説明

電子写真現像用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像用キャリア並びに二成分系電子写真現像剤

【課題】電気抵抗が高くかつ電圧依存性が小さく、安定した画像濃度を得ることが出来るキャリアを製造可能なキャリア芯材を提供すること。
【解決手段】 一般式:(MnMg1−x)Fe4−δ(但し、0≦x<1)で表記されるスピネル型結晶単相のフェライトから構成され、かつ、当該フェライト相におけるスピネル格子中の酸素欠損δが、0≦δ≦0.004であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真現像用キャリア芯材(本発明において「キャリア芯材」と記載する場合がある。)およびその製造方法、当該キャリア芯材を用いた電子写真現像用キャリア(本発明において「キャリア」と記載する場合がある。)並びに当該電子写真現像用キャリアとトナーとを混合して製造される二成分系電子写真現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の乾式現像法は、現像剤である粉体のトナーを感光体上の静電潜像に付着させ、当該付着したトナーを所定の紙等へ転写して現像する方法である。ここで、現像剤としては、トナーのみを含む1成分系現像剤を用いる1成分系現像法と、トナーとキャリアとを含む2成分系現像剤を用いる2成分系現像法とに分けられる。そして、近年は、ほとんどの場合、トナーの荷電制御が容易で安定した高画質を得ることが出来、高速現像が可能である二成分系現像法が用いられている。
【0003】
従来から、上述した二成分系現像法において、トナー粒子へ充分な帯電能力を付与する為に、キャリア粒子を小粒径化し、比表面積を大きくする対策がとられている。しかし、当該小粒径化されたキャリアは、キャリア付着という異常現象を発生し易くなるという問題がある。
【0004】
ここで、キャリア付着とは、電子写真現像の際に二成分系電子写真現像剤中のキャリアが飛散して、感光体やその他の現像装置内に付着する現象のことである。
当該キャリア付着の発生についてさらに説明する。
電子写真現像装置内で現像中に回転する現像スリーブ上において、当該回転によってキャリアに遠心力が加えられる。一方、当該遠心力に抗して、当該キャリアを現像スリーブに保持しようとする磁気力および静電気力が存在する。この結果、当該磁気力および静電気力により、キャリアの飛散防止が行われている。
【0005】
しかし、従来の技術において、キャリアを小粒径化した場合、キャリアの保磁力が低下した。この結果、現像スリーブの回転によって発生する遠心力が保持力に勝り、現像スリーブ上に形成された磁気ブラシからキャリアが飛散し、感光体上に付着する現象(キャリア付着)が発生した。当該感光体上に付着したキャリアは、そのまま転写部に至るが、当該感光体上にキャリアが付着した状態では、当該キャリア周辺のトナー像が転写紙に転写されない為、画像異常となるものである。
【0006】
当該状況の下、特許文献1は、キャリア粒子表面に均一な膜厚の樹脂コートを施し、被膜樹脂の電気抵抗値の調整、膜厚の制御を施すことで、印加電圧依存性の少ない電気抵抗値を持つキャリアが得られ、キャリア付着を抑制出来る旨が記載されている。
また、特許文献2は、粒子間の磁気特性を均一化したキャリアを製造することを提案している。さらに、キャリアにおいて磁気特性を均一化することで、キャリア付着を抑制出来る旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−259010号公報
【特許文献2】特許第4125164号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等の検討によると、特許文献1に係るキャリアは長時間の使用に伴ってコート樹脂の磨耗や剥離等が生じた場合、当該キャリアの電気抵抗値が、印加電圧依存性を持つキャリア芯材のレベルまで低下するという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に係るキャリアは、焼成時の酸素濃度が低いために電気抵抗値が印加電圧依存性を持つようになり、画質が安定しなくなるという問題がある。
【0010】
上記の現状より、本発明の目的は、電気抵抗値が高くかつ当該電気抵抗値の電圧依存性が小さいキャリアを製造することの出来るキャリア芯材およびその製造法、当該キャリア芯材を用いたキャリア、並びに当該キャリアを用いた二成分系電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、キャリア芯材粒子製造工程における焼成過程に注目し、検討を行った。そして、当該検討の結果、従来広く用いられている窒素等の不活性雰囲気下で焼成を行ってキャリア粒子を製造した場合、当該製造されたキャリア芯材中に形成されたスピネル構造中の酸素が欠損し、部分的にn型キャリアを生成することに想到した。そして当該n型キャリアの生成のため、当該製造されたキャリア芯材の電気抵抗値が電圧依存性を持つようになることに想到した。その結果、当該キャリア芯材から製造されたキャリアの帯電量が変動し、画像濃度が安定しなくなるのである、との知見に想到した。
ここで本研究者らは、当該知見に基づき、キャリア芯材粒子製造工程における焼成過程において、形成されるスピネル構造中の酸素欠損量を所定値以下に制御することにより、上述の課題を解決出来ることに想到し、本発明に至った。
【0012】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
一般式:(MnMg1−x)Fe4−δ(但し、0≦x<1)で表記されるスピネル型結晶単相のフェライトから構成され、かつ、当該フェライト相におけるスピネル格子中の酸素欠損δが、0≦δ≦0.004であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0013】
第2の発明は、
平均粒子径が10μm以上、100μm以下であり、印加電圧100Vおける電気抵抗値(R100)、および、印加電圧1000Vにおける電気抵抗値(R1000)の比(R100/R1000)の値が1以上、20以下であり、且つ、10〜1000Vの印加
電圧に対する電気抵抗が3.0×10〜3.0×1010(Ω・cm)を満たすことを特徴とする第1の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0014】
第3の発明は、
Feを含む原料粉末、Mnを含む原料粉末およびMgを含む原料粉末を媒体液中で攪拌し、スラリー化する工程と、
前記工程によって得られたスラリーを液滴に噴霧しながら乾燥して造粒粉を得る工程と、
前記造粒粉を、酸素濃度が0.03%を超え、20.6%以下の雰囲気中で焼成してフェライト化させる工程と、を有することを特徴とする第1または第2の発明のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0015】
第4の発明は、
第1または第2の発明のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材を、樹脂で被
覆したものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアである。
【0016】
第5の発明は、
第4の発明に記載の電子写真現像剤用キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気抵抗値が高くかつ当該電気抵抗値の電圧依存性が小さいキャリアを製造することの出来るキャリア芯材、当該キャリア芯材を用いたキャリア、並びに当該キャリアを用いた二成分系電子写真現像剤を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例3〜5および比較例1〜2に係るキャリア芯材の電気抵抗値の電圧依存性である。
【図2】実施例10〜13および比較例5〜6に係るキャリア芯材の電気抵抗値の電圧依存性である。
【図3】実施例18〜21および比較例9〜10に係るキャリア芯材の電気抵抗値の電圧依存性である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について、1.電子写真現像剤用キャリア芯材、2.電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法、3.電子写真現像剤用キャリア、4.電子写真現像剤、5.マンガンマグネシウムフェライト中の酸素欠損δの導出方法、の順で説明する。
【0020】
1.電子写真現像剤用キャリア芯材
<組成>
本発明に係るキャリア芯材を構成するフェライトは、適用対象となる電子写真現像器の特性に合った抵抗特性を有する物質を選択すればよいが、画像特性を考慮した場合、一般式:(MnMg1−x)Fe4−δで表されるマンガンマグネシウムフェライトが好適に用いられる。これは、当該マンガンマグネシウムフェライトが高い電気抵抗値特性を持つからである。さらに、当該マンガンマグネシウムフェライトの一般式において、0≦x<1であることが好ましく、特に、0≦x≦0.8が好ましい。これは、xが当該範囲にあることで、後述する焼成条件において当該マンガンマグネシウムフェライトの単一相が容易に生成されるためである。尚、0=xのとき、本発明に係るキャリア芯材を構成するフェライトはマグネシウムフェライトとなる。本発明におけるマンガンマグネシウムフェライトという用語は、当該マグネシウムフェライトを含む意味で用いている。
【0021】
また、当該マンガンマグネシウムフェライト中のスピネル構造における酸素欠損δは、0≦δ≦0.004の範囲にあることが肝要である。δが0.004以下であれば、当該マンガンマグネシウムフェライトを含むキャリア芯材において、電気抵抗値の印加電圧依存性が小さくなる。この結果、長時間の使用に伴ってコート樹脂の磨耗や剥離等が生じた場合に、当該キャリアの電気抵抗値がキャリア芯材のレベルになったとしても、十分な電気抵抗値を保つことが出来る。その結果、キャリアの帯電性が保たれるのでキャリア付着が発生せず、画像特性が安定になるからである。
【0022】
<粒径>
本発明に関するキャリア芯材の粒度分布は、平均粒径が10μm以上、100μm以下であることが好ましい。平均粒径が10μm以上あることで一粒子あたりの磁力が確保出来、キャリア飛散を抑制することが出来るからである。一方、平均粒径が100μm以下であることで、画像特性を良好に保つことが出来るからである。
当該粒度分布を実現出来るよう、キャリア芯材の製造工程中または製造工程後に篩等を用いて分級処理を行うことが好ましい。
【0023】
<電気抵抗値>
本発明に係るキャリア芯材の電気抵抗値は、印加電圧100Vおける電気抵抗値(R100)および印加電圧1000Vにおける電気抵抗値(R1000)の比(R100/R
1000)の値が1以上、20以下となる。つまり、上述したように電気抵抗値の印加電圧依存性が小さくなる。
さらに、10〜1000Vの印加電圧に対する電気抵抗値が1.0×10〜1.0×1011(Ω・cm)の範囲にあること、さらには3.0×10〜3.0×1010(Ω・cm)の範囲にあることが好ましい。これは、電気抵抗値が1.0×10(Ω・cm)以上あれば、当該キャリア芯材を用いて製造したキャリアにおいて電荷のリーク現象が起こり難く、高画質画像が得られるからである。一方、電気抵抗値が1.0×1011(Ω・cm)以下であれば、帯電量が過剰にならず、電子写真現像の際、高画質を得られるからである。
【0024】
<磁力>
本発明に係るキャリア芯材の飽和磁化σsは、20〜60(emu/g)である。飽和
磁化σsが20emu/g以上あることで、上述した帯電性と相俟って、キャリア付着が
発生しなくなるからである。一方、飽和磁化σsが60emu/g以下であれば、ソフト
な磁気ブラシが形成され、電子写真現像の際、高画質を得られる。当該観点から、キャリア芯材の飽和磁化σsは20〜40(emu/g)であることがさらに好ましい。
【0025】
2.キャリア芯材の製造方法
以下、キャリア芯材の製造方法を、工程毎に詳細に説明する。
<原料>
キャリア芯材の原料としては、目的となる磁性相を構成する元素の酸化物を始めとする各種化合物が用いられる。
例えば、一般式:(MnMg1−x)Fe4−δで表される組成のスピネル型フェライトを生成させるのであれば、Fe供給源としてFe粉、Mn供給源としてMn粉、Mn粉、Mg供給源としてMgO粉、Mg(OH)粉が好適に使用できる。各原料粉は、焼成後の、Fe、MnおよびMgの各元素の配合比が目的組成となるように計量し、混合し原料混合粉とする。
ここで、容器中での攪拌により各原料粉の粉砕・混合を行うこととして良いが、次工程のスラリー化において、さらに、湿式ボールミルによる粉砕処理を加えることが好ましい。
【0026】
<スラリー化>
上記の原料混合粉と、媒体液とを混合する。原料混合粉と媒体液との混合比は、媒体液中の固形分濃度が50〜90質量%になるように混合することが好ましい。ここで、媒体液は、水へバインダー、および、分散剤等を添加したものを用意する。バインダーとしては、例えばポリビニルアルコールが好適に使用でき、その媒体液中濃度は0.5〜2質量%程度とすればよい。分散剤としては、例えばポリカルボン酸アンモニウムが好適に使用でき、その媒体液中濃度も0.5〜2質量%程度とすればよい。
【0027】
<造粒>
造粒は、上記スラリー化した原料を噴霧乾燥機(スプレードライヤー)に装填することによって好適に実施できる。噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。ここで上述したように、製造されるキャリア芯材の最終粒径を考慮し、得られた造粒粉から振動ふるい
等を用いて、粒径が100μmを超えるような造粒粉の粒子を予め除去する、粒度調整を行うことが望ましい。
【0028】
<焼成>
次に、得られた造粒粉を加熱した炉に投入して焼成し、磁性相を有する焼成物を得る。焼成温度は目的となる磁性相が生成する温度範囲に設定すれば良いが、本発明に係るマンガンマグネシウムフェライトを製造する場合には、1000〜1400℃の温度範囲で焼成することが一般的であり、1100℃〜1350℃の温度範囲であることが好ましい。さらに、炉内の酸素濃度を0.03%より高く、20.6%以下とすることが肝要である。炉内の酸素濃度が0.03%以上であるとスピネル格子中の酸素欠損δが0.004以下となり、電気抵抗の印加電圧依存性が小さくなるためである。当該観点から、炉内の酸素濃度は、8%以上、20.6%以下であることが好ましい。
炉内の酸素濃度の制御は、例えば、大気または大気と窒素の混合ガスを炉内にフローさせることにより達成可能である。
【0029】
得られた焼成物は、この焼成完了段階で粒度調整することが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒し、次に気流分級機で1次分級し、さらに、振動ふるい又は超音波ふるいで粒度を揃える処理を行うことにより、粒度調整された焼成物を得ることができる。当該粒度調整後、さらに磁場選鉱機にかけ、非磁性粒子を除去することが望ましい。
【0030】
3.電子写真現像剤用キャリア
本発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂等で被覆し、帯電性の付与および耐久性を向上させることで本発明に係るキャリアを得ることが出来る。当該シリコーン系樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行えば良い。
【0031】
4.電子写真現像剤
本発明に係るキャリアと適宜なトナーとを混合することで、本発明に係る電子写真現像剤を得ることが出来る。
【0032】
5.本発明に係るマンガンマグネシウムフェライトの酸素欠損δの測定方法
本発明に係るマンガンマグネシウムフェライトの酸素欠損δの測定方法は、酸化還元滴定の応用であり、<Fe2+の定量>、<総Fe量の定量>、<Fe平均価数の算出>の操作からなる。
以下に具体的操作を示す。
【0033】
<Fe2+の定量>
まず、マンガンマグネシウムフェライトを、炭酸ガスのバブリング中で還元性の酸である塩酸(HCl)水に溶解させ溶液とした。その後、当該溶液中のFe2+イオンの量を過マンガン酸カリウム溶液で電位差滴定することにより定量分析し、当該滴定量からFe2+の定量値(α)を求めた。
【0034】
<総Fe量の定量>
マンガンマグネシウムフェライトを、上述した<Fe2+の定量>の際と同量秤量し、塩酸と硝酸の混酸水に溶解させ溶液とした。その後、当該溶液を蒸発乾固させた後、乾固物へ硫酸水を添加して再溶解させ溶液とし、過剰な塩酸と硝酸を揮発させる。当該溶液へ固体Alを添加して溶液中のFe3+をFe2+に還元する。続いてこの還元された溶液に、上述した<Fe2+の定量>で説明した操作と同一の操作を行い、総Feの定量値(β)を求めた。
【0035】
<Fe平均価数の算出>
上述した<Fe2+の定量>におけるFe2+量(α)は、マンガンマグネシウムフェライトのFe2+量を示す。
従って、<総Fe量の定量>における総Fe量(β)と、<Fe2+の定量>におけるFe2+量(α)との差は、マンガンマグネシウムフェライトのFe3+量を示す。
そこで、以下の(式1)によりFeの平均価数を算出した。
Fe平均価数={3×(β−α)+2×α}/β・・・・・・・(式1)
【0036】
<酸素欠損δの導出>
(MnMg1−x)Fe4−δにおいて、MnおよびMgは2価(+2)、Oは2価(−2)、Feは3価(+3)である。従って、(MnMg1−x)Fe4−δ格子中の酸素欠損がない(δ=0)場合、Fe価数は+3となる。
一方、格子中に酸素欠損が、δ存在する場合、MnおよびMgは2価であるため、Feの平均価数は(式2)に示される。
Feの平均価数={(4−δ)×2−2}/2=3−δ・・・・・・(式2)
(式2)を整理すると(式3)となり、(MnMg1−x)Fe4−δ格子中の酸素欠損δは(式3)によって示される。
δ=3−Feの平均価数・・・・・・・(式3)
【実施例】
【0037】
本発明に係る電子写真用キャリア芯材の製造方法について、実施例を参照しながら具体的に説明する。
実施例の説明にあたり、まず、平均粒子径、電気抵抗値、磁気特性の各測定方法について説明する。
【0038】
<平均粒子径測定>
キャリア芯材試料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック、Model 9320−X100)を用いて測定した。
【0039】
<電気抵抗値測定>
キャリア芯材の電気抵抗値の測定は、次のように行った。
電極として表面を電解研磨した板厚2mmの真鍮板2枚を、電極間の距離を2mmとして配置した。当該2枚の電極板間の空隙へ、キャリア芯材試料粉体200mgを装入したのち、それぞれの電極板の背後に断面積240mmの磁石を配置して、電極間に被測定粉体のブリッジを形成させた状態とした。ここで、当該電極間に10Vから1000V迄の直流電圧を印加し、キャリア芯材試料粉体を流れる電流値から算出した。
尚、上述した電極板の背後に配置される磁石は、粉体がブリッジを形成出来る限り、種々のものが使用できるが、本発明の実施例では表面磁束密度が1500ガウスの永久磁石(フェライト磁石)を使用した。
【0040】
<磁気特性測定>
キャリア芯材試料の磁気特性は、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて磁化率の測定を行い、外部磁場10000Oeにおける磁化σ(emu/g)を得た。
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
Fe(純度:99.9%、平均粒径0.9μm)とMgO(純度:99.8%、平均粒径3.0μm)とを準備し、Fe:MgO=1:1(モル比)となるように秤量し、両者を純水中に分散させた。ここで、両者を分散させた純水中へ、分散剤として
ポリカルボン酸アンモニウムを、媒体液中濃度が1%となるように添加して混合物とした。当該混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、FeとMgOとの混合スラリーを得た。
当該実施例1に係る原料の混合比は、前述のフェライトの組成式(MnMg1−x)Fe4−δにおいて、x=0.00に相当するものである。
【0042】
得られたスラリーをスプレードライヤーにて約150℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜100μmの乾燥造粒粉を得た。尚、粒径が100μmを超えるような造粒粉は、篩により除去した。
得られた乾燥造粒粉を、電気炉に投入して、大気フロー雰囲気下(流量は5L/min)にて、1100℃で3時間焼成し焼成品を得た。得られた焼成品を粉砕処理したのち、篩により平均粒径を35μmとすることにより、実施例1に係るキャリア芯材試料を得た。
【0043】
当該実施例1、および、後述する実施例2〜21、比較例1〜12に係るキャリア芯材試料のxの値、焼成温度、焼成雰囲気中の酸素濃度、キャリア芯材試料中における総Fe量、キャリア芯材試料中におけるFe2+量、キャリア芯材試料中におけるFeの平均原子価数、キャリア芯材試料中における酸素欠損δの値、を表1に記載し、キャリア芯材試料の電気抵抗特性を表2に示す。なお、表2中記載の「B.D.」はその電圧において、当該キャリア芯材試料がブレークダウンしたことを示している。
【0044】
(実施例2)
実施例1で説明したFeとMgOと、さらにMn(純度:95.1%、平均粒径1.3μm)とを準備し、Fe:Mn:MgO=12:1:9(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた。
当該実施例2に係る原料の混合比は、前述のフェライトの組成式(MnMg1−x)Fe4−δにおいて、x=0.25に相当するものである。
上記以外の操作は、実施例1と同様に行い、実施例2に係るキャリア芯材試料を得た。
【0045】
(実施例3)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、雰囲気を、酸素濃度8.63%とした窒素と大気との混合雰囲気フロー下で焼成した以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例3に係るキャリア芯材試料を得た。
【0046】
(実施例4)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.25に相当するように、Fe:Mn:MgO=12:1:9(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例3と同様の操作を行い、実施例4に係るキャリア芯材試料を得た。
【0047】
(実施例5)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.50に相当するように、Fe:Mn:MgO=3:1:3(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例3と同様の操作を行い、実施例5に係るキャリア芯材試料を得た。
【0048】
(実施例6)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、焼成温度を1200℃とした以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例6に係るキャリア芯材試料を得た。
【0049】
(実施例7)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.25に相当するように、Fe:Mn:MgO=12:1:9(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例6と同様の操作を行い、実施例7に係るキャリア芯材試料を得た。
【0050】
(実施例8)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.50に相当するように、Fe:Mn:MgO=3:1:3(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例6と同様の操作を行い、実施例8に係るキャリア芯材試料を得た。
【0051】
(実施例9)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.75に相当するように、Fe:Mn:MgO=4:1:1(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例6と同様の処理を行い、実施例9に係るキャリア芯材試料を得た。
【0052】
(実施例10)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、雰囲気を、酸素濃度8.63%とした窒素と大気との混合雰囲気フロー下とした以外は、実施例6と同様の操作を行い、実施例10に係るキャリア芯材試料を得た
【0053】
(実施例11)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.25に相当するように、Fe:Mn:MgO=12:1:9(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例10と同様の操作を行い、実施例11に係るキャリア芯材試料を得た。
【0054】
(実施例12)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.50に相当するように、Fe:Mn:MgO=3:1:3(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例10と同様の操作を行い、実施例12に係るキャリア芯材試料を得た。
【0055】
(実施例13)
フェライトの組成式(MnMg1-x)Feにおいて、x=0.75に相当する
ように、Fe:Mn:MgO=4:1:1(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例10と同様の処理を行い、実施例13に係るキャリア芯材試料を得た。
【0056】
(実施例14)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、焼成温度を1300℃とした以外は実施例1と同様の操作を行い、実施例14に係るキャリア芯材試料を得た。
【0057】
(実施例15)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.25に相当するように、Fe:Mn:MgO=12:1:9(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例14と同様の操作を行い、実施例15に係るキャリア芯材試料を得た。
【0058】
(実施例16)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.50に相当するように、Fe:Mn:MgO=3:1:3(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例14と同様の操作を行い、実施例16に係るキャリア芯材試料を得た。
【0059】
(実施例17)
フェライトの組成式(MnMg1-x)Feにおいて、x=0.75に相当する
ように、Fe:Mn:MgO=4:1:1(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例14と同様の処理を行い、実施例17に係るキャリア芯材試料を得た。
【0060】
(実施例18)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、雰囲気を、酸素濃度8.63%とした窒素と大気との混合雰囲気フロー下とした以外は、実施例14と同様の操作を行い、実施例18に係るキャリア芯材試料を得た
【0061】
(実施例19)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.25に相当するように、Fe:Mn:MgO=12:1:9(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例18と同様の操作を行い、実施例19に係るキャリア芯材試料を得た。
【0062】
(実施例20)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.50に相当するように、Fe:Mn:MgO=3:1:3(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例18と同様の操作を行い、実施例20に係るキャリア芯材試料を得た。
【0063】
(実施例21)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=0.75に相当するように、Fe:Mn:MgO=4:1:1(モル比)となるように秤量し、3者を純水中に分散させた以外は、実施例18と同様の操作を行い、実施例21に係るキャリア芯材試料を得た。
【0064】
(比較例1)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、雰囲気を、酸素濃度0.03%とした窒素と大気との混合雰囲気フロー下とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1に係るキャリア芯材試料を得た
【0065】
(比較例2)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=1.00に相当するように、Fe:Mn=3:1(モル比)となるように秤量し、両者を純水中に分散させた以外は、比較例1と同様の操作を行い、比較例2に係るキャリア芯材試料を得た。
【0066】
(比較例3)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、雰囲気を、窒素フロー下とした以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例3に係るキャリア芯材試料を得た。
【0067】
(比較例4)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=1.00に相当するように、Fe:Mn=3:1(モル比)となるように秤量し、両者を純水中に分散させた以外は、比較例3と同様の操作を行い、比較例4に係るキャリア芯材試料を得た。
【0068】
(比較例5)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、酸素濃度が0.03%となるよう窒素と大気の混合雰囲気フロー下とした以外は、実施例6と同様の操作を行い、比較例5に係るキャリア芯材を得た。
【0069】
(比較例6)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=1.00に相当するように、Fe:Mn=3:1(モル比)となるように秤量し、両者を純水中に分散させた以外は、比較例5と同様の操作を行い、比較例6に係るキャリア芯材を得た。
【0070】
(比較例7)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、窒素フロー中にて焼成した以外は、実施例6と同様の操作を行い、比較例7に係るキャリア芯材を得た。
【0071】
(比較例8)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=1.00に相当するように、Fe:Mn=3:1(モル比)となるように秤量し、両者を純水中に分散させた以外は、比較例7と同様の操作を行い、比較例8に係るキャリア芯材を得た。
【0072】
(比較例9)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、酸素濃度が0.03%となるよう窒素と大気の混合雰囲気フロー下とした以外は、実施例14と同様の操作を行い、比較例9に係るキャリア芯材を得た。
【0073】
(比較例10)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=1.00に相当するように、Fe:Mn=3:1(モル比)となるように秤量し、両者を純水中に分散させた以外は、比較例9と同様の操作を行い、比較例10に係るキャリア芯材を得た。
【0074】
(比較例11)
実施例1で製造した乾燥造粒粉を電気炉に投入し、窒素フロー中にて焼成した以外は、実施例14と同様の操作を行い、比較例11に係るキャリア芯材を得た。
【0075】
(比較例12)
フェライトの組成式(MnMg1−x)Feにおいて、x=1.00に相当するように、Fe:Mn=3:1(モル比)となるように秤量し、両者を純水中に分散させた以外は、比較例11と同様の操作を行い、比較例12に係るキャリア芯材を得た。
【0076】
【表1】

【表2】

【0077】
(実施例1〜21および比較例1〜12のまとめ)
表1に記載したデータから、図1〜3を作成した。
図1〜3は、いずれも縦軸に電気抵抗値をとり、横軸に印加電圧をとったグラフである。
図1は、実施例3〜5および比較例1〜2に係るキャリア芯材試料の値を、実施例3は▲と実線で、実施例4は○と実線で、実施例5は*と実線で、比較例1は●と一点鎖線で、比較例2は+と一点鎖線でプロットしたものである。
図2は、実施例10〜13および比較例5〜6に係るキャリア芯材試料の値を、実施例10は◆と実線で、実施例11は□と実線で、実施例12は▲と実線で、実施例13は○と実線で、比較例5は*と一点鎖線で、比較例6は●と一点鎖線でプロットしたものであ
る。
図3は、実施例18〜21および比較例9〜10に係るキャリア芯材試料の値を、実施例18は◆と実線で、実施例19は■と実線で、実施例20は▲と実線で、実施例21は+と実線で、比較例9は□と一点鎖線で、比較例10は×と一点鎖線でプロットしたものである。
【0078】
表1、2および図1〜3から明らかなように実施例1〜21に係るキャリア芯材試料の電気抵抗値は印加電圧を1000Vとしても7×10(Ω・cm)以上であった。一方、比較例1〜12に係るキャリア芯材試料の電気抵抗値は、印加電圧が25V位の低電圧である場合は高い値を示すが、印加電圧の上昇と共に電気抵抗値が大きく低下する。そして、比較例2、4に係るキャリア芯材試料が100Vの印加電圧でブレークダウン(B.D.)し、比較例3に係るキャリア芯材試料が500Vの印加電圧でブレークダウンし、他の比較例に係るキャリア芯材試料は250Vの印加電圧でブレークダウンしていた。この為、比較例1〜12に係るキャリア芯材試料においては、R1000の値が測定出来なかった。
また、表1、2から明らかなように、焼成時の雰囲気中における酸素濃度が0.03%を超えた場合は、キャリア芯材試料の格子中の酸素欠損δが0.004以下となり、R100/R1000の値が1.07〜17.87であった。当該R100/R1000の値が1.07〜17.87であることから、当該キャリア芯材試料の静的抵抗の電圧依存性が少ないことが解る。
以上より、一般式(MnMg1−x)Fe4−δ(但し、0≦x<1)で表されるキャリア芯材は、焼成時の酸素濃度を0.03%を超え、20.6%以下の範囲とすることで、格子中の酸素欠損が0≦δ≦0.004となり、高い電気抵抗値を示し、当該電気抵抗値の印加電圧依存性が小さくなることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:(MnMg1−x)Fe4−δ(但し、0≦x<1)で表記されるスピネル型結晶単相のフェライトから構成され、かつ、当該フェライト相におけるスピネル格子中の酸素欠損δが、0≦δ≦0.004であることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項2】
平均粒子径が10μm以上、100μm以下であり、印加電圧100Vおける電気抵抗値(R100)、および、印加電圧1000Vにおける電気抵抗値(R1000)の比(R100/R1000)の値が1以上、20以下であり、且つ、10〜1000Vの印加
電圧に対する電気抵抗が3.0×10〜3.0×1010(Ω・cm)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項3】
Feを含む原料粉末、Mnを含む原料粉末およびMgを含む原料粉末を媒体液中で攪拌し、スラリー化する工程と、
前記工程によって得られたスラリーを液滴に噴霧しながら乾燥して造粒粉を得る工程と、
前記造粒粉を、酸素濃度が0.03%を超え、20.6%以下の雰囲気中で焼成してフェライト化させる工程と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材を、樹脂で被覆したものであることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項5】
請求項4に記載の電子写真現像剤用キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−107286(P2011−107286A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260506(P2009−260506)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】