説明

電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤

【課題】小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供する。
【解決手段】電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、鉄を含む原料、およびストロンチウムを含む原料をスラリー化するスラリー化工程(A)と、スラリー化工程の後に、得られた混合物の造粒を行う造粒工程(B)と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程(C)とを備える。ここで、スラリー化工程は、鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするよう鉄を含む原料をスラリー化し、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるようにストロンチウムを含む原料をスラリー化する工程である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真現像剤用キャリア芯材(以下、単に「キャリア芯材」ということもある)の製造方法、電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア(以下、単に「キャリア」ということもある)、および電子写真現像剤(以下、単に「現像剤」ということもある)に関するものであり、特に、複写機やMFP(Multifunctional Printer)等に用いられる電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤に備えられる電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機やMFP等においては、電子写真における乾式の現像方式として、トナーのみを現像剤の成分とする一成分系現像剤と、トナーおよびキャリアを現像剤の成分とする二成分系現像剤とがある。いずれの現像方式においても、所定の電荷量に帯電させたトナーを感光体に供給する。そして、感光体上に形成された静電潜像をトナーによって可視化し、これを用紙に転写する。その後、トナーによる可視画像を用紙に定着させ、所望の画像を得る。
【0003】
ここで、二成分系現像剤における現像について、簡単に説明する。現像器内には、所定量のトナーおよび所定量のキャリアが収容されている。現像器には、S極とN極とが周方向に交互に複数設けられた回転可能なマグネットローラおよびトナーとキャリアとを現像器内で攪拌混合する攪拌ローラが備えられている。磁性粉から構成されるキャリアは、マグネットローラによって担持される。このマグネットローラの磁力により、キャリア粒子による直鎖状の磁気ブラシが形成される。キャリア粒子の表面には、攪拌による摩擦帯電により複数のトナー粒子が付着している。マグネットローラの回転により、この磁気ブラシを感光体に当てるようにして、感光体の表面にトナーを供給する。二成分系現像剤においては、このようにして現像を行なう。
【0004】
トナーについては、用紙への定着により現像器内のトナーが順次消費されていくため、現像器に取り付けられたトナーホッパーから、消費された量に相当する新しいトナーが、現像器内に随時供給される。一方、キャリアについては、現像による消費がなく、寿命に達するまでそのまま用いられる。二成分系現像剤の構成材料であるキャリアには、攪拌による摩擦帯電により効率的にトナーを帯電させるトナー帯電機能や絶縁性、感光体にトナーを適切に搬送して供給するトナー搬送能力等、種々の機能が求められる。例えば、トナーの帯電能力向上の観点から、キャリアについては、その電気抵抗値(以下、単に抵抗値ということもある)が適切であること、また、絶縁性が適切であることが要求される。
【0005】
昨今において、上記したキャリアは、そのコア、すなわち、核となる部分を構成するキャリア芯材と、このキャリア芯材の表面を被覆するようにして設けられるコーティング樹脂とから構成されている。
【0006】
キャリア芯材やキャリアに関する技術が、特開2006−337828号公報(特許文献1)や特開2011−8199号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−337828号公報
【特許文献2】特開2011−8199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
キャリア芯材については、電気的特性が良好であること、具体的には、例えば、キャリア芯材自体の帯電量が高いことや高い絶縁破壊電圧を有すること、さらに上記したように、キャリア芯材自体についても適切な抵抗値を有することが望まれる。
【0009】
特に昨今においては、キャリア芯材自体の帯電性能、具体的には、キャリア芯材の帯電量を高くすることが、強く望まれる傾向にある。上記したように、キャリア芯材は、その表面にコーティング樹脂を被覆されて用いられる場合が多い。ここで、現像器内での攪拌によるストレス等で、コーティング樹脂の一部が剥がれてしまい、キャリア芯材の表面が露出する場合もある。このような状況においては、キャリア芯材自体の露出した表面とトナーとの摩擦による帯電能力が強く求められる。もちろん、磁気的特性等、その他の特性についても、良好なことが好ましい。
【0010】
ここで、高画質化の観点から、トナー粒子の小粒径化が昨今行われている。トナー粒子の小粒径化に伴い、キャリア粒子の小粒径化、さらにはキャリア芯材の小粒径化が進んでいる。このような状況下において、キャリア芯材の小粒径化に伴い、新たな問題が発生する場合がある。
【0011】
一般的に、キャリア芯材は、原料を混合して造粒し、その造粒粉を焼成してフェライト化と結晶成長をさせながら製造される。ここで、小粒径化されたキャリア芯材を得ようとすると、キャリア芯材の粒子の表面状態のばらつきが大きくなる傾向がある。具体的には、小粒径化されたキャリア芯材の粒子径に比して、成長させた粒子表面の結晶の大きさ、いわゆる成長させた粒子表面の結晶のサイズがばらついたり、粒子表面において粗大結晶ができやすくなる傾向がある。
【0012】
このような表面状態のばらつきの大きいキャリア芯材については、いわゆる表面性が悪いものであり、後の工程において被覆するコーティング樹脂との結着性が悪化してしまい、結果として、このようなキャリア芯材を基として製造されるキャリア、引いては、現像剤の寿命は短くなってしまう。
【0013】
ここで、特許文献1によると、表面が溝又は筋で10μm四方あたり2〜50の領域に分割されており、マンガンフェライトを主成分とする電子写真用フェライトキャリア芯材が開示されている。また、特許文献1によると、このフェライトキャリア芯材に樹脂被覆したフェライトキャリアを用いた電子写真用現像剤は、帯電の立ち上がりが速く、経時における安定した帯電量を有するとの記載がある。
【0014】
しかし、小粒径化されたキャリア芯材、具体的には、体積平均粒径が25μm程度のキャリア芯材については、キャリア芯材の表面性において、結晶サイズを所定の範囲内としても、キャリア芯材を構成する粒子の内部の空孔が多くなったり、キャリア芯材の粒子の強度が低下する問題がある。
【0015】
特許文献2によると、水銀圧入法によって得られるキャリア芯材の浸入細孔容積値と浸出細孔容積値の比を0.2〜0.8と規定したキャリア芯材を開示している。また、特許文献2によると、経時の使用においても、現像器内での流動性が変わらず、画像に左右現像ムラが生じず、ある程度の樹脂被覆量においても一定のリークポイントがあり、帯電量上昇を防ぐことができ、帯電量変動が小さく、画像濃度の低下を防止することができるとの記載がある。
【0016】
しかし、浸出細孔容積値については、細孔の数ではなく、細孔の形状に依存する場合もあり、上記した比による規定では不十分である場合がある。特に小粒径のキャリア芯材においては、表面に一定の細孔を有しているといえない場合も多々あり、このような比を規定するのみでは、強度等の観点から、問題がある場合がある。
【0017】
この発明の目的は、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を製造することができる電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法を提供することである。
【0018】
この発明の他の目的は、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を提供することである。
【0019】
この発明のさらに他の目的は、小粒径化を実現すると共に、高強度を達成することができる電子写真現像剤用キャリアを提供することである。
【0020】
この発明のさらに他の目的は、良好な画質の画像を形成することができる電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願発明者らは、まず、キャリア芯材の小粒径化を図るべく、キャリア芯材の原料の小粒径化を図ることを考えた。そして、原料の体積粒径D50の値が小さいものを用いれば、キャリア芯材の小粒径化を図りながら、キャリア芯材の表面性、すなわち、焼成における結晶成長の制御が可能であり、粒子表面の結晶のサイズを適切にすることができると考えた。しかし、原料の体積粒径D50の値を単に小さくするのみでは、焼成工程における焼結の速度が著しく速くなり、キャリア芯材の粒子内部および粒子表面の焼結の制御が困難であるという知見を得た。一方、原料の体積粒径D50の値が大きいものを用いれば、小粒径化を図ることが困難となるばかりか、造粒粉の状態において1粒子当たりの原料の充填率が小さくなり、その結果、キャリア芯材の粒子に大きなポア、すなわち、空孔部分が発生してしまうという知見も得た。さらに、従来の技術から焼結を阻害させるような添加物を用いて焼結状態を制御できないか鋭意検討も行った。しかし、添加物がキャリア芯材の帯電性能を悪化させてしまうという知見も得た。
【0022】
そこで、本願発明者らは鋭意検討し、原料の体積粒径D50の値のみならず、原料の粗大粒子に着目し、原料の体積粒径D90の値も規定することにより、ポアの発生を抑制して、焼成工程における焼結の制御が可能であるのではないかとの考えに至った。さらに、本願発明者らは、キャリア芯材の基本的物性を損なわせず、フェライト化の反応と焼結とをゆるやかに進めるために、ストロンチウム(Sr)を微量添加するという考えに至った。
【0023】
すなわち、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびストロンチウムを含む原料をスラリー化するスラリー化工程と、スラリー化工程の後に、得られた混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、スラリー化工程は、鉄を含む原料について、鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするようスラリー化する工程であって、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるようにストロンチウムを含む原料をスラリー化する工程である。
【0024】
このようなキャリア芯材の製造方法によると、小粒径であって、粒子内部のポアが非常に少なく、かつ、粒子表面の結晶グレインが均質なキャリア芯材を製造することができる。したがって、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を製造することができる。なお、体積粒径D50、D90については、得られた粉末の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%、89%となる点の粒径をそれぞれ体積粒径D50、D90とする。
【0025】
ここで、上記したような構成のキャリア芯材は、まず、一般式:MnFe3−x4+v(−0.003<v)で表される。0.7≦x≦1.2が好ましく、より好ましくは、0.8≦x≦1.1である。xが0.7以上であれば、高い磁化を維持できるので好ましい。xが1.2以下であれば、過剰なMnにより粒子中に非磁性相が増えるのを防げるので好ましい。
【0026】
この場合、スラリー化工程において、鉄を含む原料を、予め仮焼して用いるようにしてもよい。
【0027】
好ましくは、焼成工程は、焼成温度を1050〜1180℃の範囲内とし、焼成温度に達してからの保持時間を0.5〜10時間の範囲内として、焼成を行う。
【0028】
より好ましくは、焼成温度を1085〜1150℃の範囲内とし、焼成時間を1.5〜6時間の範囲内とする。焼成温度を1085℃以上とし、焼成時間を1.5時間以上とすれば、フェライト化が十分に進み、さらに、粒子内部および粒子表面の焼結が徐々に進むため、目的とする表面性を得ることができる。焼成温度を1150℃以下とし、焼成時間を6時間以下とすれば、過剰に焼結せず、粒子表面に粗大結晶が生じないので好ましい。
【0029】
また、焼成炉内の酸素濃度については、フェライト化の反応が進む条件であればよく、具体的には、10−7%以上3%以下となるように導入ガスの酸素濃度を調整し、フロー状態下で焼成を行う。
【0030】
また、後述する還元剤の調整により、フェライト化に必要な還元雰囲気を制御してもよい。
【0031】
この発明の他の局面において、電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmであり、平均粒径の値が、20μm以上30μm以下の範囲にあり、BET比表面積の値が、0.15m/g以上0.25m/g以下の範囲にあり、水銀圧入法による細孔容積の値が、0.003ml/g以上0.023ml/g以下の範囲にある。
【0032】
0<yであれば、すなわち、ストロンチウムが含有されていれば、ストロンチウムによりフェライト化の反応と焼結とが徐々に進むため、目的とする表面性を得やすいので好ましい。また、y≦5000ppmであれば、ストロンチウムフェライトの生成による残留磁化の増加を防ぐことができるので好ましい。また、BET比表面積の値が、0.15m/g以上であり、水銀圧入法による細孔容積の値が、0.003ml/g以上であれば、粒子中にほとんどポアが存在せず、主に粒子表面の凹凸部分で高いBET比表面積の値を達成しているため、コーティング樹脂との結着性が向上するので好ましい。また、BET比表面積の値が、0.25m/g以下であり、水銀圧入法による細孔容積の値が、0.023ml/g以下であれば、粒子中に大きなオープンポア、すなわち、粒子表面に開口を有する空孔がほとんど存在せず、主に微細・微小なポアで高いBET比表面積の値を達成しているため、粒子強度を高くできて好ましい。
【0033】
ここで、BET比表面積の値をw(m/g)とし、水銀圧入法による細孔容積の値をv(ml/g)とすると、v≦0.63w−0.084w+0.028の関係を有することが好ましい。BET比表面積の値と水銀圧入法による細孔容積の値とが、このような関係を有するキャリア芯材については、キャリア芯材の粒子内部のポアが非常に少なく、かつ、粒子表面の結晶グレインが均質であり、さらに、キャリア芯材の粒子の強度をより高くすることができる。
【0034】
さらに好ましい一実施形態として、500ppm<y≦3400ppmであり、平均粒径の値が、20μm以上30μm以下の範囲にあり、BET比表面積の値が、0.15m/g以上0.20m/g以下の範囲にあり、水銀圧入法による細孔容積の値が、0.003ml/g以上0.012ml/g以下の範囲にある。このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、より確実に、高いBET比表面積の値を達成しながら、コーティング樹脂との結着性を向上させ、粒子強度を高くすることができる。
【0035】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、およびストロンチウムを含む原料をスラリー化し、得られた混合物の造粒を行い、造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成して製造される。ここで、電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするよう鉄を含む原料をスラリー化し、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるようにストロンチウムを含む原料をスラリー化して製造される。
【0036】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材については、小粒径であって、粒子内部のポアが非常に少なく、かつ、粒子表面の結晶グレインが均質である。したがって、このようなキャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材は、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる。
【0037】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記したいずれかの電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。
【0038】
このような電子写真現像剤用キャリアは、小粒径化を実現すると共に、高強度を達成することができる。
【0039】
この発明のさらに他の局面において、電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。
【0040】
このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、高画質の画像を形成することができる。
【発明の効果】
【0041】
このようなキャリア芯材の製造方法によると、小粒径であって、粒子内部のポアが非常に少なく、かつ、粒子表面の結晶グレインが均質なキャリア芯材を製造することができる。したがって、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を製造することができる。
【0042】
また、このような電子写真現像剤用キャリア芯材については、小粒径であって、粒子内部のポアが非常に少なく、かつ、粒子表面の結晶グレインが均質である。したがって、このようなキャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材は、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる。
【0043】
また、この発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、小粒径化を実現すると共に、高強度を達成することができる。
【0044】
また、この発明に係る電子写真現像剤は、高画質の画像を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。
【図2】実施例1に係るキャリア芯材の外観の電子顕微鏡写真を示す。
【図3】比較例2に係るキャリア芯材の外観の電子顕微鏡写真を示す。
【図4】実施例1に係るキャリア芯材の断面の電子顕微鏡写真を示す。
【図5】比較例2に係るキャリア芯材の断面の電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材について説明する。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材については、その外形形状が、略球形状である。この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の粒径は、約25μmであり、適当な粒度分布を有している。すなわち、上記した粒径は、体積平均粒径を意味する。この粒径および粒度分布については、要求される現像剤の特性や製造工程における歩留まり等により任意に設定される。キャリア芯材の表面には、主に後述する焼成工程で形成される微小の凹凸が形成されている。
【0047】
この発明の一実施形態に係るキャリアについても、キャリア芯材と同様に、その外形形状が、略球形状である。キャリアは、キャリア芯材の表面に薄く樹脂をコーティング、すなわち被覆したものであり、その粒径についても、キャリア芯材とほとんど変化は無い。キャリアの表面については、キャリア芯材と異なり、樹脂でほぼ完全に被覆されている。
【0048】
この発明の一実施形態に係る現像剤は、上記したキャリアと、トナーとから構成されている。トナーの外形形状についても、略球形状である。トナーは、スチレンアクリル系樹脂やポリエステル系樹脂を主成分とするものであり、所定量の顔料やワックス等が配合されている。このようなトナーは、例えば、粉砕法や重合法によって製造される。トナーの粒径は、例えば、キャリアの粒径の7分の1程度の約5μm程度のものが使用される。また、トナーとキャリアの配合比についても、要求される現像剤の特性等に応じて、任意に設定される。このような現像剤は、所定量のキャリアとトナーとを適当な混合器で混合することにより製造される。
【0049】
次に、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法について説明する。図1は、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。以下、図1に沿って、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材の製造方法について説明する。
【0050】
まず、鉄を含む原料と、マンガンを含む原料と、ストロンチウムを含む原料とを準備する。そして、準備した原料を、要求される特性に応じて、適当な配合比で配合し、これを混合・粉砕してスラリー化する(図1(A))。ここで、適当な配合比とは、最終的に得られるキャリア芯材が、含有するような配合比である。
【0051】
この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を構成する鉄を含む原料については、金属鉄またはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在するFeやFe、Feなどが好適に用いられる。また、マンガンを含む原料については、金属マンガンまたはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在する金属Mn、MnO、Mn、Mn、MnCOが好適に使用される。また、ストロンチウムを含む原料としては、SrCO、Sr(NO、SrSOが好適に用いられる。より好ましくは、SrCOが好ましい。ここで、上記原料(鉄原料、マンガン原料、ストロンチウム原料等)をそれぞれ、若しくは目的の組成になるように混合した原料を仮焼して粉砕し原料として用いても良い。なお、上記原料については、鉄原料、およびマンガン原料のみを仮焼して粉砕し、これを仮焼原料として用い、ストロンチウムを含む原料としてのSrCOについては、仮焼しない方がより好ましい。SrCOは仮焼しない場合、後述する焼成工程において、まず、SrCOの分解反応が進み、その後、フェライト化の反応と焼結とが進む。このため、仮焼する原料としてSrCOを含まなければ、後述する焼成工程において、まず、SrCOの分解反応が進み、その後にフェライト化の反応および焼結が進むこととなる。そうすると、フェライト化の反応および焼結をゆるやかに進めることができる。その結果、小粒径のキャリア芯材の粒子表面の結晶グレインが均質なキャリア芯材とすることができる。
【0052】
ここで、鉄を含む原料について、鉄を含む原料の体積粒径D50を、1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を、2.5〜7.0μmとした鉄を含む原料とする。なお、ストロンチウムを含む原料についても、ストロンチウムを含む原料の体積粒径D50を、1.0〜4.0μmとし、ストロンチウムを含む原料の体積粒径D90を、2.5〜7.0μmとしたストロンチウムを含む原料とする。また、マンガンを含む原料については、マンガンを含む原料の体積粒径D50を、0.1〜3.0μmとし、マンガンを含む原料の体積粒径D90を、1.0〜6.0μmとしたマンガンを含む原料とする。
【0053】
また、ストロンチウムを含む原料については、ストロンチウムを含む原料の含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとする。
【0054】
具体的には、所定の組成となるように鉄を含む原料およびマンガンを含む原料を振動ボールミルで混合し、ペレット状に成型して800〜1050℃で1〜10時間、仮焼する。ペレット状に成型することにより、800〜1050℃の温度範囲内でも、一部フェライト化の反応が進むので好ましい。より好ましくは、この温度範囲を900〜1000℃とする。900℃以上であれば、一部、フェライト化反応を十分に進めることができ、1000℃以下であれば焼結を過剰に進行させず、後の工程において、原料を目的の粒度とすることが容易となるので、好ましい。上記方法により得られた仮焼原料を、振動ミルで粉砕して、ある程度の粒度に調整する。
【0055】
そして、混合した原料の微粉砕およびスラリー化を行う。すなわち、これらの原料を、キャリア芯材の狙いとする組成に合わせて秤量し、混合して湿式のビーズミルで粉砕を行い、スラリー原料として、目的の粒度に制御する。この工程において、原料中に含まれる粗大粒子の比率を制御する。すなわち、鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするよう鉄を含む原料をスラリー化する。また、キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるようにストロンチウムを含む原料をスラリー化する。鉄を含む原料の体積粒径D90が2.5μm以上であれば、原料の粒度分布がシャープにならず、粒子の焼結の速度をゆるやかにし、目的の表面性に制御することが容易となるので好ましい。一方、鉄を含む原料の体積粒径D90が7.0μm以下であれば、粗大粒子によるキャリア芯材中のポアを低減できるので、好ましい。
【0056】
この発明に係るキャリア芯材を製造する際の製造工程においては、後述する焼成工程の一部において、還元反応を進めるため、上述したスラリー原料へ、さらに還元剤を添加してもよい。還元剤としては、カーボン粉末やポリカルボン酸系有機物、ポリアクリル酸系有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール(PVA(polyvinyl alcohol))系有機物、及びそれらの混合物が好適に用いられる。
【0057】
上述したスラリー原料に水を加え混合攪拌して、固形分濃度を60重量%以上、好ましくは70重量%以上とする。スラリー原料の固形分濃度が70重量%以上であれば、造粒ペレットの強度を保つことができ、焼成工程後の粒子内部のポアを低減させ、キャリア芯材の強度を高めることができるので好ましい。
【0058】
次に、スラリー化した原料について、造粒を行う(図1(B))。上記混合攪拌して得られたスラリーの造粒は、噴霧乾燥機を用いて行う。なお、スラリーに対し、造粒前に、さらに湿式粉砕を施すことも好ましい。
【0059】
噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。得られた造粒粉は製品の最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、粗大粒子や微粉を除去し、この時点で粒度調整することが望ましい。
【0060】
その後、造粒した造粒物について、焼成を行う(図1(C))。具体的には、得られた造粒粉を、焼成温度として1050〜1180℃程度に加熱した炉に投入し、0.5〜10時間保持して焼成し、目的とする焼成物を生成させる。このとき、焼成炉内の酸素濃度は、フェライト化の反応が進む条件であればよく、具体的には、10−7%以上3%以下となるよう導入ガスの酸素濃度を調整し、フロー状態下で焼成を行う。
【0061】
具体的には、焼成工程は、昇温速度を0.5〜100℃/分とし、焼成温度を1050〜1180℃の範囲内とし、焼成温度に達してからの保持時間を0.5〜10時間の範囲内とし、焼成温度からの冷却速度を0.5〜10℃/分として、焼成を行う。
【0062】
より好ましくは、焼成温度を1085〜1150℃の範囲内とし、焼成時間を1.5〜6時間の範囲内とする。焼成温度を1085℃以上とし、焼成時間を1.5時間以上とすれば、フェライト化が十分に進み、さらに、粒子内部および粒子表面の焼結がゆるやかに進むため、目的の表面性を得ることができる。焼成温度を1150℃以下とし、焼成時間を6時間以下とすれば、過剰に焼結せず、粒子表面に粗大結晶が生じないので好ましい。
【0063】
また、先の還元剤の量等の調整により、フェライト化に必要な還元雰囲気を炉内において制御してもよい。
【0064】
さらに、焼成工程において、焼成時に発生する排気ガス、特にCOガスについては、炉内に滞留しないようにフローし、COガスの濃度を低く制御することが必要である。こうすることにより、SrCOの分解反応およびフェライト化の反応が著しく遅れ、粒子内部の焼結が進まないことによるキャリア芯材の強度不足を防ぐことができるので、好ましい。
【0065】
得られた焼成物は、さらにこの段階で粒度調整をすることが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒する。すなわち、焼成を行った粒状物について、解粒を行う(図1(D))。その後、振動ふるいなどで分級を行なう。すなわち、解粒した粒状物について、分級を行う(図1(E))。こうすることにより、所望の粒径を持ったキャリア芯材の粒子を得ることができる。
【0066】
次に、分級した粒状物について、酸化を行う(図1(F))。すなわち、この段階で得られたキャリア芯材の粒子表面を熱処理(酸化処理)する。そして、粒子の絶縁破壊電圧を250V以上に上げ、電気抵抗値を適切な電気抵抗値である1×10〜1×1013Ω・cmとする。酸化処理でキャリア芯材の電気抵抗値を上げることにより、電荷のリークによるキャリア飛散のおそれを低減することができる。
【0067】
具体的には、酸素濃度10〜100%の雰囲気下において、200〜700℃で0.1〜24時間保持して、目的とするキャリア芯材を得る。より好ましくは、250〜600℃で0.5〜20時間、さらに好ましくは、300〜550℃で1時間〜12時間である。なお、このような酸化処理工程については、必要に応じて任意に行われるものである。
【0068】
このようにして、この発明の一実施形態に係るキャリア芯材を製造する。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法は、鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、鉄を含む原料、およびストロンチウムを含む原料をスラリー化するスラリー化工程と、スラリー化工程の後に、得られた混合物の造粒を行う造粒工程と、造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備える。ここで、スラリー化工程は、鉄を含む原料について、鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするようスラリー化する工程であって、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるようにストロンチウムを含む原料をスラリー化する工程である。
【0069】
このようなキャリア芯材の製造方法によると、小粒径であって、粒子内部のポアが非常に少なく、かつ、粒子表面の結晶グレインが均質なキャリア芯材を製造することができる。したがって、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる電子写真現像剤用キャリア芯材を製造することができる。
【0070】
また、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、鉄を含む原料、およびストロンチウムを含む原料をスラリー化し、得られた混合物の造粒を行い、造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成して製造される。ここで、電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするよう鉄を含む原料をスラリー化し、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるようにストロンチウムを含む原料をスラリー化して製造される。
【0071】
このような電子写真現像剤用キャリア芯材については、小粒径であって、粒子内部のポアが非常に少なく、かつ、粒子表面の結晶グレインが均質である。したがって、このようなキャリア芯材の製造方法で製造されたキャリア芯材は、小粒径化を実現すると共に、粒子表面の結晶のサイズが適切であり、高強度を達成することができる。
【0072】
また、電子写真現像剤用キャリア芯材は、鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmである。また、平均粒径の値が、20μm以上30μm以下の範囲にある。また、BET比表面積の値が、0.15m/g以上0.25m/g以下の範囲にある。また、水銀圧入法による細孔容積の値が、0.003ml/g以上0.023ml/g以下の範囲にある。
【0073】
次に、このようにして得られたキャリア芯材に対して、樹脂により被覆を行う(図1(G))。具体的には、得られたこの発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆する。このようにして。この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアを得る。シリコーン系樹脂やアクリル樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行うことができる。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアは、電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、上記した電子写真現像剤用キャリア芯材と、電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える。このような電子写真現像剤用キャリアは、小粒径化を実現すると共に、高強度を達成することができる。
【0074】
次に、このようにして得られたキャリアとトナーとを所定量ずつ混合する(図1(H))。具体的には、上記した製造方法で得られたこの発明の一実施形態に係る電子写真現像剤用キャリアと、適宜な公知のトナーとを混合する。このようにして、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤を得ることができる。混合は、例えば、ボールミル等、任意の混合器を用いる。すなわち、この発明の一実施形態に係る電子写真現像剤は、電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、上記した電子写真現像剤用キャリアと、電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える。このような電子写真現像剤は、上記した構成の電子写真現像剤用キャリアを備えるため、高画質の画像を形成することができる。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
Fe(体積粒径D50:0.6μm、体積粒径D90:3.0μm)10kg、Mn(体積粒径D50:0.3μm、体積粒径D90:2.0μm)4kgを900℃で2時間仮焼成し、その後、振動ボールミルで1時間粉砕した。得られた仮焼原料14kgを水5kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を84g、還元剤としてカーボンブラック42g、ストロンチウムを含む原料としてのSrCO(体積粒径D50:1.0μm、体積粒径D90:4.0μm)を103g添加して混合物とした。このときの固形分濃度を測定した結果、74重量%であった。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、仮焼原料の体積粒径D50が1.6μm、体積粒径D90が3.1μmである混合スラリーを得た。すなわち、この場合の鉄を含む原料は、仮焼原料である。また、添加するSrの量が4350ppmとなるように添加した。
【0076】
このスラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉については、篩により除去した。この造粒粉を電気炉に投入し、1130℃で3時間焼成した。このとき、電気炉内は、酸素濃度が0.8%、すなわち、8000ppmとなるように雰囲気を調整した電気炉にフローした。焼成時の冷却温度は、2℃/分とした。ここで、焼成時の冷却速度、すなわち、焼成が終了した後、室温まで冷却する速度については、10℃/分以下とすることが好ましく、さらには、3℃/分とすることがより好ましい。得られた焼成粉を解粒後に篩を用いて分級し、平均粒径25μmとして、実施例1に係るキャリア芯材を得た。ここでいう平均粒径は、体積平均粒径であり、体積粒径D50と同義である。原料の粒径、すなわち、仮焼原料の粒径、キャリア芯材の組成、得られたキャリア芯材の電気的特性および磁気的特性を、表1に示す。なお、表1に記載のキャリア芯材の組成は、得られたキャリア芯材を後述する分析方法で測定して得られた結果である。この場合の添加量、すなわち、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれるストロンチウムの含有量yは、3400ppmとなる。なお、粒径の測定については、日機装株式会社製のマイクロトラック(Model9320−X100)を用いている。また、酸素濃度については、ジルコニア式酸素計(第一熱研株式会社製、ECOAZ TB−II F−S)を用い、炉内の雰囲気における酸素濃度を測定した。
【0077】
(Srの分析)
キャリア芯材のストロンチウム含有量は、以下の方法で分析を行なった。本願発明に係るキャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のストロンチウム含有量は、このICPによる定量分析で得られたストロンチウム量である。
【0078】
(Mnの分析)
キャリア芯材のMn含有量は、JIS G1311−1987記載のフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)に準拠して定量分析を行なった。本願発明に記載したキャリア芯材のMn含有量は、このフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)で定量分析し得られたMn量である。
【0079】
また、表中の磁気的特性を示す磁化の測定については、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて、磁化率を測定した。ここで、表中、「σ1k(1000)」とは、外部磁場1k(1000)Oeである場合における磁化である。
【0080】
BET比表面積の測定については、BET一点法比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、型式:Macsorb HM model−1208)を用いて評価を行った。具体的には、サンプルは、8.500gを秤量して5ml(cc)のセルに充填し、200℃で、30分間脱気して測定を行った。
【0081】
細孔容積の測定については、以下の通り行った。評価装置は、Quantachrome社製のPOREMASTER−60GTを使用した。具体的には、測定条件としては、Cell Stem Volume:0.5ml、Headpressure:20PSIA、水銀の表面張力:485.00erg/cm、水銀の接触角:130.00degrees、高圧測定モード:Fixed Rate、Moter Speed:1、高圧測定レンジ:20.00〜10000.00PSIとし、サンプル1.200gを秤量して0.5ml(cc)のセルに充填して測定を行った。また、10000.00PSI時の容積B(ml/g)から100PSI時の容積A(ml/g)を差し引いた値を、細孔容積とした。
【0082】
キャリア芯材の強度の測定については、以下の通り行った。本願発明に係るキャリア芯材30gをサンプルミル(協立理工株式会社製SK−M10型)に投入し、回転数14000rpmで60秒間破砕試験を行った。そして、破砕前後の22μm以下の破砕片における体積累積値の変化率を強度として、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック Model9320−X100)により測定した。キャリア芯材の強度については、この値が低い方が、強度が高いこととなる。
【0083】
(実施例2)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を1.0μmとし、体積粒径D90を6.0μmとする以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2に係るキャリア芯材を得た。
【0084】
(実施例3)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を2.3μm、体積粒径D90を6.0μmとし、添加するSrCOの量を7.0gとする以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3に係るキャリア芯材を得た。
【0085】
(実施例4)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を3.0μm、体積粒径D90を6.3μmとし、添加するSrCOの量を34.6gとする以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4に係るキャリア芯材を得た。
【0086】
(実施例5)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を2.2μmとし、体積粒径D90を5.7μmとする以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5に係るキャリア芯材を得た。
【0087】
(実施例6)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を3.5μm、体積粒径D90を7.0μmとし、添加するSrCOの量を95.1gとする以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6に係るキャリア芯材を得た。
【0088】
(実施例7)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を2.0μmとし、体積粒径D90を6.9μmとする以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7に係るキャリア芯材を得た。
【0089】
(実施例8)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を3.3μmとし、体積粒径D90を7.0μmとする以外は、実施例4と同様の方法で、実施例8に係るキャリア芯材を得た。
【0090】
(比較例1)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を0.5μm、体積粒径D90を2.0μmとし、ストロンチウムを含む原料を添加しない以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るキャリア芯材を得た。
【0091】
(比較例2)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を3.4μmとし、体積粒径D90を9.5μmとする以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2に係るキャリア芯材を得た。
【0092】
(比較例3)
使用する仮焼原料の体積粒径D50を2.2μm、体積粒径D90を6.1μmとし、添加するSrCOの量を114.7gとする以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3に係るキャリア芯材を得た。
【0093】
【表1】

【0094】
表1を参照して、磁気的特性については、実施例1〜実施例8において、σ1000の値がそれぞれ、58.8emu/g、58.5emu/g、59.2emu/g、58.9emu/g、57.2emu/g、56.5emu/g、57.2emu/g、58.1emu/gであり、いずれも56.0emu/g以上であって、高い値である。これに対し、比較例2は、55.0emu/g、比較例3は、54.3emu/gであり、いずれも55.0emu/g以下であって、その値が低い。また、残留磁化σγについては、比較例3の値が、2.5emu/gと非常に高い。これは、Srの添加量が多く、焼成において、ストロンチウムフェライトが比較的多く形成された結果であると推察される。このような残留磁化の値の高いものについては、磁気ブラシの適切な形成を阻害する傾向が強いため、好ましくないものである。
【0095】
また、実施例1〜8については、BET比表面積の値が、0.15m/g以上0.25m/g以下の範囲にあり、水銀圧入法による細孔容積の値が、0.003ml/g以上0.023ml/g以下の範囲にある。この結果、実施例1〜8においては、BET比表面積の値が0.15m/g以上と比較例1のような通常のキャリア芯材よりも高い値であるにも関わらず、細孔容積の値が0.023ml/g以下と低いことから、大きなオープンポアがほとんど存在せず、微細・微小なポアの存在、もしくは粒子表面の粒界や凹凸により高いBET比表面積の値を維持していることが把握できる。一方、比較例2、3については、高いBET比表面積の値を維持しているものの、後述する図5に示すように、大きなポアが存在していることと推察される。その結果、キャリア芯材の強度において、実施例1〜8については、それぞれの値が、2.2、2.9、2.5、3.1、4.2、5.6、5.2であり、いずれも6.0以下の低い値であって、高い強度である。これに対し、比較例1〜3については、それぞれの値が、6.5、7.1、10.2であり、いずれも6.0以上の高い値であって、低い強度である。
【0096】
ここで、さらなる強度の向上を図るためには、以下のように構成することが好ましい。すなわち、BET比表面積の値をw(m/g)とし、水銀圧入法による細孔容積の値をv(ml/g)とすると、v≦0.63w−0.084w+0.028の関係を有するようにする。なお、wの値については、上記した範囲、すなわち、0.15≦w≦0.25であり、vの値についても、上記した範囲、すなわち、0.003≦v≦0.023である。BET比表面積の値と水銀圧入法による細孔容積の値とが、このような関係を有するキャリア芯材については、キャリア芯材の粒子の強度をより高くすることができる。具体的には、このような関係を有する実施例1〜6については、強度の値が4.5未満となり、さらなる強度の向上を図ることができる。
【0097】
さらに好ましい一実施形態として、500ppm<y≦3400ppmであり、平均粒径の値が、20μm以上30μm以下の範囲にあり、BET比表面積の値が、0.15m/g以上0.20m/g以下の範囲にあり、水銀圧入法による細孔容積の値が、0.003ml/g以上0.012ml/g以下の範囲にあるよう構成してもよい。このような電子写真現像剤用キャリア芯材は、より確実に、高いBET比表面積の値を達成しながら、コーティング樹脂との結着性を向上させ、粒子強度を高くすることができる。具体的には、実施例1〜4に示すように、強度の値を3.0以下とすることができる。
【0098】
図2に、実施例1に係るキャリア芯材の外観の電子顕微鏡写真を示す。図3に、比較例1に係るキャリア芯材の外観の電子顕微鏡写真を示す。図4に、実施例1に係るキャリア芯材の断面の電子顕微鏡写真を示す。図5に、比較例2に係るキャリア芯材の断面の電子顕微鏡写真を示す。
【0099】
図2〜図5を参照して、実施例1については、その表面性が良好である。すなわち、結晶粒界が多く存在しており、適度な凹凸を有していて、粒子表面の結晶グレインが均質であるのが把握できる。また、実施例1によると、キャリア芯材の内部の空隙や細孔が非常に少ないことが把握できる。一方、比較例2については、結晶粒界が実施例1の場合と比べて少なく、凹凸度合いが不十分である。また、比較例2によると、キャリア芯材の内部の空隙や細孔が非常に多いことが把握できる。
【0100】
以上より、この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤によれば、その特性が良好である。
【0101】
なお、上記の実施の形態において、マンガンをキャリア芯材に含まれる原料としたが、マンガンを含まない構成としてもよい。
【0102】
また、上記の実施の形態に於いて、鉄を含む原料としては、FeとMnを仮焼成し、その後、ボールミルで粉砕した仮焼原料を用いることとしたが、これに限らず、単純にFeそのもの等を用いることとしてもよい。この場合、鉄を含む原料として、Feの体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとしたものを用いるとよい。
【0103】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
この発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材、その製造方法、電子写真現像剤用キャリア、および電子写真現像剤は、高画質が要求される複写機等に適用される場合に、有効に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法であって、
鉄を含む原料、およびストロンチウムを含む原料をスラリー化するスラリー化工程と、
前記スラリー化工程の後に、得られた混合物の造粒を行う造粒工程と、
前記造粒工程により造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成する焼成工程とを備え、
前記スラリー化工程は、前記鉄を含む原料について、鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするようスラリー化する工程であって、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれる前記ストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるように前記ストロンチウムを含む原料をスラリー化する工程である、電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー化工程は、前記鉄を含む原料を予め仮焼して用いる、請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程は、焼成温度を1050〜1180℃の範囲内とし、焼成温度に達してからの保持時間を0.5〜10時間の範囲内として、焼成を行う、請求項1または2に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程は、酸素濃度を10−7%以上3%以下となるように調整し、焼成を行う、請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項5】
鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれる前記ストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmであり、
平均粒径の値が、20μm以上30μm以下の範囲にあり、
BET比表面積の値が、0.15m/g以上0.25m/g以下の範囲にあり、
水銀圧入法による細孔容積の値が、0.003ml/g以上0.023ml/g以下の範囲にある、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項6】
BET比表面積の値をw(m/g)とし、水銀圧入法による細孔容積の値をv(ml/g)とすると、v≦0.63w−0.084w+0.028の関係を有する、請求項5に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項7】
鉄、およびストロンチウムをコア組成として含む電子写真現像剤用キャリア芯材であって、
鉄を含む原料、およびストロンチウムを含む原料をスラリー化し、得られた混合物の造粒を行い、造粒した粉状物を所定の温度で焼成して磁性相を形成して製造され、
鉄を含む原料の体積粒径D50を1.0〜4.0μmとし、鉄を含む原料の体積粒径D90を2.5〜7.0μmとするよう鉄を含む原料をスラリー化し、電子写真現像剤用キャリア芯材に含まれる前記ストロンチウムの含有量をyとすると、0<y≦5000ppmとなるように前記ストロンチウムを含む原料をスラリー化して製造される、電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項8】
電子写真の現像剤に用いられる電子写真現像剤用キャリアであって、
請求項6または7に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材と、
前記電子写真現像剤用キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備える、電子写真現像剤用キャリア。
【請求項9】
電子写真の現像に用いられる電子写真現像剤であって、
請求項8に記載の電子写真現像剤用キャリアと、
前記電子写真現像剤用キャリアとの摩擦帯電により電子写真における帯電が可能なトナーとを備える、電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−215681(P2012−215681A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80263(P2011−80263)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】