電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤
【課題】特性が良好であって、安価に製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供する。
【解決手段】電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、混合工程により混合されるカルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【解決手段】電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、混合工程により混合されるカルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材(以下、単に「キャリア芯材」ということもある)の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア(以下、単に「キャリア」ということもある)、および電子写真現像剤(以下、単に「現像剤」ということもある)に関するものであり、特に、複写機やMFP(Multifunctional Printer)等に用いられる電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やMFP等においては、電子写真における乾式の現像方式として、トナーのみを現像剤の成分とする一成分系現像剤と、トナーおよびキャリアを現像剤の成分とする二成分系現像剤とがある。いずれの現像方式においても、所定の電荷量に帯電させたトナーを感光体に供給する。そして、感光体上に形成された静電潜像をトナーによって可視化し、これを用紙に転写する。その後、トナーによる可視画像を用紙に定着させ、所望の画像を得る。
【0003】
ここで、二成分系現像剤における現像について、簡単に説明する。現像器内には、所定量のトナーおよび所定量のキャリアが収容されている。現像器には、S極とN極とが周方向に交互に複数設けられた回転可能なマグネットローラおよびトナーとキャリアとを現像器内で攪拌混合する攪拌ローラが備えられている。磁性粉から構成されるキャリアは、マグネットローラによって担持される。このマグネットローラの磁力により、キャリア粒子による直鎖状の磁気ブラシが形成される。キャリア粒子の表面には、攪拌による摩擦帯電により複数のトナー粒子が付着している。マグネットローラの回転により、この磁気ブラシを感光体に当てるようにして、感光体の表面にトナーを供給する。二成分系現像剤においては、このようにして現像を行なう。
【0004】
トナーについては、用紙への定着により現像器内のトナーが順次消費されていくため、現像器に取り付けられたトナーホッパーから、消費された量に相当する新しいトナーが、現像器内に随時供給される。一方、キャリアについては、現像による消費がなく、寿命に達するまでそのまま用いられる。二成分系現像剤の構成材料であるキャリアには、攪拌による摩擦帯電により効率的にトナーを帯電させるトナー帯電機能や絶縁性、感光体にトナーを適切に搬送して供給するトナー搬送能力等、種々の機能が求められる。
【0005】
昨今において、上記したキャリアは、そのコア、すなわち、核となる部分を構成するキャリア芯材と、このキャリア芯材の表面を被覆するようにして設けられるコーティング樹脂とから構成されている。
【0006】
ここで、キャリアの磁性体粒子に関する技術が、特許第3641728号(特許文献1)に開示されている。特許文献1によると、キャリアの磁性体粒子の電気抵抗及び帯電量を制御する成分、あるいは、焼結促進剤としてCaO(酸化カルシウム)、CaCO3(炭酸カルシウム)といった金属化合物があると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3641728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
キャリア芯材については、電気的特性が良好であること、具体的には、例えば、キャリア芯材自体の帯電量の高いことが望まれる。
【0009】
昨今においては、キャリア芯材自体の帯電能力、具体的には、キャリア芯材の帯電量を高くすることが、特に強く望まれる傾向にある。一般的には、キャリア芯材は、その電気的特性の向上等の観点から、表面にコーティング樹脂を被覆させて用いられる。ここで、現像器内での攪拌によるストレス等で、コーティング樹脂の一部が剥がれてしまい、キャリア芯材の表面が露出する場合もある。このような状況においては、キャリア芯材自体の露出した表面とトナーとの摩擦による帯電能力等が強く求められる。もちろん、磁気的特性等、その他の特性についても、良好なことが好ましい。
【0010】
また、キャリア芯材については、上記したようにコーティング樹脂が被覆されるが、この被覆するコーティング樹脂については、その量の低減が望まれる。すなわち、同等の性能を有するキャリアを製造する際において、キャリア芯材を被覆するコーティング樹脂が少なければ、製造時におけるコストダウンを図ることができる。さらには、全体的なコーティング樹脂の量の低減に加え、コート条件、すなわち、キャリア芯材に対するコーティング樹脂の被覆の条件の検討等に要する労力や、コート条件の誤差等に起因する物性的な影響についても低減することができる。
【0011】
この発明の目的は、特性が良好であって、安価に製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供することである。
【0012】
この発明の他の目的は、特性が良好であって、安価に製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を提供することである。
【0013】
この発明のさらに他の目的は、特性が良好であって、安価に製造することができる電子写真現像剤用キャリアを提供することである。
【0014】
この発明のさらに他の目的は、高画質であって、安価に製造することができる電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、キャリア芯材の特性、具体的には、キャリア芯材に要求される電気的特性の一つである帯電性能を向上させるために、キャリア芯材における摩擦帯電能力の向上を図るべく、金属元素であるカルシウム(Ca)を、キャリア芯材のコアの成分として添加しようと考えた。ここで、本願発明者らは、キャリア芯材の構成材料として含有されるカルシウムについて、製造されるキャリア芯材の表面性への影響を考慮する必要があると考えた。すなわち、本願発明者らは、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とするキャリア芯材において、良好な表面性、具体的には、キャリア芯材の表面において凹凸度合いが低ければ、コーティング樹脂の量の低減を図ることができると考えた。ここで、造粒工程や焼成工程を経て得られるキャリア芯材において、製造時、具体的には、焼成時での結晶の良好な粒子成長における凹凸の少ない表面性の実現を図ることを考えた。
【0016】
すなわち、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、混合工程により混合されるカルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0017】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材については、カルシウムがコア組成として添加されているため、キャリア芯材に要求される特性の一つである帯電性能を高くすることができる。ここで、カルシウムを含む原料を用いる際に、特許文献1に開示された一般的に安価な材料として用いられる水に不溶性のCaOやCaCO3ではなく、水溶性のカルシウム塩を含む原料としているため、製造時においてキャリア芯材の表面の凹凸度合いを小さくし、比較的平滑な表面とすることができる。そうすると、キャリア芯材の表面において、後のコーティング樹脂の被覆の際に、凹んだ部分を埋めるために必要な樹脂を要せず、コーティング樹脂の量を大きく低減することができる。また、磁気的特性等においても、高いレベルを維持することができる。したがって、このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法によれば、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を、安価に製造することができる。
【0018】
なお、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材について、x=0の場合は、いわゆる不可避的な不純物を除いて、鉄およびカルシウムをコア組成として含むものである。
【0019】
好ましくは、水溶性のカルシウム塩のうちの塩は、還元性を有する物質で構成されている。このように構成することにより、より表面の凹凸度合いの低いキャリア芯材を製造することができる。
【0020】
さらに好ましい一実施形態として、水溶性のカルシウム塩は、Ca(CH3COO)2(酢酸カルシウム)を含む。このようなカルシウム塩は、比較的安価に入手することができると共に、取扱い性が良好であるため、製造時における効率をさらに向上することができる。
【0021】
この発明の他の局面において、電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相が形成される。ここで、カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0022】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0023】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子表面をレーザー顕微鏡で500倍に拡大して観察した場合に、断面曲面内のX方向の長さをLとし、断面曲面内のY方向の長さをMとし、断面曲面をf(x、y)とすると、数1の式で表される表面性SRaの値が、0.800以下である。
【0024】
【数1】
【0025】
好ましくは、電子写真現像剤用キャリア芯材のコア帯電量は、10μC/g以上である。
【0026】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記したいずれかの電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。
【0027】
このような電子写真現像剤用キャリアは、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0028】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。
【0029】
このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、高画質であって、安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法によれば、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を、安価に製造することができる。
【0031】
また、このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0032】
また、このような電子写真現像剤用キャリアは、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0033】
また、このような電子写真現像剤は、高画質であって、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。
【図2】参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】図2に示す参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。
【図6】図3に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。
【図7】図4に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。
【図8】比較例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成過程における粒状粉の概略図である。
【図9】実施例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成過程における粒状粉の概略図である。
【図10】比較例3に係る樹脂被覆後のキャリア表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例3に係る樹脂被覆後のキャリア表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図12】図10に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。
【図13】図11に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材について説明する。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材については、その外形形状が、略球形状である。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の粒径は、約38μmであり、適当な粒度分布を有している。すなわち、上記した粒径は、体積平均粒径を意味する。この粒径および粒度分布については、要求される現像剤の特性や製造工程における歩留まり等により任意に設定される。キャリア芯材の表面には、主に後述する焼成工程で形成される微小の凹凸が形成されている。この凹凸度合いについては、後述する。
【0036】
この発明の一実施形態に係るキャリアについても、キャリア芯材と同様に、その外形形状が、略球形状である。キャリアは、キャリア芯材の表面に薄く樹脂をコーティング、すなわち被覆したものであり、その粒径についても、キャリア芯材とほとんど変化は無い。
【0037】
この発明の一実施形態に係る現像剤は、上記したキャリアと、トナーとから構成されている。トナーの外形形状についても、略球形状である。トナーは、スチレンアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂を主成分とするものであり、所定量の顔料やワックス等が配合されている。このようなトナーは、例えば、粉砕法や重合法によって製造される。トナーの粒径は、例えば、キャリアの粒径の7分の1程度の約5μm程度のものが使用される。また、トナーとキャリアの配合比についても、要求される現像剤の特性等に応じて、任意に設定される。このような現像剤は、所定量のキャリアとトナーとを適当な混合器で混合することにより製造される。
【0038】
次に、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。以下、図1に沿って、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の製造方法について説明する。なお、キャリア芯材については、上記した一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とするキャリア芯材において、x=0、すなわち、一般式:CayFe3―yO4で表されるものを、主として説明する。
【0039】
まず、鉄を含む原料と、カルシウムを含む原料とを準備する。そして、準備した原料を、要求される特性に応じて、適当な配合比で配合し、これを混合する(図1(A))。ここで、適当な配合比とは、最終的に得られるキャリア芯材が、含有するような配合比である。
【0040】
この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を構成する鉄を含む原料については、金属鉄またはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在するFe2O3やFe3O4、Feなどが好適に用いられる。
【0041】
ここで、カルシウムを含む原料については、水溶性のカルシウム塩を含む原料を用いる。こうすることにより、その表面に凹凸度合いの少ないキャリア芯材を得ることができる。この場合、水溶性のカルシウム塩のうちの塩は、還元性を有する物質で構成されているものを用いるのが良い。こうすることにより、その表面に凹凸度合いの少ないキャリア芯材を得ることができる。具体的には、この場合、Ca(CH3COO)2(酢酸カルシウム)を含む原料を用いる。
【0042】
カルシウムを含む原料については、溶液状態として混合する。このようにすることにより、添加するカルシウムを含む原料の凝集の発生を効率的に抑制して、より確実にキャリア芯材中のカルシウムの分散性を向上させることができる。
【0043】
なお、上記原料(鉄原料、カルシウム原料)をそれぞれ、若しくは目的の組成になるように混合した原料を仮焼して粉砕し原料として用いても良い。ここで、キャリア芯材については、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とするように構成してもよい。
【0044】
次に、混合した原料のスラリー化を行なう(図1(B))。すなわち、これらの原料を、キャリア芯材の狙いとする組成に合わせて秤量し、混合してスラリー原料とする。
【0045】
この発明に係るキャリア芯材を製造する際の製造工程においては、後述する焼成工程の一部において、還元反応を進めるため、上述したスラリー原料へ、さらに還元剤を添加してもよい。還元剤としては、カーボン粉末やポリカルボン酸系有機物、ポリアクリル酸系有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール(PVA(polyvinyl alcohol))系有機物、及びそれらの混合物が好適に用いられる。
【0046】
上述したスラリー原料に水を加え混合攪拌して、固形分濃度を40重量%以上、好ましくは50重量%以上とする。スラリー原料の固形分濃度が50重量%以上であれば、造粒ペレットの強度を保つことができるので好ましい。
【0047】
次に、スラリー化した原料について、造粒を行なう(図1(C))。上記混合攪拌して得られたスラリーの造粒は、噴霧乾燥機を用いて行なう。なお、スラリーに対し、造粒前に、さらに湿式粉砕を施すことも好ましい。
【0048】
噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。得られた造粒粉は製品の最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、粗大粒子や微粉を除去し、この時点で粒度調整することが望ましい。
【0049】
その後、造粒した造粒物について、焼成を行なう(図1(D))。具体的には、得られた造粒粉を、900〜1500℃程度に加熱した炉に投入し、1〜24時間保持して焼成し、目的とする焼成物を生成させる。このとき、焼成炉内の酸素濃度は、フェライト化の反応が進む条件であればよく、具体的には、1200℃の場合、10−7%以上3%以下となるよう導入ガスの酸素濃度を調整し、フロー状態下で焼成を行う。
【0050】
また、先の還元剤の調整により、フェライト化に必要な還元雰囲気を制御してもよい。もっとも、工業化時に十分な生産性を確保できる反応速度を得る観点からは、900℃以上の温度が好ましい。一方、焼成温度が1500℃以下であれば、粒子同士の過剰焼結が起こらず、粉体の形態で焼成物を得ることができる。
【0051】
得られた焼成物は、さらにこの段階で粒度調整をすることが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒する。すなわち、焼成を行った粒状物について、解粒を行なう(図1(E))。その後、振動ふるいなどで分級を行なう。すなわち、解粒した粒状物について、分級を行なう(図1(F))。こうすることにより、所望の粒径を持ったキャリア芯材の粒子を得ることができる。
【0052】
このようにして、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、混合工程により混合されるカルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0053】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材については、カルシウムがコア組成として添加されているため、キャリア芯材に要求される特性の一つである帯電性能を高くすることができる。ここで、カルシウムを含む原料を用いる際に、特許文献1に開示された一般的に安価な材料として用いられる水に不溶性のCaOやCaCO3ではなく、水溶性のカルシウム塩を含む原料としているため、製造時においてキャリア芯材の表面の凹凸度合いを低くし、比較的平滑な表面とすることができる。そうすると、キャリア芯材の表面において、後のコーティング樹脂の被覆の際に、凹んだ部分を埋めるために必要な樹脂を要せず、コーティング樹脂の量を大きく低減することができる。これについては、後述する。また、磁気的特性等においても、高いレベルを維持することができる。したがって、このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法によれば、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を、安価に製造することができる。
【0054】
また、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相が形成される。ここで、カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0055】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0056】
次に、このようにして得られたキャリア芯材に対して、樹脂により被覆を行なう(図1(G))。具体的には、得られたこの発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアを得る。シリコーン系樹脂やアクリル樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行うことができる。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記した電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。このような電子写真現像剤用キャリアは、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0057】
次に、このようにして得られたキャリアとトナーとを所定量ずつ混合する(図1(H))。具体的には、上記した製造方法で得られたこの発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアと、適宜な公知のトナーとを混合する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤を得ることができる。混合は、例えば、ボールミル等、任意の混合器を用いる。この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、高画質であって、安価に製造することができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
酢酸カルシウム一水和物(Ca(CH3COO)2・H2O)74gを水3kg中に分散させて水溶液とし、Fe2O310kgを加え、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を200g、還元剤としてカーボンブラックを105g添加して混合物とした。このときの固形分濃度を測定した結果、75重量%であった。この混合物を湿式ビーズミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
【0059】
このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉は、ふるいにより除去した。この造粒粉を、電気炉に投入し、1130℃で3時間焼成した。このとき、電気炉内は酸素濃度が0.1%以下となるよう、雰囲気を調整した電気炉にフローした。得られた焼成物を解粒後にふるいを用いて分級し、平均粒径38μmとした。このようにして、実施例1に係るキャリア芯材を得た。
【0060】
得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。なお、表1に記載の添加量yについては、上記したキャリア芯材の組成を一般式:CayFe3−yO4で表した場合において、得られたキャリア芯材を以下に示す分析方法で測定して得られた結果である。以下、実施例2以降についても、yの値については、同様である。なお、この本実施形態においては、x=0とするものであり、すなわち、一般式中、ZとしてMn等を含んでいない構成である。
【0061】
(Caの分析)
キャリア芯材のCa含有量は、以下の方法で分析を行なった。本願発明に係るキャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のCa含有量は、このICPによる定量分析で得られたCa量である。
【0062】
(磁力の評価)
また、表1中の磁気的特性を示す磁化の測定については、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて、磁化率を測定した。ここで、表1中、「σ1k(1000)」とは、外部磁場1k(1000)Oeである場合における磁化であり、「σs」とは、飽和磁化であり、「σr」とは、残留磁化である。
【0063】
(平均粒径の算出)
なお、平均粒径については、体積粒径分布における中心粒径を意味し、その測定については、日機装株式会社製のマイクロトラック、Model9320−X100を用いている。
【0064】
(電気的特性の評価)
表1中の電気的特性としてのコア帯電量とは、コア、すなわち、キャリア芯材の帯電量のことである。ここで、帯電量の測定について説明する。キャリア芯材9.5g、市販のフルカラー機のトナー0.5gを100mlの栓付きガラス瓶に入れ、25℃、相対湿度50%の環境下で12時間放置して調湿する。調湿したキャリア芯材とトナーを振とう器で30分振とうし、混合する。ここで、振とう器については、株式会社ヤヨイ製のNEW−YS型を用い、200回/分、角度60°で行なった。混合したキャリア芯材とトナーを500mg計量し、帯電量測定装置で帯電量を測定した。この実施形態においては、日本パイオテク株式会社製のSTC−1−C1型を用い、吸引圧力5.0kPa、吸引用メッシュをSUS製の795meshで行なった。同一サンプルについて2回の測定を行い、これらの平均値を各コア帯電量とした。コア帯電量の算出式については、コア帯電量(μC(クーロン)/g)=実測電荷(nC)×103×係数(1.0083×10−3)÷トナー重量(吸引前重量(g)−吸引後重量(g))となる。
【0065】
(実施例2)
酢酸カルシウム一水和物の添加量を149gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
酢酸カルシウム一水和物の添加量を223gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
添加するカルシウム原料について、硝酸カルシウム水溶液(Caを9.2重量%含有)として、その添加量を182gとし、添加するカーボンブラックの量を118gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0068】
(実施例5)
硝酸カルシウム水溶液の添加量を363gとし、カーボンブラックの添加量を130gとした以外は、実施例4と同様の方法で、実施例5に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0069】
(実施例6)
硝酸カルシウム水溶液の添加量を545gとし、カーボンブラックの添加量を143gとした以外は、実施例4と同様の方法で、実施例6に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0070】
(実施例7)
酢酸カルシウム一水和物の添加量を223g、Fe2O3を6.8kgとし、さらにMn3O43.2kgを加えた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表2に示す。なお、この実施形態においては、xの値をおおよそ1とするものであり、一般式中、ZとしてMnを含む構成である。
【0071】
(参考例1)
カルシウム原料を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で、参考例1に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
添加するカルシウム原料について、炭酸カルシウムとし、その添加量を42gとした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
炭酸カルシウムの添加量を84gとした以外は、比較例1と同様の方法で、比較例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
炭酸カルシウムの添加量を125gとした以外は、比較例1と同様の方法で、比較例3に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0075】
(参考例2)
カルシウム原料を添加しない以外は、実施例7と同様の方法で、参考例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表2に示す。なお、この実施形態においては、xの値をおおよそ1とするものであり、一般式中、ZとしてMnを含む構成である。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1および表2を参照して、磁気的特性については、実施例、参考例および比較例のいずれをみても、σ1000の値は、59〜70Am2/kgであり、飽和磁化を示すσsの値は80〜92Am2/kgであることが把握できる。また、残留磁化を示すσrの値についても、0.9〜2.6Am2/kgであり、比較的低い値であることが把握できる。特に、実施例1〜3、7においては、1.1〜1.4Am2/kgであり、相当に低い値を維持している。このような残留磁化の低い値のキャリア芯材を用いると、磁気ブラシを良好に形成することができる。
【0079】
電気的特性については、実施例1、実施例2、および実施例3において、コア帯電量がそれぞれ11.7μC/g、16.0μC/g、16.4μC/gであり、いずれの場合についても10.0μC/g以上である。また、実施例4〜6についても、コア帯電量がそれぞれ11.7μC/g、17.0μC/g、19.2μC/gであり、いずれの場合についても10.0μC/g以上である。また、実施例7については、コア帯電量が24.8μC/gと相当高い値である。すなわち、帯電量の高いものを求める場合、ZとしてMnを含む構成とすればよい。これに対し、Caを含まない参考例1の場合、4.4μC/gであり、参考例2の場合、4.5μC/gである。すなわち、実施例1〜7については、高い帯電性能を維持している。
【0080】
ここで、参考例、実施例および比較例に係るキャリア芯材の表面について検討する。図2は、参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図3は、比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図4は、実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図5は、図2に示す参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。図6は、図3に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。図7は、図4に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。図2〜図4については、5000倍に拡大した場合である。図5〜図7については、理解の容易の観点から、それぞれ図2〜図4に示す電子顕微鏡写真に基づいて図示している。
【0081】
図2〜図7を参照して、参考例1については、カルシウムを添加していない系であるが、キャリア芯材11の表面において比較的凹凸度合いが高く、結晶粒界と見られる境界12が多数存在しており、粒子としてのグレイン13が適度に成長している。ここで、比較例3について見てみると、参考例1と比較して、キャリア芯材14の表面の凹凸度合いがさらに高くなっている。そして、結晶粒界と見られる境界15がかなり多数存在しており、グレイン16がほとんど成長しておらず、そのサイズが小さいままである。これに対し、実施例3については、参考例1と比較して、キャリア芯材17の表面の凹凸度合いが低く、結晶粒界と見られる境界18が少ない。そして、1つ1つのグレイン19が大きく成長しているのが把握できる。
【0082】
これについては、以下の現象が生じていると推察される。図8は、比較例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成段階における粒状物の概略図である。図9は、実施例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成段階における粒状物の概略図である。
【0083】
まず、図8を参照して、比較例3に係る粒状粉21においては、水に不溶な炭酸カルシウムの粒子22が、ヘマタイト(Fe2O3)相23の間に分散して介在している。そして、その介在した炭酸カルシウムの粒子22が、焼成工程における磁性相の形成過程において、マグネタイト相24を形成するグレインの成長を阻害していると考えられる。これに対し、図9を参照して、実施例3に係る粒状粉25については、水溶性のカルシウム塩である酢酸カルシウムが添加されているが、水溶性であるため、ヘマタイト相26の間に分散して介在せず、図9における不図示のイオンとして、ヘマタイト相26の表面に付着するような状態で存在していると考えられる。そして、焼成工程における磁性相の形成過程において、マグネタイト相27を形成するグレインの成長が抑制されず、大きく成長し、その結果、結晶粒界が少なく、表面の凹凸度合いが低いキャリア芯材が製造されると考えられる。
【0084】
なお、水溶性のカルシウム塩のうちの塩については、酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)のように還元性を有する物質や、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)のように酸化性を有する物質で構成されているが、酢酸カルシウムのように還元性を有する物質で構成されていることが好ましい。このように構成することにより、ヘマタイト相が残留することなく、ヘマタイト相によってマグネタイト相の成長が阻害されないためであると推察される。なお、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)のように酸化性を有する物質を添加する場合には、混合工程において添加するカーボンブラック等の還元剤を、還元性を有する物質の場合と比べて過剰に添加するとよい。上記した実施例4〜6においては、このように構成している。
【0085】
次に、キャリア芯材の表面性について説明する。表面性の測定については、以下のように行った。まず、レーザー顕微鏡を用い、キャリア芯材の表面の凹凸を読み取り、表面粗さの解析を行った。具体的には、レーザー顕微鏡(LEXT OLS3000、OLYMPUS(オリンパス)株式会社製)を用い、まず、100倍の対物レンズで得た像をデジタルズームでさらに5倍に拡大し、キャリア芯材粒子の球の中心を視野の中心として、26μm×19μmの視野とした。このとき、レーザーの出力は、100、取り込み速度はfast(ファースト)とし、取り込みの下限位置および上限位置は、共焦点画像において焦点の一致している点が消失した地点をそれぞれ手動で設定することとした。表面粗さの解析については、取り込んだ26μm×19μmの領域の全てを使用した。カットオフ値λは、1/10とした。最小高さの識別は、断面曲線においては、Pzの10%、粗さ局全においては、Rzの10%、うねり曲線においては、Wzの10%とした。ここで、断面曲線とは、読み込まれた凹凸曲線、粗さ曲線とは、断面曲線からカットオフ値λとして設定した波長よりも長いうねり成分を除去して得られた曲線、うねり曲線とは、カットオフ値λとして設定した波長より長いうねり成分を取り出した曲線をそれぞれ示す。また、Pzは、断面曲線の最大高さ、Rzは、最大高さ粗さ、Wzは、最大高さうねりをそれぞれ示す。最小長さの識別は、基準長さの1%とした。ここで、基準長さとは、指定断面の中央の1/3の領域を示す。ただし、基準長さについて、断面曲線の場合は、評価長さに等しい。なお、SRaの値については、20視野測定平均の値を用いている。
【0086】
表面性については、比較例1については、SRaの値が、0.838であり、比較例2については、SRaの値が、0.920であり、比較例3については、SRaの値が、0.886である。比較例1〜比較例3のように炭酸カルシウムを添加すれば、凹凸度合いが高くなり、その値が高くなる。ここで、実施例1については、SRaの値が、0.761であり、実施例2については、SRaの値が、0.735であり、実施例3については、SRaの値が、0.724である。実施例1〜3については、水溶性のカルシウム塩のうちの塩が還元性を有する物質である酢酸カルシウムの添加量が増加するにつれ、SRaの値が減少していく。また、実施例4については、SRaの値が、0.764であり、実施例5については、SRaの値が、0.700であり、実施例6については、SRaの値が、0.763である。実施例4〜6についても、SRaの値が低く、実施例4、6については、実施例1と同等であり、実施例5については、非常に低い値である。ここで、この発明に係るキャリア芯材によると、表面性SRaについては、その値が少なくとも0.800以下である。すなわち、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材は、電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子表面をレーザー顕微鏡で500倍に拡大して観察した場合に、断面曲面内のX方向の長さをLとし、断面曲面内のY方向の長さをMとし、断面曲面をf(x、y)とすると、数1の式で表される表面性SRaの値が、0.800以下である。
【0087】
【数1】
【0088】
さらに具体的には、実施例1〜6については、参考例1に示す0.781よりもその値が小さく、その値が0.780以下である。
【0089】
次に、得られたキャリア芯材を用いて、電子写真現像剤用キャリアを作製し、評価も行った。
【0090】
ここで、電子写真現像剤用キャリアの製造方法について説明する。キャリア芯材は、次の方法で樹脂コーティングを行った。シリコーン系樹脂(商品名:SR−2411、東レ・ダウコーニング社製)をトルエンに溶解させてコーティング樹脂溶液を準備した。そして、コート量が2.20重量%となるような割合で攪拌機に導入し、コーティング樹脂溶液にキャリア芯材を30分間120℃で浸漬し、30分間200℃にて加熱攪拌した。これにより、樹脂がキャリア芯材の重量に対し、2.20重量%の割合でコーティングされたキャリア芯材を得た。なお、コート量の算出については、以下の式により求められる。
【0091】
コート量(重量%)=樹脂重量(g)×固形分濃度(重量%)/コア重量(g)
【0092】
この樹脂によって被覆(コーティング)されたキャリア芯材を熱風循環式加熱装置に設置し、200℃で30分間加熱を行い、このコーティング樹脂を硬化させて、実施例1に係る電子写真現像剤用キャリアを得た。実施例2等についても、同様の方法を行い、電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0093】
図10は、比較例3に係るキャリアの表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図11は、実施例3に係るキャリアの表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図12は、図10に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。図13は、図10に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。図10、および図11については、2000倍に拡大した場合である。図12、および図13については、理解の容易の観点から、それぞれ図10、図11に示す電子顕微鏡写真に基づいて図示している。図12、および図13については、ドットでコーティング樹脂がコートされた領域を示している。
【0094】
図10〜図13を参照して、同じコート量において、実施例3に係るキャリアについては、その表面がコーティング樹脂に広く覆われていることが把握できる。これに対し、比較例3に係るキャリアについては、その表面においてコーティング樹脂に覆われていない領域が相当広いことが把握できる。すなわち、実施例3に係るキャリアについては、コーティング樹脂の量の大きな低減を実現できていることが把握できる。
【0095】
なお、上記の実施の形態においては、混合工程において、カルシウムを含む原料を、溶液状態として混合することとしたが、これに限らず、粉末状態のまま混合することとしてもよい。
【0096】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤は、高画質が要求される複写機等に適用される場合に、有効に利用される。
【符号の説明】
【0098】
11,14,17 キャリア芯材、12,15,18 境界、13,16,19 グレイン、21,25 造粒粉、22 粒子、23,26 ヘマタイト相、24,27 マグネタイト相。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材(以下、単に「キャリア芯材」ということもある)の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア(以下、単に「キャリア」ということもある)、および電子写真現像剤(以下、単に「現像剤」ということもある)に関するものであり、特に、複写機やMFP(Multifunctional Printer)等に用いられる電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やMFP等においては、電子写真における乾式の現像方式として、トナーのみを現像剤の成分とする一成分系現像剤と、トナーおよびキャリアを現像剤の成分とする二成分系現像剤とがある。いずれの現像方式においても、所定の電荷量に帯電させたトナーを感光体に供給する。そして、感光体上に形成された静電潜像をトナーによって可視化し、これを用紙に転写する。その後、トナーによる可視画像を用紙に定着させ、所望の画像を得る。
【0003】
ここで、二成分系現像剤における現像について、簡単に説明する。現像器内には、所定量のトナーおよび所定量のキャリアが収容されている。現像器には、S極とN極とが周方向に交互に複数設けられた回転可能なマグネットローラおよびトナーとキャリアとを現像器内で攪拌混合する攪拌ローラが備えられている。磁性粉から構成されるキャリアは、マグネットローラによって担持される。このマグネットローラの磁力により、キャリア粒子による直鎖状の磁気ブラシが形成される。キャリア粒子の表面には、攪拌による摩擦帯電により複数のトナー粒子が付着している。マグネットローラの回転により、この磁気ブラシを感光体に当てるようにして、感光体の表面にトナーを供給する。二成分系現像剤においては、このようにして現像を行なう。
【0004】
トナーについては、用紙への定着により現像器内のトナーが順次消費されていくため、現像器に取り付けられたトナーホッパーから、消費された量に相当する新しいトナーが、現像器内に随時供給される。一方、キャリアについては、現像による消費がなく、寿命に達するまでそのまま用いられる。二成分系現像剤の構成材料であるキャリアには、攪拌による摩擦帯電により効率的にトナーを帯電させるトナー帯電機能や絶縁性、感光体にトナーを適切に搬送して供給するトナー搬送能力等、種々の機能が求められる。
【0005】
昨今において、上記したキャリアは、そのコア、すなわち、核となる部分を構成するキャリア芯材と、このキャリア芯材の表面を被覆するようにして設けられるコーティング樹脂とから構成されている。
【0006】
ここで、キャリアの磁性体粒子に関する技術が、特許第3641728号(特許文献1)に開示されている。特許文献1によると、キャリアの磁性体粒子の電気抵抗及び帯電量を制御する成分、あるいは、焼結促進剤としてCaO(酸化カルシウム)、CaCO3(炭酸カルシウム)といった金属化合物があると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3641728号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
キャリア芯材については、電気的特性が良好であること、具体的には、例えば、キャリア芯材自体の帯電量の高いことが望まれる。
【0009】
昨今においては、キャリア芯材自体の帯電能力、具体的には、キャリア芯材の帯電量を高くすることが、特に強く望まれる傾向にある。一般的には、キャリア芯材は、その電気的特性の向上等の観点から、表面にコーティング樹脂を被覆させて用いられる。ここで、現像器内での攪拌によるストレス等で、コーティング樹脂の一部が剥がれてしまい、キャリア芯材の表面が露出する場合もある。このような状況においては、キャリア芯材自体の露出した表面とトナーとの摩擦による帯電能力等が強く求められる。もちろん、磁気的特性等、その他の特性についても、良好なことが好ましい。
【0010】
また、キャリア芯材については、上記したようにコーティング樹脂が被覆されるが、この被覆するコーティング樹脂については、その量の低減が望まれる。すなわち、同等の性能を有するキャリアを製造する際において、キャリア芯材を被覆するコーティング樹脂が少なければ、製造時におけるコストダウンを図ることができる。さらには、全体的なコーティング樹脂の量の低減に加え、コート条件、すなわち、キャリア芯材に対するコーティング樹脂の被覆の条件の検討等に要する労力や、コート条件の誤差等に起因する物性的な影響についても低減することができる。
【0011】
この発明の目的は、特性が良好であって、安価に製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供することである。
【0012】
この発明の他の目的は、特性が良好であって、安価に製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を提供することである。
【0013】
この発明のさらに他の目的は、特性が良好であって、安価に製造することができる電子写真現像剤用キャリアを提供することである。
【0014】
この発明のさらに他の目的は、高画質であって、安価に製造することができる電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者らは、キャリア芯材の特性、具体的には、キャリア芯材に要求される電気的特性の一つである帯電性能を向上させるために、キャリア芯材における摩擦帯電能力の向上を図るべく、金属元素であるカルシウム(Ca)を、キャリア芯材のコアの成分として添加しようと考えた。ここで、本願発明者らは、キャリア芯材の構成材料として含有されるカルシウムについて、製造されるキャリア芯材の表面性への影響を考慮する必要があると考えた。すなわち、本願発明者らは、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とするキャリア芯材において、良好な表面性、具体的には、キャリア芯材の表面において凹凸度合いが低ければ、コーティング樹脂の量の低減を図ることができると考えた。ここで、造粒工程や焼成工程を経て得られるキャリア芯材において、製造時、具体的には、焼成時での結晶の良好な粒子成長における凹凸の少ない表面性の実現を図ることを考えた。
【0016】
すなわち、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、混合工程により混合されるカルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0017】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材については、カルシウムがコア組成として添加されているため、キャリア芯材に要求される特性の一つである帯電性能を高くすることができる。ここで、カルシウムを含む原料を用いる際に、特許文献1に開示された一般的に安価な材料として用いられる水に不溶性のCaOやCaCO3ではなく、水溶性のカルシウム塩を含む原料としているため、製造時においてキャリア芯材の表面の凹凸度合いを小さくし、比較的平滑な表面とすることができる。そうすると、キャリア芯材の表面において、後のコーティング樹脂の被覆の際に、凹んだ部分を埋めるために必要な樹脂を要せず、コーティング樹脂の量を大きく低減することができる。また、磁気的特性等においても、高いレベルを維持することができる。したがって、このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法によれば、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を、安価に製造することができる。
【0018】
なお、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材について、x=0の場合は、いわゆる不可避的な不純物を除いて、鉄およびカルシウムをコア組成として含むものである。
【0019】
好ましくは、水溶性のカルシウム塩のうちの塩は、還元性を有する物質で構成されている。このように構成することにより、より表面の凹凸度合いの低いキャリア芯材を製造することができる。
【0020】
さらに好ましい一実施形態として、水溶性のカルシウム塩は、Ca(CH3COO)2(酢酸カルシウム)を含む。このようなカルシウム塩は、比較的安価に入手することができると共に、取扱い性が良好であるため、製造時における効率をさらに向上することができる。
【0021】
この発明の他の局面において、電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相が形成される。ここで、カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0022】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0023】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子表面をレーザー顕微鏡で500倍に拡大して観察した場合に、断面曲面内のX方向の長さをLとし、断面曲面内のY方向の長さをMとし、断面曲面をf(x、y)とすると、数1の式で表される表面性SRaの値が、0.800以下である。
【0024】
【数1】
【0025】
好ましくは、電子写真現像剤用キャリア芯材のコア帯電量は、10μC/g以上である。
【0026】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記したいずれかの電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。
【0027】
このような電子写真現像剤用キャリアは、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0028】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。
【0029】
このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、高画質であって、安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法によれば、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を、安価に製造することができる。
【0031】
また、このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0032】
また、このような電子写真現像剤用キャリアは、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0033】
また、このような電子写真現像剤は、高画質であって、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。
【図2】参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】図2に示す参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。
【図6】図3に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。
【図7】図4に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。
【図8】比較例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成過程における粒状粉の概略図である。
【図9】実施例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成過程における粒状粉の概略図である。
【図10】比較例3に係る樹脂被覆後のキャリア表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例3に係る樹脂被覆後のキャリア表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。
【図12】図10に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。
【図13】図11に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材について説明する。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材については、その外形形状が、略球形状である。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の粒径は、約38μmであり、適当な粒度分布を有している。すなわち、上記した粒径は、体積平均粒径を意味する。この粒径および粒度分布については、要求される現像剤の特性や製造工程における歩留まり等により任意に設定される。キャリア芯材の表面には、主に後述する焼成工程で形成される微小の凹凸が形成されている。この凹凸度合いについては、後述する。
【0036】
この発明の一実施形態に係るキャリアについても、キャリア芯材と同様に、その外形形状が、略球形状である。キャリアは、キャリア芯材の表面に薄く樹脂をコーティング、すなわち被覆したものであり、その粒径についても、キャリア芯材とほとんど変化は無い。
【0037】
この発明の一実施形態に係る現像剤は、上記したキャリアと、トナーとから構成されている。トナーの外形形状についても、略球形状である。トナーは、スチレンアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂を主成分とするものであり、所定量の顔料やワックス等が配合されている。このようなトナーは、例えば、粉砕法や重合法によって製造される。トナーの粒径は、例えば、キャリアの粒径の7分の1程度の約5μm程度のものが使用される。また、トナーとキャリアの配合比についても、要求される現像剤の特性等に応じて、任意に設定される。このような現像剤は、所定量のキャリアとトナーとを適当な混合器で混合することにより製造される。
【0038】
次に、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。以下、図1に沿って、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の製造方法について説明する。なお、キャリア芯材については、上記した一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とするキャリア芯材において、x=0、すなわち、一般式:CayFe3―yO4で表されるものを、主として説明する。
【0039】
まず、鉄を含む原料と、カルシウムを含む原料とを準備する。そして、準備した原料を、要求される特性に応じて、適当な配合比で配合し、これを混合する(図1(A))。ここで、適当な配合比とは、最終的に得られるキャリア芯材が、含有するような配合比である。
【0040】
この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を構成する鉄を含む原料については、金属鉄またはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在するFe2O3やFe3O4、Feなどが好適に用いられる。
【0041】
ここで、カルシウムを含む原料については、水溶性のカルシウム塩を含む原料を用いる。こうすることにより、その表面に凹凸度合いの少ないキャリア芯材を得ることができる。この場合、水溶性のカルシウム塩のうちの塩は、還元性を有する物質で構成されているものを用いるのが良い。こうすることにより、その表面に凹凸度合いの少ないキャリア芯材を得ることができる。具体的には、この場合、Ca(CH3COO)2(酢酸カルシウム)を含む原料を用いる。
【0042】
カルシウムを含む原料については、溶液状態として混合する。このようにすることにより、添加するカルシウムを含む原料の凝集の発生を効率的に抑制して、より確実にキャリア芯材中のカルシウムの分散性を向上させることができる。
【0043】
なお、上記原料(鉄原料、カルシウム原料)をそれぞれ、若しくは目的の組成になるように混合した原料を仮焼して粉砕し原料として用いても良い。ここで、キャリア芯材については、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とするように構成してもよい。
【0044】
次に、混合した原料のスラリー化を行なう(図1(B))。すなわち、これらの原料を、キャリア芯材の狙いとする組成に合わせて秤量し、混合してスラリー原料とする。
【0045】
この発明に係るキャリア芯材を製造する際の製造工程においては、後述する焼成工程の一部において、還元反応を進めるため、上述したスラリー原料へ、さらに還元剤を添加してもよい。還元剤としては、カーボン粉末やポリカルボン酸系有機物、ポリアクリル酸系有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール(PVA(polyvinyl alcohol))系有機物、及びそれらの混合物が好適に用いられる。
【0046】
上述したスラリー原料に水を加え混合攪拌して、固形分濃度を40重量%以上、好ましくは50重量%以上とする。スラリー原料の固形分濃度が50重量%以上であれば、造粒ペレットの強度を保つことができるので好ましい。
【0047】
次に、スラリー化した原料について、造粒を行なう(図1(C))。上記混合攪拌して得られたスラリーの造粒は、噴霧乾燥機を用いて行なう。なお、スラリーに対し、造粒前に、さらに湿式粉砕を施すことも好ましい。
【0048】
噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。得られた造粒粉は製品の最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、粗大粒子や微粉を除去し、この時点で粒度調整することが望ましい。
【0049】
その後、造粒した造粒物について、焼成を行なう(図1(D))。具体的には、得られた造粒粉を、900〜1500℃程度に加熱した炉に投入し、1〜24時間保持して焼成し、目的とする焼成物を生成させる。このとき、焼成炉内の酸素濃度は、フェライト化の反応が進む条件であればよく、具体的には、1200℃の場合、10−7%以上3%以下となるよう導入ガスの酸素濃度を調整し、フロー状態下で焼成を行う。
【0050】
また、先の還元剤の調整により、フェライト化に必要な還元雰囲気を制御してもよい。もっとも、工業化時に十分な生産性を確保できる反応速度を得る観点からは、900℃以上の温度が好ましい。一方、焼成温度が1500℃以下であれば、粒子同士の過剰焼結が起こらず、粉体の形態で焼成物を得ることができる。
【0051】
得られた焼成物は、さらにこの段階で粒度調整をすることが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒する。すなわち、焼成を行った粒状物について、解粒を行なう(図1(E))。その後、振動ふるいなどで分級を行なう。すなわち、解粒した粒状物について、分級を行なう(図1(F))。こうすることにより、所望の粒径を持ったキャリア芯材の粒子を得ることができる。
【0052】
このようにして、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、混合工程により混合されるカルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0053】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材については、カルシウムがコア組成として添加されているため、キャリア芯材に要求される特性の一つである帯電性能を高くすることができる。ここで、カルシウムを含む原料を用いる際に、特許文献1に開示された一般的に安価な材料として用いられる水に不溶性のCaOやCaCO3ではなく、水溶性のカルシウム塩を含む原料としているため、製造時においてキャリア芯材の表面の凹凸度合いを低くし、比較的平滑な表面とすることができる。そうすると、キャリア芯材の表面において、後のコーティング樹脂の被覆の際に、凹んだ部分を埋めるために必要な樹脂を要せず、コーティング樹脂の量を大きく低減することができる。これについては、後述する。また、磁気的特性等においても、高いレベルを維持することができる。したがって、このような電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法によれば、特性が良好な電子写真現像剤用キャリア芯材を、安価に製造することができる。
【0054】
また、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相が形成される。ここで、カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である。
【0055】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0056】
次に、このようにして得られたキャリア芯材に対して、樹脂により被覆を行なう(図1(G))。具体的には、得られたこの発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアを得る。シリコーン系樹脂やアクリル樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行うことができる。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記した電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。このような電子写真現像剤用キャリアは、特性が良好であって、安価に製造することができる。
【0057】
次に、このようにして得られたキャリアとトナーとを所定量ずつ混合する(図1(H))。具体的には、上記した製造方法で得られたこの発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアと、適宜な公知のトナーとを混合する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤を得ることができる。混合は、例えば、ボールミル等、任意の混合器を用いる。この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、高画質であって、安価に製造することができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
酢酸カルシウム一水和物(Ca(CH3COO)2・H2O)74gを水3kg中に分散させて水溶液とし、Fe2O310kgを加え、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を200g、還元剤としてカーボンブラックを105g添加して混合物とした。このときの固形分濃度を測定した結果、75重量%であった。この混合物を湿式ビーズミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
【0059】
このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉は、ふるいにより除去した。この造粒粉を、電気炉に投入し、1130℃で3時間焼成した。このとき、電気炉内は酸素濃度が0.1%以下となるよう、雰囲気を調整した電気炉にフローした。得られた焼成物を解粒後にふるいを用いて分級し、平均粒径38μmとした。このようにして、実施例1に係るキャリア芯材を得た。
【0060】
得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。なお、表1に記載の添加量yについては、上記したキャリア芯材の組成を一般式:CayFe3−yO4で表した場合において、得られたキャリア芯材を以下に示す分析方法で測定して得られた結果である。以下、実施例2以降についても、yの値については、同様である。なお、この本実施形態においては、x=0とするものであり、すなわち、一般式中、ZとしてMn等を含んでいない構成である。
【0061】
(Caの分析)
キャリア芯材のCa含有量は、以下の方法で分析を行なった。本願発明に係るキャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のCa含有量は、このICPによる定量分析で得られたCa量である。
【0062】
(磁力の評価)
また、表1中の磁気的特性を示す磁化の測定については、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて、磁化率を測定した。ここで、表1中、「σ1k(1000)」とは、外部磁場1k(1000)Oeである場合における磁化であり、「σs」とは、飽和磁化であり、「σr」とは、残留磁化である。
【0063】
(平均粒径の算出)
なお、平均粒径については、体積粒径分布における中心粒径を意味し、その測定については、日機装株式会社製のマイクロトラック、Model9320−X100を用いている。
【0064】
(電気的特性の評価)
表1中の電気的特性としてのコア帯電量とは、コア、すなわち、キャリア芯材の帯電量のことである。ここで、帯電量の測定について説明する。キャリア芯材9.5g、市販のフルカラー機のトナー0.5gを100mlの栓付きガラス瓶に入れ、25℃、相対湿度50%の環境下で12時間放置して調湿する。調湿したキャリア芯材とトナーを振とう器で30分振とうし、混合する。ここで、振とう器については、株式会社ヤヨイ製のNEW−YS型を用い、200回/分、角度60°で行なった。混合したキャリア芯材とトナーを500mg計量し、帯電量測定装置で帯電量を測定した。この実施形態においては、日本パイオテク株式会社製のSTC−1−C1型を用い、吸引圧力5.0kPa、吸引用メッシュをSUS製の795meshで行なった。同一サンプルについて2回の測定を行い、これらの平均値を各コア帯電量とした。コア帯電量の算出式については、コア帯電量(μC(クーロン)/g)=実測電荷(nC)×103×係数(1.0083×10−3)÷トナー重量(吸引前重量(g)−吸引後重量(g))となる。
【0065】
(実施例2)
酢酸カルシウム一水和物の添加量を149gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
酢酸カルシウム一水和物の添加量を223gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
添加するカルシウム原料について、硝酸カルシウム水溶液(Caを9.2重量%含有)として、その添加量を182gとし、添加するカーボンブラックの量を118gとした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0068】
(実施例5)
硝酸カルシウム水溶液の添加量を363gとし、カーボンブラックの添加量を130gとした以外は、実施例4と同様の方法で、実施例5に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0069】
(実施例6)
硝酸カルシウム水溶液の添加量を545gとし、カーボンブラックの添加量を143gとした以外は、実施例4と同様の方法で、実施例6に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0070】
(実施例7)
酢酸カルシウム一水和物の添加量を223g、Fe2O3を6.8kgとし、さらにMn3O43.2kgを加えた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表2に示す。なお、この実施形態においては、xの値をおおよそ1とするものであり、一般式中、ZとしてMnを含む構成である。
【0071】
(参考例1)
カルシウム原料を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で、参考例1に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
添加するカルシウム原料について、炭酸カルシウムとし、その添加量を42gとした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
炭酸カルシウムの添加量を84gとした以外は、比較例1と同様の方法で、比較例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
炭酸カルシウムの添加量を125gとした以外は、比較例1と同様の方法で、比較例3に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表1に示す。
【0075】
(参考例2)
カルシウム原料を添加しない以外は、実施例7と同様の方法で、参考例2に係るキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の磁気的特性および電気的特性等を表2に示す。なお、この実施形態においては、xの値をおおよそ1とするものであり、一般式中、ZとしてMnを含む構成である。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1および表2を参照して、磁気的特性については、実施例、参考例および比較例のいずれをみても、σ1000の値は、59〜70Am2/kgであり、飽和磁化を示すσsの値は80〜92Am2/kgであることが把握できる。また、残留磁化を示すσrの値についても、0.9〜2.6Am2/kgであり、比較的低い値であることが把握できる。特に、実施例1〜3、7においては、1.1〜1.4Am2/kgであり、相当に低い値を維持している。このような残留磁化の低い値のキャリア芯材を用いると、磁気ブラシを良好に形成することができる。
【0079】
電気的特性については、実施例1、実施例2、および実施例3において、コア帯電量がそれぞれ11.7μC/g、16.0μC/g、16.4μC/gであり、いずれの場合についても10.0μC/g以上である。また、実施例4〜6についても、コア帯電量がそれぞれ11.7μC/g、17.0μC/g、19.2μC/gであり、いずれの場合についても10.0μC/g以上である。また、実施例7については、コア帯電量が24.8μC/gと相当高い値である。すなわち、帯電量の高いものを求める場合、ZとしてMnを含む構成とすればよい。これに対し、Caを含まない参考例1の場合、4.4μC/gであり、参考例2の場合、4.5μC/gである。すなわち、実施例1〜7については、高い帯電性能を維持している。
【0080】
ここで、参考例、実施例および比較例に係るキャリア芯材の表面について検討する。図2は、参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図3は、比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図4は、実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図5は、図2に示す参考例1に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。図6は、図3に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。図7は、図4に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、結晶粒界の部分を線で示した概略図である。図2〜図4については、5000倍に拡大した場合である。図5〜図7については、理解の容易の観点から、それぞれ図2〜図4に示す電子顕微鏡写真に基づいて図示している。
【0081】
図2〜図7を参照して、参考例1については、カルシウムを添加していない系であるが、キャリア芯材11の表面において比較的凹凸度合いが高く、結晶粒界と見られる境界12が多数存在しており、粒子としてのグレイン13が適度に成長している。ここで、比較例3について見てみると、参考例1と比較して、キャリア芯材14の表面の凹凸度合いがさらに高くなっている。そして、結晶粒界と見られる境界15がかなり多数存在しており、グレイン16がほとんど成長しておらず、そのサイズが小さいままである。これに対し、実施例3については、参考例1と比較して、キャリア芯材17の表面の凹凸度合いが低く、結晶粒界と見られる境界18が少ない。そして、1つ1つのグレイン19が大きく成長しているのが把握できる。
【0082】
これについては、以下の現象が生じていると推察される。図8は、比較例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成段階における粒状物の概略図である。図9は、実施例3に係るキャリア芯材において、磁性相の形成段階における粒状物の概略図である。
【0083】
まず、図8を参照して、比較例3に係る粒状粉21においては、水に不溶な炭酸カルシウムの粒子22が、ヘマタイト(Fe2O3)相23の間に分散して介在している。そして、その介在した炭酸カルシウムの粒子22が、焼成工程における磁性相の形成過程において、マグネタイト相24を形成するグレインの成長を阻害していると考えられる。これに対し、図9を参照して、実施例3に係る粒状粉25については、水溶性のカルシウム塩である酢酸カルシウムが添加されているが、水溶性であるため、ヘマタイト相26の間に分散して介在せず、図9における不図示のイオンとして、ヘマタイト相26の表面に付着するような状態で存在していると考えられる。そして、焼成工程における磁性相の形成過程において、マグネタイト相27を形成するグレインの成長が抑制されず、大きく成長し、その結果、結晶粒界が少なく、表面の凹凸度合いが低いキャリア芯材が製造されると考えられる。
【0084】
なお、水溶性のカルシウム塩のうちの塩については、酢酸カルシウム(Ca(CH3COO)2)のように還元性を有する物質や、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)のように酸化性を有する物質で構成されているが、酢酸カルシウムのように還元性を有する物質で構成されていることが好ましい。このように構成することにより、ヘマタイト相が残留することなく、ヘマタイト相によってマグネタイト相の成長が阻害されないためであると推察される。なお、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2)のように酸化性を有する物質を添加する場合には、混合工程において添加するカーボンブラック等の還元剤を、還元性を有する物質の場合と比べて過剰に添加するとよい。上記した実施例4〜6においては、このように構成している。
【0085】
次に、キャリア芯材の表面性について説明する。表面性の測定については、以下のように行った。まず、レーザー顕微鏡を用い、キャリア芯材の表面の凹凸を読み取り、表面粗さの解析を行った。具体的には、レーザー顕微鏡(LEXT OLS3000、OLYMPUS(オリンパス)株式会社製)を用い、まず、100倍の対物レンズで得た像をデジタルズームでさらに5倍に拡大し、キャリア芯材粒子の球の中心を視野の中心として、26μm×19μmの視野とした。このとき、レーザーの出力は、100、取り込み速度はfast(ファースト)とし、取り込みの下限位置および上限位置は、共焦点画像において焦点の一致している点が消失した地点をそれぞれ手動で設定することとした。表面粗さの解析については、取り込んだ26μm×19μmの領域の全てを使用した。カットオフ値λは、1/10とした。最小高さの識別は、断面曲線においては、Pzの10%、粗さ局全においては、Rzの10%、うねり曲線においては、Wzの10%とした。ここで、断面曲線とは、読み込まれた凹凸曲線、粗さ曲線とは、断面曲線からカットオフ値λとして設定した波長よりも長いうねり成分を除去して得られた曲線、うねり曲線とは、カットオフ値λとして設定した波長より長いうねり成分を取り出した曲線をそれぞれ示す。また、Pzは、断面曲線の最大高さ、Rzは、最大高さ粗さ、Wzは、最大高さうねりをそれぞれ示す。最小長さの識別は、基準長さの1%とした。ここで、基準長さとは、指定断面の中央の1/3の領域を示す。ただし、基準長さについて、断面曲線の場合は、評価長さに等しい。なお、SRaの値については、20視野測定平均の値を用いている。
【0086】
表面性については、比較例1については、SRaの値が、0.838であり、比較例2については、SRaの値が、0.920であり、比較例3については、SRaの値が、0.886である。比較例1〜比較例3のように炭酸カルシウムを添加すれば、凹凸度合いが高くなり、その値が高くなる。ここで、実施例1については、SRaの値が、0.761であり、実施例2については、SRaの値が、0.735であり、実施例3については、SRaの値が、0.724である。実施例1〜3については、水溶性のカルシウム塩のうちの塩が還元性を有する物質である酢酸カルシウムの添加量が増加するにつれ、SRaの値が減少していく。また、実施例4については、SRaの値が、0.764であり、実施例5については、SRaの値が、0.700であり、実施例6については、SRaの値が、0.763である。実施例4〜6についても、SRaの値が低く、実施例4、6については、実施例1と同等であり、実施例5については、非常に低い値である。ここで、この発明に係るキャリア芯材によると、表面性SRaについては、その値が少なくとも0.800以下である。すなわち、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材は、電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子表面をレーザー顕微鏡で500倍に拡大して観察した場合に、断面曲面内のX方向の長さをLとし、断面曲面内のY方向の長さをMとし、断面曲面をf(x、y)とすると、数1の式で表される表面性SRaの値が、0.800以下である。
【0087】
【数1】
【0088】
さらに具体的には、実施例1〜6については、参考例1に示す0.781よりもその値が小さく、その値が0.780以下である。
【0089】
次に、得られたキャリア芯材を用いて、電子写真現像剤用キャリアを作製し、評価も行った。
【0090】
ここで、電子写真現像剤用キャリアの製造方法について説明する。キャリア芯材は、次の方法で樹脂コーティングを行った。シリコーン系樹脂(商品名:SR−2411、東レ・ダウコーニング社製)をトルエンに溶解させてコーティング樹脂溶液を準備した。そして、コート量が2.20重量%となるような割合で攪拌機に導入し、コーティング樹脂溶液にキャリア芯材を30分間120℃で浸漬し、30分間200℃にて加熱攪拌した。これにより、樹脂がキャリア芯材の重量に対し、2.20重量%の割合でコーティングされたキャリア芯材を得た。なお、コート量の算出については、以下の式により求められる。
【0091】
コート量(重量%)=樹脂重量(g)×固形分濃度(重量%)/コア重量(g)
【0092】
この樹脂によって被覆(コーティング)されたキャリア芯材を熱風循環式加熱装置に設置し、200℃で30分間加熱を行い、このコーティング樹脂を硬化させて、実施例1に係る電子写真現像剤用キャリアを得た。実施例2等についても、同様の方法を行い、電子写真現像剤用キャリアを得た。
【0093】
図10は、比較例3に係るキャリアの表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図11は、実施例3に係るキャリアの表面の外観を示す電子顕微鏡写真である。図12は、図10に示す比較例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。図13は、図10に示す実施例3に係るキャリア芯材の表面の外観において、コーティング樹脂の塗布領域のおおよその境界部分を線で示した概略図である。図10、および図11については、2000倍に拡大した場合である。図12、および図13については、理解の容易の観点から、それぞれ図10、図11に示す電子顕微鏡写真に基づいて図示している。図12、および図13については、ドットでコーティング樹脂がコートされた領域を示している。
【0094】
図10〜図13を参照して、同じコート量において、実施例3に係るキャリアについては、その表面がコーティング樹脂に広く覆われていることが把握できる。これに対し、比較例3に係るキャリアについては、その表面においてコーティング樹脂に覆われていない領域が相当広いことが把握できる。すなわち、実施例3に係るキャリアについては、コーティング樹脂の量の大きな低減を実現できていることが把握できる。
【0095】
なお、上記の実施の形態においては、混合工程において、カルシウムを含む原料を、溶液状態として混合することとしたが、これに限らず、粉末状態のまま混合することとしてもよい。
【0096】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤は、高画質が要求される複写機等に適用される場合に、有効に利用される。
【符号の説明】
【0098】
11,14,17 キャリア芯材、12,15,18 境界、13,16,19 グレイン、21,25 造粒粉、22 粒子、23,26 ヘマタイト相、24,27 マグネタイト相。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、
鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、
前記混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、
前記造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備え、
前記混合工程により混合される前記カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である、電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性のカルシウム塩のうちの塩は、還元性を有する物質で構成されている、請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性のカルシウム塩は、Ca(CH3COO)2(酢酸カルシウム)を含む、請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成され、
前記カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項5】
一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子表面をレーザー顕微鏡で500倍に拡大して観察した場合に、断面曲面内のX方向の長さをLとし、断面曲面内のY方向の長さをMとし、断面曲面をf(x、y)とすると、数1の式で表される表面性SRaの値が、0.800以下である、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【数1】
【請求項6】
前記電子写真現像剤用キャリア芯材のコア帯電量は、10μC/g以上である、請求項4または5に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項7】
電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、
請求項4〜6のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材と、
前記電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える、電子写真現像剤用キャリア。
【請求項8】
電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、
請求項7に記載の電子写真現像剤用キャリアと、
前記電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える、電子写真現像剤。
【請求項1】
一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、
鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合する混合工程と、
前記混合工程の後に、混合した混合物の造粒を行う造粒工程と、
前記造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備え、
前記混合工程により混合される前記カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である、電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項2】
前記水溶性のカルシウム塩のうちの塩は、還元性を有する物質で構成されている、請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性のカルシウム塩は、Ca(CH3COO)2(酢酸カルシウム)を含む、請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
鉄を含む原料、およびカルシウムを含む原料を混合して混合物を造粒し、造粒した粒状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成され、
前記カルシウムを含む原料は、水溶性のカルシウム塩を含む原料である、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項5】
一般式:ZxCayFe3−x―yO4(0≦x≦1、0<y≦1、ただし、Zは、Mg、Mn、Ti、Cu、Zn、Sr、Niからなる群から選択される少なくとも一種の金属)で表されるコア組成を主成分とする電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
電子写真現像剤用キャリア芯材の粒子表面をレーザー顕微鏡で500倍に拡大して観察した場合に、断面曲面内のX方向の長さをLとし、断面曲面内のY方向の長さをMとし、断面曲面をf(x、y)とすると、数1の式で表される表面性SRaの値が、0.800以下である、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【数1】
【請求項6】
前記電子写真現像剤用キャリア芯材のコア帯電量は、10μC/g以上である、請求項4または5に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項7】
電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、
請求項4〜6のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材と、
前記電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える、電子写真現像剤用キャリア。
【請求項8】
電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、
請求項7に記載の電子写真現像剤用キャリアと、
前記電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える、電子写真現像剤。
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−215680(P2012−215680A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80262(P2011−80262)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】
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