電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに電子写真現像剤
【課題】帯電量が高いか、または、帯電量を所望の値に設定でき、且つ長期間使用しても高帯電量または、所定帯電量を維持出来る長寿命の電子写真現像剤用キャリア、キャリア芯材およびその製造方法、並びに電子写真現像剤を提供する。
【解決手段】(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)、または(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトであって、EDSによるキャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、キャリア芯材のMg含有量をM1、EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、並びに電子写真現像剤用キャリアを用いた電子写真現像剤。
【解決手段】(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)、または(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトであって、EDSによるキャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、キャリア芯材のMg含有量をM1、EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、並びに電子写真現像剤用キャリアを用いた電子写真現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンター等で使用される電子写真現像方法としては、カスケード法、磁気ブラシ現像法、その他の方法が用いられている。近年は、感光体ドラム上に形成された静電潜像に、磁気ブラシを介してトナー像を顕像化させた後、熱定着させて画像を得る磁気ブラシ現像法が一般的な手段である。さらに最近では、トナーを電子写真現像剤用キャリア(本発明において、「キャリア」と記載する場合がある。)の粒子上に静電的に配向させ、当該キャリアに磁気ブラシを形成させる二成分系現像剤が多用されている。
【0003】
二成分系現像剤ではキャリアを構成するキャリア粒子として、当該キャリア粒子を構成する芯材(本発明において、「キャリア芯材」と記載する場合がある。)の表面に、トナーと逆帯電性の樹脂を適度に被覆させたものが用いられる。このキャリア粒子とトナー粒子とを現像機内で混合、撹拌することによってトナー粒子は帯電し、キャリア粒子に付着する。次に、帯電したトナー粒子は、キャリア粒子によって形成される磁気ブラシから、感光体や静電記録体上の形成された静電潜像に移動して付着する。この静電潜像を現像することによって画像を得ることができる。
【0004】
上記のようなキャリア粒子とトナー粒子とを用いた二成分現像剤による現像方法において、トナー粒子は現像の度に磁気ブラシから感光体へと移動していく。そのため足りなくなったトナー粒子は速やかに補給され、再び、キャリア粒子と混合、撹拌が行われ、繰り返し現像が行われる。そのため、キャリア粒子とトナーの帯電量が、画像の形成に大きくかかわってくる。
ところが、トナー粒子は、現像する度に供給、消費が行われ常に新しいトナー粒子に置き換わるのに対して、キャリア粒子は、現像機内に留まって繰り返し使用される。
【0005】
また、キャリア粒子の帯電量が高ければ、現像機自体に多くのメリットがある。例えば、高帯電量のキャリアを使用することで、必要なキャリア粒子の量を減らすことができる。これによって現像機の軽量化や、磁気ドラムにかかる負荷を軽減することができる。
【0006】
キャリア粒子の帯電量を上げるには、多くの場合キャリア芯材を被覆する樹脂の種類や厚みを変更したり、適宜な添加物等を加えたりするのが一般的である。
【0007】
一方、キャリア粒子の特性には、キャリア芯材自体の特性も影響を与える。
例えば特許文献1は、キャリア芯材の異形粒子を少なくし、粒子のグレインサイズを揃えるなど粒子の均一性を上げることによって、キャリア粒子間のストレスを減らしキャリア粒子の帯電量を維持することを提案している。
また特許文献2、3は、キャリア芯材にリン(P)を添加して電気抵抗値を制御したり、飽和磁化の値を制御することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−96977号公報
【特許文献2】特開平7−20658号公報
【特許文献3】特開2001−93720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら本発明者らの検討によると、電子写真現像機の長期間使用により、キャリア粒子の樹脂皮膜が一部欠けたり、剥がれたりする場合があることが判明した。当該欠けや剥がれが発生した場合には、当該キャリア粒子において、一部キャリア芯材がむき出しとなり帯電量が低下して、トナーの付着が減少することにより画質の低下につながる。
さらに、本発明者らの検討によると、特許文献1〜3に記載の技術を用いたとしても、長時間使用によるキャリア粒子の磨耗により、表面を被覆している樹脂が剥がれてきたときには、当該キャリア粒子の帯電量を維持することが困難であることも判明した。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、長期間使用しても高帯電量または、所定帯電量を維持出来る長寿命の電子写真現像剤用キャリア、当該電子写真現像剤用キャリアを構成する電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、並びに当該電子写真現像剤用キャリアを用いた電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、キャリアを長期間使用することで、キャリア芯材をコートしている樹脂が一部剥がれることは不可避的な現象であることと考えられるため、当該コート樹脂が一部剥離したキャリア粒子であっても、所定の帯電量を維持出来るキャリアを製造出来れば、長期間使用しても高帯電量を維持出来る長寿命の電子写真現像剤用キャリアを得ることが出来るという、画期的な発想の転換を行った。
【0012】
上述の発想に基づき、本発明者等は、キャリア芯材自身の帯電量を高めることで、コート樹脂が一部剥離した場合であっても、所定の帯電量を維持出来るキャリアに想到した。
一方、本発明者等は、Mgフェライトを含むキャリア芯材にリン(本発明において「P」と記載する場合がある。)を含有させることで、当該キャリア芯材表面に、MgとPとを析出させることが出来るとの知見を得た。さらに、キャリア芯材表面へのMgとPとの析出により、当該キャリア芯材自身の帯電量を高めたり、当該キャリア芯材自身に所望の帯電量を付与出来るとの知見も得て、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、上記課題を解決する第1の発明は、
(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0014】
第2の発明は、
(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0015】
第3の発明は、
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0016】
第4の発明は、
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mn源を、Mn元素換算で2.5〜25質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMn源と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0017】
第5の発明は、
前記P源として赤燐、Mn源としてMnCO3および/またはMn3O4、Mg源としてMgO、Mg(OH)2、MgCO3から選択される1種以上の化合物を用いることを特徴とする第3または第4の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0018】
第6の発明は、
第1または第2の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材が、熱硬化性樹脂によって被覆されたものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアである。
【0019】
第7の発明は、
第6の発明に記載の電子写真現像剤用キャリアと、適宜なトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、キャリアの長時間使用に伴いキャリア粒子表面の樹脂膜が磨耗や剥離しても、トナー粒子の感光体への搬送量が低下せず、画像品質の低下を防ぐことができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図2】実施例2に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図3】実施例3に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図4】実施例4に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図5】実施例5に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図6】実施例6に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図7】比較例1に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図8】比較例2に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図9】比較例3に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図10】比較例4に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図11】Pの添加量と、キャリア芯材内部と表面とのMg存在比との関係を示すグラフである。
【図12】キャリア芯材表面のPの存在量と、キャリア芯材内部と表面とのMg存在比との関係を示すグラフである。
【図13】キャリア芯材内部と表面とのMg存在比と、帯電量との関係を示すグラフである。
【図14】キャリア芯材内部と表面とのMg存在比と、帯電量の経時変化量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材は、一般式(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とするもの、または、一般式(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とするものである。
本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材は、原料粉段階においてPを添加されている。当該添加されたPは、焼成段階においてMgを伴ってキャリア芯材表面に移行すると考えられる。
当該PとMgとの移行により、本発明に係るキャリア芯材は、表面にMgとPとが析出している。具体的には、当該キャリア芯材のMgの含有量をM1、当該キャリア芯材表面のEDSによるMgの分析値をM2と表記したとき、M2/M1の値が1.0を超え、好ましくは1.05以上あり、キャリア芯材表面にMgが析出しているものである。一方、当該キャリア芯材の表面には、0.1質量%以上のPも析出しているものである。
つまり、本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材は、内部のフェライト相と比較して、表面に多くのMgとPとが析出している。そして、当該MgとPとの表面析出によって、キャリア芯材自体の帯電量が上がり、且つ、当該帯電量を経時的に維持することが出来ていると考えられる。
【0023】
(本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材の製造方法)
[原料]
キャリア芯材を構成するソフトフェライトのFe供給源としては、Fe2O3等が好適に使用できる。Mg供給源としては、MgO、Mg(OH)2、MgCO3等から選択される1種以上の化合物を好適に使用できる。
一方、ソフトフェライトのMn源として、MnCO3および/またはMn3O4等を好
適に使用できる。
【0024】
まず、Fe供給源について説明する。
キャリア芯材の主原料となるFe2O3の平均粒径は1μm以上5μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.5μm以上3μm以下である。当該平均粒径は、マイクロトラック粒度分析計(日機装(株)製 MICROTRAC HRA 9320−X100)で測定した。
主原料となるFe2O3の平均粒径が1μm以上、好ましくは1.5μm以上であると、当該Fe2O3を造粒した際の造粒物が、密になり過ぎることがなく適度な粒界が形成される。すると、MgとPとが当該造粒物の粒界を通過して、容易にキャリア芯材表面へ析出可能になると考えられる。
一方、Fe2O3の平均粒径が5μm以下、好ましくは3μm以下であると、後述する造粒工程において、キャリア粒子を容易に球形にすることが出来る。
【0025】
次に、Mn供給源とMg供給源とについて説明するが、キャリア芯材を構成するソフトフェライトにMnを含む場合と含まない場合とに分けて説明する。
まず、キャリア芯材が(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とする場合について説明する。
キャリア芯材の主原料であるFe2O3と、当該Fe2O3と伴にフェライトを合成するその他の金属酸化物との総量に対して、原料となるMg源はMg元素換算で1.0質量%以上12質量%以下とし、原料となるMn源はMn元素換算で2.5質量%以上25質量%以下とすることが望ましい。好ましくは、Mg元素は1.2質量%以上10質量%以下とし、Mn元素は10質量%以上23質量%以下とする、さらに好ましくは、Mg元素は1.5質量%以上5質量%以下とし、Mn元素は15質量%以上21質量%以下とする。
キャリア芯材を構成するMg元素の量が1.0質量%以上、好ましくは1.2質量%以上あると、粒界からキャリア芯材表面に析出するMgの量が担保出来、所望の帯電量が得られる。
一方、キャリア芯材を構成するMg元素の量が12質量%以下、好ましくは10質量%以下であると、キャリア芯材として所望の磁力が得られる。
また、キャリア芯材を構成するMn元素の量が2.5質量%以上、好ましくは10質量%以上あると、キャリア芯材として所望の磁力が得られる。
一方、キャリア芯材を構成するMn元素の量が25質量%以下、好ましくは23質量%以下であると、粒界からにキャリア芯材表面に析出するMgの量が担保出来、所望の帯電量が得られる。
【0026】
次に、キャリア芯材が、(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とする場合について説明する。
キャリア芯材の主原料であるFe2O3と、当該Fe2O3と伴にフェライトを合成するその他の金属酸化物との総量に対して、原料となるMg源は、Mg元素換算で1.0質量%以上12質量%以下とすることが望ましい。好ましくは、Mg元素は1.2質量%以上10質量%以下とし、さらに好ましくは1.5質量%以上5質量%以下とする。
キャリア芯材を構成するMg元素の量が1.0質量%以上、好ましくは1.5質量%以上あると、粒界からキャリア芯材表面に析出するMgの量が担保出来、所望の帯電量が得られる。
一方、キャリア芯材を構成するMg元素の量が12質量%以下、好ましくは10質量%以下であるとフェライトが構成出来、キャリア芯材として所望の磁力が得られる。
【0027】
最後に、キャリア芯材へ添加するPについて説明する。
キャリア芯材に添加するP元素は、キャリア芯材の主原料のFe2O3と、当該Fe2
O3と伴にフェライトを合成するその他の金属酸化物との総量に対して、0.1質量%以上10質量%以下の範囲で添加することが出来る。当該P元素添加量が0.1質量%以上あると、Mgを伴ったキャリア芯材表面への移行効果が得られる。一方、当該P元素添加量が10質量%以下であれば、キャリア芯材製造工程の焼成過程においてキャリア芯材同士が焼結して、解粒時に当該キャリア芯材粒子が割れてしまい、球形を維持出来なくなるのを回避出来るからである。尚、Mgを伴ったキャリア芯材表面への移行効果の観点から、望ましいP元素の添加量は0.2質量%以上6質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上6質量%以下である。
添加するPは、赤燐の状態や、P2O5のようなリン酸化物の状態や、Ca5(PO4)3のようなリン酸塩のような状態でも良く、特に限定されるものではない。例えば、燐化学社製の赤燐が好ましく使用出来る。
【0028】
[スラリー化]
狙いとするソフトフェライトの目的組成と一致させて、P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mn源を、Mn元素換算で2.5〜25質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上、5μm以下あるFe2O3を秤量し、混合して金属原料混合物を得る。
【0029】
得られた金属原料混合物を、媒体液中で混合撹拌することによってスラリー化する(スラリー化工程)。当該スラリー化前に、必要に応じて、原料混合物へ乾式で粉砕処理を加えてもよい。原料粉と媒体液の混合比は、スラリーの固形分濃度が50〜90質量%になるようにすることが望ましい。
媒体液には、水にバインダー、分散剤等を添加したものを用いる。バインダーとしては、例えばポリビニルアルコールが好適に使用でき、その媒体液中濃度は0.5〜2質量%程度とすればよい。分散剤としては、例えばポリカルボン酸アンモニウム系のものが好適に使用でき、その媒体液中濃度も0.5〜2質量%程度とすればよい。その他、潤滑剤や、焼結促進剤として、ホウ酸等を添加することができる。
混合攪拌して得られたスラリーに対しては、さらに湿式粉砕を施すことが好ましい。
【0030】
Pの添加量は、上述したように、金属原料混合物に対しP元素換算で0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上6質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは1質量%以上6質量%以下で、キャリア芯材における狙いの帯電量に合わせて設定する。
但し、当該Pの添加量は、金属原料混合物の量に対し非常に微量である。そこで、Pを予め媒体液中に分散させることで、容易に均一な分散状態を得られる。尤も、金属原料混合物とPとの媒体液中への分散の順序は、上記の逆、また同時でも可能である。但し、その場合は、上記のスラリーの攪拌を十分に行ったり、湿式粉砕の回数を増やす等の処理を行うことで、Pの分散性を上げれば良い。
【0031】
[造粒]
造粒は、上記スラリーを噴霧乾燥機に導入することによって好適に実施できる。噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる(造粒工程)。得られた造粒粉は製品最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、予め、粗大粒子や微粉を除去することにより粒度調整することが望ましい。
【0032】
[焼成]
次に、造粒粉を700〜1500℃程度に加熱した炉に投入して、ソフトフェライトを合成するための一般的な手法で焼成することにより、フェライトを生成させる(焼成工程)。焼成温度が700℃以上であれば、焼結がある程度進み、形状を維持できる。150
0℃超であると、粒子同士の過剰焼結が起こらず、異形粒子が生じることがない。当該観点からは、700〜1500℃程度で焼成することが好ましい。
また、焼成雰囲気は、焼成品の磁力、電気抵抗等のキャリア粉体特性に関わっている。特に磁力は、フェライトの種類によって、大きく影響を受けるため、焼成炉内の酸素濃度を5質量%以下とすることが望ましい。
【0033】
得られた焼成物は、この焼成完了段階で粒度調整することが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒し、次に気流分級機で1次分級し、さらに、振動ふるい又は超音波ふるいで粒度を揃える処理を行うことにより、粒度調整された焼成物を得ることができる。当該粒度調整後、さらに磁場選鉱機にかけ、非磁性粒子を除去することが望ましい。
【0034】
[高抵抗化処理]
上記焼成物を酸化性雰囲気中にて加熱することにより、高抵抗層を形成し、高抵抗化処理を加えるのも好ましい構成である(高抵抗化処理工程)。加熱雰囲気は、大気、又は、酸素と窒素との混合雰囲気とすればよい。加熱温度は200〜800℃、好ましくは250〜600℃とし、処理時間は30min〜5h程度とすればよい。
このようにして本発明に係るキャリア芯材を得ることができる。
【0035】
[キャリアの製造]
得られたキャリア芯材に、樹脂被覆を施す。被覆の方式としては乾式法、流動床、浸漬法等を用いることができる。キャリア内部に樹脂を充填させる観点からは、浸漬法や乾式法が好ましい。
ここでは浸漬法を例に挙げ説明する。被覆樹脂としては、シリコーン系樹脂やアクリル樹脂が好ましい。被覆樹脂を溶剤(トルエン等)に20〜40質量%程度溶解させ、樹脂溶液を調製する。被覆操作は、当該樹脂液とキャリア芯材とを、固形分で0.7〜10質量%の範囲となるように容器中で混合した後、150〜250℃にて加熱撹拌することにより実施できる。上記の樹脂溶液の濃度、および、樹脂溶液とキャリア芯材との混合比によって、樹脂の被覆量をコントロールすることができる。当該樹脂被覆後、さらに加熱処理を施して樹脂被覆層を硬化させることによって、本発明に係るキャリアが得られる。
【0036】
[電子写真現像剤の製造]
得られた本発明に係るキャリアを、適切な粒径を有するトナーと混合することによって、本発明に係る電子写真現像剤を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
原料として、平均粒子径D50が約1.8μmに粉砕されたFe2O3と、約1μmに粉砕されたMgO、Mn3O4、P(燐化学社製の赤燐)粉とを用意した。原料はそれぞれFe2O3:71.2質量%、Mn3O4:23.7質量%、MgO:5.1質量%となるように混合した。P粉は、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で0.25質量%となるように秤量した。
一方、分散媒である水に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を1.0質量%、湿潤剤としてサンノプコ(株)製「SNウェット980」を0.05質量%、バインダーとしてポリビニルアルコールを0.02質量%添加した液(媒体液)を準備した。
この媒体液にP粉を投入し、十分に分散した後、前記秤量されたFe2O3、MgO、
Mn3O4混合原料粉を投入して、攪拌することにより、これら投入した物質の濃度が76質量%のスラリーを得た。
このスラリーを湿式ボールミルにて湿式粉砕し、しばらく攪拌した後、スプレードライヤーにて約180℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜100μmの乾燥造粒物を得た。
【0039】
この造粒物から、網目63μmの篩網を用いて粗粒を分離し、網目33μmの篩網を用いて微粒を分離した後、窒素雰囲気下1150℃で5hr焼成し、フェライト化させた。このフェライト化した焼成物をハンマーミルで解粒し、風力分級機を用いて微粉を除去した。以上の工程より、実施例1に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図1に、実施例1に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0040】
(実施例2)
添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で0.5質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図2に、実施例2に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0041】
(実施例3)
添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で1.0質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図3に、実施例3に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0042】
(実施例4)
原料として平均粒子径D50が約3.0μmに粉砕されたFe2O3を使用し、添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で5.0質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例4に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図4に、実施例4に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0043】
(実施例5)
添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で6.0質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例5に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結
果を表1に示す。
さらに図5に、実施例5に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0044】
(実施例6)
原料をFe2O3、MgOとし、Fe2O3:96質量%、MgO:4質量%となるように混合して、Fe2O3、MgO混合原料粉を得た。添加するP粉を、Fe2O3、MgO混合原料粉量に対して、P元素換算で0.2質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例6係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図6に、実施例6に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0045】
(比較例1)
Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉へPを添加せずに造粒した以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図7に、比較例1に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0046】
(比較例2)
原料として平均粒子径D50が約0.8μmに粉砕されたFe2O3を使用し、添加するP粉を、Fe2O3、MgO、およびMn3O4の混合原料粉量に対して、P元素換算で0.5質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例2に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図8に、比較例2に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0047】
(比較例3)
原料にPを添加せずに造粒した以外は、実施例6と同様の操作を行い、比較例3に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図9に、比較例3に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0048】
(比較例4)
原料にMgOを添加せず、Fe2O3:71質量%と、Mn3O4:29質量%との混合原料粉を用いて造粒した以外は、実施例2と同様の操作を行い、比較例4に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結
果を表1に示す。
さらに図10に、比較例4に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0049】
(キャリア芯材の帯電量の評価試験)
キャリア芯材の帯電特性は、キャリア芯材とトナーとの混合物を振とうすることによって、トナーを帯電させ、当該帯電したトナーの電荷を測定することにより、キャリア芯材の帯電量と推算した。
まず、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリア芯材9.5gと、市販のトナー(モノクロ、粒径約10μm品)0.5gとをガラス瓶に装填し、当該ガラス瓶を振とう機にセットして30分間攪拌を行った。次に、攪拌後のサンプル0.5gを量り取り、500meshのSUS網上に載せ吸引することによって、攪拌後のサンプルからトナーだけを分離した。そして、トナーの帯電量を測定し、当該測定値をキャリア芯材の帯電量と推算した。帯電量の測定は、日本パイオテク(株)製、STC−1−C1型を用いて行った。
【0050】
(キャリア芯材のMgの含有量測定)
キャリア芯材のMg含有量は、株式会社島津製作所製、ICPS−7510を用いて測定を行った。分析方法としては、試料1gを計量し、塩酸50mlに分解させる。内部標準元素としてイットリウム(25ppm)を10ml加え、定溶し測定用試料とした。また、同試料のサンプル溶液を3〜4個用意し、これにMgを連続的に任意量添加し検量線試料とした。この濃度系列と発光強度の関係線とを検量線とし、キャリア芯材のMg含有量を測定した。
【0051】
(キャリア芯材表面におけるMgおよびPの定量分析測定)
キャリア芯材表面におけるMgおよびPのEDSによる定量分析値は、SEM−EDS測定装置(日本電子(株)社製、JSM−6510LA型)を用いた。
当該測定装置の4000倍写真視野に、キャリア芯材が1粒子のみ納まるようよう調整し、視野領域全体を測定領域として、当該キャリア芯材粒子の表面におけるMgとPとの元素量(質量百分率)を測定して求めた。尚、測定はキャリア芯材30粒子について実施し、その平均値を測定結果とした。
【0052】
(実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの製造)
実施例および比較例で得られたキャリア芯材へ、以下に記載の方法で樹脂を被覆した。
まず、シリコーン系樹脂(信越化学製、KR251)をトルエンに溶解して被覆樹脂溶液を調製した。当該被覆樹脂溶液とキャリア芯材とを撹拌機に装填した。このとき、被覆樹脂溶液中の固形分が、キャリア芯材の3質量%となる割合とした。
そして、樹脂溶液へキャリア芯材を3hr浸漬しながら150〜250℃の範囲で加熱撹拌した。これによりキャリア芯材100質量部に対し、樹脂が3.0質量部の割合で被覆された。
この樹脂被覆されたキャリア芯材を、熱風循環式加熱装置にて250℃で5hr加熱することにより、樹脂被覆層を硬化させて、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアを得た。
【0053】
(キャリアの帯電量における経時変化量の評価試験)
上述したキャリア芯材の帯電評価と同様に、キャリア9.5gと市販のトナー(モノクロ、粒径約10μm品)0.5gとをガラス瓶に装填した。当該ガラス瓶を振とう機にセットし、攪拌を行った。次に、攪拌したサンプル0.5gを量り取り、それを500meshのSUS網に載せ吸引することによって、攪拌後のサンプルからトナーだけを分離した。そして、トナーの帯電量を測定し、当該測定値をキャリア芯材の帯電量と推算した。
尚、攪拌時間は30分間と24時間とし、当該時間差における帯電量の経時変化量を測定した。そして、実施例1〜6および比較例1〜4に係るサンプルの帯電量は、比較例1に係る30分間攪拌後のサンプル帯電量値を1.0と規格化して表記した。
当該評価試験結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
(まとめ)
図1〜図10(a)(b)(c)より、実施例および比較例に係るキャリア芯材について、キャリア芯材表面におけるMgおよびPのEDSによる定量分析結果をみると、実施例1〜6に係るキャリア芯材の表面には、MgとPとが多く析出していることが判明した。これに対し、Pを添加していない比較例1に係るキャリア芯材や、粒径の小さいFe2O3を使用した比較例2に係るキャリア芯材においては、Mgの析出が少ないことが判明した。また、Mgを添加していない比較例4の帯電量測定結果から、PとMgとの協同効果によりキャリア芯材の帯電量を向上させているものと考えられる。
【0056】
当該結果から、本発明者等は、焼成工程においてPがキャリア芯材内部から外部へ蒸散しようとする際、Mgをキャリア芯材表面まで随伴する効果があるのではないかと考えている。また、フェライト原料として粒径1.5μm以上のFe2O3を使用した実施例に係るキャリア芯材では、当該大粒径Fe2O3粒子によって生じる大きな粒界を介して、MgおよびPがキャリア芯材表面まで移行するのではないかと考えている。
そして、この結果、本発明に係るキャリア芯材のMgの含有量をM1、当該キャリア芯材表面のEDSによるMgの定量分析値(本発明において「MgのEDS分析値」と記載する場合がある。)をM2と表記したとき、M2/M1の値が1.0以上であり、当該キャリア芯材表面のEDSによるPの定量分析値(本発明において「PのEDS分析値」と記載する場合がある。)が0.1質量%以上であるものを製造出来たものと考えている。
【0057】
Pが、Mgをキャリア芯材中からキャリア芯材表面に移行させる効果について確認・検討するため、表1に記載したデータから、縦軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値M2を、キャリア芯材のMgの含有量M1で割ったM2/M1値をとり、横軸に、各キャリア芯材へのP添加量をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図11とした。
併せて、縦軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値M2を、キャリア芯材のMgの含有量M1で割ったM2/M1値をとり、横軸に、各キャリア芯材表面のPのEDS
分析値をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図12とした。
【0058】
次に、キャリア芯材表面に移行したMgが、キャリア芯材の帯電量へ与える効果について検討するため、表1に記載したデータから、縦軸に、各キャリア芯材の帯電量をとり、横軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割った値をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図13とした。
【0059】
さらに別の観点からキャリア芯材表面に移行したMgが、キャリア芯材の帯電量の経時変化へ与える効果について検討するため、表1に記載したデータから、縦軸に、各キャリアの芯材帯電量差(30分間後−24時間後)をとり、横軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割った値をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図14とした。
【0060】
図11にプロットされた実施例1〜6に係るキャリアの値から、各キャリア芯材へのP添加量が0.2質量%〜6質量%の範囲において、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割ったM2/M1値と、各キャリア芯材表面のPのEDS分析値との間に比例関係が観られた。
また図12より、各キャリア芯材表面のPのEDS分析値が0.3質量%〜7.6質量%の範囲において、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割ったM2/M1値と、各キャリア芯材表面のPのEDS分析値との間にも比例関係が観られた。
当該結果より、Pが、Mgをキャリア芯材中からキャリア芯材表面に移行させる効果について確認できたと考えられる。
【0061】
本発明者等は、焼結工程において、Pが、Mgと酸化化合物を形成し、Mg3(PO4)2の状態でキャリア芯材表面へ移行させたものと考えている。
一方、実施例2と比較例2との比較結果より、Pが適量存在しても、Fe2O3の平均粒径が小さい場合は、Mgの移行効果が低いことも判明した。これは、Fe2O3の平均粒径が小さい場合は、形成される粒界も小さく、Mgの移行が困難になった為と考えられる。
【0062】
また、Mgが添加されていない比較例4の場合、Pが適量存在してもMgが存在していない為、PとMgとの協同効果が得られずに、帯電量が低いものと考えられる。
【0063】
図13にプロットされた実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値から、キャリアの帯電量は、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割ったM2/M1値が1.0を超えたところから鋭く立ち上がり、その帯電量は9.8〜20.6(μC/g)となった。また、M2/M1値が1.5以降は増加が緩やかになることが判明した。一方、Pを添加していない比較例1に係るキャリアはM2/M1値が0.83であり、帯電量は6.5(μC/g)に留まった。
当該結果から、M2/M1値がキャリアの帯電量に与える効果について確認できたと考えられる。当該効果は、M2/M1値が、1.0を超えたところから現れ、1.5以上でほぼ安定する。従って、M2/M1値の制御によって、キャリア芯材の帯電量を狙いの値に制御出来ることも判明した。
【0064】
図14にプロットされた実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値から、各キャリア芯材の帯電量差(30分間後−24時間後)は、M2/M1値の増加により低下することが判明した。この結果、例えば、帯電量の経時変化量の小さなキャリアを望むのであ
れば、M2/M1値が1.5以上あることが好ましい。
【0065】
一方、表1、図13、14の結果より、本発明係るキャリア芯材への要望により、適した組成範囲があることも判明した。当該組成範囲例について、以下説明する。
1.)高帯電量と低帯電量差とを求める場合
本発明係るキャリア芯材に対し、特に高帯電量と低帯電量差とを求める場合、実施例4、5に係るキャリア芯材が有する組成領域が好ましいと考えられる。当該組成領域を、表1、図11〜図14から求めると、平均粒径D50が1.7〜3.2μmのFe2O3へ、Mgが、Mg元素換算で3.0〜3.5質量%、Mnが、Mn元素換算で17.4〜18.3質量%、Pが、P元素換算で4.5〜6.5質量%添加された領域であると考えられる。
【0066】
2.)帯電量を所望の値に設定したい場合
a.本発明に係るキャリア芯材の帯電量を、10〜12μC/gに設定することを求める場合
本発明に係るキャリア芯材に対し、帯電量を10〜12μC/gに設定することを求める場合、実施例1、2、6に係るキャリア芯材が有する組成領域が好ましいと考えられる。当該組成領域を、表1、図11〜図14から求めると、平均粒径D50が1.7〜1.9μmのFe2O3へ、Mgが、Mg元素換算で2.3〜3.1質量%、Mnが、Mn元素換算で18.1〜19.5質量%、Pが、P元素換算で0.2〜0.6質量%添加された領域であると考えられる。
【0067】
b.本発明に係るキャリア芯材の帯電量を、15〜16μC/gに設定することを求める場合
本発明に係るキャリア芯材に対し、帯電量を15〜16μC/gに設定することを求める場合、実施例3に係るキャリア芯材が有する組成領域が好ましいと考えられる。当該組成領域を、表1、図11〜図14から求めると、平均粒径D50が1.7〜1.9μmのFe2O3へ、Mgが、Mg元素換算で3.1〜3.3質量%、Mnが、Mn元素換算で17.8〜18.1質量%、Pが、P元素換算で0.8〜1.2質量%添加された領域であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、現像機内において初期帯電量が高く、長期使用するにあたり帯電量を維持することによって現像画質を保つキャリアとして、複写機、プリンター等の現像機等に適用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機、プリンター等で使用される電子写真現像方法としては、カスケード法、磁気ブラシ現像法、その他の方法が用いられている。近年は、感光体ドラム上に形成された静電潜像に、磁気ブラシを介してトナー像を顕像化させた後、熱定着させて画像を得る磁気ブラシ現像法が一般的な手段である。さらに最近では、トナーを電子写真現像剤用キャリア(本発明において、「キャリア」と記載する場合がある。)の粒子上に静電的に配向させ、当該キャリアに磁気ブラシを形成させる二成分系現像剤が多用されている。
【0003】
二成分系現像剤ではキャリアを構成するキャリア粒子として、当該キャリア粒子を構成する芯材(本発明において、「キャリア芯材」と記載する場合がある。)の表面に、トナーと逆帯電性の樹脂を適度に被覆させたものが用いられる。このキャリア粒子とトナー粒子とを現像機内で混合、撹拌することによってトナー粒子は帯電し、キャリア粒子に付着する。次に、帯電したトナー粒子は、キャリア粒子によって形成される磁気ブラシから、感光体や静電記録体上の形成された静電潜像に移動して付着する。この静電潜像を現像することによって画像を得ることができる。
【0004】
上記のようなキャリア粒子とトナー粒子とを用いた二成分現像剤による現像方法において、トナー粒子は現像の度に磁気ブラシから感光体へと移動していく。そのため足りなくなったトナー粒子は速やかに補給され、再び、キャリア粒子と混合、撹拌が行われ、繰り返し現像が行われる。そのため、キャリア粒子とトナーの帯電量が、画像の形成に大きくかかわってくる。
ところが、トナー粒子は、現像する度に供給、消費が行われ常に新しいトナー粒子に置き換わるのに対して、キャリア粒子は、現像機内に留まって繰り返し使用される。
【0005】
また、キャリア粒子の帯電量が高ければ、現像機自体に多くのメリットがある。例えば、高帯電量のキャリアを使用することで、必要なキャリア粒子の量を減らすことができる。これによって現像機の軽量化や、磁気ドラムにかかる負荷を軽減することができる。
【0006】
キャリア粒子の帯電量を上げるには、多くの場合キャリア芯材を被覆する樹脂の種類や厚みを変更したり、適宜な添加物等を加えたりするのが一般的である。
【0007】
一方、キャリア粒子の特性には、キャリア芯材自体の特性も影響を与える。
例えば特許文献1は、キャリア芯材の異形粒子を少なくし、粒子のグレインサイズを揃えるなど粒子の均一性を上げることによって、キャリア粒子間のストレスを減らしキャリア粒子の帯電量を維持することを提案している。
また特許文献2、3は、キャリア芯材にリン(P)を添加して電気抵抗値を制御したり、飽和磁化の値を制御することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−96977号公報
【特許文献2】特開平7−20658号公報
【特許文献3】特開2001−93720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら本発明者らの検討によると、電子写真現像機の長期間使用により、キャリア粒子の樹脂皮膜が一部欠けたり、剥がれたりする場合があることが判明した。当該欠けや剥がれが発生した場合には、当該キャリア粒子において、一部キャリア芯材がむき出しとなり帯電量が低下して、トナーの付着が減少することにより画質の低下につながる。
さらに、本発明者らの検討によると、特許文献1〜3に記載の技術を用いたとしても、長時間使用によるキャリア粒子の磨耗により、表面を被覆している樹脂が剥がれてきたときには、当該キャリア粒子の帯電量を維持することが困難であることも判明した。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、長期間使用しても高帯電量または、所定帯電量を維持出来る長寿命の電子写真現像剤用キャリア、当該電子写真現像剤用キャリアを構成する電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、並びに当該電子写真現像剤用キャリアを用いた電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、キャリアを長期間使用することで、キャリア芯材をコートしている樹脂が一部剥がれることは不可避的な現象であることと考えられるため、当該コート樹脂が一部剥離したキャリア粒子であっても、所定の帯電量を維持出来るキャリアを製造出来れば、長期間使用しても高帯電量を維持出来る長寿命の電子写真現像剤用キャリアを得ることが出来るという、画期的な発想の転換を行った。
【0012】
上述の発想に基づき、本発明者等は、キャリア芯材自身の帯電量を高めることで、コート樹脂が一部剥離した場合であっても、所定の帯電量を維持出来るキャリアに想到した。
一方、本発明者等は、Mgフェライトを含むキャリア芯材にリン(本発明において「P」と記載する場合がある。)を含有させることで、当該キャリア芯材表面に、MgとPとを析出させることが出来るとの知見を得た。さらに、キャリア芯材表面へのMgとPとの析出により、当該キャリア芯材自身の帯電量を高めたり、当該キャリア芯材自身に所望の帯電量を付与出来るとの知見も得て、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、上記課題を解決する第1の発明は、
(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0014】
第2の発明は、
(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0015】
第3の発明は、
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0016】
第4の発明は、
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mn源を、Mn元素換算で2.5〜25質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMn源と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0017】
第5の発明は、
前記P源として赤燐、Mn源としてMnCO3および/またはMn3O4、Mg源としてMgO、Mg(OH)2、MgCO3から選択される1種以上の化合物を用いることを特徴とする第3または第4の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0018】
第6の発明は、
第1または第2の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材が、熱硬化性樹脂によって被覆されたものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアである。
【0019】
第7の発明は、
第6の発明に記載の電子写真現像剤用キャリアと、適宜なトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、キャリアの長時間使用に伴いキャリア粒子表面の樹脂膜が磨耗や剥離しても、トナー粒子の感光体への搬送量が低下せず、画像品質の低下を防ぐことができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図2】実施例2に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図3】実施例3に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図4】実施例4に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図5】実施例5に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図6】実施例6に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図7】比較例1に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図8】比較例2に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図9】比較例3に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図10】比較例4に係るキャリア芯材のSEM像、PとMgとのマッピング像である。
【図11】Pの添加量と、キャリア芯材内部と表面とのMg存在比との関係を示すグラフである。
【図12】キャリア芯材表面のPの存在量と、キャリア芯材内部と表面とのMg存在比との関係を示すグラフである。
【図13】キャリア芯材内部と表面とのMg存在比と、帯電量との関係を示すグラフである。
【図14】キャリア芯材内部と表面とのMg存在比と、帯電量の経時変化量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材は、一般式(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とするもの、または、一般式(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とするものである。
本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材は、原料粉段階においてPを添加されている。当該添加されたPは、焼成段階においてMgを伴ってキャリア芯材表面に移行すると考えられる。
当該PとMgとの移行により、本発明に係るキャリア芯材は、表面にMgとPとが析出している。具体的には、当該キャリア芯材のMgの含有量をM1、当該キャリア芯材表面のEDSによるMgの分析値をM2と表記したとき、M2/M1の値が1.0を超え、好ましくは1.05以上あり、キャリア芯材表面にMgが析出しているものである。一方、当該キャリア芯材の表面には、0.1質量%以上のPも析出しているものである。
つまり、本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材は、内部のフェライト相と比較して、表面に多くのMgとPとが析出している。そして、当該MgとPとの表面析出によって、キャリア芯材自体の帯電量が上がり、且つ、当該帯電量を経時的に維持することが出来ていると考えられる。
【0023】
(本発明に係るキャリアを構成するキャリア芯材の製造方法)
[原料]
キャリア芯材を構成するソフトフェライトのFe供給源としては、Fe2O3等が好適に使用できる。Mg供給源としては、MgO、Mg(OH)2、MgCO3等から選択される1種以上の化合物を好適に使用できる。
一方、ソフトフェライトのMn源として、MnCO3および/またはMn3O4等を好
適に使用できる。
【0024】
まず、Fe供給源について説明する。
キャリア芯材の主原料となるFe2O3の平均粒径は1μm以上5μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1.5μm以上3μm以下である。当該平均粒径は、マイクロトラック粒度分析計(日機装(株)製 MICROTRAC HRA 9320−X100)で測定した。
主原料となるFe2O3の平均粒径が1μm以上、好ましくは1.5μm以上であると、当該Fe2O3を造粒した際の造粒物が、密になり過ぎることがなく適度な粒界が形成される。すると、MgとPとが当該造粒物の粒界を通過して、容易にキャリア芯材表面へ析出可能になると考えられる。
一方、Fe2O3の平均粒径が5μm以下、好ましくは3μm以下であると、後述する造粒工程において、キャリア粒子を容易に球形にすることが出来る。
【0025】
次に、Mn供給源とMg供給源とについて説明するが、キャリア芯材を構成するソフトフェライトにMnを含む場合と含まない場合とに分けて説明する。
まず、キャリア芯材が(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とする場合について説明する。
キャリア芯材の主原料であるFe2O3と、当該Fe2O3と伴にフェライトを合成するその他の金属酸化物との総量に対して、原料となるMg源はMg元素換算で1.0質量%以上12質量%以下とし、原料となるMn源はMn元素換算で2.5質量%以上25質量%以下とすることが望ましい。好ましくは、Mg元素は1.2質量%以上10質量%以下とし、Mn元素は10質量%以上23質量%以下とする、さらに好ましくは、Mg元素は1.5質量%以上5質量%以下とし、Mn元素は15質量%以上21質量%以下とする。
キャリア芯材を構成するMg元素の量が1.0質量%以上、好ましくは1.2質量%以上あると、粒界からキャリア芯材表面に析出するMgの量が担保出来、所望の帯電量が得られる。
一方、キャリア芯材を構成するMg元素の量が12質量%以下、好ましくは10質量%以下であると、キャリア芯材として所望の磁力が得られる。
また、キャリア芯材を構成するMn元素の量が2.5質量%以上、好ましくは10質量%以上あると、キャリア芯材として所望の磁力が得られる。
一方、キャリア芯材を構成するMn元素の量が25質量%以下、好ましくは23質量%以下であると、粒界からにキャリア芯材表面に析出するMgの量が担保出来、所望の帯電量が得られる。
【0026】
次に、キャリア芯材が、(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを主成分とする場合について説明する。
キャリア芯材の主原料であるFe2O3と、当該Fe2O3と伴にフェライトを合成するその他の金属酸化物との総量に対して、原料となるMg源は、Mg元素換算で1.0質量%以上12質量%以下とすることが望ましい。好ましくは、Mg元素は1.2質量%以上10質量%以下とし、さらに好ましくは1.5質量%以上5質量%以下とする。
キャリア芯材を構成するMg元素の量が1.0質量%以上、好ましくは1.5質量%以上あると、粒界からキャリア芯材表面に析出するMgの量が担保出来、所望の帯電量が得られる。
一方、キャリア芯材を構成するMg元素の量が12質量%以下、好ましくは10質量%以下であるとフェライトが構成出来、キャリア芯材として所望の磁力が得られる。
【0027】
最後に、キャリア芯材へ添加するPについて説明する。
キャリア芯材に添加するP元素は、キャリア芯材の主原料のFe2O3と、当該Fe2
O3と伴にフェライトを合成するその他の金属酸化物との総量に対して、0.1質量%以上10質量%以下の範囲で添加することが出来る。当該P元素添加量が0.1質量%以上あると、Mgを伴ったキャリア芯材表面への移行効果が得られる。一方、当該P元素添加量が10質量%以下であれば、キャリア芯材製造工程の焼成過程においてキャリア芯材同士が焼結して、解粒時に当該キャリア芯材粒子が割れてしまい、球形を維持出来なくなるのを回避出来るからである。尚、Mgを伴ったキャリア芯材表面への移行効果の観点から、望ましいP元素の添加量は0.2質量%以上6質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以上6質量%以下である。
添加するPは、赤燐の状態や、P2O5のようなリン酸化物の状態や、Ca5(PO4)3のようなリン酸塩のような状態でも良く、特に限定されるものではない。例えば、燐化学社製の赤燐が好ましく使用出来る。
【0028】
[スラリー化]
狙いとするソフトフェライトの目的組成と一致させて、P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mn源を、Mn元素換算で2.5〜25質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上、5μm以下あるFe2O3を秤量し、混合して金属原料混合物を得る。
【0029】
得られた金属原料混合物を、媒体液中で混合撹拌することによってスラリー化する(スラリー化工程)。当該スラリー化前に、必要に応じて、原料混合物へ乾式で粉砕処理を加えてもよい。原料粉と媒体液の混合比は、スラリーの固形分濃度が50〜90質量%になるようにすることが望ましい。
媒体液には、水にバインダー、分散剤等を添加したものを用いる。バインダーとしては、例えばポリビニルアルコールが好適に使用でき、その媒体液中濃度は0.5〜2質量%程度とすればよい。分散剤としては、例えばポリカルボン酸アンモニウム系のものが好適に使用でき、その媒体液中濃度も0.5〜2質量%程度とすればよい。その他、潤滑剤や、焼結促進剤として、ホウ酸等を添加することができる。
混合攪拌して得られたスラリーに対しては、さらに湿式粉砕を施すことが好ましい。
【0030】
Pの添加量は、上述したように、金属原料混合物に対しP元素換算で0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上6質量%以下の範囲であり、さらに好ましくは1質量%以上6質量%以下で、キャリア芯材における狙いの帯電量に合わせて設定する。
但し、当該Pの添加量は、金属原料混合物の量に対し非常に微量である。そこで、Pを予め媒体液中に分散させることで、容易に均一な分散状態を得られる。尤も、金属原料混合物とPとの媒体液中への分散の順序は、上記の逆、また同時でも可能である。但し、その場合は、上記のスラリーの攪拌を十分に行ったり、湿式粉砕の回数を増やす等の処理を行うことで、Pの分散性を上げれば良い。
【0031】
[造粒]
造粒は、上記スラリーを噴霧乾燥機に導入することによって好適に実施できる。噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる(造粒工程)。得られた造粒粉は製品最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、予め、粗大粒子や微粉を除去することにより粒度調整することが望ましい。
【0032】
[焼成]
次に、造粒粉を700〜1500℃程度に加熱した炉に投入して、ソフトフェライトを合成するための一般的な手法で焼成することにより、フェライトを生成させる(焼成工程)。焼成温度が700℃以上であれば、焼結がある程度進み、形状を維持できる。150
0℃超であると、粒子同士の過剰焼結が起こらず、異形粒子が生じることがない。当該観点からは、700〜1500℃程度で焼成することが好ましい。
また、焼成雰囲気は、焼成品の磁力、電気抵抗等のキャリア粉体特性に関わっている。特に磁力は、フェライトの種類によって、大きく影響を受けるため、焼成炉内の酸素濃度を5質量%以下とすることが望ましい。
【0033】
得られた焼成物は、この焼成完了段階で粒度調整することが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒し、次に気流分級機で1次分級し、さらに、振動ふるい又は超音波ふるいで粒度を揃える処理を行うことにより、粒度調整された焼成物を得ることができる。当該粒度調整後、さらに磁場選鉱機にかけ、非磁性粒子を除去することが望ましい。
【0034】
[高抵抗化処理]
上記焼成物を酸化性雰囲気中にて加熱することにより、高抵抗層を形成し、高抵抗化処理を加えるのも好ましい構成である(高抵抗化処理工程)。加熱雰囲気は、大気、又は、酸素と窒素との混合雰囲気とすればよい。加熱温度は200〜800℃、好ましくは250〜600℃とし、処理時間は30min〜5h程度とすればよい。
このようにして本発明に係るキャリア芯材を得ることができる。
【0035】
[キャリアの製造]
得られたキャリア芯材に、樹脂被覆を施す。被覆の方式としては乾式法、流動床、浸漬法等を用いることができる。キャリア内部に樹脂を充填させる観点からは、浸漬法や乾式法が好ましい。
ここでは浸漬法を例に挙げ説明する。被覆樹脂としては、シリコーン系樹脂やアクリル樹脂が好ましい。被覆樹脂を溶剤(トルエン等)に20〜40質量%程度溶解させ、樹脂溶液を調製する。被覆操作は、当該樹脂液とキャリア芯材とを、固形分で0.7〜10質量%の範囲となるように容器中で混合した後、150〜250℃にて加熱撹拌することにより実施できる。上記の樹脂溶液の濃度、および、樹脂溶液とキャリア芯材との混合比によって、樹脂の被覆量をコントロールすることができる。当該樹脂被覆後、さらに加熱処理を施して樹脂被覆層を硬化させることによって、本発明に係るキャリアが得られる。
【0036】
[電子写真現像剤の製造]
得られた本発明に係るキャリアを、適切な粒径を有するトナーと混合することによって、本発明に係る電子写真現像剤を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
原料として、平均粒子径D50が約1.8μmに粉砕されたFe2O3と、約1μmに粉砕されたMgO、Mn3O4、P(燐化学社製の赤燐)粉とを用意した。原料はそれぞれFe2O3:71.2質量%、Mn3O4:23.7質量%、MgO:5.1質量%となるように混合した。P粉は、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で0.25質量%となるように秤量した。
一方、分散媒である水に、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を1.0質量%、湿潤剤としてサンノプコ(株)製「SNウェット980」を0.05質量%、バインダーとしてポリビニルアルコールを0.02質量%添加した液(媒体液)を準備した。
この媒体液にP粉を投入し、十分に分散した後、前記秤量されたFe2O3、MgO、
Mn3O4混合原料粉を投入して、攪拌することにより、これら投入した物質の濃度が76質量%のスラリーを得た。
このスラリーを湿式ボールミルにて湿式粉砕し、しばらく攪拌した後、スプレードライヤーにて約180℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜100μmの乾燥造粒物を得た。
【0039】
この造粒物から、網目63μmの篩網を用いて粗粒を分離し、網目33μmの篩網を用いて微粒を分離した後、窒素雰囲気下1150℃で5hr焼成し、フェライト化させた。このフェライト化した焼成物をハンマーミルで解粒し、風力分級機を用いて微粉を除去した。以上の工程より、実施例1に係るキャリア芯材を得た。このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図1に、実施例1に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0040】
(実施例2)
添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で0.5質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図2に、実施例2に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0041】
(実施例3)
添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で1.0質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図3に、実施例3に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0042】
(実施例4)
原料として平均粒子径D50が約3.0μmに粉砕されたFe2O3を使用し、添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で5.0質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例4に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図4に、実施例4に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0043】
(実施例5)
添加するP粉を、Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉量に対して、P元素換算で6.0質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例5に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結
果を表1に示す。
さらに図5に、実施例5に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0044】
(実施例6)
原料をFe2O3、MgOとし、Fe2O3:96質量%、MgO:4質量%となるように混合して、Fe2O3、MgO混合原料粉を得た。添加するP粉を、Fe2O3、MgO混合原料粉量に対して、P元素換算で0.2質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例6係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図6に、実施例6に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0045】
(比較例1)
Fe2O3、MgO、Mn3O4混合原料粉へPを添加せずに造粒した以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図7に、比較例1に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0046】
(比較例2)
原料として平均粒子径D50が約0.8μmに粉砕されたFe2O3を使用し、添加するP粉を、Fe2O3、MgO、およびMn3O4の混合原料粉量に対して、P元素換算で0.5質量%となるように秤量した以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例2に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図8に、比較例2に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0047】
(比較例3)
原料にPを添加せずに造粒した以外は、実施例6と同様の操作を行い、比較例3に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結果を表1に示す。
さらに図9に、比較例3に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0048】
(比較例4)
原料にMgOを添加せず、Fe2O3:71質量%と、Mn3O4:29質量%との混合原料粉を用いて造粒した以外は、実施例2と同様の操作を行い、比較例4に係るキャリア芯材を得た。
このキャリア芯材の添加剤の添加量と粉体特性、磁気特性、および後述する評価試験結
果を表1に示す。
さらに図10に、比較例4に係るキャリア芯材の4000倍のSEM像(a)、およびEDSによる前記SEM像と同部分・同倍率のPのマッピング像(b)と、Mgのマッピング像(c)とを示す。
【0049】
(キャリア芯材の帯電量の評価試験)
キャリア芯材の帯電特性は、キャリア芯材とトナーとの混合物を振とうすることによって、トナーを帯電させ、当該帯電したトナーの電荷を測定することにより、キャリア芯材の帯電量と推算した。
まず、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリア芯材9.5gと、市販のトナー(モノクロ、粒径約10μm品)0.5gとをガラス瓶に装填し、当該ガラス瓶を振とう機にセットして30分間攪拌を行った。次に、攪拌後のサンプル0.5gを量り取り、500meshのSUS網上に載せ吸引することによって、攪拌後のサンプルからトナーだけを分離した。そして、トナーの帯電量を測定し、当該測定値をキャリア芯材の帯電量と推算した。帯電量の測定は、日本パイオテク(株)製、STC−1−C1型を用いて行った。
【0050】
(キャリア芯材のMgの含有量測定)
キャリア芯材のMg含有量は、株式会社島津製作所製、ICPS−7510を用いて測定を行った。分析方法としては、試料1gを計量し、塩酸50mlに分解させる。内部標準元素としてイットリウム(25ppm)を10ml加え、定溶し測定用試料とした。また、同試料のサンプル溶液を3〜4個用意し、これにMgを連続的に任意量添加し検量線試料とした。この濃度系列と発光強度の関係線とを検量線とし、キャリア芯材のMg含有量を測定した。
【0051】
(キャリア芯材表面におけるMgおよびPの定量分析測定)
キャリア芯材表面におけるMgおよびPのEDSによる定量分析値は、SEM−EDS測定装置(日本電子(株)社製、JSM−6510LA型)を用いた。
当該測定装置の4000倍写真視野に、キャリア芯材が1粒子のみ納まるようよう調整し、視野領域全体を測定領域として、当該キャリア芯材粒子の表面におけるMgとPとの元素量(質量百分率)を測定して求めた。尚、測定はキャリア芯材30粒子について実施し、その平均値を測定結果とした。
【0052】
(実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの製造)
実施例および比較例で得られたキャリア芯材へ、以下に記載の方法で樹脂を被覆した。
まず、シリコーン系樹脂(信越化学製、KR251)をトルエンに溶解して被覆樹脂溶液を調製した。当該被覆樹脂溶液とキャリア芯材とを撹拌機に装填した。このとき、被覆樹脂溶液中の固形分が、キャリア芯材の3質量%となる割合とした。
そして、樹脂溶液へキャリア芯材を3hr浸漬しながら150〜250℃の範囲で加熱撹拌した。これによりキャリア芯材100質量部に対し、樹脂が3.0質量部の割合で被覆された。
この樹脂被覆されたキャリア芯材を、熱風循環式加熱装置にて250℃で5hr加熱することにより、樹脂被覆層を硬化させて、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアを得た。
【0053】
(キャリアの帯電量における経時変化量の評価試験)
上述したキャリア芯材の帯電評価と同様に、キャリア9.5gと市販のトナー(モノクロ、粒径約10μm品)0.5gとをガラス瓶に装填した。当該ガラス瓶を振とう機にセットし、攪拌を行った。次に、攪拌したサンプル0.5gを量り取り、それを500meshのSUS網に載せ吸引することによって、攪拌後のサンプルからトナーだけを分離した。そして、トナーの帯電量を測定し、当該測定値をキャリア芯材の帯電量と推算した。
尚、攪拌時間は30分間と24時間とし、当該時間差における帯電量の経時変化量を測定した。そして、実施例1〜6および比較例1〜4に係るサンプルの帯電量は、比較例1に係る30分間攪拌後のサンプル帯電量値を1.0と規格化して表記した。
当該評価試験結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
(まとめ)
図1〜図10(a)(b)(c)より、実施例および比較例に係るキャリア芯材について、キャリア芯材表面におけるMgおよびPのEDSによる定量分析結果をみると、実施例1〜6に係るキャリア芯材の表面には、MgとPとが多く析出していることが判明した。これに対し、Pを添加していない比較例1に係るキャリア芯材や、粒径の小さいFe2O3を使用した比較例2に係るキャリア芯材においては、Mgの析出が少ないことが判明した。また、Mgを添加していない比較例4の帯電量測定結果から、PとMgとの協同効果によりキャリア芯材の帯電量を向上させているものと考えられる。
【0056】
当該結果から、本発明者等は、焼成工程においてPがキャリア芯材内部から外部へ蒸散しようとする際、Mgをキャリア芯材表面まで随伴する効果があるのではないかと考えている。また、フェライト原料として粒径1.5μm以上のFe2O3を使用した実施例に係るキャリア芯材では、当該大粒径Fe2O3粒子によって生じる大きな粒界を介して、MgおよびPがキャリア芯材表面まで移行するのではないかと考えている。
そして、この結果、本発明に係るキャリア芯材のMgの含有量をM1、当該キャリア芯材表面のEDSによるMgの定量分析値(本発明において「MgのEDS分析値」と記載する場合がある。)をM2と表記したとき、M2/M1の値が1.0以上であり、当該キャリア芯材表面のEDSによるPの定量分析値(本発明において「PのEDS分析値」と記載する場合がある。)が0.1質量%以上であるものを製造出来たものと考えている。
【0057】
Pが、Mgをキャリア芯材中からキャリア芯材表面に移行させる効果について確認・検討するため、表1に記載したデータから、縦軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値M2を、キャリア芯材のMgの含有量M1で割ったM2/M1値をとり、横軸に、各キャリア芯材へのP添加量をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図11とした。
併せて、縦軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値M2を、キャリア芯材のMgの含有量M1で割ったM2/M1値をとり、横軸に、各キャリア芯材表面のPのEDS
分析値をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図12とした。
【0058】
次に、キャリア芯材表面に移行したMgが、キャリア芯材の帯電量へ与える効果について検討するため、表1に記載したデータから、縦軸に、各キャリア芯材の帯電量をとり、横軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割った値をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図13とした。
【0059】
さらに別の観点からキャリア芯材表面に移行したMgが、キャリア芯材の帯電量の経時変化へ与える効果について検討するため、表1に記載したデータから、縦軸に、各キャリアの芯材帯電量差(30分間後−24時間後)をとり、横軸に、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割った値をとり、実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値をプロットしたものを図14とした。
【0060】
図11にプロットされた実施例1〜6に係るキャリアの値から、各キャリア芯材へのP添加量が0.2質量%〜6質量%の範囲において、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割ったM2/M1値と、各キャリア芯材表面のPのEDS分析値との間に比例関係が観られた。
また図12より、各キャリア芯材表面のPのEDS分析値が0.3質量%〜7.6質量%の範囲において、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割ったM2/M1値と、各キャリア芯材表面のPのEDS分析値との間にも比例関係が観られた。
当該結果より、Pが、Mgをキャリア芯材中からキャリア芯材表面に移行させる効果について確認できたと考えられる。
【0061】
本発明者等は、焼結工程において、Pが、Mgと酸化化合物を形成し、Mg3(PO4)2の状態でキャリア芯材表面へ移行させたものと考えている。
一方、実施例2と比較例2との比較結果より、Pが適量存在しても、Fe2O3の平均粒径が小さい場合は、Mgの移行効果が低いことも判明した。これは、Fe2O3の平均粒径が小さい場合は、形成される粒界も小さく、Mgの移行が困難になった為と考えられる。
【0062】
また、Mgが添加されていない比較例4の場合、Pが適量存在してもMgが存在していない為、PとMgとの協同効果が得られずに、帯電量が低いものと考えられる。
【0063】
図13にプロットされた実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値から、キャリアの帯電量は、各キャリア芯材表面のMgのEDS分析値を、キャリア芯材のMgの含有量で割ったM2/M1値が1.0を超えたところから鋭く立ち上がり、その帯電量は9.8〜20.6(μC/g)となった。また、M2/M1値が1.5以降は増加が緩やかになることが判明した。一方、Pを添加していない比較例1に係るキャリアはM2/M1値が0.83であり、帯電量は6.5(μC/g)に留まった。
当該結果から、M2/M1値がキャリアの帯電量に与える効果について確認できたと考えられる。当該効果は、M2/M1値が、1.0を超えたところから現れ、1.5以上でほぼ安定する。従って、M2/M1値の制御によって、キャリア芯材の帯電量を狙いの値に制御出来ることも判明した。
【0064】
図14にプロットされた実施例1〜6、比較例1〜4に係るキャリアの値から、各キャリア芯材の帯電量差(30分間後−24時間後)は、M2/M1値の増加により低下することが判明した。この結果、例えば、帯電量の経時変化量の小さなキャリアを望むのであ
れば、M2/M1値が1.5以上あることが好ましい。
【0065】
一方、表1、図13、14の結果より、本発明係るキャリア芯材への要望により、適した組成範囲があることも判明した。当該組成範囲例について、以下説明する。
1.)高帯電量と低帯電量差とを求める場合
本発明係るキャリア芯材に対し、特に高帯電量と低帯電量差とを求める場合、実施例4、5に係るキャリア芯材が有する組成領域が好ましいと考えられる。当該組成領域を、表1、図11〜図14から求めると、平均粒径D50が1.7〜3.2μmのFe2O3へ、Mgが、Mg元素換算で3.0〜3.5質量%、Mnが、Mn元素換算で17.4〜18.3質量%、Pが、P元素換算で4.5〜6.5質量%添加された領域であると考えられる。
【0066】
2.)帯電量を所望の値に設定したい場合
a.本発明に係るキャリア芯材の帯電量を、10〜12μC/gに設定することを求める場合
本発明に係るキャリア芯材に対し、帯電量を10〜12μC/gに設定することを求める場合、実施例1、2、6に係るキャリア芯材が有する組成領域が好ましいと考えられる。当該組成領域を、表1、図11〜図14から求めると、平均粒径D50が1.7〜1.9μmのFe2O3へ、Mgが、Mg元素換算で2.3〜3.1質量%、Mnが、Mn元素換算で18.1〜19.5質量%、Pが、P元素換算で0.2〜0.6質量%添加された領域であると考えられる。
【0067】
b.本発明に係るキャリア芯材の帯電量を、15〜16μC/gに設定することを求める場合
本発明に係るキャリア芯材に対し、帯電量を15〜16μC/gに設定することを求める場合、実施例3に係るキャリア芯材が有する組成領域が好ましいと考えられる。当該組成領域を、表1、図11〜図14から求めると、平均粒径D50が1.7〜1.9μmのFe2O3へ、Mgが、Mg元素換算で3.1〜3.3質量%、Mnが、Mn元素換算で17.8〜18.1質量%、Pが、P元素換算で0.8〜1.2質量%添加された領域であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、現像機内において初期帯電量が高く、長期使用するにあたり帯電量を維持することによって現像画質を保つキャリアとして、複写機、プリンター等の現像機等に適用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項2】
(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項3】
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mn源を、Mn元素換算で2.5〜25質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMn源と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項5】
前記P源として赤燐、Mn源としてMnCO3および/またはMn3O4、Mg源としてMgO、Mg(OH)2、MgCO3から選択される1種以上の化合物を用いることを特徴とする請求項3または4に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材が、熱硬化性樹脂によって被覆されたものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項7】
請求項6に記載の電子写真現像剤用キャリアと、適宜なトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。
【請求項1】
(MgXMn1−X)Fe2O4(ただし、Xは0.1≦X<1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項2】
(MgYFe3−Y)O4(ただし、Yは0.1≦Y≦1である。)で表記されるソフトフェライトを含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
EDSによる当該キャリア芯材表面のPの分析値は0.1質量%以上であり、Mgの分析値は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量は2質量%以上であり、
当該キャリア芯材のMg含有量をM1、前記EDSによるキャリア芯材表面のMg分析値をM2とした場合に、M2/M1の値が1.0を超えることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項3】
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
P源を、P元素換算で0.1〜10質量%秤量し、Mn源を、Mn元素換算で2.5〜25質量%秤量し、Mg源を、Mg元素換算で1.0〜12質量%秤量し、残部として、平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3を秤量する工程と、
溶媒に前記秤量したP源と、前記秤量した平均粒径D50が1.0μm以上あるFe2O3と、前記秤量したMn源と、前記秤量したMg源とを添加し、混合してスラリーとする工程と、
当該スラリーを熱風中に噴霧して、乾燥造粒粉を得る工程と、
当該乾燥造粒粉を焼成する工程と、
当該焼成された乾燥造粒粉を、所定条件で熱処理する工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項5】
前記P源として赤燐、Mn源としてMnCO3および/またはMn3O4、Mg源としてMgO、Mg(OH)2、MgCO3から選択される1種以上の化合物を用いることを特徴とする請求項3または4に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材が、熱硬化性樹脂によって被覆されたものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項7】
請求項6に記載の電子写真現像剤用キャリアと、適宜なトナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−8192(P2011−8192A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154144(P2009−154144)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】
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