説明

電子写真装置用導電性エラストマー部材

【課題】フッ素樹脂によって表面層を形成させつつも電気抵抗値の安定した電子写真装置用導電性エラストマー部材を提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂が用いられてなる表面層の内側に弾性体層を有し、該弾性体層が黒鉛とカーボンブラックとエラストマーとを含有するエラストマー組成物で形成されている電子写真装置用導電性エラストマー部材であって、前記表面層には黒鉛が4質量%以上20質量%以下含有されており、該表面層に含有されている前記黒鉛の平均粒子径が8μm以下であることを特徴としている電子写真装置用導電性エラストマー部材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置用導電性エラストマー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンター、複写機、ファクシミリなどの電子写真装置には、導電性を有するエラストマー組成物が用いられてなる導電性エラストマー部材が備えられている。
該導電性エラストマー部材としては、具体的には、ローラ状、ベルト状、又はシート状の現像部材、帯電部材、及び転写部材などが挙げられ、例えば、表面担持したトナーを帯電させるための導電性エラストマー部材である現像ローラは、芯金の外周に弾性体層が所定の肉厚で備えられており、該弾性体層に導電性を付与すべく、カーボンブラックなどの導電性フィラーを含んだエラストマー組成物で前記弾性体層を形成させることが行われている。
【0003】
斯かる導電性エラストマー部材は、エラストマー組成物に配合されているカーボンブラックなどの導電性フィラーが鎖状の集合体を弾性体層中に形成することなどにより、導電性が発現されているものと考えられている。
しかしながら、斯かる導電性エラストマー部材は、継続して電圧が加えられ続けるとその導電性が徐々に低下するという問題、即ち、その電気抵抗が高くなるという問題を有している。
特に電子写真装置用現像ローラ(以下、単に「現像ローラ」ともいう)のように帯電粒子であるトナーの移動を制御する役割を担っている導電性エラストマー部材においては、弾性体層の電気抵抗が上昇するとトナーの移動を制御しにくくなるため、画像濃度の低下など、画質の悪化を招くおそれを有する。
【0004】
ところで、下記特許文献1に示すように前記現像ローラとしては、前記弾性体層の外周に、さらに表面層を有するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−223046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記現像ローラの表面層は、耐摩耗性の向上を図って当該現像ローラの寿命を長期化させることや、表面の離型性を向上させてクリーニング性を良好にし、不要なトナーの付着による画質の悪化を防ぐことなどを目的として表面自由エネルギーの低いフッ素樹脂で形成されたりしている。
しかし、一般的な樹脂では導電性フィラーの含有量を調整するなどして求める電気特性が比較的容易に得られるのに対して、フッ素樹脂の場合は、他の一般的な樹脂に比べて導電性の制御が難しいため、フッ素樹脂で表面層を形成させると連続課電による電気特性の変化がより顕著に発現してしまうおそれを有する。
【0007】
なお、前記現像ローラにおいては、芯金から弾性体層、表面層を通じて表面に担持させたトナーを所望の帯電状態にさせる必要があることから、表面層の電気特性が安定していないと、いかに弾性体層の電気特性を安定なものにしたとしても現像ローラとして求められる性能が発揮されないことになる。
【0008】
このことからフッ素樹脂によって表面層を形成させることは、離型性の観点からは画質の悪化を防止し得るものの電気的な特性面からはむしろ画質の悪化を招いてしまうおそれを有する。
なお、このような問題は現像ローラのみならず、他の電子写真装置用導電性エラストマー部材においても共通する問題ではある。
そして、フッ素樹脂によって表面層を形成させる際にこのような問題が生じることについては、これまで殆ど着目されていないためにその解決策もこれまで殆ど検討がされていない状況である。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、フッ素樹脂が用いられてなる表面層を有しつつも電気特性の安定した電子写真装置用導電性エラストマー部材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、カーボンブラックなど従来広く用いられている導電性フィラーの一部、又は、全部に代えて所定量の黒鉛をエラストマーやフッ素樹脂に含有させることで電圧の印加に伴う電気特性の変化を抑制させうることを見出し本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
即ち、上記課題を解決するための電子写真装置用導電性エラストマー部材に係る本発明は、フッ素樹脂が用いられてなる表面層の内側に弾性体層を有し、該弾性体層が黒鉛とカーボンブラックとエラストマーとを含有するエラストマー組成物で形成されている電子写真装置用導電性エラストマー部材であって、前記表面層には黒鉛が4質量%以上20質量%以下含有されており、該表面層に含有されている前記黒鉛の平均粒子径が8μm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性体層、及び、表面層の両方に黒鉛が含有され、しかも、フッ素樹脂が用いられてなる表面層には、所定の大きさの黒鉛が所定の割合で含有されることから該表面層と前記弾性体層とを通しての電気特性が、課電時間の経過に伴って変化することを抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一態様の電子写真装置用導電性エラストマー部材(現像ローラ)を示す概略斜視図。
【図2】実施例の電子写真装置用導電性エラストマー部材(ローラ)の電気特性を示すグラフ。
【図3】実施例の電子写真装置用導電性エラストマー部材(ローラ)の電気特性を示すグラフ。
【図4】比較例の電子写真装置用導電性エラストマー部材(ローラ)の電気特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について、電子写真装置用導電性エラストマー部材として現像ローラを例示しつつ添付図面に基づき説明する。
【0015】
図1は、現像ローラを示す斜視図であり、この斜視図にも示されているように、該現像ローラ1は、軸周りに回転可能な状態で電子写真装置に備えられるべく中心部に金属の丸棒からなる芯金2を備えている。
本実施形態における前記現像ローラ1は、該芯金2の外周に略一定の厚みで備えられた弾性体層3と、該弾性体層3の表面を覆う表面層4とを有している。
なお、前記弾性体層3は、当該現像ローラ1が他の部材との接触によって所望の弾性変形を示すように設けられたものであり、前記表面層4は、表面の耐摩耗性、並びに離型性を向上させるべく現像ローラ1の最表面側に設けられたものである。
【0016】
この弾性体層3の厚みや表面層4の厚みについては、本実施形態の現像ローラ1がどのような電子写真装置に組み込まれるかによっても異なるが、通常、前記弾性体層3の厚みは、1mm〜10mmとされ、前記表面層4は、1μm〜100μmの厚みとされる。
【0017】
本実施形態の現像ローラに必要とされる導電性は、特に限定されるものではないが、通常、103〜106Ω程度の電気抵抗値となるように形成されることが求められており、硬度は、通常、30〜60°程度であることが好ましく、30〜50°であることが特に好ましい。
なお、この現像ローラの電気抵抗値については、実施例記載の方法により求めることができる。
【0018】
本実施形態の現像ローラ1においては、耐摩耗性や離型性(表面のクリーニング性)などの観点から前記表面層4をフッ素樹脂で形成させることが重要である。
しかも、電気特性の経時的な変化を抑制させる上において、前記表面層4には、黒鉛を4質量%以上20質量%以下含有させることが重要である。
特には、5質量%以上10質量%以下のいずれかの割合となるように黒鉛を前記表面層4に含有させることが好ましい。
【0019】
なお、カーボンブラックが、通常、1μm以下(数十nm)の大きさを有しているのに対して黒鉛は、石墨(グラファイト)などとも呼ばれ、通常、1μmを超える大きさを有しており、粒子サイズがカーボンブラックよりも1オーダー以上大きなもので、しかも、カーボンブラックに比べて結晶構造を発達させている。
そのため、黒鉛は、電子状態が半金属的であり、通常、粒子自体の導電性がカーボンブラックに比べて優れたものとなっている。
【0020】
また、カーボンブラックによる導電性の発現は、ストラクチャーの形成具合によって大きく影響を受けるために、例えば、カーボンブラックのみで表面層に対して導電性を付与した場合には、カーボンブラックの含有量と電気特性との間に相間性が認められ難く、ある含有量を境にして急激に電気特性を変化させることになる。
一方で黒鉛は、粒子自体の導電性が優れているために含有量による電気特性の調整がカーボンブラックに比べて容易である。
【0021】
さらに、導電性フィラーとしてカーボンブラックのみが採用されている現像ローラに電圧を継続的に印加すると、表面層や弾性体層中において形成されているカーボンブラックのストラクチャーにおけるトンネル効果などに変化を生じ、しかも、このような変化が電圧を印加してから比較的短い期間で生じることから現像ローラの電気特性がすぐに変化してしまうおそれを有する。
一方で、黒鉛を採用した場合は、このような影響を受け難いため、この現像ローラ1に対する継続的な課電を実施しても、表面層4や弾性体層3の電気特性に変化を生じさせにくい。
【0022】
なお、黒鉛の大きさが過度に巨大である場合には、現像ローラ1の表面が粗い状態になりやすいため、表面の耐摩耗性やクリーニングブレードなどによるクリーニング性能に問題を生じるおそれを有し、表面層4の形成にフッ素樹脂を採用したメリットが失われるおそれを有する。
したがって、表面層4の形成にフッ素樹脂を用いる効果が損なわれることを抑制しつつ電気特性の安定化を図る上においては、表面層4に含有させる黒鉛の平均粒子径が所定以下であることが重要であり、具体的には黒鉛の平均粒子径が8μm以下であることが重要な要件となる。
さらに、前記表面層4に含有させる黒鉛は、その平均粒子径が3〜5μmであることが好ましい。
【0023】
なお、黒鉛の大きさなどについて用いる“平均粒子径”との用語は、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定器によるD50値を意図している。
また、カーボンブラックの粒子径については、通常、電子顕微鏡による直接観察によって求められ、複数個の粒子の大きさを測定した測定値の算術平均値で表される。
【0024】
この表面層4の形成に用いる黒鉛は、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれであってもよいが、入手しやすく品質がより安定しているという点で人造黒鉛が好ましい。
【0025】
また、前記表面層4に対して導電性を付与するための成分として黒鉛以外の導電性フィラーを含有させても良く、特には、カーボンブラックを黒鉛とともに併用することが好ましい。
【0026】
このカーボンブラックとしては、高温ガス中で油やガスを不完全燃焼させるファーネス法で製造されるファーネスブラック、アセチレンなどの炭化水素を熱分解させて製造されるアセチレンブラックなどの他、チャンネルブラックなどを採用することができる。
なお、ファーネスブラックを採用する場合には、一般呼称で分類されるFEF系、ISAF系、HAF系等のカーボンブラックが挙げられる。
カーボンブラックを表面層4に含有させる場合には、0質量%を超え8質量%以下の範囲の内のいずれかの割合とされることが好ましい。
【0027】
これらの黒鉛やカーボンブラックを含有させて表面層4を形成させるための前記フッ素樹脂としては、黒鉛やカーボンブラックを分散させやすいもの、並びに、表面層を所望の膜厚に調整しやすいものが好適である。
このようなことからフッ素樹脂、又はオリゴマーなどのフッ素樹脂の前駆体を溶剤に分散させたワニスタイプのもので、熱や化学的な反応によって硬化させることのできるものを表面層4の形成材料として採用することが好ましい。
このようなワニスタイプで利用されているフッ素樹脂としては、四フッ化エチレン/ビニルモノマーの共重合体で、イソシアネートやメラミン系硬化剤により硬化が可能なものを挙げることができ、具体的には、ダイキン社から商品名「ゼッフルGK500」、「ゼッフルGK510」、「ゼッフルGK550」、「ゼッフルGK570」、「ゼッフルGK580」などとして市販のものを採用することができる。
【0028】
なお、表面層4をこのようにして形成させることで、表面層自体の電気的な安定性は確保されるものの表面層4の内側に設けられている弾性体層3も電気的な安定性が確保されていないと現像ローラ1としての特性が損なわれることになる。
そのため、この弾性体層3も黒鉛とカーボンブラックとエラストマーとを含有するエラストマー組成物で形成されていることが前記現像ローラ1の電気的な安定性を確保する上で重要な要件となる。
【0029】
この弾性体層3を形成させるためのエラストマーとしては、例えば、熱可塑性エラストマーなども採用が可能ではあるが、熱的、化学的な安定性を有する点において、熱硬化型、反応硬化型のエラストマーが好ましい。
この好ましいエラストマーとしては、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴム(NBR、NIR等)、シリコンゴム、エピロクロルヒドリンゴム、ポリウレタン等が挙げられる。
【0030】
なかでも、前記エラストマーとしては、ポリウレタンを採用することが好ましい。
前記エラストマーとして、ポリウレタンを採用することにより、本実施形態の現像ローラ1を比較的表面硬度が低い状態にさせ得るとともに永久歪みを生じにくいものとすることができる。
【0031】
前記ポリウレタンは、通常、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させてなるものである。
【0032】
前記ポリオールとは、分子中に複数の水酸基を有する化合物である。
前記ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリアクリル系ポリオール、ポリエーテルエステル系ポリオール等が挙げられる。
これらポリオールは、1種が単独で、又は2種以上が組み合わされて用いられ得る。
【0033】
前記ポリオールの水酸基価(OHV)としては、特に限定されるものではないが、適度な硬度を有する硬化物を形成させ得る点において、50〜160が好ましい。
なお、前記水酸基価は、JIS K0070に準じた方法により求められる値である。
【0034】
前記ポリオールの平均官能基数としては、特に限定されるものではないが、適度な硬度を有するポリウレタンを構成させ得る点において、2〜3が好ましい。
なお、前記平均官能基数とは、ポリオールの製造に用いられる開始剤分子の活性水素基の数によって決定される理論的官能基数を意味する。
ただし、重合時の副反応等による影響で実際の官能基数とは異なり得る。
【0035】
前記ポリエステル系ポリオールとしては、分子中に2以上のエステル結合及び2以上の水酸基を有する化合物が例示できる。
具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、その他の低分子ポリオールの1種または2種以上と、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、その他の低分子カルボン酸やオリゴマー酸の1種または2種以上との縮合重合体、又は、プロピオンラクトン、バレローラクトン、カプローラクトンのような開環重合体などが挙げられる。
【0036】
前記ポリオレフィン系ポリオールとしては、分子中に炭素数4以上のオレフィン及び2以上の水酸基を有する化合物が例示できる。
具体的には、例えば、ブタジエン、イソプレンなどのジエン化合物と必要によりスチレン、アクリロニトリルなどを、例えば、金属リチウム、金属カリウム、金属ナトリウムなどのアニオン重合触媒の存在下で重合させた後、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加重合させて得られるポリオール、または前記ジエン化合物を、例えば過酸化水素などの水酸基を有するラジカル開始剤によりラジカル重合させて得られるポリオール、又は、これらのものを水素添加したもの等が挙げられる。
【0037】
前記ポリエーテル系ポリオールとしては、分子中に2以上のエーテル結合及び2以上の水酸基を有する化合物が例示できる。
具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどに、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、又はブチレンオキサイド、又は、それらの混合物などのアルキレンオキサイドをアルカリ触媒などの存在下で付加重合させたポリアルキレンポリオール、又はテトラヒドロフランをカチオン触媒下で重合させたポリテトラメチレングリコール、又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0038】
前記ポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオールのポリカーボネートポリオール、1,6−ヘキサンジオールと1,4−ブタンジオールのポリカーボネートポリオール、1,6−ヘキサンジオールと1,5−ペンタンジオールのポリカーボネートポリオール、1,6−ヘキサンジオールと3−メチル−1,5−ペンタンジオールのポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0039】
前記ポリアクリル系ポリオールとしては、アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物もしくは、アクリル酸誘導体モノマー及びその他のモノマーを共重合させて得られる高分子化合物のうち、末端にヒドロキシル基を持つものが挙げられる。
なかでもエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等のアクリル酸誘導体モノマーを単独で重合させたものや、スチレン等のその他のモノマーを加えて共重合させたアクリルポリオールが好ましく用いられる。
【0040】
前記ポリエーテルエステル系ポリオールとしては、分子中に2以上のエーテル結合、2以上のエステル結合、及び2以上の水酸基を有する化合物が例示できる。
具体的には、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ダイマー酸、その他の低分子カルボン酸やオリゴマー酸の1種または2種以上と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、その他の低分子ポリオールの1種または2種以上とを従来公知の方法で重縮合させたものが挙げられる。
具体的には、例えば、アジピン酸とジエチレングリコールとトリメチロールプロパンとの重縮合物などが挙げられる。
【0041】
前記ポリエーテルエステル系ポリオールとしては、適度な硬度を有する弾性体層3を形成させ得る点において、前記水酸基価(OHV)が50〜160で、前記平均官能基数が2〜3であるものが好ましい。
詳しくは、前記ポリエーテルエステル系ポリオールとしては、前記水酸基価(OHV)が57〜64であり、前記平均官能基数が2〜3であるポリエーテルエステル系ポリオールと、前記水酸基価(OHV)が150〜160であり、前記平均官能基数が2〜3であるポリエーテルエステル系ポリオールとを混合して前記弾性体層3の形成に用いることがより好ましい。
前記水酸基価(OHV)が150〜160で、前記平均官能基数が2〜3であるポリエーテルエステル系ポリオールは、水酸基価(OHV)が57〜64で、平均官能基数が2〜3のポリエーテルエステル系ポリオールとの混合物の粘度を低下させる機能を有し、弾性体層3を形成させる際における作業性の改善効果を期待することができる。
より具体的には、上記ポリエーテルエステル系ポリオールは、アジピン酸とジエチレングリコールとトリメチロールプロパンとの重縮合物であることが好ましい。
【0042】
なお、前記ポリエーテルエステル系ポリオール混合物において、前記水酸基価(OHV)が150〜160であり、前記平均官能基数が2〜3であるポリエーテルエステル系ポリオールが、前記ポリオール中に10〜30質量%含まれていることが好ましい。
前記水酸基価(OHV)が150〜160で、前記平均官能基数が2〜3であるポリエーテルエステル系ポリオールが、全ポリオール中に10〜30質量%含まれていることにより、電子写真装置用の現像ローラに求められる適度な硬度を弾性体層に付与させうる。
【0043】
前記ポリイソシアネートとは、分子中に複数のイソシアネート基を有する化合物である。
前記ポリイソシアネートとしては、特に限定されないが、具体的には、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4'−MDI)、2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4'−MDI)、1,4−フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)などの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアナートメチル(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの脂肪族ポリイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、H6XDI(水添XDI)、H12MDI(水添MDI)などの脂環式ポリイソシアネート、上記の各ポリイソシアネートのカルボジイミド変性ポリイソシアネート、又は、これらのイソシアヌレート変性ポリイソシアネートなどが挙げられる。
なお、これらのポリイソシアネートは、1種が単独で、又は2種以上が組み合わされて用いられ、好ましくは、2,4−TDIと2,6−TDIとの混合物(2,4−TDI/2,6−TDI=80/20質量比)が用いられ得る。
【0044】
なお、前記弾性体層3は、必ずしもソリッド(非発泡)な状態で形成される必要はなく、エラストマー組成物からなる発泡体で形成させてもよい。
したがって、発泡ポリウレタンによって弾性体層を形成させることもできる。
【0045】
なお、前記弾性体層3にはカーボンブラックを1質量%以上4質量%以下の範囲の内のいずれかの割合で含有させることが好ましい。
前記カーボンブラックとしては、前記表面層4において述べたものと同様のものを弾性体層3を形成するためのエラストマー樹脂組成物の成分として採用することができる。
すなわち、弾性体層3には、ファーネスブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどを含有させることができる。
また、ファーネスブラックであれば、FEF系、ISAF系、HAF系等のカーボンブラックを用い得る。
【0046】
前記カーボンブラックを、前記エラストマー組成物に1〜4質量%含ませることが好ましいのは、前記カーボンブラックを前記エラストマー組成物に1質量%以上含有させることで弾性体層3に適度な導電性を付与することができるためである。
なお、前記黒鉛が、当該カーボンブラックに比べて表面積が小さく黒鉛だけでは前記エラストマー組成物中で密な鎖状の集合体(ストラクチャー)を形成しにくいのに対してカーボンブラックを併用することによってストラクチャーの形成がカーボンブラックで補完され前記弾性体層3に適度な導電性が発現されることになる。
従って、カーボンブラックと黒鉛との併用によって、鎖状の集合体の連続性をより確実なものとし、継続的に電圧が印加されても電荷の蓄積を起こりにくくさせることができ、その結果、電気抵抗値が変化しにくいという性能を発現させ得る。
【0047】
また、前記カーボンブラックは、補強材としても機能するため、前記エラストマー組成物に1質量%以上含有させることで当該エラストマー組成物からなる弾性体層3に適度な硬度を付与し得る。
なお、前記カーボンブラックを過度に含有させても、ストラクチャーの補完効果を一定以上向上させることが難しいばかりでなくエラストマー組成物への分散が不均一になったり、エラストマー組成物の流動性が極端に失われて弾性体層の形成が困難になるおそれを有する。
例えば、前記ポリオールに多量のカーボンブラックを含有させた場合には、当該ポリオールとポリイソシアネートとの混合液の粘度が高くなってしまい注型によって弾性体層を形成させる場合などにおける作業性を低下させたり、前記カーボンブラックによる凝集塊がポリオール中に形成されてしまったりするおそれを有する。
このような点において、カーボンブラックは4質量%以下の割合で弾性体層に含有させることが好ましい。
【0048】
前記カーボンブラックは、DBP吸油量が特に限定されるものではないが、71〜168cm3/100gであることが好ましい。
前記カーボンブラックのDBP吸油量が71cm3/100g以上であることにより、現像ローラ1に継続的な課電がされても弾性体層3の電気抵抗値をより変化させにくくなるという利点があり、DBP吸油量が168cm3/100g以下であることにより、硬化前のポリウレタンに良好なる流動性を与え、前記弾性体層の形成を容易にさせ得る。
【0049】
なお、前記DBP吸油量とは、一定質量のカーボンブラック中の空隙容積を液体で置換し、その容量を指標とするものである。
具体的には、カーボンブラック100gあたりに包含させ得る油の量(cm3)をいい、ASTM D3493−85aに準拠した方法で測定した値である。
なお、前記DBP吸油量は、前記カーボンブラックの一次粒子の凝集体の三次元状態を表す指標となり得る。
即ち、カーボンブラックは、前記DBP吸油量の多い方が、前記エラストマー組成物中で鎖状の集合体(ストラクチャー)を形成しやすいと考えられる。従って、前記DBP吸油量の多い方が、より少ない含有量で導電性を発現させ、連続課電による電気抵抗値の変化をより一層抑制させ得る。
【0050】
この弾性体層3の形成に用いる前記黒鉛は、前記表面層4において述べたようなものを用いることができる。
なお、前記エラストマー組成物における黒鉛の含有量は、3質量%以上6質量%以下とすることが好ましい。
前記黒鉛を前記エラストマー組成物に3質量%以上含ませることにより、現像ローラ1に連続的な課電がされても電気抵抗値をより変化させにくくなる利点があり、6質量%以下含ませることにより、エラストマー組成物の硬度をより適度なものさせ得るという利点がある。
【0051】
また、弾性体層3の形成に用いる前記黒鉛も、表面層2の形成において用いる黒鉛と同様に、平均粒子径が3〜5μmであることが好ましい。
前記黒鉛の平均粒子径を3μm以上とすることにより、硬化前のポリウレタン組成物に良好な流動性を付与させやすく、弾性体層3の形成をより容易なものにさせ得るという利点があり、5μm以下とすることにより、硬化後のポリウレタン組成物(ポリウレタン弾性体)の硬度をより適度なものとさせ得る。
なお、本実施形態においては、弾性体層3を形成させるエラストマー組成物として、ポリウレタン組成物を例示しているが、弾性体層3は、必ずしもポリウレタン弾性体によって形成させなくてもよい。
【0052】
例えば、室温でゴム状弾性を有する高分子物質で、外力を与えると容易に変化するが、外力を除くとただちに略原形に回復するような弾性のある高分子物質であれば、特にエラストマーの種類を限定するものではない。
【0053】
また、前記表面層4や前記弾性体層3を形成させるための組成物には、さらに、フィラー(充填剤)などを含有させても良い。
前記フィラーとしては、例えば、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどの無機フィラーや、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)微粒子のような有機フィラーが挙げられる。
このようなフィラーを、前記弾性体層3を形成させるためのエラストマー組成物に含有させる場合であれば、前記カーボンブラック及び前記黒鉛といった導電性フィラーとの合計含有量が前記エラストマー組成物において10質量%以下となるように含有させることが好ましい。
前記エラストマー組成物における前記フィラーの合計量を10質量%以下とすることにより、前記エラストマー組成物の硬化前の加工性を良好なものとさせ得るとともに硬化後の硬度を現像ローラ1にとって適度なものとさせ得る。
【0054】
また、前記表面層や前記弾性体層には、フィラー以外の添加剤として、例えば、ワックス、加水分解防止剤、シランカップリング剤、界面活性剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含有させ得る。
ここでは具体的な化合物名まで詳述しないが、前記添加剤としては、ゴム、プラスチックスなどに用いられる一般的なものを適宜採用することができ、それらの配合量も特に制限されず、任意に選択されうる。
【0055】
本実施形態の現像ローラ1は次のようにして製造することができる。
具体的には、エラストマーとしてポリウレタンを採用した際には、次のようにして製造することができる。
【0056】
例えば、作製する弾性体層3の外径よりも僅かに径大な円柱状のキャビティを有する金型の中心部に芯金2をセットするとともに上述した前記ポリオールと前記ポリイソシアネートと前記カーボンブラックと前記黒鉛とを準備し、例えば、ミキサーやビーズミル等を用いてこれらを混練し、混練物を前記金型に流し込み、加熱により型内架橋した後、脱型し、さらに加熱してポリウレタンの後架橋を実施し、表面研磨による外径調整を行って芯金周りに弾性体層3までが設けられた半製品を作製する。
【0057】
次いで、例えば、四フッ化エチレン/ビニルモノマーの共重合体が溶剤中に分散されたフッ素樹脂ワニスと、前記溶剤と相溶性の高い溶剤に黒鉛とカーボンブラックとを分散させた分散液とを用意し、これらを混合することによって、フッ素樹脂、黒鉛、及び、カーボンブラックが固液分として所定の比率となるように混合液を調整し、この混合液にイソシアネートやメラミン系硬化剤を添加して表面層を形成させるためのフッ素樹脂コーティング液を作製する。
【0058】
そして、前記半製品の表面に前記フッ素樹脂コーティング液を塗布、乾燥し、且つ、塗膜を硬化させて表面層4を形成することによって現像ローラを作製することができる。
【0059】
なお、このようにして得られる現像ローラは、定電流制御で電圧を印加し続けた場合の電気抵抗値の上昇を抑制させ得るように形成されていることが好ましく、例えば、100μAの電流値制御で電圧を印加し続けた際に前記電気抵抗値が初期値の5倍に到達する時間が100時間以上となるように形成されていることが好ましい。
さらには、200時間後の電圧が初期電圧の−30〜30%となるように形成されていることが好ましい。
【0060】
現像ローラが、このように電気的に安定した状態となることによって、当該現像ローラを使用した電子写真装置の印刷品質も安定することになり、良好なる印刷状態を長期に渡って維持させることができる。
なお、本発明の電子写真装置用導電性エラストマー部材が用いられる電子写真装置としては、具体的には、例えばレーザービームプリンターなどのプリンター、複写機、ファクシミリなどが挙げられる。
【0061】
また、本発明の電子写真装置用導電性エラストマー部材は、トナーを感光体に付着させるための現像ローラなどの部材(現像部材)に限定されるものではなく、光の照射により導電性が変化する感光体を帯電させるための帯電ローラ等の帯電部材、前記感光体に付着したトナーを転写媒体へと転写させる転写ローラ等の転写部材が挙げられる。
また、その形状としては、例えば、ローラ状、ベルト状、シート状などが例示される。
【実施例】
【0062】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<導電性ローラの製造>
電子写真装置用導電性エラストマー部材として、下記のようなローラを製造した。
【0064】
(弾性体層)
弾性体層の形成には、下記表1に示す2種類の配合を用いた。

【表1】

【0065】
(表面層)
表面層の形成には、下記表2に示す配合物を用いた。
【表2】

【0066】
(ローラの作製:実施例1〜9)
直径6mmの芯金の周りに肉厚3mm、軸方向における長さが220cmとなるように上記表1の配合Aによって弾性体層を形成させた。
この弾性体層の表面に上記表2の配合1〜9のフッ素樹脂コーティング液を塗布し、この塗膜を乾燥硬化させることによって厚み30μmの表面層を形成させ、実施例1〜9のローラを作製した。
【0067】
(電気抵抗値)
このローラ(電子写真装置用導電性エラストマー部材)をSUS板上に横置し、該ローラの両端にそれぞれ4.9Nの荷重を掛けて該ローラの表面をSUS板に押付けた状態とし、高圧電源装置(トレック社製、型名「610C」)の接地極を前記SUS板に接続するとともに高圧極を芯金に接続し、接地極に流れる電流が100μAとなるように定電流制御で直流電圧をローラに印加した。
そして、この高圧電源装置が発生させている電圧値の時間経過に伴う変化をモニターした。
なお、ローラの抵抗値は、観測された電圧値を電流値(100μA)で除して求めた。
また、電気抵抗値の測定においては、通電開始時における初期抵抗値(R0)、通電50時間経過後の抵抗値(R50)、通電100時間経過後の抵抗値(R100)を求めるとともに、通電開始時に対する通電50時間経過時の抵抗率変化(R50/R0)、通電開始時に対する通電100時間経過時の抵抗率変化(R100/R0)の値を算出した。
【0068】
(表面粗さ)
また、表面層の表面粗さ(十点平均表面粗さ:RzJIS)を測定した結果を、併せて表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
(比較例1〜5)
表面層の形成に、下記表4に示す配合10〜12を用いたこと、一部のローラにおいて黒鉛を含んでいない配合Bで弾性体層を形成させたこと以外は、実施例と同様にローラを作製し、同様の評価を実施した。
結果を、下記表5に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
(比較例6、7)
表面層の形成に、粗大な黒鉛を含んだ下記表6に示す配合13、14を用いたこと以外は、実施例と同様にローラを作製し、同様の評価を実施した。
結果を、下記表7に示す。
【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

【0076】
この実施例や比較例のローラに対して電圧の印加時間(通電時間)の経過とともに抵抗値がどのように変化したかを観察した結果を図2〜4に示す。
【0077】
これらの図からも、本発明によれば電気抵抗値の安定した電子写真装置用導電性エラストマー部材が提供され得ることがわかる。
【符号の説明】
【0078】
1:現像ローラ(電子写真装置用導電性エラストマー部材)、2:芯金、3:弾性体層、4:表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂が用いられてなる表面層の内側に弾性体層を有し、該弾性体層が黒鉛とカーボンブラックとエラストマーとを含有するエラストマー組成物で形成されている電子写真装置用導電性エラストマー部材であって、
前記表面層には黒鉛が4質量%以上20質量%以下含有されており、該表面層に含有されている前記黒鉛の平均粒子径が8μm以下であることを特徴とする電子写真装置用導電性エラストマー部材。
【請求項2】
前記表面層には、さらにカーボンブラックが0質量%を超え8質量%以下含有されている請求項1記載の電子写真装置用導電性エラストマー部材。
【請求項3】
前記表面層の黒鉛含有量が5質量%以上10質量%以下である請求項1又は2に記載の電子写真装置用導電性エラストマー部材。
【請求項4】
前記エラストマー組成物には、黒鉛が3質量%以上6質量%以下含まれている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子写真装置用導電性エラストマー部材。
【請求項5】
前記エラストマーがポリウレタンである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電子写真装置用導電性エラストマー部材。
【請求項6】
電子写真装置用現像ローラである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子写真装置用導電性エラストマー部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−108303(P2012−108303A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256889(P2010−256889)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】