説明

電子写真用トナー、およびその評価方法

【課題】 電子写真法の転写工程におけるトナーの転写効率に関して、トナー粒子の表面の凹凸と前記トナーの転写効率との相関関係を明らかとし、電子写真用トナーの評価方法として確立すること、およびトナーの転写効率が良好となる電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】 トナー粒子の表面形状を測定する工程、トナー粒子表面の三次元画像解析を行う工程、およびトナー粒子表面の表面面積比を算出する工程からなり、該トナー粒子の表面面積比から、感光体から転写材へ転写されるトナーの転写効率を評価することを特徴とする電子写真用トナーの評価方法。円形度が0.80以上0.98以下であって、表面面積比が160%以下と評価されることを特徴とする電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真法において、感光体からの転写効率の良い電子写真用トナーの評価方法、その評価による電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法は複写機、プリンタ、ファクシミリ等における画像形成方法の一手段として広く使用されている。電子写真法による一般的な画像形成は、コロナ放電、帯電ローラー、帯電ブラシあるいは帯電ブレード等を用いて一様に帯電させた光導電性絶縁体(感光体)上にレーザー光やLED光などを照射して静電潜像を形成し、この静電潜像に電子写真用トナー(以下、単にトナーと記す場合も同じ意味である。)を静電的に付着させてトナー画像を形成する現像工程と、該トナー画像を転写ベルト等の中間転写材や紙などの被印刷材に転写する転写工程と、転写されたトナー画像を被印刷材上で溶融、放熱させて固定する定着工程とを有する。以下、電子写真法を用いた複写機、プリンタ、ファクシミリ等の装置を総称して「電子写真印刷装置」と記すことにする。また、感光体から直接トナー画像が転写される部材を「転写材」と記す。
【0003】
このような電子写真法に用いられる現像剤としては、前記現像工程においてトナーを帯電させる方法及びトナーを感光体へ供給する方法の違いにより、トナーとキャリアとからなる2成分現像剤と、トナーのみからなる1成分現像剤とがある。2成分現像剤は、トナーがキャリアとの摩擦により帯電されながら磁気力で保持されたキャリアを介して静電潜像の形成されている感光体へ供給されることによりトナー画像が形成される。1成分現像剤は、トナーが現像装置内に設置された層規制部材等の部材との摩擦により帯電した後に静電潜像が形成されている感光体へ供給されてトナー画像が形成される。感光体へ供給される際のトナーの保持方法の違いにより、磁気力を利用してトナーを保持する磁性1成分現像剤と、静電気力によりトナーを保持する非磁性1成分現像剤とがある。
【0004】
2成分現像剤は、トナーとキャリアとの混合比を監視して制御する必要がある点および現像剤の攪拌機構を必要とする点などから現像装置が大型となってしまい、またキャリアとの摩擦に伴い現像剤性能が長期間維持しにくい課題を有するものの、転写性、定着性、耐環境特性などの電子写真特性に優れていることから、プリント枚数が多いオフィス向け複写機等の電子写真印刷装置に多く採用されている。一方、1成分現像剤は、現像装置が小型簡易化でき、トナー寿命でも優位性があることからパーソナル向けプリンタ等の電子写真印刷装置が広く製品化されている。
【0005】
1成分現像剤および2成分現像剤のいずれであっても、現像工程の次の転写工程においては感光体上のトナー画像が完全に転写材に転写させられることが理想である。しかしながら、実際にはトナー画像の一部のトナーが転写材に転写されずに感光体に残ってしまうことがある。転写材に転写されずに感光体上に残ったトナーを「転写残トナー」と呼ぶ。このような転写残トナーは、次回の転写材に転写されたり、感光体の帯電を妨げて次の静電潜像の形成を妨害したりする。さらに転写材などとの接触で生じる摩擦熱等により感光体表面に転写残トナーが固着してしまうと静電潜像の形成を妨げるだけでなく、新たに供給されるトナーにより感光体に固着した転写残トナーが肥大化して画像形成の妨害を増大させ続けてしまうこともある。ここで、転写残トナーによる静電潜像形成の異常を「メモリー」と呼ぶ。
【0006】
感光体に転写残トナーがあると、装置への影響としては、感光体の汚れ発生、廃棄トナーの増大、内部クリーニング頻度の増大などメンテナンス性が悪くなるなどの不都合が発生する。一方、印刷画像への影響としては、画像濃度の不足、画像汚れ、画像抜けなどの不都合が発生する。転写残トナーの影響を排除するための装置側からのアプローチとしては、転写残トナーに帯電ブラシにより電荷を与えてクリーニング効果を促進したり(例えば、特許文献1を参照)、クリーニング機構を工夫したり(例えば、特許文献2を参照)することが行われている。
【0007】
従来、トナーの開発において、転写残トナーやメモリーの発生を評価するためには、現像剤を実機に投入して転写試験する必要があった。従って、必要資材として評価用の現像剤、紙など被印刷材を準備し、電力、時間を消費して実機を運転して転写残トナーがないか、メモリーが発生していないかを評価していた。このため、開発品の評価結果を改良品にフィードバックさせるために資材コスト、エネルギーコスト、時間を必要とし、開発の期間短縮および効率化の妨げになっていた。
【0008】
発明者は、転写残トナーの問題について鋭意検討した結果、表面の凹凸の少ないトナーは転写残トナーが発生しにくいという仮説を得るに至った。
【0009】
ここで、トナー粒子を評価する方法として、BET法による比表面積測定が知られている(例えば、特許文献3を参照)。これは、粉体粒子表面に吸着占有面積の判った分子を液体窒素の温度で吸着させ、その吸着量から試料の比表面積を求める方法である。
また、トナー形状を円形度で評価する方法が知られている。円形度は、
円形度=π・(粒子像の面積と等しい円の直径)/(粒子像の周囲長)
で表される。トナー粒子の円形度を測定する方法として、粉粒体の二次元画像解析により粉流体形状・粒度分布・粒子個数を測定するフロー式粒子像分析装置が知られている(例えば、特許文献4を参照)。
しかし、発明者は、転写残トナーの発生とBET法による比表面積の値との間において明確な相関性を見い出すことができなかった。これは、BET法の場合、粒子径が小さいほど表面積が大きくなってしまい、異なる粒子径分布をもつトナー粒子表面の凹凸とBET法による比表面積値とが一義的に相関しないことによると考えられた。
また、発明者は、転写残トナーの発生とフロー式粒子像分析装置による円形度との間においては、トナーの円形度が0.80未満の場合には転写残トナーによる前記装置への影響および印刷画像への影響が大きく、また、トナーの円形度が0.98を超える場合には転写残トナーによる前記装置への影響および印刷画像への影響は確認されなかったが、トナーの円形度が0.80以上0.98以下の場合には円形度と転写残トナーの発生による影響との間に明確な相関性を見い出すことができなかった。すなわち、トナー粒子の円形度が0.80以上0.98以下の場合、転写残トナーの発生による影響が確認される場合と確認されない場合とがあり、一概に該円形度では判断できなかった。これは、トナー粒子を二次元投影してその外形を測定する円形度において、トナー粒子表面の凹凸の状態が反映されていないことが原因と考えられた。
【0010】
粒子表面の凹凸について、凹凸の高低差と凹凸の形状とを包含して表す指標として表面面積比(Developed Surface Area Ratio;略称Sdr)が提案されている(非特許文献1を参照)。Sdrは、物体のある部分の表面積について、基準のXY座標平面に該部分が投影される面積に対する割合を表す。一般に、物体表面のある領域における表面面積比Sdrは、該領域がXY座標平面に投影される面を微小領域に等分割した場合に、X軸方向にM等分割してその等間隔をΔXとし、Y方向にN等分割してその等間隔をΔYとすれば、下記式(数1)で定義される。
【0011】
【数1】

【0012】
ここで、変数Ajkは、前記物体表面上の任意の点における三次元座標を
(x,y,Z(x,y))で表せば、下記式(数2)で定義される。
【0013】
【数2】

【0014】
例えば、物体のある領域が基準のXY座標平面に平行な平面であればその領域において表面面積比Sdr=100%という最小値をとる。凹凸のある領域では、Sdr>100%となる。一般に、Sdr≧100%である。
従来、トナー粒子のSdr値とトナーの挙動との関係は明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2008−32851公報
【特許文献2】特開平9−330003公報
【特許文献3】特開平9−34287公報
【特許文献4】特開2010−8481公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】K.J.Stout,P.J.Sullivian, W.P.Dong, E.Manisah, N.Luo, T.Mathia: “The development of methods for characterization of roughness on three dimensions”, Publication no. EUR 15178 EN of the Commission of the Europian Communities, Luxembourg, 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
この発明は、電子写真法の転写工程におけるトナーの転写効率に関して、資材コスト、エネルギーコスト、時間を最小限とし、開発の期間短縮および効率化に寄与する電子写真用トナーの評価方法を提供すること、および転写効率の良い電子写真用トナーを提供することを目的とする。
そこで、トナー粒子の表面の凹凸を評価する方法を見い出し、前記トナーの転写効率との相関関係を明らかとし、電子写真用トナーの評価方法として確立することを第一の課題とした。
さらに、前記トナーの転写効率が良好となる電子写真用トナーを提供することを第二の課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、以下(1)〜(3)に記す技術的特徴の構成により、前記課題を解決できたものである。
(1) トナー粒子の表面形状を測定する工程、トナー粒子表面の三次元画像解析を行う工程、およびトナー粒子表面の表面面積比を算出する工程からなり、該トナー粒子の表面面積比から、感光体から転写材へ転写されるトナーの転写効率を評価することを特徴とする電子写真用トナーの評価方法。
(2) 前記表面面積比が、トナー粒子を複数の視野から電子顕微鏡観察して立体画像解析を行うことにより得られた表面粗さから求められ、かつ該電子顕微鏡観察が電子の加速電圧を2.0kV以下として行われることを特徴とする前記(1)に記載の電子写真用トナーの評価方法。
(3) 円形度が0.80以上0.98以下の電子写真用トナーであって、前記(1)に記載の電子写真用トナーの評価方法による表面面積比が160%以下であることを特徴とする電子写真用トナー。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電子写真用トナーの評価方法によれば、電子写真法の転写工程におけるトナーの転写効率に関して、実機による転写試験評価を行わなくても評価できるので、資材コスト、エネルギーコスト、時間を最小限にできる。これにより、装置においては、感光体が汚れず、廃棄トナーが少なく、装置内部クリーニング頻度が少ないことにより装置メンテナンス性が良いという優れた特性を有する電子写真用トナーであって、印刷画像においては、十分な画像濃度を有し、画像汚れがなく、画像抜けがないなどの優れた特性を有する電子写真用トナー、を開発する期間の短縮および効率化に寄与するという、優れた電子写真用トナーの評価方法を提供することができる。
加えて、本発明の電子写真用トナーによれば、転写効率が良好な電子写真用トナーを提供することができる。これにより、装置においては、感光体が汚れず、廃棄トナーが少なく、装置内部クリーニング頻度が少ないことにより装置メンテナンス性が良いという優れた特性を有する電子写真用トナーであって、印刷画像においては、十分な画像濃度を有し、画像汚れがなく、画像抜けがないなどの優れた特性を有する電子写真用トナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[評価方法]
(表面面積比測定の流れ)
本発明におけるトナーの表面面積比は、トナー粒子の表面形状を測定する工程、トナー粒子表面の三次元画像解析を行う工程、およびトナー粒子表面の三次元画像解析から表面面積比を算出する工程からなる。
本発明においてトナー粒子表面を測定する方法としては、電子顕微鏡、プローブ顕微鏡等の公知の方法を用いることができ、特に限定するものではない。特に電子顕微鏡を用いる場合には、二次電子検出器による観察、反射電子検出器による観察のいずれを用いても良い。二次電子検出器を用いる場合には複数の視野から電子顕微鏡観察し、三次元画像を得る方法が使用できる。反射電子検出器を用いる場合には、電子銃を取り囲むように複数の検出器が配置されていることにより一回の測定で三次元画像を得ることができる。
以下に、本発明の実施の形態について、トナー粒子表面を複数の視野から電子顕微鏡観察して三次元画像を得る方法を例にして説明する。
【0021】
(トナー粒子の表面形状を測定する工程)
トナー粒子を二次電子検出器を用いた電子顕微鏡により異なる2視野から観察する。この際、加速電圧を2kV以下に低くして観察することが望ましい。トナー粒子表面に導電性皮膜を形成しない観察とするのがより好ましいが、トナー粒子表面の帯電(チャージアップ)を防止することおよび電子線照射による熱からトナー粒子表面を保護すること等を目的に、トナー粒子の表面に金、カーボン、プラチナなどの導電性薄膜を厚さ数〜数十ナノメートルで蒸着等により形成することも可能である。ただし、前記導電性薄膜の形成時にもトナー粒子は加熱されてトナー表面の凹凸が熱変形してしまう恐れがあるので注意が必要である。特に、導電性薄膜を厚く形成しすぎて数百ナノメートル程度にまでしてしまうと、トナー表面の凹凸が熱変形しやすくなるのに加えて該凹凸が埋められて観察する前に表面形状が変化してしまう恐れがあるので好ましくない。加速電圧を2kV以下とすれば、前記チャージアップが起こりにくいため、トナー粒子の表面に導電性薄膜を形成しなくても電子顕微鏡観察することが可能となる。
【0022】
(トナー粒子表面の三次元画像解析を行う工程)
電子顕微鏡観察などで得られたトナー粒子表面の測定結果から三次元画像解析を行う方法は特に限定するものではないが、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて、試料傾斜角を変えた2枚の二次元(2D)画像を撮影し、該2D画像から立体的な3次元(3D)画像を計算して得る方法がある。
前記2D画像撮影の際の試料傾斜角について、撮影角度が4〜8度程度異なっている2枚の2D画像を用いれば3D画像化することができる。
電子顕微鏡観察における視野の広さについて、少なくとも縦横寸法がそれぞれ6μm〜12μm程度、面積としては36μm〜144μmの範囲と同等以上の広い範囲で2D画像データを得ることが好ましい。このような2D画像データを用いると、後述のトナーの転写効率を評価するために好ましい3D画像データの範囲(トナー表面のXY基準平面投影面積で縦横寸法がそれぞれ6μm〜12μm程度、面積としては36μm〜144μmの範囲)で3D画像データを得ることができるので都合が良い。
3D画像化するためのコンピュータソフトウエアとしては、例えば、日本電子社製、商品名:3D Sight などを使用することができる。
【0023】
(トナー粒子表面の三次元画像解析から表面面積比を算出する工程)
前記三次元画像解析の結果に基づき、前記式(数1)の表面面積比Sdrを求める。
トナーの転写効率を評価するためには、3D画像データの範囲をトナー表面のXY基準平面投影面積で縦横寸法がそれぞれ6μm〜12μm程度、面積としては36μm〜144μmの範囲として、その範囲の表面面積比Sdrを求めることが好ましい。
表面面積比Sdrを算出するためのコンピューター用ソフトウエア(例えば、alicona社製、商品名:Mex など)を利用してもよい。
【0024】
(転写効率の評価)
本発明では、電子写真印刷装置においてトナーが感光体から転写材へ転写されるときの転写効率の評価は、前記表面面積比Sdrの値から判断する。すなわち、トナーの転写効率の評価は、該表面面積比Sdrの値をある一定のしきい値と比較し、該しきい値以下であれば、転写残トナーの発生が少なく転写効率の評価としては合格であるとみなし、該しきい値を超えて大きければ、転写残トナーが発生しやすく転写効率の評価としては不合格であるとみなす判断を行う。
具体的には、表面面積比Sdrのしきい値を160%に設定し、あるトナーの表面面積比Sdrが160%以下であれば転写効率が良好であり、160%を越えて大きければ転写効率に問題があるとみなす。
【0025】
[トナー]
本発明のトナーは、その構成物質について特に限定されるものではない。例えば、結着樹脂、ワックス、着色剤、帯電制御剤、磁性粉、赤外線吸収剤など、一般的な電子写真用トナーに添加している各種物質を必要に応じて適宜選択して含有させることができ、さらにトナー粒子の流動性や帯電性を制御するためにシリカ、カーボンブラック、帯電制御剤等の各種物質を必要に応じて適宜選択して表面に付着(外添)させることができる。
【0026】
(結着樹脂)
本発明のトナーに用いる結着樹脂は、特に限定することはなくトナーとして一般的に使用されている樹脂から選択することができ、例えば、以下に示す単量体の単独重合体及び任意の組み合わせからなる共重合体とすることができる。前記単量体としては、スチレン、クロロスチレンなどのスチレン類、エチレン、プロピレン、1−ブチレン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等のモノオレフィン類(α−C2〜10オレフィンが好ましく、特にα−C2〜4オレフィンが好ましい)、イソブテン、イソプレン等の分枝鎖状オレフィンなどの、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ドデシル、などのα−メチレン脂肪族モノカルボン酸のエステル類、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルブチルエーテルなどのビニルエーテル類、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、ビニルイソプロペニルケトンなどのビニルケトン類、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン類、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン等の環状共役ジエン又はこれらの誘導体、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、トリシクロデセン、テトラシクロドデセン、ヘキサシクロヘプタデセン等の多環の環状オレフィン類、等を例示できる。オレフィン系単量体を含む共重合体はトナーに柔軟性を付与する点から好ましい。
また、本発明に用いる別の結着樹脂として、マレイン酸、フマル酸、フタル酸などのカルボン酸と、ビスフェノールA(EO/PO付加物を含む)、エチレングリコールなどのアルコールから生成されるポリエステル樹脂を例示することができる。
【0027】
上記例示した樹脂の中でも、本発明に用いる結着樹脂としてはスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、環状オレフィン構造を含む樹脂、ポリエステル樹脂が電子写真装置の連続使用に伴う現像機中での長時間の攪拌を経てもトナー耐久性が優れている点で好ましく用いられる。中でもα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、特にエチレン−ノルボルネンなどのα−オレフィンと多環環状オレフィンとの共重合樹脂、ポリエステル樹脂が前記トナー耐久性においてより好ましく用いられる。
【0028】
(ワックス)
本発明のトナーに用いるワックスは、特に限定することはなくトナーとして一般的に使用されているワックス類から選択することができる。該ワックス類としては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリブテンワックス、変性ポリエチレンワックス等のポリオレフィン系ワックス、フィッシャートロプシュワックス等の合成ワックス、天然パラフィン、マイクロワックス、合成パラフィン等のパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、硬化ひまし油、酸性オレフィンワックス、マレイン酸エチルエステル、マレイン酸ブチルエステル、ステアリン酸メチルエステル、ステアリン酸ブチルエステル、パルミチン酸セチルエステル、モンタン酸エチレングリコールエステル等の脂肪酸エステル又はその部分ケン化物よりなるエステルワックス、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリル酸アミド、ベヘニン酸アミド、メチレンビスステアロアミド、エチレンビスステアロアミド等のアミド系ワックス等が挙げられる。これらのワックスは、単独で又は2種類以上組み合わせて用いることができる。軟化点(融点)が異なるワックスを混合してもよい。
【0029】
(着色剤)
本発明のトナーに使用できる着色剤に特に制限はない。イエロー着色剤の顔料系としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が用いられる。
具体的には、C.I.PigmentYellow3、7、10、12、13、14、15、17、23、24、60、62、73、74、75、83、93、94、95、99、100、101、104、108、109、110、111、117、122、123、128、129、138、139、147、148、150、155、166、168、169、177、179、180、181、183、185、191:1、191、192、193、199が好適に用いられる。
染料系としては、例えば、C.l.solventYellow33、56、79、82、93、112、162、163、C.I.disperseYellow42.64.201.211が挙げられる。
【0030】
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。
具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、238、254、269、C.I.ピグメントバイオレッド19が特に好ましい。
【0031】
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が利用できる。
具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66が特に好適に利用される。
【0032】
黒色着色剤としては、アセチレンブラック、ランブラック、アニリンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、ニグロシン、鉄黒、四三酸化鉄、酸化鉄マンガン、酸化鉄亜鉛、酸化鉄ニッケル等の磁性粒子等が利用できるほか、上記イエロー/マゼンタ/シアン着色剤を用い黒色に調色されたものが利用される。
【0033】
着色剤の添加量としては、結着樹脂100質量部に対して2〜20質量部、好ましくは2〜15質量部、さらにはトナー像の好適なOHPフィルムの透過性を考慮すると12質量部未満の範囲で使用されるのが好ましく、通常3〜9質量部であるのが最も好適である。
【0034】
(帯電制御剤)
また、本発明には必要に応じて帯電制御剤を添加することができ、特に制限はない。
添加する場合、正荷電性帯電制御剤としては、例えばニグロシン系染料、4級アンモニウム塩系化合物、トリフェニルメタン系化合物、イミダゾール系化合物、ポリアミン樹脂などがある。
負荷電性帯電制御剤としては、Cr、Co、Al、Fe等の金属含有アゾ系染料、サリチル酸金属化合物、アルキルサリチル酸金属化合物、カーリックスアレーン化合物、ホウ素錯体、高分子タイプ帯電制御剤などがある。
添加量は、結着樹脂100質量部に対して0.05〜10質量部程度が好ましい。
【0035】
(赤外線吸収剤)
本発明のトナーをフラッシュ定着法を採用した電子写真印刷装置で使用する場合において、定着強度を大きくする目的でトナー中に赤外線吸収剤を添加することが可能である。赤外線吸収剤としては、例えば、公知の赤外線吸収剤(赤外線吸収剤)を用いることができ、例えば酸化インジウム系金属酸化物、酸化スズ系金属酸化物、酸化亜鉛系金属酸化物、スズ酸カドミウム、特定のアミド化合物、ランタノイド系化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、ベンゼンチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、芳香族ジアミン系金属錯体、ジイモニウム化合物、アミニウム化合物、ニッケル錯体化合物、フタロシアニン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフタロシアニン系化合物等が挙げられる。さらに、カーボンブラック、チタンブラック、フェライト、マグネタイト、炭化ジルコミウム等の黒色顔料等も用いることができる。これらは単独で用いても、混合して用いてもよい。赤外線吸収剤のトナーへの添加量は、トナー100質量部に対して0.5質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。
【0036】
(外添剤)
本発明のトナーは、流動性付与の観点から、外添剤が表面に付着していることが好ましい。外添剤としては無機または有機の各種外添剤を使用することができるが、特にトナーの流動性向上、凝集性抑制を図る為にシリカ、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、金属石鹸(ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛等)等の無機微粉末が好適である。
外添剤の混合量は、使用する外添剤及びトナー粒子の平均粒径、粒度分布などにより異なるが、所望するトナー流動性を得る量を適宜選択できる。一般的にはトナー粒子100質量部に対して0.05〜10質量部、更には0.1〜8質量部が好適である。
混合量が0.05質量部未満では流動性改善効果が少なく、高温での貯蔵安定性能が悪く、また混合量が10質量部より多いと一部遊離した外添剤により感光体にフィルミングを発生したり、現像槽内部に堆積して現像剤の帯電機能劣化等の障害を引き起こしたりして好ましくない。
また、外添剤は高湿環境下での安定性面より、無機微粉末の場合にはシランカップリングなどの処理剤で疎水化処理されたものがより好ましく、更に、帯電性を考慮する場合には負荷電性を付与する処理剤としてはジメチルジクロルシラン、モノオクチルトリクロルシラン、ヘキサメチルジシラザン、シリコーンオイルなど、正荷電性を付与する処理剤としてはアミノシランなどを使用すればよい。
【0037】
この他、外添剤としてトナーの電気抵抗調整、研磨剤などの目的で、流動性改善用以外のマグネタイト、フェライト、導電性チタン、酸化アンチモン、酸化錫、酸化セリウム、ハイドロタルサイト類化合物、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、ポリエチレンビーズなどの微粉末を適量混合してもよく、その混合量はトナー100質量部に対して0.005〜10質量部が好ましい。
【0038】
さらに、外添剤としてポリ4フッ化エチレン樹脂粉末、ポリフッ化ビニリデン樹脂粉末などの樹脂微粉末を付着してもよい。トナーに対してこれらの樹脂微粉末を添加する割合は、トナー100質量部対して、0.01〜8質量部の範囲から適宜選択でき、好ましくは0.1〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜4質量部である。
【0039】
トナー粒子への前記外添剤の付着はドライブレンドによる混合を行うことが好ましく、混合装置の一例としては、ダブルコーン・ミキサー、V型ミキサー、ドラム型ミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー等を挙げることができる。
【0040】
[トナーの製造方法]
本発明の静電荷像現像用トナーを製造する方法は、特に限定されることはなく、溶融混練粉砕分級法、懸濁重合法、乳化重合法、スプレードライ法など、公知の方法を適宜選択することができる。以下に、溶融混練粉砕分級法を用いる場合について説明する。
【0041】
(溶融混練粉砕分級法)
本発明のトナーを溶融混練粉砕法により製造する場合は、トナー粒子に内包させる材料を予備混合したのち、混練工程、冷却工程、粉砕分級工程を行う。さらに、必要に応じて表面処理を行いトナー粒子表面の凹凸を制御する。
【0042】
(予備混合)
予備混合工程では、トナー粒子を構成する原料成分を混合して粗混合物を得る。該原料成分としては結着樹脂および前記の各成分を適宜、適当なタイミングで添加して行う。電子写真用トナーを構成するトナー粒子ごとに内包する成分の比率および大きさが設計どおりに制御されていることは、トナーの性能を発揮するために重要である。溶融混練粉砕分級法でトナーを製造する際には、固体もしくは液体状の原材料どうしを混練工程前にある程度予備混合しておくと、トナー完成品におけるトナー粒子ごとに内包する成分の比率および大きさを制御するのに好都合となりやすい。
予備混合工程に使用する混合装置は特に限定するものではないが、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の粉体にせん断力を与える高速攪拌機などで攪拌・混合する方法がある。
【0043】
(混練工程)
混練工程では、前記粗混合物を含む原料を混練機に適宜投入しながら溶融混練して溶融混練物を得る。
混練工程において、混練機としてはバッチ式(例えば、加圧ニーダー、バンバリィミキサー等)または連続式の熱溶融混練機を用いるが、連続生産できる等の優位性から1軸または2軸の連続式押出機が好ましい。例えば、神戸製鋼所社製KTK型2軸押出機、東芝機械社製TEM型2軸押出機、ケイ・シー・ケイ社製2軸押出機、池貝鉄工社製PCM型2軸押出機、栗山製作所社製2軸押出機、ブス社製コ・ニーダー等が好ましい。なお、オープンロール型連続混練機も使用可能である。
【0044】
(冷却工程)
その後、冷却工程により混練物を冷却固化する。
【0045】
(粉砕分級工程)
そして、粉砕分級工程では冷却固化した混練物を粉砕分級して分級トナーを得る。
まず、クラッシャー、ハンマーミル、フェザーミル等で粗粉砕し、ジェットミル、カウンタージェットミル、高速ローター回転式ミル等で微粉砕し、段階的に所定トナー粒度まで粉砕する。
そして、慣性分級方式のエルボージェット、遠心力分級方式のミクロプレックス、DSセパレーター、乾式気流分級機等でトナーを分級し、体積平均粒子径3〜18μmの分級トナーを得る。
分級時に得られた粗粉は粉砕分級工程に戻し、微粉は混練工程に戻して再利用してもよい。
【0046】
(表面形状の調節)
得られたトナーの粒子表面の形状をさらに調節する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、トナーの溶融混練物を粉砕した後に機械的に形状を調節する方法や、いわゆるスプレードライ法と呼ばれるトナー材料をトナーバインダーが可溶な溶剤に溶解分散後、スプレードライ装置を用いて脱溶剤化して球形トナーを得る方法、水系媒体中で加熱することにより球形化する方法、などが挙げられる。
表面形状を調節することができる市販の装置としては、衝撃式球形化装置および熱風式球形化装置が挙げられる。衝撃式球形化装置としては、たとえば、分級と表面処理とを同時並行的に行う多機能型粒子設計装置であるファカルティF(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、循環型メカノフュージョンシステムAMS(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)などを用いることができる。熱風式球形化装置としては、たとえば、表面改質機メテオレインボー(商品名、日本ニューマチック工業株式会社製)などを用いることができる。
【0047】
次に、必要に応じて分級トナーに外添剤を付着させる外添工程を行う。
分級トナーと各種外添剤を所定量配合して、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の粉体にせん断力を与える高速攪拌機などで攪拌・混合する。
この際、外添機内部で発熱があり、凝集物を生成し易くなるので外添機の容器部周囲を水で冷却するなどの手段で温度調整をする方が好ましく、更には外添機容器内部の材料温度は樹脂のガラス転移温度より約10℃低めの管理温度以下が好適である。
なお、外添工程は、必要に応じて分級前に行ったり、表面処理前に行ったりすることもでき、任意の複数の工程の後で行うことも可能である。
乾式混合に用いられる混合機としては、たとえば、ヘンシェルミキサ(商品名、三井鉱山株式会社製)、スーパーミキサ(商品名、株式会社カワタ製)、メカノミル(商品名、岡田精工株式会社製)などのヘンシェルタイプの混合装置、オングミル(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)、ハイブリダイゼーションシステム(商品名、株式会社奈良機械製作所製)、コスモシステム(商品名、川崎重工業株式会社製)などが挙げられる。
【0048】
本発明のトナーは、上述の方法により得られ、体積平均粒径は3μm〜15μmが好ましく、さらに好ましくは5μm〜10μmである。体積平均粒径が3μm未満では、2μm未満の超微粉が多くなるので、カブリ、画像濃度低下、感光体での黒点やフィルミングの発生、現像スリーブや層厚規制ブレードでの融着の発生、等を引き起こす。一方15μmを超えると解像度が低下し、高画質画像が得られない。
【0049】
本発明のトナーの円形度は0.80〜0.98である。
トナーの円形度が0.80未満では転写残トナーによる前記装置への影響および印刷画像への影響が大きいため好ましくない。すなわち、トナーの円形度が0.80未満では、該装置への影響としては、感光体の汚れ発生、廃棄トナーの増大、内部クリーニング頻度の増大などメンテナンス性が悪くなるなどの不都合が発生しやすいため、また、該印刷画像への影響としては、画像濃度の不足、画像汚れ、画像抜けなどの不都合が発生しやすくなるため、好ましくない。
また、トナーの円形度が0.98を超える場合には転写残トナーによる前記装置への影響および印刷画像への影響が確認されないため本発明の作用効果が及ばない。
【0050】
得られたトナーは、一成分現像方式、二成分現像方式、その他の現像方式に使用できる。二成分現像方式にはキャリアと混合して使用する。
二成分現像方式でのキャリアとしては、例えば、ニッケル、コバルト、酸化鉄、フェライト、鉄、ガラスビーズなどが使用できる。これらのキャリアは単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。キャリアの平均粒子径は20〜150μmであるのが好ましい。また、キャリアの表面は、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂などの被覆剤で被覆されていていてもよい。
【0051】
本発明のトナーは、モノクロ用トナーであってもカラー用トナーであってもよい。
【0052】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
(評価用トナーの作製)
次の原材料をヘンシェルミキサーにて均一に混合した後、二軸混練押出機で溶融混練した。
・結着樹脂
スチレン−アクリル酸エステル系樹脂: 100質量部
(三洋化成製 商品名:ST−305)
・着色剤(兼赤外線吸収剤)
カーボンブラック: 10質量部
(キャボット社製 商品名: REGAL 330)
・帯電制御剤
ニグロシン化合物: 0.7質量部
(オリエント化学製 商品名:BONTRON N04)
・ワックス: 2質量部
ポリプロピレンワックス(三洋化成社製 商品名:ビスコール660P)
次いで混練物を冷却し、ジェットミルにて粉砕、ファカルティF(商品名、ホソカワミクロン株式会社製)を用いて表面形状を適宜調節し、気流式分級機で分級して得た多数の種類の未外添トナーの中から、評価用トナーとして4種類の未外添トナーを選定した。
該未外添トナー100質量部と
疎水性シリカ(アエロジル社製 商品名: RA200H)0.6質量部
とをヘンシェルミキサーにて均一に混合して評価用トナーa〜dを得た。
【0054】
[トナー粒子の評価]
(粒子径)
トナー粒子の体積平均粒径は、コールターカウンター(コールター社製、商品名:TA−II型)を用い、100μmのアパチャーチューブで体積分布を測定することにより求めた。
(円形度)
トナー粒子の円形度は、フロー式粒子像分析装置(Sysmex社製、商品名:FPIA−2000)を使用して、5回測定した平均値を採用した。
(表面面積比)
トナー粒子の表面面積比Sdrは、まずトナー粒子の電子顕微鏡撮影を2つの異なる視野から行い、次いで該撮影による2視野の二次元画像をコンピュータを用いて三次元(3D)画像化し、最後に得られた3D画像データに基づきコンピュータを用いて該トナー粒子の表面面積比Sdrを求めた。以下に具体的な操作条件を記す。
トナー粒子の電子顕微鏡撮影は、トナー粒子を走査型電子顕微鏡(日本電子社製、商品名:JSM−6610)を用いて加速電圧1.5kVに設定して撮影し、さらに該トナー粒子の試料傾斜角を8度変化させて同条件で撮影し、トナー粒子1個に対して2枚の二次元(2D)画像を得た。
前記2D画像の三次元化は、前記日本電子社製走査型電子顕微鏡のオプションアプリケーション(日本電子社製、商品名:3D Sight)を使用して3D画像データを得た。
前記3D画像データについて、トナー粒子表面の縦横寸法12μm×12μmの領域に相当する範囲に対して画像解析ソフト(alicona社製、商品名:Mex)を使用して該トナー粒子の表面面積比Sdrを求めた。
以上の三次元画像解析方法で複数のトナー粒子のSdrを算出し、任意の5点の平均値をトナー粒子の表面面積比Sdr値として採用した。
【0055】
表1に、作製した4種類の評価用トナーそれぞれの体積平均粒子径、円形度、表面面積比を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
[実機評価による本発明の確認]
(転写効率の実機評価)
電子写真印刷装置において、トナーが感光体から転写材へ転写されるときの転写効率の実機評価は、評価したいトナーを現像剤として投入した電子写真印刷装置で標準画像を印刷し、転写材へ転写する直前および転写直後の感光体表面のトナーの付着を観察する。簡便的には、目視のみでも観察することができる。
本実施例においては、トナーが感光体から転写材へ転写されるときの転写効率の実機評価は、非磁性一成分トナーを用いる電子写真印刷装置を使用し、印字率100%のモノクロ画像(全ベタ画像)を印刷し、転写材へ転写する直前の感光体表面のトナー付着および転写直後の感光体表面のトナー付着を画像濃度(ID)測定値で比較した。すなわち、「感光体上の転写前トナー濃度」を基準とし、これに対する「感光体上の転写残トナー濃度」をそれぞれの画像濃度測定値から算出して転写効率とした。
画像濃度の測定は反射式画像濃度計(マクベス社製、商品名:RD914)を用いた。
「感光体上の転写残トナー濃度」を画像濃度測定により測定するための試料としては、前記全ベタ画像を転写材へ転写した直後の感光体表面に透明粘着テープ(住友3M社製、商品名:スコッチメンディングテープ)を1回貼り付け、静かに剥がして粘着面を白紙に貼りつけたものを用意した。濃度の基準とする「感光体上の転写前トナー濃度」を画像濃度測定により測定するための試料としては、前記全ベタ画像を転写材へ転写する直前の感光体表面に前記と同等の透明粘着テープを1回貼り付け、静かに剥がして粘着面を前記と同等の白紙に貼りつけたものを用意した。
前記各試料の画像濃度をそれぞれ5点ずつ前記反射式画像濃度計で測定し、該画像濃度からバックグラウンドとして前記と同等の透明粘着テープを白紙に貼りつけたものの画像濃度を減じた値を算出し、その平均値を前記各試料の画像濃度値(ID値)として採用した。
転写効率の実機評価は、
感光体上の[転写残トナー濃度ID値]/[転写前トナー濃度ID値]×100%
の値が、2%未満で合格、2%以上で不合格とした。
【0058】
表2に、作製した4種類の評価用トナーの転写効率の実機評価結果を示す。
【0059】
【表2】

【0060】
(印刷画像の実機評価)
以上の転写効率の実機評価に引き続き、各トナーa〜dについて、前記非磁性一成分トナーを用いる電子写真印刷装置により現像工程、転写工程、定着工程を経て白色のコピー用紙に印刷を行い、各トナーa〜dによる印刷画像をそれぞれ確認した。その結果、トナーa、b、cによる印刷画像は、画像濃度が十分で、画像汚れがなく、画像抜けのない良好な状態であった。一方、トナーdによる印刷画像は、画像濃度の不足、画像汚れ、画像抜けが観察された。
【0061】
前記実施例において、円形度が0.80以上0.98以下かつ表面面積比Sdrが160%以下に該当する電子写真用トナーa、b、cを使用した場合、電子写真印刷装置による転写効率の実機評価は合格であった。
一方、円形度が0.80以上0.98以下かつ表面面積比Sdrが160%を越えて大きい(すなわち、表面面積比Sdrが160%以下に非該当の)電子写真用トナーdを使用した場合、電子写真印刷装置による転写効率の実機評価は不合格であった。
このように、円形度が0.80以上0.98以下の電子写真用トナーにおいて、表面面積比が転写効率に影響を及ぼし、表面面積比が160%以下であれば、優れた転写効率を有するトナーであり、160%を越えて大きければ転写効率に問題があるとみなせることがわかった。
すなわち、本発明の電子写真用トナーの評価方法によれば、電子写真法の転写工程におけるトナーの転写効率に関して、実機による転写試験評価を行わなくても評価できるので、資材コスト、エネルギーコスト、時間を最小限にできる。これにより、装置においては、感光体が汚れず、廃棄トナーが少なく、装置内部クリーニング頻度が少ないことにより装置メンテナンス性が良いという優れた特性を有する電子写真用トナーであって、印刷画像においては、十分な画像濃度を有し、画像汚れがなく、画像抜けがないなどの優れた特性を有する電子写真用トナー、を開発する期間の短縮および効率化に寄与するという、優れた電子写真用トナーの評価方法を提供することができる。
加えて、本発明の電子写真用トナーによれば、転写効率が良好な電子写真用トナーを提供することができる。これにより、装置においては、感光体が汚れず、廃棄トナーが少なく、装置内部クリーニング頻度が少ないことにより装置メンテナンス性が良いという優れた特性を有する電子写真用トナーであって、印刷画像においては、十分な画像濃度を有し、画像汚れがなく、画像抜けがないなどの優れた特性を有する電子写真用トナーを提供することができる。
なお、前記実施例では非磁性一成分トナーを用いる電子写真印刷方式について例示したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば磁性一成分トナーあるいは二成分トナーを使用するような他の電子写真印刷方式でも同様の作用効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トナー粒子の表面形状を測定する工程、トナー粒子表面の三次元画像解析を行う工程、およびトナー粒子表面の表面面積比を算出する工程からなり、該トナー粒子の表面面積比から、感光体から転写材へ転写されるトナーの転写効率を評価することを特徴とする電子写真用トナーの評価方法。
【請求項2】
前記表面面積比が、トナー粒子を複数の視野から電子顕微鏡観察して立体画像解析を行うことにより得られた表面粗さから求められ、かつ該電子顕微鏡観察が電子の加速電圧を2.0kV以下として行われることを特徴とする請求項1に記載の電子写真用トナーの評価方法。
【請求項3】
円形度が0.80以上0.98以下の電子写真用トナーであって、請求項1に記載の電子写真用トナーの評価方法による表面面積比が160%以下であることを特徴とする電子写真用トナー。