説明

電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに、電子写真現像剤

【課題】流動性が良好であるだけでなく、帯電付与に必要な適切な表面凹凸を有し、かつ長時間にわたる攪拌ストレスの影響下でも粒子の割れ・欠けが発生しない二成分系電子写真用現像剤用キャリアを提供する。
【解決手段】粒子表面に、互いに重なり合いながら複数方向にほぼ連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有し、縞模様状の隆起部分が形成された表面が、粒子全表面の80%以上を占める。隣接する隆起部分間の溝の深さが0.05μm以上0.2μm以下であり、平均表面粗さRaが0.1μm以上0.3μm以下であり、円形度が0.90以上、平均粒径が15μm以上100μm以下であるキャリア芯材に樹脂コートをおこなって二成分系電子写真用現像剤用キャリアとする。

【発明の詳細な説明】
【発明の属する技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像に用いられる、電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真用現像剤用キャリア、並びに、電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
二成分系電子写真現像法における電子写真用現像剤用キャリア(以下、キャリアと記載する場合がある。)の役割は、現像器内でトナーと共に混合攪拌されることによりトナーに電荷を付与するだけでなく、トナーを感光体上に搬送する担持体として機能することである。トナー搬送後のキャリアはマグネットロール上に残留し、現像器内で再びトナーと混合される。このため、キャリアには所望の電荷をトナーに付与する帯電特性と、繰り返し使用における耐久性が要求されている。
【0003】
従来から、トナー粒子へ充分な帯電能力を付与する為に、キャリア粒子を小粒径化し、比表面積を大きくする対策がとられている。しかし、小粒径化されたキャリアは、キャリア付着やキャリア飛散といった異常現象を発生し易いことが大きな問題である。
この問題に対しては、キャリア粒子の磁化率が高いほど飛散を抑制することが可能であるため、マグネタイト、マンガンフェライト等の磁化率の高い磁性物質が好適に使用されている。
【0004】
また、キャリア粉末は流動性が良いことが求められる。これは、現像器内でトナーとの混合攪拌中にトナーが破壊されることや、マグネットロールの駆動部に必要以上の負荷がかかることを抑制するためである。
【0005】
上記のような流動性の良いキャリア粒子の形状としては球状、理想的には真球状であることが好ましい。しかし、キャリア粒子の形状が完全な真球では摩擦帯電が起き難いため、トナーへ十分な電荷を付与することができない。このため、キャリア粒子表面には流動性を損なわない程度の適度な凹凸が存在することが好ましい。
【0006】
このような観点から、例えば特許文献1には、上面が溝または筋で10μm四方あたり2〜50の領域に分割されているマンガンフェライトキャリア芯材が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−337828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら本発明者の検討の結果、特許文献1をはじめとする従来のキャリア粉末はキャリア粒子の耐久性が十分でなく、現像機内での攪拌中にキャリア粒子の割れ・欠けが発生することが確認された。このため、割れ・欠けによりキャリア粒子の流動性や帯電付与能力が変化し、長期にわたって安定した画像特性を得ることが困難であった。
【0009】
本発明者は、上記の粒子の割れ・欠けの発生状況を調査したところ、これらは、粒子表面上の溝により分割された島状に独立した部分、すなわちグレインが欠落することにより発生することを確認した。特許文献1をはじめとする従来技術に関するキャリア粒子の表面上に存在する溝は、焼成中の粒子成長に伴い発生したものであるが、この溝状の粒界部分は不純物の偏析などが生じているため結合力が弱く、攪拌によりストレスが加わることでグレインの剥離が生じると考えられた。
【0010】
割れ・欠けの発生を抑制するためには、ひとつひとつのグレインを大きくし、粒界部分を少なくする必要があるが、そうすると今度は、粒子表面上の溝が少なくなることで、粒子の表面凹凸が減少し、帯電付与能力が低下してしまうという相反する問題がある。
【0011】
上述の現状より本発明の目的は、流動性が良好であるだけでなく、帯電付与に必要な適切な表面凹凸を有し、かつ長時間にわたる攪拌ストレスの影響下でも粒子の割れ・欠けが発生しない二成分系の電子写真用現像剤用キャリアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、キャリアの攪拌ストレス下での割れ・欠けを抑制するための検討を重ねた。その結果、キャリアの表面が、溝などにより粒子表面が島状のグレインに分割されておらず、縞模様状の隆起部分による凹凸により表面が覆われている場合に、きわめて高い耐久性を持つことを知見した。さらに、本発明者は、当該キャリアの芯材であって、当該芯材を樹脂で被覆することでキャリアを構成する電子写真用現像剤用キャリア芯材(以下、キャリア芯材と記載する場合がある。)の表面が、島状のグレインに分割されておらず、縞模様状の隆起部分による凹凸により表面が覆われていることが肝要であることに想到した。当該キャリア芯材の表面が、縞模様状の隆起部分による凹凸により覆われていると、当該キャリア芯材に樹脂を被覆したキャリアにおいても、きわめて高い耐久性を持つことを知見し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、課題を解決するための第1の手段は、
粒子表面に、互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0014】
第2の手段は、
前記縞模様状の隆起部分が形成された表面が、粒子全表面の80%以上を占めることを特徴とする第1の手段に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0015】
第3の手段は、
前記隣接する隆起部分間の溝の深さが、0.05μm、以上0.2μm以下であることを特徴とする第1または第2の手段に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0016】
第4の手段は、
平均表面粗さRaが、0.1μm以上、0.3μm以下であることを特徴とする第1から第3の手段のいずれか一つの手段に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0017】
第5の手段は、
円形度が0.90以上であることを特徴とする第1から第4の手段のいずれか一つの手段に記載載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0018】
第6の手段は
平均粒径が15μm以上、100μm以下であることを特徴とする第1から第5の手段のいずれか一つの手段に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0019】
第7の手段は
組成がマグネタイト、またはマンガンフェライトであることを特徴とする第1から第6の手段のいずれか一つの手段に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0020】
第8の手段は
所定の原料粉末を秤量混合し、当該混合物に水を加えてスラリーとし、当該スラリーを噴霧乾燥により造粒し、前駆体粒子とする工程と、
当該前駆体粒子を、1000〜1300℃の温度範囲で焼成して、マグネタイトまたはマンガンフェライトを含む焼成物とする工程と、
当該焼成物を、可燃性ガスと酸素との2000℃以上の火炎中に、当該燃焼炎の上方から自然落下させるか、または、キャリアガスを用いて燃焼炎中に分散させて熱処理し、被処理物の粒子表面上に、互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を粒子表面上に形成する工程と、
当該熱処理後の粒子を、篩により分級することにより、所望の粒度分布を持ったキャリア芯材を得る工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0021】
第9の手段は
第1から第7の手段のいずれか一つの手段に記載のキャリア芯材を樹脂で被覆してなることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアである。
【0022】
第10の手段は
第9の手段に記載の電子写真現像剤用キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る電子写真現像用磁性キャリア芯材を樹脂被覆して得られた電子写真現像剤用キャリアは、長時間にわたる攪拌ストレスの影響下でも粒子の割れ・欠けが発生しない上、流動性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に関するキャリア芯材は、粒子表面に互いに重なり合いながら複数方向にほぼ連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有したことを特徴としている。本発明でいう縞模様状の隆起部分を粒子表面に有するとは、図1のSEM写真に示す例のごとく、毛糸を玉に巻いた際の表面のように、多数の線状の隆起がほぼ連続して周回状に形成されており、面内方向に無数の微小な凹凸が波のように連なっている形状のことを示している。つまり、図2のSEM写真に示す従来例のように、多数のグレインが独立した島状に存在するキャリアとは明らかな相違を示す。
【0025】
このような周回状に形成された多数の線状の隆起部分の存在により、本発明に係るキャリア粒子に樹脂を被覆したキャリアにおいても表面に適度な凹凸が生じ、トナーに十分な電荷を付与することが可能となると同時に、良好な耐久性を示す。また、この縞模様状の隆起部分は、多数の方向、例えば3方向、好ましくは5方向以上に延びている。このような構成をとることにより、キャリア粒子の表面は、当該隆起部分が連なった構造となり、隆起部分が粒子表面のほとんどの領域を覆うことになる。本発明者らの検討の結果、当該隆起部分が、粒子表面の80%以上を占めているとき、耐久性と流動性とに、特に優れたキャリアが得られることが解った。
【0026】
因みに、図2の従来例にかかるキャリア芯材は、粒子表面が多角形状または円形状の独立した形のグレインにより覆われているが、このような表面構造では、上述のようにグレインの脱落が発生しやすく、耐久性に劣る。これに対し、本発明のように縞模様状の隆起部分により表面を覆われたキャリア芯材は、グレインの結合が強固であり、長時間の攪拌ストレス下においても優れた耐久性を有する。
【0027】
また、キャリア芯材の表面上に存在する隆起部分間の溝の深さは、0.05μm以上、
0.2μm以下であること好ましい。溝の深さが0.05μm以上あれば、十分な摩擦帯電が生じ、攪拌時にトナーに十分な電荷を与えることができる。また、溝の深さが0.2μm以下であれば、粒子同士の引っ掛かりが生ぜず、流動性が向上するためである。
【0028】
また、本発明に関するキャリア芯材は、粒子の平均表面粗さRaが0.1μm以上、0.3μm以下であることが好ましい。この理由は、Raが0.1μm以上あれば、表面凹凸により帯電付与特性が確保されるからである。Raが0.3μm以下であれば、流動性が確保されるためである。
【0029】
また、本発明に係るキャリア芯材の円形度は、0.90以上であることが好ましい。その理由は、円形度が0.90以上あることで、非常に流動性が優れたキャリアとなるからである。
【0030】
また、本発明に係るキャリア芯材の粒径は、15μm以上、100μm以下であることが好ましい。
キャリア芯材の粒径が15μm以上あれば、一粒子あたりの磁化を確保出来、キャリア飛散を抑制することが出来る。また、キャリア芯材の粒径が100μm以下であれば画像特性の低下を回避出来るからである。
【0031】
また、本発明に係るキャリア芯材となる物質は、マグネタイトまたはマンガンフェライトであることが好ましい。これらの物質は、十分高い磁化率を持ち、前述のようにキャリア飛散を抑制することができるからである。
【0032】
そして、本発明に係るキャリア芯材は、帯電性の付与および耐久性の向上のためシリコーン系樹脂等で被覆し、キャリアとなる。被覆方法に関しては、公知の手法により行えば良い。本発明者らの検討によれば、キャリアの芯材として、本発明に係るキャリア芯材を用いることで、長時間にわたる攪拌ストレスの影響下でも粒子の割れ・欠けが発生しない上、流動性が良好なキャリアを得ることが出来た。
【0033】
以降より、本発明に係るキャリア芯材の製造方法について説明する。
本発明に係るキャリア芯材は、被処理物となる磁性粒子を、非常に高い温度において、極めて短時間の表面処理を行うことにより製造される。このような処理を行うことにより、円形度が高く、適度な表面凹凸を持ち、さらに耐久性に優れた表面構造をもつキャリア芯材が製造される。
【0034】
以下に、本発明に関するキャリア芯材を製造する方法として、前駆体となる粒子の造粒工程、磁性相を得る焼成工程、表面に互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を形成する表面処理工程に分けて説明する。
【0035】
〔スラリー化、造粒〕
キャリア芯材の前駆体となる粒子を得るには、公知の造粒方法を用いればよいが、特に噴霧乾燥法が好適に用いられる。噴霧乾燥により造粒を行う場合には、水中に原料粉末を混合、分散させスラリーとした後、乾燥風中に噴霧することにより、所望の粒度分布を持った前駆体粒子を得ることができる。
【0036】
スラリーの固形分濃度は、50%〜90%の間で調整することが好ましい。造粒物の粒子形状を維持するために、水にバインダーを添加することが有効である。バインダーとしては、例えばポリビニルアルコールが好適に使用でき、その媒体液中濃度は0.5〜2質量%程度とすればよい。また、一般的にはスラリーに分散剤が添加されるが、分散剤としては例えばポリカルボン酸アンモニウム系のものが好適に使用でき、その媒体液中濃度も
0.5〜2質量%程度とすればよい。その他、潤滑剤や、焼結促進剤としてリンやホウ酸等を添加することができる。
【0037】
原料粉末としては、例えばマグネタイトの製造の場合には金属Fe、Fe、Feなどが好適に利用され、マンガンフェライトの場合には、金属Fe、Fe、Feと金属Mn、MnO、Mn、MnやMnCOを所定の割合になるよう計量し、混合するのが良い。
【0038】
〔焼成〕
次に、造粒により得られた前駆体粒子を焼成することで磁性相とする。焼成は、造粒粉を加熱した炉に投入し、所定の時間加熱することで行われる。焼成温度は目的となる磁性相が生成する温度範囲に設定すれば良いが、たとえばマグネタイトFeやマンガンフェライトMnFeを製造する場合には、1000〜1300℃の温度範囲で焼成すれば良い。
【0039】
〔表面処理〕
本発明に関するキャリア粒子の形状を得るためには、上述の焼成物を2000℃以上、好ましくは3000℃以上の高温で、短時間の熱処理による表面処理を行うことが肝要である。このような表面処理は、例えば、可燃性ガスと酸素の火炎中に、処理物を投入することで行うことが出来る。当該可燃性ガスとしては、プロパンガスやプロピレンガスやアセチレンガスが好適であり、酸素または空気と混合して使用される。混合する酸素、空気の供給量は、当該可燃性ガスが完全燃焼を起こすのに必要な量の0.2倍〜1.5倍、より好ましくは0.5倍〜1.2倍の範囲の酸素が供給されるよう調整すれば良い。燃焼炎の発生には、一般的なガスバーナー等を使用すれば良い。
但し、互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を粒子表面上に形成するためには、当該混合ガスの供給量を多くしてガス流速を早くすることが求められる。混合ガスの圧力は0.1MPa〜1.5MPa、より好ましくは0.3MPa〜1.0MPaの範囲であり、供給量は1.0m/h〜30m/h、より好ましくは3.0m/h〜10m/hの範囲である。被処理物の供給方法としては、燃焼炎の上方から自然落下させる方式、キャリアガスを用いて燃焼炎中に分散させる方式などがある。このとき、被処理物の供給量は、生産性を低下させない範囲で可能な限り少ないほうが好ましい。当該供給量が少ない方が、粒子一つ一つが受ける熱量が均一になるため、表面処理の程度にバラツキが生じ難くなる為である。従って、上述の燃焼炎発生条件において、被処理物の供給量は10kg/h以下とすることが好ましい。
【0040】
〔分級〕
得られた粒子を篩により分級することにより、所望の粒度分布を持ったキャリア芯材を得ることができる。
【0041】
〔コート〕
製造されたキャリア芯材は、樹脂によりコートすることにより帯電性が付与され、耐久性の向上したキャリアとなる。コート用の樹脂としては。シリコーン樹脂などが好ましく用いられる。被覆方法に関しては、公知の手法により行えば良い。
さらに、本発明に係るキャリアと、適宜なトナーとを混合することで、耐久性に優れ、長期間にわたって、安定した画像特性を得ることの出来る電子写真現像剤を得ることが出来る。
【実施例】
【0042】
(実施例1)
Fe(平均粒径:0.6μm)7.2kgおよびMn(平均粒径:0.9
μm)2.8kgを純水3.0kg中に分散し、湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理を行い、FeとMnとの混合スラリーを得た。尚、分散剤として、純水にポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を60g添加してある。このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜100μmの乾燥造粒物を得た。
この造粒物を、電気炉に投入し1150℃で3h焼成した。得られた焼成物粉砕後に篩を用いて分級し、平均粒径36μmとなるフェライト粉末を得た。
【0043】
このフェライト粉末をプロパンガスと酸素ガスの燃焼炎中に投入し、表面に互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有するキャリア芯材を得た。尚、当該燃焼炎発生用のバーナーは直径1mmのガス噴出口が直径20mmの範囲に等間隔に配列されたものである。そして当該バーナーへ、酸素とプロパン(混合比5:1)の混合ガスを、0.5MPaの圧力で供給量6.0m/hとなるようにフローした状態で燃焼炎を発生させた。
そして、この燃焼炎に対して、燃焼の上方から、フェライト粉末を供給量6Kg/hで自然落下させて燃焼炎中に投入することにより処理を行って、実施例1に係るフェライト芯材を得た。
当該燃焼炎は、供給されるキャリア粒子を溶融させるのに十分なエネルギーを持っている。さらに、非常に速い流速を有する当該燃焼炎中にフェライト粒子を投入することにより、フェライト粒子の溶融時間を短くすることで、互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分をフェライト表面に析出させることが可能となったものと考えられる。
【0044】
得られた実施例1に係るフェライト芯材に対して、粒度分布測定、流動度(F.R.)測定、溝深さ測定、平均表面粗さ(Ra)測定、円形度算出、耐久性評価を行った。
これらの測定結果を、表1に記載する。但し、粒度分布測定は、耐久性評価における攪拌前の粒度分布の値と同様である。
尚、これらの測定法の詳細は後述する。
【0045】
(実施例2)
篩によりフェライト粉末の平均粒径を29μmに調整した以外は、実施例1と同様の操作を行い、表面に互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有するマンガンフェライト組成の実施例2に係るキャリア芯材を得た。
得られた実施例2に係るフェライト芯材に対しても、実施例1と同様の測定を行い、測定結果を、表1に記載する。
【0046】
(実施例3)
Fe(平均粒径:0.6μm)10.0kgを純粋3.0kg中に分散し、湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理を行い、Feのスラリーを得た。尚、分散剤として、純水にポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を60g添加してある。このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜100μmの乾燥造粒物を得た。
この造粒物を、電気炉に投入し1180℃で3h焼成した。得られた焼成物粉砕後に篩を用いて分級し、平均粒径53μmとなるマグネタイト粉末を得た。
これ以降は、実施例1と同様の操作を行い、表面に互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有するマグネタイト組成の実施例3に係るキャリア芯材を得た。
得られた実施例3に係るフェライト芯材に対しても、実施例1と同様の測定を行い、測定結果を、表1に記載する。
【0047】
(実施例4)
篩によりマグネタイト粉末の平均粒径を33μmに調整する以外は実施例3と同様の操作を行い、表面に互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を存在するマグネタイト組成の実施例4に係るキャリア芯材を得た。
得られた実施例4に係るフェライト芯材に対しても、実施例1と同様の測定を行い、測定結果を、表1に記載する。
【0048】
(比較例1)
焼成後の表面処理を行わない以外は、実施例1と同様の操作を行い、平均粒径33μmとなる比較例1に係るマンガンフェライト組成のキャリア芯材を得た。
得られた比較例1に係るフェライト芯材に対しても、実施例1と同様の測定を行い、測定結果を、表1に記載する。
【0049】
(比較例2)
焼成後の表面処理を行わない以外は、実施例3と同様の操作を行い、平均粒径55μmとなる比較例2に係るマグネタイト組成のキャリア芯材を得た。
得られた比較例2に係るフェライト芯材に対しても、実施例1と同様の測定を行い、測定結果を、表1に記載する。
【表1】

【0050】
(実施例1〜4、比較例1、2の評価)
図1に実施例1のキャリア芯材のSEM像(3000倍)、図2に比較例1のキャリア芯材のSEM像(3000倍)を示す。図2より、比較例1のキャリア芯材は従来技術におけるキャリア芯材に見られるように多数の溝が存在し、粒子表面の各グレインが溝により分割されている。これに対し、図1の実施例1のキャリア芯材は、互いに重なり合いながら複数方向にほぼ連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有し、凹凸が多いにもかかわらず、グレインの分割はほとんど見られない。
当該SEM像の画像解析から、実施例1のキャリア芯材における表面に互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分の面積を算出したところ、その面積は粒子全体の面積の80%以上を占めていることが確認された。
【0051】
実施例1と比較例1、および、実施例3と比較例2の比較により、本発明にかかるキャリア芯材は、同程度の粒度分布であっても、従来技術に係るキャリア芯材と比較して優れた流動性を示していることがわかる。このことは、キャリア芯材としてより好ましい結果である。
【0052】
実施例1から4に係るキャリア芯材は、サンプルミルによる攪拌後においても微粒子の発生はほとんど起こっていない。このことから、本発明に関するキャリア芯材は、攪拌ストレスによる割れ・欠けがほとんど生じていないことがわかる。このことから、当該キャリア芯材は、耐久性が極めて優れていると判断できる。
これに対し、比較例1および比較例2のキャリア芯材は、攪拌により発生する微粒子(22μm以下)が実施例のものより2倍以上多い。特に比較例2は微粒子の発生により、体積率50%までの積算粒径であるD50の値も大きく減少している。
上記のように本発明に係るキャリア芯材が極めて高い耐久性を示す理由は、粒子表面が溝により分割されておらず、縞模様状の隆起部分により表面が覆われることで、粒子表面の結合が強固になっているためであると考えられる。
【0053】
以上の実施例及び比較例の検討により、本発明に係るキャリア芯材を用いることにより、トナーへの電荷付与に有効な表面凹凸を有しながら良好な流動性を持ち、かつ長時間にわたる攪拌ストレスの影響下でも粒子の割れ・欠けが発生しない高い耐久性を持ったキャリアを提供することが確かめられた。
【0054】
(実施例1〜4、比較例1、2の評価に用いた評価方法)
以下、実施例1〜4、比較例1、2の評価に用いた評価方法について説明する。
<粒度分布測定>
キャリア芯材の粒度分布は、マイクロトラック(日機装(株)製、Model:9320−X100)を用いて測定した。尚、本発明において、体積率50%までの積算粒径であるD50の値を、キャリア芯材の平均粒径とした。
【0055】
<流動度(F.R.)測定>
キャリア芯材の流動度(F.R.)は、JISZ−2502により測定した。
【0056】
<溝深さ測定>、<平均表面粗さ(Ra)測定>
本発明では、レーザー顕微鏡(オリンパス社製、OLS30−LSU)を用い、粒子表面をスキャンすることで溝深さ、および、平均表面粗さ(Ra)の値を算出した。
粒子表面に存在する溝深さは、キャリア芯材の粒子において10μm四方の範囲を設定し、当該範囲において高さ測定および深さ測定を行って平均線を求め、当該平均線より最も深い位置の深さを溝深さとした。
平均表面粗さ(Ra)は、キャリア芯材の粒子において10μm四方の範囲を設定し、当該範囲において高さ測定を行って平均線を求め、この範囲での平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合成し、平均化することで算出した。
【0057】
<円形度算出>
キャリア芯材の円形度の算出は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された画像をコンピュータ上で画像解析ソフト(Soft Imaging System GmbH社、「analysis」)を使用して行った。測定は倍率500倍のSEM写真を使用し、50個の粒子の円形度から、平均円形度を算出した。
尚、円形度は、画像解析により算出される粒子の面積および周長より、(円形度)=(4π×面積)/(周長×周長)により算出される。
【0058】
<耐久性評価>
キャリア芯材の耐久性の評価は、サンプルミル(協立理工(株)製、SK−M10)にキャリア芯材試料100gを投入し、回転数16000rpmで40秒間攪拌した後、当該攪拌前後の粒度分布の変化を測定することで行った。
尚、表1中の微粒子発生量は、耐久性評価前後での22μm以下の粒子の体積率の増加量であり、微粒子発生量=(攪拌後の粒径22μm以下の体積率)−(攪拌前の粒径22
μm以下の体積率)で算出される。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例に係るキャリア芯材のSEM写真である。
【図2】本発明の比較例に係るキャリア芯材のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子表面に、互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項2】
前記縞模様状の隆起部分が形成された表面が、粒子全表面の80%以上を占めることを特徴とする請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項3】
前記隣接する隆起部分間の溝の深さが、0.05μm以上、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項4】
平均表面粗さRaが、0.1μm以上、0.3μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項5】
円形度が0.90以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項6】
平均粒径が15μm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項7】
組成がマグネタイト、または、マンガンフェライトであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項8】
所定の原料粉末を秤量混合し、当該混合物に水を加えてスラリーとし、当該スラリーを噴霧乾燥により造粒し、前駆体粒子とする工程と、
当該前駆体粒子を、1000〜1300℃の温度範囲で焼成して、マグネタイトまたはマンガンフェライトを含む焼成物とする工程と、
当該焼成物を、可燃性ガスと酸素との2000℃以上の火炎中に、当該燃焼炎の上方から自然落下させるか、または、キャリアガスを用いて燃焼炎中に分散させて熱処理し、被処理物の粒子表面上に、互いに重なり合いながら複数方向に連続的に延びる縞模様状の隆起部分を粒子表面上に形成する工程と、
当該熱処理後の粒子を、篩により分級することにより、所望の粒度分布を持ったキャリア芯材を得る工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のキャリア芯材を樹脂で被覆してなることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項10】
請求項9に記載の電子写真現像剤用キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−250214(P2008−250214A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94537(P2007−94537)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】