説明

電子写真装置用導電性弾性体部材

【課題】低硬度でありながら圧縮永久歪みの発生を抑制することができ、しかも、電子写真装置における画像欠陥の発生を抑制することができ、また、導電性充填剤を含有させた場合でも、電気抵抗のばらつきを改善し、低硬度を維持でき、未加硫状態において粘度上昇を抑制し、加工性を向上させることができる電子写真用導電性部材や、その製造方法を得ることにある。
【解決手段】エラストマーを含むマトリックス相と放射線架橋により得られたゴム粒子を含むドメイン相とからなる導電性弾性体を含み、ゴム粒子が50nm以上500nm以下の平均粒子径を有し、表面近傍に固着防止剤を含有することが好ましく、マトリックス相が導電性充填剤を含有し、導電性弾性体が表面に高離型化層を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置に用いられる現像部材、帯電部材、転写部材等に用いるローラー、ブレード、ブラシ、ベルト、シート、チップなどの電子写真装置用導電性弾性体部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子写真法としては種々の方法が知られているが、一般に、電子写真装置においては、光導電性物質を用いた感光ドラムなどの被帯電体(感光体)上に電気的潜像を形成し(帯電・露光工程)、ついで該潜像に対してトナーを用いて現像を行い可視像とし(現像工程)、必要に応じて紙等の転写材にトナーを転写し(転写工程)、その後、転写材上のトナーを熱・圧力等により定着させ(定着工程)、画像を形成している。また、転写材上に転写されずに被帯電体上に残ったトナー粒子を種々の手段によって被帯電体上から除去する(クリーニング工程)工程を主工程として画像の形成を行なうものが知られている。
【0003】
このような電子写真装置において、潜像の形成や、トナーの移動を伴う帯電、現像、転写等の工程で、ローラー、ブレード、ブラシ、ベルト、フィルム、シート及びチップ等の種々の導電性部材が被帯電体表面に対向(接触又は近接)して使用されている。
【0004】
特に、被帯電体に接触して使用する電子写真装置用導電性部材は、適度な低硬度と低圧縮歪みを満たす弾性体であることが好ましい。電子写真装置用導電性弾性体部材の硬度が高いと被帯電体が削れる、また、トナーや外添剤によって導電性弾性体部材が汚れ、被帯電体と導電性弾性体部材が従動せずスティックスリップし、被帯電体と導電性弾性体部材の間で放電が生ずるための適切なニップが取れない等の弊害が起こり、これらが原因となって画像欠陥が生じる。また、導電性弾性体部材の圧縮永久歪みが大きいと、電子写真装置の休止または停止時間が長期になる場合、導電性弾性体部材の被帯電体との圧接部分の変形が復元しなくなり、その「へこみ」のために画像欠陥が生じる。
【0005】
また、電子写真装置用導電性弾性体部材として好適に用いるためには、104〜1011Ωcm程度の半導電領域の電気抵抗が必要である。導電性ゴムの導電性発現の機構としては、イオン導電機構と電子導電機構の二つに大別される。そのうちイオン導電機構による導電性ゴムは、ラウリルトリメチルアンモニウムなどの陽イオン界面活性剤、脂肪族スルホン酸塩などの陰イオン界面活性剤、各種ベタイン等の両性イオン界面活性剤、高級アルコールエチレンオキサイドなどの非イオン性帯電防止剤、金属塩の帯電防止剤等のイオン導電剤を分散させて得られる。特に、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどの極性ゴムに適用することにより低電気抵抗化を図ることができる。しかし、イオン導電機構による導電性ゴムは、環境依存性が大きく、106Ωcm以下の低抵抗化する技術が困難であり、イオンの移行による導電性の発現という機構上の問題でブリード・ブルームを起こしやすい。これに対し電子導電機構による導電性ゴムは、ゴム中に、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、金属微粉末、金属酸化物等の導電性充填剤を分散させ、複合することにより得られる。電子導電機構による導電性ゴムは、イオン導電性機構による導電性ゴムに比べ、106Ωcm以下に低抵抗化するのが容易である、温湿度依存性が小さい、安価である、ブリードやブルームが少ないなどの長所がある。しかし、分散複合系材料であるために、充填量だけではなく分散状態によっても物理的性質が大きく変化する。導電性についても、導電性充填剤の連なりによりできる導電チャンネルにより発現するので、分散状態によって大きく変化する。そのため、一つの部材内に限らず生産ロット毎の電気抵抗のばらつきが大きく、その制御が困難であることが課題となっている。また、所望の導電性を得るためは、一定量以上の導電性充填剤を添加する必要があり、電子写真装置用導電性弾性体部材として好ましい硬度以上の高硬度となってしまう傾向がある。
【0006】
このような電子導電機構による導電性ゴムを用いた電子写真装置用導電性弾性体部材において、半導電領域の電気抵抗にあって均一な電気抵抗を有し、適度な低硬度を有するものを得るために種々の工夫がされている。その一つの方法として、導電性充填剤との親和性の異なる数種のゴムをブレンドして、導電性充填剤を導電性充填剤と親和性の高いゴム相に偏在させたドメイン構造(海島構造)を形成することが行われている。この方法では、導電性充填剤がブレンドした複数種のゴム相のうち、1つのゴム相に多く偏在することで、導電性充填剤の充填量が少量でも半導電領域の電気抵抗が得られ、なおかつ充填量が少量で済むので低硬度の電子写真装置用導電性弾性体部材が得られる(特許文献1)。しかし、この方法の場合には、導電性粒子が偏在するようコントロールするのが難しい。さらに、ブレンドした複数種のゴム相のうち、1つのゴム相に添加した総ての導電性充填剤を偏在させることは、実質的に不可能である。
【0007】
また、半導電領域の電気抵抗にあって均一な電気抵抗を有し、適度な低硬度である電子写真装置用導電性弾性体部材を得る他の方法として、あらかじめ架橋したゴム組成物を粉砕し、そのゴム粒子をドメイン相とした、ドメイン構造を形成する方法がある(特許文献2)。この場合には、ドメイン相もしくはマトリックス相のどちらか一方に総ての導電性充填剤を偏在させることができる。しかし、架橋したゴム粒子を含有するために未加硫混合物の粘度が高くなり加工性が悪く、粉砕してゴム粒子を得る工程が必要であり、製造工程数が多くなり、かつゴム粒子の粒子径のばらつきが大きく、粗大粒子が原因で画像欠陥を引き起こすこともある。
【特許文献1】特開平11−45013号公報
【特許文献2】特許第3593402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、硬度が高いことや圧縮永久歪みが大きいことに起因する、電子写真装置における画像欠陥の発生を抑制することができ、また、導電性充填剤を含有する組成物に特有な電気抵抗のばらつきに起因する電子写真装置における画像欠陥の発生を抑制することができ、架橋ゴム粒子を含有する組成物に特有な未加硫状態における高粘度化を低減することで、加工性を向上させることができる電子写真用導電性部材や、その製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは、エラストマーを含むマトリックス相に、ドメイン相として硬度が低い放射線架橋により得られた微細なゴム粒子を含有させることにより、エラストマーが、高硬度の原因となる硬度が高い充填剤を不要とするため、低硬度でありながら圧縮永久歪みの発生を抑制することができ、しかも、粗大粒子が原因で生じる電子写真装置における画像欠陥の発生を抑制することができ、ドメイン相をマトリックス相に均一に存在させることができ、電気抵抗のばらつきを抑制し、かつ、電子写真装置の導電性弾性体部材として適度な電気抵抗を有するものとできることの知見を得た。また、マトリックス相にのみ導電性充填剤を均一に含有させることができ、電気抵抗のばらつきを改善することができ、導電性物質を多量に含有させ電気抵抗を低くした場合であっても、低硬度を維持できることの知見を得た。更に、ゴム粒子が表面近傍に固着防止剤を含有することにより、微細な架橋ゴム粒子を混合した未加硫状態におけるゴム組成物に特有である粘度上昇を抑制することができ、加工性を向上させることができることを見い出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、エラストマーを含むマトリックス相と、放射線架橋により得られたゴム粒子を含むドメイン相とからなる導電性弾性体を含むことを特徴とする電子写真装置用導電性弾性体部材に関する。
【0011】
また、本発明は、放射線架橋により得られたゴム粒子と導電性充填剤とエラストマーとを混合して混合物を得て、この混合物を硬化してゴム粒子からなるドメイン相とエラストマーのマトリックス相とを持つドメイン構造を成形することを特徴とする電子写真装置用導電性弾性体部材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材やその製造方法は、エラストマーが、高硬度の原因となる充填剤を不要とするため、低硬度でありながら圧縮永久歪みの発生を抑制することができ、しかも、電子写真装置における画像欠陥の発生を抑制することができる。また、マトリックス相に導電性充填剤を含有させた場合でも、電気抵抗のばらつきを改善することができ、電気抵抗を低くした場合であっても、低硬度を維持できる。更に、微細な架橋ゴム粒子を混合した未加硫状態におけるゴム組成物に特有である粘度上昇を抑制することができ、加工性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材は、エラストマーを含むマトリックス相と、放射線架橋により得られたゴム粒子を含むドメイン相とからなる導電性弾性体を含むものであれば、特に制限を受けるものではない。
【0014】
本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材における導電性弾性体は、模式的に表示すると、図1に示すように、連続している相のマトリックス相(海相)11と、放射線架橋により得られたゴム粒子を含む非連続相のドメイン相(島相)12とを有するドメイン構造を有する。本発明では、ドメイン構造(海島構造)とは、2種類以上の複数種のポリマーをブレンドした場合に、完全には非相溶であり、連続相(マトリックス相/海相)と非連続相(ドメイン相/島相)を有する構造をいう。また、後述するように、非連続相の平均粒子径が50μm以上である構造が好ましい。かかるマトリックス相に含まれるエラストマーとしては、従来から電子写真用導電性部材の弾性体として用いられているゴムや熱可塑性エラストマーを挙げることができ、具体的には、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、エピクロルヒドリンゴム等のゴムや、汎用のスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを挙げることができる。これらは1種、または2種以上を組み合わせた組成物として用いることができる。
【0015】
上記マトリックス相は、導電性物質を含有することにより、104〜1011Ωcm程度の導電性を有することが好ましい。マトリックス相が含有する導電性物質としては、イオン導電機構、電子導電機構のいずれの機構によるものでも適用することができる。
イオン導電機構によるイオン導電剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウム、オクタドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、変性脂肪酸・ジメチルエチルアンモニウムの過塩素酸塩、塩素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、エトサルフェート塩、臭化ベンジル塩、塩化ベンジル塩等のハロゲン化ベンジル塩といった第四級アンモニウム塩等の陽イオン界面活性剤、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加硫酸エステル塩、高級アルコール燐酸エステル塩、高級アルコールエチレンオキサイド付加燐酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤、各種ベタイン等の両性イオン界面活性剤、高級アルコールエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル等の非イオン性帯電防止剤等の帯電防止剤、LiCF3SO3、NaClO4、LiAsF6、LiBF4、NaSCN、KSCN、NaCl等のLi+、Na+、K+等の周期律表第1族の金属塩、あるいはNH4+塩等の電解質、Ca(ClO42等のCa2+、Ba2+等の周期律表第2族の金属塩、及びこれらの帯電防止剤が、少なくとも1個以上の水酸基、カルボキシル基、一級ないし二級アミン基等のイソシアネートと反応する活性水素を有する基を持ったものを挙げることができる。更には、それらと1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコールとその誘導体等の錯体あるいはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のモノオールとの錯体等のイオン導電剤を挙げることができる。これらのイオン導電剤は、マトリックス相を構成するエラストマーとして、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムに代表される極性ゴムが適用される場合に、特にマトリックス相に容易に分散され、低電気抵抗を、均一に付与することができる。
【0016】
これらのイオン導電剤のマトリックス相における含有量としては、電子写真装置の導電性弾性体部材や、エラストマー、導電剤の種類によって、導電性弾性体部材が所望の電気抵抗を有するものとなるように、適宜選択することができ、例えば、エラストマー100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部、好ましくは、0.5質量部〜5質量部などとすることができる。
【0017】
上記電子機構機構による導電性充填剤としては、ケッチェンブラックEC、アセチレンブラック等の導電性カーボン、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン、酸化処理を施したカラー(インク)用カーボン、熱分解カーボン、天然グラファイト、合成グラファイト、酸化錫、酸化チタン、酸化亜鉛、銅、銀等の金属及び金属酸化物等を挙げることができる。これらの導電性充填剤は、イオン導電剤に比べ、温度依存性が小さく、容易に106Ωcm以下の低電気抵抗とすることができ、ブリードやブルームが少なく、安価である。そのため、導電性充填剤を用いた導電性ゴムを用いた電子写真用導電性弾性体部材は、使用環境が広く、感光体への汚染性が低く、ローコスト化を目指した電子写真装置においては、より好ましい。
【0018】
これらの導電性充填剤のマトリックス相における含有量としては、電子写真装置の導電性弾性体部材や、エラストマー、導電剤の種類によって、導電性弾性体部材が所望の電気抵抗を有するものとなるように、適宜選択することができ、例えば、エラストマー100質量部に対して、0.5質量部〜100質量部、好ましくは、2質量部〜50質量部などとすることができる。
【0019】
上記マトリックス相には、低硬度・低圧縮永久歪み特性を失わない範囲で、エラストマーの配合剤として一般に用いられる、加工助剤、架橋剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、充填剤、分散剤、発泡剤、滑剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤、導電剤等を添加することができる。架橋剤としては、硫黄、有機含硫黄化合物、有機過酸化物等を、架橋促進剤としては、アルデヒドアンモニア類、アルデヒドアミン類、グアニジン類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類等を、架橋促進助剤としては、金属酸化物、脂肪酸等を、架橋遅延剤としては、有機酸、ニトロソ化合物、N−シクロヘキシルチオフタルイミド等を、滑剤としては、ステアリン酸金属塩等を、老化防止剤としては、アミンケトン系、芳香族第二級アミン系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ベンゾイミダゾール系、チオカルバミン酸系、チオウレア系老化防止剤等を、酸化防止剤としては、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系酸化防止剤等を例示することができる。
【0020】
上記ドメイン相に含まれる放射線架橋ゴム粒子としては、2種のポリマーをブレンドした場合に、完全には相溶していない状態となり、粒子状態として含有されるポリマー相ともいうことができる。放射線架橋ゴム粒子として、具体的には、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、カルボン酸変性アクリロニトリル−ブタジエンゴム(XNBR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコーンゴム、ブタジエン−スチレン−ビニルビリジンターポリマーなどの放射線架橋ゴム粒子を挙げることができる。ゴム粒子の平均粒子径としては、50〜500nmの非常に微小なものが、電子写真装置において画像欠陥を抑制することができるため好ましい。架橋ゴム粒子の平均粒子径が500nm以下であると、粗大粒子や凝集体に起因する画像上の黒点の発生を抑制し、画像欠陥の発生を抑制することができる。架橋ゴム粒子の平均粒子径が50nm以上であると、粒子を容易に分散することができ、凝集した粒子の残留を抑制することができる。架橋ゴム粒子が50nm以上、200nm以下であると上記効果をより顕著に得ることができ、より好ましい。
【0021】
ここで、放射線架橋ゴム粒子の平均粒子径は、以下の方法により求めることができる。成形した電子写真装置用導電性弾性体部材から切片を切り出し、その切断面についてSEMやTEMで観察し、得られた画像を画像処理ソフト(商品名「Image‐Pro Plus」:プラネトロン(株)製)に取り込み、カウント/サイズによって架橋ゴム粒子の直径(平均)を自動抽出する。このときの直径(平均)は、カウントされたオブジェクトの重心を通る径を2°刻みに測定し、それを平均して得られた値となっている。次に、この直径(平均)の測定データを、表計算ソフトに取り込み、その測定データのうち50nm以下の値は、ノイズとして削除し、残った値が100個以上ある場合に限り、残った値の平均値を求め、平均粒子径とする。残った値が100個に満たない場合は、再度測定を反復して行い、得られた値を平均粒子径とすることができる。
【0022】
上記架橋ゴム粒子の含有量は、導電性弾性体において所望の圧縮永久歪みが少なく、低硬度が得られる範囲であれば、特に制限はないが、エラストマー100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下が好ましい。架橋ゴム粒子の含有量が1質量部以上であれば、電子写真装置用導電性弾性体部材において圧縮永久歪みが少なく、低硬度とすることができる。また、架橋ゴム粒子の含有量が100質量部以下であれば、導電性弾性体のムーニー粘度を低くすることができ、加工性がよく、電子写真装置用導電性弾性体部材において圧縮永久歪みが少なくなる。
【0023】
この放射線架橋ゴム粒子は、上記例示のゴムのラテックスに放射線を照射して架橋することにより得ることができる。ラテックスには、架橋効率を向上するため、トリメタノールプロパントリアクリレート(TMPTA)、イソオクチルアクリレート(OMA)等の多官能アクリレートや、ポリチオールや、ヘキサクロルエタン等のポリハロゲン化物等の架橋剤を含有させることができる。照射する放射線としては、γ線や電子線などを用いることができ、その照射線量としては10kGy〜10000kGyを挙げることができる。この方法で製造した架橋ゴム粒子は、ラテックス中に存在する架橋前のゴムの粒子径と同等程度の、50〜500nmの小粒子径を有し、かつ粒子径分布が狭いため、好ましい。このような架橋ゴム粒子をドメイン相に用いることにより、一般的に用いられている炭酸カルシウム、クレー、タルク、珪藻土、シリカ等の無機充填剤と比べ、導電性弾性体の硬度が高くなるのを抑制し、圧縮永久歪みの発生を抑制することができるため、電子写真装置用導電性弾性体部材として好ましい。また、一般的に用いられる粉末ゴム等の有機充填剤は、小粒子径とすることが困難であり、各種配合剤のブリード・ブルームによる弊害があるが、上記放射線架橋ゴム粒子を用いることにより、ブリード・ブルームを抑制することができる。更に、この放射線架橋ゴム粒子は、その中には導電性充填剤が入り込まないので、マトリックス相に含有される導電性充填剤もマトリックス相に滞留し、偏在する。このため、イオン性導電剤より分散性が低い導電性充填剤であってもマトリックス相に均一に分散され、導電粒子の導電チャンネルが安定し、マトリックス相において電気抵抗のばらつきが小さくなる。また、導電性充填剤の体積分率が小さくても低電気抵抗を実現できるため、低硬度の導電性弾性体を得ることができる。
【0024】
このような放射線架橋ゴム粒子は、表面近傍に固着防止剤を含有することが好ましい。放射線架橋ゴムとエラストマーとを混合した組成物においては、その両者の分子鎖がからみあい、粘度が高くなる傾向があり、そのために、押出しなどの成型加工性が悪化する場合がある。放射線架橋ゴム粒子が表面近傍に固着防止剤を含有することにより、組成物における粘度上昇を抑制することができる。かかる表面固着防止剤としては、具体的には、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、クレー、タルクなどの無機微粒子を挙げることができ、これらの粒子径としては、上記ゴム粒子径より小径であることが好ましく、例えば、10nm〜100nmを挙げることができる。固着防止剤は、放射線架橋ゴム粒子の質量に対して1〜20質量%の割合で放射線架橋ゴム粒子表面に付着しているのが好ましい。
【0025】
このような放射線架橋ゴム粒子表面に固着防止剤を固着させるには、上記固着防止剤と放射線架橋ゴム粒子とを混合する方法としては、未架橋のラテックスに固着防止剤を混合し、湿式分散機で分散させておいたものを硬化する方法、架橋ゴム粒子に乾式分散機で固着させる方法などを挙げることができる。
【0026】
上記電子写真装置用導電性弾性体部材の製造方法としては、上記放射線架橋により得られたゴム粒子と導電性充填剤とエラストマーとを混合して混合物を得て、この混合物を硬化してゴム粒子からなるドメイン相とエラストマーのマトリックス相からなる導電性弾性体を成形する方法を好ましい方法として挙げることができる。上記放射線架橋により得られたゴム粒子と導電性充填剤とエラストマーとの混合物には、上記放射線架橋ゴム粒子の他、これらの機能を損なわない範囲で、導電性充填剤、イオン導電剤、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、分散剤、発泡剤、滑剤、老化防止剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤などを含有させることができる。これらの混合方法としては、バンバリーミキサーやインターミックスや加圧式ニーダーといった密閉型混合機を使用した方法や、オープンロールのような開放型の混合機を使用した方法などを例示することができる。得られた混合物の硬化方法としては、型加硫、缶加硫、連続加硫等の方法を挙げることができる。
【0027】
また、混合物を硬化して得られた導電性弾性体について、必要に応じて、表面に紫外線を照射して高離型化層を成形することができる。導電性弾性体が表面に高離型化層を有すると、トナーや外添剤の固着を抑制し、被帯電体を汚染するのを抑制することができる。導電性弾性体表面に高離型化層を成形する方法として、導電性弾性体と異なる組成の材料を被覆、塗工等のコーティングをする方法を挙げることができる。この場合には、低付着性、非汚染性、導電性、セット性等を有する材料をコーティング材として選択し、コーティング層と導電性弾性体でそれぞれ異なる機能を分担をするものとできるので、材料選択の自由度が高く、高性能な電子写真装置用導電性弾性体部材を得ることができる。
【0028】
また表面の高離型化層の成形方法として、電子線、紫外線、X線、赤外線、プラズマなどに代表されるエネルギー線を照射する方法を挙げることができる。この場合には、材料費が不要であり、加工工程が短く、コーティングに比べ簡便に行なうことができる。エネルギー線の照射による高離型化層においては、所望の電気特性に制御でき、粘着性や摩擦係数を低下させることができ、トナーや外添剤の導電性弾性体部材への固着を抑制し、良好な画像を得ることができる。高離型化層成形に使用するエネルギー線としては、紫外線が好ましい。紫外線の照射条件としては、200nm〜450nmの波長の光を使用し、光源としては前記波長範囲の紫外線を照射できるものを使用することができ、例えば、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプ等の光源を使用することができる。ランプの規格としては、ランプ出力80W/cm、定格電力4000Wのものを使用するのが好ましい。照射時の導電性弾性体において、ランプに近いほど照射効率がよく、回転させることが、弾性体表面を均一に照射することができ、全面に亘って高離型化層を均一に作製することができる。照射時間としては、ランプの種類、照射距離等によって、最適範囲を選択することができるが、例えば、数秒から数十分の間とすることができる。
【0029】
本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材としては、具体的には、現像部材、帯電部材、転写部材等に用いるローラー、ブレード、ブラシ、ベルト、シート、チップなどを挙げることができる。その一例として、図2に示すように、上記導電性弾性体を含む導電性弾性体22を導電性支持体(シャフト)21の外周に設けたものを挙げることができ、更にその外周に高離型化層23を有するものを挙げることができる。
【0030】
上記ローラーの製造方法としては、次のような方法を挙げることができるが、これに限定されるものではない。まず、エラストマーと放射線架橋により得られたゴム粒子とを含む組成物を、押出し機でチューブ状に押出したものを、加硫缶で蒸気加硫する。このチューブに、表面にホットメルト接着剤を塗布した、SUSやアルミニウム製の円柱状のシャフトを圧入する。その後、熱風炉で加熱してシャフトとチューブを接着する。そして、チューブの両端を所望の長さに切断し、そのチューブ表面を研磨してゴムローラーを得ることができる。
【0031】
また、本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材を電子写真装置に適用した一例を、図面を参照して説明する。本発明の電子写真用導電性部材を帯電ローラーとして適用した電子写真装置には、図3に示すように、図中の矢印が示す時計回りに所定の周速度(プロセススピード)で回転する、像担持体としての回転ドラム型の電子写真感光体(被帯電体)31が備えられる。感光体31は、例えば無機感光材料または有機感光材料を含有する感光層をその表面に有し、被帯電体表面を所定の極性、電位に帯電させるための電荷注層を更に有するものであってもよい。このような感光体の周囲には、帯電装置、露光装置、現像装置、転写装置、定着装置、クリーニング装置が順次設けられる。帯電装置には、感光体31に所定の押圧力で接触して配置される本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材である帯電ローラー32と、帯電ローラー32に帯電バイアスを印加する帯電バイアス印加電源S1とが備えられる。帯電バイアス印加電源S1から所定の直流電圧、例えば、−1200Vが印加された帯電ローラー32が感光体31に接触し、反時計回りに回転して、感光体31の表面が所定の極性電位、例えば、暗部電位−600Vに一様に帯電される(DC帯電)ようになっている。感光体の帯電としては、AC/DC重畳帯電、注入帯電等の帯電を用いることができる。
【0032】
露光装置には、例えば、レーザービームスキャナー等の露光手段33が設けられ、感光体31の帯電面に露光手段により目的の画像情報に対応した像露光がされると、帯電面の露光明部の電位が、例えば、明部電位−350Vに選択的に低下(減衰)し、静電潜像が形成されるようになっている。
【0033】
現像装置には、例えば、トナーを収容する現像容器の開口部に配設されてトナーを担持搬送するトナー担持体である現像ローラー34aと、収容されているトナーを撹拌する撹拌部材34bと、現像ローラー34aのトナーの担持量(トナー層厚)を一定量にするトナー規制部材であるブレード34cとを有する現像手段34が備えられる。現像手段34において、感光体31表面の静電潜像に、感光体31の帯電極性と同極性に帯電している、例えば、現像バイアス350Vに帯電したトナー(ネガトナー)を付着させて静電潜像をトナー像として可視化する。現像方式としては特に制限はなく、例えば、ジャンピング現像方式、接触現像方式及び磁気ブラシ方式等既存の方法を用いることができるが、特にカラー画像を出力する現像装置には、トナーの飛散性改善等の目的より、接触現像方式の現像ローラーが好ましい。この現像ローラーにも、本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材を好適に用いることができる。
【0034】
転写装置には、感光体31に所定の押圧力で接触して転写ニップ部を形成して配置される転写ローラー35と、転写ローラー35にトナーの帯電特性とは逆極性の転写バイアスを印加する転写バイアス印加電源S2とが備えられる。転写ローラーには、本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材を適用することができ、感光体31に接触してその回転周速度とほぼ同じ周速度で反時計回りに回転する転写ローラー35と感光体31との間に給紙機構(図示せず)から所定のタイミングで搬送される転写材Pの裏面側から、現像ローラーに印加されたトナーの帯電極性と逆極性の電圧が印加されることにより、感光体31表面に付着したトナーが転写材Pの表面側に静電転写されるようになっている。
【0035】
定着装置(図示せず)には、加熱手段などの公知のトナー画像定着手段が設けられ、転写材P上に転写されたトナーが定着され、画像形成物として出力されるようになっている。両面画像形成モードや多重画像形成モードの場合は、この画像形成物が再循環搬送機機構(図示せず)に導入されて転写ニップ部へ再導入されるようになっている。
【0036】
クリーニング装置には、転写装置において転写されずに感光体31上に残留したトナーを除去する、ブレード型等のクリーニング手段36が設けられ、感光体上の残留トナーを回収するようになっている。
【0037】
また、必要に応じて、感光体に電荷が残留する場合は、これを除去するための前露光手段などの除電手段37が設けられ、次の印刷のための帯電部材32による帯電が行なわれる前に、前露光手段によって残留電荷を除去し、帯電部材32による感光体31の帯電を均一にして画像欠陥の発生を抑制するようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例、比較例を示して、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は下記に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
マトリックス相を形成するエラストマーとして、エピクロルヒドリンゴム(商品名「エピクロマーCG105」:ダイソー(株)製)100質量部、ドメイン相を形成する放射線架橋ゴム粒子として、60Coのγ線で架橋された架橋NBRナノ粒子(商品名「Narpow VP−401」:北京化学研究所製)50質量部、導電性粒子としてカーボンブラック(商品名「旭HS‐500」:旭カーボン製)40質量部、酸化亜鉛5質量部、液状エポキシ化ポリブタジエン(商品名「BF−1000」:旭電化工業(株)製)10質量部をオープンロールで20分間混練し、更にジベンゾチアゾリルジスルフィド(商品名「ノクセラーDM−P」:大内新興化学(株)製)1質量部、テトラメチルチウラムモノスルフィド(商品名「ノクセラーTS」:大内新興化学(株)製)1質量部、加硫剤として硫黄1.2質量部を加えて更に15分間オープンロールで混練した。
【0040】
これをゴム押出機で、外径15mm、内径5.5mmの円筒形に押出し、250mmの長さに裁断し、加硫缶で、160℃の水蒸気で40分間1次加硫し、導電性弾性体1次加硫チューブを得た。次に直径6mm、長さ256mmの円柱形の導電性支持体(鋼製 表面工業ニッケルメッキ)の円柱面の軸方向中央部231mmにホットメルト接着剤を塗布し、乾燥した。この支持体を前記導電性弾性体1次加硫チューブに挿入し、その後、電気オーブンに入れ160℃で2時間、2次加硫と接着剤硬化を行い、未研磨の導電性部材を得た。この未研磨品のゴム部分の両端を切断し、ゴム部分の長さを231mmとした後、ゴム部分を回転砥石で研磨し、端部直径8.3mm、中央部8.5mmのクラウン形状で表面の十点平均粗さRz4μm、振れ40μmの導電性部材を得た。
【0041】
この導電性部材に低圧水銀ランプを用いて、254nmのセンサーにおける感度で、紫外線の光量が8000mJ/cm2になるよう上記導電性部材を回転させながら均一に照射し、ローラーを作製した。
【0042】
作製したローラーについて、架橋ゴム粒子の平均粒子径、圧縮永久歪、硬度などの物性を測定し、加工性、実用機に搭載したときの評価を以下のように行なった。結果を表1に示す。
【0043】
〈架橋ゴム粒子の平均粒子径〉
架橋ゴム粒子の平均粒子径は、以下のように測定した。
作製したローラーから、切片を切り出し、その切断面をSEMやTEMで観察し、ドメイン構造を撮影した。ここで得られた画像を画像処理ソフト(商品名「Image‐Pro Plus」:プラネトロン(株)製)に取り込み、カウント/サイズによって架橋ゴム粒子の直径(平均)を自動抽出した。「直径(平均)」は、カウントされたオブジェクトの重心を通る径を2°刻みに測定し、それを平均して得られた値となっている。次に、この直径(平均)の測定データを、表計算ソフトに取り込み、その測定データのうち50nm以下の値は、ノイズとして削除し、残った値のカウント数が100以上ある場合に限り、その残った値の平均値を平均粒子径とした。カウント数が100に満たない場合は、再度SEMやTEMによる観察から再試験を行なった。以上のような方法で測定した、架橋NBRナノ粒子の粒子径は、74nmであった。
【0044】
〈ムーニー粘度〉
ローラーの作製に用いた未加硫組成物の押出し加工性の指針として、JIS K6300−1に則ってムーニー粘度を測定した。その結果、69.5ML(1+4)100℃であった。ここで69.5Mはムーニー粘度を示し、LはL型ロータで測定したことを示し、(1+4)は1分間の余熱時間と4分間のロータ回転時間を示し、100℃は試験温度を表している。
【0045】
〈圧縮永久歪み試験〉
この未加硫組成物を160℃の型内で加硫し、その後、160℃のオーブンの中で加硫を完了させた加硫ゴムについて、JIS K6262に則って圧縮永久歪み試験を行なった。試験の手順としては、まず、試験片の厚みを測定しておき、それを70℃の環境に22時間、25%変形させた状態で放置し、その後、30分室温で放置した後に、再度厚みを測定した。その結果、圧縮永久歪みは9.9%であった。
【0046】
〈マイクロゴム硬度測定〉
上記圧縮永久歪み試験で用いた加硫ゴムと同じ方法で作製した試験片のマイクロゴム硬度は、高分子計器(株)製MD−1型を使用して測定した。その結果、64.0°であった。
【0047】
〈体積抵抗測定〉
上記圧縮永久歪み試験で用いた加硫ゴムと同じ方法で2mm厚の加硫シートを作製し、JIS K6271に則って体積抵抗を測定した。試験片の4隅と中央の5点の平均を体積抵抗として求め、5点の値の最大値と最小値について最大体積抵抗値÷最小体積抵抗値を算出し、シート内抵抗ばらつきとした。その結果、体積抵抗は1.54x105Ωcmで、シート内抵抗ばらつきは1.5であった。
【0048】
〈加工性評価〉
加工性の評価を、ムーニー粘度が高い場合には、押出し肌が悪い、ボイドが悪い、押出し圧力が高くなる等の弊害が出てくるため、これを指標として、押出し成型性の点から行った。押出し成型性が非常によいをA、押出し成型性がよいをB、押出し成型性が悪いをCとし、3段階評価を行った。この評価のB以上であれば、生産性があると判断できる。得られたローラーは、マトリックス相のエピクロルヒドリンゴムとドメイン相の架橋NBRナノ粒子の極性が近いため、ムーニー粘度が高くなり、押出し成型性はBであった。
【0049】
〈電子写真装置における評価〉
図3に示す構成の電子写真装置(LBP5500:キャノン株式会社製)に、実施例1で得られたローラーを、帯電ローラーとして取り付け、温度15℃、湿度10%RHの環境下においてハーフトーン画像を出力した。このときに、表面に存在する架橋ゴム粒子が大きいために発生する画像上の点状の黒い欠陥(画像ポチ)を、その発生頻度を基準に、まったく存在しない(A)、ごくまれに存在する(B)、多量に存在する(C)という3段階で評価した。実用機において、Bランク以上であれば問題はなく使用することができる。その結果、得られたローラーの画像ポチ評価はBであった。この評価の要因は、架橋ゴム粒子の1次粒子径は小さいものの、その凝集がやや生じためと思われる。
【0050】
また、このハーフトーン画像において、帯電ローラーの抵抗ムラに起因する不定形の「画像濃度ムラ」を評価した。その明部と暗部の濃度差から、濃度差がなしをA、濃度差は軽微をB、はっきりとした濃度差がありをCという3段階で評価した。実用機において、Bランク以上であれば問題はなく使用することができる。その結果、抵抗のムラが小さく画像濃度ムラ評価はAであった。
【0051】
続いて、画像出し耐久試験を行った。連続6,000枚を通紙し、このときの帯電ローラーに付着したトナーや、外添剤による点状もしくは線状の画像欠陥(耐久汚れ)の発生頻度を基準に、まったく存在しないをA、ごくまれに存在するをB、多量に存在するをCという3段階で評価した。この耐久汚れは、帯電ローラーと被帯電体の間でトナーや外添剤が押しつぶされることにより起こり、帯電ローラーの弾性体が、高硬度であるほど付着しやすい。得られたローラーの耐久汚れ評価はAであった。この評価は、架橋ゴム粒子が低硬度であるために、低硬度の弾性体が得られたためと考えられる。
【0052】
このローラーを、導電性支持体の両端に500gずつの荷重をかけて、被帯電体に当接し、室温40℃湿度95%の恒温恒湿槽に1週間放置した。ローラーと被帯電体(感光体)を、恒温恒湿槽から取り出し、図3の電子写真装置に組み込み、ハーフトーン画像を出力した。そのハーフトーン画像に、ローラーの円周周期で白い画像欠陥(被帯電体との当接による変形部位)が苛酷放置ローラー変形跡として出ているかを評価した。画像欠陥が画像上認識できない場合にはA、認識できる場合にはCという評価を行なった。その結果、ローラーの評価はAであった。この評価は、架橋ゴム粒子が低圧縮歪み特性を有し、マトリックス相を形成しているエピクロルヒドリンとの界面での相互作用も大きいため、圧縮永久歪みが小さい弾性体が得られたためと考えられる。
【0053】
[実施例2]
実施例1の紫外線照射を行なわない以外は実施例1と同様にローラーを作製した。作製したローラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
実施例1の紫外線の光量を1000mJ/cm2にしたこと以外は実施例1と同様にローラーを作製した。作製したローラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
実施例1の紫外線の光量を100000mJ/cm2にしたこと以外は実施例1と同様にローラーを作製した。作製したローラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
実施例1の材料組成における架橋NBRナノ粒子の代わりに放射線架橋ゴム粒子として、架橋カルボキシル変性NBRナノ粒子(商品名「Narpow VP−502」:北京化学研究所製)50質量部を用いた他は実施例1と同様にローラーを作製した。作製したローラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例6]
実施例1の材料組成における架橋NBRナノ粒子の代わりに放射線架橋ゴム粒子として、架橋CRナノ粒子(商品名「Narpow VP−801」:北京化学研究所製)50質量部を用いた他は実施例1と同様にローラーを作製した。作製したローラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0058】
[実施例7]
実施例1の材料組成における架橋NBRナノ粒子の代わりに放射線架橋ゴム粒子として、炭酸カルシウムが5質量%含まれる架橋SBRナノ粒子(商品名「Narpow VP−121」:北京化学研究所製)50質量部を用いた他は実施例1と同様にローラーを作製した。作製したローラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例8]
実施例1の材料組成における架橋NBRナノ粒子の代わりに炭酸カルシウムが5質量%含まれる架橋NBRナノ粒子50質量部を用いた他は実施例1と同様にローラーを作製した。作製したローラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例1]
実施例1の材料組成における架橋NBRナノ粒子を除いた他は実施例1と同様にしてローラーを作製し、作製したロ−ラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例2]
実施例1の材料組成における架橋NBRナノ粒子の代わりに以下の手順で作製した粉砕ゴム粒子50質量部を用いた他は実施例1と同様にローラーを作製し、作製したロ−ラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0062】
〈粉砕ゴム粒子の作製〉
アクリロニトリルブタジエンゴム(商品名「DN219」:日本ゼオン(株)製) 100質量部、酸化亜鉛 5質量部をオープンロールで20分間混練し、更にジベンゾチアゾリルジスルフィド(商品名「ノクセラーDM−P」:大内新興化学(株)製)1質量部、テトラメチルチウラムモノスルフィド(商品名「ノクセラーTS」:大内新興化学(株)製) 1質量部、加硫剤として硫黄1.2質量部を加えて更に15分間オープンロールで混練した。
【0063】
この未加硫組成物を160℃の型内で加硫し、その後、160℃のオーブンの中で加硫をした。この加硫ゴムを2mm角に切断し、ミルで粉砕し、粉砕ゴム粒子とした。
【0064】
[比較例3]
実施例1の材料組成における架橋NBRナノ粒子の代わりにラテックスを加熱することによって作られた、架橋シリコーン粒子(商品名「トレフィルE600」:東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)50質量部を用いた他は、実施例1と同様にしてローラーを作製し、作製したロ−ラーについて、物性の測定、加工性の評価を実施例1と同様にして行なった。結果を表1に示す。
【0065】
[結果]
〈加工性・画像評価〉
ドメイン相の架橋ゴム粒子はマトリックス相に比べ高抵抗であるので、表面に存在する架橋ゴム粒子が過度に大きい場合には、画像ポチになることから、比較例2では、粉砕によって作製されたゴム粒子が粗大粒子を含んでおり、これが原因で画像ポチはC評価になる。また、比較例1では、架橋ゴム粒子を含有しないため、画像ポチはA評価である。実施例7、8は、架橋ゴム粒子の粒子径が十分に小さく、固着防止剤が含まれているため、凝集もできにくくなっており、A評価となる。それに対し、実施例1〜6、比較例3では、固着防止剤が含まれていないことから、まれに凝集した塊が発生し、B評価になっている。
【0066】
ムーニー粘度は、マトリックス相を形成するエラストマーとドメイン相を形成する架橋ゴム粒子の相溶性が低いほど小さくなる。そのため、SP値の大きく異なる材料を選択するのが好ましい。また、ムーニー粘度を低下させる方法として、架橋ゴム粒子の周りにタルクや炭酸カルシウムのような無機微粒子が固着防止剤として数%混合されている架橋ゴム粒子を用いる方法がある。固着防止剤が存在するために、マトリックス相とドメイン相の相互作用が弱まり、ムーニー粘度が低下する。この効果のために、実施例7、8においては、ムーニー粘度が低く、押出し成型性の評価も良好である。
【0067】
マイクロゴム硬度は、ドメイン相を形成する架橋ゴム粒子のポリマーや製法に依存して変わる。放射線硬化の架橋NBR・SBRを用いた場合に、最も弾性体の硬度が低下し、ついで、放射線硬化の架橋カルボキシル変性NBR・CRがよく、ほとんど弾性体の硬度が低下しないのは、熱硬化の架橋シリコーン粒子である。粉砕ゴム粒子の場合には、粉砕前のゴム加硫物を選ぶことで任意の硬度を得ることができるが、硬度の低い組成物ほど微粉化が困難になる傾向にある。このマイクロゴム硬度の傾向から、耐久汚れは、実施例1、7、8においてA評価で、実施例5、6、比較例2においてB評価で、比較例1、3においてC評価となった。また、実施例2、3では、紫外線照射による高離型化が不十分であるため、実施例5では、紫外線照射の光量が大きすぎて弾性体表面が劣化したため、トナーや外添剤がローラー表面に付着しやすくなったためB評価であった。
【0068】
体積抵抗は、マトリックス相の抵抗と架橋ゴム粒子のドメイン相の抵抗で決まる。架橋ゴム粒子を含まない比較例1の場合には、カーボンの分散状態によってのみ抵抗が決定されるので、制御が難しく抵抗のばらつきが大きくなっている。この比較例1の組成物に架橋ゴム粒子として比較的抵抗の低い、NBRやカルボキシル変性NBRやCRやエピクロルヒドリンゴムを用いた場合には、架橋ゴム粒子の含有量に比例して、電気抵抗が緩やかに変化するため、制御しやすい。しかし、比較的電気抵抗の高い、SBRやシリコーンを用いた場合には、架橋ゴム粒子の含有量によって、抵抗が急激に変化するため制御が難しい。そのために、実施例6、比較例3では、シート内の抵抗ばらつきが大きくなっている。このシート内の抵抗ばらつきと相関して、画像濃度ムラも発生するので、実施例1〜5、7、比較例2ではA評価、実施例6、比較例3ではB評価、比較例1ではC評価になっている。
【0069】
圧縮永久歪みは、架橋ゴム粒子のポリマーや製法に依存して変化する。放射線硬化した架橋NBR粒子・架橋カルボキシル変性NBR粒子・架橋CR粒子・架橋SBR粒子や、熱硬化した架橋シリコーン粒子を含有する場合には、加硫物の粉砕によって作成した架橋ゴム粒子に比較して、圧縮永久歪みの悪化を招く非ポリマー成分が少ないため圧縮永久歪みが少なく、良好である。そのため、圧縮永久歪みが大きいために起こる画像欠陥である、過酷放置ローラー変形跡は、実施例1〜8、比較例3では生じておらず、比較例2、3では発生している。
【0070】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材の一例の構成模式図を示す図である。
【図2】本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材の一例の概略図を示す図である。
【図3】本発明の電子写真装置用導電性弾性体部材を用いた電子写真装置の一例の概略図を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
11‥‥マトリックス相
12‥‥ドメイン相
21‥‥導電性支持体(シャフト)
22‥‥導電性弾性体
23‥‥高離型層
31‥‥電子写真感光体(被帯電体)
32‥‥帯電部材(帯電ローラー)
33‥‥露光手段
34‥‥現像手段
34a‥‥トナー担持体
34b‥‥撹拌部材
34c‥‥トナー規制部材
35‥‥転写手段
36‥‥クリーニング手段
37‥‥前露光手段
L‥‥レーザー光
S1、S2‥‥バイアス印加電源
P‥‥転写材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーを含むマトリックス相と、放射線架橋により得られたゴム粒子を含むドメイン相とからなる導電性弾性体を含むことを特徴とする電子写真装置用導電性弾性体部材。
【請求項2】
ゴム粒子が、50nm以上500nm以下の平均粒子径を有することを特徴とする請求項1記載の電子写真装置用導電性弾性体部材。
【請求項3】
ゴム粒子が、表面近傍に固着防止剤を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真装置用導電性弾性体部材。
【請求項4】
マトリックス相が、導電性充填剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真装置用導電性弾性体部材。
【請求項5】
導電性弾性体が、表面に高離型化層を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真装置用導電性弾性体部材。
【請求項6】
放射線架橋により得られたゴム粒子と導電性充填剤とエラストマーとを混合して混合物を得て、この混合物を硬化してゴム粒子からなるドメイン相とエラストマーのマトリックス相とを持つドメイン構造を成形することを特徴とする電子写真装置用導電性弾性体部材の製造方法。
【請求項7】
硬化後、表面に紫外線を照射して高離型化層を成形することを特徴とする請求項6記載の電子写真装置用導電性弾性体部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−138034(P2007−138034A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334238(P2005−334238)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】