説明

電子写真機器用現像ロール

【課題】イオン導電剤のブルームを防止して長期に亘り電荷減衰特性を維持することが可能である電子写真機器用現像ロールを提供する。
【解決手段】軸体2の外周面上に形成された弾性層3と表層4とを有し、上記表層4が、以下の(B)成分のカチオンが以下の(A)成分に結合しており、(A)成分100質量部に対し(B)成分0.10〜3質量部を含有させて電子写真機器用現像ロール1を構成した。(A)以下の(B)成分のアルコキシシリル基と反応する官能基を含有するバインダー樹脂。(B)カチオンが以下の一般式(1)で表される化学構造を有するイオン導電剤。
【化1】


上記一般式(1)において、R1は環状、直鎖の有機基であり、R2は少なくとも(CH)nを含み、R3はアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機やプリンター、ファクシミリ等の電子写真機器において用いられる現像ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、接触帯電方式の電子写真機器の画像形成は、以下のように行われる。先ず感光ドラムに帯電ロールを圧接して該感光ドラム表面を一様に帯電させ、光学系を介して感光ドラム表面に原稿像を投射し、光が投射された部分の帯電を打ち消すことにより、静電潜像を形成する。次いで、現像ロール表面に均一にトナーを担持させ、このトナーを上記静電潜像に付着させてトナー像を形成した後、このトナー像を複写紙等に転写することで、複写画像を得ることができる。
【0003】
上記現像ロールは、一般にSUS等の金属軸体の表面に導電性の弾性層(基層ということもある)が設けられ、該導電性弾性層の表面に、バインダー樹脂、導電剤、その他の添加剤等を含む機能層(表層ということもある)が形成されている。機能層は、単層又は複数層がある。
【0004】
上記機能層には、導電性付与のため、導電剤として、カーボンブラックや、イオン導電剤等を含有している。機能層は、厚みが0.1〜20μm程度であり、バインダー樹脂材料としてポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、NBR等が用いられている。また上記弾性層は、厚みが1〜4mm程度であり、弾性層を形成するゴム材料としてシリコーンゴム、ヒドリンゴム、NBR等が用いられている。
【0005】
現像ロールの機能層において、イオン導電剤の添加量が少ないと、帯電不良となって、一定ピッチ毎にトナーの濃度に濃淡差が生じて、画像濃度が不均一となる不具合が生じてしまう。すなわち図2に示すように、印刷画像110において、濃度の淡い部分111と濃度の濃い部分112が、現像ロール101の回転方向に交互に現れる。この画像濃度の濃淡差は、所謂段ムラと呼ばれる。
【0006】
これに対し、機能層におけるイオン導電剤の添加量を増やすことにより、帯電性を改善して段ムラの発生を防止することができる。しかしながら、イオン導電剤の添加量が多くなると、トナーとの固着や、イオン導電剤のブルームによる画像ムラ、汚染等の増大、高湿環境下での帯電量の低下等の問題があった。
【0007】
上記のイオン導電剤のブルームによる問題を改善した現像ロールが公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
特許文献1の現像ロールは、表面層が、バインダー樹脂、カーボンブラック、特定のイミダゾリウムカチオンと特定のアニオンとの塩からなるイオン導電剤、ポリアミド多孔質粒子等を含有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−237445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の現像ロールは、カーボンブラック、特定のイオン導電剤、多孔質粒子等により、イオン導電剤がブリードアウトを抑制することができるとされている。しかしながら、上記現像ロールの表層は、イオン導電剤はバインダー樹脂中に分散しているだけであり、バインダー樹脂と化学的に結合しているものではない。そのため、イオン導電剤の添加量を増やすと、ブルームが起きてしまい、長期に亘り電荷減衰特性を保持する事は困難である。また、一般にイオン導電剤は親水性を有することから、高湿環境下では水分の影響を受け易く、荷電保持性が低下し、帯電量の低下が起きるという問題があった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の問題点を解決することにあり、イオン導電剤のブルームを防止して長期に亘り電荷減衰特性を維持することが可能であり、高湿環境下でも水分の影響を受け難く荷電保持性が低下せず十分な帯電量を得ることが可能である電子写真機器用現像ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る電子写真機器用現像ロールは、
軸体の外周面上に形成された弾性層と、該弾性層の外側に形成された表層とを有する現像ロールにおいて、上記表層が、以下の成分を含有する組成物からなり、以下の(B)成分のカチオンが以下の(A)成分に結合しており、(A)成分100質量部に対し(B)成分0.10〜3質量部を含有することを要旨とするものである。
(A)以下の(B)成分のアルコキシシリル基と反応する官能基を含有するバインダー樹脂。
(B)カチオンが以下の一般式(1)で表される化学構造を有するイオン導電剤。
【0013】
【化1】

上記一般式(1)において、
R1:環状、直鎖の有機基
R2:少なくとも(CH)nを含む(但し、nは整数)
R3:アルキル基
【0014】
上記電子写真機器用現像ロールにおいて、上記(B)成分のアニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド〔(CFSO〕(以下、TFSIと略記することもある)であることが好ましい。
【0015】
上記電子写真機器用現像ロールにおいて、上記(A)成分のバインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂又はアクリル樹脂であるであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電子写真機器用現像ロールは、上記表層が、(B)成分の特定構造のカチオンを有するイオン導電剤が(A)成分のバインダー樹脂と反応して化学的に結合していることから、従来のバインダー樹脂中にイオン導電剤が単に分散しているだけの表層を有する現像ロールと比較して、表層からのイオン導電剤のブルームを良好に防止することができ、長期に亘り電荷減衰特性を維持することが可能である。また現像ロールは、表層のイオン導電剤が必要十分な量、添加されているので、段ムラ等の発生を抑制して、均一な画像を得ることができる。
【0017】
更に本発明において、イオン導電剤のアニオン成分がTFSIの場合、疎水性を有することから、従来の親水性のイオン導電剤を用いた場合と比較して、高湿環境下でも水分の影響を受け難く、荷電保持性が低下せず十分な帯電量を得ることが可能であり、環境に依存することなく確実に効果を発揮できる。
【0018】
また本発明は、表層が上記(A)バインダー樹脂成分100質量部に対し(B)イオン導電剤成分0.10〜3質量部を含有することにより、確実に長期に亘り帯電性が得られると共に、過剰のイオン導電剤がバインダー樹脂と反応せずに残滓となる恐れがないので、過剰のイオン導電剤が表層からブルームすることなく、イオン導電剤がトナーと反応して固着したりする虞がない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の電子写真機器用現像ロールの一例を示す断面図である。
【図2】従来の現像ロールの問題点を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の電子写真機器用現像ロールの実施の形態について詳細に説明する。図1は本発明の電子写真機器用現像ロールの一例を示す断面図である。図1に示す電子写真機器用現像ロール1(以下、単に現像ロールということもある)は、軸体2の外周面に形成された弾性層3と、該弾性層3の外側表面上に形成された表層4とを有している。
【0021】
軸体2は、例えば、金属製の中実体からなる芯金や、内部が中空の金属製の円筒体等が用いられる。軸体の材質としては、ステンレス、アルミニウム、鉄にめっきを施したもの等が挙げられる。また、必要に応じ軸体2の外周面上に接着剤、プライマー等を塗布してもよい。
【0022】
弾性層3の形成材料は、例えば、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ウレタンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもいずれでもよい。また弾性層3には必要に応じて、カーボンブラック等の導電剤を添加してもよい。
【0023】
表層4は、少なくとも以下の(A)成分及び(B)成分を含有する組成物から形成されたものである。更に表層4は、以下の(B)成分のカチオンからなるイオン導電剤が、以下の(A)成分のバインダー樹脂と反応して化学的に結合しているものである。このように、表層4は、バインダー樹脂に対し反応性を有するイオン導電剤を含有する組成物を用い、イオン導電剤をバインダー樹脂と反応させて化学結合している。そのため、表層4からイオン導電剤がブルームすることを防止できる。
【0024】
更に、本発明において用いるイオン導電剤のアニオン成分がTFSIの場合、疎水性であるため、水分の影響を受け難い。そのため、現像ロール1は高湿環境下で帯電量の低下が起こらず、環境依存度を低減することができる。以下、表層4の各成分について説明する。
【0025】
〔(A)成分〕
以下の(B)成分のアルコキシシリル基と反応する官能基を含有するバインダー樹脂。上記バインダー樹脂は、具体的には、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの樹脂のアルコキシシリル基と反応する官能基(以下、単に官能基ということもある)としては、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0026】
上記ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、カーボネート系ポリウレタン、アクリル系ポリウレタン、脂肪族系等の各種のポリウレタン樹脂を用いることができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なお、ポリウレタン樹脂は、分子構造中にウレア結合またはイミド結合を有するものであってもよい。ポリウレタン樹脂は、公知のポリオールとポリイソシアネートの反応により得られる。
【0027】
上記ポリウレタン樹脂のポリオ−ル成分としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール等が挙げられる。上記ポリオールの数平均分子量(Mn)は、500〜3000の範囲が好ましい。
【0028】
ポリエステルポリオールとしては、以下のものが挙げられる。1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,4−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールの如きジオール成分、トリメチロールプロパンの如きトリオール成分と、アジピン酸、無水フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロキシフタル酸等のジカルボン酸との縮合反応により得られるポリエステルポリオール。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらのポリオール成分は必要に応じて、予め2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、1,4ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)の如きイソシアネートにより鎖延長したプレポリマーを用いてもよい。
【0029】
ポリウレタン樹脂に用いられるポリイソシアネート成分は、特に限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の如き脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネートの如き脂環式ポリイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の如き芳香族イソシアネート及びこれらの共重合物、そのブロック体。
【0030】
ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート成分、ポリオール成分の種類や分子量等を選択することにより、その塗膜の物性を適宜調節することができる。ポリウレタン樹脂中に、(B)成分のイオン導電剤のアルコキシシリル基と反応する官能基を導入するには、上記成分を反応させる際に、官能基を有する化合物を加えて、反応後にその官能基が残存するように、ポリウレタンの重合反応を行うようにすれば良い。ポリウレタン樹脂における官能基は、重合体分子の末端に存在しても、重合体分子の中間に存在していてもいずれでもよい。
【0031】
またポリウレタン樹脂には、上記ポリイソシアネート成分、ポリオール成分に加えて、鎖延長剤、触媒、発泡剤、界面活性剤、難燃剤、着色剤、充填剤、可塑剤、安定剤、離型剤等を適宜配合することも可能である。
【0032】
アクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらのエステルを主成分として重合させて得られるポリマーである。アクリル樹脂は、モノマーの種類、共重合をさせる他の樹脂のモノマーや、重合度等により、その塗膜の物性を適宜調節することができる。
【0033】
アクリル樹脂中に官能基を導入するには、上記官能基を有するモノマーを共重合させ、重合後の樹脂中に上記官能基が残存するようにすればよい。アクリル樹脂中の官能基は、重合体分子の末端に存在していても、重合体分子の中間に存在していてもいずでもよい。
【0034】
上記バインダー樹脂における上記官能基の含有量と、添加するイオン導電剤の有するアルコキシシリル基の比(モル比)は、樹脂の官能基/アルコキシシリル基=1/1以上である事が好ましい。
【0035】
〔(B)成分〕
カチオンが以下の一般式(1)で表される化学構造を有するイオン導電剤を含有する。
【0036】
【化2】

上記一般式(1)において、
R1:環状、直鎖の有機基
R2:少なくとも(CH)nを含む(但し、nは整数)
R3:アルキル基(−CH、−C等)
【0037】
上記R1−Nは、アンモニウム化合物であればよい。R1が環状の有機基の場合、R1−Nは、ピロール、ピロリジン、イミダゾール等の5員環、ピリジン、ピリミジン等の6員環、インドール、キノリン、イソキノリン、プリン等のピリミジン環とイミダゾール環との縮合環等の窒素含有複素環式化合物が挙げられる。また、これらの環構造中には、窒素以外に、酸素、硫黄等を含んでいてもよい。
【0038】
また上記R1−Nは、環構造ではなく、炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基(不飽和結合も含む)でもよい。具体的には、下記の一般式(2)で表わされる第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0039】
【化3】

一般式(2)において、R4は炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基(例えば、−C17)、R5〜R6は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0040】
上記一般式(1)においてR2は、少なくともメチレン基(CH)nを含むものである。上記メチレン基の数は、1〜18の範囲が好ましい。また上記R2は、メチレン基以外に、エステル基、アミド基、アミノ基、チオエーテル基、水酸基、ウレタン基、エーテル基、芳香環等の官能基を含んでいてもよい。
【0041】
(B)成分のイオン導電剤は、一般に、上記アンモニウム化合物からなるカチオンとアニオンとの塩が用いられる。上記アニオンは特に限定されないが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン〔(CFSO〕(TFSI)を用いるのが好ましい。TFSIをアニオンとして用いた場合、高温高湿環境下でもトナーに対して十分な帯電量を得ることができるという利点がある。またTFSI以外のアニオンとして、例えば、Cl等のハロゲンイオンや、ClO等が挙げられる。
【0042】
具体的なイオン導電剤のカチオンとアニオンの組み合わせの例として、構造(1)〜構造(7)を表1に、構造(10)〜構造(18)を表2に、それぞれ示す。
【0043】
上記構造(1)〜構造(7)、構造(10)〜構造(18)のイオン導電剤は、公知の方法で合成することができる。以下、これらのイオン導電剤の合成例について説明する。
【0044】
〔構造(1)、構造(4)のイオン導電剤の合成〕
雰囲気下、3−メチルピリジンを60mmolと3−クロロプロピルトリメトキシシランを55mmol混合し、90℃で72時間反応させた。冷却して析出した固体を酢酸エチルで2回洗浄した後、酢酸エチルを減圧で除去し、3−メチル−1−トリメトキシシリルプロピルピリジニウムクロリド[構造(4)]の化合物を53mmol得た。これをアセトンで溶解し、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム53mmolを加えた後、24時間室温で攪拌した。溶剤を減圧除去し、析出したリチウムクロリドをろ過することで3−メチル−1−トリメトキシシリルプロピルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド[構造(1)]の化合物を40mmol得た。
【0045】
〔構造(2)、構造(3)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(1)の合成において、3−メチルピリジンを1−メチルピぺリジンや4−メチルモルホリンに換えて合成した。
【0046】
〔構造(5)のイオン導電剤の合成〕
雰囲気下、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドを60mmolと3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランを59mmol混合し、75℃で48時間反応させた。冷却して析出した固体を酢酸エチルで2回洗浄した後、酢酸エチルを減圧で除去し、構造(5)のアニオンがクロリドの化合物を55mmol得た。これをアセトンで溶解し、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム55mmolを加えた後、24時間室温で攪拌した。溶剤を減圧除去し、析出したリチウムクロリドをろ過することで構造(5)の化合物を45mmol得た。
【0047】
〔構造(6)のイオン導電剤の合成〕
雰囲気下、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドを60mmolと(3−アミノプロピル)トリメトキシシランを59mmol混合し、100℃で72時間反応させた。冷却して析出した固体を酢酸エチルで2回洗浄した後、酢酸エチルを減圧で除去し、構造(6)のアニオンがクロリドの化合物を53mmol得た。これをアセトンで溶解し、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム53mmolを加えた後、24時間室温で攪拌した。溶剤を減圧除去し、析出したリチウムクロリドをろ過することで構造(6)の化合物を42mmol得た。
【0048】
〔構造(7)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(6)の合成において、(3−アミノプロピル)トリメトキシシランを(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシランに換えて行った。
【0049】
〔構造(10)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成において、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドを、(2−ヒドロキシエチル)トリエチルアンモニウムヨージドに換えて行った。
【0050】
〔構造(11)のイオン導電剤の合成〕
雰囲気下、2−(ジブチルアミノ)エタノールを70mmolと1−クロロブタンを75mmolとエタノール50gとを混合し、還流条件下80℃、8時間反応させた。エタノールと余分な1−クロロブタンを減圧留去し、(2−ヒドロキシエチル)トリブチルアンモニウムクロリド70mmolを得た。
上記(5)の合成において、(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリドを、得られた(2−ヒドロキシエチル)トリブチルアンモニウムクロリドに換えて行った。
【0051】
〔構造(12)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成において、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムを、ビス(フルオロスルホニル)イミド酸リチウムに換えて行った。
【0052】
〔構造(13)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成において、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムを、リチウムヘキサフルオロホスフェートに換えて行った。
【0053】
〔構造(14)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成において、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムを、過塩素酸リチウムに換えて行った。
【0054】
〔構造(15)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成においてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムを、リチウムテトラフルオロボレートに換えて行った。
【0055】
〔構造(16)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成においてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムを、トリフルオロメタンスルホン酸カリウムに換えて行った。
【0056】
〔構造(17)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成においてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムを、ペンタフルオロエタンスルホン酸カリウムに換えて行った。
【0057】
〔構造(18)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(5)の合成においてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムを、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウムに換えて行った。
【0058】
参考のために、本発明の比較例として使用した構造(8)及び構造(9)のイオン導電剤を表3に示す。これらの合成方法を以下に示す。
【0059】
〔構造(8)のイオン導電剤の合成〕
雰囲気下、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド60mmolを酢酸エチルで溶解し、過塩素酸リチウムを60mmolを加えた後、24時間室温で攪拌した。これに水を添加して2回洗浄抽出操作を行い、酢酸エチル層を分離した。酢酸エチルを減圧除去し、構造(8)の化合物を51mmol得た。
【0060】
〔構造(9)のイオン導電剤の合成〕
上記構造(8)の合成において、過塩素酸リチウムをビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウムに換えて行った。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
(B)成分のイオン導電剤のカチオンは、アルコキシシリル基が(A)成分のバインダー樹脂の官能基と反応して、バインダー樹脂にイオン導電剤が化学的に結合している。(B)成分を(A)成分のバインダー樹脂と結合させるには、通常、両成分を混合し、必要に応じ加熱して所定時間反応させればよい。
【0065】
例えば、バインダー樹脂としてポリウレタン樹脂を用いる場合、ポリイソシアネート成分とポリオール成分を混合して反応させる際に、(B)成分を加えて反応させることで、イソシアネートとポリオールの水酸基の反応と、ポリオールの水酸基とアルコキシシリル基の反応とを同時に行うことができる。
【0066】
(B)成分は、(A)成分100質量部に対して、0.10〜3質量部の範囲内で添加する。(B)成分の添加量が(A)成分100質量部に対して0.10部未満では、イオン導電剤の添加量が少なすぎて、画像に段ムラが発生し画像均一性を得ることができない。また(B)成分の添加量が(A)成分100質量部に対して3質量部を超えると、添加量が多すぎるため、未反応のイオン導電剤が多くなる。バインダー樹脂と反応しないイオン導電剤が多くなると、トナーと反応して固着する恐れや、イオン導電剤がブルームして画像ムラを発生する恐れや、高湿環境下での帯電量が低下する恐れがある。
【0067】
表層4には、上記(A)成分及び(B)成分以外に、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じ他の添加剤を添加してもよい。このような他の添加剤として、例えばカーボンブラック、カーボンナノチューブ、金属酸化物等の電子導電剤、シリコーンやフッ素等を主成分とする各種塗料用添加剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、カップリング剤、硬化触媒、表面粗さ付与の為の無機・有機粒子等が挙げられる。これらは単独もしくは2種以上併せて用いられる。
【0068】
以下、上記現像ロール1の製造方法の一例について説明する。予め上記(A)成分、(B)成分、その他の添加剤等からなる表層4の組成物を有機溶媒に溶解し攪拌し、適当な粘度となるように表層4のコーティング液を調製しておく。また弾性層3を形成する材料をニーダ−等の混練機を用いて混練しておく。先ず、導電性金属等の軸体2となる芯金をセットした射出成形用金型内に、上記弾性層用材料を充填し、所定の条件で加熱架橋を行う。その後、脱型して、軸体2の外周面に沿って弾性層3が形成されてなるベースロールを製造する。ついで、上記ベースロールの外周面に、上記表層4のコーティング液を塗布して表層4を形成する。このようにして、弾性層3の外周面に表層4が形成されてなる現像ロール1が得られる。
【0069】
上記弾性層3の形成は、射出成型法以外に注型成形法、プレス成形後、研磨する方法等を用いてもよい。また上記表層4の塗布方法は、ディッピング法、スプレーコーティング法、ロールコート法、刷毛塗り法等が挙げられる。また上記有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、アセトン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、m−クレゾール、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。これらは単独もしくは2種以上併せて用いられる。
【0070】
図1に示す態様の現像ロールは、表層4を単層から構成したが、本発明の現像ロールは、表層4を2層以上の複数層から構成してもよい。また図1の現像ロールは弾性層3が単層から構成したが、本発明の現像ロールは、弾性層3が2層以上の複数層から構成してもよい。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0072】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備、作製した。
〔軸体〕
・芯金(直径8mm、SUS製)
【0073】
〔弾性層〕
・導電性シリコーンゴム(信越化学工業社製、商品名「X34−264A/B」)
【0074】
〔表層〕
(A)バインダー樹脂
・ポリオール(日本ポリウレタン社製、商品名「ニッポラン5196」)100質量部
・イソシアネート(日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートHL」)30質量部
・カーボンブラック(電気化学工業社製、商品名「デンカブラックHS−100」)30質量部
【0075】
(B)イオン導電剤
・上記表1〜表3の構造(1)〜構造(18)に示したカチオンとアニオンからなる塩
【0076】
実施例・比較例の現像ロールを下記の通り調製した。
〔現像ロールの作製〕
軸体である芯金をセットした成形用金型内に、弾性層用材料を注型し、140℃×30分の条件で加熱した後、脱型して、軸体の外周面に沿って弾性層(厚み4mm)を形成した。つぎに、(A)バインダー樹脂100質量部(ポリオールとイソシアネートとカーボンブラックからなるポリウレタン樹脂)に対し、表4〜表11に記載した(B)イオン導電剤を、所定の添加量(質量部)で添加した組成物を、上記弾性層の外周面に塗布し乾燥して、表層(厚み15μm)を形成して、実施例・比較例の現像ロールを作製した。
【0077】
このようにして得られた現像ロールについて、下記の基準に従い各特性の評価を行った。その結果を、表4〜表11に併せて示した。
【0078】
[固着]
現像ロール全面にトナーをコートし、評価用カートリッジに組み付けて、40℃95%RH環境下に30日放置後、実機で画像出しを行った。画を確認し、問題なくきれいな画が出ているものを○、現像ロール周期で横スジが出ているものを×と判定した。
【0079】
[耐久後段ムラ]
評価用カートリッジに現像ロールを組み付け、低温低湿環境下(15℃、湿度10%)に12時間以上放置後、この環境下にて5%印字で10000枚の実機耐久を行った。耐久後に濃度ムラのないきれいな画像が出ているものを○、現像ロール周期で横帯状のムラが発生しているものを×と判定した。
【0080】
[H/H帯電量]
評価用カートリッジに現像ロールを組み付け、高温高湿環境下(32.5℃、湿度85%)に12時間以上放置後、この環境下でベタ画像を1枚出し、そのときの現像ロール上のトナー荷電量、重量を吸引法で測定した。そのときの荷電量/重量=(Q/M)の値が、−25μC/g以上を○、−20〜25μC/gまでの範囲を△、−20μC/g未満を×と判定した。
【0081】
【表4】

【0082】
【表5】

【0083】
【表6】

【0084】
【表7】

【0085】
【表8】

【0086】
【表9】

【0087】
【表10】

【0088】
【表11】

【0089】
上記表4〜8、表11の結果より、実施例の現像ロールは、固着、耐久後段ムラの特性がいずれも良好であった。これに対し、表4〜7に示すように、比較例1−1、比較例2−1、比較例3−1、比較例4−1は、実施例と同じイオン導電剤を用いたものであるが、添加量が本発明の範囲を超えているために、固着、H/H帯電量の結果がいずれも不十分であった。
【0090】
また表9に示すように、比較例8−1〜8−5は、カチオンがバインダー樹脂とは反応しないイオン導電剤を用いたものである。添加量が少ないと(比較例8−1、8−2)耐久後段ムラが悪く、一方添加量が多くなると(比較例8−3、8−4、8−5)、固着が悪くなり、両方の特性を満足することができなかった。
【0091】
また表9に示すように比較例8−2〜8−5は、添加量が少ない範囲からH/H帯電量の特性が悪くなっている。この理由は以下の通りである。このようにカチオンが固定されていないイオン導電剤は、比較的導電性が高い傾向にある。そのため、少量の添加で、表面の抵抗が下がり、摩擦帯電し難くなり、トナーの帯電量が低下したと考えられる。
【0092】
また表10に示すように、比較例9−1〜9−5は、イオン導電剤のアニオンとしてTFSIを用いたものである。しかし表9の比較例8−1〜8−5と同じようにイオン導電剤のカチオンはバインダー樹脂と反応しないものである。そのため表9の結果と同様に、固着と耐久後段ムラの特性を満足することができず、H/H帯電量の特性も悪くなっている。
【0093】
また表7に示すように、実施例4−1〜4−4は、イオン導電剤のアニオンに塩素イオン(Cl)を用い、カチオンは実施例1−1〜1−4と同じバインダー樹脂と反応性を有するものを用いたものである。この場合、固着と耐久後段ムラの特性は添加量が0.2〜3質量部の範囲で良好であるが、添加量が0.2質量部以上になるとH/H帯電量の特性が悪くなっている。これに対し、実施例4−1〜4−4とカチオンが同じであるがアニオンにTFSIを用いた表4の実施例1−1〜1−4は、添加量が0.2〜3質量部の範囲でH/H帯電量が良好であった。これはイオン導電剤のアニオンにTFSIを用いた場合、H/H帯電量の特性が向上することを示している。
【符号の説明】
【0094】
1 電子写真機器用現像ロール
2 軸体
3 弾性層
4 表層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体の外周面上に形成された弾性層と、該弾性層の外側に形成された表層とを有する現像ロールにおいて、上記表層が、以下の成分を含有する組成物からなり、以下の(B)成分のカチオンが以下の(A)成分に結合しており、(A)成分100質量部に対し(B)成分0.10〜3質量部を含有することを特徴とする電子写真機器用現像ロール。
(A)以下の(B)成分のアルコキシシリル基と反応する官能基を含有するバインダー樹脂。
(B)カチオンが以下の一般式(1)で表される化学構造を有するイオン導電剤。
【化1】

上記一般式(1)において、
R1:環状、直鎖の有機基
R2:少なくとも(CH)nを含む(但し、nは整数)
R3:アルキル基
【請求項2】
上記(B)成分のアニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることを特徴とする請求項1記載の電子写真機器用現像ロール。
【請求項3】
上記(A)成分のバインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂又はアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の電子写真機器用現像ロール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−61617(P2013−61617A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16321(P2012−16321)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】