない。
【0072】
【化6】

【0073】
【化7】

【0074】
【化8】

【0075】
上記化学式(5)で表される構造単位を繰り返し単位とするPES樹脂は、例えば、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホンと、4,4′−ジクロロジフェニルスルホンとの当モルを、有機極性溶媒中で混合し、通常、150〜350℃の加熱下で、縮合重合することによって合成することができる。
【0076】
また、上記化学式(6)で表される構造単位を繰り返し単位とするPES樹脂は、4,4′−ジクロロフェニルスルホンと、1,4−ジヒドロキシフェニルとの当モルを、有機極性溶媒中で混合し、通常、150〜350℃の加熱下で、縮合重合することによって合成することができる。
【0077】
さらに、上記化学式(7)で表される構造単位を繰り返し単位とするPES樹脂は、4,4′−ジクロロフェニルスルホンと、4,4−ジヒドロキシジフェニルとの当モルを、有機極性溶媒中で混合し、通常、150〜350℃の加熱下で、縮合重合することによって合成することができる。
【0078】
上記有機極性溶媒としては、特に限定はないが、出発原料および合成したPES樹脂の双方を溶解可能であるものが好ましく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等があげられる。
【0079】
なお、上記化学式(7)で表される構造単位は、2つのフェニル基が直結されているものに限定されず、アルキレン基等を介して、2つのフェニル基が結合されていても差し支えない。
【0080】
上記PES樹脂の数平均分子量(Mn)は、10,000〜500,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは20,000〜400,000の範囲内である。
【0081】
上記PES樹脂の配合量は、変性PAI樹脂100部に対して、1〜60部の範囲内が好ましく、特に好ましくは10〜40部の範囲内である。
【0082】
上記基層用材料は、例えば、前記のようにして作製した変性PAI樹脂溶液と、導電性充填剤、リン含有ポリエスル系樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等とを必要に応じて適宜に配合し、撹拌羽根で混合した後、リングミル,ボールミル,サンドミル等を用いて分散させることにより調製することができる。
【0083】
つぎに、上記表層2の形成に用いる材料(表層用材料)としては、特に限定はなく、例えば、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、作業性を考慮して、液状または溶剤可溶タイプのものが好適に用いられる。また、汚れ防止、塗膜強度、あるいは密着性を向上させる目的で、前記樹脂材料を変性したものを用いてもよく、例えば、変性アクリル系樹脂があげられる。この変性アクリル系樹脂としては、アクリル樹脂の分子構造を母体とし、他の樹脂ないし樹脂成分で変性されたものであれば特に限定はないが、シリコーン変性アクリル系樹脂が好適に用いられる。
【0084】
上記シリコーン変性アクリル系樹脂としては、例えば、シリコーングラフトアクリル系樹脂があげられる。このシリコーングラフトアクリル系樹脂としては、アクリル系樹脂(主鎖)にシリコーン系樹脂がグラフト重合したものであれば特に限定するものではない。このシリコーングラフトアクリル系樹脂の具体例としては、東亞合成社製のサイマックUS−350等があげられる。
【0085】
なお、上記表層用材料としては、前記樹脂材料に対して、イソシアネート樹脂,アミノ樹脂,フェノール樹脂,キシレン樹脂等の樹脂架橋剤を用いて、樹脂架橋を施した材料や、感光性モノマーまたはポリマーに光重合開始剤を混合した紫外線硬化型材料を用いても差し支えない。
【0086】
上記表層用材料は、例えば、変性アクリル系樹脂と、DMF,トルエン,アセトン等の有機溶剤とを適宜に配合し、撹拌羽根で混合することにより調製することができる。なお、各層を精度良く形成するためには、隣接する層の形成材料に用いる有機溶剤は、互いに異なった種類のものを使用することが好ましい。すなわち、表層用材料に用いる有機溶剤と、基層用材料に用いる有機溶剤とは、互いに異なった種類のものを使用することが好ましい。
【0087】
ここで、前記図1に示した電子写真機器用無端ベルトは、例えばつぎのようにして作製することができる。すなわち、前記と同様にして、基層用材料を調製し、これを金型(円筒形基体)の表面にスプレーコーティングする。ついで、これを150〜300℃で3〜6時間乾燥することにより、金型の表面に基層1を形成する。つぎに、この基層1の表面に、前記と同様にして調製した表層用材料を、ディッピング法にてコーティングし乾燥した後、基層1と円筒形基体との間にエアーを吹き付けることにより、円筒形基体を抜き取り、基層1の表面に、表層2が形成されてなる2層構造の無端ベルト(図1参照)を作製することができる。なお、表層2の形成方法は、上記ディッピング法に限定されるものではなく、基層1の形成方法と同様に、スプレーコーティングすることにより形成しても差し支えない。
【0088】
また、上記電子写真機器用無端ベルトの基層1は、上記製法以外に、押出成形法、インフレーション法、ブロー成形法、ディッピング法、遠心成形法等により、作製することも可能である。
【0089】
上記電子写真機器用無端ベルトの各層の厚みは、ベルトの用途に応じて適宜に設定されるが、基層1の厚みは、通常、30〜300μmの範囲内であり、好ましくは50〜200μmの範囲内である。また、表層2の厚みは、0.1〜10μmの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.5〜5μmの範囲内である。また、本発明の電子写真機器用無端ベルトは、内周長が90〜1500mmで、幅が100〜500mm程度のものが好ましい。すなわち、上記寸法の範囲内に設定すると、電子写真複写機等に組み込んで使用するのに適した大きさとなるからである。
【0090】
なお、本発明において、電子写真機器用無端ベルトは、少なくとも基層1を備えた構造であればよく、前記図1に示したような、基層1の外周面に表層2を直接形成した2層構造に限定されるものではない。本発明における電子写真機器用無端ベルトは、例えば、基層1のみからなる単層構造、基層1と表層2との間に、熱可塑性樹脂層もしくはゴム弾性層を介在させた3層構造、基層1と表層2との間に、熱可塑性樹脂層およびゴム弾性層の双方を介在させた4層構造等であっても差し支えない。ただし、これらの場合において、基層1は、前述の変性PAI樹脂を用いて形成されている必要がある。
【0091】
この場合、上記基層1と表層2との間に介在させる熱可塑性樹脂層用材料としては、特に限定はないが、熱可塑性樹脂とともに、必要に応じて、メチルエチルケトン(MEK),トルエン等の溶剤等が用いられる。なお、この熱可塑性樹脂層用材料中にも、先に述べたような、導電性充填剤を配合しても差し支えない。
【0092】
また、上記熱可塑性樹脂としては、特に限定はなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート(PC)系樹脂、ポリアミド系樹脂、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)系樹脂、EEA(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)系樹脂等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、難燃性に優れる点で、PVDF等のフッ素系樹脂を用いることが好ましい。
【0093】
また、上記基層1と表層2との間に介在させるゴム弾性層用材料としては、ゴム材および加硫剤とともに、必要に応じて、加硫促進剤、溶剤、加工助剤、老化防止剤等が用いられる。なお、このゴム弾性層用材料中にも、先に述べたような、導電性充填剤を配合しても差し支えない。
【0094】
上記ゴム材としては、特に限定はないが、難燃性の観点から、塩素化ポリエチレンゴム(CPE)、クロロプレンゴム(CR)等が用いられる。これらのなかで、電子写真機器用無端ベルトに要求される電気特性、弾力性、耐久性に合わせて最適材料が選定される。
【0095】
本発明の製法により得られる電子写真機器用無端ベルトは、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、トナー像の転写用,紙転写搬送用,感光体基体用等の用途に好適に用いられるが、これに限定するものではなく、例えば、フルカラーではない、単色の電子写真複写機の転写ベルト等にも使用することができる。
【実施例】
【0096】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0097】
〔実施例1〕
(基層用材料の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、両末端に水酸基を有するエステル系ポリオール(クラレ社製、O−2010、OH価:56mgKOH/g、Mn:2000)13部と、無水フタル酸(Mn:148.12)2部と、NMP溶剤243部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約3時間反応させた後室温まで冷却して、カルボン酸両末端ポリエステルを作製する。つぎに、このカルボン酸両末端ポリエステルに、MDI(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、Mn:250.06)25部と、TODI(日本曹達社製、TODI/R203、Mn:264.29)27部と、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)である無水トリメリット酸(Mn:192.12)36部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(固形分濃度:26重量%)を調製した。つぎに、このPAI−NMP溶液に、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)5部を配合し、撹拌羽根で混合した後、ボールミル分散させて基層用材料を調製した。
【0098】
(表層用材料の調製)
シリコーングラフトアクリル系樹脂(東亞合成社製、サイマックUS−350)100部と、トルエン溶剤500部とを配合し、撹拌羽根で混合して、表層用材料を調製した。
【0099】
(無端ベルトの作製)
金型(円筒形基体)を準備し、この表面に上記基層用材料をスプレーコーティングして、金型の表面に基層を形成し、250℃で2時間加熱処理をした。つぎに、この基層の表面に、上記表層用材料をディッピング法にてコーティングし、乾燥した後、基層と円筒形基体との間にエアーを吹き付けることにより、円筒形基体を抜き取り、基層(厚み:80μm)の表面に、表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルトを作製した。
【0100】
〔実施例2〕
(基層用材料の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、両末端に水酸基を有するカーボネート系ポリオール(ダイセル化学工業社製、プラクセルCD CD220、OH価:56mgKOH/g、Mn:2000)20部と、無水フタル酸(Mn:148.12)3部と、NMP溶剤266部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約3時間反応させた後室温まで冷却して、カルボン酸両末端ポリカーボネートを作製する。つぎに、このカルボン酸両末端ポリカーボネートに、MDI(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、Mn:250.06)15部と、TODI(日本曹達社製、TODI/R203、Mn:264.29)37部と、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)である無水トリメリット酸(Mn:192.12)36部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(固形分濃度:26重量%)を調製した。つぎに、このPAI−NMP溶液に、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)5部を配合し、撹拌羽根で混合した後、ボールミル分散させて基層用材料を調製した。
【0101】
(無端ベルトの作製)
上記基層用材料を用いる以外は、実施例1と同様にして、基層(厚み:80μm)の表面に、表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルトを作製した。
【0102】
〔実施例3〕
(基層用材料の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、両末端に水酸基を有するエーテル系ポリオール(三菱化学工業社製、PTMG2000、OH価:56mgKOH/g、Mn:2000)20部と、無水フタル酸(Mn:148.12)3部と、NMP溶剤266部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約3時間反応させた後室温まで冷却して、カルボン酸両末端ポリエーテルを作製する。つぎに、このカルボン酸両末端ポリエーテルに、MDI(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、Mn:250.06)15部と、TODI(日本曹達社製、TODI/R203、Mn:264.29)37部と、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)である無水トリメリット酸(Mn:192.12)36部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(固形分濃度:26重量%)を調製した。つぎに、このPAI−NMP溶液に、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)5部を配合し、撹拌羽根で混合した後、ボールミル分散させて基層用材料を調製した。
【0103】
(無端ベルトの作製)
上記基層用材料を用いる以外は、実施例1と同様にして、基層(厚み:80μm)の表面に、表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルトを作製した。
【0104】
〔実施例4〕
(基層用材料の調製)
撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、両末端に水酸基を有するエステル系ポリオール(クラレ社製、O−2010、OH価:56mgKOH/g、Mn:2000)13部と、無水フタル酸(Mn:148.12)2部と、NMP溶剤257部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約3時間反応させた後室温まで冷却して、カルボン酸両末端ポリエステルを作製する。つぎに、このカルボン酸両末端ポリエステルに、MDI(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、Mn:250.06)25部と、TODI(日本曹達社製、TODI/R203、Mn:264.29)27部と、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)である無水トリメリット酸(Mn:192.12)36部と、OH変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製、X−22−176DX、OH価:30mgKOH/g、Mn:3740)5部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(固形分濃度:26重量%)を調製した。つぎに、このPAI−NMP溶液に、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)5部を配合し、撹拌羽根で混合した後、ボールミル分散させて基層用材料を調製した。
【0105】
(無端ベルトの作製)
上記基層用材料を用いる以外は、実施例1と同様にして、基層(厚み:80μm)の表面に、表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルトを作製した。
【0106】
〔比較例〕
(基層用材料の調製)
水酸基を2個以上有する特定の化合物(C)および二塩基酸の無水物(D)を配合しない以外は、実施例に準じて、基層用材料を調製した。すなわち、撹拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を備えた反応容器に、MDI(日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT、Mn:250.06)15部と、TODI(日本曹達社製、TODI/R203、Mn:264.29)37部と、無水トリメリット酸38部と、NMP溶剤206部とを仕込み、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させた後反応を停止し、PAI−NMP溶液(固形分濃度:26重量%)を調製した。つぎに、このPAI−NMP溶液に、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)4部を配合し、撹拌羽根で混合した後、ボールミル分散させて基層用材料を調製した。
【0107】
(無端ベルトの作製)
上記基層用材料を用いる以外は、実施例1と同様にして、基層(厚み:80μm)の表面に、表層(厚み:1μm)が形成されてなる2層構造の無端ベルトを作製した。
【0108】
このようにして得られた実施例および比較例の無端ベルトを用い、下記の基準に従って各特性の評価を行った。これらの結果を後記の表1に併せて示した。
【0109】
〔PAI(Mn)〕
各実施例および比較例で得たPAI樹脂のTHF希釈溶液を調製し、GPCによる分子量(ポリスチレン換算)を測定した。
【0110】
〔引張弾性率(MPa)〕
JIS K7127に準じて、引張弾性率(MPa)を測定した。なお、引張速度は、毎分10±2.0mmとした。
【0111】
〔耐屈曲性〕
JIS P8115に準じて、Folding Endurancetester MIT−D(東洋精機社製)を用い、荷重9.8Nの条件下、各無端ベルトのMIT回数を測定した。このMIT回数は、耐屈曲性の評価の指標となるものであり、このMIT回数が多い程、耐屈曲性に優れていることを示す。
【0112】
〔ベンチ耐久試験〕
直径13mmの金属製ローラーを2本準備し、2本の金属製ローラー間に無端ベルト(幅150mm)を張架した状態で、一方の金属製ローラーをテーブル上に固定した。ついで、テーブルに固定していない他方の金属製ローラーがテーブルの端部になるように配置し、この金属製ローラーの両端にオモリを2kgずつ吊り下げ(総荷重4kg)、ラボ環境(25℃×40%RH)下で、無端ベルトを回転駆動させた。そして、無端ベルトに亀裂が確認できるまでの累積回転数を測定した。
【0113】
【表1】

【0114】
上記結果から、いずれの実施例品も、引張弾性率(MPa)が高く、耐屈曲性およびベンチ耐久特性に優れていた。
【0115】
これに対し、比較例品は、耐屈曲性およびベンチ耐久特性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の製法により得られる電子写真機器用無端ベルトは、フルカラーLBP(レーザービームプリンター)やフルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、中間転写ベルトや紙転写搬送ベルト等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】本発明の製法により得られる電子写真機器用無端ベルトの一例を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0118】
1 基層
2 表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層のみからなる単層,もしくは基層を含む2層以上の層からなる複層の電子写真機器用無端ベルトの製法であって、下記の(C)と(D)とを予め反応させてカルボン酸末端ポリマーを作製した後、これを下記の(A)および(B)と反応させて変性ポリアミドイミド樹脂を作製し、これを用いて電子写真機器用無端ベルトの基層を形成することを特徴とする電子写真機器用無端ベルトの製法。
(A)芳香族イソシアネート化合物。
(B)芳香族系多価カルボン酸の無水物。
(C)水酸基を2個以上有するポリエステル、水酸基を2個以上有するポリカーボネートおよび水酸基を2個以上有するポリエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)二塩基酸の無水物。
【請求項2】
上記(C)と(D)との合計配合量が、(A)〜(D)の合計量全体の5〜30重量%の範囲内である請求項1記載の電子写真機器用無端ベルトの製法。
【請求項3】
上記(A)〜(D)とともに、下記の(E)を用いて変性ポリアミドイミド樹脂を作製する請求項1または2記載の電子写真機器用無端ベルトの製法。
(E)ポリジメチルシロキサン系化合物。
【請求項4】
上記(E)のポリジメチルシロキサン系化合物が反応基を有している請求項3記載の電子写真機器用無端ベルトの製法。
【請求項5】
上記(B)の芳香族系多価カルボン酸の無水物が、芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)と、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)とを併用したものである請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子写真機器用無端ベルトの製法。
【請求項6】
上記芳香族系多価カルボン酸無水物(B1)と、芳香族系多価カルボン酸二無水物(B2)とのモル混合比が、(B1)/(B2)=90/10〜50/50の範囲内である請求項5記載の電子写真機器用無端ベルトの製法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−231689(P2006−231689A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−49181(P2005−49181)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】