説明

電子写真用トナー

【課題】結晶性ポリエステルを含有し、低温定着性を損なうことなく、優れた耐久性を有する電子写真用トナー及びその製造方法、並びに該トナーに用いられる粉砕性と硬度とに優れた結晶性ポリエステル及び結着樹脂を提供すること。
【解決手段】アルコール成分と、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を20モル%以上含有し、3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量が5モル%以下であるカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルであって、クロロホルム溶解分のゲル浸透クロマトグラフィーにおける分子量ピークトップが1000〜20000であり、クロロホルム不溶分の含有量が1〜30重量%である、結晶性ポリエステル及びその製造方法、該結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有してなるトナー用結着樹脂、並びに該結着樹脂を含有してなる電子写真用トナー及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等に用いられる電子写真用トナー及びその製造方法、並びに該トナーに用いられる結晶性ポリエステル及び結着樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、結晶性ポリエステルは、結晶部分が発現するシャープメルト性と、ポリエチレン等の他の結晶性樹脂と異なり非晶質ポリエステルとの相容性が高く、分散が容易であるという特徴により、トナーの低温定着性向上に適した結着樹脂として注目されている。
【0003】
特許文献1には、球状であって、低温での定着性に優れ、広い温度領域において耐オフセット性の良好な広い定着ラチチュードを有する電子写真用トナーを提供することを課題として、結着樹脂と着色剤とを含む電子写真用トナーにおいて、前記結着樹脂が、不飽和部位による架橋構造を有する結晶性ポリエステルを主成分として含み、かつトナー粒子が球状であることを特徴とする電子写真用トナーが開示されている。
【0004】
特許文献2には、低温定着性、耐高温オフセット性、耐熱保存性、着色剤分散性を有し、従来にないレベルの省エネルギー化を達成できる定着装置に適した静電荷像現像用トナーを提供することを課題として、少なくとも結着樹脂、着色剤、及びワックスからなる静電荷像現像用トナーであって、該結着樹脂が少なくともポリエステル樹脂、及び活性水素基を有する化合物と反応可能な部位を有する重合体の反応物を含み、該ポリエステル樹脂のTHF可溶分が50〜85重量%かつクロロホルム不溶分が0〜30重量%であり、トナー自体のクロロホルム不溶分が特定の範囲内であることを特徴とする静電荷像現像用トナーが開示されている。
【0005】
特許文献3には、トナーの結着樹脂として用いられた際に、低温定着性に優れ、かつ画像濃度が高く、帯電立ち上がり性の良好なトナーが得られる結晶性樹脂、該結晶性樹脂を含有したトナー用結着樹脂及び該結着樹脂を含有したトナーを提供することを課題として、170℃における貯蔵弾性率が10〜10000Pa、融解熱の最大ピーク温度が55〜150℃、軟化点と融解熱の最大ピーク温度の比(軟化点/ピーク温度)が0.6〜1.3である結晶性樹脂が開示されている。
【特許文献1】特開2001−117268号公報
【特許文献2】特開2005−37901号公報
【特許文献3】特開2004−197051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2に記載されている結晶性ポリエステルでは、耐久性の点で十分とは言えない。トナーの耐久性を向上させるには、結着樹脂の硬度と粉砕性の両立が必要であるが、一般に、結晶性ポリエステルは、非晶質ポリエステルと比較して、結晶性ポリエステルが結晶部分を有していること、及び非晶質部分のガラス転移点が極端に低いことから、粉砕性や硬度に劣り、削れ易く、粉砕機等の部材を汚染しやすいという欠点を抱えている。
【0007】
本発明の課題は、結晶性ポリエステルを含有し、低温定着性を損なうことなく、優れた耐久性を有する電子写真用トナー及びその製造方法、並びに該トナーに用いられる粉砕性と硬度とに優れた結晶性ポリエステル及び結着樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
〔1〕 アルコール成分と、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を20モル%以上含有し、3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量が5モル%以下であるカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルであって、クロロホルム溶解分のゲル浸透クロマトグラフィーにおける分子量ピークトップが1000〜20000であり、クロロホルム不溶分の含有量が1〜30重量%である、結晶性ポリエステル、
〔2〕 前記〔1〕記載の結晶性ポリエステルの製造方法であって、
工程1:アルコール成分と、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を20モル%以上含有し、3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量が5モル%以下であるカルボン酸成分とを縮重合させる工程、並びに
工程2:工程1の縮重合反応中又は縮重合反応後に、ラジカル重合開始剤を添加して結晶性ポリエステルを得る工程
を含む、結晶性ポリエステルの製造方法、
〔3〕 前記〔1〕記載の結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有してなる、トナー用結着樹脂、
〔4〕 前記〔3〕記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー、並びに
〔5〕 前記〔1〕記載の結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含むトナー原料を溶融混練の後、得られた溶融混練物を冷却し、さらに、加熱保持する工程を行う、電子写真用トナーの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子写真用トナーは、優れた低温定着性を有しているとともに、結着樹脂として粉砕性と硬度とに優れた結晶性ポリエステルを含有しているため、耐久性も良好であるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
樹脂の硬度をアップさせる手段として、分子量を大きくする方法があるが、全体的に分子量を大きくすると、粉砕性が低下するという傾向がある。これに対し、分子量ピークトップはほとんど変えずに、樹脂中の一部に高分子量部分(クロロホルム不溶分)を生成させることにより、粉砕性を低下させることなく、硬度がアップし、驚くべきことに、粉砕性も改善されることが確認された。これは、高分子量部分とその他の部分で結晶成長速度が異なるため、結晶性樹脂内でミクロな歪が生じており、これが粉砕性アップに寄与しているものと考えられる。
【0011】
一般に、ポリエステルの分子量ピークトップをアップさせる手段としては、反応時間を長くして、単純に線形で長くする方法があるが、この方法では、全体的に分子量が上がり、クロロホルム不溶分も増加する。また、トリメリット酸等の3価以上の原料モノマーを使用して、部分的に樹脂を架橋し、分子量を大きくすることもできるが、エステル交換反応を伴うため、制御が困難であるとともに、結晶構造が崩れるため、硬度アップに繋がらず、また、非晶質部分の増大により粉砕性が悪化する。
【0012】
また、本発明の結晶性ポリエステルは、分子量ピークトップとクロロホルム不溶分とが特定の範囲内にあるため、非晶質ポリエステルと適度な相溶性を有するとともに、非晶質ポリエステルと溶融混練した後も適度の結晶性を維持する。これにより、非晶質ポリエステルと溶融混練した後の再結晶化が促進され、トナーの低温定着性にも優れる。
【0013】
樹脂中の高分子量部分の量は、クロロホルム不溶分を指標とすることができる。そこで、本発明の結晶性ポリエステル中、クロロホルム不溶分の含有量は、結晶性ポリエステルの硬度及びトナーの低温定着性の観点から、1〜30重量%であり、好ましくは6〜30重量%であり、より好ましくは6〜25重量%、さらに好ましくは6〜20重量%、よりさらに好ましくは8〜17重量%である。結晶性ポリエステルのクロロホルム不溶分は、例えば、ラジカル重合開始剤量、反応時間、反応温度(半減期時間)を調整することにより、コントロールすることができる。具体的には、ラジカル重合開始剤量の使用量を増加したり、反応時間を長くしたり、反応温度(半減期時間)を高くすることにより、クロロホルム不溶分の含有量を増加させることができる。
【0014】
また、本発明の結晶性ポリエステルのクロロホルム溶解分の分子量ピークトップは、結晶性ポリエステルの結晶性及び硬度、並びにトナーの低温定着性の観点から、1000以上であり、結晶性ポリエステルの粉砕性及びトナーの低温定着性の観点から、20000以下である。これらの観点から、分子量ピークトップは、1000〜20000であり、好ましくは1000〜15000、より好ましくは3000〜15000、さらに好ましくは3000〜11000、よりさらに好ましくは5000〜10000である。結晶性ポリエステルのクロロホルム溶解分の分子量ピークトップは、前述のとおり、反応時間を長くすること等により、分子量ピークトップを大きくすることができる。なお、分子量ピークトップ値とは、後述の実施例に記載のGPC測定での分子量分布において極大値かつ最大値を与える分子量の値を意味する。
【0015】
本発明の結晶性ポリエステルは、ラジカル重合開始剤を用いて、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物により、少なくともその一部が架橋されたものであることが、分子量ピークトップをほとんど変えずに、クロロホルム不溶分の含有量を調整することができるため、好ましい。
【0016】
従って、本発明の結晶性ポリエステルは、不飽和脂肪族ジカルボン化合物がラジカル重合開始剤により、付加重合反応して得られた多量体の縮重合反応物を含有していることが好ましい。多量体は、二量体や三量体以上の多量体でもよいが、クロロホルム不溶分を前記の範囲とする観点から二量体成分を含有していることが好ましい。結晶性ポリエステル中の不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物の二量体成分は、後述するように、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(熱分解GC/MS)の測定で検出することができる。
【0017】
ポリエステルの結晶性は、軟化点と示差走査熱量計による吸熱の最高ピーク温度との比、即ち軟化点/吸熱の最高ピーク温度で表わされ、一般にこの値が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6未満の時は結晶性が低く非晶部分が多い。樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。本発明において、「結晶性ポリエステル」とは、軟化点/吸熱の最高ピーク温度の値が0.6〜1.4、好ましくは0.8〜1.2であるポリエステルをいい、「非晶質ポリエステル」とは、軟化点/吸熱の最高ピーク温度の値が1.4より大きいか、0.6未満、好ましくは1.4より大きいポリエステルをいう。なお、吸熱の最高ピーク温度とは、観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を指す。最高ピーク温度が軟化点の±20℃以内にあれば、そのピーク温度を融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークはガラス転移に起因するピークとする。なお、本発明において、単に「ポリエステル」という場合は、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルの両方を意味する。
【0018】
結晶性ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを縮重合させて得られる。
【0019】
カルボン酸成分は、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を含有し、結晶性ポリエステルの硬度と粉砕性とを両立する観点から、3価以上の多価カルボン酸化合物は含有していないか、含有していても含有量が5モル%以下、好ましくは3モル%以下、より好ましくは1モル%以下である。
【0020】
不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、グルタコン酸、イタコン酸、これらの酸の無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステル等のジカルボン酸化合物が好ましく、これらのなかでは、結晶性の観点から、フマル酸、マレイン酸、それらの酸の無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、フマル酸がより好ましい。本発明において、上記のような酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキルエステルを、本明細書では総称してカルボン酸化合物と呼ぶ。
【0021】
不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物の含有量は、結晶性ポリエステルの硬度と粉砕性とを両立する観点から、カルボン酸成分中、20モル%以上であり、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは80モル%以上、よりさらに好ましくは98モル%以上である。
【0022】
不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物以外のジカルボン酸化合物としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0023】
3価以上の多価カルボン酸化合物としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、及びこれらの酸の無水物、アルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0024】
アルコール成分としては、結晶性の観点から、脂肪族ジオールを含有していることが好ましい。
【0025】
脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられ、結晶性ポリエステルの結晶性及び硬度を高める観点から、好ましくは炭素数4〜10、より好ましくは炭素数6〜10の脂肪族ジオールが好ましく、α,ω−直鎖アルカンジオールであることが好ましい。従って、より好適な脂肪族ジオールとしては、1,6-ヘキサンジオールが挙げられる。
【0026】
炭素数4〜10、より好ましくは炭素数6〜10の脂肪族ジオールの含有量は、アルコール成分中、70〜100モル%が好ましく、90〜100モル%がより好ましく、95〜100モル%がさらに好ましい。
【0027】
3価以上の多価アルコール成分の含有量は、硬度と粉砕性とを両立する観点から、アルコール成分中、好ましくは5モル%以下、より好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0028】
3価以上の多価アルコール成分としては、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0029】
結晶性ポリエステルは、アルコール成分と不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分とを、ラジカル重合開始剤の存在下、例えば、不活性ガス雰囲気下中で縮重合させて得られる。即ち、
工程1:アルコール成分と、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を20モル%以上含有し、3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量が5モル%以下であるカルボン酸成分とを縮重合させる工程、並びに
工程2:工程1の縮重合反応中又は縮重合反応後に、ラジカル重合開始剤を添加して結晶性ポリエステルを得る工程
を含む方法により、本発明の結晶性ポリエステルは得られる。縮重合反応には、ラジカル重合開始剤の他、エステル化触媒等を用いてもよい。
【0030】
工程1において、アルコール成分とカルボン酸成分との縮重合反応は、例えば、錫化合物、チタン化合物等のエステル化触媒の存在下、不活性ガス雰囲気中で行うことができ、その温度は、120〜230℃が好ましい。なお、不飽和脂肪族ジカルボン化合物による架橋を促進する観点から、工程1では重合禁止剤等は使用しないことが好ましい。
【0031】
エステル化触媒は、公知のものを用いることができる。錫化合物としては、(R1COO)2Sn(ここでR1は炭素数5〜19のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表される脂肪酸錫(II)、(R2O)2Sn(ここでR2は炭素数6〜20のアルキル基又はアルケニル基を示す)で表されるアルコキシ錫(II)及びSnOで表される酸化錫(II)が好ましく、(R1COO)2Snで表される脂肪酸錫(II)及び酸化錫(II)がより好ましく、オクタン酸錫(II)、2-エチルヘキサン酸錫(II)、ステアリン酸錫(II)及び酸化錫(II)がさらに好ましい。チタン化合物としては、テトラ-n-ブチルチタネート〔Ti(C49O)4〕、テトラプロピルチタネート〔Ti(C37O)4〕、テトラステアリルチタネート〔Ti(C1837O)4〕、テトラミリスチルチタネート〔Ti(C1429O)4〕、テトラオクチルチタネート〔Ti(C817O)4〕、ジオクチルジヒドロキシオクチルチタネート〔Ti(C817O)2(OHC816O)2〕、ジミリスチルジオクチルチタネート〔Ti(C1429O)2(C817O)2〕等が挙げられる。
【0032】
上記錫化合物及びチタン化合物は、1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0033】
エステル化触媒の存在量は、アルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部が好ましく、0.1〜1.5重量部がより好ましく、0.2〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0034】
結晶性ポリエステルにおける、カルボン酸成分とアルコール成分のモル比(カルボン酸成分/アルコール成分)は、0.9以上1.0未満が好ましく、0.95以上1.0未満がより好ましい。
【0035】
工程2において、ラジカル重合開始剤は、縮重合反応開始直後から、反応系内に存在させていてもよいが、反応制御(3量体以上の多量体の生成を抑制し、クロロホルム不溶分を前記の範囲とする)の観点から、縮重合反応の反応率が、理論反応水の排出完了時を100%として、好ましくは40〜90%、より好ましくは60〜80%の水が排出された時点で添加することが望ましい。
【0036】
なお、縮重合反応に際しては、樹脂の強度を上げるために全単量体を一括仕込みしたり、低分子量成分を少なくするために2価の単量体を先ず反応させた後、3価以上の単量体を添加して反応させる等の方法を用いてもよい。また、重合の後半に反応系を減圧することにより、反応を促進させてもよい。
【0037】
ラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物や、ジブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカルボネイト等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0038】
ラジカル重合開始剤の使用量は、縮重合反応に用いられるアルコール成分とカルボン酸成分の総量100重量部に対して、0.01〜0.5重量部が好ましく、0.02〜0.1重量部がより好ましく、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物100重量部に対して、0.02〜1重量部が好ましく、0.04〜0.2重量部がより好ましい。
【0039】
反応温度は、ラジカル重合開始剤での付加重合反応を進行させる観点から、80〜180℃が好ましく、80〜160℃がより好ましい。
【0040】
反応時間は、反応スケールにもよるが、通常30分〜5時間が好ましく、30分〜3時間が好ましい。
【0041】
付加重合反応後、さらに縮重合反応を行うことが、分子量ピークトップを制御する観点から好ましい。その場合、反応温度は、好ましくは190〜230℃、より好ましくは190〜210℃が好ましい。その際は、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物の付加重合物の架橋体の分解を防止する観点から、ターシャリーブチルカテコール等の重合禁止剤を添加することが好ましい。
【0042】
結晶性ポリエステルの融点は、トナーの低温定着性の観点から、70〜140℃が好ましく、より好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜115℃である。結晶性ポリエステルの融点は、後述する樹脂の吸熱の最高ピーク温度として求めることができる。
【0043】
結晶性ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性の観点から、60〜130℃が好ましく、より好ましくは70〜125℃、さらに好ましくは85〜120℃である。結晶性ポリエステルの融点及び軟化点は、原料モノマー組成、重合開始剤、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0044】
本発明の結着樹脂は、前記結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含有する。
【0045】
非晶質ポリエステルも、結晶性ポリエステルと同様に、原料モノマーとしてアルコール成分とカルボン酸成分とを用い、それらを縮重合させて得られるが、アルコール成分としては、芳香族ジオール等の樹脂の非晶質化を促進させるモノマーが含有されていることが好ましい。
【0046】
樹脂の非晶質化を促進させる芳香族ジオールとしては、ポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の式(I):
【0047】
【化1】

【0048】
(式中、R3O及びOR3はオキシアルキレン基であり、R3はエチレン及び/又はプロピレン基であり、x及びyはアルキレンオキサイドの付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の平均値は1〜16が好ましく、1〜8がより好ましく、1.5〜4がさらに好ましい)
で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0049】
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の含有量は、トナーの帯電安定性の観点から、アルコール成分中、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。
【0050】
また、カルボン酸成分に含まれるジカルボン酸化合物としては、フマル酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、セバシン酸、アゼライン酸、n-ドデシルコハク酸、n-ドデセニルコハク酸等の炭素数2〜30、好ましくは2〜8の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;これらの酸の無水物、及び酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0051】
また、3価以上の多価カルボン酸化合物としては、トリメリット酸、ピロメリット酸等の3価以上の多価カルボン酸、これらの酸の無水物、及び酸のアルキル(炭素数1〜3)エステル等が挙げられる。
【0052】
アルコール成分には1価のアルコールが、カルボン酸成分には1価のカルボン酸化合物が、樹脂の分子量調整等のために、適宜含有されていてもよい。
【0053】
非晶質ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを、例えば、不活性ガス雰囲気中、要すればエステル化触媒、重合禁止剤等の存在下、180〜250℃で縮重合させて得られる。
【0054】
非晶質ポリエステルの軟化点は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、90〜160℃が好ましく、95〜155℃がより好ましく、115〜150℃がさらに好ましい。
【0055】
非晶質ポリエステルのガラス転移点は、トナーの低温定着性及び保存性の観点から、45〜85℃が好ましく、50〜80℃がより好ましく、58〜75℃がさらに好ましい。なお、ガラス転移点は非晶質樹脂に特有の物性であり、吸熱の最高ピーク温度とは区別される。
【0056】
また、非晶質ポリエステルの酸価は、トナーの帯電性と環境安定性の観点から、1〜90mgKOH/gが好ましく、5〜90mgKOH/gがより好ましく、5〜88mgKOH/gがさらに好ましい。
【0057】
なお、本発明において、ポリエステルは、実質的にその特性を損なわない程度に変性されたポリエステルであってもよい。変性されたポリエステルとしては、例えば、特開平11−133668号公報、特開平10−239903号公報、特開平8−20636号公報等に記載の方法によりフェノール、ウレタン、エポキシ等によりグラフト化やブロック化したポリエステルや、ポリエステルユニットを含む2種以上の樹脂ユニットを有する複合樹脂が挙げられる。
【0058】
本発明の結着樹脂中、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルの重量比(結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステル)は、トナーの低温定着性と耐久性との観点から、10/90〜40/60が好ましく、10/90〜30/70がより好ましく、20/80〜30/70がさらに好ましい。
【0059】
結着樹脂には、ビニル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等のポリエステル以外の樹脂が、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有されていてもよい。前記の結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルの総含有量は、結着樹脂中、80重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、実質100重量%がさらに好ましい。
【0060】
前記結着樹脂を含有する本発明のトナーは、結晶核剤を含有していてもよい。結晶核剤により、結晶成長速度が速まり、非晶質部が低減されることにより、トナーの硬度が高まる。
【0061】
結晶核剤としては、結晶化促進効果の観点から、芳香族アミド化合物が好ましく、具体的には、式(II):
4−CONH−X−NHCO−R5 (II)
(式中、R4及びR5は、同一又は異なって、炭素数5〜12のシクロアルキル基、Xは式(IIa):
【0062】
【化2】

【0063】
又は式(IIb):
【0064】
【化3】

【0065】
で表される基である)
で表される化合物が好ましい。式(II)で表される芳香族アミド化合物は、2つのアミド結合間に芳香族環を1つ以上有しており、この特定の芳香族アミド化合物と、結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルとの相互作用により、芳香族環と結晶性ポリエステル構造とが規則的に配列する(スタッキングを起こす)ことが推測され、結晶性ポリエステルの結晶化が起こりやすくなるものと推察される。
【0066】
式(II)で表される芳香族アミド化合物の具体例としては、N,N’-ジシクロヘキシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド、N,N’-ジシクロオクチル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド、N,N’-ジシクロドデシル-2,6-ナフタレンジカルボキサミド、N,N’-ジシクロヘキシル-4,4'-ビフェニルジカルボキサミド等が挙げられる。
【0067】
式(II)で表される芳香族アミド化合物の含有量は、トナーの低温定着性及び保存安定性の観点から、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜5.0重量部が好ましく、0.5〜3.0重量部がより好ましく、1.0〜2.0重量部がさらに好ましい。
【0068】
さらに、トナーには、着色剤、離型剤、荷電制御剤、磁性粉、流動性向上剤、導電性調整剤、体質顔料、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、クリーニング性向上剤等の添加剤が適宜含有されていてもよい。
【0069】
着色剤としては、トナー用着色剤として用いられている染料、顔料等のすべてを使用することができ、カーボンブラック、黒色顔料、フタロシアニンブルー、パーマネントブラウンFG、ブリリアントファーストスカーレット、ピグメントグリーンB、ローダミン−Bベース、ソルベントレッド49、ソルベントレッド146、ソルベントブルー35、キナクリドン、カーミン6B、イソインドリン、ジスアゾイエロー等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができ、本発明のトナーは、黒トナー、カラートナーのいずれであってもよい。
【0070】
着色剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、1〜40重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。
【0071】
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、サリチル酸金属錯体等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0072】
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、0.1〜8重量部が好ましく、0.5〜7重量部がより好ましい。
【0073】
離型剤としては、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、シリコーン類;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド類;カルナバロウワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ホホバ油等の植物系ワックス;ミツロウ等の動物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の鉱物・石油系ワックス等のワックスが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0074】
離型剤の融点は、トナーの低温定着性と耐オフセット性の観点から、60〜160℃が好ましく、60〜150℃がより好ましい。
【0075】
離型剤の含有量は、結着樹脂100重量部に対して、結着樹脂中への分散性の観点から、0.5〜10重量部が好ましく、1〜8重量部がより好ましく、1.5〜7重量部がさらに好ましい。
【0076】
本発明の電子写真用トナーの製造方法としては、本発明の結晶性ポリエステル及び非晶質ポリエステルを含むトナー原料を溶融混練する工程を含む方法が好ましい。本発明の結晶性ポリエステルは、非晶質ポリエステルとの相溶性が一般の結晶性ポリエステルよりもやや低いため、非晶質ポリエステルと溶融混練しても、結晶性の低下を抑制することができる。
【0077】
溶融混練する際の、結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとの混合重量比 (結晶性ポリエステル/非晶質ポリエステル)は、トナーの低温定着性と耐久性との観点から、10/90〜40/60が好ましく、10/90〜30/70がより好ましく、20/80〜30/70がさらに好ましい。
【0078】
原料の溶融混練は、例えば、結晶性ポリエステル、非晶質ポリエステル、着色剤等を、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機で適宜混合した後、密閉式ニーダー又は1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の混練機を用いて行うことができる。
【0079】
溶融混練の際の温度は、各原料が十分に混ざり合える程度の温度であれば特に限定されないが、好ましくは(Ta-30)℃以上、(Ta+40)℃以下である。ここで、Taとは各結着樹脂の軟化点を加重平均して求めた重量平均軟化点(℃)である。具体的には、100〜150℃が好ましく、110〜140℃がより好ましい。
【0080】
溶融混練工程の後、得られた溶融混練物を冷却し、さらに、加熱保持する工程を行うことが好ましい。加熱保持工程により、結晶化を促進し非晶質部を低減することができる。
【0081】
加熱保持工程は、ケーキングや凝集物の発生を抑えながら効果的に再結晶化と形状を制御する観点から、加熱温度t(℃)が、
好ましくはTg1-20≦t≦Tm、
(式中、Tg1は、非晶質ポリエステルのガラス転移点(℃)、Tmは結晶性ポリエステルの融点(℃)である)
を満足する条件下で行うことが望ましい。具体的には、40〜100℃が好ましく、50〜80℃がより好ましい。
【0082】
加熱保持の供する溶融混練物は、結晶化促進の観点から、一旦上記温度未満の温度まで冷却した後、上記温度範囲に加熱することが好ましい。
【0083】
加熱保持工程の時間は、生産性と再結晶化、形状制御の観点から、2〜36時間が好ましく、5〜30時間がより好ましく、5〜12時間がさらに好ましい。
【0084】
加熱保持工程には、オーブン等を用いることができる。例えば、オーブンを用いる場合、溶融混練物をオーブン内で、一定温度に保持することにより、加熱保持工程を行うことができる。また、恒温恒湿槽や振動流動層(VIA-16D型(中央化工機(株)製)を用いることもできる。
【0085】
溶融混練工程又は加熱保持工程の後は、粉砕、分級工程等を行う粉砕法によりトナーを得てもよく、水系媒体中で溶融混練物又は加熱処理物の粒子化し、適宜凝集、合一させてトナーを得てもよいが、本発明では、耐久性の観点から、粉砕法によりトナーを製造することが好ましい。
【0086】
本発明のトナーの体積中位粒径(D50)は、3〜15μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。なお、本明細書において、体積中位粒径(D50)とは、体積分率で計算した累積体積頻度が粒径の小さい方から計算して50%になる粒径を意味する。
【0087】
トナーの表面には、外添剤が添加されていてもよい。外添剤としては、トナーには、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化亜鉛等の無機微粒子や、樹脂微粒子等の有機微粒子等が挙げられ、これらの表面には疎水化処理が施されていてもよい。外添剤の添加量は、外添剤で処理する前のトナー粒子100重量部に対して、0.05〜5重量部が好ましい。
【0088】
本発明のトナーは、一成分現像用トナーとして、又はキャリアと混合して二成分現像剤として用いることができる。
【実施例】
【0089】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター(島津製作所、CFT-500D)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押出する。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とする。
【0090】
〔樹脂の吸熱の最高ピーク温度〕
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、DSC Q20)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度を求める。
【0091】
〔樹脂のガラス転移点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて、試料を0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、吸熱の最高ピーク温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度とする。
【0092】
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070の方法に基づき測定する。但し、測定溶媒のみJIS K0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0093】
〔樹脂のクロロホルム不溶分〕
(1) 試料の調製
JIS Z8801の篩を用いて、22メッシュの篩を通過し、30メッシュの篩は通過しない粉末状の試料を採取する。試料が塊等の場合は、市販のハンマーミル又はコーヒーミルを用いて、粉砕し、粉末状として篩いにかける。
【0094】
(2) 試料の溶解
2-1. 試料2.000gを、ガラス瓶(柏洋硝子社製、M-140)に秤量した後、クロロホルム95gを加え、内蓋及び外蓋を取り付ける。
2-2. ボールミルにて5時間攪拌する(周速:200mm/sec)。
2-3. 10時間静置する。
【0095】
(3) 濾過
3-1. 予め計量済み(1000分の1g単位まで計量)のナスフラスコ(重量A(g))(100ml)に取り付けたガラスフィルタ(目開き規格11G-3)を準備する。ガラスフィルタのシールには、減圧が可能なゴム栓を用いる。
3-2. 2-3において10時間静置した溶解液の上澄みから20mlをメスピペッドで吸い取り、3-1で準備したガラスフィルタを用いて、減圧濾過する。なお、液面から下2cmまでを上澄みとする。溶解液を濾過する前のナスフラスコ内の減圧度を40kPaに調整する。
3-3. 未使用のクロロホルム 20mlをメスピペッドで吸い取り、ガラスフィルタに付着している可溶分を減圧濾過する。
【0096】
(4) 乾燥
4-1. エバポレータにてナスフラスコ内のクロロホルムを除去する。
ウォーターバス温度:70℃
ナスフラスコ回転数:200r/min
クロロホルム除去中のナスフラスコ内の減圧度:40〜20kPaに調整
時間:10分
4-2. 50℃・1torrにて12時間乾燥した後、クロロホルム可溶分が付着したナスフラスコの重量B(g)を計量する。
【0097】
(5) クロロホルム不溶分の算出
5-1. クロロホルム20mlに溶解したクロロホルム可溶分X(g)を算出する。
X=B−A
5-2. クロロホルム95gに溶解したクロロホルム可溶分Y(g)を、クロロホルムの比重を1.485として算出する。
Y=X×95/(20×1.485)
5-3. 試料1gあたりの可溶分Z(重量%)を算出する。
Z=Y/2×100
5-4. クロロホルム不溶分(重量%)=100-Z
なお、クロロホルム不溶分(重量%)は、3回の測定値の平均値とする。
【0098】
〔樹脂の分子量ピークトップ(Mp)〕
以下の方法により、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により分子量分布を測定し、分子量ピークトップを測定した。
(1) 試料溶液の調製
濃度が0.5g/100mLになるように、樹脂をクロロホルムに溶解させる。次いで、この溶液をポアサイズ2μmのフッ素樹脂フィルター(住友電気工業社製、FP-200)を用いて濾過して不溶解成分を除き、試料溶液とする。
(2) 分子量分布測定
下記の測定装置と分析カラムを用い、溶離液としてクロロホルムを、毎分1mlの流速で流し、40℃の恒温槽中でカラムを安定化させる。そこに試料溶液100μlを注入して測定を行う。試料の分子量は、あらかじめ作成した検量線に基づき算出する。このときの検量線には、数種類の単分散ポリスチレン(東ソー(株)製の2.63×103、2.06×104、1.02×105、ジーエルサイエンス社製の2.10×103、7.00×103、5.04×104)を標準試料として作成したものを用いる。
測定装置:CO-8010(東ソー社製)
分析カラム:GMHXL+G3000HXL(東ソー社製)
【0099】
〔樹脂の硬度〕
樹脂粉砕チップ片(10mm径)を、加圧プレス機を用いて、150℃で、5cm×10cm、厚さ1cmに成型した。成型、冷却後、硬度計「WR-105D」(東京硝子機械(株)販売)を用いて、JIS K 6253に準拠した方法によって、表面上で任意の10点の硬度を測定し、下限2点、上限2点を除く6点の平均値を算出した。硬度は、50以上が好ましい。
【0100】
〔樹脂の粉砕指数〕
粉砕した樹脂粉末から、22メッシュと16メッシュの篩いを使用して、0.71mm以上1mm以下の粉末を分取し、National コーヒーミル MK-61Mに20g入れ、10秒間粉砕した。得られた粉末を目開き0.5mm(30メッシュ)で篩い、篩に残った重量Aを測定し、A/20×100の値を粉砕指数として算出した。粉砕指数が小さいほど、粉砕性が良好であることを示す。粉砕指数は、60以下が好ましく、50以下がより好ましい。
【0101】
〔離型剤の融点〕
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC210)を用いて200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却したサンプルを昇温速度10℃/分で昇温し、融解熱の最大ピーク温度を融点とする。
【0102】
〔熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計(熱分解GC/MS)によるフマル酸(FA)二量体成分の検出〕
(測定条件)
1.熱分解装置及び条件
装置 :日本分析工業株式会社製
キューリーポイントインジェクター(JSI-22)
熱分解温度 :590℃
熱分解時間 :5s
2.GC/MS装置及び条件
装置 :Agilent製 6890
カラム :HP-5ms(30m×0.25mm×0.25μm)
オーブン温度 :40℃(5min)−10℃/min−300℃(20min)
キャリアーガス :He(カラム流量:1.0mL/min)
注入方法 :スプリット スプリット比50:1
注入口温度 :300℃
検出器(MS) :Agilent製 5973
MS温度 :四重極:150℃ イオン源:230℃
スキャン範囲 :EI(Electron Ionization):m/z(イオンの質量/電荷)29−500、
0minから検出
3.測定手順
1)試料として結晶性ポリエステルを200μg、パイロホイル上にサンプリングする。
2)試料の上に水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)を1μL滴下する(メチルエステル誘導体化剤:熱分解時にエステルの分解とメチル化を行う)。
3)パイロホイルで試料を密閉し、熱分解装置に入れる。
4)熱分解させて、GC/MSで検出する。
4.測定結果
フマル酸の二量体のピークは、フマル酸の二量体の標準品(ブタンテトラカルボン酸、Aldrich(株))により、MSスペクトルのパターン及び検出時間が一致することで確認する。実施例のフマル酸の二量体のピークの検出時間は、20.7分であった。
【0103】
〔トナーの体積中位粒径(D50)〕
測定機:コールターマルチサイザーII(ベックマンコールター社製)
アパチャー径:50μm
解析ソフト:コールターマルチサイザーアキュコンプ バージョン 1.19(ベックマンコールター社製)
電解液:アイソトンII(ベックマンコールター社製)
分散液:エマルゲン109P(花王社製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、HLB:13.6)5%電解液
分散条件:分散液5mlに測定試料10mgを添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mlを添加し、さらに、超音波分散機にて1分間分散させる。
測定条件:ビーカーに電解液100mlと分散液を加え、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度で、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求める。
【0104】
結晶性ポリエステルの製造例1〔樹脂A、B、C〕
表1に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40g、及びターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)5gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、140℃で4時間反応させた後、10℃/hrで160℃まで昇温し、同温度で2時間保持した後、さらに10℃/hrで200℃まで昇温した。その後、表1に示す条件下で反応させて、結晶性ポリエステルを得た。結晶性ポリエステルの物性を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
結晶性ポリエステルの製造例2〔樹脂D、E〕
表2に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、140℃で4時間反応させた後、10℃/hrで160℃まで昇温し、同温度で2時間保持した後(反応率:70%)、ジブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤)5ml(5g)を30分間かけて滴下した。その後、160℃で1時間保持した後、ターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)5gを添加し、10℃/hrで200℃まで昇温した。さらに、8.3kPaにて15分間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0107】
【表2】

【0108】
結晶性ポリエステルの製造例3〔樹脂F、G〕
表3に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、140℃で4時間反応させた後、10℃/hrで160℃まで昇温し、同温度で2時間保持した後(反応率:70%)、表3に示す量のジブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤)を30分間かけて滴下した。その後、160℃で1時間保持した後、ターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)5gを添加し、10℃/hrで200℃まで昇温した。さらに、8.3kPaにて15分間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0109】
【表3】

【0110】
結晶性ポリエステルの製造例4〔樹脂H、I、J〕
表4に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、140℃で4時間反応させた後、10℃/1時間で160℃まで昇温し、同温度で2時間保持した後(反応率:70%)、ジブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤)5ml(5g)を30分間かけて滴下した。その後1時間160℃で保持、ターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)5gを添加し、10℃/1時間で200℃まで昇温した。さらに、8.3kPaにて表4に示す時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0111】
【表4】

【0112】
結晶性ポリエステルの製造例5〔樹脂K〕
表5に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、140℃で4時間反応させた後、10℃/hrで160℃まで昇温し、同温度で2時間保持した後(反応率:70%)、ジブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤)5ml(5g)を30分間かけて滴下した。その後、160℃で1時間保持し、ターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)5gを添加して、さらに1時間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0113】
結晶性ポリエステルの製造例6〔樹脂L〕
表5に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、140℃で4時間反応させた後、10℃/hrで160℃まで昇温し、同温度で2時間保持した後(反応率:70%)、ジブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤)5ml(5g)を30分間かけて滴下した。その後、1時間160℃で保持し、ターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)5gを添加して、10℃/hrで200℃まで昇温した。さらに、4kPaにて180分反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0114】
【表5】

【0115】
結晶性ポリエステルの製造例7〔樹脂M〕
平均粒径1mmに粉砕した樹脂A 2kgと、パーロイルL(ジラウロイルパーオキサイド、日油(株)製)1gをヘンシェルミキサーにて混合し、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ロールで圧延冷却した。
【0116】
【表6】

【0117】
結晶性ポリエステルの製造例8〔樹脂N〜P〕
表7に示す原料モノマー及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、140℃で4時間反応させた後、10℃/hrで160℃まで昇温し、同温度で2時間保持した後(反応率:70%)、ジブチルパーオキサイド(ラジカル重合開始剤)5ml(5g)を30分間かけて滴下した。その後、160℃で1時間保持した後、ターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)5gを添加し、10℃/hrで200℃まで昇温した。さらに、8.3kPaにて30分間反応させて、結晶性ポリエステルを得た。
【0118】
【表7】

【0119】
非晶質ポリエステルの製造例1〔樹脂a〕
表8に示す無水トリメリット酸以外の原料及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、230℃で8時間かけ反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させた。さらに、210℃にて無水トリメリット酸を添加し、所望の軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルを得た。
【0120】
非晶質ポリエステルの製造例2〔樹脂b〕
表8に示す無水トリメリット酸以外の原料及び2-エチルヘキサン酸錫(II)(エステル化触媒)40g、及びターシャリーブチルカテコール(重合禁止剤)4gを窒素導入管、脱水管、攪拌器及び熱電対を装備した10リットル容の四つ口フラスコに入れ、210℃で8時間かけ反応させた後、8.3kPaにて1時間反応させた。さらに、210℃にて無水トリメリット酸を添加し、所望の軟化点に達するまで反応させて、非晶質ポリエステルを得た。
【0121】
【表8】

【0122】
実施例1〜3、6〜17及び比較例1〜7
表10に示す結着樹脂を含む配合からなる原料を、ヘンシェルミキサーにて良く攪拌後、混練部分の全長1560mm、スクリュー径42mm、バレル内径43mmの同方向回転二軸押出機を用いて溶融混練した。ロールの回転速度は200r/min、ロール内の加熱温度は120℃であり、混合物の供給速度は10kg/hr、平均滞留時間は約18秒であった。得られた混練物を冷却ロールで圧延冷却し、オーブン中で、60℃にて8時間加熱保持した後、ジェットミルで体積中位粒径(D50)5.5μmのトナー粒子を得た。
【0123】
得られたトナー粒子100重量部に対し、外添剤「アエロジル R-972」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製)0.5重量部及び「NAX-50」(疎水性シリカ、日本アエロジル社製)1.0重量部を添加し、ヘンシェルミキサーで3600r/min、5分間混合することにより、トナーを得た。
【0124】
実施例4、5
溶融混練物を冷却ロールで圧延冷却した後、加熱保持を行わなかった以外は、表10に示す結着樹脂を含む配合からなる原料を用い、実施例1と同様にして、トナーを得た。
【0125】
なお、表10に示す配合A〜Dの詳細は以下の通り。
【0126】
【表9】

【0127】
試験例1〔低温定着性〕
複写機「AR−505」(シャープ社製)にトナーを実装し、未定着で画像出しを行った(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。前記複写機の定着機をオフラインで、90℃から240℃へ5℃ずつ順次定着温度を上昇させながら、300mm/secで用紙に定着させた。なお、定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ社製、75g/m2)を使用した。
【0128】
定着画像に「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆社、幅:18mm、JISZ-1522)を貼り付け、30℃に設定した定着ロールに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD-915」(マクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前)が最初に90%を越える定着ロールの温度を最低定着温度とし、以下の評価基準に従って、低温定着性を評価した。結果を表10に示す。
【0129】
〔評価基準〕
A:最低定着温度が120℃未満である。
B:最低定着温度が120℃以上、150℃未満である。
C:最低定着温度が150℃以上である。
【0130】
試験例2〔耐久性〕
現像機「ML 7300」(沖データ社製)を、から回し運転出来るように改造し、トナーを実装した。100mm/secで連続回転させる際に、30分毎に現像ロール表面の層形成状態を目視で確認し、以下の評価基準に従って、耐久性を評価した。結果を表10に示す。
【0131】
〔評価基準〕
A:180分経過してもスジの発生なし
B:90分経過後はスジの発生はないが、180分経過後には数本のスジが発生
C:90分経過でスジが発生
【0132】
【表10】

【0133】
以上の結果より、比較例1〜7と対比して、実施例1〜17では、低温定着性及び耐久性のいずれにも優れていることが分かる。また、実施例1と実施例4との対比より、加熱保持工程を行うことにより、耐久性が向上していることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の電子写真用トナーは、電子写真法、静電記録法、静電印刷法等において形成される潜像の現像等に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール成分と、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を20モル%以上含有し、3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量が5モル%以下であるカルボン酸成分とを縮重合させて得られる結晶性ポリエステルであって、クロロホルム溶解分のゲル浸透クロマトグラフィーにおける分子量ピークトップが1000〜20000であり、クロロホルム不溶分の含有量が1〜30重量%である、結晶性ポリエステル。
【請求項2】
不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物が、フマル酸、マレイン酸、それらの酸の無水物及びアルキル(炭素数1〜3)エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1記載の結晶性ポリエステル。
【請求項3】
熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計の測定において、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物の二量体成分が検出される、請求項1又は2記載の結晶性ポリエステル。
【請求項4】
不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物により、少なくとも一部が架橋されている、請求項1〜3いずれか記載の結晶性ポリエステル。
【請求項5】
アルコール成分が、炭素数4〜10の脂肪族ジオールを含有してなる、請求項1〜4いずれか記載の結晶性ポリエステル。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の結晶性ポリエステルの製造方法であって、
工程1:アルコール成分と、不飽和脂肪族ジカルボン酸化合物を20モル%以上含有し、3価以上の多価カルボン酸化合物の含有量が5モル%以下であるカルボン酸成分とを縮重合させる工程、並びに
工程2:工程1の縮重合反応中又は縮重合反応後に、ラジカル重合開始剤を添加して結晶性ポリエステルを得る工程
を含む、結晶性ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5いずれか記載の結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルを含有してなる、トナー用結着樹脂。
【請求項8】
請求項7記載の結着樹脂を含有してなる、電子写真用トナー。
【請求項9】
請求項1〜5いずれか記載の結晶性ポリエステルと非晶質ポリエステルとを含むトナー原料を溶融混練の後、得られた溶融混練物を冷却し、さらに、加熱保持する工程を行う、電子写真用トナーの製造方法。

【公開番号】特開2010−138225(P2010−138225A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313258(P2008−313258)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】