説明

電子写真用導電性部材、プロセスカートリッジおよび電子写真装置

【課題】長期の通電によっても電気抵抗が上昇しにくく、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用導電性部材を提供すること。
【解決手段】導電性の軸芯体と導電層とを有する電子写真用導電性部材であって、該導電層は、A−B−A型のブロック共重合体を含み、該A−B−A型のブロック共重合体中のAブロックが陽イオン交換基を有するポリスチレンであり、Bブロックがポリオレフィンであり、かつ、該A−B−A型ブロック共重合体が、該Bブロックからなるマトリクス相内に該Aブロックがシリンダー構造、共連続構造またはラメラ構造を有するミクロ相分離構造を形成していることを特徴とする電子写真用導電性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真プロセスを採用した画像形成装置に用いられる電子写真用導電性部材、プロセスカートリッジおよび電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電子写真装置の感光ドラムを帯電させる帯電ローラの形成材料として、ウレタンゴム等のポリマー成分にイオン導電剤として第四級アンモニウム塩を添加した導電性材料が用いられてきたことを記載している。また、特許文献1は、上記のイオン導電剤は帯電ローラの電気抵抗を低減させる能力に限界があり、また上記の導電性材料で形成された帯電ローラに電気を通した時の当該帯電ローラの電気抵抗の上昇が大きく、経時的に帯電に不具合が発生することを開示している。そして、特許文献1は、イオン導電剤として、特定の構造を有する第四級アンモニウム塩を用いることで上記の課題を解決できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−189894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者等が特許文献1に係る発明を検討したところ、帯電ローラへの長期に亘る直流電圧の印加による電気抵抗の上昇の抑制には未だ改善の余地があるとの認識を得た。
【0005】
そこで、本発明の目的は、長期に亘って直流電圧が印加された場合であっても電気抵抗が上昇しにくく、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用導電性部材の提供にある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像の長期に亘る安定的な形成に資するプロセスカートリッジおよび電子写真装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、導電性の軸芯体と導電層とを有し、該導電層は、A−B−A型のブロック共重合体を含み、該A−B−A型のブロック共重合体中のAブロックは陽イオン交換基を有するポリスチレンであり、Bブロックはポリオレフィンであり、かつ、該A−B−A型のブロック共重合体はミクロ相分離構造を形成しており、該ミクロ相分離構造は、該Bブロックからなるマトリクス相と、該Aブロックからなり、かつ、シリンダー構造、共連続構造またはラメラ構造を有する相とを有する電子写真用導電性部材が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、電子写真装置の本体に着脱自在に構成されており、上記の電子写真用導電性部材を帯電部材および現像部材から選ばれる何れか一方または両方の部材として具備しているプロセスカートリッジが提供される。
【0009】
さらに、本発明によれば、上記の電子写真用導電性部材を帯電部材および現像部材から選ばれるいずれか一方または両方の部材として具備している電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期の通電によっても電気抵抗が上昇しにくく、高品位な電子写真画像の安定的な形成に資する電子写真用導電性部材を得ることができる。
【0011】
また、本発明によれば、高品位な電子写真画像の長期に亘る安定的な形成に資するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電子写真用導電性部材の一例を示す概略断面図である。
【図2】電子写真用導電性部材を製造するためのクロスヘッド押出し機の一例を示す概略である。
【図3】抵抗測定機の一例を示す概略図である。
【図4A】本発明に係るシリンダー構造の相が形成されたミクロ相分離構造の模式図である。
【図4B】本発明に係る共連続構造の相が形成されたミクロ相分離構造の模式図である。
【図4C】本発明に係るラメラ構造の相が形成されたミクロ相分離構造の模式図である。
【図5】球状の相が形成されたミクロ相分離構造の模式図である。
【図6】本発明に係る電子写真装置の説明図である。
【図7】本発明に係るプロセスカートリッジの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0014】
<<電子写真用導電性部材>>
本発明に係る電子写真用導電性部材は、導電性の軸芯体と導電層とを有する。また、電子写真用導電性部材は、導電性軸芯体と導電層とからなることもできる。本発明に係る電子写真用導電性部材の形状は、ローラ形状およびブレード形状とすることができ、さらに本発明に係る電子写真用導電性部材は、電子写真装置における帯電部材および現像部材から選ばれる何れか一方の部材または両方の部材として用いることができる。以下に、本発明に係るローラ形状の電子写真用導電性部材を帯電ローラとして用いる場合を詳しく説明する。帯電ローラの具体的な構成を表す断面図を図1に示す。図1に示す帯電ローラは導電性軸体11とその外周に形成された導電性層12とからなる。
【0015】
<導電性軸芯体>
本発明で使用する、導電性の軸芯体11は、例えば炭素鋼合金表面に5μm程度の厚さのニッケルメッキを施した円柱である。
【0016】
<導電層>
導電層12は、A−B−A型のブロック共重合体を含有する。そして、AブロックおよびBブロックは、各々以下で定義される。
(Aブロック)陽イオン交換基を有するポリスチレン。
(Bブロック)ポリオレフィン。
【0017】
ここで、A−B−A型のブロック共重合体とは、Aポリマー(Aブロック)、Bポリマー(Bブロック)、Aポリマー(Aブロック)のそれぞれの分子末端がA−B−Aの順に連結した3成分ブロック共重合体のことである。A−B−A型のブロック共重合体は、Bブロックからなるマトリクス相内にAブロックがシリンダー構造、共連続構造またはラメラ構造を有するミクロ相分離構造を形成している。
【0018】
A−B−A型のブロック共重合体中のAブロックは、モノマーであるスチレンを重合させてポリスチレン(PS)とした後に、陽イオン交換基をそのポリスチレンに導入することで形成することができる。
【0019】
また、例えば、以下の工程を有する製造方法にて、A−B−A型のブロック共重合体を製造することができる。
1)スチレンを重合してPSとする工程。
2)そのPSにポリオレフィン(PO)の合成に用いるモノマーを添加および重合してPS−POのブロック共重合体を形成する工程。
3)前記PS−POのブロック共重合体にスチレンを添加および重合して、PS−PO−PSのブロック共重合体を形成する工程。
4)前記PS−PO−PSのブロック共重合体中のPSに陽イオン交換基を導入する工程。
【0020】
本発明に用いるA−B−A型のブロック共重合体中のAブロックは陽イオン交換基を有するポリスチレンであり、Bブロックはポリオレフィンである。さらに、帯電ローラとして使用する際の機械特性をより向上させるためには、A−B−A型のブロック共重合体が、熱可塑性エラストマーであることが好ましい。また、A−B−A型のブロック共重合体は、たとえば、リビング重合法により合成することができる。この場合、ポリマー自身の分子量分布が非常に狭くなる傾向があり、低分子量のオリゴマーやポリマーがほとんど生成しない傾向を示すため、それらが、電気抵抗の変動に寄与することはないと考えられる。本発明に用いるA−B−A型ブロック共重合体の場合、リビング重合法の中でも、特に、リビングアニオン重合法で合成することにより、低分子量のオリゴマーやポリマーが特に得られ難くなるため好ましい。
【0021】
本発明に用いるA−B−A型のブロック共重合体は、Aブロックのポリスチレンに陽イオン交換基を有するため、イオン伝導性を示す。さらに、Aブロック中の陽イオン交換基は、ポリスチレン中のスチレンユニットのうちの少なくとも一部に共有結合を介して直接結合している。このため、帯電ローラとして用いた際に、長期間の使用によって陽イオン交換基が移動することはなく、使用中に帯電ローラが高抵抗化することを回避できる。
【0022】
また、特許文献1のようにウレタンゴム等のバインダーゴム中にイオン導電剤を添加する場合、バインダーゴムに溶解するイオン導電材料量は、バインダーゴムとイオン導電剤の種類によって決まるため、飽和溶解量以上のイオン導電剤は溶解しない。その結果、飽和溶解量以上のイオン導電剤をバインダーゴムに添加しても、イオン導電剤同士が凝集するだけで、導電性ローラとして達成可能な抵抗値に限界がある場合がある。一方で、本発明のように陽イオン交換基をポリスチレン中のスチレンユニットのうちの少なくとも一部に直接結合させたA−B−A型のブロック共重合体をバインダーゴムとして用いる場合は、添加量増加に伴う凝集が発生しない。その結果、導電性ローラの低抵抗化が可能となる。
なお、ここで言うスチレンユニットとは、スチレンの繰り返し単位を意味する。
【0023】
陽イオン交換基とは、プロトン等、陽イオンのイオン伝導に寄与することができる官能基を意味し、本発明に用いる陽イオン交換基については、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、陽イオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、および亜リン酸基等が挙げられ、これらの基のうちの少なくとも1つを用いることができる。しかし、帯電ローラとしての導電性を確保する観点から、陽イオン交換基は、スルホン酸基、リン酸基、およびカルボン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。さらに、特に良好な導電性が得られることからスルホン酸基を用いることが好ましい。
【0024】
帯電ローラとして使用する際の電気抵抗値は、1×103Ω・cm以上1×109Ω・cm以下とすることが好ましい。なお、本発明の電子写真用導電性部材を現像ローラとして用いる場合もこの範囲の電気抵抗値とすることが好ましい。本発明においては、Aブロック中のポリスチレンに結合された陽イオン交換基の含有量を調整することにより、帯電ローラの電気抵抗値を調整することができる。上記範囲に電気抵抗値を調整する観点からA−B−A型のブロック共重合体のAブロック中の全てのスチレンユニット(PS)100モル%に対する陽イオン交換基量は、5モル%以上50モル%以下が好ましい。また、より好ましくは10モル%以上30モル%以下である。Aブロック中の陽イオン交換基の導入量は、プロトンNMR測定より、ポリスチレン中の陽イオン交換基が導入されたスチレンユニットと、導入されていないスチレンユニットのモル比を算出できるため同定可能である。
【0025】
陽イオン交換基の導入方法としては、例えば、陽イオン交換基がスルホン酸基の場合、以下の方法を挙げることができる。まず、上述の製造方法等に基づき、PS−PO−PSのブロック共重合体のジクロロメタン溶液を調製する。この溶液にアセチルサルフェート、あるいはクロロスルホン酸を添加する。これによって、PS−PO−PSブロック共重合体中のスチレンユニットに対し選択的にスルホン酸基を導入できる。
【0026】
また、一般的に、帯電ローラとして良好な放電特性を得るためには、帯電ローラと被帯電体との間で安定的なニップを形成することが求められる。このため、本発明に用いるA−B−A型ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしてゴム弾性を示すことが好ましい。そのため、Bブロックであるポリオレフィンのガラス転移温度は、20℃以下が好ましく、より好ましくは0℃以下である。
【0027】
上記の条件を満たすBブロックとしては、ポリエチレンブチレン(PEB)、ポリエチレンプロピレン(PEP)、ポリエチレンエチレンプロピレン(PEEP)、ポリイソブチレン(PIB)、マレイン酸変性ポリエチレンブチレン(M−PEB)、マレイン酸変性ポリエチレンプロピレン(M−PEP)、マレイン酸変性ポリエチレンエチレンプロピレン(M−PEEP)、マレイン酸ポリイソブチレン(M−PIB)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明に係るA−B−A型ブロック共重合体は、異種高分子であるAブロックとBブロックとの間に斥力相互作用(repulsive interaction)が働き、同種の高分子鎖同士で凝集し相分離する。しかし、異種高分子鎖間の連結性のためにそれぞれの高分子鎖の広がりより大きな相分離構造を作ることができず、結果として数ナノメートルから数百ナノメートルの周期的な自己組織化構造(self−assembled structure)を作る。このような構造をミクロ相分離構造(microphase−separated structure)と呼ぶ。
【0029】
Bates,F.S.;Fredrickson,G.H.;Annu.Res.Phys.Chem.1990(41)525は、ブロック共重合体によって形成されるミクロ相分離構造として、一方のポリマーブロックからなるマトリクス中に、他方のポリマーブロックからなる、球状構造、シリンダー状構造、共連続構造またはラメラ状構造を有する相が存在することを開示している。図4A〜Cおよび図5にA−B−A型ブロック共重合体が形成するミクロ相分離構造の模式図を示す。これらの図において、41はBブロックからなるマトリクス相を示し、42はAブロックからなる相を示す。そして、図4A、BおよびCは各々、Aブロックからなる相42がシリンダー構造、共連続構造およびラメラ構造を有するミクロ相分離構造を示している。また、図5は、Aブロックからなる相が球状構造を有するミクロ相分離構造を示している。
【0030】
本発明に用いるA−B−A型ブロック共重合体は、図4A、BおよびCに示したように、イオン伝導に寄与するAブロックからなる、シリンダー状構造、共連続構造またはラメラ構造を有する相が、Bブロックからなるマトリクス相中に周期的に、かつ、一方向に配向した状態で存在してなるミクロ相分離構造を構成する。そのため、本発明に係る導電層は良好な電気特性を示すこととなる。
【0031】
一般に、平衡状態においては、上記したシリンダー状構造、共連続構造、ラメラ構造および球状構造の4種の相のうちの構造の異なる複数の相がミクロ相分離構造内に共存することはない。しかし、非平衡条件下等の特殊な条件下においては、ミクロ相分離構造内に異なる形状の相が共存し得る。そのような場合であっても、イオン伝導に寄与する、Aブロックからなるシリンダー状構造、共連続構造またはラメラ構造が、ミクロ相分離構造内に存在していればその共重合体は本発明の範疇のものである。また、Aブロックからなる、シリンダー状構造、共連続構造、及びラメラ構造のいずれかの構造を有する相の一部に球状構造の相が存在したとしても、前述のシリンダー状構造、共連続構造、またはラメラ構造を有する相が周期的に形成されているミクロ相分離構造である限り、その共重合体も本発明の範疇のものである。
【0032】
なお、ブロックコポリマーのミクロ相分離構造については、透過型電子顕微鏡(TEM)による直接構造観察や小角X線散乱(SAXS)測定による結晶構造解析を行うことで特定可能である。例えばTEM観察の場合、本発明に用いるA−B−A型ブロック共重合体は、陽イオン交換基を有するAブロックが親水性、ポリオレフィンからなるBブロックが疎水性のため、リンタングステン酸等の親水性の染色剤を用いれば、以下のように観察される。すなわち、TEM観察時に、Aブロックが相対的に暗く、Bブロックが相対的に明るく観察される。よって、Aブロックがシリンダー状構造、共連続構造、ラメラ構造のいずれかの構造の相を有するミクロ相分離構造を形成し、Bブロックがマトリクス相であることを識別することが可能となる。
【0033】
ところで、ミクロ相分離構造の形態は、ブロック共重合体の構成成分の組成によって異なる。すなわち、図4A〜Cおよび図5に示した各種形態のミクロ相分離構造は、A−B−A型ブロック共重合体のA成分とB成分の体積比を制御することで作製することができる。そして、本発明に係る図4A〜Cに係るミクロ相分離構造は、具体的には、AブロックとBブロックの合計体積分率をAブロック(2つのAブロックの合計)/Bブロック=15/85からAブロック(合計)/Bブロック=60/40の範囲にすることで形成することができる。より好ましくは、Aブロック(合計)/Bブロック=20/80からAブロック(合計)/Bブロック=50/50の範囲である。
【0034】
また、A−B−A型ブロック共重合体の数平均分子量については、ミクロ相分離構造が形成される条件において特に制約されるものではない。ただし、導電性ローラの硬度は分子量に依存するため、ここでは数平均分子量が10,000以上、500,000以下が好ましく、さらに好ましくは、20,000以上、100,000以下である。なお、A−B−A型ブロック共重合体の数平均分子量は、以下の方法により算出することもできる。すなわち、陽イオン交換基導入前のブロック共重合体の数平均分子量と、A−B−A型ブロック共重合体中の陽イオン交換基の分子量(プロトンNMR測定等により算出した陽イオン交換基の導入量を基に換算した値)とから算出することができる。
【0035】
更に、本発明に用いる導電性層には、発明の効果を著しく損なわない範囲内で必要に応じて、充填剤、軟化剤、加工助剤、粘着付与剤、分散剤、発泡剤、樹脂粒子等を添加することができる。A−B−A型ブロック共重合体のミクロ相分離構造を崩さない限りにおいて、その他のバインダー樹脂や、ブロック共重合体と混合させても構わない。バインダー樹脂とA−B−A型ブロック共重合体との混合物中の、A−B−A型ブロック共重合体の含有量は30質量%以上が好ましく、さらに好ましくは50質量%以上である。30質量%以上の場合、バインダー樹脂の混合量が増加することによるA−B−A型ブロック共重合体と添加したバインダー樹脂との相分離を特に抑制し、イオン伝導に寄与するA成分の連続性を容易に確保できる。
【0036】
また、目的に応じで、導電性層12の外周にさらなる導電性層(本発明に用いる導電性層と同様の組成を有する層、および電子写真用導電性部材の分野で公知な他の導電性層等)や保護層を形成することもできる。
【0037】
導電性層12の成形方法としては、例えば、押出し成形法、射出成形法、圧縮成形法などの公知の方法が挙げられ、導電性層12を形成するためのエラストマー(導電層形成用材料)を、上記方法により成型することで導電層を得ることが出来る。導電性形成用材料は、A−B−A型ブロック共重合体からなることもできるし、必要に応じて上記配合剤等を混合して調製することもできる。また、導電性層は、導電性軸体11の上に直接成形してもよいし、予めチューブ形状に成形した導電性層12を導電性軸体11上に被覆させてもよい。なお、導電性層12の作製後に表面を研磨して形状を整えることが好ましい。
【0038】
図2に示す押出機においては、押出機上部に配置される不図示の導電性軸体保持容器から順次取り出された導電性軸体11は、複数対の導電性軸体を送る芯金送りローラ23によって、垂直下方向へ間隙なく搬送され、クロスヘッド22へ導入される。一方、導電層形成用材料は、押出機21により導電性軸体の搬送方向に対し垂直方向からクロスヘッド22へ供給され、ここで導電性軸体の周囲に被覆された導電性層としてクロスヘッド22から押し出される。その後、切断除去手段25により導電性層を切断して、導電性軸体毎に分断しローラ26とされる。
【0039】
導電性層12の形状は、帯電ローラと電子写真感光体の均一性密着性を容易に確保するために中央部が一番太く、両端部に行くほど細くなるクラウン形状に形成することが好ましい。帯電ローラは、一般的に支持体の両端部に所定の押圧力を与えて電子写真感光体と当接されて使用される。すなわち、帯電ローラの電子写真感光体に対する押圧力は、帯電ローラの軸方向における中央部よりも両端部で大きくなる。そのため、帯電ローラをクラウン形状とすることにより、帯電ローラの軸方向における中央部と両端部での押圧力の差が緩和され、当該押圧力の差に起因する電子写真画像への濃度ムラの発生を抑えることができる。
【0040】
(電子写真装置)
図6は、本発明の電子写真用導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真装置の概略図である。この電子写真装置は、電子写真感光体301を帯電する帯電ローラ302、露光を行う潜像形成装置308、トナー像に現像する現像装置303、転写材304に転写する転写装置305、電子写真感光体上の転写トナーを回収するクリーニング装置307、トナー像を定着する定着装置306などから構成される。電子写真感光体301は、導電性基体上に感光層を有する回転ドラム型である。電子写真感光体301は矢印の方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301に所定の力で押圧されることにより接触配置される。帯電ローラ302は、電子写真感光体301の回転に従い従動回転し、帯電用電源313から所定の直流電圧を印加することにより、電子写真感光体301を所定の電位に帯電する。一様に帯電された電子写真感光体301には、画像情報に対応した光308を照射することにより、静電潜像が形成される。電子写真感光体301に接触して配置されている現像ローラ303の表面には、現像剤供給ローラ311によって現像容器309内の現像剤315が供給される。その後、現像剤量規制部材310によって現像ローラ303の表面には、電子写真感光体の帯電電位と同極性に帯電された現像剤の層が形成される。この現像剤を用いて、反転現像により電子写真感光体に形成された静電潜像を現像する。転写装置305は、接触式の転写ローラを有する。電子写真感光体301からトナー像を普通紙などの転写材304に転写する。尚、転写材304は、搬送部材を有する給紙システムにより搬送される。クリーニング装置307は、ブレード型のクリーニング部材、回収容器を有し、転写した後、電子写真感光体301上に残留する転写残トナーを機械的に掻き落として回収する。ここで、現像装置303にて転写残トナーを回収する現像同時クリーニング方式を採用することにより、クリーニング装置307を取り除くことも可能である。定着装置306は、加熱されたロール等で構成され、転写されたトナー像を転写材304に定着し、機外に排出する。312および314は直流電源を示す。
【0041】
(プロセスカートリッジ)
また、図7は本発明に係る電子写真用導電性部材を帯電ローラ302に適用したプロセスカートリッジの概略断面図である。図7に示すように、本発明に係るプロセスカートリッジは、電子写真感光体301、帯電ローラ302、現像装置303、及び、クリーニング装置307などが一体化され、電子写真装置の本体に着脱自在(着脱可能)に構成されている。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、電子写真用導電性部材として、帯電ローラおよび現像ローラをそれぞれ作製した。
【0043】
まず、これらローラの導電層に含有するブロック共重合体の合成に用いたポリマーについて以下に説明する。
【0044】
(ポリマー1の合成)
ポリマー1はリビングアニオン重合法により合成した。
まず、5000mlの耐圧容器を乾燥アルゴンにより置換した。その後、下記表1に記載の材料をこの耐圧容器に加えた。そして、アルゴン雰囲気下、50℃で4時間重合を行い、ポリスチレン(PS)を作製した。
【0045】
【表1】

【0046】
次に、活性アルミナを用いて精錬したイソプレンモノマー67.15gをこの耐熱容器に加え、50℃で2時間重合を行い、ポリスチレン−ポリイソプレンのブロック共重合体を作製した。
更に、ゼオライト(商品名:モレキュラーシーブス4A、アルドリッチ社製)を用いて精錬したスチレンモノマー16.42gをこの耐圧容器に加え、温度50℃で4時間重合を行った。反応終了後、反応溶液内にメタノールを20ml加え、これをメタノールで再沈殿することにより、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンのトリブロック共重合体を100g得た。GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による数平均分子量Mnは88,200であった。つづいて乾燥した反応物を1Lのトルエンに溶解し、窒素雰囲気中で攪拌しつつ温度120℃で乾溜しながら、500gのp−トルエンスルフォニルヒドラジンを加え4時間反応させ、ジエン由来の2重結合を水素化した。これにより、PS−PEP−PSのブロック共重合体(ポリマー1)を得た。なお、このポリマー1の数平均分子量Mnは、94,600であった。表2に、GPCを用いて測定したポリマー1の数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比を示す。
【0047】
(ポリマー2〜3、ポリマー6〜14の合成)
ポリマーの配合を表2の配合に変更した以外は、ポリマー1と同様にしてポリマー2〜3、および6〜14の各ポリマーの合成を行った。なお、ポリマー1の合成に用いたイソプレンモノマーを、ブタジエンモノマー単独、ならびにイソプレンモノマーおよびブタジエンモノマーの両方にそれぞれ変更して、ポリマー中のPEBおよびPEEPの合成を行った。
【0048】
(ポリマー4)
ポリマー4には、ポリスチレン(PS)−ポリイソブチレン(PIB)−ポリスチレン(PS)トリブロックコポリマー(カネカ社製:SIBSTAR 102T(商品名))を用いた。
【0049】
(ポリマー5)
ポリマー5には、ポリスチレン(PS)−マレイン酸変性エチレンブチレン(M−PEB)−ポリスチレン(PS)トリブロックコポリマー(Kraton社製:FG1901G(商品名))を用いた。
【0050】
【表2】

【0051】
ついで、実施例・比較例で用いたブロック共重合体の合成例を説明する。また、各例のブロック共重合体の構成を表3に記載する。
【0052】
(合成例1)スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
得られたブロックコポリマー(ポリマー1)2gをジクロロメタン80mlに溶解し、40℃に維持した。続いて、別途、無水酢酸3.3mlと濃硫酸1.3mlとを0℃で混合攪拌し、アセチルサルフェート溶液を作製した。得られたアセチルサルフェート溶液を上記PS−PEP−PSトリブロックコポリマーのジクロロメタン溶液に徐々に滴下し、50℃で6時間攪拌した。ついで、メタノール5mlをこの反応溶液中に滴下し、反応を停止した。生成物を水とメタノールを用いて洗浄後、乾燥することによってスルホン酸基含有PS−PEP−PSトリブロックコポリマーを得た。このトリブロックコポリマーのスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニット(100mol%)に対して16mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。得られたトリブロックコポリマーから、凍結切片切削装置(商品名:クライオミクロトーム(Cryomicrotome)、日本電子株式会社(JEOL Ltd.)製)を用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片に四酸化ルテニウムを用いて蒸気染色を施した。この超薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)で測定し、ポリエチレンプロピレンのマトリクス相内に、スルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0053】
(合成例2)スルホン酸基含有PS−PEB−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー2を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEB−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して18mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEBのマトリクス相内に、スルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0054】
(合成例3)スルホン酸基含有PS−PEEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー3を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEEPのマトリクス相内に、スルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0055】
(合成例4)スルホン酸基含有PS−PIB−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー4を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PIB−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して17mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PIBのマトリクス相内に、スルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0056】
(合成例5)スルホン酸基含有PS−M−PEB−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー5を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−M−PEB−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、M−PEBのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0057】
(合成例6)スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
無水酢酸を5.4ml、濃硫酸を2.1mlとした以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を得た。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して29mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0058】
(合成例7)スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
無水酢酸を2.0ml、濃硫酸を0.8mlとした以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を得た。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して10mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0059】
(合成例8)スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー6を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を得た。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分が共連続状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0060】
(合成例9)スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー7を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を得た。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して17mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分がラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0061】
(合成例10)スルホン酸基含有PS−PEB−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー8を用いた以外は、合成例2に従い、スルホン酸基含有PS−PEB−PSブロック共重合体を得た。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEBのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分が共連続状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0062】
(合成例11)スルホン酸基含有PS−PEB−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー9を用いた以外は、合成例2に従い、スルホン酸基含有PS−PEB−PSブロック共重合体を得た。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して17mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEBのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分がラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0063】
(合成例12)スルホン酸基含有PS−PEEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー10を用いた以外は、合成例3に従い、スルホン酸基含有PS−PEEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して18mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分が共連続状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0064】
(合成例13)スルホン酸基含有PS−PEEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー11を用いた以外は、合成例3に従い、スルホン酸基含有PS−PEEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して15mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分がラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0065】
(合成例14)リン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックポリマー(ポリマー1)2gをジメチルホルムアミド80mlに溶解し、40℃に維持した。PS−PEP−PSトリブロックコポリマーのジメチルホルムアミド溶液に塩化ニッケル0.8gを添加後、続いて、亜リン酸トリエチル1.8gを徐々に滴下し、110℃で4時間攪拌した。
【0066】
ついで、反応溶液を室温まで冷却し、反応を停止した。生成物を水とメタノールを用いて洗浄後、乾燥することによってリン酸基含有PS−PEP−PSトリブロックコポリマーを得た。このトリブロックコポリマーのリン酸化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して15mol%のリン酸基が導入されていることが分かった。得られたトリブロックコポリマーから、クライオミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片に四酸化ルテニウムを用いて蒸気染色を施した。この超薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)で測定し、PEPのマトリクス相内にリン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0067】
(合成例15)リン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー6を用いた以外は、合成例14に従い、リン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のリン酸化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して18mol%のリン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にリン酸基を有するポリスチレン成分が共連続状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0068】
(合成例16)リン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー7を用いた以外は、合成例14に従い、リン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のリン酸化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して17mol%のリン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にリン酸基を有するポリスチレン成分がラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0069】
(合成例17)カルボン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー1を用いた。
PS−PEP−PSトリブロックコポリマー2gをジメチルホルムアミド80mlに溶解し、40℃に維持した。PS−PEP−PSトリブロックコポリマーのジメチルホルムアミド溶液に塩化アルミニウム0.9gを添加後、続いて、1−クロロブタン1.6gを徐々に滴下し、110℃で4時間攪拌した。ついで、反応溶液を室温まで冷却し、反応を停止し、生成物をエタノールで洗浄後、ジメチルホルムアミドに再び溶解し、過マンガン酸カリウムを1.0g加え、40℃で4時間攪拌した。生成物を水とメタノールを用いて洗浄後、乾燥することによってカルボン酸基含有PS−PEP−PSトリブロックコポリマーを得た。このトリブロックコポリマーのカルボン酸化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のカルボン酸基が導入されていることが分かった。
【0070】
得られたトリブロックコポリマーから、クライオミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片に四酸化ルテニウムを用い蒸気染色を施した。この超薄切片を透過型電子顕微鏡(TEM)により測定し、PEPのマトリクス相内にカルボン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0071】
(合成例18)カルボン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー6を用いた以外は、合成例17に従い、カルボン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のカルボン酸化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のカルボン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にカルボン酸基を有するポリスチレン成分が共連続状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0072】
(合成例19)カルボン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー7を用いた以外は、合成例17に従い、カルボン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のカルボン酸化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のカルボン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にカルボン酸基を有するポリスチレン成分がラメラ状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0073】
(合成例20)スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー12を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して13mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、スルホン酸基を有するポリスチレン成分のマトリクス相内に、ポリエチレンプロピレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造(逆シリンダー状のミクロ相分離構造)を形成していることを確認した。
【0074】
(合成例21)PS−PEP−PSブロック共重合体
ポリマー1(PS−PEP−PSブロック共重合体)に、陽イオン交換基を導入せずにそのまま使用した。それ以外は、合成例1に従い、PS−PEP−PSブロック共重合体を合成した。TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0075】
(合成例22)スルホン酸基含有PS−PEPブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー13を用いた以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEPブロック共重合体(A−B型のブロック共重合体)を合成した。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して16mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分がシリンダー状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。
【0076】
(合成例23)スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体
ブロックコポリマーとして、ポリマー14を用い、無水酢酸を1.1ml、濃硫酸を0.4mlとした以外は、合成例1に従い、スルホン酸基含有PS−PEP−PSブロック共重合体を得た。この共重合体のスルホン化率をプロトンNMRにて測定したところ、全てのスチレンユニットに対して14mol%のスルホン酸基が導入されていることが分かった。また、TEM観察によるミクロ相分離構造観察の結果、PEPのマトリクス相内にスルホン酸基を有するポリスチレン成分が球状のミクロ相分離構造を形成していることを確認した。なお、合成例1〜23で合成した各ブロック共重合体を、合成例1〜23の試料と称することもある。
【0077】
【表3】

【0078】
<帯電ローラ>
以下に、本発明の電子写真用導電性部材を帯電ローラとして作製および使用した場合の例を示す。
【0079】
〔実施例1〕
(帯電ローラの作製)
外径φ(直径)6mm、軸方向の長さ258mmのステンレス棒の芯金を用意し、5μm程度のニッケルメッキを施し、導電性軸体11を得た。
【0080】
ついで、前記導電性軸体11を、図2に模式的に示す押出機を用いて、導電性軸体11と、導電層形成用材料として合成例1の試料とを一体に押出してローラを成形した。その後、ローラ端部の切断・除去手段25により、導電性層被覆部の軸方向の長さ232mmの導電性ローラを得た。この導電性ローラを幅広研磨機(ローラ専用 CNC研削盤LEO−600−F4L−BME(商品名))を用いて中心外径が8.5mm、導電性層の軸方向両端部の外径が8.3mmになるまで、切り込み速度2m/分で湿式研削しクラウン形状の帯電ローラ得た。
【0081】
なお、この帯電ローラの硬度をJIS―K6253に基づいて測定したところ、68度であった。
【0082】
(評価1)
図3には評価に用いた電気抵抗測定装置の概略図を示した。帯電ローラをその両端に取り付けられた軸受け31によって回転自由に保持し、前記軸受け31に取り付けられたバネ32によって片側4.90N(500gf)の押し付け圧でΦ(直径)30mmの円柱状アルミドラム33に圧接した。
【0083】
アルミドラム33を30rpmで回転駆動させながら帯電ローラを従動させた。そして、外部電源34(TReK Model 610E(商品名))により、アルミドラム33を介して帯電ローラに100μAの直流電流が流れるように定電流制御モードで305秒間電圧を印加した。このとき、初期(印加2秒後から5秒間)と300秒後(300秒後から5秒間)の出力電圧をサンプリング周波数100Hzで測定した。このとき、印加2秒後から5秒間の出力電圧の平均値をVa(V)、300秒後から5秒間の出力電圧の平均値をVb(V)とし、初期電圧Vaと電圧変化率Vb/Va(V/V)を測定した。測定結果を表4に示す。ここで、Vaは60.2(V)となり良好な導電性を示した。また、Vb/Vaは1.00となり、300秒間の直流電圧の印加の前後で電気抵抗の変化がほとんどないことがわかった。
【0084】
(評価2)
評価1の電気抵抗測定装置を用いて400μAの直流電流で帯電ローラに120分間通電を行った。その直後にその帯電ローラを、レーザープリンター(商品名:LBP5400、キヤノン株式会社製)に帯電ローラとして組み込み、ハーフトーン画像を出力し画像評価を行った。
【0085】
評価結果を表4に示す。なお、評価ランクは以下のとおりである。
A:帯電ローラの抵抗に起因する画像の不良が見られない。
B:帯電ローラの抵抗に起因する画像の不良が若干見られた。
C:帯電ローラの抵抗に起因する画像の不良が見られた。
D:帯電ローラの当接ムラによる画像不良が見られた。
【0086】
【表4】

【0087】
〔実施例2〜19〕
合成例1の試料を合成例2〜19の試料にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜19の帯電ローラを作製し評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0088】
〔比較例1〕
表5に示す材料を加圧式ニーダーにて混合し、A練りゴム組成物を得た。
【0089】
【表5】

【0090】
続いて、表6に示す材料をオープンロールにて混合し、未加硫ゴム組成物1を得た。
【0091】
【表6】

【0092】
ついで、合成例1の試料の代わりに上記未加硫ゴム組成物1を使用する以外は実施例1と同様にして、クロスヘッド押出し機を用いて未加硫ゴム組成物1を導電層とするローラを得た。
【0093】
その後、160℃、2時間の加熱加硫を行い、端部の切断・除去処理により、エラストマー被覆部の軸方向の長さ232mmの導電性ローラを得た。この導電性ローラを幅広研磨機(ローラ専用 CNC研削盤LEO−600−F4L−BME(商品名))を用いて中心外径が8.5mm、エラストマー被覆部の軸方向両端部の外径が8.3mmになるまで、切り込み速度2m/分で研削し帯電ローラ得た。
【0094】
ここで、実施例1と同様の評価を行った結果、表4に示したように、Vaは74.0(V)となり良好な導電性は示すものの、Vb/Vaは2.05となり、300秒間の直流電圧の印加により電気抵抗が上昇していることがわかった。そのため、評価2においては帯電ローラの抵抗が起因と見られる画像不良が発生した。
【0095】
〔比較例2〕
イオン導電剤テトラエチルアンモニウムクロライドを添加しない以外は、比較例1と同様にして帯電ローラを作製し、同様の評価を行った。Vaは230.1(V)となり初期抵抗が高く、また、Vb/Vaも12.0となり、300秒間の直流電圧の印加によって電気抵抗の上昇が見られた。そのため、評価2においては帯電ローラの電気抵抗の上昇に起因すると認められる画像不良が発生した。
【0096】
〔比較例3〕
合成例1の試料を合成例20の試料に変更した以外は実施例1と同様にして、帯電ローラを作製し、同様の評価を行った。Va、Vb/Vaともに良好な値となったが、硬度が高いため感光体との当接が安定せず、評価2では当接のムラが起因となる画像不良が発生した。
【0097】
〔比較例4〕
合成例1の試料を合成例21の試料に変更した以外は実施例1と同様にして、帯電ローラを作製した。この帯電ローラは高抵抗であったため、Vaを測定することができなかった。
【0098】
〔比較例5〕
合成例1の試料を合成例22の試料に変更した以外は実施例1と同様にして、帯電ローラを作製した。しかしながら、この帯電ローラは、硬度が低く、ゴム弾性を有していないため帯電ローラとしては不適であった。よって評価は行わなかった。
【0099】
〔比較例6〕
合成例1の試料を合成例23の試料に変更した以外は実施例1と同様にして、帯電ローラを作製し、同様の評価を行った。Vaが240.5Vとなり、初期の抵抗が高くなっていた。そのため、評価2では帯電ローラの抵抗が起因とみられる画像不良が発生した。
【0100】
<現像ローラ>
以下に、本発明の電子写真用導電性部材を現像ローラとして作製および使用した場合の例を示す。
【0101】
〔実施例20〕
実施例1の芯金を、プライマーを焼き付けた直径6mm軸方向の長さ279mmの芯金に変更し、導電層を、合成例6の試料を用いて作製した軸方向の両端部を除く芯金表面に厚さ3mm軸方向の長さ235mmの導電性層に変更した。それら以外は実施例1と同様にして、導電層を有するローラを作製した。このローラをレーザープリンター(商品名:LBP5400、キヤノン株式会社製)に現像ローラとして組み込み、ベタ画像とハーフトーン画像を出力した。その後、このローラに評価1の電気抵抗測定装置を用いて400μAの直流電流を120分間流した。その直後に、そのローラを再び上記のレーザープリンターに現像ローラとして組み込み、ベタ画像とハーフトーン画像を出力した。そして、通電前後の画像を対比して下記の基準にて目視評価した。
ランクA:直流電流の通電の前後で画像濃度に変化が殆んど見られなかった。
ランクB:直流電流の通電前後で若干の濃度変化が見られた。
ランクC:直流電流の通電前後で顕著な濃度変化が見られた。
【0102】
〔実施例21〜24]および[比較例7]
導電層形成材料に下記表7に記載の試料を用いた以外は実施例20と同じ方法で現像ローラを作製し、評価した。実施例20乃至24および比較例7の評価結果を下記表7に示す。
【0103】
【表7】

【符号の説明】
【0104】
11・・・・導電性軸体
12・・・・導電性層
21・・・・押出機
22・・・・クロスヘッド
23・・・・芯金送りローラ
25・・・・切断・除去手段
26・・・・ローラ
31・・・・軸受け
32・・・・バネ
33・・・・アルミドラム
34・・・・外部電源
【0105】
この出願は2010年7月13日に出願された日本国特許出願番号第2010―158615からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の軸芯体と導電層とを有する電子写真用導電性部材であって、
該導電層は、A−B−A型のブロック共重合体を含み、
該A−B−A型のブロック共重合体中のAブロックは陽イオン交換基を有するポリスチレンであり、Bブロックはポリオレフィンであり、かつ、
該A−B−A型のブロック共重合体はミクロ相分離構造を形成しており、
該ミクロ相分離構造は、
該Bブロックからなるマトリクス相と、
該Aブロックからなり、かつ、シリンダー構造、共連続構造またはラメラ構造を有する相と、
を有することを特徴とする電子写真用導電性部材。
【請求項2】
前記陽イオン交換基が、スルホン酸基、リン酸基およびカルボン酸基からなる群から選ばれる少なくとも一つである請求項1に記載の電子写真用導電性部材。
【請求項3】
前記陽イオン交換基がスルホン酸基である請求項2に記載の電子写真用導電性部材。
【請求項4】
電子写真装置の本体に着脱自在に構成されているプロセスカートリッジであって、請求項1〜3の何れか一項に記載の電子写真用導電性部材を帯電部材および現像部材から選択される何れか一方または両方の部材として具備していることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一項に記載の電子写真用導電性部材を帯電部材および現像部材から選ばれる何れか一方または両方の部材として具備していることを特徴とする電子写真装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−37877(P2012−37877A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149165(P2011−149165)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】