説明

電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤

【課題】帯電性能が高く、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供する。
【解決手段】電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、マンガンを含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程(A)と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程(C)と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程(D)とを備える。ここで、カルシウムを含む原料は、粒状であって、その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材(以下、単に「キャリア芯材」ということもある)の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア(以下、単に「キャリア」ということもある)、および電子写真現像剤(以下、単に「現像剤」ということもある)に関するものであり、特に、複写機やMFP(Multifunctional Printer)等に用いられる電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やMFP等においては、電子写真における乾式の現像方式として、トナーのみを現像剤の成分とする一成分系現像剤と、トナーおよびキャリアを現像剤の成分とする二成分系現像剤とがある。いずれの現像方式においても、所定の電荷量に帯電させたトナーを感光体に供給する。そして、感光体上に形成された静電潜像をトナーによって可視化し、これを用紙に転写する。その後、トナーによる可視画像を用紙に定着させ、所望の画像を得る。
【0003】
ここで、二成分系現像剤における現像について、簡単に説明する。現像器内には、所定量のトナーおよび所定量のキャリアが収容されている。現像器には、S極とN極とが周方向に交互に複数設けられた回転可能なマグネットローラおよびトナーとキャリアとを現像器内で攪拌混合する攪拌ローラが備えられている。磁性粉から構成されるキャリアは、マグネットローラによって担持される。このマグネットローラの磁力により、キャリア粒子による直鎖状の磁気ブラシが形成される。キャリア粒子の表面には、攪拌による摩擦帯電により複数のトナー粒子が付着している。マグネットローラの回転により、この磁気ブラシを感光体に当てるようにして、感光体の表面にトナーを供給する。二成分系現像剤においては、このようにして現像を行なう。
【0004】
トナーについては、用紙への定着により現像器内のトナーが順次消費されていくため、現像器に取り付けられたトナーホッパーから、消費された量に相当する新しいトナーが、現像器内に随時供給される。一方、キャリアについては、現像による消費がなく、寿命に達するまでそのまま用いられる。二成分系現像剤の構成材料であるキャリアには、攪拌による摩擦帯電により効率的にトナーを帯電させるトナー帯電機能や絶縁性、感光体にトナーを適切に搬送して供給するトナー搬送能力等、種々の機能が求められる。例えば、トナーの帯電能力向上の観点から、キャリアについては、その電気抵抗値(以下、単に抵抗値ということもある)が適切であること、また、絶縁性が適切であることが要求される。
【0005】
昨今において、上記したキャリアは、そのコア、すなわち、核となる部分を構成するキャリア芯材と、このキャリア芯材の表面を被覆するようにして設けられるコーティング樹脂とから構成されている。
【0006】
ここで、キャリア芯材については、磁気的特性が良好であることが望まれる。簡単に説明すると、キャリアは、現像器内において、上記したようにマグネットローラに磁力で担持されている。このような使用状況下において、キャリア芯材自体の磁性、具体的には、キャリア芯材自体の磁化が低いとマグネットローラに対する保持力が弱まり、いわゆるキャリア飛散等の問題が生ずるおそれがある。特に、昨今においては、形成される画像の高画質化の要求に応えるため、トナー粒子の粒径を小さくする傾向にあり、これに対応して、キャリア粒子の粒径も小さくする傾向にある。キャリアの小粒径化を図ると、各キャリア粒子の担持力が小さくなってしまうおそれがある。したがって、上記したキャリア飛散の問題に対して、より効果的な対策が望まれる。
【0007】
キャリア芯材に関する技術が種々開示されているが、キャリア飛散防止という観点に着目した技術については、特開2008−241742号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−241742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、キャリア芯材については、電気的特性が良好であること、具体的には、例えば、キャリア芯材自体の帯電量の高いことや高い絶縁破壊電圧を有すること、さらに上記したように、キャリア芯材自体についても適切な抵抗値を有することが望まれる。
【0010】
特に昨今においては、キャリア芯材自体の帯電性能、具体的には、キャリア芯材の帯電量を高くすることが、強く望まれる傾向にある。上記したように、キャリア芯材は、その表面にコーティング樹脂を被覆されて用いられる場合が多い。ここで、現像器内での攪拌によるストレス等で、コーティング樹脂の一部が剥がれてしまい、キャリア芯材の表面が露出する場合もある。このような状況においては、キャリア芯材自体の露出した表面とトナーとの摩擦による帯電能力が強く求められる。もちろん、磁気的特性等、その他の特性についても、良好なことが好ましい。
【0011】
この発明の目的は、帯電性能が高く、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供することである。
この発明の他の目的は、帯電性能が高く、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を提供することである。
【0012】
この発明のさらに他の目的は、帯電性能が高く、特性が良好な電子写真現像剤用キャリアを提供することである。
【0013】
この発明のさらに他の目的は、良好な画質の画像を形成することができる電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者は、キャリア芯材の帯電性能を向上させるために、キャリア芯材の表面における摩擦帯電能力の向上を図るべく、金属元素であるカルシウム(Ca)を、キャリア芯材のコアの成分として添加しようと考えた。さらに、本願発明者は、キャリア芯材の構成材料として含有されるカルシウムが、その表面において良好な分散性を示せばよいのではなく、含有されるカルシウムがキャリア芯材の表面のみならず、以下に示すように、キャリア芯材の内部においても、良好に分散している必要があると考えた。すなわち、本願発明者は、鉄(Fe)およびマンガン(Mn)を主成分としたスピネル構造を形成するキャリア芯材の内部において、スピネル構造中へのカルシウムの固溶状態を良好にすれば、キャリア芯材を構成する結晶の格子定数が高くなり、帯電した電荷を保持する特性が向上し、その結果、キャリア芯材の帯電性能が向上すると考えた。そして、原材料として添加するカルシウムの分散度合いを向上させるに際し、従来のようなカルシウムを含む原料の前処理としての仮焼や粉砕では不十分であり、原子オーダーまたはミクロンオーダーで分散させる必要があると考えた。
【0015】
すなわち、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、マンガンを含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、カルシウムを含む原料は、粒状であって、その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下である。
【0016】
このようなキャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材については、含有されるカルシウムの分散性が、キャリア芯材の表面および内部において良好である。したがって、製造されるキャリア芯材自体の帯電性能が高く、良好な特性を有する。
【0017】
好ましくは、混合工程は、カルシウムを含む原料を、溶液状態として混合する工程を含むよう構成してもよい。このように構成することにより、添加するカルシウムを含む原料の凝集の発生を効率的に抑制して、より確実にキャリア芯材中のカルシウムの分散性を向上させることができる。
【0018】
さらに好ましくは、混合工程は、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つを、カルシウムを含む原料として混合する工程を含む。このような群から選択されるものは、上記した体積平均粒径のものを得ることが比較的容易である。
【0019】
さらに好ましい一実施形態として、混合工程は、さらにマグネシウムを含む原料を混合するようにしてもよい。このようなキャリア芯材は、磁気的特性をさらに向上することができる。
【0020】
この発明の他の局面において、電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、マンガンを含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成される。ここで、カルシウムを含む原料は、粒状であって、その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下である。
【0021】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、キャリア芯材の構成材料として含有されるカルシウムの分散性が、キャリア芯材の表面および内部において良好であるため、帯電性能が高く、その特性が良好である。
【0022】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、その格子定数は、8.490よりも大きい。このようなキャリア芯材は、スピネル構造中へのカルシウムの固溶状態が良好であるため、その特性が良好である。
【0023】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子断面を電子顕微鏡で3000倍に拡大し、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy:エネルギー分散X線分光法)においてカルシウム元素をマッピングして観察した場合に、偏析したカルシウムの占める領域は、粒子断面全体の4%以下である。
【0024】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記したいずれかの電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。
【0025】
このような電子写真現像剤用キャリアは、帯電性能が高く、その特性が良好である。
【0026】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。
【0027】
このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、高画質の画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0028】
この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、キャリア芯材自体の帯電性能が高く、その特性が良好である。
【0029】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、帯電性能が高く、その特性が良好である。
【0030】
また、この発明に係る電子写真現像剤は、高画質の画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。
【図2】コア帯電量と格子定数との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。
【図4】実施例2に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。
【図5】実施例3に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。
【図6】比較例1に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。
【図7】実施例1に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を示す。
【図8】実施例2に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を示す。
【図9】実施例3に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を示す。
【図10】比較例1に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材について説明する。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材については、その外形形状が、略球形状である。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の粒径は、約35μmであり、適当な粒度分布を有している。すなわち、上記した粒径は、体積平均粒径を意味する。この粒径および粒度分布については、要求される現像剤の特性や製造工程における歩留まり等により任意に設定される。キャリア芯材の表面には、主に後述する焼成工程で形成される微小の凹凸が形成されている。
【0033】
この発明の一実施形態に係るキャリアについても、キャリア芯材と同様に、その外形形状が、略球形状である。キャリアは、キャリア芯材の表面に薄く樹脂をコーティング、すなわち被覆したものであり、その粒径についても、キャリア芯材とほとんど変化は無い。キャリアの表面については、キャリア芯材と異なり、樹脂でほぼ完全に被覆されている。
【0034】
この発明の一実施形態に係る現像剤は、上記したキャリアと、トナーとから構成されている。トナーの外形形状についても、略球形状である。トナーは、スチレンアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂を主成分とするものであり、所定量の顔料やワックス等が配合されている。このようなトナーは、例えば、粉砕法や重合法によって製造される。トナーの粒径は、例えば、キャリアの粒径の7分の1程度の約5μm程度のものが使用される。また、トナーとキャリアの配合比についても、要求される現像剤の特性等に応じて、任意に設定される。このような現像剤は、所定量のキャリアとトナーとを適当な混合器で混合することにより製造される。
【0035】
次に、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。以下、図1に沿って、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の製造方法について説明する。
【0036】
まず、鉄を含む原料と、マンガンを含む原料と、カルシウムを含む原料と、マグネシウムを含む原料とを準備する。そして、準備した原料を、要求される特性に応じて、適当な配合比で配合し、これを混合する(図1(A))。ここで、適当な配合比とは、最終的に得られるキャリア芯材が、含有するような配合比である。
【0037】
この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を構成する鉄を含む原料については、金属鉄またはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在するFeやFe、Feなどが好適に用いられる。また、マンガンを含む原料については、金属マンガンまたはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在する金属Mn、MnO、Mn、Mn、MnCOが好適に使用される。また、マグネシウムを含む原料としては、金属マグネシウムまたはその酸化物が好適に用いられる。具体的には、例えば、炭酸塩であるMgCOや、水酸化物であるMg(OH)、酸化物であるMgO等が挙げられる。また、カルシウムを含む原料としては、金属カルシウムまたはその酸化物が好適に用いられる。具体的には、例えば、炭酸塩であるCaCOや、水酸化物であるCa(OH)、酸化物であるCaO等が挙げられる。なお、上記原料(鉄原料、マンガン原料、カルシウム原料、マグネシウム原料等)をそれぞれ、若しくは目的の組成になるように混合した原料を仮焼して粉砕し原料として用いても良い。
【0038】
ここで、カルシウムを含む原料は、粒状であって、その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下であることが好ましい。このようなカルシウムを含む原料は、その粒径が小さいことから、キャリア芯材中における分散性が良好である。
【0039】
また、カルシウムを含む原料を、溶液状態として混合する工程を含むよう構成してもよい。このように構成することにより、添加するカルシウムを含む原料の凝集の発生を効率的に抑制して、より確実にキャリア芯材中のカルシウムの分散性を向上させることができる。
【0040】
ここで、カルシウムを含む原料の一次粒子の体積平均粒径の測定について説明すると、以下の通りである。使用するカルシウムを含む原料については、水100mlに対して1g添加し、超音波洗浄器(出力:100W、周波数:50Hz)で1分間、処理した。得られた分散溶液は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック、Model 9320−X100)により測定した。なお、微粒子ほど凝集体となる傾向が強いため、凝集粉の場合、分散剤を使用して単分散させ、測定する。また、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムについては、溶解度が高く、溶液中に溶解するため、一次粒子の体積平均粒径は、0.01μm以下とした。
【0041】
なお、混合工程は、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つを、カルシウムを含む原料として混合する工程を含む。このような群から選択されるものは、上記した体積平均粒径のものを得ることが比較的容易である。
【0042】
次に、混合した原料のスラリー化を行なう(図1(B))。すなわち、これらの原料を、キャリア芯材の狙いとする組成に合わせて秤量し、混合してスラリー原料とする。
【0043】
この発明に係るキャリア芯材を製造する際の製造工程においては、後述する焼成工程の一部において、還元反応を進めるため、上述したスラリー原料へ、さらに還元剤を添加してもよい。還元剤としては、カーボン粉末やポリカルボン酸系有機物、ポリアクリル酸系有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール(PVA(polyvinyl alcohol))系有機物、及びそれらの混合物が好適に用いられる。
【0044】
上述したスラリー原料に水を加え混合攪拌して、固形分濃度を40重量%以上、好ましくは50重量%以上とする。スラリー原料の固形分濃度が50重量%以上であれば、造粒ペレットの強度を保つことができるので好ましい。
【0045】
次に、スラリー化した原料について、造粒を行なう(図1(C))。上記混合攪拌して得られたスラリーの造粒は、噴霧乾燥機を用いて行なう。なお、スラリーに対し、造粒前に、さらに湿式粉砕を施すことも好ましい。
【0046】
噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。得られた造粒粉は製品の最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、粗大粒子や微粉を除去し、この時点で粒度調整することが望ましい。
【0047】
その後、造粒した造粒物について、焼成を行なう(図1(D))。具体的には、得られた造粒粉を、900〜1500℃程度に加熱した炉に投入し、1〜24時間保持して焼成し、目的とする焼成物を生成させる。このとき、焼成炉内の酸素濃度は、フェライト化の反応が進む条件であればよく、具体的には、1200℃の場合、10−7%以上3%以下となるよう導入ガスの酸素濃度を調整し、フロー状態下で焼成を行う。
【0048】
また、先の還元剤の調整により、フェライト化に必要な還元雰囲気を制御してもよい。もっとも、工業化時に十分な生産性を確保できる反応速度を得る観点からは、900℃以上の温度が好ましい。一方、焼成温度が1500℃以下であれば、粒子同士の過剰焼結が起こらず、粉体の形態で焼成物を得ることができる。
【0049】
ここで、コア組成中の酸素量を過剰気味にしてもよい。具体的には、コア組成中の酸素量を過剰気味にする一つの手段として、焼成工程における冷却時の酸素濃度を所定の量以上とすることが考えられる。すなわち、焼成工程において、室温程度まで冷却を行なう際に、酸素濃度を所定の濃度、具体的には、0.03%よりも多くした雰囲気下で冷却を行なうようにしてもよい。具体的には、電気炉内に導入する導入ガスの酸素濃度を0.03%よりも多くし、フロー状態下で行なう。このように構成することにより、キャリア芯材の内部層において、フェライト中の酸素量を過剰に存在させることができる。ここで、0.03%以下とすると、内部層における酸素の含有量が、相対的に少なくなる。したがって、ここでは、上記酸素濃度の環境下で、冷却を行なう。
【0050】
得られた焼成物は、さらにこの段階で粒度調整をすることが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒する。すなわち、焼成を行った粒状物について、解粒を行なう(図1(E))。その後、振動ふるいなどで分級を行なう。すなわち、解粒した粒状物について、分級を行なう(図1(F))。こうすることにより、所望の粒径を持ったキャリア芯材の粒子を得ることができる。
【0051】
次に、分級した粒状物について、酸化を行う(図1(G))。すなわち、この段階で得られたキャリア芯材の粒子表面を熱処理(酸化処理)する。そして、粒子の絶縁破壊電圧を250V以上に上げ、電気抵抗値を適切な電気抵抗値である1×10〜1×1013Ω・cmとする。酸化処理でキャリア芯材の電気抵抗値を上げることにより、電荷のリークによるキャリア飛散のおそれを低減することができる。
【0052】
具体的には、酸素濃度10〜100%の雰囲気下において、200〜700℃で0.1〜24時間保持して、目的とするキャリア芯材を得る。より好ましくは、250〜600℃で0.5〜20時間、さらに好ましくは、300〜550℃で1時間〜12時間である。なお、このような酸化処理工程については、必要に応じて任意に行なわれるものである。
【0053】
このようにして、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、マンガンを含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、カルシウムを含む原料は、粒状であって、その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下である。このようなキャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材については、含有されるカルシウムの分散性が、キャリア芯材の表面および内部において良好であるため、上述したように、製造されるキャリア芯材自体の帯電性能が高く、良好な特性を有する。
【0054】
また、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、マンガンを含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成される。ここで、カルシウムを含む原料は、粒状であって、その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下である。このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、キャリア芯材の構成材料として含有されるカルシウムの分散性が、キャリア芯材の表面および内部において良好であるため、帯電性能が高く、その特性が良好である。
【0055】
次に、このようにして得られたキャリア芯材に対して、樹脂により被覆を行なう(図1(H))。具体的には、得られたこの発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆する。このようにして。この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアを得る。シリコーン系樹脂やアクリル樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行うことができる。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記した電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。このような電子写真現像剤用キャリアは、帯電性能が高く、その特性が良好である。
【0056】
次に、このようにして得られたキャリアとトナーとを所定量ずつ混合する(図1(I))。具体的には、上記した製造方法で得られたこの発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアと、適宜な公知のトナーとを混合する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤を得ることができる。混合は、例えば、ボールミル等、任意の混合器を用いる。この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、良好な画質の画像を形成することができる。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
Fe(平均粒径:1μm)13.7kg、Mn(平均粒径:1μm)6.5kg、MgFe(平均粒径:3μm)2.3kgを水7.5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を135g、還元剤としてカーボンブラックを68g、硝酸カルシウムの四水和物(Ca(NO・4HO)(一次粒子の体積平均粒径:0.01μm以下)を264g添加して混合物とした。このときの固形分濃度を測定した結果、75重量%であった。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
【0058】
このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉は、ふるいにより除去した。この造粒粉を、電気炉に投入し、1130℃で3時間焼成した。このとき、電気炉内は酸素濃度が0.8%となるよう、雰囲気を調整した電気炉にフローした。得られた焼成物を解粒後にふるいを用いて分級し、平均粒径25μmとした。さらに、得られたキャリア芯材に対して、470℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、実施例1に係るキャリア芯材を得た。
【0059】
得られたキャリア芯材の組成、磁気的特性および電気的特性を表1および表2に示す。なお、表1に記載の芯材組成x、y、zについては、上記したキャリア芯材を一般式:(MnMgCa)Fe3−x−y−zで表した場合において、得られたキャリア芯材を以下に示す分析方法で測定して得られた結果である。
【0060】
(Mnの分析)
キャリア芯材のMn含有量は、JIS G1311−1987記載のフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)に準拠して定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のMn含有量は、このフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)で定量分析し得られたMn量である。
【0061】
(Ca、Mgの分析)
キャリア芯材のCa、Mg含有量は、以下の方法で分析を行なった。本願発明に係るキャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のCa、Mg含有量は、このICPによる定量分析で得られたCa、Mg量である。
【0062】
また、表中の磁気的特性を示す磁化の測定については、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて、磁化率を測定した。ここで、表中、「σs」とは、飽和磁化であり、「σ1k(1000)」とは、外部磁場1k(1000)Oeである場合における磁化であり、「σ500」とは、外部磁場500Oeである場合における磁化であり、「σ2000」とは、外部磁場2000Oeである場合における磁化である。磁化の立ち上がりについては、σ500の値が高い方が好ましい。
【0063】
表中の電気的特性としてのコア帯電量とは、コア、すなわち、キャリア芯材の帯電量のことである。ここで、帯電量の測定について説明する。キャリア芯材9.5g、市販のフルカラー機のトナー0.5gを100mlの栓付きガラス瓶に入れ、25℃、相対湿度50%の環境下で12時間放置して調湿する。調湿したキャリア芯材とトナーを振とう器で30分振とうし、混合する。ここで、振とう器については、株式会社ヤヨイ製のNEW−YS型を用い、200回/分、角度60°で行なった。混合したキャリア芯材とトナーを500mg計量し、帯電量測定装置で帯電量を測定した。この実施形態においては、日本パイオテク株式会社製のSTC−1−C1型を用い、吸引圧力5.0kPa、吸引用メッシュをSUS製の795meshで行なった。同一サンプルについて2回の測定を行い、これらの平均値を各コア帯電量とした。コア帯電量の算出式については、コア帯電量(μC(クーロン)/g)=実測電荷(nC)×10×係数(1.0083×10−3)÷トナー重量(吸引前重量(g)−吸引後重量(g))となる。
【0064】
また、格子定数の算出は、以下の通りである。本願発明に関する磁性キャリア芯材の結晶の格子定数は、X線回折装置(リガク社製、Ultima IV)を用いて測定した。X線源は、Cuを使用し、加速電圧40kV(キロボルト)、電流40mA(ミリアンペア)でX線を発生させた。粉末X線の測定条件は、走査モードをFT(ステップスキャニング法)、発散スリットを1°および10mm、散乱スリットを1°、受光スリットを0.3mm、回転速度を5000rpm、走査範囲を10.000〜120.00°、測定間隔を0.02°、計数時間を1秒、積算回数1回とした。測定すべき回折線としては、70°〜120°の間に存在する回折線を用い、得られたXRDパターンから格子定数を算出した。前処理として、試料は、コア芯材をすり潰さず、そのまま使用し、十分に面だしを行った。なお、実施例1、以下に示す実施例2〜実施例5、比較例1、および比較例2については、全てX線における評価において、単相、即ち、単一の相から構成されていることが示されている。
【0065】
また、偏析したカルシウムの占める領域の割合については、以下の方法で評価を行った。まず、電子写真現像剤用キャリア芯材は、樹脂に混練し、クロスセクションポリッシャー(日本電子株式会社製、SM−09010)を用いて減圧雰囲気下でアルゴンイオンレーザービームにより粒子の断面を切断した。その後、得られた粒子の断面に対し、SEM(日本電子株式会社製、JSM−6390LA)とエネルギー分散型X線分析装置(日本電子株式会社製、JED−2300、加速電圧15kV、スイープ回数20回、デュエルタイム0.2秒)を用いて、カルシウムの組成のマッピングを行い、1粒子全体の断面が得られるように3000倍で撮影を行った。得られた画像から偏析したカルシウムの占める領域の割合を算出するため、Analysis FIVE(日本電子株式会社製)を用いて、粒子断面積Sと偏析箇所の断面積Sを測定した。測定対象とした偏析箇所は、得られた画像をA4サイズで出力した際に、偏析箇所の長径が5mm以上の場所とした。そして、粒子断面積Sに対する偏析箇所の断面積Sの百分率を、偏析したカルシウムの占める領域の割合とした。なお、粒子断面積Sは、粒子断面中の空孔面積も含むこととした。すなわち、偏析したカルシウムの占める領域の割合をAとすると、偏析したカルシウムの占める領域の割合A=S×100/Sで算出されるものである。なお、上記した測定は、100粒子の断面に対して行い、その平均値を、各実施例および比較例における偏析したカルシウムの占める領域の割合とした。
【0066】
(実施例2)
添加するカルシウム原料を、硝酸カルシウムの四水和物(Ca(NO・4HO)から酢酸カルシウムの一水和物(Ca(CHCOO)・HO)(一次粒子の体積平均粒径:0.01μm以下)に変更し、添加量を197gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、磁気的特性および電気的特性を表1および表2に示す。
【0067】
(実施例3)
添加するカルシウム原料を、硝酸カルシウムの四水和物(Ca(NO・4HO)からコロイダル炭酸カルシウム(CaCO)(一次粒子の体積平均粒径:0.04μm)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、磁気的特性および電気的特性を表1および表2に示す。
【0068】
(実施例4)
添加するカルシウム原料を、硝酸カルシウムの四水和物(Ca(NO・4HO)から炭酸カルシウム(CaCO)(一次粒子の体積平均粒径:0.05μm)に変更し、添加量を113gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、磁気的特性および電気的特性を表1および表2に示す。
【0069】
(実施例5)
Fe(平均粒径:1μm)11.0kg、Mn(平均粒径:1μm)4.4kgを水5.1kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を92g、還元剤としてカーボンブラックを46.1g、硝酸カルシウムの四水和物(Ca(NO・4HO)(一次粒子の体積平均粒径:0.01μm以下)を177g添加した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、磁気的特性および電気的特性を表1および表2に示す。
【0070】
(比較例1)
添加するカルシウム原料を、硝酸カルシウムの四水和物(Ca(NO・4HO)から炭酸カルシウム(CaCO)(一次粒子の体積平均粒径:1.5μm)に変更し、添加量を113gとした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、磁気的特性および電気的特性を表1および表2に示す。
【0071】
(比較例2)
添加するカルシウム原料を、硝酸カルシウムの四水和物(Ca(NO・4HO)から炭酸カルシウム(CaCO)(一次粒子の体積平均粒径:4μm)に変更し、添加量を113gとした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の組成、磁気的特性および電気的特性を表1および表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1および表2を参照して、磁気的特性については、実施例1〜実施例5において、σ500の値がそれぞれ、40.6emu/g、41.7emu/g、41.4emu/g、40.9emu/g、39.6emu/gであり、高い値である。特に、MnMg(マンガンマグネシウム)系の組成である実施例1〜4は、σ500の値が、40.5emu/g以上あり、低磁場側の立ち上がりをよくするためには、MnMg系の組成にすることが好ましい。
【0075】
また、電気的特性については、比較例1および比較例2において、コア帯電量がそれぞれ16.5μC/g、13.2μC/gであるのに対し、実施例1〜実施例5において、コア帯電量がそれぞれ22.5μC/g、22.2μC/g、21.2μC/g、20.9μC/g、22.0μC/gであり、全て20.0μC/g以上となっている。このように、実施例1〜実施例5におけるキャリア芯材は、比較例1および比較例2におけるキャリア芯材と比較して、磁気的特性および帯電性能、すなわち、電気的特性が向上している。
【0076】
図2は、上記した実施例および比較例について、コア帯電量と格子定数との関係を示すグラフである。図2中、縦軸は、コア帯電量を示し、横軸は、格子定数を示す。また、図2に示すグラフにおいて、黒丸印は実施例を示し、黒四角印は、比較例を示す。
【0077】
図2を参照して、比較例1および比較例2は、格子定数が低く、具体的にはそれぞれ、8.490、8.488であり、8.490以下である。そして、比較例1および比較例2は、コア帯電量も低く、それぞれ、16.5μC/g、13.2μC/gであって、18.0μC/g以下である。これに対し、実施例1〜実施例5は、格子定数が高く、具体的にはそれぞれ8.498、8.495、8,496、8.492、8.501である。そして、実施例1〜実施例5は、コア帯電量も高く、それぞれ、22.5μC/g、22.2μC/g、21.2μC/g、20.9μC/g、22.0μC/gであって、20.0μC/g以上である。特に、体積平均粒径が0.01μm以下である実施例1、実施例2および実施例5によると、コア帯電量が22.0μC/g以上であり、コア帯電量の高いキャリア芯材を得るためには、できるだけ体積平均粒径を小さくすることが好ましいことが分かる。すなわち、カルシウムを含む原料の一次粒子の体積平均粒径を1μm以下にすれば、コア帯電量の値を、少なくとも比較例1に係るキャリア芯材のコア帯電量の値である16.5μC/gより高くすることができる。さらには、カルシウムを含む原料の一次粒子の体積平均粒径を0.1μm以下にすれば、より実施例の値に近づけることができる。また、図2からすると、格子定数が高ければ、コア帯電量が高くなるに従い、コアの帯電量が増加することも把握できる。ここで、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、その格子定数は、8.490よりも大きい。このようなキャリア芯材は、スピネル構造中へのカルシウムの固溶状態が良好であるため、その特性が良好である。
【0078】
図3に、実施例1に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。図4に、実施例2に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。図5に、実施例3に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。図6に、比較例1に係るキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果を示す。図3に示すキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を、図7に示す。図4に示すキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を、図8に示す。図5に示すキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を、図9に示す。図6に示すキャリア芯材の電子顕微鏡写真の視野範囲内のEDXにおけるCa元素の元素分析の結果の概略図を、図10に示す。
【0079】
図7〜図10中、ハッチングで示す領域12、15、17、19が、Caの偏析している領域を示す。また、ドットで示す領域11、14、16、18が、Caが偏析していない領域を示す。なお、図7中に示す領域12中の長径の長さ寸法Lが5mm以上のものを、Caが偏析している箇所とするものである。すなわち、図7中において、長径が5mm未満であるハッチングで示す領域13の箇所については、偏析したカルシウムの占める領域に含まれないとするものである。なお、図7において、上記した粒子断面積Sは、領域11、領域12、領域13を全て足し合わせたものに相当し、偏析箇所の断面積Sは、領域12に相当するものである。
【0080】
図3〜図10、表2を参照して、実施例1においては、Caが偏析している領域12、15が、非常に少ない。実施例2および実施例5についても、表2に示すデータからすると、実施例1と同様の傾向であると考えられる。また、実施例3については、Caが偏析している領域17が、相対的に少ないことが把握できる。実施例4についても、表2に示すデータからすると、実施例3と同様の傾向であると考えられる。一方、比較例1においては、Caが偏析している領域19が、多いことが把握できる。比較例2についても、表2に示すデータからすると、比較例1と同様の傾向であると考えられる。
【0081】
表2等から考察すると、一次粒子の体積平均粒径が大きくなるに従い、カルシウムの偏析した領域の割合が増加する傾向があるのが把握できる。また、カルシウムの偏析度合いと、コア帯電量との間に、多少の相関関係があることも推測できる。すなわち、偏析したカルシウムの占める領域の割合が増加すれば、コア帯電量が減少していく傾向があると考えられる。ここで、偏析したカルシウムの占める領域の割合に関しては、実施例1〜実施例5については、いずれも4%以下であり、比較例1は、5.6%、比較例2は、6.0%である。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材は、鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子断面を電子顕微鏡で3000倍に拡大し、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy:エネルギー分散X線分光法)においてカルシウム元素をマッピングして観察した場合に、偏析したカルシウムの占める領域は、粒子断面全体の4%以下である。
【0082】
次に、得られたキャリア芯材を用いて、電子写真現像剤用キャリアおよび電子写真現像剤を作製し、これらの評価も行った。評価結果については、表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
ここで、電子写真現像剤用キャリアの製造方法について説明する。キャリア芯材は、次の方法で樹脂コーティングを行った。シリコーン系樹脂(商品名:KR251、信越化学株式会社製)をトルエンに溶解させてコーティング樹脂溶液を準備した。そして、上記のようにして得られたキャリア芯材とコーティング樹脂溶液とを重量比でキャリア芯材:コーティング樹脂溶液=9:1の割合で攪拌機に導入し、コーティング樹脂溶液にキャリア芯材を3時間浸漬しながら150℃〜250℃にて加熱攪拌した。これにより、樹脂がキャリア芯材の重量に対し、1.0重量%の割合でコーティングされたキャリア芯材を得た。この樹脂によって被覆(コーティング)されたキャリア芯材を熱風循環式加熱装置に設置し、250℃で5時間加熱を行い、このコーティング樹脂を硬化させて、実施例1に係る電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0085】
この電子写真現像剤用キャリアと、粒子径数μm程度の市販のトナーとを、V型ブレンダーまたはポットミルで混合し、電子写真現像剤を得た。そして、このようにして得られた電子写真現像剤を用いて、画像特性を評価した。
【0086】
画像特性は、デジタル反転現像方式を採用する60枚機を評価機として使用し、このようにして得られた電子写真現像剤を用いて、キャリア飛び、画像濃度、カブリ濃度、細線再現性、画質について、初期から200K枚(K:1000枚)の耐刷試験を実施した。これらの評価項目のうち、「画質」については、全体的な評価を示したものである。評価基準としては、◎(二重丸)については、非常に良好なレベル、○(一重丸)については、良好なレベル、△(三角)については、一応使用可能なレベル、×(バツ)については、使用不可能なレベルとした。ここで、○(一重丸)の評価が、現在実用化されている高性能な電子写真現像剤と同等のレベルであり、○(一重丸)の評価以上を合格と判定した。
【0087】
表3を参照して、実施例1〜実施例5に係る電子写真用現像剤については、初期のみならず、100K枚後および200K枚後において、画像濃度、カブリ濃度、細線再現性、および画質の観点から、非常に良好なレベルまたは良好なレベルを維持している。一方、比較例1および比較例2においては、初期において画像濃度、カブリ濃度、細線再現性、および画質の観点から、非常に良好なレベルまたは良好なレベルであるものの、100K枚後においては、一応使用可能なレベルや使用不可能なレベルの項目が発生し、200K枚後においては、一応使用可能なレベルや使用不可能なレベルの項目が増加していっている。
【0088】
以上より、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤によれば、その特性が良好である。
【0089】
なお、上記の実施の形態においては、製造方法として、鉄を含む原料と、マンガンを含む原料と、カルシウムを含む原料と、マグネシウムを含む原料とを準備し、これらを混合して、本願発明に係るキャリア芯材を得ることとしたが、これに限らず、例えば、CaSiO等のSiの金属酸化物を準備し、これらを混合して、本願発明に係るキャリア芯材を得ることにしてもよい。
【0090】
また、上記の実施の形態において、マグネシウムをキャリア芯材に含まれる原料としたが、マグネシウムを含まない構成としてもよい。
【0091】
なお、上記の実施の形態においては、混合工程において、カルシウムを含む原料を、溶液状態として混合することとしたが、これに限らず、粉末状態のまま混合することとしてもよい。
【0092】
また、上記の実施の形態において、酸素量については、キャリア芯材に過剰に含有させるために、焼成工程における冷却時の酸素濃度を所定の濃度よりも高くすることとしたが、これに限らず、例えば、原料混合工程における配合比率を調整して、キャリア芯材に過剰に含有させることとしてもよい。また、冷却する前の工程である焼結反応を進める工程において、冷却工程と同じ雰囲気下で行なうこととしてもよい。
【0093】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0094】
この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤は、高画質が要求される複写機等に適用される場合に、有効に利用される。
【符号の説明】
【0095】
11,12,13,14,15,16,17,18,19 領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、
鉄を含む原料、マンガンを含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、
前記混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、
前記造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備え、
前記カルシウムを含む原料は、粒状であって、
その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下である、電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程は、前記カルシウムを含む原料を、溶液状態として混合する工程を含む、請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程は、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一つを、前記カルシウムを含む原料として混合する工程を含む、請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程は、さらにマグネシウムを含む原料を混合する工程を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項5】
鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
鉄を含む原料、マンガンを含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成され、
前記カルシウムを含む原料は、粒状であって、
その一次粒子の体積平均粒径は、1μm以下である、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項6】
鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
その格子定数は、8.490よりも大きい、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項7】
鉄、マンガン、およびカルシウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子断面を電子顕微鏡で3000倍に拡大し、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy:エネルギー分散X線分光法)においてカルシウム元素をマッピングして観察した場合に、偏析したカルシウムの占める領域は、粒子断面全体の4%以下である、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項8】
電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、
請求項5〜7のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材と、
前記電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える、電子写真現像剤用キャリア。
【請求項9】
電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、
請求項8に記載の電子写真現像剤用キャリアと、
前記電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える、電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−177829(P2012−177829A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41343(P2011−41343)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】