説明

電子写真現像用キャリア粉および電子写真現像剤

【課題】低比重のキャリア粉において、摩耗、損耗および破砕に対する抵抗力を向上させた新規な構造を有するキャリア粉を提供する。
【解決手段】複数の磁性粒子を、フェノール類とアミン類の反応生成物に塩基性触媒存在下でアルデヒド類を反応させて得られる熱硬化性樹脂(代表的にはベンゾオキサジン樹脂)で結着してなる複合粒子で構成される電子写真現像用キャリア粉。磁性粒子としては表面に酸化層のある鉄粒子、Cu、Mn、Mg、Ni、Zn等の鉄以外の金属を1種類以上含むフェライト、γ−Fe23、マグネタイト等が使用できる。フェノール類としてフェノールが、アミン類としてアニリンが、アルデヒド類としてホルムアルデヒドが、塩基性触媒としてアンモニア水がそれぞれ好適に使用できる。このキャリア粉は、例えば個数平均粒子径D50が1〜1000μm、真密度が1.5〜4.0g/cm3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真の現像用に使用される磁性キャリア粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真の乾式現像法は、現像剤である粉体のトナーを感光体上の静電潜像に付着させ、当該付着したトナーを所定の紙等へ転写して現像する方法である。ここで現像剤としては、トナーと、電子写真現像剤用キャリア粉(以下単に「キャリア粉」という)とを含む2成分系現像剤を用いる2成分系現像法と、トナーのみを含む1成分系現像剤を用いる1成分系現像法とに分けられる。近年はトナーの荷電制御が容易で安定した高画質が得ることができ、高速現像が可能であることから、ほとんどの場合、2成分系現像法が用いられている。2成分系現像法では、トナーとキャリアを攪拌することによる摩擦によってトナーを帯電させ、トナーをキャリアによって所定の位置に運ぶ。
【0003】
近年、電子写真の急速な普及により、複写機や汎用コンピューター用プリンターへの要求性能レベルが上がり、さらなる高画質化、現像速度の高速化、カラー化に対する要求が高まっている。それに伴い、トナーの小粒径化・軽量化が進み、トナーを運ぶ役目をするキャリアに関してもトナーと同様に小粒径・軽量化が求められるようになってきた。
【0004】
キャリアの軽量化に関し、特許文献1には強磁性体粒子と硬化したフェノール樹脂との複合体粒子からなるキャリアが開示されている。これは、強磁性体粒子、懸濁安定剤及び塩基性触媒の存在下で、フェノール類とアルデヒド類とを反応・硬化させることにより製造される。
【0005】
特許文献2には酸化鉄粒子粉末と硬化したフェノール樹脂からなる上記のような複合体粒子を芯材として、その上にさらにアニリン樹脂または尿素樹脂とフェノール樹脂との硬化した共重合体樹脂を被覆した電子写真現像剤用キャリアが開示されている。この被覆層はアニリン類、尿素類を、アルデヒド類および酸性触媒存在下でフェノール類と反応させることによって形成される。これにより、被覆樹脂の剥離耐久性に優れたキャリアが得られるという。
【0006】
【特許文献1】特許第2738734号公報
【特許文献2】特許第3407542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術によりキャリアの軽量化が図られた。また特許文献2の技術により樹脂被覆の耐剥離性の向上が図られた。しかしながら、昨今の高画質化の要求に十分対応するには、長期間使用した際に粉体の粒径ができるだけ変化しない優れた耐久性を有するキャリア粉が要求される。上記特許文献に示される従来のキャリア粉では、昨今の厳しいニーズに対しては、攪拌による粒子の損傷や損耗に対する抵抗力が必ずしも十分であるとは言えず、更なる耐久性の向上が望まれる。
【0008】
また、特許文献1、2に開示の従来のキャリア粉は、フェノール類とアルデヒド類を強磁性体微粒子と塩基性触媒の存在下で、水溶性媒体中で昇温しながら硬化させる製造方法によって得られるものである。磁性粉と、フェノール類およびアルデヒド類とを混合して得られるスラリーを水溶性媒体中で分散させる場合、十分な懸濁状態にし、スラリー粒子にする必要があるが、過度に分散力を強くし過ぎると、所望な粒子にならず、スラリー中から磁性粉の脱離が起き易くなる。また、フェノールとホルムアルデヒドを樹脂原料とする場合、フェノールとホルムアルデヒドは水溶性媒体に可溶であるため、水溶性媒体中に溶け出し、重合反応完了まで初期のスラリー粒子形状を維持することが困難となる。したがってこれらの先行技術による方法では、反応条件が変動すると、磁性粉のみからなる微粒子粉となったり、不定形な粒子となることが多く、所望の球状サイズ・粒子を安定して実現することは必ずしも容易ではない。
【0009】
さらにこれらの特許文献に記載のキャリア粉を製造する場合、樹脂原料と磁性粉の配合比は、それらの混合物であるスラリーの粘性(粘度)に影響を与えやすく、スラリー粘度は、分散溶媒への懸濁時にスラリー粒子の粒径に影響を及ぼしやすいと考えられる。スラリー粘度が高い条件では、最終的な生成粒子は真球状になり易いが、粒径が大きくなり、市場で求められるキャリア粒径より過度に大きくなる傾向にある。他方、スラリー粘度が低い条件では、生成粒子は小さくなる傾向にあり、生成粒子は表面が平滑性の高い球面ではなく、凹凸やガサツキのある粒子になる傾向が見られる。これは、スラリー粘度が低い状態では、スラリー粒子中の樹脂成分や磁性粉が十分に保持できず、樹脂成分の溶媒中への溶出や磁性粉の離脱が生じやすいことに起因するものと考えられる。このような状況下ではスラリー粘度を一定の許容範囲に収めることについても、必ずしも容易であるとは言えない。
【0010】
本発明は、低比重のキャリア粉において、従来よりも粒子サイズや粒子形状のコントロールがしやすい製造法によって製造可能なキャリア粉であって、摩耗、損耗および破砕に対する抵抗力をさらに向上させた新規な構造を有するキャリア粉を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは詳細な検討の結果、フェノール樹脂ではなく、フェノール類とアミン類の反応生成物に塩基性触媒存在下でアルデヒド類を反応させて得られる熱硬化性樹脂によって磁性粒子同士を結着させることにより、摩耗、損耗および破砕に対する抵抗力が顕著に向上することを見出した。また、懸濁時のスラリー(樹脂原料及び磁性体粉末の混合物)粒子中のモノマーが、分散溶媒(水)に溶解しないことに着目し、フェノール類とアルデヒド類を最初に反応させるのではなく、フェノール類とアミン類を最初に反応させて中間体モノマーを作り、分散溶媒(水)中に均一な粒子径でこのモノマーの液滴を分散させ、さらにこれを基に重合反応を生じさせることで、磁性粒子を結着する樹脂をベンゾオキサジン樹脂とすることが可能であることがわかった。そしてベンゾオキサジン樹脂はキャリア粒子の顕著な強度向上をもたらすことが明らかになった。この製造法によれば、キャリア粒子の粒子サイズや形状のコントロールも、従来法より容易になる。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち、上記目的は、複数の磁性粒子を、フェノール類とアミン類の反応生成物に塩基性触媒存在下でアルデヒド類を反応させて得られる熱硬化性樹脂で結着してなる複合粒子で構成される電子写真現像用キャリア粉によって達成される。
【0013】
この熱硬化性樹脂は代表的にはベンゾオキサジン樹脂である。ベンゾオキサジン樹脂は、ポリベンゾオキサジンを主体とする、ベンゾオキサジン環を有する重合化合物である。。本発明のキャリア粉は、複数個の磁性粒子が上記重合化合物の中に取り囲まれて存在する構造をもつ「複合粒子」からなる。この複合粒子において、個々の磁性粒子は前記樹脂を介して結びつけられているが、個々の磁性粒子同士は部分的に直接接触していても構わない。このような複合粒子で構成されるキャリア粉は、個数平均粒子径D50が1〜1000μm、真密度が1.5〜4.0g/cm3であるものが好適な対象となる。D50はレーザー回折法による粒度分布から求まる個数平均粒子径が採用される。
【0014】
このキャリア粉は、例えば、当該キャリア粉を、振とう角15°、振とう速度230回/min、振とう時間120minの条件で振とう試験に供したとき、下記(1)式による振とう試験前後におけるD50の低下率ΔD50(120)が10%以下好ましくは7%以下となる、優れた耐久性を有するものである。
ΔD50(t)=(D50(0)−D50(t))/D50(0)×100 ……(1)
ここで、
t:振とう試験時間(min)
50(0):振とう試験前(初期)のキャリア粉のD50
50(t):振とう試験時間t(min)後のキャリア粉のD50
である。
振とう試験は、例えば粉体50gについて、株式会社ヤヨイ製振とう器(NEW−YS)を用いて実施することができる。
【0015】
また本発明では、このようなキャリア粉と、トナーとを含む電子写真現像剤を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、摩耗、損耗および破砕に対する抵抗力の高い、低比重のキャリア粉が提供可能になった。このキャリア粉は、攪拌による粒子の損傷や損耗が顕著に抑制されるため、使用中にキャリア粒子の小径化が生じ難い。このためカブリ等の画像劣化が生じ難く当初の高画質が長期間維持されるとともに、キャリア寿命も向上する。また、本発明のキャリア粉は従来よりも粒子のサイズや形状が適正範囲にコントロールしやすい方法で製造できるため、キャリア粉の品質向上およびコスト低減にも寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のキャリア粉を構成する粒子は、複数の磁性粒子を、フェノール類とアミン類の反応生成物に塩基性触媒存在下でアルデヒド類を反応させて得られる熱硬化性樹脂で結着してなる複合粒子である。以下、本発明のキャリア粉の構成について説明する。
【0018】
〔磁性粒子〕
磁性粒子としては、表面に酸化層のある鉄粒子、Cu、Mn、Mg、Ni、Zn等の鉄以外の金属を1種類以上含むフェライト、γ−Fe23、マグネタイト等の粉体粒子を使用することができる。種類の異なる2種以上の磁性粉体粒子を使用してもよい。磁性粒子の粒径は0.05〜1μm程度のものが適用でき、0.1〜0.5μmの粒子がより好ましい。使用する磁性粒子の粒径がキャリア粉粒子の所望粒径に対してあまり大きいと、樹脂により結着させて複合粒子としたとき、表面のゴツゴツした凹凸の大きい複合粒子となりやすいので好ましくない。
【0019】
〔樹脂〕
このような複数個の磁性粒子を取り囲んでいる樹脂は、フェノール類とアミン類の反応生成物(中間体)に塩基性触媒存在下でアルデヒド類を反応させて得られる重合体からなる熱硬化性樹脂であり、これは代表的にはベンゾオキサジン樹脂である。フェノール類に対してアミン類が過剰に多い場合や、その反応生成物(中間体)に対してアルデヒド類が少なすぎる場合は、熱硬化性樹脂が得られない場合がある。種々検討の結果、前記中間体を得る段階でフェノール類1モルに対しアミン類0.01〜1.0モルを反応させることが好ましく、0.1〜0.5モルを反応させることがさらに好ましい。また、中間体からベンゾオキサジン樹脂を生成させる段階(重合段階)では、中間体生成前に投入したフェノール類1モルに対しアルデヒド類(例えばホルムアルデヒド)0.6〜2.0モルを反応させることが好ましく、1.0〜1.5モルを反応させることがさらに好ましい。ただしアルデヒド類を過剰に添加すると、粒子同士の凝着が生じやすくなるので注意を要する。
【0020】
〔真密度〕
本発明のキャリア粉は、樹脂により磁性粒子が取り囲まれているので、従来の鉄粉系キャリアやフェライト系キャリアと比較し、真密度が小さい。このため、現像部内で攪拌されることによってキャリア粉が受けるストレス(攪拌ストレス)を大幅に軽減することができる。種々検討の結果、真密度は1.5〜4.0g/cm3の範囲とすることが効果的であり、2.0〜3.5g/cm3の範囲がより好ましい。真密度は樹脂原料と磁性粉体の配合比率によりコントロールすることができる。
【0021】
〔磁性粒子の含有量〕
キャリア粉中に含まれる磁性粒子の含有量は10〜99質量%の範囲で設定できる。樹脂に対する磁性粒子の配合比が多くなるほど、粒子の飽和磁化が高くなるが、磁性粒子が95質量%を超えると粒子の強度が低下することが懸念される。また、磁性粒子の配合量が少なくなりすぎると、現像スリーブに保持させるための磁化が不足し、感光体へのキャリア付着を招きやすくなる。キャリア粉中に含まれる磁性粒子の含有量は50〜95質量%とすることがより好ましく、70〜90質量%が一層好ましい。上述した各種の磁性粒子を使用した場合、50〜95質量%、あるいは70〜90質量%の含有量範囲内において、キャリア粉の真密度を1.5〜4.0g/cm3にコントロールすることが可能である。
【0022】
〔個数平均粒子径D50
また、本発明のキャリア粉の平均粒径、すなわち複数の磁性粒子が前記樹脂により結着されている複合粒子からなる粉体の平均粒径は、個数平均粒子径D50が概ね1〜1000μmの範囲であればよい。この個数平均粒子径D50は、樹脂原料組成、使用量、磁性粉の配合量等の条件により、コントロールすることができる。ただし、D50が小さくなると感光体表面へのキャリア付着が起こり易くなり、逆にD50が大きくなると現像画像が不鮮明になったり、現像機での撹拌ストレスが増大したりしやすくなる。画像の高画質化を重視する場合は、キャリア粉の個数平均粒子径D50が10〜200μmの範囲であることがより好ましく、10〜100μmであることが一層好ましい。
【0023】
〔製造法〕
本発明のキャリア粉は、フェノール類、アミン類を磁性粉粒子の存在する水または水性溶媒中で反応させて、フェノール類とアミン類の反応生成物(中間体)であるモノマーと、磁性粒子からなる粒子状物質が懸濁したスラリーを作り、このスラリーに、塩基性触媒存在下でアルデヒド類を添加して、昇温することにより、前記中間体とアルデヒド類を反応させて重合させ、磁性粒子をその重合体によって結着させる方法によって製造される。
【0024】
本発明に使用する反応装置は、密閉型反応容器が好ましく、還流式冷却器の付属した密閉型反応容器が好適に使用できる。反応加熱時の密閉性が悪く、溶媒の水蒸気や樹脂反応原料が大気中に放気される状態であると、溶媒である水や樹脂原料と磁性粉粒子との配合割合が反応経過に伴って変化し、反応終了後の粒子のサイズや形状を適正にコントロールすることが難しくなる。また、温度条件によっては反応物の固化や粒子同士の凝着を引き起こす可能性がある。特に重合反応を生じさせる段階では加熱開始時から反応終了時まで一定の固形分濃度条件で反応を進行させることが重要であり、そのためには、溶媒や樹脂原料の蒸気が冷却・還流される仕組みを持つ反応容器を使用することが望ましい。
【0025】
原料として使用する磁性粉体は、樹脂原料との親和性を良くするために、必要に応じて、予め親油化処理が施される。例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤等を用いた表面改質法が採用できる。その際、これらのカップリング剤を1種以上組み合わせて使用しても良い。具体的には、例えばヘンシェルミキサー中に磁性粉と磁性粉100質量部に対して0.1〜10質量部好ましくは1〜5質量部のカップリング剤を仕込み、100℃程度の熱を加えながら、1〜2h程度撹拌混合し、磁性粒子表面にカップリング剤を配向させる方法が採用できる。
【0026】
溶媒としては水または水系溶媒が使用できる。ただし、溶媒中には分散剤や懸濁安定剤を添加しておくことが望ましい。磁性粉と樹脂原料の配合比によって、反応途中に生成するスラリーの粘度が変動するが、スラリー粘度が高くなるほど、十分に粒子状物質を分散させるための攪拌条件(攪拌羽根の形状、攪拌回転数、攪拌羽根と容器壁面までのクリアランス等)について、設定自由度が低下する。スラリーの十分な分散が確保できないと、重合反応後に所望の粒子サイズや形状が得られない場合があるので、分散剤や懸濁安定剤を使用することが効果的である。ここでいう分散剤とは、スラリー粒子と分散溶媒とを分ける固−液若しくは液−液界面に存在し、スラリー粒子中の磁性粉や樹脂原料が溶媒中に脱離、溶解することを防止する役割を果たすものである。また懸濁安定剤とは、添加量に応じてスラリー粒子に配向することにより、スラリー粒子の表面積を向上させ、安定した粒子径で分散させる役割を果たすものである。
【0027】
分散剤としては、非イオン系界面活性剤が適しており、例えば、リン酸カルシウムやフッ化カルシウム、炭酸カルシウム等の、水系溶媒や油系溶媒双方に不溶な無機固形粉体が使用できる。また、懸濁安定剤としては、高分子系界面活性剤やイオン系界面活性剤が使用できる。高分子系界面活性剤としては例えばポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられ、イオン系界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤として例えば直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、アルファスルフォ脂肪酸エステルナトリウム、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムといった陰イオン−アルキルベンゼン系・高級アルコール系・オレフィン系のものが挙げられる。また、これらを1種以上組み合わせて使用しても良い。
【0028】
このような分散剤や懸濁安定剤を添加した水または水系溶媒に、磁性粉、フェノール類、およびアミン類を入れ、十分に攪拌してスラリーを作る。この初期の段階では、フェノール類とアルデヒド類を反応させるのではなく、フェノール類とアミン類を反応させ、中間体であるモノマーを生成させるのである。このスラリーは、磁性粒子と中間体モノマーとが複合した粒子状物質が懸濁したものであると考えられる。
【0029】
フェノール類としては、フェノール系水酸基を有するアルキルフェノール類、ベンゼン核の一部がハロゲン類によって置換されたハロゲン化フェノール類、ベンゼン核の一部がニトロ基に置換されたニトロフェノール類等があるが、入手性や反応性を考慮するとフェノールが最も好ましい。
【0030】
ここでいうアミン類とは、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンを表し、大きく脂肪族アミン類及び芳香族アミン類に分けられるが、より好ましくは第一級アミン類であり、さらに好ましくは芳香族アミン類である。例えばアニリン、N−ベンジルアニリン、α−ナフチルアミン、β−ナフチルアミン、o−トルイジン、m−トルイジン等が使用可能であるが、入手容易性、フェノール類との反応性、あるいは中間体とホルムアルデヒド類との反応性、さらに最終的に得られる樹脂の強度特性を考慮すると、アニリンを使用することが望ましい。
【0031】
中間体を作るための樹脂原料の配合比は、フェノール類1モルに対して、アニリン0.1〜0.5モル程度とすることが望ましい。アニリンの量が多過ぎると中間モノマー粘度が高くなり、溶媒中に十分に分散されないことおそれがある。
【0032】
次に、フェノール類とアミン類の反応生成物である中間体モノマーと、磁性粒子とのスラリーを、その懸濁粒子の分散が維持できるように攪拌しながら、当該液中にアルデヒド類を添加する。そして、液を昇温していき、その昇温過程で中間体モノマーとアルデヒド類を反応させて重合化させるための塩基性触媒を添加する。その後、重合反応が円滑に進行し、かつ溶媒の激しい沸騰が生じない温度域で例えば30min以上維持して攪拌を継続しながら重合反応を進行させる。重合反応が終了した後、溶媒を濾過して沈殿物を回収し、この沈殿物を水洗、乾燥することにより本発明のキャリア粉が得られる。
【0033】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール等のホルムアルデヒド類が使用できるが、入手容易性等を考慮するとホルムアルデヒドを使用するのが良い。先に添加したフェノール類1モルに対して、ホルムアルデヒド類1〜4モル程度を添加することが望ましい。アルデヒド類の添加量が多過ぎると未反応のアルデヒドが残留することがあるので注意を要する。
【0034】
触媒としては、塩基性触媒を使用する。例えば、約24質量%前後の濃度のアンモニア水を使用すると良い。他に、アルキルアミン系であるヘキサメチレンテトラアミン及びジメチルアミン、ペンチルアミン、ブチルエチルアミン、エチルメチルプロピルアミン、ジエチルトリアミン、ポリエチレンイミン等を塩基性触媒として使用できる。アンモニア水の添加量としては、先に添加したフェノール1モルに対し、アンモニア0.1〜1.0モル程度とすれば良く、0.3〜0.6モルの範囲とすることがより好ましい。
【実施例】
【0035】
〔実施例1〜8〕
磁性粒子の原料粉としてレーザー回折法による個数平均粒子径D50が0.2μmの非球形マグネタイト粉末(同和鉱業(株)製、DEFIC−B)を用意した。このマグネタイト粉末100gをヘンシェルミキサー内に入れ、シラン系カップリング剤2gを添加して、100℃まで攪拌しながら過熱し、100℃で1h保持することによりカップリング処理を施した。
【0036】
各種原料、溶媒、添加剤等を表1に示す配合量で使用して、以下の方法でキャリア粉を合成した。
溶媒の水には、予め分散剤としてリン酸カルシウム、懸濁安定剤として分子量500のポリビニルアルコール(PVA)およびドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム(DBS)添加し、分散・溶解させておいた。
上記カップリング処理済みのマグネタイトを還流式冷却器付きの三口フラスコ内に仕込み、フェノール、アニリン、および上記分散剤・懸濁安定剤を溶解させた水を添加し、20min攪拌し、スラリーを得た。攪拌中、スラリーの温度を30℃に保持した。
【0037】
次に、このスラリーにホルムアルデヒドを添加し、30℃から70℃まで120minで昇温し、その昇温過程では昇温開始90minの時点で塩基性触媒として23.5質量%のアンモニア水を添加し、次いで70℃から80℃まで60minで昇温し、そのまま80℃で1h保持したのち冷却した。この間、攪拌を継続した。液温が40℃以下になった時点で、液を濾過し、生成した沈殿物を分離・回収した。この沈殿物を水洗し、80℃で12h乾燥させて、複数の磁性粒子(マグネタイト)が重合化合物によって結着されている複合粒子からなるキャリア粉を得た。
【0038】
得られたキャリア粉について、その粒子をSEM(日本電子株式会社製 走査型顕微鏡、JSM−5200、倍率500倍)により観察して粒子形状が不定形であるか球状であるかを調べた。ここで「不定形」とは表面に凹凸が見られる粒子で構成される粉末であり、「球状」とは表面が平滑でアスペクト比が概ね1〜1.2の粒子で構成される粉末である。
また、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック、Model 9320−X100)により粒度分布を測定し、個数平均粒子径D50を求めた。これは後述の振とう試験前のD50であるから、D50(0)と表示する。
【0039】
このキャリア粉の飽和磁化σsを東英工業株式会社製振動試料型磁力計(VSM)により測定した。
また、このキャリア粉の真密度をQUANTACHROME製ピクノメータ1000(UPY−15T)で測定した。
【0040】
次に、このキャリア粉を振とう試験に供した。すなわち、キャリア粉50gを株式会社ヤヨイ製振とう器(NEW−YS)にセットし、振とう角15°、振とう速度230回/min、振とう時間t=30、60、90、120minの条件で振とう試験を行った。振とう試験後の粉体について上記と同様に個数平均粒子径D50を測定し、試験時間t(min)後の個数平均粒子径D50(t)を求めた。前記D50(0)と、D50(t)から、前記(1)式により振とう試験時間t(min)におけるD50の低下率ΔD50(t)を算出した。
これらの結果を表2に示す。また、振とう時間とD50低下率の関係を図1に示す。
【0041】
〔比較例〕
初期段階でアニリンを添加せずに、フェノールとホルムアルデヒドを添加し、30℃で20min攪拌してスラリーを作り、その後の過程でホルムアルデヒドを添加しなかったこと以外、前記実施例と同様の方法により、各種原料、溶媒、添加剤等を表1に示す配合量で使用して、キャリア粉を得た。アンモニア水の添加時期および昇温、冷却パターンも実施例と同じである。
得られたキャリア粉について実施例と同様の測定を行った。これらの結果を表2に示す。また、振とう時間とD50低下率の関係を図1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
本発明例である実施例では、フェノールとアニリンを先に反応させて、その反応生成物である中間体モノマーと磁性粒子からなる粒子状物質が懸濁したスラリーを作り、その後、塩基性触媒存在下で中間体モノマーとホルムアルデヒドと反応させて重合化させ、複数の磁性粒子がその重合化合物により結着されてなる複合粒子を合成したものである。この重合体は熱硬化していることが確認された。重合化合物は、反応過程から、ベンゾオキサジン樹脂(ベンゾオキサジン環を有する重合体を主体とする樹脂)であると考えられる。このことは、NMR法(核磁気共鳴分析法)や、熱分解GC−MS法(ガスクロマトグラフ−マススペクトル法)、IR法(赤外線吸光分析法)等を組み合わせて解析を行った結果からも肯定される。
一方、比較例のものはフェノールとアニリンの反応生成物を作ることなく、フェノールとホルムアルデヒドを反応させて重合させたものであり、磁性粒子はフェノール樹脂によって結着されている。
【0045】
実施例の複合粒子からなるキャリア粉は、振とう試験後のD50低下率(ΔD50(t))が比較例のものより大幅に小さく、120minの振とう試験後のΔD50(120)が10%以下の優れた耐久性を有していた。特にΔD50(120)が7以下という、極めて耐久性の高い低比重のキャリア粉を得ることも可能であることが確認された。また、飽和磁化もキャリア粉に要求される特性を十分満たしている。実施例1、3では粒子形状が不定形であったが、ΔD50(120)が極めて低いことから、実用性は高いと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】振とう試験時間とD50低下率の関係を表すグラフ。
【図2】本発明のキャリア粉を構成する粒子の構造を模式的に示した粒子断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁性粒子を、フェノール類とアミン類の反応生成物に塩基性触媒存在下でアルデヒド類を反応させて得られる熱硬化性樹脂で結着してなる複合粒子で構成される電子写真現像用キャリア粉。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がベンゾオキサジン樹脂である請求項1に記載の電子写真現像用キャリア粉。
【請求項3】
当該キャリア粉は、個数平均粒子径D50が1〜1000μm、真密度が1.5〜4.0g/cm3である請求項1または2に記載の電子写真現像用キャリア粉。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のキャリア粉と、トナーとを含む2成分系電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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