説明

電子写真用被記録材

【課題】良好なトナー画像,高い転写性と高い画像濃度を有すると共に、トナーの定着性,トナーの飛散防止性,印画ムラ防止性や画像濃度が改善され、プリンター内での印画紙の搬送性の改善された電子写真用被記録材を提供する。
【解決手段】プラスチックフィルムの少なくとも片面に酸化錫を含有するトナー定着層を設けてなる電子写真用被記録材において、酸化錫として酸化第二錫を用い、23℃の温度及び50%の相対湿度条件下におけるトナー定着層の表面が、1× 109〜1×1014Ωの範囲内の表面固有抵抗値A(Ω)を有し、これと上記被記録材の23℃の温度及び50%の相対湿度条件下における体積固有抵抗値B(Ω・cm)の割合(B/A)が、1×102 〜1×105の範囲内に調整された電子写真用被記録材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用被記録材に関し、更に詳しくは、酸化第二錫を含有するトナー定着層の表面固有抵抗値と被記録材の体積固有抵抗値が相関的に制約された関係を有する実用的に望ましい電子写真用被記録材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式は、版を必要とせず、精度の高い画像が高い印刷速度で得られるので、レーザービームプリンターや複写機などに広く採用され、近年、特にステッカーやオーバーヘッドプロジェクター(OHP)用シート等の、透明な被記録材を用いる分野における需要が増大している。
従来、電子写真方式における被記録材として、基材の表面にトナー定着層が設けられたものが、多く用いられてきた。例えば、基材としてプラスチックフィルムを用い、その表面に金属化合物等を含有するトナー定着層が設けられたものなどが用いられてきた。そのトナー定着層は、通常、塗工用の樹脂液に金属化合物などを混和させ、トナー定着層として適切な膜厚に塗布形成する方法などによって形成されている。
【0003】
従来のこのような受像用トナー定着層を用いる電子写真用被記録材においては、トナー画像の良好な転写性と高い画像濃度を得るために、該定着層の表面固有抵抗値が1×109〜1×1014Ωの範囲内にあることが必要であるとされている(特許文献1参照)。しかし、トナー定着層を、そのような表面固有抵抗値に調整してもトナーの定着性,トナーの飛散防止性,印画ムラ防止性や画像濃度等のすべてを同時に満足させることは困難で、これらのすべてを満足させ得る更に改善された被記録材が要求されており、また、実用面からプリンター内での搬送性の改善も要望されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−43722号公報
【0005】
一般に、合成樹脂類は静電気が帯電し易く、特に、電子写真方式においては、基材フィルムが印画中に容易に静電気帯電するので、プリントアウトされた印画物が相互に貼り付いて揃えられないという現象が生じ、作業性を低下させるという問題があった。また、電子写真方式のプリンターには、被記録材に高い熱が加えられるものが多く、そのようなプリンターに使用する場合は、耐熱性の高い樹脂が使用されねばならないという制約もある。
【0006】
本発明者は、良好なトナー画像及び高い転写性と高い画像濃度に加えて、上記のような改善課題を克服すべく、電子写真方式におけるトナー受像層の形成について多くの試作を行った。その試作研究においては、まず、トナー定着層に含有させる導電性酸化錫化合物に着目し、更に、トナー定着層を形成する各種の樹脂について検討した。その結果、酸化錫化合物として酸化第二錫を使用し、これを含有するトナー定着層の表面固有抵抗値(Ω)と、被記録材の体積固有抵抗値(Ω・cm)との間の電気的相関関係が技術的に重要であり、その割合を特定の範囲内に制御することによって、上記課題が効果的に克服されることを見出した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、良好なトナー画像,高い転写性と高い画像濃度を有すると共に、トナーの定着性,トナーの飛散防止性,印画ムラ防止性や画像濃度の改善された電子写真用被記録材を提供することにある。また、他の課題は、プリンター内での印画紙の搬送性の改善された電子写真用被記録材を提供することにある。その他の課題ないし本発明の技術的特徴は、以下の記載から更に明らかとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プラスチックフィルムの少なくとも片面に酸化錫を含有するトナー定着層を設けてなる電子写真用被記録材において、上記酸化錫として酸化第二錫を用い、23℃の温度及び50%の相対湿度条件下におけるトナー定着層の表面が、1× 109〜1×1014Ωの範囲内の表面固有抵抗値A(Ω)を有し、これと上記被記録材の23℃の温度及び50%の相対湿度条件下における体積固有抵抗値B(Ω・cm)の割合(B/A)が、1×102 〜1×105の範囲内に調整されてなる電子写真用被記録材を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記酸化第二錫が、非晶質酸化第二錫である上記電子写真用被記録材、及びトナー定着層の表面の表面固有抵抗値A(Ω)が、1×1010〜1×1013Ωの範囲内にあり、また、上記被記録材の23℃の温度及び50%の相対湿度条件下における体積固有抵抗値B(Ω・cm)が、1×1013〜1×1016Ω・cmの範囲内にあり、その割合(B/A)が、1×102 〜1×105の範囲内に調整された電子写真用被記録材を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好なトナー画像や高い転写性と高い画像濃度と共に、トナーの定着性,トナーの飛散防止性,印画ムラ防止性及び画像濃度が改善され、更に、プリンター内での搬送性の改善された高い実用性を有する電子写真用被記録材が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の電子写真用被記録材の基材フィルムに使用されるプラスチックは、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートで代表される各種のポリエステル類、セルロースエステル類、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアミド、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン等の一般的な合成樹脂類が包含される。これらの樹脂類は、透明性が要求される場合や耐熱性が要求される場合には、それらの要求性能に応じて適宜選択使用されるが、透明度の高い電子写真用被記録材は、特に、絵柄の部分以外は透明なステッカーを作って窓ガラスに貼る、という特殊な印画部材の作成に好適に使用できる。
【0012】
被記録材に高い熱が加えられる場合には、好ましくは、ポリエステル類などの高い耐熱性を有する基材フィルムが使用され、また、着色した基材フィルムや不透明な基材フィルムの場合には、フィルム樹脂中に、例えば、有機着色剤及びシリカや炭酸カルシウムのような無機質微粉末を基材樹脂に添加したものが使用される。更に、フィルムの内部に細かな気泡や空洞などを含有する不透明な発泡プラスチックフィルム類も使用できる。そのような気泡や空洞などの形成は、炭酸カルシウム等の無機粉末を含有したフィルムを延伸して気泡等を無機粉末の周囲に発生させたり(ミクロボイドフィルム)、発泡剤を含有させ加熱発泡により形成される発泡体などが包含されるが、その形成方法や気泡,空洞の状態ないし形態等には何ら制約はない。発泡プラスチックフィルムの例としては、東洋紡績株式会社製の「トヨパールフィルム P4258」や株式会社ユポ・コーポレーション製の「ユポ FPG 80」などが挙げられる。また、本発明の被記録材の基材プラスチックフィルムには、合成紙を使用することもできる。
【0013】
近年、プラスチック類の地球環境への悪影響が重要視され、生分解性プラスチックが脚光を浴びるようになった。一般に、生分解性プラスチックは、燃焼エネルギーが低く、有毒ガスが発生しないという特徴があり、経時的に微生物により分解代謝され、最終的に水と二酸化炭素となって自然に戻る環境にやさしいプラスチックであるが、本発明の電子写真用被記録材用基材フィルムに、そのようなプラスチックを使用することができる。生分解性プラスチックとしては、ポリ乳酸、デンプンと変性ポリビニルアルコールの混合体、ポリブチレンサクシネート/アジペート共重合体、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート/バリレート共重合体等が代表的に挙げられる。特に、分解の早さと強度の点から、ポリ乳酸が好適である。また、基材フィルムの強度を向上させるために、生分解性プラスチックに、その生分解性を損なわない範囲で他のプラスチックを添加混用することができる。
【0014】
本発明の基材フィルムは、単層構造でもよいし、積層状の多層構造物でもよい。多層構造のプラスチックフィルムを形成する方法としては、例えば、接着剤を介してフィルム同士を貼り合わせる方法、複数の押出機から複数の原料をフィルム状に押し出しながら貼り合わせて積層フィルムを形成させる、いわゆる共押出方法、あるいはフィルムの上に押出機から直接フィルムを押し出しながら貼り合わせ積層する、いわゆる押し出しラミネート方法など、公知の各種の方法が採用できる。
【0015】
また、基材フィルムは、トナー定着層との密着性や濡れ性を高めて接着強度を向上させるために、基材フィルムの表面を酸化法や凹凸形成法などで処理して粗面化する方式が広く採用されている。上記酸化処理法としては、例えば、コロナ放電処理や熱風処理が代表的であり、また、凹凸形成法としては、例えば、サンドブラスト法や溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選択されるが、一般に、処理効果及び操作性などの面から、コロナ放電処理法が好ましく用いられる。更に、通常知られた易接着処理を施すこともできる。
【0016】
上記プラスチック基材フィルムの表面に形成される酸化第二錫含有トナー定着層は、その塗工液を基材フィルムに直接塗布して形成させてもよいが、トナー定着層の接着強度を向上させるために、該フィルムの表面にアンカーコートを適用してもよい。そのようなアンカーコートは、基材フィルムの樹脂の種類及びトナー定着層に使用される樹脂の種類により、両層に良好な親和性あるいは相互溶解性を有する物質類が選択使用される。そのような物質類は、当業者によって経験的に容易に選択、決定することができる。一般に、このアンカーコート層は、選択された樹脂成分を溶解する有機溶剤に溶解し、あるいは分散状の塗工液を調製して、基材フィルムの表面に塗布され、通常、比較的薄い乾燥膜厚の被膜に形成される。そのような塗膜を形成させる塗布手段には何ら制限はなく、例えば、リバースロールコート、エアナイフコート、グラビアコート、ブレードコート、コンマコート、ワイヤーバーコート等の従来知られた種々の方法を用いることができる。塗布されたアンカーコ−ト塗工液は、乾燥、脱溶剤させることにより基材フィルム表面に強固に密着した被膜が形成される。
【0017】
本発明の電子写真用被記録材においては、上記のように、トナー定着層は、直接又はアンカーコート層を介して基材フィルムに形成される。そのトナー定着層を形成させる結着剤としては、例えば、ポリエステル樹脂,ウレタン系樹脂,アクリル系樹脂,ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール,ゼラチン,ポリビニルアセタール,カルボキシメチルセルロース,ポリビニルピロリドン,塩素化ポリプロピレン,バーサチック酸ビニル系樹脂,スチレン−アクリル共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体及びスチレン−ブタジエンゴム等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせ混合使用することもできる。これら樹脂の使用量範囲は、通常、トナー定着層中に固形分に基づいて40〜80質量%である。40質量%以上とすることによりトナー定着層の優れた強度が得られ、また、80質量%以下とすることにより優れた印画の品質が得られる。好ましい樹脂使用量範囲は、50〜70質量%である。
【0018】
本発明のトナー定着層には、上記樹脂中に配合、分散される導電性微粒子物質として酸化第二錫が使用される。その使用量範囲は、当該技術分野において通常用いられる量範囲であって、例えば、トナー定着層固形分基準で、20〜50質量%の範囲である。20質量%以上とすることにより、優れた帯電防止性能が得られ、また、50質量%以下とすることによりトナー定着層の高い強度が得られる。実用的に好ましい使用量範囲は、30〜40質量%である。この酸化第二錫の添加量は、トナー定着層を適切な表面固有抵抗値に保つのに極めて有用である。本発明の被記録材のトナー定着層には、特に非晶質の酸化第二錫が好ましく用いられる。一般に、トナー定着層に錫化合物を含有させるときは、アンチモン等をドープしたものが使用されるが、トナー定着層を形成するための塗工液を製造する過程で、アンチモンが分離し易いという問題があった。アンチモンが分離すると帯電防止効果が低下し、画像品質や搬送性に悪影響を及ぼし易い。しかし、本発明者は、非晶質の酸化第二錫の場合には、アンチモン等のドープなしで優れた帯電防止性能が得られることを見出した。本発明において酸化第二錫として非晶質酸化第二錫を用いると製造工程における帯電防止効果の低下がなく、安定した画像品質や搬送性を得ることができ、好適である。
そのトナー定着層の質量は、その強度及び画像品質を考慮すれば、0.1〜1.0g/m2の範囲内が好ましく、特に、0.2〜0.6g/m2の範囲内が望ましい。尚、この質量は、トナー定着層自体の質量を指すのであって、例えば、塗工で設ける場合の塗工液の質量をいうものではない。
【0019】
本発明の電子写真用被記録材において、トナー画像の良好な転写性と画像濃度を得るためには、23℃の温度及び50%の相対湿度条件下におけるトナー定着層の表面固有抵抗値A(Ω)が1×109〜1×1014Ωの範囲内に調整されることが極めて重要であり、これに関連して、同一の23℃の温度及び50%の相対湿度測定条件下における被記録材の体積固有抵抗値B(Ω・cm)の表面固有抵抗値A(Ω)に対する割合(B/A)を1×102 〜1×105の範囲内に調整することがまた極めて重要である。本発明の上記トナー定着層の好ましい表面固有抵抗値A(Ω)の範囲は、1×1010〜1×1013Ωで、被記録材の好ましい体積固有抵抗値B(Ω・cm)の範囲は1×1013〜1×1016Ω・cmである。割合(B/A)が、上記範囲を逸脱するときは、改善されたトナーの定着性,トナーの飛散防止性や望ましい印画ムラ防止性や高い画像濃度が得られないので不適切である。(B/A)値の好ましい割合の範囲は、5×102〜5×103である。上記割合(B/A)の調整は、表面固有抵抗値A(Ω)又は体積固有抵抗値B(Ω・cm)のいずれかを調整してもよいし、また、その両者を調整してもよい。
【0020】
その調整方法は、例えば、表面固有抵抗値は、トナー定着層の質量によって調整することが可能であり、実用的に極めて有効である。一般に、トナー定着層を厚くして質量を増大させるとトナー定着層の表面固有抵抗値A(Ω)は低下する。その場合、電子写真用被記録材の体積固有抵抗値B(Ω・cm)も低下する。しかし、表面固有抵抗値Aの低下比率が、体積固有抵抗値Bの低下比率よりも大きいので、その結果、(B/A)値は増大する。このように、一般的にはトナー定着層の厚みを選択するだけで、(B/A)値を所望の比率範囲内にすることができるので、操作性及び実用性を考慮すれば、実質的にこの方法により効率的に調整することができる。その厚さの選択は、前記トナー定着層の好ましい質量の範囲内で効果的に実施することができる。
【0021】
他の調整方法としては、トナー定着層に添加される各種添加剤の種類や添加含有量を選択することにより、あるいは基材フィルムの気泡の細孔容積を選択することにより、また、トナー定着層の空隙量を調整することによっても調整可能である。例えば、トナー定着層にシリカを含有させ、その量を選択することにより、トナー定着層の表面固有抵抗値及び被記録材の体積固有抵抗値を低下させることができる。シリカの使用量は比較的少量でよく、例えば、トナー定着層中に固形分に基づいて0.1〜3質量%程度のシリカの添加使用によって、良好な搬送性や高い画像品質を得ることができる。その好ましい添加使用量の範囲は、0.5〜1.5質量%である。更に、結着剤として用いる樹脂を選択する方法、特に、樹脂が分子内に有する親水基や疎水基の種類及びそれらの含有量比率等による差異を考慮し樹脂を選択することによっても調整できる。これらの調整は、いずれの調整法を採用するか、あるいはどの技術を選択するかは、当業者が経験的に容易に選択・決定できる事項である。
【0022】
本発明の電子写真用被記録材の固有抵抗値の上記のような測定条件、すなわち、温度23℃及び相対湿度50%は、測定条件を規定する必要があること、及び測定の設定条件として調整に好適であり、極めて安定した的確な測定値が得られることなどの見解に基づいて選択・採用したものである。
【0023】
また、トナー定着層には、滑剤を含有させてもよい。トナー定着層に使用する滑剤は、その一部がトナー定着層の表面に突出して滑りやすくするものであり、従来公知のものが使用できるが、トナー定着層を形成する為の塗工液の安定性や、トナー定着への影響などの点から、ポリエチレンワックスなどのポリオレフィンワックスが好ましく、真球状に近いものがそれらの効果が大きいので有効である。更に、滑剤は、1.0〜15.0μmの粒子径、100〜150℃のピカット軟化点及び70〜150℃の最低成膜温度を有するものが好ましい。上記の粒子径は、コールターカウンター法により測定された数値であるが、1.0μm未満の微粒径では、トナー定着層の中に滑剤が埋まってしまうので滑剤としての効果が発揮されない恐れがあり、逆に、15.0μmを超えるとトナー定着層表面の凹凸が大きくなり、トナーの定着が悪下して印画適性が低下する恐れがある。より好ましい滑剤の粒子径の範囲は、2.0〜12.0μmである。上記ピカット軟化点は、ASTM D1525−70に準拠して測定した数値であり、該軟化点が100℃未満では、定着ロールの熱のために定着ロールに融着してしまい、搬送不良を起こす恐れがある。逆に150℃より高いと、トナーの定着が悪くなり、印画適性が低下する恐れがある。より好ましいピカット軟化点の範囲は、110〜140℃である。
【0024】
更に、トナー定着層には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じ、界面活性剤,消泡剤,帯電防止剤,紫外線吸収剤,蛍光増白剤,防腐剤,顔料分散剤や増粘剤などの各種添加剤を添加含有させることができる。これらを含むトナー定着層への添加剤は、トナー定着層を形成させる塗工液に含有させて塗布することができる。これら各種添加剤の添加によっても、トナー定着層の表面固有抵抗値及び電子写真用被記録材の体積固有抵抗値が変化するので、調整に利用することができる。
【0025】
また、本発明の電子写真用被記録材は、透明性が高い基材を用いることにより、ヘイズ度1.0〜3.0%の範囲の透明性の高い電子写真用被記録材を容易に製造できるという利点を有する。しかし、用途により、透明性が低い基材を用いて透明性が低い電子写真用被記録材を製造することも可能である。
【0026】
本発明の電子写真用被記録材は、基材フィルムにトナー定着層を設け、必要によりアンカーコート層を介在させるが、目的に応じて、例えば、紫外線吸収層やカール防止のための他の層を設けることができる。また、本発明の電子写真用被記録材には、基材フィルムの少なくとも片面にトナー定着層が設けられるが、フィルムの両面にトナー定着層を設けたものは、例えば、基材として不透明なプラスチックフィルムを用い、両面に印画や印字をすることにより、店舗の天井から吊り下げるPOP広告物などの製作に好適に使用できる。
また、トナー定着層を設ける方法は特に限定されないが、一般的にはトナー定着層を形成するための塗工液を塗布することによって設けることができる。塗布手段には何ら制限はなく、例えば、リバースロールコート、エアナイフコート、グラビアコート、ブレードコート、コンマコート、ワイヤーバーコート等の従来知られた種々の方法を用いることができる。
【0027】
本発明の電子写真用被記録材は、低い帯電量と高い静電減衰率を得やすいという点でも、高い評価が与えられるものである。また、低い帯電量と高い静電減衰率は、トナーの飛散や印画ムラを減少させたり、印画時の搬送性を向上させたりする要因の一つにもなっている。
【実施例】
【0028】
以下、具体例により、本発明を更に詳細に説明する。
なお、塗工液の塗工は、いずれもリバースロールコート法により行った。
【0029】
実施例1
基材として、厚さ100μm の透明ポリエステルフィルム〔東洋紡績社製、商品名:A8300〕を使用した。また、トナー定着層用塗工液として、次の成分類の質量割合の均一混合物を調製して、被記録材の製造に使用した。
【0030】
・酸化第二錫〔山中産業社製、商品名:EPS−12A、固形分濃度12質量%、非晶質、ドープされていない〕 37.00質量部
・ウレタン樹脂〔旭電化工業社製、商品名:アデカボンタイターHUX−401、固形分濃度37質量%〕 19.37質量部
・消泡剤〔サンノプコ社製、商品名:SNデフォーマー480、固形分濃度100質量%〕 0.03質量部
・シリカ〔ウイルバー・エリス社販売、商品名:ガシル200DF(GASIL200DF)、固形分濃度100質量%〕 0.12質量部
・界面活性剤〔日信化学工業社製、商品名:オルフィンEXP−4036、固形分濃度80質量%〕 0.13質量部
・水 108.62質量部
【0031】
上記基材フィルムの一方の面に、上記トナー定着層用塗工液を乾燥後の質量が0.4g/m2となるように塗布し、乾燥処理してトナー定着層が形成された電子写真用被記録材を作製した。得られた被記録材のトナー定着層の表面固有抵抗値は7.8×1011Ω、被記録材の体積固有抵抗値は7.2×1014Ω・cmで、B/A値は、9.2×102であった。なお、被記録材の帯電量は3.45mVで、静電減衰率は89.86%であった。
【0032】
実施例2
基材上に下記の成分類の質量割合の均一混合物からなるアンカーコート層用塗工液を塗工(液塗工量:8g/m2)することにより形成したアンカーコート層上にトナー定着層を形成した以外は、実施例1と全く同様にして電子写真用被記録材を作製した。
・水分散高分子ポリエステル〔東洋紡績社製、商品名:バイロナールMD−1500、固形分濃度30質量%、固形分Tg:77℃〕 25.50質量部
・水 165.75質量部
得られた被記録材のトナー定着層の表面固有抵抗値は1.3×1011Ω、被記録材の体積固有抵抗値は2.1×1015Ω・cmで、B/A値は、1.6×104であった。なお、被記録材の帯電量は3.40mVで、静電減衰率は91.18%であった。
【0033】
実施例3
トナー定着層用塗工液として下記の成分類の質量割合の均一混合物を使用し、乾燥後の質量が0.9g/m2となるように塗布した以外は、実施例1と全く同様にして電子写真用被記録材を作製した。
・酸化第二錫〔山中産業社製、商品名:EPS−12A、固形分濃度12質量%、非晶質、ドープされていない〕 21.25質量部
・ウレタン樹脂〔旭電化工業社製、商品名:アデカボンタイターHUX−401、固形分濃度37質量%〕 19.37質量部
・潤剤:低分子量ポリオレフィン〔三井化学社製、商品名:ケミパールW−310、固形分濃度40質量%、形状:真球状、粒子径(コールターカウンター法):9.5μm、ビカット軟化点:132℃、最低造膜温度:115℃〕 0.30質量部
・水 108.12質量部
得られた被記録材のトナー定着層の表面固有抵抗値は1.1×1013Ω、被記録材の体積固有抵抗値は2.1×1015Ω・cmで、B/A値は、1.9×102であった。なお、被記録材の帯電量は1.85mVで、静電減衰率は84.05%であった。
【0034】
比較例1
上記実施例1のトナー定着層用塗工液に使用されたアデカボンタイターHUX−401に換えて、ウレタン樹脂〔旭電化工業社製、商品名:アデカボンタイターHUX−232、固形分濃度30質量%〕25.50質量部を用いた以外は、実施例1と同様に操作して電子写真用被記録材を作製した。得られた被記録材のトナー定着層表面固有抵抗値は3.9×1013Ω、被記録材の体積固有抵抗値は2.1×1015Ω・cmで、B/A値は、5.4×101であった。また、被記録材の帯電量は5.2mV、静電減衰率は21.15%であった。
【0035】
上記の、表面固有抵抗値、体積固有抵抗値、帯電量、静電減衰率は、次の方法で測定算出したものである。
・ 表面固有抵抗値[Ω]; 測定機器として横河・ヒューレット・パッカード社製の「ハイレジスタンスメータ HP 4339B」を使用し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気条件下に、トナー定着層を設けた面の抵抗値を、JIS K6911に準じて測定した。
・ 体積固有抵抗値[Ω・cm]; 測定機器として横河・ヒューレット・パッカード社製の「ハイレジスタンスメータ HP 4339B」を用い、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気条件下に、横河・ヒューレット・パッカード社製の同心円型電極「16008B(商品名)」(内側電極50mm径、外側電極内径70mm・外径80mm、ガード電極80mm径)に、試験片を設置し、100Vの電圧を印加して、1分後の抵抗値をJIS K6911に準じて測定した。
・ 帯電量[KV]; シシド静電気社製の「STATIC HONESTMETER」を用い、40mm×40mmの試料表面に10KVの荷電を1分間行い、その直後の帯電量A(KV)を測定した。
・ 静電減衰率[%]; 上記帯電の1分後、すなわち荷電を終了してから1分経過後の帯電量B(KV)を測定し、下記の式により、帯電から1分後の減衰率を算出した。
帯電から1分後の減衰率=[(A−B)/A]×100(%)
【0036】
また、上記実施例1及び比較例1で作製した被記録材に関し、ヘイズ度とトナー定着層の接着強度を、次の方法によって測定及び評価した。
・ヘイズ度[%];TOYOSEIKI社製の「DIRECT READING HAZEMETER」にて測定した。
・ トナー定着層の接着強度; トナー定着層上にセロハンテープ(ニチバン社製「CT405A−18」、長さ10cm)を2kgの圧着ロール3往復で貼り付け、45°の角度で逆行する向き(引き剥がし角度135°)に剥離した時の剥がれ具合を下記の基準で評価した。
○… セロハンテープに付着した塗工層の面積が30%以下
Δ… セロハンテープに付着した塗工層の面積が30%超60%以下
×… セロハンテープに付着した塗工層の面積が60%超
【0037】
更に、上記実施例1及び比較例1で作製した被記録材を使用し、市販されているカシオ計算機社製のフルカラーレーザープリンターSPEEDIA N5II、及び純正品トナーを用いて、印画し画像を作成し、画像濃度、トナーの飛散、搬送性を下記の方法により測定及び評価した。画像(1)の画像の内容は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック各色のベタを網点面積率100%(Illustrator 8.0)で作成したものであり、そのモードは、ピーチ1モードである。また、画像(2)の内容は、フルカラー画像で、モードは、同じピーチ1モードである。
【0038】
画像濃度;前記の「画像(1)」を印画し、マクベス濃度計RD−918を用いて反射濃度を測定した。
トナーの飛散; 印画した画像を目視により、下記の基準で評価した。
○… トナーの飛散が非常に少なく、画質良好
△… トナーの飛散が少なく、実用上支障なし
×… トナーの飛散が多く、実用上支障あり
搬送性; 「画像(2)」を10枚連続で印画し、下記の基準で評価した。
○…ジャム、重送なし
×…1枚でもジャム、重送が発生
【0039】
測定されたそれぞれの測定値及び評価結果を下掲表1に示す。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの少なくとも片面に酸化錫を含有するトナー定着層を設けてなる電子写真用被記録材において、上記酸化錫として酸化第二錫を用い、23℃の温度及び50%の相対湿度条件下におけるトナー定着層の表面が、1× 109〜1×1014Ωの範囲内の表面固有抵抗値A(Ω)を有し、これと上記被記録材の23℃の温度及び50%の相対湿度条件下における体積固有抵抗値B(Ω・cm)の割合(B/A)が、1×102 〜1×105の範囲内に調整されてなる電子写真用被記録材。
【請求項2】
上記酸化第二錫が、非晶質酸化第二錫である請求項1に記載の電子写真用被記録材。
【請求項3】
上記表面固有抵抗値Aが1×1010〜1×1013Ωの範囲内にあり、被記録材の体積固有抵抗値Bが1×1013〜1×1016Ω・cmの範囲内にある請求項1又は2に記載の電子写真用被記録材。




【公開番号】特開2006−276841(P2006−276841A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−47089(P2006−47089)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)